(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025062277
(43)【公開日】2025-04-14
(54)【発明の名称】ポリウレタン分解用組成物、ポリウレタン分解物、ポリウレタン分解物の製造方法、及びポリウレタン樹脂の分解方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/28 20060101AFI20250407BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20250407BHJP
C08G 101/00 20060101ALN20250407BHJP
【FI】
C08J11/28 ZAB
C08G18/00 F
C08G101:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171223
(22)【出願日】2023-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 智隆
【テーマコード(参考)】
4F401
4J034
【Fターム(参考)】
4F401AA26
4F401BA06
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4J034CA02
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4J034NA08
4J034QB01
4J034QC01
(57)【要約】
【課題】ポリウレタン分解物を得るための技術を提供する。
【解決手段】ポリウレタン分解用組成物は、分解剤及び触媒を含むポリウレタン分解用組成物であって、前記分解剤は、1級アミノ基及び2級アミノ基を有しないアミノアルコールであり、前記触媒は、水酸基を有しない3級アミン化合物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分解剤及び触媒を含むポリウレタン分解用組成物であって、
前記分解剤は、1級アミノ基及び2級アミノ基を有しないアミノアルコールであり、
前記触媒は、水酸基を有しない3級アミン化合物である、ポリウレタン分解用組成物。
【請求項2】
更に、ポリオール(但し、アミノアルコールを除く)を含む、請求項1に記載のポリウレタン分解用組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のポリウレタン分解用組成物によって、ポリウレタン樹脂を分解して得られたポリウレタン分解物。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のポリウレタン分解用組成物によって、ポリウレタン樹脂を分解する、ポリウレタン分解物の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のポリウレタン分解用組成物によって、ポリウレタン樹脂を分解する、ポリウレタン樹脂の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリウレタン分解用組成物、ポリウレタン分解物、ポリウレタン分解物の製造方法、及びポリウレタン樹脂の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンフォームは、種々の分野で用いられている。ポリウレタンフォームの端材、使用済みのポリウレタンフォーム等を化学的に分解して、再利用する試みがなされている。
【0003】
特許文献1には、再生ポリエーテルポリオールの製造方法が記載されている。特許文献1の再生ポリエーテルポリオールの製造方法は、特定のポリオールを含む硬質ポリウレタンフォーム分解用組成物、金属水酸化物、及び水の混合物に、硬質ポリウレタンフォームを添加する工程を含んでいる。
【0004】
特許文献2には、ポリウレタン成形物の液状化方法が記載されている。特許文献2のポリウレタン成形物の液状化方法は、ポリウレタン成形物を、これらの製造に要したOH基(水を含まない)に対して、5倍当量以上のNCO基を有するイソシアナート成分により、分解する。
【0005】
特許文献3には、軟質ウレタン樹脂含有廃棄物の処理方法が記載されている。特許文献3の軟質ウレタン樹脂含有廃棄物の処理方法は、軟質ウレタン樹脂含有廃棄物に分解剤を加えて分解反応を開始し、前記軟質ウレタン樹脂原料のイソシアネート由来のジアミン濃度が2wt%以下の段階で前記分解反応を停止し、ペースト状の中間生成物を得る。そして、中間生成物を再加熱し、最終分解生成物を得る。最終分解生成物は、二相分離した形態であることが記載されている。
