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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025062439
(43)【公開日】2025-04-14
(54)【発明の名称】コイル分離方法及びコイル分離装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20250101AFI20250407BHJP
【FI】
H02K15/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171523
(22)【出願日】2023-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚規
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA03
5H615PP01
5H615PP13
(57)【要約】
【課題】コイルを強制的に変形させることなく、ステータからコイルを容易に分離することができるコイル分離方法及びコイル分離装置を提供すること。
【解決手段】内周面に複数のスロット112が形成されたステータコア110と、複数のスロット112に装着されたコイル120と、を備えるステータ100から、コイル120を分離するコイル分離方法であって、ステータコア110の中心軸方向の第1端面110aから突出するコイル120のコイルエンド部120bを切断し、コイルエンド部120bが切断されたステータコア110の第1端面110aの側から、任意の複数のスロット112内のコイル120を押圧することによって、コイル120を、ステータコア110の中心軸方向に沿って移動させてステータコア110の第2端面110bから取り出す。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複数のスロットが形成されたステータコアと、前記複数のスロットに装着されたコイルと、を備えるステータから、前記コイルを分離するコイル分離方法であって、
前記ステータコアの中心軸方向の第1端面から突出する前記コイルのコイルエンド部を切断し、
前記コイルエンド部が切断された前記ステータコアの前記第1端面の側から、任意の前記複数のスロット内の前記コイルを押圧することによって、前記コイルを、前記ステータコアの中心軸方向に沿って移動させて前記ステータコアの前記第2端面から取り出す、コイル分離方法。
【請求項2】
前記コイルエンド部を切断する際に、前記ステータコアの前記第1端面から突出する前記コイルの直線部を切断する、請求項1に記載のコイル分離方法。
【請求項3】
前記コイルを押圧する際、前記ステータコアの前記第2端面から取り出される前記コイルの収容空間を配置させた状態で、前記ステータコアの前記第2端面を支持する、請求項1又は2に記載のコイル分離方法。
【請求項4】
内周面に複数のスロットが形成されたステータコアと、前記複数のスロットに装着されたコイルと、を備えるステータから、前記コイルを分離するコイル分離装置であって、
前記ステータコアの中心軸方向の第1端面から突出する前記コイルのコイルエンド部が切断された状態の前記ステータを所定の位置に配置する配置手段と、
前記ステータコアの前記第1端面の側から任意の前記複数のスロット内に挿入可能に設けられる複数の押圧部材を有する押圧手段と、を有し、
前記押圧手段は、前記複数の押圧部材を前記任意の複数のスロット内に挿入させて前記コイルを押圧することによって、前記コイルを前記ステータコアの中心軸方向に沿って移動させて前記ステータコアの前記第2端面から取り出す、コイル分離装置。
【請求項5】
前記配置手段と前記押圧手段との少なくともいずれか一方を、前記ステータコアの中心軸周りに回動させることによって、前記複数のスロットと前記複数の押圧部材との位相を調整する位相調整手段を有する、請求項4に記載のコイル分離装置。
【請求項6】
前記配置手段は、前記ステータコアの前記第2端面に当接して前記ステータを支持するステータ支持面を有する、請求項4又は5に記載のコイル分離装置。
【請求項7】
前記配置手段は、前記ステータコアの前記第2端面から取り出される前記コイルを収容するコイル収容溝を有する、請求項4又は5に記載のコイル分離装置。
【請求項8】
