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特開2025-6567積層セラミックコンデンサ及び積層セラミックコンデンサの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006567
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ及び積層セラミックコンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
H01G4/30 513
H01G4/30 512
H01G4/30 517
H01G4/30 201C
H01G4/30 201K
H01G4/30 311Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107446
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】松岡 亜友美
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC05
5E001AD00
5E001AE03
5E001AH09
5E001AJ01
5E001AJ02
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC40
5E082EE04
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG54
5E082PP03
5E082PP09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】焼結助剤による静電容量の低下が抑制された積層セラミックコンデンサ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】積層セラミックコンデンサは、2つの内部電極層及びそれらの間に配置されたセラミック層11を有する本体を備える。セラミック層は、焼結助剤が添加されたセラミック材料から形成される。第1内部電極層21は、主成分金属元素の焼結体である第1電極部21a及び第1電極部の間に介在している第1非電極部21bを有する。第2内部電極層22は、主成分金属元素の焼結体である第2電極部22a及び第2電極部の間に介在している第2非電極部22bを有する。第1非電極部及び第2非電極部は夫々、焼結助剤元素を含有する偏析部51a~f、52a~dを有する。積層方向に沿って本体を切断した断面における第1内部電極層の面積と第2内部電極層の面積との合計を表す第1面積に対する偏析部の面積を表す第2面積の比は、35%以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分金属元素を含有する第1内部電極層、第2内部電極層、積層方向において前記第1内部電極層と前記第2内部電極層との間に配置されており、焼結助剤元素を主成分とする焼結助剤が添加されたセラミック材料から形成されたセラミック層と、を有する本体と、
前記本体に、前記第1内部電極層と電気的に接続するように設けられた第1外部電極と、
前記本体に、前記第2内部電極層と電気的に接続するように設けられた第2外部電極と、
を備え、
前記第1内部電極層は、主成分金属元素の焼結体である第1電極部と、前記第1電極部に囲まれている第1非電極部と、を有し、
前記第2内部電極層は、主成分金属元素の焼結体である第2電極部と、前記第2電極部に囲まれている第2非電極部と、を有し、
前記第1非電極部及び前記第2非電極部はそれぞれ、前記焼結助剤元素を含有する偏析部を有し、
前記積層方向に沿って前記本体を切断した断面における前記第1内部電極層の面積と前記第2内部電極層の面積との合計を表す第1面積に対する前記偏析部の面積を表す第2面積の比は、35%以下である、
積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記第1面積に対する前記第2面積の比は、5%以上である、
請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記偏析部における前記焼結助剤元素の濃度は、20at%以上である、
請求項1又は2に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記第1内部電極層は、副元素をさらに含有し、
前記副元素は、Al、Zn、B、及びSiから成る群より選択される少なくとも一つの元素である、
請求項1又は2に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
前記偏析部は、前記副元素を含有する、
請求項4に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項6】
前記偏析部における前記副元素の濃度は、5at%以上である、
請求項5に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項7】
前記セラミック層は、前記セラミック材料の焼結体である複数の結晶粒を含み、
前記セラミック層において、前記第1内部電極層と前記第2内部電極層との間に介在する前記結晶粒の数は、3以下である、
請求項1又は2に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項8】
請求項1に記載の積層セラミックコンデンサを備える回路モジュール。
【請求項9】
請求項8に記載の回路モジュールを含む、電子機器。
【請求項10】
焼結助剤を含むセラミックグリーンシートと、前記セラミックグリーンシートの第1面及び第2面に設けられており主成分金属元素を含有する内部電極パターンと、を含むグリーン積層体を準備する準備工程と、
前記焼結助剤の軟化点よりも高く前記主成分金属元素の焼結が起こるキープ温度で前記グリーン積層体を第1保持時間だけ加熱する第1加熱工程と、
前記第1加熱工程の後に、前記キープ温度よりも高い焼成トップ温度で、前記グリーン積層体を加熱する第2加熱工程と、
を備える積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項11】
前記内部電極パターンは、副元素(ただし、前記副元素は、Al、Zn、B、及びSiから成る群より選択される少なくとも一つの元素である。)を含有する、
請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、主に、積層セラミックコンデンサ及び当該積層セラミックコンデンサの製造方法に関する。本明細書の開示は、また、積層セラミックコンデンサを備える回路モジュール、及び回路モジュールを備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な電子機器において積層セラミックコンデンサが用いられている。積層セラミックコンデンサは、セラミック粉末を含有するセラミックグリーンシートの表面に内部電極パターンが形成された積層ユニットを積層してグリーン積層体を形成し、このグリーン積層体を焼成することで作製される。セラミックグリーンシートに焼結助剤を添加することで、低温での焼成処理によりセラミック粉末の焼結を促進できることが知られている。焼結助剤としては、焼成処理時に液相となるSi(ケイ素)などが知られている。焼結助剤が添加されたセラミックグリーンシートを用いて作製される従来の積層セラミックコンデンサは、特開2009-084111号公報に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-084111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
焼結助剤は、セラミックグリーンシートの主相酸化物(例えば、チタン酸バリウム)と比べて比誘電率が低いので、焼結助剤の添加量が多くなると積層セラミックコンデンサの静電容量が低下するという問題がある。他方、焼結助剤の添加量が少ないと、グリーン積層体を低温で焼結したときにセラミック層が十分に緻密化しないという問題がある。
【0005】
本明細書において開示される発明の目的は、上述した問題の少なくとも一部を解決または緩和することである。本明細書において開示される発明のより具体的な目的の一つは、焼結助剤による静電容量の低下が抑制された積層セラミックコンデンサを提供することである。
【0006】
本発明の前記以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。本明細書に開示される発明は、「発明を解決しようとする課題」の欄の記載以外から把握される課題を解決するものであってもよい。本明細書に、実施形態の作用効果が記載されている場合には、その作用効果から当該実施形態に対応する発明の課題を把握することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書において開示される様々な発明は、単に「本発明」と呼ばれることがある。本発明の一態様における積層セラミックコンデンサは、第1内部電極層、第2内部電極層、及び第1内部電極層と第2内部電極層との間に配置されたセラミック層と、を有する本体を備える。セラミック層は、焼結助剤元素を主成分とする焼結助剤が添加されたセラミック材料から形成される。本体には、第1内部電極層と電気的に接続するように第1外部電極が設けられる。また、本体には、第2内部電極層と電気的に接続するように第2外部電極が設けられる。第1内部電極層は、主成分金属元素の焼結体である第1電極部と、第1電極部に囲まれている第1非電極部と、を有する。第2内部電極層は、主成分金属元素の焼結体である第2電極部と、第2電極部に囲まれている第2非電極部と、を有する。第1非電極部及び第2非電極部はそれぞれ、焼結助剤元素を含有する偏析部を有する。積層方向に沿って本体を切断した断面における第1内部電極層の面積と第2内部電極層の面積との合計を表す第1面積に対する、偏析部の面積を表す第2面積の比は、35%以下である。