【0006】
特許文献4には、再生ポリエーテルポリオールの製造方法が記載されている。特許文献4の再生ポリエーテルポリオールの製造方法は、軟質ポリウレタンフォーム屑をポリオールと金属水酸化物の混合物中において水の存在下に加熱分解し、次いで分解液中の残存水分を除去し、その分解液にアルキレンオキシドを付加重合させて、均質な再生ポリエーテルポリオールを得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-109540号公報
【特許文献2】特開平05-222152号公報
【特許文献3】特開2005-015526号公報
【特許文献4】特開平07-224141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術は、添加した水や、金属水酸化物が再生ポリエーテルポリオールの利用に影響を及ぼす懸念がある。特許文献2の技術は、ポリウレタン分解物がイソシアネート基含有の成分として得られ、原料の保存安定性に懸念がある。特許文献3の技術は、減容化のためにペースト状の1液とするが、最終分解生成物は二相分離した形態である。よって、最終分解生成物をリサイクル原料として利用するためには、液状物と固体とを分離するのに手間が掛かる。特許文献4の技術は、アルキレンオキシドの付加重合をするため、工程が複雑となり、また特別な設備が必要となる。
【0009】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、上記課題の少なくとも一つを解決することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1] 分解剤及び触媒を含むポリウレタン分解用組成物であって、
前記分解剤は、1級アミノ基及び2級アミノ基を有しないアミノアルコールであり、
前記触媒は、水酸基を有しない3級アミン化合物である、ポリウレタン分解用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、上記課題の少なくとも一つが解決される。例えば、リサイクルウレタン原料として利用し易いポリウレタン分解物を、簡便に得るための技術を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
[2] 更に、ポリオールを含む、[1]に記載のポリウレタン分解用組成物。
[3] [1]又は[2]に記載のポリウレタン分解用組成物によって、ポリウレタン樹脂を分解して得られたポリウレタン分解物。
[4] [1]又は[2]に記載のポリウレタン分解用組成物によって、ポリウレタン樹脂を分解する、ポリウレタン分解物の製造方法。
[5] [1]又は[2]に記載のポリウレタン分解用組成物によって、ポリウレタン樹脂を分解する、ポリウレタン樹脂の分解方法。
【0013】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。また、本明細書において、各数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0014】
1.ポリウレタン分解用組成物
ポリウレタン分解用組成物は、分解剤及び触媒を含むポリウレタン分解用組成物である。分解剤は、1級アミノ基及び2級アミノ基を有しないアミノアルコールである。触媒は、水酸基を有しない3級アミン化合物である。
【0015】
(1)ポリウレタン樹脂
ポリウレタン分解用組成物は、ポリウレタン樹脂の分解に用いられる。ポリウレタン樹脂は特に限定されない。ポリウレタン樹脂は、例えば、ポリウレタンフォームである。ポリウレタンフォームは、軟質ポリウレタンフォーム、半硬質ポリウレタンフォーム、及び硬質ポリウレタンフォームのいずれであってもよい。ポリウレタンフォームは、連続気泡構造のポリウレタンフォームであってもよく、独立気泡構造のポリウレタンフォームであってもよい。ポリウレタンフォームは、所定の大きさに粉砕された粉砕物であってもよい。また、ポリウレタンフォームは、所定の大きさに切断された切断物であってもよい。ポリウレタンフォームは、例えば、ポリウレタンフォームの製造過程で排出される端材、又は、破棄される予定の使用済みポリウレタンフォームであってもよい。
【0016】
ポリウレタン分解用組成物は、ポリウレタン分解物中の固形分を低減し得る点から、ポリマーポリオールを含有する組成物から得られたポリウレタン樹脂の分解にも好適である。ポリマーポリオールのポリマー分の含有量は、特に限定されない。ポリマーポリオールのポリマー分の含有量は、ポリマーポリオール全体を100質量%とした場合に、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、35質量%以上であってもよい。上記のポリマーポリオールのポリマー分の含有量は、50質量%以下、45質量%以下であってもよい。
