(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006565
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】四塩化チタンの製造方法及び、スポンジチタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/02 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
C01G23/02 D
C01G23/02 E
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107444
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山中 理
(57)【要約】
【課題】粗四塩化チタンガスと接触させる粗四塩化チタン液の冷却装置を、比較的長い期間にわたって良好に使用することができる四塩化チタンの製造方法及び、スポンジチタンの製造方法を提供する。
【解決手段】この発明の四塩化チタンの製造方法は、塩化炉で生成する粗四塩化チタンガスから、四塩化チタンを製造する方法であって、塩化炉で生成した粗四塩化チタンガスを、冷却用の粗四塩化チタン液と接触させて凝縮し、粗四塩化チタン液を得る凝縮工程と、前記凝縮工程で得られた前記粗四塩化チタン液から一部の粗四塩化チタン液を分離し、当該一部の粗四塩化チタン液を、前記凝縮工程での前記冷却用の粗四塩化チタン液として用いるに先立ち、冷却装置で冷却する冷却工程とを含み、前記冷却工程にて、前記冷却装置の使用開始時点と前記使用開始時点から全使用期間の50%の期間が経過した時点との間の期間に、前記冷却装置の使用終了時点から全使用期間の50%の期間遡った時点と前記使用終了時点との間の期間よりも、前記冷却装置への冷媒の供給量を少なくし、及び/又は、前記冷却装置に供給する冷媒の温度を高くするというものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化炉で生成する粗四塩化チタンガスから、四塩化チタンを製造する方法であって、
塩化炉で生成した粗四塩化チタンガスを、冷却用の粗四塩化チタン液と接触させて凝縮し、粗四塩化チタン液を得る凝縮工程と、
前記凝縮工程で得られた前記粗四塩化チタン液から一部の粗四塩化チタン液を分離し、当該一部の粗四塩化チタン液を、前記凝縮工程での前記冷却用の粗四塩化チタン液として用いるに先立ち、冷却装置で冷却する冷却工程と
を含み、
前記冷却工程にて、前記冷却装置の使用開始時点と前記使用開始時点から全使用期間の50%の期間が経過した時点との間の期間に、前記冷却装置の使用終了時点から全使用期間の50%の期間遡った時点と前記使用終了時点との間の期間よりも、前記冷却装置への冷媒の供給量を少なくし、及び/又は、前記冷却装置に供給する冷媒の温度を高くする、四塩化チタンの製造方法。
【請求項2】
前記冷却工程にて、前記冷却装置での冷却後の粗四塩化チタン液の温度を60℃~80℃の範囲内に維持する、請求項1に記載の四塩化チタンの製造方法。
【請求項3】
前記冷却工程にて、前記冷却装置の使用開始時点と前記使用開始時点から全使用期間の50%の期間が経過した時点との間の期間に、前記冷却装置での冷却後の粗四塩化チタン液の温度を60℃~80℃の範囲内に維持する、請求項1に記載の四塩化チタンの製造方法。
【請求項4】
前記冷却工程で、前記冷却装置への冷媒の供給量を10L/min~5000L/minの範囲内で調整する、請求項1に記載の四塩化チタンの製造方法。
【請求項5】
前記冷却工程で、前記冷媒の温度を-10℃~40℃の範囲内で調整する、請求項1に記載の四塩化チタンの製造方法。
【請求項6】
前記一部の粗四塩化チタン液を冷却せずに前記冷却装置に送り、前記冷却工程にて前記冷却装置により冷却する、請求項1に記載の四塩化チタンの製造方法。
【請求項7】
前記凝縮工程で得られた前記粗四塩化チタン液の温度が、90℃以下である、請求項2に記載の四塩化チタンの製造方法。
【請求項8】
前記凝縮工程で得られた前記粗四塩化チタン液から分離した残部の粗四塩化チタン液に対し、蒸留を行う蒸留工程を含む、請求項1に記載の四塩化チタンの製造方法。
【請求項9】
スポンジチタンを製造する方法であって、
