(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006506
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】顔料分散液および水性塗料組成物、ならびにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20250109BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20250109BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20250109BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D201/00
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107340
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】南家 真貴子
(72)【発明者】
【氏名】久司 美登
(72)【発明者】
【氏名】小林 笙太朗
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037AA30
4J037CB09
4J037CC16
4J037EE28
4J037FF28
4J038CG141
4J038JA36
4J038KA08
4J038MA08
(57)【要約】
【課題】顔料の種類によらず、低粘度でかつ顔料分散性に優れた顔料分散液を提供する。
【解決手段】共重合体(A)と、炭化水素基含有酸性化合物(B)と、顔料(C)と、水性溶媒(D)と、を含み、前記共重合体(A)は、3級アミノ基および含窒素複素環基の少なくとも一方を有する含窒素重合性不飽和モノマー由来の第1セグメント(a1)、および、ポリオキシアルキレン鎖を有する重合性不飽和モノマー由来の第2セグメント(a2)、を有し、前記炭化水素基含有酸性化合物(B)は、炭素数5~23の飽和または不飽和の炭化水素基(b1)、および、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基およびフェノール基よりなる群から選択される少なくとも1つの酸基(b2)を有する、顔料分散液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体(A)と、炭化水素基含有酸性化合物(B)と、顔料(C)と、水性溶媒(D)と、を含み、
前記共重合体(A)は、
3級アミノ基および含窒素複素環基の少なくとも一方を有する含窒素重合性不飽和モノマー由来の第1セグメント(a1)、および、ポリオキシアルキレン鎖を有する重合性不飽和モノマー由来の第2セグメント(a2)を有し、
前記炭化水素基含有酸性化合物(B)は、
炭素数5~23の飽和または不飽和の炭化水素基(b1)、および、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基およびフェノール基よりなる群から選択される少なくとも1つの酸基(b2)を有する、顔料分散液。
【請求項2】
前記共重合体(A)が有する3級アミノ基および含窒素複素環基の総当量に対する、前記炭化水素基含有酸性化合物(B)が有する酸基の当量の比(酸基/3級アミノ基および含窒素複素環基)は、0.5以上2以下である、請求項1に記載の顔料分散液。
【請求項3】
前記共重合体(A)は、さらに、前記含窒素重合性不飽和モノマーおよび前記ポリオキシアルキレン鎖を有する重合性不飽和モノマー以外の重合性不飽和モノマー由来の、第3セグメント(a3)を有し、
前記共重合体(A)において、
前記第1セグメント(a1)の質量割合は、5質量%以上30質量%以下であり、
前記第2セグメント(a2)の質量割合は、20質量%以上80質量%以下であり、
前記第3セグメント(a3)の質量割合は、10質量%以上60質量%以下である、請求項1または2に記載の顔料分散液。
【請求項4】
前記第3セグメント(a3)は、水酸基含有重合性飽和モノマー由来のセグメント(a31)を含み、
前記共重合体(A)における、前記セグメント(a31)の質量割合は、10質量%以上30質量%以下である、請求項3に記載の顔料分散液。
【請求項5】
請求項1または2に記載の顔料分散液と、
塗膜形成樹脂と、を含む、水性塗料組成物。
【請求項6】
水性溶媒(D)および共重合体(A)を含む第1混合物に、炭化水素基含有酸性化合物(B)を加えて混合し、第2混合物を得る工程と、
前記第2混合物に、顔料(C)を加えて混合する工程と、を備え、
前記共重合体(A)は、
3級アミノ基および含窒素複素環基の少なくとも一方を有する含窒素重合性不飽和モノマー由来の第1セグメント(a1)、および、ポリオキシアルキレン鎖を有する重合性不飽和モノマー由来の第2セグメント(a2)を有し、
前記炭化水素基含有酸性化合物(B)は、
炭素数5~23の飽和または不飽和の炭化水素基(b1)、および、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基またはフェノール基よりなる群から選択される少なくとも1つの酸基(b2)を有する、顔料分散液の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法により製造された顔料分散液と、塗膜形成樹脂とを混合する工程を備える、水性塗料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散液および水性塗料組成物、ならびにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全のため、工場等からの揮発性有機化合物(VOC)の排出低減が求められている。VOCの排出低減の手法の一つとして、水性の塗料組成物が提案されている。しかしながら、顔料は一般に水性溶媒に濡れにくく、分散性に劣る。
【0003】
これに関し、特許文献1は、特定の式で示されるカチオン性官能基を有する重合性不飽和モノマーを含む複数のモノマーの共重合体、顔料、および、酸基及び水酸基含有アクリル樹脂を含有することを特徴とする水性塗料組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の共重合体では、顔料を十分かつ安定して分散させることが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
共重合体(A)と、炭化水素基含有酸性化合物(B)と、顔料(C)と、水性溶媒(D)と、を含み、
前記共重合体(A)は、
3級アミノ基および含窒素複素環基の少なくとも一方を有する含窒素重合性不飽和モノマー由来の第1セグメント(a1)、および、ポリオキシアルキレン鎖を有する重合性不飽和モノマー由来の第2セグメント(a2)を有し、
前記炭化水素基含有酸性化合物(B)は、
炭素数5~23の飽和または不飽和の炭化水素基(b1)、および、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基およびフェノール基よりなる群から選択される少なくとも1つの酸基(b2)を有する、顔料分散液。
[2]
前記共重合体(A)が有する3級アミノ基および含窒素複素環基の総当量に対する、前記炭化水素基含有酸性化合物(B)が有する酸基の当量の比(酸基/3級アミノ基および含窒素複素環基)は、0.5以上2以下である、上記[1]に記載の顔料分散液。
[3]
前記共重合体(A)は、さらに、前記含窒素重合性不飽和モノマーおよび前記ポリオキシアルキレン鎖を有する重合性不飽和モノマー以外の重合性不飽和モノマー由来の、第3セグメント(a3)を有し、
前記共重合体(A)において、
前記第1セグメント(a1)の質量割合は、5質量%以上30質量%以下であり、
前記第2セグメント(a2)の質量割合は、20質量%以上80質量%以下であり、
前記第3セグメント(a3)の質量割合は、10質量%以上60質量%以下である、上記[1]または[2]に記載の顔料分散液。
[4]
前記第3セグメント(a3)は、水酸基含有重合性飽和モノマー由来のセグメント(a31)を含み、
前記共重合体(A)における、前記セグメント(a31)の質量割合は、10質量%以上30質量%以下である、上記[3]に記載の顔料分散液。
[5]
上記[1]または[2]に記載の顔料分散液と、
塗膜形成樹脂と、を含む、水性塗料組成物。
[6]
水性溶媒(D)および共重合体(A)を含む第1混合物に、炭化水素基含有酸性化合物(B)を加えて混合し、第2混合物を得る工程と、
前記第2混合物に、顔料(C)を加えて混合する工程と、を備え、
前記共重合体(A)は、
3級アミノ基および含窒素複素環基の少なくとも一方を有する含窒素重合性不飽和モノマー由来の第1セグメント(a1)、および、ポリオキシアルキレン鎖を有する重合性不飽和モノマー由来の第2セグメント(a2)を有し、
前記炭化水素基含有酸性化合物(B)は、
炭素数5~23の飽和または不飽和の炭化水素基(b1)、および、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基またはフェノール基よりなる群から選択される少なくとも1つの酸基(b2)を有する、顔料分散液の製造方法。
[7]
上記[6]記載の方法により製造された顔料分散液と、塗膜形成樹脂とを混合する工程を備える、水性塗料組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、顔料の種類によらず、低粘度でかつ顔料分散性に優れた顔料分散液が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
顔料分散剤は、顔料を溶媒中に均一に分散させるために使用される添加剤であって、界面活性剤と同様、親水性の部位と疎水性の部位とを有している。親水性の部位には様々な種類がある。親水性の部位は、電離して陰イオンまたは陽イオンを生じ得、イオン解離性を有さない場合もある。
【0009】
顔料は、通常、その表面に酸性サイト、塩基性サイトまたは不活性サイトを有しており、酸的、塩基的、疎水的あるいは親水的性質を示す。これらの性質は、顔料ごとに明確に区別できるものではなく、複合的な性質を有する場合もある。このような様々な性質を有する顔料に適した顔料分散剤を選択するのは、困難である。そこで、どのような顔料にも使用できる顔料分散剤が望まれている。しかしながら、1つの顔料分散剤(化合物)に、上記の各サイトに対応できる複数の官能基を持たせると、会合等によって、顔料分散液の粘度が増大する等の問題が生じ得る。複数種の顔料分散剤を組み合わせて使用する場合も同様に、顔料分散液の粘度が増大したり、顔料分散剤と溶媒との親和性等の点で不都合が生じ得る。顔料分散液の粘度増大は、塗料組成物の調製を困難にし、また、顔料分散液における顔料の分散性を低下させる一因になり得る。
