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特開2025-6346セルロースナノファイバー含有カルボキシ変性ポリオレフィン及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006346
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー含有カルボキシ変性ポリオレフィン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/26 20250101AFI20250109BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20250109BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C08L23/26
C08L1/02
C08J5/04 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107079
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000115980
【氏名又は名称】レンゴー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(74)【代理人】
【識別番号】100166796
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 雅至
(72)【発明者】
【氏名】片桐 駿平
(72)【発明者】
【氏名】土屋 大樹
(72)【発明者】
【氏名】久保 純一
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
【Fターム(参考)】
4F072AA08
4F072AB03
4F072AD04
4F072AH23
4F072AJ04
4F072AK14
4J002AB01Y
4J002BB15W
4J002BB21X
4J002CD05Z
4J002DE108
4J002EK037
4J002ER006
4J002FD146
4J002FD147
4J002FD14Z
4J002FD158
4J002GG00
4J002GL00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】セルロースナノファイバーを分散させる樹脂組成物の補強にあたり、熱的安定性を向上させる。
【解決手段】カルボキシ変性ポリオレフィンと多官能性硬化剤とが架橋した架橋反応物と、セルロースナノファイバーと、を有するセルロースナノファイバー含有組成物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ変性ポリオレフィンと多官能性硬化剤とが架橋した架橋反応物と、
セルロースナノファイバーと、を有するセルロースナノファイバー含有組成物。
【請求項2】
カルボキシ変性ポリオレフィンと多官能性硬化剤とが架橋した架橋反応物と、
セルロースナノファイバーと、
疎水性樹脂と、を有する樹脂組成物。
【請求項3】
水系のカルボキシ変性ポリオレフィンと、セルロースナノファイバー含有スラリーと、多官能性硬化剤とを混合し、乾燥する、セルロースナノファイバー含有組成物の製造方法。
【請求項4】
水系のカルボキシ変性ポリオレフィンと、セルロースナノファイバー含有スラリーと、多官能性硬化剤とを混合し、乾燥して、セルロースナノファイバー含有組成物を調製し、
前記セルロースナノファイバー含有組成物を、疎水性樹脂に添加して混練して、前記セルロースナノファイバーを分散させる、樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のセルロースナノファイバー含有組成物を、疎水性樹脂に添加して混練して、前記セルロースナノファイバーを分散させる、樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セルロースナノファイバーを用いて樹脂に対する補強効果を発揮する補強材及び補強された樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
植物繊維をナノレベルにまで細かく解繊したセルロースナノファイバーは、ガラス繊維よりも熱変形が小さく、高強度かつ低熱膨張率という特徴を有する。こういった特徴から、樹脂やゴムに対する補強材としてガラス繊維以上の補強効果が期待される。ただし、セルロースは親水性であるので、疎水性が高く極性が小さい樹脂やゴムとは親和性が低く、分散しにくいという問題がある。
