(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006417
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】減衰器
(51)【国際特許分類】
H03H 7/24 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
H03H7/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107203
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596157780
【氏名又は名称】横河計測株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】吉原 智朗
(72)【発明者】
【氏名】坂本 和輝
(72)【発明者】
【氏名】飯島 拓海
(72)【発明者】
【氏名】阿部 哲也
(57)【要約】
【課題】周波数特性を改善する。
【解決手段】本開示に係る減衰器10は、抵抗とコンデンサとの並列接続で構成される各段を複数段直列に接続した抵抗コンデンサユニット13と、並列に接続された負荷抵抗及び負荷コンデンサと、を備える。抵抗コンデンサユニット13は、入力端子11と出力端子12との間に接続される。負荷抵抗及び負荷コンデンサは、出力端子12とグランドとの間に接続される。抵抗コンデンサユニット13の抵抗の抵抗値及びコンデンサの容量値は、各段の抵抗及びコンデンサの時定数が、各段の出力端子12の側のノードから出力端子12の側を見たときのインピーダンスの時定数と等しくなるように調整されており、インピーダンスは、各段の両端とグランドとの間の寄生容量Cxも含めて算出されている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗とコンデンサとの並列接続で構成される各段を複数段直列に接続した抵抗コンデンサユニットと、
並列に接続された負荷抵抗及び負荷コンデンサと、
を備え、
前記抵抗コンデンサユニットは、入力端子と出力端子との間に接続され、
前記負荷抵抗及び前記負荷コンデンサは、前記出力端子とグランドとの間に接続され、
前記抵抗コンデンサユニットの前記抵抗の抵抗値及び前記コンデンサの容量値は、前記各段の前記抵抗及び前記コンデンサの時定数が、前記各段の前記出力端子の側のノードから前記出力端子の側を見たときのインピーダンスの時定数と等しくなるように調整されており、
前記インピーダンスは、前記各段の両端と前記グランドとの間の寄生容量も含めて算出されている、減衰器。
【請求項2】
請求項1に記載の減衰器において、
前記抵抗コンデンサユニットの前記抵抗の抵抗値は、全て同じ値であり、
前記抵抗コンデンサユニットの前記コンデンサの容量値は、全て異なる値である、減衰器。
【請求項3】
請求項2に記載の減衰器において、
前記各段の前記出力端子の側のノードから前記出力端子の側を見たときの容量の容量値は、下記の式(1)及び式(2)に基づいて算出されている、減衰器。
【数1】
ただし、式(1)において、C
gnはn段目の前記各段の前記出力端子の側のノードから前記出力端子の側を見たときの容量の容量値であり、nは前記抵抗コンデンサユニットの前記各段の段数であり、CLは前記負荷コンデンサの容量値であり、Cxは前記寄生容量の容量値である。
【数2】
ただし、式(2)において、C
giはi段目の前記各段の前記出力端子の側のノードから前記出力端子の側を見たときの容量の容量値であり、C
i+1はi+1段目の前記各段の前記コンデンサの容量値であり、C
gi+1はi+1段目の前記各段の前記出力端子の側のノードから前記出力端子の側を見たときの容量の容量値である。
【請求項4】
請求項3に記載の減衰器において、
前記抵抗コンデンサユニットの前記コンデンサの容量値は、下記の式(3)及び式(4)に基づいて算出されている、減衰器。
【数3】
ただし、式(3)において、C
nはn段目の前記各段の前記コンデンサの容量値であり、RLは前記負荷抵抗の抵抗値であり、R
nはn段目の前記各段の前記抵抗の抵抗値である。
【数4】
ただし、式(4)において、C
iはi段目の前記各段の前記コンデンサの容量値であり、R
iはi段目の前記各段の前記抵抗の抵抗値である。
【請求項5】
請求項1に記載の減衰器において、
前記抵抗コンデンサユニットの前記抵抗の抵抗値は、全て異なる値であり、
