(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025063735
(43)【公開日】2025-04-16
(54)【発明の名称】ハロゲン化金属塩を含む熱可塑性澱粉組成物、ペレット、フレーク、コンパウンド体、樹脂成形物、熱可塑性澱粉組成物の製造方法、ペレット又はフレークの製造方法、コンパウンド体の製造方法、及び樹脂成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 3/00 20060101AFI20250409BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20250409BHJP
C08K 5/1545 20060101ALI20250409BHJP
C08K 3/16 20060101ALI20250409BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20250409BHJP
【FI】
C08L3/00
C08K5/053
C08K5/1545
C08K3/16
C08J3/12 Z
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023173164
(22)【出願日】2023-10-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【弁理士】
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】重實 大介
(72)【発明者】
【氏名】相沢 健太
(72)【発明者】
【氏名】堀之内 歩
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA03
4F070AA13
4F070AA15
4F070AB11
4F070AB24
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4J002AB041
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4J002BB082
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4J002CF032
4J002CF062
4J002CF182
4J002DD057
4J002DD067
4J002DD077
4J002DD087
4J002EC056
4J002EL086
4J002FD026
4J002FD207
4J002GC00
4J002GG01
4J002GG02
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】 本開示は、着色が少なく、かつ、流動性を有する熱可塑性澱粉組成物の提供を目的とする。
【解決手段】 本開示の熱可塑性澱粉組成物は、澱粉、澱粉用可塑剤、及びハロゲン化金属塩を含み、前記熱可塑性澱粉組成物のJIS K 7210に準拠した温度160℃及び荷重5kgにおけるメルトフローレートが、0.01g/10min以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性澱粉組成物であって、
澱粉、澱粉用可塑剤、及びハロゲン化金属塩を含み、
前記熱可塑性澱粉組成物のJIS K 7210に準拠した温度160℃及び荷重5kgにおけるメルトフローレートが、0.01g/10min以上である、
熱可塑性澱粉組成物。
【請求項2】
前記澱粉が、非酸化澱粉である、請求項1記載の熱可塑性澱粉組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性澱粉組成物に含まれる水以外の全成分の合計重量を100重量%として、
前記澱粉の含有率が、55~85重量%、
前記澱粉用可塑剤の含有率が、10~40重量%、
前記ハロゲン化金属塩の含有率が、0.1~10重量%である、
請求項1記載の熱可塑性澱粉組成物。
【請求項4】
下記式(1)で算出される、ペレット状に成形した前記熱可塑性澱粉組成物の白色度変化率Xが、40%以下である、請求項1記載の熱可塑性澱粉組成物。
X={(A-B)/A}×100 (1)
前記式(1)において、
Aは、JIS Z8715に準拠して算出される、前記成形した後の熱可塑性澱粉組成物の白色度(WB)であり、
Bは、JIS Z8715に準拠して算出される、前記成形した後の熱可塑性澱粉組成物を160℃で30分間加熱した後の熱可塑性澱粉組成物の白色度(WB)である。
【請求項5】
前記澱粉用可塑剤として、多価アルコール類、及び糖類の少なくとも一方を含む、請求項1記載の熱可塑性澱粉組成物。
【請求項6】
前記多価アルコール類が、グリセリン、プロピレングリコール、及びエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記糖類が、ソルビトール、及びグルコースの少なくとも一方である、
請求項5記載の熱可塑性澱粉組成物。
【請求項7】
前記澱粉用可塑剤として、水を実質的に含まない、請求項1記載の熱可塑性澱粉組成物。
【請求項8】
前記ハロゲン化金属塩として、塩化金属塩、臭化金属塩、及びヨウ化金属塩からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項1記載の熱可塑性澱粉組成物。
【請求項9】
前記ハロゲン化金属塩として、塩化金属塩を含む、請求項1記載の熱可塑性澱粉組成物。
【請求項10】
前記ハロゲン化金属塩が、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、臭化ナトリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化マグネシウム、及びヨウ化カルシウムからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1記載の熱可塑性澱粉組成物。
【請求項11】
熱可塑性澱粉組成物であって、
澱粉、澱粉用可塑剤、及びハロゲン化金属塩を含み、
下記式(1)で算出される、ペレット状に成形した前記熱可塑性澱粉組成物の白色度変化率Xが、40%以下である、熱可塑性澱粉組成物。
X={(A-B)/A}×100 (1)
前記式(1)において、
Aは、JIS Z8715に準拠して算出される、前記成形した後の熱可塑性澱粉組成物の白色度(WB)であり、
Bは、JIS Z8715に準拠して算出される、前記成形した後の熱可塑性澱粉組成物を160℃で30分間加熱した後の熱可塑性澱粉組成物の白色度(WB)である。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の熱可塑性澱粉組成物を含むペレット。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載の熱可塑性澱粉組成物を含むフレーク。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか一項に記載の熱可塑性澱粉組成物を含むコンパウンド体。
【請求項15】
請求項1から11のいずれか一項に記載の熱可塑性澱粉組成物を含む樹脂成形物。
【請求項16】
前記澱粉、前記澱粉用可塑剤、及び前記ハロゲン化金属塩を含む原料を混合する混合工程を含む、
請求項1から11のいずれか一項に記載の熱可塑性澱粉組成物の製造方法。
【請求項17】
熱可塑性澱粉組成物を押出成形してストランドを形成するストランド形成工程と、
前記ストランドを切断してペレット又はフレークを形成するストランド切断工程と、を含み、
前記熱可塑性澱粉組成物は、請求項1から11のいずれか一項に記載の熱可塑性澱粉組成物である、ペレット又はフレークの製造方法。
【請求項18】
ペレット又はフレークを含む原料と、熱可塑性樹脂を含む原料とを混練する第1の混練工程を含み、
前記ペレットは、請求項12記載のペレットであり、
前記フレークは、請求項13記載のフレークである、コンパウンド体の製造方法。
【請求項19】
コンパウンド体を含む原料を樹脂成形して樹脂成形物を製造する樹脂成形工程を含み、
前記コンパウンド体は、請求項14記載のコンパウンド体である、樹脂成形物の製造方法。
【請求項20】
前記コンパウンド体と、他の熱可塑性樹脂を含む原料とを混練する第2の混練工程と、
前記第2の混練工程で得られた混練物を樹脂成形して樹脂成形物を製造する樹脂成形工程と、を含む、
