(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025062211
(43)【公開日】2025-04-14
(54)【発明の名称】積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/28 20060101AFI20250407BHJP
B29C 67/20 20060101ALI20250407BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20250407BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20250407BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20250407BHJP
【FI】
B32B5/28 101
B29C67/20 B
B29K101:12
B29L7:00
B29L9:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171130
(22)【出願日】2023-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本田 拓望
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅登
【テーマコード(参考)】
4F100
4F214
【Fターム(参考)】
4F100AA08B
4F100AA08H
4F100AD11A
4F100AD11C
4F100AK07B
4F100AK53A
4F100AK53C
4F100AK57B
4F100AT00B
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4F100BA07
4F100CA02A
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4F100DG15A
4F100DG15C
4F100DH01A
4F100DH01C
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4F100EJ172
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4F100GB07
4F100GB31
4F100GB41
4F100GB87
4F100JA04B
4F100JB13B
4F100JB16B
4F100YY00B
4F214AA34
4F214AG01
4F214AG03
4F214UA32
4F214UW02
(57)【要約】
【課題】
繊維強化熱硬化性樹脂層と熱可塑性樹脂層とを、樹脂種の親和性に依存せずに、強固に接合することが可能な積層体を提供する。
【解決手段】
強化繊維(A)と熱硬化性樹脂(B)からなる層の表面に、多孔質構造を有する熱可塑性フィルム(C)が積層されてなる積層体であって、前記熱可塑性フィルム(C)の孔部の径が0.01μm以上30μm以下である積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維(A)と熱硬化性樹脂(B)からなる層の表面に、多孔質構造を有する熱可塑性フィルム(C)が積層されてなる積層体であって、前記熱可塑性フィルム(C)の孔部の径が0.01μm以上30μm以下である積層体。
【請求項2】
前記熱可塑性フィルム(C)の孔内に前記熱硬化性樹脂(B)の一部が含まれてなる、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記熱可塑性フィルム(C)の厚みが1μm以上500μm以下である請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記熱可塑性フィルム(C)が荷重たわみ温度100℃以上の樹脂を含む、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項5】
前記熱可塑性フィルム(C)の多孔質構造において、フィブリル化した部分を含む請求項1または2に記載の積層体。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂(B)が、未硬化の熱硬化性樹脂である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂(B)が、硬化した熱硬化性樹脂である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項8】
未硬化の熱硬化性樹脂(B)と強化繊維(A)とを含むプリプレグの少なくとも一方の表面に、多孔質構造を有する熱可塑性フィルム(C)を積層した後に、加熱および加圧により多孔質構造を有する熱可塑性フィルム(C)の孔部に熱硬化性樹脂(B)を含浸させるステップを有する、積層体の製造方法。
【請求項9】
前記未硬化の熱硬化性樹脂(B)を硬化させるステップを追加で有することを特徴とする、請求項8に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
