(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025062339
(43)【公開日】2025-04-14
(54)【発明の名称】信号出力装置、及び、その生産方法
(51)【国際特許分類】
H03M 1/12 20060101AFI20250407BHJP
H03M 1/66 20060101ALN20250407BHJP
【FI】
H03M1/12 C
H03M1/66 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171337
(22)【出願日】2023-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 公洋
(72)【発明者】
【氏名】市原 純
(72)【発明者】
【氏名】吉川 康秀
(72)【発明者】
【氏名】小原 圭輔
【テーマコード(参考)】
5J022
【Fターム(参考)】
5J022AA01
5J022AB01
5J022AC03
5J022BA01
5J022CB05
5J022CF02
(57)【要約】
【課題】信号出力装置に接続される電源の種類による、出力信号の精度低下を低減する。
【解決手段】信号出力装置10は、複数種類の電源Sが接続可能で、複数種類の電源Sのうち、接続された電源からの電力により動作するように構成されている。そして、信号出力装置10の信号変換回路30は、センサ素子20からの入力信号Vinに基づいて電圧換算値P1を導出し、導出した電圧換算値P1を出力信号Voutに変換し、変換した出力信号Voutを出力するように構成されている。さらに、信号出力装置10の電源検出回路50は、複数種類の電源Sのうち、信号出力装置10に接続された電源Sの種類を検出し、信号変換回路30は、電圧換算値P1を、電源検出回路50により特定された電源Sの種類に応じて補正してから出力信号に変換する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の電源が接続可能で、前記複数種類の電源のうち、接続された電源からの電力により動作する信号出力装置であって、
入力信号に基づいて数値を導出し、導出した前記数値を前記出力信号に変換し、変換した前記出力信号を出力する信号変換回路と、
前記複数種類の電源のうち、前記信号出力装置に接続された電源の種類を検出する電源検出回路と、を備え、
前記信号変換回路は、前記数値を、前記電源検出回路により特定された前記電源の種類に応じて補正してから前記出力信号に変換する、
信号出力装置。
【請求項2】
前記複数種類の電源のうちの前記電源が接続される電源回路をさらに備え、
前記電源回路は、接続される前記電源の種類に応じて異なる電圧が発生する箇所を有し、
前記電源検出回路は、前記箇所の電圧を測定することで前記種類を検出し、
前記信号変換回路は、前記数値を、前記電源検出回路で検出された前記電圧と予め設定されている補正係数とに基づいて補正する、
請求項1に記載の信号出力装置。
【請求項3】
前記信号変換回路は、前記数値を、前記電源検出回路により特定された前記電源の種類に対応した前記補正係数を用いて他の数値に変換することで補正してから前記出力信号に変換する、
請求項1に記載の信号出力装置。
【請求項4】
前記複数種類の電源は、単電源及び両電源を含む、
請求項1に記載の信号出力装置。
【請求項5】
前記入力信号は、センサ素子により検出された物理量を示す、
請求項1に記載の信号出力装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の信号出力装置の生産方法であって、
前記信号出力装置を組み立てる第1ステップと、
組み立て後の前記信号出力装置が備える前記信号変換回路に、前記数値の補正の際に使用する補正係数を設定する第2ステップと、を備える、
信号出力装置の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、0~10Vの電圧信号などの出力信号を出力する信号出力装置、及び、その生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空計などの信号出力装置では、出力信号の電圧値(出力電圧)が外部環境に応じて変化することがあるため、出力信号を生成する際、当該外部環境に応じた補正が行われることがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、信号出力装置として、複数種類の電源が接続可能に構成された装置がある。このような信号出力装置では、実際に使用する電源に応じて、出力信号の電圧値等が変化してしまい、出力信号の精度が低下することがある。このようなことは、上記特許文献1では考慮されていない。
