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特開2025-6307アンカーの非破壊検査方法およびアンカーの非破壊検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006307
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】アンカーの非破壊検査方法およびアンカーの非破壊検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/12 20060101AFI20250109BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20250109BHJP
【FI】
G01N29/12
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107014
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】599105850
【氏名又は名称】株式会社中電シーティーアイ
(71)【出願人】
【識別番号】391007460
【氏名又は名称】中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 亮
(72)【発明者】
【氏名】吉田 靖司
(72)【発明者】
【氏名】熊▲崎▼ 隆行
(72)【発明者】
【氏名】田中 義直
(72)【発明者】
【氏名】森下 卓哉
【テーマコード(参考)】
2G024
2G047
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA27
2G024CA13
2G024DA12
2G024FA04
2G024FA06
2G047AA06
2G047AC07
2G047BA04
2G047BC04
2G047BC11
2G047EA12
2G047GD02
2G047GF07
2G047GG20
2G047GG24
2G047GG32
2G047GG33
(57)【要約】
【課題】アンカーの非破壊検査における作業性の悪化を抑える。
【解決手段】周波数応答導出ステップでは、振動が印加された際のアンカーの周波数応答を導出する。周波数特性導出ステップでは、振動の振動周波数を変更しながら周波数応答導出ステップを繰り返し、アンカーの周波数特性を導出する。最大極大値取得ステップでは、上記周波数特性の最大の極大値と、対応する振動周波数とを取得する。ピックアップステップでは、上記周波数特性の極大値のうち、振動周波数が最大極大値取得ステップで取得した振動周波数より小さい極大値をピックアップする。傾き取得ステップでは、各極大値を目的変数とし、振動周波数を説明変数とした対数単回帰分析で得られる説明変数の係数を傾きとする。判定ステップでは、最大極大値取得ステップで取得した振動周波数および上記傾きの2つのパラメーターに基づいて、アンカーが劣化状態にあるか否かを判定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋設部分が構造物に埋設され、かつ、突出部分が前記構造物から突出された状態のアンカーに対し、当該アンカーが劣化状態にあるか否かを、前記構造物を破壊することなく判定する、アンカーの非破壊検査方法であって、
所定の振動周波数の振動が印加された際の前記アンカーの周波数応答を、当該アンカーの前記突出部分にセットされたセンサーの測定値に基づいて導出する周波数応答導出ステップ、
前記周波数応答導出ステップを、前記振動の振動周波数を変更しながら繰り返し実行することで、前記アンカーの周波数特性を導出する周波数特性導出ステップ、
前記周波数特性における最大の極大値と、この極大値に対応する振動周波数とを取得する最大極大値取得ステップ、
前記周波数特性における極大値のうち、極大値に対応する振動周波数が、前記最大極大値取得ステップで取得された振動周波数よりも小さいという条件を満たす極大値をピックアップするピックアップステップ、
前記最大極大値取得ステップで取得された極大値と、前記ピックアップステップでピックアップされた極大値とを目的変数とし、これらの極大値に対応する振動周波数を説明変数とした対数単回帰分析を行い、得られた説明変数の係数を傾きとして取得する傾き取得ステップ、
および、
前記最大極大値取得ステップで取得された振動周波数、および、前記傾きの2つのパラメーターに基づいて、前記アンカーが前記劣化状態にあるか否かを判定する判定ステップ、
を有している、
アンカーの非破壊検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたアンカーの非破壊検査方法であって、
前記判定ステップにおいて、前記最大極大値取得ステップで取得された振動周波数が所定の基準である第1の基準に照らして大であり、かつ、前記傾きの絶対値が前記第1の基準とは別に設定された基準である第2の基準に照らして大であることと同値な条件が成立する場合に、前記アンカーが前記劣化状態にあると判定する処理を実行する、
アンカーの非破壊検査方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたアンカーの非破壊検査方法であって、
前記振動を印加する手段として、スウィープ音を再生する振動スピーカーを使用する、
アンカーの非破壊検査方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載されたアンカーの非破壊検査方法であって、
前記振動を印加する手段として、1軸の前記振動を発生させる1軸加振機を使用し、
前記センサーとして、前記振動の測定における軸を1つ以上有する振動センサーを使用し、
前記1軸加振機と前記振動センサーとを互いに対向させて、当該振動センサーにおける測定の軸の1つを、前記1軸加振機が発生させる前記振動の軸に一致させた状態で、前記周波数応答導出ステップを実行する、
アンカーの非破壊検査方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載されたアンカーの非破壊検査方法であって、
前記センサーを前記突出部分において前記構造物から突出される先端にセットした状態で、前記周波数応答導出ステップを実行する、
アンカーの非破壊検査方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載されたアンカーの非破壊検査方法であって、
前記センサーとして、前記振動の加速度波形を測定する加速度計または前記振動の速度波形を測定する速度計のいずれかを使用する、
アンカーの非破壊検査方法。
【請求項7】
