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特開2025-6379リチウムイオン二次電池の熱処理方法及びリチウムイオン二次電池の熱処理炉の制御装置
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  • 特開-リチウムイオン二次電池の熱処理方法及びリチウムイオン二次電池の熱処理炉の制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006379
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の熱処理方法及びリチウムイオン二次電池の熱処理炉の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/40 20220101AFI20250109BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20250109BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20250109BHJP
   B09B 101/16 20220101ALN20250109BHJP
【FI】
B09B3/40 ZAB
B09B5/00 Z
C22B26/12
C22B7/00 C
C22B1/02
H01M10/54
B09B101:16
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107135
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】516347455
【氏名又は名称】メジャーヴィーナス・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩示
【テーマコード(参考)】
4D004
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4D004AA23
4D004AC04
4D004BA05
4D004CA22
4D004DA02
4D004DA10
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA15
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】電解液の燃焼を発生させずに有価物を選別することのできる、リチウムイオン二次電池の熱処理方法及びリチウムイオン二次電池の熱処理炉の制御装置を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池の熱処理方法は、リチウムイオン二次電池が投入された熱処理炉の炉内温度を第1昇温速度で所定の乾燥温度まで上昇させる第1昇温工程と、第1昇温工程の後、炉内温度を乾燥温度で所定時間維持する第1維持工程と、第1維持工程の後、炉内温度を降下させる降温工程と、を含み、第1昇温速度は、1℃/min以上3℃/min以下であり、乾燥温度は、リチウムイオン二次電池の安全弁の開放温度以上450℃未満である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の熱処理方法であって、
前記リチウムイオン二次電池が投入された熱処理炉の炉内温度を第1昇温速度で所定の乾燥温度まで上昇させる第1昇温工程と、
前記第1昇温工程の後、前記炉内温度を前記乾燥温度で所定時間維持する第1維持工程と、
前記第1維持工程の後、前記炉内温度を降下させる降温工程と、
を含み、
前記第1昇温速度は、1℃/min以上3℃/min以下であり、
前記乾燥温度は、前記リチウムイオン二次電池の安全弁の開放温度以上450℃未満である、
リチウムイオン二次電池の熱処理方法。
【請求項2】
前記第1昇温工程及び前記第1維持工程の一部又は全部の期間において、前記熱処理炉内の酸素濃度を20%以下に低下させる、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の熱処理方法。
【請求項3】
前記第1維持工程の後、前記降温工程の前に、アルミニウムを酸化させるアルミニウム酸化温度まで第2昇温速度で前記炉内温度を上昇させる第2昇温工程を更に含み、
前記アルミニウム酸化温度は前記乾燥温度より高く、
前記第2昇温速度は、前記第1昇温速度より速い、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の熱処理方法。
