(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006635
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】積層パネル、車両用パネル及び積層パネルの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16F 7/00 20060101AFI20250109BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20250109BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20250109BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F16F7/00 A
B32B15/04 Z
B62D25/20 N
F16F7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107552
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】三枝 善博
(72)【発明者】
【氏名】河津 泰幸
(72)【発明者】
【氏名】高田 幹生
【テーマコード(参考)】
3D203
3J066
4F100
【Fターム(参考)】
3D203BB03
3D203CA09
3D203CA73
3D203CB07
3D203CB09
3J066AA22
3J066AA29
3J066AA30
3J066BA04
3J066BB01
3J066BC03
3J066BD05
4F100AB01A
4F100AB01B
4F100AR00C
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA44C
4F100DC11A
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4F100DJ01C
4F100EC13
4F100GB32
4F100JD14C
4F100JK07
4F100JK10C
4F100YY00C
(57)【要約】 (修正有)
【課題】金属板と該金属板に挟まれた衝撃吸収部材とを備えた積層パネルについて、金属板が凹部を有し、金属板同士がボルト締結されるような場合であっても、衝撃吸収性及び層間密着性に優れ、安定的に優れた強度を実現できることを目的とする。
【解決手段】本発明は、少なくとも2枚の金属板と、該金属板に挟まれた衝撃吸収部材と、を備えた積層パネルであって、前記金属板は、複数のボルト用貫通孔を有し、一方の金属板は、他方の金属板側へ凹んだ複数のボルト締結用凹部を有し、該ボルト用締結凹部内に前記ボルト用貫通孔が設けられており、前記一方の金属板の前記ボルト締結用凹部が、前記衝撃吸収部材を介することなく、前記他方の金属板と接触し、ボルト締結により積層固定されており、前記積層パネルを上から投影観察した際、前記貫通孔の径Dの2倍の範囲内WDに前記衝撃吸収部材が存在しないことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2枚の金属板と、該金属板に挟まれた衝撃吸収部材と、を備えた積層パネルであって、
前記金属板は、複数のボルト用貫通孔を有し、
一方の金属板は、他方の金属板側へ凹んだ複数のボルト締結用凹部を有し、該ボルト用締結凹部内に前記ボルト用貫通孔が設けられており、
前記一方の金属板の前記ボルト締結用凹部が、前記衝撃吸収部材を介することなく、前記他方の金属板と接触し、ボルト締結により積層固定されており、
前記積層パネルを上から投影観察した際、前記貫通孔の径の2倍の範囲内に前記衝撃吸収部材が存在しないことを特徴とする、積層パネル。
【請求項2】
前記衝撃吸収部材が、発泡体であることを特徴とする、請求項1に記載の積層パネル。
【請求項3】
前記金属板の積層面側に、機能層をさらに備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の積層パネル。
【請求項4】
前記積層パネルの外周全長に対する、前記衝撃吸収部材が露出した部分の長さが20%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の積層パネル。
【請求項5】
前記積層パネルを上から投影観察した際、前記金属板の面積に対する前記衝撃吸収部材の面積割合が、30~90%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の積層パネル。
【請求項6】
前記衝撃吸収部材は、圧縮弾性率が30~500MPaであり、50%圧縮応力が3~20MPaであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の積層パネル。
【請求項7】
前記衝撃吸収部材が、複数の肉抜部を有し、前記積層パネルを上から投影観察した際、前記衝撃吸収部材の面積に対する前記肉抜部の面積割合が、5~60%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の積層パネル。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の積層パネルを用いてなることを特徴とする、車両用パネル。
【請求項9】