埋設部分が構造物に埋設され、かつ、突出部分が前記構造物から突出された状態のアンカーに対し、当該アンカーが劣化状態にあるか否かを、前記構造物を破壊することなく判定する、アンカーの非破壊検査装置であって、
前記アンカーに振動を印加することを、当該振動の振動周波数を変更しながら繰り返し実行する加振機と、
前記アンカーの前記突出部分にセットされるセンサーと、
前記振動が印加された際の前記アンカーの周波数応答を、前記センサーの測定値に基づいて導出する周波数応答導出手段と、
前記加振機が印加する前記振動の振動周波数と、前記周波数応答導出手段が導出する前記周波数応答とを対応付けて、前記アンカーの周波数特性を導出する周波数特性導出手段と、
前記周波数特性における最大の極大値と、この極大値に対応する振動周波数とを取得する最大極大値取得手段と、
前記周波数特性における極大値のうち、極大値に対応する振動周波数が、前記最大極大値取得手段が取得した振動周波数よりも小さいという条件を満たす極大値をピックアップするピックアップ手段と、
前記最大極大値取得手段が取得した極大値と、前記ピックアップ手段がピックアップした極大値とを目的変数とし、これらの極大値に対応する振動周波数を説明変数とした対数単回帰分析を行い、得られた説明変数の係数を傾きとして取得する傾き取得手段と、
前記最大極大値取得手段が取得した振動周波数、および、前記傾きの2つのパラメーターに基づいて、前記アンカーが前記劣化状態にあるか否かを判定する判定手段と、
を備えている、
アンカーの非破壊検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンカーの非破壊検査方法およびアンカーの非破壊検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本開示において、「アンカー」とは、その埋設部分が構造物に埋設され、かつ、この構造物から突出する突出部分が別の構造物に固定される構造材のことをいう。すなわち、本開示の「アンカー」には、例えば、片側の埋設部分がコンクリートの土台に埋設されるとともに、その反対側の突出部分が別の構造物に固定されるアンカーボルトが含まれる。また、「アンカー」には、例えば、コンクリートの躯体から鉄筋を上方に突出させた状態に設けられて、この躯体の上に打設される別のコンクリート構造物を上記躯体に固定させるアンカー筋が含まれる。また、「アンカー」には、例えば、アンカーボルトおよびアンカー筋の一方または両方が、複数本一体に組み合わされたアッセンブリである組アンカーが含まれる。また、「アンカー」には、例えば、地盤内に設けられた構造物であるアンカー体に一端が埋設されるとともに、他端がのり面上に設けられた構造物である擁壁に固定される線状体(いわゆる「テンドン」)が含まれる。また、「アンカー」には、例えば、片側の埋設部分が地盤構造物に埋設されるとともに、その反対側の突出部分が地盤構造物から突出されてのり面工に固定されるロックボルトが含まれる。また、「アンカー」には、例えば、下側の埋設部分が地盤構造物に埋設されるとともに、上側の突出部分が建築物の基礎に固定される基礎杭が含まれる。
【0003】
「アンカー」においては、その埋設部分が埋設される構造物を破壊することなく検査する非破壊検査方法についてのニーズがある。例えば、以下の特許文献1には、コンクリートに埋め込まれたアンカーボルトにおいてコンクリートから突出する上端部に角度ウェッジを介して垂直探触子を取り付け、その超音波探傷信号の反射エコー(反射波の波形)からアンカーボルトの劣化を判定する技術が開示されている。この技術では、垂直探触子を上下・左右方向に動かすことなく、垂直探触子が固定された角度ウェッジをアンカーボルトの上端部にて1回転させ、アンカーボルトの全周の探傷を行う。そして、この探傷において検出された、アンカーボルトの個々のねじ山から反射される反射エコーの高さから、アンカーボルトの劣化を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6088088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示された従来の技術では、アンカーボルトの上端部に凹凸または傾斜があると、角度ウェッジおよび垂直探触子がぐらついて正確な検出ができなくなり、ひいてはアンカーボルトの劣化を正しく判定することができなくなる。このため、上記従来の技術では、反射エコーを高い正確度で検出するために、アンカーボルトの上端部に凹凸または傾斜があるか否かを確認して、凹凸または傾斜がある場合にはアンカーボルトの上端部を平坦に磨き上げる作業を追加で行う必要があった。この作業は、アンカーの非破壊検査における作業性を悪化させるものである。
【0006】
本開示は、アンカーの非破壊検査における作業性の悪化が抑えられた、アンカーの非破壊検査方法およびアンカーの非破壊検査装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示における1つの側面によると、埋設部分が構造物に埋設され、かつ、突出部分が構造物から突出された状態のアンカーに対し、このアンカーが劣化状態にあるか否かを、構造物を破壊することなく判定する、アンカーの非破壊検査方法が提供される。このアンカーの非破壊検査方法は、それぞれ後述する周波数応答導出ステップ、周波数特性導出ステップ、最大極大値取得ステップ、ピックアップステップ、傾き取得ステップ、および、判定ステップを有している。ここで、周波数応答導出ステップでは、所定の振動周波数の振動が印加された際のアンカーの周波数応答を、このアンカーの突出部分にセットされたセンサーの測定値に基づいて導出する。また、周波数特性導出ステップでは、周波数応答導出ステップを、上記振動の振動周波数を変更しながら繰り返し実行することで、アンカーの周波数特性を導出する。また、最大極大値取得ステップでは、上記周波数特性における最大の極大値と、この極大値に対応する振動周波数とを取得する。また、ピックアップステップでは、上記周波数特性における極大値のうち、極大値に対応する振動周波数が、最大極大値取得ステップで取得された振動周波数よりも小さいという条件を満たす極大値をピックアップする。また、傾き取得ステップでは、最大極大値取得ステップで取得された極大値と、ピックアップステップでピックアップされた極大値とを目的変数とし、これらの極大値に対応する振動周波数を説明変数とした対数単回帰分析を行い、得られた説明変数の係数を傾きとして取得する。また、判定ステップでは、最大極大値取得ステップで取得された振動周波数、および、上記傾きの2つのパラメーターに基づいて、アンカーが劣化状態にあるか否かを判定する。
【0008】
