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2025-6547グルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現を促進するための組成物
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  • -グルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現を促進するための組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006547
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】グルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現を促進するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20250109BHJP
   A61K 36/725 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 36/906 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 36/346 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20250109BHJP
   A61K 8/9783 20170101ALI20250109BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20250109BHJP
   A61K 125/00 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/725
A61K36/906
A61K36/346
A61P17/00
A61P43/00 111
A61Q19/00
A61K8/9789
A61K8/9783
A61K131:00
A61K125:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107409
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(71)【出願人】
【識別番号】000003665
【氏名又は名称】株式会社ツムラ
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】金 辰也
(72)【発明者】
【氏名】真野 千夏
(72)【発明者】
【氏名】常田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】福武 昌人
(72)【発明者】
【氏名】小倉 圭介
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD53
4B018MD61
4B018ME06
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF06
4C083AA111
4C083AA112
4C083EE12
4C083FF01
4C088AB12
4C088AB30
4C088AB81
4C088AC04
4C088AC13
4C088BA07
4C088BA08
4C088BA37
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC19
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】グルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現を促進するための組成物を提供する。
【解決手段】大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分を含んでなる、グルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現を促進するための組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分を含んでなる、グルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現を促進するための組成物。
【請求項2】
大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分を含んでなる、グルタチオン合成酵素の活性を促進するための組成物。
【請求項3】
大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分を含んでなる、グルタチオンの産生を促進するための組成物。
【請求項4】
肌の透明感を改善するための、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
フェオメラニンの産生を促進するための、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
食品組成物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現を促進するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタチオンは生体内に幅広く分布する抗酸化物質で、システイン、グルタミン酸およびグリシンから成るトリペプチドであり、生体内の主な還元剤として種々の酸化還元的代謝による細胞防御、異物代謝、および修復過程等に重要な役割を担っている。
【0003】
グルタチオンには、還元型グルタチオン(GSH)と、システインの側鎖チオール基同士がジスルフィド結合を介して結合した酸化型グルタチオン(GSSG)があるが、生体内では、グルタチオンレダクターゼの働きにより98%以上が還元型グルタチオンとして存在しており、よって、グルタチオンは、生体内においてフリーラジカルや過酸化物を還元し、細胞から保護する作用を示す。また、グルタチオンの側鎖チオール基は求核性を有するため、有毒な化合物を攻撃して無毒化する作用も示す。
