(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006270
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】水系コーティング剤
(51)【国際特許分類】
C09D 123/04 20060101AFI20250109BHJP
C09D 7/40 20180101ALI20250109BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C09D123/04
C09D7/40
C09D129/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106958
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】391047558
【氏名又は名称】ヘンケルジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 智穂
(72)【発明者】
【氏名】吉田 良夫
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CB031
4J038CE022
4J038HA176
4J038HA306
4J038MA08
4J038MA09
4J038NA11
4J038PB04
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】 ヒートシール性、耐水性、耐熱性、貯蔵安定性を有する水系コーティング剤を提供する。該コーティング剤が塗布された紙基材を提供する。
【解決手段】 (A)エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸誘導体との共重合体、(B)塩基性物質、及び(C)融点100℃以上の粒状物を含む、水系コーティング剤である。更に、その水系コーティング剤が塗布された紙基材である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸誘導体との共重合体、
(B)塩基性物質、及び
(C)融点100℃以上の粒状物
を含む、水系コーティング剤。
【請求項2】
成分(A)、成分(B)及び成分(C)の総量100質量部に対し、成分(C)が1~20質量部配合されている、請求項1に記載の水系コーティング剤。
【請求項3】
さらに、(D)ポリビニルアルコール誘導体を含む、請求項1または2に記載の水系コーティング剤。
【請求項4】
請求項1に記載の水系コーティング剤が塗布された紙基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙基材に塗布される水系コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題への配慮から、プラスチック製品の削減が世界的に推奨されている。プラスチック製品は、自然に分解できず、廃棄処理が困難である。また、プラスチックを焼却すると、ダイオキシンが発生し、大気汚染を引き起こす可能性がある。さらに、近年、プラスチックごみが海洋に捨てられ、マイクロレベルに分解されて小さなゴミになり、このゴミを海洋中の魚類が食べ、その魚類を人間が食べる可能性が問題視されている。このような背景から、プラスチックから紙基材への置き換えが検討されており、特に食品分野では、紙基材を加工して容器にすることが行われている。
【0003】
従来、紙基材の一形態として、ラミネート紙が用いられてきた。ラミネート紙は、食品由来の油分等が染み出して紙の強度が落ちること、手が汚れることを、防止するための処理が施されている。
【0004】
ラミネート紙には、一般的に、ポリエチレンフィルム等が紙基材へラミネートされている。近年、環境意識の高まりから、ラミネート紙をリサイクルすることが要求されている。しかしながら、フィルム部分が障害となり、ラミネート紙を効率良くリサイクルするために特殊な装置が必要であった。
【0005】
特許文献1及び2は、エチレン系樹脂水性分散液を紙に塗工することを開示する。
特許文献1は、アンモニアやアミンで中和されたエチレン/アクリル酸共重合体の水性分散液が、紙やアルミ箔のヒートシール剤として有用であることを記載する([特許請求の範囲]、[0025]、[0028]、[0029]、[0044]参照)。
【0006】
特許文献2は、酸変性されたエチレン/アクリル酸エチル共重合体と、ワックスを含む水性分散体を紙基材に塗工できることを記載する([特許請求の範囲]、[0046]、[0056]表1、[0068]表3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-7860号公報
【特許文献2】特開2006-45313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および2は、両文献の実施例の水性分散液(から形成される皮膜又はコーティング)がヒートシール性に優れることを開示する。
食品包装容器が一般的な紙コップである場合、紙コップの端部は、水系コーティング剤が塗布された後、加熱することによって形成される。従って、紙コップ端部へ塗布される水系コーティング剤(から形成される皮膜)には、ヒートシール性が要求される。更に、紙コップ用の水系コーティング剤は、ヒートシール性に加えて、様々な性能が要求される。
【0009】
紙コップには、熱湯や冷水等の飲料が注がれるため、紙基材が飲料を吸収しないことが求められる。特許文献1及び2の水性分散液は、耐水性が充分とは言えず、紙コップに塗布された場合、紙コップの基材が飲料を吸収する可能性がある。
【0010】
