(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006459
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】作業車両、作業車両を含むシステムおよび作業車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
B60N 2/52 20060101AFI20250109BHJP
B60G 17/015 20060101ALI20250109BHJP
B60N 2/54 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B60N2/52
B60G17/015 A
B60N2/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107269
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松崎 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】廣島 浩司
(72)【発明者】
【氏名】和田 啓史
(72)【発明者】
【氏名】村本 憲一
【テーマコード(参考)】
3B087
3D301
【Fターム(参考)】
3B087DD11
3B087DD12
3D301DA34
3D301DA38
3D301EA04
3D301EB13
3D301EC01
(57)【要約】
【課題】走行中における乗り心地を改善できる作業車両、作業車両を含むシステムおよび作業車両の制御方法を提供する。
【解決手段】運転席5Sは床5Fの上に配置されている。シートサスペンション40は、床5Fと運転席5Sとの間に配置され、少なくとも第1減衰力と第1減衰力よりも大きい第2減衰力との間で減衰力を切替え可能な可変ダンパー要素20を有する。変位センサ41は、床5Fに対する運転席5Sの相対変位量を検出する。コントローラ50は、変位センサ41により検出された相対変位量に相対変位量から算出された相対速度を乗じた乗算値の正負に基づいて可変ダンパー要素20の減衰力を第1減衰力と第2減衰力との間で切替える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機を有する作業車両であって、
床と、
前記床の上に配置された運転席と、
前記床と前記運転席との間に配置され、少なくとも第1減衰力と前記第1減衰力よりも大きい第2減衰力との間で減衰力を切替え可能な可変ダンパー要素を有するシートサスペンションと、
前記床に対する前記運転席の相対変位量を検出する変位センサと、
前記変位センサにより検出された前記相対変位量に前記相対変位量から算出された相対速度を乗じた乗算値の正負に基づいて前記可変ダンパー要素の減衰力を前記第1減衰力と前記第2減衰力との間で切替えるコントローラと、を備えた、作業車両。
【請求項2】
前記コントローラは、前記乗算値が負値であると判定した場合に前記可変ダンパー要素の減衰力を前記第2減衰力とする、請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記コントローラは、前記乗算値が正値であると判定した場合に前記可変ダンパー要素の減衰力を前記第1減衰力とする、請求項1に記載の作業車両。
【請求項4】
前記コントローラは、前記相対変位量におけるピークの絶対値が所定値未満となった場合に前記可変ダンパー要素の減衰力を前記第1減衰力とする、請求項1に記載の作業車両。
【請求項5】
前記可変ダンパー要素は、磁気粘性流体と、前記磁気粘性流体に作用する磁場を形成するコイルと、を有する、請求項1に記載の作業車両。
【請求項6】
前記コントローラは、前記変位センサにより検出された前記相対変位量の波形の原点から頂点までの区間において前記第1減衰力となるように前記可変ダンパー要素を制御し、前記変位センサにより検出された前記相対変位量の波形の頂点から原点までの区間において前記第2減衰力となるように前記可変ダンパー要素を制御する、請求項1に記載の作業車両。
【請求項7】
作業機を有する作業車両を含むシステムであって、
床と、
前記床の上に配置された運転席と、
前記床と前記運転席との間に配置され、少なくとも第1減衰力と前記第1減衰力よりも大きい第2減衰力との間で減衰力を切替え可能な可変ダンパー要素を有するシートサスペンションと、
前記床に対する前記運転席の相対変位量を検出する変位センサと、
前記変位センサにより検出された前記相対変位量に前記相対変位量から算出された相対速度を乗じた乗算値の正負に基づいて前記可変ダンパー要素の減衰力を前記第1減衰力と前記第2減衰力との間で切替えるコントローラと、を備えた、作業車両を含むシステム。
【請求項8】
作業機と、床と、前記床の上に配置された運転席と、前記床と前記運転席との間に配置され少なくとも第1減衰力と前記第1減衰力よりも大きい第2減衰力との間で減衰力を切替え可能な可変ダンパー要素を有するシートサスペンションと、前記床に対する前記運転席の相対変位量を検出する変位センサと、を有する作業車両の制御方法であって、
前記床に対する前記運転席の前記相対変位量を取得するステップと、
前記相対変位量から相対速度を算出するステップと、
前記相対変位量と前記相対速度とを乗じた乗算値が正値か負値かを判定するステップと、