【0004】
通常、タンパク質を構成するアミノ酸であるシステインが生体内において単独で存在すると、互いに反応してシスチンとなるが、この際にラジカルを発生させるため、細胞内のシステイン濃度は比較的低く抑えられている。これに対して、グルタチオンは、γ-グルタミルトランスペプチダーゼとジペプチダーゼにより各構成アミノ酸に分解されて、生体内におけるシステイン供給源としても働くと考えられている。
【0005】
そのため、生体内のグルタチオンが減少し、正常な細胞の働きを維持できなくなると様々な障害が引き起こされると考えられている。実際に、グルタチオンの細胞内濃度の低下によって、紫外線暴露による細胞障害、炎症、黒色化、シミ、ソバカスの生成、急性あるいは慢性アルコール肝障害、肝臓病、慢性腎不全、タバコの喫煙等が要因の肺疾患、特発性肺線維症、白内障、虚血性心疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病、胃潰瘍、成人呼吸器障害症候群、免疫不全、骨髄形成不全、後天性免疫不全症候群、潜伏性ウイルス感染症、及び生理学的な加齢に伴う老化現象、癌化等が引き起こされることが報告されている。
【0006】
このような障害を防止または改善するために、グルタチオンを医療や美容の分野において活用することについて、従来から研究が進められており、これまでに美白効果や肝機能改善効果等、グルタチオンの様々な有用な効果が報告されている。一方で、グルタチオンそのものを医薬品、化粧品、医薬部外品として用いるには、薬機法やグルタチオン自体が比較的、化学的に不安定である等の問題がある。そこで、生体内でグルタチオンの産生を促進できる、安全で継続摂取可能な成分が種々検討されてきた。
【0007】
例えば、セイヨウナツユキソウ等の植物を含有するグルタチオン増強用組成物。(特許文献1)、有効成分としてルテオリンまたはその配糖体を含有することを特徴とするグルタチオン産生促進剤(特許文献2)等が報告されている。
【0008】
このように、グルタチオンの産生を促進する薬剤としては様々なものが見出されているが、その効果は必ずしも十分ではなく、より優れた効果を有するグルタチオンの産生を促進する薬剤が現在でも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002-275079号公報
【特許文献2】特開2022-187468号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明は、グルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現を促進するための組成物を提供する。
【0011】
本発明者らは、大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分がグルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現促進に有用であることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0012】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分を含んでなる、グルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現を促進するための組成物。
(2)大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分を含んでなる、グルタチオン合成酵素の活性を促進するための組成物。
(3)大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分を含んでなる、グルタチオンの産生を促進するための組成物。
(4)肌の透明感を改善するための、(1)~(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)フェオメラニンの産生を促進するための、(1)~(4)のいずれかに記載の組成物。
(6)食品組成物である、(1)~(5)のいずれかに記載の組成物。
(7)グルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現の促進を目的とする薬剤の製造のための、大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分の使用。
(8)グルタチオン合成酵素の活性の促進を目的とする薬剤の製造のための、大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分の使用。
(9)グルタチオンの産生の促進を目的とする薬剤の製造のための、大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分の使用。
(10)肌の透明感の改善を目的とする薬剤の製造のための、(7)~(9)のいずれかに記載の使用。
(11)フェオメラニンの産生の促進を目的とする薬剤の製造のための、(7)~(10)のいずれかに記載の使用。
(12)大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分を含んでなる組成物の、グルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現を促進するための使用。
(13)大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分を含んでなる組成物の、グルタチオン合成酵素の活性を促進するための使用。
(14)大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分を含んでなる組成物の、グルタチオンの産生を促進するための使用。
(15)肌の透明感を改善するための、(12)~(14)のいずれかに記載の使用。