前記抵抗コンデンサユニットの前記コンデンサの容量値は、全て同じ値である、減衰器。
【請求項6】
請求項5に記載の減衰器において、
前記各段の前記出力端子の側のノードから前記出力端子の側を見たときの容量の容量値は、下記の式(5)及び式(6)に基づいて算出されている、減衰器。
【数5】
ただし、式(5)において、C
gnはn段目の前記各段の前記出力端子の側のノードから前記出力端子の側を見たときの容量の容量値であり、nは前記抵抗コンデンサユニットの前記各段の段数であり、CLは前記負荷コンデンサの容量値であり、Cxは前記寄生容量の容量値である。
【数6】
ただし、式(6)において、C
giはi段目の前記各段の前記出力端子の側のノードから前記出力端子の側を見たときの容量の容量値であり、C
i+1はi+1段目の前記各段の前記コンデンサの容量値であり、C
gi+1はi+1段目の前記各段の前記出力端子の側のノードから前記出力端子の側を見たときの容量の容量値である。
【請求項7】
請求項6に記載の減衰器において、
前記抵抗コンデンサユニットの前記抵抗の抵抗値は、下記の式(7)及び式(8)に基づいて算出されている、減衰器。
【数7】
ただし、式(7)において、R
nはn段目の前記各段の前記抵抗の抵抗値であり、RLは前記負荷抵抗の抵抗値であり、C
nはn段目の前記各段の前記コンデンサの容量値である。
【数8】
ただし、式(8)において、R
iはi段目の前記各段の前記抵抗の抵抗値であり、C
iはi段目の前記各段の前記コンデンサの容量値である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、減衰器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抵抗などの部品を複数段直列に接続した構成の減衰器が知られている。1つの部品の耐電圧には限りがあるが、このように部品を複数段直列に接続した構成の減衰器とすると、高電圧の入力に対応することができる。
【0003】
例えば、特許文献1は、抵抗を複数段直列に接続した減衰器において、抵抗値を可変とした減衰器を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図18に、従来の減衰器200の概略構成の一例を示す。減衰器200は、直列に接続された抵抗R1~R10と、負荷抵抗RLとを備える。減衰器200は、入力端子11に信号が入力され、出力端子12から信号が出力される。
【0006】
図18に示したような構成の減衰器200においては、通常、抵抗R1~R10とグランドとの間に寄生容量Cxが生じてしまう。そうすると、抵抗R1~R10と寄生容量Cxとによってローパスフィルタが形成されてしまうため、減衰器200の増幅率(ゲイン)は周波数とともに低下してしまう。
【0007】
図19に、従来の減衰器200の周波数特性の一例を示す。
図19は、
図18に示す構成において、各部品の値を以下のようにした場合の例である。この場合の減衰器200は、増幅率が1/1000の減衰器である。
R1~R10=1.0[MΩ]
RL=10.01[kΩ]
Cx=1.0[pF]
【0008】
図19を参照すると、周波数が数kHzを超えたあたりから増幅率が低下していることがわかる。
【0009】
減衰器は、本来、周波数によらず増幅率が一定の値であることが望ましい。
【0010】
そこで、本開示は、周波数特性を改善することが可能な減衰器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
幾つかの実施形態に係る減衰器は、抵抗とコンデンサとの並列接続で構成される各段を複数段直列に接続した抵抗コンデンサユニットと、並列に接続された負荷抵抗及び負荷コンデンサと、を備え、前記抵抗コンデンサユニットは、入力端子と出力端子との間に接続され、前記負荷抵抗及び前記負荷コンデンサは、前記出力端子とグランドとの間に接続され、前記抵抗コンデンサユニットの前記抵抗の抵抗値及び前記コンデンサの容量値は、前記各段の前記抵抗及び前記コンデンサの時定数が、前記各段の前記出力端子の側のノードから前記出力端子の側を見たときのインピーダンスの時定数と等しくなるように調整されており、前記インピーダンスは、前記各段の両端と前記グランドとの間の寄生容量も含めて算出されている。このような減衰器によれば、周波数特性を改善することが可能である。
【0012】
一実施形態に係る減衰器において、前記抵抗コンデンサユニットの前記抵抗の抵抗値は、全て同じ値であり、前記抵抗コンデンサユニットの前記コンデンサの容量値は、全て異なる値であってもよい。これにより、抵抗値は調整せずに、容量値だけ調整することによって周波数特性を改善することができる。