前記コイル収容溝は、前記ステータ支持面に、前記コイルの外形形状に対応する円環状に形成される、請求項7に記載のコイル分離装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル分離方法及びコイル分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の観点から、使用済みの回転電機のステータを廃棄することなく、ステータからコイルを分離してリサイクルする試みがなされている。
【0003】
従来、ステータからコイルを分離する方法としては、ステータコアの中心軸方向の両端面からそれぞれ突出するコイルエンド部を、コイルがスロットから外れるまで径方向内側に向けて押圧し、ステータコアの軸孔から取り出す方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-13222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に、車載用回転電機のステータに使用されるコイルは、家電製品の回転電機のステータに使用されるコイルに比べて、コイル密度が高く、ワニス等によってコイル同士が接着されている。そのため、コイルを強制的に変形させる場合、コイルエンド部の外表面を強い力で押圧する必要がある。押圧は、円環状のコイルエンド部の周方向の複数の位置において行う必要があるため、ステータの周方向の複数箇所に大型のプレス装置を配置する必要があり、分離装置の大型化は避けられない。また、ステータからコイルを分離するためには大きな力が必要であるため、例えば、ステータからコイルを中心軸方向に沿って引き抜いて取り出すことも困難である。
【0006】
さらに、コイルエンド部の外表面を強く押圧して強制的に変形させる方法では、コイル表面にコイル以外の不純物が付着し易い。コイルに不純物が付着すると、ステータから取り出されたコイルを溶かして循環活用する際に、溶解物中の不純物濃度が増加し、コイルの再生利用範囲が制限される可能性がある。
【0007】
本発明は、コイルを強制的に変形させることなく、ステータからコイルを容易に分離することができるコイル分離方法及びコイル分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 内周面に複数のスロット(例えば、後述のスロット112)が形成されたステータコア(例えば、後述のステータコア110)と、前記複数のスロットに装着されたコイル(例えば、後述のコイル120)と、を備えるステータ(例えば、後述のステータ100)から、前記コイルを分離するコイル分離方法であって、前記ステータコアの中心軸方向(例えば、後述のX1-X2方向)の第1端面(例えば、第1端面110a)から突出する前記コイルのコイルエンド部(例えば、コイルエンド部120b)を切断し、前記コイルエンド部が切断された前記ステータコアの前記第1端面の側から、任意の前記複数のスロット内の前記コイルを押圧することによって、前記コイルを、前記ステータコアの中心軸方向に沿って移動させて前記ステータコアの前記第2端面から取り出す、コイル分離方法である。
【0009】
上記(1)によれば、コイルエンド部の外表面を押圧して強制的に変形させる必要がないため、取り出されたコイルに含有する不純物が増えることがなく、コイルの再生利用範囲が制限されるおそれはない。しかも、スロット内のコイルを押圧するため、コイルを、スロットの内壁面に支持されながらステータコアの中心軸方向に沿って円滑に移動させて、ステータから容易に分離することができる。
【0010】
(2) 上記(1)に記載のコイル分離方法において、前記コイルエンド部を切断する際に、前記ステータコアの前記第1端面から突出する前記コイルの直線部(例えば、後述の直線部120a)を切断してもよい。
【0011】
上記(2)によれば、スロット内のコイルがスロットの内壁面と干渉することが抑制されるため、コイルをステータコアの中心軸方向に沿ってより円滑に移動させることができ、コイルに無駄に大きな押圧力を掛ける必要がない。
【0012】
(3) 上記(1)又は(2)に記載のコイル分離方法において、前記コイルを押圧する際、前記ステータコアの前記第2端面から取り出される前記コイルの収容空間(例えば、後述のコイル収容溝21)を配置させた状態で、前記ステータコアの前記第2端面を支持してもよい。
【0013】