【0005】
本発明は、信号出力装置に接続される電源の種類による、出力信号の精度低下を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る信号出力装置は、複数種類の電源が接続可能で、前記複数種類の電源のうち、接続された電源からの電力により動作する信号出力装置であって、入力信号に基づいて数値を導出し、導出した前記数値を前記出力信号に変換し、変換した前記出力信号を出力する信号変換回路と、前記複数種類の電源のうち、前記信号出力装置に接続された電源の種類を検出する電源検出回路と、を備え、前記信号変換回路は、前記数値を、前記電源検出回路により特定された前記電源の種類に応じて補正してから前記出力信号に変換する。
【0007】
一例として、信号出力装置は、前記複数種類の電源のうちの前記電源が接続される電源回路をさらに備え、前記電源回路は、接続される前記電源の種類に応じて異なる電圧が発生する箇所を有し、前記電源検出回路は、前記箇所の電圧を測定することで前記種類を検出し、前記信号変換回路は、前記数値を、前記電源検出回路で検出された前記電圧と予め設定されている補正係数とに基づいて補正する、ように構成されてもよい。
【0008】
一例として、前記信号変換回路は、前記数値を、前記電源検出回路により特定された前記電源の種類に対応した前記補正係数を用いて他の数値に変換することで補正してから前記出力信号に変換してもよい。
【0009】
一例として、前記複数種類の電源は、単電源及び両電源を含んでもよい。
【0010】
一例として、前記入力信号は、センサ素子により検出された物理量を示してもよい。
【0011】
本発明に係る信号出力装置の生産方法は、前記信号出力装置を組み立てる第1ステップと、組み立て後の前記信号出力装置が備える前記信号変換回路に、前記数値の補正の際に使用する補正係数を設定する第2ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、信号出力装置に接続される電源の種類による、出力信号の精度低下を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る信号出力装置の構成図である。
【
図2】
図2は、
図1の電源回路の一部及び単電源の回路図である。
【
図3】
図3は、
図1の電源回路の一部及び両電源の回路図である。
【
図5】
図5は、信号出力装置の生産のフローチャートである。
【
図6】
図6は、補正係数VCOMKの設定処理のフローチャートである。
【
図7】
図7は、演算回路が行う処理のフローチャートである。
【
図8】
図8は、出力電圧Voutが電源の種類によってズレること、及び、補正によりこのズレを低減できることを説明するためのグラフである。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係る補正係数a
ij及びb
ijの設定処理のフローチャートである。
【
図10】
図10は、演算回路が行う処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図1に示す本実施形態に係る信号出力装置10は、静電容量式の隔膜真空計として構成されている。信号出力装置10は、センサ素子20と、信号変換回路30と、電源回路40と、電源検出回路50と、温度測定回路60と、を備える。
【0016】
センサ素子20は、被測定対象の圧力値(物理量)を、当該圧力値を示すアナログ電気信号に変換することで、当該圧力値を検出する。変換後のアナログ電気信号は、センサ素子20から信号変換回路30に入力信号Vinとして入力される。
【0017】
信号変換回路30は、入力信号Vinを、後述の電圧換算値を介して出力信号Voutに変換して出力する。信号変換回路30は、信号処理回路31と、ADコンバータ32と、演算回路33と、DAコンバータ34と、出力回路35と、を備える。
【0018】
信号処理回路31は、信号増幅回路、フィルタ回路などを含み、センサ素子20からのアナログ電気信号に対して増幅、ノイズ除去などの処理を実行する。
【0019】
ADコンバータ32は、信号処理回路31から出力された、アナログ電気信号をデジタルデータに変換して出力する。当該デジタルデータは、被測定対象の圧力値を示す。