【0017】
ポリウレタン分解用組成物は、ポリウレタン分解物中の固形分を低減し得る点から、難燃剤を含有する組成物から得られたポリウレタン樹脂の分解にも好適である。難燃剤は、特に限定されない。難燃剤は、例えば、リン酸エステル系難燃剤等のリン系難燃剤である。リン酸エステル系難燃剤は、ハロゲンを含有するハロゲン化リン酸エステル系難燃剤であってもよい。難燃剤の含有量は、特に限定されない。難燃剤の含有量は、組成物に含まれるポリオールを100質量部とした場合に、例えば、5質量部以上30質量部以下、10質量部以上25質量部以下であってもよい。
【0018】
(2)分解剤
分解剤は、1級アミノ基及び2級アミノ基を有しないアミノアルコールである。本開示のアミノアルコールによれば、好適にポリウレタン分解物の相分離を抑制できる。その理由は定かではないが、1級アミノ基及び2級アミノ基を有しないアミノアルコールは、1級アミノ基又は2級アミノ基を有するアミノアルコールに比して、分解生成物と反応しにくいことが、相分離の抑制に寄与すると推測される。また、上記のアミノアルコールは、ポリウレタン樹脂のポリウレタン分解物に含まれる、ポリオールと、アミン成分を相溶させる作用を奏すると考える。なお、本開示は、この推測理由に限定解釈されない。
【0019】
本開示のアミノアルコールは、分子内に、炭化水素基以外の官能基として、少なくとも1つの3級アミノ基と、少なくとも1つの水酸基を有する。アミノアルコールは、窒素原子に、水酸基を有する総炭素数2以上10以下の炭化水素基であり、エーテル基で分断されていてもよい炭化水素基が結合していることが好ましい。
アミノアルコールが有する3級アミノ基の数は特に限定されない。上記の3級アミノ基の数は、1個以上4個以下が好ましく、1個以上3個以下がより好ましい。
アミノアルコールが有する水酸基の数は特に限定されない。上記の水酸基の数は、1個以上4個以下が好ましく、1個以上3個以下がより好ましい。
アミノアルコールの分子量は、特に限定されない。アミノアルコールの分子量は、800以下が好ましく、600以下がより好ましく、450以下が更に好ましい。下限は特に制限されないが、例えば80以上である。
【0020】
アミノアルコールは、例えば、トリエタノールアミン、N-フェニルジエタノールアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、N,N-ジメチルアミノヘキサノール、N-メチルジエタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、1,1’,1’’-ニトリロトリ-2-プロパノール、N-n-ブチル-2,2’-イミノジエタノール、2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール、2-[[2-(ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ]エタノール、2-モルホリノエタノール、2-ヒドロキシメチル-4-ベンジルモルホリン、N-(2-ヒドロキシプロピル)モルホリン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノール、2-(4-メチル-2-フェニル-1-ピペラジニル)-3-ピリジンメタノール、及び1-ピペリジンエタノールからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。これらの中でも、トリエタノールアミン、N-フェニルジエタノールアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、及びN,N-ジメチルアミノヘキサノールからなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。アミノアルコールは、1種のみが用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0021】
アミノアルコールの添加量は特に限定されない。アミノアルコールの添加量は、ポリウレタン樹脂を十分に分解する観点から、ポリウレタン樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上であり、より好ましくは5質量部以上であり、更に好ましくは8質量部以上である。上記のアミノアルコールの添加量は、ポリウレタン樹脂分解物をポリウレタン樹脂原料等として再利用する場合の反応性や物性への影響を考慮して、好ましくは100質量部以下であり、より好ましくは75質量部以下であり、更に好ましくは50質量部以下である。これらの観点から、上記のアミノアルコールの添加量は、好ましくは1質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは5質量部以上75質量部以下であり、更に好ましくは8質量部以上50質量部以下である。分解剤は、上記のアミノアルコールと、他の分解剤が併用されてもよい。
