(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025062721
(43)【公開日】2025-04-15
(54)【発明の名称】データ伝送システム
(51)【国際特許分類】
H04B 10/25 20130101AFI20250408BHJP
H04B 10/556 20130101ALI20250408BHJP
【FI】
H04B10/25
H04B10/556
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171921
(22)【出願日】2023-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤志
(72)【発明者】
【氏名】古敷谷 優介
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 哲也
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA51
5K102AH27
5K102RD15
5K102RD27
(57)【要約】
【課題】本開示は、光ファイバケーブルに振動を与え、振動により変調された光を用いて遠隔地にデータを伝送するデータ伝送システムを、マッハツェンダ干渉計を構成せずに、光ファイバケーブル中の1本の光ファイバのみを用いて実現可能にすることを目的とする。
【解決手段】本開示は、送信データを変調し、前記変調した変調信号で光ファイバに振動を与える送信装置と、前記振動により変調された光を複数のモードで伝搬する光ファイバと、前記光ファイバを伝搬した前記複数のモードの光の少なくともいずれかを用いて、前記送信データを復調する受信装置と、を備えるデータ伝送システムである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信データを変調し、前記変調した変調信号で光ファイバに振動を与える送信装置と、
前記振動により変調された光を複数のモードで伝搬する光ファイバと、
前記光ファイバを伝搬した前記複数のモードの光の少なくともいずれかを用いて、前記送信データを復調する受信装置と、
を備えるデータ伝送システム。
【請求項2】
前記送信装置は、予め定められた周波数を有する搬送波で前記変調を行い、
前記受信装置は、前記搬送波と同じ周波数および前記搬送波の2倍の周波数を用いて前記送信データを復調する、
ことを特徴とした請求項1に記載のデータ伝送システム。
【請求項3】
前記変調が、差動位相偏移変調であり、
前記受信装置は、前記搬送波と同じ角周波数での差動位相偏移復調と、前記搬送波の2倍の角周波数での差動位相偏移復調と、を行う
ことを特徴とした請求項2に記載のデータ伝送システム。
【請求項4】
前記複数のモードは、基本モード及び第一高次モードである、
請求項1に記載のデータ伝送システム。
【請求項5】
前記光ファイバは、通信波長帯域においては単一モードでの伝搬特性を有し、
前記振動により変調された光は、前記通信波長帯域よりも短波長の光である、
請求項1に記載のデータ伝送システム。
【請求項6】
前記振動により変調された光を前記複数のモードで受光し、
前記複数のモードの受信信号をモードごとに復調する複数の復調装置を備え、
前記複数の復調装置で得られた複数の送信データのうちのいずれかを選択する、
請求項1に記載のデータ伝送システム。
【請求項7】
送信装置が、送信データを変調し、前記変調した変調信号で光ファイバに振動を与え、
前記光ファイバが、前記光ファイバに与えられた振動により変調された光を複数のモードで伝搬し、
受信装置が、前記光ファイバを伝搬した前記複数のモードの光の少なくともいずれかを用いて、前記送信データを復調する、
データ伝送方法。
【請求項8】
振動により変調された複数のモードの光の受信信号を分岐し、
分岐された第1の受信信号を搬送波と同じ周波数で復調することで、第1の送信データを取得し、
分岐された第2の受信信号を搬送波の2倍の周波数で復調することで、第2の送信データを取得し、
前記第1の送信データ又は前記第2の送信データのいずれかを出力する、
復調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遠隔地に設置したセンサ装置からの情報収集を簡易に実現するためのセンサネットワークに関する技術である。
【背景技術】
【0002】
光ファイバケーブルに振動を与え、振動により変調された光を用いて遠隔地にデータを伝送する方法は非特許文献1により示されている。非特許文献1では各種センサのセンサデータを変調し、振動スピーカにより光ファイバケーブル外皮から振動を与える。振動により変調された光はマッハツェンダ干渉計の干渉光として受光される。受光器の出力信号を復調することで各種電気センサのセンサデータを復調することが可能となる。これまでに、マッハツェンダ干渉計とスペクトル拡散方式を用いた実験系により2チャンネル、3bpsの情報伝送を実現している。
【0003】
非特許文献1の技術を既設の光ファイバ網に適用可能にすることが望まれている。しかし、非特許文献1は、マッハツェンダ干渉計を構成する必要があるため、既設の光ファイバ網の構成をそのまま用いることができない。また、既設の光ファイバ網を用いる場合、専用線として2本の光伝搬経路を確保することは困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tetsuya Manabe, Ryoga Hashimoto, Hiroki Fujita, Atsushi Nakamura, and Yusuke Koshikiya,“Low-speed Data Transmission using a Modulated Vibration Signal on an Optical Cable’s Outer Sheath”, Proceedings of the 27th International Conference on Optical Fiber Sensors, W4.3, (2022).
