(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006553
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】半導体装置、システムおよび半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10D 30/60 20250101AFI20250109BHJP
【FI】
H01L29/78 301X
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107423
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】523028541
【氏名又は名称】大熊ダイヤモンドデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅沢 仁
(72)【発明者】
【氏名】川島 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 卓宏
(72)【発明者】
【氏名】金子 純一
(72)【発明者】
【氏名】桝村 匡史
【テーマコード(参考)】
5F140
【Fターム(参考)】
5F140BA04
5F140BB01
5F140BC12
5F140BD04
5F140BD05
5F140BD07
5F140BD09
5F140BD11
5F140BD12
5F140BF05
5F140BF07
5F140BF17
5F140BF21
5F140BG30
5F140BJ05
5F140BJ07
5F140BJ11
5F140BJ17
5F140BK18
5F140BK19
5F140BK29
5F140CC02
5F140CC11
(57)【要約】
【課題】水素終端領域を含むダイヤモンド層を有するFETにおいて、ノーマリオフ動作を実現する。
【解決手段】具現化態様では、チャネル形成領域105が第1領域P1と第2領域P2から構成されていることを前提として、ゲート電極111に「0V」のゲート電圧を印加する状態において、第1領域P1の正孔濃度が第2領域P2の正孔濃度よりも小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界効果トランジスタを含む半導体装置であって、
前記電界効果トランジスタは、
水素終端領域を含むダイヤモンド層と、
前記ダイヤモンド層に形成されたチャネル形成領域と、
前記ダイヤモンド層の上面上に形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜上に形成されたゲート電極と、
を有し、
前記チャネル形成領域は、
平面視において前記ゲート電極と重なる第1領域と、
平面視において前記ゲート電極と重ならない第2領域と、
を含み、
前記電界効果トランジスタのオフ状態において、
前記第1領域の正孔濃度は、前記第2領域の正孔濃度よりも小さい。
【請求項2】
電界効果トランジスタを含む半導体装置であって、
前記電界効果トランジスタは、
水素終端領域を含むダイヤモンド層と、
前記ダイヤモンド層に形成されたチャネル形成領域と、
前記ダイヤモンド層の上面上に形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜上に形成されたゲート電極と、
を有し、
前記絶縁膜は、
平面視において前記ゲート電極と重なる第1絶縁領域と、
平面視において前記ゲート電極と重ならない第2絶縁領域と、
を含み、
前記第2絶縁領域の負帯電量は、前記第1絶縁領域の負帯電量よりも大きい。
【請求項3】
電界効果トランジスタを含む半導体装置であって、
前記電界効果トランジスタは、
水素終端領域を含むダイヤモンド層と、
前記ダイヤモンド層に形成されたチャネル形成領域と、
前記ダイヤモンド層の上面上に形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜上に形成されたゲート電極と、
を有し、
前記絶縁膜は、
平面視において前記ゲート電極と重なる第1絶縁領域と、
平面視において前記ゲート電極と重ならない第2絶縁領域と、
を含み、
前記第1絶縁領域の正帯電量は、前記第2絶縁領域の正帯電量よりも大きい。
【請求項4】
電界効果トランジスタを含む半導体装置であって、
前記電界効果トランジスタは、
水素終端領域を含むダイヤモンド層と、
前記ダイヤモンド層に形成されたチャネル形成領域と、
前記ダイヤモンド層の上面上に形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜上に形成されたゲート電極と、
を有し、
前記電界効果トランジスタのオフ状態において、
前記チャネル形成領域の正孔濃度は、1012/cm2以下である。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記絶縁膜は、
平面視において前記ゲート電極と重なる第1絶縁領域と、
平面視において前記ゲート電極と重ならない第2絶縁領域と、
を含み、
前記第2絶縁領域の負帯電量は、前記第1絶縁領域の負帯電量よりも大きい。
【請求項6】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記電界効果トランジスタのオフ状態とは、前記ゲート電極に印加されるゲート電圧が0Vである状態を意味する。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記ダイヤモンド層の上面は、(001)面である。
【請求項8】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記ダイヤモンド層は、(001)面に対して<110>方向に3度のオフ角を有する。
【請求項9】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記電界効果トランジスタのオフ状態において、
前記第1領域の正孔濃度は、1012/cm2以下である。
【請求項10】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記電界効果トランジスタのオフ状態において、
前記第1領域の正孔濃度は、1011/cm2以下である。
【請求項11】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記絶縁膜は、酸化アルミニウム膜、酸化シリコン膜、フッ化カルシウム膜、酸化ハフニウム膜、窒化アルミニウム膜、窒化ホウ素膜、窒化シリコン膜、酸窒化シリコン膜、酸化タンタル膜、酸化チタン膜、酸化タングステン膜、フッ化ランタン膜、あるいは、フッ化マグネシウム膜のいずれかを含む。
【請求項12】
請求項2に記載の半導体装置において、
前記チャネル形成領域は、
平面視において前記ゲート電極と重なる第1領域と、
平面視において前記ゲート電極と重ならない第2領域と、
を含み、
前記電界効果トランジスタのオフ状態において、
前記第1領域の正孔濃度は、前記第2領域の正孔濃度よりも小さい。
【請求項13】
請求項2に記載の半導体装置において、
前記電界効果トランジスタのオフ状態とは、前記ゲート電極に印加されるゲート電圧が0Vである状態を意味する。
【請求項14】
請求項2に記載の半導体装置において、
前記ダイヤモンド層の上面は、(001)面である。
【請求項15】
請求項2に記載の半導体装置において、
前記ダイヤモンド層は、(001)面に対して<110>方向に3度のオフ角を有する。
【請求項16】
請求項2に記載の半導体装置において、
前記電界効果トランジスタのオフ状態において、
前記第1領域の正孔濃度は、1012/cm2以下である。
【請求項17】
請求項2に記載の半導体装置において、
前記電界効果トランジスタのオフ状態において、
前記第1領域の正孔濃度は、1011/cm2以下である。
【請求項18】
請求項2に記載の半導体装置において、
前記絶縁膜は、酸化アルミニウム膜、酸化シリコン膜、フッ化カルシウム膜、酸化ハフニウム膜、窒化アルミニウム膜、窒化ホウ素膜、窒化シリコン膜、酸窒化シリコン膜、酸化タンタル膜、酸化チタン膜、酸化タングステン膜、フッ化ランタン膜、あるいは、フッ化マグネシウム膜のいずれかを含む。
【請求項19】
請求項4に記載の半導体装置において、
前記電界効果トランジスタのオフ状態において、
前記チャネル形成領域の正孔濃度は、1011/cm2以下である。
【請求項20】
請求項4に記載の半導体装置において、
平面視において、前記チャネル形成領域は、前記ゲート電極と重なる。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか1項に記載の半導体装置を含むシステム。
【請求項22】
電界効果トランジスタを含む半導体装置の製造方法であって、
(a)水素終端領域を含むダイヤモンド層を形成する工程、
(b)前記水素終端領域の正孔濃度を低減する工程、
を備える。
【請求項23】
請求項22に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(b)工程は、前記水素終端領域に付着した表面吸着物を脱離する工程を含む。