請求項1~8のいずれか一項に記載の四塩化チタンの製造方法で製造した四塩化チタンを用いる、スポンジチタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塩化炉で生成する粗四塩化チタンガスから、四塩化チタンを製造する方法、及び、その四塩化チタンを用いて、スポンジチタンを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スポンジチタンは工業的に、四塩化チタンを金属マグネシウムで還元するクロール法により広く製造されている。スポンジチタンの原料とする四塩化チタンを得るには、塩化炉にてチタン鉱石をコークスとともに加熱しながら、そこに塩素ガスを供給し、チタン鉱石中の酸化チタンを塩素と反応させることが行われる。
【0003】
塩化炉では、チタン鉱石やコークス等に由来する多数の不純物が含まれる粗四塩化チタンガスが生成する。塩化炉から排出された粗四塩化チタンガスは、凝縮装置にて冷却用の粗四塩化チタン液を吹きかけること等によって当該粗四塩化チタン液と接触させ、沸点以下の温度に冷却して凝縮させ、粗四塩化チタン液とする場合がある。
【0004】
上記のように粗四塩化チタンガスが凝縮して得られた粗四塩化チタン液は、その一部を、上記の冷却用の粗四塩化チタン液として用いるために分離し、熱交換器等の冷却装置で粗四塩化チタンガスの冷却に適した温度に冷却される。一方、粗四塩化チタン液の残部に対しては、四塩化チタン及び各不純物の沸点の差異を利用して分離・濃縮する蒸留や、蒸留を繰り返す精留を行うことにより、不純物の含有量が低減された液体状の四塩化チタン(精製四塩化チタン)が得られる。
【0005】
粗四塩化チタン液を粗四塩化チタンガスと接触させる前に冷却することに関し、特許文献1には、「流動炉で酸化チタン含有鉱石およびコークスを塩素ガスと反応させて粗TiCl4ガスを得て、このガスを粗TiCl4ガス冷却工程で冷却し、冷却された粗TiCl4ガスを凝縮装置で液化して粗TiCl4液とし、この粗TiCl4液を精製するTiCl4の製造方法において、粗TiCl4ガスの凝縮装置での液化を、凝縮装置で液化されて抜き出された粗TiCl4液を粗TiCl4液冷却器に導入して冷却し、冷却された粗TiCl4液を凝縮装置へ戻して粗TiCl4ガスに接触させることにより行い、かつ、粗TiCl4液冷却器に導入される粗TiCl4液の温度を85℃以下とすることを特徴とするTiCl4の製造方法」が提案されている。この特許文献1には、「TiCl4液に溶解するNbCl5とFeCl3の量は、TiCl4液の温度の上昇に伴い、二次関数的に急激に増加する。したがって、熱交換器に導入される粗TiCl4液の温度をあらかじめ低下させておけば、熱交換器内に持ち込まれる粗TiCl4液のNbCl5、FeCl3の濃度を大きく低下させ、これら塩化物の伝熱板表面への付着速度を大幅に低下させることができる。粗TiCl4液の温度の低下に伴い析出するNbCl5、FeCl3は、熱交換器に導入される前に沈降分離することができる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された方法では、「粗TiCl4液冷却器に導入される粗TiCl4液の温度を85℃以下とする」ため、「粗TiCl4液冷却器」への導入前の「ストレージタンク」等での事前の冷却が必要になる。その場合、事前の冷却で「ストレージタンク」の冷却機構の冷却面に不純物が析出して蓄積し、「粗TiCl4液冷却器」と同様に冷却能力が低下することから、「粗TiCl4液冷却器」や「ストレージタンク」に設置された冷却機構等の冷却装置の使用可能期間が短くなるという問題の根本的な解決には至っていない。
【0008】
この発明の目的は、粗四塩化チタンガスと接触させる粗四塩化チタン液の冷却装置を、比較的長い期間にわたって良好に使用することができる四塩化チタンの製造方法及び、スポンジチタンの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