上記(3)によれば、収容空間によって、ステータから取り出されたきれいな状態のコイルを容易に回収することができる。
【0014】
(4) 内周面に複数のスロット(例えば、後述のスロット112)が形成されたステータコア(例えば、後述のステータコア110)と、前記複数のスロットに装着されたコイル(例えば、後述のコイル120)と、を備えるステータ(例えば、後述のステータ100)から、前記コイルを分離するコイル分離装置(例えば、後述のコイル分離装置1)であって、前記ステータコアの中心軸方向(例えば、後述のX1-X2方向)の第1端面(例えば、後述の第1端面110a)から突出する前記コイルのコイルエンド部(例えば、後述のコイルエンド部120b)が切断された状態の前記ステータを所定の位置に配置する配置手段(例えば、後述の配置治具2)と、前記ステータコアの前記第1端面の側から任意の前記複数のスロット内に挿入可能に設けられる複数の押圧部材(例えば、後述の押圧部材32)を有する押圧手段(例えば、後述の押圧治具3)と、を有し、前記押圧手段は、前記複数の押圧部材を前記スロット内に挿入させて前記コイルを押圧することによって、前記コイルを前記ステータコアの中心軸方向に沿って移動させて前記ステータコアの前記第2端面の側から取り出す、コイル分離装置である。
【0015】
上記(4)によれば、ステータからコイルを取り出す際に、コイルエンド部の外表面を押圧して強制的に変形させないため、取り出されたコイルに含有する不純物が増えることがなく、コイルの再生利用範囲が制限されるおそれはない。スロット内のコイルを押圧するため、コイルを、スロットの内壁面に支持されながらステータコアの中心軸方向に沿って円滑に移動させて、ステータから容易に分離することができる。
【0016】
(5) 上記(4)に記載のコイル分離装置において、前記配置手段と前記押圧手段との少なくともいずれか一方を、前記ステータコアの中心軸(例えば、後述の中心軸X)周りに回動させることによって、前記複数のスロットと前記複数の押圧部材との位相を調整する位相調整手段(例えば、後述の回動機構)を有してもよい。
【0017】
上記(5)によれば、複数のスロットと複数の押圧部材との位相を容易に一致させることができる。
【0018】
(6) 上記(4)又は(5)に記載のコイル分離装置において、前記配置手段は、前記ステータコアの前記第2端面に当接して前記ステータを支持するステータ支持面(例えば、後述のステータ支持面2a)を有してもよい。
【0019】
上記(6)によれば、ステータを支持した状態で、スロット内のコイルを押圧部材によって安定して押圧することができる。
【0020】
(7) 上記(4)~(6)のいずれかに記載のコイル分離装置において、前記配置手段は、前記ステータコアの前記第2端面から取り出される前記コイルを収容するコイル収容溝(例えば、後述のコイル収容溝21)を有してもよい。
【0021】
上記(7)によれば、コイル収容溝によって、ステータから取り出されたきれいな状態のコイルを容易に回収することができる。
【0022】
(8) 上記(7)に記載のコイル分離装置において、前記収容溝は、前記ステータ支持面に、前記コイルの外形形状に対応する円環状に形成されてもよい。
【0023】
上記(8)によれば、ステータから取り出されたコイルを、円環状のコイルの外形形状に沿ってコイル収容溝に、変形及び損傷することなく円滑に回収することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、コイルへの不純物の付着のおそれがなく、ステータからコイルを容易に分離することができるコイル分離方法及びコイル分離装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】ステータを示す斜視図である。
図2】コイル分離装置を示す概略図である。
図3】配置治具を示す斜視図である。
図4】押圧治具を示す底面図である。
図5】ステータコアから突出するコイルエンド部を切断する工程を示す図である。
図6】コイル分離装置にステータを配置させた状態を示す概略図である。
図7】ステータからコイルを分離する工程を示す図である。
図8】押圧部材によって押圧されるスロット内のコイルを示す図である。
図9】ステータからコイルを分離する工程を示す図である。
図10】ステータからコイルを分離する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態に係るステータ100の斜視図である。ステータ100は、ステータコア110と、コイル120と、を有する。