【0010】
塗膜の発色性は、塗膜中にある顔料の粒子径が小さいほど(すなわち、塗料組成物、ひいては顔料分散液における顔料の分散性が高いほど)向上する。一般に、顔料の粒子径が小さい(顔料の分散性が高い)ほど、顔料分散液の粘度は高くなる。つまり、塗膜の発色性を向上させるために、顔料分散液における顔料の分散性を高めると、顔料分散液の粘度が増大する。そのため、顔料分散液を塗膜形成樹脂と混合するのが困難になって、結果的に塗料組成物における顔料分散性が低下し得る。通常、塗膜の発色性向上(顔料分散性の向上)と顔料分散液の低粘度化とは、トレードオフの関係であると言える。
【0011】
本開示は、顔料の性質によらず、粘度増大を引き起こすことなく、顔料を極性の溶媒(水性溶媒)中で良好に分散することのできる化合物(顔料分散剤)の組み合わせを見出しなされた。本開示に係る顔料分散液を用いて得られる塗料組成物は、高い発色性を有する。
【0012】
本開示にかかる顔料分散液は、共重合体(A)と、炭化水素基含有酸性化合物(B)(以下、「有機酸(B)」と称する場合がある。)と、顔料(C)と、水性溶媒(D)と、を含む。共重合体(A)は、3級アミノ基および含窒素複素環基の少なくとも一方を有する含窒素重合性不飽和モノマー由来の第1セグメント(a1)、および、ポリオキシアルキレン鎖を有する重合性不飽和モノマー由来の第2セグメント(a2)、を有する。有機酸(B)は、炭素数4~18の飽和または不飽和炭化水素基(b1)、および、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基およびフェノール基よりなる群から選択される少なくとも1つの酸基(b2)を有する。
【0013】
共重合体(A)において、第1セグメント(a1)の3級アミノ基および/または含窒素複素環基(以下、「含窒素基」と称する場合がある。)および第2セグメント(a2)のポリオキシアルキレン鎖はいずれも、側鎖として配置している。共重合体(A)の主鎖は、炭素-炭素結合からなる。有機酸(B)において、酸基(b2)は通常、炭化水素基(b1)の末端に位置している。
【0014】
共重合体(A)の第1セグメント(a1)にある含窒素基は、水性溶媒中で陽イオンを生じる。有機酸(B)の酸基は、水性溶媒中で陰イオンを生じる。そのため、共重合体(A)と有機酸(B)とは、水性溶媒中で互いのカウンターイオンとして存在し得る。有機酸(B)の飽和または不飽和炭化水素基(以下、単に「炭化水素基」と称する場合がある。)は、基本的には、イオン解離性を有さない。
【0015】
共重合体(A)と有機酸(B)との組み合わせにより、粘度増大を引き起こすことなく、種々の顔料の分散性が向上する。この理由としては、特定の理論に拘束されるものではないが以下のように考えられる。
顔料(C)が酸的性質を有する場合(以下、便宜的に「酸性顔料」と称する場合がある。典型的には、カーボンブラック)、含窒素基によって、共重合体(A)は顔料(C)に吸着し得る。具体的には、含窒素基が顔料(C)に吸着し、ポリオキシアルキレン鎖は、顔料(C)の外側に配置される。さらに、ポリオキシアルキレン鎖は、共重合体(A)の疎水性の主鎖との化学的な反発および立体反発により、顔料(C)の外側に向かって延びるように配列する。この外側に向かって延びたポリオキシアルキレン鎖によって、共重合体(A)を吸着した顔料(C)同士の凝集が抑制され得る。
【0016】
さらに、含窒素基の近傍には、有機酸(B)の酸基がカウンターイオンとして存在し得る。そのため、電荷バランスが保たれて、顔料(C)同士の凝集はさらに抑制される。
【0017】
加えて、共重合体(A)の主鎖と有機酸(B)の炭化水素基とはいずれも疎水性であって、親和性が高い。そのため、顔料(C)には、共重合体(A)に加えて有機酸(B)も強固に吸着することができる。一方、ポリオキシアルキレン鎖は、水性溶媒(D)との親和性が高い。つまり、共重合体(A)および有機酸(B)を吸着した顔料(C)は、共重合体(A)および有機酸(B)の疎水性の部分が親水性のポリオキシアルキレン鎖によって囲まれた状態で水性溶媒(D)中に分散するため、凝集し難く、また、この状態を維持したまま分散できると考えられる。
【0018】
別の見方をすれば、ポリオキシアルキレン鎖を有する共重合体(A)は、比較的長鎖の炭化水素基を有する有機酸(B)を、水性溶媒(D)中で均一に分散させている。炭化水素基(b1)を有する有機酸(B)は、水性溶媒(D)の表面張力を低下することができる。水性溶媒(D)の表面張力の低下により、顔料(C)の水性溶媒に対する濡れ性が向上する。上記の通り、有機酸(B)は顔料(C)とともに水性溶媒(D)中で均一に分散しているため、表面張力の低下効果はより高くなって、顔料(C)の水性溶媒(D)に対する濡れ性はさらに向上し得る。その結果、顔料(C)同士の凝集力はさらに弱まり、水性溶媒(D)中での顔料分散性は一層向上する。顔料(C)の分散安定性も向上し得る。
【0019】
有機酸(B)を併用することにより、第1セグメント(a1)および第2セグメント(a2)を有するものである限り、共重合体(A)を比較的自由に選択することができる。言い換えれば、水性塗料組成物の調製に際し、設計の自由度が広がって、顔料(C)により適した共重合体(A)を使用することができる。
【0020】
顔料(C)が塩基的性質を有する場合(以下、便宜的に「塩基性顔料」と称する場合がある。)、酸基(b2)によって、有機酸(B)が顔料(C)に吸着する。酸基の近傍には、カウンターイオンである含窒素基が存在し得る。つまり、この場合も、共重合体(A)と有機酸(B)とは互いに近傍に存在することができる。そのため、共重合体(A)のポリオキシアルキレン鎖は、有機酸(B)の炭化水素基(b1)および共重合体(A)の疎水性の主鎖との化学的な反発および立体反発により、顔料(C)の外側に向かって延びるように配列し、顔料同士の凝集を抑制する。その他、酸性顔料の場合と同様、有機酸(B)による水性溶媒の表面張力の低下効果等によって、顔料分散性、さらには顔料(C)の分散安定性が向上する。
【0021】
顔料(C)が疎水的性質を有する場合(以下、便宜的に「疎水性顔料」と称する場合がある。典型的には、フタロシアニンブルー)、炭化水素基(b1)との疎水性相互作用によって、有機酸(B)が顔料(C)に吸着する。そのため、塩基性顔料の場合と同様の作用により、顔料(C)の分散性および分散安定性が向上する。
【0022】
上記の通り、酸性顔料に吸着し易い基を有する共重合体(A)と、塩基性あるいは疎水性顔料に吸着し易い基を有する有機酸(B)とを併用することにより、種々の顔料(C)を分散することができる。さらに、共重合体(A)と有機酸(B)とが互いにカウンターイオンとして存在することにより、電荷バランスが維持され、表面張力の低下効果が高まって、顔料分散液中において顔料(C)は微細化された状態で、安定して存在することができる。加えて、含窒素基と酸基とが、別々の化合物に設けられていることにより、両者の間に相互作用が生じることが抑制されて、顔料分散液の粘度増大が抑制される。ポリオキシアルキレン鎖は非イオン乖離性であるため、同じ化合物内にある含窒素基との間で相互作用を生じ難い。
【0023】
本開示に係る顔料分散液は、顔料を微細化された状態で含有するにもかかわらず、低粘度である。そのため、水性塗料組成物を調製の際、顔料分散液と塗膜形成樹脂とを容易に混合することができて、水性塗料組成物中における顔料分散性も向上する。
【0024】
[顔料分散液]
本開示に係る顔料分散液は、共重合体(A)と、有機酸(B)と、顔料(C)と、水性溶媒(D)と、を含む。共重合体(A)は、含窒素基を有する含窒素重合性不飽和モノマー由来の第1セグメント(a1)、および、ポリオキシアルキレン鎖を有する重合性不飽和モノマー由来の第2セグメント(a2)、を有する。有機酸(B)は、炭素数4~18の炭化水素基(b1)および酸基(b2)を有する。顔料分散液は、水性溶媒(D)を含み、水性である。
【0025】
上記の共重合体(A)および有機酸(B)によって、粘度増大を引き起こすことなく、種々の顔料(C)を水性溶媒(D)中で良好に分散させることができる。すなわち、本開示に係る顔料分散液は低粘度であり、当該顔料分散液において、顔料は良く分散している(換言すれば、顔料の平均粒子径が小さい)。
【0026】
共重合体(A)と有機酸(B)とは、例えば、共重合体(A)が有する含窒素基の総当量に対する、有機酸(B)が有する酸基(b2)の当量の比(酸基/含窒素基)が、0.5以上2以下になるように、配合され得る。当量比(酸基/含窒素基)が0.5以上であると、顔料分散性の向上効果がより得られ易い。当量比(酸基/含窒素基)が2以下であると、共重合体(A)による有機酸(B)の分散効果がより高まって、分散安定性の向上効果がより得られ易い。当量比(酸基/含窒素基)は、0.6以上であってよく、0.8以上であってよい。当量比(酸基/含窒素基)は、1.8以下であってよく、1.5以下であってよい。
【0027】
顔料(C)は、例えば、共重合体(A)の固形分100質量部に対して、30質量部以上3000質量部以下配合される。顔料(C)の上記配合量は、45質量部以上であってよく、60質量部以上であってよい。顔料(C)の上記配合量は、2800質量部以下であってよく、2700質量部以下であってよい。
【0028】
顔料分散液の固形分濃度は、例えば、5質量%以上90質量%以下である。顔料分散液の固形分濃度は、8質量%以上であってよく、10質量%以上であってよい。顔料分散液の固形分濃度は、88質量%以下であってよく、85質量%以下であってよい。
【0029】
顔料分散液の固形分濃度は、JIS K 5601-1-2 加熱残分測定方法に従って測定される。
【0030】
顔料(C)は、顔料分散液中で微分散されている。顔料(C)の顔料分散液中での平均粒子径は、例えば、当該顔料(C)の一次粒子径の、90%以上1000%以下であり得る。顔料(C)の顔料分散液中での平均粒子径がこの範囲であると、顔料(C)の凝集が抑制されており、微粒子化しているといえる。顔料(C)の顔料分散液中での平均粒子径は、当該顔料(C)の一次粒子径の、900%以下であってよく、800%以下であってよい。
【0031】