【請求項4】
前記第2昇温工程の後、前記降温工程の前に、前記炉内温度を前記アルミニウム酸化温度で所定時間維持する第2維持工程を含む、
請求項3に記載のリチウムイオン二次電池の熱処理方法。
【請求項5】
前記第1昇温工程及び前記第1維持工程の一部又は全部の期間において、前記熱処理炉内の酸素濃度を20%以下に低下させ、
前記第2昇温工程の間に、前記熱処理炉内の酸素濃度を大気中の酸素濃度まで上昇させる、
請求項3又は4に記載のリチウムイオン二次電池の熱処理方法。
【請求項6】
リチウムイオン二次電池の熱処理炉の制御装置であって、
前記熱処理炉の炉内温度を測定する温度センサと、
前記熱処理炉の内部を加熱するヒータと、
前記ヒータを制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記リチウムイオン二次電池が投入された前記熱処理炉の炉内温度を第1昇温速度で所定の乾燥温度まで上昇させる第1昇温工程と、
前記第1昇温工程の後、前記炉内温度を前記乾燥温度で所定時間維持する第1維持工程と、
前記第1維持工程の後、前記炉内温度を降下させる降温工程と、
を実行するように前記ヒータを制御するように構成され、
前記第1昇温速度は、1℃/min以上3℃/min以下であり、
前記乾燥温度は、前記リチウムイオン二次電池の安全弁の開放温度以上450℃未満である、
リチウムイオン二次電池の熱処理炉の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の熱処理方法及びリチウムイオン二次電池の熱処理炉の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いこと、自己放電が少ないこと、メモリー効果が無いことなど多くのメリットを持つことから、携帯電子機器、家電、電気自動車、産業機械等幅広い分野において使用されている。リチウムイオン二次電池の使用量の増加に伴い、使用済みのリチウムイオン二次電池の廃棄量も増加している。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、コバルト、ニッケル、マンガン、リチウム、アルミニウム、鉄、銅などの有価物が含まれている。したがって、資源の有効利用の観点から、廃棄されるリチウムイオン二次電池からこれらの有価物を選別・回収してリサイクルすることが望ましい。
【0004】
そこで近年、リチウムイオン二次電池から有価物を選別するための技術が検討されている。例えば、リチウムイオン二次電池を熱処理炉において熱処理する熱処理工程と、熱処理工程で得られた熱処理物を破砕する破砕工程と、破砕工程で得られた破砕物を分級する分級工程とを含む、有価物の選別方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-182724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したような従来の技術では、リチウムイオン二次電池の筐体に含まれるアルミニウムを溶融させて他の部分から選別するために、熱処理工程において熱処理温度をアルミニウムの融点である660℃以上としている。その結果、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池に含まれる電解液が急激に気化して熱処理炉内に噴出し、着火・燃焼が発生する。
【0007】
ここで、産業廃棄物の処理施設において処理物の燃焼が発生する場合には、焼却施設としての設置許可を受ける必要があり、施設の構造や維持管理方法、周辺環境への配慮等において高い基準を満たすことが要求される。そのため、従来技術のように電解液の燃焼を伴うリチウムイオン二次電池の熱処理方法では、処理施設の設置や維持に高いコストがかかるという問題がある。
【0008】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、電解液の燃焼を発生させずに有価物を選別することのできる、リチウムイオン二次電池の熱処理方法及びリチウムイオン二次電池の熱処理炉の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明によるリチウムイオン二次電池の熱処理方法は、リチウムイオン二次電池が投入された熱処理炉の炉内温度を第1昇温速度で所定の乾燥温度まで上昇させる第1昇温工程と、第1昇温工程の後、炉内温度を乾燥温度で所定時間維持する第1維持工程と、第1維持工程の後、炉内温度を降下させる降温工程と、を含み、第1昇温速度は、1℃/min以上3℃/min以下であり、乾燥温度は、リチウムイオン二次電池の安全弁の開放温度以上450℃未満である。
