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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006573
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】電力変換システム
(51)【国際特許分類】
   G05F 1/67 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
G05F1/67 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107456
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】麻植 実
【テーマコード(参考)】
5H420
【Fターム(参考)】
5H420BB17
5H420CC02
5H420CC03
5H420DD03
5H420DD09
5H420EB39
5H420FF05
5H420FF22
5H420KK10
(57)【要約】
【課題】従来とは異なる構成の電力変換システムを提供する。
【解決手段】電力変換システム(100)は、蓄電装置(BT)に接続されたDC/DCコンバータ(1)と、再生可能エネルギー発電装置(RE)から第1直流電力(例:Ppv)を供給されるPCS(4)と、を備えている。DC/DCコンバータ(1)は、蓄電装置(BT)から供給された直流電力を変換することにより、第1直流電力に対する補償電力としての第2直流電力をPCS(4)に対して出力し、第1直流電力と再生可能エネルギー発電装置(RE)の最大電力点電力との差である差分電力に基づいて、第2直流電力を決定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置に接続されたDC/DCコンバータと、
再生可能エネルギー発電装置から第1直流電力を供給されるPCSと、を備えており、
上記DC/DCコンバータは、
上記蓄電装置から供給された直流電力を変換することにより、上記第1直流電力に対する補償電力としての第2直流電力を上記PCSに対して出力し、
上記第1直流電力と上記再生可能エネルギー発電装置の最大電力点電力との差である差分電力に基づいて、上記第2直流電力を決定する、電力変換システム。
【請求項2】
上記差分電力をPiとして表し、
上記DC/DCコンバータのサンプリング期間毎の上記第2直流電力の変化量の上限値をPmとして表し、
現サンプリング期間における上記第1直流電力をPpv0として表し、
前回サンプリング期間における上記第1直流電力をPpv1として表した場合に、
上記DC/DCコンバータは、
Ts=Pi/Pm
として与えられるTsを算出するとともに、
Tp=Pi/(Ppv0-Ppv1)
として与えられるTpを算出し、
TsとTpとの比較結果に基づいて、次サンプリング期間における上記第2直流電力を決定する、請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項3】
上記DC/DCコンバータは、Ts>Tpである場合には、上記次サンプリング期間における上記第2直流電力と上記現サンプリング期間における上記第2直流電力との差の絶対値を、Pmよりも小さい値に決定する、請求項2に記載の電力変換システム。
【請求項4】
上記DC/DCコンバータは、Ts>Tpでない場合には、上記次サンプリング期間における上記第2直流電力と上記現サンプリング期間における上記第2直流電力との差の絶対値を、Pmに等しい値に決定する、請求項2に記載の電力変換システム。
【請求項5】
上記再生可能エネルギー発電装置は、太陽光発電装置である、請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項6】
上記PCSは、MPPT制御によって上記最大電力点電力を決定する、請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項7】