平均粒子径は、体積平均粒子径D50を意味する。体積平均粒子径D50は、レーザ回折・散乱方式の粒度分布測定装置(例えば、商品名:UPA-150、マイクロトラック社製)を用いた体積基準の粒度分布における、50%平均粒子径(D50)である。
【0032】
顔料分散液は、顔料の種類に応じて様々な粘度を有する。顔料分散液の粘度は、塗料組成物が調製し易い点で、低いことが望ましい。顔料分散液の25℃条件下・回転速度5rpmにおける粘度は、例えば、5000cps以下であってよく、2000cps以下であってよい。顔料分散液の粘度の下限値は、顔料(C)の種類および大きさ等により適宜設定され、特に限定されない。
【0033】
本開示に係る顔料分散液は、共重合体(A)および/または有機酸(B)以外の顔料分散剤を用いて、同じ顔料を同程度の粒子径になるまで分散させた他の顔料分散液よりも、十分に低粘度である。例えば、本開示に係る顔料分散液の粘度は、上記の他の顔料分散液の粘度の1/2以下程度であり得、1/3以下程度であり得る。あるいは、本開示に係る顔料分散液は、共重合体(A)および/または有機酸(B)以外の顔料分散剤を用いて、粘度の増大が生じない程度に分散させたさらに他の顔料分散液よりも、顔料の粒子径は小さくなり得る。例えば、本開示に係る顔料分散液に含まれる顔料の平均粒子径は、上記のさらに他の顔料分散液に含まれる顔料の平均粒子径の80%以下程度であり得、75%以下程度であり得、70%以下程度であり得る。
【0034】
(A)共重合体
共重合体(A)は、含窒素基を有する含窒素重合性不飽和モノマー(以下、「含窒素モノマー」と称する場合がある。)由来の第1セグメント(a1)、および、ポリオキシアルキレン鎖を有する重合性不飽和モノマー(以下、「親水性モノマー」と称する場合がある。)由来の第2セグメント(a2)を有する。
【0035】
第1セグメント(a1)は、少なくとも1つの含窒素基を有する。含窒素基は、水性溶媒中で陽イオンを生じて、酸性顔料に吸着することができる。加えて、含窒素基は、水性塗料組成物に配合される成分(典型的には、硬化剤)と化学的に反応する活性水素を有していないため、水性塗料組成物の硬化反応を阻害し難い。
【0036】
第2セグメント(a2)は、少なくとも1つのポリオキシアルキレン鎖を有する。ポリオキシアルキレン鎖は、顔料同士が接近することを阻害して、凝集抑制に寄与するとともに、共重合体(A)の親水性を高める。
【0037】
共重合体(A)は、さらに、含窒素モノマーおよび親水性モノマー以外の重合性不飽和モノマー由来の、第3セグメント(a3)を有していてよい。
【0038】
第1セグメント(a1)の質量割合は5質量%以上30質量%以下であり、第2セグメント(a2)の質量割合は20質量%以上80質量%以下であり、第3セグメント(a3)の質量割合は10質量%以上60質量%以下であってよい。
【0039】
第1セグメント(a1)の質量割合が5質量%以上であると、顔料への吸着性能が向上する。第1セグメント(a1)の質量割合が30質量%以下であると、共重合体(A)の親水性が過度に高くなることが抑制されて、塗膜の耐水性の低下が抑制される。第1セグメント(a1)の質量割合は、7質量%以上であってよく、10質量%以上であってよく、12質量%以上であってよい。第1セグメント(a1)の質量割合は、27質量%以下であってよく、25質量%以下であってよく、22質量%以下であってよい。
【0040】
第2セグメント(a2)の質量割合が20質量%以上であると、共重合体(A)を吸着した顔料の分散性が向上する。第2セグメント(a2)の質量割合が80質量%以下であると、共重合体(A)の親水性が過度に高くなることが抑制されて、塗膜の耐水性の低下が抑制される。第2セグメント(a2)の質量割合は、30質量%以上であってよく、35質量%以上であってよく、40質量%以上であってよい。第2セグメント(a2)の質量割合は、75質量%以下であってよく、70質量%以下であってよく、65質量%以下であってよい。
【0041】
第3セグメント(a3)の質量割合は、例えば、10質量%以上60質量%以下であってよい。第3セグメント(a3)の質量割合は、15質量%以上であってよく、20質量%以上であってよい。第3セグメント(a3)の質量割合は、55質量%以下であってよく、50質量%以下であってよい。
【0042】
第3セグメント(a3)は、水酸基含有重合性不飽和モノマーに由来するセグメント(以下、水酸基含有セグメント(a31)と称する。)を含んでいてよい。水酸基は、水性塗料組成物に配合される成分と化学的に反応することができる。顔料に吸着した共重合体(A)が、硬化剤と化学的に反応することにより、顔料が塗膜から脱落(ブリードアウト)することが抑制される。水酸基含有セグメント(a31)の質量割合は、10質量%以上30質量%以下であってよい。水酸基含有セグメント(a31)の質量割合がこの範囲であると、ブリードアウトの抑制効果が発揮され易くなり、また、顔料分散液の粘度増大が生じ難い。水酸基含有セグメント(a31)の質量割合は、12質量%以上であってよく、15質量%以上であってよい。水酸基含有セグメント(a31)の質量割合は、25質量%以下であってよく、20質量%以下であってよい。
【0043】
第1セグメント(a1)の全構成単位に対する含有量は、共重合体(A)を合成する際に用いられる含窒素重合性不飽和モノマーの仕込み質量を、すべての原料モノマーの総仕込み質量で除すことにより算出することができる。その他のセグメントの全構成単位に対する含有量も同様に、共重合体(A)を合成する際に用いられる、当該セグメントを形成するモノマーの仕込み質量を、すべての原料モノマーの総仕込み質量で除すことにより算出することができる。
【0044】
共重合体(A)の重量平均分子量は、10,000以上40,000以下であってよい。共重合体(A)の重量平均分子量は、15,000以上であってよく、20,000以上であってよい。共重合体(A)の重量平均分子量は、38,000以下であってよく、35,000以下であってよい。
【0045】
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したクロマトグラムから、標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出できる。酸価および水酸基価は、JISの規定に基づいて、調製に用いられるモノマー組成から算出される。
【0046】
(含窒素重合性不飽和モノマー)
含窒素重合性不飽和モノマー(含窒素モノマー)は、1分子中に、3級アミノ基および含窒素複素環基の少なくとも一方と、重合性不飽和基とを有する。3級アミノ基および含窒素複素環基は塩基性である。そのため、含窒素モノマー由来の(a1)第1セグメントは、酸性サイトを有する顔料(例えば、カーボンブラック)に良好に吸着することができる。
【0047】
3級アミノ基含有モノマーとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジt-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレートなどのN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0048】
なかでも、N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートであってよく、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびN,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートであってよい。
【0049】
本明細書において「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルの両方を含む概念である。
【0050】
含窒素複素環基としては、例えば、ピリジン環基、キノリン環基、チアゾール環基、オキサゾール環基、ベンゾチアゾール環基、イミダゾール環基、ピラゾール環基、イミダゾリン環基、ピリミジン環基、ピラジン環基、トリアゾール環基、テトラゾール環基が挙げられる。
【0051】
ピリジン環を有する重合性不飽和モノマー(ビニルモノマー)としては、例えば、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジンが挙げられる。チアゾール環を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、2-ビニルチアゾ-ル、4-メチル-5-ビニルチアゾールが挙げられる。オキサゾール環を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、2-フェニル-5-ビニルオキサゾールが挙げられる。ベンゾチアゾール環を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、2-ビニルベンゾチアゾール、2-[2-(1-ナフチル)ビニル]ベンゾチアゾール、2-[2-(ジメチルアミノ)ビニル]ベンゾチアゾールが挙げられる。イミダゾール環を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、1-ビニルイミダゾール、2-メチル-1-ビニルイミダゾール、2-ビニルイミダゾール、4-ビニルイミダゾール、2-フェニル-1-ビニルイミダゾール、1-ビニルカルバゾール、(メタ)アクリル酸2-(1H-イミダゾール-1-イル)エチルが挙げられる。ピラゾール環を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、1-ビニルピラゾール、3-ビニルピラゾールが挙げられる。イミダゾリン環を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、1-ビニル-2-イミダゾリン、1-ビニル-2-メチルイミダゾリン、2-ビニル-2-イミダゾリン、(メタ)アクリル酸2-(1H-イミダゾリン-1-イル)エチルが挙げられる。ピリミジン環を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、5-ビニルピリミジン、2,4-ジクロロ-6-ビニルピリミジンが挙げられる。ピラジン環を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、2-ビニルピラジン、2,5-ジメチル-3-ビニルピラジン、2-メチル-5-ビニルピラジンが挙げられる。トリアゾール環を有するビニルモノマーとしては、例えば、2,4-ジアミノ-6-ビニルトリアジンが挙げられる。テトラゾール環を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、1-ビニル-1H-テトラゾール、2-ビニル-2H-テトラゾール、5-ビニル-1H-テトラゾール、1-メチル-5-ビニル-1H-テトラゾールが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0052】