さらに、紙コップの製造ラインを考慮すると、紙基材に塗布される水系コーティング剤には、耐熱性も要求される。一般的な紙コップ製造ラインでは、水系コーティング剤が塗布された紙基材が金属板と接触しており、金属板と接触している紙基材が連続的に加工され、紙コップが製造される。
紙コップ製造ラインにおいて、金属板は、紙基材の加工時に発生する熱によって加熱されることが多い。従って、水系コーティング剤には 、紙基材と加熱された金属板との摩擦を軽減することが要求される。特許文献1及び2は、水性分散液の耐熱性を考慮しておらず、紙コップの連続生産ラインで両文献の水性分散液を使用できるか明確ではない。
【0011】
このように、食品分野では、水系コーティング剤に様々な性能が要求されている。水系コーティング剤は、ヒートシール性、耐水性、耐熱性に優れるだけでなく、塗工性等の一般的な性能に優れていなければならない。水系コーティング剤がエマルションの場合、貯蔵安定性を考慮し、分散質が沈殿し難い等の分散安定性も要求される。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ヒートシール性、耐水性、耐熱性、貯蔵安定性を有する水系コーティング剤を提供することを目的とする。また、本発明は、該コーティング剤が塗布された紙基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、特定のエチレン系共重合体と、塩基性物質、特定の融点を有する粒状物を配合すると、耐水性、耐熱性、ヒートシール性、貯蔵安定性に優れた水系コーティング剤が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
本明細書は、以下の実施形態を含む。
1.(A)エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸誘導体との共重合体、(B)塩基性物質、及び(C)融点100℃以上の粒状物を含む、水系コーティング剤。
2.成分(A)、成分(B)及び成分(C)の総量100質量部に対し、成分(C)が1~20質量部配合されている、1に記載の水系コーティング剤。
3.(A)エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸誘導体との共重合体がエチレンと(メタ)アクリル酸との共重合体を含む、1または2に記載の水系コーティング剤。
4.(C)融点100℃以上の粒状物がパラフィン系樹脂水性分散体を含む、1~3のいずれか一つに記載の水系コーティング剤。
5.(C)融点100℃以上の粒状物が澱粉を含む、1~3のいずれか一つに記載の水系コーティング剤。
6.澱粉がタピオカを含む、5に記載の水系コーティング剤。
7.さらに、(D)ポリビニルアルコール誘導体を含む、1~6のいずれか一つに記載の水系コーティング剤。
8.(D)ポリビニルアルコール誘導体がポリビニルアルコール及びエチレン変性ポリビニルアルコールから選ばれる少なくとも1種を含む、1~7のいずれか一つに記載の水系コーティング剤。
9.1~8のいずれか一つに記載の水系コーティング剤が記載された紙基材。
10.9に記載の紙基材を有する紙製品。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水系コーティング剤は、耐水性、耐熱性、ヒートシール性、貯蔵安定性に優れており、紙基材への塗布に特に有効である。
本発明の紙基材は、上記コーティング剤が塗布されているので、水分および熱に強く、紙コップ等の食品包装容器や紙コップへの加工に適する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の水系コーティング剤(単に「コーティング剤」とも記載する)は、(A)エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸誘導体との共重合体(「成分(A)」、「(A)共重合体」とも記載)、(B)塩基性物質(「成分(B)」とも記載)、(C)融点100℃以上の粒状物(「(C)粒状物」とも記載)を含む。
【0017】
本明細書では、「水系コーティング剤」とは、水性媒体にポリマー粒子等が分散又は溶解可能なコーティング剤をいうが、水性媒体にポリマー粒子等が分散したエマルションであることが好ましい。
「水性媒体」とは、水道水、蒸留水又はイオン交換水等の一般的な水をいうが、水溶性又は水に分散可能な有機溶剤であって、単量体等の本発明に関する樹脂の原料と反応性の乏しい有機溶剤、例えば、アセトン、酢酸エチル等を含んでもよく、さらに水溶性又は水に分散可能な単量体、オリゴマー、プレポリマー及び/又は樹脂等を含んでもよく、また後述するように水系の樹脂又は水溶性樹脂を製造する際に通常使用される、乳化剤、重合性乳化剤、重合反応開始剤、鎖延長剤及び/又は各種添加剤等を含んでもよい。
本実施形態の水系コーティング剤は、耐水性、ヒートシール性、耐熱性、貯蔵安定性に優れる。以下、各成分について説明する。
【0018】
<(A)エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸誘導体との共重合体>
本発明の実施形態において、「(A)エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸誘導体との共重合体」(以下「(A)共重合体」又は「成分(A)」ともいう)とは、エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸誘導体との共重合体であり、本発明が目的とする水系コーティング剤を得ることができる限り、特に制限されるものではない。
【0019】