【非特許文献2】Atsushi Nakamura, Tetsuya Manabe, and Yusuke Koshikiya,“Vibration Sensing Based on Inter-Modal Interference Using Two-Mode Region of Conventional Single-Mode Fibers”, Proceedings of the 27th International Conference on Optical Fiber Sensors, Th4.28, (2022).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、光ファイバケーブルに振動を与え、振動により変調された光を用いて遠隔地にデータを伝送するデータ伝送システムを、マッハツェンダ干渉計を構成せずに、光ファイバケーブル中の1本の光ファイバのみを用いて実現可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示では、マッハツェンダ干渉計に替わり、非特許文献2で示された2モード光ファイバ振動センサを用いる。2モード光ファイバ振動センサは、1本の光ファイバで光伝搬時間差による位相差θを発生させることができる。このため、本開示は、光ファイバケーブル中の1本の光ファイバによるデータ伝送装置を実現することができる。
【0007】
また、非特許文献1では2チャンネル多重伝送時の伝送速度は3bpsにとどまっている。画像伝送等、実用性の高いアプリケーションへの適用には情報伝送速度の向上が望ましく、そのためには変調振動の搬送周波数の高周波化が有効である。この点、光ファイバ中を伝搬する高次モードは基本モードよりも振動に対して敏感である。このため、2モード光ファイバ振動センサを採用することで、変調振動の搬送周波数を非特許文献1よりも高周波化することが可能となり、伝送速度の高速化が実現可能となる。
【0008】
本開示のデータ伝送システムは、
送信データを変調し、前記変調した変調信号で光ファイバに振動を与える送信装置と、
前記振動により変調された光を複数のモードで伝搬する光ファイバと、
前記光ファイバを伝搬した前記複数のモードの光の少なくともいずれかを用いて、前記送信データを復調する受信装置と、
を備える。
【0009】
本開示のデータ伝送システムは、本開示のデータ伝送方法を実行する。
本開示のデータ伝送方法は、
送信装置が、送信データを変調し、前記変調した変調信号で光ファイバに振動を与え、
前記光ファイバが、前記光ファイバに与えられた振動により変調された光を複数のモードで伝搬し、
受信装置が、前記光ファイバを伝搬した前記複数のモードの光の少なくともいずれかを用いて、前記送信データを復調する。
【0010】
前記送信装置は、予め定められた周波数を有する搬送波で前記変調を行ってもよい。この場合、前記受信装置は、前記搬送波と同じ周波数および前記搬送波の2倍の周波数を用いて前記送信データを復調する。
【0011】
例えば、本開示の復調装置は、
振動により変調された複数のモードの光の受信信号を分岐し、
分岐された第1の受信信号を搬送波と同じ周波数で復調することで、第1の送信データを取得し、
分岐された第2の受信信号を搬送波の2倍の周波数で復調することで、第2の送信データを取得し、
前記第1の送信データ又は前記第2の送信データのいずれかを出力する。
【0012】
前記複数のモードは、第一高次モード及び基本モードであってもよい。光ファイバ中を伝搬する第一高次モードは基本モードよりも振動や曲げに起因した屈折率変化に対して敏感であることから、変調振動の高周波化による情報伝送の高速化を実現することができる。
【0013】
前記変調は、差動位相偏移変調であってもよい。この場合、前記受信装置は、前記搬送波と同じ角周波数での差動位相偏移復調と、前記搬送波の2倍の角周波数での差動位相偏移復調と、を行ってもよい。
【0014】
前記光ファイバ振動センサは、前記光ファイバを伝搬した前記複数のモードの光をそれぞれ受光してもよい。この場合、本開示のデータ伝送システムは、前記振動により変調された光を前記複数のモードで受光し、前記複数のモードの受信信号をモードごとに復調する複数の復調装置を備え、前記複数の復調装置で得られた複数の送信データのうちのいずれかを選択してもよい。
【0015】