(16)フェオメラニンの産生を促進するための、(12)~(15)のいずれかに記載の使用。
(17)グルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現を促進するための、大棗、生姜、または桔梗。
(18)グルタチオン合成酵素の活性を促進するための、大棗、生姜、または桔梗。
(19)グルタチオンの産生を促進するための、大棗、生姜、または桔梗。
(20)肌の透明感を改善するための、(17)~(19)のいずれかに記載の大棗、生姜、または桔梗。
(21)フェオメラニンの産生を促進するための、(17)~(20)のいずれかに記載の大棗、生姜、または桔梗。
(22)被験体において、グルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現を促進する方法であって、大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分の有効量を投与することを含む、方法。
(23)被験体において、グルタチオン合成酵素の活性を促進する方法であって、大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分の有効量を投与することを含む、方法。
(24)被験体において、グルタチオンの産生を促進する方法であって、大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分の有効量を投与することを含む、方法。
(25)被験体の肌の透明感を改善する方法であって、大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分の有効量を投与することを含む、(22)~(24)のいずれかに記載の方法。
(26)被験体における、フェオメラニンの産生を促進する方法であって、大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分の有効量を投与することを含む、(22)~(25)のいずれかに記載の方法。
【0013】
本発明によれば、グルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現を促進するための組成物が提供される。また、本発明によれば、グルタチオン合成酵素の活性を促進するための組成物を提供することも可能である。また、本発明によれば、グルタチオンの産生を促進するための組成物を提供することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、大棗が表皮角化細胞のグルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現に与える影響を評価した結果を示した図である。
図2図2は、生姜が表皮角化細胞のグルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現に与える影響を評価した結果を示した図である。
図3図3は、桔梗が表皮角化細胞のグルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現に与える影響を評価した結果を示した図である。
【発明の具体的説明】
【0015】
本発明の一つの態様によれば、グルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)遺伝子の発現を促進するための組成物が提供され、該組成物は、大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分を含んでなる。このような組成物は、GCLC遺伝子発現促進剤を含んでいてもよく、該GCLC遺伝子発現促進剤は、大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分からなるか、または含んでいてもよい。
【0016】
γ-グルタミルシステインは、グルタミン酸とシステインがペプチド結合したグルタチオンの前駆体であり、γ-グルタミルシステイン合成酵素(γGCS)によってグルタミン酸とシステインから生合成される。このγGCSはグルタチオン生合成の律速段階の酵素であり,グルタミン酸システインリガーゼ修飾サブユニット(GCLM)とグルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)の2つのサブユニットからなることが知られているものである。
【0017】
したがって、本発明の別の一つの態様によれば、グルタチオン合成酵素の活性を促進するための組成物が提供され、該組成物は、大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分を含んでなる。このような組成物は、グルタチオン合成酵素活性促進剤を含んでいてもよく、該グルタチオン合成酵素活性促進剤は、大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分からなるか、または含んでいてもよい。
【0018】
本発明におけるグルタチオン合成酵素は、グルタチオンの生合成に直接的または間接的に関与する酵素であればよいが、好ましくはγ-グルタミルシステイン合成酵素(γGCS)である。
【0019】
また、本発明のさらに別の一つの態様によれば、グルタチオンの産生を促進するための組成物が提供され、該組成物は、大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分を含んでなる。このような組成物は、グルタチオン産生促進剤を含んでいてもよく、該グルタチオン産生促進剤は、大棗、生姜、および桔梗からなる群から選択される1種または2種以上の成分からなるか、または含んでいてもよい。
【0020】
