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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006550
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01P 3/08 20060101AFI20250109BHJP
   F01M 1/08 20060101ALI20250109BHJP
   F02M 25/028 20060101ALI20250109BHJP
   F02D 19/12 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F01P3/08 A
F01M1/08 B
F02M25/028
F02D19/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107414
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】原田 慎治
【テーマコード(参考)】
3G092
3G313
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AA06
3G092AB09
3G092AB17
3G092BA01
3G092BB01
3G092DE03Y
3G092DF03
3G092DF04
3G092EA02
3G092FA26
3G092HA06Z
3G092HA08Z
3G092HB01Z
3G092HE08Z
3G092HE09Z
3G313BA02
3G313BC04
3G313CA06
3G313FA05
(57)【要約】
【課題】ピストンやシリンダ壁面が部分的に過冷却状態になることを抑える。
【解決手段】内燃機関1は、燃焼室8に接続された吸気ポート9に水を噴射する水噴射弁70と、ピストン5の裏面に潤滑油を噴射するオイルジェット80とを備える。制御装置100は、水噴射弁70による水噴射とオイルジェット80によるオイル噴射とを制御する。制御装置100は、水噴射の実行時には、水噴射の開始前に比べてオイル噴射にて噴射される潤滑油の量を抑制する制御を実施する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に接続された吸気通路に水を噴射する水噴射弁と、ピストン裏面またはシリンダ壁面に潤滑油を噴射するオイルジェットとを備える内燃機関に適用されて、前記水噴射弁による水噴射と前記オイルジェットによるオイル噴射とを制御する装置であって、
前記水噴射の実行時には、前記水噴射の開始前に比べて前記オイル噴射にて噴射される前記潤滑油の量を抑制する制御を実施する
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記オイルジェットは、前記ピストン裏面であって排気ポート側に位置する部位または前記シリンダ壁面であって排気ポート側に位置する部位に向けて前記潤滑油を噴射するオイルジェットである
請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記水噴射を停止してから待機時間が経過した後に、前記潤滑油の量を抑制する制御を解除する
請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記待機時間は、前記水噴射の実行中における水噴射量及び前記水噴射の実行時間に基づいて設定される
請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記オイル噴射を停止することにより、前記潤滑油の量を抑制する制御を実施する
請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1や特許文献2には、水素を燃料とする内燃機関が記載されている。そして、それら内燃機関は、燃焼室に接続された吸気通路に水を噴射する水噴射弁を備えている。
【0003】
また、特許文献3に記載の内燃機関は、ピストン裏面に潤滑油を噴射することによりピストンを冷却するオイルジェットを備えている。ちなみに、シリンダ壁面に潤滑油を噴射することにより間接的にピストンを冷却するオイルジェットも存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-130473号公報
【特許文献2】特開2022-44553号公報
【特許文献3】特開2009-156186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、水噴射弁から吸気通路に噴射された水の一部は、ピストン頂面やシリンダ壁面に液体の状態で付着することがある。ピストン頂面やシリンダ壁面に付着した液状の水が気化すると、気化熱によりピストン頂面やシリンダ壁面の温度が部分的に低下する。従って、水噴射とオイル噴射とを実施する内燃機関において、水噴射による冷却とオイル噴射による冷却とが重なる場合には、ピストンやシリンダ壁面が部分的に過冷却状態になるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する内燃機関の制御装置は、燃焼室に接続された吸気通路に水を噴射する水噴射弁と、ピストン裏面またはシリンダ壁面に潤滑油を噴射するオイルジェットとを備える内燃機関に適用される。この制御装置は、前記水噴射弁による水噴射と前記オイルジェットによるオイル噴射とを制御する。そして、制御装置は、前記水噴射の実行時には、前記水噴射の開始前に比べて前記オイル噴射にて噴射される潤滑油の量を抑制する制御を実施する。