【0022】
(3)触媒
触媒は、水酸基を有しない3級アミン化合物である。本開示の3級アミン化合物によれば、好適にポリウレタン分解物の相分離を抑制できる。その理由は定かではないが、3級アミン化合物は、1級アミノ基又は2級アミノ基を有するアミン化合物に比して、分解生成物と反応しにくいことが、相分離の抑制に寄与すると推測される。なお、本開示は、この推測理由に限定解釈されない。
【0023】
本開示の3級アミン化合物は、分子内に、炭化水素基以外の官能基として、少なくとも1つの3級アミノ基を有する。
3級アミン化合物が有する3級アミノ基の数は特に限定されない。上記の3級アミノ基の数は、1個以上4個以下が好ましく、1個以上3個以下がより好ましい。
3級アミン化合物の分子量は、特に限定されない。3級アミン化合物の分子量は、600以下が好ましく、400以下がより好ましく、200以下が更に好ましい。下限は特に制限されないが、例えば60以上である。
【0024】
3級アミン化合物は、例えば、ジアザビシクロウンデセン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ヘキサデシルジメチルアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-オクタデシルモルホリン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルプロパンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N’,N’-トリメチルアミノエチルピペラジン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、及び1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。3級アミン化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0025】
3級アミン化合物の添加量は特に限定されない。3級アミン化合物の添加量は、ポリウレタン樹脂を十分に分解する観点から、ポリウレタン樹脂100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上であり、より好ましくは0.1質量部以上であり、更に好ましくは0.3質量部以上である。上記の3級アミン化合物の添加量は、ポリウレタン樹脂分解物をポリウレタン樹脂原料等として再利用する場合の反応性や物性への影響を考慮して、好ましくは8質量部以下であり、より好ましくは5質量部以下であり、更に好ましくは3質量部以下である。これらの観点から、上記の3級アミン化合物の添加量は、好ましくは0.05質量部以上8質量部以下であり、より好ましくは0.1質量部以上5質量部以下であり、更に好ましくは0.3質量部以上3質量部以下である。
【0026】
触媒は、上記の3級アミン化合物と、他の触媒が併用されてもよい。他の触媒は、スタナスオクトエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンメルカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンジマレエート、ジオクチルチンメルカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレート、オクチル酸鉛、酢酸カリウム、及びオクチル酸カリウムからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【0027】
(4)その他の成分
ポリウレタン分解用組成物は、更に、分解剤及び触媒以外の成分(その他の成分とも称する)を含んでいてもよい。例えば、ポリウレタン分解用組成物は、一相のポリウレタン分解物を得るという観点から、更に、ポリオール(但し、アミノアルコールを除く)を含むことが好ましい。ポリオールは、例えば、数平均分子量1000未満の低分子量ポリオールであってもよく、数平均分子量1000以上の高分子量ポリオールであってもよく、これらが併用されてもよい。
【0028】