請求項19記載の樹脂成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱可塑性澱粉組成物、ペレット、フレーク、コンパウンド体、樹脂成形物、熱可塑性澱粉組成物の製造方法、ペレット又はフレークの製造方法、コンパウンド体の製造方法、及び樹脂成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今般、再生可能材料の利用及び二酸化炭素排出量削減、すなわち炭素循環の観点や、生分解性樹脂の普及による地球環境保護の観点から、従来の石油由来樹脂からバイオマス由来樹脂への切り替えが求められている。このような背景の中、特許文献1及び2には、樹脂に澱粉を配合する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-026538号公報
【特許文献2】特表2011-522950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1のように、澱粉を可塑化させるための澱粉用可塑剤を使用するとコンパウンド体が着色する場合がある。また、特許文献2のように、単に澱粉と澱粉用可塑剤とを混合した組成物は流動性が顕著に低くなる場合がある。流動性が低い組成物は、熱可塑性樹脂に分散しにくいため、樹脂成形物の物性低下を引き起こす原因となり得る。このようなコンパウンド体や組成物を使用して製造された樹脂成形物は、物性や品質が限定されるため、必然的に使用用途が制限されてしまう。
【0005】
そこで、本開示は、着色が少なく、かつ、流動性を有する熱可塑性澱粉組成物、ペレット、フレーク、コンパウンド体、樹脂成形物、熱可塑性澱粉組成物の製造方法、ペレット又はフレークの製造方法、コンパウンド体の製造方法、及び樹脂成形物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本開示の熱可塑性澱粉組成物の一態様は、
澱粉、澱粉用可塑剤、及びハロゲン化金属塩を含み、
前記熱可塑性澱粉組成物のJIS K 7210に準拠した温度160℃及び荷重5kgにおけるメルトフローレートが、0.01g/10min以上である。
【0007】
本開示の熱可塑性澱粉組成物の一態様は、
澱粉、澱粉用可塑剤、及びハロゲン化金属塩を含み、
下記式(1)で算出される、ペレット状に成形した前記熱可塑性澱粉組成物の白色度変化率Xが、40%以下である、熱可塑性澱粉組成物。
X={(A-B)/A}×100 (1)
前記式(1)において、
Aは、JIS Z8715に準拠して算出される、前記成形した後の熱可塑性澱粉組成物の白色度(WB)であり、
Bは、JIS Z8715に準拠して算出される、前記成形した後の熱可塑性澱粉組成物を160℃で30分間加熱した後の熱可塑性澱粉組成物の白色度(WB)である。
【0008】
本開示のペレットは、本開示の熱可塑性澱粉組成物を含む。
【0009】
本開示のフレークは、本開示の熱可塑性澱粉組成物を含む。
【0010】
本開示のコンパウンド体は、本開示の熱可塑性澱粉組成物を含む。
【0011】
本開示の樹脂成形物は、本開示の熱可塑性澱粉組成物を含む。
【0012】
本開示の熱可塑性澱粉組成物の製造方法は、
前記澱粉、前記澱粉用可塑剤、及び前記ハロゲン化金属塩を含む原料を混合する混合工程を含む。
【0013】
本開示のペレット又はフレークの製造方法は、
熱可塑性澱粉組成物を押出成形してストランドを形成するストランド形成工程と、
前記ストランドを切断してペレット又はフレークを形成するストランド切断工程と、を含み、
前記熱可塑性澱粉組成物は、本開示の熱可塑性澱粉組成物である。
【0014】
本開示のコンパウンド体の製造方法は、
ペレット又はフレークを含む原料と、熱可塑性樹脂を含む原料とを混練する第1の混練工程を含み、
前記ペレットは、本開示のペレットであり、
前記フレークは、本開示のフレークである。
【0015】
本開示の樹脂成形物の製造方法は、
コンパウンド体を含む原料を樹脂成形して樹脂成形物を製造する樹脂成形工程を含み、
前記コンパウンド体は、本開示のコンパウンド体である。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、着色が少なく、かつ、流動性を有する熱可塑性澱粉組成物等が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、試験区A-2、X-1、X-2の熱可塑性澱粉組成物の加熱前後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施に好適な形態について開示するが、以下の実施形態は本開示の代表的な実施形態を開示したものであり、本開示の範囲がこれら実施形態のみに限定されることはない。
【0019】
本開示において、特に断らない限り、「質量%」と「重量%」とは互いに読み替えてもよく、「質量部」と「重量部」とは互いに読み替えてもよい。
【0020】
本開示において、「ストランド」とは、特に断りのない限り、各種押出機から吐出された熱可塑性澱粉組成物の総称を意味し、長さ等の形状は特に限定されない。例えば、ひも状の長いものや平板状の短いものなど、各種押出機から吐出されたものであればあらゆる形状のものを含むものとする。
【0021】
<熱可塑性澱粉組成物>
まず、本開示の熱可塑性澱粉組成物について説明する。
【0022】
[メルトフローレート(MFR)]
本開示の一態様において、熱可塑性澱粉組成物のJIS K 7210に準拠した温度160℃及び荷重5kgにおけるメルトフローレート(MFR)は、0.01g/10min以上である。前記MFRは、その下限値が、例えば、0.05g/10min以上、0.1g/10min以上、又は0.2g/10min以上であってもよく、その上限値が、例えば、100g/10min以下、80g/10min以下、又は65g/10min以下であってもよい。前記MFRは、後述する実施例記載の測定方法によって測定することができる。前記MFRは、例えば、後述する澱粉、相容化剤、熱可塑性樹脂、澱粉用可塑剤、もしくはハロゲン化金属塩等の配合比、又は製造時の製造温度、もしくは混練時間等の製造条件等を調整することにより、調整可能である。
【0023】
本開示の熱可塑性澱粉組成物のMFRが0.01g/10min以上である場合、高い流動性を示す熱可塑性澱粉組成物を得ることができる。例えば、澱粉の含有量を高め、かつ、高い破断伸度の値を示すコンパウンド体が望まれる場合において、本開示は有用である。なお、澱粉の含有量を高めた場合において、MFRの低い熱可塑性澱粉組成物を含むコンパウンド体は、破断伸度が低下する傾向にある。
【0024】
[白色度変化率]
本開示の一態様において、熱可塑性澱粉組成物は、下記式(1)で算出される、ペレット状に成形した前記熱可塑性澱粉組成物の白色度変化率Xは、40%以下である。前記白色度変化率Xは、例えば、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、又は10%以下であってもよく、0%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、又は5%以上であってもよい。
X={(A-B)/A}×100 (1)
前記式(1)において、
Aは、JIS Z8715に準拠して算出される、前記成形した後の熱可塑性澱粉組成物の白色度(WB)であり、
Bは、JIS Z8715に準拠して算出される、前記成形した後の熱可塑性澱粉組成物を160℃で30分間加熱した後の熱可塑性澱粉組成物の白色度(WB)である。
【0025】
本開示において、熱可塑性澱粉組成物は、後述するハロゲン化金属塩を含まない熱可塑性澱粉組成物の白色度変化率Xaと、前記ハロゲン化金属塩を含まない熱可塑性澱粉組成物に含まれる後述する澱粉用可塑剤の一部をハロゲン化金属塩に置き換えた熱可塑性澱粉組成物の白色度変化率Xb、との差(Xa-Xb)が、例えば、100以下、70以下、50以下であってもよく、1以上、3以上、5以上であってもよい。なお、前記白色度変化率Xa及び前記白色度変化率Xbは、前記式(1)により算出することができる。
【0026】
なお、前記白色度変化率が高い熱可塑性澱粉組成物を使用して、後述するコンパウンド体や樹脂成形物を製造すると、前記コンパウンド体及び樹脂成形物の白色度(WB)も同様に低下する。すなわち、製造されたコンパウンド体及び樹脂成形物が着色する。したがって、前記熱可塑性澱粉組成物は、前記白色度変化率Xが可能な限り小さいことが好ましい。
