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特開2025-6556磁性基体、磁性基体を備えるコイル部品、及び磁性基体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006556
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】磁性基体、磁性基体を備えるコイル部品、及び磁性基体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20250109BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20250109BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20250109BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F27/255
H01F41/02 D
H01F17/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107430
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】棚田 淳
【テーマコード(参考)】
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041AA19
5E041BC01
5E041BD13
5E041CA02
5E041NN06
5E070AA01
5E070BA03
5E070BA12
5E070BB03
5E070CB13
(57)【要約】
【課題】 磁性基体における鉄損を抑制すること。
【解決手段】
本発明の一態様におけるコイル部品は、Fe及びFeより酸化しやすい元素M(ただし、元素Mは、Si、Cr及びAlから成る群より選択される少なくとも一つの元素である。)を含有する複数の金属磁性粒子と、前記複数の金属磁性粒子の各々の表面に設けられた酸化被膜と、を備える。複数の金属磁性粒子は、複数の第1金属磁性粒子を含む。複数の第1金属磁性粒子の各々は、元素Mを含む析出物を含有する。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe及びFeより酸化しやすい元素M(ただし、元素Mは、Si、Cr及びAlから成る群より選択される少なくとも一つの元素である。)を含有する複数の金属磁性粒子と、
前記複数の金属磁性粒子の各々の表面に設けられた酸化被膜と、
を備え、
前記複数の金属磁性粒子は、前記元素Mを含む析出物を含有する複数の第1金属磁性粒子を含む、
磁性基体。
【請求項2】
前記複数の金属磁性粒子は、前記析出物を含有しない複数の第2金属磁性粒子をさらに含む、
請求項1に記載の磁性基体。
【請求項3】
前記析出物は、前記元素Mを含む金属を含む、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項4】
前記析出物は、Cr及びAlの少なくとも一方を含む、
請求項3に記載の磁性基体。
【請求項5】
前記析出物は、前記元素Mの酸化物を含む、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項6】
前記析出物は、Cr及びAlの少なくとも一方を含む、
請求項5に記載の磁性基体。
【請求項7】
前記析出物は、前記元素Mの窒化物を含む、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項8】
前記析出物は、Cr及びAlの少なくとも一方を含む、
請求項7に記載の磁性基体。
【請求項9】
前記複数の第1金属磁性粒子のうちの少なくとも一つは、複数の結晶粒を有し、前記複数の結晶粒の結晶粒界の近傍にある結晶粒界領域に前記析出物を含有する、
請求項1に記載の磁性基体。
【請求項10】
前記複数の金属磁性粒子の各々は、前記結晶粒界領域に囲まれている結晶粒内側領域において、95at%以上のFeを含有する、
請求項9に記載の磁性基体。
【請求項11】
前記複数の第1金属磁性粒子の各々は、前記結晶粒内側領域において、97at%以上のFeを含有する、
請求項10に記載の磁性基体。
【請求項12】
前記複数の第1金属磁性粒子の各々は、前記結晶粒内側領域において、98at%以上のFeを含有する、
請求項11に記載の磁性基体。
【請求項13】
前記複数の第1金属磁性粒子の各々は、前記結晶粒内側領域において、99at%以上のFeを含有する、
請求項12に記載の磁性基体。
【請求項14】
前記複数の金属磁性粒子の各々は、前記結晶粒界領域において0.01at%以上1.0at%以下の前記元素Mを含有する、
請求項9に記載の磁性基体。
【請求項15】
観察視野に含まれる前記複数の金属磁性粒子の総数のうち、前記第1金属磁性粒子は、1%~10%を占める、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項16】
前記酸化被膜は、Feの酸化物を含む、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項17】
前記複数の金属磁性粒子は、一の金属磁性粒子と、前記一の金属磁性粒子に隣接する他の金属磁性粒子と、を含み、前記一の金属磁性粒子と前記他の金属磁性粒子とは前記一の金属磁性粒子の表面を覆う前記酸化被膜及び前記他の金属磁性粒子の表面を覆う前記酸化被膜により結合されている、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項18】
Fe及びFeより酸化しやすい元素M(ただし、元素Mは、Si、Cr及びAlから成る群より選択される少なくとも一つの元素である。)を含有する複数の金属磁性粉を樹脂と混合して得られた混合樹脂組成物から成型体を得る工程と、
前記成型体を還元雰囲気下において第1温度で加熱する第1加熱工程と、
前記第1加熱工程の後に、前記成型体を、酸素を含む低酸素雰囲気において加熱することで、前記複数の金属磁性粉の各々の表面に前記元素Mの酸化物を含む酸化被膜を形成するとともに、前記複s数の金属磁性粉の内部に前記元素Mを含む析出物を析出させる第2加熱工程と、
を備える磁性基体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書における開示は、主に、磁性基体、磁性基体を備えるコイル部品、及び磁性基体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル部品用の磁性基体として、磁性金属材料から構成された多数の金属磁性粒子を含む磁性基体が用いられている。磁性基体に含まれる金属磁性粒子の各々の表面は絶縁膜で覆われており、隣接する金属磁性粒子同士は、当該絶縁膜を介して結合している。
【0003】
金属磁性粒子は、例えば、Feを主成分とする軟磁性材料から構成される。このFe基の金属磁性粒子を作製するための軟磁性材料は、磁気特性や絶縁特性の改善のために、Feに加えてSi、Cr、Al等の添加元素を含む。
【0004】
磁性基体は、例えば、軟磁性材料からなる金属磁性粉(原料粉)を樹脂と混合して混合樹脂組成物を生成し、この混合樹脂組成物を加熱することで作製される。加熱処理時には、原料粉粒子に含まれる添加元素(例えば、Si、Cr、Al)が各原料粉粒子の表面において酸化される。このため、金属磁性粒子の表面には、原料粉に含まれる元素の酸化物を含む酸化被膜が形成される。この酸化被膜により、隣接する金属磁性粒子間が電気的に絶縁される。
【0005】
Fe基の金属磁性粒子を含む磁性基体は、以下の特許文献1~3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-046055号公報
【特許文献2】国際公開第2018/180659号
【特許文献3】特開2012-238842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁性基体においては、鉄損を抑制することが望まれる。磁性基体が高周波回路に組み込まれるコイル部品に用いられる場合には、鉄損の抑制が特に望まれる。
【0008】
本明細書において開示される発明の目的は、上述した問題の少なくとも一部を解決又は緩和することである。本発明のより具体的な目的の一つは、磁性基体における鉄損を抑制することである。本発明のより具体的な目的の一つは、磁性基体における渦電流損失を抑制することである。
【0009】
本発明の前記以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。特許請求の範囲に記載される発明は、「発明を解決しようとする課題」から把握される課題以外の課題を解決するものであってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様における磁性基体は、Fe及びFeより酸化しやすい元素M(ただし、元素Mは、Si、Cr及びAlから成る群より選択される少なくとも一つの元素である。)を含有する複数の金属磁性粒子と、前記複数の金属磁性粒子の各々の表面に設けられた酸化被膜と、を備える。複数の金属磁性粒子は、複数の第1金属磁性粒子を含む。複数の第1金属磁性粒子の各々は、元素Mを含む析出物を含有する。
【発明の効果】
【0011】
本明細書により開示される発明の実施形態によれば、磁性基体における渦電流損失を抑制する金属磁性粒子ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態による磁性複合体を備えるコイル部品を模式的に示す斜視図である。
図2図1のコイル部品の分解斜視図である。
図3図1のコイル部品をI-I線で切断した断面を模式的に示す断面図である。
図4】基体の断面のうち領域Aを拡大して模式的に示す拡大断面図である。
図5】析出物を含有する第1金属磁性粒子の断面を模式的に示す断面図である。