【0003】
これに対して、セルロースナノファイバーに官能基を導入して表面改質することで、樹脂やゴムに対する分散性を向上する技術が報告されている。ただし、セルロースナノファイバーに解繊した後から官能基を導入する工程は煩雑であり、作業負荷が大きかった。
【0004】
特許文献1には、セルロースナノファイバーに界面活性剤を加えた乾燥体を酸変性ポリプロピレンやポリオレフィン系樹脂と混合した後、溶融混練した樹脂組成物が提案されている。この樹脂組成物では、水分散状態で得られるセルロースナノファイバーを、疎水性樹脂であるポリオレフィン系樹脂中に高分散して、疎水性樹脂の物性を向上させている。
【0005】
特許文献2には、セルロースナノファイバーの水懸濁液を、カルボキシ基を含有するポリオレフィンの水系エマルションと混合した後、酸を添加してポリオレフィンを析出させた組成物が提案されている。この組成物は、含有しているセルロースナノファイバーの分散性が高く、他の疎水性樹脂へ混合しやすいという特徴を有する。
【0006】
また、特許文献3には、変性ポリオレフィンとセルロースナノファイバーと非極性ゴムとを有し、変性ポリオレフィンと非極性ゴムとを架橋し、セルロースナノファイバーを分散させたロール用ゴム加硫物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6889358号公報
【特許文献2】特許第6591304号公報
【特許文献3】特許第7235257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、セルロースナノファイバーの凝集を防ぐために界面活性剤を加えて噴霧乾燥する必要があり、工程が煩雑になるうえに、界面活性剤が樹脂組成物の熱的安定性等を損なうおそれがあった。
【0009】
また、特許文献2に記載の組成物は、カルボキシ基を有する酸変性ポリオレフィンとして酸価が50mg/KOH以下かつ、融点が80℃以上である必要があった。酸価が高すぎると、得られる樹脂組成物の物性が劣ったり、耐水性がなかったりしてしまい、融点が低すぎると、得られる樹脂組成物の強度が低下しやすくなるためである。これらの条件から、特許文献2の組成物を補強材として使用できる樹脂の種類が限定される上に、得られる樹脂組成物の熱的安定性が低いという問題があった。
【0010】
さらに、特許文献3に記載のゴム加硫物は、熱的安定性が不十分で、使用される用途が制限されるおそれがあった。
【0011】
そこでこの発明は、セルロースナノファイバーを含有し、樹脂に添加して補強効果を発揮する樹脂組成物について、利用できる酸変性ポリオレフィンの種類を増加させるとともに、樹脂の熱的安定性を向上させて、セルロースナノファイバーによる補強効果を十分に発揮させた樹脂組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、カルボキシ変性ポリオレフィンと多官能性硬化剤とが架橋した架橋反応物と、セルロースナノファイバーと、を有するセルロースナノファイバー含有組成物により、上記の課題を解決したのである。
【0013】
すなわち、セルロースナノファイバーを分散させて保持する役割を持つカルボキシ変性ポリオレフィンを、多官能性硬化剤で架橋した架橋反応物とすることで、セルロースナノファイバーの分散性を良好な状態で保持したまま、カルボキシ変性ポリオレフィン自体の熱的安定性を向上させることができる。これにより、セルロースナノファイバー含有組成物を疎水性樹脂に添加した樹脂組成物に対して、熱的安定性を確保しながら、良好な分散状態で導入されるセルロースナノファイバーによって高い補強効果を発揮するようになった。
【0014】
この発明にかかるセルロースナノファイバー含有組成物を製造する手順としては、水系のカルボキシ変性ポリオレフィンエマルションと、セルロースナノファイバー含有スラリーと、多官能性硬化剤とを混合し、加熱して乾燥することによって得られる。このときの熱を利用して多官能性硬化剤がカルボキシ変性ポリオレフィンを架橋することで、このセルロースナノファイバー含有組成物を配合した樹脂の熱的安定性を高めるように作用する。このとき、多官能性硬化剤がセルロースナノファイバーの水酸基と反応しても良い。
【0015】
また、この発明にかかるセルロースナノファイバー含有組成物により樹脂組成物を製造する方法としては、上記の手順によって得られるセルロースナノファイバー含有組成物を、疎水性樹脂に混練することによって得られる。樹脂組成物中にセルロースナノファイバーが好適に分散されて、従来よりもさらに高い強度と熱的安定性の向上効果が発揮される。