車両の下部に設けられることを特徴とする、請求項8に記載の車両用パネル。
【請求項10】
少なくとも2枚の金属板と、該金属板に挟まれた衝撃吸収部材と、を備えた積層パネルの製造方法であって、
前記衝撃吸収部材を前記金属板で挟んだ状態で接着する工程と、
一方の前記金属板に曲げ加工を施すことで、他方の金属板側へ凹んだ複数のボルト締結用凹部を形成する工程と、
前記一方の金属板の前記ボルト締結用凹部を、前記衝撃吸収部材を介することなく、前記他方の金属板と接触させ、ボルト締結により積層固定する工程と、
を含むことを特徴とする、積層パネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層パネル、車両用パネル及び積層パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道車両、船舶及び航空機等の輸送機器の部品として各種の金属部材が用いられている。例えば、車両におけるアンダーカバーについては、金属や合成樹脂製の板状部材であり、ボルトやナットを用いて車体に取り付けられている。
【0003】
ここで、アンダーカバーのような自動車の外装部品として用いられる場合には、高い強度と、軽量化が要求される。
しかしながら、強度を高めるために、金属部材の厚さを大きくした場合には、部材の質量が大きくなり、軽量化のために、金属部材を薄くしたり、プラスチック等の材料を用いて部材を製造した場合には、十分な強度を確保できない、という問題があった。
【0004】
そのため、自動車等に用いられる板状部材については、高い強度と、軽量化とを両立できるように、種々の技術が開発されている。
そのため、例えば特許文献1や特許文献2には、発泡性樹脂シートを金属板で挟んだサンドイッチパネルとすることで、強度と軽量化の両立を図る技術が開示されている。これらの技術を用いれば、強度と軽量化の両立を一定レベルで図ることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4326001号公報
【特許文献2】特許第5703092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示されたサンドイッチパネルについては、金属板が大きな凹凸を有し、一部に発泡性樹脂シートを形成できない場合の強度については考慮されておらず、このような場合にも、同様に高い強度を実現できるかどうかは不明であった。
また、特許文献1や特許文献2に開示されたサンドイッチパネルについては、発泡性樹脂シートを介さず、一部金属板同士をボルト締結するような場合の、積層体としての衝撃吸収性や層間密着性についても考慮されておらず、パネルの安定した強度を提供することも課題であると考えられる。特許文献1や特許文献2に開示されたサンドイッチパネルについては、サンドイッチパネル形状でボルト締結は締め付けトルクが大きくなり発泡性樹脂を圧縮しながら締結する必要があり、部品への固定が容易でなく、また、樹脂層を介すると振動に対するボルト緩み、温度変化による樹脂層の収縮起因のボルト緩みが課題となり、自動車の外装部品へのボルト締結が容易でないためである。
【0007】
そのため、本発明は、金属板と該金属板に挟まれた衝撃吸収部材とを備えた積層パネルについて、金属板が凹部を有し、金属板同士がボルト締結されるような場合であっても、衝撃吸収性及び層間密着性に優れ、安定的に優れた強度を実現することを目的とする。
また、本発明は、金属板と該金属板に挟まれた衝撃吸収部材とを備えた積層パネルの製造方法であって、金属板が凹部を有し、金属板同士がボルト締結されるような場合であっても、衝撃吸収性及び層間密着性に優れ、安定的に優れた強度を実現できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、少なくとも2枚の金属板と、該金属板に挟まれた衝撃吸収部材と、を備えた積層パネルについて、鋭意検討を行った結果、積層パネルを上から投影観察した際、金属板のボルト締結用の貫通孔の周りに衝撃吸収材が存在しないように、より具体的には、前記貫通孔の径の2倍の範囲内に前記衝撃吸収部材が存在しないように、積層体を構成することで、金属板が凹部を有し、金属板同士がボルト締結されるような場合であっても、衝撃吸収性及び層間密着性に優れ、安定的に優れた強度を実現できることを見出した。
【0009】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
(1)少なくとも2枚の金属板と、該金属板に挟まれた衝撃吸収部材と、を備えた積層パネルであって、
前記金属板は、複数のボルト用貫通孔を有し、
一方の金属板は、他方の金属板側へ凹んだ複数のボルト締結用凹部を有し、該ボルト用締結凹部内に前記ボルト用貫通孔が設けられており、
前記一方の金属板の前記ボルト締結用凹部が、前記衝撃吸収部材を介することなく、前記他方の金属板と接触し、ボルト締結により積層固定されており、
前記積層パネルを上から投影観察した際、前記貫通孔の径の2倍の範囲内に前記衝撃吸収部材が存在しないことを特徴とする、積層パネル。
【0010】
(2)前記衝撃吸収部材が、発泡体であることを特徴とする、(1)に記載の積層パネル。
【0011】
(3)前記金属板の積層面側に、機能層をさらに備えることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の積層パネル。
【0012】