【0027】
ここで、図中に示す方向について説明する。X1-X2方向は、ステータ100及びステータコア110の中心軸方向である。X1-X2方向は、押圧治具3の直線移動方向でもある。各図において、X1方向は上方向を示し、X2方向は下方向を示している。しかし、X1-X2方向は、必ずしも重力方向に沿う上方向及び下方向に限定されない。X1-X2方向は、重力方向に対して傾斜する方向であってもよく、例えば水平方向であってもよい。
【0028】
ステータコア110は、中央が開口した略円環状の薄い電磁鋼板を複数枚積層することによって形成され、中央に軸孔111を有する。ステータコア110は、中心軸方向に沿うX1方向に面する第1端面110aと、X2方向に面する第2端面110bと、を有する。
【0029】
ステータコア110は、軸孔111に面する内周面に、複数のスロット112が等間隔で放射状に形成されている。スロット112は、軸孔111に向けて細幅状に開口するとともに、ステータコア110を中心軸方向に沿ってストレート状に貫通し、第1端面110a及び第2端面110bにそれぞれ開口している。
【0030】
ステータコア110には、中心軸方向に沿って貫通する複数の貫通孔113が形成されている。図1に示すステータコア110には、周方向に等間隔で配置される6つの貫通孔113が形成されている。
【0031】
コイル120は、複数本の平角線からなる導体の集合体であり、ステータコア110の各スロット112に装着されている。コイル120は、各スロット112内にそれぞれ複数本ずつ収容される直線部120aと、ステータコア110の第1端面110a及び第2端面110bからそれぞれ円環状に突出するコイルエンド部120b,120cと、を有する。コイルエンド部120b,120cは、スロット112から突出する導体が、それぞれステータコア110の周方向に離れた他のスロット112に渡る部位であり、導体を山型に屈曲することによって形成されている。スロット112内には、それぞれ直線部120aを被覆するように絶縁紙114が収容されている。
【0032】
コイル120は、一対の直線部を有する複数本のセグメントコイルによって構成されたものであってもよいし、導体をステータコア110の周方向に沿って波型状に巻き付けた複数本の連続コイルによって構成されたものであってもよい。
【0033】
次に、コイル分離装置について図2図4を参照して説明する。コイル分離装置1は、配置治具2と、押圧治具3と、を有する。
【0034】
配置治具2は、コイル120が装着されたステータ100を支持する治具であり、コイル分離装置1における配置手段を構成する。配置治具2は、図2及び図3に示すように、ステンレス鋼等の金属によって、ステータコア110の外径よりも大径の円筒状に形成される。
【0035】
配置治具2は、中心軸方向の一方端面に配置される平坦なステータ支持面2aを有する。ステータ支持面2aは、コイル分離時のステータ100におけるステータコア110の部分、詳しくはステータコア110の第2端面110b、を当接もしくは載置することによってステータ100を支持する。ステータ支持面2aは、配置治具2の軸方向に対して垂直な平坦面である。
【0036】
ステータ支持面2aには、ステータコア110から取り出されたコイル120の収容空間を構成するコイル収容溝21が形成されている。コイル収容溝21は、ステータ100に装着されているコイル120の外形形状に沿って円環状に形成され、ステータ支持面2aから配置治具2の軸方向に沿って凹設されている。
【0037】
コイル収容溝21の内径は、コイルエンド部120b,120cの内径以下であり、コイル収容溝21の外径は、コイルエンド部120b,120cの外径以上である。コイル収容溝21の外径と内径の差分は、ステータコア110のスロット112の径方向の長さ以上である。ステータ支持面2aからのコイル収容溝21の深さは、後述するようにステータ100から取り出されるコイル120の中心軸方向に沿う長さよりも大きい。したがって、コイル収容溝21は、ステータ100から取り出されたコイル120の全体を収容可能である。
【0038】
コイル収容溝21よりも内側の配置治具2の中心には、ステータ支持面2aから所定の深さで凹設された円形の凹部22が配置されている。凹部22の内径は、ステータコア110の軸孔111の内径以下である。凹部22の深さは、コイル収容溝21の深さと同等である。