【0027】
[バイオマス度]
本開示の熱可塑性澱粉組成物のバイオマス度Yは、例えば、下記式(2)で算出される。前記バイオマス度Yは、例えば、80%以上、好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であり、100%未満、好ましくは99.9%以下、99.8%以下、99.7%以下、又は99.6%以下、最も好ましくは99.5%以下である。
Y=(C/D)×100 (2)
前記式(2)において、
Cは、前記熱可塑性澱粉組成物に含まれるバイオマス由来物質の重量であり、
Dは、前記熱可塑性澱粉組成物の総重量である。
【0028】
[澱粉]
前記澱粉は、特に限定されないが、例えば、トウモロコシ、馬鈴薯、さつまいも、キャッサバ、サゴやし、米、小麦等から得られる未加工澱粉があげられる。すなわち、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、小麦澱粉等があげられる。また、未加工澱粉をエーテル化、エステル化等したものや、架橋処理等をした、加工澱粉もあげられる。前記澱粉は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0029】
前記澱粉は、例えば、製造コストの観点から未加工澱粉であるコーンスターチ、タピオカ澱粉が好ましく、さらに好ましくはコーンスターチである。また、上述のとおり低分子化させた素材は還元末端数の増加などにより加熱時の着色や易熱分解性を示すと推察されており、その点においても未加工澱粉であるコーンスターチ、タピオカ澱粉が好ましい。総じて最も好ましいのはコーンスターチである。
【0030】
本開示に用いられる前記澱粉に含まれる水分含有率は、特に制限はないが、例えば、5~25重量%、より好ましくは7~23重量%、さらに好ましくは9~20重量%、最も好ましくは10~18重量%である。
【0031】
前記澱粉の含有率は、例えば、バイオマス率の向上を鑑みて、熱可塑性澱粉組成物に含まれる水以外の全成分の合計重量を100重量%として、55重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは65重量%以上であり、熱可塑性樹脂と混合して澱粉を分散させる観点から、前記熱可塑性澱粉組成物に含まれる水以外の全成分の合計重量を100重量%として、85重量%以下、より好ましくは80重量%以下、最も好ましくは75重量%以下であり、その範囲が、例えば、55~85重量%、より好ましくは60~85重量%、さらに好ましくは60~80重量%、最も好ましくは65~75重量%である。本開示は、例えば、澱粉の含有率が55重量部以上と高い場合であっても、前記MFRが0.01g/10min以上であれば、高い流動性を示すため、熱可塑性樹脂等との混練を容易にすることができる。
【0032】
前記澱粉は、例えば、非酸化澱粉であってもよい。本開示において、「非酸化澱粉」という場合、特に断りのない限り、酸化澱粉ではない澱粉のことをいう。前記酸化澱粉とは、例えば、澱粉に存在するアルデヒド性還元基やヒドロキシ基、グリコール基等が、塩素、臭素、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩等の酸化剤によってカルボキシル基又はカルボニル基へと酸化されたり、あるいは酸化反応に付随して加水分解されたりすることによって低分子化した澱粉の総称である。また、例えば、アセチル化酸化澱粉のように、他の化学処理が施された澱粉も前記酸化澱粉に含まれる。後述の実施例に記載するように、本開示において酸化澱粉の含有率が高すぎる場合、熱可塑性澱粉組成物の白色度変化率が高くなる傾向にある。したがって、前記酸化澱粉の含有率は、後述の範囲であることが好ましい。一方で、例えば、極少量の前記酸化剤等を澱粉に作用させた、実質的に酸化していない澱粉は、前記白色度変化率が低い場合には、本開示において非酸化澱粉であるとみなす。
【0033】
本開示の熱可塑性澱粉組成物は、例えば、前記非酸化澱粉に加えて、さらに、任意成分として前記酸化澱粉を含んでいてもよく、含まなくてもよい。前記酸化澱粉としては、例えば、酸化剤により酸化された澱粉であり、より具体的には、塩素により酸化された澱粉、臭素により酸化された澱粉、次亜塩素酸塩により酸化された澱粉、次亜臭素酸塩により酸化された澱粉等があげられる。前記酸化澱粉を含む場合、前記酸化澱粉の含有率は、例えば、本開示の熱可塑性澱粉組成物の製造コストを低減する観点、及び前記白色度変化率を小さくする観点から、熱可塑性澱粉組成物に含まれる水以外の全成分の合計重量を100重量%として、0重量%を超え、25重量%以下、20重量%以下、又は10重量%以下であることが好ましい。
【0034】
なお、前記酸化澱粉は、還元末端数の増加、酸化反応に起因するアルデヒド基の増加により、加熱時の着色や易熱分解性を示すおそれがあるため、前述の含有率とすることが好ましい。
【0035】
[ハロゲン化金属塩]
本開示に用いるハロゲン化金属塩は、例えば、公知のハロゲン化金属塩を用いることができる。前記ハロゲン化金属塩としては、例えば、塩化金属塩、臭化金属塩、及びヨウ化金属塩からなる群から選択される少なくとも一つを含んでもよい。後述する熱可塑性澱粉組成物に対する流動性付与の効果は、例えば、前記熱可塑性澱粉組成物に含まれる前記ハロゲン化金属塩の物質量に依存する。前記熱可塑性澱粉組成物に含まれる前記ハロゲン化金属塩の物質量が多いほど、前述の流動性付与の効果が高くなる。そのため、前記ハロゲン化金属塩としては、例えば、同じ重量のハロゲン化金属塩であってもより多くの分子を含む(すなわち、モル質量が小さい)、塩化金属塩及び臭化金属塩の少なくとも一方を含むことが好ましく、塩化金属塩を含むことがより好ましい。前記ハロゲン化金属塩は、例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、臭化ナトリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化マグネシウム、及びヨウ化カルシウムからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0036】
前記ハロゲン化金属塩の形態は、特段の制限はなく、例えば、粉末等の固体であってもよく、水溶液等の液状のものであってもよい。原料である澱粉への分散の観点からは、液状が好ましい。
【0037】
前記ハロゲン化金属塩の含有率は、例えば、0.1~10重量%、より好ましくは0.2~8重量%、さらに好ましくは0.25~7重量%、最も好ましくは0.3~5重量%である。前記ハロゲン化金属塩は、前記澱粉を高含有とする観点から、0.1重量%以上であることが好ましく、着色の改善効果を付与する観点から、10重量%以下であることが好ましい。
【0038】
ここで、前記ハロゲン化金属塩を含まない熱可塑性澱粉組成物、例えば、前記澱粉と前記澱粉用可塑剤とを混合して製造した熱可塑性澱粉組成物であって、特に前記澱粉の含有率が50重量%以上の高含有率であるものは、流動性(MFR)が低い。そのため、後述する熱可塑性樹脂との混練において分散し難く、コンパウンド体の物性の低下を引き起こすと推察される。一方で、本開示の発明者らは、前記澱粉、前記澱粉用可塑剤、及び前記ハロゲン化金属塩を含む混合物を加熱下で混合することにより、熱可塑性澱粉組成物の流動性が大きく向上することを見出した。このことから、前記ハロゲン化金属塩は、前記澱粉を可塑化したり、あるいは前記澱粉の構造を変化させたりすることによって、熱可塑性澱粉組成物に高流動性を付与することが推察される。ただし、これはあくまでも仮説にすぎず、本開示はこれに限定されない。
【0039】
[澱粉用可塑剤]
本開示において「澱粉用可塑剤」という場合、特に断りのない限り、澱粉を可塑化させるために用いる可塑剤を意味する。すなわち、澱粉を含まない形態で当業者が一般的に用いる、熱可塑性樹脂の物性を調整する為の可塑剤を意味するものではない。
【0040】