(4)前記積層パネルの外周全長に対する、前記衝撃吸収部材が露出した部分の長さが20%以下であることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載の積層パネル。
【0013】
(5)前記積層パネルを上から投影観察した際、前記金属板の面積に対する前記衝撃吸収部材の面積割合が、30~90%であることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の積層パネル。
【0014】
(6)前記衝撃吸収部材は、圧縮弾性率が30~500MPaであり、50%圧縮応力が3~20MPaであることを特徴とする、(1)~(5)のいずれかに記載の積層パネル。
【0015】
(7)前記衝撃吸収部材が、複数の肉抜部を有し、前記積層パネルを上から投影観察した際、前記衝撃吸収部材の面積に対する前記肉抜部の面積割合が、5~60%であることを特徴とする、(1)~(6)のいずれかに記載の積層パネル。
【0016】
(8)(1)又は(2)に記載の積層パネルを用いてなることを特徴とする、車両用パネル。
【0017】
(9)車両の下部に設けられることを特徴とする、(8)に記載の車両用パネル。
【0018】
(10)少なくとも2枚の金属板と、該金属板に挟まれた衝撃吸収部材と、を備えた積層パネルの製造方法であって、
前記衝撃吸収部材を前記金属板で挟んだ状態で接着する工程と、
一方の前記金属板に曲げ加工を施すことで、他方の金属板側へ凹んだ複数のボルト締結
用凹部を形成する工程と、
前記一方の金属板の前記ボルト締結用凹部を、前記衝撃吸収部材を介することなく、前記他方の金属板と接触させ、ボルト締結により積層固定する工程と、
を含むことを特徴とする、積層パネルの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、金属板と該金属板に挟まれた衝撃吸収部材とを備えた積層パネルについて、金属板が凹部を有し、金属板同士がボルト締結されるような場合であっても、衝撃吸収性及び層間密着性に優れ、安定的に優れた強度を実現できる。
また、本発明によれば、金属板と該金属板に挟まれた衝撃吸収部材とを備えた積層パネルの製造方法であって、金属板が凹部を有し、金属板同士がボルト締結されるような場合であっても、衝撃吸収性及び層間密着性に優れ、安定的に優れた強度を実現できる製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態の積層パネルの断面の一部を模式的に示した図である。
【
図2】本実施形態の積層パネルの断面の一部を拡大し、模式的に示した図である。
【
図3】本実施形態の積層パネルの上面を拡大し、模式的に示した図である。
【
図4】本実施形態の衝撃吸収部材を上から投影観察した状態を、模式的に示した図である。
【
図5】曲げ試験を行うための土台を模式的に示した図である。
【
図6】曲げ試験時に発生する荷重直下の応力を測定するための構成を模式的に示した図である。
【
図7】各実施例及び各比較例で用いた積層パネル形状を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。
以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0022】
図1は、本実施形態の積層パネルについて、断面の一部を模式的に示したものである。また、
図2は、本実施形態の積層パネルについて、断面の一部を拡大して模式的に示したものである。さらに、
図3は、本実施形態の積層パネルについて、上面を拡大し、模式的に示したものである。
【0023】
<積層パネル>
本実施形態の積層パネルは、
図1に示すように、少なくとも2枚の金属板11と、該金属板11に挟まれた衝撃吸収部材12と、を備えた積層パネル10である。
【0024】
本実施形態の積層パネル10では、
図2に示すように、前記金属板11は、複数のボルト用貫通孔11bを有する。
前記ボルト用貫通孔11bとは、ボルト20を通すための孔であり、このボルト用貫通孔11b内にボルトを通すことで、
図1及び
図2に示すように、前記金属板11同士のボルト締結が行われる。
【0025】
なお、前記ボルト用貫通孔11bの形状やサイズについては、特に限定はされず、本実施形態の積層パネル10に要求される性能や、前記ボルト20の形状、サイズに応じて適宜変更することができる。
例えば、前記ボルト用貫通孔11bの形状については、円状(丸孔)とすることができ
る。また、前記ボルト20の形状やサイズに応じて、多角形上の孔とすることもできる。
また、前記ボルト用貫通孔11bのサイズについては、前記ボルト20の直径よりも大きくすることが好ましい。積層パネルの反り、変形などの影響で、積層パネル締結時のずれが発生し、ボルト用貫通孔と固定部の雌型の位置ずれが発生し、締結できないことを防ぐためである。
【0026】
ここで、本実施形態の積層パネル10では、
図1に示すように、一方の金属板11(
図1では、上に設けられた金属板11)は、他方の金属板11(
図1では、下に設けられた金属板11)側へ凹んだ複数のボルト締結用凹部11aを有し、該ボルト用締結凹部11a内に前記ボルト用貫通孔11bが設けられており、前記一方の金属板11の前記ボルト締結用凹部11aが、前記衝撃吸収部材12を介することなく、前記他方の金属板11と接触し、ボルト締結により積層固定されている。