【0010】
このように構成された本発明では、熱処理炉の炉内温度を、1℃/min以上3℃/min以下に設定された第1昇温速度で、リチウムイオン二次電池の安全弁の開放温度以上450℃未満の乾燥温度まで上昇させるので、熱処理炉に投入された種々のリチウムイオン二次電池のうち個体差によって安全弁の開放圧が低いものから、気化した電解液を少しずつ放出させることができる。したがって、高温の熱処理炉内に電解液が一気に噴出して着火・燃焼することが防止される。また、炉内温度を乾燥温度で所定時間維持するので、リチウムイオン二次電池に含まれる電解液の着火・燃焼を防止しながら十分に乾燥させることができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、第1昇温工程及び第1維持工程の一部又は全部の期間において、熱処理炉内の酸素濃度を20%以下に低下させる。
【0012】
このように構成された本発明においては、第1昇温工程及び第1維持工程の一部又は全部の期間において、リチウムイオン二次電池から放出された電解液が酸素と反応して着火・燃焼することをより確実に防止することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、第1維持工程の後、降温工程の前に、アルミニウムを酸化させるアルミニウム酸化温度まで第2昇温速度で炉内温度を上昇させる第2昇温工程を更に含み、アルミニウム酸化温度は乾燥温度より高く、第2昇温速度は、第1昇温速度より速い。
【0014】
このように構成された本発明においては、第1昇温速度より速い第2昇温速度で、乾燥温度より高いアルミニウム酸化温度まで炉内温度を上昇させるので、第2昇温工程に要する時間を短縮できると共に、乾燥温度より高いアルミニウム酸化温度の雰囲気によってリチウムイオン二次電池に含まれるアルミニウムの酸化を促進することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、第2昇温工程の後、降温工程の前に、炉内温度をアルミニウム酸化温度で所定時間維持する第2維持工程を含む。
【0016】
このように構成された本発明においては、炉内温度をアルミニウム酸化温度で所定時間維持するので、リチウムイオン二次電池に含まれるアルミニウムの酸化を更に促進することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、第1昇温工程及び第1維持工程の一部又は全部の期間において、熱処理炉内の酸素濃度を20%以下に低下させ、第2昇温工程の間に、熱処理炉内の酸素濃度を大気中の酸素濃度まで上昇させる。
【0018】
このように構成された本発明においては、第1昇温工程及び第1維持工程の一部又は全部の期間において、リチウムイオン二次電池から放出された電解液が酸素と反応して着火・燃焼することをより確実に防止することができる。また、第2昇温工程の間に、熱処理炉内の酸素濃度を大気中の酸素濃度まで上昇させるので、電解液の乾燥後はリチウムイオン二次電池に含まれるアルミニウムの酸化を促進することができる。
【0019】
本発明の他の側面によれば、本発明によるリチウムイオン二次電池の熱処理炉の制御装置は、熱処理炉の炉内温度を測定する温度センサと、熱処理炉の内部を加熱するヒータと、ヒータを制御するコントローラと、を備え、コントローラは、リチウムイオン二次電池が投入された熱処理炉の炉内温度を第1昇温速度で所定の乾燥温度まで上昇させる第1昇温工程と、第1昇温工程の後、炉内温度を乾燥温度で所定時間維持する第1維持工程と、第1維持工程の後、炉内温度を降下させる降温工程と、を実行するようにヒータを制御するように構成され、第1昇温速度は、1℃/min以上3℃/min以下であり、乾燥温度は、リチウムイオン二次電池の安全弁の開放温度以上450℃未満である。
【0020】