【発明の効果】
【0016】
この発明にかかるセルロースナノファイバー含有組成物は、多官能性硬化剤によってカルボキシ変性ポリオレフィンが架橋されていることにより、用いるカルボキシ変性ポリオレフィンの酸価や融点について、従来の補強材に比べて制限されず、融点が低いカルボキシ変性ポリオレフィンであっても熱的安定性が高いものとして扱うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、セルロースナノファイバー含有組成物であり、疎水性樹脂に添加して補強効果を発揮させた樹脂組成物として利用するものである。
【0018】
この発明において用いるセルロースナノファイバー(以下、「CNF」と略記する。)は、セルロース材料に加工を加えて微細繊維化したものである。セルロースの分子構造に変化のない、無置換のものであることが望ましい。ただし、CNFの製造過程でセルロースの一部を一旦置換して解繊を容易にし、解繊させた後で置換基を元に戻してセルロースに再生させたものであってもよい。このような置換した後でセルロースに再生可能な化学変性セルロースとしては、リン酸エステル化セルロースとザンテート化セルロースが挙げられるが、セルロースとして再生されるのであれば、特にこれらに限定されない。このような再生により得られるCNFでは、残存する置換基の残量が少ないほど望ましく、全ての置換基が再生されていることが望ましい。
【0019】
このように、無置換か、またはそれに準じるCNFを用いることで、後述する樹脂エマルションとの混合時に樹脂エマルションや多官能性硬化剤との干渉が少なくなるので、CNFの分散性が損なわれずにすむ。これにより、CNFが分散した状態で架橋反応を進めることができるようになる。また、CNFが置換基を有さないことで、熱分解温度が高くなり熱分解しにくくなるので、後述する疎水性樹脂と混練しやすく、その混練物を成形する際に変色しにくくなるという点でも好ましい。
【0020】
CNFの数平均繊維径は2nm以上であると好ましく、4nm以上であるとより好ましい。これより小さくても本発明は実施できるが、2nm未満とするには多大なエネルギーが必要である上に、作業効率の面でもあまり現実的ではなくなる。一方で、CNFの数平均繊維径は40nm以下であると好ましく、35nm以下であるとより好ましい。40nmを超えると、樹脂組成物中で緻密なネットワークが形成できなくなり、目的とする補強効果が十分に発揮されなくなるおそれがある。
【0021】
CNFの繊維径分布の指標としては、例えば、任意にナノファイバー50本を選択して計測した繊維径の標準偏差を用いることができる。この標準偏差は10nm以下であると好ましく、7nm以下であるとより好ましい。10nmを超えると、繊維径の大きいCNFの混入が無視できなくなり、目的とする補強効果が十分に発揮されなくなるおそれがある。
【0022】
この発明にかかるCNF含有組成物は、CNFの他に、カルボキシ変性ポリオレフィンと、多官能性硬化剤とが架橋した架橋反応物を有する。
【0023】
上記のカルボキシ変性ポリオレフィンは、ポリオレフィン骨格を有し、一部にカルボキシ基を有するものである。カルボキシ基として酸性の-COOHである状態のものを用いることもできるが、pHが低くなり過ぎると、CNFが凝集しやすくなり、CNFが均一に分散した樹脂組成物が得られないおそれがあるため、塩基性の-COO(Mはアルカリ金属)である状態のものが好ましい。
【0024】
このカルボキシ変性ポリオレフィンの変性度を示す酸価は、1mgKOH/g以上であると好ましく、20mgKOH/g以上であるとより好ましい。1mgKOH/g未満では、カルボキシ基が少なすぎて架橋が十分に進まず、熱的安定性を向上させる効果が不十分になりやすい。一方で、80mgKOH/g以下であると好ましく、70mgKOH/g以下であるとより好ましい。カルボキシ基が多すぎると、カルボキシ変性を行う際のポリオレフィン自体の分子量が低下してしまい、多官能性硬化剤で架橋しても十分な樹脂組成物の強度が得られないおそれがある。
【0025】
上記のカルボキシ変性ポリオレフィンの、架橋前におけるエマルションのpHは4以上であると好ましく、8以上であるとより好ましい。4未満の強酸性であると、高温時に劣化しやすく、熱的安定性の点から問題がある。8以上の弱塩基性であると、架橋反応を起こしやすくなるとともに、酸性である場合よりも、高温時にさらに劣化しにくい。一方で、強塩基性であってもCNFが凝集しやすくなり、CNFが均一に分散した樹脂組成物が得られないおそれがあるため、pHは11以下であると好ましい。
【0026】
