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特開2025-6568電気化学的手法を用いた被検物質の測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006568
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】電気化学的手法を用いた被検物質の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20250109BHJP
   G01N 27/327 20060101ALI20250109BHJP
   G01N 27/38 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01N27/416 336B
G01N27/327 357
G01N27/38 301
G01N27/416 302G
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107447
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】519450891
【氏名又は名称】株式会社イムノセンス
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 智弘
(72)【発明者】
【氏名】山村 航太郎
(57)【要約】
【課題】従来技術においては、電気化学免疫測定法において用いる測定溶液は、緩衝溶液ではないためpHが安定しないという課題があった。
【解決手段】
本発明の目的は、被検物質の有無又は濃度を調べることを特徴とする被検物質の測定方法であって、上記方法は、上記被検物質を含む免疫複合体が固定された作用電極を洗浄緩衝液で洗浄する洗浄工程と、上記洗浄緩衝液中において上記作用電極の電位制御を行い電流値を測定する電流測定工程と、を含み、上記免疫複合体は、上記被検物質と、上記被検物質に特異的に結合した第1の結合物質と、当該被検物質に特異的に結合した第2の結合物質と、上記第2の結合物質に結合した標識物質と、を含み、上記標識物質は、金属微粒子であり、上記洗浄緩衝液のpHは、4から6である、方法を提供することである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質の有無又は濃度を調べることを特徴とする被検物質の測定方法であって、前記方法は、
前記被検物質を含む免疫複合体が固定された作用電極を洗浄緩衝液で洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄緩衝液中において前記作用電極の電位制御を行い電流値を測定する電流測定工程と、
を含み、
前記免疫複合体は、前記被検物質と、前記被検物質に特異的に結合した第1の結合物質と、当該被検物質に特異的に結合した第2の結合物質と、前記第2の結合物質に結合した標識物質と、を含み、
前記標識物質は、金属微粒子であり、
前記洗浄緩衝液のpHは、4から6である、
方法。
【請求項2】
前記洗浄緩衝液は、キレート作用を有さない緩衝液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記洗浄緩衝液は、酢酸緩衝液又はMES緩衝液である、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的手法を用いた被検物質の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試験溶液中の微量物質を簡便且つ高感度に測定する方法の1つとして、抗原抗体反応を利用した免疫測定法が知られている。免疫測定法としては、酵素で標識した抗体を用い、酵素反応に由来する発色や発光等の信号を得ることにより被検物質の検知や濃度測定を行うELISA法が、幅広い分野で採用されている。しかしながら、ELISA法では、発色や発光等の信号検出時に光学系を必要とするため、大型の測定機が必要となる。また、正確な定量を行う場合には、発色等の測定結果を電気的な信号に変換する作業が必要となる等、複雑な処理を行う必要がある。
【0003】