このように構成された本発明においては、コントローラは、熱処理炉の炉内温度を、1℃/min以上3℃/min以下に設定された第1昇温速度で、リチウムイオン二次電池の安全弁の開放温度以上450℃未満の乾燥温度まで上昇させるようにヒータを制御するので、熱処理炉に投入された種々のリチウムイオン二次電池のうち個体差によって安全弁の開放圧が低いものから、気化した電解液を少しずつ放出させることができる。したがって、高温の熱処理炉内に電解液が一気に噴出して着火・燃焼することが防止される。また、コントローラは、炉内温度を乾燥温度で所定時間維持するようにヒータを制御するので、リチウムイオン二次電池に含まれる電解液の着火・燃焼を防止しながら十分に乾燥させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のリチウムイオン二次電池の熱処理方法及びリチウムイオン二次電池の熱処理炉の制御装置によれば、電解液の燃焼を発生させずに有価物を選別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態による、リチウムイオン二次電池から有価物を選別する方法の流れを示すフローチャートである。
図2】本発明の実施形態による熱処理炉の構成を示す概略縦断面図である。
図3】本発明の実施形態による、リチウムイオン二次電池の熱処理方法の流れを示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態による、リチウムイオン二次電池の熱処理方法における炉内温度の時間変化を示すタイムチャートである。
図5】本発明の実施形態による、リチウムイオン二次電池の熱処理方法における炉内圧力の時間変化を示すタイムチャートである。
図6】本発明の実施形態の変形例による、リチウムイオン二次電池の熱処理方法の流れを示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態の変形例による、リチウムイオン二次電池の熱処理方法における炉内温度の時間変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるモータコアの製造方法及びモータコアについて説明する。
【0024】
[リチウムイオン二次電池からの有価物の選別]
まず、図1を参照して、リチウムイオン二次電池から有価物を選別する方法について説明する。図1は、本実施形態によるリチウムイオン二次電池から有価物を選別する方法の流れを示すフローチャートである。
【0025】
本実施形態において有価物を選別する対象としては、任意のリチウムイオン二次電池を用いることができる。例えば、廃棄された電子機器に内蔵されていた使用済みのリチウムイオン二次電池や、不良品として廃棄されたリチウムイオン二次電池などを対象とすることができる。また、リチウムイオン二次電池の種類としては、リチウムポリマー系、三元系、リン酸鉄系、マンガン系、ニッケル系、コバルト系等、既知の任意の種類のリチウムイオン二次電池を対象とすることができる。また、リチウムイオン二次電池の形状についても、円筒形、角形、ラミネート缶など、任意の形状のものを対象とすることができる。また、上記の様々な種類や形状のリチウムイオン二次電池が混合されたものを対象としてもよく、いずれか1種類のリチウムイオン二次電池を対象としてもよい。
【0026】
図1に示すように、まず、ステップS1において、リチウムイオン二次電池に含まれる電解液を乾燥させると共に、リチウムイオン二次電池の筐体などに含まれるアルミニウムを酸化させる乾燥・Al酸化工程を実行する。この乾燥・Al酸化工程において、リチウムイオン二次電池は熱処理炉に投入され、昇温速度及び所定温度での維持を含む温度条件に従って熱処理が行われる。この熱処理の詳細については後述する。
【0027】
次に、ステップS2において、ステップS1の乾燥・Al酸化工程後に熱処理炉から取り出した処理物から有価物を分離する分離工程を実行する。具体的には、まず、リチウムイオン二次電池の筐体が主に鉄(Fe)で構成されている場合には、乾燥・Al酸化工程を経ても筐体の強度が十分に低下していないので、破砕機によって鉄筐体を粗破砕する。次に、処理物を篩分け機に投入し、乾燥・Al酸化工程において溶解せずに残っている銅(Cu)や鉄(Fe)と、それ以外の粒状物とに篩い分けする。粒状物には、アルミナ(Al23)や、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、リチウム(Li)などを含む濃縮滓(ブラックマス)が含まれている。異なる篩目を持つ複数の篩分け機によってこれらの粒状物を更に選別してもよく、更に磁力選別機によって磁性物と非磁性物とを選別してもよい。以上の分離工程により、処理物から有価物を選別することができる。
【0028】
[熱処理炉]
次に、図2を参照して、上述した乾燥・Al酸化工程においてリチウムイオン二次電池の熱処理を行う熱処理炉及び制御装置について説明する。図2は、本実施形態による熱処理炉の構成を示す概略縦断面図である。
【0029】