【0013】
一実施形態に係る減衰器において、前記各段の前記出力端子の側のノードから前記出力端子の側を見たときの容量の容量値は、下記の式(1)及び式(2)に基づいて算出されていてもよい。
【数1】
ただし、式(1)において、C
gnはn段目の前記各段の前記出力端子の側のノードから前記出力端子の側を見たときの容量の容量値であり、nは前記抵抗コンデンサユニットの前記各段の段数であり、CLは前記負荷コンデンサの容量値であり、Cxは前記寄生容量の容量値である。
【数2】
ただし、式(2)において、C
giはi段目の前記各段の前記出力端子の側のノードから前記出力端子の側を見たときの容量の容量値であり、C
i+1はi+1段目の前記各段の前記コンデンサの容量値であり、C
gi+1はi+1段目の前記各段の前記出力端子の側のノードから前記出力端子の側を見たときの容量の容量値である
【0014】
一実施形態に係る減衰器において、前記抵抗コンデンサユニットの前記コンデンサの容量値は、下記の式(3)及び式(4)に基づいて算出されていてもよい。
【数3】
ただし、式(3)において、C
nはn段目の前記各段の前記コンデンサの容量値であり、RLは前記負荷抵抗の抵抗値であり、R
nはn段目の前記各段の前記抵抗の抵抗値である。
【数4】
ただし、式(4)において、C
iはi段目の前記各段の前記コンデンサの容量値であり、R
iはi段目の前記各段の前記抵抗の抵抗値である。
【0015】
一実施形態に係る減衰器において、前記抵抗コンデンサユニットの前記抵抗の抵抗値は、全て異なる値であり、前記抵抗コンデンサユニットの前記コンデンサの容量値は、全て同じ値であってもよい。これにより、容量値は調整せずに、抵抗値だけ調整することによって周波数特性を改善することができる。
【0016】
一実施形態に係る減衰器において、前記抵抗コンデンサユニットの前記抵抗の抵抗値は、下記の式(7)及び式(8)に基づいて算出されていてもよい。
【数5】
ただし、式(7)において、R
nはn段目の前記各段の前記抵抗の抵抗値であり、RLは前記負荷抵抗の抵抗値であり、C
nはn段目の前記各段の前記コンデンサの容量値である。
【数6】
ただし、式(8)において、R
iはi段目の前記各段の前記抵抗の抵抗値であり、C
iはi段目の前記各段の前記コンデンサの容量値である。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、周波数特性を改善することが可能な減衰器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】比較例に係る減衰器の概略構成を示す図である。
【
図2】比較例に係る減衰器の抵抗値及び容量値の一例を示す図である。
【
図3】比較例に係る減衰器の周波数特性の一例を示す図である。
【
図4】比較例に係る減衰器の各段のインピーダンスの一例を示す図である。
【
図5】比較例に係る減衰器の各段の対接地インピーダンスの一例を示す図である。
【
図6】比較例に係る減衰器の各段の正規化した対接地インピーダンスの一例を示す図である。
【
図7】比較例に係る減衰器の各段にかかる電圧の一例を示す図である。
【
図8】一実施形態に係る減衰器の概略構成を示す図である。
【
図9】一実施形態に係る減衰器において容量値を調整した場合の抵抗値及び容量値の一例を示す図である。
【
図10】一実施形態に係る減衰器において容量値を調整した場合の各段の対接地インピーダンスの一例を示す図である。
【
図11】一実施形態に係る減衰器において容量値を調整した場合の各段のインピーダンスの一例を示す図である。
【
図12】一実施形態に係る減衰器において容量値を調整した場合の各段にかかる電圧の一例を示す図である。
【
図13】一実施形態に係る減衰器において容量値を調整した場合の周波数特性の一例を示す図である。
【
図14】一実施形態に係る減衰器において抵抗値を調整した場合の抵抗値及び容量値の一例を示す図である。
【
図15】一実施形態に係る減衰器において抵抗値を調整した場合の各段の対接地インピーダンスの一例を示す図である。
【
図16】一実施形態に係る減衰器において抵抗値を調整した場合の各段の正規化した対接地インピーダンスの一例を示す図である。
【
図17】一実施形態に係る減衰器において抵抗値を調整した場合の各段にかかる電圧の一例を示す図である。
【
図18】従来の減衰器の概略構成の一例を示す図である。
【