加熱および加圧により多孔質構造を有する熱可塑性フィルム(C)の孔部に熱硬化性樹脂(B)を含浸させるステップと同時に前記未硬化の熱硬化性樹脂(B)の硬化を行う、請求項8に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記未硬化の熱硬化性樹脂(B)を硬化させるステップが、熱可塑性フィルム(C)の荷重たわみ温度より低い温度で加熱するステップを含む、請求項9または10に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化熱硬化性樹脂層と熱可塑性フィルムの積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維を熱硬化性樹脂と複合化させた繊維強化複合材料は、軽量性、力学特性および寸法安定性等に優れることから、航空機をはじめとした輸送機器、電気・電子機器、スポーツ用品、建築材料などの幅広い分野で活用されている。このような繊維強化複合材料は、その表面に熱可塑性樹脂部材を接着して使用される場合がある。そのため、繊維強化複合材料の表面に熱可塑性樹脂層を付与し、当該熱可塑性樹脂層を介して熱可塑性樹脂部材を溶着しようとする試みがなされている。
【0003】
その一例として、特許文献1や非特許文献1には、繊維強化複合材料の前駆体である硬化前のプリプレグに、熱硬化性樹脂と比較的親和性の高い熱可塑性樹脂のフィルムを配置し、プリプレグの熱硬化性樹脂とフィルムの熱可塑性樹脂とが混和した混和層を界面に形成させることでプリプレグとフィルムとを接合し、熱可塑性樹脂層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Investigation on Energy Director-less Ultrasonic Welding of Polyetherimide (PEI)- to Epoxy-based Composites. (Composites Part B: Engineering Volume 173,15 September 2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1や非特許文献1に示されている手法は熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との樹脂種の親和性のみでプリプレグとフィルムを接合しているため、適用できる樹脂に制限があった。本発明の目的は、繊維強化熱硬化性樹脂層と熱可塑性樹脂層とを、樹脂種の親和性に依存せずに、強固に接合することが可能な積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、強化繊維(A)と熱硬化性樹脂(B)からなる層の表面に、多孔質構造を有する熱可塑性フィルム(C)が積層されてなる積層体であって、前記熱可塑性フィルム(C)の孔部の径が0.01μm以上30μm以下である積層体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層体の構成により、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂の樹脂種に依存することなく、繊維強化熱硬化性樹脂層と熱可塑性樹脂層とを強固に接合することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の積層体およびその製造方法について詳しく説明する。
【0010】
本発明の積層体は、強化繊維(A)と熱硬化性樹脂(B)からなる層(以下、「繊維強化熱硬化性樹脂層」という)と、多孔質構造を有する熱可塑性フィルム(C)が積層されてなる積層体であって、前記熱可塑性フィルム(C)の孔部の径が0.01μm以上、30μm以下である積層体である。
【0011】
本発明の積層体は、熱硬化性樹脂(B)が未硬化(ゲル化していない状態)である場合、硬化している(ゲル化した状態)場合の両者を含む。熱硬化性樹脂(B)のゲル化は貯蔵弾性率と損失弾性率の大小関係により判断できる。具体的には、25℃で測定した貯蔵弾性率が損失弾性率以下の場合にはゲル化していないため未硬化であると判断し、当該貯蔵弾性率が損失弾性率より大きくなった場合にはゲル化しているため硬化していると判断する。熱硬化性樹脂(B)の貯蔵弾性率と損失弾性率はJIS K7244-10(2005)に基づき、動的粘弾性分析装置を用いて測定する。
【0012】
本発明においては、熱可塑性フィルム(C)の多孔質構造を構成する孔部に熱硬化性樹脂(B)が含浸していることが好ましく、熱硬化性樹脂(B)の熱可塑樹脂層への含浸距離は、5μm以上であることが好ましい。当該含浸距離は、繊維強化熱硬化性樹層と熱可塑性樹脂層の界面から、入り込む位置の距離を表層が0°方向となるように積層体をカットした断面を顕微鏡で観察し、測定を行うことで求められる。ここで含浸距離とは顕微鏡観察において、倍率1000倍に拡大して写真を撮影し、この断面写真のうち、繊維強化熱硬化性樹脂層と熱可塑性樹脂層の界面から最も深く熱硬化性樹脂(B)が入り込んだ位置を測定し、この操作を20か所で実施し、その平均値を含浸距離とする。熱硬化性樹脂(B)が熱可塑性フィルム(C)の孔部に含浸することで、熱可塑性フィルム(C)と繊維強化熱硬化性樹脂の両層が強固に結合される。
