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2025-6629デハロコッコイデス属細菌及び揮発性有機化合物の分解処理方法
<図1>
  • -デハロコッコイデス属細菌及び揮発性有機化合物の分解処理方法 図1
  • -デハロコッコイデス属細菌及び揮発性有機化合物の分解処理方法 図2
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  • -デハロコッコイデス属細菌及び揮発性有機化合物の分解処理方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006629
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】デハロコッコイデス属細菌及び揮発性有機化合物の分解処理方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20250109BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C12N1/20 F
C12N1/20 D
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107537
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雄太
(72)【発明者】
【氏名】緒方 浩基
(72)【発明者】
【氏名】四本 瑞世
(72)【発明者】
【氏名】吉田 奈央子
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065BB04
4B065CA56
(57)【要約】
【課題】優れたクロロプロペン類の分解作用を発揮する新規なデハロコッコイデス属細菌及び揮発性有機化合物の分解処理方法を提供する。
【解決手段】本発明は、受領番号NITE AP-03891として寄託されたデハロコッコイデス・マッカーティ(Dehalococcoides mccartyi)NIT-OBY株、又はクロロプロペン類を脱塩素化する能力を有する前記デハロコッコイデス・マッカーティ(Dehalococcoides mccartyi)NIT-OBY株の変異株若しくは近縁株である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受領番号NITE AP-03891として寄託されたデハロコッコイデス・マッカーティ(Dehalococcoides mccartyi)NIT-OBY株、又はクロロプロペン類を脱塩素化する能力を有する前記デハロコッコイデス・マッカーティ(Dehalococcoides mccartyi)NIT-OBY株の変異株若しくは近縁株であるデハロコッコイデス属細菌。
【請求項2】
揮発性有機化合物の分解に用いられる請求項1に記載のデハロコッコイデス属細菌。
【請求項3】
前記揮発性有機化合物は、クロロエチレン類、クロロエタン類、及びクロロプロペン類から選ばれる少なくとも一種である請求項2に記載のデハロコッコイデス属細菌。
【請求項4】
請求項1に記載のデハロコッコイデス属細菌を用いた揮発性有機化合物の分解処理方法。
【請求項5】
前記揮発性有機化合物は、クロロエチレン類、クロロエタン類、及びクロロプロペン類から選ばれる少なくとも一種である請求項4に記載の揮発性有機化合物の分解処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なデハロコッコイデス属細菌及びそれを用いた揮発性有機化合物の分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、トリクロロエチレン等の揮発性有機化合物(VOC)で汚染された土壌、地下水等の汚染物を、VOC分解菌を用いて分解・無害化することで浄化を行う手法が知られている。浄化方法としては、地盤中に生息するVOC分解菌に栄養を与えて活性化させ、VOCを分解・無害化するバイオスティミュレーションが知られている。また、VOC分解菌が存在する土壌・地下水中からVOC分解菌を単離し、それを外部で大量培養して地盤に注入するバイオオーグメンテーションが知られている。
【0003】
従来より、VOC分解菌としては、特許文献1に記載されるデハロコッコイデス(Dehalococcoides)属細菌が知られている。特許文献1に記載されるデハロコッコイデス属細菌は、トリクロロエチレンをエチレンに分解するとともに、1,1,2-トリクロロエタンをエチレンに分解する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-31号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、揮発性有機化合物の一種であるクロロプロペン類を分解することができるデハロコッコイデス属細菌は従来知られていなかった。優れたクロロプロペン類の分解作用を発揮する新規なデハロコッコイデス属細菌及び揮発性有機化合物の分解処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討した結果、優れたクロロプロペン類の分解作用を発揮する新規なデハロコッコイデス属細菌を見出した。