本発明の水系コーティング剤は、成分(A)を含むことで、本発明の実施形態の水系コーティング剤は、耐水性、ヒートシール性及び貯蔵安定性(分散安定性)に優れたものとなる。
【0020】
本明細書における、「エチレン性二重結合を有するカルボン酸誘導体」とは、エチレンと付加重合することができる炭素原子間二重結合を有するカルボン酸誘導体(カルボン酸を含む)をいい、具体的には、「エチレン性二重結合を有するカルボン酸」、「エチレン性二重結合を有するカルボン酸無水物」、「エチレン性二重結合を有するカルボン酸エステル」及び「エチレン性二重結合を有するカルボン酸塩」等をいう。
【0021】
「エチレン性二重結合を有するカルボン酸」とは、エチレン性二重結合とカルボキシル基を有する化合物であって、本発明が目的とする水系コーティング剤を得ることができれば特に限定されることはない。具体的には、オレイン酸、リノール酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸及びメタクリル酸等を例示することができる。
【0022】
「エチレン性二重結合を有するカルボン酸無水物」としては、2分子のカルボン酸を脱水縮合させた化合物又は1分子内に2つあるカルボキシル基を脱水させた化合物をいい、本発明が目的とする水系コーティング剤を得ることができれば特に限定されない。具体的には、無水フマル酸及び無水マレイン酸等を例示することができる。
【0023】
「エチレン性二重結合を有するカルボン酸エステル」として、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、及び(メタ)アクリル酸2-エチルへキシル等の(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル及び酢酸アリル等のカルボン酸ビニル及びアリルエステル等を例示することができる。
本明細書では、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの双方を表す。
【0024】
本発明の実施形態において、「エチレン性二重結合を有するカルボン酸エステル」は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、及び(メタ)アクリル酸2-エチルへキシル等の(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、又は(メタ)アクリル酸ブチルを含むことがより好ましく、特に、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチルを含むことが望ましい。
【0025】
「エチレン性二重結合を有するカルボン酸塩」は、本発明が目的とする水系コーティング剤を得ることができれば特に限定されない。具体的には、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム等を例示することができる。
【0026】
本明細書では、「(A)エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸誘導体との共重合体」として、例えば、
エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸との共重合体(「エチレン/カルボン酸共重合体」ともいう)、
エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸無水物との共重合体(「エチレン/カルボン酸無水物共重合体」ともいう)、
エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸エステルとの共重合体(「エチレン/カルボン酸エステル共重合体」ともいう)、及び
エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸塩との共重合体(「エチレン/カルボン酸塩共重合体ともいう)を例示できる。
【0027】
エチレン/カルボン酸共重合体として、例えば、エチレンと(メタ)アクリル酸との共重合体(エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体)、エチレンとイタコン酸との共重合体(エチレン/イタコン酸共重合体)等を例示することができ、
エチレン/カルボン酸無水物との共重合体として、例えば、エチレンと無水マレイン酸との共重合体(エチレン/無水マレイン酸共重合体)等を例示することができ、
エチレン/カルボン酸エステルとの共重合体として、例えば、エチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体(エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体);エチレンとカルボン酸ビニルとの共重合体(エチレン/カルボン酸ビニル共重合体);エチレンとカルボン酸アリルとの共重合体(エチレン/カルボン酸アリル共重合体)を例示することができ、
エチレン/カルボン酸塩との共重合体として、例えば、エチレンと(メタ)アクリル酸ナトリウムとの共重合体(エチレン/(メタ)アクリル酸ナトリウム共重合体)、エチレンと(メタ)アクリル酸カリウムとの共重合体(エチレン/(メタ)アクリル酸カリウム共重合体)等を例示することができる。
【0028】
本発明の実施形態において、(A)共重合体は、「エチレンと(メタ)アクリル酸誘導体との共重合体」を含むことが好ましい。「エチレンと(メタ)アクリル酸誘導体との共重合体」は、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸無水物共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、及びエチレン/(メタ)アクリル酸塩共重合体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体を含むことが最も望ましい。