【0013】
熱可塑性フィルム(C)の多孔質構造は、孔部が連続して分布した構造であることが好ましい。そのような構造とすることで連続した孔部に熱硬化性樹脂(B)が含浸することにより、含浸した熱硬化性樹脂(B)と熱可塑性フィルム(C)が、複雑な界面を広範囲で形成し、熱可塑性フィルム(C)と繊維強化熱硬化性樹脂の両層が強固に接合される。
【0014】
また、熱可塑性フィルム(C)の孔部の径は、30μm以下であることが好ましく、また10μm以下であることがより好ましい。特に孔部の径の下限はないが一般的には0.01μm以上である。そのような範囲とすることで熱硬化性樹脂(B)が含浸した際に微細に入り込み、熱可塑性フィルム(C)と繊維強化熱硬化性樹脂の両層が強固に接合される。ここで孔部の径は水銀圧入法で求められる分布曲線上において、空孔容積率50%に対応する孔径とする。
【0015】
<強化繊維(A)>
強化繊維(A)は、積層体の強度や弾性率などの力学特性を発現させることを目的として、例えば、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラスなどからなるガラス繊維、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維、ステンレス、鉄、金、銀、アルミニウム、それらの合金などからなる金属繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、セラミック繊維がある。これらは、単独または2種以上を併用して用いられる。強化繊維(A)としては、高強度、高弾性率の観点からは、金属繊維、ガラス繊維、および炭素繊維が好ましく、中でも軽量性の観点からは比重が小さく、比強度、比剛性に優れる炭素繊維が好ましく使用される。とりわけ、安価な生産コストを実現できる点で、ポリアクリロニトリル系炭素繊維が、好ましく用いられる。
【0016】
強化繊維(A)は、表面処理が施されているものであっても良い。表面処理としては、金属の被着処理、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、添加剤の付着処理などがある。サイジング剤としては、特に限定されないが、カルボキシル基、アミノ基、水酸基およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を1分子中に3個以上有する化合物が好ましい。官能基は1分子中に2種類以上が混在しても良く、1種類の官能基を1分子中に3個以上有する化合物を2種類以上併用しても良い。
【0017】
強化繊維(A)の形態としては、連続繊維形態としては、多数本のフィラメントからなるストランド、このストランドから構成された平織り、朱子織り、綾織りなどのクロス、多数本のフィラメントが一方向に配列されたストランド(一方向性ストランド)、この一方向性ストランドから構成された一方向性クロスなどがある。なお、「連続繊維」とは、10mm以上の長さを有する直線状の繊維のことであり、積層体において、一方の端から対向する端までの長さを有した繊維であることが好ましい。高い力学特性を発現する観点からは、連続繊維形態の強化繊維が好ましく用いられる。また、強化繊維(A)の形態としては、強化繊維のストランドおよび/または単繊維が面状に分散した繊維分散形態、例えば、チョップドストランドマット、抄紙マット、カーディングマット、エアレイドマット、などであってもよく、形状賦型性の観点からは、繊維分散形態が好ましい。
【0018】
<熱硬化性樹脂(B)>
熱硬化性樹脂(B)としては、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ユリア・メラミン、ポリイミド、これらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂が挙げられる。耐衝撃性向上の観点から、熱硬化性樹脂(B)には、エラストマーもしくはゴム成分が添加されていても良い。
【0019】
本発明に特に適した熱硬化性樹脂(B)はエポキシ樹脂であり、一般に硬化剤や硬化触媒と組合せて用いられる。特に、アミン類、フェノール類、炭素-炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましい。具体的には、アミン類を前駆体とするエポキシ樹脂として、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾールの各種異性体、フェノール類を前駆体とするエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、炭素-炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂等があげられるが、これに限定されない。また、これらのエポキシ樹脂をブロム化したブロム化エポキシ樹脂も用いられる。テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンに代表される芳香族アミンを前駆体とするエポキシ樹脂は耐熱性が良好で強化繊維(A)との接着性が良好なため本発明に最も適している。