【発明の効果】
【0007】
この内燃機関の制御装置は、ピストンやシリンダ壁面が部分的に過冷却状態になることを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態における内燃機関の模式図である。
図2図2は、水噴射の実行領域を示す図である。
図3図3は、オイル噴射の実行領域を示す図である。
図4】同実施形態の制御装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
図5】同実施形態におけるオイル噴射及び水噴射の実行状態を示すタイミングチャートである。図5(A)は機関出力、図5(B)はオイル噴射の実行状態、図5(C)は水噴射量、それぞれの推移を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、内燃機関の制御装置の一実施形態について、図1図5を参照して説明する。
<内燃機関の構成>
図1に示すように、内燃機関1のシリンダブロック2には、シリンダ4が設けられている。シリンダ4内にはピストン5が設けられており、ピストン5は、コネクティングロッド6を介してクランクシャフト7に連結されている。
【0010】
シリンダブロック2の上部にはシリンダヘッド3が組み付けられている。シリンダ4においてピストン5の頂面とシリンダヘッド3との間には、燃焼室8が形成されている。また、シリンダヘッド3には、内燃機関1の燃料である水素ガスを気筒内に直接噴射する筒内噴射弁35と、燃焼室8の混合気を火花点火する点火プラグ11とが、内燃機関1の気筒ごとに設けられている。
【0011】
また、シリンダヘッド3には、燃焼室8に接続された吸気ポート9や排気ポート10が設けられている。なお、吸気ポート9は、吸気が流れる吸気通路の一部を構成している。
吸気ポート9は、吸入空気量を調整するスロットルバルブ14が設けられた吸気通路20に接続されている。また、吸気ポート9には同吸気ポート9を開閉する吸気弁12が設けられている。また、シリンダヘッド3には、吸気ポート9内に水を噴射する水噴射弁70が内燃機関1の気筒ごとに設けられている。
【0012】
排気ポート10には同排気ポート10を開閉する排気弁13が設けられている。排気ポート10は排気通路30に接続されている。
内燃機関1は、ピストン5の裏面に潤滑油を噴射するオイルジェット80を備えている。内燃機関1のオイルパンに貯留されている潤滑油がオイルポンプでくみ上げられてオイルジェット80から噴射される。オイルジェット80の噴射方向は、ピストン5の裏面であって排気ポート10側に位置する部位に向けて潤滑油が噴射されるように設定されている。
【0013】
オイルジェット80は、バルブ81を備えている。バルブ81が開弁しているときには、オイルジェット80から潤滑油が噴射されることによりオイル噴射が実行される。バルブ81が閉弁しているときには、オイルジェット80からの潤滑油の噴射が停止されることによりオイル噴射は停止される。
【0014】
<制御装置について>
制御装置100は、CPU110、制御用のプログラムやデータが記憶されたメモリ120などを備えている。そして、メモリ120に記憶されたプログラムをCPU110が実行することにより、各種の機関制御を実行する。
【0015】
制御装置100には、各種のセンサが接続されている。例えば制御装置100には、クランクシャフト7の回転角を検出するクランク角センサ41、吸入空気量GAを検出するエアフロメータ44、内燃機関1において熱交換された後の冷却水の温度である冷却水温TWを検出する水温センサ45が接続されている。また、制御装置100には、オイルジェット80に供給される潤滑油の温度である油温TOを検出する油温センサ48、アクセルペダルの操作量であるアクセル操作量ACCPを検出するアクセルセンサ49が接続されている。
【0016】
制御装置100は、クランク角センサ41の出力信号Scrに基づいて機関回転速度NEを演算する。また、制御装置100は、機関回転速度NE及び吸入空気量GAに基づいて機関負荷率KLを演算する。機関負荷率KLは、現在の機関回転速度NEにおいてスロットルバルブ14を全開にした状態で内燃機関1を定常運転したときのシリンダ流入空気量に対する、現在のシリンダ流入空気量の比率を表している。なお、シリンダ流入空気量は、吸気行程において各気筒のそれぞれに流入する空気の量である。
【0017】
制御装置100は、各種の機関制御として、筒内噴射弁35から噴射される燃料の噴射制御や、点火プラグ11の点火制御を行う。また、制御装置100は、各種の機関制御として、水噴射弁70から噴射される水の量である水噴射量Qwや水の噴射タイミングなどを制御する水噴射制御や、バルブ81の開閉制御を通じたオイルジェット80のオイル噴射制御を実行する。