【請求項24】
請求項23に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(b)工程は、真空中において水素プラズマ処理を施す工程を含む。
【請求項25】
請求項22に記載の半導体装置の製造方法において、
(c)前記ダイヤモンド層上に絶縁膜を形成する工程、
(d)前記絶縁膜上にゲート電極を形成する工程、
(e)前記ゲート電極から露出する前記絶縁膜の領域に帯電処理を施す工程、
を有する。
【請求項26】
請求項25に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(e)工程は、酸素プラズマ処理を施す工程を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、システムおよび半導体装置の製造技術に関し、例えば、ダイヤモンドを半導体材料として使用した電界効果トランジスタを含む半導体装置に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2018-6572号公報(特許文献1)には、動作特性がノーマリオフの電界効果トランジスタを含むダイヤモンド半導体装置に関する技術が記載されている。
【0003】
特開2017-50485号公報(特許文献2)には、ノーマリオフ動作をする水素終端ダイヤモンドFETを得るための製造方法上の条件に関する技術が記載されている。
【0004】
特開2022-104826号公報(特許文献3)には、高い放射線耐性がありつつ、回路特性も確保可能な電界効果トランジスタに関する技術が記載されている。
【0005】
特開2020-161587号公報(特許文献4)には、キャリア移動度が高く、スイッチング特性に優れている一方、ゲートリーク電流が少ないノーマリオフ動作が可能な電界効果トランジスタを含む半導体装置に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-6572号公報
【特許文献2】特開2017-50485号公報
【特許文献3】特開2022-104826号公報
【特許文献4】特開2020-161587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、シリコンよりもバンドギャップの大きなワイドバンドギャップ半導体材料を使用した電界効果トランジスタ(以下、FETと呼ぶことがある)は、シリコンを使用したFETに比べて優れた特性を有している。このことから、ワイドバンドギャップ半導体材料を使用したFETは、次世代のFETとして期待されている。
【0008】
この点に関し、ダイヤモンドは、5.5eVのバンドギャップを有するワイドバンドギャップ半導体材料であり、高絶縁破壊電圧、高熱伝導率および高移動度に代表される優れた特性を備えている。このことから、ダイヤモンドは、炭化珪素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)に続く次世代のワイドバンドギャップ半導体材料として期待されている。
【0009】
ただし、ダイヤモンドを使用したFETは、性能を向上する観点から乗り越えるべきハードルがあり、実用化に向けた工夫が望まれている。例えば、ダイヤモンドを使用したFETでは、ノーマリオフ動作を実現することが困難であり、ノーマリオフ動作を実現化した実用レベルのFETを得るための工夫が望まれている。
【0010】
なお、「ノーマリオフ」とは、ゲート電極に0Vのゲート電圧を印加した際にFETがオフ状態にあることをいう。詳細には、ゲート電極に0Vのゲート電圧を印加した際、ゲート電極直下のチャネル形成領域にチャネルが形成されない構成のFETは、「ノーマリオフ型FET」と呼ばれる。一方、ゲート電極に0Vのゲート電圧を印加した際でも、ゲート電極直下のチャネル形成領域にチャネルが形成されている構成のFETは、「ノーマリオン型FET」と呼ばれる。また、本明細書では、ゲート電極に0Vのゲート電圧を印加していることを「ゲート電極にゲート電圧を印加していない」という場合がある。この場合、「ノーマリオフ」とは、ゲート電極にゲート電極を印加していないときにFETがオフ状態にあると表現することもできる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施の形態における半導体装置は、電界効果トランジスタを含む半導体装置であって、電界効果トランジスタは、水素終端領域を含むダイヤモンド層と、ダイヤモンド層に形成されたチャネル形成領域と、ダイヤモンド層の上面上に形成された絶縁膜と、絶縁膜上に形成されたゲート電極と、を有する。
【0012】
ここで、チャネル形成領域は、平面視においてゲート電極と重なる第1領域と、平面視においてゲート電極と重ならない第2領域と、を含む。そして、電界効果トランジスタのオフ状態において、第1領域の正孔濃度は、第2領域の正孔濃度よりも小さい。
【0013】
一実施の形態における半導体装置は、電界効果トランジスタを含む半導体装置であって、電界効果トランジスタは、水素終端領域を含むダイヤモンド層と、ダイヤモンド層に形成されたチャネル形成領域と、ダイヤモンド層の上面上に形成された絶縁膜と、絶縁膜上に形成されたゲート電極と、を有する。
【0014】
ここで、絶縁膜は、平面視においてゲート電極と重なる第1絶縁領域と、平面視においてゲート電極と重ならない第2絶縁領域と、を含む。そして、第2絶縁領域の負帯電量は、第1絶縁領域の負帯電量よりも大きい。または、第1絶縁領域の正帯電量は、第2絶縁領域の正帯電量よりも大きい。
【0015】
一実施の形態における半導体装置は、電界効果トランジスタを含む半導体装置であって、電界効果トランジスタは、水素終端領域を含むダイヤモンド層と、ダイヤモンド層に形成されたチャネル形成領域と、ダイヤモンド層の上面上に形成された絶縁膜と、絶縁膜上に形成されたゲート電極と、を有する。
【0016】
ここで、電界効果トランジスタのオフ状態において、チャネル形成領域の正孔濃度は、1012/cm2以下である。
【0017】
一実施の形態における半導体装置の製造方法は、電界効果トランジスタを含む半導体装置の製造方法であって、(a)水素終端領域を含むダイヤモンド層を形成する工程、(b)前記水素終端領域の正孔濃度を低減する工程、を備える。
【発明の効果】
【0018】
一実施の形態によれば、水素終端領域を含むダイヤモンド層を有するFETにおいて、ノーマリオフ動作を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】具現化態様における表面伝導型FETを説明する図である。
【
図2】具現化態様における半導体装置の製造工程を示す図である。
【
図3】
図2に続く半導体装置の製造工程を示す図である。
【
図4】
図3に続く半導体装置の製造工程を示す図である。
【
図5】
図4に続く半導体装置の製造工程を示す図である。
【
図6】
図5に続く半導体装置の製造工程を示す図である。
【
図7】
図6に続く半導体装置の製造工程を示す図である。
【
図8】
図7に続く半導体装置の製造工程を示す図である。
【
図9】正孔濃度調整工程を実施しないで製造された表面伝導型FETのドレイン電流-ゲート電圧特性を示すグラフである。
【
図10】正孔濃度調整工程を実施することにより製造された表面伝導型FETのドレイン電流-ゲート電圧特性を示すグラフである。
【
図11】変形例1における「オーバラップ構造」を有する表面伝導型FETを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0021】
<半導体材料としてのダイヤモンドの有用性>
例えば、将来の移動体通信、衛星通信または超小型レーダなどの分野では、高出力で高周波送信可能なFETが必要とされる。この点に関し、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)に代表される半導体材料は、数GHz以上の周波数において、出力密度に限界を迎える。このため、炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)およびダイヤモンドに代表されるワイドバンドギャップ半導体材料をFETに使用することが検討されている。特に、ダイヤモンドは、物質中最高の熱伝導率(SiCの4倍、GaNの16倍)および半導体材料中最高の絶縁破壊電界強度(SiCの3倍、GaNの10倍)を有している。さらに、ダイヤモンドにおける正孔移動度および正孔飽和速度は、シリコンにおける電子移動度および電子飽和速度と同等である。
【0022】
このことから、ダイヤモンドの高い熱伝導率によって放熱特性が優れているので、半導体装置の発熱を抑制することができるとともに半導体装置の高温動作も期待できる。また、ダイヤモンドの高い絶縁破壊電界強度によって高電圧を印加しても半導体装置が破壊されにくいことから、大電力用途の半導体装置に適している。さらには、ダイヤモンドが有する高いキャリア移動度は、ダイヤモンドが高周波用半導体装置としての高いポテンシャルを有していることを示唆している。