上記蓄電装置および上記再生可能エネルギー発電装置をさらに備えている、請求項1に記載の電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、電力変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、再生可能エネルギー発電装置から供給された直流電力と、蓄電装置から供給された別の直流電力と、をそれぞれ変換する電力変換システムの一構成例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-137293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一態様は、従来とは異なる構成の電力変換システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る電力変換システムは、蓄電装置に接続されたDC/DCコンバータと、再生可能エネルギー発電装置から第1直流電力を供給されるPCSと、を備えており、上記DC/DCコンバータは、上記蓄電装置から供給された直流電力を変換することにより、上記第1直流電力に対する補償電力としての第2直流電力を上記PCSに対して出力し、上記第1直流電力と上記再生可能エネルギー発電装置の最大電力点電力との差である差分電力に基づいて、上記第2直流電力を決定する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、従来とは異なる構成の電力変換システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態1における電力変換システムの一構成例を示す。
図2】実施形態1のDCコンバータにおける制御部の一構成例を示す。
図3】電力変換システムにおける各信号値の時間変化の様子を例示する。
図4】PpvmaxとPpcsとの対応関係について説明するための図である。
図5】電力変換システムにおけるMPPT制御の一例を示す。
図6】MPPT制御におけるトラッキング手法について説明するための図である。
図7】TsおよびTpの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施形態1〕
実施形態1の電力変換システム100について以下に説明する。説明の便宜上、実施形態1にて説明したコンポーネント(構成要素)と同じ機能を有するコンポーネントについては、以降の各実施形態では同じ符号を付し、その説明を繰り返さない。簡潔化のため、公知の技術事項についても説明を適宜省略する。
【0009】
本明細書において述べる各コンポーネント、各材料、および各数値はいずれも、内容上矛盾のない限り、単なる例示である。それゆえ、内容上矛盾のない限り、例えば各コンポーネントの位置関係および接続関係は各図の例に限定されない。また、各図は必ずしもスケール通りに図示されていない。本明細書における「接続されている」という記載は、特に矛盾のない限り、「電気的に接続されている」ことを意味する。
【0010】
(電力変換システム100の一構成例)
図1は、電力変換システム100の一構成例を示す。図1では、電力変換システム100およびその周囲の要素が概略的に示されている。図1に示す通り、電力変換システム100は、DC/DCコンバータ1とPCS(Power Conditioning System)4とを備えている。電力変換システム100は、当該電力変換システム100の外部の商用系統PWと接続されていてよい。
【0011】
DC/DCコンバータ1は、蓄電装置BTに接続されている。DC/DCコンバータ1は、自身の電力変換動作を制御する制御部10を有している。図2は、制御部10の一構成例を示す。制御部10の詳細については後述する。蓄電装置BTは、直流電力を蓄電または充電する蓄電池を有している。したがって、蓄電装置BTは、DC/DCコンバータ1に直流電力を供給できる。
【0012】
図1の例におけるPCS4は、商用系統PWと接続されている。PCS4は、直流電力を交流電力へと変換する。図1に示す通り、PCS4は、再生可能エネルギー発電装置REにも接続されている。再生可能エネルギー発電装置REは、直流電力を出力可能な装置であればよい。
【0013】
本明細書では、再生可能エネルギー発電装置REから出力される直流電力を、第1直流電力と称する。実施形態1では、再生可能エネルギー発電装置REが太陽光発電装置である場合を例示する。このことから、図1では、再生可能エネルギー発電装置REから出力される直流電力をPpvと表記している。Ppvは、第1直流電力の例である。