【0018】
<水噴射制御について>
制御装置100は、水噴射制御のひとつとして、上記水噴射量Qwを算出する処理を実行する。
【0019】
図2に示すように、メモリ120には、水噴射量Qwを算出するための情報として、水噴射領域マップM1が予め記憶されている。水噴射領域マップM1は、機関回転速度NEと、要求トルクTtと、1燃焼サイクルにおいて1つの気筒に供給する必要のある水の量である水噴射量Qwとの関係を表したものである。なお、要求トルクTtは、アクセル操作量ACCP等に基づいて制御装置100が算出する内燃機関1の要求トルクである。
【0020】
水噴射領域マップM1において、機関回転速度NEと要求トルクTtと水噴射量Qwとは、基本的に次のような関係になっている。要求トルクTtが予め定めた閾値Ttref未満の場合、機関回転速度NEの大小に拘わらず水噴射量Qwは「0」である。一方、要求トルクTtが閾値Ttref以上の場合には、要求トルクTt及び機関回転速度NEにて予め規定されている所定の運転領域において、「0」よりも大きく且つ要求トルクTt及び機関回転速度NEに応じた値が水噴射量Qwとして設定されている。より詳細には、要求トルクTt及び機関回転速度NEの積である機関出力が高い場合には、機関出力が低い場合と比較して値が大きくなるように水噴射量Qwは設定されている。水噴射量Qwとして「0」よりも大きい値が設定されている運転領域は、水噴射を実行する水噴射領域である。
【0021】
制御装置100は、機関運転中において、この水噴射領域マップM1に基づいて水噴射量Qwを算出する。そして、算出された水噴射量Qwに相当する量の水が水噴射弁70から噴射されるように、制御装置100は水噴射弁70の噴射制御を行う。
【0022】
水噴射弁70が噴射した水は気筒内で蒸発する。このときの気化熱で気筒内の温度は低下する。従って、水噴射を実行することにより、プレイグニッションなどの異常燃焼の発生を抑えたり、NOxの発生量を抑えたりすることができる。なお、水素を燃料とする内燃機関1では、燃料の着火性が高い。そのため、着火性が低い燃料を使用する内燃機関と比べて、異常燃焼の発生を抑えるために必要となる水噴射量Qwは多くなる。
【0023】
<オイル噴射制御について>
制御装置100は、機関運転中においてオイル噴射制御を実行する。
図3に示すように、メモリ120には、オイル噴射を実行するか否かを判定するための情報として、オイル噴射領域マップM2が予め記憶されている。オイル噴射領域マップM2は、機関回転速度NEと、要求トルクTtと、オイル噴射を実行するオイル噴射領域との関係を表したものである。なお、オイル噴射領域マップM2は、油温毎に複数設定されており、制御装置100は、取得した油温TOに対応するオイル噴射領域マップM2を選択する。
【0024】
オイル噴射領域マップM2において、機関回転速度NEと要求トルクTtとオイル噴射領域とは、基本的に次のような関係になっている。要求トルクTtが上記閾値Ttrefを超えている場合、制御装置100は、バルブ81を閉弁状態にすることによりオイル噴射を停止して非実行とする。一方、要求トルクTtが閾値Ttref以下の場合には、要求トルクTt及び機関回転速度NEにて予め規定されている所定の運転領域において、制御装置100はバルブ81を開弁状態にすることによりオイル噴射を実行する。
【0025】
このように上記閾値Ttrefを境にして、オイル噴射を実行する領域と実行しない領域とが設定されていることにより、オイル噴射を実行する運転領域と水噴射を実行する運転領域とは重ならないように設定されている。つまり、オイル噴射と水噴射とは同時に実行されないようになっている。
【0026】
こうした水噴射領域マップM1及びオイル噴射領域マップM2に基づいた水噴射の実行及びオイル噴射の実行は、制御装置100が実行する以下の制御に相当する。つまり、水噴射の実行時には、その水噴射の開始前に比べて、オイル噴射にて噴射される潤滑油の量を抑制する制御に相当する。そして、制御装置100は、オイル噴射を停止することにより、オイル噴射にて噴射される潤滑油の量を抑制する制御を実施する。
【0027】
<水噴射を停止したときに制御装置が実行する処理について>
図4に、制御装置100が実行する処理の手順を示す。制御装置100は、実行していた水噴射を停止した場合に、つまり機関回転速度NE及び要求トルクTtによって規定される内燃機関1の動作点が図2に示した水噴射領域から外れた場合に、本処理の実行を開始する。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、ステップ番号を表現する。
【0028】
図2に示す処理を開始すると、制御装置100は、待機時間WTを算出する(S100)。待機時間WTは、水噴射を停止してから上記抑制処理を解除するまでの時間、つまり水噴射を停止した後にオイル噴射を開始する場合に、そのオイル噴射の開始を待機する時間である。制御装置100は、水噴射の実行中に算出された水噴射量Qw及び水噴射の実行時間に基づき、待機時間WTを設定する。より詳細には、水噴射量Qwが多いほど、あるいは水噴射の実行時間が長いほど、待機時間WTの値が大きくなるように当該待機時間WTを設定する。