四塩化チタンの製造設備の操業の間は、特許文献1にも記載されているように、粗四塩化チタン液の冷却装置の冷却能力が、その内部への不純物の析出ないし付着により次第に低下し得る。このような冷却能力の低下は、冷却装置の使用開始後の当該冷却の初期に冷却装置内で粗四塩化チタンが過剰に冷却された場合に特に顕著になることが新たにわかった。初期の過剰な冷却によって不純物が析出しやすくなり、この析出物が冷却装置の流路内壁に付着することにより冷却能力が急激に低下するためである。その結果、冷却装置の使用可能期間が大幅に短くなる。これに対し、発明者は、冷却装置での冷却の初期から末期の間に冷却装置の設定を変更し、初期に粗四塩化チタン液が冷却されすぎないようにすることにより、冷却装置の長寿命化を実現できることを見出した。
【0010】
この発明の四塩化チタンの製造方法は、塩化炉で生成する粗四塩化チタンガスから、四塩化チタンを製造する方法であって、塩化炉で生成した粗四塩化チタンガスを、冷却用の粗四塩化チタン液と接触させて凝縮し、粗四塩化チタン液を得る凝縮工程と、前記凝縮工程で得られた前記粗四塩化チタン液から一部の粗四塩化チタン液を分離し、当該一部の粗四塩化チタン液を、前記凝縮工程での前記冷却用の粗四塩化チタン液として用いるに先立ち、冷却装置で冷却する冷却工程とを含み、前記冷却工程にて、前記冷却装置の使用開始時点と前記使用開始時点から全使用期間の50%の期間が経過した時点との間の期間(以下、「使用開始側の50%の期間」ともいう。)に、前記冷却装置の使用終了時点から全使用期間の50%の期間遡った時点と前記使用終了時点との間の期間(以下、「使用終了側の50%の期間」ともいう。)よりも、前記冷却装置への冷媒の供給量を少なくし、及び/又は、前記冷却装置に供給する冷媒の温度を高くするというものである。上記の「使用開始時点」とは、凝縮工程で得られた粗四塩化チタン液から分離した一部の粗四塩化チタン液の、冷却装置への供給を開始した時点のことをいう。また、上記の「使用終了時点」とは、操業を停止して冷却装置のメンテナンス又は新品への交換を行う時点のことをいう。ここでは、使用開始側の50%の期間、及び、使用終了側の50%の期間のそれぞれの期間における冷却装置への冷媒の供給量の平均値、及び/又は、冷却装置に供給する冷媒の温度の平均値を算出し、使用開始側の50%の期間と使用終了側の50%の期間でのそれらの平均値の大小関係を確認する。冷媒の供給量や冷媒の温度の測定間隔は、その測定に使用する機器によるが、たとえば1秒程度とある程度短い間隔であれば十分高い精度の平均値を算出することができる。
【0011】
冷却装置の使用開始時点と使用開始時点から全使用期間の40%の期間が経過した時点との間の期間(以下、「使用開始側の40%の期間」ともいう。)に、冷却装置の使用終了時点から全使用期間の40%の期間遡った時点と使用終了時点との間の期間(以下、「使用終了側の40%の期間」ともいう。)よりも、冷却装置への冷媒の供給量を少なくし、及び/又は、冷却装置に供給する冷媒の温度を高くしてもよい。また、冷却装置の使用開始時点と使用開始時点から全使用期間の30%の期間が経過した時点との間の期間(以下、「使用開始側の30%の期間」ともいう。)に、冷却装置の使用終了時点から全使用期間の30%の期間遡った時点と使用終了時点との間の期間(以下、「使用終了側の30%の期間」ともいう。)よりも、冷却装置への冷媒の供給量を少なくし、及び/又は、冷却装置に供給する冷媒の温度を高くしてもよい。
【0012】
また、冷却装置での粗四塩化チタン液の冷却の初期に、粗四塩化チタン液の冷却の末期よりも、冷却装置への冷媒の供給量を少なくし、及び/又は、冷却装置に供給する冷媒の温度を高くすることもできる。ここでは、四塩化チタンの製造設備を連続して操業する間の冷却装置の全使用期間において、「冷却の初期」とは、冷却装置の使用開始時点から3日が経過するまでの期間を意味し、「冷却の末期」とは、冷却装置の使用終了時点よりも5日前の時点から、使用終了時点までの期間を意味する。上記の冷却の初期の2日(48時間)以上の期間において冷媒の供給量が、冷却の末期における最も多い供給量よりも少ない場合、及び/又は、上記の冷却の初期の2日(48時間)以上の期間において冷媒の温度が、冷却の末期における最も低い温度よりも高い場合、冷却の初期に冷却の末期よりも、冷媒の供給量を少なくし、及び/又は、冷媒の温度を高くしているとみなす。言い換えれば、冷却の初期の短い期間(1日(24時間)未満の期間)に、冷媒の供給量が冷却の末期の最も多い供給量よりも少なくならないことや、冷媒の温度が冷却の末期の最も低い温度よりも高くならないことがあってもかまわない。
【0013】