なかでも、ピリジン環基を有するビニルモノマーおよびイミダゾール環基を有するビニルモノマーの少なくとも一方であってよい。
【0053】
なかでも、含窒素モノマーは、N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートであってよい。これにより、顔料の分散性はさらに向上する。望ましいN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートは、下記一般式で表される。
【化1】
【0054】
式中、Aは、水素またはメチル基を表わし、B1およびB2はそれぞれ独立して、炭素数1~4の直鎖または分岐した炭化水素基を表わし、nは1~3の整数である。式中、Aはメチル基であってよく、B1およびB2は、炭素数1または2の炭化水素基であってよく、nは1または2であってよい。
【0055】
(ポリオキシアルキレン鎖を有する重合性不飽和モノマー)
ポリオキシアルキレン鎖を有する重合性不飽和モノマー(親水性モノマー)は、1分子中に、ポリオキシアルキレン鎖と、重合性不飽和基とを有する。親水性モノマー由来の(a2)第2セグメントは、共重合体(A)に親水性を付与する。
【0056】
ポリオキシアルキレン鎖としては、例えば、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、ポリオキシエチレンブロックおよびポリオキシプロピレンブロックを含む鎖が挙げられる。全ポリオキシアルキレン鎖中のポリオキシエチレン鎖の割合は65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上であってよい。一態様において、ポリオキシアルキレン鎖は、ポリオキシエチレンにより構成される。
【0057】
ポリオキシアルキレン鎖の分子量は、例えば、200以上5,000以下である。分散安定性の観点から、ポリオキシアルキレン鎖の分子量は、300以上であってよく、400以上であってよく、800以上であってよく、1,000以上であってよい。ポリオキシアルキレン鎖の分子量は、3,500以下であってよく、2,500以下であってよい。特に、ポリオキシアルキレン鎖の分子量が800以上であると、長期にわたる分散安定性が得られ易い。
【0058】
親水性モノマーとしては、例えば、テトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、n-ブトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリオキシエチレン鎖を有するアクリレート;テトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラピロプレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n-ブトキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリオキシプロピレン鎖を有するアクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0059】
(その他の重合性不飽和モノマー)
その他の重合性不飽和モノマー(以下、「その他の原料モノマー」と称する場合がある。)は、1分子中に重合性不飽和基を有する一方、ポリオキシアルキレン鎖および含窒素基を有さない。その他の原料モノマー由来の(a3)第3セグメントは、共重合体(A)に様々な機能を付与し得る。
【0060】
その他の原料モノマーは、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基およびフェノール基等の酸基を有さないことが望ましい。酸基と含窒素基との間で相互作用が働くと、共重合体(A)に分子間力が生じて、顔料分散液の粘度が過剰に高くなり得るためである。
【0061】
その他の原料モノマーは、1分子中に、水酸基と、重合性不飽和基とを有していてよい。水酸基は、水性塗料組成物に配合される硬化剤と化学的に反応することができるため、得られる塗膜の耐水性が向上し得る。さらに、顔料(C)に吸着した共重合体(A)が、硬化剤と化学的に反応することにより、顔料が塗膜から脱落(ブリードアウト)することが抑制され易くなる。
【0062】
水酸基含有重合性不飽和モノマー(以下、「水酸基含有モノマー」と称する場合がある。)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ-ト、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ-ト、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物;(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物のε-カプロラクトン変性体;アリルアルコ-ルが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0063】
水酸基含有モノマー以外の、その他の原料モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニルが挙げられる。れらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0064】
(B)有機酸
有機酸(B)は、炭化水素基(b1)および酸基(b2)を有する。酸基(b2)は、典型的には、炭化水素基(b1)の末端に位置している。
【0065】
炭化水素基(b1)は、飽和していてよく、不飽和であってもよい。炭化水素基(b1)は、鎖状であってよく、脂環式であってよく、芳香環を有していてよい。なかでも、発色性の観点から、炭化水素基(b1)は、鎖状であってよい。鎖状の炭化水素基(b1)は、直鎖であってよく、分岐していてもよい。
【0066】
炭化水素基(b1)の炭素数は5~23である。有機酸(B)がある程度長い炭化水素基(b1)を有することにより、疎水性顔料が有機酸(B)に吸着し易くなったり、ポリオキシアルキレン鎖が外側に向かって延びやすくなったり、水性溶媒の表面張力が低下し易くなったりする。加えて、水性塗料組成物を調製する際、有機酸(B)を吸着した顔料から有機酸(B)が解離することが抑制されて、顔料の水性塗料組成物中での分散性も維持される。一方、炭化水素基(b1)の炭素数が過度に大きいと、水性溶媒中に顔料を均一に分散させることが難しい。炭化水素基(b1)の炭素数は、6以上であってよく、7以上であってよく、12以上であってよい。炭化水素基(b1)の炭素数は、21以下であってよく、19以下であってよい。
【0067】
酸基(b2)は、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基およびフェノール基よりなる群から選択される少なくとも1つである。有機酸(B)は、複数の同種または異種の酸基(b2)を有していてよく、酸基(b2)を1つ有していてよい。
【0068】
カルボキシ基を有する有機酸(B)としては、例えば、1価、2価および3価の有機カルボン酸が挙げられる。1価の有機カルボン酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、ウンデシレン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、シクロヘキサンカルボン酸が挙げられる。2価の有機カルボン酸としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。3価の有機カルボン酸としては、例えば、アコニット酸が挙げられる。カルボキシ基を有する有機酸(B)の他の例としては、例えば、アミノ酸およびその誘導体(トリメチルグリシンなどのトリメチル化アミノ酸など)が挙げられる。
【0069】
リン酸基を有する有機酸(B)としては、例えば、アルキルホスホン酸(例えばオクチルホスホン酸など)、アルケニルホスホン酸(例えば、リン酸オレイル)フェニルホスフィン酸が挙げられる。
【0070】
スルホン酸基を有する有機酸(B)としては、例えば、パラフェニルベンゼンスルホン酸、β-ナフタレンスルホン酸、ナフトール-1-スルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-ベンゼンクロルスルホン酸、5-クロル-α,α-ビス(3,5-ジクロル-2-ヒドロキシフェニル)トルエンスルホン酸が挙げられる。
【0071】
フェノール基を有する有機酸(B)としては、例えば、ノニルフェノール、t-ブチルフェノール、t-ブチルカテコールが挙げられる。
【0072】
(C)顔料
顔料としては、例えば、着色顔料、体質顔料、防錆顔料、光輝性顔料が挙げられる。
着色顔料は、無機物であってよく、有機物であってよい。着色顔料は、有彩色であってよく、無彩色であってよい。有機着色顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料が挙げられる。無機着色顔料としては、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタンが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0073】
体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルクが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0074】
光輝性顔料としては、例えば、干渉マイカ、ホワイトマイカおよび着色マイカなどのマイカ顔料;グラファイト顔料;ガラスフレーク顔料;アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウム、酸化クロム、これらを含む合金などの金属顔料が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。光輝性顔料は、着色されていてもよい。