前記光ファイバは、通信波長帯域においては単一モードでの伝搬特性を有していてもよい。その場合、前記振動により変調された光は、通信波長帯域よりも短波長の光であってもよい。
【0016】
なお、上記各開示は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、光ファイバケーブルに振動を与え、振動により変調された光を用いて遠隔地にデータを伝送するデータ伝送システムを、マッハツェンダ干渉計を構成せずに、光ファイバケーブル中の1本の光ファイバのみを用いて実現可能にすることができる。また、変調振動の搬送周波数を非特許文献1よりも高周波化することが可能となるため、伝送速度の高速化が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示のデータ伝送システムの実施の形態例である。
【
図2】変調装置における変調方法の一例を示す説明図である。
【
図3】復調装置における復調方法の一例を示す説明図である。
【
図4】本開示のデータ伝送システムの実施の形態例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は本開示のデータ伝送システムの実施の形態を示している。本開示のデータ伝送システムは、送信装置2及び受信装置1を備える。送信装置2及び受信装置1は光ファイバケーブル120で接続されている。受信装置1は、光ファイバケーブル120に含まれる光ファイバ114を、2モード光ファイバ振動センサ110に用いる。
【0021】
本実施形態の光ファイバ114は汎用単一モード光ファイバである。汎用単一モード光ファイバのカットオフ波長より短い波長では、基本モードだけでなく高次モードも伝搬可能である。そこで、本開示では、光ファイバ114の通信波長帯域よりも短波長の光を用いる。本実施形態では、光ファイバ114汎用単一モード光ファイバのカットオフ波長より短い波長を基本モード及び第一高次モードで伝搬させる。本実施形態では、一例として、カットオフ波長より短い波長が1000nmの1μm帯である例について説明する。
【0022】
図1の例における2モード光ファイバ振動センサ110は、光ファイバ114の両端に1μm帯モード合分岐カプラ113が接続され、モード合分岐カプラ113の一方に1μm帯の光源111が接続されている、モード合分岐カプラ113の他方に基本モード受光器112が接続されている。光源111は、1μm帯の連続光を出力する。1μm帯モード合分岐カプラ113#1及び113#2は、1μm帯の光をモードごとに合分岐する。
【0023】
1μm帯光源111から発せられた基本モードの光は1μm帯モード合分岐カプラ113#1で光ファイバ114に入射され、反対側の1μm帯モード光合分岐カプラ113#2を通過した後、基本モード受光器112にて基本モードの干渉波形として計測される。
【0024】
送信装置2は、送信データを変調し、前記変調した変調信号で光ファイバ114に振動を与える。受信装置1は、光ファイバ114を伝搬した複数のモードの光のうちの基本モード受光器112にて受光された受信信号を用いて、送信データを復調する。本開示の受信装置1及び送信装置2はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0025】
具体的には、送信装置2は、
遠隔地にて取得したデータを変調する変調装置230と、
変調した変調信号を増幅する振動発生器駆動アンプ220と、
前記振動発生器駆動アンプで増幅された変調信号で、光ファイバケーブル120に振動を与える振動発生器210と、
を備える。
【0026】
具体的には、受信装置1は、
光ファイバケーブル120と、
光ファイバケーブル120中の光ファイバ114への振動により変調された光を検知する2モード光ファイバ振動センサ110と、
2モード光ファイバ振動センサ110により受信した受信信号から直流成分を除去する直流遮断フィルタ130と、
直流成分を除去した受信信号から送信データを復調する復調装置140と、
を備える。
【0027】
図2に変調装置230の構成例を示す。加算器231は、送信データd(t)を、1シンボル時間T前の送信データb(t-T)に加算する。これにより、差分データb(t)が生じる。位相変調器233は、差分データb(t)を、搬送波発生器232で発生させた搬送波c(t)で位相変調する。これにより、変調信号u(t)を得ることができる。変調装置230における変調は、本実施形態では、0ラジアンおよび2π/3ラジアンでの差動位相偏移変調方式を用いる。差動位相偏移をDPSK(Differencial Phase-Shift Keying)と略記することがある。
