(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006571
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテルを含む硬化性組成物、ドライフィルム、プリプレグ、硬化物及び電子部品
(51)【国際特許分類】
C08G 65/44 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
C08G65/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107451
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】関口 翔也
(72)【発明者】
【氏名】三島 翔子
(72)【発明者】
【氏名】杉田 侑生
(72)【発明者】
【氏名】石川 信広
【テーマコード(参考)】
4J005
【Fターム(参考)】
4J005AA26
4J005BA00
4J005BB01
4J005BB02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低誘電特性と優れた溶媒溶解性を有し、分子量の制御が容易であり大量生産するのに好適な、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルを提供する。
【解決手段】ポリフェニレンエーテルは、原料フェノール類から得られ、前記原料フェノール類が少なくとも下記条件1を満たすフェノール類と、下記式(1)で示されるフェノール類(X)とを含む。(条件1)オルト位及びパラ位に水素原子を有する
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料フェノール類から得られるポリフェニレンエーテルであって、
前記原料フェノール類が少なくとも下記条件1を満たすフェノール類と下記式(1)で示されるフェノール類(X)とを含むことを特徴とするポリフェニレンエーテル。
(条件1)
オルト位及びパラ位に水素原子を有する
【化1】
(式(1)中、R
A、R
C、R
Eは、各々独立して、炭素数1~10の官能基であり、R
B、R
Dは、各々独立して、水素又は炭素数1~10の官能基であり、R
A~R
Eの1つ以上は、不飽和炭素結合を含む官能基である。)
【請求項2】
前記フェノール類(X)が、下記式(2)又は下記式(3)で示される化合物である、請求項1に記載のポリフェニレンエーテル。
【化2】
【化3】
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテルを含む硬化性組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の硬化性組成物を基材に塗布又は含浸して得られることを特徴とするドライフィルム又はプリプレグ。
【請求項5】
請求項3に記載の硬化性組成物を硬化して得られることを特徴とする硬化物。
【請求項6】
請求項5に記載の硬化物を含むことを特徴とする積層板。
【請求項7】
請求項5に記載の硬化物を有することを特徴とする電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテルを含む硬化性組成物、ドライフィルム、硬化物及び電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
第5世代通信システム(5G)に代表される大容量高速通信や自動車のADAS(先進運転システム)向けミリ波レーダー等などの普及により、通信機器の信号の高周波化が進んできた。
【0003】
しかし、配線板材料としてエポキシ樹脂などを使用した場合、比誘電率(Dk)や誘電正接(Df)が十分に低くないために、周波数が高くなるほど誘電損失に由来する伝送損失の増大が起こり、信号の減衰や発熱などの問題が生じていた。そのため、低誘電特性にすぐれたポリフェニレンエーテルが使用されてきた。
【0004】
また、非特許文献1には、ポリフェニレンエーテルの分子内にアリル基を導入させて、熱硬化性樹脂とすることで、耐熱性を向上させたポリフェニレンエーテルが提案されている。
【0005】
しかしながら、ポリフェニレンエーテルは可溶な溶媒が限られており、非特許文献1の手法で得られたポリフェニレンエーテルも、クロロホルムやトルエン等の非常に毒性が高い溶媒にしか溶解しない。そのため、樹脂ワニスの取り扱いや、配線板用途のような塗膜化して硬化させる工程における溶媒暴露の管理が難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Nunoshige, H. Akahoshi, Y. Shibasaki, M. Ueda, J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 2008, 46, 5278-5282.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下、本発明者らは、特定のフェノールを原料として合成された分岐構造を有するポリフェニレンエーテルが、高い溶媒溶解性を有することを見出した(特開2020-015909号公報)。
【0008】