【0014】
図1では、蓄電装置BTおよび再生可能エネルギー発電装置REは、電力変換システム100の外部のコンポーネントとして例示されている。ただし、当業者であれば明らかである通り、蓄電装置BTおよび再生可能エネルギー発電装置REの少なくとも一方は、電力変換システム100の内部のコンポーネントであってもよい。したがって、例えば、電力変換システム100は、蓄電装置BTおよび再生可能エネルギー発電装置REを有していてもよい。
【0015】
図1の例におけるPCS4は、DC/DCコンバータ1にも接続されている。DC/DCコンバータ1は、蓄電装置BTから供給された直流電力を変換することにより、別の直流電力Pddを出力してよい。DC/DCコンバータ1は、第1直流電力(例:Ppv)に対する補償電力としての第2直流電力をPCS4に対して出力してよい。Pddは、第2直流電力の例である。
【0016】
上記の説明から明らかである通り、Pddが正であることは、蓄電装置BTが放電動作を行っていることを表す。その一方、Pddが負であることは、DC/DCコンバータ1から蓄電装置BTへと直流電力が供給されている(すなわち、蓄電装置BTが充電動作を行っている)ことを表す。また、Pddが0であることは、蓄電装置BTが休止状態であることを表す。
【0017】
図1の例では、PCS4には、再生可能エネルギー発電装置REからPpvが供給されるとともに、DC/DCコンバータ1からPddが供給される。本明細書では、PCS4に入力される直流電力をPpcsと表記する。Ppcsは、PCS入力電力とも称される。図1の例におけるPpcsは、PpvとPddとの和として表される。一例として、PCS4は、Ppcsを所定の商用周波数の交流電力へと変換してよい。
【0018】
図1に示す通り、電力変換システム100は、電圧センサ91Vおよび電流センサ92Aを備えていてよい。電圧センサ91Vは、再生可能エネルギー発電装置REが出力する直流電圧Vpvを検出する。電流センサ92Aは、再生可能エネルギー発電装置REが出力する直流電流Ipvを検出する。
【0019】
図1の例では、DC/DCコンバータ1は、電圧センサ91VからVpvを取得するとともに、電流センサ92AからIpvを取得する(図2も参照)。DC/DCコンバータ1は、取得したVpvおよびIpvを用いて、
Ppv=Vpv×Ipv …(1)
として、Ppvを算出してよい。
【0020】
(電力変換システム100における各信号値の例)
図3は、電力変換システム100における各信号値の時間変化の様子の例を示す。図3の各グラフにおける横軸は時刻(t)を示し、縦軸は信号値を示す。図3の符号310には、Ppvの時間変化の例が示されている。
【0021】
符号310におけるPpvmaxは、再生可能エネルギー発電装置REの最大電力点電力を示す。一例として、電力変換システム100では、Ppvmaxは、MPPT(Maximum Power Point Tracking,最大電力点追従)制御によって決定されてよい。MPPT制御は、PCS4によって実行されてよい。Ppvmaxは、第1直流電力の理想値とも表現できる。
【0022】
実施形態1の例では、Ppvmaxは、所定の時間毎にMPPT制御が実行されることによって更新される。したがって、Ppvmaxは、更新されるまでは、環境条件の変化(例:日射量の変化)によらず一定値を取る。図3の例では、説明の平明化のために、全ての時間範囲に亘ってPpvmaxが一定値を取るものとする。
【0023】
Ppvは、Ppvmaxとは異なり、環境条件の変化に応じてリアルタイムで変化しうる。例えば、日射量が想定値から減少した場合には、日射量の低下に伴ってPpvが減少する。この場合、PpvはPpvmaxよりも小さくなる。すなわち、PpvmaxとPpvとの乖離が大きくなる。
【0024】
次いで、日射量が増加した場合には、日射量の増加に伴ってPpvが増加する。すなわち、PpvmaxとPpvとの乖離が小さくなる。その後、日射量が想定値へと回復すると、PpvはPpvmaxに一致する。
【0025】
以上の通り、日射量の変化が生じた場合には、PpvmaxとPpvとの間に乖離が生じうる。そこで、電力変換システム100では、DC/DCコンバータ1は、Ppvの変化を補償するようにPddを出力する。
【0026】