ここで、本開示において単に「対数」と記載した場合には、底が1よりも大きいという条件を満たす対数を指すものとする。また、本開示において、「対数単回帰分析」とは、「説明変数を変更することなく、目的変数の対数(底が1よりも小さいか1よりも大きいかを問わない)を新たな目的変数とした単純線形回帰分析を行う処理」と同値となる処理のことをいう。
【0009】
本開示者は、正常なアンカーと劣化状態にあるアンカーとの差異が、アンカーの周波数特性における最大の極大値(ピーク)に対応する振動周波数が大きいことと、この振動周波数よりも振動周波数が小さい領域での、周波数特性の対数における傾きが大きいこととに表れることを見出して、本開示に至ったものである。すなわち、上記の方法によれば、アンカーの周波数特性における最大の極大値に対応する振動周波数の大きさおよび周波数特性の対数における傾きから、アンカーが劣化状態にあるか否かを判定する。したがって、上記の方法によれば、振動の反射波の波形を高い正確度で検出するための追加作業を不要にして、アンカーの非破壊検査における作業性の悪化を抑えることができる。
【0010】
1つの好ましい実施態様では、判定ステップにおいて、以下の処理を実行する。この処理では、最大極大値取得ステップで取得された振動周波数が所定の基準である第1の基準に照らして大であり、かつ、上記傾きの絶対値が第1の基準とは別に設定された基準である第2の基準に照らして大であることと同値な条件が成立する場合に、アンカーが劣化状態にあると判定する。
【0011】
上記の場合、判定ステップにおける判定を、単純条件による判定2つを組み合わせた、シンプルな処理とすることができる。
【0012】
別の好ましい実施態様では、振動を印加する手段として、スウィープ音を再生する振動スピーカーを使用する。
【0013】
ここで、「スウィープ音」とは、振動周波数が時間経過とともに段階的に大きくなっていく(または段階的に小さくなっていく)音のことをいう。また、「再生」とは、物に固定された音の情報を参照して、この音の情報に対応する音を発生させることをいう。
【0014】
上記の場合、振動スピーカーからのスウィープ音をアンカーに印加しながらセンサーによる測定を繰り返し、各測定値に基づいて周波数特性を導出することにより、上記周波数特性導出ステップを実行することができる。これにより、アンカーの非破壊検査方法を行う際の作業性を向上させることができる。また、振動スピーカーはスウィープ音を再生により発生させるものであるため、毎回同じスウィープ音を発生させることができる。これにより、アンカーに対する振動の印加条件をそろえて、この印加条件の違いが検査結果に及ぼす影響が抑えられた、アンカーの非破壊検査方法を提供することができる。
【0015】
別の好ましい実施態様では、振動を印加する手段として、1軸の振動を発生させる1軸加振機を使用する。また、センサーとして、振動の測定における軸を1つ以上有する振動センサーを使用する。そして、1軸加振機と振動センサーとを互いに対向させて、この振動センサーにおける測定の軸の1つを、1軸加振機が発生させる振動の軸に一致させた状態で、周波数応答導出ステップを実行する。
【0016】
この場合、1軸加振機が発生させる振動は、その軸方向から変向することなくセンサーに到達する。また、センサーは、1軸加振機が発生させる振動を、この振動の軸に一致された測定の軸のみによって測定することができる。これにより、1軸加振機が発生させる振動とは別の方向から作用する振動のノイズが検査結果に及ぼす影響が抑えられた、アンカーの非破壊検査方法を提供することができる。
【0017】
別の好ましい実施態様では、センサーを上記突出部分において構造物から突出される先端にセットした状態で、周波数応答導出ステップを実行する。
【0018】
アンカーにおいて、構造物から突出される突出部分は、構造物に埋設される埋設部分よりも振動しやすいものである。この傾向は、突出部分の先端において最も顕著となる。ここで、上記の場合には、センサーは、アンカーに作用する振動が最も大きくなる突出部分の先端における振動を測定する。これにより、センサーに入力される振動の大きさを大きくして、信号対雑音比の向上が図られた、アンカーの非破壊検査方法を提供することができる。
【0019】
別の好ましい実施態様では、センサーとして、振動の加速度波形を測定する加速度計または振動の速度波形を測定する速度計のいずれかを使用する。
【0020】
対象物に振動が印加された際の周波数応答の導出を可能とするセンサーには、振動の変位波形を測定する変位計、振動の速度波形を測定する速度計、および、振動の加速度波形を測定する加速度計の3種類が存在する。ここで、変位計は、「振動の印加により対象物が動いた結果」を捉えるものであるため、振動の印加のタイミングとセンサーの測定タイミングとの間に時間差が生じる。一方で、速度計は、「振動の印加による対象物の動き」を捉えるものであるため、振動の印加のタイミングとセンサーの測定タイミングとの間に時間差が生じにくい。また、加速度計は、「振動の印加に際し対象物に作用する力」を捉えるものであるため、振動の印加のタイミングとセンサーの測定タイミングとの間に時間差が生じにくい。したがって、上記の実施態様によれば、振動の印加のタイミングとセンサーの測定タイミングとの時間差が検査結果に及ぼす影響が抑えられた、アンカーの非破壊検査方法を提供することができる。
【0021】
本開示におけるもう1つの側面によると、埋設部分が構造物に埋設され、かつ、突出部分が構造物から突出された状態のアンカーに対し、このアンカーが劣化状態にあるか否かを、構造物を破壊することなく判定する、アンカーの非破壊検査装置が提供される。このアンカーの非破壊検査装置は、アンカーに振動を印加することを、この振動の振動周波数を変更しながら繰り返し実行する加振機を備えている。また、アンカーの非破壊検査装置は、アンカーの突出部分にセットされるセンサーを備えている。また、アンカーの非破壊検査装置は、振動が印加された際のアンカーの周波数応答を、センサーの測定値に基づいて導出する周波数応答導出手段を備えている。また、アンカーの非破壊検査装置は、加振機が印加する振動の振動周波数と、周波数応答導出手段が導出する周波数応答とを対応付けて、アンカーの周波数特性を導出する周波数特性導出手段を備えている。また、アンカーの非破壊検査装置は、上記周波数特性における最大の極大値と、この極大値に対応する振動周波数とを取得する最大極大値取得手段を備えている。また、アンカーの非破壊検査装置は、上記周波数特性における極大値のうち、極大値に対応する振動周波数が、最大極大値取得手段が取得した振動周波数よりも小さいという条件を満たす極大値をピックアップするピックアップ手段を備えている。また、アンカーの非破壊検査装置は、最大極大値取得手段が取得した極大値と、ピックアップ手段がピックアップした極大値とを目的変数とし、これらの極大値に対応する振動周波数を説明変数とした対数単回帰分析を行い、得られた説明変数の係数を傾きとして取得する傾き取得手段を備えている。また、アンカーの非破壊検査装置は、最大極大値取得手段が取得した振動周波数、および、上記傾きの2つのパラメーターに基づいて、アンカーが劣化状態にあるか否かを判定する判定手段を備えている。