しかしながら、本発明者らはさらに研究を進める中で、この分岐構造を有するポリフェニレンエーテルは、直鎖構造を有するポリフェニレンエーテルに比べ、重合反応性を有するポリマー末端を多く備えることから、成長したポリマー同士が更に重合(いわゆるカップリング)し、分子量が急激に増加するという問題があることを新たに知見した。従って、得られるポリフェニレンエーテルの分子量を所望の範囲に制御するためには、原料の選定や製造条件の細かい調整等が求められ、大量生産には不向きな場合があった。
【0009】
また、分子量を制御して合成された低分子量のポリフェニレンエーテルは、分子量が低いことに起因して硬化物とした場合に機械強度等の膜物性が低下してしまう場合があることを新たに知見した。
【0010】
そこで本発明は、分子量の制御が容易であり、分子量の増加を抑制しつつ硬化物の機械強度にも優れた分岐構造を有するポリフェニレンエーテルの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を行い、特定の構造を有するフェノール類を含む原料フェノール類から得られるポリフェニレンエーテルによって、上記課題が解決されることを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
【0012】
本発明のある形態は、ポリフェニレンエーテルである。
前記ポリフェニレンエーテルは、原料フェノール類から得られ、前記原料フェノール類が少なくとも下記条件1を満たすフェノール類と、下記式(1)で示されるフェノール類(X)とを含む。
(条件1)
オルト位及びパラ位に水素原子を有する
【化1】
(式(1)中、R
A、R
C、R
Eは、各々独立して、炭素数1~10の官能基であり、R
B、R
Dは、各々独立して、水素又は炭素数1~10の官能基であり、R
A~R
Eの1つ以上は、不飽和炭素結合を含む官能基である。)
【0013】
前記フェノール類(X)は、下記式(2)又は下記式(3)で示される化合物であることが好ましい。
【化2】
【化3】
【0014】
本発明の別の形態は、前記ポリフェニレンエーテルを含む硬化性組成物である。
【0015】
本発明の更に別の形態は、前記硬化性組成物を基材に塗布又は含浸して得られるドライフィルム又はプリプレグである。
【0016】
本発明の更に別の形態は、前記硬化性組成物を硬化して得られる硬化物である。
【0017】
本発明の更に別の形態は、前記硬化物を含む積層板である。
【0018】
本発明の更に別の形態は、前記硬化物を有する電子部品である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、分子量の制御が容易であり、分子量の増加を抑制しつつ硬化物の機械強度にも優れた分岐構造を有するポリフェニレンエーテルを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は実施例1に係るポリフェニレンエーテルの
1H-NMR(CDCl
3、室温)スペクトルである。
【
図2】
図2は実施例2に係るポリフェニレンエーテルの
1H-NMR(CDCl
3、室温)スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
説明した化合物に異性体が存在する場合、特に断らない限り、存在し得る全ての異性体が本発明において使用可能である。
【0022】
本明細書において、「不飽和炭素結合」は、特に断らない限り、エチレン性又はアセチレン性の炭素間多重結合(二重結合又は三重結合)を示す。
【0023】
本明細書において、不飽和炭素結合を含む官能基としては、特に限定されないが、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基)、アルキニル基(例えば、エチニル基)、又は、(メタ)アクリルロイル基が挙げられ、硬化性に優れる観点からビニル基、アリル基、(メタ)アクリルロイル基を選択でき、中でも低誘電特性に優れる観点からアリル基であることが好ましい。なお、これらの不飽和炭素結合を含む官能基は、炭素数を、例えば15以下、10以下、8以下、5以下、3以下等とすることができる。
【0024】
本明細書において、炭化水素基としては、特に限定されないが、炭素原子および水素原子のみから構成される基を意味し、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、シクロアルキル基等が挙げられる。
【0025】
本明細書において、ポリフェニレンエーテル(PPE)の原料として用いられ、ポリフェニレンエーテルの構成単位になり得るフェノール類を総称して、「原料フェノール類」とする。
【0026】
本明細書において、原料フェノール類の説明を行う際に「オルト位」や「パラ位」等と表現した場合、特に断りがない限り、フェノール性水酸基の位置を基準(イプソ位)とする。
【0027】
本明細書において、単に「オルト位」等と表現した場合、「オルト位の少なくとも一方」等を示す。従って、特に矛盾が生じない限り、単に「オルト位」とした場合、オルト位のどちらか一方を示すと解釈してもよいし、オルト位の両方を示すと解釈してもよい。
【0028】
本明細書において、ポリフェニレンエーテルの数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めたものである。GPCにおいては、Shodex K-805Lをカラムとして使用し、カラム温度を40℃、流量を1mL/min、溶離液をクロロホルム、標準物質をポリスチレンとする。
【0029】