【0020】
エポキシ樹脂はエポキシ硬化剤と組合せて好ましく用いられる。エポキシ硬化剤はエポキシ基と反応しうる活性基を有する化合物であればこれを用いることができる。好ましくは、アミノ基、酸無水物基、アジド基を有する化合物が適している。具体的には、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体、アミノ安息香酸エステル類が適している。具体的に説明すると、ジシアンジアミドはプリプレグの保存性に優れるため好んで用いられる。またジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な硬化物を与えるため本発明には最も適している。
【0021】
<熱可塑性フィルム(C)>
多孔質構造を有する熱可塑性フィルム(C)の熱可塑性樹脂としては、特に限定されずポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PENp)樹脂、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂や、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂などのポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、変性PSU樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、熱可塑性ポリイミド(PI)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、およびポリアミド(PA)樹脂が例示される。また、これらの熱可塑性樹脂は、上述の熱可塑性樹脂の共重合体や変性体、および/または2種類以上ブレンドした樹脂などであっても良く、さらに用途等に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で適宜、他の充填材や添加剤を含有しても良い。例えば、熱可塑性樹脂の難燃性を高めるために難燃剤を添加することなどができる。
【0022】
本発明の熱可塑性フィルム(C)を得る方法としては、特に限定されないが、樹脂を溶融し、シート状に押出したものを延伸することにより多孔化する乾式法と、フィルム前駆体内に相分離する成分を含有させた後に溶媒等で抽出することで孔部を形成する湿式法が挙げられる。乾式法では、無機粒子を添加して延伸することで粒子を核としてその周囲に孔部を形成させる手法や、延伸により結晶の界面を剥離させることで孔部を形成させる方法などが好適に用いられる。特に延伸を含む方法では孔部の周辺にフィブリルが発生することで複雑な孔部を形成させることができ、熱硬化性樹脂(B)が含浸した際に複雑な界面を形成し、熱可塑性フィルム(C)と繊維強化熱硬化性樹脂の両層が強固に接合される。
【0023】
熱可塑性フィルム(C)の厚みとしては、厚すぎると成形後に反りやすくなることから強化繊維(A)と熱硬化性樹脂(B)からなる層の厚みより薄いことが好ましい。熱可塑性フィルム(C)の具体的な厚みとしては、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。厚みの下限としては特に限定されないが一般的に1μm以上である。
【0024】
熱可塑性樹脂層を形成する熱可塑性フィルム(C)は、熱硬化性繊維強化樹脂層と接する面に多孔質構造の開口部が存在することが好ましい。そのようにすることで熱硬化性樹脂(B)の一部が熱可塑性フィルム(C)の孔部に入り込み、熱可塑性フィルム(C)と強化繊維(A)と熱硬化性樹脂(B)からなる層を機械的に締結することで、二つの層が強固に接合される。
【0025】
熱硬化性樹脂(B)との接合面における密着性を高めるため、熱可塑性フィルム(C)の表面に接着成分を付与して繊維強化熱硬化性樹脂層と接合しても良い。接合強度を高める観点からは、接着成分が熱可塑性フィルム(C)の表面の70%以上に付着していることが好ましく、より好ましくは90%以上で、表面全体に均一に付着していることがさらに好ましい。接着成分としては特に制限はないが、接着を高める点からは、高い反応性または相互作用を有する官能基を1個以上分子内に含む化合物が好ましい。官能基の例としてはカルボキシル基、グリシジル基、アミノ基、イソシアネート基、酸無水物基、水酸基、アミド基、エステル基などが挙げられるが、中でもカルボキシル基、グリシジル基、アミノ基、イソシアネート基、酸無水物基は反応性が高い官能基であり好ましい。さらには接着を高める観点から、該官能基を2個以上の複数有する化合物が好ましい。該化合物は熱可塑性フィルム(C)への親和性の観点から、有機化合物、高分子化合物または有機ケイ素化合物であることが好ましい。