前記金属板11の一方が前記ボルト締結用凹部11aを有し、前記衝撃吸収部材12を介することなく、前記他方の金属板11と接触し、ボルト締結により積層固定されることよって、前記金属板11同士のボルト締結がやりやすくなり、締結力を向上させることができるため、積層パネルの層間密着性をより高めることができる。
【0027】
なお、前記一方の金属板11では、前記ボルト用締結凹部11a内に前記ボルト用貫通孔11bが設けられているが、前記ボルト用締結凹部11a内に設けられるボルト用貫通孔11bの数については、1つであってもよいし、複数であってもよく、適宜変更が可能である。
例えば、前記ボルト用締結凹部11aのサイズが大きい場合には、前記ボルト用締結凹部11a内に複数の前記ボルト用貫通孔11bを設けることができるし、前記ボルト用締結凹部11aのサイズが小さい場合には、1つの前記ボルト用締結凹部11a内に複数のボルト用貫通孔11bを1つ設けるような態様とすることができる。
【0028】
そして、本実施形態の積層パネル10では、
図1に示すように、前記積層パネル10を上から投影観察した際、少なくとも前記貫通孔11bの径Dの2倍の範囲内WDに前記衝撃吸収部材12が存在しない。
積層パネルに用いられる発泡性樹脂シート等の衝撃吸収部材12は、積層パネルの衝撃吸収性を高めることが可能であるものの、本実施形態のボルト用貫通孔11bの周辺では、ボルト締結によって、前記衝撃吸収部材12が形成されなくとも十分な強度を得ることが可能であることが見いだされ、一方、前記衝撃吸収部材12が、ボルト用貫通孔11bの周りに存在する場合には、衝撃吸収部材12の厚さやその弾力性によって、強力なボルト締結を阻害し、衝撃吸収性や層間密着性が悪化し、強度の安定性を低下する要因となることがわかった。
さらに、衝撃吸収部材がボルト直下にある場合は、ボルト締結部の締め付けトルクが衝撃吸収部材の弾力性により引張張力が働かないため、ボルト締結部有無が曲げ剛性に影響が出ない。それに対し、ボルト締結部に衝撃吸収部材が無い場合は、片側の金属板の引張張力が曲げ剛性に寄与するため、衝撃吸収部材を減らしながらも曲げ剛性向上できる。
そのため、本実施形態の積層パネル10では、少なくとも前記貫通孔11bの径Dの2倍の範囲内WDに前記衝撃吸収部材12を形成しないことによって、衝撃吸収性や層間密着性が悪化を抑え、安定的に優れた強度を得ることが可能となる。また、前記衝撃吸収部材12の量を減らすことができるため、軽量化や製造コストの観点からも有効である。
【0029】
なお、前記貫通孔11bの径Dとは、
図2に示すように、本実施形態の積層パネル10を上から投影観察した際の前記ボルト用貫通孔11bの最大径Dのことである。例えば、前記ボルト用貫通孔11bが、
図2bに示すように丸孔の場合には、前記ボルト用貫通孔11bの直径Dであり、前記ボルト用貫通孔11bが多角形状の孔の場合には、孔の対角線や正中線の長さDとなる。
また、前記貫通孔11bの径Dの2倍の範囲内WDとは、
図2に示すように、前記貫通孔11bの径Dの2倍大きさの径WDを有した状態で、前記貫通孔11bを均等拡大した範囲である。
【0030】
また、軽量化や製造コスト低減の効果の観点からは、前記貫通孔11bの径Dの2.5倍の範囲内に前記衝撃吸収部材12を形成しないことが好ましく、前記貫通孔11bの径Dの3倍の範囲内に前記衝撃吸収部材12を形成しないことがより好ましい。
なお、前記衝撃吸収部材12を形成しない範囲の上限は、積層パネルに要求される衝撃吸収性や強度から決定でき、これらの性能を悪化させない程度に適宜設定が可能である。
【0031】
なお、前記衝撃吸収部材12を形成しない範囲は、それぞれ同じ範囲であってもよいし、異なる範囲であってもよい。
例えば、全ての前記衝撃吸収部材12を形成しない範囲を、前記貫通孔11bの径Dの2倍の範囲とすることもできるし、一部を前記貫通孔11bの径Dの2倍、一部を前記貫通孔11bの径Dの3倍とすることもできる。
【0032】
また、本実施形態の積層パネル10では、積層パネル10の外周全長に対する、前記衝撃吸収部材12が露出した部分の長さが20%以下であるであることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、0%以下であることが特に好ましい。
ここで、
図3は、本実施形態の積層パネル10を上から投影観察した状態を模式的に示したものである。前記積層パネル10の外周全長Xに対して、前記衝撃吸収部材12が露出した部分(積層パネル10から前記衝撃吸収部材12がはみ出たり、はみ出さないまでも積層パネル10の外周部に前記衝撃吸収部材12が観察できる部分)の長さAの割合(A/X×100%)が20%であれば、積層パネルに要求される衝撃吸収性や層間密着性を悪化させず安定的な強度を得ることができる。また、外観性や、汚れ、紫外線や薬品による暴露を防ぐ観点からも、前記衝撃吸収部材12の露出はできるだけ抑えることが好ましい。
【0033】
(金属板)
次に、本実施形態の積層パネル10は、構成部材として金属板11を備える。
前記金属板11は、前記衝撃吸収部材12を挟めるよう、少なくとも2枚必要である。なお、2枚以上あれば特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜枚数を増やすことができる。
【0034】
前記金属板11の材料については、特に限定はされず、積層パネル10の用途や要求される性能に応じて適宜選択することができる。