本実施形態における熱処理炉1は、熱処理すべきリチウムイオン二次電池Lを台車に載せて熱処理炉1の前方(図2においては右側)から炉内に出し入れする台車式加熱炉(バッチ炉)である。熱処理炉1の前面には開閉可能な前蓋2が配置されており、ピストンシリンダ4によって前蓋2を熱処理炉1の前面開口部に圧着することにより、熱処理炉1を閉鎖できるようになっている。
【0030】
熱処理炉1に対するリチウムイオン二次電池/処理物Lの出し入れは、台車6を用いて行う。前蓋2を開いた状態において、台車6は熱処理炉1の内外を移動可能となっている。
【0031】
熱処理炉1の内部には、熱処理炉1内の雰囲気を加熱するヒータ8が設けられている。ヒータ8としては種々の発熱体を用いることができるが、アルミニウムの融点660℃以上まで加熱可能であり、且つ、電解液の気化によって生じる腐食性ガスによって腐食することのない発熱体が望ましく、例えば炭化ケイ素(SiC)発熱体が用いられる。図2の例では、ヒータ8は熱処理炉1の天井部に設けられているが、熱処理炉1の側壁からリチウムイオン二次電池/処理物Lの上方に延びるようにヒータ8を配置してもよい。ヒータ8はコントローラ20に電気的に接続されており、コントローラ20によって発熱量が制御される。
【0032】
また、熱処理炉1の内部には、熱処理炉1の炉内温度を測定する熱電対10(温度センサ)と、熱処理炉1の炉内圧力を測定する圧力計12とが設けられている。これらの熱電対10及び圧力計12はコントローラ20に電気的に接続されており、それぞれの測定値をコントローラ20に出力する。
【0033】
熱処理炉1の後部には、熱処理炉1内の雰囲気を外部環境へ排気するための煙道14が接続されている。煙道14には、排気ファン16と、バタフライ弁18と、排ガス処理装置(図示せず)とが設けられている。
【0034】
排気ファン16は、熱処理実行中において熱処理炉1内の雰囲気を吸引して外部環境へ排気することにより、熱処理炉1の炉内圧力を常時負圧に維持する。熱処理実行中の炉内圧力は、例えば-0.5kPa(ゲージ圧)である。なお、熱処理炉1は完全に気密とはなっておらず、排気ファン16による排気に対応して少量の大気が外部から炉内に導入されるようになっている。また、煙道14の出口を煙突として、煙突効果により熱処理炉1内の雰囲気が自然排気されるようにすることにより、排気ファン16を省略してもよい。
【0035】
バタフライ弁18は、煙道14を流れる排気の流量を調整することにより、熱処理炉1の炉内圧力を所定の負圧に維持する。バタフライ弁18は、バタフライ弁18の前後の差圧を弁内部のばねの弾性力によって所定の値にバランスさせる自力式の自動弁としてもよく、弁に接続されたアクチュエーターをコントローラ20で制御することによって開度を調節する他力式の自動弁としてもよい。例えば、気化した電解液がリチウムイオン二次電池Lから放出されていない間はバタフライ弁18の開度が相対的に小さくなることにより、炉内圧力が低くなり過ぎないようにし、気化した電解液がリチウムイオン二次電池Lから放出され炉内圧力が上昇した場合にはバタフライ弁18の開度が相対的に大きくなることにより、炉内圧力が正圧とならないように、即ち炉内の雰囲気が煙道14以外の間隙から熱処理炉1の外部に漏れださないようにする。
【0036】
コントローラ20は、熱電対10や圧力計12から入力された測定値に基づき、ヒータ8の出力を制御する。このコントローラ20は、種々の処理を実行する1つ又は複数のCPUなどのプロセッサと、プロセッサに実行させるプログラムや、このプログラムの実行に必要な種々のデータなどを記憶する1つ又は複数のメモリ(ROMやRAMやハードディスクなど)と、オペレーターからの操作入力を受け付ける操作部と、熱処理炉1の運転状況を表示する表示部とを主に有する。
【0037】
[熱処理方法]
次に、図3から図5を参照して、上述した乾燥・Al酸化工程においてリチウムイオン二次電池Lの熱処理を行う熱処理方法について説明する。図3は、本実施形態の熱処理方法の流れを示すフローチャートであり、図4は、本実施形態の熱処理方法における炉内温度の時間変化を示すタイムチャートであり、図5は、本実施形態の熱処理方法における炉内圧力の時間変化を示すタイムチャートである。
【0038】
図3に示すように、まず、ステップS11において、処理対象のリチウムイオン二次電池Lを台車6に載せて熱処理炉1の炉内に投入し、前蓋2を閉扉する。
【0039】