【0023】
以上のことから、半導体材料としてのダイヤモンドは、高出力で高周波動作可能なFETを含む次世代の半導体装置を実現するにあたって有望視されていることがわかる。
【0024】
<n型ダイヤモンドの作製困難性>
上述したように、ダイヤモンドは、ワイドバンドギャップ半導体材料であり、ダイヤモンドにドナーと呼ばれるn型不純物を導入することにより、n型ダイヤモンドを作製することができると考えられる。具体的には、ドナーのドナー準位からダイヤモンドの伝導帯に電子を供給することにより、n型ダイヤモンドを実現できると考えられる。
【0025】
ここで、ドナーとしては窒素を挙げることができるが、ダイヤモンドにおいては、窒素のドナー準位が伝導帯の近傍に存在せず、伝導帯から離れた「深い準位」に存在している。具体的に、窒素のドナー準位は、ダイヤモンドの伝導帯から1.7eVも低いエネルギー位置に存在する。このことは、ダイヤモンドでは、窒素のドナー準位からダイヤモンドの伝導帯に電子を励起させるための活性化エネルギーが大きくなることを意味する。
【0026】
このことから、ダイヤモンドにドナーである窒素を導入しても、伝導帯に供給される電子を増加させることが困難である結果、窒素を導入したダイヤモンドをn型ダイヤモンドとして機能させることは難しい。
【0027】
一方、ダイヤモンドにアクセプタと呼ばれるp型不純物を導入することにより、p型ダイヤモンドを作製することができると考えられる。具体的には、ダイヤモンドの価電子帯からアクセプタのアクセプタ準位に電子を励起させることにより、ダイヤモンドの価電子帯に正孔を生じさせてp型ダイヤモンドを実現できると考えられる。
【0028】
ここで、アクセプタとしては硼素を挙げることができ、この硼素のアクセプタ準位は、ダイヤモンドの価電子帯の近傍に存在している。具体的に、アクセプタである硼素は、ダイヤモンドの価電子帯から0.37eV高いエネルギー位置にアクセプタ準位を形成する。つまり、ダイヤモンドにおいて、硼素のアクセプタ準位は、窒素のドナー準位のような「深い準位」を構成していない。このことから、ダイヤモンドの価電子帯から硼素のアクセプタ準位に電子を励起させるための活性化エネルギーはそれほど大きくはならない。この結果、ダイヤモンドにおいてp型ダイヤモンドを作製することは、n型ダイヤモンドを作製するよりも実現しやすい。
【0029】
したがって、ダイヤモンドを使用して製造されるFETとしては、一般的にn型ダイヤモンドが必要となるnチャネル型FETではなく、n型ダイヤモンドよりも作製しやすいp型ダイヤモンドを使用するpチャネル型FETが採用されている。つまり、ダイヤモンドを使用して製造されるFETは、電子をキャリアとするFETではなく、正孔をキャリアとするFETとして実現されている。特に、ダイヤモンドを使用して製造されるFETとしては、「表面伝導型FET」と呼ばれるpチャネル型FETが存在する。以下では、この「表面伝導型FET」について説明する。
【0030】
<表面伝導型FET>
ダイヤモンドを水素終端すると、水素終端したダイヤモンドの表面に正孔(2次元正孔ガス)が誘起される現象がある。この現象を利用したFETが「表面伝導型FET」である。すなわち、「表面伝導型FET」とは、水素終端されたダイヤモンドの表面に誘起された2次元正孔ガスをFETのチャネルに利用し、ゲート電極に印加するゲート電圧を変化させることによって、チャネルの導通/非導通を制御してスイッチング動作を行うFETである。この「表面伝導型FET」によれば、高耐圧で高温動作が可能となる利点が得られる。なぜなら、ダイヤモンドを水素終端することによって、「C-H」結合が形成されるが、「C-H」結合は、ダイヤモンドの「C-C」結合よりも強固だからである。
【0031】
水素終端したダイヤモンドの表面に正孔が誘起される現象のメカニズムは、完全には解明されていないが、2つの説が有力視されている。
【0032】
まず、1つの説は、「トランスファードーピングモデル」である。この説は、吸着物や表面のpH変化に起因する化学ポテンシャルの差によって、ダイヤモンドの価電子帯に存在する電子が表面の化学ポテンシャルで決定された準位に移動することにより、この電子が抜けた表面近傍に正孔が生じるという説である。
【0033】
一方、もう1つの説は、「負イオンモデル」である。この説は、以下に示す説である。すなわち、ダイヤモンドを水素終端することにより生じた「C-H」結合において、電気陰性度の差によって、水素が正に帯電する一方、炭素が負に帯電する。この結果、大気中の負イオンが正に帯電している水素に吸着し、この吸着した負イオンによって、ダイヤモンドの表面に正孔が引き付けられるという説である。
【0034】
このように、メカニズムは完全には解明されていないが、実際に水素終端したダイヤモンドの表面に正孔が誘起される現象が生じる。そして、この現象を利用して「表面伝導型FET」という高耐圧で高温動作が可能となるという優れたFETが実現されている。
【0035】
ただし、「表面伝導型FET」では、ゲート電極にゲート電圧を印加しなくても、ダイヤモンド層の水素終端領域に2次元正孔ガスが誘起される。このことは、「表面伝導型FET」では、ゲート電極にゲート電圧を印加しない場合であっても、水素終端領域に2次元正孔ガスからなるチャネルが形成されていることを意味する。言い換えれば、「表面伝導型FET」では、ゲート電極に0Vのゲート電圧を印加する場合においても、水素終端領域に2次元正孔ガスからなるチャネルが形成されている。したがって、「表面伝導型FET」は、何らの工夫を施さないと、必然的に、「ノーマリオン型FET」となる傾向がある。すなわち、「表面伝導型FET」の主流は、「ノーマリオン型FET」である。
【0036】
<「ノーマリオフ型FET」の有用性>
この点に関し、「ノーマリオン型FET」と「ノーマリオフ型FET」とを比較すると、安全性や消費電力の観点から、「ノーマリオフ型FET」の方が望ましい。なぜなら、「ノーマリオフ型FET」では、(1)例えば、ゲート電極にゲート電圧が供給されなくなるといったシステム故障時において、通電しないことから、通電によるFETの暴走を抑制することができるからである。つまり、「ノーマリオフ型FET」は、フェイルセーフに優れており安全性が高い利点を有している。また、「ノーマリオフ型FET」では、(2)高温動作時における暗電流の低減およびノイズに起因する誤動作を抑制できる利点も有している。さらには、(3)ゲート電極にゲート電圧が供給されていないとき(すなわち、ゲート電極に0Vが印加されているとき)、通電していないことから、消費電力を低減することができる利点を有している。このように上述した(1)から(3)に示す利点によって、「ノーマリオフ型FET」は、システムの安全性や消費電力を低減する観点から、「ノーマリオン型FET」よりも優れていることがわかる。
【0037】
例えば、「ノーマリオフFET」は、パワーデバイスにおいて最も重要である。具体的に、パワーデバイスは、自動車、鉄道車両あるいは飛行機といった大電力を利用した輸送機器に幅広く使用されている。このため、安全性は最も重視され、壊れたときに出力が「0」となる「ノーマリオフ型FET」は、パワーデバイスにとって最小限必要である。
【0038】
また、待機消費電力を低減する観点からも、オフ状態でリーク電流がほとんど流れない「ノーマリオフ型FET」は有効である。
【0039】
したがって、システムに「表面伝導型FET」を使用するためには、「表面伝導型FET」において、「ノーマリオフ型FET」を実現することが重要となる。すなわち、安全性に優れながら高性能であるシステムを構築するためには、「ノーマリオフ型FET」が必要不可欠であり、「ノーマリオン型FET」が主流の「表面伝導型FET」で「ノーマリオフ型FET」を実現するためには工夫が必要とされる。
【0040】
そこで、本発明者は、以下に示す知見を利用して、「表面伝導型FET」を「ノーマリオフ型FET」とするための工夫を施している。
【0041】
<本発明者が利用した知見>
以下では、本発明者が利用した知見について説明する。
【0042】
例えば、水素終端したダイヤモンド層の表面に一定電圧を印加しながら真空引きをすると電流値が減少する一方、大気雰囲気に曝すとほぼ元の電流値に回復する現象が知られている。これは、真空引きをすると、水素終端したダイヤモンド層に誘起される2次元正孔ガスが消滅する一方、大気雰囲気に曝すと2次元正孔ガスが生成されるということで理解できる。したがって、上述した現象から、水素終端したダイヤモンド層に2次元正孔ガスを誘起するためには、大気中に含まれる分子が必要であることが示唆される。すなわち、ダイヤモンド層を水素終端しただけでは導電性は発現せず、水素終端したダイヤモンド層に負イオンからなる表面吸着物が付着することによって初めて導電性が発現すると考えられる。この知見に基づいて、本発明者は、「表面伝導型FET」を「ノーマリオフ型FET」とするための工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明する。
【0043】
<実施の形態における基本思想>