図19】従来の減衰器の周波数特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(比較例)
最初に比較例に係る減衰器について説明する。
図1は、比較例に係る減衰器100の概略構成を示す図である。
【0020】
比較例に係る減衰器100は、抵抗コンデンサユニット13と、負荷抵抗RLと、負荷コンデンサCLとを備える。負荷抵抗RL及び負荷コンデンサCLは、並列に接続されている。
【0021】
抵抗コンデンサユニット13は、抵抗R1~R10と、コンデンサC1~C10とを備える。抵抗R1とコンデンサC1とは並列に接続されている。同様に、抵抗R2~R10も、それぞれ、コンデンサC2~C10と並列に接続されている。
【0022】
以後、抵抗R1とコンデンサC1との並列接続による構成、抵抗R2とコンデンサC2との並列接続による構成、・・・、抵抗R10とコンデンサC10との並列接続による構成を「各段」と称して説明する場合がある。抵抗コンデンサユニット13は、各段を複数段直列に接続した構成となっている。
図1に示す例においては、抵抗コンデンサユニット13は、各段を10段直列に接続した構成となっている。
【0023】
抵抗コンデンサユニット13は、入力端子11と出力端子12との間に接続されている。負荷抵抗RL及び負荷コンデンサCLは、出力端子12とグランドとの間に接続されている。
【0024】
比較例に係る減衰器100は、入力端子11に信号が入力され、出力端子12から信号が出力される。
【0025】
比較例に係る減衰器100は、
図18に示した従来の減衰器200と比べて、コンデンサC1~C10と、負荷コンデンサCLとが追加されている点で相違する。比較例に係る減衰器100は、コンデンサC1~C10と、負荷コンデンサCLとが追加されていることにより、寄生容量Cxがあってもローパスフィルタとしての特性を示さなくなる。すなわち、比較例に係る減衰器100は、高い周波数においても増幅率が低下しない。
【0026】
図2に、比較例に係る減衰器100の抵抗R1~R10の抵抗値と、コンデンサC1~C10の容量値の一例を示している。
図2に示す例においては、抵抗R1~R10の抵抗値は、全て1.0[MΩ]である。また、コンデンサC1~C10の容量値は、全て10[pF]である。また、負荷抵抗RLの抵抗値は、10.01[kΩ]である。また、負荷コンデンサCLの容量値は、271.4[pF]である。また、寄生容量Cxの容量値は、1.0[pF]である。
【0027】
比較例に係る減衰器100の各部品の値が
図2に示す値であった場合の減衰器100の周波数特性を
図3に示す。
【0028】
図3を参照すると、数10kHz付近でくぼみが生じているが、このくぼみを除けば、高い周波数においても増幅率が一定である。すなわち、比較例に係る減衰器100は、ローパスフィルタとしての特性を示さず、高い周波数においても増幅率が低下しない。なお、
図3において、数10kHz付近に生じているくぼみは、寄生容量Cxの影響によるものと考えられる。なお、ここでいう「くぼみ」とは、数10kHz付近において、増幅率が低下している部分のことを意味する。
【0029】
以下、比較例に係る減衰器100において、
図3に示すように数10kHz付近でくぼみが生じている理由について説明する。
【0030】
図4は、比較例に係る減衰器100の各段のインピーダンスを示した図である。
図4においては、1段目、5段目及び10段目のインピーダンスを示している。例えば、Z1は、抵抗R1とコンデンサC1との並列接続のインピーダンスである。Z5は、抵抗R5とコンデンサC5との並列接続のインピーダンスである。Z10は、抵抗R10とコンデンサC10との並列接続のインピーダンスである。
【0031】
抵抗R1~R10は全て同じ値であり、コンデンサC1~C10は全て同じ値であるため、i段目の各段のインピーダンスは全て同じ周波数特性となっている(1≦i≦10)。
【0032】
ここで、各段の出力端子12の側のノードから出力端子12の側を見たときのインピーダンスとして、「対接地インピーダンス」という用語を、以後の説明において用いることとする。
図1は、対接地インピーダンスZ
g1~Z
g10を示している。
【0033】
例えば、10段目の対接地インピーダンスZg10は、10段目の各段の抵抗R10とコンデンサC10との並列接続の出力端子12の側のノードから出力端子12の側を見たときのインピーダンスである。すなわち、対接地インピーダンスZg10は、寄生容量Cx、負荷抵抗RL及び負荷コンデンサCLによるインピーダンスである。