例えば、前記金属板11の材料として、ステンレス、アルミニウム、銅、鉄等を含有する材料を用いることができる。これらの材料については、合金であってもよく、また、耐食性向上等の観点から、めっき処理やコーティング処理を施したものを用いることができる。さらに、これらの金属板11は、市販の金属板を使用することも可能である。
【0035】
なお、前記金属板11の厚さについても、特に限定はされず、積層パネル10の用途や要求される性能に応じて適宜選択することができる。
例えば、軽量化と強度とのバランスの観点からは、前記金属板11の平均厚さが1mm程度であることが好ましい。
【0036】
(発泡体)
また、本実施形態の積層パネル10は、前記金属板11に挟まれた衝撃吸収部材12を備える。
前記衝撃吸収部材12により、積層パネル10の衝撃吸収性を高めることができる。
【0037】
前記衝撃吸収部材12は、上述したように、前記金属板11のボルト用貫通孔11bの周辺を避けた形で設けられるが、具体的には、前記積層パネル10を上から投影観察した際、前記金属板11の面積(MS)に対する前記衝撃吸収部材(AS)の面積割合(AS/MS×100%)が、30~95%であることが好ましい。これらの範囲に前記衝撃吸収部材12が設けられることで、衝撃吸収性と層間密着性を高いレベルで両立でき、より安定的な強度を実現できるためである。同様の観点から、前記積層パネル10を上から投影観察した際、前記金属板11の面積(MS)に対する前記衝撃吸収部材(AS)の面積割合(AS/MS×100%)が、50~90%であることがより好ましく、60~85%であることがさらに好ましい。
【0038】
また、前記衝撃吸収部材12は、
図4に示すように、複数の肉抜部12bを有し、前記積層パネル10を上から投影観察した際、前記衝撃吸収部材12の面積(AS)に対する前記肉抜部の占める面積(AHS)の割合(AHS/AS×100%)が、5~60%であることが好ましく、20~55%であることがより好ましく、30~50%であることがさらに好ましい。
前記衝撃吸収部材12に肉抜部12bが設けられることで、積層体10の軽量化や製造コスト低減の効果が得られるともに、前記肉抜部の占める面積(AHS)の割合(AHS/AS×100%)が、上記範囲となることで、衝撃吸収性の低下を招くこともないためである。
なお、前記肉抜部12bについては、前記衝撃吸収部材12の一部が抜き取られた態様を意味し、
図4に示すように、貫通孔とすることもできるし、貫通しない穴や、表層近傍を切り取ったり、薄厚化したような態様とすることもできる。
【0039】
さらにまた、前記衝撃吸収部材12は、
図4に示すように、複数の肉抜部12bを有することが好ましいが、肉抜部12bを有する場合、前記衝撃吸収部材12の比重を高めることがより好ましい。
例えば、比重が2倍の衝撃吸収部材を用い、前記積層パネル10を上から投影観察した際、前記衝撃吸収部材12の面積(AS)に対する前記肉抜部の占める面積(AHS)の割合(AHS/AS×100%)が50%となる貫通穴を形成した場合には、より優れた衝撃吸収性能を得ることができる。
【0040】
さらに、前記衝撃吸収部材12は、圧縮弾性率が30~500MPaであり、50%圧縮応力が3~20MPaであることが好ましい。前記圧縮弾性率を高めることで、前記衝撃吸収部材12の強度を高め、曲げ変形時の圧縮変形を抑制して剛性を高く維持でき、前記50%圧縮応力が高すぎると、曲げ変形後に保護部品と接触した際の荷重が大きくなり、保護部品を破損させてしまう。そのため、前記衝撃吸収部材12の圧縮弾性率及び50%圧縮応力が上記数値範囲を満たすことで、衝撃吸収性をより高めつつ保護部品と接触した際に保護部品にかかる荷重を低減することができる。同様の観点から、前記衝撃吸収部材12の圧縮弾性率は、30~500MPaであることが好ましく、50~300MPaであることがより好ましい。前記衝撃吸収部材12の50%圧縮応力は、3~20MPaであることが好ましく、5~10MPaであることがより好ましい。
【0041】
なお、前記衝撃吸収部材12の材料については、特に限定はされず、積層パネル10の用途や要求される性能に応じて適宜選択することができる。
前記衝撃吸収部材12の材料としては、例えば、樹脂材料、ゴム、発泡体、バネ等を用いることができ、これらの中でも、より優れた衝撃吸収性が得られる観点から、発泡体を用いることが好ましく、発泡シートや発泡ビーズ等の発泡成形体を用いることがより好ましい。
【0042】
前記発泡成形体については、例えば、基材樹脂からなるものとすることができる。基材樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、難燃剤、ゴム成分等を含むことができる。
前記熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合体)等のポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AS(アクリロニトリル-スチレン)樹脂、ポリスチレン系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、1,2-ポリブタジエン系、フッ素ゴム系等の熱可塑性エラストマー、ポリアミド系、ポリアセタール系、ポリエステル系、フッ素系の熱可塑性エンジニアリングプラスチック、粉末ゴム等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。また本発明の目的を損なわない範囲で変性、架橋された樹脂を用いてもよい。