前記澱粉用可塑剤としては、水を除き、前記澱粉を実質的に可塑化させる物質であれば、特に制限はないが、例えば、多価アルコール類、糖類、アンモニア類、尿素類、イオン液体等があげられる。前記多価アルコール類としては、例えば、グリセロール(グリセリン)、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ナノンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジグリセロール等があげられる。前記糖類としては、例えば、ソルビトール、グルコース、マルチトール、マンニトール、エリトリトール等があげられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの物質は、例えば、前記澱粉に予め含ませていてもよい。また、後述する熱可塑性樹脂を含む場合、前記熱可塑性樹脂に予め含ませていてもよい。さらに、本開示の熱可塑性澱粉組成物を得る任意のタイミングで含ませてもよい。
【0041】
本開示に用いる澱粉用可塑剤は、澱粉を可塑化する効果の観点から、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトールが好ましく、より好ましくはグリセリンである。
【0042】
前記澱粉用可塑剤の含有率は、例えば、前記熱可塑性澱粉組成物に含まれる水以外の全成分の合計重量を100重量%として、5~40重量%、より好ましくは10~35重量%、さらに好ましくは15~30重量%であり、最も好ましくは20~30重量%である。
【0043】
なお、前記澱粉用可塑剤として、例えば、水を実質的に含まないことが好ましい。言い換えれば、前記澱粉用可塑剤は、例えば、水を主成分としない澱粉用可塑剤であることが好ましい。これは、例えば、前記澱粉用可塑剤として水を主成分に使用した場合、前記熱可塑性澱粉組成物の製造時や、後述するコンパウンド体の成形加工時に、水の蒸発に伴う発泡が生じるためである。例えば、押出機で製造する場合において、前記熱可塑性澱粉組成物が意図せず前記押出機の排出口で発泡すると、生産性の低下を招くおそれがある。また、通常の前記熱可塑性澱粉組成物の製造時や、後述するコンパウンド体の成形加工時に、100℃以上の高温条件及び真空脱気による気体の除去を伴うため、水などの沸点の低い可塑剤は、系外に排出される可能性が高まる。結果として、ストランドを成形する前の熱可塑性澱粉組成物に含まれる澱粉用可塑剤成分が前記混練前と比べて目減りし、澱粉の熱可塑性が失われ、前記熱可塑性澱粉組成物中への前記澱粉の分散性が著しく低下するおそれがある。
【0044】
[熱可塑性樹脂]
本開示の熱可塑性澱粉組成物は、例えば、さらに、熱可塑性樹脂を含んでもよいし、含まなくてもよい。また、後述するように、本開示の熱可塑性澱粉組成物及び前記熱可塑性樹脂を混練して、コンパウンド体を得ることもできる。前記熱可塑性樹脂は、特段の制限はなく、例えば、一般的な公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。また、例えば、生分解性を有している熱可塑性樹脂が使用されてもよい。例えば、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリエチレン等の炭素数2~20のオレフィンの重合体であるポリオレフィン系樹脂;ポリノルボルネン等のポリ環状オレフィン系樹脂;ポリスチレン、ABS樹脂等のポリスチレン系樹脂;ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート等のポリエステル系樹脂等があげられ、これらの混合物であってもよい。前記ポリエチレンは、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等があげられる。また、共重合体であってもよく、エチレン-プロピレン(ブロック及びランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体等があげられる。前記熱可塑性樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0045】
前記熱可塑性樹脂は、例えば、汎用性の観点からポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、さらに好ましくはポリエチレンである。
【0046】
前記熱可塑性樹脂のメルトフローレートは、例えば、生産速度の観点から、0.1g/10min以上、2g/10min以上、又は5g/10min以上であってもよく、70g/10min以下、60g/10min以下、又は40g/10min以下であってもよく、その範囲は、例えば、0.1~70g/10min、2~70g/10min、又は5~60g/10minが好ましく、さらに好ましくは5~40g/10minである。前記メルトフローレートは、例えば、メルトインデックサを使用してJIS K 7210に記載の方法によって求めてもよいし、文献等に記載のデータであってもよい。
【0047】
前記熱可塑性樹脂の含有率は、特に制限はないが、例えば、バイオマス度の向上を鑑みて前記澱粉を高含有とすることが好ましく、例えば、0重量%である。また、前記熱可塑性樹脂が含まれる場合において、前記熱可塑性澱粉組成物に含まれる水以外の全成分の合計重量を100重量%として、例えば、下限値が0重量%を超え、上限値が30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、最も好ましくは5重量%以下である。
【0048】
[相容化剤]
本開示の熱可塑性澱粉組成物は、例えば、さらに、相容化剤を含んでも良いし、含まなくても良い。前記相容化剤は、特段の制限はなく、例えば、一般的な公知の相容化剤を用いることができる。例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸等の酸無水物基を有する化合物、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸等のカルボキシル基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物、イミノ基を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物、アルコキシ基等の反応性基を有するシランカップリング剤等の化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含むものがあげられる。酸無水物基、エポキシ基、イミノ基及びイソシアネート基は、ヒドロキシ基と反応し得る官能基であり、かかる官能基を有する化合物は、本開示における相容化剤として好ましい。前記相容化剤として用いることができる化合物としては、例えば、ポリオレフィン系、アクリル系、スチレン系等の上記のような官能基を有する高分子化合物をあげることができ、配合する樹脂との親和性を確保する観点から上記のような官能基を有するポリオレフィン系高分子化合物が好ましい。
【0049】
前記ポリオレフィン系高分子化合物としては、例えば、エチレン系重合体[高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレンと他の1種以上のビニル化合物(例えばα-オレフィン、酢酸ビニル、メタアクリル酸、アクリル酸等)との共重合体等]、プロピレン系重合体[ポリプロピレン、プロピレンと他の1種以上のビニル化合物との共重合体等]、エチレンプロピレン共重合体、ポリブテン、及びポリ-4-メチルペンテン-1等が例示されるが、好ましくはプロピレン系重合体である。前記の、上記のような官能基を有するポリオレフィン系高分子化合物の具体例としては、例えば、無水マレイン酸変性ポリオレフィンがあげられ、より具体的には、無水マレイン酸変性ポリプロピレンがあげられる。
【0050】
本開示の熱可塑性澱粉組成物が相容化剤を含む場合において、前記相容化剤の含有量は、前記熱可塑性澱粉組成物に含まれる水以外の全成分の合計重量を100重量%として、例えば、0.1~10重量%である。前記相容化剤の含有率は、例えば、前記熱可塑性澱粉組成物に含まれる水以外の全成分の合計重量を100重量%として、例えば、下限値が0.1重量%以上、0.5重量%以上、又は1重量%以上であってもよく、上限値が10重量%以下、8重量%以下であってもよく、その範囲は、例えば、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.1~8重量%、さらに好ましくは0.5~8重量%、最も好ましくは1~8重量%である。
【0051】
[その他の添加剤]