低分子量ポリオールは、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等の2価アルコール等である。また、低分子量ポリオールは、例えば、数平均分子量1000未満のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール等であってもよい。
【0029】
高分子量ポリオールは、例えば、数平均分子量1000以上のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、及びポリエーテルエステルポリオールから選ばれる1種以上が好ましい。高分子量ポリオールは、後述のポリウレタン分解物を用いた再生ポリウレタン樹脂の原料ポリオールであってもよい。再生ポリウレタン樹脂の原料ポリオールを用いることで、再生ポリウレタン樹脂を得る際にポリウレタン分解用組成物中の成分が与える影響を低減できる。
【0030】
ポリオールの添加量は特に限定されない。ポリオールの添加量は、一相のポリウレタン分解物を得るという観点から、ポリウレタン樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上であり、より好ましくは5質量部以上であり、更に好ましくは8質量部以上である。なお、再生ポリウレタン樹脂の原料ポリオールを用いる場合には、上記のポリオールの添加量は、低粘度なポリウレタン分解物を得るという観点から、10質量以上、25質量部以上、30質量部以上としてもよい。上記のポリオールの添加量は、通常、200質量部以下であり、100質量部以下、50質量部以下、30質量部以下、20質量部以下であってもよい。上記のポリオールの添加量は、好ましくは1質量部以上200質量部以下であり、上記の上限値と下限値を適宜組み合わせた範囲とすることができる。
【0031】
2.ポリウレタン分解物
ポリウレタン分解物は、上記のポリウレタン分解用組成物によって、ポリウレタン樹脂を分解して得られる。
【0032】
ポリウレタン分解物には、例えば、ポリウレタン樹脂の原料ポリオール由来のポリオールと、原料イソシアネート由来のアミン成分が含まれる。それ以外にも、ポリウレタン分解物には、ポリウレタン樹脂に含まれていた難燃剤、触媒、その他の添加剤等が含まれ得る。
【0033】
ポリウレタン分解物の状態は、特に限定されない。ポリウレタン分解物は、一相の液状物として得られることが好ましい。なお、本開示において、「一相の液状物」は、後述の実施例における「相分離」の評価が「C:明確に相分離している。」ではない液状物を意味する。一相の液状物には、例えば、原料ポリオール由来のポリオールと、原料イソシアネート由来のアミン成分が相溶化した状態で含まれている。なお、一相の液状物は、固形分を含んでいてもよい。すなわち、一相の液状物は、後述の実施例における「相分離」の評価が「B:固形分が確認できるが、明確には相分離していない。」であってもよい。固形分は、例えば、スチレンやアクリロニトリル等のポリマー含有のポリマーポリオール由来の成分や、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤等の難燃剤等である。
【0034】
本来、ポリウレタン分解物は、ポリオールを含有する相と、アミン成分を含有する相の相溶性が悪く、相分離しやすい。例えば、ポリウレタン樹脂の分解剤としてエチレングリコール又はジエタノールアミンを用いた場合には、得られたポリウレタン分解物は、ポリオールを含有する上相と、アミン成分を含有する下相とに相分離した状態で得られる。ポリウレタン分解物が相分離した状態である場合には、現状、下相の有効活用が課題となっている。例えば、下相には、ポリウレタン樹脂の原料イソシアネート由来のアミン成分以外のアミン成分も多く含まれる。よって、下相から、ポリウレタン樹脂の原料イソシアネート由来のアミン成分の単離することが困難である。また、ポリウレタン分解物が相分離した状態において、下相は、ポリウレタン分解物全体の30質量%から40質量%程度を占めるから、下相を廃棄するとポリウレタン樹脂のリサイクル率の低下を招く。他方、ポリウレタン分解物を一相の液状物として得ることができれば、ポリウレタン分解物をそのまま再生ポリウレタン樹脂の作製に用いることができる。よって、ポリオールやアミン成分の分離工程を省くことができ、また、下相を廃棄する場合に比して、廃棄物の量を低減することに寄与できる。
【0035】