前記冷却工程では、前記冷却装置での冷却後の粗四塩化チタン液の温度(冷却目標温度)を60℃~80℃の範囲内に維持することが好ましい。
【0014】
前記冷却工程では、使用開始側の50%の期間に、前記冷却装置での冷却後の粗四塩化チタン液の温度(冷却目標温度)を60℃~80℃の範囲内に維持することがあっても構わない。
【0015】
前記冷却工程では、前記冷却装置への冷媒の供給量を10L/min~5000L/minの範囲内で調整することが好ましい。
【0016】
前記冷却工程では、前記冷媒の温度を-10℃~40℃の範囲内で調整することが好ましい。
【0017】
上記の製造方法では、前記一部の粗四塩化チタン液を冷却せずに前記冷却装置に送り、前記冷却工程にて前記冷却装置により冷却することが好ましい。
【0018】
前記凝縮工程で得られた前記粗四塩化チタン液の温度は、90℃以下であることが好ましい。
【0019】
前記凝縮工程で得られた前記粗四塩化チタン液から分離した残部の粗四塩化チタン液に対し、蒸留を行う蒸留工程を含むことが好ましい。
【0020】
この発明のスポンジチタンの製造方法は、上記のいずれかの四塩化チタンの製造方法で製造した四塩化チタンを用いるというものである。
【発明の効果】
【0021】
この発明の四塩化チタンの製造方法によれば、粗四塩化チタンガスと接触させる粗四塩化チタン液の冷却装置を、比較的長い期間にわたって良好に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明の一の実施形態に係る四塩化チタンの製造方法に用いることができる設備の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係る四塩化チタンの製造方法には、凝縮工程及び冷却工程が含まれる。凝縮工程では、塩化炉で生成した粗四塩化チタンガスを、冷却用の粗四塩化チタン液と接触させて凝縮し、粗四塩化チタン液を得る。凝縮工程で得られた粗四塩化チタン液は、その一部が分離されて冷却工程に供される。冷却工程では、当該一部の粗四塩化チタン液を冷却装置で冷却する。冷却工程を経て冷却された粗四塩化チタン液は、凝縮工程にて上記の冷却用の粗四塩化チタン液として、粗四塩化チタンガスに接触させるために用いられる。
【0024】
そして、冷却工程では、冷却装置の使用開始時点と使用開始時点から全使用期間の50%の期間が経過した時点との間の期間に、冷却装置の使用終了時点から全使用期間の50%の期間遡った時点と使用終了時点との間の期間よりも、冷却装置への冷媒の供給量を少なくし、及び/又は、冷却装置に供給する冷媒の温度を高くする。このように使用開始側の50%の期間に粗四塩化チタン液を冷却しすぎないことにより、その期間のおける冷却装置内での不純物の析出が抑えられるので、早期の冷却能力の低下、ひいては寿命の短期化を抑制することができる。さらに、冷却装置での冷却後の粗四塩化チタン液の温度が60℃~80℃の範囲内に維持されるように、操業開始からの時間の経過に伴う冷却装置の冷却能力の低下に応じて、操業の途中で冷却装置の設定を変更することが好ましい。この場合、冷却装置の冷却能力が低下しても、特にその冷却能力の低下前に、冷却装置での粗四塩化チタン液の過剰な冷却、冷却後の粗四塩化チタン液の過度な温度低下をより一層抑制することができる。その結果として、かかる過剰な冷却に起因する不純物の多量の析出が抑えられるので、冷却装置をさらに長期間にわたって良好に使用することができる。
【0025】
この実施形態の製造方法は、たとえば
図1に示すような設備を用いて実施されることがある。
図1に示す設備は、塩化工程を行う塩化炉1と、塩化炉1で生成した粗四塩化チタンガスに対して凝縮工程を行う凝縮装置2と、凝縮装置2で得られた粗四塩化チタン液を貯留する貯留タンク3と、貯留タンク3から送られて分離した一部の粗四塩化チタン液に対して冷却工程を行う冷却装置4と、蒸留工程として、貯留タンク3から送られて分離した残部の粗四塩化チタン液を蒸発させる蒸発釜5と、蒸発釜5で発生する粗四塩化チタンガスに対して精留を行う精留塔6とを備えるものである。以下に各工程の詳細について説明するが、所定の凝縮工程及び冷却工程を含むものであれば、この発明に包含される。
【0026】
(塩化工程)
塩化工程では、塩化炉1にてチタン鉱石中の酸化チタンの塩化反応を生じさせ、粗四塩化チタンガスを生成させる。
【0027】