有機化合物の好ましい例としては、N,N’-エチレンビストリメリットイミド、N,N’-ヘキサメチレンビストリメリットイミドなどのトリメリットイミド化合物や、多官能芳香族エポキシとしては、例えばビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールS、4,4’-ジヒドロキシビフェニルなどのビスフェノール-グリシジルエーテル系エポキシ化合物などがある。また、高分子化合物の好ましい例としては、酸変性ポリオレフィンの例としてエチレン-アクリル酸エチル共重合体、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどがあり、エポキシ変性ポリオレフィンの例としてエチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体などがある。また、有機ケイ素化合物の好ましい例としては、グリシジル変性有機シラン化合物の例として、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、イソシアネート変性有機シラン化合物の例として3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどがあり、アミノ変性有機シラン化合物としては3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランなどがある。
【0026】
こうした接着成分を熱可塑性フィルム(C)の表面に付与する方法は特に限定はないが、固形物であれば粉砕した粉末を熱可塑性フィルム(C)に付着させる方法や、化合物を溶融させて塗布する方法などがあるが、均一に簡便な塗布方法としては、有機溶剤または水に化合物を溶解あるいは分散させた所定濃度の液に、熱可塑性フィルム(C)を浸漬させた後に乾燥させる方法や、スプレーで噴霧した後に乾燥させる方法などが好ましい。
【0027】
<積層体の製造方法>
前述のように、本発明の積層体は、熱硬化性樹脂(B)が未硬化の積層体と、熱硬化性樹脂(B)が硬化した積層体を含む。本発明の積層体の製造方法に特に限定はないが下記の方法で作製することで熱可塑性フィルム(C)の孔部に熱硬化性樹脂(B)が含浸した積層体を得ることができる。
【0028】
熱硬化性樹脂(B)が未硬化の積層体の場合には、強化繊維(A)と未硬化の熱硬化性樹脂(B)からなるプリプレグの表面に多孔質構造を有する熱可塑性フィルム(C)を積層したプリフォームを、常温または熱硬化性樹脂(B)が硬化しない温度に加熱した状態で加圧することにより、熱可塑性樹脂フィルム(C)の多孔質構造部分に熱硬化性樹脂(B)を含浸させる方法により作製することができる。
【0029】
また、熱硬化性樹脂(B)が硬化している積層体の場合には、強化繊維(A)と熱硬化性樹脂(B)からなるプリプレグに多孔質構造を有する熱可塑性フィルム(C)を表層に積層したプリフォームを熱硬化性樹脂(B)が硬化する温度に加熱した状態で加圧することにより、熱硬化性樹脂(B)に含浸しつつ、熱硬化性樹脂(B)の硬化を行う方法により作製することができる。この方法は一段階で実施できることから、プロセス性の観点から好ましい。
【0030】
あるいは、熱硬化性樹脂(B)が硬化している積層体は、上記のように作製した熱硬化性樹脂(B)が未硬化の積層体を作製し、その後熱硬化性樹脂(B)を硬化させる方法によっても作製することができる。この方法は、粘度が低い状態で熱硬化性樹脂(B)を熱可塑性樹脂フィルムへ含浸できるため、熱硬化性樹脂(B)を十分に含浸させる観点から好ましい。熱硬化性樹脂(B)を硬化させる温度において、多孔質構造を有する熱可塑性フィルム(C)は軟化しないことが好ましい。ここで、「熱硬化性樹脂(B)を硬化させる温度」は、多段階で硬化させる場合には1段階目の温度であるものとする。また、熱可塑性フィルム(C)が軟化する/しないは、JIS K 7191のB法に基づき測定する荷重たわみ温度で判断するものとする。具体的には、熱可塑性フィルム(C)の荷重たわみ温度Td(℃)と、熱硬化性樹脂(B)を成形する時の硬化温度Tp(℃)との関係は、Td>Tpであることが好ましく、Td-Tp≧10(℃)であることが好ましく、Td-Tp≧30(℃)であることがより好ましく、Td-T≧50(℃)であることがさらに好ましい。このように設計することで、加熱により熱硬化性樹脂(B)の粘度が低下した際に、多孔質構造を有する熱可塑性フィルム(C)が連続した多孔構造を保った状態で孔部に熱硬化性樹脂(B)が含浸し、孔部に入り込んだ際に熱可塑性フィルムの孔部が厚み方向および面内方向に連続した構造を保つことができ、熱可塑性フィルム(C)と繊維強化熱硬化性樹脂層とが強固に接合される。
【実施例0031】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。まず、本発明に使用した評価方法を下記する。
【0032】
(評価方法1)熱可塑性樹脂フィルム(C)の荷重たわみ温度Td
熱可塑性フィルム(C)に使用した樹脂を用いて射出成形したサンプルでJIS-K7191(2015)のB法に規定される「プラスチック―荷重たわみ温度の求め方」に準拠して荷重たわみ温度を測定した。上記操作を3回繰り返し、得られた温度の平均値を算出して、熱可塑性フィルム(C)の荷重たわみ温度とした。