特許文献1は、作用電極と、対極とを用い、試料中に含まれる被検物質を検出する電気化学免疫測定法を開示している。特許文献1が開示する電気化学免疫測定法は、(A)前記試料中に含まれる被検物質と金属微粒子とを含む複合体を、作用電極上に形成する工程、(B)前記作用電極を洗浄する工程、及び(C)前記作用電極に測定溶液を添加し、前記作用電極上の複合体に含まれる金属微粒子に起因する電流、電圧または電荷を電気化学的測定法によって前記測定溶液中で測定する工程、(D)前記工程(C)で得られた測定結果に基づいて前記試料中の被検物質を検出する工程、を含み、前記工程(B)が、前記工程(C)で用いられる測定溶液と同じ組成を有する測定溶液を用いて作用電極を洗浄する工程であることを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-085168
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の測定溶液は、緩衝溶液ではないためpHが安定しないという課題があった。
【0006】
そこで、本発明者らは、洗浄工程と電流測定工程における溶液のpHを安定させるために、洗浄工程と電流測定工程において同じ緩衝溶液を用いて電気化学免疫測定を行った。しかしながら、緩衝溶液を用いても必ずしも電気化学免疫測定が成功するわけではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、更に調査したところ、キレート作用を有しない緩衝溶液を洗浄工程と電流測定工程で使用することで電気化学免疫測定が可能になることを発見し、本発明は完成した。
【0008】
本発明の目的は、
被検物質の有無又は濃度を調べることを特徴とする被検物質の測定方法であって、上記方法は、
上記被検物質を含む免疫複合体が固定された作用電極を洗浄緩衝液で洗浄する洗浄工程と、
上記洗浄緩衝液中において上記作用電極の電位制御を行い電流値を測定する電流測定工程と、
を含み、
上記免疫複合体は、上記被検物質と、上記被検物質に特異的に結合した第1の結合物質と、当該被検物質に特異的に結合した第2の結合物質と、上記第2の結合物質に結合した標識物質と、を含み、
上記標識物質は、金属微粒子であり、
上記洗浄緩衝液のpHは、4から6である、
方法
を提供することである。
【0009】
本方法を用いることで、電気化学免疫測定法における洗浄工程と電流測定工程において、同一の溶液を使用することができ、且つ、溶液のpHを安定させることが可能になる。
【0010】
上記洗浄緩衝液は、キレート作用を有さない緩衝液であってもよい。上記洗浄緩衝液は、酢酸緩衝液又はMES緩衝液であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例において用いた印刷電極デバイスの平面図である。
図2図2(A)及び(B)は、金コロイドの還元ピーク電流を測定した結果を示している。
図3図3は、緩衝液不含溶液、クエン酸B(pH5.0及びpH5.5)、フタル酸B(pH5.0)、酢酸B(pH5.0)及びMES(pH5.5)における金コロイドの還元ピーク電流を測定した結果を示している。
図4図4(A)から(C)は、それぞれ、緩衝液不含有溶液(pH未調整)、酢酸B(pH5.0)及びMES(pH5.0)を用いて、金コロイドの還元ピーク電流を測定した結果を示している
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
便宜上、本願で使用される特定の用語は、ここに集めている。別途規定されない限り、本願で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。文脈で別途明記されない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は複数の言及を含む。
【0013】
本発明で示す数値範囲及びパラメーターは、近似値であるが、特定の実施例に示されている数値は可能な限り正確に記載している。しかしながら、いずれの数値も本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含んでいる。また、本明細書で使用する「約」という用語は、一般に、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%以内を意味する。或いは、用語「約」は、当業者が考慮する場合、許容可能な標準誤差内にあることを意味する。
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、例示であって、本発明の範囲は、以下の実施形態で示すものに限定されない。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑をさけるために、摘示説明を省略する。
【0015】
被検物質の測定方法