【0020】
演算回路33は、マイクロコンピュータなどから構成され、ADコンバータ32からのデジタルデータの値を、0~10Vの電圧値に換算する。当該換算後の電圧値を、電圧換算値ともいう。演算回路33は、電圧換算値に基づいてDAカウント値を算出する。DAカウント値は、電圧換算値ないし被測定対象の圧力値を、DAコンバータ34によるデジタルアナログ変換が可能な形式に変換した数値である。演算回路33は、算出したDAカウント値をDAコンバータ34に出力する。
【0021】
DAコンバータ34は、DAカウント値に基づいて、アナログの電圧値を示す電圧信号に生成する。これにより、電圧換算値が、電圧信号にデジタルアナログ変換される。変換後の電圧信号は、出力回路35に出力される。
【0022】
出力回路35は、DAコンバータ34からの電圧信号を増幅し、当該電圧信号が示す被測定対象の圧力値を0~10Vの電圧値により示す出力信号Voutを生成して出力する。出力回路35の回路構成の詳細については後述する。
【0023】
電源回路40には、単電源S1と両電源S2とのいずれかが接続される。単電源S1及び両電源S2を総称して電源Sともいう。電源回路40は、どちらの電源Sが接続されても、同じ電圧又は電流の電力を、信号出力装置10の各要素20~30、50~60に供給するように構成されている。なお、電力の供給先により、電力の電圧値又は電流値は異なってもよい。
【0024】
電源回路40は、
図2及び
図3に示す回路を含む。電源回路40は、第1端子T1と、コモン電位OUTCOMに接続された第2端子T2と、グランドGNDに接続された第3端子T3と、を備える。端子T1~T3は、単電源S1(
図2)の3つの端子、又は、両電源S2(
図3)の3つの端子にそれぞれ接続可能に構成されている。単電源S1が電源回路40に接続された場合、コモン電位OUTCOMとグランドGNDとの電位差VOGは、0Vとなる。両電源S2が電源回路40に接続された場合、VOGは、15Vとなる。このように、電源回路40は、接続される電源Sの種類に応じて異なる電圧VOGが発生する箇所を有する。
【0025】
電源検出回路50は、VOGを測定することで、電源回路40に接続された電源Sの種類を検出する。ここでは、電源検出回路50は、VOGとして0Vを測定することで、電源Sの種類として単電源S1を検出し、VOGとして15Vを測定することで、電源Sの種類として両電源S2を検出する。検出結果であるVOGは、演算回路33に出力される。
【0026】
温度測定回路60は、上記回路30~50が実装された基板の基板温度などのセンサ素子20の周囲温度を測定し、測定した周囲温度を演算回路33に出力する。
【0027】
信号変換回路30の演算回路33は、上述のように、電圧換算値に基づいてDAカウント値を算出する。演算回路33は、このDAカウント値の元となる電圧換算値を、電源検出回路50で検出された電源Sの種類と電圧換算値を温度測定回路60により測定された周囲温度とにより補正する機能も有する。周囲温度に基づく温度補正は、従前の技術が採用される。本実施形態の特徴は、電源Sの種類に応じて、電圧換算値を補正する点にある。以下、この点を説明する。ここで、電源Sの種類により電圧換算値を補正するのは、出力信号Voutの電圧値が、電源Sの種類に応じてズレるからであり、このズレは、出力信号Voutを出力する出力回路35の回路構成に起因する。以下、出力回路35の回路構成を説明してから、電圧換算値の補正を説明する。
【0028】
出力回路35は、
図4に示すように、負帰還の差動増幅回路として構成されており、入力端子T11及びT12と、出力端子T21と、オペアンプOPと、抵抗R3~R6と、を備える。オペアンプOPの反転入力端子(-)には、ノードN1を介して抵抗R3及びR4の各一端が接続されている。抵抗R3の他端は、オペアンプOPの出力端子にノードN3を介して接続されている。ノードN3には、出力端子T21が接続されている。抵抗R4の他端は、入力端子T12に接続されている。オペアンプOPの非反転入力端子(+)には、ノードN2を介して抵抗R5及びR6の各一端が接続されている。抵抗R5の他端は、入力端子T11に接続されている。抵抗R6の他端は、基準電位OUTCOMに接続されている。
【0029】