図3の符号320には、Pddの時間変化の例が示されている。図3に示す通り、DC/DCコンバータ1は、Ppvの変化を補償するように、Pddを決定してよい。例えば、DC/DCコンバータ1は、Ppcsを一定値に維持するように、Pddを決定してよい。
【0027】
そこで、実施形態1におけるDC/DCコンバータ1は、第1直流電力と上記再生可能エネルギー発電装置の最大電力点電力との差である差分電力を算出する。本明細書では、差分電力をPiと表記する。実施形態1では、DC/DCコンバータ1は、
Pi=Ppv-Ppvmax …(2)
の通り、Piを算出する。Piは、PpvmaxとPpvとの乖離の程度を示す指標値として用いられてよい。
【0028】
PpvmaxおよびPpvに関する上述の説明から明らかである通り、Piは0または負値を取る。符号320には、DC/DCコンバータ1によって算出されるPiの例が示されている。実施形態1では、DC/DCコンバータ1が、所定のサンプリング期間毎にPiを算出する場合を例示する。したがって、符号320の例におけるPiは、サンプリング期間毎に値が離散的に変化する信号である。
【0029】
DC/DCコンバータ1は、Piに基づいてPddを決定してよい。例えば、DC/DCコンバータ1は、Piの減少に伴ってPddを増加させてよい。これにより、Ppvが減少した場合に、Pddを増加させることができる。その一方、DC/DCコンバータ1は、Piの増加に伴ってPddを減少させてよい。これにより、Ppvが増加した場合には、Pddを減少させることができる。
【0030】
また、DC/DCコンバータ1は、Pi=0の場合には、Pddを0に設定してよい。PpvがPpvmaxに等しい場合には、DC/DCコンバータ1からPCS4に補償電力を供給する必要はないためである。
【0031】
符号320では、図示の平明化のために、Pddが滑らかな信号として示されている。ただし、実施形態1におけるDC/DCコンバータ1は、実際にはサンプリング期間毎にPiおよびPddを算出する。したがって、Pddは、実際にはサンプリング期間毎に値が離散的に変化する信号であることに留意されたい。このことは、以下に述べるPdd_c、ならびに、後述するPpcsおよびPpcs_cにも当てはまる。
【0032】
符号320におけるPdd_cは、従来手法によってDC/DCコンバータ1からPCS4に供給される第2直流電力の例を示す。従来手法の処理の例については後述する。符号320に示す通り、本発明の一態様に係る手法(以下、本件手法とも称する)によれば、従来手法に比べて早期に、第2直流電力が0に維持される定常状態に至る。すなわち、本件手法によれば、従来手法に比べて、Ppvの変化に対するDC/DCコンバータ1の応答性を高めることができる。本件手法の処理の例についても後述する。
【0033】
また、符号320に示す通り、本件手法によれば、従来手法に比べて、第2直流電力が負値を取る時間が短くなる。それゆえ、本件手法によれば、従来手法に比べて、蓄電装置BTにおける不要な充電動作が生じにくくなる。また、本件手法によれば、従来手法に比べて、蓄電装置BTにおける不要な放電動作も生じにくくなる。符号320における表記Pdd0およびPdd1については後述する。
【0034】
図3の符号330には、Ppcsの時間変化の例が示されている。符号330におけるPpcsは、符号320におけるPddに対応する。符号330では、参考のために、符号310の例と同等のPpvが点線にて表されている。また、符号330におけるPpcs_cは、符号320におけるPdd_cに対応する。すなわち、符号330におけるPpcs_cは、電力変換システム100において従来手法によってDC/DCコンバータ1を動作させた場合に生じるPCS入力電力を表す。
【0035】
符号330に示す通り、本件手法によれば、従来手法に比べて早期に、PCS入力電力が一定値に維持される定常状態に至る。このことも、本件手法によれば、従来手法に比べて、Ppvの変化に対するDC/DCコンバータ1の応答性を高めることができることを示している。
【0036】
図4は、PpvmaxとPpcsとの対応関係について説明するための図である。図4では、図3の例とは異なり、Ppvmaxが時間経過に伴って変化する場合が例示されている。符号410には、PpvmaxおよびPpcsの波形の一例が示されている。上述の通り説明したPddの変化に起因して、Ppcsは、Ppvmaxの変化に追従するように変化する。