本明細書において、数値範囲の上限値と下限値とが別々に記載されている場合、矛盾しない範囲で、各下限値と各上限値との全ての組み合わせが実質的に記載されているものとする。
【0030】
以下、ポリフェニレンエーテル、当該ポリフェニレンエーテルを含む硬化性組成物、並びに、硬化性組成物を用いて得られる、ドライフィルム、硬化物及び電子部品について説明する。
【0031】
<<<ポリフェニレンエーテル>>>
<<原料フェノール類>>
本実施形態に係るポリフェニレンエーテルの原料フェノール類は、少なくとも下記条件1を満たすフェノール類と、所定のフェノール類(X)とを含む。
(条件1)
オルト位及びパラ位に水素原子を有する
【0032】
また、原料フェノール類は、その他のフェノール類を含んでいてもよい。
【0033】
以下、それぞれのフェノール類について説明する。
【0034】
以下に示す原料フェノール類としては主に1価のフェノール類を開示しているが、本開示の効果を阻害しない範囲で、原料フェノール類として多価のフェノール類を使用してもよい。
【0035】
<少なくとも条件1を満たすフェノール類>
少なくとも条件1を満たすフェノール類は、オルト位及びパラ位に水素原子を有する。
【0036】
また、少なくとも条件1を満たすフェノール類は、下記条件2をさらに満たすものであってもよい。
(条件2)
パラ位に水素原子を有し、不飽和炭素結合を含む官能基を有する
【0037】
即ち、少なくとも条件1を満たすフェノール類は、(1)条件1のみを満たし条件2を満たさないフェノール類、(2)条件1及び条件2の両方を満たすフェノール類のいずれであってもよく、また、原料フェノール類がこれらのフェノール類を共に含んでいてもよい。
【0038】
条件1を満たすフェノール類は、オルト位に水素原子を有するため、他のフェノール類と酸化重合される際に、イプソ位及びパラ位のみならず、オルト位においてもエーテル結合が形成され得るため、かかるフェノール類を原料フェノール類として用いて得られるポリフェニレンエーテルは分岐鎖状の構造を形成することが可能となる。
より具体的には、条件1を満たすフェノール類を含む原料フェノール類から得られるポリフェニレンエーテルは、その構造の一部が、少なくともイプソ位、オルト位、パラ位の3か所においてエーテル結合されたベンゼン環により分岐することとなる。
このように、骨格内に分岐構造を有するポリフェニレンエーテルを分岐ポリフェニレンエーテルと称する場合がある。分岐ポリフェニレンエーテルによれば、有機溶剤への優れた溶解性が得られる。
【0039】
また、条件2を満たすフェノール類は、不飽和炭素結合を含む官能基を有するため、かかるフェノール類を原料フェノールとして用いて得られるポリフェニレンエーテルはエチレン性又はアセチレン性の炭素間多重結合を含む官能基を有する。
より具体的には、条件2を満たすフェノール類を含む原料フェノール類から得られるポリフェニレンエーテルは、その構造の一部が、少なくともベンゼン環のメタ位又は2カ所のオルト位のいずれかに不飽和炭素結合を含む官能基を有することとなる。
【0040】
条件1のみを満たし条件2を満たさないフェノール類としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、o-エチルフェノール、m-エチルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、3,5-キシレノール、o-tert-ブチルフェノール、m-tert-ブチルフェノール、o-フェニルフェノール、m-フェニルフェノール、2-ドデシルフェノール、等を挙げることができる。条件1を満たすフェノール類としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0041】
条件1及び条件2の両方を満たすフェノール類としては、o-ビニルフェノール、m-ビニルフェノール、o-アリルフェノール、m-アリルフェノール、3-ビニル-6-メチルフェノール、3-ビニル-6-エチルフェノール、3-ビニル-5-メチルフェノール、3-ビニル-5-エチルフェノール、3-アリル-6-メチルフェノール、3-アリル-6-エチルフェノール、3-アリル-5-メチルフェノール、3-アリル-5-エチルフェノール等を挙げることができる。条件1及び条件2を満たすフェノール類としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0042】
ポリフェニレンエーテルの合成において、原料フェノール類全量に対する、少なくとも条件1を満たすフェノール類(A)の含有率は、1mol%以上、2mol%以上、3mol%以上、又は、5mol%以上であることが好ましく、また、50mol%以下、40mol%以下、30mol%以下、20mol%以下、又は、15mol%以下であることが好ましい。
【0043】
<フェノール類(X)>
フェノール類(X)は、下記式(1)で示される構造を有する。
【化4】
【0044】
式(1)中、RA、RC、REは、各々独立して、炭素数1~10の官能基であり、RB、RDは、各々独立して、水素又は炭素数1~10の官能基であり、RA~REの1つ以上は、不飽和炭素結合を含む官能基である。
【0045】
フェノール化合物(X)は、不飽和炭素結合を含む官能基を1つのみ有していてもよいし2つ以上有していてもよい。
【0046】
前述したように、本実施形態に係るポリフェニレンエーテルは、条件1を満たすフェノール類を原料フェノール類として含有することで、分岐構造を有することとなる。