上記の多官能性硬化剤は、カルボキシ基と反応する官能基を複数有し、上記のカルボキシ変性ポリオレフィンに対して架橋剤として作用するものである。カルボキシ基と反応できるものであれば種類は限定されないが、例えばポリイソシアネート系の架橋剤や、エポキシ系の架橋剤が挙げられる。
【0027】
上記のカルボキシ変性ポリオレフィンのカルボキシ基と、上記の多官能性硬化剤の官能基との当量比は、100:1~1:2であると好ましい。カルボキシ変性ポリオレフィンに対して多官能性硬化剤が多すぎると、架橋が進み過ぎて熱可塑性が乏しくなり、樹脂への混練ができなくなるおそれがある。一方で、多官能性硬化剤が少なすぎると、架橋が不十分になり、熱的安定性を向上させる効果が不十分になってしまう。
【0028】
これらカルボキシ変性ポリオレフィンと多官能性硬化剤とが架橋した架橋反応物と、CNFとを有するCNF含有組成物の製造にあたっては、例えば次のような手順が好適に利用できる。ただし、同様の反応が可能であれば、特にこれに限定されるものではない。まず、CNFを水中に分散させたCNF水スラリーを調製する。これはセルロースからCNFに解繊したり、再生したりした際のスラリーを流用して適切な含有量に調整したものでもよい。次にこのCNF水スラリーに、カルボキシ変性ポリオレフィンを水中に分散させた樹脂エマルションの状態で添加する。樹脂エマルションを添加した後、多官能性硬化剤を添加し、加熱して乾燥することにより、樹脂エマルションとCNF水スラリーに含まれていた水を低減させるとともに、架橋反応を進行させてCNF含有組成物を得る。
【0029】
このCNF含有組成物における、CNFと架橋反応物との質量混合比は、1:20~1:1であると好ましい。CNFが多すぎると、CNF含有組成物が硬くなりすぎて、他の樹脂との混練時にCNFの分散が不十分になってしまう。一方で、架橋反応物が多すぎると、カルボキシ変性ポリオレフィンの含有割合が多くなるため、架橋反応物と混練する他の樹脂の物性を損なうおそれがある。
【0030】
こうして得られたCNF含有組成物を、ゴムなどの疎水性樹脂に添加して混練することで、良好に分散された状態で保持されていたCNFが疎水性樹脂中に均一に分散されて、CNFによる補強効果が好適に発揮された樹脂組成物を得ることができる。
【0031】
上記の疎水性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂や、炭化水素系合成ゴム、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂などが挙げられる。この中でもできるだけ極性の小さいものが、本発明にかかるCNF含有組成物を用いて補強するメリットを最大限に享受できる。アクリル系樹脂のように極性が高い樹脂にも利用可能であるが、極性が高い樹脂は親水性であるセルロースとの親和性が高く、この発明にかかるCNF含有組成物を用いなくてもCNFが十分に分散した樹脂組成物を得られるので、この発明を用いるメリットに乏しい。
【0032】
上記のポリオレフィン系樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリシクロデカン、ポリシクロペンジエン、ポリメチルテルペンなどが挙げられる。炭化水素系合成ゴムとしては、例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴムなどが挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等が挙げられる。ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などが挙げられる。
【0033】
上記の疎水性樹脂に対して、CNF含有組成物に含まれるCNFが質量比で100:1~4:1となるように混合すると、疎水性樹脂に対して好適に補強効果を発揮することができる。CNFが少なすぎると補強効果が十分に発揮されず、CNFが多すぎると強度以外の点で予期せぬ影響を及ぼすおそれがある。
【0034】
こうして得られる樹脂組成物は、元の疎水性樹脂に対して補強効果を好適に発揮し、高い貯蔵弾性率を発揮する。
【実施例0035】
以下、この発明を具体的に実施した実施例を示す。まず、用いる材料について説明する。なお、繊維径標準偏差の測定は、透過型電子顕微鏡(TEM:日本電子(株)製、JEM-1400)を使用して観察した50,000倍の画像より、任意にナノファイバー50本を選択して計測した繊維径の標準偏差を算出した。
・CNF(水スラリー):レンゴー(株)製:RCNF、数平均繊維径5.9nm、繊維径標準偏差1.0nm、固形分含有率1.4質量%、セルロースザンテートから再生した無置換セルロース。