【0037】
符号420には、符号410における領域RGの拡大図が示されている。実施形態1におけるDC/DCコンバータ1は、サンプリング期間毎のPddの変化量が所定の範囲内(具体的には、±Pm以内)となるように、Pddを更新する。Pmについては後述する。したがって、符号420に示す通り、Ppcsも、サンプリング期間毎の変化量が所定量以内となるように変化する。
【0038】
このため、Ppcsの変化速度は、Ppvmaxの変化速度に比べて小さくなりうる。例えば、Ppvmaxが減少する場合には、Ppcsも減少する。ただし、上述の変化速度の違いに起因して、時間の経過に伴って、PpvmaxとPpcsとの乖離が顕著となる。その一方、Ppvmaxが増加に転じた場合には、時間の経過に伴って、PpvmaxとPpcsとの乖離が低減される。そして、PpvmaxがPpcsを越えた場合には、Ppcsが増加に転じる。
【0039】
(電力変換システム100におけるMPPT制御の例)
図5は、電力変換システム100におけるMPPT制御の一例を示す。図5では、PCS4によってMPPT制御が行われる場合を例示する。図5には、再生可能エネルギー発電装置REのPV(電力-電圧)特性曲線が示されている。図5のグラフにおいて、横軸は電圧(V)を示し、縦軸は電力(P)を示す。本明細書では、MPPT制御における1つのサンプリング期間におけるPの変化量およびVの変化量を、ΔPおよびΔVとそれぞれ表記する。
【0040】
図5では、MPPT制御によって、PV特性曲線上の動作点が点Aから点Gまで移動する場合が例示されている。図5の例における点Aは、MPPT制御におけるトラッキングの始点である。その一方、点Gは、トラッキングの結果として決定された最大電力点(すなわち、トラッキングの終点)である。
【0041】
図5では、例えば点Aから次の動作点である点Bへと向かうトラッキング経路が、経路abとして表記されている。したがって、経路fgは、点Fから次の動作点Gへと向かうトラッキング経路を表す。図5の例における点Fは、終点の1つ前の動作点である。
【0042】
図5では、例えば、経路abにおけるΔPを、ΔPabと表記する。図5の例では、サンプリング期間ごとにPを一定値ずつ変化させて最大電力点を探索する手法である定電力シフトが用いられている。したがって、図5の例では、ΔPab=ΔPbc=ΔPcd=ΔPde=ΔPef>0である。このように、図5の例では、点Aから点Fに至るまでは、時間の変化に伴ってPが一定値ずつ増加する。
【0043】
その一方、図5の例では、ΔPfg=0である。定電力シフトでは、ある動作点から次の動作点へと移動した場合に、ΔPが変化しなかった場合には、当該次の動作点が最大電力点として決定される。したがって、図5の例では、点Gが最大電力点として決定される。このように、図5の例では、点GにおけるPの値がPpvmaxとして決定される。
【0044】
図6は、MPPT制御におけるトラッキング手法について説明するための図である。図6における符号610は、定電力シフトの例を示す。上述の通り、定電力シフトでは、ΔPab=ΔPbc=ΔPcd=ΔPde=ΔPef>0であり、その一方、ΔPfg=0である。なお、図5からも明らかである通り、定電力シフトでは、ΔVは必ずしも一定ではない。
【0045】
図6における符号620は、定電圧シフトの例を示す。定電圧シフトは、サンプリング期間ごとにVを一定値ずつ変化させて最大電力点を探索する手法である。したがって、定電圧シフトでは、ΔVは一定である。本発明の一態様では、定電圧シフトによって、最大電力点である点Gが決定されてもよい。定電圧シフトにおいても、ある動作点から次の動作点へと移動した場合に、ΔPが変化しなかった場合には、当該次の動作点が最大電力点として決定される。
【0046】
符号620に示す通り、定電圧シフトにおけるΔPは必ずしも一定ではない。符号620の例では、ΔPab>ΔPbc>ΔPcd>ΔPde>ΔPef>0である。符号620は、定電圧シフトによって、点Gが最大電力点として決定される場合を例示している。したがって、符号620の例においても、ΔPfg=0である。
【0047】
(従来手法における処理の例)
本件手法との対比のために、従来手法における処理の例について述べる。従来手法では、DC/DCコンバータは、
(条件式A)Ppcs0>Ppv+Pm …(3)