(A)共重合体がエチレン/(メタ)アクリル酸共重合体」を含むことによって、本発明の実施形態の水系コーティング剤は、耐水性及びヒートシール性が著しく向上する。
(A)共重合体は、水性媒体に分散した状態で、後述する成分(B)、成分(C)と混合されることになる。
【0029】
本発明の実施形態において、(A)共重合体は、エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸との共重合体及びエチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸塩との共重合体から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸とエチレン性二重結合を有するカルボン酸エステルとの共重合体及びエチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸塩とエチレン性二重結合を有するカルボン酸エステルとの共重合体から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
本発明の実施形態において、(A)共重合体は水性媒体中で分散されることが好ましい。(A)共重合体の融点は、100℃未満であることが好ましく、50~90℃がさらに好ましく、60~90℃が特に好ましく。70~90℃が最も好ましい。尚、(A)共重合体が水性媒体中で分散している場合、(A)共重合体の融点は、水性媒体を含まない共重合体の融点をいう。
【0030】
<(B)塩基性物質>
本明細書において(B)塩基性物質とは、水に溶解することによって7より大きなpHを呈する物質をいい、水系コーティング剤に含まれる各成分の相溶性を向上させることができ、(A)共重合体を中和することができ、本発明が目的とする水性コーティング剤を得られる限り、特に制限されることはない。
ここで「中和」は、通常、中和に用いられる(B)塩基性物質を加えることで行うことができる。その結果、(A)共重合体がアニオン基を有する場合、例えば、特にカルボキシル基を有する場合、それが中和されて、(A)共重合体に、ある程度の水溶性が付与され得る。しかしながら、(A)共重合体は、完全に水溶性である必要はなく、本発明の実施形態の水系コーティング剤の特性を悪くしない程度の水溶性であればよい。
【0031】
塩基性物質の形態は、本発明が目的とする水性コーティング剤を得られる限り、気体、液体及び固体のいずれの形態であってよいが、水に溶解性せしめた水溶性の形態のものが取り扱いやすく、また、中和反応を制御し易いので好ましい。このような「塩基性物質」として、例えば、アンモニア、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属、カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ土類金属等を例示できるが、アンモニア水、ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム水溶液)、カリウム水溶液(水酸化カリウム水溶液)が好ましい。
【0032】
(B)塩基性物質は、(A)共重合体を含む水性媒体のpHが8.0以上となるように加えることが好ましく、pHが8.0~10.0となるように加えることがより好ましく、pHが8.0~9.5となるように加えることが特に好ましい。
本発明の実施形態の水系コーティング剤は、(B)塩基性物質を含むことで、各成分の相溶性が向上し、(A)共重合体が中和されて他の成分との相溶性がより高まり、耐水性、ヒートシール性、耐熱性、及び貯蔵安定性のバランスに優れたものとなる。
【0033】
<(C)融点100℃以上の粒状物>
本発明の実施形態の(C)粒状物は、水性媒体に分散した状態で、成分(A)及び成分(B)と混合され、後述するその他成分と混合され得る、融点100℃以上の粒状物であり、本発明が目的とする水系コーティング剤を得られる限り、特に限定されることはない。
本願明細書において、「粒状」は固体が粒になって集まった状態であり、「粒状物」は粒の集合体そのものを意味する。
【0034】
粒状物は、有機物の粒状物と無機物の粒状物から選択され、有機物の粒状物から選択されることが好ましく、有機物の粒状物は、炭水化物の粒状物及び樹脂の粒状物から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
ただし、成分(C)は、成分(A)及び成分(D)を含まない。
粒状物として、例えば、小麦粉や澱粉等の炭水化物の粉類、溶媒中に分散するコロイド等の樹脂、パラフィン系樹脂、オレフィン系樹脂等の有機物の粒状物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(C)粒状物の融点は、100℃以上であり、100℃~300℃であることが好ましい。
尚、成分(C)の融点は、粒状物そのもの融点であり、水性媒体を含む粒状物の融点を意味しない。
【0035】
本発明の実施形態の水系コーティング剤は、成分(C)を含むことで、耐水性がより向上し得る。
本願明細書において融点とは、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定された値をいう。具体的には、SIIナノテクノロジー社製のDSC6220(商品名)を用い、アルミ容器に試料を10mg秤量し、昇温速度10℃/minで測定して、融解ピークの頂点の温度を融点という。