【0029】
次に、制御装置100は、水噴射を停止してから待機時間WTが経過したか否かを判定する(S110)。そして、S110の処理において待機時間WTが経過していないと判定される場合(S110:NO)、制御装置100は、待機時間WTが経過したと判定するまでS110の処理を繰り返し実行する。
【0030】
S110の処理において、待機時間WTが経過したと判定される場合(S110:NYES)、制御装置100は、機関回転速度NE及び要求トルクTtを取得する(S120)。
【0031】
次に、制御装置100は、取得した機関回転速度NE及び要求トルクTtが、図3に示したオイル噴射領域内の値であるか否かを判定する(S130)。そして、制御装置100は、オイル噴射領域内の値であると判定する場合(S130:YES)、オイル噴射を実行する(S140)。
【0032】
そして、S140の処理を実行した場合、または上記S130の処理にて否定判定した場合には、制御装置100は、本処理を終了する。
<作用>
本実施形態の作用について説明する。
【0033】
図5に、オイル噴射及び水噴射の実行状態を示す。図5(A)は機関出力、図5(B)はオイル噴射の実行状態、図5(C)は水噴射量、それぞれの推移を示している。
機関出力が増加していき、時刻t1において、機関回転速度NE及び要求トルクTtで規定される内燃機関1の動作点がオイル噴射領域に入るとオイル噴射が開始される。
【0034】
そして、機関出力がさらに増加していき、時刻t2において、内燃機関1の動作点が水噴射領域に入ると、オイル噴射は速やかに停止されて水噴射が開始される。このようにして水噴射の開始と同時にオイル噴射を停止することにより、オイルポンプの仕事は速やかに小さくされる。
【0035】
その後、機関出力が低下していき、時刻t3において、内燃機関1の動作点が水噴射領域から外れると、水噴射量Qwが「0」に設定されることにより、水噴射は停止される。そして、上記待機時間WTが算出される。
【0036】
水噴射を停止してから待機時間WTが経過した時刻t4において、機関回転速度NE及び要求トルクTtで規定される内燃機関1の動作点がオイル噴射領域内の値である場合には、オイル噴射が開始される。
【0037】
そして、時刻t5において、上記動作点がオイル噴射領域から外れると、オイル噴射は停止される。
<効果>
本実施形態の効果について説明する。
【0038】
(1)水噴射の実行時には、水噴射の開始前に比べてオイル噴射にて噴射される潤滑油の量を抑制する制御が実施される。そのため、水噴射の実行時には、オイル噴射により噴射される潤滑油の量が少なくされる。従って、水噴射及びオイル噴射の実行によってピストン5やシリンダ4の壁面が部分的に過冷却状態になることを抑えることができる。
【0039】
(2)ピストン5やシリンダ4の壁面が部分的に過冷却状態になると、温度分布のばらつきが大きくなって部位毎の熱変形量の差が大きくなるため、ピストン打音などの異音が発生したり、シリンダ4が摩耗しやすくなるおそれがある。この点、本実施形態では、ピストン5やシリンダ4の壁面が部分的に過冷却状態になることを抑えることができるため、そうした異音の発生や、シリンダ4の摩耗などを抑えることができる。
【0040】
(3)オイル噴射にて噴射される潤滑油の量を抑制する制御は、オイル噴射を停止することによって実施される。従って、水噴射の実行時には、オイル噴射による冷却を確実に停止させることができる。
【0041】
(4)ピストン5やシリンダ4の壁面であって排気ポート10側に位置する部位は、吸気ポート9側に位置する部位に比べて温度が高くなる傾向がある。そこで本実施形態では、ピストン5の裏面であって排気ポート側に位置する部位に向けて潤滑油を噴射するオイルジェット80を備えることにより、そうした高温部位を冷やすようにしている。
【0042】
ここで、水噴射弁70から吸気ポート9に噴射された水の一部は、貫徹力や気筒内のタンブル流の影響により、排気ポート10側のピストン5の頂面や排気ポート10側のシリンダ4の壁面に液体の状態で付着することがある。ピストン5の頂面やシリンダ4の壁面に付着した液状の水が気化すると、気化熱によりピストン5の頂面やシリンダ4の壁面の温度が低下する。そのため、水噴射を実行すると、ピストン5やシリンダ4の壁面であって排気ポート10側に位置する部位が冷却されやすい。従って、仮にオイル噴射及び水噴射を共に実行すると、ピストン5やシリンダ4の壁面であって排気ポート10側に位置する部位が過冷却状態になりやすい。
【0043】
この点、本実施形態では、水噴射の実行時には、オイル噴射が停止されることによりオイルジェット80から噴射される潤滑油の量が「0」にされる。従って、ピストン5やシリンダ4の壁面であって排気ポート10側に位置する部位が過冷却状態になることを抑えることができる。
【0044】