一般に、メラニンの産生は、メラノサイト中のメラノソームにある銅イオン依存性のチロシナーゼによりチロシンが酸化され、ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)が生成され、さらにDOPA-オキシダーゼによってドーパキノンとなり、その後はメラノサイトで非酵素的にドーパクロム、インドールキノンへと重合されることにより行われる。このように産生されるメラニンを、ユーメラニン(真性メラニン)といい、黒褐色である。この真性メラニンの他に、ドーパキノンとシステインからジヒドロベンゾチアジンを経て生合成される橙赤色のフェオメラニン(亜メラニン)等もメラニンとして知られている(Pigment Cell Melanoma Res, 28(5), 520-44(2015)等参照)。
【0021】
グルタチオンはチロシナーゼに結合してその活性を抑制することによりユーメラニンの産生を抑制するだけでなく、ドーパキノンにも結合してフェオメラニンを産生させる特異性を有することが報告されている(Yakugaku Zasshi,128(8),1203-7(2008) ; Postepy Hig Med Dosw, 70(0), 695-708(2016)等参照)。
【0022】
したがって、本発明の好ましい実施態様によれば、本発明の組成物はフェオメラニンの産生を促進するための組成物とされる。
【0023】
ヒトの皮膚における肌色はユーメラニン(黒褐色)とフェオメラニン(橙赤色)のバランスで構成され、このバランスは肌の明るさにも大きな影響を与える。例えば、浅黒い肌を有するヒト由来のメラノサイトと明るい肌を有するヒト由来のメラノサイトでは、明るい肌を有するヒト由来のメラノサイトにおいてより多くのフェオメラニンが生成されることが報告されている(The Journal of investigative dermatology, 122, 1251-1255(2004)等参照)。フェオメラニンの産生促進等により、ユーメラニンに対してフェオメラニン優勢な体質に導くことで肌の明るさの維持や改善に寄与出来ると考えられるが、このフェオメラニンの産生促進にはグルタチオンが大きく影響している。したがって、本発明の別の好ましい一つの態様によれば、本発明の組成物は肌の明るさを維持および/または改善するための組成物とされる。
【0024】
また、肌の明るさは、他にもメラニン量、血色、ヘモグロビン量、ヘモグロビン酸素飽和度、キメ等と同様に肌の透明感に影響を与え得るものである。したがって、本発明の別の好ましい実施態様によれば、本発明の組成物は肌の透明感を維持および/または改善するための組成物とされる。
【0025】
本発明における「大棗」は、クロウメモドキ科の落葉小高木である棗(Zizyphus jujuba Miller var. inermis Rehder)の果実を乾燥したものを意味し、中国等において生薬としても用いられるものである。
【0026】
本発明における「大棗」の形態は、本発明の目的効果を有するものが得られるのであれば限定されないが、例えば、粉末化したもの、抽出物、エキス末等を用いることができる。
【0027】
本発明における「生姜」は、ショウガ科ショウガ属の多年草であるショウガ(Zingiber officinale)の根茎を意味し、乾燥等させたものであってもよい。特に、生姜の根茎を湯通し、または蒸して乾燥したものは「乾姜」と呼ばれる。「生姜」および「乾姜」のいずれも中国等において生薬としても用いられるものである。
【0028】
本発明における「生姜」の形態は、本発明の目的効果を有するものが得られるのであれば限定されないが、例えば、粉末化したもの、抽出物、エキス末等を用いることができる。
【0029】
本発明における「桔梗」は、キキョウ科キキョウ属のキキョウ(Platycodon grandiflorum A. De Candolle(Campanulaceaeと呼ばれることもある))を意味する。使用部位としては、限定されるわけではないが、根が好ましい。中国等において生薬としても用いられるものである。
【0030】
本発明における「桔梗」の形態は、本発明の目的効果を有するものが得られるのであれば限定されないが、例えば、粉末化したもの、抽出物、エキス末等を用いることができる。
【0031】
本発明における大棗、生姜、または桔梗の抽出物の製造方法は、特に制限されず、当該技術分野において通常使用される方法に応じて製造することができ、例えば、抽出物の原料を抽出することにより行ってもよい。前記抽出方法としては、限定されるわけではないが、例えば、熱水抽出法、超音波抽出法、ろ過法、還流抽出法、溶媒(例えばエタノール)抽出法等が挙げられる。これらは単独で実行、または2種以上の方法を併用して行ってもよい。また、高純度の抽出物を得るために抽出物を同様の方法で1回以上ずつさらに抽出してもよい。また、このような抽出物は、スプレードライによる粉末化等の適切な処理を施すことにより、エキス末としてもよい。
【0032】
本発明における大棗、生姜、または桔梗の抽出物の製造のために使用される溶媒の種類は特に制限されず、本発明の目的効果を有する抽出物が得られるものであれば、当技術分野において公知となっている任意の溶媒を使用してもよい。そのような溶媒の例としては、限定されるわけではないが、例えば、水、炭素数1~4のアルコール、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム等が挙げられ、これらは2つ以上組み合わせて使用してもよい。
【0033】
大棗、生姜、または桔梗(粉末化したもの、抽出物、エキス末等を含む)が市販されている場合、本発明の目的効果を有するものが得られるのであれば、それを使用してもよい。
【0034】
本発明の組成物は、生体内(in vivo)および生体外(in vitro)のいずれにおいて適用してもよい。
【0035】
本発明の組成物を対象に適用する場合、適用される対象としては、限定されるわけではないが、例えば、ヒト、チンパンジーを含む霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物、マウス、ラットなどの齧歯類等の哺乳動物等が挙げられる。
【0036】
本発明の組成物を生体試料に適用する場合、適用される生体試料としては、限定されるわけではないが、例えば、生体から取得された細胞、その継代された細胞、または株化された細胞等が挙げられ、必要に応じてこれらの細胞を分化させて使用してもよい。このような細胞は、いかなる動植物に由来する細胞であってもよく、限定されるわけではないが、好ましくは動物細胞であり、好ましくはヒト細胞である。