【0022】
上記の非破壊検査装置は、アンカーの周波数特性における最大の極大値に対応する振動周波数の大きさおよび周波数特性の対数における傾きから、アンカーが劣化状態にあるか否かを判定する。したがって、上記の非破壊検査装置によれば、振動の反射波の波形を高い正確度で検出するための追加作業を不要にして、アンカーの非破壊検査における作業性の悪化を抑えることができる。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、アンカーの非破壊検査における作業性の悪化が抑えられた、アンカーの非破壊検査方法およびアンカーの非破壊検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態にかかる非破壊検査装置を模式的に表した図である。
図2図1のII部拡大図である。
図3】一実施形態にかかるアンカーの非破壊検査方法において実行される一連のステップを表したフローチャートである。
図4】コントロールとなる8セットの組アンカーにスウィープ音を印加した際の加速度波形を離散フーリエ変換することで得られるフーリエ振幅スペクトルを表したグラフである。
図5】切削摩耗した状態にある4セットの組アンカーにスウィープ音を印加した際の加速度波形を離散フーリエ変換することで得られるフーリエ振幅スペクトルを表したグラフである。
図6】周波数特性におけるピークに対応する振動周波数と、この振動周波数よりも振動周波数が小さい領域での、周波数特性の対数の傾きとの関係を見るための散布図である。
図7図6にてa点としてプロットしたデータにおけるフーリエ振幅スペクトルを表したグラフである。
図8図6にてb点としてプロットしたデータにおけるフーリエ振幅スペクトルを表したグラフである。
図9】非破壊検査装置におけるセンサーのセット位置の変形例を表した要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本開示を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0026】
始めに、一実施形態にかかる非破壊検査装置10の構成について、図1および図2を用いて説明する。この非破壊検査装置10は、図1に示すように、一部(図1の埋設部分90Bを参照)が基礎コンクリート92に埋設されたアンカー90が劣化状態にあるか否かを、基礎コンクリート92を破壊することなく判定するものである。
【0027】
ここで、「劣化状態」とは、その理由のいかんを問わず、対象物の曲げこわさが低下した状態のことをいう。すなわち、「劣化状態」は、例えば、対象物の表面における摩耗または剥落によって対象物の曲げこわさが低下した状態を含む。また、「劣化状態」は、例えば、対象物に生じた微視的または巨視的なスケールのクラック(cracks)によって対象物の曲げこわさが低下した状態を含む。また、「劣化状態」は、例えば、さびや塩害などの腐食によって対象物の曲げこわさが低下した状態を含む。また、「劣化状態」は、例えば、上記各状態が複合して対象物の曲げこわさが低下した状態を含む。本実施形態においては、非破壊検査装置10は、上記各状態を区別することなく、「劣化状態」として判定する。
【0028】
基礎コンクリート92は、図1に示すように、地面94の中に打設されて、その上に設けられる柱脚93を支持する構造物である。本実施形態においては、柱脚93は、その下端にベースプレート93Aを備えた、基礎コンクリート92とは別体の構造物である。柱脚93は、例えば、道路照明灯を支持するための柱脚、または、道路情報表示装置を支持するための柱脚であってよい。また、基礎コンクリート92の上面とベースプレート93Aの下面との間には、目地材としてのモルタル92Aが充填されている。なお、以下においては、基礎コンクリート92、アンカー90、モルタル92A、および柱脚93が組み合わされてなる混合構造物のことを「混合構造物93B」とも称する。
【0029】
アンカー90は、複数本のアンカーボルト91と複数本の鉄筋90Aとをかご状に組み合わせた、金属製の組アンカーである。各アンカーボルト91は、そのねじ部91Aを上に向け、同じく頭部91Bを下に向けた状態に配設される。各鉄筋90Aは、アンカーボルト91の間に水平にかけ渡されて、これらのアンカーボルト91を連結する。本実施形態においては、各アンカーボルト91は、その上下方向の位置が揃えられた状態に配設される。また、鉄筋90Aは、各アンカーボルト91の頭部91Bにおいて上下方向に離れた3か所のそれぞれに1本ずつ配設される。
【0030】
各アンカーボルト91のねじ部91Aは、基礎コンクリート92の上面から上方に突出し、モルタル92Aおよびベースプレート93Aを貫通する。すなわち、各ねじ部91Aは、本開示における「突出部分」に相当する。本実施形態においては、各アンカーボルト91は、そのねじ部91Aに螺合されたナット91C、91Dがベースプレート93Aを上下両側から挟み込む構成により、ベースプレート93Aに固定される。なお、以下においては、ねじ部91Aにおいてモルタル92Aを貫通する部分のことを「根元部分91E」とも称する。
【0031】
また、アンカー90において、各ねじ部91Aよりも下側の部分は、基礎コンクリート92に埋設された埋設部分90Bとされている。言いかえると、アンカー90は、その埋設部分90Bが基礎コンクリート92に埋設され、かつ、各ねじ部91Aが基礎コンクリート92から突出された状態にある。
【0032】
非破壊検査装置10は、振動スピーカー11と、センサー12と、コンピューター13とを備えている。振動スピーカー11は、図2に示すように、その接触板11Aを対象物(図2ではアンカーボルト91のねじ部91A)に接触させた状態で、この対象物に1軸の振動11Bを印加することで、対象物から音を響かせるものである。すなわち、振動スピーカー11は、本開示における「1軸加振機」に相当する。
【0033】
振動スピーカー11は、コンピューター13(図1参照)に接続されて、このコンピューター13によって指定された音を再生する。本実施形態において、振動スピーカー11は、振動周波数が時間経過とともに段階的に大きくなっていくスウィープ音を再生する。この際、振動スピーカー11は、アンカー90のねじ部91Aに振動11Bを印加することを、その振動周波数が段階的に大きくなるように変更しながら繰り返し実行する。すなわち、振動スピーカー11は、本開示における「加振機」に相当する。
【0034】