【0039】
コイル収容溝21よりも外側のステータ支持面2aには、6つの支柱挿入孔23が、配置治具2の周方向に沿って等間隔で形成されている。6つの支柱挿入孔23は、ステータ100からコイル120を分離する際に、後述するガイド支柱5を立設するための孔であり、ステータコア110に形成される6つの貫通孔113の位置に対応して設けられている。
【0040】
配置治具2は、コイル分離装置1の所定位置に位置不動に設けられてもよいし、コイル分離動作時に、図示しないロボットハンド、スライドテーブル等の移動機構の動作によって、コイル分離装置1の所定位置に配置されるように移動可能に構成されてもよい。
【0041】
押圧治具3は、ステータコア110のスロット112からコイル120を押し出すための治具であり、コイル分離装置1における押圧手段を構成する。押圧治具3は、ステンレス鋼等の金属によって形成され、コイル分離装置1に、配置治具2のステータ支持面2aに対向するように配置される。押圧治具3は、図2及び図4に示すように、円板状の治具基板31と、薄板状の複数の押圧部材32と、を有する。
【0042】
治具基板31は、図示しないシリンダ等によって直線的に動作するプレス装置に取り付けられ、ステータ100の中心軸方向に沿って直線移動可能に構成される。治具基板31には、6つの支柱貫通孔33が周方向に沿って等間隔で形成されている。6つの支柱貫通孔33は、ステータ100からコイル120を分離する際に、後述するガイド支柱5を挿通させるための孔であり、ステータコア110に形成される6つの貫通孔113の位置に対応して設けられている。
【0043】
複数の押圧部材32は、治具基板31の中心軸Xの周りに等間隔で放射状に配置され、治具基板31から同一方向に突出するように治具基板31に固定されている。押圧部材32の突出方向の長さは全て同一である。押圧部材32の突出方向の長さは、ステータコア110の中心軸方向に沿うスロット112の長さ以上である。治具基板31の径方向に沿う押圧部材32の長さは、ステータコア110の径方向に沿うスロット112の深さよりも短い。押圧部材32の先端面は、押圧部材32の突出方向に対して垂直な平坦面に形成されている。
【0044】
押圧部材32の数及び配置構成は、ステータコア110のスロット112の数及び配置構成に一致している。それぞれの押圧部材32を治具基板31の中心軸Xの方向に対して垂直な方向で切断したときの断面形状は同一である。この押圧部材32の断面形状は、ステータコア110の第1端面110a及び第2端面110bに開口するスロット112の開口形状よりもやや小さい。そのため、押圧部材32は、ステータコア110の第1端面110aの側から、対応するスロット112内にそれぞれ挿入可能である。
【0045】
コイル分離装置1は、少なくともコイル分離動作時に、図2に示すように、配置治具2及び押圧治具3を中心軸Xに沿って同軸状に配置させる。配置治具2及び押圧治具3のうちの少なくともいずれか一方は、図示しない回動機構の動作によって、それぞれの中心軸X周りに回動可能に設けられている。このような回動機構は、コイル分離装置1における位相調整手段を構成する。
【0046】
次に、コイル分離装置1を使用するコイル分離方法について図5図10を参照して説明する。
【0047】
まず、図5に示すように、ステータ100に対して、ステータコア110の2つのコイルエンド部120b,120cのうちの第1端面110aから突出するコイルエンド部120bを、回転刃41を有する切断装置4を用いて切断する。回転刃41は、コイルエンド部120bの外周側もしくは内周側から、第1端面110aに平行な切断ラインCLに沿ってコイルエンド部120bを切断して分離する。
【0048】
切断ラインCLは、第1端面110aに近接した位置に設定される。通常、スロット112内に配置される直線部120aにおけるコイルエンド部120b,120c側の端部は、第1端面110a及び第2端面110bから僅かに突出している。切断ラインCLは、この第1端面110aから突出する直線部120aの位置に設定される。したがって、コイルエンド部120bを切断した後の第1端面110aに配置される各スロット112内には、切り残されたコイル120の直線部120aのみが露出する。第2端面110bから突出するコイルエンド部120cは、コイル120の直線部120aとともにステータ100に残存している。