本開示の熱可塑性澱粉組成物は、例えば、さらに、従来公知の各種添加剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。前記添加としては、例えば、乳化剤、エラストマー、無機充填剤、熱安定剤、耐光剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等があげられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、これらの物質は、例えば、前記澱粉に予め含ませていてもよい。また、後述する熱可塑性樹脂を含む場合、前記熱可塑性樹脂に予め含ませていてもよい。さらに、本開示の熱可塑性澱粉組成物を得る任意のタイミングで含ませてもよい。
【0052】
[熱可塑性澱粉組成物に含まれる水]
前述のとおり、本開示の熱可塑性澱粉組成物において、前記澱粉用可塑剤として、水を実質的に含まないことが好ましい。これは、前述のとおり、前記澱粉用可塑剤として水が実質的に含まれる場合、水を含む熱可塑性澱粉組成物を混練(加熱)すると、澱粉用可塑剤として含まれていた水は系外に排出される可能性が高い。結果として、ストランドを成形する前の熱可塑性澱粉組成物に含まれる澱粉用可塑剤成分が前記混練前と比べて目減りし、澱粉の熱可塑性が失われ、前記熱可塑性澱粉組成物中への前記澱粉の分散性が著しく低下するおそれがあるためである。
【0053】
一方で、前記澱粉用可塑剤の含有率が前述の数値範囲を満たす場合(以下、単に「澱粉用可塑剤を十分に含む場合」とすることがある)においては、本開示の熱可塑性澱粉組成物は、少量の水を含んでもよい。前記澱粉用可塑剤を十分に含む場合において、本開示の熱可塑性澱粉組成物に水を少量含む場合(すなわち、水分含有率が0質量%を超える場合)、前記熱可塑性澱粉組成物の可塑化が進行し易くなり、前記熱可塑性澱粉組成物の製造条件の最適化が容易となるため、好ましい。前記澱粉用可塑剤を十分に含む場合において、本開示の熱可塑性澱粉組成物を構成するすべての原料に含まれる水分含有量(以下、単に「原料合計水分量」という場合がある。)は、例えば、前記ハロゲン化金属塩の分散性及び前記澱粉の可塑性を鑑みれば、前記熱可塑性澱粉組成物に含まれる水以外の全成分の合計の重量を100重量%として、0重量%を超え30重量%以下、好ましくは5~30重量%、より好ましくは6~25重量%、さらに好ましくは7~22重量%、最も好ましくは8~20重量%である。本開示における原料合計水分量は、例えば、前記熱可塑性澱粉組成物の総重量に対する、前記熱可塑性澱粉組成物に加えた水の重量と前記熱可塑性澱粉組成物に含まれる水以外の全成分の水分含有量との合計の割合から算出してもよい。また、本開示における原料合計水分量は、例えば、乾燥機等により乾燥させた前記熱可塑性澱粉組成物の乾燥前後の重量変化から算出してもよし、水分率計等の装置を用いて測定してもよい。
【0054】
本開示において提供される熱可塑性澱粉組成物は、最終的な形態に何ら制限はないが、例えば、後述するペレット又はフレーク、前記ペレット又は前記フレークをさらに熱可塑性樹脂と混合して得られるコンパウンド体、前記コンパウンド体をさらに他の熱可塑性樹脂と混合して得られる樹脂成形物、それらを成形して得られる後述する樹脂成形物等を一形態とすることができる。
【0055】
<ペレット、フレーク、コンパウンド体、及び樹脂成形物>
つぎに、本開示のペレット、フレーク、コンパウンド体、及び樹脂成形物について説明する。
【0056】
本開示のペレット及びフレークは、前述のとおり、本開示の熱可塑性澱粉組成物を含む。なお、本開示において、ペレットとは、例えば、前記熱可塑性澱粉組成物を粒状等の形に成形したものであり、より具体的には、前記ストランドとなった熱可塑性澱粉組成物を切断して得られる成形物を意味する。また、ペレット状とは、前記ストランドとなった熱可塑性澱粉組成物を粒状等に切断した際に得られる産物の形状、又は産物の形態を指す。本開示において、フレークとは、例えば、前記熱可塑性澱粉組成物を平板状、立方体、直方体、多角柱及び多角錐等の形に成形したものであり、より具体的には、前記ストランドとなった熱可塑性澱粉組成物を切断して得られる成形物を意味する。また、フレーク状とは、前記ストランドとなった熱可塑性澱粉組成物を平板状、立方体、直方体、多角柱及び多角錐等の形に切断した際に得られる産物の形状、又は産物の形態を指す。
【0057】
本開示のコンパウンド体は、前述のとおり、本開示の熱可塑性澱粉組成物及び他の熱可塑性樹脂を含む。前記他の熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、例えば、前述の本開示の熱可塑性澱粉組成物において説明した前記熱可塑性樹脂と同様であってもよい。本開示のコンパウンド体は、押し出し成形され、再度ペレット状やフレーク状、シート状等に成形されたものであってもよい。ペレット状やフレーク状等に成形されたコンパウンド体は、前記本開示の熱可塑性澱粉組成物を含む本開示のペレット及びフレークと同様に、樹脂成形物へ成形することができる。
【0058】
本開示のコンパウンド体の破断伸度変化率Zと、前記ハロゲン化金属塩を含まない熱可塑性澱粉組成物から製造されたコンパウンド体の破断伸度変化率Z0との差(Z0-Z)は、例えば、下限値が3%以上、5%以上、8%以上、9%以上、10%以上、15%以上、又は20%以上であってもよい。なお、前記差が大きいほどコンパウンド体の物性が向上するため、前記差の上限値は特に限定されない。なお、前記破断伸度変化率Z及びZ0は、下記式(3-1)及び(3-2)により算出される。
Z={(C-D)/C}×100 (3-1)
Zo={(C-Do)/C}×100 (3-2)
前記式(3-1)及び前記式(3-2)において、
Cは、前記熱可塑性澱粉組成物に配合する前の前記他の熱可塑性樹脂の破断伸度であり、
Dは、前記ハロゲン化金属塩を含む熱可塑性澱粉組成物及び前記他の熱可塑性樹脂を含むコンパウンド体の破断伸度であり、
D0は、前記ハロゲン化金属塩を含まない熱可塑性澱粉組成物及び前記他の熱可塑性樹脂を含むコンパウンド体の破断伸度である。
【0059】
なお、前記破断伸度は、後述する実施例記載の方法によって測定することができる。
【0060】
本開示の樹脂成形物は、前述のとおり、本開示の熱可塑性澱粉組成物を含む。本開示の樹脂成形物は、例えば、さらに、前記コンパウンド体を含んでもよい。
【0061】
<熱可塑性澱粉組成物の製造方法、ペレット、フレーク等の製造方法、及びコンパウンド体の製造方法>
つぎに、本開示の熱可塑性澱粉組成物の製造方法、ペレット、フレーク等の製造方法、及びコンパウンド体の製造方法について説明する。
【0062】
[熱可塑性澱粉組成物の製造方法]
本開示の熱可塑性澱粉組成物の製造方法は、前述のとおり、前記澱粉、前記澱粉用可塑剤、及び前記ハロゲン化金属塩を含む原料を混合する混合工程を含む。また、前記原料は、例えば、本開示の熱可塑性澱粉組成物における前記その他添加剤を含んでもよい。
【0063】
前記混合工程について、例をあげて具体的に説明する。前記混合工程は、例えば、前記澱粉、前記澱粉用可塑剤、及び前記ハロゲン化金属塩を加熱しながら混練する。前記混練することで、本開示の熱可塑性澱粉組成物が得られる。前記混練する為の設備としては、例えば、ミル、デスパ、ミキサーニーダー、バンバリーミキサー、ロール、単軸もしくは二軸以上の多軸スクリュー式押出機、連続混練機等があげられる。また、これらの混練機を複数組み合わせてもよく、例えば、単軸及び二軸の押出機を組み合わせた、1.5軸押出機等であってもよい。本開示では、特に制限はないが、例えば、生産速度の観点から多軸スクリュー式押出機及びその組み合わせが好ましく、さらに好ましくは二軸スクリュー式押出機である。
【0064】
前記混練する際の圧力は、特に制限はないが、例えば、安定製造の観点から、0MPa以上であり、15MPa以下、10MPa以下、5MPa以下、3MPa以下であり、その範囲は、例えば、0~15MPa、0~10MPa、0~5MPaが好ましく、さらに好ましくは0~3MPaである。
【0065】
前記混練する際の温度は、特に限定されないが、例えば、澱粉を十分に可塑化させる観点から、80℃以上、90℃以上、100℃以上であり、澱粉の炭化を防止する観点から、300℃以下、250℃以下、200℃以下であり、その範囲は、例えば、80~300℃、90~250℃、100~200℃である。
【0066】
前記混合工程は、前記澱粉を可塑化させ、本開示の熱可塑性澱粉組成物が得られるのであれば、混合する順は特に問われない。例えば、前記澱粉、前記澱粉用可塑剤、及び前記ハロゲン化金属塩を全て同時に、前記混練する為の設備に導入してもよいし、前記澱粉及び前記ハロゲン化金属塩を先に混合した後に、さらに前記澱粉用可塑剤を混合して、前記混練する為の設備に導入してもよい。