本実施の形態における基本思想は、上述した知見に基づき、水素終端したダイヤモンド層の表面に付着する表面吸着物の付着量を制御することによって、水素終端したダイヤモンド層の導電性を制御できることを利用して、「表面伝導型FET」を「ノーマリオフ型FET」として実現する思想である。詳細に述べると、基本思想は、水素終端したダイヤモンド層に形成されるチャネル形成領域において、表面吸着物を脱離させることにより、チャネル形成領域の導電性を消滅させる思想である。言い換えれば、基本思想は、水素終端したダイヤモンド層に形成されるチャネル形成領域において、表面吸着物を脱離させることにより、チャネル形成領域の正孔濃度を低減する思想である。
【0044】
この基本思想によれば、ゲート電極にゲート電圧を印加していないオフ状態では、導電性を有しない程度にチャネル形成領域の正孔濃度を低減することができる。一方、ゲート電極に負電位のゲート電圧を印加すると、この負電位に引き付けられるように、ゲート電極の直下領域に位置するチャネル形成領域に2次元正孔ガスが誘起される。この結果、ゲート電極に負電位のゲート電圧を印加したオン状態では、導電性を有する程度にチャネル形成領域の正孔濃度を増加させることができる。このようにして、基本思想によれば、「表面伝導型FET」を「ノーマリオフ型FET」として実現することができる。
【0045】
以下では、上述した基本思想を具現化した具現化態様について説明する。なお、具現化態様は、基本思想を具現化した一例であって、本実施の形態における技術的思想は、以下に示す具現化態様に限定されないことは言うまでもない。
【0046】
<具現化態様>
<<表面伝導型FETの構成>>
図1は、具現化態様における表面伝導型FET100を説明する図である。
【0047】
図1において、表面伝導型FET100は、窒素が導入されたダイヤモンド基板101を有し、このダイヤモンド基板101上にノンドープ層102が設けられている。例えば、ノンドープ層102の上面は、(001)面である。
【0048】
ここでは、窒素が導入されたダイヤモンド基板101を使用しているが、これに限定されず、例えば、ノンドープ層102からなる自立膜上に表面伝導型FET100を製造するように構成されていてもよい。
【0049】
なお、ノンドープ層102は、(001)面に対して<110>方向に数度(例えば、3度)のオフ角を有するように構成されていてもよい。
【0050】
ここで、本明細書でいうノンドープ層102とは、ダイヤモンド層中の窒素不純物濃度がSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry:二次イオン質量分析法)を使用した測定装置の検出下限である1016/cm3未満であるダイヤモンド層をいう。
【0051】
そして、このノンドープ層102の表面には、水素終端領域103と酸素終端領域104が形成されている。この結果、ノンドープ層102の水素終端領域103には、2次元正孔ガスを有するチャネル形成領域105が形成されている。
【0052】
ここで、
図1に示すように、チャネル形成領域105は、ゲート電極111と重なる第1領域P1と、ゲート電極111と重ならない第2領域P2とを有している。さらに言えば、チャネル形成領域105は、平面視においてゲート電極111と重なる第1領域P1と、平面視においてゲート電極111と重ならない第2領域P2とを含む。つまり、第1領域P1は、ゲート電極111の直下に位置する領域であり、第2領域P2は、第1領域P1を挟むように配置された領域である。
【0053】
このとき、表面伝導型FET100のゲート電極に0Vのゲート電圧が印加されている状態において、第1領域P1の正孔濃度は、第2領域P2の正孔濃度よりも小さい。具体的に、表面伝導型FET100のゲート電極に0Vのゲート電圧が印加されている状態において、第1領域P1の正孔濃度は、1012/cm2以下であり、望ましくは、1011/cm2以下である。一方、第2領域P2の正孔濃度は、1013/cm2程度以上である。
【0054】
次に、ノンドープ層102上には、互いに離間するコンタクト層106とコンタクト層107が設けられている。これらのコンタクト層106およびコンタクト層107のそれぞれは、例えば、p型不純物(アクセプタ)である硼素が高濃度に導入されたp+型ダイヤモンド層から構成されている。具体的に、コンタクト層106およびコンタクト層107のそれぞれには、ノンドープ層102とオーミック接触するように高濃度の硼素が導入されている。具体的に、硼素の濃度は、例えば、5×1019/cm3以上で、1×1022/cm3以下程度である。また、コンタクト層106およびコンタクト層107のそれぞれの厚さは、例えば、20nm以上300nm以下程度である。
【0055】
なお、コンタクト層106およびコンタクト層107は、必ずしも設ける必要はなく、例えば、水素終端したノンドープ層102上に直接金電極などからなるソース電極やドレイン電極を形成してオーミック接触を取るように構成してもよい。
【0056】
そして、コンタクト層106上には、ソース電極108が設けられている。一方、コンタクト層107上には、ドレイン電極109が設けられている。続いて、コンタクト層106とコンタクト層107の間のノンドープ層102上には、絶縁膜110が設けられており、この絶縁膜110上にゲート電極111が設けられている。
【0057】
図1に示すように、絶縁膜110は、ゲート電極111と重なる第1絶縁領域R1と、ゲート電極111と重ならない第2領域R2とを有している。さらに言えば、絶縁膜110は、平面視においてゲート電極111と重なる第1絶縁領域R1と、平面視においてゲート電極111と重ならない第2絶縁領域R2とを含む。つまり、第1絶縁領域R1は、ゲート電極111と接する領域であり、第2絶縁領域R2は、ゲート電極111と接しない領域である。このとき、絶縁膜110は、負帯電しており、第2絶縁領域R2の負帯電量は、第1絶縁領域R1の負帯電量よりも大きい。
【0058】
ここで、ソース電極108、ドレイン電極109およびゲート電極111のそれぞれの電極材料は、例えば、金(Au)、ルテニウム(Ru)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、クロム(Cr)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、プラチナ(Pt)またはこれらの組み合わせ(Ti/Mo/Auなど)から構成されている。また、ソース電極108、ドレイン電極109およびゲート電極111のそれぞれの厚さは、例えば、10nm以上500nm以下程度である。
【0059】
一方、絶縁膜110は、例えば、酸化アルミニウム膜(Al2O3)、酸化シリコン膜(SiO2)、フッ化カルシウム膜(CaF2)、酸化ハフニウム膜(HfO2)、窒化アルミニウム膜(AlN)、窒化ホウ素膜(BN)、窒化シリコン膜(Si3N4)、酸窒化シリコン膜(SiON)、酸化タンタル膜(Ta2O5)、酸化チタン膜(TiO2)、酸化タングステン膜(WO3)、フッ化ランタン膜(LaF3)、あるいは、フッ化マグネシウム膜(MgF2)のいずれかを含むように構成されている。また、ゲート絶縁膜110の膜厚は、例えば、5nm以上1000nm以下程度である。なお、微細な表面伝導型FET100を製造する場合、ゲート絶縁膜110の膜厚は、100nm以下の膜厚にすることが望ましい。
【0060】
このように構成されている表面伝導型FET100は、「ノーマリオフ型FET」であり、例えば、
図1に示すように、ゲート電極111は、コンタクト層106と非重複であり、また、ゲート電極111は、コンタクト層107とも非重複である。さらに言えば、平面視において、ゲート電極111は、コンタクト層106と非重複であり、平面視において、ゲート電極111は、コンタクト層107とも非重複である。
【0061】
以上のようにして、表面伝導型FET100が構成されている。
【0062】
<<表面伝導型FETの動作>>
続いて、表面伝導型FET100の動作について説明する。
【0063】
表面伝導型FET100は、pチャネル型FETであり、ノンドープ層102の表面近傍に2次元正孔ガスを有するチャネル形成領域105が形成されている。このチャネル形成領域105は、ゲート電極111の直下に位置する第1領域P1と、ゲート電極111の両端部の外側に位置する第2領域P2を有している。
【0064】
ここで、具現化態様における表面伝導型FETでは、第1領域P1の正孔濃度は、第2領域P2の正孔濃度よりも低い。例えば、ゲート電極111に0Vを印加した状態で、第1領域P1の正孔濃度は、10
12/cm
2以下である一方、第2領域P2の正孔濃度は、10
13/cm
2以上である。なぜなら、
図1に示すように、絶縁膜110の第2絶縁領域R2の負帯電量は、絶縁膜110の第1絶縁領域R1の負帯電量よりも大きく、これによって、第2絶縁領域R2と接する第2領域P2の方が第1絶縁領域R1と接する第1領域P2よりも正孔が引き付けられるからである。
【0065】
この結果、ゲート電極111に0Vを印加した状態では、第2領域P2は導電性を有する一方、第1領域P1は導電性を有さない。言い換えれば、第2領域P2には、2次元正孔ガスによるチャネルが形成される一方、第1領域P1には、導電性を有するのに充分なチャネルが形成されない。つまり、第1領域P1および第2領域P2を含むチャネル形成領域105の全体にわたってチャネルが形成されない。