上記課題を解決する各態様を記載する。
【0007】
態様1のデハロコッコイデス属細菌は、受領番号NITE AP-03891として寄託されたデハロコッコイデス・マッカーティ(Dehalococcoides mccartyi)NIT-OBY株、又はクロロプロペン類を脱塩素化する能力を有する前記デハロコッコイデス・マッカーティ(Dehalococcoides mccartyi)NIT-OBY株の変異株若しくは近縁株である。
【0008】
態様2は、態様1に記載のデハロコッコイデス属細菌において、揮発性有機化合物の分解に用いられる。
態様3は、態様2に記載のデハロコッコイデス属細菌において、前記揮発性有機化合物は、クロロエチレン類、クロロエタン類、及びクロロプロペン類から選ばれる少なくとも一種である。
【0009】
態様4の揮発性有機化合物の分解処理方法は、態様1に記載のデハロコッコイデス属細菌を用いる。
態様5は、態様4に記載の揮発性有機化合物の分解処理方法において、前記揮発性有機化合物は、クロロエチレン類、クロロエタン類、及びクロロプロペン類から選ばれる少なくとも一種である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れたクロロプロペン類の分解作用を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、16S rRNA遺伝子領域の塩基配列をもとに作成したデハロコッコイデス・マッカーティ NIT-OBY株とその他のデハロコッコイデス属細菌の系統樹を示す。
図2図2は、デハロコッコイデス・マッカーティ NIT-OBY株の走査型電子顕微鏡(SEM)の倍率20000倍の写真を示す。
図3図3は、試験例1において単離されたデハロコッコイデス属細菌のRFLP泳動パターンを示す。
図4図4は、デハロコッコイデス・マッカーティ NIT-OBY株によるトリクロロエチレン(TCE)の脱塩素化挙動を表したグラフを示す。
図5図5は、デハロコッコイデス・マッカーティ NIT-OBY株によるcis-1,3-ジクロロプロペン(cis-1,3-D)の脱塩素化挙動を表したグラフを示す。
図6図6は、デハロコッコイデス・マッカーティ NIT-OBY株による1,1,2-トリクロロエタン(1,1,2-TCA)の脱塩素化挙動を表したグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明のデハロコッコイデス属細菌を具体化した第1実施形態を説明する。
(デハロコッコイデス属細菌)
本実施形態のデハロコッコイデス属細菌は、クロロプロペン類を無害なプロピレンに分解することができるデハロコッコイデスに属する新規な微生物である。より具体的には、クロロプロペン類である1,3-ジクロロプロペンをプロピレンに脱塩素化する能力を有する微生物である。
【0013】
本発明のデハロコッコイデス属細菌は、揮発性有機化合物による土壌・地下水汚染現場から採取した土壌と地下水の混合物から単離した。単離したデハロコッコイデス属細菌を、デハロコッコイデス・マッカーティ(Dehalococcoides mccartyi)NIT-OBY株(以下、NIT-OBY株という)と命名した。NIT-OBY株は、国際寄託機関である独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2023年5月23日付けで受領されている。その受領番号はNITE AP-03891である。
【0014】
単離したNIT-OBY株の菌体からゲノムDNAを抽出した。得られたゲノムDNAを用いて、一分子リアルタイムシーケンスによりNIT-OBY株の16S rRNAをコードするDNAの塩基配列及び全ゲノム配列を決定した。配列番号1にNIT-OBY株の16S rRNA遺伝子領域の塩基配列を示す。配列番号2にNIT-OBY株の全ゲノム配列を示す。
【0015】
NCBIのプログラム BLAST (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)により同定を行った結果、16S rRNA遺伝子領域の塩基配列は、図1の系統樹に示す通り、デハロコッコイデス・マッカーティ(Dehalococcoides mccartyi)CBDB1株等の既知のデハロコッコイデス属細菌(Saiyari et al. (2018) Sustainable Environment Research, 28(4), 149-157)と100%一致した。NIT-OBY株は、Pinellasのサブグループ(Hendrickson et al. (2002) Applied and Environmental Microbiology, 68(2), 485-495)(Loffler et al. (2013) International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology, 63(2), 625-635)に属する。