・機械解繊CNF(水スラリー):スギノマシン(株)製:BiNFi―S:品番WFo10005:数平均繊維径31nm、繊維径標準偏差7.3nm、固形分含有率5.0質量%。
・TEMPO酸化CNF:特許第6668558号の実施例に準じて作製:数平均繊維径6.3nm:繊維径標準偏差1.1nm:平均酸化度2mmol/g)。カルボキシ基による置換CNF。
<カルボキシ変性ポリオレフィン:いずれもユニチカ(株)製、水性分散体>
・DA-1010:融点75℃、酸価度35mgKOH/g、pH9、ポリプロピレン系
・SB-1010:融点80℃、酸価度25mgKOH/g、pH9、ポリエチレン系
・DC-1010:融点140℃、酸価度55mgKOH/g、pH9、ポリプロピレン系
<多官能性硬化剤>
・イソシアネート系架橋剤:旭化成(株)製:デュラネートWB40-100、表中「イソシアネート」
・エポキシ系架橋剤:(株)ADEKA製:アデカレジンEM-101-50、表中「エポキシ」
<疎水性樹脂>
・エチレンプロピレンゴム(EPDM):(株)ENEOSマテリアル製:EP T7241
・低密度ポリエチレン(LDPE):東ソー(株)製:ペトロセン205、融点111℃
<加硫助剤>
・酸化亜鉛:ナカライテスク(株)製:試薬1級
<加硫剤>
・ジクミルペルオキシド(DCP):ナカライテスク(株)製:化学用試薬
【0036】
<CNF含有組成物の調製>
(実施例1)
まず、CNFが水中に分散したスラリーであるCNF水スラリーを水で希釈し、固形分含有率1.0質量%とした希釈液1,000g(CNF含有量10g)を用意する。これをホモディスパー(プライミクス(株)製:ラボ・リューション)で3000rpmにて攪拌しながら、カルボキシ変性ポリオレフィンが水中に分散した樹脂エマルションであるSB-1010を92g(固形分23g)添加し、続いて多官能性硬化剤であるWB-40-100を2.6g(カルボキシ基に対する官能基の当量比:0.25)添加して、5分間撹拌した。これを60℃で24時間かけて送風乾燥し、多官能性硬化剤によるカルボキシ変性ポリオレフィンの架橋反応を進行させて、CNF含有組成物(CNF含有量10g、固形分35.6g)を得た。
【0037】
<EPDMとの樹脂組成物の製造>
上記で得られたCNF含有組成物(CNF10g、固形分35.6g)に、疎水性樹脂であるEPDMを100g、加硫剤であるDCPを3g、加硫助剤である酸化亜鉛を5g添加して、オープンロール((株)安田精機製作所製:テストミキシングロール)にて80℃で混練し、CNFを分散させた樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を170℃×20MPaで15分かけて圧縮成形し、ゴムシートを得た。このゴムシートについて貯蔵弾性率を、TA Instruments社製:DMA850にて、25℃環境と100℃環境において、初期試験力0.1N、ひずみ2%、周波数7Hz、昇温3℃/minで測定した。また、このゴムシートからJIS K6251に規定するダンベル状3号形の試験片を打ち抜き、JIS K6252に従って引張試験機((株)島津製作所製:オートグラフAGS-X)を用いて引張試験(つかみ幅:50mm、引張速度:500mm/分)を行った。その構成比と測定結果を表1に示す。なお、表1中で「phr」は、EPDMを100とした質量比である。
【0038】
【表1】
【0039】
(比較例1:CNF&多官能性硬化剤&カルボキシ変性ポリオレフィンなし)
実施例1において、CNF含有組成物を添加せずに、EPDMとDCPと酸化亜鉛のみで混練した以外は実施例1と同様の手順によりゴムシートを得た。その構成比と測定結果を表1に示す。
【0040】
(比較例2:CNF&多官能性硬化剤なし)
実施例1において、CNF水スラリーを、CNFを含有しない同質量の水に変更し、多官能性硬化剤を添加しないこと以外は実施例1と同様の手順によりゴムシートを得た。すなわち、実施例1に比べて、CNFと多官能性硬化剤が除かれ、カルボキシ変性ポリオレフィンは残っている。その構成比と測定結果を表1に示す。
【0041】
(比較例3:多官能性硬化剤なし)
実施例1において、多官能性硬化剤を添加しないこと以外は実施例1と同様の手順によりゴムシートを得た。その構成比と測定結果を表1に示す。
【0042】
(比較例4:CNFなし)
実施例1において、CNF水スラリーを、CNFを含有しない同質量の水に変更した以外は実施例1と同様の手順によりゴムシートを得た。その構成比と測定結果を表1に示す。
【0043】
(考察)