【発明の効果】
【0008】
本明細書に開示されている発明の一実施形態によれば、焼結助剤による静電容量の低下が抑制された積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサを模式的に示す斜視図である。
図2図1のコンデンサをI-I線で切断した断面を模式的に示す断面図である。
図3図2の断面の一部(領域A)を拡大して示す拡大断面図である。
図4図2の断面の一部(領域B)を拡大して示す拡大断面図である。
図5】本発明の一実施形態に従った積層セラミックコンデンサの製造方法の流れを示すフロー図である。
図6a】積層セラミックコンデンサの作製工程を説明する模式図である。
図6b】積層セラミックコンデンサの作製工程を説明する模式図である。
図7】非電極部にセラミック層が侵入している従来の積層セラミックコンデンサの断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一又は類似の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。以下で説明される実施形態は、必ずしも特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。以下の実施形態で説明されている諸要素が発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
各図には、説明の便宜のため、互いに直交するL軸、W軸、及びT軸が記載されていることがある。本明細書において、積層セラミックコンデンサ1の各構成部材の寸法、配置、形状、及びこれら以外の特徴は、L軸、W軸、及びT軸を基準に説明されることがある。
【0012】
1 積層セラミックコンデンサ1
1-1 積層セラミックコンデンサ1の基本構造
図1及び図2を参照して、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1の基本構造について説明する。図1は、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1の斜視図である。図2は、積層セラミックコンデンサ1をI-I線で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【0013】
積層セラミックコンデンサ1は、本体10と、本体10に設けられた第1外部電極31と、第2外部電極32と、を備える。第1外部電極31は、第2外部電極32から離間して配置されている。図2に示されている例では、第1外部電極31は、L軸方向において第2外部電極32から離間して配置されている。
【0014】
本体10は、複数のセラミック層11と、複数の第1内部電極層21と、複数の第2内部電極層22と、を含む。第1内部電極層21と、この第1内部電極層21に隣接する第2内部電極層22との間には、セラミック層11が配置されている。本明細書において、第1内部電極層21と第2内部電極層22とを互いから区別する必要がない場合には、第1内部電極層21及び第2内部電極層22を総称して「内部電極層」と呼ぶことがある。
【0015】
本体10は、上面10a、下面10b、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fを有する。本体10は、上面10a、下面10b、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fによって、その外表面が画定される。
【0016】
上面10a及び下面10bはそれぞれ本体10の高さ方向(T軸方向)両端の面を成す。言い換えると、上面10a及び下面10bは、T軸方向において相対している。第1端面10c及び第2端面10dはそれぞれ本体10の長さ方向(L軸方向)両端の面を成す。言い換えると、第1端面10c及び第2端面10dは、L軸方向において相対している。第1側面10e及び第2側面10fはそれぞれ本体10の幅方向(W軸方向)両端の面を成している。言い換えると、第1側面10e及び第2側面10fは、W軸方向において相対している。上面10aと下面10bとの間は本体10の高さ寸法だけ離間しており、第1端面10cと第2端面10dとの間は本体10の長さ寸法だけ離間しており、第1側面10eと第2側面10fとの間は本体10の幅寸法だけ離間している。
【0017】
本体10は、セラミック層11、第1内部電極層21、及び第2内部電極層22を積層方向に沿って積層することで構成される。図示の実施形態では、セラミック層11、第1内部電極層21、及び第2内部電極層22がT軸方向に沿って積層されている。積層方向は、図示のようにT軸に沿う方向であってもよいし、L軸又はW軸に沿う方向であってもよい。積層方向の両端に配置されているセラミック層11は、カバー層と呼ばれることがある。
【0018】
図示の実施形態において、本体10は、セラミック層11、第1内部電極層21、及び第2内部電極層22をT軸方向に沿って積層することで構成されている。このため、T軸方向は、積層方向と呼ばれてもよい。この積層体の上面には、上側カバー層が設けられても良い。この積層体の下面には、下側カバー層が設けられてもよい。上側カバー層及び下側カバー層は、セラミック層11と同じ材料から構成されてもよい。上側カバー層及び下側カバー層は、本体10の一部であってもよい。
【0019】
第1内部電極層21は、その一端が本体10の外部に向かって引き出される。第1内部電極層21は、本体10の表面に設けられた第1外部電極31と接続される。第2内部電極層22は、その一端が本体10の外部に向かって引きだされる。第2内部電極層22は、本体10の表面に設けられた、第2外部電極32と接続される。図示の実施形態においては、第1内部電極層21は、L軸方向の一端から本体10の外部に向かって引き出されている。第1内部電極層21は、本体10のL軸方向の一端において、第1外部電極31と接続されている。第2内部電極層22は、L軸方向の他端から本体10の外部に向かって引き出されている。第2内部電極層22は、本体10のL軸方向の他端において、第2外部電極32と接続されている。図2に示されている例では、第1内部電極層21及び第2内部電極層22は、相対する第1端面10c及び第2端面10dにそれぞれ引き出されているが、第1内部電極層21及び第2内部電極層22は、第1外部電極31及び第2外部電極32の配置及び形状に応じて、本体10の様々な面から引き出され得る。例えば、第1外部電極31及び第2外部電極32がいずれも下面10bに配置されている場合には、第1外部電極31及び第2外部電極32はいずれも下面から引き出される。第1外部電極31及び第2外部電極32は、互いから離間している限り、本体10のいずれの表面に設けられてもよい。
【0020】
第1外部電極31と第2外部電極32との間に電圧が印加されると、第1内部電極層21と第2内部電極層22との間に静電容量が生じる。
【0021】
図2においては、図示の簡略化のために、第1内部電極層21及び第2内部電極層22がそれぞれ5層ずつ示されているが、積層セラミックコンデンサ1は、任意の積層数を設定することができる。例えば、300~1000層の第1内部電極層21及び第2内部電極層22を備えることができる。言い換えると、積層セラミックコンデンサ1における積層数は、300~1000層とすることができる。
【0022】
積層セラミックコンデンサ1は、電子回路基板(不図示)に実装され得る。積層セラミックコンデンサ1が搭載された電子回路基板は、回路モジュールと呼ばれることがある。回路モジュールには、積層セラミックコンデンサ1以外の様々な電子部品も実装され得る。この回路モジュールは、様々な電子機器に搭載され得る。回路モジュールが搭載され得る電子機器には、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品、サーバ及びこれら以外の様々な電子機器が含まれる。
【0023】
一態様において、本体10は、直方体形状を有するように構成されてもよい。本明細書において「直方体」または「直方体形状」という場合には、数学的に厳密な意味での「直方体」のみを意味するものではない。後述するように、本体10の角及び/または辺は、湾曲していてもよい。本体10の寸法及び形状は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0024】
一態様において、積層セラミックコンデンサ1のL軸方向における寸法(長さ寸法)は、0.2mm~2.5mmの範囲にあり、W軸方向における寸法(幅寸法)は0.1mm~3.5mmの範囲にあり、T軸方向における寸法(高さ寸法)は0.1mm~3.0mmの範囲にある。一態様において、積層セラミックコンデンサ1の長さ寸法は、幅寸法よりも大きくてもよい。一態様において、積層セラミックコンデンサ1の高さ寸法は、幅寸法よりも大きくてもよい。一態様において、積層セラミックコンデンサ1の幅寸法は、長さ寸法よりも大きくてもよい。
【0025】
1-2 第1内部電極層21及び第2内部電極層22
1-2-1 第1内部電極層21及び第2内部電極層22の組成