【0066】
このため、ゲート電極111に0Vを印加した状態において、表面伝導型FET100は、オフする。すなわち、ゲート電極111に0Vを印加した状態においては、ソース電極108とドレイン電極109との間に電位差を与えたとしても、チャネル形成領域105の第1領域P1にチャネルが形成されないことから、ソース電極108とドレイン電極109との間に正孔電流は流れない。したがって、具現化態様における表面伝導型FET100は、「ノーマリオフ型FET」である。
【0067】
これに対し、ゲート電極111にしきい値電圧以上の負電位を印加すると、負電位のゲート電極111に正孔が引き付けられる結果、ゲート電極111の直下に位置する第1領域P1の正孔濃度が増加する。この結果、第2領域P2だけでなく、第1領域P1においても2次元電子ガスによるチャネルが形成される。すなわち、第1領域P1および第2領域P2を含むチャネル形成領域105の全体にわたってチャネルが形成される。
【0068】
この結果、ゲート電極111にしきい値電圧以上の電位を印加した状態で、例えば、ソース電極108に正電位を印加する一方、ドレイン電極109に基準電位である0Vを印加する。これにより、ソース電極108→コンタクト層106→チャネル形成領域105の第2領域P2→チャネル形成領域105の第1領域P1→チャネル形成領域105の第2領域P2→コンタクト層107→ドレイン電極109の経路で正孔電流が流れる。
【0069】
以上のようにして、ゲート電極111に印加するゲート電圧を制御することにより、表面伝導型FET100のスイッチング動作(ON/OFF動作)を実現できる。
【0070】
特に、具現化態様では、表面伝導型FET100を「ノーマリオフ型FET」として動作させることができる。
【0071】
<<表面伝導型FETの製造方法>>
次に、表面伝導型FETを含む半導体装置の製造方法を説明する。
【0072】
まず、
図2に示すように、例えば、窒素を含有するダイヤモンド基板101上にノンドープ層102を形成する。ノンドープ層102は、ダイヤモンド層であり、例えば、MPCVD法を使用することにより形成することができる。成膜条件としては、CH
4/H
2=0.5%で、不純物の添加をしない条件を挙げることができる。また、ノンドープ層102の厚さは、例えば、数μm程度である。
【0073】
ここで、ノンドープ層の上面が(001)面となるようにCVD法で層を成長させることが望ましい。なぜなら、平坦性を向上する観点などから、高品質な膜をCVD法で成長させるためには、(001)面が優れており、結果的に高性能な表面伝導型FETを含む半導体装置を製造しやすい利点が得られるからである。さらに、CVD法によって高品質な膜を形成する観点から、数度のオフ角を付けることが望ましい。具体的に、具現化態様では、(001)面に対して<110>方向に3度のオフ角を付けている。
【0074】
オフ角を付けることにより、ステップの数を増加させることができる。この結果、表面を流動する成長種は、ステップの端部にたどり着きやすくなり、ステップフロー成長が促進されて、異常成長の発生を抑制することができる。
【0075】
続いて、
図3に示すように、ノンドープ層102上にコンタクト層106およびコンタクト層107を選択成長させる。コンタクト層106およびコンタクト層107のそれぞれは、p
+型ダイヤモンド層から構成される。コンタクト層106およびコンタクト層107は、例えば、HFCVD法を使用することにより形成することができる。このとき、p型不純物として、硼素が導入される。硼素の不純物濃度は、例えば、10
21/cm
3程度である。コンタクト層106およびコンタクト層107のそれぞれの厚さは、例えば、0.2μm程度である。なお、この工程で水素終端領域103Aが形成される。また、別途CVD装置で発生させた水素プラズマなどにより水素終端処理を行ってもよい。
【0076】
次に、
図4に示すように、フォトリソグラフィ技術および水素プラズマ処理を使用することにより、選択的に水素終端領域103(導電領域)を形成し、フォトリソグラフィ技術および酸素プラズマ処理を使用することにより、選択的に酸素終端領域104(絶縁領域)を形成する。なお、
図3に示す工程において、水素終端領域103Aが形成されている場合は、
図4に示す水素終端領域103を形成する工程を省略してもよい。
【0077】
その後、ダイヤモンド基板101を大気中に曝すと、水素終端領域103に負イオンからなる表面吸着物120が吸着する。この結果、
図4に示すように、チャネル形成領域105の全体にわたって2次元正孔ガスを構成する正孔が誘起される。
【0078】
そして、
図5に示すように、水素終端領域103に誘起された正孔(2次元正孔ガス)の正孔濃度を低減する工程を実施する。具体的に、この工程は、水素終端領域103に付着した表面吸着物を脱離する工程によって実施される。なぜなら、水素終端領域103に表面吸着物が吸着すると正孔が誘起されることから、表面吸着物を脱離させることにより、水素終端領域103の正孔濃度を低減することができると考えられるからである。特に、水素終端領域103であるチャネル形成領域において、正孔濃度が低減される。
【0079】
水素終端領域103に付着した表面吸着物を脱離する工程は、例えば、真空中における水素プラズマ処理を実施することで実現することができる。これにより、チャネル形成領域の導電性がなくなる。なお、水素プラズマ処理の条件としては、50mTorr(1Torr=1.33×102Pa)、ICP:500W、バイアス:50W、時間:10minの条件を一例として挙げることができる。ただし、デバイス構造や使用する装置によって条件は大きく変わる可能性があるため、測定環境ごとに条件出しが必要である。
【0080】
なお、表面吸着物の脱離するために施される真空中における水素プラズマ処理は、水素終端領域103だけでなく、酸素終端領域104にも実施される。この点に関し、上述した真空中における水素プラズマ処理を酸素終端領域104に施しても、酸素終端領域104の絶縁特性は劣化しないことは確認済である(酸素終端領域104が保たれている)。すなわち、真空中における水素プラズマ処理では、酸素終端領域104の絶縁特性を劣化させるという副作用を充分に低減しながら、水素終端領域103に付着した表面吸着物を脱離することができることが確認されている。
【0081】
続いて、
図6に示すように、水素終端領域103および酸素終端領域104を覆うように絶縁膜110を形成する。絶縁膜110は、例えば、酸化アルミニウム膜から構成され、成膜温度1が300℃程度のALD法を使用することにより形成できる。
【0082】
その後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を使用することにより、絶縁膜110をパターニングする。絶縁膜110のパターニングは、絶縁膜110に開口部を形成し、この開口部から露出する水素終端領域103を除去して、コンタクト層106およびコンタクト層107のそれぞれの上面の一部を露出するように行われる。
【0083】
次に、
図7に示すように、パターニングした絶縁膜110上に金属膜を形成する。金属膜は、例えば、ルテニウム膜から形成され、スパッタリング法を使用することにより形成することができる。このとき、金属膜の膜厚は、例えば、100nm程度である。
【0084】
そして、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を使用することにより、金属膜をパターニングする。これにより、金属膜からなるソース電極108、ドレイン電極109およびゲート電極111を形成することができる。
【0085】
続いて、
図8に示すように、ゲート電極111から露出する絶縁膜110の領域(第2絶縁領域R2)に負帯電処理を施す。具体的には、絶縁膜110に対して酸素プラズマ処理を実施する。ここで、投入電力や処理時間は、使用する装置や、どの程度の帯電処理を実施するかによって調整することができる。
【0086】
このような酸素プラズマ処理によって、絶縁膜110を構成する酸化アルミニウム膜中に過剰の酸素が供給されたり、膜質が変化したりする結果、酸素プラズマに曝された絶縁膜110の第2絶縁領域R2は負に帯電する。一方、ゲート電極110と重なる絶縁膜110の第1絶縁領域R1は酸素プラズマに曝されないため、帯電しない。この結果、第2絶縁領域R2の負帯電量は、第1絶縁領域R1の負帯電量よりも大きくなる。
【0087】
したがって、
図8に示すように、チャネル形成領域105のうち、平面視においてゲート電極111と重ならない第2領域P2は、負帯電量の大きな第2絶縁領域R2と接しているため、この負帯電量に正孔が引き付けられる結果、正孔濃度が大きくなる。これに対し、チャネル形成領域105のうち、平面視においてゲート電極111と重なる第1領域P1は、負帯電量がほとんどない第1絶縁領域R1と接しているため、小さな正孔濃度が維持される。このようにして、チャネル形成領域105は、電界効果トランジスタのオフ状態において、正孔濃度が小さい第1領域P1と、正孔濃度が大きい第2領域P2から構成されることになる。以上の結果、具現化態様における半導体装置を製造できる。