【0034】
また、例えば、9段目の対接地インピーダンスZg9は、9段目の各段の抵抗R9とコンデンサC9との並列接続の出力端子12の側のノードから出力端子12の側を見たときのインピーダンスである。すなわち、対接地インピーダンスZg9は、抵抗R10、コンデンサC10、2つの寄生容量Cx、負荷抵抗RL及び負荷コンデンサCLによるインピーダンスである。
【0035】
図5は、比較例に係る減衰器100の各段の対接地インピーダンスを示した図である。
図5においては、1段目、5段目及び10段目の対接地インピーダンスを示している。例えば、Z
g1は、1段目の対接地インピーダンスである。Z
g5は、5段目の対接地インピーダンスである。Z
g10は、10段目の対接地インピーダンスである。
【0036】
図6は、比較例に係る減衰器100の各段の正規化した対接地インピーダンスを示した図である。ここで、正規化した対接地インピーダンスとは、対接地インピーダンスを直流における対接地インピーダンスで割って正規化したものである。
図6においては、1段目、5段目及び10段目の正規化した対接地インピーダンスを示している。
【0037】
図4を参照すると、比較例に係る減衰器100の各段のインピーダンスは、1段目から10段目のどの段においても同じ特性を示す。
【0038】
一方、
図6を参照すると、比較例に係る減衰器100の正規化した対接地インピーダンスは、減少し始める周波数が各段によって異なる。これは、寄生容量Cxの影響によって、対接地容量が各段によって異なり、抵抗と容量との積で表される時定数が異なるためと考えられる。
【0039】
図7は、比較例に係る減衰器100に1000Vの電圧の信号を入力したときに各段にかかる電圧の一例を示す図である。
【0040】
図7において、数100Hz以下の定常領域においては、各段にかかる電圧は、ほぼ同じ値となっている。また、数100kHz以上の定常領域においては、各段にかかる電圧は、値は異なるものの定常値となっている。
【0041】
また、
図7において、数100Hz以上で数100kHz以下の過渡領域においては、各段にかかる電圧が周波数とともに変化する。また、変化し始める周波数が何段目であるかによって異なる。例えば、1段目は低めの周波数から変化を始め、10段目は高めの周波数から変化を始めるというように、iが小さいほど低い周波数から変化を始める。
【0042】
図7を参照すると、数100Hz以下の定常領域においては、各段にかかる電圧は定常値となっているため、比較例に係る減衰器100の増幅率も定常値である。また、数100Hz以上で数100kHz以下の過渡領域においては、まず1段目の電圧が大きくなり始めることにより、比較例に係る減衰器100の増幅率は下がり始める。その後、5段目の電圧が小さくなり始め、続いて10段目の電圧が小さくなり始めることにより、比較例に係る減衰器100の増幅率は上がり始める。また、数100kHz以上の定常領域においては、各段にかかる電圧は、値は異なるものの定常値となっているため、比較例に係る減衰器100の増幅率も定常値である。結果として、比較例に係る減衰器100の増幅率は、
図3に示したような特性となる。
【0043】
上述のように、比較例に係る減衰器100は、寄生容量Cxがあってもローパスフィルタとしての特性は示さない。しかしながら、比較例に係る減衰器100は、数10kHz付近など特定の周波数領域において増幅率にくぼみが生じてしまう。このようなくぼみが生じないことが望ましい。
【0044】
(本開示の減衰器)
図8は、一実施形態に係る減衰器10の概略構成を示す図である。
【0045】
一実施形態に係る減衰器10は、抵抗コンデンサユニット13と、負荷抵抗RLと、負荷コンデンサCLとを備える。負荷抵抗RL及び負荷コンデンサCLは、並列に接続されている。
【0046】
抵抗コンデンサユニット13は、抵抗R1~R10と、コンデンサC1~C10とを備える。抵抗R1とコンデンサC1とは並列に接続されている。同様に、抵抗R2~R10も、それぞれ、コンデンサC2~C10と並列に接続されている。
【0047】
なお、
図1において、抵抗コンデンサユニット13は、10個の抵抗R1~R10及び10個のコンデンサC1~C10を備えているが、これは一例であり、抵抗コンデンサユニット13が備える抵抗及びコンデンサの個数は、これに限定されない。抵抗コンデンサユニット13は、n個の抵抗R1~Rn及びn個のコンデンサC1~Cnを備えていてよい。ただし、nは、2以上の整数である。本実施形態においては、n=10の場合を例に挙げて説明する。