入力端子T11には、DAコンバータ34からの電圧信号が入力される。入力端子T12には、電源回路40から固定電圧が入力される。入力端子T11に入力される電圧信号は、グランドGNDを基準としたVaとする。入力端子T12に入力される固定電圧も、グランドGNDを基準としたVbとする。これら電圧は、コモン電位OUTCOMを基準とした場合、コモン電位OUTCOMとグランドGNDとの電位差はVOGなので(
図2及び
図3参照)、Va-VOG、Vb-VOGにそれぞれなる。
【0030】
抵抗R3~R6の各抵抗値を、r3~r6とすると、ノードN2の電位Vcは、下記の式(A)で算出される。
【数1】
【0031】
出力回路35で増幅され、出力端子T21から出力される、出力信号Voutは、下記の式(B)で算出される。出力信号Voutは、電圧信号であり、出力信号Voutの電圧値を、適宜、Vout又は出力電圧Voutともいう。
【数2】
【0032】
上記式(B)の「Vc」に、上記式(A)を代入して変形すると、出力電圧Voutは、下記式(C)により表される。
【数3】
【0033】
上記式(C)の形から明らかなように、式(C)の第1項の値は、電源Sの種類に応じて変化する値を含まないので、電源Sの種類によらず一定である。他方、第2項の値は、電源Sの種類によってその値が変化する電圧VOGを含むので、電源Sの種類に応じて変化する。ここで、出力回路35では、r4=r5、かつ、r3=r6となる抵抗R3~R6が選択されるので、上記第2項は理想的には0となり、電源Sの種類は問題とならない。しかしながら、実際には、同じ種類の抵抗でも、抵抗値にバラツキ(相対誤差)があるので、上記第2項は、0とならない。ここで、単電源S1の使用時はVOGが0となるので、抵抗値のバラツキに関係なく第2項は0となる。しかし、両電源S2の使用時はVOGが15Vとなるので、第2項は0とならない。つまり、両電源S2が使用されたときは、単電源S1が使用されたときに比べてVoutがズレる。この実施の形態では、この第2項の値をキャンセルするような補正を行い、出力電圧Voutのズレを抑制する。以下、この補正について説明する。
【0034】
単電源S1が接続されたときのVout、VOGを、それぞれ、Vout(単)、VOG(単)とし、両電源S2が接続されたときのVout、VOGを、それぞれ、Vout(両)、VOG(両)とする。また、上記式(C)の第2項の括弧内の部分を下記式(D)のようにVCOMKとする。
【数4】
【0035】
ここで、Vout(両)とVout(単)の差を取ると下記式(E)が得られる。Vout(両)とVout(単)の差は、両電源S2と単電源S1との間での出力電圧Voutのズレ量を示す。下記式(E)を整理すると下記式(F)のようになる。
Vout(両)-Vout(単)=VCOMK*(VOG(両)-VOG(単))
・・・(E)
VCOMK=(Vout(両)-Vout(単))/(VOG(両)-VOG(単))
・・・(F)
【0036】
ここで、両電源S2を使用すると、単電源S1の使用時に比べて、出力回路35からの出力電圧Voutの値が、10Vをフルスケール(100%)としたときの0.5%分ズレるとする。演算回路33に入力される、ADコンバータ32からのデジタルデータの値は、被測定対象の圧力が同じであれば、単電源S1と両電源S2とで同じとなり、Voutも同じとなる必要がある。しかし、上記のようにVoutはズレるので、その分を演算回路33で補正する。
【0037】
演算回路33は、上記のようにデジタルデータを電圧換算値に換算するとともに、VCOMKにVOGを乗算して補正値を導出し、当該補正値を電圧換算値から差し引く補正を行う。VCOMKは、補正係数として演算回路33に設定される(詳細は後述)。VOGは、電源検出回路50により測定される。上記のように、両電源S2の使用時のVoutのズレ量を0.5%FSとしたので、ここでは0.05Vが補正値として算出される。このため、補正後の電圧換算値は、5V-0.05V=4.95Vとなる。演算回路33は、この電圧換算値からDAカウント値を算出することで、上記ズレ量が補正された出力電圧Vout=5Vが得られる。
【0038】
補正係数VCOMKの設定は、
図5に示す信号出力装置10の生産中に行われる。
図5に示すように、信号出力装置10の生産では、信号出力装置10を組み立て(ステップS11)、その後、組み立てた信号出力装置10の初期設定を行う(ステップS12)。初期設定には、信号出力装置10固有のパラメータの導出及び導出したパラメータの信号出力装置10への設定を行うキャラクタリゼーションが含まれる。導出及び設定されるパラメータに、補正係数VCOMKが含まれる。また、このパラメータには、上記温度補正のための補正係数a