図6】第2金属磁性粒子の断面を模式的に示す断面図である。
図7】本発明の一実施形態によるコイル部品の製造工程を示すフロー図である。
図8】別の実施形態によるコイル部品を示す正面図である。
図9】本発明の別の実施形態によるコイル部品の製造工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。複数の図面において共通する構成要素には同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。以下で説明される本発明の実施形態は、必ずしも特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。以下の実施形態で説明されている諸要素が発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
本明細書に開示される発明の一実施形態は、磁性基体に関する。磁性基体は、例えば、コイル部品に用いられる。この磁性基体は、複数の金属磁性粒子を含む。この金属磁性粒子は、Feを主成分とする。金属磁性粒子は、Feの他に元素Mを含有する。元素Mは、Si、Cr及びAlから成る群より選択される少なくとも一つの元素である。複数の金属磁性粒子の各々は、絶縁性に優れた酸化被膜によって被覆されている。複数の金属磁性粒子のうち隣接するもの同士は、酸化被膜を介して結合される。
【0015】
以下では、まず、図1から図3を参照して、一実施形態による磁性基体を備えるコイル部品1について説明し、その後に、図4ないし図6を参照して磁性基体の微細構造について説明する。
【0016】
図1は、コイル部品1を模式的に示す斜視図であり、図2は、コイル部品1の分解斜視図である。図3は、図1のI-I線に沿ってコイル部品1を切断したコイル部品1の模式的な断面図である。図2においては、説明の便宜のために、外部電極の図示が省略されている。
【0017】
図1から図3には、コイル部品1の例として、積層インダクタが示されている。図示されている積層インダクタは、本発明を適用可能なコイル部品1の一例であり、本発明は積層インダクタ以外の様々な種類のコイル部品に適用され得る。例えば、コイル部品1は、巻線型のコイル部品や平面コイルにも適用され得る。
【0018】
図示されているように、コイル部品1は、基体10と、基体10の内部に設けられたコイル導体25と、基体10の表面に設けられた外部電極21と、基体10の表面において外部電極21から離間した位置に設けられた外部電極22と、を備える。基体10は、磁性材料から構成された磁性基体である。基体10は、特許請求の範囲に記載されている「磁性基体」の例である。本明細書においては、基体10を磁性基体10と表すこともある。後述するように、基体10は、多数の金属磁性粒子を含む。
【0019】
外部電極21は、コイル導体25の一端と電気的に接続されており、外部電極22は、コイル導体25の他端と電気的に接続されている。
【0020】
コイル部品1は、実装基板2aに実装され得る。図示の実施形態において、実装基板2aには、ランド部3a、3bが設けられている。コイル部品1は、外部電極21とランド部3aとを接合し、また、外部電極22とランド部3bとを接続することで実装基板2aに実装される。本発明の一実施形態による回路基板2は、コイル部品1と、このコイル部品1が実装される実装基板2aと、を備える。回路基板2は、様々な電子機器に搭載され得る。回路基板2が搭載され得る電子機器には、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品、サーバ及びこれら以外の様々な電子機器が含まれる。
【0021】
コイル部品1は、インダクタ、トランス、フィルタ、リアクトル、インダクタアレイ、及びこれら以外の様々なコイル部品であってもよい。コイル部品1は、カップルドインダクタ、チョークコイル及びこれら以外の様々な磁気結合型コイル部品であってもよい。コイル部品1の用途は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0022】
一実施形態において、基体10は、L軸方向における寸法(長さ寸法)がW軸方向における寸法(幅寸法)及びT軸方向における寸法(高さ寸法)よりも大きくなるように構成される。例えば、長さ寸法は、1.0mm~6.0mmの範囲にあり、幅寸法は0.5mm~4.5mmの範囲にあり、高さ寸法は0.5mm~4.5mmの範囲にある。基体10の寸法は、本明細書で具体的に説明される寸法には限定されない。本明細書において「直方体」又は「直方体形状」という場合には、数学的に厳密な意味での「直方体」のみを意味するものではない。基体10の寸法及び形状は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0023】
基体10は、第1主面10a、第2主面10b、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fを有する。基体10は、これらの6つの面によってその外表面が画定されている。第1主面10aと第2主面10bとはそれぞれ基体10の高さ方向両端の面を成し、第1端面10cと第2端面10dとはそれぞれ基体10の長さ方向両端の面を成し、第1側面10eと第2側面10fとはそれぞれ基体10の幅方向両端の面を成している。図1に示されているように、第1主面10aは基体10の上側にあるため、第1主面10aを「上面」と呼ぶことがある。同様に、第2主面10bを「下面」又は「底面」と呼ぶことがある。コイル部品1は、第2主面10bが実装基板2aと対向するように配置されるので、第2主面10bを「実装面」と呼ぶこともある。上面10aと下面10bとの間は基体10の高さ寸法だけ離間しており、第1端面10cと第2端面10dとの間は基体10の長さ寸法だけ離間しており、第1側面10eと第2側面10fとの間は基体10の幅寸法だけ離間している。
【0024】
図2に示されているように、基体10は、磁性膜20と、磁性膜20の下面に設けられた下側カバー層19と、磁性膜20の上面に設けられた上側カバー層18と、を有する。上側カバー層18、下側カバー層19、及び磁性膜20は、基体10の構成要素である。
【0025】
磁性膜20は、磁性膜11~17を備える。磁性膜20においては、T軸方向のマイナス側からプラス側に向かって、磁性膜17、磁性膜16、磁性膜15、磁性膜14、磁性膜13、磁性膜12、磁性膜11の順に積層されている。
【0026】
磁性膜11~17の上面には、導体パターンC11~C17がそれぞれ形成されている。複数の導体パターンC11~C17の各々は、コイル軸Ax1(図3参照)に直交する平面(LW平面)内でコイル軸Ax1周りに延びている。導体パターンC11~C17は、例えば、導電性に優れた金属又は合金から成る導電性ペーストをスクリーン印刷法により印刷することにより形成される。この導電性ペーストの材料としては、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金を用いることができる。導電性ペーストは、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金等の導電性に優れた導電性材料から構成される導体粉をバインダー樹脂及び溶剤と混練して生成される。導体粉としてCu粉が用いられる場合には、脱脂時におけるCu粉の過剰な酸化を抑制するために、バインダー樹脂としてアクリル樹脂等の熱分解性樹脂が用いられてもよい。熱分解性樹脂は、酸素との燃焼反応によらずに分解される。熱分解性樹脂は、非酸素雰囲気(例えば、窒素雰囲気)にて昇温した場合に熱分解し、残渣が残らない。よって、バインダー樹脂として熱分解性樹脂を用いることにより、脱脂処理を非酸素雰囲気下で行うことができる。導電性ペースト用のアクリル樹脂として、例えば、(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、又はスチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を用いることができる。溶剤として、トルエン、エタノール、ターピネオール、又はこれらの混合物を用いることができる。導電性ペーストは、チクソ性を調整するための調整剤を含むことができる。導体パターンC11~C17は、これ以外の材料及び方法により形成されてもよい。導体パターンC11~C17、例えば、スパッタ法、インクジェット法、又はこれら以外の公知の方法で形成されてもよい。
【0027】
磁性膜11~磁性膜16の所定の位置には、ビアV1~V6がそれぞれ形成される。ビアV1~V6は、磁性膜11~磁性膜16の所定の位置に、磁性膜11~磁性膜16をT軸方向に貫く貫通孔を形成し、当該貫通孔に導電材料を埋め込むことにより形成される。
【0028】
導体パターンC11~C17の各々は、隣接する導体パターンとビアV1~V6を介して電気的に接続される。このようにして接続された導体パターンC11~C17及びビアV1~V6が、スパイラル状のコイル導体25を形成する。すなわち、コイル導体25は、導体パターンC11~C17及びビアV1~V6を有する。
【0029】
導体パターンC11のビアV1に接続されている端部と反対側の端部は、外部電極22に接続される。導体パターンC17のビアV6に接続されている端部と反対側の端部は、外部電極21に接続される。
【0030】
上側カバー層18は、磁性材料から成る磁性膜18a~18dを備え、下側カバー層19は、磁性材料から成る磁性膜19a~19dを備える。本明細書においては、磁性膜18a~18d及び磁性膜19a~19dを総称して「カバー層磁性膜」と呼ぶことがある。
【0031】
図3に示されているように、コイル導体25は、厚さ方向(T軸方向)に沿って延びるコイル軸Ax1の周りに巻回されている周回部25aと、周回部25aの一端から基体10の第1端面10cまで延伸する引出部25b1と、周回部25aの他端から基体10の第2端面10dまで延伸する引出部25b2と、を有する。