【0049】
次に、図6に示すように、コイルエンド部120bが切断された後のステータ100が、図示しないロボットハンド等の搬送装置の動作によって、コイル分離装置1の所定の位置に搬送される。詳しくは、ステータ100は、ステータコア110の第1端面110aを押圧治具3に対面させるとともに、第2端面110bを配置治具2に対面させるように、配置治具2と押圧治具3との間に配置される。
【0050】
ステータ100の配置に際して、配置治具2の6つの支柱挿入孔23には、それぞれ直棒状のガイド支柱5が挿入される。6本のガイド支柱5は、配置治具2のステータ支持面2aから垂直に立設される。ガイド支柱5は、配置治具2に予め立設されていてもよい。
【0051】
ステータ100は、6本のガイド支柱5を6つの貫通孔113に挿入することによって、配置治具2に対して位置決めされる。ステータ100は、位置決めされた状態で、図示しない搬送装置の動作によって、ガイド支柱5に沿って配置治具2に向けて移動する。その後、ステータコア110の第2端面110bが、配置治具2のステータ支持面であるステータ支持面2aに当接する。これによって、ステータ100が配置治具2に支持される。ステータ100が配置治具2に支持された状態において、ステータ100のコイルエンド部120cは、図7に示すように、配置治具2のコイル収容溝21内に収容される。
【0052】
ステータ100が配置治具2に支持された後、ステータ100を支持する配置治具2及び押圧治具3のうちの少なくともいずれか一方が、図示しない回動機構の動作によって、中心軸X周りに回動する。これによって、コイル分離装置1は、押圧治具3に設けられる複数の押圧部材32とステータコア110に形成される複数のスロット112との位相合わせを行う。これによって、複数のスロット112の位置と複数の押圧部材32の位置とが、ステータ100の中心軸方向に沿って一致する。
【0053】
位相調整の後、押圧治具3は、図示しないプレス装置の動作によって、ステータ100に向けてX2方向に移動する。押圧治具3は、ステータ100を貫通する6本のガイド支柱5を6つの支柱貫通孔33に挿入することによって、ステータ100に対して位置決めされる。
【0054】
押圧治具3がステータ100に向けてX2方向にさらに移動すると、図7に示すように、各押圧部材32の先端は、ステータコア110の第1端面110aの側から、スロット112から僅かに突出する直線部120aの切断面120dに当接する。押圧治具3がさらにX2方向に移動すると、各押圧部材32は、対応するスロット112内のコイル120の直線部120aをX2方向に同時に押圧する。これによって、コイル120は、ステータコア110に対して徐々に配置治具2に向けて移動する。ステータ100は、押圧方向に対面するように配置される配置治具2のステータ支持面2aによって支持されているため、押圧治具3は、ステータ100のコイル120を安定して押圧することができる。
【0055】
押圧部材32は、押圧治具3の移動に伴って、対応するスロット112内の直線部120aを押圧しながらスロット112内に挿入される。スロット112内の押圧部材32は、図8に示すように、スロット112内に収容される複数本の全ての直線部120aに当接して押圧する。
【0056】
その後、押圧部材32は、押圧治具3の移動に伴ってスロット112内をX2方向に移動し、直線部120aをさらに押圧する。押圧部材32に押圧される直線部120aは、図8に示すように、押圧部材32とスロット112の内壁面112aとに支持されながら、ステータコア110の中心軸方向に沿うX2方向に向けて、ばらけることなく円滑に移動することができる。コイル120は、直線部120aで切断されているため、移動時にスロット112の内壁面112aと干渉することが抑制される。そのため、押圧治具3によってコイル120に無駄に大きな押圧力を掛ける必要はない。
【0057】
押圧部材32は、ステータコア110の中心軸方向に沿うスロット112の長さよりも長いため、図9に示すように、押圧治具3の治具基板31がステータコア110の第1端面110aに当接するまで移動すると、押圧部材32の先端はステータコア110の第2端面110bから突出する。これによって、コイル120はステータコア110のスロット112から一挙に押し出され、ステータコア110の第2端面110bの側から取り出される。