次に、コントローラ20は、ステップS12において、ヒータ8の出力をONにして熱処理炉1の雰囲気の加熱を開始し、ステップS13において、炉内温度が第1昇温速度で上昇するようにヒータ8の出力を制御する(第1昇温工程)。第1昇温速度は、1℃/min以上3℃/min以下であり、好ましくは2℃/minである。このような第1昇温速度で炉内温度を上昇させると、熱処理炉1に投入された種々のリチウムイオン二次電池Lのうち個体差によって安全弁の開放圧が低いものから、気化した電解液が少しずつ放出されるので、高温の熱処理炉1内に電解液が一気に噴出して着火・燃焼することが防止される。一方、昇温速度が3℃/minより速い場合、例えば5℃/minとした場合には、炉内温度が高温(例えば500℃以上)に達した後に一気に電解液が炉内に噴出し、燃焼が発生する場合がある。
【0040】
次に、ステップS14において、コントローラ20は、熱電対10によって測定された炉内温度が所定の乾燥温度に到達したか否かを判定する。乾燥温度は、熱処理炉1に投入されたリチウムイオン二次電池Lの電解液を乾燥させるための温度であり、リチウムイオン二次電池Lの安全弁の開放温度以上且つ450℃未満である。また、リチウムイオン二次電池Lの安全弁の開放温度は、処理対象のリチウムイオン二次電池Lに応じて設定することができるが、例えば350℃である。本実施形態では、乾燥温度は400℃とする。
【0041】
ステップS14の判定の結果、炉内温度が乾燥温度に到達していない場合(ステップS14:NO)、ステップS13に戻り、コントローラ20は炉内温度の上昇を継続させる。一方、炉内温度が乾燥温度に到達した場合(ステップS14:YES)、ステップS15に進み、コントローラ20は、乾燥温度を所定時間T1の間維持するようにヒータ8の出力を制御する(第1維持工程)。所定時間T1は、熱処理炉1に投入されたリチウムイオン二次電池Lの種類や量に応じて、リチウムイオン二次電池Lに含まれる電解液を十分に乾燥させるために必要な時間として適宜決定されるが、例えば10分から2時間の範囲内とすることができ、本実施形態では30分である。
【0042】
上述したステップS13からS15の工程(第1昇温工程及び第1維持工程)における炉内温度と炉内圧力の変化を、図4及び図5を参照して説明する。図4に示すように、ステップS13において室温から第1昇温速度2℃/minで炉内温度を上昇させると、昇温開始から約190分で乾燥温度400℃に到達し、その後ステップS15において乾燥温度400℃が所定時間T1=30分維持される。この間、気化した電解液は徐々に放出されるが、乾燥温度よりも高温な雰囲気の中に電解液が急激に噴出することによる着火・燃焼は発生していない。
【0043】
一方、炉内圧力は、図5に示すように、炉内温度が上昇中は負圧の-0.5kPa Gに保持されており、炉内温度が400℃に達する前後から上昇し、昇温開始から200分において-0.1kPa Gのピークとなり、その後下降して-0.5kPa Gに戻る。これは、炉内温度が乾燥温度に近づくとリチウムイオン二次電池Lの電解液が気化して徐々に筐体の外に放出されることによって炉内圧力が上昇するが、それに応じてバタフライ弁18の開度が大きくなることにより、炉内圧力が負圧に保たれたことを示している。このように、本実施形態の熱処理の第1昇温工程及び第1維持工程においては、炉内温度が急上昇したり、炉内圧力が正圧まで上昇したりすることがない。
【0044】
図3に戻り、ステップS15において乾燥温度を所定時間T1の間維持した後、ステップS16に進み、コントローラ20は、炉内温度が第2昇温速度で上昇するようにヒータ8の出力を制御する(第2昇温工程)。ステップS15までの間にリチウムイオン二次電池Lに含まれる電解液は乾燥済みであり、燃焼が発生することはないので、第2昇温速度は、第1昇温速度よりも速くすることができる。例えば、本実施形態において第2昇温速度は5℃/minである。
【0045】
次に、ステップS17において、コントローラ20は、熱電対10によって測定された炉内温度がアルミニウム酸化温度(Al酸化温度)に到達したか否かを判定する。Al酸化温度は、上述の乾燥温度より高く、好ましくはアルミニウムの融点(660℃)より高く銅の融点(1085℃)より低く設定される。これにより、リチウムイオン二次電池Lの筐体などに含まれるアルミニウムを溶解して表面積を増大させることによって酸化を促進し、粒状のアルミナを得ることができると共に、銅の溶解を防止してその後の分離を容易にすることができる。本実施形態では、Al酸化温度は700℃とする。
【0046】