また、前記基材樹脂に含まれる熱硬化性樹脂としては、フェノール系樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等のアミノ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、前記基材樹脂は、ポリフェニレンエーテル系樹脂、又はポリカーボネート系樹脂を含む熱可塑性樹脂が、難燃性向上の点で好ましい。
【0043】
ポリカーボネート系樹脂は、ビスフェノール類とホスゲン(若しくはジフェニルカーボネート)とから誘導される炭酸エステル樹脂とすることが好ましく、高いガラス転移点と耐熱性とを有することが特徴である。このようなポリカーボネート系樹脂としては、例えば、2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、1,1’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1-ビス(4ーヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4ーヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4ーヒドロキシフェニル)-1-フェニルメタン、1,1-ビス(4ーヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,2-ビス(4ーヒドロキシフェニル)エタン等から誘導されたポリカーボネートが好適である。これらのポリカーボネートは、一般に140~155℃のガラス転移点(Tg)を有する。
【0044】
ポリカーボネート系樹脂は、他の1種類以上の樹脂と混合が可能であり、その例としてポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリロニトリル―ブタジエン―スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、アクリロニトリル―スチレン共重合体(AS樹脂)、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド又はポリエチレンナフタレートなどが挙げられる。
他の樹脂と混合する場合は、難燃性の観点から、ポリカーボネート樹脂の含有量は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0045】
本明細書において、ポリフェニレンエーテル系樹脂とは、下記一般式(1)で表される重合体のことをいう。ここで一般式(1)中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、又はハロゲンと一般式(1)中のベンゼン環との間に少なくとも2個の炭素原子を有するハロアルキル基若しくはハロアルコキシ基で第3α-炭素を含まないもの、を示す。また、nは重合度を表す整数である。
【0046】
【0047】
ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、重量平均分子量が20,000~60,000であるものが好ましい。
【0048】
ポリフェニレンエーテル系樹脂の例としては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジブチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジラウリル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジフェニル-1,4-ジフェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジメトキシ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエトキシ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メトキシ-6-エトキシ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-ステアリルオキシ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジベンジル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エトキシ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-クロロ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジブロモ-1,4-フェニレン)エーテル等が挙げられるが、これに限定されるものではない。この中でも特に、R1及びR2が炭素数1~4のアルキル基であり、R3及びR4が水素若しくは炭素数1~4のアルキル基のものが好ましい。これらは一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
上述の熱可塑性樹脂の中でも、難燃性、耐熱性に優れることからポリフェニレンエーテル系樹脂がより好ましい。特に、荷重たわみ温度(HDT)を向上させ、高熱の環境下においても剛性を維持でき、寸法安定性を良好なものにすることができる。
【0050】