比較例1に比べて、カルボキシ変性ポリオレフィンのみ(比較例2)、カルボキシ変性ポリオレフィンとCNF(比較例3)、カルボキシ変性ポリオレフィンと多官能性硬化剤(比較例4)を含有するゴムシートであっても貯蔵弾性率が向上したが、全てを含有する実施例1は、それらの比較例よりもはっきりと貯蔵弾性率が向上し、本発明の効果が発揮されていることが確認された。特に、実施例1と多官能性硬化剤を有さない比較例3とを比べると、同様にCNFとカルボキシ変性ポリオレフィンを有しているにも関わらず、カルボキシ変性ポリオレフィンを架橋させた実施例1の方が高い貯蔵弾性率を示した。これは、カルボキシ変性ポリオレフィンを架橋させたことで、CNFがより好適に分散した状態で疎水性樹脂に配合され、補強効果を向上させていると推測される。また、比較例2と比較例4との比較から、添加した多官能性硬化剤は疎水性樹脂の補強には特に寄与せず、主としてカルボキシ変性ポリオレフィンの架橋に用いられていると推測される。
【0044】
(実施例2、3)
実施例1において、多官能性硬化剤の量を2倍、4倍にした以外は実施例1と同様の手順によりCNF含有組成物を得て、ゴムシートを得た。その構成比と測定結果を表1に示す。実施例1に比べてさらに貯蔵弾性率が向上しており、CNFが同量であってもカルボキシ変性ポリオレフィンの架橋が進むことでCNFによる補強効果が向上することが確かめられた。
【0045】
(比較例5、6)
実施例2、3において、CNF水スラリーを、CNFを含有しない同質量の水に変更した以外は、それぞれ実施例2、3と同様の手順によりゴムシートを得た。その構成比と測定結果を表1に示す。実施例2、3は実施例1に対する貯蔵弾性率が大きく向上したが、CNFを有さずに多官能性硬化剤だけが増えた比較例5、6は、比較例4に対する100℃の貯蔵弾性率の増加は小さかった。このため、多官能性硬化剤の増加は、単に樹脂の追加による補強ではなく、CNFに作用することで生じる補強効果に寄与していると考えられる。
【0046】
<多官能性硬化剤の種類変更>
(実施例4、5)
実施例1において、使用する多官能性硬化剤をWB-40-100(イソシアネート)からEM-101-50(エポキシ)に変更し、カルボキシ基に対する官能基の当量比を0.05(実施例4)と0.2(実施例5)に変えた以外は実施例1と同様の手順によりゴムシートを得た。その構成比と測定結果を表1に示す。多官能性硬化剤の種類が異なる場合でも、疎水性樹脂の補強効果と熱的安定性が向上することが確かめられた。
【0047】
(比較例7、8)
実施例4、5において、CNF水スラリーを、CNFを含有しない同質量の水に変更した以外は、それぞれ実施例4、5と同様の手順によりゴムシートを得た。その構成比と測定結果を表1に示す。実施例4、5に比べて、CNFを有さず、多官能性硬化剤だけを加えた比較例7、8では、特に100℃の貯蔵弾性率の向上は見られなかった。
【0048】
<カルボキシ変性ポリオレフィンの種類変更>
(実施例6、7)
実施例1において、使用するカルボキシ変性ポリオレフィンをDA-1010(実施例6)とDC-1010(実施例7)した以外は実施例1と同様の手順によりゴムシートを得た。その構成比と測定結果を表1に示す。カルボキシ変性ポリオレフィンの種類が異なる場合でも、疎水性樹脂の補強効果と熱的安定性が向上することが確かめられた。
【0049】
(比較例9、10)
実施例6、7において、多官能性硬化剤を添加しないこと以外は、それぞれ実施例6、7と同様の手順によりゴムシートを得た。その構成比と測定結果を表1に示す。実施例6、7に比べて、多官能性硬化剤を有さない比較例9、10では、特に100℃での貯蔵弾性率が低下した。
【0050】
<CNFの種類変更>
(実施例8)
実施例4において、使用するCNFを機械解繊CNFに変更した以外は実施例4と同様の手順によりゴムシートを得た。その構成比と測定結果を表1に示す。CNFの種類を変更した場合、実施例4ほどではないが、疎水性樹脂の補強効果と熱的安定性が向上することが確かめられた。
【0051】
(比較例11)
実施例8において、多官能性硬化剤を添加しないこと以外は実施例8と同様の手順によりゴムシートを得た。その構成比と測定結果を表1に示す。実施例8に比べて、比較例11では、特に100℃での貯蔵弾性率が低下した。
【0052】
<LDPEとの樹脂組成物の調製>
(実施例9)