前記乗算値の正負の判定結果に基づいて前記可変ダンパー要素の減衰力を前記第1減衰力と前記第2減衰力とで切替えるステップと、を備えた、作業車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業車両、作業車両を含むシステムおよび作業車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル、ホイールローダなどの作業車両では、運転室(キャブ)の床に運転席(運転シート)が固定される、いわゆるリジットシートが用いられていた。しかし乗り心地を改善し、オペレータの疲労を軽減するために、運転席と床の間にメカニカルサスペンション、エアサスペンションなどが配置された作業車両が登場するようになった。
【0003】
またオペレータの好みに合わせて、シートサスペンションに含まれるダンパーの硬さを複数段階で調整できるようにした作業車両もある。ダンパーの硬さを調整可能な作業車両は、特開2000-85435号公報(特許文献1)、特開2000-85436号公報(特許文献2)などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-85435号公報
【特許文献2】特開2000-85436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作業車両は足場の悪い作業現場を走行することが多く、走行時に段差を乗り越える機会も多い。そこで、そのような場合にも、走行中における乗り心地を改善したいとの要望がある。
【0006】
本開示の目的は、走行中における乗り心地を改善できる作業車両、作業車両を含むシステムおよび作業車両の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の作業車両および作業車両を含むシステムの各々は、作業機と、床と、運転席と、シートサスペンションと、変位センサと、コントローラとを備える。運転席は、床の上に配置されている。シートサスペンションは、床と運転席との間に配置され、少なくとも第1減衰力と第1減衰力よりも大きい第2減衰力との間で減衰力を切替え可能な可変ダンパー要素を有する。変位センサは、床に対する運転席の相対変位量を検出する。コントローラは、変位センサにより検出された相対変位量に相対変位量から算出された相対速度を乗じた乗算値の正負に基づいて可変ダンパー要素の減衰力を第1減衰力と第2減衰力との間で切替える。
【0008】
本開示の作業車両の制御方法は、作業機と、床と、床の上に配置された運転席と、床と運転席との間に配置され少なくとも第1減衰力と第1減衰力よりも大きい第2減衰力との間で減衰力を切替え可能な可変ダンパー要素を有するシートサスペンションと、床に対する運転席の相対変位量を検出する変位センサと、を有する作業車両の制御方法であって、以下のステップを有する。
【0009】
床に対する運転席の相対変位量が取得される。相対変位量から相対速度が算出される。相対変位量と相対速度とを乗じた乗算値が正値か負値かが判定される。乗算値の正負の判定結果に基づいて可変ダンパー要素の減衰力が第1減衰力と第2減衰力とで切替えられる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、走行中における乗り心地を改善できる作業車両、作業車両を含むシステムおよび作業車両の制御方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施形態におけるホイールローダ(作業車両の一例)の構成を示す側面図である。
【
図2】本開示の一実施形態における作業車両を含むシステムの構成を示す図である。
【
図3】本開示の一実施形態における作業車両を含むシステムに採用される可変ダンパー要素の構成を示す断面図である。
【
図4】本開示の一実施形態における作業車両を含むシステムに採用されるコントローラの機能ブロックを示す図である。
【
図5】運転室の床と運転席との上下方向における相対変位量および相対速度の時間変化を示す図である。
【
図6】作業車両の走行の様子を示す図(A)、走行時における運転室の床と運転席との相対変位量の時間変化を示す図(B)、および可変ダンパー要素に与える指令電流値の時間変化を示す図(C)である。
【
図7】本開示の一実施形態における作業車両の制御方法を示すフロー図である。
【
図8】可変ダンパー要素に与える指令電流値の時間変化における変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0013】
明細書および図面において、同一の構成要素または対応する構成要素には、同一の符号を付し、重複する説明を繰り返さない。また、図面では、説明の便宜上、構成を省略または簡略化している場合もある。
【0014】
以下の説明において、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」とは、
図1に示す運転室5内の運転席5Sに着座したオペレータを基準とした方向である。
図1では、前後方向をZで示し、前方向を示すときはZf、後方向を示すときはZbで示す。また
図2では、上下方向をYで示す。
【0015】
<作業車両の構成>
【0016】
本実施形態における作業車両の一例としてホイールローダの構成について
図1を用いて説明する。なお本実施形態における作業車両はホイールローダに限定されるものではない。本実施形態の作業車両は、作業機および運転席を有する作業車両であればよく、油圧ショベル、ブルドーザ、モータグレーダなどであってもよい。
【0017】
図1は、本開示の一実施形態におけるホイールローダの構成を示す側面図である。