尚、上述の融点に関する記載は、成分(C)の融点だけでなく、他成分の融点についても該当する。
【0036】
(C)粒状物として、炭水化物の粉類、パラフィン系樹脂、オレフィン系樹脂等の樹脂の粒状物が好ましく、パラフィン系樹脂水性分散体、オレフィン系樹脂水性分散体、澱粉がより好ましい。尚、パラフィン系樹脂水性分散体やオレフィン系樹脂水性分散体は、ワックスとは異なる。
本願明細書において、「ワックス」とは、常温では固体、加熱すると100℃未満で液体となる有機物とする。すなわち、ワックスの融点は100℃未満となるので、融点100℃以上の成分(C)に該当することはない。
パラフィンとは、炭化水素化合物(有機化合物)の一種で、脂肪族鎖式飽和炭化水素の総称でありアルカンとも呼ばれ、CnH2n+2で表される。オレフィンとは、二重結合一つをもつ脂肪族鎖式不飽和炭化水素の総称で、CnH2nで表される。尚、化学式のnは自然数とする。(C)粒状物に該当するパラフィン系樹脂、オレフィン系樹脂は、両方共、融点は、100℃以上である。
パラフィン又はオレフィン(上記化学式)に関係する樹脂に基づく粒状物が水性媒体に分散した分散体がパラフィン系樹脂水性分散体やオレフィン系樹脂水性分散体である。
【0037】
デンプンとしては、例えば、融点が100℃以上のとうもろこしデンプン、タピオカデンプン、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプン、小麦デンプン、米デンプン等の天然デンプン;上述の天然デンプンが加工されて得られる、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、架橋デンプン、グラフト化デンプン、酸化デンプン、酸分解デンプン、デキストリン等の加工デンプン等が挙げられる。
【0038】
本発明の実施形態の水系コーティング剤は、特に、パラフィン系樹脂水性分散体及び/又はタピオカ澱粉を含むことが好ましい。
成分(C)がパラフィン系樹脂水性分散体を含む場合、本発明の実施形態の水系コーティング剤は、耐水性とヒートシール性のバランスにより優れたものとなる。
成分(C)がタピオカ澱粉を含む場合、本発明の実施形態の水系コーティング剤は、耐熱性が向上し、紙コップを連続生産する際、紙基材と加熱された金属板との摩擦が軽減するので、紙コップを効率良く安全に生産することが可能となる。
【0039】
本発明の実施形態の水系コーティング剤は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の総量100質量部に対し、成分(C)が1~20質量部配合されていることが好ましく、2~18質量部配合されていることが特に好ましく、3~15質量部配合されていることが最も望ましい。
成分(C)の配合量が上記範囲であることによって、本発明の実施形態の水系コーティング剤は、耐水性、ヒートシール性、耐熱性、分散安定性のバランスにより優れたものとなる。
【0040】
成分(C)としては、具体的に、例えば、
日本精蝋株式会社のEMUSTER-6315(商品名)、EMUSTER-1309(商品名)、三井化学株式会社のケミパールW308(商品名)等の合成樹脂水性分散体;
日本精蝋株式会社のXEM-1515(商品名)、山桂産業株式会社のHi-Mic-2095(商品名)等の天然樹脂水性分散体;
日澱化学株式会社のZ300F(商品名)等のタピオカ澱粉が挙げられる。
【0041】
<(D)ポリビニルアルコール誘導体>
本発明の実施形態の水系コーティング剤は、成分(A)~成分(C)に加えて、(D)ポリビニルアルコール誘導体を含むことが好ましい。水系コーティング剤は、成分(D)を含むことによって、分散質の安定性が向上し、水性媒体に粒子の沈殿が発生し難くなり、貯蔵安定性が向上し得る。
本発明の実施形態の(D)ポリビニルアルコール誘導体として、例えば、ポリビニルアルコール、及びポリビニルアルコール変性体を例示できる。
「ポリビニルアルコール」は、一般的に、ポリ酢酸ビニルを加水分解することで製造されており、酢酸エステル基(CH3COO-)を含むことができる。
【0042】
本明細書における「ポリビニルアルコール変性体」とは、新たな官能基(好ましくは親水基)を付与することで、変性されたポリビニルアルコールをいう。ポリビニルアルコールを合成中又は合成後に、新たな官能基を付与することで、ポリビニルアルコールを変性して、変性ポリビニルアルコールを製造することができる。
ポリビニルアルコール変性体として、例えば、エチレン変性ポリビニルアルコール、ブテンジオール変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0043】
本発明の実施形態の水系コーティング剤は、成分(D)がポリビニルアルコール又はエチレン変性ポリビニルアルコールを含むことで、成分(A)~成分(C)が水性媒体中でより均一に分散し易くなり、貯蔵安定性(分散安定性)がより向上する。
【0044】
本発明の実施形態の紙基材用コーティング剤は、成分(A)~成分(C)を含み、場合によって成分(D)を含むが、添加剤として、更に、粘性調整剤、可塑剤、消泡剤、防腐剤、着色剤等を含んでもよい。
粘性調整剤として、例えば、尿素、尿素化合物、ジシアンジアミド等の窒素含有物質、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸3ナトリウム、リン酸水素2アンモニウム、硼砂、フッ化ナトリウム、水ガラス等を例示できる。
可塑剤として、例えば、グリセリン;エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類;セロソルブ類等の有機溶剤類等を例示できる。
【0045】
消泡剤として、例えば、