より詳細には、たとえば、塩化炉1内にて1000℃程度の高温の温度下で、チタン鉱石及びコークスを含む原料の下方側から塩素ガスを上方側に向けて供給し、そこに流動層を形成する。流動層では粗四塩化チタンガスが生成される。なおこの際に、副生物として、二酸化炭素や硫黄含有化合物等も生成され得る。
【0028】
このようにして得られた粗四塩化チタンガスには、チタン鉱石やコークス等に由来する多くの不純物、具体的には、たとえば炭素、酸素、硫黄、リン、塩素、鉄、アルミニウム、ニオブ、バナジウム等が含まれ得る。
【0029】
ここでは、粗四塩化チタンガスや粗四塩化チタン液等の「粗四塩化チタン」とは、四塩化チタン(TiCl4)の他に上述したような不純物が含まれ、最終的に製造される四塩化チタン(精製四塩化チタン)よりも純度が低いものを意味する。なお、「四塩化チタン」という用語は、上記の粗四塩化チタンと精製四塩化チタンとを区別しないときに用いている。
【0030】
(凝縮工程)
塩化炉1で生成した粗四塩化チタンガスは、塩化炉1に接続されたコンデンサ等の凝縮装置2に送られ、凝縮装置2で沸点以下の温度に冷却されて粗四塩化チタン液になる。
【0031】
このとき、粗四塩化チタンガスの冷却には、後述する冷却工程を経た後の粗四塩化チタン液(「冷却用の粗四塩化チタン液」ともいう。)が用いられる。より詳細には、凝縮装置2内にて、そこに送り込まれる粗四塩化チタンガスに向けて粗四塩化チタン液を散布すること等により、粗四塩化チタンガスを粗四塩化チタン液と接触させることができる。粗四塩化チタンガスは、粗四塩化チタン液との接触によって冷やされて凝縮し、粗四塩化チタン液となる。
【0032】
凝縮工程で得られる粗四塩化チタン液の温度は、90℃以下に維持されればよく、特に65℃~90℃の範囲内であることが好ましい。凝縮工程で得られる粗四塩化チタン液の温度が上記のようにある程度低いと、その後の冷却工程で所定の温度になるまで温度を大きく低下させることを要しなくなるので、冷却装置4での不純物の析出量の増大を抑制することができる。一方、上記温度が高すぎると粗四塩化チタン液を循環させるためのポンプ(以下、「循環ポンプ」ともいう)の故障リスクが上昇するおそれがある。また、凝縮工程で得られる粗四塩化チタン液の温度が65℃未満の場合には、粗四塩化チタン液が過冷却の状態となり無駄な冷却エネルギーを消費するので、必要に応じて適温を維持すればよい。
【0033】
凝縮工程で得られる粗四塩化チタン液の温度が所定の範囲内に維持されるようにするための、操業の途中での冷却装置4の設定の変更には、冷却装置4への冷媒の供給量を変化させること、及び/又は、冷却装置4に供給する冷媒の温度を変化させること等が含まれ得る。より詳細には、たとえば、凝縮装置2の粗四塩化チタン液の入口2a及び出口2bのうち、特に出口2bでの粗四塩化チタン液の温度を監視し、その温度に応じて、冷却装置4の冷媒の流量調整バルブの開度を調整し、及び/又は、冷却装置4に供給する冷媒の温度を変更することを、自動又は手動で行うことができる。好ましくは、図示しない制御装置が設備にさらに含まれ、当該制御装置で、そのような調整や変更等の制御を自動で行う。
【0034】
凝縮工程で得られた粗四塩化チタン液は、必要に応じて、貯留タンク3内に貯留させてもよい。但し、貯留タンク3では、粗四塩化チタン液を冷却しないことが望ましい。また、貯留タンク3に限らず、凝縮工程で得られた粗四塩化チタン液は、凝縮装置2から貯留タンク3を経て、その一部が分離されて冷却装置4に送られるまでの間に冷却しないことが好適である。凝縮装置2から一部の粗四塩化チタン液を冷却装置4に送るまでの間に冷却すると、その冷却時に不純物が析出し、それによって当該冷却にて冷却能力の低下等の問題が起こることが懸念されるからである。なお、ここでいう冷却とは、熱交換器その他の機械等を用いる意図的な冷却を意味し、自然冷却はこれに該当しないので許容される。
【0035】
(冷却工程)
凝縮工程で得られた粗四塩化チタン液は、場合によっては貯留タンク3で貯留した後、その一部を分離させて冷却装置4に送られる。冷却装置4では、冷却工程として、その一部の粗四塩化チタン液を、凝縮工程での冷却用の粗四塩化チタン液として用いるのに適切な温度に冷却する。
【0036】