図1に示されるように、本実施形態におけるホイールローダ1は、走行体2と、作業機3とを有している。作業機3は、走行体2に配置されている。走行体2は、車体フレーム10と、一対の前輪4と、運転室(キャブ)5と、エンジンルーム6と、一対の後輪7と、ステアリングシリンダ9とを有している。ホイールローダ1は、作業機3を用いて土砂積み込み作業などを行なう。
【0018】
車体フレーム10は、いわゆるアーティキュレート(回動)式であり、フロントフレーム11と、リアフレーム12と、連結軸部13とを有している。フロントフレーム11は、リアフレーム12の前方向Zfに配置されている。連結軸部13は、車体フレーム10における左右方向(車幅方向)の中央に設けられており、フロントフレーム11と、リアフレーム12とを互いに回動可能に連結している。一対の前輪4は、フロントフレーム11の左右に取り付けられている。また、一対の後輪7は、リアフレーム12の左右に取り付けられている。
【0019】
作業機3は、図示しない作業機ポンプからの作動油によって駆動される。作業機3は、ブーム14と、バケット15と、リフトシリンダ16と、バケットシリンダ17と、ベルクランク18とを有している。ブーム14は、フロントフレーム11に装着されている。バケット15は、ブーム14の先端に取り付けられている。
【0020】
リフトシリンダ16およびバケットシリンダ17は、油圧シリンダである。リフトシリンダ16の一端はフロントフレーム11に取り付けられており、リフトシリンダ16の他端はブーム14に取り付けられている。リフトシリンダ16の伸縮により、ブーム14が上下に回動する。バケットシリンダ17の一端はフロントフレーム11に取り付けられており、バケットシリンダ17の他端はベルクランク18を介してバケット15に取り付けられている。バケットシリンダ17が伸縮することによって、バケット15が上下に回動する。
【0021】
運転室5は、リアフレーム12上に載置されている。運転室5の内部には、オペレータが着座するための運転席5Sが配置されている。また運転室5の内部には、図示しないステアリング操作のためのハンドル、作業機3を操作するためのレバー、各種のスイッチ、表示装置なども配置されている。エンジンルーム6は、運転室5の後方向Zbであってリアフレーム12上に配置されており、エンジンを収納している。
【0022】
<作業車両を含むシステムの構成>
【0023】
次に、本実施形態における作業車両を含むシステムの構成について
図2~
図4を用いて説明する。
【0024】
図2は、本開示の一実施形態における作業車両を含むシステムの構成を示す図である。
図3は、本開示の一実施形態における作業車両を含むシステムに採用される可変ダンパー要素の構成を示す断面図である。
図4は、本開示の一実施形態における作業車両を含むシステムに採用されるコントローラの機能ブロックを示す図である。
【0025】
図2に示されるように、作業車両を含むシステムは、シートサスペンション40と、変位センサ41と、電流調整装置42と、コントローラ50とを有している。
【0026】
運転室5は床5Fを有している。運転室5の床5Fの上には運転席5Sが配置されている。床5Fと運転席5Sとの間には、シートサスペンション40が配置されている。
【0027】
シートサスペンション40は、可変ダンパー要素20と、弾性部材30とを有している。可変ダンパー要素20は、運転席5Sの上下方向Yの振動を吸収する。可変ダンパー要素20は、運転席5Sの上下方向Yにおける振動の減衰力を変更できるように構成されている。可変ダンパー要素20は、少なくとも第1減衰力と、第1減衰力よりも大きい第2減衰力との間で減衰力を切替え可能である。可変ダンパー要素20の一端(たとえば下端)は床5Fに固定され、他端(たとえば上端)は運転席5Sに固定されている。
【0028】
弾性部材30は、可変ダンパー要素20では吸収しきれない運転席5Sの上下方向Yの振動を吸収する。弾性部材30は、たとえばバネ(スプリング)よりなっている。弾性部材30の一端(たとえば下端)は床5Fに固定され、他端(たとえば上端)は運転席5Sに固定されている。
【0029】
可変ダンパー要素20および弾性部材30の各々の一端は、床5Fに直接的に固定されていてもよく、またブラケットなどを介在して間接的に固定されていてもよい。また可変ダンパー要素20および弾性部材30の各々の他端は、運転席5Sに直接的に固定されていてもよく、またブラケットなどを介在して間接的に固定されていてもよい。
【0030】
変位センサ41は、床5Fに対する運転席5Sの相対的な変位量を検出する。変位センサ41は、たとえば床5Fに固定されている。変位センサ41は、床5Fに直接的に固定されていてもよく、またブラケットなどを介在して間接的に固定されていてもよい。また変位センサ41は、たとえば運転席5Sに固定されていてもよい。この場合、変位センサ41は、運転席5Sに直接的に固定されていてもよく、またブラケットなどを介在して間接的に固定されていてもよい。
【0031】
電流調整装置42は、可変ダンパー要素20のコイル25(
図3)に電気的に接続されている。電流調整装置42は、可変ダンパー要素20のコイル25に供給する電流量を調整する。電流調整装置42は、たとえば可変ダンパー要素20のコイル25に電流を供給する状態と、電流供給を遮断する状態とを切替えることができる。
【0032】
コントローラ50は、プロセッサと、メインメモリと、ストレージとを含む。プロセッサはたとえばCPU(Central Processing Unit)などである。メインメモリは、たとえばROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリおよびRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含む。コントローラ50は、ストレージに記憶されているプログラムを読み出してメインメモリに展開し、プログラムに従って所定の処理を実行する。