ジメチルポリシロキサン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン、有機変性ポリシロキサン、フッ素シリコーン等のシリコーン系消泡剤;
ヒマシ油、ゴマ油、アマニ油、動植物油等の油脂系消泡剤;
ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸系消泡剤;
イソアミルステアリン酸、ジグリコールラウリン酸、ジステアリルコハク酸、ジステアリン酸、ソルビタンモノラウリン酸、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン、モノラウリン酸ブチルステアレート、ショ糖脂肪酸エステル、スルホン化リチノール酸のエチル酢酸アルキルエステル、天然ワックス等の脂肪酸エステル系消泡剤;
ポリオキシアルキレングリコールとその誘導体、ポリオキシアルキレンアルコール水和物、ジアミルフェノキシエタノール、3-ヘプタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール系消泡剤;
3-ヘプチルセルソルブ、ノニルセルソルブ-3-ヘプチルカルビトール等のエーテル系消泡剤;
トリブチルホスフェート、オクチルリン酸ナトリウム、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート等のリン酸エステル系消泡剤;
ジアミルアミン等のアミン系消泡剤;
ポリアルキレンアマイド、アシレイトポリアミン、ジオクタデカノイルピペリジン等のアマイド系消泡剤;
ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸カリウム、ウールオレインのカルシウム塩等の金属石鹸系消泡剤;
ラウリルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸エステル系消泡剤等を例示することができる。
【0046】
これら添加剤は、水系コーティング剤の調製後に配合されてもよく、(A)共重合体の原料であるモノマーと共に配合されてもよく、エマルション形態のコーティング剤(成分(A)と成分(B)との混合物、もしくは成分(A)と成分(C)との混合物)に加えられてもよい。
本実施形態の水系コーティング剤は、成分(A)~成分(D)に加えて、必要に応じて他の成分を混合して製造することができ、混合する際加熱してもよい。各成分を加える順序、加熱方法、撹拌方法等は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0047】
本発明の水系コーティング剤は、食品包装容器や紙コップ等に利用される紙基材の表面に塗布され得る。本発明の水系コーティング剤は、それから形成される皮膜の耐水性、ヒートシール性、耐熱性に優れ、更にその貯蔵安定性(分散安定性)に優れる。
本発明の水系コーティング剤は、紙基材表面に直接塗布されるものであり、一液型コーティング剤としても、二液型コーティング剤の上塗り剤としても使用可能である。
本発明の水系コーティング剤を紙基材上に塗布する方法としては、通常の塗工方法を用いればよい。例えば、本発明のコーティング剤を、テーブルコーター、バーコーター、2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ブレードメタリングコーター、ロッドメタリングコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、グラビアコーター、ディップコーター等の公知の塗工機を用いて紙基材上に塗布する。
【0048】
水系コーティング剤の紙基材上への塗工量は、特に限定はされないが、固形分(乾燥質量)として例えば5~100g/m2であるのが好ましく、5~50g/m2であるのがより好ましく、10~20g/m2であるのが特に好ましい。ここで、コーティング剤の固形分とは、コーティング剤を105℃で3時間乾燥して得られる固形分のことをいう。
本発明の一態様は上記水系コーティング剤が表面に塗布された紙基材に関する。本発明の紙基材は、耐水性、ヒートシール性、耐熱性に優れており、食品包装容器や紙コップ等の紙製品に好適に利用されうる。
【0049】
本発明の一態様は、上記水系コーティング剤を有する紙基材に関する。紙基材としては、特に限定されないが、広葉樹クラフトパルプ、針葉樹クラフトパルプ等の化学パルプ、GP(砕木パルプ)、RGP(リファイナーグランドパルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)等の機械パルプ等を抄紙して得られる公知の紙または合成紙を用いることができる。また、上記紙基材としては、上質紙、中質紙、アルカリ性紙、グラシン紙、セミグラシン紙、または段ボール用、建材用、白ボール用、チップボール用等に用いられる板紙、白板紙等も用いることができる。なお、紙基材中には、有機および無機の顔料、並びに紙力増強剤、サイズ剤、歩留まり向上剤等の抄紙補助薬品が含まれてもよい。
本発明の一態様は、上記水系コーティング剤が表面に塗布された紙基材を有する紙製品に関する。本発明の実施形態の紙製品は、耐水性にも優れているので、紙製ストロー、トイレットペーパー、及び紙コップ等にも利用可能である。本発明の紙製品は、上記紙基材を有しているので、形状が折り曲げられても、耐油性および耐水性が低下することがなく、様々な用途に利用でき、特に、食品包装や飲料容器(紙コップ)に好適である。
【実施例0050】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