分岐構造を有するポリフェニレンエーテルは、直鎖構造を有するポリフェニレンエーテルに比べ、重合反応性を有するポリマー末端を多く備えるため、成長したポリマー同士が更に重合(いわゆるカップリング)し、分子量が急激に増加することがあり、反応の制御が容易ではなかった。
このような知見に基づき、本実施形態では、原料フェノール類として、条件1を満たすフェノール類に加えて、更に、フェノール類(X)を組み合わせた。
フェノール類(X)は反応性の高いオルト位およびパラ位に水素原子を有していないため、フェノール類(X)が反応したポリフェニレンエーテル分子鎖の末端では重合反応が停止する。従って、フェノール類(X)が適度にポリフェニレンエーテルの末端部を構成すると、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルの合成にて生じる急激な分子量増加(カップリング反応)が抑制され得る。このようにして得られたポリフェニレンエーテルは、意図せぬ分子量増加が抑制されていることから、保存安定性に優れ易い。
【0047】
また、例えば米国特許第3,440,217号のように、2,6-ジメチルフェノールと2,4,6-トリメチルフェノール等の3置換フェノールを原料フェノール類として用いて直鎖構造を有するポリフェニレンエーテルの分子量を制御する方法が知られている。しかしながら、直鎖状のポリフェニレンエーテルでは、ポリフェニレンエーテル分子鎖の1つの末端のみで重合反応が進行するため、3置換フェノールが反応した段階で重合反応が停止する。そのため、3置換フェノールを用いて分子量制御した直鎖構造のポリフェニレンエーテルでは、そのポリフェニレンエーテルの分子量が極端に低くなり、機械強度が顕著に低下する場合があることを本発明者らは知見した。この点、本実施形態では分岐構造を有するポリフェニレンエーテルの原料フェノール類にフェノール類(X)を用いることにより、分子量増加を過剰に抑制することなく、所望の分子量範囲のポリフェニレンエーテルを得ることができるという効果をさらに奏することを見出した。分岐構造を有するポリフェニレンエーテルでは2以上の反応性末端で重合が進行するため、フェノール類(X)が反応しても別の反応性末端で重合可能であり、分子量の増加を過剰に抑制することがないため、所望の分子量範囲のポリフェニレンエーテルを得ることができると推測される。
【0048】
これらの結果、反応の制御が容易となり、分岐構造由来の優れた性能(低誘電特性、優れた溶媒溶解性)を維持したまま、所望の分子量範囲のポリフェニレンエーテル(特に、工業的に有用な重量平均分子量5,000~300,000を充足するポリフェニレンエーテル)を効率的に製造できる。このようなポリフェニレンエーテルは、分子量を制御しつつ硬化物の機械強度にも優れる。
【0049】
また、フェノール類(X)は、少なくとも不飽和炭素結合を含む官能基を有する。換言すれば、フェノール類(X)を用いて得られた分岐構造を有するポリフェニレンエーテルは、(フェノール類(X)由来の)少なくとも不飽和炭素結合を含む官能基を有することとなり、架橋性が奏される。また、前述したように、フェノール類(X)は適度にポリフェニレンエーテルの末端部を構成するため、得られる分岐構造を有するポリフェニレンエーテルは、分岐構造の末端部において架橋性が発現することとなり、優れた溶媒溶解性を維持しつつ、ポリフェニレンエーテルの架橋反応性が向上し易い(乃至は、得られる硬化物の機械強度が向上し易い)。
このような本実施形態に係る各構成の相乗効果によって、分子量を制御しつつ硬化物の機械強度にも優れたポリフェニレンエーテルを得ることができると推測される。
【0050】
また、フェノール類(X)に含まれる不飽和炭素結合を含む官能基は、不飽和二重結合を含む炭素数3以上の官能基であることが好ましい。不飽和二重結合を含む官能基の炭素数が3以上であることで、製造容易性や保存安定性等に優れる。
【0051】
本開示に係る効果をより高めるという観点から、フェノール類(X)は、以下のようなものであることが好ましい。
【0052】
式(1)中、不飽和炭素結合を含む官能基は、炭化水素基であることが好ましい。不飽和炭素結合を含む官能基が炭化水素基である場合には、炭素数3~10、炭素数3~5、又は、炭素数3であることが好ましい。より具体的には、不飽和炭素結合を含む炭化水素基は、[-(CH2)n-CH=CH2](nは、1~8の整数)で示される基であることが好ましい。前記nは1~3の整数であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0053】
式(1)中、RA、RC、REは、各々独立して、炭素数10以下、5以下又は炭素数3以下の炭化水素基であることが好ましい。
【0054】
式(1)中、RA、RC、REの1つ以上が、不飽和炭素結合を含む官能基であることが好ましい。より具体的には、式(1)中、RA、RC、REのいずれか1つが、不飽和炭素結合を含む官能基であり、その他は、不飽和炭素結合を含まない官能基であることが好ましい。
【0055】
式(1)中、少なくともRCが不飽和炭素結合を含む官能基であることが、破断伸びに特に優れる硬化物を得ることができる観点から好ましい。パラ位の不飽和炭素結合を含む官能基は、オルト位やメタ位の不飽和炭素結合を含む官能基と比較して架橋反応性が高いため、硬化物の機械強度が特に優れたポリフェニレンエーテルを得ることができると推測される。また、式(1)中、少なくともRA、REのいずれか1つが不飽和炭素結合を含む官能基であることが、特に高弾性率である硬化物を得ることができる観点から好ましい。