一態様において、第1内部電極層21は、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Sn(スズ)等の卑金属を主成分として含む。第1内部電極層21の全質量を基準にして、第1内部電極層21に50wt%以上含まれている成分を、第1内部電極層21の主成分とすることができる。第1内部電極層21は、主成分である卑金属を、60wt%以上、70wt%以上、80wt%、又は90wt%以上含有することが望ましい。
【0026】
第1内部電極層21は、主成分金属元素に加え、副元素を含むことができる。第1内部電極層21は、セラミック層11の原料に添加される焼結助剤(後述する。)に含まれる焼結助剤元素と化合物を形成しやすい元素である。第1内部電極層21に含まれ得る副元素は、例えば、Al(アルミニウム)、Zn(亜鉛)、B(ホウ素)、及びSi(ケイ素)から成る群より選択される一の元素又は二以上の元素である。
【0027】
一態様において、内部電極層は、主成分金属元素100at%に対して、0.01at%以上5at%以下の副元素を含有することができる。内部電極層が副元素として2種類以上の元素を含有する場合には、この2種類以上の副元素の合計の濃度が0.01at%以上5at%とされる。
【0028】
第1内部電極層21の成分に関する説明は、第2内部電極層22の成分にも当てはまる。
【0029】
一態様において、第1内部電極層21の膜厚(T軸方向における寸法)は、0.1μm以上2μm以下とされる。一態様において、第1内部電極層21の膜厚は、0.4μm以下であることが望ましい。第1内部電極層21の膜厚に関する説明は、第2内部電極層22にも当てはまる。
【0030】
1-2-2 電極部及び非電極部
図3を参照して、内部電極層についてさらに説明する。図3は、図2に示されている本体10の断面の領域Aを拡大して示す拡大断面図である。領域Aは、L軸方向の寸法L0が50μm程度の領域である。図3に示されているように、第1内部電極層21は、主成分金属元素を含む第1電極部21aと、第1電極部21a間に囲まれている第1非電極部21bと、を含む。第1内部電極層21は、複数の第1非電極部21bを含むことができる。第1電極部21aは、主成分金属元素の焼結体を含む。したがって、第1電極部21aは、高い導電性を有する。図3に示されているように、第1内部電極層21の第1電極部21aは、積層方向(図3では、T軸方向)に沿って切断された断面においては、第1非電極部21bによって分離された複数の部位に分離して配置されているように観察される。
【0031】
第1非電極部21bは、L軸方向において隣接する第1電極部21a間に介在しており、第1電極部21aと比べて高い絶縁性を有する。従来の積層セラミックコンデンサも、内部電極層内に絶縁性の高い高絶縁領域を含む。従来の積層セラミックコンデンサの内部電極において絶縁性が高い領域の大部分は、セラミック層の一部および/又は空隙(ボイド)によって占められている。これに対して、本発明における第1非電極部21bは、後述するように、積層セラミックコンデンサ1の製造過程において、第1電極部21a間に流れ込んだ液相の焼結助剤が固化することで形成された二次相を含む。よって、第1非電極部21bは、焼結助剤に含有される焼結助剤元素が含有される。第1非電極部21bの一部は、副元素の酸化物、セラミック層11の一部、及び/又は空隙(ボイド)によって占められていてもよい。
【0032】
詳しくは後述するように、第1内部電極層21は、主成分金属元素を含む内部電極パターンを焼成することで形成される。この焼成処理において主成分金属元素の焼結が進むと、主成分金属元素の焼結体の形状は、球形状に近づく。焼成処理において、主成分金属元素の焼結体が球形状化することにより、隣接する主成分金属元素の焼結体の間に空隙が生じる。従来の積層セラミックコンデンサにおいては、主成分金属元素の焼結体の間に空隙が生じた後にセラミック層の焼結が進行することで、焼結したセラミック層の一部が主成分金属元素の焼結体の間の空隙(ボイド)に入り込む。このため、従来の積層セラミックコンデンサにおいては、内部電極層内の主成分金属元素の焼結体の間に高絶縁領域を含み、この高絶縁領域の大部分は、セラミック層の一部および/又は空隙(ボイド)によって占められる。これに対して、本明細書で説明される積層セラミックコンデンサ1においては、製造時の焼成過程において、主成分金属元素の焼結体の間に形成される空隙(ボイド)に、焼結したセラミック層が侵入する前に、軟化した液相の焼結助剤が、主成分金属元素の焼結体の間の空隙に侵入することができる。
【0033】
一態様において、積層セラミックコンデンサ1における内部電極層の連続率は、75%以上であることが望ましい。連続率は、80%以上であることが望ましく、90%以上であることがさらに望ましい。第1内部電極層21の連続率は、以下のようにして算出することができる。まず、積層セラミックコンデンサ1をLT面が観察面となるように研磨する。次に、この観察面に含まれる領域AをSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、このSEM像においてコントラスト差により明るく見える領域を第1電極部21aとして特定する。そして、この第1電極部21aの長さ(図示の例では、L軸方向に沿う長さ)を測長し、側長された長さL1,L2,・・・,Lnを合計する。この領域Aにおける第1電極部21aの長さの合計を、測長領域の長さL0で除した値(すなわち、(L1+L2+・・Ln)/L0)を、一つの第1内部電極層21の連続率と定義することができる。本体10には、の第1内部電極層21が含まれており、連続率は、この複数の第1内部電極層21のうちどの層に着目するかで変わり得る。そこで、異なる10本の第1内部電極層21を選択し、この選択された第1内部電極層21の各々について算出した連続率の平均を、積層セラミックコンデンサ1における第1内部電極層21の連続率と定義することができる。
【0034】
第1内部電極層21と同様に、第2内部電極層22も、主成分金属元素を含む電極部と、電極部に囲まれている非電極部と、を備えることができる。具体的には、図3に示されているように、第2内部電極層22は、主成分金属元素を含む第2電極部22aと、第2電極部22aに囲まれている第2非電極部22bと、を含む。第2内部電極層22は、複数の第2非電極部22bを含むことができる。第1非電極部21bは、積層セラミックコンデンサ1の製造過程において、第1電極部21a間に流れ込んだ液相の焼結助剤が固化することで形成された二次相を含んでもよい。第2内部電極層22の連続率は、第1内部電極層21の連続率と同様に定義される。また、第1内部電極層21の連続率と第2内部電極層22の連続率との平均を、積層セラミックコンデンサ1における内部電極層の連続率とすることができる。
【0035】
積層セラミックコンデンサ1においては、第1内部電極層21の第1電極部21aと第2内部電極層22の第2電極部22aとが積層方向、すなわち図示の実施形態においてはT軸方向において相対している領域において容量が発生する。逆に、第1非電極部21b及び第2非電極部22bは、容量を発生させない。よって、積層セラミックコンデンサ1を高容量とするために、内部電極層の連続率は、高い方が望ましい。一態様において、内部電極層の連続率は、75%以上である。内部電極層の連続率は、80%以上であることが望ましく、90%以上であることがさらに望ましい。内部電極層の連続率を高くすることにより、積層セラミックコンデンサ1の静電容量を向上させることができる。
【0036】
第1非電極部21bは、内部電極層の断面の長さ方向、すなわち図示の実施形態においてはL軸方向において、積層セラミックコンデンサ1において容量を発生させる第1電極部21aの間に介在している。同様に、第2非電極部22bは、内部電極層の断面の長さ方向、すなわち図示の実施形態においてはL軸方向において、積層セラミックコンデンサ1において容量を発生させる第2電極部22aの間に介在している。このような第1電極部21aに対する第1非電極部21bの配置及び第2電極部22aに対する第2非電極部22bの配置に着目して、本願明細書では、第1非電極部21b及び/又は第2非電極部22bを「内部電極間」又は「内部電極間領域」と呼ぶことがある。
【0037】
1-3 セラミック層11
1-3-1 セラミック層11の組成
セラミック層11は、化学式ABO3で表されるセラミック材料の結晶を主成分として含む。つまり、セラミック層11は、化学式ABO3で表される酸化物の結晶を主相として含む。この酸化物は、ペロブスカイト構造を有していてもよい。セラミック層11の全質量を基準にして、セラミック層11に50wt%以上含まれている成分を、セラミック層11の主成分とすることができる。化学式ABO3で表される酸化物がセラミック層11に50wt%以上含まれている場合に、セラミック層11は、化学式ABO3で表される酸化物を主成分として含むということができる。セラミック層11は、化学式ABO3で表される酸化物を60wt%以上、70wt%以上、80wt%、又は90wt%以上含有することが望ましい。
【0038】
化学式ABO3において、「A」は、Ba(バリウム)、Sr(ストロンチウム)、Ca(カルシウム)、及びMg(マグネシウム)からなる群から選択される少なくとも1つの元素である。化学式ABO3において、「B」は、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、及びHf(ハフニウム)からなる群から選択される少なくとも1つの元素である。化学式ABO3で表される酸化物がペロブスカイト構造を有する場合には、元素「A」及び「B」はそれぞれ、ペロブスカイト構造のAサイト及びBサイトに位置する。セラミック層11に主成分として含まれる酸化物の例には、BaTiO3(チタン酸バリウム)、CaZrO3(ジルコン酸カルシウム)、CaTiO3(チタン酸カルシウム)、SrTiO3(チタン酸ストロンチウム)、及びMgTiO3(チタン酸マグネシウム)が含まれる。