【0058】
このとき、スロット112内でコイル120の直線部120aを被覆している絶縁紙114も、コイル120とともに押し出されてステータコア110から取り出される。これは、絶縁紙114とステータコア110との間の抵抗よりも、絶縁紙114とコイル120の直線部120aとの間の抵抗の方が大きいためである。絶縁紙114は、コイル120を加熱炉で加熱した際に、コイル120に塗布されているワニス及びコイル120の表面の絶縁被膜とともに溶解し、ろ過によって分離可能であるため、コイル120の母材の再利用に影響することはない。
【0059】
取り出されたコイル120は、配置治具2のコイル収容溝21内に回収される。コイル収容溝21は、コイル120の外形形状に沿う環状に形成されているため、ステータコア110から取り出されたコイル120を、変形及び損傷させることなく、きれいな状態で容易に収容することができる。
【0060】
その後、押圧治具3は、図10に示すように、配置治具2から遠ざかるようにX1方向に移動する。これよって、押圧治具3は初期位置に復帰し、分離作業を終了する。
【0061】
本実施形態のコイル分離方法及びコイル分離装置1によれば、ステータ100からコイル120を分離するために、コイルエンド部120b,120cの外表面を押圧して強制的に変形させる必要がない。そのため、取り出されたコイル120に不純物が付着することがなく、コイルの再生利用範囲が制限されるおそれはない。ステータ100からコイル120を分離するための押圧治具3は1つだけで足りるため、装置が無駄に大型化することはない。
【0062】
押圧治具3は、押圧部材32によってコイル120を直線的に押圧するだけであるため、ステータ100に対して直線移動する機能を有するだけで足りる。そのため、例えば、ステータ100からコイル120を引き抜く場合に比べて、コイル120を引き抜くためのクランプ機構等の追加の機構を付加する必要はなく、装置構成は簡素化される。
【0063】
以上の実施形態では、ガイド支柱5によって、配置治具2、押圧治具3及びステータ100を位置決めするようにしたが、ガイド支柱5は、配置治具2とステータ100とを位置決めするだけでもよい。ガイド支柱5は必ずしも設けられなくてもよい。
【0064】
コイル分離装置1は、ステータ100のサイズ、コイルエンド部120b,120cの外形形状等に対応するサイズのステータ支持面2a及びコイル収容溝21を有する複数種類の配置治具2を用意しておき、分離対象のステータ100の種類に応じて最適な配置治具2を選択して使用するように構成されてもよい。
【0065】
コイル分離装置1は、ステータ100のサイズ、ステータコア110のスロット112の数等に対応するサイズ及び数の押圧部材32を有する複数種類の押圧治具3を用意しておき、分離対象のステータ100の種類に応じて最適な押圧治具3を選択して使用するように構成されてもよい。
【0066】
押圧治具3に設けられる複数の押圧部材32は、ステータコア110のスロット112の数と同数設けられるものに限定されない。押圧部材32は、ステータコア110に形成される任意の複数のスロット112内のコイル120を押圧するものであればよく、治具基板31にスロット112の数よりも少ない数だけ設けられていてもよい。
【0067】
押圧治具3に設けられる複数の押圧部材32は、全て同一の突出方向の長さを有するものに限定されない。押圧治具3は、複数のスロット112に対して時間差を設けて直線部120aを押圧するように、突出方向の長さの異なる押圧部材32を含んでいてもよい。
【0068】
押圧治具3に設けられる押圧部材32の先端面は、突出方向に対して垂直な平坦面に限定されない。押圧部材32の先端面は、スロット112内の複数本の直線部120aに対して径方向に時間差を設けて押圧するように、ステータコア110の径方向に傾斜する傾斜面であってもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 コイル分離装置
2 配置治具(配置手段)
2a ステータ支持面
21 コイル収容溝
3 押圧治具(押圧手段)
32 押圧部材
100 ステータ
110 ステータコア
110a 第1端面
112 スロット
120 コイル
120a 直線部
120b コイルエンド部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10