【0032】
次に、図4を参照して、基体10の微細構造を説明する。図4は、図3に示されている領域Aを模式的に示す拡大断面図である。領域Aは、基体10をT軸に沿って切断した断面の一部の領域である。領域Aは、T軸に沿って切断された基体10の断面の一部を占める任意の領域とすることができる。
【0033】
図4に示されているように、基体10は、複数の金属磁性粒子を含む。基体10に含まれる金属磁性粒子には、第1金属磁性粒子31と、第2金属磁性粒子32と、が含まれる。第1金属磁性粒子31には元素Mを含む元素M析出物が含まれるのに対して、第2金属磁性粒子32には元素M析出物が含まれない点で両者は区別される。元素Mは、Si、Cr及びAlから成る群より選択される少なくとも一つの元素である。元素Mを含む元素M析出物の詳細については後述する。
【0034】
一実施形態において、基体10に含まれる金属磁性粒子の総数(第1金属磁性粒子31の数と第2金属磁性粒子32の数との合計)に対する第1金属磁性粒子31の数の割合(以下、単に「析出物発生割合」ということがある。)は、例えば、1%以上10%以下とされる。つまり、基体10に含まれる金属磁性粒子のうちの1%~10%に元素M析出物が含有されていてもよい。一実施形態において、析出物発生割合は、1%以上10%以下、1%以上9%以下、1%以上8%以下、1%以上7%以下、1%以上6%以下、1%以上5%以下、1%以上4%以下、又は1%以上3%以下であってもよい。析出物発生割合の下限は、2%であってもよい。基体10に含まれる金属磁性粒子の総数に対する第1金属磁性粒子31の数の割合(析出物発生割合)は、以下のようにして定められる。まず、基体10をその厚さ方向(T軸方向)に沿って切断して断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により所定の倍率(例えば、5000倍から30000倍の範囲の倍率)で撮影して、基体10の断面の一部を観察視野とするSEM像を得る。次に、この撮影により得られたSEM像に含まれる金属磁性粒子を、元素M析出物が含まれるか否かに応じて第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子32とに区別する。元素マッピングにより金属磁性粒子内部に元素Mが凝集している領域が存在する場合に、当該金属磁性粒子に元素M析出部が含まれると判定できる。1つの判定方法としては、基体10の断面を撮影して得られたSEM像において、コントラストにより元素Mが凝集している領域(元素M析出物)と元素Mが凝集している領域以外の領域を分けることができる。より具体的には、基体10の断面のSEM像において、元素Mが凝集して形成されている元素M析出物は、他の領域よりも暗く映し出される。また、元素Mが凝集している領域(元素M析出物)における元素Mの濃度は、それ以外の領域よりも元素Mの濃度が高い。よって、SEM像において暗く現れている領域における元素Mの濃度が、その領域の周囲の元素Mの濃度よりも高い場合に、そのSEM像で暗く現れている領域を、元素M析出物と判定できる。また、元素M析出物が窒化物である場合、N元素が検出される。また、元素M析出物が酸化物である場合、O元素が検出される。そして、観察視野に含まれる第1金属磁性粒子31の数を金属磁性粒子の総数で除した値を基体10に含まれる金属磁性粒子の総数に対する第1金属磁性粒子31の数の割合(析出物発生割合)とすることができる。基体10の断面において複数の観察視野を定め、観察視野ごとにその観察視野に含まれる金属磁性粒子の総数に対する第1金属磁性粒子31の数の割合を求め、この各観察視野について求められた割合の平均値を析出物発生割合としてもよい。観察視野の数は、例えば、5~10の間で任意に定めることができる。
【0035】
第1金属磁性粒子31の表面は、絶縁性に優れた酸化被膜41で覆われている。同様に、第2金属磁性粒子32の表面は、絶縁性に優れた酸化被膜42で覆われている。酸化被膜41は、第1金属磁性粒子31の表面全体を覆っていることが望ましく、酸化被膜42は、第2金属磁性粒子32の表面全体を覆っていることが望ましい。基体10において、各金属磁性粒子は、隣接する金属磁性粒子と、それぞれの表面に設けられた酸化被膜を介して結合される。つまり、隣接する金属磁性粒子の各々の表面に設けられた酸化被膜同士が互いに結合しており、この酸化被膜同士の結合により、酸化被膜で覆われた金属磁性粒子同士が結合する。例えば、第1金属磁性粒子31は、この第1金属磁性粒子31に隣接する第2金属磁性粒子32と、当該第1金属磁性粒子31の表面に設けられた酸化被膜41及び当該第2金属磁性粒子32の表面に設けられた酸化被膜42を介して結合される。酸化被膜41及び酸化被膜42により、第1金属磁性粒子31同士、第2金属磁性粒子32同士、又は第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子32との間の電気的な絶縁が提供される。
【0036】
基体10に含まれる金属磁性粒子は、原料となる金属磁性粉(原料粉)を加熱することで得られる。詳しくは後述するように、基体10は、金属磁性粉を樹脂と混合して混合樹脂組成物を生成し、この混合樹脂組成物を加熱することで作製され得る。この基体10の製造プロセスにおける加熱処理により、金属磁性粉から、表面に酸化被膜を有する金属磁性粒子が得られる。
【0037】
本明細書において、「基体10に含まれる金属磁性粒子」には、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の両方が含まれる。つまり、「基体10に含まれる金属磁性粒子」に関する説明は、文脈上別に解すべき場合を除き、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の両方に当てはまる。
【0038】
基体10に含まれる金属磁性粒子の原料粉は、Feを主成分とする。基体10に含まれる金属磁性粒子の原料粉は、Feに加えて元素Mを含有する。元素Mは、Feよりも酸化されやすい元素である。例えば、元素Mは、Si、Cr及びAlから成る群より選択される少なくとも一方である。つまり、基体10に含まれる金属磁性粒子の原料粉は、Feに加えて、Si、Cr、及びAlのうち一又は複数の元素を含むことができる。この原料粉を加熱することで得られる金属磁性粒子において、Fe及び元素Mの合計に対するFeの割合は95at%以上であることができる。基体10に含まれる金属磁性粒子の原料粉は、Fe及び元素M以外の元素を微量に含むことができる。金属磁性粒子の原料粉に微量に含まれ得る元素には、亜鉛(Zr)、ボロン(B)、炭素(C)、及びニッケル(Ni)が含まれる。
【0039】
基体10に含まれる金属磁性粒子の表面に設けられる酸化被膜は、原料粉に含まれる元素の酸化物を含む。「基体10に含まれる金属磁性粒子の表面に設けられる酸化被膜」には、第1金属磁性粒子31の表面に設けられる酸化被膜41及び第2金属磁性粒子32の表面に設けられる酸化被膜42が含まれる。説明の便宜のために、基体10に含まれる金属磁性粒子の表面に設けられる酸化被膜を単に「酸化被膜」と呼ぶことがある。元素MはFeよりも酸化されやすいので、原料粉がFe及び元素Mを含む場合には、酸化被膜には、元素Mの酸化物が含まれる。酸化被膜には、Feの酸化物が含まれてもよい。
【0040】
基体10に含まれる金属磁性粒子の平均粒径は、例えば1μm~50μmの範囲とすることができる。基体10に含まれる金属磁性粒子の平均粒径は、基体10をその厚さ方向(T軸方向)に沿って切断して断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影したSEM像に基づいて求められる体積基準の粒度分布に基づいて定められる。例えば、SEM像に基づいて求められた体積基準の粒度分布から算出される平均粒径(メジアン径(D50))を、基体10に含まれる金属磁性粒子の平均粒径とすることができる。
【0041】
次に、図5を参照して、第1金属磁性粒子31についてさらに説明する。図5には、基体10に含まれる複数の第1金属磁性粒子31のうちの一つの断面が模式的に示されている。図5においては、第1金属磁性粒子31の断面が、便宜上、円形に描かれている。基体10に含まれる第1金属磁性粒子31は、図4に示されているように、円形以外の様々な形状を取り得る。図5には、第1金属磁性粒子31の表面に設けられている酸化被膜41も図示されている。
【0042】
図5に示されているように、第1金属磁性粒子31は、中心領域31aと、表面領域31bと、に区画される。中心領域31aは、図5に示されている第1金属磁性粒子31の断面の幾何中心C1を含む。表面領域31bは、中心領域31aよりも径方向外側にある。表面領域31bは、中心領域31aの外周面を覆っている。このように、表面領域31bは、中心領域31aの径方向外側において、第1金属磁性粒子31の表面に沿って延びている。
【0043】
第1金属磁性粒子31の径方向において、表面領域31bは、幅d12を有する。一実施形態において、表面領域31bの幅d12は、第1金属磁性粒子31のヘイウッド径の10%とされる。表面領域31bの幅d12は、第1金属磁性粒子31のヘイウッド径の10%以下であってもよい。中心領域31aの径方向における寸法d11は、第1金属磁性粒子31の幾何中心C1とその表面との間の寸法と、表面領域31bの幅d12と、の差に相当する。
【0044】
基体10に含まれる金属磁性粒子は、粒内に複数の金属結晶の結晶粒を有してもよい。第1金属磁性粒子31は、複数の結晶粒を有してもよい。図5に示されているように、第1金属磁性粒子31が複数の結晶粒CP1~CP3を有する場合は、第1金属磁性粒子31内において結晶粒CP1~CP3の境界に沿って結晶粒界領域31cが画定される。結晶粒界領域31cの幅d13は、表面領域31bの幅d12と同じ寸法とされる。結晶粒CP1~CP3の各々において、結晶粒界領域31cの内側にあり、結晶粒界領域31cによって囲まれている領域を、結晶粒内側領域31dと呼ぶ。結晶粒内側領域31dは、中心領域31aに含まれる。結晶粒内側領域31dは、表面領域31b及び結晶粒界領域31cとは重複しない。