さらに、ポリウレタン分解物を一相の液状物として得ることができれば、固形分自体も発生しにくくなる。その理由は定かではないが、次のように考えられる。すなわち、ポリウレタン分解物が相分離した状態であると、ポリマーポリオール由来の成分や難燃剤等がどちらかの相に局在することに起因して、局所的に高濃度化し、固形分が生成しやすくなると考えられる。他方、ポリウレタン分解物を一相の液状物として得ることができれば、ポリマーポリオール由来の成分や難燃剤等を系全体に分散させることができ、固形分が生成しにくくなると考えられる。なお、本開示は、この推測理由に限定解釈されない。
【0036】
ポリウレタン分解物の用途は特に限定されない。ポリウレタン分解物は、再生ポリウレタン樹脂の原料として好適である。例えば、ポリウレタン分解物が一相の液状体である場合には、そのまま再生ポリウレタン樹脂用組成物に混合しやすく、再利用しやすい。
【0037】
3.ポリウレタン分解物の製造方法
ポリウレタン分解物の製造方法は、上記のポリウレタン分解用組成物によって、ポリウレタン樹脂を分解する。
【0038】
ポリウレタン樹脂の分解条件は、特に限定されない。分解速度を向上する観点から、ポリウレタン樹脂の分解処理方法は、ポリウレタン樹脂を、ポリウレタン分解用組成物とともに加熱するとよい。ポリウレタン樹脂を、ポリウレタン分解用組成物とともに加熱する際には、ポリウレタン樹脂とポリウレタン分解用組成物との混合物を攪拌するとよい。
【0039】
加熱温度は、分解速度を向上しつつ、ポリウレタン分解物としてのポリオール、すなわち原料ポリオール由来のポリオールの分解を抑制する点から、好ましくは80℃以上300℃以下であり、より好ましくは100℃以上270℃以下であり、更に好ましくは150℃以上250℃以下である。
分解処理時間は、例えば、10分以上24時間以下であり、30分以上10時間以下であってもよい。分解処理時間の終点は、ポリウレタン樹脂の大きさ、攪拌の有無等に応じてポリウレタ樹脂の分解の進行を確認しつつ適宜設定してもよい。また、例えば常温(例えば25℃)以上80℃未満でポリウレタン樹脂を分解する場合には、24時間より長く分解処理時間を設定してもよい。
【0040】
4.ポリウレタン樹脂の分解方法
ポリウレタン樹脂の分解方法は、上記のポリウレタン分解用組成物によって、ポリウレタン樹脂を分解する。ポリウレタン樹脂の分解方法は、上記の「3.ポリウレタン分解物の製造方法」と同様の条件で行うことができる。ポリウレタン樹脂の分解方法の条件は、上記の「3.ポリウレタン分解物の製造方法」の説明を参照し、詳細な説明を省略する。
【0041】
5.再生ポリウレタン樹脂の製造方法
再生ポリウレタン樹脂の製造方法は、ポリウレタン分解物を用いて再生ポリウレタン樹脂を製造する。
なお、再生ポリウレタン樹脂の製造方法において、「ポリウレタン分解物」については、「2.ポリウレタン分解物」の欄における説明をそのまま適用し、その記載は省略する。
【0042】
再生ポリウレタン樹脂は、例えば、ポリオールと、イソシアネートと、ポリウレタン分解物とを含む再生ポリウレタン樹脂用組成物から得られる。
再生ポリウレタン樹脂は、公知の方法によって製造することができる。ポリウレタンフォームを得る場合における発泡方法には、スラブ発泡とモールド発泡とがあり、いずれの成形方法でもよい。スラブ発泡は、混合した再生ポリウレタン樹脂用組成物をベルトコンベア上に吐出し、大気圧下、常温で発泡させる方法である。他方、モールド発泡は、混合した再生ポリウレタン樹脂用組成物をモールド(成形型)に充填してモールド内で発泡させる方法である。
【実施例0043】
1.ポリウレタン樹脂の製造
表1に記載の割合で配合したポリウレタンフォーム用組成物(A液及びB液)を調製し、スラブ発泡により、ポリウレタンフォームA、ポリウレタンフォームB、ポリウレタンフォームCを製造した。得られたポリウレタンフォームA、ポリウレタンフォームB、ポリウレタンフォームCの密度を、JIS K7222:2005に準拠して測定した。測定した密度を表1に併記する。
【0044】
各原料の詳細は以下の通りである。
・ポリオール1:ポリエーテルポリオール、数平均分子量3000、官能基数3、水酸基価56.1mgKOH/g、品名:サンニックスGP-3050NS、三洋化成工業社製
・ポリオール2:ポリマーポリオール(ポリマー分41%)、数平均分子量:3000、官能基数3、水酸基価32mgKOH/g、品名:EL941WF、AGC株式会社製
・アミン触媒:品名:DABCO 33LSI、EVONIK社製
・整泡剤:シリコーン整泡剤、品名:L-595、モメンティブ社製
・スズ触媒:オクチル酸第一錫、品名:MRH-110、城北化学工業社製
・発泡剤:水
・難燃剤:塩素化リン酸エステル、品名:CR-504L、大八化学社製
・イソシアネート:トリレンジイソシアネート、品名 コロネートT-80、東ソー社製、NCO%:48.2%
【0045】
【0046】
2.ポリウレタン樹脂の分解処理