センサー12は、図2に示すように、3軸(X軸、Y軸、Z軸)の振動センサーであり、アンカー90のねじ部91Aにおいて、このねじ部91Aを振動スピーカー11とともに挟み込む位置にセットされる。センサー12は、そのX軸方向が振動スピーカー11に向かう水平方向(図2では左右方向)となり、同じくY軸方向がX軸方向に対して直角な水平方向(図2では紙面に垂直な方向)となり、同じくZ軸方向が上下方向(図2では上下方向)となるように設置される。本実施形態においては、センサー12は、その3軸のそれぞれで振動の加速度波形を測定し、その測定値をコンピューター13(図1参照)に出力する加速度計である。
【0035】
ここで、センサー12は、そのX軸方向正側(図2では右側)の側面をねじ部91Aに接触させた状態にセットされる。また、振動スピーカー11は、センサー12とともにアンカー90のねじ部91Aを挟み込む位置において、このねじ部91Aに接触板11Aを接触させた状態にセットされる。これにより、振動スピーカー11とセンサー12とは互いに対向する。本実施形態においては、センサー12は、その測定の軸の1つであるX軸12Aを、振動スピーカー11が発生させる振動11Bの軸11Cに一致させた状態にセットされる。
【0036】
コンピューター13は、外部との間で情報の入出力を行うヒューマンマシンインターフェースであるタッチパネル13Bと、種々のデータおよびプログラムをコンピュータ読み取りが可能な態様で記録する記録媒体13Aとを備えている。この記録媒体13Aには、振動スピーカー11が再生するスウィープ音のファイルが記録されている。言いかえると、記録媒体13Aは、振動スピーカー11によるスウィープ音の再生にあたり、振動スピーカー11が参照する音の情報が固定された物である。
【0037】
また、記録媒体13Aには、コンピューター13を後述する各手段として機能させるためのプログラム(以下、単に「プログラム」とも称する。)が記録されている。これらの各手段は、非破壊検査装置10に、アンカー90が劣化状態にあるか否かを、基礎コンクリート92を破壊することなく判定する、アンカーの非破壊検査方法を実行する機能を実現させる。
【0038】
ここで、上記アンカーの非破壊検査方法において、プログラムがコンピューター13に実行させる一連の各ステップについて、図3に示すフローチャートを用いて説明する。この一連の各ステップをコンピューター13に実行させるにあたっては、技術者は、前もって、ステップS10を実行しておく。
【0039】
ステップS10において、技術者は、上述した非破壊検査装置10のセッティングを行う。また、技術者は、振動スピーカー11、センサー12、およびコンピューター13のそれぞれについてスイッチを入れ、コンピューター13においてプログラムが起動された場合に、その一連の各ステップが滞りなく実行されるように準備を行う。そして、技術者は、プログラムを起動させる。これに対し、コンピューター13は、まず、ステップS20を実行する。
【0040】
ステップS20において、コンピューター13は、記録媒体13Aに記録されたスウィープ音のファイルを指定し、振動スピーカー11によるスウィープ音の再生を開始させる。そして、コンピューター13は、その処理をステップS30に進める。
【0041】
これに対し、振動スピーカー11は、コンピューター13に指定されたファイルの情報を参照して、この情報にて規定される所定の時間だけスウィープ音を再生する。本実施形態においては、振動スピーカー11は、現時点で振動11Bとして発生させている音の情報と、スウィープ音の再生における再生位置の情報とをコンピューター13に出力しながら、スウィープ音の再生を行う。
【0042】
ステップS30において、コンピューター13は、後述するステップS40の処理を繰り返し実行する。この繰り返しは、振動スピーカー11によるスウィープ音の再生が終了するまでの間実行される。なお、コンピューター13は、振動スピーカー11によるスウィープ音の再生が終了すると、ステップS30の繰り返し処理をストップさせてその処理をステップS50に進める。
【0043】
本実施形態においては、コンピューター13は、振動スピーカー11が出力する再生位置の情報に基づいて、振動スピーカー11によるスウィープ音の再生が終了したか否かを判定する。
【0044】
ステップS40において、コンピューター13は、現時点で振動スピーカー11が振動11Bとして発生させている音の情報を取得し、この情報から振動11Bの振動周波数を抽出する。また、コンピューター13は、現時点でのセンサー12の測定値を取得し、この測定値からセンサー12が測定した振動の振動周波数を抽出する。そして、コンピューター13は、振動11Bの振動周波数と、センサー12が測定した振動の振動周波数とを対比して、アンカー90の周波数応答を導出する。言いかえると、コンピューター13は、所定の振動周波数の振動11Bが印加された際のアンカー90の周波数応答を、このアンカー90のねじ部91Aにセットされたセンサー12の測定値に基づいて導出する。すなわち、ステップS40は、本開示における「周波数応答導出ステップ」に相当する。また、ステップS40を実行しているコンピューター13は、本開示における「周波数応答導出手段」に相当する。
【0045】
ここで、振動スピーカー11が発生させている振動11Bは、振動周波数が時間経過とともに段階的に大きくなっていくスウィープ音の振動である。したがって、ステップS30の繰り返し処理においては、ステップS40(周波数応答導出ステップ)が、振動11Bの振動周波数を変更しながら繰り返し実行される。ここで、異なる振動周波数ごとに導出された周波数応答の集合は、周波数特性そのものである。このため、ステップS30の繰り返し処理においては、アンカー90の周波数特性が導出されることとなる。すなわち、ステップS30の繰り返し処理は、本開示における「周波数特性導出ステップ」に相当する。また、ステップS30の繰り返し処理を実行しているコンピューター13は、振動スピーカー11が印加する振動11Bの振動周波数と、ステップS40を実行しているコンピューター13(周波数応答導出手段)が導出する周波数応答とを対応付けて、アンカー90の周波数特性を導出する周波数特性導出手段であるということができる。
【0046】
ステップS50において、コンピューター13は、直前に実行されたステップS30の繰り返し処理にて導出されたアンカー90の周波数特性を分析し、この周波数特性における最大の極大値(以下、「最大極大値」とも称する。)と、この最大極大値に対応する振動周波数とを取得する。そして、コンピューター13は、その処理をステップS60に進める。ここで、ステップS50は、本開示における「最大極大値取得ステップ」に相当する。また、ステップS50を実行しているコンピューター13は、本開示における「最大極大値取得手段」に相当する。