【0045】
第1金属磁性粒子31は、結晶粒内側領域31dにおいて、95at%以上のFeを含有してもよい。この場合、結晶粒内側領域31dにおけるFeの含有比率は、97at%以上であってもよく、98at%以上であってもよく、99at%以上であってもよい。公知の磁性基体に含まれる複数の金属磁性粒子においては、Feの含有比率は、高くとも92at%程度であり、95at%を超えるFeの含有比率は実現されていない。第1金属磁性粒子31の結晶粒内側領域31dにおけるFeの含有比率は、これまでに実現されていた92at%程度の含有比率よりも高い。原料粉から第1金属磁性粒子31が生成される際に、原料粉の表面に酸化被膜が形成され、この酸化被膜によって原料粉の内部への酸素の侵入が抑止されるが、原料粉のFeの比率が例えば95at%以上程度まで高くなると、添加元素の含有割合が減少するため、原料粉の表面に酸素の侵入を阻害するために十分な厚みを有する酸化被膜が形成されにくくなる。このため、十分な厚みを有する酸化被膜が形成されない一部の原料粉(例えば、原料粉の総数のうちの1%~10%)の内部に酸素が侵入する。このようにして原料粉の内部に侵入する酸素が表面領域31bに存在する元素Mと結合して、元素M析出物50となる。このようにして形成される元素M析出物50は、元素MとOとを含む。このように、表面領域31bに存在する元素Mにより原料粉内部に侵入した酸素を捕獲することにより、酸素が中心領域31aに到達し、中心領域31a内の結晶粒内側領域31dにおいてFeを酸化することが抑制される。
【0046】
第1金属磁性粒子31に含まれるFeの含有比率は、コイル軸Axに沿って基体10を切断することで基体10の断面を露出させ、この断面においてエネルギー分散型X線分光(EDS)分析を行うことにより測定される。Feの含有比率の測定は、エネルギー分散型X線分光(EDS)検出器を搭載した走査型電子顕微鏡(SEM)により行うことができる。EDS検出器を搭載したSEMによるEDS分析は、SEM-EDS分析と呼ばれる。Feの含有比率は、例えば、株式会社日立ハイテク製の走査型電子顕微鏡SU7000及びアメテック株式会社製のエネルギー分散型X線分光検出器Octane Eliteを用い、加速電圧5kVで測定される。第1金属磁性粒子31に含まれるFe以外の元素の含有比率も、Feの含有比率と同様にSEM-EDS分析により測定される。
【0047】
第1金属磁性粒子31は、中心領域31aにおいて、Feに加えて、元素Mを含有してもよい。中心領域31aにおける元素Mの含有比率は、0.01at%以上1.0at%以下であってもよい。第1金属磁性粒子31の中心領域31a内の結晶粒内側領域31dには、元素Mが含有されていなくともよい。結晶粒内側領域31dにおける元素Mの含有比率は、上述のとおり、SEM-EDS分析により測定される。SEM-EDS分析により結晶粒内側領域31dにおいて元素Mが検出されない場合、実際にはSEM-EDS分析の検出限界未満の元素Mが含有されている可能性があるが、中心領域31aに元素Mが含有されないと判断する。第1金属磁性粒子31に対するSEM-EDS分析においては、Fe元素のL線ピークの取得カウントが100000カウント以上となるように積算測定を行って、定量元素のピーク強度がバックグランドレベルの標準偏差σの3倍、即ち3σである位置を超えていることをもって当該定量元素が存在すると判定することができる。具体的には、バックグランドレベルの標準偏差σは、バックグランドレベルの平方根であるので、定量元素のカウント値がバックグランドレベルの平方根の3倍以上である位置に当該定量元素が存在すると判定することができる。つまり、バックグランドレベルの平方根の3倍のカウント値が検出限界とされる。結晶粒内側領域31dに元素Mが存在するか否かは、第1金属磁性粒子31の断面のSEM像においてEDS分析を行って元素Mのマッピングデータを取得し、このマッピングデータにおいて、結晶粒内側領域31dにおいて検出限界以上の元素Mのピーク強度を示す位置があれば、その位置に元素Mが存在すると判定することができる。逆に、結晶粒内側領域31dの全ての領域において元素Mのピーク強度が検出限界未満である場合には、中心領域31aに元素Mが含有されないと判定される。バックグラウンドでの元素Mの検出値の平方根の3倍以上の検出値を示す位置に元素Mが存在すると判定することができる。
【0048】
中心領域31aには、Siより少ない原子割合でCrが含まれてもよい。中心領域31aには、Siより少ない割合でAlが含まれてもよい。中心領域31aには、Cr及びAlが含まれてもよい。この場合、Crの含有比率及びAlの含有比率はいずれも、Siの含有比率よりも小さい。中心領域31aには、Crが含まれていなくともよい。中心領域31aには、Alが含有されていなくともよい。中心領域31aには、元素Mがいずれも含まれなくともよい。SEM-EDS分析により中心領域31aにおいてCrが検出されない場合に中心領域31aにCrが含有されないと判断することができる。同様に、SEM-EDS分析により中心領域31aにおいてAlが検出されない場合に中心領域31aにAlが含有されないと判断することができる。本明細書において、元素の含有割合の多寡について説明する場合には、元素の含有割合は、別段の断りなき限り、その元素のモル比(原子パーセント)で表される。
【0049】
表面領域31b及び結晶粒界領域31cには、中心領域31aよりも高い原子割合で元素Mが含有される。元素Mは、表面領域31b及び結晶粒界領域31cにおいて、元素M析出物50として析出している。SEM-EDS分析により得られる元素マッピングにおいて、表面領域31b内又は結晶粒界領域31c内において元素Mが凝集している領域に元素M析出部50が存在すると判定することができる。元素M析出物50は、元素Mの酸化物を含んでもよい。具体的には、元素Mと酸素が結合してM-Oが生成され、この生成されたM-Oが集まって元素M析出物50として析出する。元素M析出物50が元素Mの酸化物を含有する場合、SEM-EDS分析により得られる元素マッピングにおいて、表面領域31b内又は結晶粒界領域31c内の同一の検出位置において元素M及びO元素が検出される。元素M析出物50は、元素Mの窒化物を含んでもよい。具体的には、元素Mと窒素が結合してM-Nが生成され、この生成されたM-Nが集まって元素M析出物50として析出する。元素M析出物50が元素Mの窒化物を含有する場合、SEM-EDS分析により得られる元素マッピングにおいて、表面領域31b内又は結晶粒界領域31c内の同一の検出位置において元素M及びN元素が検出される。元素M析出物50には、元素Mの酸化物及び元素Mの窒化物が両方とも含まれてもよい。
【0050】
上述したとおり、元素M析出物50は、第1金属磁性粒子31内の表面領域31bに含有されている。表面領域31bには、複数の元素M析出物50が含有され得る。表面領域31bには、数個から数百個の元素M析出物50が含有され得る。複数の元素M析出物50は、互いから離間している。つまり、元素M析出物50は、表面領域31bにおいて、連続した層状ではなく、互いから離間した粒子状に析出する。表面領域31bに存在していた元素Mは、第1金属磁性粒子31内に侵入した酸素及び/又は窒素と結合して元素M析出物50として析出するため、表面領域31b内の元素M析出物50以外の領域においては元素Mの含有量が少なくなる。このため、磁性基体10の製造時に、中心領域31aと表面領域31bとの間に元素Mの濃度勾配が発生し、この濃度勾配により中心領域31aから表面領域31bへの元素Mの移動が起こりやすくなる。この結果、中心領域31aにおける元素Mの含有量も減少する。そして、中心領域31aにおいて元素Mが減少する結果、中心領域31aにおけるFeの含有比率が向上する。
【0051】
上述したとおり、複数の結晶粒を含む第1金属磁性粒子31においては、表面領域31bに加えて結晶粒界領域31cにも元素M析出物が析出する。第1金属磁性粒子31の結晶粒界には酸素及び/又は窒素が侵入しやすいため、この結晶粒界の近傍にある結晶粒界領域31cに含まれる元素Mが酸素又は窒素と結合することで、結晶粒界領域31cに元素M析出物50が析出する。結晶粒界領域31cには、数個から数百個の元素M析出物50が含有され得る。結晶粒界領域31cは表面領域31bに比べ酸素の侵入距離が大きくなるため、結晶粒界領域31cに含まれる元素M析出物50は、表面領域31bに含まれる元素M析出物50より少なくともよい。結晶粒界領域31cに含まれる複数の元素M析出物50も、互いから離間している。つまり、元素M析出物50は、結晶粒界領域31cにおいても、連続した層状ではなく、互いから離間した粒子状に析出する。酸素及び/又は窒素との結合前から表面領域31bに存在していた元素Mは、結晶粒界領域31cに侵入した酸素又は窒素と結合して元素M析出物50として析出するため、結晶粒界領域31c内の元素M析出物50以外の領域においては元素Mの含有量が少なくなる。このため、磁性基体10の製造時に、結晶粒CP1~CP3の結晶粒内側領域31dと結晶粒界領域31cとの間に元素Mの濃度勾配が発生し、この濃度勾配により結晶粒CP1~CP3の結晶粒内側領域31dから結晶粒界領域31cへの元素Mの移動が起こりやすくなる。この結果、結晶粒CP1~CP3の結晶粒内側領域31dにおける元素Mの含有量が減少する。そして、結晶粒内側領域31dにおいて元素Mが減少する結果、結晶粒内側領域31dにおけるFeの含有比率が向上する。
【0052】
第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32はそれぞれ、扁平な形状を有していてもよい。第1金属磁性粒子31のアスペクト比は、1.2以上であってもよい。磁性基体10の製造時に第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の原料粉を含むスラリーに対して大きな圧縮応力をかけることにより、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32のアスペクト比を高めることができる。第1金属磁性粒子31は、原料粉のうち圧縮応力により大きく変形してアスペクト比が1.2以上となったものを加熱することで形成されてもよい。各金属磁性粒子のアスペクト比は、各粒子の最長軸の長さの最短軸の長さに対する比で表される。