【0067】
なお、前記ハロゲン化金属塩と前記澱粉とを混合させる方法は、特段の制限はなく、例えば、あらかじめ前記澱粉と混合してよく、澱粉用可塑剤と同時に混合してもよい。また、前記ハロゲン化金属塩を、エクストルーダー等により、前記澱粉とは別の原料投入口から加えてもよい。前記ハロゲン化金属塩は、熱可塑性澱粉組成物に含まれる原料中への分散性の観点からは、前記澱粉用可塑剤と同時に混合することが好ましく、あらかじめ混合しておくことがさらに好ましい。
【0068】
また、前記ハロゲン化金属塩は、例えば、粉末等の固体として混合してもよく、水溶液等にして液体として混合しても良い。なお、分散の観点からは、液体として混合することが好ましい。
【0069】
[ペレット、フレーク等の製造方法]
前記混練後、例えば、加熱された吐出部より吐出された熱可塑性澱粉組成物を適当な形状に成形してもよい。前記成形後の形状は、特に制限されないが、例えば、ペレット状、フレーク状、クラム状、パウダー状、シート状、及びチップ状があげられる。また、混練後、直接成形体の形状に成形してもよい。なお、本明細書では、例えばペレット状、フレーク状またはシート状の成形物を単に「ペレット」、「フレーク」または「シート」と呼称することがある。
【0070】
前記ペレット状又はフレーク状とする場合、例えば次のように本開示のペレット又はフレークを製造することができる。本開示のペレット又はフレークの製造方法は、前述のとおり、本開示の熱可塑性澱粉組成物を押出成形してストランドを形成するストランド形成工程と、前記ストランドを切断してペレット又はフレークを形成するストランド切断工程と、を含む。
【0071】
前記ストランド形成工程は、例えば、前記混合工程により混合された前記熱可塑性澱粉組成物を押し出す工程(押出工程)を含む。前記押出工程は、例えば、従来公知の押出機を用いて実施することができる。前記押出機は、特に限定されないが、例えば、二軸スクリュー式押出機を使用することができる。押出機により、前記混合工程と前記押出工程の両方を行ってもよい。前記混合工程で得られた前記組成物を回収し、前記押出工程における前記押出機に供給してストランドを形成しても良い。
【0072】
前記ストランド切断工程は、例えば、前記押出工程により押出し出口部分から吐出されたストランドである前記熱可塑性澱粉組成物を切断する工程である。前記ストランドである前記熱可塑性澱粉組成物をペレット又はフレークにする方法としては、例えば、前記ストランドを空冷又は水冷してからストランドカッターにて切断するコールドカット方式や、押出機の出口部分に取り付けられた回転カッターで切断するホットカット方式、アンダーウォーターカット方式等があげられ、例えば、品質安定性の観点からコールドカット方式、ホットカット方式が好ましく、さらに好ましくはコールドカット方式である。
【0073】
[コンパウンド体の製造方法]
本開示のコンパウンド体の製造方法は、前述のとおり、本開示のペレット又は本開示のフレークを含む原料と、前記熱可塑性樹脂を混練する第1の混練工程を含む。前記原料は、例えば、他の熱可塑性樹脂、前記その他の添加剤等を含んでもよい。
【0074】
[樹脂成形物の製造方法]
本開示の樹脂成形物の製造方法は、前述のとおり、本開示のコンパウンド体を含む原料を樹脂成形して樹脂成形物を製造する樹脂成形工程を含む。前記樹脂成形工程は、例えば、本開示のコンパウンド体と、他の熱可塑性樹脂を含む原料とを混練する第2の混練工程と、前記第2の混練工程で得られた混練物を樹脂成形して樹脂成形物を製造する樹脂成形工程とを含んでもよい。
【0075】
前記樹脂成形工程は、例えば、前記第1の混練工程で得られたコンパウンド体を樹脂成形して樹脂成形物を製造する工程であってもよい。前記樹脂成形工程は、例えば、従来公知の方法によりすることができる。例えば、カレンダー成形、熱成形、押し出しブロー成形、インフレーション成形、真空成形、キャスト成形、発泡成形、押し出し成形、射出成形、プレス成形、溶融紡糸があげられる。成形物としては、例えば、容器類、包装材料、緩衝材、日用雑貨、機械部品、建築材料、自動車部品等があげられる。
【実施例0076】
つぎに、本開示の実施例について説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されない。
【0077】
本実施例、及び前述の実施形態における、熱可塑性澱粉組成物のメルトフローレート(MFR)、水分含有量、破断伸度、及び白色度は、以下の手順により測定を行った。
【0078】
[MFRの測定]
MFRはJIS K 7210に準拠し、メルトインデクサー(株式会社東洋精機、商品名:G-02)を用いて温度160℃及び荷重5kgにおけるメルトフローレートを測定した。測定サンプルはペレット状の熱可塑性澱粉組成物30gをアルミバット上に量り取り、重なり合わないように広げた状態で160℃、30分間加熱した後、室温で6時間静置放冷したものを使用した。なお、加熱処理は棚式送風乾燥機(アドバンテック東洋株式会社、商品名:DRK632DC)を用いて行った。
【0079】
[水分含有量]
澱粉の水分含有量の測定は、水分計(Brabender社、商品名:MT-C、)を用いて乾燥重量法により130℃、20分間の条件で測定した。
【0080】
原料に用いた澱粉、熱可塑性樹脂、エラストマー、及び乳化剤を含むその他の添加剤に含まれる水分と、それぞれの原料の構成比(使用重量比)から、原料中の水分含有量を算出した。なお、本実施例においては水分計を用いて原料中の水分含有量を算出したが、熱可塑性樹脂、エラストマー、及び乳化剤を含むその他添加剤の水分含有量は、カールフィッシャー法により測定してもよい。
【0081】
原料合計水分量は、熱可塑性澱粉組成物の総重量に対する、熱可塑性澱粉組成物に加えた水の重量と上記の方法により得られた原料の水分含有量との合計の割合から算出した。
【0082】
[破断伸度]
後述する方法により得られたコンパウンド体を、PETフィルムで挟んでヒートプレス機(アズワン株式会社、商品名:H300‐1)にて150℃、0.8tで6分間成形し、PETフィルムごと取り出して室温まで冷却して厚さ0.1~1.5mmのフィルムを作製した。得られたフィルムを23℃、50%RHで一日静置後、レバー式試料裁断器(株式会社ダンベル、型番:SDL-100)でダンベル試験片(JIS K 7127 タイプ5)に成形した。作製したダンベル試験片9サンプルを23℃、50%RHの環境下において万能材料試験機(株式会社A&D、型番:RTG-1210)にて、チャック間距離70mm、引張速度100mm/minで測定し、破断時の引張伸度(破断伸度)を測定した。破断伸度は9サンプルの測定結果から最大値及び最小値を除いた7サンプルの平均値として算出した。なお、特に断りがない限り、本明細書において定義する破断伸度(%GL)は、上記の方法によって得られる結果である。また、上記の方法によって得られた結果を、本実施例における熱可塑性澱粉組成物の特徴として定義する。
【0083】
また、実施形態において説明した前記式(3-1)及び式(3-2)により、破断伸度変化率Z及びZ0を算出し、算出した破断伸度変化率Z及びZ0より、差(Z0-Z)を算出した。
【0084】
[白色度]
後述する方法により得られた熱可塑性澱粉組成物、または、後述する方法により得られたコンパウンド体について、色差計(日本電色工業株式会社、商品名:SE7700)を用い、JIS Z8715に準拠して白色度(WB)を分析した。なお、特に断りがない限り、本明細書において定義する白色度(WB)は、上記の方法によって得られた結果であり、上記の方法によって得られた結果を、本実施例における熱可塑性澱粉組成物の特徴として定義する。なお、白色度変化率は、実施形態において説明した前記式(1)により算出した。また、160℃での30分間の加熱は、棚式送風乾燥機(アドバンテック東洋株式会社、商品名:DRK632DC)を用いて行った。
【0085】
また、算出した白色度変化率に基づいて、比較例(ハロゲン化金属塩を含まない熱可塑性澱粉組成物)の白色度変化率をXa、実施例(比較例の熱可塑性澱粉組成物に含まれる澱粉用可塑剤の一部をハロゲン化金属塩に置き換えた熱可塑性澱粉組成物)の白色度変化率をXbとして、白色度変化率の差(Xa-Xb)を算出した。
【0086】
<熱可塑性澱粉組成物の製造>
(使用材料)