ijも含まれる。補正係数a
ijは、多項式の係数であり、従前のものが使用されるので(例えば、後述の式(H)を用いた逆演算により算出される)、詳細な説明は省略する。初期設定により、信号出力装置10が動作可能となって装置として完成する。
【0039】
補正係数VCOMKの設定処理を、
図6を参照して説明する。当該処理では、まず、信号出力装置10に単電源S1を接続し、信号出力装置10を起動する(ステップS101)。その後、演算回路33に任意のDAカウント値を入力する(ステップS102)。その後、出力回路35から出力される出力電圧Vout(単)を測定するとともに、電源回路40の電圧VOG(単)を測定する(ステップS103)。
【0040】
ステップS103のあとは、信号出力装置10の電源Sを両電源S2に変更する(ステップS104)。その後、演算回路33に、ステップS102で入力したDAカウント値と同じ値のDAカウント値を入力する(ステップS105)。その後、出力電圧Vout(両)及び電圧VOG(両)を測定する(ステップS106)。
【0041】
その後、ステップS103及びS106で測定した、Vout(単)、Vout(両)、VOG(単)、及び、VOG(両)を上記式(F)に代入して、補正係数VCOMKを算出する(ステップS107)。その後、導出したVCOMKを演算回路33のメモリに格納する(ステップS108)。これにより、演算回路33にVCOMKが設定されたことになる。
【0042】
初期設定が終わった信号出力装置10の演算回路33は、信号出力装置10の通常運転において、
図7に示す処理を実行する。
図7の処理は、信号出力装置10が起動したことを契機として開始される。演算回路33は、起動時に、電源検出回路50により電源回路40のVOGを測定し、保持しておくものとする。
【0043】
図7の処理において、演算回路33は、ADコンバータ32からのデジタルデータの値、つまり、被測定対象の圧力値を示す値を0~10Vの電圧換算値P1に換算する(ステップS201)。演算回路33は、換算により得られた電圧換算値P1を下記式(G)に適用して補正し、補正後換算値P2(ステップS202)を得る。VCOMKは、上記で設定された補正係数であり、VOGは、上記で測定、保持されている。なお、単電源S1の場合、VOG=0なので、結果的に補正は行われない。
P2=P1-VCOMK*VOG・・・(G)
【0044】
演算回路33は、ステップS202で得られた補正後換算値P2に基づいて、DAカウント値を算出し(ステップS203)、算出したDAカウント値をDAコンバータ34に出力する(ステップS204)。DAカウント値をDAとすると、演算回路33は、当該DAを、温度補正のための補正係数a
ij及び温度測定回路60で測定された周囲温度BTを用いた下記式(H)によりDAカウント値を算出する。補正係数a
ijは補正後換算値P2をさらに温度補正の役割を有する。下記式(H)のn及びmは、任意の定数である。
【数5】
【0045】
上記DAカウント値は、DAコンバータ34によりアナログの電圧値に変換され、出力回路35により、0~10Vの電圧値に増幅されて、出力電圧Voutとして信号出力装置10外部に出力される。
【0046】
ステップS201~S204は、ADコンバータ32からデジタルデータが供給されるたびに実行される。
【0047】
以上のように、本実施形態では、信号出力装置10が、複数種類の電源Sが接続可能で、複数種類の電源Sのうち、接続された電源からの電力により動作するように構成されている。そして、信号変換回路30は、センサ素子20からの入力信号Vinに基づいて電圧換算値P1を導出し、導出した電圧換算値P1を出力信号Voutに変換し、変換した出力信号Voutを出力するように構成されている。さらに、電源検出回路50は、複数種類の電源Sのうち、信号出力装置10に接続された電源Sの種類を検出し、信号変換回路30は、電圧換算値P1を、電源検出回路50により特定された電源Sの種類に応じて補正してから出力信号に変換する。ここでは、信号変換回路30は、電源Sが単電源S1の場合には、電圧換算値P1を補正せずに、演算回路33によるDAカウント値への変換及びDAコンバータ34による電圧信号への変換を介して、出力信号Voutに変換する。信号変換回路30は、電源Sが両電源S2の場合には、電圧換算値P1を補正し、この補正により得られる補正後換算値P2を、演算回路33によるDAカウント値への変換及びDAコンバータ34による電圧信号への変換を介して、出力信号Voutに変換する。