【0047】
ステップS60において、コンピューター13は、直前に実行されたステップS50にて分析した周波数特性における極大値のうち、所定のピックアップ条件を満たす極大値(以下、「ピックアップ極大値」とも称する。)をすべてピックアップする。このピックアップ条件は、具体的には、「極大値に対応する振動周波数が、ステップS50(最大極大値取得ステップ)で取得された、最大極大値に対応する振動周波数よりも小さい」という条件である。そして、コンピューター13は、その処理をステップS70に進める。ここで、ステップS60は、本開示における「ピックアップステップ」に相当する。また、ステップS60を実行しているコンピューター13は、本開示における「ピックアップ手段」に相当する。
【0048】
ステップS70において、コンピューター13は、上記最大極大値および上記ピックアップ極大値のそれぞれを目的変数とし、これらの極大値に対応する振動周波数を説明変数とした対数単回帰分析を行う。また、コンピューター13は、上記対数単回帰分析で得られた説明変数の係数を傾きとして取得する。そして、コンピューター13は、その処理をステップS80に進める。ここで、ステップS70は、本開示における「傾き取得ステップ」に相当する。また、ステップS70を実行しているコンピューター13は、本開示における「傾き取得手段」に相当する。
【0049】
本実施形態においては、傾き取得ステップで対数単回帰分析を実行する際の対数として、その底が1よりも大きな値となる対数を使用する。また、上記最大極大値はアンカー90の周波数特性における最大の極大値であるため、上記ピックアップ極大値は、必ず上記最大極大値よりも小さな値をとる。このため、本実施形態の傾き取得ステップで取得される傾きは、必ず正の値をとる。
【0050】
ステップS80において、コンピューター13は、上記最大極大値に対応する振動周波数が第1の基準に照らして大であるか否かを判定する第1の判定を行う。また、コンピューター13は、上記傾きの絶対値が第2の基準に照らして大であるか否かを判定する第2の判定を行う。ここで、第1の基準と第2の基準とは、それぞれが別個に設定された所定の基準である。本実施形態においては、第1の基準および第2の基準のそれぞれに、定数である基準値を用いる。
【0051】
なお、本実施形態の傾き取得ステップで取得される傾きは、上述もしたように、必ず正の値をとる。このため、「上記傾きの絶対値が第2の基準に照らして大である」という条件は、「上記傾きが第2の基準に照らして大である」という条件と同値な条件である。したがって、上記第2の判定は、「上記傾きが第2の基準に照らして大であるか否かを判定する処理」に置き換えてもよい。
【0052】
上記第1の判定の判定結果および第2の判定の判定結果がいずれも「大である」となった場合(またはこれと同値な条件が成立する場合)には、コンピューター13は、アンカー90が劣化状態にあると判定する。また、上記第1の判定の判定結果および第2の判定の判定結果において、少なくとも一方が「大でない」となった場合には、コンピューター13は、アンカー90が劣化状態にないと判定する。
【0053】
アンカー90が劣化状態にあるか否かの判定を行ったコンピューター13は、その処理をステップS90に進める。ここで、ステップS80は、上記最大極大値に対応する振動周波数、および、上記傾きの2つのパラメーターに基づいて、アンカー90が劣化状態にあるか否かを判定するステップであり、本開示における「判定ステップ」に相当する。また、ステップS80を実行しているコンピューター13は、本開示における「判定手段」に相当する。
【0054】
ステップS90において、コンピューター13は、直前に実行されたステップS80にて行った、アンカー90が劣化状態にあるか否かの判定の判定結果を、タッチパネル13Bに出力する。そして、コンピューター13は、プログラムによる一連の処理を終了させる。
【0055】
上述したアンカーの非破壊検査方法(以下、単に「方法」とも称する。)によれば、アンカー90の周波数特性における最大極大値に対応する振動周波数の大きさおよび周波数特性の対数における傾きから、アンカー90が劣化状態にあるか否かを判定する。したがって、方法によれば、振動の反射波の波形を高い正確度で検出するための追加作業を不要にして、アンカー90の非破壊検査における作業性の悪化を抑えることができる。
【0056】
また、方法によれば、判定ステップにおける判定を、単純条件による判定2つ(すなわち、第1の判定および第2の判定)を組み合わせた、シンプルな処理とすることができる。
【0057】
また、方法によれば、振動スピーカー11からのスウィープ音をアンカー90に印加しながらセンサー12による測定を繰り返し、各測定値に基づいて周波数特性を導出することにより、周波数特性導出ステップを実行することができる。これにより、方法を行う際の作業性を向上させることができる。また、振動スピーカー11はスウィープ音を再生により発生させるものであるため、毎回同じスウィープ音を発生させることができる。これにより、アンカー90に対する振動11Bの印加条件をそろえて、この印加条件の違いが検査結果に及ぼす影響を抑えることができる。
【0058】
また、方法によれば、振動スピーカー11が発生させる振動11Bは、その軸11Cの軸方向から変向することなくセンサー12に到達する。また、センサー12は、振動スピーカー11が発生させる振動11Bを、この振動11Bの軸11Cに一致された、測定のX軸12Aのみによって測定することができる。これにより、振動スピーカー11が発生させる振動11Bとは別の方向から作用する振動のノイズが検査結果に及ぼす影響を抑えることができる。
【0059】
ところで、アンカー90において、基礎コンクリート92から突出されるねじ部91Aは、基礎コンクリート92に埋設される埋設部分90Bよりも振動しやすいものである。ここで、方法によれば、振動スピーカー11が発生させる振動11Bは、アンカー90のねじ部91Aに直接作用する。また、振動スピーカー11が発生させる振動11Bがアンカー90に作用した結果としての振動は、振動スピーカー11とともにねじ部91Aを挟み込むセンサー12に直接入力される。これにより、センサー12に入力される振動の大きさを大きくして、信号対雑音比の向上を図ることができる。
【0060】
また、方法においては、センサー12として振動の加速度波形を測定する加速度計を使用する。ここで、加速度計は、「振動の印加に際し対象物に作用する力」を捉えるものであるため、振動11Bの印加のタイミングとセンサー12の測定タイミングとの間に時間差が生じにくい。これは、「振動の印加により対象物が動いた結果」を捉える変位計において、振動の印加のタイミングとセンサーの測定タイミングとの間に時間差が生じるのと対照的である。したがって、方法によれば、振動11Bの印加のタイミングとセンサー12の測定タイミングとの時間差が検査結果に及ぼす影響を抑えることができる。