【0028】
図3に、復調装置140の構成例を示す。同倍コサイン波発生器147及び同倍サイン波発生器148が搬送波発生器232と同じ周波数ω
vの信号を発生させ、2倍コサイン波発生器149及び2倍サイン波発生器150が搬送波発生器232の2倍の角周波数2ω
vの信号を発生させる。このように、復調装置140は、送信装置2により光ファイバケーブル120に与えた振動と同じ角周波数および2倍の角周波数に対するDPSK復調を行う。
【0029】
遠隔において各種センサ等により取得された送信データは送信装置2に送られ、ファイバケーブル120に与える振動を発生させる。変調装置230では、送信データに基づいた位相変調信号を作成する。変調信号は振動発生器駆動アンプ220により増幅され振動発生器210を駆動し光ファイバケーブル120の外皮に振動を与える。
【0030】
光ファイバ114では、通信波長とは異なる1μm帯において、基本モードおよび第一高次モードの光が伝搬される。また、光ファイバの曲げ、コネクタ・融着接続点におけるコアずれ、外部からの振動等によりモード間クロストークが発生し、基本モードから第一高次モードへ、第一高次モードから基本モードへのモード変換が発生する。送信装置2の振動発生器210より変調信号に応じた振動が与えられると、この振動に応じて2つのモードの光の干渉波形が変化し、基本モード受光器112により受信信号を得ることができる。受信信号は直流遮断フィルタ130にて直流成分を除去した後、復調装置140において送信データが復調される。
【0031】
ここで、光ファイバ114全体において基本モードから第一高次モードへ変換される効率をα、第一高次モードから基本モードへ変換される効率をβ、2モード光ファイバ振動センサ110に基本モードで入射される光の電界を式(1)で表すと、1μm帯モード合分岐カプラ113#2において分離される基本モードおよび第一高次モードの干渉波形E01(t)およびE11(t)は、それぞれ、式(2)及び式(3)となる。
E(t)=Eexp(i(ωt+φ)) (1)
E01(t)={(1-α)2+αβ}E(t) (2)
E11(t)=α{(1-α)+(1-β)}E(t) (3)
ただし、ωは光ファイバ114に入射された基本モードの光の角周波数、φは位相である。
【0032】
基本モード受光器112において基本モードの干渉波形を受信した場合の受信信号をI01(t)、1μm帯モード合分岐カプラ113#2において分離された第一高次モードの干渉波形をI11(t)とすると、式(4)及び式(5)となる。
I01(t)=K|E01(t)|2
=K{(1-α)4E2+α2β2E2
+2αβ(1-α)2E2cos(φ01a-φ01b)} (4)
I11(t)=K|E11(t)|2
=K{α2(1-β)E2+α2(1-α)2E2
+2a2(1-α)(1-β)E2cos(φ11a-φ11b)} (5)
ただし、Kは基本モード受光器112の光入力と電気出力の間の係数である。また、φ01aは基本モードの光の位相、φ01bは第一高次モードから基本モードにモード変換した光の位相である。φ11aは第一高次モードの光の位相、φ11bは基本モードから第一高次モードにモード変換した光の位相である。
【0033】
ここからは、基本モード受光器112にて基本モードの干渉波形I01(t)を受信した場合について考える。光ファイバケーブル120に与えた振動を次式とする。
u(t)=Acos(ωvt+Φ(t)) (6)
ただし、Aは与えた振動の大きさと、振動により発生する位相差の間の関係を表す定数である。また、ωvは与えた振動の角周波数、Φ(t)は送信データに応じて変化させる変調位相である。
【0034】
ここで、2モード光ファイバ振動センサ110を伝搬する基本モードと高次モードがモード合分波器113に到達した時点での基本モードと第一高次モードの光伝搬時間差による位相差をθとすると、位相差は次式となる。
φ01a-φ01b=Acos(ωvt+Φ(t))-θ (7)
【0035】
式(4)、式(6)および(7)より、基本モード受光器112で受信した受信信号I
01(t)は、次式となる。
【数7】
ただし、J
k(*)は第一種ベッセル関数である。
【0036】