【0075】
(D)水性溶媒
水性溶媒(D)は、顔料分散液の全溶媒の50質量%以上を占める。水性溶媒(D)としては、例えば、水、水と親水性溶媒との混合物が挙げられる。
【0076】
親水性溶媒としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール系溶剤;エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤;アセトン等のケトン系溶剤;並びに、N-メチル-2-ピロリドン等を挙げることができる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0077】
(その他)
顔料分散液は、その他の成分、例えば消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、表面調整剤、造膜助剤、防錆剤を含んでよい。
【0078】
[顔料分散液の製造方法]
本開示に係る顔料分散液は、水性溶媒(D)および共重合体(A)を含む第1混合物に、有機酸(B)を加えて混合し、第2混合物を得る工程と、第2混合物に、顔料(C)を加えて混合する工程と、を備える方法により製造される。
【0079】
共重合体(A)を先に水性溶媒(D)と混合した後、有機酸(B)を混合することにより、有機酸(B)が水性溶媒(D)に溶解および/または分散し易くなって、顔料(C)の分散性がより向上する。
【0080】
各混合は、例えば、ディスパー(攪拌機)により行われる。ディスパーとしては、例えば、プロペラミキサー、パドルミキサー、アンカーミキサーなどの低速撹拌機;ホモミキサー、ディスパーミキサー、ウルトラミキサーなどの高速撹拌機が挙げられる。
【0081】
得られた顔料分散液は、さらに、分散メディア(ビーズ)を用いる分散機によって、混合されてよい。これにより、顔料(C)の微粒子化が促進される。分散機の具体例として、ウルトラアペックスミル、商品名:デュアルアペックスミル(寿工業株式会社)ペイントコンディショナー、ピコグレンミル、商品名:エコミル(淺田鉄工株式会社)、スターミルZRS、スターミル、ナノゲッター、商品名:マックスナノゲッター(アシザワ・ファインテック株式会社)、商品名:マイクロメディア(ビューラー株式会社)、商品名:MSCミル(日本コークス工業株式会社)、商品名:NPM(株式会社シンマルエンタープライゼス)、サンドグラインド(SG)ミルが挙げられる。
【0082】
分散メディアの材質としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ガラス、スチール、ステンレス、陶磁器が挙げられる。分散メディアの粒子径は、例えば、0.3mm以下であってよく、0.1mm以下であってよく、0.05mm以下であってよい。これにより、顔料(C)の微粒子化をさらに促進できる。
【0083】
分散機のアジテーター回転速度は、例えば、500rpm以上5000rpm以下であってよい。混合時間は、例えば、30分以上200分以下であってよい。混合温度は、例えば、5℃以上45℃以下であってよい。
【0084】
[水性塗料組成物]
水性塗料組成物は、上記の顔料分散液と塗膜形成樹脂とを含み得る。水性塗料組成物は、さらに、塗膜形成樹脂と反応可能な硬化剤および水性溶媒を含み得る。水性溶媒としては、顔料分散液に含まれるものとして例示された水性溶媒とおなじものが挙げられる。水性塗料組成物は、塗装時に適した溶媒によってさらに希釈されて使用され得る。
【0085】
顔料(C)は、水性塗料組成物中においても、十分にかつ安定して分散されている。そのため、得られる塗膜は、優れた発色性を有する。発色性とは、艶感、透明感、色味の深さ等を、顔料の種類に応じて総合的に評価して得られる。「優れた発色性を有する」とは、顔料から想定される色彩が、塗膜において表現されていると言い換え得ることもできる。
【0086】
顔料分散液は、水性塗料組成物に含まれる塗膜形成樹脂の固形分100質量部に対して、例えば顔料(C)が1質量部以上30質量部以下になるように、配合される。顔料(C)の上記配合量は、2質量部以上であってよく、3質量部以上であってよい。顔料(C)の上記配合量は、25質量部以下であってよく、20質量部以下であってよい。
【0087】
水性塗料組成物の固形分濃度は、例えば、3質量%以上50質量%以下である。水性塗料組成物の固形分濃度は、5質量%以上であってよく、7質量%以上であってよい。水性塗料組成物の固形分濃度は、45質量%以下であってよく、40質量%以下であってよい。
【0088】
水性塗料組成物の固形分濃度は、JIS K 5601-1-2 加熱残分測定方法に従って測定される。
【0089】
(塗膜形成樹脂)
塗膜形成樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、アクリル樹脂であってよい。
【0090】
塗膜形成樹脂は、水酸基含有樹脂を含んでいてよい。水酸基含有樹脂としては、例えば、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂、ポリカーボネートポリオール樹脂、ポリエーテルポリオール樹脂、ポリカプロラクトンポリオール樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、水酸基含有アクリル樹脂であってよい。
【0091】
水酸基含有樹脂の水酸基価(OHV)は、例えば、20mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であってよい。水酸基含有樹脂の水酸基価が20mgKOH/g以上であると、塗膜の破断強度が高くなり易い。水酸基含有樹脂の水酸基価が180mgKOH/g以下であると、塗膜の親水化が抑制されて、耐水性が向上し易い。水酸基含有樹脂の水酸基価は、30mgKOH/g以上であってよく、40mgKOH/g以上であってよい。水酸基含有樹脂の水酸基価は、150mgKOH/g以下であってよく、140mgKOH/g以下であってよく、100mgKOH/g以下であってよく、80mgKOH/g以下であってよい。
【0092】
水酸基含有樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、例えば、2,000以上50,000以下であってよい。
【0093】
重量平均分子量は、ポリスチレンを標準とするGPC法において決定される。酸価および水酸基価は、JISの規定に基づいて、調製に用いられるモノマー組成から算出される。
【0094】
塗膜形成樹脂は、エマルションとして含まれてよく、ディスパージョンとして含まれてよく、溶媒に溶解した状態で含まれていてよい。例えば、アクリル樹脂ディスパージョンは、上記α,β-エチレン性不飽和モノマーを溶液重合し、塩基性化合物を用いて分散化することにより、調製することができる。水溶性のアクリル樹脂は、例えば、上記α,β-エチレン性不飽和モノマーを溶液重合し、塩基性化合物を用いて水溶化することにより調製することができる。
【0095】
水酸基含有アクリル樹脂のエマルションは、例えば、α,β-エチレン性不飽和モノマーの乳化重合によって調製することができる。α,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマー、および水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。モノマーは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0096】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステルおよびメタアクリル酸エステルを表わす。
【0097】
酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α-ハイドロ-ω-((1-オキソ-2-プロペニル)オキシ)ポリ(オキシ(1-オキソ-1,6-ヘキサンジイル))、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3-ビニルサリチル酸、3-ビニルアセチルサリチル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、p-ヒドロキシスチレン、2,4-ジヒドロキシ-4’-ビニルベンゾフェノンが挙げられる。
【0098】
水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタリルアルコール、および、これらとε-カプロラクトンとの付加物が挙げられる。
【0099】
その他のα,β-エチレン性不飽和モノマーが併用されてよい。その他のα,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、重合性アミド化合物、重合性芳香族化合物、重合性ニトリル、重合性アルキレンオキシド化合物、多官能ビニル化合物、重合性アミン化合物、α-オレフィン、ジエン、重合性カルボニル化合物、重合性アルコキシシリル化合物、重合性のその他の化合物が挙げられる。
【0100】
乳化重合の方法は、特に限定されない。例えば、水、または必要に応じてアルコール、エーテル(例えば、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルなど)などのような有機溶媒を含む水性媒体中に乳化剤を溶解させ、加熱撹拌下、α,β-エチレン性不飽和モノマーおよび重合開始剤を滴下する。α,β-エチレン性不飽和モノマーは、乳化剤によって、予め乳化させておいてよい。
【0101】
重合開始剤および乳化剤は、当業者に通常使用されているものを用いることができる。必要に応じて、メルカプタン(例えば、ラウリルメルカプタン)およびα-メチルスチレンダイマーなどの連鎖移動剤を用いて分子量を調節してもよい。反応温度、反応時間などは、当業者に通常用いられる範囲で適宜選択することができる。得られたアクリル樹脂エマルションは、必要に応じて塩基で中和される。
【0102】
乳化重合により得られる水酸基含有アクリル樹脂は、数平均分子量が3,000以上であってよい。水酸基含有アクリル樹脂は、水酸基価(固形分水酸基価)が20mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であってよい。水酸基含有アクリル樹脂は、酸価(固形分酸価)が1mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であってよい。