【0053】
磁性基体10の製造過程においては、アスペクト比が1.2以上の第1金属磁性粒子31の原料粉には、アスペクト比が1.2未満の原料粉よりも大きなひずみが生じている。このため、アスペクト比が1.2以上の第1金属磁性粒子31の原料粉の内部に加熱雰囲気中の窒素や酸素が侵入しやすくなるため、アスペクト比が1.2以上の第1金属磁性粒子31に含まれる元素Mは、窒化物又は酸化物として析出しやすい。よって、アスペクト比が1.2以上の第1金属磁性粒子31に含まれる元素M析出物50においては、元素Mの窒化物又は酸化物の含有比率が高くなる。元素Mの窒化物や酸化物は、Feと比べて透磁率が低いため、磁性基体において磁気ギャップとして機能するので、第1金属磁性粒子31のアスペクト比を大きくする(例えば、1.2以上とする)ことにより、磁性基体10を備えるコイル部品1の直流重畳特性を向上させることができる。また、アスペクト比が1.2以上の第1金属磁性粒子31は、アスペクト比が1.2未満の第1金属磁性粒子31と比べて、中心領域31aに元素M析出物50が生じ易くなる。また、アスペクト比が1.2以上の第1金属磁性粒子31は、表面領域31bより中心領域31aの方が元素M析出物50の割合を高めることができる。つまり、基体10を切断した断面において第1金属磁性粒子31の断面を観察したときに、その表面領域31b(ここでは、第1金属磁性粒子31の表面から、第1金属磁性粒子31のヘイウッド径の10%の幅を持った領域を意味する。)に含まれる元素M析出物50の面積よりも、中心領域31aに含まれる元素M析出部50の面積を大きくすることができる。これにより、磁性基体10の渦電流損失を小さくできる。
【0054】
他方、第1金属磁性粒子31のアスペクト比が1.2未満の場合には、製造過程において、当該第1金属磁性粒子31の原料粉に大きなひずみが生じないため、窒素や酸素が原料粉の内部に侵入しにくい。よって、アスペクト比が1.2未満の第1金属磁性粒子31に含まれる元素M析出物50においては、窒化又は酸化されていない元素Mの含有比率が高くなる。元素Mの窒化物及び酸化物は、非磁性体であるため、元素M析出物50における元素Mの窒化物や酸化物の含有比率が高くなると、磁性基体10の透磁率を低下させる原因となる。第1金属磁性粒子31のアスペクト比を1.2未満とすることで、元素M析出物50における酸化していない金属としてのCrやAlの含有比率の高い部分が存在し、これにより、元素M析出物50による磁性基体10の透磁率の低下を抑制することができる。また、元素M析出物50は、元素Mの酸化物、元素Mの窒化物、もしくは、元素Mが酸素や窒素と結合せずに凝縮した凝縮体(元素Mが金属元素の場合には金属)、またはこれらの混合物を含むことができる。
【0055】
原料粉に含まれる元素Mは、磁性基体10の製造過程において原料粉を加熱したときに、原料粉の表面に拡散しやすい性質を持つ。例えば、元素MはSi、AlまたはCrである。また、Siは酸化されやすく、酸化されることにより絶縁性に優れたシリカ(SiO2)として析出しやすいため、原料粉に元素Mとして含有されるSiの含有比率を高くすることにより、酸化被膜41の絶縁性を向上させることができる。また、原料粉に元素Mとして含有されるSiの含有比率を高くすることにより、原料粉の加熱時にその粉体表面付近(第1金属磁性粒子31の表面領域31bに相当する領域)まで熱拡散したSiにより、原料粉内に侵入した酸素がトラップされやすくなるため、中心領域31aに含有されるFeの酸化を抑制することができる。これにより、Feの酸化による磁性基体10の透磁率の低下を抑制することができる。Alも酸化しやすく、また、Alの酸化物(Al23)は優れた絶縁性を有するため、Siと同様に、酸化被膜41の絶縁性を向上させるとともに、中心領域31aに含有されるFeの酸化を抑制することができる。
【0056】
原料粉にひずみが生じる場合には、ひずみが生じる方向において、原料粉に含有される元素の熱拡散が促進される。このため、SiやAlは、結晶粒界領域31cにも熱拡散しやすい。そして、結晶粒界領域31cにおいて、原料粉内に侵入する酸素や窒素をトラップして元素M析出物50として析出することにより、結晶粒内側領域31dにおけるFeの酸化を抑制することができる。
【0057】
上述のとおり、原料粉に含まれるSiやAlは、原料粉の加熱時に熱拡散しやすいから、原料粉に添加される元素MにおけるSiやAlの含有比率を高くすることにより、第1金属磁性粒子31の結晶粒内側領域31dに残留する元素Mを減らすことができ、その結果、結晶粒内側領域31dにおけるFeの含有比率を高めることができる。
【0058】
原料粉にCrが含まれる場合には、原料粉の結晶化する温度とCrの拡散温度(Crが原料粉内で熱拡散するために必要な温度)が近いため、原料粉の結晶化と並行してCrの熱拡散が起きるので、熱拡散したCrが結晶粒界領域31cにおいて凝集しやすく、結晶粒界領域31cにおいてCrの凝集物が形成される。この結晶粒界領域31cに析出するCrの凝集物により、結晶粒の成長を阻害することができるので、原料粉にCrが含まれる場合には、結晶粒の大きさが抑制される。
【0059】
以上のとおり、図5に示されているように、第1金属磁性粒子31の表面領域31b及び結晶粒界領域31cに元素M析出物50が析出する場合には、結晶粒内側領域31dにおけるFeの含有比率が向上する。この場合、結晶粒内側領域31dにおけるFeの含有比率は、97at%以上であってもよく、98at%以上であってもよく、99at%以上であってもよい。
【0060】
表面領域31b及び結晶粒界領域31cに析出している元素M析出物50が元素Mの酸化物及び/又は元素Mの窒化物を含有することは、以下のようにして確認することができる。まず、基体10をT軸方向に沿って切断して断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により所定の倍率で撮影してSEM像を得る。このSEM像においてEDS分析を行い、元素M及びO元素及び/又はN元素の分布画像(元素MとOとの混合マップ、元素MとNとの混合マップ、又は元素MとOとNとの混合マップ)を得る。この分布画像において、元素M及びO元素が粒子状に分布している領域に元素Mの酸化物を含有する元素M析出物50が存在すると判断することができる。また、この分布画像において、元素M及びN元素が粒子状に分布している領域に元素Mの窒化物を含有する元素M析出物50が存在すると判断することができる。
【0061】
酸化被膜41は、第1金属磁性粒子31の表面領域31bを覆っている。酸化被膜41は、絶縁性に優れた酸化物を含んでいる。酸化被膜41には、元素Mの酸化物(例えば、Siの酸化物、Crの酸化物、及び/又はAlの酸化物)が含まれる。元素Mの酸化物は、いずれも絶縁性に優れている。酸化被膜41には、Feの酸化物が含まれてもよい。酸化被膜41は、望ましくは、第1金属磁性粒子31の表面領域31bの全体を覆う。酸化被膜41は、望ましくは、5nm以上の厚さ(径方向の寸法)を有する。
【0062】
次に、図6を参照して、第2金属磁性粒子32についてさらに説明する。図6には、基体10に含まれる複数の第2金属磁性粒子32のうちの一つの断面が模式的に示されている。図6においては、第2金属磁性粒子32の断面が、便宜上、円形に描かれている。基体10に含まれる第2金属磁性粒子32は、図4に示されているように、円形以外の様々な形状を取り得る。図6には、第2金属磁性粒子32の表面に設けられている酸化被膜42も図示されている。
【0063】
図6に示されているように、第2金属磁性粒子32は、中心領域32aと、表面領域32bと、に区画される。中心領域32aは、図6に示されている第2金属磁性粒子32の断面の幾何中心C2を含む。表面領域32bは、中心領域32aよりも径方向外側にある。表面領域32bは、中心領域32aの外周面を覆っている。このように、表面領域32bは、中心領域32aの径方向外側において、第2金属磁性粒子32の表面に沿って延びている。
【0064】
第2金属磁性粒子32の径方向において、表面領域32bは、幅d22を有する。一実施形態において、表面領域32bの幅d22は、第2金属磁性粒子32のヘイウッド径の10%とされる。表面領域32bの幅d22は、第2金属磁性粒子32のヘイウッド径の10%以下であってもよい。中心領域32aの径方向における寸法d21は、第2金属磁性粒子32の幾何中心C2とその表面との間の寸法と、表面領域32bの幅d22と、の差に相当する。
【0065】
上述のとおり、第2金属磁性粒子32は、元素M析出物を含まない点で、第1金属磁性粒子31と異なる。一実施形態において、第2金属磁性粒子32の粒径は、第1金属磁性粒子31の粒径よりも大きい。例えば、基体10の断面の観察視野(例えば、倍率10000倍で観察したときの観察視野)において、第2金属磁性粒子32の平均粒径は、第1金属磁性粒子31の平均粒径よりも大きい。また、第1金属磁性粒子31のアスペクト比は、第2金属磁性粒子32のアスペクト比よりも大きくてもよい。
【0066】