【0048】
電源Sの種類に応じて補正を行わない場合、上記VOGの影響により、出力電圧Voutと入力信号Vin(被測定対象の圧力)との関係を示す、両電源S2の使用時のグラフは、単電源S1の使用時のグラフに対してズレる(
図8)。本実施形態では、両電源S2の使用時に、出力電圧Voutへの変換前の数値である電圧換算値P1を、出力電圧Voutのズレ量分だけ補正できるので、両電源S2使用時のグラフを単電源S1使用時のグラフ側にシフトさせ(
図8)、理想的には両者を一致させることができる。従って、本実施形態によれば、信号出力装置10に接続される電源Sの種類による、出力信号Voutの精度低下が低減される。
【0049】
Voutのズレ量は、上述の式(C)の第2項から分かるように、
図4の抵抗R3~R6の各抵抗値r3~r6のうち、r4とr5の差、及び、r3とr6の差を小さくするほど、小さくなる。このため、抵抗値のバラツキの少ない高価格の抵抗を抵抗R3~R6として用いることで、前記ズレ量を低減できるが、本実施形態のような補正により、r4とr5の差、及び、r3とr6の差を小さくする必要がなくなるので、抵抗R3~R6として、前記高価格の抵抗を用いる必要がなくなる。これにより、コスト削減が図られる。
【0050】
さらに、この実施の形態では、電源回路40が、信号出力装置10に接続される電源Sが実際に接続されるように構成され、接続される電源Sの種類に応じて異なる電圧VOGが発生する箇所を有する。そして、電源検出回路50は、前記の箇所の電圧VOGを測定することで電源Sの種類を検出し、信号変換回路30は、電圧換算値を、電源検出回路50で検出された電圧VOGと予め設定されている補正係数VCOMKとに基づいて補正する。このため、電源Sの種類が電圧測定により容易に検出されるので、電源Sの種類に応じた補正が容易となっている。
【0051】
上記では、単電源S1接続時のVOGが0Vとなると説明しているが、例えば、電源回路40のグランドGNDと第3端子T3(
図2及び
図3)との間に、電源の逆接続に対する保護のためのダイオードが設けられた場合には、このダイオードの電圧降下により、VOGは0.2V程度になる場合がある。このような場合であっても、第1実施形態では、上記式(G)が使用されるので、VOG=-0.2Vが式(G)に代入されて精度の良い補正がなされる。
【0052】
上記では、
図7の処理で使用される上記VOGは、起動時にのみ測定されるものとして説明したが、当該VOGは、信号出力装置10の通常運転時に定期的に測定され、使用されてもよい。例えば、ステップS202が実行されるたびにVOGが測定されてもよい。これにより、通常運転中に、VOGが変化しても、精度の良い補正が行われる。
【0053】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、電源Sの種類にかかわらず補正係数を1つとしているが、本実施形態では、電源Sの種類ごとに補正係数が用意される。より具体的には、本実施形態でも、DAカウント値が、上記式(H)のP2を電圧換算値P1に変更した式(後述の式(I)、(J)参照)で算出されるが、補正係数aijが電源Sの種類ごとに導出及び設定される。以下では、単電源S1の使用時の補正係数をaijとし、両電源S2の使用時の補正係数をbijとする。以下、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0054】
本実施形態では、
図5のステップS12で、
図9に示す補正係数設定処理を実行する。当該処理では、信号出力装置10が室温を調整可能なチャンバ等に入れられる。当該処理では、信号出力装置10に単電源S1を接続し、信号出力装置10を起動する(ステップS301)。その後、室温を第1温度として(ステップS302)、予め定められたDAカウント値を信号出力装置10に入力し(ステップS303)、出力電圧Vout及び周囲温度BTを測定する(ステップS304)。周囲温度BTは、温度測定回路60により測定される。第1温度下において、ステップS303及びS304は、繰り返される。より具体的には、繰り返し行われるステップS303で、DAカウント値を予め定められた増加分だけ順次増加させるか、予め定められた複数のDAカウント値を順次適用する。ステップS303及びS304は、予め設定された測定終了条件を満たすまで(例えば、出力電圧Voutが、10Vに達するまで、又は、前記複数のDAカウント値の適用が全て行われるまで)、繰り返される(ステップS305)。その後、室温を第2温度、第3温度、・・・と所定回数だけ順次変更し(ステップS307)、各温度でステップS303~ステップS305を行う(ステップS306)。各温度でのDAカウント値は、室温を第1温度としたときと同じ値が使用される。