ポリフェニレンエーテル系樹脂は、他の1種類以上の樹脂と混合が可能であり、その例として、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリアミドに代表されるエンプラ系樹脂、ポリフェニレンスルファイドに代表されるスーパーエンプラ系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、加工性向上の点から、ポリスチレン系樹脂と混合することが好ましい。
【0051】
本明細書において、ポリスチレン系樹脂とは、スチレン及びスチレン誘導体のホモポリマーに加え、スチレン及びスチレン誘導体を主成分とする共重合体のことをいう。スチレン誘導体として、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ジフェニルエチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
ホモポリマーのポリスチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリα-メチルスチレン、ポリクロロスチレン等が挙げられ、共重合体のポリスチレン系樹脂としては、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-マレ
イン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-マレイミド共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド共重合体、スチレン-N-アルキルマレイミド共重合体、スチレン-N-アルキル置換フェニルマレイミド共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メチルアクリレート共重合体、スチレン-メチルメタクリレート共重合体、スチレン-n-アルキルアクリレート共重合体、スチレン-n-アルキルメタクリレート共重合体、エチルビニルベンゼン-ジビニルベンゼン共重合体のほか、ABS、ブタジエン-アクリロニトリル-α-メチルベンゼン共重合体等の三元共重合体も挙げられるが、これに限定されるものではない。
また、グラフト共重合体、例えば、スチレングラフトポリエチレン、スチレングラフトエチレン-酢酸ビニル共重合体、(スチレン-アクリル酸)グラフトポリエチレン、スチレングラフトポリアミド等も含まれる。これらは、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
ポリスチレン系樹脂としては、重量平均分子量が180,000~500,000であるものが好ましい。なお、本明細書中において、重量平均分子量とは、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定を行い、クロマトグラムのピークの分子量を、市販の標準ポリスチレンの測定から求めた検量線(標準ポリスチレンのピーク分子量を使用して作成)を使用して求めた重量平均分子量である。
【0053】
基材樹脂中のポリスチレン系樹脂の含有量は特には限定されず、他成分が所望の含有量になるように適宜調整して使用される。一方、基材樹脂中のポリフェニレンエーテル樹脂は、難燃性の観点から40質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましい。
【0054】
基材樹脂中には、十分な難燃性を達成するために、さらに難燃剤を添加することが好ましい。
難燃剤としては、有機系難燃剤、無機系難燃剤があり、有機系難燃剤としては、臭素化合物に代表されるハロゲン系化合物や、リン系化合物シリコーン系化合物に代表される非ハロゲン系化合物がある。無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムに代表される金属水酸化物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンに代表されるアンチモン系化合物などが挙げられる。
【0055】
また、従来より知られた各種難燃剤及び難燃助剤、例えば、環状窒素化合物、その具体例としてはメラミン、アンメリド、アンメリン、ベンゾグアナミン、サクシノグアナミン、メラミンシアヌレート、メラム、メレム、メトン、メロン等のトリアジン骨格を有する化合物及びそれらの硫酸塩、結晶水を含有する水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等のアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、ホウ酸亜鉛化合物、スズ酸亜鉛化合物等も用いてもよい。また1種だけでなく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
【0056】
基材樹脂中には、発泡性向上の点からゴム成分が含まれているものがより好ましい。
ゴム成分としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等が挙げられるが、これに限定されるものではない。これらは、ポリスチレン系樹脂からなる連続相中に粒子状に分散しているものが好ましい。これらゴム成分を添加する方法として、ゴム成分そのものを加えてもよく、スチレン系エラストマーやスチレン-ブタジエン共重合体等の樹脂をゴム成分供給源として用いてもよい。
【0057】