第2金属磁性粒子32の組成は、元素M析出物以外については、第1金属磁性粒子31と同じであってもよい。第2金属磁性粒子32は、中心領域32aにおいて、95at%以上のFeを含有する。第2金属磁性粒子32は、第1金属磁性粒子31と同様に、中心領域32aにおいて、97at%以上のFeを含有してもよい。中心領域31aにおけるFeの含有比率は、98at%以上であってもよく、99at%以上であってもよい。第2金属磁性粒子32は、中心領域32aにおいて、Feに加えて、元素Mを含有してもよい。中心領域32aにおける元素Mの含有比率は、0.01at%以上1.0at%以下であってもよい。第2金属磁性粒子32は、元素M析出部50を含有しないため、第2金属磁性粒子32に含まれる元素Mは、第2金属磁性粒子32内で凝集せずに分散している。中心領域32aには、元素Mが含有されていなくともよい。中心領域32aには、Siより少ない原子割合でCrが含まれてもよい。中心領域32aには、Siより少ない割合でAlが含まれてもよい。中心領域32aには、Cr及びAlが含まれてもよい。中心領域32aには、Crが含まれていなくともよい。中心領域32aには、Alが含有されていなくともよい。中心領域32aには、元素Mがいずれも含まれなくともよい。中心領域32aに元素Mが存在するか否かは、第2金属磁性粒子32の断面のSEM像においてEDS分析を行って元素Mのマッピングデータを取得し、このマッピングデータにおいて、中心領域32aにおいて検出限界以上の元素Mのピーク強度を示す位置があれば、その位置に元素Mが存在すると判定することができる。逆に、中心領域32aの全ての領域において元素Mのピーク強度が検出限界未満である場合には、中心領域32aに元素Mが含有されないと判定される。バックグランドレベルの標準偏差σの3倍、即ちバックグランドレベルの平方根の3倍のカウント値が元素Mについての検出限界とされる。表面領域32bに含有される元素Mの原子割合は、中心領域32aに含有される元素Mの原子割合よりも高い。
【0067】
酸化被膜42は、第2金属磁性粒子32の表面領域32bを覆っている。酸化被膜42は、絶縁性に優れた酸化物を含んでいる。酸化被膜42は、酸化被膜41と同様に、元素Mの酸化物(Siの酸化物、Crの酸化物、及び/又はAlの酸化物)を含む。酸化被膜42には、Feの酸化物が含まれてもよい。酸化被膜42は、望ましくは、第2金属磁性粒子32の表面領域32bの全体を覆う。酸化被膜42は、望ましくは、5nm以上の厚さ(径方向の寸法)を有する。
【0068】
次に図7を参照して、コイル部品1の製造方法の一例について説明する。コイル部品1の製造工程に基体10の製造工程が含まれるので、基体10の製造方法についても図7を参照して説明される。図7は、本発明の一実施形態によるコイル部品1の製造方法を示すフロー図である。以下の説明では、コイル部品1がシート積層法により製造されることを想定している。コイル部品1は、シート積層法以外の公知の方法で作製されてもよい。例えば、コイル部品1は、印刷積層法、薄膜プロセス法、又はスラリービルド法などの積層法により作製され得る。
【0069】
まず、ステップS1において、磁性体シートが作製される。磁性体シートは、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の原料となる金属磁性粉(原料粉)をバインダー樹脂及び溶剤と混練して得られる磁性材ペーストから生成される。第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32は、共通の原料粉から生成され得る。金属磁性粉は、Fe及び元素Mを含む。金属磁性粉においては、Fe及び元素Mがほぼ均一に分布している。なお、原料粉におけるFeの含有比率は、熱処理後の第1金属磁性粒子31の結晶粒内側領域31dにおけるFeの含有比率及び第2金属磁性粒子32の中心領域32aにおけるFeの含有比率とは異なる。
【0070】
磁性材ペースト用のバインダー樹脂は、例えば、アクリル樹脂である。磁性材ペースト用のバインダー樹脂は、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、前記以外のバインダー樹脂として公知の樹脂、又はこれらの混合物であってもよい。溶剤は、例えば、トルエンである。この磁性材ペーストは、ドクターブレード法又はこれ以外の一般的な方法にてプラスチック製のベースフィルムの表面に塗布される。このベースフィルムの表面に塗布された磁性材ペーストを乾燥させることでシート状の成型体が得られる。このシート状の成型体を型内で10~100MPa程度の成型圧力で加圧成型することにより磁性体シートが複数作製される。
【0071】
次に、ステップS2において、ステップS1で準備された複数の磁性体シートの一部に導電性ペーストが塗布される。導電性ペーストは、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金等の導電性に優れた導電性材料から構成される導体粉をバインダー樹脂及び溶剤と混練して生成される。導電性ペースト用のバインダー樹脂は、磁性材ペースト用のバインダー樹脂と同じ種類の樹脂であってもよい。導電性ペースト用のバインダー樹脂及び磁性材ペースト用のバインダー樹脂はいずれもアクリル樹脂であってもよい。
【0072】
磁性体シートに導電性ペーストを塗布することにより、当該磁性体シートに、焼成後に導体パターンC11~C17となる未焼成導体パターンが形成される。磁性体シートの一部には積層方向に貫通する貫通孔が形成される。貫通孔を有する磁性体シートに導電性ペーストが塗布されるときには、貫通孔内にも導電性ペーストが埋め込まれる。このようにして、磁性体シートの貫通孔内に焼成後にビアV1~V5となる未焼成ビアが形成される。導電性ペーストは、例えば、スクリーン印刷法により磁性体シートに塗布される。
【0073】
次に、ステップS3において、ステップS1で作製された磁性体シートを積層することで、上側カバー層18となる上部積層体、中間積層体、及び下側カバー層19となる下部積層体を作製する。上部積層体及び下部積層体はそれぞれ、ステップS1で準備された磁性体シートのうち未焼成導体パターンが形成されていないものを4枚積層することによって形成される。上部積層体の4枚の磁性体シートは、完成品であるコイル部品1において磁性膜18a~18dとなり、下部積層体の4枚の磁性体シートは、完成品であるコイル部品1において磁性膜19a~19dとなる。中間積層体は、未焼成導体パターンが形成された磁性体シート7枚を所定の順序で積層することにより形成される。中間積層体の7枚の磁性体シートは、完成品であるコイル部品1において磁性膜11~17となる。上記のように作製された中間積層体を上下から上部積層体及び下部積層体で挟み込み、この上部積層体及び下部積層体を中間積層体に熱圧着して本体積層体を得る。次に、ダイシング機やレーザ加工機などの切断機を用いて当該本体積層体を所望のサイズに個片化することでチップ積層体が得られる。チップ積層体は、加熱処理後に基体10となる素体及び加熱処理後にコイル導体25となる未焼成導体パターンを含む成型体の例である。加熱処理後に基体10となる素体及び加熱処理後にコイル導体25となる未焼成導体パターンを含む成型体は、シート積層法以外の方法で作製されてもよい。
【0074】
チップ積層体に含まれる原料粉は、チップ積層体の形成工程において圧縮されている。例えば、原料粉を含むシート状の成型体を加圧成型して磁性体シートを形成する工程や、中間積層体を熱圧着する工程において原料粉が圧縮される。原料粉を圧縮することにより、隣接する原料粉同士の接触面積が大きくなる。また、圧縮された原料粉には、ひずみが生じる。原料粉におけるFeの含有比率を高くすることにより、圧縮応力により原料粉が塑性変形しやすくなるため、隣接する原料粉同士の接触面積をより大きくし、また、チップ積層体に含まれる原料粉に生じるひずみを大きくすることができる。
【0075】
次に、ステップS4において、ステップS3で作製された成型体に対して脱脂処理が行われる。磁性材ペースト及び導電性ペーストのバインダー樹脂として熱分解性樹脂が用いられる場合には、成型体に対する脱脂処理は、窒素雰囲気等の非酸素雰囲気下で行うことができる。脱脂処理を非酸素雰囲気下で行うことにより、脱脂処理において金属磁性粉に含まれるFeが酸化されることを防止できる。脱脂処理は、磁性材ペースト用のバインダー樹脂の熱分解開始温度よりも高い温度で行われる。磁性材ペースト用のバインダー樹脂としてアクリル樹脂が用いられる場合には、脱脂は、アクリル樹脂の熱分解開始温度よりも高い温度、例えば300℃~500℃で行われる。脱脂処理により、成型体に含まれる熱分解性樹脂が分解されるので、脱脂処理の完了後の成型体には、熱分解性樹脂は残存しない。脱脂処理が300℃~500℃の温度範囲で行われる場合には、金属磁性粉において元素(例えば、元素M)の熱拡散による移動はほとんど起こらない。導電性ペースト用のバインダー樹脂を磁性材ペースト用のバインダー樹脂と同じ熱分解性樹脂とすることにより、ステップS4の脱脂処理において、未焼成導体パターンに含まれる熱分解性樹脂も熱分解される。このように、ステップS4においては、成型体を構成する磁性体シート及び未焼成導体パターンの両方が脱脂される。
【0076】
次に、ステップS5において、脱脂された成型体に対して第1加熱処理が施される。第1加熱処理は、窒素で希釈された水素ガス等の還元雰囲気において第1温度で行われる。第1加熱処理における還元雰囲気の水素濃度は、例えば0.5%~4.0%とされる。第1温度は、600℃~800℃の間の温度とすることができる。金属磁性粉を600℃~900℃で加熱することにより、各金属磁性粉において元素Mが熱拡散により金属磁性粉の表面付近に移動する。また、上述のとおり金属磁性粉にひずみが生じているため、このひずみによって促進される熱拡散により、金属磁性粉に含まれる複数の結晶粒の間にある結晶粒界に元素Mが拡散する。第1加熱処理は、還元雰囲気において行われるため、第1加熱処理において、金属磁性粉に含まれる元素は酸化されない。第1加熱処理が行われる雰囲気には窒素が含まれているため、第1加熱処理においては、金属磁性粉の表面付近や結晶粒界に熱拡散した元素Mが、原料粉内に侵入した窒素と結合し、結晶粒界領域31cにおいて元素Mの窒化物が生成されてもよい。第1加熱処理が行われる第1加熱時間は、1時間~6時間の間の時間とすることができる。第1加熱時間は、例えば、1時間とすることができる。1μm~50μm程度の平均粒径を有するFe基の金属磁性粉においては、600℃以上の加熱温度で1時間以上加熱することにより、元素M等の添加元素を、各金属磁性粉粒子の表面付近まで移動させることができる。