【0048】
以後、抵抗R1とコンデンサC1との並列接続による構成、抵抗R2とコンデンサC2との並列接続による構成、・・・、抵抗R10とコンデンサC10との並列接続による構成を「各段」と称して説明する場合がある。抵抗コンデンサユニット13は、各段を複数段直列に接続した構成となっている。
図8に示す例においては、抵抗コンデンサユニット13は、各段を10段直列に接続した構成となっている。
【0049】
抵抗コンデンサユニット13は、入力端子11と出力端子12との間に接続されている。負荷抵抗RL及び負荷コンデンサCLは、出力端子12とグランドとの間に接続されている。
【0050】
減衰器10は、入力端子11に信号が入力され、出力端子12から信号が出力される。
【0051】
抵抗コンデンサユニット13の抵抗R1~R10の抵抗値及びコンデンサC1~C10の容量値は、各段の抵抗Ri及びコンデンサCiの時定数が、各段の対接地インピーダンスの時定数と等しくなるように調整されている。ここで、抵抗Riは、i段目の各段の抵抗を意味する。コンデンサCiは、i段目の各段のコンデンサを意味する。また、対接地インピーダンスは、各段の出力端子12の側のノードから出力端子12の側を見たときのインピーダンスを意味する。
【0052】
比較例に係る減衰器100においては、抵抗R1~R10は全て同じ値であり、コンデンサC1~C10も全て同じ値であった。これに対し、一実施形態に係る減衰器10においては、抵抗コンデンサユニット13の抵抗R1~R10の抵抗値及びコンデンサC1~C10の容量値は、各段の抵抗Ri及びコンデンサCiの時定数が、各段の対接地インピーダンスの時定数と等しくなるように調整されている。この点で、比較例に係る減衰器100と、一実施形態に係る減衰器10とは大きく相違する。
【0053】
なお、一実施形態に係る減衰器10においては、対接地インピーダンスを算出するに際し、寄生容量Cxも含めて算出している。
【0054】
寄生容量Cxは、
図8に示すように、各段の両端のノードとグランドとの間に生じている。グランドは、減衰器10が構成されている基板のグランド、減衰器10が収容されている機器の筐体、大地などである。
【0055】
上述のように、減衰器10においては、抵抗コンデンサユニット13の抵抗R1~R10の抵抗値及びコンデンサC1~C10の容量値は、各段の抵抗Ri及びコンデンサCiの時定数が、各段の対接地インピーダンスの時定数と等しくなるように調整されている。この際、コンデンサC1~C10の容量値が調整されていてもよいし、抵抗R1~R10の抵抗値が調整されていてもよい。以下、コンデンサC1~C10の容量値が調整されている場合と、抵抗R1~R10の抵抗値が調整されている場合とについて、それぞれ説明する。
【0056】
<容量値の調整>
最初に、コンデンサC1~C10の容量値が調整されている場合について説明する。この場合、抵抗コンデンサユニット13の抵抗R1~R10の抵抗値は、全て同じ値である。また、抵抗コンデンサユニット13のコンデンサC1~C10の容量値は、全て異なる値である。
【0057】
図8は、各段の出力端子12の側のノードから出力端子12の側を見たときの容量として、C
g1~C
g10を示している。以後、各段の出力端子12の側のノードから出力端子12の側を見たときの容量について、「対接地容量」という用語を用いることとする。
【0058】
対接地容量は、下記の式(1)及び(2)に基づいて算出されている。式(1)は、n段目の各段の対接地容量を算出するための式である。nは、抵抗コンデンサユニット13の各段の段数である。
図8に示す例においては、n=10である。式(2)は、n段目以外の各段、すなわち、1~n-1段目の各段の対接地容量を算出するための式である。
【数7】
ただし、式(1)において、C
gnはn段目の各段の出力端子12の側のノードから出力端子の側を見たときの容量の容量値であり、nは抵抗コンデンサユニット13の各段の段数であり、CLは負荷コンデンサCLの容量値であり、Cxは寄生容量の容量値である。
図8に示す例においては、n=10である。
【数8】
ただし、式(2)において、C
giはi段目の各段の出力端子12の側のノードから出力端子12の側を見たときの容量の容量値であり、C
i+1はi+1段目の各段のコンデンサの容量値であり、C
gi+1はi+1段目の各段の出力端子12の側のノードから出力端子12の側を見たときの容量の容量値である。
【0059】