表2及び表3に記載の成分を含有する実施例及び比較例のポリウレタン分解用組成物を準備した。実施例及び比較例のポリウレタン分解用組成物によって、上記のポリウレタンフォームA、ポリウレタンフォームB、ポリウレタンフォームCの各ポリウレタン樹脂を以下のように分解処理した。
【0047】
実施例1-実施例8の分解剤は、1級アミノ基及び2級アミノ基を有しないアミノアルコールである。分解剤の詳細は以下の通りである。
実施例1、実施例2、実施例6-実施例8:N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン
実施例3:N-フェニルジエタノールアミン
実施例4:トリエタノールアミン
実施例5:N,N-ジメチルアミノヘキサノール
また、表1中、ポリエーテルポリオールは、分子量3000、官能基数3、サンニックス GP-3050NS、三洋化成工業社製である。
【0048】
1Lセパラブルフラスコにて、各ポリウレタン樹脂100gに対し、実施例及び比較例のポリウレタン分解用組成物を添加した。ポリウレタン分解用組成物の各成分の添加量は、表2及び表3の通りである。ポリウレタン分解用組成物を添加した後、200℃、6時間、撹拌しながら、加熱し、ポリウレタン分解物を得た。
【0049】
【0050】
【0051】
3.評価方法
得られたポリウレタン分解物の「相分離」を以下の評価方法で評価した。
<相分離>
相分離の有無を目視により確認した。判定基準は下記の通りである。
A:相分離していない。
B:固形分が確認できるが、明確には相分離していない。
C:明確に相分離している。
【0052】
得られたポリウレタン分解物の「ろ過残渣」を以下の評価方法で評価した。
<ろ過残渣>
実施例1-実施例7については、得られたポリウレタン分解物100質量部に対し、ポリエーテルポリオール(数平均分子量3000、官能基数3、品名:サンニックスGP-3050NS、三洋化成工業社製)を50質量部添加して希釈した。その後、40メッシュのステンレス製金網で、常圧下、24時間放置後の残渣質量を計量した。ろ過前の質量に対する残渣質量を、質量百分率で評価した。
実施例8については、ポリウレタン分解用組成物中に上記のポリエーテルポリオールが含まれるため、上記の希釈をしなかった。希釈をしない以外は、実施例1-実施例7と同様にして評価した。
なお、上記の相分離の評価が「C」の場合、すなわち、明確に相分離が確認できた場合は、ろ過残渣の評価をしなかった。
判定基準は下記の通りである。
A:残渣量が5%以下である。
B:残渣量が5%より多く、15%以下である。
C:残渣量が15%より多い。
【0053】
得られたポリウレタン分解物を以下の基準で総合判定した。
A:ポリウレタンフォームA、ポリウレタンフォームB、ポリウレタンフォームCの各ポリウレタン樹脂について、「相分離」の評価が「A」であり、「ろ過残渣」の評価も「A」である。
B:ポリウレタンフォームA、ポリウレタンフォームB、ポリウレタンフォームCの各ポリウレタン樹脂について、「相分離」の評価及び/又は「ろ過残渣」の評価に「B」があるが、「相分離」の評価と「ろ過残渣」の評価のいずれにも「C」がない。
C:ポリウレタンフォームA、ポリウレタンフォームB、ポリウレタンフォームCの各ポリウレタン樹脂について、「相分離」の評価及び/又は「ろ過残渣」の評価に「C」がある。
【0054】
4.結果
評価結果を表2及び表3に併記する。
実施例1-実施例8は、下記要件(a)-(c)を満たしている。比較例1-比較例4は、下記要件(b)を満たしていない。
・要件(a):分解剤及び触媒を含むポリウレタン分解用組成物である。
・要件(b):分解剤は、1級アミノ基及び2級アミノ基を有しないアミノアルコールである。
・要件(c):触媒は、水酸基を有しない3級アミン化合物である。
【0055】
実施例1-実施例8は、総合判定が「A」又は「B」であった。他方、比較例1-比較例4は、総合判定が「C」であった。要件(a)-(c)を満たす実施例1-実施例8は、比較例1-比較例4に比して、リサイクルウレタン原料として利用し易いポリウレタン分解物を得ることができた。
【0056】
実施例1-実施例8のうち、実施例6-実施例8は、更に下記要件(d)も満たしている。
・要件(d):更に、ポリオール(但し、アミノアルコールを除く)を含む
要件(d)を更に満たす実施例6-実施例8は、より一層、リサイクルウレタン原料として利用し易いポリウレタン分解物を得ることができた。
【0057】
5.実施例の効果
本実施例によれば、リサイクルウレタン原料として利用し易いポリウレタン分解物を、簡便に得るための技術を提供できた。
【0058】
本開示は上記で詳述した実施例に限定されず、本開示の範囲で様々な変形又は変更が可能である。