【0088】
具現化態様によれば、(1)表面吸着物を脱離する工程(真空中における水素プラズマ処理)と、(2)負帯電処理を施す工程(酸素プラズマ処理)を追加するだけで、表面伝導型FETを「ノーマリオフ型FET」とすることができる。すなわち、具現化態様における半導体装置の製造方法は、簡易な製造プロセスで表面伝導型FETを「ノーマリオフ型FET」とすることができる。そして、簡易な製造プロセスで製造できるということは、製造歩留まりの向上にも繋がるため、具現化態様における半導体装置の製造方法は、量産を視野に入れた実用化の観点から非常に有用である。
【0089】
<<具現化態様における特徴>>
例えば、
図1に示すように、具現化態様における表面伝導型FET100は、「ノンオーバラップ構造」をしている。「ノンオーバラップ構造」とは、
図1に示すように、チャネル形成領域105全体がゲート電極111と重なっているのではなく、チャネル形成領域105にゲート電極111と平面的に重ならない領域が存在するFET構造である。すなわち、「ノンオーバラップ構造」では、チャネル形成領域105が、ゲート電極111と重なる第1領域P1と、ゲート電極111と重ならない第2領域P2とを有している。このように構成されている「ノンオーバラップ構造」は、以下に示す利点を有している。
【0090】
図1に示すように、「ノンオーバラップ構造」では、ゲート電極111とソース電極108との間の距離が大きくなる。このことは、ゲート電極111とソース電極108との間の寄生容量であるゲート-ソース間容量を低減できることを意味する。
【0091】
同様に、「ノンオーバラップ構造」では、ゲート電極111とドレイン電極109との間の距離が大きくなる。このことは、ゲート電極111とドレイン電極109との間の寄生容量であるゲート-ドレイン間容量を低減できることを意味する。
【0092】
したがって、「ノンオーバラップ構造」によれば、ゲート-ソース間容量およびゲート-ドレイン間容量を低減できることから、寄生容量に起因する信号遅延およびスイッチング速度の低下を抑制することができる。言い換えれば、「ノンオーバラップ構造」によれば、表面伝導型FET100の周波数特性を改善することができる。これにより、例えば、増幅回路における増幅率の向上を図ることができる。このように、「ノンオーバラップ構造」を有する表面伝導型FET100によれば、性能を向上できる利点が得られる。
【0093】
さらに、ゲート電極111とソース電極108との間の距離が大きくなるということは、ゲート-ソース間耐圧を向上できることを意味する。同様に、ゲート電極111とドレイン電極109との間の距離が大きくなるということは、ゲート-ドレイン間耐圧を向上できることを意味する。これにより、「ノンオーバラップ構造」を有する表面伝導型FET100は、高い絶縁耐圧を有している結果、高電圧で駆動できる利点を有している。このため、「ノンオーバラップ構造」を有する表面伝導型FET100は、高電圧駆動が要求されるパワーエレクトロニクス用トランジスタに適用して非常に有用である。
【0094】
以上のことから、「ノンオーバラップ構造」を有する表面伝導型FET100は、優れた性能を有しており、さらに、この表面伝導型FET100が「ノーマリオフ型FET」であれば、さらなる性能の向上を図ることができるため望ましい。
【0095】
そこで、具現化態様では、「ノンオーバラップ構造」を有する表面伝導型FET100に対し、基本思想を具現化する工夫を施して、「ノーマリオフ型FET」を実現している。
【0096】
以下では、具現化態様で採用している特徴点について説明する。
【0097】
具現化態様における特徴点は、例えば、
図1に示すように、チャネル形成領域105が第1領域P1と第2領域P2から構成されていることを前提として、ゲート電極111に「0V」のゲート電圧を印加している状態において、第1領域P1の正孔濃度が第2領域P2の正孔濃度よりも小さい点にある(表現A)。詳細には、ゲート電極111に「0V」のゲート電圧を印加している状態において、第1領域P1の正孔濃度は導電性を有しない程度の低濃度となっている一方、第2領域P2の正孔濃度は導電性を有する程度の高濃度となっている。例えば、ゲート電極111に「0V」のゲート電圧を印加している状態で、第1領域P1の正孔濃度は10
12/cm
2以下(望ましくは、10
11/cm
2以下)の濃度となっている一方、第2領域P2の正孔濃度は10
13/cm
2以上の濃度となっている。
【0098】
これにより、特徴点によれば、ゲート電極111に「0V」のゲート電圧を印加している状態では、ゲート電極111の直下に位置する第1領域P1にチャネルが形成されない。このため、表面伝導型FET100は、ゲート電極111に「0V」のゲート電圧を印加している状態ではオフ状態となる。すなわち、ゲート電極111に「0V」のゲート電圧を印加している状態において、第2領域P2の正孔濃度は導電性を有する程度に高濃度となっているため、第2領域P2にはチャネルが形成されるが、上述したように第1領域P1にはチャネルが形成されない。このため、ゲート電極111に「0V」のゲート電圧を印加している状態では、チャネル形成領域105全体にわたってチャネルが形成されていないことから、オフ状態となる。
【0099】
これに対し、ゲート電極111にしきい値電圧以上のゲート電圧(負電位)を印加すると、この負電位に正孔が引き付けられる。これにより、ゲート電極111の直下領域に位置する第1領域P1の正孔濃度が増加する。言い換えれば、第1領域P1に2次元正孔ガスが誘起される。この結果、ゲート電極111にしきい値電圧以上のゲート電圧(負電位)を印加した状態では、第1領域P1にチャネルが形成される。
【0100】
そして、ゲート電極111にしきい値電圧以上のゲート電圧を印加している状態においても、第2領域P2の正孔濃度は導電性を有する程度に高濃度となっているため、第2領域P2にはチャネルが形成されている。したがって、ゲート電極111にしきい値電圧以上のゲート電圧(負電位)を印加している状態では、チャネル形成領域105全体にわたってチャネルが形成されていることから、オン状態となる。
【0101】
このようにして、具現化態様における特徴点によれば、「ノンオーバラップ構造」を有する表面伝導型FET100を「ノーマリオフ型FET」とすることができる。このことから、特徴点によれば、表面伝導型FET100の性能を向上することができる。
【0102】
上述した具現化態様における特徴点は、例えば、(1)表面吸着物を脱離する工程(真空中における水素プラズマ処理)と、(2)絶縁膜110に負帯電処理を施す工程(酸素プラズマ処理)とを含む半導体装置の製造方法で実現されている。
【0103】
このことから、上述した具現化態様における特徴点は、以下に示す表現に言い換えることができる。すなわち、例えば、
図1に示すように、具現化態様における特徴点は、絶縁膜110が、ゲート電極111と重なる第1絶縁領域R1と、ゲート電極111と重ならない第2絶縁領域R2と、を含むことを前提として、第2絶縁領域R2の負帯電量は、第1絶縁領域R1の負帯電量よりも大きい点にある(表現B)。
【0104】
このように表現できるのは、第1領域P1が第1絶縁領域R1の直下に配置されている一方、第2領域P2が第2絶縁領域R2の直下に配置されているためである。つまり、第1絶縁領域R1よりも負帯電量の大きな第2絶縁領域R2の下方に位置する第2領域P2では、負電荷に引き付けられる正孔が増加する。このため、第2領域P2の正孔濃度は第1領域P1の正孔濃度よりも増加する結果、表現Bの構成を採用すると、必然的に表現Aの構成が実現されるからである。このように、具現化態様における特徴点は、表現Aまたは表現Bとして表すことができる。
【0105】
なお、具現化態様では、水素終端領域103に付着している表面吸着物を脱離している。このことから、チャネルにおける正孔(キャリア)の移動度を向上することができる。なぜなら、チャネル形成領域105の上面に付着している表面吸着物が除去されているため、表面吸着物に起因する正孔(キャリア)のクーロン散乱が減少するからである。この結果、具現化態様によれば、正孔の移動度向上による周波数特性の改善を図ることができる。
【0106】
<<効果の検証>>
次に、具現化態様によれば、表面伝導型FETを「ノーマリオフ型FET」として実現できることの検証結果について説明する。
【0107】
具現化態様では、例えば、(1)表面吸着物を脱離する工程(真空中における水素プラズマ処理)と、(2)絶縁膜110に負帯電処理を施す工程(酸素プラズマ処理)とを含む半導体装置の製造方法で表面伝導型FETを製造している。
【0108】
ここで、(1)工程および(2)工程を合わせて、正孔濃度調整工程と呼ぶ。
【0109】
まず、正孔濃度調整工程を実施しないで製造された表面伝導型FETのドレイン電流-ゲート電圧特性について説明する。
図9は、正孔濃度調整工程を実施しないで製造された表面伝導型FETのドレイン電流-ゲート電圧特性を示すグラフである。