抵抗コンデンサユニット13のコンデンサC1~C10の容量値は、下記の式(3)及び式(4)に基づいて算出されている。式(3)は、n段目の各段のコンデンサの容量値を算出するための式である。
図8に示す例においては、n=10である。式(4)は、n段目以外の各段、すなわち、1~n-1段目の各段のコンデンサの容量値を算出するための式である。
【数9】
ただし、式(3)において、C
nはn段目の各段のコンデンサの容量値であり、RLは負荷抵抗RLの抵抗値であり、R
nはn段目の各段の抵抗の抵抗値である。
【数10】
ただし、式(4)において、C
iはi段目の各段のコンデンサの容量値であり、R
iはi段目の各段の抵抗の抵抗値である。
【0060】
上述の式(1)~式(4)を用いて算出されたコンデンサC1~C10の容量値の一例を
図9に示す。
図9に示す例においては、抵抗R1~R10の抵抗値は、全て1.0[MΩ]である。また、負荷抵抗RLの抵抗値は、10.01[kΩ]である。また、負荷コンデンサCLの容量値は、271.4[pF]である。また、寄生容量Cxの容量値は、1.0[pF]である。
【0061】
図10は、抵抗コンデンサユニット13のコンデンサC1~C10の容量値を調整した場合の各段の対接地インピーダンスの一例を示す図である。
図10においては、1段目、5段目及び10段目の各段の対接地インピーダンスを示している。
【0062】
図11は、抵抗コンデンサユニット13のコンデンサC1~C10の容量値を調整した場合の各段のインピーダンスの一例を示す図である。
図11においては、1段目、5段目及び10段目の各段のインピーダンスを示している。
【0063】
図10及び
図11を比較すると、1段目、5段目及び10段目のそれぞれにおいて、対接地インピーダンスの減少の傾きと、インピーダンスの減少の傾きが一致している。
【0064】
図12は、抵抗コンデンサユニット13のコンデンサC1~C10の容量値を調整した場合の各段にかかる電圧の一例を示す図である。
図12においては、1段目、5段目及び10段目の電圧を示している。
【0065】
図12を参照すると、全ての各段において、周波数によらず電圧は100[V]である。
【0066】
図13は、抵抗コンデンサユニット13のコンデンサC1~C10の容量値を調整した場合の減衰器10の周波数特性を示す図である。
【0067】
図13を参照すると、減衰器10の増幅率は周波数によらず一定であり、
図3に示した比較例に係る減衰器100の周波数特性のようなくぼみがない。
【0068】
このように、一実施形態に係る減衰器10は、抵抗コンデンサユニット13のコンデンサC1~C10の容量値を調整することにより、周波数特性を改善することができる。
【0069】
<抵抗値の調整>
続いて、抵抗R1~R10の抵抗値が調整されている場合について説明する。この場合、抵抗コンデンサユニット13の抵抗R1~R10の抵抗値は、全て異なる値である。また、抵抗コンデンサユニット13のコンデンサC1~C10の容量値は、全て同じ値である。
【0070】
抵抗R1~R10の抵抗値を調整する場合も、コンデンサC1~C10の容量値を調整する場合と同様に、
図8に示す対接地容量C
g1~C
g10は、上記の式(1)及び(2)に基づいて算出されている。
【0071】
抵抗コンデンサユニット13の抵抗R1~R10の抵抗値は、下記の式(5)及び式(6)に基づいて算出されている。式(5)は、n段目の各段の抵抗の抵抗値を算出するための式である。
図8に示す例においては、n=10である。式(6)は、n段目以外の各段、すなわち、1~n-1段目の各段の抵抗の抵抗値を算出するための式である。
【数11】
ただし、式(5)において、R
nはn段目の各段の抵抗の抵抗値であり、RLは負荷抵抗の抵抗値であり、C
nはn段目の各段のコンデンサの容量値である。
【数12】
ただし、式(6)において、R
iはi段目の各段の抵抗の抵抗値であり、C
iはi段目の各段のコンデンサの容量値である。
【0072】
上述の式(1)、式(2)、式(5)及び式(6)を用いて算出された抵抗R1~R10の抵抗値の一例を
図14に示す。
図14に示す例においては、コンデンサC1~C10の容量値は、全て10[pF]である。また、負荷抵抗RLの抵抗値は、10.01[kΩ]である。また、負荷コンデンサCLの容量値は、271.4[pF]である。また、寄生容量Cxの容量値は、1.0[pF]である。
【0073】
図15は、抵抗コンデンサユニット13の抵抗R1~R10の抵抗値を調整した場合の各段の対接地インピーダンスの一例を示す図である。