本実施形態にかかる測定方法は、被検物質の有無又は濃度を調べることを特徴とする被検物質の測定方法である。本測定方法は、被検物質を含む免疫複合体が固定された作用電極を洗浄緩衝液で洗浄する洗浄工程と、洗浄緩衝液中において作用電極の電位制御を行い電流値を測定する電流測定工程と、を含む。
【0016】
免疫複合体は、被検物質と、被検物質に特異的に結合した第1の結合物質と、被検物質に特異的に結合した第2の結合物質と、第2の結合物質に結合した標識物質と、を含む。ある実施形態において、第1の結合物質は、第2の結合物質とは異なる被検物質上の部位を認識する。
【0017】
ある実施形態において、本実施形態にかかる測定方法は、予め免疫複合体が固定された作用電極を使用する。別の実施形態において、本実施形態にかかる測定方法は、作用電極の表面に第1の結合物質を固定する固定工程と、第2の結合物質を標識物質で標識することにより標識体を作成する標識工程と、第1の結合物質が固定された作用電極の表面に標識体と被験物質を供給して免疫複合体を作用電極の表面に形成させる形成工程と、を更に有する。更に別の実施形態において、本実施形態にかかる測定方法は、予め第1の結合物質が固定された作用電極を提供する提供工程と、第2の結合物質を標識物質で標識することにより標識体を作成する標識工程と、第1の結合物質が固定された作用電極の表面に標識体と被験物質を供給して免疫複合体を作用電極の表面に形成させる形成工程と、を更に有する。更に別の実施形態において、本実施形態にかかる測定方法は、予め第1の結合物質が固定された作用電極と、予め第2の結合物質が標識物質で標識された標識体を提供する提供工程と、第1の結合物質が固定された作用電極の表面に標識体と被験物質を供給して免疫複合体を作用電極の表面に形成させる形成工程と、を更に有する。
【0018】
以下で、本実施形態にかかる方法の基礎となる金属微粒子結合電気化学免疫測定を詳述する。
【0019】
金属微粒子結合電気化学免疫測定
被検物質に対する2種類の特異的結合物質を用意し、一方(第1の結合物質)を作用電極の表面に固定化しておくとともに、他方(第2の結合物質)には標識物質(例:金属微粒子)を標識し、標識体とする。具体的には、先ず、電気化学的測定において用いる作用電極の表面に、被検物質に対する第1の結合物質として一次抗体を固定しておく。電極表面は非特異吸着を防ぐためにブロッキングする。また、第1の結合物質とは異なる被検物質上の部位を認識する第2の結合物質として二次抗体を用意し、これに標識物質を標識することにより標識体を用意しておく。
【0020】
次に、上記標識体及び未知量の被検物質を含む試験溶液を作用電極の表面に供給し、一次抗体と接触させ、作用電極上で抗原抗体反応を行う。標識体が被検物質を介して一次抗体に結合することにより、被検物質の濃度に対応した量の標識物質が作用電極1の近傍に集められた状態となる。
【0021】
ここで、本発明においては、生体物質、合成物質等のあらゆる物質を被検物質とすることができる。被検物質に特異的に結合する結合物質(第1の結合物質、第2の結合物質)には、被験物質に応じて適切なものを選択する。試験溶液中の被検物質に応じた量の金属微粒子を集めるために、本実施形態では抗原と抗体との特異的結合を利用しているが、物質間で特異的に結合するものであればこの組合せに限らず、例えば、核酸-核酸、核酸-核酸結合タンパク質、レクチン-糖鎖、又はレセプター-リガンドの特異的結合を利用してもよい。被検物質-特異的結合物質の関係の順序は、上記と逆でもよい。
【0022】
標識物質は金属微粒子を挙げることができる。金属微粒子は特に制限されないが、例えば金、白金、銀、銅、ロジウム、パラジウム等の微粒子やそれらのコロイド粒子、量子ドット等を用いることができる。なかでも粒径10nm~60nmの金微粒子、特に粒径40nm程度の金微粒子を用いることが好ましい。
【0023】
抗原抗体反応を行い、作用電極の表面を洗浄緩衝液で洗浄する。洗浄後、洗浄緩衝液と作用電極と接触させた状態とする。溶液と作用電極とを接触させるには、作用電極の表面に溶液を滴下する、作用電極を溶液に浸す等、任意の手段をとることができる。洗浄緩衝液は、キレート作用を有さない緩衝液であり、洗浄緩衝液のpHは、4から6である。洗浄緩衝液は、酢酸緩衝液又はMES緩衝液であってもよい。洗浄緩衝液は、実施する電気化学免疫測定で要求されるpHに応じて、変更することが可能である。例えば、要求されるpHが5付近であれば、酢酸緩衝液を選択してもよく、要求されるpHが5.5付近であればMES緩衝液を選択してもよい。
【0024】
電流測定工程