ステップS17の判定の結果、炉内温度が乾燥温度に到達していない場合(ステップS17:NO)、ステップS16に戻り、コントローラ20は炉内温度の上昇を継続させる。一方、炉内温度がAl酸化温度に到達した場合(ステップS17:YES)、ステップS18に進み、コントローラ20は、Al酸化温度を所定時間T2の間維持するようにヒータ8の出力を制御する(第2維持工程)。所定時間T2は、熱処理炉1に投入されたリチウムイオン二次電池Lの種類や量に応じて、リチウムイオン二次電池Lに含まれるアルミニウムを十分に酸化させるために必要な時間として適宜決定されるが、例えば10分から2時間の範囲内とすることができ、本実施形態では30分である。
【0047】
次に、ステップS19において、コントローラ20は、ヒータ8の出力をOFFにして熱処理炉1の雰囲気の加熱を停止し、炉内温度を降下させる(降温工程)。
【0048】
上述したステップS16からS18の工程(Al酸化工程)及びステップS19の降温工程における炉内温度と炉内圧力の変化を、図4及び図5を参照して説明する。図4に示すように、ステップS16において乾燥温度400℃から第1昇温速度より速い第2昇温速度5℃/minで炉内温度を上昇させると、昇温開始から60分でAl酸化温度700℃に到達し、その後ステップS18においてAl酸化温度700℃が所定時間T2=30分維持される。リチウムイオン二次電池Lの電解液は第1昇温工程及び第1維持工程において既に乾燥しているので、電解液の着火・燃焼は発生しない。その後、ステップS19においてヒータ8がOFFにされると、炉内温度は徐々に低下し室温まで戻る。
【0049】
また、炉内圧力は、図5に示すように、Al酸化工程及び降温工程の間、負圧の-0.5kPa Gに保持される。このように、本実施形態の熱処理のAl酸化工程及び降温工程においても、炉内温度が急上昇したり、炉内圧力が正圧まで上昇したりすることがない。
【0050】
図3に戻り、炉内の温度が室温近傍まで十分低下した後、ステップS20において、前蓋2を開扉し、熱処理炉1から台車6を引き出して熱処理後の処理物Lを篩分け機に移送する。これにより、熱処理を終了する。
【0051】
<変形例>
次に、本発明の実施形態の変形例を説明する。
【0052】
上述した実施形態においては、熱処理炉1には大気が導入されるが、第1昇温工程及び第1維持工程の一部又は全部の期間において、例えば窒素やヘリウムなどの不活性ガスを導入して、熱処理炉1内の酸素濃度を20%以下に低下させるようにしてもよい。これにより、リチウムイオン二次電池Lから放出された電解液が酸素と反応して着火・燃焼することをより確実に防止することができる。この場合、熱処理炉1には、炉内に不活性ガスを導入するための不活性ガス供給装置と、炉内の酸素濃度を測定するO2センサとが設けられる(図示省略)。不活性ガス供給装置及びO2センサはコントローラ20に電気的に接続されており、コントローラ20は、炉内の雰囲気を所定の酸素濃度とするように、不活性ガス供給装置による不活性ガスの導入を制御する。本変形例では、不活性ガスとして窒素(N2)を用いる。
【0053】
図6を参照して、この変形例によりリチウムイオン二次電池Lの熱処理を行う熱処理方法について説明する。図6は、本変形例の熱処理方法の流れを示すフローチャートである。なお、図6に示すフローチャートのステップS21、S23からS26、S28からS32は、図3に示したフローチャートのステップS11からS20と同様であるので、適宜説明を省略する。
【0054】
ステップS21において熱処理炉1の前蓋2を閉扉した後、ステップS22において、コントローラ20は、熱処理炉1内にN2を導入し、炉内の雰囲気の酸素濃度が20%以下(例えば10%)となるように不活性ガス供給装置を制御する。
【0055】
また、ステップS26において乾燥温度を所定時間T1の間維持した後、ステップS27において、コントローラ20は、熱処理炉1内へのN2の導入を停止する。排気ファン16による排気に対応して熱処理炉1には少量の大気が外部から炉内に導入されているので、N2の導入停止後、酸素濃度は徐々に大気中の酸素濃度まで上昇する。
【0056】
このように、本変形例では第1昇温工程及び第1維持工程の全部の期間において、熱処理炉1内にN2を導入して酸素濃度を20%以下に低下させているが、第1昇温工程及び第1維持工程の一部の期間、例えば第1昇温工程の後半及び第1維持工程において熱処理炉1内にN2を導入してもよく、第1維持工程のみにおいて熱処理炉1内にN2を導入してもよい。
【0057】