(条件式B)Ppv>Ppcs0+Pm …(4)
のいずれが満たされているかを判定する。式(3)および式(4)におけるPpcs0は、現サンプリング期間におけるPpcsを表す。
【0048】
次いで、DC/DCコンバータは、条件式Aが満たされている場合には、下記の式(5)、
Pdd=Ppcs0-Ppcs1-Pm …(5)
に従ってPddを決定する。
【0049】
その一方、DC/DCコンバータは、条件式Bが満たされている場合には、下記の式(6)、
Pdd=Ppcs0-Ppcs1+Pm …(6)
に従ってPddを決定する。
【0050】
式(5)および式(6)におけるPpcs1は、前回サンプリング期間におけるPpcsを表す。また、Pmは、サンプリング期間毎のPddの変化量の上限値を表す。式(5)および式(6)から明らかである通り、従来手法では、1回のサンプリングが実行された結果、PddがPmまたは-Pmだけ変化する。
【0051】
以上の通り、従来手法では、Ppvに関する条件式A~Bに応じて、Pddの決定式として、式(5)または式(6)の一方が選択される。すなわち、従来手法では、Ppvに応じて、Pddの決定式が切り替えられる。したがって、例えば、条件式Aまたは条件式Bのいずれが満たされているかを判定する処理が迅速に実行されない場合には、Pddを迅速にPpvに追従させることができない。このように、従来手法では、DC/DCコンバータの応答性について改善の余地がある。
【0052】
(本件手法における処理の例)
本件手法では、DC/DCコンバータ1は、上述の式(2)に従ってPiを算出する。次いで、DC/DCコンバータ1は、下記の式(7)、
Ts=Pi/Pm …(7)
に従ってTsを算出するとともに、下記の式(8)、
Tp=Pi/(Ppv0-Ppv1) …(8)
に従ってTpを算出する。式(8)において、Ppv0は現サンプリング期間におけるPpvを表し、Ppv1は前回サンプリング期間におけるPpvを表す。
【0053】
本明細書では、現サンプリング期間におけるPddをPdd0と表記し、前回サンプリング期間におけるPddをPdd1と表記する。上述の図3の符号320における表記「Pdd0(K)」および「Pdd1(K)」は、K回目のサンプリング期間におけるPdd0およびPdd1をそれぞれ示す。同様に、表記「Pdd0(L)」および「Pdd1(K)」は、L回目のサンプリング期間におけるPddおよびPdd1をそれぞれ示す。KおよびLは、K<Lを満たす任意の整数である。
【0054】
式(7)によって与えられるTsは、サンプリング期間毎のPddの変化量をPmに維持した場合に、Piを補償するために必要であると考えられる時間に対応する指標値である。その一方、式(8)によって与えられるTpは、直近のPpvの変化量が維持された場合に、Piに達するまでに必要であると考えられる時間に対応する指標値である。
【0055】
そこで、DC/DCコンバータ1は、TsとTpとの比較結果に基づいて、次サンプリング期間におけるPddを決定してよい。例えば、DC/DCコンバータ1は、
(条件式C)Ts>Tp …(9)
が満たされているか否かを判定してよい。そして、DC/DCコンバータ1は、条件式Cが満たされているかに応じて、Pddの決定手法を変更してよい。
【0056】
条件式Cが満たされている場合には、例えばPpvの回復が急速であり、サンプリング期間毎のPddの変化量を最大値Pmに設定しなくとも、PCS4に対する適切な電力補償ができると考えられる。そこで、例えば、DC/DCコンバータ1は、条件式Cが満たされている場合には、次サンプリング期間におけるPddとPdd0との差の絶対値を、Pmよりも小さい値に決定してよい。
【0057】
その一方、条件式Cが満たされていない場合には、例えばPpvの回復がそれほど急速ではなく、PCS4に対する適切な電力補償をするためには、サンプリング期間毎のPddの変化量を最大値Pmに設定することが好ましいと考えられる。そこで、例えば、DC/DCコンバータ1は、条件式Cが満たされていない場合には、次サンプリング期間におけるPddとPdd0との差の絶対値を、Pmに等しい値に決定してよい。
【0058】