【0103】
(硬化剤)
水性塗料組成物は、硬化剤を含んでいてよい。硬化剤は、塗膜形成樹脂と反応して、これとともに硬化塗膜を形成する。
【0104】
硬化剤としては、例えば、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、金属イオンが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、メラミン樹脂およびブロックイソシアネート化合物の少なくとも1種を用いてよい。
【0105】
メラミン樹脂は、水溶性であってよく、非水溶性であってよい。メラミン樹脂は、メラミン核(トリアジン核)の周囲に、3個の窒素原子を介して水素原子または置換基(アルキルエーテル基、メチロール基など)が結合した構造を含む。メラミン樹脂は、一般的には、複数のメラミン核が互いに結合した多核体により構成される。メラミン樹脂は、1個のメラミン核からなる単核体であってもよい。
【0106】
市販のメラミン樹脂を用いてもよい。市販のメラミン樹脂としては、例えば、Allnex社製のサイメルシリーズ(商品名)、具体的には、サイメル202、サイメル204、サイメル211、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル250、サイメル251、サイメル254、サイメル266、サイメル267、サイメル272、サイメル285、サイメル301、サイメル303、サイメル325、サイメル327、サイメル350、サイメル370、サイメル701、サイメル703、サイメル1141;三井化学社製のユーバン(商品名)シリーズが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0107】
ブロックイソシアネート化合物は、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどからなるポリイソシアネートに、活性水素を有するブロック剤を付加させることによって、調製することができる。
【0108】
硬化剤の含有量は、水性塗料組成物に含まれる樹脂固形分の10質量%以上80質量以下であってよい。硬化剤の上記含有量は、15質量%以上であってよい。硬化剤の上記含有量は、60質量%以下であってよい。
【0109】
(その他)
水性塗料組成物は、その他の成分、例えば消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤(例えば、ヒンダードアミン)、酸化防止剤、表面調整剤、造膜助剤、防錆剤を含んでよい。
【0110】
[水性塗料組成物の製造方法]
本開示に係る水性塗料組成物は、上記の方法により製造された顔料分散液と、塗膜形成樹脂とを、混合する工程を備える方法により製造される。
【0111】
混合条件および混合装置は、顔料分散液の製造方法で挙げられたものと同様であってよい。
【0112】
[塗装物品]
本開示に係る水性塗料組成物により、優れた発色性を有する塗膜を備える塗装物品が得られる。かかる塗装物品は、被塗物と、上記水性塗料組成物により形成されるベースコート塗膜とを備える。塗装物品は、被塗物と、上記水性塗料組成物により形成されるベースコート塗膜と、ベースコート塗膜上に配置されたクリヤー塗膜とを備えてよい。
【0113】
ベースコート塗膜は、1層あるいは2層以上であってよい。少なくとも1層のベースコート塗膜が、本開示に係る水性塗料組成物から形成されている。各ベースコート塗膜に含まれる成分は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0114】
(被塗物)
被塗物の材質としては、例えば、金属、プラスチック、発泡体が挙げられる。なかでも、金属(特に、鋳物)であってよく、電着塗装可能な金属であってよい。このような金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛などおよびこれらの金属を含む合金が挙げられる。
【0115】
被塗物の形状は特に限定されず、平板状であってよく、立体的に成形されていてよい。被塗物として、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バスなどの自動車車体およびその部品が挙げられる。
【0116】
金属製の被塗物は、リン酸系化成処理剤、ジルコニウム系化成処理剤などを用いた化成処理、および、電着塗装が施されていてよい。電着塗料組成物は、カチオン型であってよく、アニオン型であってよい。カチオン型の電着塗料組成物は、防食性に優れた塗膜を形成することができる。
【0117】
金属製の被塗物は、電着塗膜と、その上に設けられた中塗り塗膜とを備えていてよい。中塗り塗膜は、通常、複層塗膜の付着性および耐久性の向上を目的として設けられる。中塗り用の塗料組成物は、例えば、塗膜形成樹脂、硬化剤、着色顔料および体質顔料を含み得る。塗膜形成樹脂および硬化剤としては、本開示に係る水性塗料組成物に含まれるものと同様のものが挙げられる。
【0118】
(ベースコート塗膜)
少なくとも1層のベースコート塗膜は、上記の水性塗料組成物から形成されている。ベースコート塗膜の厚さは、0.2μm以上50μm以下であってよい。ベース塗膜の厚さは、3μm以上であってよい。ベース塗膜の厚さは、40μm以下であってよく、30μm以下であってよく、20μm以下であってよい。
【0119】
(クリヤー塗膜)
クリヤー塗膜は、ベース塗膜を保護する。クリヤー塗膜の厚さは、例えば、10μm以上80μm以下であってよい。クリヤー塗膜の厚さは、20μm以上であってよい。クリヤー塗膜の厚さは、60μm以下であってよい。
【0120】
クリヤー塗膜は、クリヤー塗料組成物により形成される。クリヤー塗料組成物は、溶剤系であってよく、水性であってよく、粉体型であってよい。溶剤系クリヤー塗料組成物は、透明性あるいは耐酸エッチング性などの点から、塗膜形成樹脂としてアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、硬化剤としてアミノ樹脂および/またはイソシアネートと、を含んでよい。溶剤系クリヤー塗料組成物は、また、カルボン酸および/またはエポキシ基を有する、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂を含んでよい。
【0121】
クリヤー塗料組成物は、透明性および本開示に係る塗料組成物の効果を損なわない範囲で、上記の各種顔料を含み得る。クリヤー塗料組成物は、必要に応じて種々の添加剤を含み得る。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、表面調整剤、ピンホール防止剤が挙げられる。
【0122】
[塗装物品の製造方法]
被塗物と、ベースコート塗膜と、クリヤー塗膜とを備える塗装物品を例に挙げて、塗装物品の製造方法を説明する。
【0123】
ベースコート塗膜とクリヤー塗膜とを備える塗装物品は、例えば、被塗物に、本開示に係る水性塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を順次塗装した後、両者を同時に硬化させることにより得られる。水性塗料組成物の塗装の後、クリヤー塗料組成物を塗装する前に、プレヒートを行ってもよい。
【0124】
塗装方法としては、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電スプレー塗装、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装(好ましくは2ステージ塗装)、エアー静電スプレー塗装と回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装が挙げられる。
【0125】
各塗料組成物の硬化は、例えば、加熱温度80℃~180℃(好ましくは100℃~160℃)、加熱時間5分~60分(好ましくは10分~30分)の条件で行われる。
【実施例0126】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0127】
[製造例1-1]共重合体(A-1)の製造
攪拌機、温度調節機、冷却管、滴下装置を備えた反応容器に、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル78部を仕込み、攪拌しながら120℃まで昇温し、還流させた。
次いで、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル15部、ポリオキシアルキレン構造を有するモノマー(製品名:PME-1000、日油社製、メトキシポリエチレングリコール-メタクリレート)60部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル19部およびアクリル酸ブチル6部を含むモノマー混合物、カヤエステルO(日油社製)0.5部、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル76部の溶液を、3時間かけて滴下し、反応させた。後ショットとして、さらに重合開始剤としてカヤエステルO(日油社製)0.3部をジプロピレングリコールモノメチルエーテル11部に溶解した重合開始剤溶液を0.5時間かけて滴下し、0.5時間撹拌を続けて重合させて、共重合体(A-1)を得た。続いて、溶媒を90℃で減圧蒸留によって留去した後、共重合体(A-1)1000部に対して、イオン交換水100部を入れて、撹拌し、共重合体(A-1)の水溶液を得た(固形分50質量%)。
得られた共重合体(A-1)は、水酸基価82mgKOH/g、重量平均分子量30,000を有していた。
【0128】
[製造例1-2~1-14]共重合体(A-2)~(A-12)、(a-1)および(a-2)の製造
下記表に示されるモノマーを表1に記載の配合量で用いたこと以外は、製造例1-1と同様の手順で、共重合体(A-2)~(A-12)、(a-1)および(a-2)を調製した。
【0129】
【0130】
[製造例2]アクリル樹脂エマルションの製造