【0039】
セラミック層11に主成分として含まれる酸化物は、化学式Ba1-x-yCaxSryTi1-zZrz3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)で表される酸化物であってもよい。この種の酸化物の例には、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、及びチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムが含まれる。
【0040】
セラミック層11は、主成分の酸化物以外に、添加物元素を含むことができる。一態様において、セラミック層11に含まれる添加物元素は、Fe、Ni、Mo、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、W、Mg、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、及びCrから成る群より選択される少なくとも一つの元素である。セラミック層11は、上記の添加物元素を、2種類以上含有してもよい。
【0041】
セラミック層11は、主成分の酸化物以外に希土類元素の酸化物を含んでもよい。セラミック層11に含まれる希土類元素の酸化物は、Y(イットリウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユーロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、およびYb(イッテルビウム)から成る群より選択される少なくとも一つの希土類元素の酸化物であってもよい。セラミック層11は、希土類元素の酸化物を、2種類以上含有してもよい。
【0042】
セラミック層11には、さらに別の種類の酸化物が含まれてもよい。セラミック層11は、例えば、Co、Ni(ニッケル)、Na(ナトリウム)、及びK(カリウム)から成る群より選択される少なくとも一つの元素の酸化物を含んでもよい。セラミック層11は、これらの元素の酸化物を、2種類以上含有してもよい。
【0043】
一態様において、セラミック層11の膜厚(T軸方向における寸法)は、0.2~10μmとされる。
【0044】
1-3-2 結晶粒
セラミック層11は、セラミック材料の結晶粒(セラミックグレイン)を複数含んでいる。つまり、セラミック層11は、複数の結晶粒40を含有する多結晶体である。複数の結晶粒のうち少なくとも一部は、コアシェル構造を有する。図4をさらに参照して、セラミック層11に含まれる結晶粒について説明する。図4は、図2に示されている本体10の断面の領域Aを拡大して示す拡大断面図であり、図4は、一つの結晶粒の断面を模式的に示す。領域Aは、第1内部電極層21からセラミック層11を通り第2内部電極層22まで延在している。
【0045】
図3に示されているように、セラミック層11には、複数の結晶粒40が含まれる。
【0046】
図示の実施形態において、結晶粒40は、コア部41と、シェル部42と、を有する。セラミック層11に添加されている元素(例えば、希土類元素)は、コア部41より、シェル部42に多く固溶する。コア部41とシェル部42とは、例えば、STEM-EDSにより得られたマッピング像におけるコントラスト差により識別される。上記のとおり、セラミック層11に含有される添加元素は、コア部41と比べてシェル部42に多く固溶するため、観察視野のうち、これらの添加元素が多く検出された領域をシェル部42と特定することができる。
【0047】
隣接する結晶粒40同士は、粒界45により隔てられている。原子が規則正しく並んでいる複数の結晶粒40と、この複数の結晶粒40のうち隣接するもの同士の間に介在する粒界45と、を有する。第1内部電極層21と、当該第1内部電極層21に隣接する第2内部電極層22との間に介在する結晶粒40の数は、図示されているように、3以下であってもよい。第1内部電極層21と第2内部電極層22との間に介在する結晶粒40の数を少なくすることで、高い静電容量を得ることができる。複数の結晶粒40のうち第1内部電極層21に隣接しているものと第1内部電極層21との間には、第1界面層47が設けられている。また、複数の結晶粒40のうち第2内部電極層22に隣接しているものと第2内部電極層22との間には、第2界面層48が設けられている。
【0048】
積層セラミックコンデンサ1の製造時には、セラミック層11の前駆体であるセラミックグリーンシートに焼結助剤が添加され、このセラミックグリーンシートと、当該セラミックグリーンシートの表面に形成されたNi等の主成分金属元素を含む内部電極パターンと、を有する積層ユニットを所定枚数だけ積層してグリーン積層体を形成し、このグリーン積層体を焼成することで積層セラミックコンデンサ1が作製される。グリーン積層体を焼成することにより、セラミックグリーンシートがセラミック層11となり、内部電極パターンが第1内部電極層21及び第2内部電極層22となる。焼成時には、焼結助剤が液相となり、この液相にセラミックグリーンシートに含まれる原料粉の元素が溶出し、この溶出した元素が結晶上に析出することで、結晶粒40の成長が促進される。また、液相中で結晶粒40の再配列が促進されることにより、セラミック層11が緻密化する。焼結助剤としては、低融点ガラスを用いることができる。焼結助剤として用いられる低融点ガラスは、例えば、SiO2、B23及びこれらの混合物を含有することができる。焼結助剤としては、様々な低融点ガラスを用いることができる。焼結助剤として用いることができる低融点ガラスの例として、ホウシリケートガラス及びリン酸ガラスが挙げられる。B23もしくはP25の粉末またはこれらの混合物粉末を焼結助剤として用いても良い。本明細書においては、焼結助剤に含まれる酸素以外の元素を「焼結助剤元素」と呼ぶことがある。例えば、焼結助剤としてSiO2を含有する低融点ガラスが用いられる場合には、Siが焼結助剤元素となる。Si、B、及びPが焼結助剤元素の例として挙げられる。
【0049】
セラミックグリーンシートに十分な量の焼結助剤を添加することにより、低温(例えば、1100℃以下)で焼成した時でも、セラミックグリーンシートに含まれている原料粉の焼結が促進され、また、結晶粒40の緻密化が促進される。
【0050】
粒界45、第1界面層47、及び第2界面層48には、焼成時に液相になった焼結助剤が固化することで形成された二次相、及び、セラミック層11を構成する主相酸化物(主成分酸化物)に含まれる元素の酸化物が含まれる。例えば、セラミック層11の主成分酸化物がチタン酸バリウムである場合には、粒界45、第1界面層47、及び第2界面層48には、二次相、チタンの酸化物(TiO2)、及びバリウムの酸化物(BaO)が含有される。
【0051】
1-4 偏析部
第1非電極部21b及び第2非電極部22bには、偏析部が析出しても良い。図3に示されている例では、第1非電極部21bに、偏析部51a、51b、51c、51d、51e、51f、51gが析出しており、第2非電極部22bには、偏析部52a、52b、52c、52dが析出している。偏析部51a、51b、51c、51d、51e、51f、51g及び偏析部52a、52b、52c、52dはいずれも、積層セラミックコンデンサ1の製造過程において、第1非電極部21b又は第2非電極部22bに流れ込んだ液相の焼結助剤が固化することで形成される。本明細書においては、偏析部51a、51b、51c、51d、51e、51f、51g及び偏析部52a、52b、52c、52dを互いから区別する必要がない場合には、これらをまとめて「偏析部」と呼ぶ。
【0052】
上述のとおり、第1内部電極層21及び第2内部電極層22(及びこれらの前駆体である内部電極パターン)は、セラミック層11の原料に添加される焼結助剤の主成分と化合物を形成しやすい副元素(例えば、Al)を含有しているため、液相の焼結助剤は、セラミック層11の前駆体であるセラミックグリーンシートから第1非電極部21bに流れ込みやすい。このため、積層セラミックコンデンサ1においては、第1非電極部21b及び第2非電極部22bに、従来の積層セラミックコンデンサでは見られなかった焼結助剤元素を含有する偏析部が析出する。
【0053】
上記のとおり、偏析部は、液相の焼結助剤が固化することで形成されるため、焼結助剤元素を含有している。一態様において、偏析部における焼結助剤元素の濃度は、20at%以上である。本明細書においては、別段の説明がない限り又は文脈上別に解釈すべき場合を除き、焼結助剤元素の濃度は、観察領域において、セラミック層11の主相のBサイトに入る元素(例えば、Ti元素)を100at%としたときの焼結助剤元素の原子数比率(at%)を意味する。よって、偏析部の濃度は、偏析部を含む観察領域において、偏析部に存在するBサイト元素及び焼結助剤元素を定量し、この定量されたBサイト元素100at%に対する焼結助剤元素の原子数比率で表される。例えば、セラミック層11の主成分酸化物としてチタン酸バリウムが用いられ、焼結助剤としてSiO2を含有する低融点ガラスが用いられる場合には、偏析部に含有されるTi元素100at%に対するSi元素の原子数比率が、偏析部における焼結助剤元素の濃度とされる。偏析部内の10箇所において定量された濃度の平均値を、本体10に含まれる偏析部の濃度としてもよい。
【0054】
偏析部は、第1内部電極層21及び第2内部電極層22に含有される副元素を含有してもよい。上記のとおり、第1内部電極層21及び第2内部電極層22には、焼結助剤の主成分と化合物を形成しやすい元素が副元素として含有されているため、第1非電極部21b及び第2非電極部22bに流れ込んだ液相において、第1内部電極層21及び第2内部電極層22から副元素が溶出し、この液相に溶出した副元素と焼結助剤元素とが化合物を形成しやすい。このような化合物は、例えば、3Al23・2SiO2やZn2SiO4である。