【0056】
式(1)中、RB、RDは、各々独立して、水素若しくは炭素数10以下の炭化水素基、水素若しくは炭素数5以下の炭化水素基、水素若しくは炭素数3以下の炭化水素基、水素若しくは炭素数1の炭化水素基、又は、水素であることが好ましい。
【0057】
式(1)中、RB、RDが炭化水素基である場合、不飽和炭素結合を含まない炭化水素基であることが好ましい。
【0058】
式(1)中、前述のように、RA~REの1つ以上は、不飽和炭素結合を含む官能基である。この場合、RA~REにおいて、当該不飽和炭素結合を含む官能基に該当しない水素以外の置換基は、炭素数1~10、1~5又は1~3の炭化水素基であることが好ましい。
【0059】
具体的なフェノール類(X)としては、例えば、下記式(2)で示される化合物(4-アリル-2,6-ジメチルフェノール)又は下記式(3)で示される化合物(2-アリル-4,6-ジメチルフェノール)が挙げられる。フェノール類(X)は、例えばWO2021/070714号公報に記載の合成方法など、公知の方法を利用して製造することができる。
【0060】
【0061】
【0062】
ポリフェニレンエーテルの合成において、原料フェノール類全量に対する、フェノール類(X)の含有率は、1mol%以上、2mol%以上、3mol%以上、又は、5mol%以上であることが好ましく、また、50mol%以下、40mol%以下、30mol%以下、20mol%以下、又は、15mol%以下であることが好ましい。
【0063】
原料フェノール類全量を基準とした、条件1を満たすフェノール類の含有率(mol%)に対するフェノール類(X)の含有率(mol%)の比率(フェノール類(X)/条件1を満たすフェノール類)は、0.1~10.0、0.2~5.0、又は、0.5~2.0であることが好ましい。
【0064】
<その他のフェノール類>
その他のフェノール類は、条件1を満たさず、且つ、フェノール類(X)に該当しないフェノール類である。
【0065】
その他のフェノール類としては、例えば、(1)条件1を満たさず、条件2を満たし、且つ、フェノール類(X)に該当しないフェノール類、(2)条件1及び条件2のいずれも満たさず、且つ、フェノール類(X)に該当しないフェノール類が挙げられる。
【0066】
条件1を満たさず、条件2を満たし、且つ、フェノール類(X)に該当しないフェノール類は、例えば、パラ位に水素原子を有し、いずれのオルト位にも炭化水素基を有し、炭化水素基の少なくも一方が不飽和炭素結合を有するフェノール類である。このようなフェノール類としては、2-アリル-6-メチルフェノール、2-アリル-6-エチルフェノール、2-アリル-6-フェニルフェノール、2-アリル-6-スチリルフェノール、2,6-ジビニルフェノール、2,6-ジアリルフェノール、2,6-ジイソプロペニルフェノール、2,6-ジブテニルフェノール、2,6-ジイソブテニルフェノール、2,6-ジイソペンテニルフェノール、2-メチル-6-スチリルフェノール、2-ビニル-6-メチルフェノール、2-ビニル-6-エチルフェノール等を挙げることができる。
【0067】
条件1及び条件2のいずれも満たさず、且つ、フェノール類(X)に該当しないフェノール類は、例えば、パラ位に水素原子を有し、いずれのオルト位にも不飽和炭素結合を含まない官能基を有するフェノール類である。このようなフェノール類としては、2,6-ジメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2-メチル-6-エチルフェノール、2-エチル-6-n-プロピルフェノール、2-メチル-6-n-ブチルフェノール、2-メチル-6-フェニルフェノール、2,6-ジフェニルフェノール、2,6-ジトリルフェノール等が挙げられる。
【0068】
このように、パラ位に水素原子を有するフェノール類をその他のフェノール類として用いた場合、ベンゼン環のイプソ位及びパラ位においてエーテル結合が形成され直鎖状に重合することから分岐構造の割合の調整に有用であり、また、ポリフェニレンエーテルの分子量を調整しやすくなる。
【0069】
また、条件1及び条件2のいずれも満たさず、且つ、フェノール類(X)に該当しないフェノール類としては、パラ位とオルト位に水素原子を有さず、不飽和炭素結合を含む官能基を有しないフェノール類も挙げられる。
このように、パラ位とオルト位のいずれにも水素原子を有しないフェノール類をその他のフェノール類として用いた場合、ポリフェニレンエーテルの重合反応が抑制され、ポリフェニレンエーテルの分子量を調整しやすくなる。
【0070】
その他のフェノール類は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0071】
ポリフェニレンエーテルの合成において、その他のフェノール類を用いる場合には、原料フェノール類全量に対するその他のフェノール類の含有率は、例えば、10mol%以上、20mol%以上、30mol%以上、40mol%以上、50mol%以上である。
【0072】
<<ポリフェニレンエーテルの製造方法>>
本開示のポリフェニレンエーテルは、使用する原料フェノール類や原料フェノール類の比率を前述したものとする以外は、公知のポリフェニレンエーテルの合成方法で製造することができる。例えば、国際公開WO2020/017570公報にて開示された合成方法にて製造することができる。
【0073】
<<ポリフェニレンエーテルの物性/性質>>
ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量は、5,000~40,000であることが好ましく、8,000~30,000であることがより好ましく、10,000~25,000以下であることがより好ましい。
ポリフェニレンエーテルの数平均分子量は、5,000~20,000であることが好ましく、5,000~10,000であることがより好ましい。
【0074】
ポリフェニレンエーテルの分子量は、使用する原料フェノール類の種類にもよるが、合成時の反応温度や反応時間等を変更することで調整することが可能である。また、原料フェノール類中のフェノール類(X)の割合や、その他のフェノール類のうちパラ位とオルト位に水素原子を有さないものの割合を多くすることで、重合反応が抑制され、分子量の増加速度が遅くなりポリフェニレンエーテルの分子量制御が容易となる。
【0075】
<<<硬化性組成物>>>
硬化性組成物は、本実施形態に係るポリフェニレンエーテルを含む。
また、硬化性組成物は、その他の成分を含んでいてもよい。
【0076】
硬化性組成物におけるポリフェニレンエーテルの含有量は、硬化性組成物中の揮発成分と無機充填剤を除いた全量基準で、好ましくは40~90質量%であり、より好ましくは50~80質量%である。
【0077】
その他の成分としては、例えば、シリカ等の無機充填材、過酸化物、架橋型硬化剤、本実施形態に係るポリフェニレンエーテル以外のポリフェニレンエーテル、重合開始剤、マレイミド樹脂、スチレン系エラストマー等の樹脂及びポリマー成分、増感剤、接着助剤、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、密着剤、着色剤、繊維、シランカップリング剤、難燃性剤、セルロースナノファイバー、分散剤、熱硬化触媒、増粘剤、消泡剤、酸化防止剤、防錆剤、密着性付与剤等の添加剤が挙げられる。
【0078】
その他の成分は、用途等に応じて適宜選択すればよい。一例として、硬化性組成物が過酸化物を含む場合、硬化性組成物の架橋反応が促進され、硬化物の各種物性が向上しやすい。また、硬化性組成物が架橋型硬化剤を含む場合には、硬化物の低誘電特性や耐熱性等が向上しやすい。
【0079】
過酸化物としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルハイドロパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ブテン、アセチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、m-トルイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチレンパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、等が挙げられる。過酸化物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0080】
硬化性組成物中の過酸化物の含有量は、硬化性組成物中のポリフェニレンエーテルの含有量を100質量部とした場合に、0.1~10質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。
【0081】
架橋型硬化剤としては、ジビニルベンゼンやジビニルナフタレンやジビニルビフェニルなどの多官能ビニル化合物;フェノールとビニルベンジルクロライドの反応から合成されるビニルベンジルエーテル系化合物;ジアリルフタレートやジアリルイソフタレートなどのスチレンモノマー,フェノールとアリルクロライドの反応から合成されるアリルエーテル系化合物;さらにトリアリルイソシアヌレート(以下、TAIC(登録商標))やトリアリルシアヌレートなどのトリアルケニルイソシアヌレートなどが挙げられる。中でも、ポリフェニレンエーテルとの相溶性が特に良好なトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレートが好ましい。架橋型硬化剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0082】
硬化性組成物中の架橋型硬化剤の含有量は、硬化性組成物中のポリフェニレンエーテルの含有量を100質量部とした場合に、1~100質量部であることが好ましく、10~80質量部であることがより好ましい。
【0083】
また、硬化性組成物は、溶剤を含むワニスの形態であってもよい。
溶剤としては、上述したポリフェニレンエーテルを溶解できる溶剤が好ましく、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン等の従来使用可能な溶剤の他、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(CA)、メチルエチルケトン、酢酸エチル等が好ましく使用される。これらは、1種のみが使用されてもよいし、2種以上が使用されてもよい。
【0084】
<<<ドライフィルム、プリプレグ>>>
ドライフィルムは、キャリアフィルム(支持フィルム)上に本開示の硬化性組成物からなる樹脂層を有する。ドライフィルムは、樹脂層を、基材に接するようにラミネートして使用される。
【0085】