反応容器に脱イオン水633部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら80℃に昇温した。別途、スチレン(ST)75.65質量部、メチルメタクリレート(MMA)178.96質量部、n-ブチルアクリレート(BA)75.94質量部、2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)64.45質量部、およびヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)105質量部を混合して、1段目のモノマー混合物を調製した。次いで、このモノマー混合物と、アクアロンHS-10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)25部と、アデカリアソープNE-20(α-[1-[(アリルオキシ)メチル]-2-(ノニルフェノキシ)エチル]-ω-ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製)25.0部と、脱イオン水400部とを混合して、モノマー乳化物を調製した。別途、過硫酸アンモニウム1.2部、および脱イオン水500部からなる開始剤溶液を調製した。上記の反応容器に、モノマー乳化物と開始剤溶液とを、1.5時間かけて並行して滴下した。滴下終了後、1時間、同じ温度で熟成を行った。
【0131】
さらに、別途、スチレン(ST)53.65質量部、メチルメタクリレート(MMA)178.96質量部、n-ブチルアクリレート(BA)75.94質量部、2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)64.45質量部、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)105質量部、およびアクリル酸22質量部を混合して、2段目のモノマー混合物を調製した。次いで、このモノマー混合物と、アクアロンHS-10 10部と、脱イオン水250部とを混合して、モノマーの乳化物を調製した。別途、過硫酸アンモニウム3.0部、および脱イオン水500部からなる開始剤溶液を調製した。上記の反応容器に、モノマー乳化物と開始剤溶液とを、1.5時間かけて並行して滴下した。滴下終了後、2時間、同じ温度で熟成を行った。
【0132】
次いで、反応物を40℃まで冷却し、400メッシュフィルターで濾過した。最後に、この反応物に、脱イオン水100部およびジメチルアミノエタノール1.6部を加えて、pH6.5に調整した。このようにして、平均粒子径150nm、固形分35質量%、固形分酸価20mgKOH/g、水酸基価100mgKOH/gのアクリル樹脂エマルションを得た。
【0133】
[製造例3]水溶性アクリル樹脂の製造
反応容器にトリプロピレングリコールメチルエーテル23.89部およびプロピレングリコールメチルエーテル16.11部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら105℃に昇温した。次いで、メタクリル酸メチル13.1部、アクリル酸エチル68.4部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル11.6部およびメタクリル酸6.9部を含むモノマー混合物を作成し、そのモノマー混合物100部、トリプロピレングリコールメチルエーテル10.0部およびターシャルブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート1部からなる開始剤溶液を、3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間、同じ温度で熟成を行った。
【0134】
さらに、トリプロピレングリコールメチルエーテル5.0部およびターシャルブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート0.3部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間、同じ温度で熟成を行った。
【0135】
脱溶剤装置により、減圧下(70torr)110℃で溶剤を16.1部留去した後、脱イオン水204部およびジメチルアミノエタノール7.1部を加えて水溶性アクリル樹脂溶液を得た。得られた水溶性アクリル樹脂溶液の固形分は30質量%であり、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/g、粘度は140ポイズ(E型粘度計1rpm/25℃)であった。
【0136】
重量平均分子量は、GPC装置として「HLC8220GPC」(商品名、東ソー(株)製)、カラムとして「Shodex KF-606M」、「Shodex KF-603」(いずれも昭和電工(株)製、商品名)の4本を用いて、移動相:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、流速:0.6cc/分、検出器:RIの条件で測定した。
【0137】
酸価および水酸基価は、JISの規定に基づいて、調製に用いられるモノマー組成から算出した。
【0138】
実施例および比較例で使用された有機酸(B)の詳細を、表2に示す。
【0139】
【0140】
[実施例1]顔料分散液(青)の製造
攪拌機に、共重合体(A-1)8.3部(固形分質量)およびイオン交換水60部を入れて撹拌し、第1混合物を得た。第1混合物に有機酸(B-1)2.2部を加えて撹拌し、さらに消泡剤(BYK-011、ALTNA社製)0.5部を加えて撹拌し、第2混合物を得た。第2混合物にフタロシアニンブルー(青色顔料、東洋カラー社製、商品名:LIONOL BLUE 7186-PM)15部を加えて撹拌し、さらに全体が100部となるようにイオン交換水を加えた。得られた混合液を、体積充填率70%で0.5mmのジルコニアビーズを分散メディアとして充填したバッチ式SGミルにて分散して、顔料分散液(青)を得た。
【0141】
[実施例2~19、比較例1~8]顔料分散液(青)の製造
共重合体(A)の種類または量、有機酸(B)の種類または量を、表3に記載の通り変更したこと以外は、実施例1と同様の手順により、顔料分散液(青)を調製した。
【0142】
[実施例20]の製造
攪拌機に、共重合体(A-1)2.8部(固形分質量)およびイオン交換水19部を入れて撹拌し、第1混合物を得た。第1混合物に有機酸(B-1)0.8部を加えて撹拌し、その後、消泡剤(BYK-011、ALTNA社製)0.5部を加えて撹拌し、第2混合物を得た。第2混合物に酸化チタン(白色顔料、石原産業製CR-97)73.0部を加えて撹拌し、さらに全体が100部となるようにイオン交換水を加えた。得られた混合液を、体積充填率70%で0.6mmのジルコンビーズを分散メディアとして充填したペイントコンディショナーにて分散して、顔料分散液(白)を得た。
【0143】
[実施例21および比較例9、10]顔料分散液(白)の製造
共重合体(A)の種類または量、有機酸(B)の種類または量を、表4に記載の通り変更したこと以外は、実施例20と同様の手順により、顔料分散液(白)を得た。
【0144】
[実施例22]顔料分散液(黒)の製造
攪拌機に、共重合体(A-1)12.5部(固形分質量)およびイオン交換水50.0部を入れて撹拌し、第1混合物を得た。第1混合物に有機酸(B-1)3.2部を加えて撹拌し、その後、消泡剤(BYK-011、ALTNA社製)0.5部を加えて撹拌し、第2混合物を得た。第2混合物にカーボンブラック(黒色顔料、BILRA CARBON製ラーベン5000)17.5部を加えて撹拌し、さらに全体が100部となるようにイオン交換水を加えた。得られた混合液を、体積充填率70%で0.5mmのジルコンビーズを分散メディアとして充填したバッチ式SGミルにて分散して、顔料分散液(黒)を得た。
【0145】
[実施例23および比較例11、12]顔料分散液(黒)の製造
共重合体(A)の種類または量、有機酸(B)の種類または量を、表5に記載の通り変更したこと以外は、実施例22と同様の手順により、顔料分散液(黒)を得た。
【0146】
[実施例24]顔料分散液(赤)の製造
攪拌機に、共重合体(A-1)7.8部(固形分質量)およびイオン交換水45.0部を入れて撹拌し、第1混合物を得た。第1混合物に有機酸(B-1)2.0部を加えて撹拌し、その後、消泡剤(BYK-011、ALTNA社製)0.5部を加えて撹拌し、第2混合物を得た。第2混合物にジケトピロロピロール(赤色顔料、BASF製Irgazin Rubine L 4025)34.5部を加えて撹拌し、さらに全体が100部となるようにイオン交換水を加えた。得られた混合液を、得られた顔料分散液を、体積充填率70%で0.6mmのジルコンビーズを分散メディアとして充填したバッチ式SGミルにて分散して、顔料分散液(赤)を得た。
【0147】
[比較例13]顔料分散液(赤)の製造
共重合体(A)の種類または量、有機酸(B)の種類または量を、表6に記載の通り変更したこと以外は、実施例24と同様の手順により、顔料分散液(赤)を得た。
【0148】
[評価]
実施例および比較例の顔料分散液に関し、下記評価を行った。
(1)平均粒子径
顔料分散液をイオン交換水にて無限希釈し、動的光散乱法にて、粒度分布測定装置(商品名:UPA-150、マイクロトラック社製)を用いて、顔料分散液中の顔料の50%体積粒径(D50)を測定した。粒子径が小さいほど、顔料分散性が高いといえる。
【0149】
(2)粘度
粘度測定装置(商品名:VISCOMETER TV-25、東機産業社製)を用いて、25℃条件下・回転速度5rpmにおける粘度を測定した。
【0150】
(3)塗膜の発色性
(3-1)青色顔料、赤色顔料、黒色顔料を含む顔料分散液
製造例3の水溶性アクリル樹脂(固形分30%)210部、サイメル327(混合アルキル化型メラミン樹脂、Allnex社製、固形分90%)30部を混合し、クリアベースを調製した。クリアベースに、クリアベースの固形分90質量部に対する顔料の質量が10部になるように、顔料分散液を混合して、評価用の水性塗料組成物を得た。
【0151】
得られた評価用の水性塗料組成物を15cm×10cmのガラス板に塗装し、140℃で20分間加熱硬化させて、評価用塗膜を得た。得られた評価用塗膜の外観を目視して、下記基準により発色性を評価した。評価結果を表3~5、7および8に示す。評価がB超であると、発色性に優れるといえる。
【0152】
・顔料分散液(青)により形成された塗膜の評価基準
A:透明感があり、青みも強い
A-:透明感があるが、青みはやや弱い
B:若干の白濁り感があり、青みがやや弱い
C:白濁りがあり、青みも弱い
【0153】
・顔料分散液(黒)により形成された塗膜の評価基準
A:艶があり、漆黒性が高い