【0055】
一態様において、偏析部における副元素の濃度は、5at%以上である。偏析部において、副元素は、焼結助剤元素との化合物の形態で存在していてもよい。偏析部は、副元素の酸化物を含有してもよい。偏析部における副元素の濃度は、セラミック層11の主相のBサイトに入る元素(例えば、Ti元素)を100at%としたときの副元素の原子数比率(at%)を意味する。
【0056】
図3の例では、第1内部電極層21の全ての第1非電極部21b及び第2内部電極層22の全ての第2非電極部22bに偏析部が析出しているが、第1非電極部21bのうちの一部及び/又は第2非電極部22bのうちの一部には偏析部が析出しなくてもよい。析出部は、ある第1非電極部21b又は第2非電極部22bの全体を閉塞するよう析出してもよいし、その一部のみを占めるように析出してもよい。
【0057】
偏析部の析出量が多いと、第1内部電極層21及び第2内部電極層22のうち容量の発生に寄与する部位(つまり、第1電極部21a及び第2電極部22a)の面積が減少するため、積層セラミックコンデンサ1の静電容量が劣化してしまう。そこで、積層セラミックコンデンサ1の静電容量を確保するために、偏析部の析出量には、上限が定められることが望ましい。偏析部の析出量は、積層セラミックコンデンサ1をLT面が観察面となるように研磨して、この観察面における第1内部電極層21、第2内部電極層22、及び偏析部の面積をそれぞれ測定し、第1内部電極層21の面積と第2内部電極層22の面積との合計の面積を表す第1面積に対する、偏析部の合計の面積を表す第2面積の比で表すことができる。つまり、第1面積に対する第2面積の比(第2面積/第1面積)が大きいほど、偏析部の析出量が多いとみなすことができる。一態様において、第1面積に対する第2面積の比は、35%以下とされる。
【0058】
他方、セラミック層11の前駆体であるセラミックグリーンシートに焼結助剤を添加したにもかかわらず偏析部の第2面積が小さい場合には、セラミック層11内に焼結助剤が残留していることを意味する。焼結助剤元素やその化合物は、セラミックグリーンシートの主相酸化物(例えば、チタン酸バリウム)と比べて比誘電率が小さいため、偏析部の第2面積が小さくなると、セラミック層11内に残留する焼結助剤の量が多くなるため、積層セラミックコンデンサの静電容量が低下してしまう。そこで、偏析部の析出量には、下限が定められることが望ましい。この観点から、一態様において、第1面積に対する第2面積の比は、5%以上とされる。
【0059】
1-5 第1外部電極31及び第2外部電極32
一態様において、第1外部電極31及び第2外部電極32は、本体10に導電性ペーストを塗布し、この導電性ペーストを加熱することで形成される。導電性ペーストは、Ag、Pd、Au、Pt、Ni、Sn、Cu、W、Ti、及びこれらの合金から成る群のうち少なくとも1つの物質を含むことができる。
【0060】
2 積層セラミックコンデンサ1の製造方法
続いて、図5図6a、及び図6bを参照して、積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例について説明する。図5は、本発明の一実施形態に従った積層セラミックコンデンサの製造方法の流れを示すフロー図である。
【0061】
図5に示されている製造方法を簡潔に説明すると、ステップS1において、本体10の前駆体であるグリーン積層体が形成される。このグリーン積層体は、セラミック層11の前駆体であるセラミックグリーンシート、及び、第1内部電極層21及び第2内部電極層22の各々の前駆体である内部導体パターンを含む。内部導体パターンは、Ni等の主成分金属元素を含有する。グリーン積層体は、第1内部電極層21の前駆体である内部導体パターンが表面に設けられたセラミックグリーンシートと、第2内部電極層22の前駆体である内部導体パターンが表面に設けられたセラミックグリーンシートと、を交互に積層することで形成されてもよい。セラミックグリーンシートには、焼結助剤が含まれる。内部導体パターンには、主成分金属元素の他にAl、Zn、B、及びSi等の副元素が含まれる。内部導体パターンには上記以外の元素、例えばAuやFe等の第3の元素が含まれていても良い。次に、ステップS2において、ステップS1で形成されたグリーン積層体を焼成炉に投入し、焼成炉の温度を焼結助剤の軟化点よりも高く、また、内部電極パターン内の主成分金属元素の焼結が進行するキープ温度まで昇温し、このキープ温度でグリーン積層体を第1保持時間だけ加熱する。次に、ステップS3において、焼成炉内の温度を焼成トップ温度まで昇温することで、セラミックグリーンシート内のセラミック材料を焼結させる。最後に、ステップS4において焼成炉内を冷却することで積層セラミックコンデンサ1が得られる。
【0062】
以下では、図5に示されている各工程についてより詳細に説明する。まず、ステップS1では、セラミック粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダーと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤と、焼結助剤と、を加えて湿式混合し、スラリーを得る。焼結助剤としては、例えば、SiO2、B23及びこれらの混合物を含有する低融点ガラスを用いることができる。低融点ガラスの例として、ホウシリケートガラス及びリン酸ガラスが挙げられる。B23粉末やP25粉末を焼結助剤として用いても良い。そして、このスラリーを、例えばダイコータ法やドクターブレード法により基材フィルム上に塗工し、基材フィルム上に塗工されたスラリーを乾燥させることで、セラミックグリーンシートを得る。セラミックグリーンシートは、セラミック層11の前駆体である。
【0063】
セラミックグリーンシートの原料粉であるセラミック粉末は、例えば、チタン酸バリウム粉末である。チタン酸バリウム粉末は、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを、固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等の公知の方法で反応させることで合成される。
【0064】
次に、上記のようにして形成された複数のセラミックグリーンシート上に、内部電極パターンをそれぞれ形成する。内部電極パターンは、例えば、セラミックグリーンシート上に内部電極用ペーストをスクリーン印刷等の公知の印刷方法により印刷することで形成される。内部電極パターンをスクリーン印刷により形成する場合には、内部電極用ペーストは、金属粉末、バインダー樹脂、及び溶剤をスリーロールミルによって混練することで製造される。つまり、内部電極用ペーストは、バインダー樹脂中に金属粉末を分散させたものである。内部電極用ペーストに含まれる金属粉末は、第1内部電極層21及び第2内部電極層22の主成分となるNi、Cu、Sn等の主成分金属元素の粉末と、副元素を含有する粉末とを混合した混合粉末であってもよい。この混合粉末には、Au、Feなど第3の元素の粉末を添加することもできる。混合粉末は、主成分金属元素100at%に対する副元素の含有比率が0.01~5at%の範囲となるように、主成分金属粉末に副元素粉末を混合することで生成される。内部電極用ペースト用の有機バインダーとしては、エチルセルロース等のセルロース系樹脂やブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂を用いることができる。一部のセラミックグリーンシート上に形成された内部電極パターンは、第1内部電極層21の前駆体であり、別のセラミックグリーンシート上に形成された内部電極パターンは、第2内部電極層22の前駆体である。
【0065】
内部電極パターンは、スパッタリング法によりセラミックグリーンシート上に形成されてもよい。内部電極パターンの形成方法は、本明細書で具体的に説明される方法には限られない。内部電極パターンは、公知の様々な手法、例えば、真空蒸着法、PLD(パルスレーザー蒸着法)、MO-CVD(有機金属化学気相成長法)、MOD(有機金属分解法、又はCSD(化学溶液堆積法)により形成されてもよい。
【0066】
以上のようにして、セラミックグリーンシートと、当該セラミックグリーンシートの表面に形成された内部電極パターンと、を有する積層ユニットを得る。この積層ユニットを所定枚数だけ積層して熱圧着することでグリーン積層体を得る。グリーン積層体の最上層及び最下層には、内部電極パターンが形成されていないグリーンシートを積層してもよい。
【0067】
次に、このグリーン積層体を個片化することで、本体10の前駆体となるチップ状のグリーン積層体が得られる。このチップ状のグリーン積層体に対して、脱脂処理を行ってもよい。脱脂処理は、N2雰囲気において行われてもよい。また、脱脂処理がなされたグリーン積層体に対して、第1外部電極31及び第2外部電極32の下地電極層となる金属ペーストをディップ法で塗布してもよい。
【0068】
図6aに、チップ状のグリーン積層体を積層方向に沿って切断した断面を拡大して模式的に示す。図6aに示されているように、グリーン積層体110においては、セラミックグリーンシート111の積層方向における一方の面に第1内部電極層21の前駆体である内部電極パターン121が設けられており、当該セラミックグリーンシート111の積層方向における他方の面に第2内部電極層22の前駆体である内部電極パターン122が設けられている。セラミックグリーンシート111は、セラミック粉末61と、焼結助剤粉末62と、を含んでいる。セラミック粉末61は、例えば、チタン酸バリウム粉末である。焼結助剤粉末62は、例えば、SiO2を含む低融点ガラス粉末である。内部電極パターン121、122は、主成分金属元素粉末71と、副元素粉末72と、を含んでいる。主成分金属元素粉末71は、例えば、Ni粉末である。副元素粉末72は、例えば、Al粉末である。