【0033】
コントローラ50は、変位センサ41および電流調整装置42に電気的に接続されている。コントローラ50は、変位センサ41により検出された変位データを取得する。コントローラ50は、変位センサ41により検出された変位データに基づいて電流調整装置42を制御する。コントローラ50は、電流調整装置42を制御することにより可変ダンパー要素20のコイル25に供給される電流量を調整する。これによりコントローラ50は、可変ダンパー要素20の減衰力を少なくとも第1減衰力と第2減衰力との間で調整する。
【0034】
第1減衰力は、たとえば可変ダンパー要素20のコイル25への電流供給を遮断した状態での可変ダンパー要素20の減衰力である。第2減衰力は、たとえば可変ダンパー要素20のコイルに電流を供給した状態での可変ダンパー要素20の減衰力である。
【0035】
ただし第1減衰力は、第2減衰力よりも小さい減衰力であればよく、可変ダンパー要素20のコイル25に電流を供給した状態での減衰力であってもよい。この場合、第1減衰力は、第2減衰力を得るために可変ダンパー要素20のコイル25に流す電流量よりも小さい電流量を供給した状態での減衰力である。
【0036】
床5Fは、走行体2に支持されたベースであればよく、シートサスペンション40を介在して運転席5Sを支持する部材であればよい。
【0037】
なおコントローラ50は、ホイールローダ1に搭載されていてもよく、ホイールローダ1の外部に離れて配置されていてもよい。コントローラ50がホイールローダ1の外部に離れて配置されている場合、コントローラ50は、変位センサ41、電流調整装置42などと無線により接続されていてもよい。コントローラ50は、ホイールローダ1から離れたサーバに格納されていてもよい。
【0038】
図3に示されるように、可変ダンパー要素20は、シリンダ21と、ピストン22と、ピストンロッド23と、ダイヤフラム24と、コイル25と、配線26と、磁気粘性流体27と、シールベアリング28とを有している。
【0039】
シリンダ21は、筒形状(たとえば円筒形状)を有している。シリンダ21の筒形状の内部空間には、ピストン22と、ダイヤフラム24とが配置されている。ピストン22は、シリンダ21の内周面に接しながら、シリンダ21の軸線方向AXに沿って摺動可能である。
【0040】
ピストンロッド23は、軸線方向AXにて互いに対向する第1端部と第2端部とを有している。ピストンロッド23の第1端部は、ピストン22に接続され、シリンダ21の内部空間に位置している。ピストンロッド23の第2端部は、シリンダ21の外部に位置している。ピストンロッド23は、シールベアリング28によりシリンダ21に対して軸線方向AXに摺動可能に支持されている。
【0041】
シリンダ21の内部空間は、ピストン22により第1流体室21Aと、第2流体室21Bとに区分けされている。ピストン22は、第1流体室21Aと第2流体室21Bとを繋ぐ環状オリフィス22aを有している。環状オリフィス22aは、ピストン22を軸線方向AXに貫通している。
【0042】
磁気粘性流体27は、第1流体室21Aと第2流体室21Bと環状オリフィス22aとの各々の内部を満たしている。磁気粘性流体27は、磁気粘性流体27に作用する磁場の強さに応じて粘度を変化させる。磁気粘性流体27は、たとえば磁場が作用しない状態では粘度の低い液体状態にあるが、磁場が作用すると粘度が増加して半固体のように振る舞う。磁気粘性流体27は、たとえば油、水などの液体に、直径1μm~10μmの強磁性体の微粒子を均一に分散させたものである。
【0043】
ダイヤフラム24は、シリンダ21の内部空間を第2流体室21Bとガス室21Cとに区分けする。ガス室21Cは、アキュムレータとして機能する。ダイヤフラムに代えて、フリーピストンが用いられてもよい。
【0044】
コイル25は、ピストン22の内部に設けられている。コイル25は、通電されることにより磁場を発生させ、磁気粘性流体27に磁場を作用させる。コイル25には配線26が電気的に接続されている。コイル25は、配線26を通じて電流調整装置42に電気的に接続されている。これにより電流調整装置42は、配線26を通じてコイル25に供給する電流量を調整することができる。
【0045】
図4に示されるように、コントローラ50は、変位情報取得部51と、速度算出部52と、乗算値算出部53と、乗算値判定部54と、減衰力制御部55と、変位情報判定部56と、メモリ57とを有している。変位情報取得部51は、変位センサ41が検出した床5Fに対する運転席5Sの相対変位量を示す信号を取得する。
【0046】
速度算出部52は、変位情報取得部51によって取得された変位量を微分することにより床5Fに対する運転席5Sの相対速度を算出する。乗算値算出部53は、変位情報取得部51が取得した相対変位量と速度算出部52が算出した相対速度とを乗じて乗算値を算出する。
【0047】
乗算値判定部54は、乗算値算出部53が算出した乗算値が正の値か負の値かを判定する。減衰力制御部55は、乗算値判定部54が判定した乗算値が正の値であるか、または負の値であるかの判定結果に基づいて電流調整装置42を制御する指令電流を出力する。
【0048】
減衰力制御部55は、上記乗算値が正の値であるとの判定結果を乗算値判定部54から取得した場合、可変ダンパー要素20の減衰力を第1減衰力とする指令電流を電流調整装置42へ出力する。このようにコントローラ50は、上記乗算値が正値であると判定した場合に可変ダンパー要素20の減衰力を第1減衰力とする。