【0037】
本発明の組成物における大棗の使用量は、用途に応じて適宜決定できるが、好ましくは、組成物の全量に対して、大棗の乾燥重量が1mg~15gとされ、より好ましくは3mg~5gとされ、より好ましくは10mg~1.5gとされる。
【0038】
本発明の組成物における生姜の使用量は、用途に応じて適宜決定できるが、好ましくは、組成物の全量に対して、生姜の乾燥重量が1mg~10gとされ、より好ましくは3mg~0.33gとされ、より好ましくは10mg~1gとされる。
【0039】
本発明の組成物における桔梗の使用量は、用途に応じて適宜決定できるが、好ましくは、組成物の全量に対して、桔梗の乾燥重量が1mg~10gとされ、より好ましくは3mg~0.33gとされ、より好ましくは10mg~1gとされる。
【0040】
本発明の組成物は、経口用組成物または局所用組成物であってもよい。本発明における大棗、生姜、および桔梗は、好ましくは、経口摂取により消化管より吸収されて、その有効成分が体内で作用すると考えられる。したがって、本発明の1つの好ましい実施態様によれば、本発明の組成物は、経口用組成物である。
【0041】
本発明の組成物を経口用組成物とする場合、経口用組成物に配合される公知の成分(添加剤)をさらに配合することができる。このような成分としては、限定されるわけではないが、例えば、乳化剤、水和剤、溶媒、エモリエント、安定剤、増粘剤、保存剤、滑沢剤、キレート剤、充填剤、賦形剤、粉末、芳香剤、香料、吸収剤、染料、乳白剤、抗酸化剤、防腐剤、ビタミン、アミノ酸、栄養剤、鉱物(電解質)、合成風味剤および天然風味剤等の風味剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、pH調節剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に用いられる炭酸化剤等が挙げられる。
【0042】
本発明における経口用組成物は、液体、半固体、固体のいずれであってもよい。
【0043】
本発明の組成物を局所用組成物とする場合、局所用組成物に配合される公知の成分(添加剤)をさらに配合することができる。このような成分としては、限定されるわけではないが、例えば、乳化剤、水和剤、溶媒、エモリエント、安定剤、増粘剤、保存剤、滑沢剤、キレート剤、充填剤、賦形剤、粉末、芳香剤、香料、吸収剤、染料、乳白剤、抗酸化剤、ビタミン、アミノ酸等が挙げられる。
【0044】
本発明における局所用組成物は、液体、半固体、固体のいずれであってもよい。
【0045】
本発明の組成物は、医薬組成物、化粧用組成物、食品組成物のいずれであってもよく、好ましくは食品組成物である。
【実施例0046】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。含有量は特記しない限り、質量%で示す。
【0047】
大棗の抽出
切裁した生薬大棗に、10倍量の精製水を加え、撹拌しながら95~100℃に昇温させ、昇温後、約60分間抽出した。抽出終了後、抽出液を固液分離し、分離液を減圧濃縮した後、噴霧乾燥により乾燥大棗エキスを得た。
【0048】
生姜の抽出
切裁した生薬生姜に、10倍量の精製水を加え、撹拌しながら95~100℃に昇温させ、昇温後、約60分間抽出した。抽出終了後、抽出液を固液分離し、分離液を減圧濃縮した後、噴霧乾燥により乾燥生姜エキスを得た。
【0049】
桔梗の抽出
切裁した生薬桔梗に、10倍量の精製水を加え、撹拌しながら95~100℃に昇温させ、昇温後、約60分間抽出した。抽出終了後、抽出液を固液分離し、分離液を減圧濃縮した後、噴霧乾燥により乾燥桔梗エキスを得た。
【0050】
薬剤(各抽出物)が正常ヒト表皮角化細胞のGCLC遺伝子発現に与える影響の評価
正常ヒト表皮角化細胞(継代数:4、倉敷紡績社製)を、HuMedia-KG2を用いて96穴プレートに1.5×10cells/wellの細胞密度になるように播種し、37℃、5%のCO条件下で一晩培養し、培養後に培地を、試験薬剤を含有するかまたは含有しないHuMedia-KB2に交換し、さらに48時間培養した。培養後、正常ヒト表皮角化細胞をPBS(-)を用いて洗浄し、TaqMan(登録商標)Gene Expression Cells-to-CT(商標)Kitのプロトコルに従ってcDNAを作製した。このcDNAを鋳型として、TaqMan(登録商標)Fast Univ. Gene Expression Master MixおよびTaqMan(登録商標)Gene Expression Assaysを用いて、Real time PCRを行った。プライマーとしてはTaqMan PCR用プライマー(GCLC遺伝子用のアッセイID:Hs00155249_ml(Thermo Fisher Scientific社製))を用い、また、ハウスキーピング遺伝子としてはTaqMan(登録商標) Endogenous ControlsのシクロフィリンA(PPIA :Peptidylprolyl isomerase A)を用いた。Real time PCRには Step OnePlus(商標)Real Time PCR Systemを用いた。解析は、デルタ・デルタCT法を用いて行い、各群の遺伝子発現量は試験薬剤未処理群(コントロール)の補正値を1とした相対値で表した。値を算出した後、統計処理として、対応のないStudentのt検定を行った。
【0051】
大棗がGCLC遺伝子発現に与える影響の評価結果を図1に、生姜がGCLC遺伝子発現に与える影響の評価結果を図2に、桔梗がGCLC遺伝子発現に与える影響の評価結果を図3に、それぞれ示す。図1において、対照群に対して、20μg/mLの大棗添加群では有意傾向なGCLC遺伝子発現上昇が観察された。また、図2において、対照群に対して、0.2μg/mLの生姜添加群では有意なGCLC遺伝子発現上昇が観察された。また、図3において、対照群に対して、2μg/mLの桔梗添加群では有意なGCLC遺伝子発現上昇が観察された。以上より、大棗、生姜、桔梗の3成分がGCLC遺伝子の発現を促進することが示唆された。
図1
図2
図3