【0110】
図9において、横軸はゲート電圧(V)を示している一方、縦軸はドレイン電流(A)を示している。
図9に示すように、ゲート電圧が「0V」のとき、ドレイン電流がオフレベルよりも7桁も大きな電流値のドレイン電流が流れていることがわかる。このことは、正孔濃度調整工程を実施しないで製造された表面伝導型FETが「ノーマリオン型FET」として製造されることを示している。
【0111】
続いて、正孔濃度調整工程を実施することにより製造された表面伝導型FETのドレイン電流-ゲート電圧特性について説明する。
図10は、正孔濃度調整工程を実施することにより製造された表面伝導型FETのドレイン電流-ゲート電圧特性を示すグラフである。
図10において、横軸はゲート電圧(V)を示している一方、縦軸はドレイン電流(A)を示している。
図10に示すように、ゲート電圧が「0V」のとき、ドレイン電流が測定下限値よりも小さい電流値となっていることがわかる。このことは、正孔濃度調整工程を実施することにより製造された表面伝導型FETが「ノーマリオフ型FET」として製造されることを示している。特に、
図10に示す結果は、複数の表面伝導型FETで確認されており、具現化態様における正孔濃度調整工程を実施することにより、再現性よく「ノーマリオフ型FET」が実現されている。
【0112】
さらに、ホール効果測定やドレイン電流-ゲート電圧特性から、ゲート電圧が「0V」のときのゲート電極直下の正孔濃度を測定したところ、再現性よく正孔濃度が1011/cm2以下であることを実験的に確認した。また、オン/オフ比(オン電流とオフ電流の比)は、多少劣化するが、ゲート電圧が「0V」のときのゲート電極直下の正孔濃度が1012/cm2以下である表面伝導型FETにおいても、実用的に「ノーマリオフ型FET」として利用できる可能性があることを確認した。
【0113】
以上のことから、具現化態様によれば、表面伝導型FETを「ノーマリオフ型FET」として製造することができるとともに利用可能となることが裏付けられている。
【0114】
<変形例1>
具現化態様では、「ノンオーバラップ構造」を有する表面伝導型FETに基本思想を適用して「ノーマリオフ型FET」を実現する例について説明した。この点に関し、本変形例1では、「オーバラップ構造」を有する表面伝導型FETに基本思想を適用して「ノーマリオフ型FET」を実現する例について説明する。すなわち、基本思想は、「ノンオーバラップ構造」を有する表面伝導型FETだけでなく、「オーバラップ構造」を有する表面伝導型FETにも幅広く適用することができる。
【0115】
図11は、本変形例1における「オーバラップ構造」を有する表面伝導型FET200を模式的に示す断面図である。
図11において、「オーバラップ構造」とは、平面視においてチャネル形成領域105全体がゲート電極111と重なっているFET構造である。
【0116】
このような「オーバラップ構造」を有する表面伝導型FET200では、ゲート電極111に「0V」のゲート電圧を印加している状態において、チャネル形成領域105の正孔濃度は、導電性を有さない程度の低濃度となっている。具体的に、チャネル形成領域105の正孔濃度は、1012/cm2以下、望ましくは、1011/cm2以下の濃度となっている。これにより、ゲート電極111に「0V」のゲート電圧を印加している状態では、チャネル形成領域105にチャネルが形成されない。このため、「オーバラップ構造」を有する表面伝導型FET200は、オフ状態となる。
【0117】
一方、ゲート電極111にしきい値電圧以上のゲート電圧(負電位)を印加すると、この負電位に正孔が引き付けられる。これにより、ゲート電極111と平面的に重なるチャネル形成領域105全体にわたって正孔濃度が導電性を有する程度の濃度に増加する。言い換えれば、チャネル形成領域105全体にわたって2次元正孔ガスが誘起される。この結果、ゲート電極111にしきい値電圧以上のゲート電圧(負電位)を印加した状態では、チャネル形成領域105全体にわたってチャネルが形成される。
【0118】
したがって、ゲート電極111にしきい値電圧以上のゲート電圧(負電位)を印加している状態では、チャネル形成領域105全体にわたってチャネルが形成されていることから、「オーバラップ構造」を有する表面伝導型FET200は、オン状態となる。
【0119】
このようにして、本変形例1によれば、「オーバラップ構造」を有する表面伝導型FET200を「ノーマリオフ型FET」として動作させることができる。
【0120】
ここで、本変形例1における「オーバラップ構造」を有する表面伝導型FET200は、表面吸着物を脱離する工程(真空中における水素プラズマ処理)を追加するだけで製造することができる。すなわち、本変形例1における「オーバラップ構造」を有する表面伝導型FET200は、絶縁膜110に負帯電処理を施す工程(酸素プラズマ処理)は必要とされない。なぜなら、「オーバラップ構造」を有する表面伝導型FET200では、チャネル形成領域105全体がゲート電極111と重なっていることから、オン状態とするとき、ゲート電極111からのチャネル変調効果をチャネル形成領域105全体にわたって効かせることができるからである。つまり、本変形例1における「オーバラップ構造」を有する表面伝導型FET200では、具現化態様における「ノンオーバラップ構造」を有する表面伝導型FET100のように、チャネル変調効果の効かない第2領域P2(ゲート電極111と平面的に重ならない領域)が存在しないから、この第2領域P2の正孔濃度について導電性を有する程度に高濃度とする必要がないからである。
【0121】
このことから、本変形例1によれば、具現化態様よりもさらに簡易な製造プロセスによって、表面伝導型FET200を「ノーマリオフ型FET」とすることができる。
【0122】
<変形例2>
<<基本思想の拡張>>
基本思想は、水素終端したダイヤモンド層に形成されるチャネル形成領域において、表面吸着物を脱離させることにより、チャネル形成領域の正孔濃度について導電性を有しない程度の濃度に低減する思想である。この点に関し、上述した基本思想は、表面吸着物を脱離させるという手段に限定されることなく、何らかの手段によって、チャネル形成領域の正孔濃度について導電性を有しない程度の濃度に低減する思想に拡張できる。
【0123】
以下では、拡張された基本思想を具現化する例について説明する。具体的に、本変形例2では、チャネル形成領域の正孔濃度について導電性を有しない程度の濃度に低減するための手段として、表面吸着物を脱離させるという手段とは異なる手段を採用する。
【0124】
本変形例2では、水素終端領域に付着した表面吸着物を脱離することはしない。このことから、本変形例2における表面伝導型FETでは、チャネル形成領域における正孔濃度は、導電性を有する程度の高濃度となる。つまり、ゲート電極に「0V」のゲート電圧を印加している状態において、チャネル形成領域にチャネルが形成される。したがって、この場合、「ノーマリオン型FET」となるため、何らかの手段によって、チャネル形成領域の正孔濃度について導電性を有しない程度の濃度に低減する必要がある。
【0125】
この点に関し、「ノンオーバラップ構造」に着目すると、本変形例2では、例えば、
図1において、チャネル形成領域105の第1領域P1上に位置する絶縁膜110の第1絶縁領域R1を正帯電させる。これにより、第1領域P1に誘起されている正孔には、正帯電している第1絶縁領域R1から斥力が加わる。この結果、斥力によって第1領域P1から正孔が遠ざけられるため、第1領域P1の正孔濃度が導電性を有しない程度の濃度に低減する。すなわち、本変形例2では、チャネル形成領域105の正孔濃度について導電性を有しない程度の濃度に低減するための手段として、表面吸着物を脱離する手段に代えて、絶縁膜110の第1絶縁領域R1を正帯電させるという手段を採用している。
【0126】
これにより、本変形例2によれば、ゲート電極111に「0V」のゲート電圧を印加している状態において、チャネル形成領域105の正孔濃度が導電性を有しない程度の濃度に低減される。言い換えれば、本変形例2によれば、ゲート電極111に「0V」のゲート電圧を印加している状態では、チャネル形成領域105の第1領域P1にチャネルが形成されない。この結果、本変形例2によれば、表面伝導型FET100を「ノーマリオフ型FET」とすることができる。なお、絶縁膜110の第2絶縁領域R2は正帯電していないため、チャネル形成領域105の第2領域P2においては、斥力が働かない。このことから、第2領域P2では、導電性を有する程度の正孔濃度が維持される。
【0127】
このように、本変形例2では、何らかの手段によって、チャネル形成領域105の正孔濃度について導電性を有しない程度の濃度に低減するという拡張された基本思想は、絶縁膜110の第1絶縁領域R1を正帯電させるという手段によって具現化される。
【0128】
この結果、本変形例2においても、例えば、