また、上述した実施形態においては、篩分け機を用いて分離工程を実行すると説明したが、分離工程を手作業で実行することもできる。この場合、熱処理に含まれる第1昇温工程、第1維持工程、第2昇温工程及び第2維持工程のうち、第2昇温工程及び第2維持工程を省略して第1昇温工程及び第1維持工程のみを実行してもよい。具体的には、図3に示した熱処理におけるステップS16からS18、又は、図6に示した熱処理におけるS28からS30を省略することができる。
【0058】
この場合の炉内温度の時間変化を、図7を参照して説明する。図4に示した実施形態の場合と同様に、ステップS13又はS24(第1昇温工程)において室温から第1昇温速度2℃/minで炉内温度を上昇させると、昇温開始から約190分で乾燥温度400℃に到達し、その後ステップS15又はS26において乾燥温度400℃が所定時間T1=30分維持される(第1維持工程)。その後、第2昇温工程及び第2維持工程を省略し、ステップS19又はS31においてヒータ8がOFFにされると、炉内温度は徐々に低下し室温まで戻る。この間、炉内温度が急上昇したり、炉内圧力が正圧まで上昇したりすることがない。
【0059】
また、上述した実施形態においては、第1昇温速度及び第2昇温速度はそれぞれ一定値としたが、変化するようにしてもよい。例えば、熱処理のステップS13又はS24(第1昇温工程)において、昇温開始から炉内温度を乾燥温度より低い中間温度(例えば250℃)に達するまでの間は、昇温速度を相対的に速い速度(例えば5℃/min)設定し、炉内温度を中間温度から乾燥温度まで上昇させる間は昇温速度を相対的に遅い速度(例えば1℃/min)に設定してもよい。このように、炉内温度が室温から上昇を開始した直後で電解液の着火・燃焼が発生するおそれのないときには速やかに炉内温度を上昇させ、炉内温度が乾燥温度に近づき、炉内温度を急激に上昇させると電解液の着火・燃焼が発生する可能性があるときには炉内温度をゆっくりと上昇させることにより、第1昇温工程に要する時間の短縮と電解液の着火・燃焼の防止とを両立することができる。
【0060】
<作用効果>
次に、上述した実施形態及び変形例によるリチウムイオン二次電池Lの熱処理方法及びリチウムイオン二次電池Lの熱処理炉1の制御装置の作用効果について説明する。
【0061】
まず、上述した実施形態及び変形例の熱処理方法及び熱処理炉1の制御装置によれば、第1昇温工程において、熱処理炉1の炉内温度を、1℃/min以上3℃/min以下に設定された第1昇温速度で、リチウムイオン二次電池Lの安全弁の開放温度以上450℃未満の乾燥温度まで上昇させるので、熱処理炉1に投入された種々のリチウムイオン二次電池Lのうち個体差によって安全弁の開放圧が低いものから、気化した電解液を少しずつ放出させることができる。したがって、高温の熱処理炉1内に電解液が一気に噴出して着火・燃焼することが防止される。また、第1維持工程において、炉内温度を乾燥温度で所定時間維持するので、リチウムイオン二次電池Lに含まれる電解液の着火・燃焼を防止しながら十分に乾燥させることができる。
【0062】
また、第1昇温工程及び第1維持工程の一部又は全部の期間において、熱処理炉1内の酸素濃度を20%以下に低下させるので、リチウムイオン二次電池Lから放出された電解液が酸素と反応して着火・燃焼することをより確実に防止することができる。
【0063】
また、第2昇温工程において、第1昇温速度より速い第2昇温速度で、乾燥温度より高いアルミニウム酸化温度まで炉内温度を上昇させるので、第2昇温工程に要する時間を短縮できると共に、乾燥温度より高いアルミニウム酸化温度の雰囲気によってリチウムイオン二次電池Lに含まれるアルミニウムの酸化を促進することができる。
【0064】
また、第2昇温工程の後、降温工程の前に、第2維持工程において炉内温度をアルミニウム酸化温度で所定時間維持するので、リチウムイオン二次電池Lに含まれるアルミニウムの酸化を更に促進することができる。
【0065】
また、第1昇温工程及び第1維持工程の一部又は全部の期間において、熱処理炉1内の酸素濃度を20%以下に低下させ、第2昇温工程の間に、熱処理炉1内の酸素濃度を大気中の酸素濃度まで上昇させるので、電解液の乾燥後はリチウムイオン二次電池Lに含まれるアルミニウムの酸化を促進することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 熱処理炉
2 前蓋
4 ピストンシリンダ
6 台車
8 ヒータ
10 熱電対
12 圧力計
14 煙道
16 排気ファン
18 バタフライ弁
20 コントローラ
L リチウムイオン二次電池(処理物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7