【0016】
全ゲノムで比較した場合は、相同性が最も高かったデハロコッコイデス・マッカーティ(Dehalococcoides mccartyi)195株でも相同性98.82%である。そのため、NIT-OBY株は、デハロコッコイデス・マッカーティに属する細菌であることが推定された。また、脱塩素化酵素の遺伝子は27個保有していた。下記にその他の各特徴を示す。
【0017】
(a)形態学的性状
NIT-OBY株は、非運動性、胞子非形成である。
図2に示されるように、NIT-OBY株は、円盤状形態、直径約0.5μmである。尚、図2中において、円盤状の細胞がNIT-OBY株を示す。黒丸は、背景の台の穴であり、微細な粒は菌が破裂した残渣を示す。
【0018】
(b)培地上の特徴
NIT-OBY株の培養は、絶対嫌気である。電子供与体として水素を使用する。電子受容体として、例えばTCE(トリクロロエチレン)、cis-1,2-DCE(シス-1,2-ジクロロエチレン)、炭素源として、酢酸塩を使用する。その他に無機塩類、微量元素、ビタミン等を含む。培地のpHは、中性である。H2:CO2=4:1の混合ガスで培地と培養器内の気相をガス置換する。
【0019】
(c)生理学的特徴
NIT-OBY株は絶対嫌気性菌である。脱ハロゲン呼吸によりエネルギーを獲得する。電子供与体として水素を利用する。電子受容体としてVOC(揮発性有機化合物)を利用する。具体的には、クロロエチレン類として、TCE、cis-1,2-DCE、VC(クロロエチレン)等、クロロプロペン類として、cis-1,3-D(シス-1,3-ジクロロプロペン)、trans-1,3-D(トランス-1,3-ジクロロプロペン)等、クロロエタン類として、1,1,2-TCA(1,1,2-トリクロロエタン)等を脱塩素化する能力を有する。また、例えば、500μMのTCEを21日で全てエチレンまで脱塩素化することが可能である。また、例えば、550μMのcis-1,3-Dを19日で全てプロピレンまで脱塩素化することが可能である。炭素源として酢酸塩を資化する。至適増殖温度は28℃である。特にジクロロプロペンをプロペンまで脱塩素化する能力を有するデハロコッコイデス属細菌は、従来単離されておらず、本発明者により初めて見出された細菌である。
【0020】
(近縁の菌株又は変異株)
本発明のデハロコッコイデス属細菌には、NIT-OBY株のほか、クロロプロペン類を脱塩素化する能力を有するデハロコッコイデス・マッカーティ NIT-OBY株の変異株又は近縁株も含まれるものとする。後述するNIT-OBY株の全ゲノム配列である配列番号2に記載の塩基配列と99%以上の相同性、好ましくは99.5%以上の相同性、より好ましくは99.9%以上の相同性を有するゲノムを有する微生物は、NIT-OBY株の近縁の菌株に含まれる。
【0021】
変異株は、従来からよく用いられている変異剤であるエチルメタンスルホン酸による変異処理、ニトロソグアニジン、メチルメタンスルホン酸等の他の化学物質処理、紫外線照射によって得られる。また、変異株は、変異剤処理なしで得られる、いわゆる自然突然変異によって取得することもできる。
【0022】
(培養方法)
NIT-OBY株の培地の酸化還元電位をできるだけ下げて培養することが絶対条件である。例えば、酸化還元電位の確認は、培地に添加した酸化還元指示薬としてのレサズリンが無色となることを指標にして行うことができる。また、培地の作成から培養完了でまで極力空気の混入がないようにすることが必要である。例えば、窒素ガス雰囲気下で処理を行ったり、還元剤を使用し、空気の泡を完全に追い出す処理をしておくことが好ましい。還元剤の具体例としては、例えば還元型グルタチオン、硫化鉄、硫化ナトリウム、L-システイン、D-ジチオトレイトール、クエン酸塩又はニトリロ三酢酸塩と錯体化したチタン(III)等が挙げられる。
【0023】
上記の条件以外は、公知のデハロコッコイデス属細菌の通常の培養方法に従って培養することができる。培養に用いる培地は、電子受容体、微生物の生育に必要な炭素源、窒素源、無機塩類、微量元素、各種ビタミン類、pH調整剤等を含むものであれば特に限定されず、固体培地及び液体培地のいずれも使用することができる。
【0024】
炭素源の具体例としては、酢酸が挙げられる。窒素源の具体例としては、例えばペプトン、カジトン、尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、各種アミノ酸等が挙げられる。無機塩の具体例としては、例えばリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。微量元素の具体例としては、例えば鉄、コバルト、銅、亜鉛、ホウ素、ニッケル、モリブデン、マンガン、セレン、タングステン等が挙げられる。培地には、電子受容体として、上述したクロロエチレン類、クロロエタン類、及びクロロプロペン類等を添加してもよい。
【0025】
培養は、静置培養、振とう培養等の各種培養条件を用いて培養を行うことができる。デハロコッコイデス属細菌は、電子供与体として利用できるのは水素のみであるため、通常、培養には水素と二酸化炭素の混合ガスが用いられる。