次に、洗浄緩衝液中において金属微粒子を電気化学的に酸化させる。例えば、参照電極に対する作用電極の電位を、金属微粒子が電気化学的に酸化する電位に所定時間保持する。このことにより、作用電極の表面近傍に集めた金属微粒子を完全に酸化する。このとき、対極及び参照電極も溶液に接触させた状態とする。
【0025】
金属微粒子を電気化学的に酸化させた後、酸化した金属を還元する際に生じるピーク電流値に基づいて、被検物質の有無又は濃度を測定する。具体的には、例えば、作用電極の電位を負方向に変化させていき、電位変化に伴う電流変化を測定する。電極電位を負方向に変化させていくと、前述の電位制御により酸化溶出した金属が還元されることにより還元電流が流れるので、これを測定する。試験溶液中の被検物質が多く、作用電極の近傍に集められた金属微粒子が多いほど還元電流強度も大きくなることから、これに基づいて被検物質の定量又は検出が実現される。例えば、還元電流値と既知濃度の被検物質と関係を予め求めておき、測定された還元電流値と比較することにより、被検物質濃度を求めることができる。また、得られる還元電流値から試験溶液中の被検物質の有無を知ることができる。
【0026】
金属微粒子を酸化させるに際して、作用電極の電位は、金属微粒子が酸化可能な電位とする。具体的には、作用電極の電位は、使用する金属微粒子の種類に応じて適宜最適な値に設定する必要があるが、例えば、銀塩化銀参照電極に対して+1V以上とすることが好ましい。作用電極の電位を上記範囲内にすることにより、作用電極の表面近傍に集めた金属微粒子を完全に酸化溶出させることができ、被検物質の検出感度を確実に向上させることができる。作用電極の電位を上記範囲未満とした場合、測定時に還元電流のピークが現れないおそれがあり、逆に上記範囲を超えた場合、酸化させた金属微粒子の泳動による拡散が起こり、作用電極近傍における酸化物の濃度が低下してしまい、これにより還元電流のピークが小さくなるおそれがある。より好ましい範囲は、+1.2V~+1.6Vである。
【0027】
金属微粒子を電気化学的に酸化させる具体的な手段としては、作用電極の電位を金属微粒子が酸化する電位に所定時間保持することが挙げられる。上記電位を所定時間保持する操作は、金属微粒子を十分に酸化させられるため、好ましい方法である。また、作用電極に金属微粒子が電気化学的に酸化する電位を印加するに際しては、前述したように作用電極の電位を所定の電位に保持する方法の他、例えばサイクリックボルタンメトリー等によって、作用電極の電位を時間経過に伴い変化させてもよい。作用電極の電位を時間経過に伴って変化させる場合には、金属微粒子が酸化する電位の範囲内(例えば、銀塩化銀参照電極に対し+1~+2V)において、作用電極の電位を変化させることが好ましい。さらに、金属微粒子を酸化させるに際しては、金属微粒子が電気化学的に酸化する電位を作用電極に複数回印加してもよい。
【0028】
なお、金属微粒子として粒径10nm~60nmの金微粒子を使用する場合、金微粒子を電気化学的に酸化させるに際して、0.1規定~0.5規定の塩酸溶液中で、銀塩化銀参照電極に対する上記作用電極の電位を+1.2V~+1.6Vとすることが好ましい。
【0029】
ここで、金属微粒子を十分に酸化させるに際しては、金属微粒子の量に応じて最適な電荷量を与えるように注意する必要がある。電荷量は電流を積分した値であるため、作用電極に印加する電位が比較的低い電位であれば、金属微粒子を十分に酸化させるためには当該電位を長時間印加する必要がある。一方、作用電極に印加する電位が比較的高い電位であれば、金属微粒子を十分に酸化させるために必要な時間は短時間でよい。
【0030】
金属微粒子が電気化学的に酸化する電位に作用電極の電位を保持する時間を1秒以上とすることで、金属微粒子を十分に酸化させることができ、検出感度を確実に向上させることができる。一方、印加時間を100秒以上としても得られる電流値は殆ど変わらない。したがって、1秒以上100秒以下が好ましい。上記電位の保持時間のさらに好ましい範囲は、40秒以上100秒以下である。
【0031】
酸化した金属を電気化学的に還元する際に生じる電流を測定する方法としては、例えば、微分パルスボルタンメトリー、サイクリックボルタンメトリー等のボルタンメトリー、アンペロメトリー、クロノメトリー等が挙げられる。
【0032】
作用電極上で抗原抗体反応等を行って作用電極の表面近傍に金属微粒子を集め、標識体に含まれる金属微粒子に由来する還元ピーク電流を測定するので、簡便且つ高感度に試験溶液中の被検物質を測定することができる。
【0033】
以上の説明においては、被検物質量に対応する量の金属微粒子を集める方法として、非競合反応を利用して試験溶液中の被検物質量に対応する量の金属微粒子を集める方法を例に挙げたが、競合反応を利用して試験溶液中の被検物質量に対応する量の金属微粒子を集める方法を採用しても構わない。