直流遮断フィルタ130通過後の受信信号y(t)は、次式となる。
【数8】
ただし、Cは定数である。
【0037】
得られた式(8)の第1項および第2項に対して復調を行うことにより、2モード光ファイバ振動センサ110の光ファイバ114の屈折率や偏波の影響に起因した基本モードと第一高次モードの光伝搬時間差による位相差θの値が変動した場合においても、送信データを復調することが可能になる。
【0038】
変調装置230における変調がDPSK変調方式である場合、k番目に送信する送信データをd
kとするとき、実際に変調を行うデータb
kは次式で得られる。
【数9】
ただし、式(9)における演算子は和分変換を表す。加算器231により送信データd
kと1シンボル前のb
k-1との和を求め、2で割った余りをb
kとする。
【0039】
次に式(9)で得られたデータb
kに基づき、位相変調器233では次式により搬送波発生器232で発生する搬送波の位相Φ
kを変調する。
【数10】
【0040】
式(10)の位相変調により光ファイバケーブル120に振動を与えた時の受信信号は、次式となる。
【数11】
ただし、αは復調のための同倍コサイン波発生器147、同倍サイン波発生器148,2倍コサイン波発生器149および2倍サイン波発生器150により生成する搬送波に対する位相差である。
【0041】
この受信信号y(t)に対して角周波数ωvのサイン波およびコサイン波を乗算器141-1I及び141-1Qにて乗算し低域通過フィルタ142-1I及び142-1Qを通過後の信号zI1(t)、zQ1(t)は、次式となる。
zI1(t)=D1sinθcos(α+Φk) (12)
zQ1(t)=D1sinθsin(α+Φk) (13)
ただし、D1は定数である。
【0042】
ここで遅延器143-1I及び143-1Qにて1シンボル時間分遅延させた信号と乗算器144-1I及び144-1Qにて乗算することで次の信号を得る。
I1=D1
2sin2θcos(α+Φk)cos(α+Φk-1) (14)
Q1=D1
2sin2θsin(α+Φk)sin(α+Φk-1) (15)
【0043】
式(14)、式(15)のI
1およびQ
1を加算器145-1にて加算することで、次式を得る。
【数16】
【0044】
同様に受信信号y(t)に対して角周波数2ωvのサイン波およびコサイン波を乗算器141-2I及び141-2Qにて乗算し低域通過フィルタ142-2I及び142-2Qを通過後の信号zI2(t)、zQ2(t)は、次式となる。
zI2(t)=D2cosθcos(2α+2Φk) (17)
zQ2(t)=D2cosθsin(2α+2Φk) (18)
ただし、D2は定数である。
【0045】
ここで遅延器143-2I及び143-2Qにて1シンボル時間分遅延させた信号と乗算器144-2I及び144-2Qにて乗算することで次の信号を得る。
I2=D2
2cos2θcos(2α+2Φk)cos(2α+2Φk-1) (19)
Q2=D2
2cos2θsin(2α+2Φk)sin(2α+2Φk-1) (20)
【0046】
式(19)、式(20)のI
2およびQ
2を加算器145-2にて加算することで、次式を得る。
【数21】
【0047】
式(10)により与えられた位相変調させた受信信号y(t)より、次の2つの復調信号p
1,p
2を得る。
【数22】
【数23】
【0048】
得られた復調信号p1,p2の大きさは2モード光ファイバ振動センサ110の光ファイバ114の屈折率や偏波の影響に起因した基本モードと第一高次モードの光伝搬時間差による位相差θの状況により変化するので、復調された送信データの判別が相違する場合がある。よって、識別器146では式(22)および式(23)で表される2つの復調信号p1,p2より以下の基準により、復調によって得られた送信データの0、1を判別する。
【0049】
まず、各復調信号p
1,p
2より、送信データの判別結果R
1,R
2を求める。
【数24】
【数25】
【0050】
2つの判定結果R1,R2に相違が無い場合は次式で送信データd’kを決定する。
d’k=R1(=R2) (26)
【0051】
2つの判定結果R
1,R
2に相違がある場合は復調信号p
1,p
2の絶対値が大きい判定結果R
1もしくはR
2を用いて送信データd’
kを決定する。
【数27】
【0052】