【0069】
次に、ステップS1で作製されたチップ状のグリーン積層体110を焼成炉に投入し、この焼成炉内で所定の温度プロファイルに従ってグリーン積層体110を焼成する。この焼成処理により、グリーン積層体110中のセラミックグリーンシート111が焼成されてセラミック層11となり、内部電極パターン121が焼成されて第1内部電極層21となり、内部電極パターン122が焼成されて第2内部電極層22となる。
【0070】
焼成処理においては、まず、焼成炉内の温度を、室温から中間温度まで200~300℃/hで昇温する。中間温度は、主成分金属元素の焼結温度よりもやや低い温度に設定される。主成分金属元素がNiの場合は、中間温度は、約500~700℃に設定される。中間温度の一例は、600℃である。
【0071】
次に、ステップS2において、焼成炉の温度を中間温度からキープ温度まで昇温する。焼成炉内の温度は、第1保持時間だけキープ温度に保持される。つまり、ステップS2においては、キープ温度で第1保持時間だけグリーン積層体が加熱される(第1加熱工程)。キープ温度は、焼結助剤の軟化点よりも高く、また、内部電極パターン内の主成分金属元素の焼結が進行する温度である。キープ温度は、焼結助剤の種類や主成分金属元素の種類によって変わり得る。焼結助剤として、SiO2を主成分とする低融点ガラスを用い、主成分金属元素としてNiを用いる場合には、キープ温度を1000℃とすることができる。グリーン積層体をキープ温度に維持することにより、焼結助剤が軟化して液相になるなるとともに、内部電極パターンにおいて主成分金属元素の焼結が始まる。このステップS2において、主成分金属元素の一部は、焼結の進行によって球形状化し、内部電極パターンの一部が不連続となる。この内部電極パターンが不連続となっている部位が、完成品の積層セラミックコンデンサ1においては、第1非電極部21b及び第2非電極部22bとなる。ステップS2において、液相の焼結助剤は、内部電極パターンの不連続部に流れこむ。第1保持時間は、液相となった焼結助剤が内部電極パターンの不連続部に流れ込むために十分な時間とされ、例えば、10分~60分の間の時間とされる。第1保持時間は、例えば、30分である。
【0072】
ステップS2の第1加熱工程においては、内部電極パターンに含まれている副元素が熱拡散により内部電極パターンの表面まで移動し、内部電極パターンの不連続部に流入している液相の焼結助剤に溶出する。液相の焼結助剤内では、焼結助剤の主成分と焼結助剤に溶出した副元素とが化合物を形成する。
【0073】
ステップS2で第1保持時間だけ加熱を行った後、ステップS3において、焼成炉内の温度を焼成トップ温度まで昇温する。焼成路内の温度は、第2保持時間だけ焼成トップ温度に保持される。つまり、ステップS3においては、焼成トップ温度で第2保持時間だけグリーン積層体が加熱される(第2加熱工程)。焼成トップ温度は、例えば、1100~1200℃である。焼成トップ温度に保持される第2保持時間は、内部電極層において主成分金属元素の過剰な焼結を防ぐために、10分以内とする。焼成トップ温度への到達後にただちに冷却を始めてもよい。
【0074】
上記の第2加熱工程において、グリーン積層体110を焼成トップ温度まで加熱することにより、グリーン積層体110が焼成されて本体10となる。図6bは、グリーン積層体110を焼成トップ温度まで加熱し、この焼成トップ温度で第2保持時間だけ保持することで得られた本体10の積層方向に沿った断面を拡大して模式的に示す。図6bは、焼成トップ温度へ昇温された後に冷却される前の本体10を示している。
【0075】
図6bに示されている本体10では、ステップS2での焼成処理により、グリーン積層体110中のセラミック粉末61が焼結されて、コア部41及びシェル部42を有する結晶粒40が形成されている。セラミック粉末61に希土類元素等の添加元素が含まれている場合には、焼成処理において、添加元素がシェル部42に拡散する。このため、セラミック粉末61中の添加元素は、コア部41よりもシェル部42に高い濃度で含有される。セラミック層11においては、結晶粒40が緻密に配置されている。隣接する結晶粒40同士は、粒界45により隔てられている。焼成処理の間、セラミックグリーンシート111中の焼結助剤粉末62は、液相の液相成分80として存在している。
【0076】
第2加熱工程において焼結助剤粉末が溶融することで形成された液相成分80は、セラミック粉末61の表面に濡れ広がることで、セラミック粉末61の焼結を促進する。この液相成分80は、本体10では、セラミック粉末61が焼結することで形成された結晶粒の表面に濡れ広がるため、図6bに示されているように、本体10の粒界45は、液相成分80により充填されている。液相成分80には、セラミック粉末61に含有されている元素(セラミック粉末がチタン酸バリウム粉末の場合には、BaやTi)が溶出している。焼成工程においては、液相成分80に溶出した元素が結晶表面に析出することで結晶粒40の成長が進行する。また、液相成分80内で結晶粒40の再配置が進行することにより、結晶粒40の緻密化が進行する。
【0077】
液相成分80は、粒界45から第1界面層47を介して、内部電極間(図示の例では、第1内部電極層21の第1非電極部21b内)まで濡れ広がる。第1非電極部21bは、その全部が液相成分80によって充填されてもよいし、その一部のみが液相成分80によって充填されていてもよい。第2内部電極層22に第2非電極部22bが形成されている場合には、液相成分80は、第2界面層48を介して第2非電極部22bまで濡れ広がってもよい。第1内部電極層21及び第2内部電極層22には、液相成分に含まれる焼結助剤元素と化合物を形成しやすい副元素が含まれているため、液相成分80は、粒界45、第1界面層47及び第2界面層48に滞留せず、第1非電極部21b及び第2非電極部22bに向かって移動する。
【0078】
ステップS3での第2加熱工程では、内部電極パターン121、122中の主成分金属元素の焼結もさらに進行する。主成分金属元素の一部は、焼結の進行によって球形状化し、第1内部電極層21及び第2内部電極層22は、その一部が不連続となる。図6bには、第1内部電極層21の一部の主成分金属元素の球形状化が進行して形成された第1非電極部21bが示されている。主成分金属元素の焼結が進行すると、主成分金属元素の焼結体は、第1非電極部21bに向かって凸に湾曲するように成長する。このとき、第1非電極部21bに充填される液相成分80は、流動性が高いため、主成分金属元素の焼結体の成長に従って本体10内で流動する。このように、第2加熱工程において、第1非電極部21bが液相成分80で充填されているため、第1内部電極層21の主成分金属元素は、第1非電極部21bに向かって凸の湾曲面を有するように成長することができる。
【0079】
図7に従来の積層セラミックコンデンサ301の拡大断面図を示す。従来の積層セラミックコンデンサ301は、第1内部電極層321と、第2内部電極層322と、この間に配置されたセラミック層311と、を有する。図7においては、図示の簡略化のために、セラミック層311に含まれる結晶粒の図示を省略している。第1内部電極層321は、電極部321aと、非電極部321bと、を有する。従来の積層セラミックコンデンサ301においては、その製造過程において、液相成分が非電極部321bに流れ込まないので、主成分金属元素の焼結が進行すると、非電極部321bは、当初空隙として存在する。そして、焼成温度がさらに高温となってセラミック粒子の焼結が進行すると、セラミック粒子の焼結体が、空隙である非電極部321b内においても成長する。このため、図7に示されているように、非電極部321bは、セラミック層311と同様に流動性の低いセラミック粒子の焼結体で充填されるため、主成分金属元素の焼結体は、非電極部321bに向かって凸な形状を取ることができなくなる。このため、図7に示されているように、電極部321aと非電極部321bとの界面は平坦な形状を取ることになる。このため、第1内部電極層321と第2内部電極層322との間に電圧を印加した際に、電極部321aと非電極部321bとの界面と電極部321aとセラミック層311の界面とが交差する頂点P1に、電界が集中しやすくなる。この電界の集中は、積層セラミックコンデンサの寿命を低下させる原因となる。
【0080】
これに対して、本発明の実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1においては、図4及び図6bに示されているように、主成分金属元素が焼結する際に、第1非電極部21bが流動性の高い液相成分80で充填されているため、主成分金属元素の焼結体が第1非電極部21bに向かって凸に湾曲するように成長することができる。このため、第1電極部21aと第1非電極部21bとの界面は、第1非電極部21bに向かって凸に湾曲した形状を有する。よって、本発明の実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1においては、図7に示されている従来の積層セラミックコンデンサにおいて起こる電界の集中が緩和され、より長い寿命を有する積層セラミックコンデンサ1が得られる。
【0081】