【0033】
(評価方法2)熱可塑性樹脂フィルムの孔部の径
水銀圧入ポロシメーターとしてマイクロメリティックス社製オートポアIV9510を用いて、熱可塑性フィルム(C)の孔径の分布曲線を求めた。分布曲線の空孔容積率50%に対応する孔径を熱可塑性フィルム(C)の孔部の径とした。
【0034】
(評価方法3)フィルムの多孔構造の観察
フィルムをカッターでカットした後、その断面をデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、VHX-5000)で倍率1000倍に拡大して写真を撮影する操作を30か所で実施した。孔部とその他の部分の色調差によりマッピングをすることで式1から全体の孔部の割合を求めた。
孔部の割合[%]=(観察断面における孔部の面積)/(観察断面の全体の面積)×100 ・・・(式1)
(評価方法4)成形品の断面観察
積層体の断面を研磨し、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、VHX-5000)で倍率1000倍に拡大して写真を撮影した。この断面写真のうち、繊維強化熱硬化性樹脂層と熱可塑性フィルム(C)の界面から最も深く熱硬化性樹脂(B)が入り込んだ位置を測定した。この操作を20か所で実施し、その平均値を熱硬化性樹脂(B)の含浸距離とした。
【0035】
<実施例および比較例で用いた材料>
<強化繊維(A)>
ポリアクリロニトリルを主成分とする重合体から紡糸、焼成処理を行い、総フィラメント数12000本の連続炭素繊維を得た。さらに該連続炭素繊維を電解表面処理し、120℃の加熱空気中で乾燥して炭素繊維を得た。この炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
【0036】
密度:1.80g/cm3
単繊維径:7μm
引張強度:4.9GPa
引張弾性率:230GPa
<熱硬化性樹脂(B)>
・“エポトート(登録商標)”YD-128(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、 日鉄ケミカル&マテリアル(株)製:エポキシ当量190g/eq)
・“エポトート(登録商標)”YD-128G(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、 日鉄ケミカル&マテリアル(株)製:エポキシ当量190g/eq)
・“jER(登録商標)”1001(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、 三菱ケミカル(株)製:エポキシ当量 475g/eq)
・“jER(登録商標)”1009(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、 三菱ケミカル(株)製:エポキシ当量 2750g/eq)
硬化剤
・DICY7(ジシアンジアミド、三菱ケミカル(株)製、分子量84g/mol)
硬化触媒
・DCMU99(3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、
保土ヶ谷化学(株)製)
添加剤
・“ビニレック”(登録商標)K(ポリビニルホルマール、JNC(株)製)。
【0037】
<熱硬化性樹脂組成物>
混練装置中に、エポキシ樹脂として、“エポトート(登録商標)”YD-128を40質量部、“エポトート(登録商標)”YD-128Gを20質量部、“jER(登録商標)”1001を20質量部、“jER(登録商標)”1009を20質量部、添加剤の“ビニレック”(登録商標)Kを5質量部投入し、160℃の温度まで昇温させ、160℃で30分間加熱混練を行った。その後、混練を続けたまま55~65℃の温度まで降温させ、硬化剤および硬化触媒のDICY7およびDCMU99を加えて30分間撹拌し、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0038】
<熱硬化性プリプレグ>
炭素繊維を一方向に配列して多数本の強化繊維群を形成し、炭素繊維の含有量が質量割合(Wf)で67%となるように、炭素繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させプリプレグを得た。
【0039】
<多孔質構造を有する熱可塑性フィルム(C)>
・多孔質フィルム(C-1)
PPS樹脂(東レ(株)社製“トレリナ”M2888)と平均粒径3μmの炭酸カルシウム粉末60重量%を配合して、二軸押出機にて溶融混錬して、ストランド形状に押し出し、カッターで切断してペレット化し、PPS 樹脂組成物1を得た。得られたペレットを真空乾燥した後、押出機に供給し、加熱しながら溶融押出し、吐出した溶融樹脂を急冷固化させ、未延伸のPPSシートを得た。未延伸のPPSシートを複数の加熱ロールに接触走行させ、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる冷却ロールとの間でフィルムの引き取り方向に延伸した後に、テンターを用いてフィルムの引き取りに対して垂直方向に延伸し、続いて熱処理を行い、引き続き、弛緩処理を行った後、室温まで冷却することでフィルム厚みが100μmの多孔質フィルム(C-1)を得た。この多孔質フィルムの特性は次に示す通りであった。