図1に示すような設備を操業して四塩化チタンを製造していると、操業開始からの時間の経過に伴い、冷却装置4内での不純物の析出を完全に防止することは困難であり、その析出によって冷却装置4の冷却能力が低下する。これに対しては、そのような冷却装置4の冷却能力の低下に応じて、操業の途中で冷却装置4の設定を変更することにより、冷却装置4での冷却後の粗四塩化チタン液の温度(すなわち、冷却装置4の出口4bでの粗四塩化チタン液の温度)が60℃~80℃の範囲内に維持されるようにすることが好ましい。冷却装置4での冷却後の粗四塩化チタン液の温度が60℃~80℃の範囲内に維持されるようにする期間は、冷却装置の全使用期間であってもよいが、少なくとも使用開始側の50%の期間とすることが好適である。
【0037】
このようにすれば、冷却能力の経時的な低下を見越して予め定めた過剰な設定を常に維持する場合における、特に操業初期の過度な冷却及び出口4bでの大幅な温度低下が回避されるので、不純物の析出量の増大、ひいては冷却能力の大きな低下を抑制することができる。この観点から、冷却装置4での冷却後の粗四塩化チタン液の温度は、60℃~70℃に維持されるようにすることが好ましい。
【0038】
冷却後の四塩化チタン液の温度が所定の範囲内に維持されるようにするための、操業の途中での冷却装置4の設定の変更には、冷却装置4への冷媒の供給量を変化させること、及び/又は、冷却装置4に供給する冷媒の温度を変化させること等が含まれ得る。より詳細には、たとえば、冷却装置4の出口4bでの粗四塩化チタン液の温度を監視し、その温度に応じて、冷却装置4の冷媒の流量調整バルブの開度を調整し、及び/又は、冷却装置4に供給する冷媒の温度を変更することを、自動又は手動で行うことができる。好ましくは、図示しない制御装置が設備にさらに含まれ、当該制御装置で、そのような調整や変更等の制御を自動で行う。
【0039】
この実施形態では、冷却装置4の使用終了側の50%の期間よりも使用開始側の50%の期間で、冷却装置への冷媒の供給量を少なくし、及び/又は、冷却装置に供給する冷媒の温度を高くする。また好ましくは、冷却装置4での粗四塩化チタン液の冷却の初期に、粗四塩化チタン液の冷却の末期よりも、冷却装置4への冷媒の供給量を少なくし、及び/又は、冷却装置4に供給する冷媒の温度を高くする。この場合、初期の過剰な冷却が抑えられるので、冷却装置の初期における不純物の多量の析出による使用期間の短期化を抑制できて、冷却装置の長寿命化を実現することができる。
【0040】
冷却装置への冷媒の供給量は、冷却の初期に、冷却の末期での値に対して5%~10%にすること、つまり、冷却の初期の2日(48時間)以上の期間において冷媒の供給量が、冷却の末期の最も多い供給量の5%~10%であることが好適である。また、冷媒の温度は、冷却の初期に、冷却の末期での値に対して±0℃~50℃にすること、つまり、冷却の初期の2日(48時間)以上の期間において冷媒の温度が、冷却の末期における最も高い温度に対して±0℃~50℃であることが好適である。なお、初期と末期との間の期間において一時的に、粗四塩化チタン液の冷却の末期よりも、冷却装置への冷媒の供給量を多くし、及び/又は、冷却装置に供給する冷媒の温度を低くしてもよい。但し、冷却の初期から冷却の末期にかけて、冷媒の供給量を次第に増加させること、及び/又は、冷媒の温度を次第に上昇させることが好ましい。
【0041】
冷却装置4への冷媒の供給量を変化させる場合、冷媒の供給量は、10L/min~5000L/minの範囲内で調整することが好ましい。冷媒の供給量を多くしすぎないことにより、粗四塩化チタン液の過度な冷却が抑制されやすくなる。一方、冷媒の供給量を少なくしすぎないことにより、凝縮装置2の出口2bの粗四塩化チタン液の温度が高くなり過ぎないようにし、後段での必要な冷却を抑制するとともに、循環ポンプの故障リスクを低減することができる。
【0042】
冷却装置4に供給する冷媒の温度を変化させる場合、冷媒の温度は、-10℃~40℃の範囲内で調整することが好ましい。冷媒の温度を低くしすぎないことにより、粗四塩化チタン液の過度な冷却が抑制されやすくなる。一方、冷媒の温度を高くしすぎないことにより、凝縮装置2の出口2bの粗四塩化チタン液の温度が高くなり過ぎないようにし、後段での必要な冷却を抑制するとともに、循環ポンプの故障リスクを低減することができる。
【0043】