【0026】
培養温度としては、好ましくは15~40℃、より好ましくは20~35℃、さらに好ましくは25~30℃である。培地のpHとしては、弱酸性~弱アルカリ性の中性付近が好ましく、pH6~8がより好ましく、pH6.5~7.5がさらに好ましい。
【0027】
第1実施形態の効果について説明する。
(1-1)第1実施形態のNIT-OBY株は、優れたクロロプロペン類の分解作用を発揮できる新規なデハロコッコイデス属細菌である。そのため、揮発性有機化合物として例えばクロロエチレン類及びクロロエタン類のみならず、クロロプロペン類で汚染された汚染物を無毒化できる。
【0028】
<第2実施形態>
以下、本発明の揮発性有機化合物の分解処理方法(以下、「分解処理方法」という)を具体化した第2実施形態を説明する。
【0029】
本実施形態の分解処理方法は、第1実施形態で説明したNIT-OBY株が用いられる。本発明のNIT-OBY株は、例えばクロロエチレン類、クロロエタン類、及びクロロプロペン類等の揮発性有機化合物(VOC)に汚染された汚染物の浄化に利用することができる。汚染物は、特に限定されないが、例えばクロロエチレン類、クロロエタン類、クロロプロペン類等の揮発性有機化合物(VOC)で汚染された河川水、地下水、工業廃液、工業廃水、生活排水、工業廃棄物、汚染土壌、汚泥等が挙げられる。
【0030】
浄化対象となるクロロエチレン類の具体例としては、例えばテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン、塩化ビニルモノマー等が挙げられる。クロロエタン類の具体例としては、トリクロロエタン、ジクロロエタン、クロロエタン等が挙げられる。クロロプロペン類の具体例としては、例えばヘキサクロロプロペン、ペンタクロロプロペン、テトラクロロプロペン、トリクロロプロペン、ジクロロプロペン、クロロプロペン等が挙げられる。これらの揮発性有機化合物は、1種が汚染物に含まれていてもよく、2種以上が汚染物に含まれていてもよい。
【0031】
分解処理方法は、NIT-OBY株を揮発性有機化合物の分解処理剤(以下、単に「分解処理剤」という)として調製し、汚染物に投与する方法により行われる。分解処理剤は、NIT-OBY株自体であってもよく、第1実施形態欄に記載の培養方法により得られた培養物を用いてもよい。培養物は、本発明のNIT-OBY株の培養物をそのまま使用してもよく、培養物を濾過、遠心分離等の濃縮、抽出、精製処理を行ったものを使用してもよい。
【0032】
また、本発明の分解処理剤は、担体(増量剤)、界面活性剤、補助剤等の添加剤を配合してもよい。分解処理剤の剤型は、特に限定されず、例えば液剤、粉剤、粒剤、錠剤等が挙げられる。分解処理剤の投与方法は、特に限定されず、汚染物の形態等に応じて、添加、散布、混合、注入等の方法を採用できる。また、汚染物に対する分解処理剤の投与量は、揮発性有機化合物の含有量、外気温、汚染物中に含まれる成分、pH等の条件により適宜設定される。
【0033】
第2実施形態の効果について説明する。
(2-1)第2実施形態の分解処理方法では、NIT-OBY株が用いられる。そのため、優れたクロロプロペン類を含む揮発性有機化合物の分解作用を発揮できる。
【0034】
(2-2)特に、NIT-OBY株を人為的に培養して増加させ、浄化対象とする環境に導入して浄化を促進させるバイオオーグメンテーションを目的とする場合、クロロプロペン類を含む揮発性有機化合物を含む汚染物を効率的に浄化することができる。
【0035】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態のNIT-OBY株は、クロロプロペン類を無毒化することができる。しかしながら、クロロプロペン類が含まれず、クロロエチレン類又はクロロエタン類が含まれる汚染物に適用することを妨げるものではない。
【実施例0036】
以下、実施例に基づき、本発明についてより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形実施が可能である。
【0037】
<試験例1:新規デハロコッコイデス属細菌の単離>
(1)集積培養
揮発性有機化合物(VOC)による土壌・地下水汚染現場から採取した土壌と地下水の混合物20Lを20L容量のポリ容器に入れた。集積培養液は、飽和TCE水溶液100mL、グルコン酸ナトリウム55.8g、尿素3.6g、リン酸二水素ナトリウム0.6g、炭酸水素ナトリウム20gと、下記表1に示す組成の微量元素濃縮液200mLを添加することにより調製した。集積培養液は、22~23℃に維持した部屋で静置培養した。約10年間、1~4ヶ月おきに培養液の半量(10L)を10Lの水道水に植え継いだ。
【0038】
【表1】
(2)限界希釈培養