【0040】
荷重たわみ温度:130℃
厚み :100μm
フィルム全体の孔部の割合:42%
・多孔質フィルム(C-2)
使用する樹脂をPPS樹脂からPP樹脂(プライムポリマー社製“プライムポリプロ” J105G)とした以外は同様にして、多孔質フィルムを作製した。この多孔質フィルム(C-2)の特性は次に示す通りであった。
【0041】
荷重たわみ温度 :100℃
厚み :100μm
フィルム全体の孔部の割合:48%
・多孔質フィルム(C-3)
使用する樹脂をPPS樹脂からPA樹脂(東レ(株)社製“アミラン”CM1017)とした以外は同様にして、多孔質フィルムを作製した。この多孔質フィルム(C-3)の特性は次に示す通りであった。
【0042】
荷重たわみ温度 :190℃
厚み :100μm
フィルム全体の孔部の割合:45%
<多孔質構造を有しない熱可塑性フィルム>
・樹脂フィルム(F-1)
PPS樹脂(東レ(株)社製“トレリナ”M2888)ペレットを熱プレスし、厚み100μmのフィルム状の基材を作製し、樹脂フィルム(F-1)を得た。この樹脂フィルムの特性は次に示す通りであった。
【0043】
荷重たわみ温度:130℃
厚み:100μm
フィルム全体の孔部の割合:0%
・樹脂フィルム(F-2)
PP樹脂(プライムポリマー社製“プライムポリプロ” J105G)ペレットを熱プレスし、厚み100μmのフィルム状の基材を作製し、樹脂フィルム(F-2)を得た。この樹脂フィルムの特性は次に示す通りであった。
【0044】
荷重たわみ温度 :100℃
厚み:100μm
フィルム全体の孔部の割合:0%
・樹脂フィルム(F-3)
PA樹脂(東レ(株)社製“アミラン”CM1007)ペレットを熱プレスし、厚み100μmのフィルム状の基材を作製し、樹脂フィルム(F-3)を得た。この樹脂フィルムの特性は次に示す通りであった。
【0045】
荷重たわみ温度 :182℃
厚み:100μm
フィルム全体の孔部の割合:0%
(実施例1)
上述の方法で作製した熱硬化性プリプレグおよび多孔質フィルム(C-1)より、所定の大きさ有する長方形のシートをそれぞれ12枚、1枚切り出した。長方形に切り出したシートの長辺の方向を0°として、繊維方向が[0°/90°/0°/90°/0°/90°/90°/0°/90°/0°/90°/0°]となるように12枚のプリプレグを積層した。さらに、表面に1枚の多孔質フィルム(C-1)を積層し、プリフォームを得た。
【0046】
次に、当該プリフォームを、オートクレーブにおいて、0.6MPaの面圧をかけながら、90℃で1時間加熱した後に135℃で2時間加熱することで熱硬化性樹脂を硬化させて、平均の厚み1.5mmの積層体を得た。得られた積層体の特性を表1に示す。得られた積層体をダイヤモンドカッターでカットした後に、カット後の端部から熱可塑性フィルムを引き剥がした所、強固に接着しており、熱可塑性フィルムが破断した。
【0047】
(実施例2)
多孔質フィルム(C-1)の代わりとして、多孔質フィルム(C-2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、積層体を作製した。得られた積層体をダイヤモンドカッターでカットした後に、カット後の端部から熱可塑性フィルムを引き剥がした所、強固に接着しており、熱可塑性フィルムが破断した。
【0048】
(実施例3)
多孔質フィルム(C-1)の代わりとして、多孔質フィルム(C-3)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、積層体を作製した。得られた積層体をダイヤモンドカッターでカットした後に、カット後の端部から熱可塑性フィルムを引き剥がした所、強固に接着しており、熱可塑性フィルムが破断した。
【0049】
(比較例1)
多孔質フィルム(C-1)の代わりとして、多孔質構造を有しない樹脂フィルム(F-1)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、平均の厚み1.6mmの積層体を得た。得られた積層体をダイヤモンドカッターでカットした所、カット後の端部から熱可塑性フィルムが容易に剥離した。
【0050】
(比較例2)
多孔質フィルム(C-1)の代わりとして、多孔質構造を有しない樹脂フィルム(F-2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、平均の厚み1.6mmの積層体を得た。得られた積層体をダイヤモンドカッターでカットした所、熱可塑性フィルムが剥離した。
【0051】
(比較例3)
多孔質フィルム(C-1)の代わりとして、多孔質構造を有しない樹脂フィルム(F-3)を用いたこと以外は同様にして、積層体を作製した。得られた積層体をダイヤモンドカッターでカットした後に、端部のバリから熱可塑性フィルムを引き剥がした所、接着しているもののカット後の端部から熱可塑性フィルムを引き剥がすことが可能であった。
【0052】