(5)水噴射を停止した時点では、直前まで行われていた水噴射によってピストン5やシリンダ4の壁面は冷却されている。従って、水噴射を停止した時点でただちに上記抑制処理を解除してオイル噴射を開始すると、ピストン5やシリンダ4の壁面が過冷却されるおそれがある。この点、本実施形態では、水噴射を停止してから上記待機時間WTが経過した後に、オイル噴射にて噴射される潤滑油の量を抑制する制御が解除されてオイル噴射が開始される。従って、水噴射により温度が低下しているピストン5やシリンダ4の壁面の温度がある程度上昇してから、オイル噴射が開始される。そのため、水噴射を停止した後にオイル噴射を開始する際に、部分的な過冷却が発生することを抑えることができる。
【0045】
(6)水噴射によるピストン5やシリンダ4の壁面の冷却度合いは、水噴射の実行中における水噴射量Qw及び水噴射の実行時間と相関がある。そこで、本実施形態では、ピストン5やシリンダ4の壁面の冷却度合いに相関がある上記水噴射量Qw及び水噴射の実行時間に基づいて上記待機時間WTを設定するようにしている。そのため、水噴射によるピストン5やシリンダ4の壁面の冷却度合いに合わせて待機時間WTを適切に設定することができる。
【0046】
(7)上述したように水素を燃料とする内燃機関1では、燃料の着火性が高い。そのため、着火性が低い燃料を使用する内燃機関と比べて、異常燃焼の発生を抑えるために必要となる水噴射量Qwは多くなる。従って、上述したようなピストン5やシリンダ4の壁面における部分的な過冷却が起きやすい。この点、本実施形態では、そうした水素を燃料とする内燃機関1において、水噴射の実行時には、水噴射の開始前に比べてオイル噴射により噴射される潤滑油の量が抑制される。従って、部分的な過冷却が起きやすい内燃機関1においても、ピストン5やシリンダ4の壁面における部分的な過冷却の発生を抑えることができる。
【0047】
<変更例>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0048】
図2に示した水噴射領域マップM1において、要求トルクTtを機関負荷率KLに置き換えてもよい。
図3に示したオイル噴射領域マップM2において、要求トルクTtを機関負荷率KLに置き換えてもよい。
【0049】
・オイルジェット80の噴射方向は、シリンダ4の壁面であって排気ポート10側に位置する部位に向けて潤滑油が噴射されるように設定されていてもよい。
・オイルジェット80の噴射方向は、ピストン5の裏面またはシリンダ4の壁面であって排気ポート10側に位置する部位とは異なる部位に向けて潤滑油が噴射されるように設定されていてもよい。この場合でも、上記(4)以外の効果を得ることができる。
【0050】
・オイル噴射領域では、バルブ81の開度を種々変更することにより、オイルジェット80から噴射される潤滑油の量を調整してもよい。
・水噴射の実行時において、オイル噴射により噴射される潤滑油の量を抑制するために、オイル噴射を停止するようにした。この他、水噴射の実行時には、オイル噴射を継続しつつ、オイルジェット80から噴射される潤滑油の量が、水噴射の開始前に比べて少なくなるように当該潤滑油の量を制御してもよい。この場合でも、上記(3)以外の効果を得ることができる。
【0051】
・内燃機関1は水素を燃料とする内燃機関であったが、水素以外の燃料を使用する内燃機関でもよい。この場合でも、上記(7)以外の効果を得ることができる。
・上記制御装置100はCPU110とメモリ120とを備えており、ソフトウェア処理を実行する。しかしながら、これは例示に過ぎない。制御装置100は、例えば、上記実施形態において実行されるソフトウェア処理の少なくとも一部を処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、制御装置100は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てをプログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するメモリ等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置及びプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置及びプログラム格納装置を備えたソフトウェア回路、及び専用のハードウェア回路は複数であってもよい。すなわち、上記処理は、1または複数のソフトウェア回路及び1または複数の専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路によって実行されればよい。プログラム格納装置すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【符号の説明】
【0052】
1…内燃機関
2…シリンダブロック
3…シリンダヘッド
4…シリンダ
5…ピストン
6…コネクティングロッド
7…クランクシャフト
8…燃焼室
9…吸気ポート
10…排気ポート
12…吸気弁
13…排気弁
14…スロットルバルブ
20…吸気通路
30…排気通路
35…筒内噴射弁
41…クランク角センサ
44…エアフロメータ
45…水温センサ
48…油温センサ
49…アクセルセンサ
70…水噴射弁
80…オイルジェット
81…バルブ
100…制御装置
図1
図2
図3
図4
図5