20mLの表3に示されるDHB-CO3培地が入った50mL容量バイアル瓶をH2:CO2=4:1のガスで置換してフッ素樹脂コーティングされたブチルゴム栓とアルミシールで密閉し、下記表2に示す各成分を添加して限界希釈培養の培地を調製した。限界希釈培養の培地に集積培養液を100μL添加したものを10倍希釈サンプル、10倍希釈サンプルを100μL添加したものを10倍希釈サンプルとし、順次10倍希釈サンプルまで作製して28℃で静置培養した。培養後、TCEが全てエチレンに脱塩素化した後に同様の方法で培養液の植え継ぎを繰り返した。DHB-CO3培地、微量元素SL-10溶液、セレン・タングステン溶液、1000倍濃度のビタミン混合液の組成を表3~6にそれぞれ示す。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
(3)単離達成の確認
限界希釈培養を繰り返した培養液を蛍光顕微鏡観察し、単一形状の菌のみが観察された段階で微生物DNAを抽出して、制限酵素にHaeIIIとHhaIを用いたRFLP解析を行った。その結果を図3に示す。RFLP泳動パターンがHaeIII、HhaIともにデハロコッコイデス属細菌特有の泳動パターンであり(吉田ら、(2018)、第24回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会,pp.588-589)、コンタミバンドが認められないことから単離達成を確認した。また、SEMによる観察を行った結果を図2に示す。図2に示されるように、デハロコッコイデス属細菌と考えられる円盤状の細胞のみが観察されたことからも単離達成を確認できた。
【0044】
(4)NIT-OBY株
単離したデハロコッコイデス属細菌の菌体からゲノムDNAを抽出した。得られたゲノムDNAを用いて、一分子リアルタイムシーケンスによりNIT-OBY株の16S rRNAをコードするDNAの塩基配列及び全ゲノム配列を決定した。配列番号1にNIT-OBY株の16S rRNA遺伝子領域の塩基配列を示す。配列番号2にNIT-OBY株の全ゲノム配列を示す。
【0045】
NCBIのプログラム BLAST (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)により同定を行った結果、16S rRNA遺伝子領域の塩基配列は、図1の系統樹に示す通り、デハロコッコイデス・マッカーティ(Dehalococcoides mccartyi)CBDB1株等の既知のデハロコッコイデス属細菌と100%一致した。全ゲノムで比較した場合は、相同性が最も高かったデハロコッコイデス・マッカーティ(Dehalococcoides mccartyi)195株でも相同性98.82%である。そのため、単離したデハロコッコイデス属細菌は、デハロコッコイデス・マッカーティに属する細菌であることが推定された。単離したデハロコッコイデス属細菌は、デハロコッコイデス・マッカーティ(Dehalococcoides mccartyi)NIT-OBY株と命名した。
【0046】
<試験例2:新規デハロコッコイデス属細菌を用いた揮発性有機化合物の分解処理の評価>
(1)TCEの脱塩素化実験
20mLのDHB-CO3培地が入った50mL容量バイアル瓶をH2:CO2=4:1のガスで置換してフッ素樹脂コーティングされたブチルゴム栓とアルミシールで密閉し、下記表7に示す各成分を添加して28℃で静置培養した。一定期間ごとにバイアル瓶気相中のVOC濃度をガスクロマトグラフ装置(島津製作所社製GC-2014)を用いて測定した。
【0047】
【表7】
また、NIT-OBY株によるTCEの脱塩素化挙動を表したグラフを図4に示す。
【0048】
図4に示されるように、500μMのTCEがcis-1,2-DCE、VCを経由して21日でエチレンまで完全に脱塩素化されることを確認した。
(2)1,3-Dと1,1,2-TCAの脱塩素化実験
NIT-OBY株の純粋培養液をバイアル瓶から遠沈管に分注し、窒素ガスで培養液と気相を曝気置換しながら蓋を閉めた。これを大型遠心機(久保田商事社製、高速大容量冷却遠心機7000)を用いて4℃、10,000rpmで10分間遠心分離した。遠心後、窒素ガス曝気をしながら上澄み液を捨て、表8に示した反応溶液に再懸濁した。窒素ガス曝気を続けながら、再懸濁溶液中の細胞密度を直接検鏡法により計測し、もとの純粋培養液の10倍程度の細胞密度になるよう反応溶液を加えた。これを10mLずつバイアル瓶に分注してフッ素樹脂コーティングされたブチルゴム栓とアルミシールで密閉し、1,3-D(cis体とtrans体の混合物)又は1,1,2-TCAを0.5μL添加した。一定期間ごとにバイアル瓶気相中のVOC濃度をガスクロマトグラフで測定した。
【0049】
【表8】
NIT-OBY株によるcis-1,3-Dと1,1,2-TCAの脱塩素化挙動を表すグラフを図5,6にそれぞれ示す。
【0050】
図5に示されるように、cis-1,3-Dが19日でプロピレンまで完全に脱塩素化された。また、trans-1,3-Dもプロピレンまで脱塩素化可能であることを確認済みである(データ不添付)。
【0051】
図6に示されるように、1,1,2-TCAもエチレンまで脱塩素化可能であることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2025006629000001.xml