ステップS3で積層体をキープ温度で第2保持時間だけ保持した後、ステップS4において焼成炉を室温まで冷却することで、積層セラミックコンデンサ1が得られる。ステップS4において冷却されることにより、本体10内の液相成分80は固化して二次相が形成される。二次相には、焼結助剤元素が含まれる。また、液相成分80が冷却されることにより、液相成分80に溶出していた主相成分の元素(例えば、BaやTi)は、例えば、酸化物(BaOやTiO2)として、内部電極間、第1界面層47、第2界面層48、及び粒界45に析出する。
【0082】
積層セラミックコンデンサ1を製造するためには、図5のフロー図に示されていない処理が行われてもよい。例えば、ステップS3における第2加熱処理で得られた積層セラミックコンデンサ1に対して、N2ガス雰囲気中において600℃~1000℃で再酸化処理が行われてもよい。また、第1外部電極31及び第2外部電極32の表面に、Cu,Ni,Sn等のめっき層が設けられてもよい。このめっき層は、電解めっき法又は無電解めっき法により形成され得る。
【0083】
積層セラミックコンデンサ1を製造するためには、図5のフロー図に示されている工程の一部を省略することができる。例えば、ステップS2の第1加熱工程は省略可能である。第1加熱工程を省略する場合には、中間温度から焼成トップ温度まで、所定の昇温速度で昇温される。ステップS2の第1加熱工程を省略しても、第1内部電極層21及び第2内部電極層22の前駆体である内部電極パターンに焼結助剤元素と化合物を形成しやすい副元素を含有させておくことにより、液相成分80を第1非電極部21b及び第2非電極部22bに排出することができる。ただし、内部電極パターンがかかる副元素を含有しない場合には、内部電極パターンに含まれる主成分金属元素の焼結を進行させ、液相の焼結助剤を内部電極パターンの不連続部に濡れ広がらせるために、第1加熱工程が行われる。
【0084】
3 実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
3-1 試料の作製
まず、図5に記載されている製造方法に従って、以下のようにして17種類の試料を作製した。具体的には、まず、チタン酸バリウムの粉末にポリビニルブチラール(PVB)樹脂と、溶剤と、可塑剤と、焼結助剤粉末を加えて湿式混合してスラリーを得た。焼結助剤粉末は、Ti100at%に対する焼結助剤粉末の主成分(焼結助剤元素)の含有比率が表1の「焼結助剤添加量」に記載されている量となるように秤量され、この秤量された副元素粉末がチタン酸バリウム粉末と混合された。例えば、試料1を作製する際には、チタン酸バリウム粉末に含有されるTi100at%に対して、Siが0.1at%となるようにSiO2を主成分とする低融点ガラス粉末を秤量し、この秤量したSiO2を主成分とする低融点ガラス粉末をチタン酸バリウム粉末と混合した。試料9を作製する際には、チタン酸バリウム粉末をB23粉末と混合した。試料10を作製する際には、チタン酸バリウム粉末をP25粉末と混合した。
【0086】
このようにして形成されたスラリーを基材フィルム上に塗工し、基材フィルム上に塗工されたスラリーを乾燥させてセラミックグリーンシートを得た。次に、主成分金属元素であるNi粉末に、表1に記載されている副元素を含有する副元素粉末を混合し、混合粉を調製した。ただし、試料12、13の作製時には副元素を混合しなかった。副元素粉末は、Ni100at%に対する副元素の含有比率が表1の「副元素添加量」に記載されている量となるように秤量され、この秤量された副元素粉末がNi粉末と混合された。次に、この混合粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂と、溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合し内部電極用スラリーを得た。そして、セラミックグリーンシートの表面の一部の領域に、内部電極用スラリーを印刷して、セラミックグリーンシートの各々に内部電極パターンを形成することで、積層ユニットを形成した。この積層ユニットは、セラミックグリーンシートと、当該セラミックグリーンシートの表面に形成された内部電極パターンと、を有する。
【0087】
【表1】
【0088】
次に、積層ユニットを500枚積層して積層体を形成し、この積層体を個片化することでチップ状のグリーン積層体(チップ積層体)を得た。チップ積層体は、1005形状(長さ寸法:1.0mm、幅寸法:0.5mm、高さ寸法:0.5mm)とした。次に、このチップ積層体に対して、N2雰囲気において脱脂処理を行った。次に、脱脂処理後の成形体に対して金属ペーストをディップ法で塗布することで、各チップ積層体に外部電極の下地層を形成した。
【0089】
次に、上記のようにして得られた各試料の前駆体であるチップ積層体を焼成炉に投入して、所定の温度プロファイルに従って、所定の焼成条件において、チップ積層体を焼成した。試料1~試料11、試料13~試料15、及び試料17の焼成時には、焼成炉内を酸素分圧が10-10Mpaの低酸素雰囲気に保ち、焼成炉内の温度を室温から600℃まで300℃/hで昇温し、600℃から1200℃まで1000℃/hの昇温速度で昇温し、1200℃の焼成トップ温度を5分間(第2保持時間)保持した。
試料12の焼成時には、焼成炉内の温度を中間温度から1000℃(キープ温度)まで昇温させ、このキープ温度で30分間(第1保持時間)だけチップ積層体を加熱し、この第1保持時間の経過後に、焼成炉内の温度を焼成トップ温度である1200℃まで昇温した。焼成トップ温度に5分間保持した後、焼成炉内を冷却した。
【0090】
以上のようにして、積層セラミックコンデンサのサンプルである試料1~試料17を作製した。試料1~試料17においては、セラミックグリーンシートが焼成されてセラミック層となっており、内部電極パターンが焼成されて内部電極層となっている。
【0091】
試料1~17の各試料を樹脂に包埋し、樹脂に包埋された各試料を、積層方向に平行な面(例えば、図2のLT面)に沿って研磨することで、積層方向に平行な断面を露出させて、この露出させた断面を電界放射型走査型二次電子顕微鏡(FE-SEM)にて20000倍の倍率で観察した。この観察により、試料1~試料16のいずれにおいても、結晶粒が緻密化していることが確認できた。このように、試料1~試料16は、1200℃という低温の緻密化温度で焼結された。試料17については、結晶粒が緻密化していなかった。
【0092】
3-2 偏析部の確認及び面積比
次に、試料1~試料16の各々について、研磨により露出した観察面を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)が搭載された電界放射型走査型二次電子顕微鏡(FE-SEM)により観察し、このSEM像においてコントラスト差により明るく見える領域を内部電極層の電極部(第1電極部21a又は第2電極部22a)として特定した。また、上記観察面において、内部電極層が5本入るように50μm四方の大きさに観察領域を設定し、この観察領域においてEDSマッピングを行って、Ni、Ba、Ti、焼結助剤元素、及び副元素の分布を調べた。電界放射型走査型二次電子顕微鏡として、日立ハイテク製のFE-SEM(SU7000)を用いた。EDS検出器として、BRUKER Corporation製のQuantaxを用いた。
【0093】
このようにして得られたマッピングデータにおいて、内部電極間において、焼結助剤元素の濃度が20at%以上である領域を偏析部として特定した。また、定量元素のうち、Ni元素の濃度が最も高い領域を第1電極部21a又は第2電極部22aとして特定した。次に、マッピングデータに画像処理ソフトImageJを用いて画像処理を行って、第1内部電極層21の面積と第2内部電極層22の面積の合計を表す第1面積、及び、偏析部の面積を表す第2面積をそれぞれ算出し、この第1面積に対する第2面積の比を算出した。このようにして算出した第1面積に対する第2面積の比を、以下の表2の「面積比」の列に記載した。
【0094】
3-3 連続率
また、以下のようにして、各試料における内部電極層の連続率を算出した。上記の観察領域の各々に含まれる内部電極層の各々について、コントラスト差に基づいて電極部(第1電極部21a又は第2電極部22a)を特定し、この電極部の各々の厚さ方向(T軸方向)の中心における長さを測長した。そして、この測長した各電極部の長さに基づいて、内部電極層ごとの連続率を算出した。このようにして算出した内部電極層の連続率を表2の「連続率」の列に記載した。偏析部は、第1非電極部21bの各々の全体ではなく一部だけを占めることがあり、同様に、第2非電極部22bの各々の全体ではなく一部だけを占めることがあるため、連続率が増加しても、ただちに面積比が増加するとは限らない。
【0095】
3-4 静電容量
試料1~16の各々について、静電容量を測定した。静電容量は、各試料を150℃に1時間放置した後に、標準状態に24時間放置した後、LCRメーターを使用し、室温、測定電圧0.5V、周波数1kHzの条件下で測定した。試料1~16の各々について100個のサンプルを選択し、この100個のサンプルの各々について静電容量を求めた。試料ごとに100個のサンプルについて測定された静電容量の平均値を算出し、この算出された平均値を当該試料の静電容量とした。このようにして算出した静電容量を表2の「初期容量」の列に記載した。
【0096】
3-5 HALT