ドライフィルムは、キャリアフィルム上に硬化性組成物をブレードコーター、リップコーター、コンマコーター、フィルムコーター等の適宜の方法により均一に塗布し、乾燥して、前述した樹脂層を形成し、好ましくはその上にカバーフィルム(保護フィルム)を積層することにより、製造することができる。カバーフィルムとキャリアフィルムは同一のフィルム材料であっても、異なるフィルムを用いてもよい。
【0086】
キャリアフィルム及びカバーフィルムのフィルム材料は、ドライフィルムに用いられるものとして公知のものをいずれも使用することができる。
【0087】
キャリアフィルムとしては、例えば、2~150μmの厚さのポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム等の熱可塑性フィルムが用いられる。
【0088】
カバーフィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等を使用することができるが、樹脂層との接着力が、キャリアフィルムよりも小さいものが良い。
【0089】
ドライフィルム上の樹脂層の膜厚は、100μm以下が好ましく、5~50μmの範囲がより好ましい。
【0090】
プリプレグは、例えば、ガラスクロス等の基材に硬化性組成物を含浸させ、乾燥させることにより得られる。
【0091】
<<<硬化物>>>
硬化性組成物、又は硬化性組成物からなる樹脂層を有するドライフィルムを用いて、硬化物を製造することができる。
【0092】
硬化性組成物から硬化物を得るための方法は、特に限定されるものではなく、硬化性組成物の組成に応じて適宜変更可能である。
【0093】
例えば、以下のような方法により、硬化物を形成可能である。
前述したような基材上に硬化性組成物の塗工(例えば、アプリケーター等による塗工)した後、必要に応じて硬化性組成物を乾燥させる乾燥工程を実施し、基材上に樹脂層を形成する。或いは基材上にドライフィルムをラミネートして硬化性組成物からなる樹脂層を転写する。
次に、加熱(例えば、イナートガスオーブン、ホットプレート、真空オーブン、真空プレス機等による加熱)によりポリフェニレンエーテルを熱架橋させる熱硬化工程を実施して、樹脂層を硬化させる。
【0094】
各工程における実施の条件(例えば、塗工厚、乾燥温度及び時間、加熱温度及び時間等)は、硬化性組成物の組成や用途等に応じて適宜変更すればよい。
【0095】
<<<電子部品>>>
電子部品は、前述した本開示の硬化物を有するものであり、本開示の硬化物は、優れた誘電特性や耐熱性、機械強度を有することから、積層板や電子部品を構成する材料として、種々の用途に使用可能である。
【0096】
その用途は特に限定されないが、好ましくは、第5世代通信システム(5G)に代表される大容量高速通信や自動車のADAS(先進運転システム)向けミリ波レーダー等の電子部品における絶縁材料が挙げられる。
【実施例0097】
<<ポリフェニレンエーテルの合成>>
<実施例1>
原料フェノール類として、2,6-ジメチルフェノールと、2-アリルフェノールと、4-アリル-2,6-ジメチルフェノールとを用いた。
反応容器として500mLのセパラブルフラスコを使用し、2,6-ジメチルフェノール 34.51g(80mol%)と、2-アリルフェノール 4.71g(10mol%)と、4-アリル-2,6-ジメチルフェノール 5.70g(10mol%)と、をトルエン286.30gに溶解させ原料溶液を調製した。さらに、ジ-μ-ヒドロキソ-ビス[(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]クロリド(Cu/TMEDA) 1.04g、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA) 1.06gとなるように調整し、反応液中に乾燥空気を150mL/minの流量で吹込みながら、攪拌速度200rpmにて攪拌、40℃で15時間反応させ、ポリフェニレンエーテルを含む反応液を得た。
反応液の加温、並びに、乾燥空気の吹込みを停止した後、ジ-μ-ヒドロキソ-ビス[(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]クロリド(Cu/TMEDA)を濾過にて取り除き、メタノール1,200mL、濃塩酸4.0mL、H
2O27.0mLの混合液で再沈殿させて減圧濾過にて取り出し、メタノールで洗浄後、80℃で24時間乾燥させ、実施例1に係るポリフェニレンエーテルを得た。
図1に、実施例1に係るポリフェニレンエーテルの
1H-NMR(CDCl
3、室温)スペクトルを示す。
【0098】
<実施例2>
原料フェノール類として、2,6-ジメチルフェノールと、2-アリルフェノールと、2-アリル-4,6-ジメチルフェノールとを用いて、表1に示す製造条件とした以外は実施例1と同様に、実施例2に係るポリフェニレンエーテルを得た。
図2に、実施例2に係るポリフェニレンエーテルの
1H-NMR(CDCl
3、室温)スペクトルを示す。
【0099】
<比較例1>
原料フェノール類として、2,6-ジメチルフェノールと、2-アリルフェノールと、2,4,6-トリメチルフェノールとを用いて表1に示す製造条件とした以外は実施例1と同様に、比較例1に係るポリフェニレンエーテルを得た。
【0100】
<参考例1>
原料フェノール類として、2,6-ジメチルフェノールと、2-アリルフェノールとを用いて、表1に示す製造条件とした以外は実施例1と同様に、参考例1に係るポリフェニレンエーテルを得た。
【0101】
<分子量>