図1に示すように、チャネル形成領域105が第1領域P1と第2領域P2から構成されていることを前提として、ゲート電極111に「0V」のゲート電圧を印加している状態において、第1領域P1の正孔濃度が第2領域P2の正孔濃度よりも小さくなる(表現A)。詳細には、ゲート電極111に「0V」のゲート電圧を印加している状態において、第1領域P1の正孔濃度は導電性を有しない程度の低濃度となっている一方、第2領域P2の正孔濃度は導電性を有する程度の高濃度となっている。例えば、ゲート電極111に「0V」のゲート電圧を印加している状態で、第1領域P1の正孔濃度は10
12/cm
2以下(望ましくは、10
11/cm
2以下)の濃度となる一方、第2領域P2の正孔濃度は10
13/cm
2以上の濃度となる。
【0129】
上述した本変形例2における構成は、絶縁膜110の第1絶縁領域R1を正帯電させる工程を含む半導体装置の製造方法で実現することができる。
【0130】
このことから、上述した本変形例2における構成は、以下に示す表現に言い換えることができる。すなわち、例えば、
図1に示すように、本変形例2における構成は、絶縁膜110が、ゲート電極111と重なる第1絶縁領域R1と、ゲート電極111と重ならない第2絶縁領域R2と、を含むことを前提として、第1絶縁領域R1の正帯電量は、第2絶縁領域R2の正帯電量よりも大きいと表現できる(表現C)。
【0131】
このように表現できるのは、第1領域P1が第1絶縁領域R1の直下に配置されている一方、第2領域P2が第2絶縁領域R2の直下に配置されているためである。つまり、第2絶縁領域R2よりも正帯電量の大きな第1絶縁領域R1の下方に位置する第1領域P1では、正電荷からの斥力によって正孔が減少する。このため、第1領域P1の正孔濃度は第2領域P2の正孔濃度よりも減少する結果、表現Cの構成を採用すると、必然的に表現Aの構成が実現されるからである。このように、本変形例2における構成は、表現Aまたは表現Cとして表すことができる。
【0132】
本変形例2における「ノンオーバラップ構造」を有する表面伝導型FET100は、絶縁膜110の第1絶縁領域R1を正帯電させる工程を追加するだけで製造できる。このことから、本変形例2によれば、簡易な製造プロセスによって、「ノンオーバラップ構造」を有する表面伝導型FETを「ノーマリオフ型FET」とすることができる。
【0133】
なお、本変形例2における技術的思想は、「ノンオーバラップ構造」を有する表面伝導型FETだけでなく、「オーバラップ構造」を有する表面伝導型FETにも適用できる。
【0134】
例えば、
図11に示す「オーバラップ構造」を有する表面伝導型FET200において、絶縁膜110を正帯電させることによって、チャネル形成領域105の正孔濃度について導電性を有しない程度の濃度に低減するという拡張された基本思想を具現化できる。
【0135】
<応用例>
次に、本実施の形態における表面伝導型FETの応用例について説明する。
【0136】
本実施の形態における表面伝導型FETは、半導体デバイスとして高いポテンシャルを有し、様々なシステムへの応用が期待される。以下では、本実施の形態における表面伝導型FETを適用可能なシステムの一例について説明する。
【0137】
<<電力変換システムへの応用>>
持続可能な社会の実現における最も重要な課題は、エネルギー資源の枯渇と、二酸化炭素等の温室効果ガスの過量排出である。このため、エネルギー効率に優れ、かつ、二酸化炭素の排出量の少ない電力変換システムが重要となってきている。電力変換システムの多くは、スイッチング素子であるパワーエレクトロニクス用トランジスタと整流素子であるダイオードを並列接続したパワーモジュールで構成されている。
【0138】
例えば、鉄道車両に適用される電力変換システムについて説明する。
【0139】
鉄道車両には、架線からパンタグラフを介して電力が供給される。架線からパンタグラフを介して鉄道車両に供給される高圧交流電圧は、絶縁型の主変圧器によって、例えば、交流電圧に降圧される。この降圧された交流電圧は、コンバータによって直流電圧に順変換される。その後、コンバータによって変換された直流電圧は、キャパシタを介してインバータによって、それぞれ位相が120度ずれた3相交流電圧に変換される。そして、インバータで変換された3相交流電圧は、3相モータに供給される。この結果、3相モータが駆動することにより、車輪を回転させることができ、これによって、鉄道車両を走行させることができる。
【0140】
このように、鉄道車両の電力変換システムには、インバータが含まれている。例えば、インバータは、6個のパワーエレクトロニクス用トランジスタと6個のフリーホイールダイオードとから構成されている。以上のように、パワーエレクトロニクス用トランジスタやフリーホイールダイオードなどのパワーデバイスは、スイッチング機能や整流機能を有する主要な構成部品として使用されている。
【0141】
この点に関し、パワーエレクトロニクス用トランジスタとして、本実施の形態における表面伝導型FETを使用することができる。なぜなら、ダイヤモンドは、シリコンよりもバンドギャップが大きいことに起因して、シリコンよりも絶縁破壊電界強度が高いからである。つまり、ダイヤモンドを使用したパワーエレクトロニクス用トランジスタでは、シリコンよりも絶縁破壊電界強度が高いことから、シリコンを基板材料として使用したパワーエレクトロニクス用トランジスタよりも耐圧を確保しやすい。さらには、ダイヤモンドを使用した表面伝導型FETでは、キャリア密度が大きいことから、オン抵抗の低減を図ることができる。つまり、ダイヤモンドを基板材料として使用した表面伝導型FETでは、トレードオフの関係にある耐圧の確保とオン抵抗の低減の両立を図ることができる。
【0142】
ここで、例えば、「ノーマリオフFET」は、パワーデバイスにおいて最も重要である。具体的に、パワーデバイスは、自動車、鉄道車両あるいは飛行機といった大電力を利用した電力変換システムに幅広く使用されており、電力変換システムにおいて、安全性は最も重視される。このため、電力変換システムでは、壊れたときに出力が「0」となる「ノーマリオフ型FET」は必要である。この点に関し、本実施の形態における表面伝導型FETでは、「ノーマリオフ型FET」が実現されている。したがって、電力変換システムの構成要素であるパワーエレクトロニクス用トランジスタとして、本実施の形態における表面伝導型FETを使用することは有用である。
【0143】
<<通信システムへの応用>>
近年では、情報通信のブロードバンド化が進み、通信システムを支える高周波用トランジスタの高周波化や高出力化が求められている。一方、省エネルギーの観点から、高周波用トランジスタのエネルギー効率化も求められている。この点に関し、上述した要件を満たす半導体材料としてダイヤモンドを挙げることができる。
【0144】
例えば、放送地上局、通信衛星、レーダの動作周波数および出力電力は、現在の半導体の性能を超えているため、進行波管と呼ばれる真空管が現在でも使用されており、半導体を使用することによる信頼性向上、高効率化および小型化が求められている。
【0145】
そこで、ダイヤモンドを半導体材料に使用した高周波用トランジスタが実用化されれば、放送地上局、通信衛星、レータなどを含む通信システムにおける高周波特性や高出力特性を飛躍的に向上することができる。したがって、上述した通信システムの構成要素である高周波用トランジスタとして、本実施の形態における表面伝導型FETを使用することは、通信システムの高周波特性や高出力特性を改善する観点から非常に有用である。
【0146】
<<過酷環境システムへの応用>>
シリコンは、γ線や中性子への耐性が低い。これに対し、ダイヤモンドは、炭素による単元素結晶で、かつ、シリコンと同じ結晶構造を有する半導体である。ダイヤモンドは、結晶を構成する炭素元素同士の結合が強い。このため、ダイヤモンドは、大きなバンドギャップを有し、かつ、キャリア移動度が高く、かつ、高温でも低い真性キャリア密度を有しているといった特徴があり、これによって、ダイヤモンドを使用した半導体デバイスは、高速動作、低損失動作および高温動作が可能である。
【0147】
さらに、ダイヤモンドを使用した半導体デバイスは、X線への耐性が10MGy以上であり、中性子への耐性もシリコンと比較して4桁以上高いという特性を有している。すなわち、ダイヤモンドは、高温下や放射線下での電子正孔対の発生が非常に少ない特性を有している。したがって、放射線耐性や高温耐性に優れたダイヤモンドを使用した本実施の形態における表面伝導型FETは、放射線が存在する過酷環境に置かれた過酷環境システムや高温環境に置かれた過酷環境システムの構成要素である過酷環境用トランジスタとして使用することに適している。つまり、過酷環境システムに本実施の形態における表面伝導型FETを使用することにより、過酷環境システムの性能を向上できる。
【0148】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0149】
100 表面伝導型FET
200 表面伝導型FET
101 ダイヤモンド基板
102 ノンドープ層
103 水素終端領域
103A 水素終端領域
104 酸素終端領域
105 チャネル形成領域
106 コンタクト層
107 コンタクト層
108 ソース電極
109 ドレイン電極
110 絶縁膜
111 ゲート電極
120 表面吸着物
P1 第1領域
P2 第2領域
R1 第1絶縁領域
R2 第2絶縁領域