表1~4に記載された成分(A)~(D)の配合量に関する数値は、“溶媒を除いた固形分(水分を含まない物質)”の部数であり、単位は質量部である。成分(A)~(C)の総量を100質量部に換算して、各成分の質量部が表1~4に示されている。
【0051】
実施例1~22及び比較例1~6で用いられた成分(A)~(D)の詳細を以下に示す。
(A)エチレンとエチレン性二重結合を有するカルボン酸誘導体との共重合体
(A1)エチレンとアクリル酸との共重合体(融点77℃ 商品名:プリマコール5980(SK Geo Centric Japan(株)))
(A2)エチレンとメタアクリル酸との共重合体(融点84℃ 商品名:ニュクレル2050H(三井・ダウ ポリケミカル(株)))
(A3)エチレンとメタクリル酸塩との共重合体(融点83℃ 商品名:SURLYN PC2000(三井・ダウ ポリケミカル(株)製))
(A’4)スチレンとアクリル酸との共重合体(商品名:ジョンクリル679(ジョンソンポリマー(株)))
(A’5)エチレンホモポリマー(商品名:NP105(三井化学(株))
【0052】
(B)塩基性物質
(B1)25%アンモニア水溶液
(B2)50%水酸化ナトリウム水溶液
【0053】
(C)融点が100度以上の粒状物
(C1)パラフィン系樹脂水性分散体(融点103℃、商品名:XEM-1515、日本精蝋(株)製)
(C2)オレフィン系樹脂水性分散体(融点130℃、商品名:ケミパールW308、三井化学(株)製)
(C3)タピオカでんぷん(商品名:Z300F、融点253℃、日澱化學(株)製)
(C’4)カルバナワックスエマルション(融点87℃、商品名:AQUACER 581、BASF(株)製)
(C’5)パラフィンワックスエマルション(融点77℃、商品名:XEM-2131L、日本精蝋(株)製)
【0054】
(D)ポリビニルアルコール誘導体
(D1)ポリビニルアルコール(商品名:JP33(日本酢ビ・ポバール(株)製)重合度3300)
(D2)ポリビニルアルコール(商品名:JP18(日本酢ビ・ポバール(株)製)重合度1800)
(D3)ポリビニルアルコール(商品名:JP10(日本酢ビ・ポバール(株)製)重合度1000)
(D4)ポリビニルアルコール(商品名:JF17(日本酢ビ・ポバール(株)製)重合度1700)
(D5)エチレン変性ポリビニルアルコール(商品名:エクセバールR S 1717(株)クラレ製))
【0055】
<水系コーティング剤の調製及びコーティング紙の製造>
実施例1
径150mmの攪拌羽根を備えた容量2000mlのセパラブルフラスコに、(A1)エチレンとアクリル酸との共重合体(商品名:プリマコール5980(SK Geo Centric Japan(株)製))400g、(B1)25%アンモニア水溶液40g、(B2)50%水酸化ナトリウム水溶液を12g、および水920gを仕込んだ。
水は、各成分を分散させる水性分散媒として作用する。フラスコの内容物を、攪拌下で加熱して昇温させた。セパラブルフラスコの内温が92℃に昇温してからその温度で2時間攪拌を続けた後、攪拌を継続しながら内容物を室温まで冷却した。(C1)パラフィン系樹脂水性分散体(商品名:XEM-1515、日本精蝋(株)製)を80g添加して、実施例1の水系コーティング剤を得た。
尚、水系コーティング剤の調製工程について記載した各成分の配合量は、実際の製品の重量であり、固形分の重量と溶媒の重量の双方を含む場合もある。
但し、表1~4に示される成分(A)~(D)の配合量は、溶媒が除かれた固形分の重量部である。但し、表1~4に示される水の配合量は、水系コーティング剤に含まれる全ての水(成分と一緒に加えられた水も含む)を意味し、固形分や水以外の溶媒を含んでいない。
【0056】
実施例1の水系コーティング液を、白色上質紙(中越パルプ工業(株)社製 坪量104.7g/m2、厚さ126μm、不透明度94%)にバーコーターで塗布した。水系コーティング剤の乾燥後の塗工量が10g/m2となるようにバーコーターで塗工量を調整し、塗工後、上質紙を130℃の乾燥機に入れ、実施例1のコーティング紙(試験体)を得た。
【0057】
実施例2
実施例1で用いた成分(A1)、成分(B1)、成分(B2)と共に、(D1)ポリビニルアルコール(商品名:JP33(日本酢ビ・ポバール(株)製)4gをセパラブルフラスコに仕込み、攪拌下で加熱して昇温してからその温度で2時間攪拌を続けた。その後、攪拌を継続しながら内容物を室温まで冷却し、成分(C1)を添加して、実施例2の水系コーティング剤を得た。
成分(D1)を配合したこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の水系コーティング剤を調整し、それを使用して、実施例2のコーティング紙を得た。実施例2の水系コーティング剤の組成は、表1に示されるとおりである。
【0058】
実施例3~21及び比較例1~6
実施例2と同様の方法で各成分を配合し、実施例3~21及び比較例1~6の水系コーティング剤を製造した。水系コーティング剤の組成は、表1~3に示されるとおりである。
実施例2と同様、表1に示される成分(A)~成分(D)の配合量は、溶媒が除かれた固形分の質量部であり、水の配合量は固形分を含まない。実施例3~21及び比較例1~6の水系コーティング剤の組成を表1に示す。
実施例3~21及び比較例1~6の水系コーティング剤をバーコーターで白色上質紙に塗布し、実施例2と同様の方法で、実施例3~21及び比較例1~6のコーティング紙(試験体)を製造した。
【0059】
実施例22
実施例2と同様の方法で各成分を配合し、実施例22の水系コーティング剤を調製し、実施例2と同様の方法で、実施例22のコーティング紙(試験体)を製造した。実施例22の水系コーティング剤の組成は、表4に示されるとおりである。