また、冷却工程では、冷却装置4の内部における粗四塩化チタン液の温度の低下幅がある程度狭いことが、不純物の析出を抑制するとの観点から好適である。温度の低下幅が広いと、四塩化チタンにおける不純物の溶解度と温度との関係より、その温度の低下した分に応じた量の不純物が析出するからである。具体的には、冷却装置4の入口4aでの粗四塩化チタン液の温度T1と、冷却装置4の出口4bでの粗四塩化チタン液の温度T2の差分(T2-T1)の値である液温の低下幅ΔTは、15℃以下であればよく、1℃~15℃であることが好ましい。
【0044】
このようにして冷却装置4で冷却された粗四塩化チタン液は凝縮装置2に送られ、塩化炉1から凝縮装置2に流入した粗四塩化チタンガスとの接触及び、それによる粗四塩化チタンガスの冷却に用いられる。
【0045】
(蒸留工程)
冷却装置4に送られる一部の粗四塩化チタン液から分離した残部の粗四塩化チタン液は、蒸発釜5内で加熱されて蒸発し、蒸留されつつ、粗四塩化チタンガスになる。その後、粗四塩化チタンガスは、精留塔6に供給される。なお、蒸留工程においては、冷却装置4に送られる一部の粗四塩化チタン液から分離した残部の粗四塩化チタン液が、蒸発釜5を介さず直接精留塔6に供給される構成であってもよい。
【0046】
精留塔6内は、上下方向で異なる高さに配置された複数の棚板で区画されており、各段にて気液の接触により、沸点の違いに基づいて粗四塩化チタンの高沸点成分と低沸点成分とが分離される。これにより、精留塔6を通って得られる四塩化チタン(精製四塩化チタン)は、粗四塩化チタンガスに含まれていた不純物の多くが十分に除去されたものになる。なお、「蒸留」との用語は、四塩化チタン及び各不純物の沸点の差異を利用して分離・濃縮する蒸留だけでなく、その蒸留を繰り返す精留をも含む意味で使用している。
【0047】
(スポンジチタンの製造方法)
上述したようにして得られる四塩化チタンは、スポンジチタンの製造に用いることができる。
【0048】
スポンジチタンを製造するには、たとえば、還元容器内で、溶融状態の金属マグネシウムに四塩化チタンを滴下すること等により接触させ、式:TiCl4+2Mg→Ti+2MgCl2の反応に基づいて、金属マグネシウムで四塩化チタンを還元することが含まれる。この還元により、金属チタンがスポンジチタン塊として成長し、スポンジチタン塊が得られる。
【0049】
その後、スポンジチタン塊を還元容器から取り出して破砕することにより、所定の大きさのスポンジチタンを製造することができる。
【実施例0050】
次に、この発明の四塩化チタンの製造方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0051】
図1に例示するような四塩化チタンの製造設備を操業し、四塩化チタンを製造した。より詳細には、塩化炉で生成した粗四塩化チタンガスを凝縮装置に送り、凝縮装置内で冷却用の粗四塩化チタン液の散布により冷却して凝縮させ、それにより得られた粗四塩化チタン液を貯留タンクで貯留させた。貯留タンク内では粗四塩化チタン液の意図的な冷却は行わなかった。そして、貯留タンク内の粗四塩化チタン液の一部を冷却装置(熱交換器)で冷却した後、これを凝縮装置で冷却用の粗四塩化チタン液として用いた。粗四塩化チタン液の残部は、蒸発釜及び精留塔を用いて精留し、四塩化チタンの製造に供した。なお、ここでは、冷却装置における、冷却後の粗四塩化チタンの温度(冷却目標温度)を70℃に設定した。
【0052】
(比較例1)
操業の間、冷却装置の設定を変更せず、表1に示す冷媒の供給時の温度及び供給量を維持した。
【0053】
なお、表1中、「初期」及び「末期」は、先に述べたとおりである。表1の「寿命」は、冷媒の供給時の温度及び供給量を設定可能範囲の上限値に変更しても、冷却後の粗四塩化チタン液の温度が目標とする温度(冷却目標温度)よりも低下しなくなった時点を意味し、ここでは比較例1を基準とした指数値で示している。表2、3には、使用開始側及び使用終了側のそれぞれの50%の期間、30%の期間における各温度や供給量の平均値を示している。
【0054】
比較例1では、初期は冷却後の粗四塩化チタン液の温度(冷却装置の出口温度)が40℃まで低下したことに起因して、内部の不純物の付着量が増大して、冷却能力が早期に低下し、短期間のうちに冷却後の粗四塩化チタン液の温度が冷却目標温度の70℃を維持できなくなった。比較例1では、この状態を冷却装置の寿命が尽きたとみなした。
【0055】