【0049】
また減衰力制御部55は、上記乗算値が負の値であるとの判定結果を乗算値判定部54から取得した場合、可変ダンパー要素20の減衰力を第2減衰力とする指令電流を電流調整装置42へ出力する。このようにコントローラ50は、上記乗算値が負値であると判定した場合に可変ダンパー要素20の減衰力を第2減衰力とする。
【0050】
変位情報判定部56は、変位情報取得部51により取得された相対変位量におけるピークの絶対値が所定値未満であるか否かを判定する。変位情報判定部56は、この判定をする際にメモリ57に記憶された所定値を参照する。
【0051】
減衰力制御部55は、変位情報判定部56の判定結果に基づいて電流調整装置42を制御する指令電流を出力する。減衰力制御部55は、相対変位量におけるピークの絶対値が所定値未満であるとの判定結果を変位情報判定部56から取得した場合、可変ダンパー要素20の減衰力を第1減衰力とする指令電流を電流調整装置42へ出力する。このようにコントローラ50は、相対変位量におけるピークの絶対値が所定値未満であると判定した場合に可変ダンパー要素20の減衰力を第1減衰力とする。
【0052】
電流調整装置42は、減衰力制御部55から取得した指令電流に基づいて可変ダンパー要素20のコイル25に供給する電流値を調整する。電流調整装置42は、可変ダンパー要素20を第1減衰力とする指令電流を減衰力制御部55から取得した場合、たとえば可変ダンパー要素20のコイル25に電流を供給しない(電流の供給を遮断する)。一方、電流調整装置42は、可変ダンパー要素20を第2減衰力とする指令電流を減衰力制御部55から取得した場合、たとえば可変ダンパー要素20のコイル25に電流を供給する。このように電流調整装置42は、可変ダンパー要素20のコイル25へ電流を供給または遮断するオン・オフ制御により可変ダンパー要素20の減衰力を調整する。
【0053】
また電流調整装置42は、上記オン・オフ制御以外で可変ダンパー要素20の減衰力を調整してもよい。電流調整装置42は、たとえば可変ダンパー要素20のコイル25へ供給する電流量を変更(増減)することにより可変ダンパー要素20の減衰力を調整してもよい。具体的には、可変ダンパー要素20の減衰力を第1減衰力に調整する際にはコイル25へ供給される電流量は小さく、可変ダンパー要素20の減衰力を第2減衰力に調整する際にはコイル25へ供給される電流量は大きくなるように制御されてもよい。
【0054】
<減衰力制御の原理>
【0055】
図2に示されるコントローラ50は、スカイフック理論に基づいて、運転席5Sと床5Fとの上下方向Yの相対変位量が変位の頂点(ピーク)から変位の原点(0)へ移行する時に可変ダンパー要素20の減衰力を他の状態よりも大きくするように制御する。以下、そのことを説明する。
【0056】
スカイフック理論では、物体がダンパーによって架空の線に宙づりとなるモデルが想定される。スカイフック理論によって達成させたい状態は、物体が地面とはバネで、架空の線とはダンパーで接続された状態である。
【0057】
このモデルにおいてダンパーの減衰力Fdは、単純化すると、以下の式(1)で表わされる。
【0058】
Fd=CsVs ・・・(1)
【0059】
式(1)におけるCsはダンパーの減衰係数であり、Vsは物体の上下方向Yの変位速度である。
【0060】
ただし実際には架空の線は存在しない。このため上記モデルは、
図2に示されるように、物体(運転席5S)とベース(床5F)とが可変ダンパー要素20および弾性部材30により接続された状態に置換される。
【0061】
この状態での減衰力Fdは、式(1)に基づいて以下の式(2)で表わされる。
【0062】
Fd=Cvar(t)(Vs-Vb) ・・・(2)
【0063】
式(2)においてVsは物体(運転席5S)の上下方向Yの変位速度であり、Vbはベース(床5F)の上下方向Yの変位速度である。
【0064】
本実施形態においては、式(2)におけるCvar(t)の判別式が以下の式(3)、(4)とされる。
【0065】
Cvar(t)=Cmax((Xs-Xb)(Vs-Vb)<0) ・・・(3)
【0066】
Cvar(t)=Cmin((Xs-Xb)(Vs-Vb)≧0) ・・・(4)
【0067】
式(3)、(4)においてXsは物体(運転席5S)の上下方向Yの変位であり、Xbはベース(床5F)の上下方向Yの変位である。このため(Xs-Xb)はベース(床5F)に対する物体(運転席5S)の上下方向Yの相対変位量である。また(Vs-Vb)はベース(床5F)に対する物体(運転席5S)の上下方向Yの相対速度である。
【0068】
上記の式(3)、(4)を用いることにより、床5Fに対する運転席5Sの上下方向Yの相対変位量が変位の頂点から変位の原点へ移行する状態を判別することができる。そのことを
図5を用いて説明する。
【0069】
図5は、運転室の床と運転席との上下方向Yにおける相対変位量および相対速度の時間変化を示す図である。
図5において、実線の曲線は床5Fと運転席5Sとの相対変位量を示している。破線の曲線は床5Fと運転席5Sとの相対速度を示している。
【0070】
図5に示されるように、床5Fに対する運転席5Sの上下方向Yの相対変位量がsinカーブのように変化すると想定する。この場合、相対速度は相対変位量の微分により得られるため、床5Fに対する運転席5Sの上下方向Yの相対速度はcosカーブのように変化する。
【0071】