B:基準AとCとの間
C:白ぼけている
【0154】
・顔料分散液(赤)により形成された塗膜の評価基準
A:透明感があり、赤みが濃い
B:若干の白濁り感があり、赤みがやや弱い
C:濁り感がある
【0155】
(3-2)白色顔料を含む顔料分散液
顔料分散液を15cm×10cmのガラス板に塗布し、140℃で20分間加熱して、評価用塗膜を得た。得られた評価用塗膜を、23℃条件下で静置した後、マクログロス光沢計(BYK Gardner製)を用いて、60°光沢値を測定した。60°光沢値を下記基準により評価した。評価結果を表6に示す。60°光沢値が高いほど、白色の発色性が高い。評価がB超であると、発色性に優れるといえる。
【0156】
・顔料分散液(白)により形成された塗膜の評価基準
A:60°光沢値が80以上
B:60°光沢値が60以上80未満
C:60°光沢値が60未満
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
実施例1~24の顔料分散液では、いずれも顔料の平均粒子径が小さく、粘度が低く抑えられていた。
【0164】
比較例1および2においては、顔料(C)の平均粒子径が大きかった。比較例1および2の顔料分散液は、有機酸(B)を含まないため、疎水性顔料であるフタロシアニンブルーが十分に分散されなかったものと考えられる。比較例3においては、有機酸(B)に替えてオレイルアミンを用いたところ、顔料(C)の平均粒子径が大きかった。比較例3で使用されたオレイルアミンは、共重合体(A)のカウンターイオンとして機能できず、電荷バランスが崩れ、顔料(C)同士の凝集が抑制されなかったためと考えられる。比較例4においては、有機酸(B)に替えてポリオキシエチレンオレイルエーテルを用いたところ、顔料(C)の平均粒子径を十分に小さくすることができず、さらには顔料分散液の粘度が増大した。比較例4で使用されたポリオキシエチレンオレイルエーテルは、共重合体(A)のカウンターイオンとして十分に機能できなかったため顔料(C)同士の凝集が十分に抑制されず、さらにはポリオキシエチレンオレイルエーテルとフタロシアニンブルーとの間で特異的相互作用が生じ、粘度が極めて大きくなったものと考えられる。比較例5および6においては、顔料(C)の平均粒子径が大きく、顔料分散液の粘度も高かった。比較例5および6で使用された有機酸は、炭化水素基が短いため、顔料同士の凝集が十分に抑制されなかったと考えられる。比較例7においては、顔料(C)の平均粒子径が大きかった。比較例7で用いられた共重合体(A)は含窒素基を有していないため、有機酸(B)のカウンターイオンとして機能できず、顔料(C)同士の凝集が抑制されなかったためと考えられる。
【0165】
比較例1~7の顔料分散液を用いて製造された水性塗料組成物により形成された塗膜は、いずれも特に透明感が低かった。
【0166】
比較例8では、顔料を分散させることができなかった。これは、比較例8で用いられた共重合体がポリオキシアルキレン鎖を有していないため、水性溶媒との親和性が低くなって、共重合体自身が水性溶媒中に分散することができず、その結果、顔料(C)を分散させることもできなかったためと考えられる。
【0167】
比較例9~13では、有機酸(B)を使用しなかった。
比較例9においては、顔料(C)の平均粒子径が大きく、特に、粘度の増大が確認された。比較例9では有機酸(B)が使用されなかったため、一般に塩基性である酸化チタンが樹脂成分を吸着することが困難であったため、分散され難かったものと考えられる。さらに、酸化チタンは比重が大きいため沈降し易いことに加え、分散が不十分であったことから、過剰な粘度の増大を招いたものと考えられる。比較例10では、酸化チタンを分散させることも困難であり、評価試験を行うことができなかった。
【0168】
比較例11および12においては、酸性顔料であるカーボンブラックを使用しているため、共重合体(A)によって分散することはできたものの、顔料(C)の平均粒子径は比較的大きく、分散性は不十分であった。比較例12では、粘度の増大も確認された。
【0169】
比較例13においては、顔料の平均粒子径は比較的小さいものの、発色性に劣っていた。これは、顔料分散液における顔料の分散状態が不安定であるため、水性塗料組成物を製造する際に、顔料が部分的に凝集したものと考えられる。
【0170】
[実施例25]水性塗料組成物および塗装物品の製造
(1)水性塗料組成物の製造
製造例2のアクリル樹脂エマルションを160部、ジメチルアミノエタノール1部、製造例3の水溶性アクリル樹脂を33部(固形分30質量%)、メラミン樹脂(サイメル204、三井サイテック社製、混合アルキル化型メラミン樹脂、固形分80%)を38部、2官能ポリエーテルポリオール(プライムポールPX-1000、三洋化成工業社製)を10部、および、実施例1の顔料分散液(固形分26%)を30部混合し、脱イオン水で希釈して、固形分濃度20%の水性塗料組成物を製造した。
【0171】
(2)塗装物品の製造
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、縦30cm、横40cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料組成物である「パワートップU-50)」(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた。得られた塗板に、中塗り塗料組成物「OP-30P ミドルグレー」(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、ポリエステル・メラミン系塗料、25秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に予め希釈)を、アネスト岩田製エアスプレーガンW-101-132Gを用いて乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、140℃で30分間焼き付け硬化させた。このようにして、電着塗膜と中塗り塗膜とを有する被塗物を得た。
【0172】
被塗物に、水性ベース塗料組成物(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、水性ベースAR-3020-1(グレーメタリック))を、室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚12μmになるようにエアスプレー塗装した。4分間のセッティングを行った後、80℃で5分間のプレヒートを行った。次いで、上記で製造された水性塗料組成物を、室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚12μmになるようにエアスプレー塗装した。4分間のセッティングを行った後、80℃で5分間のプレヒートを行った。
【0173】
続いて、クリヤー塗料(日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社製、ポリウレエクセル O-1200 (商品名)、ポリイソシアネート化合物含有2液アクリルウレタン系有機溶剤型クリヤー塗料)を回転霧化式の静電塗装機を用いて、乾燥膜厚が35μmとなるように塗装した。最後に、80℃で20分間加熱して、複層塗膜を有する塗装物品を得た。得られた塗膜は、透明感があり、青みも強く感じられた。
【0174】
本開示は以下の態様を含む。
[1]
共重合体(A)と、炭化水素基含有酸性化合物(B)と、顔料(C)と、水性溶媒(D)と、を含み、
前記共重合体(A)は、
3級アミノ基および含窒素複素環基の少なくとも一方を有する含窒素重合性不飽和モノマー由来の第1セグメント(a1)、および、ポリオキシアルキレン鎖を有する重合性不飽和モノマー由来の第2セグメント(a2)を有し、
前記炭化水素基含有酸性化合物(B)は、
炭素数5~23の飽和または不飽和の炭化水素基(b1)、および、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基およびフェノール基よりなる群から選択される少なくとも1つの酸基(b2)を有する、顔料分散液。
[2]
前記共重合体(A)が有する3級アミノ基および含窒素複素環基の総当量に対する、前記炭化水素基含有酸性化合物(B)が有する酸基の当量の比(酸基/3級アミノ基および含窒素複素環基)は、0.5以上2以下である、上記[1]の顔料分散液。
[3]
前記共重合体(A)は、さらに、前記含窒素重合性不飽和モノマーおよび前記ポリオキシアルキレン鎖を有する重合性不飽和モノマー以外の重合性不飽和モノマー由来の、第3セグメント(a3)を有し、
前記共重合体(A)において、
前記第1セグメント(a1)の質量割合は、5質量%以上30質量%以下であり、
前記第2セグメント(a2)の質量割合は、20質量%以上80質量%以下であり、
前記第3セグメント(a3)の質量割合は、10質量%以上60質量%以下である、上記[1]または[2]の顔料分散液。
[4]
前記第3セグメント(a3)は、水酸基含有重合性飽和モノマー由来のセグメント(a31)を含み、
前記共重合体(A)における、前記セグメント(a31)の質量割合は、10質量%以上30質量%以下である、上記[3]の顔料分散液。
[5]
上記[1]~[4]のいずれかの顔料分散液と、
塗膜形成樹脂と、を含む、水性塗料組成物。
[6]
水性溶媒(D)および共重合体(A)を含む第1混合物に、炭化水素基含有酸性化合物(B)を加えて混合し、第2混合物を得る工程と、
前記第2混合物に、顔料(C)を加えて混合する工程と、を備え、
前記共重合体(A)は、
3級アミノ基および含窒素複素環基の少なくとも一方を有する含窒素重合性不飽和モノマー由来の第1セグメント(a1)、および、ポリオキシアルキレン鎖を有する重合性不飽和モノマー由来の第2セグメント(a2)、を有し、
前記炭化水素基含有酸性化合物(B)は、
炭素数5~23の飽和または不飽和の炭化水素基(b1)、および、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基またはフェノール基よりなる群から選択される少なくとも1つの酸基(b2)を有する、顔料分散液の製造方法。
[7]
上記[6]記載の方法により製造された顔料分散液と、塗膜形成樹脂とを混合する工程を備える、水性塗料組成物の製造方法。
本発明の顔料分散液は、顔料の種類によらず、また、粘度増大を引き起こすことなく、顔料を十分にかつ安定して分散することができるため、種々の水性塗料組成物に用いることができる。