試料1~試料16の各々について、100個ずつサンプルを選択し、この選択したサンプルの各々について加速寿命試験(HALT)を行った。加速寿命試験では、試料1~試料16ごとに選択された100個のサンプルの各々について85℃下で6.3V/μmの電圧を1000時間印加した。また、試料1~試料16ごとに選択された別の100個のサンプルの各々について、同条件下で電圧を2000時間印加した。これらのサンプルについて、電圧印加後に室温に24時間放置した後、絶縁抵抗を測定した。この測定において、絶縁抵抗値が10MΩ未満のサンプルを故障と判定した。電圧を2000時間印加しても1個も故障が発生しなかった試料については、寿命が非常に良好と判断し、表2の「寿命」の列に「◎」を記入した。電圧を1000時間印加しても1個も故障が発生しなかったが2000時間印加後には故障したサンプルが見つかった試料については、寿命が良好と判断し、表2の「寿命」の列に「○」を記入した。
【0097】
【表2】
【0098】
表2において、本発明に包含されない試料(つまり、比較例)については、試料番号にアスタリスク(*)が付加されている。具体的には、試料13から試料17は、本願発明に包含されない比較例である。試料17においては、1200℃の焼成トップ温度において緻密化されたセラミック層が得られなかったため、面積比、連続率、初期容量、寿命の評価を行わなかった。
【0099】
以上の実験結果から、内部電極間に偏析部が析出している試料1~試料12の静電容量は21μF~22μFであるから、試料1~12はいずれも、偏析部が析出していない試料13及び試料16(静電容量は、15μF)と比べて、優れた静電容量が得られることが確認された。試料13においては、内部電極層の前駆体である内部電極パターンに副元素が含有されておらず、また、製造過程においてキープ温度で保持する処理(第1加熱工程)が行われていないため、セラミックグリーンシートに含有されている焼結助剤の多くがセラミック層11に残留したため、静電容量が低くなっていると考えられる。他方、試料1~試料11においては、焼結助剤元素と化合物を形成しやすい副元素が内部電極パターンに0.1at%~10at%の割合で添加されているから、試料を作製する過程で液相の焼結助剤が内部電極間に流れこみ、セラミック層11において、誘電率が低い焼結助剤元素の含有量が低下することにより、静電容量が向上したと考えられる。試料12においては、内部電極パターンに副元素が添加されていないが、製造過程においてキープ温度で保持する処理(第1加熱工程)が行われているため、この第1加熱工程において、液相の焼結助剤が内部電極間に流れこみ、静電容量の向上をもたらしたと考えられる。
【0100】
試料1~12のいずれにおいても良好な寿命が得られている。他方、偏析部が析出していない試料13及び試料16においては、試料1~12と比べて寿命が低下している。試料13及び試料16においては、その製造時に、液相の焼結助剤が内部電極間に流入していないため、内部電極層の一部に図7に示されているような頂点が形成されており、この頂点に電界が集中し、この電界の集中により寿命が低下したと考えられる。他方、試料1~12においては、内部電極間における偏析部の析出が確認されているため、製造時に内部電極間に液相成分が流入していたと考えられる。このため、試料1~12では、電極部(例えば、第1電極部21a)と非電極部(例えば、第1非電極部21b)その界面が湾曲しており、内部電極層における電界の集中が緩和されていると考えられる。つまり、試料1~試料12においては、電界の集中が緩和されたことにより、良好な寿命が得られたと考えられる。
【0101】
試料14においては、内部電極パターンに副元素としてAlが高い含有比率(10at%)で含まれているのに対して、Ti100at%に対する焼結助剤元素の添加量が1at%程度であるため、非電極部に固相のAl23が析出し、この固相のAl23により連続率が低下したと考えられる。
【0102】
試料15においては、焼結助剤の添加量が多く、また、内部電極パターンに12at%という多量の副元素(Al)が添加されているため、内部電極間に流れ込んだ焼結助剤により内部電極パターン内のNi元素の焼結が過剰に進行し、この結果、連続率が低下したと考えられる。そして、この連続率の低下により静電容量の低下が発生している。
【0103】
以上のように、面積比が38以上の試料14及び試料15においては、静電容量が15~17μFに低下している。このように、偏析部の過剰な析出は、静電容量の低下に繋がることが分かる。面積比が35%以下となるように偏析部の析出量を調整することにより、優れた静電容量が得られると考えられる。
【0104】
実験結果の記載は省略するが、焼結助剤元素としてSiではなくBやPを用いた場合にも、面積比が35%を超えると静電容量の低下が起こることが観察された。内部電極間に偏析部を析出させることにより、セラミック層11に含有される焼結助剤を減少させることができ、そのために静電容量を増加させることができるが、面積比が35%以上となる条件では、偏析部が過剰に析出してしまい、その結果、内部電極層の連続率の低下により静電容量の低下が起こってしまう。このため、内部電極間には、面積比が35%以下となるように偏析部を析出させることが望ましい。
【0105】
4 注記
前述の様々な実施形態で説明された各構成要素の寸法、材料及び配置は、それぞれ、各実施形態で明示的に説明されたものに限定されず、当該各構成要素は、本発明の範囲に含まれ得る任意の寸法、材料及び配置を有するように変形することができる。
【0106】
本明細書において明示的に説明していない構成要素を、上述の各実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0107】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0108】
本明細書において、ある構成要素を「含む」という場合は、本発明の内容と矛盾しない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0109】
5 付記
本明細書において開示される実施形態には、以下の事項も含まれる。
[付記1]
主成分金属元素を含有する第1内部電極層、第2内部電極層、積層方向において前記第1内部電極層と前記第2内部電極層との間に配置されており、焼結助剤元素を主成分とする焼結助剤が添加されたセラミック材料から形成されたセラミック層と、を有する本体と、
前記本体に、前記第1内部電極層と電気的に接続するように設けられた第1外部電極と、
前記本体に、前記第2内部電極層と電気的に接続するように設けられた第2外部電極と、
を備え、
前記第1内部電極層は、主成分金属元素の焼結体である第1電極部と、前記第1電極部に囲まれている第1非電極部と、を有し、
前記第2内部電極層は、主成分金属元素の焼結体である第2電極部と、前記第2電極部に囲まれている第2非電極部と、を有し、
前記第1非電極部及び前記第2非電極部はそれぞれ、前記焼結助剤元素を含有する偏析部を有し、
前記積層方向に沿って前記本体を切断した断面における前記第1内部電極層の面積と前記第2内部電極層の面積との合計を表す第1面積に対する前記偏析部の面積を表す第2面積の比は、35%以下である、
積層セラミックコンデンサ。
[付記2]
前記第1面積に対する前記第2面積の比は、5%以上である、
付記1に記載の積層セラミックコンデンサ。
[付記3]
前記偏析部における前記焼結助剤元素の濃度は、20at%以上である、
付記1又は付記2に記載の積層セラミックコンデンサ。
[付記4]
前記第1内部電極層は、副元素をさらに含有し、
前記副元素は、Al、Zn、B、及びSiから成る群より選択される少なくとも一つの元素である、
付記1から付記3のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサ。
[付記5]
前記偏析部は、前記副元素を含有する、
付記4に記載の積層セラミックコンデンサ。
[付記6]
前記偏析部における前記副元素の濃度は、5at%以上である、
付記5に記載の積層セラミックコンデンサ。
[付記7]
前記セラミック層は、前記セラミック材料の焼結体である複数の結晶粒を含み、
前記セラミック層において、前記第1内部電極層と前記第2内部電極層との間に介在する前記結晶粒の数は、3以下である、
付記1から付記6のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサ。
[付記8]
付記1から付記7のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサを備える回路モジュール。
[付記9]
付記8に記載の回路モジュールを含む、電子機器。
[付記10]
焼結助剤を含むセラミックグリーンシートと、前記セラミックグリーンシートの第1面及び第2面に設けられており主成分金属元素を含有する内部電極パターンと、を含むグリーン積層体を準備する準備工程と、
前記焼結助剤の軟化点よりも高く前記主成分金属元素の焼結が起こるキープ温度で前記グリーン積層体を第1保持時間だけ加熱する第1加熱工程と、
前記第1加熱工程の後に、前記キープ温度よりも高い焼成トップ温度で、前記グリーン積層体を加熱する第2加熱工程と、
を備える積層セラミックコンデンサの製造方法。
[付記11]
前記内部電極パターンは、副元素(ただし、前記副元素は、Al、Zn、B、及びSiから成る群より選択される少なくとも一つの元素である。)を含有する、
付記1に記載の製造方法。
【符号の説明】
【0110】
1 積層セラミックコンデンサ
10 本体
11 セラミック層
21 第1内部電極層
22 第2内部電極層
21a 第1電極部
21b 第1非電極部
22a 第2電極部
22b 第2非電極部
31 第1外部電極
32 第2外部電極
40 結晶粒
45 粒界
47 第1界面層
48 第2界面層
51a、51b、51c、51d、51e、51f、51g、52a、52b、52c、52d 偏析部
80 液相成分
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7