【0077】
次に、ステップS6において、第1加熱処理で加熱された後の成型体に対して低酸素雰囲気中で第2加熱処理が施される。第2加熱処理は、例えば、5~1000ppmの範囲の酸素を含有する低酸素雰囲気中で行われる。第2加熱処理は低酸素雰囲気中で行われるため、第2加熱処理において、金属磁性粉に含まれる元素が酸化される。第1加熱処理において元素Mが金属磁性粉の表面付近に移動しているため、第2加熱処理においては、金属磁性粉の表面に元素Mの酸化物を含む酸化被膜が形成される。また、金属磁性粉のうち一部の粒子の内部に酸素が侵入し、この内部に侵入した酸素が金属磁性粉の表面よりもやや内側の領域において元素Mと結合し、元素M析出物50が生成される。また、結晶粒界に熱拡散した元素Mが、金属磁性粉の結晶粒界に侵入した酸素と結合し、結晶粒界領域31cにおいて元素Mの酸化物が生成されてもよい。この第2加熱処理において、金属磁性粉の一部は、表面に酸化被膜41が形成され表面付近に元素M析出物50が析出した第1金属磁性粒子31となり、金属磁性粉の残部は、表面に酸化被膜42が形成された第2金属磁性粒子32となる。上述したとおり、第2金属磁性粒子32は、元素M析出物50を含有しない。第1金属磁性粒子31同士が隣接する場合には、それぞれの表面に設けられている酸化被膜41が互いに結合する。第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子32とが隣接する場合には、第1金属磁性粒子31の酸化被膜41と第2金属磁性粒子32の酸化被膜42とが結合する。
【0078】
ステップS6の第2加熱処理により形成された第1金属磁性粒子31の内部の結晶粒界領域31cには、図5に示されているように元素M析出物50が析出している。この元素M析出物50が第1金属磁性粒子31内の結晶粒(例えば、結晶粒CP1~CP3)の結晶化反応を阻害するため、元素M析出物50を含有する第1金属磁性粒子31は、第1加熱処理及び第2加熱処理の後でも複数の結晶粒を含んでいる。金属磁性粒子における渦電流損失は、その金属磁性粒子全体を流れるマクロ的な渦電流に起因するマクロ渦電流損失と、金属磁性粒子内の磁壁の運動に起因する局所的な渦電流損失とに分けられる。この局所的な渦電流損失は、磁壁の数が多いほど、言い換えると第1金属磁性粒子31内がより小さな磁区に区切られているほど小さくなる。磁区は、結晶粒径が大きくなるほど大きくなる。よって、原料粉に含まれる結晶粒の再結晶を抑制し、第1金属磁性粒子31が複数の結晶粒を含むようにすることで、第1金属磁性粒子31内の結晶粒の粒径が再結晶により大型化することを抑制することができ、これにより局所的な渦電流損失を抑制することができる。第1金属磁性粒子31は、複数の結晶粒(例えば、結晶粒CP1~CP3)を有するため、第1金属磁性粒子31における渦電流損失は、第1金属磁性粒子31と同径で単一の結晶粒から構成される金属磁性粒子における渦電流損失と比べて小さくなる。このように、原料粉の加熱処理において結晶粒界領域31cに元素M析出物50を析出させて結晶粒の再結晶を阻害することにより、第1加熱処理及び第2加熱処理後の第1金属磁性粒子31に複数の結晶粒(例えば、結晶粒CP1~CP3)を含有させることにより、局所的な渦電流損失を抑制することができる。
【0079】
上述のとおり、ステップS5において元素Mの窒化物が生成され得るとともにステップS6において元素Mの酸化物が生成され得る。ステップS5の第1加熱処理における第1温度を高くすることにより、元素Mの窒化物の生成を促進することができる。また、ステップS6の第2加熱処理おける第2温度を高くすることにより、元素Mの酸化物の生成を促進することができる。
【0080】
第2加熱処理においては、金属磁性粉の酸化に加えて、未焼結導体パターン中の導体粉の焼結も起こる。未焼結導体パターン中の導体粉が焼結することで、コイル導体25が得られる。導体粉として銅粉が用いられる場合には、銅結晶が緻密に焼結し、コイル導体25となる。
【0081】
第2加熱処理は、第2加熱温度で、第2加熱時間だけ行われる。第2加熱温度及び第2加熱時間は、金属磁性粉の表面に絶縁性確保のために十分な膜厚を有する酸化被膜が形成されるように、また、成型体に含まれている金属磁性粉のうち1%以上10%以下の金属磁性粉が第1金属磁性粒子31となり残部が第2金属磁性粒子32となるように定められる。また、第2加熱温度は、導電性ペーストに含まれる導体粉が粒成長できる温度であることが望ましい。導体粉がCuやAgの場合には、600℃以上で導体粉に結晶粒成長を生じさせることができる。このような観点から、第2加熱温度は、例えば、600℃から700℃の間の温度とすることができる。第2加熱温度が高いほど酸化の進行が速いため、第2加熱時間は、第2加熱温度によって変わる。第2加熱温度が600℃の場合には、第2加熱時間は、1時間から6時間の間とすることができる。第2加熱温度が700℃の場合には、第2加熱時間は、30分から1時間の間とすることができる。
【0082】
このように、第2加熱処理により、未焼成導体パターンからコイル導体25が生成される。また、第2加熱処理により、成型体に含まれる金属磁性粉が酸化されて第1金属磁性粒子31又は第2金属磁性粒子32が生成され、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32が結合した基体10が得られる。このようにして、基体10内にコイル導体25が設けられた成型体が得られる。
【0083】
次に、ステップS7において、ステップS6で得られた成型体の表面に外部電極21及び外部電極22を形成する。外部電極21は、コイル導体25の一端に接続され、外部電極22は、コイル導体25の他端と接続される。外部電極21、22の形成前に、第2加熱処理後の成型体を樹脂に含浸させてもよい。成型体は、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に含浸される。これにより、基体10内の金属磁性粒子の隙間に樹脂が浸透する。そして、基体10に含浸した樹脂を硬化させることにより、基体10の機械的強度を向上させることができる。
【0084】
以上の工程により、コイル部品1が得られる。
【0085】
続いて、図8を参照して、別の実施形態によるコイル部品101について説明する。図8は、別の実施形態によるコイル部品101を示す正面図である。
【0086】
図8に示されているように、コイル部品101は、基体110と、基体110の巻芯に巻回された巻線125と、外部電極121と、外部電極122と、を備える。巻線125は、コイル導体の例である。外部電極121は、基体110の一方のフランジに設けられ、外部電極122は、基体110の他方のフランジに設けられている。巻線125は、その一端が外部電極121電気的に接続され、その他端が外部電極122と電気的に接続されるように構成されている。
【0087】
基体110は、基体10と同様に、複数の金属磁性粒子を含む。基体110に含まれる金属磁性粒子には、第1金属磁性粒子31と、第2金属磁性粒子32と、が含まれる。第1金属磁性粒子31には元素M析出物50が含まれるのに対して第2金属磁性粒子32には元素M析出物50が含まれない。基体10に関する説明は、文脈に反しない限り、基体110にも当てはまる。
【0088】
次に、図9を参照して、圧縮成型法によるコイル部品101の製造方法の一例について説明する。
【0089】
圧縮成型法によりコイル部品101を製造する場合、まずステップS11において、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の原料となる金属磁性粉(原料粉)をバインダー樹脂及び溶剤と混練して混合磁性材料を生成する。混合磁性材料は、ペースト状でもよく、造粒された磁性粉の様態であっても良い。
【0090】
次に、ステップS12において、ステップS11で準備された混合磁性材料を金型内に投入し、当該金型内で圧縮成形することで成型体を得る。
【0091】
次に、ステップS13において、ステップS12で得られた成型体が脱脂される。ステップS13における脱脂は、積層法におけるステップS4の脱脂と同様に行われる。
【0092】
次にステップS14において、ステップS13で脱脂された成型体に対して第1加熱処理を行う。ステップS14における第1加熱処理は、積層法におけるステップS5の第1加熱処理と同様に行われる。
【0093】
次に、ステップS15において、ステップS14で第1加熱処理が施された成型体に対して第2加熱処理を行う。ステップS15における第2加熱処理は、積層法におけるステップS6の第2加熱処理と同様に行われる。この第2加熱処理により、成型体から基体110が得られる。
【0094】
次に、ステップS16において、ステップS15で得られた基体110の巻芯に巻線125を巻回する。
【0095】
次に、ステップS17において、基体110に外部電極121、122を形成する。ステップS16で基体110に巻回された巻線125の両端が、対応する外部電極に接続される。以上により、圧縮成型法により作製された基体110を有するコイル部品101が作製される。
【0096】
一実施形態による基体10は、元素M析出物50を含有する複数の第1金属磁性粒子31と、元素M析出物50を含有しない複数の第2金属磁性粒子32とを含む。第1金属磁性粒子31は、その内部に元素M析出物50を含有しており、この元素M析出部50を含む結晶粒界領域31cにより複数の結晶粒(図5の例では、結晶粒CP1~CP3)に区画されている。このため、第1金属磁性粒子31においては、単一の結晶粒を含む金属磁性粒子と比べて結晶粒の粒径を小さくすることができ、これにより局所的な渦電流損失を抑制することができる。
【0097】