(比較例2)
冷却装置への冷媒の供給時の温度を20℃に低下させたことを除いて、比較例1と同様にして操業を行った。
【0056】
比較例2では、冷媒の温度を低下させたことにより、初期の冷却後の粗四塩化チタン液の温度は30℃まで低下した。それにより、冷却装置の内部での不純物の付着及び成長が急速に進み、冷却装置の寿命が短くなった。但し、比較例2は、比較例1よりも寿命が短かったものの、冷媒の温度が低いことから粗四塩化チタン液が冷却されやすく、このため、装置寿命が極端に短くなることはなかった。
【0057】
(実施例1)
初期の冷却装置への冷媒の供給量を50L/minとし、冷却能力の低下に合わせて冷媒の供給量を増やしたことを除いて、比較例1と同様にして操業を行った。冷却の初期は、一定の冷媒温度及び供給量とした。
【0058】
実施例1では、初期は冷媒の供給量を抑えて粗四塩化チタン液を冷却しすぎず、その後は冷却能力の低下に合わせて冷媒の供給量を増やして、操業の間の冷却後の粗四塩化チタン液の温度を約70℃に維持した。その結果、冷却装置の内部での不純物の付着及び成長が抑制されて、比較例1及び2に比して寿命が飛躍的に延びた。
【0059】
(実施例2)
冷却装置への冷媒の供給時の温度を20℃としたことを除いて、実施例1と同様にして操業を行った。
【0060】
実施例2でも実施例1のように初期は冷媒の供給量を抑えたことにより、操業の間の冷却後の粗四塩化チタン液の温度が概ね70℃に維持され、寿命の大きな向上が確認された。なお、実施例2では、実施例1と比べて、冷媒の温度が低く粗四塩化チタン液が冷却されやすかったので、寿命がやや長くなった。
【0061】
(実施例3)
冷却装置への冷媒の供給時の温度を冷却能力の低下に合わせて低下させ、末期の冷媒の供給時の温度を20℃としたことを除いて、実施例1と同様にして操業を行った。
【0062】
その結果、実施例2と比較して、初期の冷却がさらに抑えられて、不純物の付着及び成長が抑制されたので、寿命がやや長くなった。
【0063】
(実施例4)
冷媒として不凍液(エチレングリコール系)を用いて、末期の冷却装置への冷媒の供給時の温度を-10℃としたことを除いて、実施例3と同様にして操業を行った。なお、不凍液は冷凍機(不図示)で冷却した。
【0064】
その結果、実施例3と比較して、冷媒の温度を末期にさらに低下させたことにより、寿命が長くなった。
【0065】
(実施例5)
冷媒の供給量を、冷却の初期において冷却装置の使用開始の1日目のみを1000L/minとしたことを除いて、実施例1と同様にして操業を行った。なお、実施例5においては、冷却後の粗四塩化チタン液の冷却目標温度を70℃に設定しているので、1日目に冷媒供給量を増加させて過剰に冷却したとしても、その後は冷却目標温度となるよう冷媒供給量が調整された。例えば、開始2日目の冷媒供給量は、表1に示した通り100L/minとなっていた。
【0066】
その結果、冷却装置の内部での不純物の付着及び成長が抑制されて、比較例1よりも寿命が延びた。ただし、1日目に冷媒の供給量を増加して過剰に冷却したことにより実施例1よりも冷却能力が低下し、2日目における冷却後の粗四塩化チタン液の温度を70℃に維持するために必要な冷媒供給量がわずかに増加するとともに、実施例1よりもわずかに寿命が短くなった。
【0067】
(実施例6)
冷媒の供給量を、冷却の初期において冷却装置の使用開始から2日目のみを1000L/minとしたことを除いて、実施例1と同様にして操業を行った。
【0068】
その結果、冷却装置の内部での不純物の付着及び成長が抑制されて、比較例1よりも寿命が延びた。ただし、2日目に冷媒の供給量を増加して過剰に冷却したことにより実施例1よりも冷却能力が低下したため、実施例1よりもわずかに寿命が短くなった。
【0069】
【0070】
【0071】
また、表1に示すように、比較例1、2では、初期に液温の低下幅ΔTが大きかったことにより、不純物の析出が大きくなり、このことが寿命の短期化につながったと考えられる。一方、実施例5、6では液温の低下幅ΔTが一時的に大きくなったときもあるものの、実施例1~6では、全体として液温の低下幅ΔTが小さかったことから、不純物の析出が抑えられて、寿命が長くなったと推測される。
【0072】
以上より、この発明によれば、冷却装置を比較的長い期間にわたって良好に使用できる可能性が示唆された。