実施例4で得られたCNF含有組成物3.1g(CNF10g、固形分35.6g)に、疎水性樹脂であるLDPEを9.4g添加して、卓上型小型混練機(Xplore Instruments社製:DSM Xplore MC15M)を用いて、140℃で5分間混練して短冊片状に射出成型することで、CNFを分散させた樹脂組成物の試験片(長さ80mm×幅10mm×厚さ2mm)を得た。この試験片を長さ40mmに切り出し、動的機械分析装置(TA Instruments製、DMA850)を用いて三点曲げ試験(試験速度:0.1mm/分、支点間距離:20mm)を行い、得られた結果の曲げひずみ0.05%~0.25%の応力勾配から曲げ弾性率を算出した。また、同装置を用いて荷重たわみ温度測定(荷重:0.45MPa、昇温速度:2℃/分)を行い、得られた結果の曲げたわみ1%となる温度を荷重たわみ温度とした。その構成比と測定結果を表2に示す。なお、表2中で「phr」は、LDPEを100とした質量比である。
【0053】
【表2】
【0054】
(実施例10)
実施例9において、多官能性硬化剤の量を4倍にした以外は実施例9と同様の手順によりCNFを分散させた樹脂組成物を得た。その構成比と測定結果を表2に示す。
【0055】
(比較例13)
実施例9において、CNF含有組成物を使用せず、LDPEのみを使用した以外は実施例9と同様の手順により樹脂組成物を得た。その構成比と測定結果を表2に示す。
【0056】
(比較例14、15)
実施例9において、多官能性硬化剤を添加せず、CNF水スラリーをCNFを含有しない水に変更(比較例14)した、また多官能性硬化剤を添加しない(比較例15)以外は、それぞれ実施例9と同様の手順により樹脂組成物を得た。その構成比と測定結果を表2に示す。
【0057】
(考察)
カルボキシ変性ポリオレフィンを架橋したCNF含有組成物を混練したLDPE(実施例9、10)は、LDPEのみの比較例13に比べて、曲げ弾性率は向上し、荷重たわみ温度も上昇した。また、カルボキシ変性ポリオレフィンのみの比較例14では、比較例13と比べて、LDPEがカルボキシ変性ポリオレフィンで希釈されるためか、曲げ弾性率と荷重たわみ温度が低下した。さらに、実施例9と比べて、多官能性硬化剤を添加しない比較例15では、曲げ弾性率と荷重たわみ温度が低下した。このことから、カルボキシ変性ポリオレフィンを架橋したCNF含有組成物を添加することで、CNFによる補強効果と熱的安定性の改善を両立できることがわかった。
【0058】
<使用するカルボキシ変性ポリオレフィンの物性確認>
上記で用いたカルボキシ変性ポリオレフィンが、カルボキシ基が-COOHの酸性形ではなく、-COOの塩基性形であることを確認すべく、JIS K7250に従って灰分の含有量を測定した。まず、カルボキシ変性ポリオレフィンであるDA-1010とDC-1010について、それらを乾燥して得られた固形分について灰化前と灰化後の質量を測定し、灰分の残留率を測定した(参考例1、2)。その結果を下記の表3に示す。また、DA-1010とDC-1010のエマルションに酸を加えてpHを3に調整した後、ろ過して得られた固形分について灰化前と灰化後の質量を測定し、灰分の残留率を測定した(参考例3、4)。その結果も下記表3に示す。調整前は灰分が残存したが、酸性調整後は灰分がほとんど残らなかった。このため、調整前のカルボキシ変性ポリオレフィンは、灰分が残存するアルカリ金属であるNa塩の状態で存在していると確認できた。
【0059】
【表3】
【0060】
また、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDS、日本電子(株)製、JSM-6010PLAS/L)により灰分中のNa含有量を測定したところ、pH調整前のカルボキシ変性ポリオレフィンではNa含有量は30質量%前後なのに対し、調整後は2質量%前後であり、pH調整前はカルボキシ基が-COONaの塩基性形であると考えられ、上記のことが裏付けられた。
【0061】
<CNFの形態についての確認>
(比較例16)
実施例9において、CNFの代わりにカルボキシ基置換がされたTEMPO酸化CNFを用い、それ以外は実施例1と同様の手順によりTEMPO酸化CNFが分散された樹脂組成物を作製した。
【0062】
実施例9の樹脂組成物と、比較例13、16の樹脂組成物とについて、120℃、3MPaの環境で5分間かけて熱プレスをしてフィルムを作製した後、疎水性樹脂との混練を想定した180℃、1MPaの環境で20分間保持した。JIS K7373に従って、分光測色計(コニカミノルタ(株)製、CM-3600A)を用いて加熱後のフィルムの黄色度(YI)を測定した。その結果を下記の表4に示す。実施例9では黄色度が低かったのに対して、カルボキシ基を有するTEMPO酸化CNFを用いた比較例16では黄色度が高くなることが確認された。このことから、カルボキシ基を有するTEMPO酸化CNFでは熱によって変色しやすく、置換基を有しないCNFが望ましいことが確認できた。
【0063】
【表4】