本発明者は、金属磁性粒子の原料粉には、内部に酸素が侵入しやすい易酸化粒子と、内部に酸素が侵入しにくい難酸化粒子とが混在していることに着目した。例えば、粒径が比較的小さな原料粉粒子は、粒径が比較的大きな原料粉粒子と比べて比表面積が大きい。このことから、第1加熱処理において、熱拡散により元素Mが各金属磁性粉粒子の表面付近まで移動すると、粒径が比較的小さな原料粉においては、粒径が比較的大きな原料粉と比べて表面積あたりの元素Mの量は少なくなるので、原料粉の内部に酸素が侵入しやすくなる。このため、粒径が比較的小さな原料粉粒子は粒径が比較的大きな原料粉粒子と比べて内部へ酸素が侵入しやすい。また、磁性基体の製造工程において(例えば、磁性体シートを作製するための圧縮成型時)、一部の原料粉粒子に比較的大きなひずみが生じることがある。大きなひずみが生じている原料粉粒子の内部にも酸素が侵入しやすい。原料粉の表面に元素Mを含む十分な厚さの酸化被膜が形成されると内部に酸素が侵入しにくい難酸化粒子となる。この酸化被膜は第2加熱処理時に形成されるが、原料粉のFeの比率が例えば95at%以上と非常に高いと酸化被膜の形成に必要な元素Mの量が少なくなるため十分な厚みの酸化被膜が形成されにくくなる。一部の原料粉の表面に十分な厚さの酸化被膜が形成されなかった場合には、当該原料粉は、内部に酸素が侵入しやすい易酸化粒子となる。
【0098】
第2加熱処理において、複数の結晶粒から構成される原料粉においては、複数の結晶粒の境界である結晶粒界に沿って酸素が内部に侵入して行くことがある。結晶粒の結晶粒界の近傍(結晶粒界領域31cに相当する領域)には元素Mが存在することがある。結晶粒の結晶粒界に入り込んだ酸素は、結晶粒界の近傍にある元素Mと結合し、結晶粒界領域31cに元素M析出物が析出する。このため、第1金属磁性粒子31は、表面領域31bに加えて、結晶粒界領域31cにおいても元素M析出物を含有する。このように、第2加熱処理時に、原料粉粒子の表面から内部に入り込んだ酸素は、表面領域31bに遍在する元素Mにより捕獲され、また、結晶粒界から内部に侵入した酸素は、結晶粒界の近傍にある元素Mにより捕獲されるため、中心領域31aにおけるFeの酸化が抑制される。
【0099】
第2加熱処理において原料粉の内部に侵入する酸素が過剰になると、次には、表面領域31bに存在する元素Mが全て酸素と結合し、酸素が表面領域31bを超えて中心領域31aまで侵入する。中心領域31aに侵入した酸素は、中心領域31aに存在しているFeを酸化させるので、原料粉の内部に酸素が過剰に侵入すると、基体10の磁気特性(透磁率)が劣化する。原料粉の内部に酸素が侵入した酸素が過剰か否かは、基体10に含まれる金属磁性粒子のうちどの程度の割合の粒子において元素M析出物50が析出しているかによって(つまり、析出物発生割合に応じて)判断することができる。例えば、基体10に含まれる金属磁性粒子のうち1%~10%の粒子において元素M析出物50が析出している場合(つまり、析出物発生割合が1%~10%の範囲にある場合)に、原料粉の内部に適量の酸素が侵入したと判断することができる。析出物発生割合が10%を超える場合には、難酸化粒子の一部にも酸素が侵入しているから、易酸化粒子に侵入する酸素は過剰となり、中心領域31aにも酸素が到達してしまう。反対に、析出物発生割合が1%未満の場合には、原料粉の酸化が不十分である可能性があり、酸化被膜41が金属磁性粒子間の電気的な絶縁のために十分な厚さだけ形成されず、基体10の絶縁特性が劣化してしまうおそれがある。このように、易酸化粒子において元素M析出物50が生成される一方で難酸化粒子においては元素M析出物50が生成されない条件で第2加熱処理を行うことにより(具体的には、析出物発生割合が1%~10%の範囲となる加熱条件で第2加熱処理を行うことにより)、易酸化粒子の中心領域への過剰な酸素の侵入を抑制し、中心領域31aにおけるFeの酸化を抑制することができる。この場合、難酸化粒子の中心領域への過剰な酸素の侵入も抑制される。よって、基体10に含まれる金属磁性粒子の各々において、高いFeの含有比率を実現することができる。
【0100】
また、コイル部品1、101の製造工程において易酸化粒子の内部に酸素が侵入しているため、各原料粉粒子の表面では添加元素の酸化が十分に進行している。よって、各金属磁性粒子の表面に絶縁性確保のために必要な厚さを有する酸化被膜41、42を形成することができる。
【0101】
さらに、元素M析出物50に含まれる元素Mの窒化物や酸化物は、Feと比べて透磁率が低いため、磁性基体において磁気ギャップとして機能する。上記の実施形態においては、第1金属磁性粒子31の表面領域31bに元素M析出物50を有しているので、この元素M析出物50が磁気ギャップとして機能することにより、コイル部品1、101の直流重畳特性を向上させることができる。第1金属磁性粒子31の表面領域31b及び結晶粒界領域31cの両方に元素M析出物50を有している場合には、磁気ギャップとして機能する領域が増加するから、コイル部品1、101の直流重畳特性をさらに向上させることができる。
【0102】
本明細書において説明された製造方法に含まれる工程の一部は、適宜省略可能である。コイル部品1の製造方法においては、本明細書において明示的に説明されていない工程が必要に応じて実行され得る。上記のコイル部品1の製造方法に含まれる各工程の一部は、本発明の趣旨から逸脱しない限り、随時順番を入れ替えて実行され得る。上記のコイル部品1の製造方法に含まれる各工程の一部は、可能であれば、同時に又は並行して実行され得る。
【0103】
前述の様々な実施形態で説明された各構成要素の寸法、材料及び配置は、それぞれ、各実施形態で明示的に説明されたものに限定されず、当該各構成要素は、本発明の範囲に含まれ得る任意の寸法、材料及び配置を有するように変形することができる。
【0104】
本明細書において明示的に説明していない構成要素を、上述の各実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0105】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0106】
本明細書では、以下の技術も開示される。
[付記1]
Fe及びFeより酸化しやすい元素M(ただし、元素Mは、Si、Cr及びAlから成る群より選択される少なくとも一つの元素である。)を含有する複数の金属磁性粒子と、
前記複数の金属磁性粒子の各々の表面に設けられた酸化被膜と、
を備え、
前記複数の金属磁性粒子は、前記元素Mを含む析出物を含有する複数の第1金属磁性粒子を含む、
磁性基体。
[付記2]
前記複数の金属磁性粒子は、前記析出物を含有しない複数の第2金属磁性粒子をさらに含む、
付記1に記載の磁性基体。
[付記3]
前記析出物は、前記元素Mを含む金属を含む、
付記1又は付記2に記載の磁性基体。
[付記4]
前記析出物は、Cr及びAlの少なくとも一方を含む、
付記3に記載の磁性基体。
[付記5]
前記析出物は、前記元素Mの酸化物を含む、
付記1から付記4のいずれか1項に記載の磁性基体。
[付記6]
前記析出物は、Cr及びAlの少なくとも一方を含む、
付記5に記載の磁性基体。
[付記7]
前記析出物は、前記元素Mの窒化物を含む、
付記1から付記6のいずれか1項に記載の磁性基体。
[付記8]
前記析出物は、Cr及びAlの少なくとも一方を含む、
付記7に記載の磁性基体。
[付記9]
前記複数の第1金属磁性粒子のうちの少なくとも一つは、複数の結晶粒を有し、前記複数の結晶粒の結晶粒界の近傍にある結晶粒界領域に前記析出物を含有する、
付記1から付記8のいずれか1項に記載の磁性基体。
[付記10]
前記複数の金属磁性粒子の各々は、前記結晶粒界領域に囲まれている結晶粒内側領域において、95at%以上のFeを含有する、
付記1から付記9のいずれか1項に記載の磁性基体。
[付記11]
前記複数の第1金属磁性粒子の各々は、前記結晶粒内側領域において、97at%以上のFeを含有する、
付記10に記載の磁性基体。
[付記12]
前記複数の第1金属磁性粒子の各々は、前記結晶粒内側領域において、98at%以上のFeを含有する、
付記11に記載の磁性基体。
[付記13]
前記複数の第1金属磁性粒子の各々は、前記結晶粒内側領域において、99at%以上のFeを含有する、
付記12に記載の磁性基体。
[付記14]
前記複数の金属磁性粒子の各々は、前記結晶粒界領域において0.01at%以上1.0at%以下の元素Mを含有する、
付記1から付記13のいずれか1項に記載の磁性基体。
[付記15]
観察視野に含まれる前記複数の金属磁性粒子の総数のうち、前記第1金属磁性粒子は、1%~10%を占める、
付記1から付記14のいずれか1項に記載の磁性基体。
[付記16]
前記酸化被膜は、Feの酸化物を含む、
付記1から付記15のいずれか1項に記載の磁性基体。
[付記17]
前記複数の金属磁性粒子は、一の金属磁性粒子と、前記一の金属磁性粒子に隣接する他の金属磁性粒子と、を含み、前記一の金属磁性粒子と前記他の金属磁性粒子とは前記一の金属磁性粒子の表面を覆う前記酸化被膜及び前記他の金属磁性粒子の表面を覆う前記酸化被膜により結合されている、
付記1から付記16のいずれか1項に記載の磁性基体。
[付記18]
Fe及びFeより酸化しやすい元素M(ただし、元素Mは、Si、Cr及びAlから成る群より選択される少なくとも一つの元素である。)を含有する複数の金属磁性粉を樹脂と混合して得られた混合樹脂組成物から成型体を得る工程と、
前記成型体を還元雰囲気下において第1温度で加熱する第1加熱工程と、
前記第1加熱工程の後に、前記成型体を、酸素を含む低酸素雰囲気において加熱することで、前記複数の金属磁性粉の各々の表面に前記元素Mの酸化物を含む酸化被膜を形成するとともに、前記複数の金属磁性粉の内部に元素Mを含む析出物を析出させる第2加熱工程と、
を備える磁性基体の製造方法。
【符号の説明】
【0107】
1、101 コイル部品
10、110 基体(磁性基体)
21、22、121、122 外部電極
31 第1金属磁性粒子
31a、32a 中心領域
31b、32b 表面領域
32 第2金属磁性粒子
41、42 酸化皮膜
50 析出物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9