【0055】
ステップS307のあとは、信号出力装置10に両電源S2を接続して、ステップS302~S307を実行したかを判定し(ステップS308)、実行していない場合(ステップS308;No)、信号出力装置10に両電源S2を接続し(ステップS309)、信号出力装置10を起動し、その後、ステップS302~S307を行う。
【0056】
信号出力装置10に両電源S2を接続して、ステップS302~S307を実行した場合(ステップS308;Yes)、信号出力装置10に単電源S1を接続した状態で信号出力装置10に入力したDAカウント値と、そのDAカウント値を入力したときの測定で得られた出力電圧Vout及び周囲温度BTとの各組に基づいて、補正係数aijを導出する(ステップS310)。補正係数aijの導出に使用される変数は、従来の補正係数aijの導出に使用される変数と同じであり、補正係数aijの導出方法は従来の方法により行われる。その後、信号出力装置10に両電源S2を接続した状態で信号出力装置10に入力したDAカウント値と、そのDAカウント値を入力したときの測定で得られた出力電圧Vout及び周囲温度BTとの各組に基づいて、補正係数bijを導出する(ステップS311)。補正係数bijの導出方法も、補正係数aijと同様に従来の方法により行われる。
【0057】
その後、補正係数aij、bijを演算回路33のメモリに格納する(ステップS312)。これにより、演算回路33に補正係数aij、bijが設定されたことになる。補正係数aij、bijは、単電源S1及び両電源S2がそれぞれ使用されたときに導出されたものであり、電源Sの種類が反映されている。特に、補正係数bijは、上記式(C)の第2項が反映された補正係数bijとなる。
【0058】
図9の処理を含む初期設定が終わった信号出力装置10の演算回路33は、信号出力装置10の通常運転において、
図10に示す処理を実行する。
図10の処理は、信号出力装置10が起動したことを契機として開始される。
【0059】
図10の処理において、演算回路33は、ADコンバータ32からのデジタルデータの値、つまり、被測定対象の圧力値を示す値を0~10Vの電圧換算値P1に換算する(ステップS401)。その後、演算回路33は、電源検出回路50により電源回路40のVOGを測定し、現在信号出力装置10に接続されている電源Sの種類を検出する(ステップS402)。
【0060】
演算回路33は、ステップS202で測定した電源回路40のVOGに基づいて、今回の電源Sの種類が単電源S1であるかを判別する(ステップS403)。例えば、演算回路33は、VOGが第1範囲内(例えば、単電源S1接続時のVOG=0V又は-0.2Vに対応して設定された-1.0V~0Vの範囲内)であれば、今回の種類が単電源S1であると判別する。例えば、演算回路33は、VOGが第2範囲内(例えば、両電源S2接続時のVOG=15Vに対応して設定された14V~16Vの範囲内)であれば、今回の種類が両電源S2であると判別する。
【0061】
今回の電源Sの種類が単電源S1である場合(ステップS403;Yes)、演算回路33は、上記で換算した電圧換算値P1、初期設定で設定した単電源S1用の補正係数a
ij、及び、下記式(I)に基づいてDAカウント値を算出する(ステップS404)。下記式(I)中の、DAは、DAカウント値であり、BTは、温度測定回路60により測定する周囲温度であり、n及びmは、任意の定数である。演算回路33は、ステップS404にて、温度測定回路60により周囲温度BTを測定して使用する。
【数6】
【0062】
今回の電源Sの種類が両電源S2である場合(ステップS403;No)、演算回路33は、上記で換算した電圧換算値P1、初期設定で設定した両電源S2用の補正係数b
ij、及び、下記式(J)に基づいてDAカウント値を算出する(ステップS405)。下記式(J)中の、DA、BT、n及びmの説明は、上記式(I)での説明に準じる。
【数7】
【0063】
演算回路33は、ステップS404又はS405のあと、算出したDAカウント値をDAコンバータ34に出力する(ステップS406)。出力されたDAカウント値は、DAコンバータ34によりアナログの電圧値に変換され、出力回路35により、0~10Vの電圧値に増幅されて、出力電圧Voutとして信号出力装置10外部に出力される。