図7は、TsおよびTpの例を示す。図7では、N回目のサンプリングおよびM回目のサンプリングが行われる場合が例示されている。NおよびMは、N<Mを満たす任意の整数である。図7では、例えばN回目のサンプリング期間におけるTsおよびTpをそれぞれ、Ts(N)およびTp(N)と表記している。また、N回目のサンプリング期間におけるPpv0(N)-Ppv1(N)を、L(N)と表記している。
【0059】
図7では、Ppvが回復してPpvmaxに至り、その後Ppvの定常状態が維持される場合が例示されている。そして、図7の例では、Ts(N)<Tp(N)であり、かつ、Ts(M)>Tp(M)である。このように、条件式Cが満たされるか否かは、例えばPpvの変化トレンド(より具体的には、Ppvの時間変化率)に応じて異なりうる。
【0060】
本件手法によれば、従来手法とは異なり、Ppvの変化トレンドに応じてPddを柔軟に設定できる。例えば、本件手法によれば、Ppvの回復が急速であると考えられる場合には、Ppvの増加に先立ってPddの変化量を調整できる。
【0061】
以上の通り、DC/DCコンバータ1によれば、従来とは異なる構成の電力変換システム100を提供できる。また、本件手法によれば、従来手法に比べて、DC/DCコンバータの応答性を向上させることができる。
【0062】
(制御部10の一構成例)
図2を参照し、DC/DCコンバータ1における制御部10の一構成例について述べる。図2の例における制御部10は、本件手法を実行できるように構成されている。制御部10は、再生可能エネルギー発電装置REおよびPCS4から各種データを取得できるように、再生可能エネルギー発電装置REおよびPCS4と通信可能に接続されていてよい。制御部10では、現サンプリング期間におけるDC/DCコンバータ1の出力値に対して、次サンプリング期間におけるDC/DCコンバータ1の出力指令値が決定される。
【0063】
以下の説明では、現サンプリング期間がN回目のサンプリング期間である場合を例示する。そこで、以下の説明では、現サンプリング期間におけるDC/DCコンバータ1の出力値をPdd(N)と表記し、次サンプリング期間におけるDC/DCコンバータ1の出力指令値をPdd(N+1)と表記する。
【0064】
図2の例における制御部10は、積演算部11、加減演算部12A~12E、遅延要素13A~13C、電力算出部14、時間算出部15、セレクタ16、および出力部17を有している。以下、制御部10の各部の主な動作について述べる。本明細書では、加減演算部12A~12Eを総称的に加減演算部12と称し、遅延要素13A~13Cを総称的に遅延要素13と称する。
【0065】
積演算部11は、電圧センサ91VからVpvを取得するとともに、電流センサ92AからIpvを取得する。積演算部11は、上述の式(1)に従ってPpvを算出する。加減演算部12は、自身に入力された2つの信号に対し、所定の加算演算または減算演算を実行し、その演算結果を出力する。遅延要素13は、自身に入力された信号を、1サンプリング期間に亘って保持したのち、当該信号を出力する。すなわち、遅延要素13によれば、所定の信号を1サンプリング期間だけ遅延させることができる。
【0066】
電力算出部14は、上述の通り説明した各電力を算出する。例えば、電力算出部14は、上述の式(2)に従ってPiを算出する。時間算出部15は、上述の通り説明した各時間を算出する。例えば、時間算出部15は、電力算出部14の演算結果に基づいて、上述の式(7)~(8)に従ってTsおよびTpを算出する。
【0067】
セレクタ16は、DC/DCコンバータ1における各選択処理を実行する。例えば、セレクタ16は、時間算出部15が算出したTsおよびTpについて、上述の条件式Cが満たされているか否かを判定する。
【0068】
出力部17は、セレクタ16の判定結果に基づき、Pdd(N)に対して所定の加算演算または減算演算を実行することにより、自身の出力値であるPdd(N+1)を決定する。出力部17は、決定したPdd(N+1)を、次サンプリング期間におけるDC/DCコンバータ1の出力指令値として、制御部10の外部に出力する。
【0069】
〔実施形態2〕
本発明の一態様に係る再生可能エネルギー発電装置REは、自然エネルギーから直流電力を発生させることが可能な装置であればよく、太陽光発電装置に限定されない。例えば、再生可能エネルギー発電装置REは、風力発電装置であってもよい。風力発電装置の出力は、例えば風況に応じて変化しうる。また、当業者であれば明らかである通り、MPPT制御は、風力発電装置に対しても適用可能である。したがって、例えばPCS4によって、風力発電装置の最大電力点電力が決定されてよい。