次いで、コーティング紙(試験体)の表面に、さらに、水系コーティング剤を塗布し、さらに塗布し、水系コーティング剤が2度塗りされた“コーティング紙(2度塗りタイプ)”を製造した。
表4に示される成分(A)~成分(D)の配合量は、溶媒が除かれた固形分の質量部であり、水の配合量は固形分を含まない。
【0060】
表1~4に示されるように、これら実施例及び比較例のコーティング紙で、水系コーティング剤の耐水性、ヒートシール性、耐熱性(加熱摩擦係数)、貯蔵安定性(分散安定性)を評価した。
【0061】
評価試験の詳細は以下のとおりである。
<耐水性試験(高温での吸水量測定)>
コーティング紙を直径10cmの円形にカットし、質量を測定した後、内径7cmの上部が解放された円形筒状フラスコにて上質紙の上下を挟み、上部から90℃の温水を50ml滴下した状態で、30分静置させた。
その後、蒸留水を取り出し、円形筒から試験体を外し、試験体表面の水滴を除去した状態で質量を測定した。試験前後での試験体の質量変化を計算し、増加分を吸水量と考え、単位面積あたりの吸水量を算出した。
評価基準は以下のとおりである。
◎:吸水量が10g/m2未満であり、耐水性を保持している。
○:吸水量が10g/m2以上 20g/m2未満であり、耐水性を保持している。
△:吸水量が20g/m2以上 50g/m2未満であり、耐水性を保持している。
×:吸水量が50g/m2以上であり、耐水性を保持していない。
【0062】
<耐水性試験(室温での吸水量測定)>
コーティング紙を直径10cmの円形にカットし、質量を測定した後、内径7cmの上部が解放された円形筒状フラスコにて上質紙の上下を挟み、上部から23℃の蒸留水を50ml滴下した状態で、30分静置させた。
その後、蒸留水を取り出し、円形筒から試験体を外し、試験体表面の水滴を除去した状態で質量を測定した。試験前後での試験体の質量変化を計算し、増加分を吸水量と考え、単位面積あたりの吸水量を算出した。
評価基準は以下のとおりである。
◎:吸水量が10g/m2未満であり、耐水性を保持している。
○:吸水量が10g/m2以上 20g/m2未満であり、耐水性を保持している。
△:吸水量が20g/m2以上 50g/m2未満であり、耐水性を保持している。
×:吸水量が50g/m2以上であり、耐水性を保持していない。
【0063】
<ヒートシール性試験>
コーティング紙を25mm×100mmの大きさにカットした。上部を130℃に加温したプレス機に、試験体の塗工面と塗工面を重ねてセットし、0.6MPaの圧力で0.6秒間プレスをかけた。試験体を2時間室温で養生した後、テンシロンにて剥離強度を測定し、剥離された部分を目視で観察して、評価した。
評価基準は以下のとおりである。
◎:基材が材料破壊している(剥離の際に、上質紙の破損を認めた)。
〇:界面剥離(上質紙とコーティングの界面での剥離)であり、剥離強度が15gf/25mm以上である。
△:界面剥離であり、剥離強度が、15gf/25mm未満である。
×:接着(シール)されていない。
【0064】
<耐熱性試験(静摩擦係数測定)>
耐熱性については、静摩擦係数を測定することで評価した。
静摩擦係数とは、静摩擦状態、すなわち相対運動を行っていない状態での、2つの物体の接触面に生じる摩擦力と接触面に直角に作用する力との比をいう。
静摩擦係数の測定は、荷重測定用スタンドMX2―500N((株)イマダ製)、デジタルフォースゲージZTA-50N((株)イマダ製)を用い、コーティング紙表面と60℃に加熱したSUS(ステンレス)板との静摩擦係数を測定した。
コーティング紙(試験片)と擦り合わせる相手材として、60℃に加熱した市販のSUS(ステンレス)板(寸法25mm×25mm)を用いた。
600gの法線荷重をかけて試験片にSUS(ステンレス)板を接触させたのち、試験片を取り付けた移動テーブルを移動速度(試験速度)120mm/minで擦り合わせたときの静摩擦係数を求めた。
評価基準は以下のとおりである。
◎:静摩擦係数が0.5未満である
○:静摩擦係数が0.5以上、1.0未満である。
△:静摩擦係数が1.0以上、2.0未満である。
×:静摩擦係数が2.0以上である。
【0065】
<貯蔵安定性試験(分散安定性)>
水系コーティング剤を300mlのガラス製ビーカーに入れ、23℃で1日間静置した後、水系コーティング剤の相分離状態を観察した。
評価基準は以下のとおりである。
◎:ゲル化及び相分離が生じなかった。
〇:ゲル化は生じなかったが、一部相分離が生じた。
×:ゲル化及び相分離が生じた。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
表1~3に示されるように、実施例1~21の水系コーティング剤は、成分(A)~成分(C)を有するので、耐水性、ヒートシール性、耐熱性、貯蔵安定性(分散安定性)に優れていることが実証された。
本発明の実施形態の水系コーティング剤は、表4に開示される実施例22のように、紙基材への2度塗りも可能である。
【0071】
これに対し、比較例1~6の水系コーティング剤は、成分(A)~成分(C)のいずれかを含まないので、耐水性が劣っている。
さらに、比較例2の水系コーティング剤は、(B)塩基性物質を含まないので、(A)重合体が中和されず、成分(A)~成分(C)が水性媒体中に均一に分散されない。よって、比較例2の水系コーティング剤は、耐水性、ヒートシール性、耐熱性(静摩擦係数)及び分散安定性の全てが著しく劣化している。
比較例3及び6の水系コーティング剤は、(A)エチレンとカルボン酸誘導体との共重合体を含まないので、耐水性だけでなく、ヒートシール性も悪化している。
本発明は、紙表面に塗布される水系コーティング剤を提供できる。本発明の実施形態のコーティング剤が紙基材の表面に塗布され、紙製品が製造される。紙製品としては、食品包装容器、紙コップ、及び紙製ストロー等が挙げられる。