実施例1、実施例2、比較例1及び参考例1のポリフェニレンエーテルについて、重量平均分子量及び数平均分子量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0102】
<数平均分子量当たりの末端反応基数>
まず、各試料について
1H-NMR測定の結果から各原料フェノール類の重合比を算出し、フェノール化合物X由来の構造を1とした場合の各原料フェノール類由来の繰り返し構造の重合比Xから、以下の式により官能基当量の理論値を計算する。
ここではX
iは原料フェノール類iの重合比、W
iは原料フェノール類i由来の繰り返し単位構造分子量をそれぞれ表す。上記式にて得られた官能基当量で、GPC測定により得られた数平均分子量を除することで、数平均分子量当たりの末端反応基数を算出した。数平均分子量当たりの末端反応基数を表1に示す。なお、比較例1及び参考例1では、フェノール化合物X由来の末端構造を有さないため、数平均分子量当たりの末端反応基数は算出しなかった。
【0103】
表1に示されるように、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルの原料フェノール類として、式(1)で示されるような、少なくともパラ位及びオルト位に所定の官能基を有するフェノール類(X)を用いることで、より低分子量化されたポリフェニレンエーテルとすることが可能であり、分子量の増加が抑制されることが示された。
一方、参考例1のポリフェニレンエーテルは、同じ反応時間であるにもかかわらず、実施例1,2のポリフェニレンエーテルと比較して高分子量のポリフェニレンエーテルであった。
また、表1に示されるように、実施例1及び実施例2によれば、末端部に多くの反応基(アリル基)を導入することが可能である。
なお、比較例1や参考例1については、フェノール化合物Xを用いていないため、数平均分子量当たりの末端反応基数を算出しなかった。
【0104】
【0105】
<<評価>>
実施例1、2に係るポリフェニレンエーテル、比較例1に係るポリフェニレンエーテルについての評価を行った。
【0106】
<硬化膜の製造>
各ポリフェニレンエーテル100質量部と、架橋型硬化剤(製品名「TAIC」、三菱ケミカル社製)50質量部と、過酸化物5質量部(製品名「パーブチルP40」、日本油脂社製)と、シクロヘキサノン(溶剤)350質量部とを混合し、樹脂組成物を調製した。
厚さ18μm銅箔のシャイン面に、乾燥後の膜厚が約20μmになるように各樹脂組成物を塗布し、熱風式循環式乾燥炉で90℃30分乾燥した。次いで、イナートオーブンで200℃、1hの条件で硬化した後、銅箔をエッチングすることで単独の硬化膜(測定サンプル)を得た。
比較例1は実施例1、2と同程度に分子量増加を抑制できるポリフェニレンエーテルであるが硬化後の時点で、硬化物に多数のクラックが生じており、単独の硬化膜を得ることが出来なかった。一方、実施例1、2ではいずれも硬化物にクラックは生じておらず、単独の硬化膜を得ることが出来たため、比較例1と比較して硬化物の機械強度が向上していることが確認された。なお、比較例1は単独の硬化膜を得ることが出来なかったため、以下の評価は行わなかった。
【0107】
<誘電率>
(測定方法)
測定サンプルを長さ80mm、幅45mmに切断したものを試験片として、SPDR(Split Post Dielectric Resonator)共振器法により比誘電率Dkを測定した。測定器には、キーサイトテクノロジー合同会社製のベクトル型ネットワークアナライザE5071C、SPDR共振器、計算プログラムはQWED社製のものを用いた。条件は、周波数10GHz、測定温度25℃とした。
【0108】
(測定結果)
実施例1のポリフェニレンエーテルを用いて得られる硬化物のDkは2.4であった。
実施例2のポリフェニレンエーテルを用いて得られる硬化物のDkは2.7であった。
以上の結果より、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルの原料フェノール類として、フェノール化合物(X)(少なくともパラ位及びオルト位に所定の官能基を有するフェノール類)を用いても、優れた低誘電特性を有することが示された。
【0109】
<引張特性>
(測定方法)
測定サンプルを長さ8cm、幅0.5cmに切り出し、破断伸び(引張破断伸び)を下記条件にて測定した。なお、弾性率は、得られた応力ひずみ線図の応力が5MPaから10MPaにおけるひずみの傾きにより求めた。
[測定条件]
試験機:引張試験機EZ-SX(株式会社島津製作所製)
チャック間距離:50mm
試験速度:1mm/min
伸び計算:(引張移動量/チャック間距離)×100
【0110】
(測定結果)
実施例1のポリフェニレンエーテルを用いて得られる硬化物の弾性率は2.4GPaであり、破断伸びが3.4%であった。
実施例2のポリフェニレンエーテルを用いて得られる硬化物の弾性率は3.9GPaであり、破断伸びが1.4%であった。
以上の結果より、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルの原料フェノール類として、フェノール化合物(X)(少なくともパラ位及びオルト位に所定の官能基を有するフェノール類)を用いることにより、分子量を制御しながらも優れた機械強度を有することが示され、特にパラ位に所定の炭化水素基を有するフェノール類を用いることにより破断伸びが優れ、オルト位に所定の炭化水素基を有するフェノール類を用いることにより弾性率が優れることが示された。