以上の変調・復調方法により2モード光ファイバ振動センサ110の光ファイバ114の屈折率や偏波の影響に起因した基本モードと第一高次モードの光伝搬時間差による位相差θが変動した場合においても、確実に送信データを復調することが可能となる。上記は基本モード受光器112にて基本モードの干渉波形I01(t)を受信した場合について説明したが、第一高次モードの干渉波形I11(t)を受信した場合についても同様である。
【0053】
(第2の実施形態)
図4は本開示のデータ伝送システムの実施の形態を示している。本開示は、光ファイバ114を伝搬した複数のモードの光を受光し、複数のモードの受信信号をモードごとに復調する複数の復調装置140を備えていてもよい。本実施形態では、基本モードの干渉波形および第一高次モードの干渉波形を同時に受信する実施の形態を示している。
【0054】
具体的には、2モード光ファイバ振動センサ110は、光ファイバケーブル120、光ファイバケーブル120の両端に接続されている2つのモード合分岐カプラ113、モード合分岐カプラ113の一方に接続されている光源111、モード合分岐カプラ113の他方に接続されている基本モード受光器112及び第一高次モード受光器115、を備える。
【0055】
また本実施形態の受信装置1は、基本モード受光器112及び第一高次モード受光器115ごとに直流遮断フィルタ130及び復調装置140を備える。また本実施形態の受信装置1は、2つの復調装置140において復調された送信データが入力されるモードダイバーシティ判定器160を備える。
【0056】
1μm帯モード合分岐カプラ113により分離された基本モードおよび第一高次モードの干渉波形を、基本モード受光器112および第一高次モード受光器115により受信する。基本モード受光器112および第一高次モード受光器115で受信された受信信号は、直流遮断フィルタ130を通過後、それぞれ復調装置140にて復調処理される。モードダイバーシティ判定器160では、基本モードの干渉波形から復調された送信データと第一高次モードの干渉波形から復調された送信データを比較し、一致してない場合には復調装置140で復調した際の振幅の大きい方の送信データを出力する。
【0057】
たとえば、基本モードの干渉波形から復調された送信データをd’
LP01、復調時の振幅をA
LP01、第一高次モードの干渉波形から復調された送信データをd’
LP11、復調時の振幅をA
LP11とするときは、最終的な送信データd^を以下のように判定する。
【数28】
【0058】
以上のように、2モード光ファイバ振動センサから得られる基本モードと第一高次モードの2つの干渉波形より復調することで、モード間クロストークの状態が変化しどちらか一方の干渉波形が観測できなくなった場合においても送信データを復調することが可能となる。
【0059】
(本開示の効果)
以上説明したように、本発明によれば、光ファイバケーブル外皮から振動を与える方式において、光ファイバケーブル中の1本の光ファイバのみを用いたデータ伝送装置の実現が可能となる。
【0060】
また、光ファイバ中を伝搬する第一高次モードは基本モードよりも振動に対して敏感であることから、変調振動の搬送周波数を高周波化することが可能となり、伝送速度の高速化が実現できる。
【0061】
なお、上述の実施形態では基本モード及び第一高次モードを用いたが、本開示における複数のモードはこれに限定されない。また光ファイバ114に汎用単一モード光ファイバを用いたが、本開示はこれに限らず、複数のモードを伝搬する任意の態様を採用することができる。また、本開示において伝送する送信データは、各種電気センサのセンサデータに限らず、任意のデータを送信することができる。
【符号の説明】
【0062】
1.受信装置
2.送信装置
110.2モード光ファイバ振動センサ
111.1μm帯光源
112.基本モード受光器
113.1μm帯モード合分岐カプラ
114.光ファイバ
115.第一高次モード受光器
120.光ファイバケーブル
130.直流遮断フィルタ
140.復調装置
141.乗算器
142.低域通過フィルタ
143.遅延器
144.乗算器
145.加算器
146.識別器
147.同倍コサイン波発生器
148.同倍サイン波発生器
149.2倍コサイン波発生器
150.2倍サイン波発生器
160.モードダイバーシティ判定装置
210.振動発生器
220.振動発生器駆動アンプ
230.変調装置
231.加算器
232.搬送波発生器
233.位相変調器