なお相対変位量における波形の原点(波形が0と交差する点)は、静止状態における床5Fに対する運転席5Sの相対位置を意味する。また相対速度の原点(波形が0と交差する点)は、静止状態における床5Fに対する運転席5Sの相対速度を意味する。
【0072】
ここで床5Fに対する運転席5Sの上下方向Yの相対変位量(Xs-Xb)に、床5Fに対する運転席5Sの上下方向Yの相対速度(Vs-Vb)を乗した乗算値(Xs-Xb)(Vs-Vb)が負となる場合が
図5中において領域RAで示されている。また乗算値(Xs-Xb)(Vs-Vb)が正となる場合が
図5中において領域RBで示されている。
【0073】
領域RAは、上下方向Yの相対変位量(Xs-Xb)が時間の経過に伴って変位の頂点から変位の原点に移行する領域であることが分かる。また領域RBは、上下方向Yの相対変位量(Xs-Xb)が時間の経過に伴って変位の原点から変位の頂点に移行する領域であることが分かる。
【0074】
以上より上記の判別式(3)、(4)を用いることにより、運転席5Sと床5Fとの上下方向Yの相対変位量が変位の頂点から変位の原点へ移行する状態を判別することができる。つまり上記乗算値(Xs-Xb)(Vs-Vb)の正負により、運転席5Sと床5Fとの上下方向Yの相対変位量が変位の頂点から変位の原点へ移行する状態を判別することができる。
【0075】
また本実施形態においてコントローラ50は、上記乗算値(Xs-Xb)(Vs-Vb)の正負に基づいて可変ダンパー要素20の減衰力を第1減衰力と第2減衰力との間で切替える。コントローラ50は、上記乗算値(Xs-Xb)(Vs-Vb)の正負に基づいて、たとえば可変ダンパー要素20のコイル25への電流の供給と遮断を切替える。
【0076】
コントローラ50は、乗算値(Xs-Xb)(Vs-Vb)が負値であると判定した場合(つまり乗算値が
図5の領域RAにあると判定した場合)、可変ダンパー要素20の減衰力を第1減衰力よりも大きい第2減衰力とする。コントローラ50は、乗算値(Xs-Xb)(Vs-Vb)が負値であると判定した場合、たとえば可変ダンパー要素20のコイル25へ電流を供給しオン状態とする。
【0077】
コントローラ50は、乗算値(Xs-Xb)(Vs-Vb)が正値であると判定した場合(つまり乗算値が
図5の領域RBにあると判定した場合)、可変ダンパー要素20の減衰力を第2減衰力よりも小さい第1減衰力とする。コントローラ50は、乗算値(Xs-Xb)(Vs-Vb)が正値であると判定した場合、たとえば可変ダンパー要素20のコイル25への電流の供給を遮断しオフ状態とする。
【0078】
<作業車両の制御方法>
【0079】
次に、本実施形態における作業車両の制御方法について、ホイールローダ1が走行時に段差を乗り越える状態を例に挙げて、
図6および
図7を用いて説明する。
【0080】
図6は、作業車両の走行の様子を示す図(A)、走行時における運転室の床と運転席との相対変位量の時間変化を示す図(B)、および可変ダンパー要素に与える指令電流値の時間変化を示す図(C)である。
図7は、本開示の一実施形態における作業車両の制御方法を示すフロー図である。
【0081】
図6(A)に示されるように、ホイールローダ1が前進走行中に、ホイールローダ1の前輪4が段差STに乗り上げ、続いて後輪7が段差STに乗り上げる場合がある。この場合、運転室5の床5Fに対する運転席5Sの相対変位量は、たとえば
図6(B)に示すように変化する。
【0082】
なお
図6(B)に示された矢印AR1はホイールローダ1の前輪4が段差STに乗り上げた時点を示している。また
図6(B)の矢印AR2はホイールローダ1の後輪7が段差STに乗り上げた時点を示している。
【0083】
図6(B)に示されるように、ホイールローダ1の前輪4が段差STに乗り上げると、その衝撃により運転室5の床5Fが突き上げられる。これにより床5Fはシートサスペンション40を介在して運転席5Sに近付き、床5Fに対して運転席5Sは負の方向に相対変位する。この後、弾性部材30(
図2)の復元力により運転席5Sは床5Fから離れ、床5Fに対して正の方向に相対変位する。この後、床5Fに対する運転席5Sの相対変位量は、負の方向の変位と正の方向の変位とを繰り返しながら徐々に減衰していく。
【0084】
この後、ホイールローダ1の後輪7が段差STに乗り上げると、その衝撃により運転室5の床5Fが再度突き上げられる。これにより床5Fはシートサスペンション40を介在して運転席5Sに近付き、床5Fに対して運転席5Sは負の方向に相対変位する。この後、弾性部材30(
図2)の復元力により運転席5Sは床5Fから離れ、床5Fに対して正の方向に相対変位する。この後、床5Fに対する運転席5Sの相対変位量は、負の方向の変位と正の方向の変位とを繰り返しながら徐々に減衰していく。
【0085】
本実施形態においては床5Fに対する運転席5Sの上下方向Yの相対変位量(Xs-Xb)が変位センサ41により検出される。変位センサ41は、検出した相対変位量を示す信号をコントローラ50へ出力する。
【0086】
コントローラ50の変位情報取得部51は、変位センサ41から出力された運転席5Sの相対変位量を示す信号を取得する(ステップS1:
図7)。変位情報取得部51は、相対変位量を示す信号を速度算出部52へ出力する。
【0087】
速度算出部52は、相対変位量を微分することにより床5Fに対する運転席5Sの上下方向Yの相対速度(Vs-Vb)を算出する(ステップS2:
図7)。速度算出部52は、算出した相対速度を示す信号を乗算値算出部53へ出力する。
【0088】
乗算値算出部53は、変位情報取得部51が取得した相対変位量(Xs-Xb)と速度算出部52が算出した相対速度(Vs-Vb)とを乗じて乗算値(Xs-Xb)(Vs-Vb)を算出する(ステップS3:
図7)。乗算値算出部53は、算出した乗算値を示す信号を乗算値判定部54へ出力する。
【0089】
乗算値判定部54は、乗算値算出部53が算出した乗算値(Xs-Xb)(Vs-Vb)が0または正の値か否かを判定する(ステップS4:
図7)。乗算値判定部54は、判定結果を示す信号を減衰力制御部55へ出力する。
【0090】
減衰力制御部55は、乗算値判定部54の判定結果に基づいて電流調整装置42を制御する指令電流を出力する。
【0091】
減衰力制御部55は、乗算値が0または正の値である場合には、可変ダンパー要素20の減衰力が小さい第1減衰力となるような指令電流値を電流調整装置42へ出力する(ステップS5:
図7)。減衰力制御部55は、乗算値が0または正の値である場合には、
図6(C)に示されるように、たとえば可変ダンパー要素20のコイル25への電流の供給を遮断するように電流調整装置42を制御する。
【0092】
一方、減衰力制御部55は、乗算値が負の値である場合には、可変ダンパー要素20の減衰力が大きい第2減衰力となるような指令電流値を電流調整装置42へ出力する(ステップS6:
図7)。減衰力制御部55は、乗算値が負の値である場合には、
図6(C)に示されるように、たとえば可変ダンパー要素20のコイル25へ電流を供給するように電流調整装置42を制御する。
【0093】
上記のように可変ダンパー要素20のコイル25への通電がオン・オフ制御される。これにより、
図6(B)、(C)に示されるように、相対変位量における波形の頂点から原点へ移行するときのみにコイル25へ電流を供給するように電流調整装置42を制御することができる。また相対変位量における波形の原点から頂点へ移行するときにはコイル25への電流を遮断するように電流調整装置42を制御することができる。
【0094】
上記の制御において
図4に示される変位情報取得部51は、取得した相対変位量を示す信号を変位情報判定部56へ出力する。変位情報判定部56は、変位情報取得部51によって取得された相対変位量におけるピークの絶対値が所定値未満か否かを判定する。変位情報判定部56は、この判定を行なう際、メモリ57に記憶された所定値を参照する。
【0095】
変位情報判定部56が相対変位量におけるピークの絶対値が所定値未満であると判定した場合、変位情報判定部56は判定結果を示す信号を減衰力制御部55へ出力する。減衰力制御部55は、相対変位量におけるピークの絶対値が所定値未満である場合には、可変ダンパー要素20の減衰力が小さい第1減衰力となるような指令電流値を電流調整装置42へ出力する。これにより床5Fに対する運転席5Sの振動が収束してきた場合には、たとえばコイル25への電流の供給を遮断することにより、可変ダンパー要素20の減衰力を第1減衰力に維持することができる。
【0096】
なお上記においては2回目の段差STの乗り上げとして後輪7が段差STに乗り上げた場合について説明したが、2回目の段差の乗り上げは前輪4が2つ目の段差に乗り上げた場合であってもよい。また3回目以降の段差の乗り上げについても同様の制御が実行されてもよい。
また
図8に示されるように、可変ダンパー要素に与える指令電流値の時間変化における上側ピーク部(S1)および下側ピーク部(S2)の各々の波形は滑らかな曲線を描いてピークへ移行してもよく、滑らかな曲線を描いてピークから移行してもよい。また矢印S3に示されるように、指令電流値のオン状態におけるピーク値は他のオン状態におけるピーク値とオフ状態との間の中間の電流値であってもよい。また矢印S4に示されるように、オフ状態からオン状態への立上がりにおいて指令電流値の波形が傾斜していてもよい。
【0097】
<効果>
【0098】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0099】
本実施形態においては、変位センサ41により検出された相対変位量にその相対変位量から算出された相対速度を乗じた乗算値の正負に基づいて可変ダンパー要素20の減衰力が第1減衰力と第2減衰力との間で切替えられる。上記乗算値の正負により、床5Fに対する運転席5Sの相対変位が、
図5に示される領域RAにあるのか、または領域RBにあるのかを判別することができる。これにより領域RAと領域RBとにおいて可変ダンパー要素20の減衰力を第1減衰力と第2減衰力とで切替えることができるため、衝撃の吸収と振動の素早い収束とが可能となる。このためホイールローダ1の走行中における段差乗り越しの際の乗り心地が改善される。
【0100】
また変位センサ41により相対変位量を検出することにより上記の制御が可能となり、上記の制御において他のセンサが不要となるため構成を簡易にすることができる。
【0101】
また本実施形態においては
図4に示されるように、コントローラ50は、上記乗算値が負値であると判定した場合に可変ダンパー要素20の減衰力を第1減衰力よりも大きい第2減衰力とする。これにより
図5に示されるように相対変位量における波形の頂点から原点へ移行する領域RAにて可変ダンパー要素20の減衰力を大きくできるため、運転席5Sの振動を素早く収束させることができる。
【0102】
また本実施形態においては
図4に示されるように、コントローラ50は、上記乗算値が正値であると判定した場合に可変ダンパー要素20の減衰力を第2減衰力よりも小さい第1減衰力とする。これにより
図5に示されるように相対変位量における波形の原点から頂点へ移行する領域RBにて可変ダンパー要素20の減衰力を小さくできるため衝撃を吸収することが容易となる。
【0103】
また本実施形態においては