本実施例において、澱粉として「未加工コーンスターチ(日本食品化工株式会社、商品名:日食コーンスターチY(水分13.2%))」、「未加工タピオカ澱粉(Asia Modified Starch Co.,Ltd.、商品名:TAPIOCA STARCH(水分13.2%))」、「加工タピオカ澱粉(日本食品化工株式会社、商品名:日食クリアテクストB-3(水分12.3%))」を使用した。また、本比較例において、酸化澱粉として「酸化澱粉(日本食品化工株式会社、商品名:MS#3800(水分13.9%))」を使用した。なお、表中に記載された澱粉の含量は、澱粉が含有する水分を含む含量である。また、本実施例において、「コーンスターチ」を単に「コンス」と表示する場合がある。
【0087】
澱粉用可塑剤として「グリセリン(関東化学株式会社)」「ソルビトール(関東化学株式会社)」を使用した。
【0088】
ハロゲン化金属塩として「塩化マグネシウム六水和物(関東化学株式会社、特級)」「塩化カルシウム(関東化学株式会社、特級)」「臭化マグネシウム六水和物(富士フィルム和光純薬株式会社)」を使用した。
【0089】
[実施例1、比較例1]
次の手順により、本実施例及び比較例の熱可塑性澱粉組成物を含むペレットを作製した。
【0090】
(熱可塑性澱粉組成物を含むペレットの製造)
下記表1に記載の原料を、ケンウッドミキサーにて事前に混合した。得られた混合物を二軸押出機(φ20mm、L/D=45、株式会社テクノベル)のC1(混練機の入口)上部に設置されたフィーダーから供給した。なお、本実施例においては、二軸押出機を使用してペレットを製造したが、ペレットを製造する装置はこれに限定されない。混練温度は、出口品温(混練機の出口における熱可塑性澱粉組成物の温度)が128℃となるように調整し、軸回転数は100rpmに設定した。吐出されたストランドをベルトコンベヤー(新生産業株式会社、型式:SMB-100)上で空冷して、ペレタイザー(株式会社テクノベル、商品名:SCP-203‐2MT)入口に供給した。ペレタイザーに引っ張られたストランドをペレタイザー内でカッティングして、下記表1に記載の実施例1及び比較例1の熱可塑性澱粉組成物を含むペレットを製造した(試験区A-1~10、12及びX-1~7)。
【0091】
なお、試験区A-11の熱可塑性澱粉組成物を含むペレットは、つぎの方法で製造した。試験区A-11においては、ハロゲン化金属塩処理澱粉を原料とした。ハロゲン化金属塩処理澱粉の調製方法は、まず、澱粉の重量に対し1重量%のハロゲン化金属塩を、澱粉の重量に対し20重量%の水に溶解させた。つぎに、前記溶解物を澱粉(未加工コーンスターチ)と混合した後、130℃で1時間乾燥させ、室温にて放冷することで、ハロゲン化金属塩処理澱粉を得た。その後、新たにハロゲン化金属塩を加えることなく、表1の原料組成及び原料合計水分量になるように、得られたハロゲン化金属塩処理澱粉及び各原料を事前に混合し、前記混合後の混合物を、二軸押出機のC1上部に設置されたフィーダーから供給した。フィーダーから供給したあとは、試験区A-1等と同じ操作を行い、試験区A-11の熱可塑性澱粉組成物を含むペレットを製造した。
【0092】
また、試験区A-13は、試験区A-1等における混練温度に代えて、混練温度を、出口品温が173℃となるように調整としたこと以外は、試験区A-1と同じ操作を行い、試験区A-13の熱可塑性澱粉組成物を含むペレットを製造した。
【0093】
なお、参考として、
図1に、試験区A-2、X-1、X-2の熱可塑性澱粉組成物の加熱前後の写真を示す。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
[実施例2、比較例2]
次の手順により、本実施例及び比較例のコンパウンド体を作製した。
【0098】
(熱可塑性澱粉組成物を含むコンパウンド体の製造)
実施例1及び比較例1で調製した熱可塑性澱粉組成物、熱可塑性樹脂(LDPE、東ソー株式会社、商品名:ペトロセン(登録商標)LDPE183、MFR2g/10min(JIS K 6922‐1による)、破断伸度400.3%GL)、及び相容化剤(三井化学株式会社、商品名:アドマーHE-810)をポリエチレン袋に入れて袋の口を縛り、上下左右に振ってよく混合した。その全量を二軸押出機(φ20mm、L/D=45、株式会社テクノベル)のC1上部に設置されたフィーダーから供給した。混練温度は出口品温が159℃となるように調整し、軸回転数は150rpmに設定した。吐出されたストランドのコンパウンド体を手に持ち、水槽(株式会社テクノベル、商品名:SCB150‐1500)にて水冷して、ペレタイザー(株式会社テクノベル、商品名:SCP-203‐2MT)入口に供給した。ペレタイザーに引っ張られたストランドをペレタイザー内でカッティングしてペレット状のコンパウンド体を製造した。得られたコンパウンド体について、破断伸度(%GL)及び白色度(WB)を測定した。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
[実施例3、比較例3]
本実施例及び比較例では、流動性の異なる熱可塑性樹脂を使用してコンパウンド体を作製した。
【0103】
熱可塑性樹脂を、下記表3に記載の流動性の異なる熱可塑性樹脂(LDPE、東ソー株式会社、商品名:ペトロセン(登録商標)LDPE212、MFR13g/10min(JIS K 6922‐1による)、破断伸度317.3%GL;LDPE、東ソー株式会社、商品名:ペトロセン(登録商標)LDPE249、MFR70g/10min(JIS K 6922‐1による)、破断伸度287.5%GL)に変更した以外は、実施例2と同様の方法で、実施例3及び比較例3のコンパウンド体を製造した。
【0104】
【0105】
【0106】
[実施例4、比較例4]
本実施例及び比較例では、熱可塑性樹脂の種類をポリプロピレン(PP)に変更してコンパウンド体を作製した。
【0107】
熱可塑性樹脂を、下記表4に記載の熱可塑性樹脂(PP、サンアロマー株式会社、商品名:PF621S、MFR6.5g/10min(JIS K 6921‐2による)、破断伸度584.4%GL;PP、日本ポリプロ株式会社、商品名:MG03BD、MFR30g/10min(JIS K 7210による)、破断伸度165.3%GL)に変更し、二軸押出機各ダイスの設定温度を、出口品温が180℃となるように調整した以外は、実施例2と同様の方法で、実施例4及び比較例4のコンパウンド体を製造した。
【0108】
【0109】
[実施例5、比較例5]
本実施例及び比較例では、熱可塑性樹脂の種類を変更してコンパウンド体を作製した。
【0110】
熱可塑性樹脂を、下記表5に記載の熱可塑性樹脂(PBS、三菱ケミカル株式会社、商品名:FZ91、MFR5g/10min(ISO 1133による)、破断伸度52.9%GL)に変更した以外は、実施例2と同様の方法で、実施例5及び比較例5のコンパウンド体を製造した。
【0111】
【0112】
[実施例6、比較例6]
本実施例及び比較例では、熱可塑性樹脂の配合割合を変更してコンパウンド体を作製した。
【0113】
下記表6に記載のとおり、熱可塑性澱粉組成物及び熱可塑性樹脂の配合割合を変更した以外は、実施例2と同様の方法で、実施例6及び比較例6のコンパウンド体を製造した。
【0114】
【0115】
表1のとおり、実施例1の、ハロゲン化金属塩が配合された熱可塑性澱粉組成物は、いずれも流動性が認められた。また、ハロゲン化金属塩が配合されていない比較例1の熱可塑性澱粉組成物と比べて、白色度変化率も小さかった。すなわち、流動性と高白色度が両立されていることが確認された(試験区A-1~A-13)。
【0116】
一方で、比較例1のハロゲン化金属塩が配合されていない熱可塑性澱粉組成物は、ハロゲン化金属塩が配合された実施例1の熱可塑性澱粉組成物と比べて、白色度変化率が大きかった。すなわち、実施例1と比較して加熱により着色しやすかった(試験区X-1、X-2)。また、未加工澱粉であるコーンスターチを配合した試験区X-1及びX-3は、全く流動性が認められず、MFRを測定することができなかった。さらに、酸化処理により低分子化した酸化澱粉を使用した試験区X-2は、MFRは高いものの、白色度変化率は90%以上と非常に高かった。
【0117】
表2のとおり、実施例の試験区ではグリセロール又はソルビトールを澱粉用可塑剤として配合された熱可塑性澱粉組成物、及びLDPE183を熱可塑性樹脂として配合した条件下において、比較例よりも高白色度であった(試験区B1-1A~B1-5B)。また、実施例の破断伸度変化率Zは、比較例の破断伸度変化率Z0よりもすべて小さかった。すなわち、実施例は比較例と比べて、原料であるLDPE183からの破断伸度の変化が少なかった。