図15においては、1段目、5段目及び10段目の各段の対接地インピーダンスを示している。
【0074】
図16は、抵抗コンデンサユニット13の抵抗R1~R10の抵抗値を調整した場合の各段の正規化したインピーダンスの一例を示す図である。
図16においては、1段目、5段目及び10段目の各段のインピーダンスを示している。
【0075】
図15及び
図16を比較すると、1段目、5段目及び10段目のそれぞれにおいて、対接地インピーダンスの減少の傾きと、正規化したインピーダンスの減少の傾きが一致している。
【0076】
図17は、抵抗コンデンサユニット13の抵抗R1~R10の抵抗値を調整した場合の各段にかかる電圧の一例を示す図である。
図17においては、1段目、5段目及び10段目の電圧を示している。
【0077】
図17を参照すると、1段目、5段目及び10段目で、それぞれ電圧の値は異なるが、1段目、5段目及び10段目のいずれにおいても、電圧は周波数によらず一定である。
【0078】
抵抗コンデンサユニット13の抵抗R1~R10の抵抗値を調整した場合の減衰器10の増幅率も、
図13に示したような周波数特性となる。
【0079】
図13を参照すると、減衰器10の増幅率は周波数によらず一定であり、
図3に示した比較例に係る減衰器100の周波数特性のようなくぼみがない。
【0080】
このように、一実施形態に係る減衰器10は、抵抗コンデンサユニット13の抵抗R1~R10の抵抗値を調整することにより、周波数特性を改善することができる。
【0081】
以上のような一実施形態に係る減衰器10によれば、周波数特性を改善することが可能となる。より具体的には、抵抗コンデンサユニット13の抵抗の抵抗値及びコンデンサの容量値は、各段の抵抗及びコンデンサの時定数が、各段の出力端子12の側のノードから出力端子12の側を見たときのインピーダンスの時定数と等しくなるように調整されている。また、各段の出力端子12の側のノードから出力端子12の側を見たときのインピーダンスは、寄生容量Cxも含めて算出されている。これにより、減衰器10は、比較例に係る減衰器100において生じていたくぼみが生じない周波数特性を実現することができる。したがって、一実施形態に係る減衰器10によれば、周波数特性を改善することが可能となる。
【0082】
<減衰器の使用例>
一実施形態に係る減衰器10は、様々な用途に用いることができる。
【0083】
例えば、減衰器10は、高電圧を入力する信号入力回路において、信号入力回路が備える増幅器の前段に配置することができる。これにより、高電圧を入力することができ、且つ、周波数特性の優れた信号入力回路を構成することができる。
【0084】
例えば、減衰器10は、測定器と組み合わせて使用されるプローブに用いることができる。これにより、高電圧を入力することができ、且つ、周波数特性の優れたプローブを構成することができる。
【0085】
例えば、減衰器10は、差動アンプの2つの入力の前にそれぞれ配置することができる。これにより、高電圧を入力することができ、且つ、周波数特性の優れた差動回路を構成することができる。
【0086】
本開示は、その精神又はその本質的な特徴から離れることなく、上述した実施形態以外の他の所定の形態で実現できることは当業者にとって明白である。従って、先の記述は例示的であり、これに限定されない。開示の範囲は、先の記述によってではなく、付加した請求項によって定義される。あらゆる変更のうちその均等の範囲内にあるいくつかの変更は、その中に包含される。
【0087】
例えば、上述した各構成部の配置及び個数等は、上記の説明及び図面における図示の内容に限定されない。各構成部の配置及び個数等は、その機能を実現できるのであれば、任意に構成されてもよい。
【0088】
例えば、上述した実施形態において、減衰器10の抵抗コンデンサユニット13が、各段を10段直列に接続した構成となっている場合を例に挙げて説明した。しかしながら、抵抗コンデンサユニット13の各段の段数は、10段に限定されず、任意の複数の段数であってよい。抵抗コンデンサユニット13の各段の段数は、入力電圧の大きさ、抵抗の定格、コンデンサの定格などに合わせて、適宜調整してよい。例えば、抵抗コンデンサユニット13の各段の段数は、5段以上20段以下であってよい。
【符号の説明】
【0089】
10 減衰器
11 入力端子
12 出力端子
13 抵抗コンデンサユニット
100 減衰器
200 減衰器
R1~R10 抵抗
C1~C10 コンデンサ
RL 負荷抵抗
CL 負荷コンデンサ
Cx 寄生容量