図4に示されるように、コントローラ50は、相対変位量におけるピークの絶対値が所定値未満となった場合に可変ダンパー要素20の減衰力を小さい第1減衰力とする。これにより運転席5Sの振動が微弱な場合には、可変ダンパー要素20への通電をオフにすることができる。
【0104】
また本実施形態においては
図3に示されるように、可変ダンパー要素20は、磁気粘性流体27と、磁気粘性流体27に磁気を加えるコイル25とを有している。これによりコイル25に通電することにより可変ダンパー要素20の減衰力を容易に調整することが可能となる。
【0105】
また本実施形態においては
図6(B)、(C)に示されるように、コントローラ50は、変位センサ41により検出された相対変位量の波形の原点から頂点までの区間において第1減衰力となるように可変ダンパー要素20を制御し、相対変位量の波形の頂点から原点までの区間において第2減衰力となるように可変ダンパー要素20を制御する。これにより衝撃の吸収と振動の素早い収束とが可能となり、ホイールローダ1の走行中における段差乗り越しの際の乗り心地が改善される。
【0106】
<付記>
【0107】
上述したような実施形態は、以下のような技術思想を含む。
【0108】
(付記1)
作業機を有する作業車両であって、
床と、
前記床の上に配置された運転席と、
前記床と前記運転席との間に配置され、少なくとも第1減衰力と前記第1減衰力よりも大きい第2減衰力との間で減衰力を切替え可能な可変ダンパー要素を有するシートサスペンションと、
前記床に対する前記運転席の相対変位量を検出する変位センサと、
前記変位センサにより検出された前記相対変位量に前記相対変位量から算出された相対速度を乗じた乗算値の正負に基づいて前記可変ダンパー要素の減衰力を前記第1減衰力と前記第2減衰力との間で切替えるコントローラと、を備えた、作業車両。
【0109】
(付記2)
前記コントローラは、前記乗算値が負値であると判定した場合に前記可変ダンパー要素の減衰力を前記第2減衰力とする、付記1に記載の作業車両。
【0110】
(付記3)
前記コントローラは、前記乗算値が正値であると判定した場合に前記可変ダンパー要素の減衰力を前記第1減衰力とする、付記1または付記2に記載の作業車両。
【0111】
(付記4)
前記コントローラは、前記相対変位量におけるピークの絶対値が所定値未満となった場合に前記可変ダンパー要素の減衰力を前記第1減衰力とする、付記1から付記3のいずれか1つに記載の作業車両。
【0112】
(付記5)
前記可変ダンパー要素は、磁気粘性流体と、前記磁気粘性流体に作用する磁場を形成するコイルと、を有する、付記1から付記4のいずれか1つに記載の作業車両。
【0113】
(付記6)
前記コントローラは、前記変位センサにより検出された前記相対変位量の波形の原点から頂点までの区間において前記第1減衰力となるように前記可変ダンパー要素を制御し、前記変位センサにより検出された前記相対変位量の波形の頂点から原点までの区間において前記第2減衰力となるように前記可変ダンパー要素を制御する、付記1から付記5のいずれか1つに記載の作業車両。
【0114】
(付記7)
作業機を有する作業車両を含むシステムであって、
床と、
前記床の上に配置された運転席と、
前記床と前記運転席との間に配置され、少なくとも第1減衰力と前記第1減衰力よりも大きい第2減衰力との間で減衰力を切替え可能な可変ダンパー要素を有するシートサスペンションと、
前記床に対する前記運転席の相対変位量を検出する変位センサと、
前記変位センサにより検出された前記相対変位量に前記相対変位量から算出された相対速度を乗じた乗算値の正負に基づいて前記可変ダンパー要素の減衰力を前記第1減衰力と前記第2減衰力との間で切替えるコントローラと、を備えた、作業車両を含むシステム。
【0115】
(付記8)
作業機と、床と、前記床の上に配置された運転席と、前記床と前記運転席との間に配置され少なくとも第1減衰力と前記第1減衰力よりも大きい第2減衰力との間で減衰力を切替え可能な可変ダンパー要素を有するシートサスペンションと、前記床に対する前記運転席の相対変位量を検出する変位センサと、を有する作業車両の制御方法であって、
前記床に対する前記運転席の前記相対変位量を取得するステップと、
前記相対変位量から相対速度を算出するステップと、
前記相対変位量と前記相対速度とを乗じた乗算値が正値か負値かを判定するステップと、
前記乗算値の正負の判定結果に基づいて前記可変ダンパー要素の減衰力を前記第1減衰力と前記第2減衰力とで切替えるステップと、を備えた、作業車両の制御方法。
【0116】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0117】
1 ホイールローダ、2 走行体、3 作業機、4 前輪、5 運転室、5F 床、5S 運転席、6 エンジンルーム、7 後輪、9 ステアリングシリンダ、10 車体フレーム、11 フロントフレーム、12 リアフレーム、13 連結軸部、14 ブーム、15 バケット、16 リフトシリンダ、17 バケットシリンダ、18 ベルクランク、20 可変ダンパー要素、21 シリンダ、21A 第1流体室、21B 第2流体室、21C ガス室、22 ピストン、22a 環状オリフィス、23 ピストンロッド、24 ダイヤフラム、25 コイル、26 配線、27 磁気粘性流体、28 シールベアリング、30 弾性部材、40 シートサスペンション、41 変位センサ、42 電流調整装置、50 コントローラ、51 変位情報取得部、52 速度算出部、53 乗算値算出部、54 乗算値判定部、55 減衰力制御部、56 変位情報判定部、57 メモリ、ST 段差。