【実施例0034】
材料
本実施例では、以下の試薬を使用した。

検出用抗Dダイマー抗体(St John's Laboratory社製)
捕捉用抗Dダイマー抗体(TRINA Bioreactives社製)
金ナノ粒子, 粒子径40 nm(BBI Solutions社製)
ウシ血清アルブミン(BSA)(シグマアルドリッチ社製)
スクリーン印刷炭素電極(バイオデバイステクノロジー社製)
非タンパク質系ブロッキング溶液
PBS
Dダイマーキャリブレーター(積水メディカル社製)
Tween20(ポリオキシエチレン(20) ソルビタンモノラウレート)(富士フィルム和光純薬社製)
MES [2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸一水和物](同仁化学社製)
グリシン(富士フィルム和光純薬社製)
フタル酸水素カリウム(富士フィルム和光純薬社製)
【0035】
抗体標識金ナノ粒子の調製
pH調整のために、9 mLの金ナノ粒子分散液(平均粒子径40 nm、520 nmの光学密度:1.0)に、水酸化ナトリウムでpH6.5に調整した50 mM リン酸二水素カリウム溶液を1 mL加え混合した。この金ナノ粒子分散液10 mLに純水で希釈した0.1 mg/mLの検出用抗Dダイマー抗体を1mL加え、室温で10分間静置することにより、抗体を金ナノ粒子に結合させた。その後、金ナノ粒子分散液に1 mLの10%BSAを加え、室温で10分間静置することにより、金ナノ粒子表面のブロッキング処理を行った。
【0036】
未結合の抗体およびBSAを除くため、金ナノ粒子分散液を4℃、8000gで15分間遠心し、上清を除いた。上清を除いた金ナノ粒子分散液に1mLの1 w/v % BSA含有20 mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)を加えて再び金ナノ粒子を分散させ、遠心(4℃、8000gで15分間)後、金ナノ粒子分散液の上清を除いた。この洗浄操作をもう一度繰り返した後、上清を除いた金ナノ粒子分散液に上記緩衝液を加えて金ナノ粒子を分散させた。
【0037】
分光光度計を用いて、紫外・可視分光法により、得られた抗体標識金ナノ粒子分散液の照射波長520 nmにおける光学密度を測定した。作製した抗体標識金ナノ粒子分散液は4℃で保存した。
【0038】
抗体固相電極の作製
被検物質測定用の電極デバイスとしては、図1に示すようなプレナー型の印刷電極デバイス41(幅4mm、長さ12mm)を用いた。印刷電極デバイス41は、カーボンペーストで形成した作用電極42及び対極43と、カーボンペーストで形成したリード(図示は省略する。)と、銀/塩化銀で形成した参照電極44とを絶縁支持体45上に有するものであり、作用電極42、対極43及び参照電極44の表面の一部が絶縁層46で被覆されることにより、有効な電極面積が規定されている。
【0039】
捕捉用抗Dダイマー抗体をスクリーン印刷電極の作用極に乾燥担持させた後、作用極、参照極および対極を非タンパク質系ブロッキング溶液でブロッキングした。得られた電極は乾燥材を入れた密閉容器に入れ、4℃で保存した。
【0040】
金結合電気化学免疫測定(GLEIA)
検出用抗Dダイマー抗体を結合させた抗体標識金ナノ粒子の分散液を、照射波長520 nmの光学密度が4.0または2.0になるように1 w/v % BSA含有20 mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)を用いて希釈した。希釈した各分散液と以下の表1に示す溶液とを1:1の割合で混合した。
【表1】
【0041】
試験溶液2及び3におけるDダイマーキャリブレーターの濃度は、0.5μg/mLである。
【0042】
試験溶液1を10分間以上または試験溶液2および試験溶液3を3分間、室温で静置した後、各溶液のアリコート4.5μLを捕捉用抗Dダイマー抗体固定化スクリーン印刷電極の作用極に滴下し、室温で3分間静置した。
【0043】
250μLの各種洗浄用溶液(試験1(試験溶液1):表2の溶液6種、試験2(試験溶液2):150 mM NaCl及び0.05 v/v%Tween20含有20 mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)、試験3(試験溶液3):表4の溶液7種)で電極を洗浄した。洗浄後、電極をブロッキング溶液でブロッキングし、エアブロー(エアスプレー)で電極上のブロッキング溶液を吹き飛ばし乾燥させた。
【0044】
【表2】
【0045】