【0070】
加えて、当業者であれば明らかである通り、本発明の一態様における最大電力点電力の決定手法は、MPPT制御に限定されない。したがって、本発明の一態様に係る再生可能エネルギー発電装置REは、直流電力を発生させることができ、かつ、任意の手法によって最大電力点電力が決定されうる装置であればよい。
【0071】
〔ソフトウェアによる実現例〕
電力変換システム100(以下では、便宜上「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部10に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0072】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0073】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0074】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0075】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0076】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る電力変換システムは、蓄電装置に接続されたDC/DCコンバータと、再生可能エネルギー発電装置から第1直流電力を供給されるPCSと、を備えており、上記DC/DCコンバータは、上記蓄電装置から供給された直流電力を変換することにより、上記第1直流電力に対する補償電力としての第2直流電力を上記PCSに対して出力し、上記第1直流電力と上記再生可能エネルギー発電装置の最大電力点電力との差である差分電力に基づいて、上記第2直流電力を決定する。
【0077】
本発明の態様2に係る電力変換システムでは、上記態様1において、上記差分電力をPiとして表し、上記DC/DCコンバータのサンプリング期間毎の上記第2直流電力の変化量の上限値をPmとして表し、現サンプリング期間における上記第1直流電力をPpv0として表し、前回サンプリング期間における上記第1直流電力をPpv1として表した場合に、上記DC/DCコンバータは、
Ts=Pi/Pm
として与えられるTsを算出するとともに、
Tp=Pi/(Ppv0-Ppv1)
として与えられるTpを算出してよく、
TsとTpとの比較結果に基づいて、次サンプリング期間における上記第2直流電力を決定してよい。
【0078】
本発明の態様3に係る電力変換システムでは、上記態様2において、上記DC/DCコンバータは、Ts>Tpである場合には、上記次サンプリング期間における上記第2直流電力と上記現サンプリング期間における上記第2直流電力との差の絶対値を、Pmよりも小さい値に決定してよい。
【0079】
本発明の態様4に係る電力変換システムでは、上記態様2または3において、上記DC/DCコンバータは、Ts>Tpでない場合には、上記次サンプリング期間における上記第2直流電力と上記現サンプリング期間における上記第2直流電力との差の絶対値を、Pmに等しい値に決定してよい。
【0080】
本発明の態様5に係る電力変換システムでは、上記態様1から4のいずれか1つにおいて、上記再生可能エネルギー発電装置は、太陽光発電装置であってよい。
【0081】
本発明の態様6に係る電力変換システムでは、上記態様1から5のいずれか1つにおいて、上記PCSは、MPPT制御によって上記最大電力点電力を決定してよい。
【0082】
本発明の態様7に係る電力変換システムは、上記態様1から6のいずれか1つにおいて、上記蓄電装置および上記再生可能エネルギー発電装置をさらに備えていてよい。
【0083】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0084】
1 DC/DCコンバータ
4 PCS
10 制御部
100 電力変換システム
ST 蓄電装置
RE 再生可能エネルギー発電装置(太陽光発電装置)
Ppv 第1直流電力
Ppvmax 最大電力点電力
Pdd 第2直流電力
Pi 差分電力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7