【0061】
また、上述した非破壊検査装置10は、アンカー90の周波数特性における最大極大値に対応する振動周波数の大きさおよび周波数特性の対数における傾きから、アンカー90が劣化状態にあるか否かを判定する。したがって、非破壊検査装置10によれば、振動の反射波の波形を高い正確度で検出するための追加作業を不要にして、アンカー90の非破壊検査における作業性の悪化を抑えることができる。
【0062】
さて、本開示者は、「正常なアンカーと劣化状態にあるアンカーとの差異が、アンカーの周波数特性における最大の極大値(ピーク)に対応する振動周波数が大きいことと、この振動周波数よりも振動周波数が小さい領域での周波数特性の対数の傾きが大きいこととに表れる」という知見を見出して、本開示に至ったものである。この知見は、本開示者が種々の研究を行うことにより新しく発見した知見である。以下、本開示者が上記知見を発見するもととなった研究の1つについて、主に図4ないし図8を用いて説明する。
【0063】
本開示者は、上述したアンカー90(図1参照)と同様の構成を有する組アンカーを12セット用意し、これらの組アンカーを8セットの「組アンカーA」と4セットの「組アンカーB」とに無作為に振り分けた。また、本開示者は、各組アンカーBについて、その突出部分たるねじ部の根元部分(アンカー90の根元部分91Eに対応する部分)のねじ山を切削加工し、このねじ山を切削摩耗した状態とした。なお、本開示者は、各組アンカーAについては、コントロールとするために何の処置も行わなかった。
【0064】
続いて、本開示者は、8セットの組アンカーAを1つずつ使用して、上述した混合構造物93B(図1参照)と同様の構成を有する混合構造物(以下、「混合構造物A」とも称する。)を8つ作成した。同様に、本開示者は、4セットの組アンカーBを1つずつ使用して、混合構造物93Bと同様の構成を有する混合構造物(以下、「混合構造物B」とも称する。)を4つ作成した。
【0065】
続いて、本開示者は、8つの混合構造物Aのそれぞれについて、上述した非破壊検査装置10(図1参照)と同様の構成を有する装置Aをセッティングし、その振動スピーカーからスウィープ音を組アンカーAの突出部分に印加した。そして、本開示者は、装置Aのセンサーにおける各軸の測定値(加速度波形)を離散フーリエ変換することで、各測定値のフーリエ振幅スペクトル(図4参照)を導出した。このフーリエ振幅スペクトルは、組アンカーAの周波数特性に対応するパラメーターである。
【0066】
同様に、本開示者は、4つの混合構造物Bのそれぞれについて、非破壊検査装置10と同様の構成を有する装置Bをセッティングし、その振動スピーカーからスウィープ音を組アンカーBの突出部分に印加した。そして、本開示者は、装置Bのセンサーにおける各軸の測定値(加速度波形)を離散フーリエ変換することで、各測定値のフーリエ振幅スペクトル(図5参照)を導出した。このフーリエ振幅スペクトルは、組アンカーBの周波数特性に対応するパラメーターである。
【0067】
図4および図5の各グラフを対応させて比較する。組アンカーAの周波数特性に対応するフーリエ振幅スペクトル(図4参照)においては、最大の極大値(ピーク)に対応する振動周波数は、1500[Hz]~5000[Hz]程度の比較的広い範囲にばらついて存在している。また、組アンカーAのフーリエ振幅スペクトルには、その値(振幅)が、振動周波数が小さくなるほど大きくなるという傾向がみられる。
【0068】
一方、組アンカーBの周波数特性に対応するフーリエ振幅スペクトル(図5参照)においては、最大の極大値(ピーク)に対応する振動周波数は、3000[Hz]~4000[Hz]程度の比較的狭い範囲に集まって存在している。また、組アンカーBのフーリエ振幅スペクトルには、上記ピークよりも振動周波数が小さい領域において、振動周波数が小さくなるほどフーリエ振幅スペクトルの値(振幅)が小さくなるという傾向がみられる。
【0069】
ここから、本開示者は、「周波数特性におけるピークに対応する振動周波数(以下、「ピーク振動周波数」とも称する。)」および「ピーク振動周波数よりも振動周波数が小さい領域での周波数特性の対数の傾き(以下、単に「傾き」とも称する。)」の2つのパラメーターに着目した。
【0070】
そこで、本開示者は、組アンカーAの周波数特性に対応する各測定値のフーリエ振幅スペクトル(図4参照)について、その対数のグラフ95(図7参照)をプロットした。また、本開示者は、グラフ95におけるピーク95Aおよびピーク振動周波数95B、ならびに、ピーク振動周波数95Bよりも振動周波数が小さい領域95Cにおける極大値95Dをピックアップした。そして、本開示者は、ピックアップした各データからピーク95Aおよび各極大値95Dの回帰直線95Eを求め、その傾きとピーク振動周波数95Bとをもって散布図(図6参照)へのプロットを行った。このプロットは、図6においては、「コントロール」と表示されている。
【0071】
同様に、本開示者は、組アンカーBの周波数特性に対応する各測定値のフーリエ振幅スペクトル(図5参照)について、その対数のグラフ96(図8参照)をプロットした。また、本開示者は、グラフ96におけるピーク96Aおよびピーク振動周波数96B、ならびに、ピーク振動周波数96Bよりも振動周波数が小さい領域96Cにおける極大値96Dをピックアップした。そして、本開示者は、ピックアップした各データからピーク96Aおよび各極大値96Dの回帰直線96Eを求め、その傾きとピーク振動周波数96Bとをもって上記と同じ散布図(図6参照)にプロットした。このプロットは、図6においては、「切削摩耗」と表示されている。
【0072】
図6を検討する。「ピーク振動周波数」のみに着目すると、「切削摩耗」のピーク振動周波数は、3000[Hz]~4000[Hz]程度の比較的狭い範囲に集まって存在している。これに対し、「コントロール」のピーク振動周波数は、1500[Hz]~5000[Hz]程度の比較的広い範囲にばらついて存在している。これは、「ピーク振動周波数」のみに着目した場合、「切削摩耗」と「コントロール」とを区別することができないことを意味する。
【0073】
一方で、「ピーク振動周波数」および「傾き」の両方に着目すると、「切削摩耗」は、ピーク振動周波数が3000[Hz]~4000[Hz]程度で、かつ、傾きが0.007よりも大きい範囲内のみに存在している。これに対し、「コントロール」は、ピーク振動周波数が3000[Hz]よりも大きい場合には、傾きが0.007よりも小さい範囲内のみに存在している。ただし、ピーク振動周波数が2500[Hz]よりも小さい場合には、「コントロール」の傾きは、0~0.05という比較的広い範囲にばらついて存在している。これは、「ピーク振動周波数」および「傾き」の両方に着目した場合には、「切削摩耗」と「コントロール」とを区別することができることを意味する。