【0064】
ステップS401~S406は、ADコンバータ32からデジタルデータが供給されるたびに実行される。
【0065】
以上のように、本実施形態では、信号変換回路30が、電圧換算値P1を、電源検出回路50により特定された電源Sの種類に応じて補正してから出力信号に変換する。ここでは、信号変換回路30は、電源Sが単電源S1の場合には、電圧換算値P1を、補正係数aijを用いてDAカウント値に補正及び変換してから、DAコンバータ34による電圧信号への変換を介して、出力信号Voutに変換する。信号変換回路30は、電源Sが両電源S2の場合には、電圧換算値P1を、補正係数bijを用いてDAカウント値に補正及び変換してから、DAコンバータ34による電圧信号への変換を介して、出力信号Voutに変換する。このような構成により、特に補正係数bijにより、電圧換算値P1に基づくDAカウント値の算出時に、出力電圧Voutのズレ量分だけ、電圧換算値P1が補正される。これにより、出力電圧Voutを、単電源S1と両電源S2とで近付け、理想的には一致させることができる。従って、本実施形態によれば、信号出力装置10に接続される電源Sの種類による、出力信号Voutの精度低下が低減される。また、本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、高価格の抵抗を用いる必要がなくなり、信号出力装置10のコスト削減が図られる。
【0066】
さらに、この実施の形態では、信号変換回路30が、電圧換算値P1を、電源検出回路50により特定された電源Sの種類に対応した補正係数aij、又は、bijを用いてDAカウント値に変換することで補正してから出力信号Voutに変換する。従って、DAカウント値への変換に使用する補正係数を、電源Sの種類に応じて複数種類用意すれば、出力信号Voutの精度低下の低減が実現される。
【0067】
(変形例)
本発明は、複数種類の電源が接続可能で、前記複数種類の電源のうち、接続された電源からの電力により動作する信号出力装置一般に適用可能である。信号出力装置は、例えば、入力信号に基づいて数値を導出し、導出した数値を出力信号に変換し、変換した出力信号を出力する信号変換回路と、複数種類の電源のうち、信号出力装置に接続された電源の種類を検出する電源検出回路と、を備えればよい。信号変換回路は、前記の数値を、電源検出回路により特定された電源の種類に応じて補正してから出力信号に変換すればよい。これらの具体的構成は、上記実施形態には限定されない。例えば、上記実施形態のうち、センサ素子20は、圧力値以外の他の物理量を検出する素子に変更されてもよい。演算回路33は、FPGA又はASICなどにより構成されてもよい。信号出力装置10に接続可能な電源は、上記で説明した単電源S1及び両電源S2に限定されない。電源が接続されたときのVOGの具体的値も、0V、15Vには限定されず、他の値であってもよい(この場合、上記第1範囲又は第2範囲なども変更される)。VOGは、電源の種類に応じて異なる値を取る電圧値であればよい。
【0068】
信号出力装置の生産方法は、例えば、前記の信号出力装置を組み立てる第1ステップと、組み立て後の前記信号出力装置が備える前記信号変換回路に、前記数値の補正の際に使用する補正係数を設定する第2ステップと、を備えればよく、その具体的態様は任意である。
【0069】
(本発明の範囲)
以上、実施の形態及び変形例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記の実施の形態及び変形例に限定されるものではない。例えば本発明には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る、上記の実施の形態及び変形例に対する様々な変更が含まれる。上記実施の形態及び変形例に挙げた各構成は、矛盾の無い範囲で適宜組み合わせることができる。また、各構成の省略も任意である。
【符号の説明】
【0070】
10…信号出力装置、20…センサ素子、30…信号変換回路、31…信号処理回路、32…ADコンバータ、33…演算回路、34…DAコンバータ、35…出力回路、40…電源回路、50…電源検出回路、60…温度測定回路、N1~N3…ノード、S…電源、S1…単電源、S2…両電源、T1~T3…第1~第3端子、T11…入力端子、T12…入力端子、T21…出力端子、Vin…入力信号、Vout…出力信号(出力電圧)。