【0118】
一方で、比較例の試験区はいずれも実施例の試験区より低白色度であった(試験区B1X-1A~B1X-2B)。また、試験区B1X-2A及びB1X-2Bは、いずれも破断伸度変化率は実施例並みに低い値を示したが、白色度(WB)は30以下と顕著に低かった。この結果は、コンパウンド体の原料である熱可塑性澱粉組成物(X-2)の性質に顕著に影響を受けていることが示唆された。なお、相容化剤の配合有無に関わらず、上述の傾向は同様であった。
【0119】
表3のとおり、熱可塑性樹脂を流動性が異なる他のPEへ変更しても、実施例(試験区B2-1~B2-5)は、白色度(WB)及び破断伸度変化率がともに比較例(試験区B2X-1~B2X-6)よりも優れていた。なお、比較例(試験区B2X-4)は、破断伸度変化率が実施例よりも低い値を示したが、白色度(WB)は実施例よりも低かった。
【0120】
表4のとおり、熱可塑性樹脂をPPへ変更しても、実施例(試験区B3-1~B3-2)は、白色度(WB)及び破断伸度変化率がともに比較例(試験区B3X-1~B3X-4)よりも優れていた。
【0121】
表5のとおり、熱可塑性樹脂をPBSへ変更しても、実施例(試験区B4-1)は、白色度(WB)及び破断伸度変化率がともに比較例(試験区B4X-1~B4X-2)よりも優れていた。
【0122】
表6のとおり、熱可塑性澱粉組成物を高配合としても、実施例(試験区B5-1)は、白色度(WB)及び破断伸度がともに、同じく熱可塑性澱粉組成物を高配合とした比較例(試験区B5X-1~B5X-2)よりも優れていた。なお、比較例(試験区B5X-2)は、破断伸度変化率が実施例よりも低い値を示したが、白色度(WB)は実施例よりも低かった。
【0123】
<付記>
上記実施形態及び実施例の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載し得るが、以下には限定されない。
(付記1)
熱可塑性澱粉組成物であって、
澱粉、澱粉用可塑剤、及びハロゲン化金属塩を含み、
前記熱可塑性澱粉組成物のJIS K 7210に準拠した温度160℃及び荷重5kgにおけるメルトフローレートが、0.01g/10min以上である、
熱可塑性澱粉組成物。
(付記2)
前記澱粉が、非酸化澱粉である、付記1記載の熱可塑性澱粉組成物。
(付記3)
前記熱可塑性澱粉組成物に含まれる水以外の全成分の合計重量を100重量%として、
前記澱粉の含有率が、55~85重量%、
前記澱粉用可塑剤の含有率が、10~40重量%、
前記ハロゲン化金属塩の含有率が、0.1~10重量%である、
付記1又は2記載の熱可塑性澱粉組成物。
(付記4)
下記式(1)で算出される、ペレット状に成形した前記熱可塑性澱粉組成物の白色度変化率Xが、40%以下である、付記1から3のいずれかに記載の熱可塑性澱粉組成物。
X={(A-B)/A}×100 (1)
前記式(1)において、
Aは、JIS Z8715に準拠して算出される、前記成形した後の熱可塑性澱粉組成物の白色度(WB)であり、
Bは、JIS Z8715に準拠して算出される、前記成形した後の熱可塑性澱粉組成物を160℃で30分間加熱した後の熱可塑性澱粉組成物の白色度(WB)である。
(付記5)
前記澱粉用可塑剤として、多価アルコール類、及び糖類の少なくとも一方を含む、付記1から4のいずれかに記載の熱可塑性澱粉組成物。
(付記6)
前記多価アルコール類が、グリセリン、プロピレングリコール、及びエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記糖類が、ソルビトール、及びグルコースの少なくとも一方である、
付記5記載の熱可塑性澱粉組成物。
(付記7)
前記澱粉用可塑剤として、水を実質的に含まない、付記1から6のいずれかに記載の熱可塑性澱粉組成物。
(付記8)
前記ハロゲン化金属塩として、塩化金属塩、臭化金属塩、及びヨウ化金属塩からなる群から選択される少なくとも一つを含む、付記1から7のいずれかに記載の熱可塑性澱粉組成物。
(付記9)
前記ハロゲン化金属塩として、塩化金属塩を含む、付記1から8のいずれかに記載の熱可塑性澱粉組成物。
(付記10)
前記ハロゲン化金属塩が、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、臭化ナトリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化マグネシウム、及びヨウ化カルシウムからなる群から選択される少なくとも一つである、付記1から8のいずれかに記載の熱可塑性澱粉組成物。
(付記11)
熱可塑性澱粉組成物であって、
澱粉、澱粉用可塑剤、及びハロゲン化金属塩を含み、
下記式(1)で算出される、ペレット状に成形した前記熱可塑性澱粉組成物の白色度変化率Xが、40%以下である、熱可塑性澱粉組成物。
X={(A-B)/A}×100 (1)
前記式(1)において、
Aは、JIS Z8715に準拠して算出される、前記成形した後の熱可塑性澱粉組成物の白色度(WB)であり、
Bは、JIS Z8715に準拠して算出される、前記成形した後の熱可塑性澱粉組成物を160℃で30分間加熱した後の熱可塑性澱粉組成物の白色度(WB)である。
(付記12)
付記1から11のいずれかに記載の熱可塑性澱粉組成物を含むペレット。
(付記13)
付記1から11のいずれかに記載の熱可塑性澱粉組成物を含むフレーク。
(付記14)
付記1から11のいずれかに記載の熱可塑性澱粉組成物を含むコンパウンド体。
(付記15)
付記1から11のいずれかに記載の熱可塑性澱粉組成物を含む樹脂成形物。
(付記16)
前記澱粉、前記澱粉用可塑剤、及び前記ハロゲン化金属塩を含む原料を混合する混合工程を含む、
付記1から11のいずれかに記載の熱可塑性澱粉組成物の製造方法。
(付記17)
熱可塑性澱粉組成物を押出成形してストランドを形成するストランド形成工程と、
前記ストランドを切断してペレット又はフレークを形成するストランド切断工程と、を含み、
前記熱可塑性澱粉組成物は、付記1から11のいずれかに記載の熱可塑性澱粉組成物である、ペレット又はフレークの製造方法。
(付記18)
ペレット又はフレークを含む原料と、熱可塑性樹脂を含む原料とを混練する第1の混練工程を含み、
前記ペレットは、付記12記載のペレットであり、
前記フレークは、付記13記載のフレークである、コンパウンド体の製造方法。
(付記19)
コンパウンド体を含む原料を樹脂成形して樹脂成形物を製造する樹脂成形工程を含み、
前記コンパウンド体は、付記14記載のコンパウンド体である、樹脂成形物の製造方法。
(付記20)
前記コンパウンド体と、他の熱可塑性樹脂を含む原料とを混練する第2の混練工程と、
前記第2の混練工程で得られた混練物を樹脂成形して樹脂成形物を製造する樹脂成形工程と、を含む、
付記19記載の樹脂成形物の製造方法。
以上、説明したとおり、本開示は、着色が少なく、かつ、流動性を有する熱可塑性澱粉組成物、ペレット、フレーク、コンパウンド体、樹脂成形物、熱可塑性澱粉組成物の製造方法、ペレット又はフレークの製造方法、コンパウンド体の製造方法、及び樹脂成形物の製造方法を提供することができる。本開示は、例えば、着色が少なく、かつ、流動性を有する、熱可塑性澱粉組成物、及び熱可塑性澱粉組成物のマスターバッチを提供することができる。また、例えば、本開示の熱可塑性澱粉組成物を熱可塑性樹脂と混練することにより、澱粉含量の高いコンパウンド体を効率よく大量生産することができる。例えば、さらに、流動性が高い、すなわちMFRが高い熱可塑性澱粉組成物が供給されることで、従来のMFRの低い熱可塑性澱粉組成物との混練物とは異なる良好な物性を示すコンパウンド体が提供され、例えば、高い破断伸度の値を示すコンパウンド体が提供される。本開示の用途は特に限定されない。例えば、本開示の熱可塑性澱粉組成物の用途は、本開示のペレット、フレーク及び樹脂成形物に限定されず任意であり、広範な用途に使用可能である。
前記ハロゲン化金属塩が、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、臭化ナトリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化マグネシウム、及びヨウ化カルシウムからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1記載の熱可塑性澱粉組成物。