【0074】
以上、本開示を実施するための形態について、上述した一実施形態によって説明した。しかしながら、当業者であれば、本開示の目的を逸脱することなく種々の代用、手直し、変更が可能であることは明らかである。すなわち、本開示を実施するための形態は、本明細書に添付した特許請求の範囲の精神および目的を逸脱しない全ての代用、手直し、変更を含みうるものである。例えば、本開示を実施するための形態として、以下のような各種の形態を実施することができる。
【0075】
(1)本開示において、劣化状態にあるか否かの判定対象となる「アンカー」は、複数本のアンカーボルト91が組み合わされたアンカー90(組アンカー)に限定されず、適宜に変更することができる。すなわち、本開示は、例えばアンカーボルトに加えて(またはアンカーボルトに代えて)アンカー筋が組み合わされた組アンカーが劣化状態にあるか否かを判定するものであってもよい。また、本開示は、例えば単体で使用されるアンカーボルトやアンカー筋が劣化状態にあるか否かを判定するものであってもよい。また、本開示は、例えばグラウンドアンカー工法に使用されるテンドンや鉄筋挿入補強土工法に使用されるロックボルトが劣化状態にあるか否かを判定するものであってもよい。また、本開示は、例えば杭基礎に用いられる基礎杭が劣化状態にあるか否かを判定するものであってもよい。この場合において、基礎杭は、例えば金属製であってもコンクリート製であってもよい。
【0076】
(2)本開示において、センサーのセットの態様は、上述した一実施形態によって説明した態様に限定されない。すなわち、本開示においては、例えば3軸のセンサーにおける測定の軸を、振動スピーカーによる振動の軸からずらした状態とし、該センサーにおける3軸の各測定値を分析することで、振動スピーカーによる振動の測定値を得る手法を採用することができる。
【0077】
上記の手法においては、アンカーの突出部分において構造物から突出される先端にセンサーをセットした状態(図9においてアンカー90のねじ部91Aの先端にセットされたセンサー12を参照)で、周波数応答導出ステップを実行することが好ましい。すなわち、アンカーにおいて、構造物から突出される突出部分は、構造物に埋設される埋設部分よりも振動しやすいものである。この傾向は、突出部分の先端において最も顕著となる。ここで、上記の場合には、センサーは、アンカーに作用する振動が最も大きくなる突出部分の先端における振動を測定する。これにより、センサーに入力される振動の大きさを大きくして、信号対雑音比の向上が図られた、アンカーの非破壊検査方法を提供することができる。
【0078】
(3)本開示において、アンカーに対する振動の印加の態様は、振動周波数が時間経過とともに段階的に大きくなっていくスウィープ音を、振動スピーカーによってアンカーに印加する態様に限定されない。すなわち、振動スピーカーによってアンカーに印加する振動は、例えば振動周波数が時間経過とともに段階的に小さくなっていくスウィープ音の振動であっても、振動周波数が時間経過とともに大きくなったり小さくなったりする音の振動であってもよい。また、アンカーに印加する振動は、例えばハンマーの叩打による振動であってもよい。この場合においては、ハンマーによる叩打位置は、適宜に変更してもよい。
【0079】
(4)本開示において、アンカーの突出部分にセットされるセンサーは、3軸(X軸、Y軸、Z軸)の加速度計に限定されない。すなわち、本開示において使用されるセンサーは、振動の変位波形を測定する変位計または振動の速度波形を測定する速度計であってもよい。ここで、速度計は、「振動の印加による対象物の動き」を捉えるものであるため、振動の印加のタイミングとセンサーの測定タイミングとの間に時間差が生じにくい。これは、「振動の印加により対象物が動いた結果」を捉える変位計において、振動の印加のタイミングとセンサーの測定タイミングとの間に時間差が生じるのと対照的である。したがって、センサーとして速度計を採用する手法によれば、振動の印加のタイミングとセンサーの測定タイミングとの時間差が検査結果に及ぼす影響を抑えることができる。また、本開示において使用されるセンサーは、例えば1軸または2軸の振動センサーであってもよい。
【0080】
(5)上述した一実施形態では、傾き取得ステップで対数単回帰分析を実行する際の対数として、その底が1よりも大きな値となる対数を使用している。しかしながら、傾き取得ステップで対数単回帰分析を実行する際の対数の底は、1よりも小さな正数であってもよい。この場合、傾き取得ステップで取得される傾きの正負が逆転することになるが、判定ステップにおいては、「傾きの絶対値」と第2の基準とを対比するため、上述した一実施形態と同様の判定を行うことができる。
【0081】
(6)本開示において、判定ステップは、上述した第1の判定および第2の判定の組み合わせによるものに限定されない。例えば、判定対象のアンカーと同種のアンカーについて、その周波数特性における最大の極大値に対応する振動周波数の大きさおよび周波数特性の対数における傾きと、アンカーが劣化状態にあるか否かの情報との対応がつけられた標本データが多数存在する場合を考えることができる。これらの標本データの中に、劣化状態にあるアンカーの標本データと、正常なアンカーの標本データと、がそれぞれ含まれているときには、判定ステップを、「判定対象のアンカーが劣化状態にない」という帰無仮説を棄却できるか否かを検討する仮説検定の処理とすることができる。
【符号の説明】
【0082】
10 非破壊検査装置
11 振動スピーカー(1軸加振機、加振機)
11A 接触板
11B 振動
11C 軸
12 センサー(振動センサー、加速度計)
12A X軸(軸)
13 コンピューター(周波数応答導出手段、周波数特性導出手段、最大極大値取得手段、ピックアップ手段、傾き取得手段、判定手段)
13A 記録媒体
13B タッチパネル
90 アンカー
90A 鉄筋
90B 埋設部分
91 アンカーボルト
91A ねじ部(突出部分)
91B 頭部
91C ナット
91D ナット
91E 根元部分
92 基礎コンクリート(構造物)
92A モルタル
93 柱脚
93A ベースプレート
93B 混合構造物
94 地面
95 グラフ
95A ピーク
95B ピーク振動周波数
95C 領域
95D 極大値
95E 回帰直線
96 グラフ
96A ピーク
96B ピーク振動周波数
96C 領域
96D 極大値
96E 回帰直線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9