得られたスクリーン印刷電極に、25μLの各種測定用溶液(試験1:0.2 M HCl、試験2:表3の溶液6種、試験3:表4の溶液7種)を作用極、参照極および対極を完全に覆うように滴下し、ポテンショスタットを用いて金ナノ粒子中の金原子の酸化と、それに引き続く微分パルスボルタンメトリーによる電気化学測定を行った。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
なお、金原子の酸化は銀/塩化銀からなる参照極を基準として作用極に+1.25 Vの電圧を40秒間印加することによって行い、微分パルスボルタンメトリーは、パルス強度0.1 V、電位ステップ幅8 mV、パルス時間0.4秒、パルス幅0.1秒、スキャン速度20 mV/秒で、同参照極を基準として、作用極の基底電位を+0.7 Vから0 Vに変化させることによって行った。
【0049】
各pHにおける還元ピーク電流
図2(A)は、試験1に関する作用極と表2に示すpH3から8の溶液を用いて、金コロイドの還元ピーク電流を測定した結果、すなわち、ブランクをそれぞれ3回ずつ測定した結果である。図中のエラーバーは標準偏差を表している。pH4.0以下では、金ナノ粒子が非特異的に電極に結合し、バックグラウンドノイズが増加した。
【0050】
図2(B)は、試験2に関する作用極と表3に示すpH3から8の溶液を用いて、金コロイドの還元ピーク電流をそれぞれ3回ずつ測定した結果である。図中のエラーバーは標準偏差を表している。Dダイマーキャリブレーター濃度が0.5μg/mLの試料を測定したところ、pH7.0及び8.0では測定値が他のpHに比べて著しく小さく、pHが6.0以下ではpHが低いほど測定値が大きかった。
【0051】
各緩衝液(pH5.0及びpH5.5)における還元ピーク電流
次に、表4に示す緩衝液(緩衝液不含溶液、クエン酸B(pH5.0及びpH5.5)、フタル酸B(pH5.0)、酢酸B(pH5.0)及びMES(pH5.5))における金コロイドの還元ピーク電流を測定した(作用極として、試験3に関する作用極を使用した)。Dダイマーキャリブレーター濃度が0.5μg/mLの試料をそれぞれ3回ずつ測定した結果を図4に示している。測定は10回行った。なお、図中に示す電流値は、ベースライン減算後のボルタモグラムから算出した金コロイドの還元ピーク電流値である。
【0052】
図3の通り、緩衝液不含溶液及びクエン酸B(pH5.0及びpH5.5)は、測定値のバラツキが大きく、またキレート作用を有するフタル酸B(pH5.0)は酸化還元の効率が悪かった一方で、キレート作用を有しない緩衝液である酢酸B(pH5.0)及びMES(pH5.5)は、緩衝作用を発揮するpH(それぞれ、5.0及び5.5)での測定値のバラツキが小さく且つ酸化還元の効率も良好であった。
【0053】
pH5.0における還元ピーク電流
次に、pH5.0における金コロイドの還元ピーク電流を測定した。図4(A)から(C)は、それぞれ、表4に示す緩衝液不含溶液(pH未調整)、酢酸B(pH5.0)及びMES(pH5.0)を用いて、金コロイドの還元ピーク電流を測定した結果を示している(作用極として、試験3に関する作用極を使用した)。測定はそれぞれ10回ずつ行った。
【0054】
図4(A)から(C)に示す通り、pH5.0付近に調整した緩衝液のほうが、pHを調整していない緩衝液不含溶液よりも、測定値のバラツキを低減することができた。
【符号の説明】
【0055】
1 印刷電極デバイス
2 作用電極
3 対極
4 参照電極
5 絶縁支持体
6 絶縁層
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-10-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質の有無又は濃度を調べることを特徴とする被検物質の測定方法であって、前記方法は、
前記被検物質を含む免疫複合体が固定された作用電極を洗浄緩衝液で洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄緩衝液中において前記作用電極の電位制御を行い電流値を測定する電流測定工程と、
を含み、
前記免疫複合体は、前記被検物質と、前記被検物質に特異的に結合した第1の結合物質と、当該被検物質に特異的に結合した第2の結合物質と、前記第2の結合物質に結合した標識物質と、を含み、
前記標識物質は、金属微粒子であり、
前記洗浄緩衝液のpHは、4から6であり、
前記洗浄緩衝液は、キレート作用を有さない緩衝液である、
方法。
【請求項2】
前記洗浄緩衝液は、酢酸緩衝液又はMES緩衝液である、請求項に記載の方法。