なお、上記以外にも、他の熱可塑性樹脂、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、顔料、染料、耐候性改良剤、帯電防止剤、耐衝撃改質剤、ガラス成形体、無機充填材、タルク等の核剤等を、発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。
【0058】
また、前記発泡成形体は、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、難燃剤、ゴム成分を含む基材樹脂からなることが最も好ましい。この場合の各成分の含有量は、ポリフェニレンエーテル系樹脂40~94質量%、難燃剤5~20質量%及びゴム成分0.3~10質量%であり、残部がポリスチレン系樹脂からなることが好ましい。
【0059】
ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が40質量%以上であれば、耐熱性に優れ、さらに難燃性、特に燃焼時の樹脂だれ防止性能が著しく向上する。燃焼時の樹脂だれを防ぐには、(1)燃焼時間を短くし、(2)樹脂の耐熱性を上げる(軟化しにくくする)ことが重要となるが、難燃剤の添加量を増やすだけでは(2)には逆効果であり、より薄肉のサンプルでの樹脂だれを防止するには、ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量を40質量%以上にすることが好ましい。
【0060】
一方、ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が94質量%を超えると、発泡、成形等の加工に必要な温度が急激に高くなり、用役費がかさむだけでなく、特別な設備が必要になるなど、実生産性に欠ける。
また、基材樹脂中のポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量は、より好ましくは45~90質量%、さらにより好ましくは50~85質量%である。含有量を45~90質量%とすることにより、耐熱性を維持しつつ、発泡温度、成形温度がより低くなり、より加工しやすくなる。
【0061】
前記基材樹脂の形状は特に限定されないが、例としてビーズ状、ペレット状、球体、不定型の粉砕品等が挙げられる。その大きさは、好ましくは0.2~5.0mm、さらに好ましくは0.2~3.0mmである。大きさがこの範囲にあると、発泡後のビーズが適度な大きさになり、取り扱い易く、また、成形時の充填がより密になりやすくなる。
【0062】
前記発泡成形体に残存する脂肪族炭化水素系ガスの残留濃度は、1000体積ppm以下が好ましい。なお、本明細書において、脂肪族炭化水素系ガスの残留濃度とは、発泡成形体中に含まれる脂肪族炭化水素系ガスの体積を発泡成形体の体積で除して求めた値(体積ppm)であり、1体積ppm(以下、単に「ppm」ともいう。)は0.0001体積%に相当する。
【0063】
前記脂肪族炭化水素系ガスとしては、プロパン、n-ブタン、i―ブタン、n-ペンタン、i-ペンタン、ネオペンタン等が挙げられる。脂肪族炭化水素系ガスの残留濃度が1000ppm以下であると、燃焼時に種火が長時間くすぶったり(グローイングという)することがない。UL-94等の燃焼試験においては、燃焼時間に加えグローイング時間が規定されており、上記残存ガス量が少ないと、燃焼試験、特にV-0という規格をクリアすることが可能となる。
【0064】
なお、前記発泡ビーズの製造方法は、公知の方法を適宜使用することができる。
例えば、前記発泡ビーズは、基材樹脂に発泡剤を含有(含浸)させ(含浸工程)、基材樹脂を発泡させること(発泡工程)により得ることができる。
【0065】
(機能層)
本実施形態の積層パネル10は、
図1に示すように、上述した金属板11及び衝撃吸収部材12に加えて、前記金属板11の積層面側に、機能層13をさらに備えることが好ましい。
ここで、前記機能層13とは、主に前記金属板11と前記衝撃吸収部材12との密着性を高めるための層である。この機能層13を前記金属板11の積層面側、つまり、前記衝撃吸収部材12との層間及び前記金属板11同士の界面に設けることで、層間密着性をより強固にすることができ、積層パネル10のより安定的に優れた強度を実現できる。さら
に、前記機能層13は、層間を充填して、水等の不純物の混入を防ぐ効果もある。
【0066】
前記機能層13については、前記金属板11と前記衝撃吸収部材12との密着性を高めることができるものであれば特に限定はされない。
例えば、接着剤、コーティング剤、塗装材、フィルム、シート、テープ、不織布等が挙げられる。
【0067】
また、前記機能層13の厚さについても特に限定はされず、積層パネル10の軽量化及び製造コストと、層間密着性向上とのバランスの観点から、適宜決定することができる。
【0068】
前記機能層13は、前記金属板11の一方の面のみに形成することもできるし、両方の前記機能層の面に形成することもできる。
さらに、前記機能層は、前記金属板11の積層面側の全面に形成することもできるし、面内の任意の部分のみに形成することもできる。
【0069】
なお、本実施形態の積層パネル10は、上述した金属板11、衝撃吸収部材12及び機能層13に加えて、積層パネルの用途に応じた公知の部材を適宜備えることが可能である。
【0070】
<積層パネルの製造方法>
次に、本実施形態の積層パネルの製造方法について説明する。
本実施形態の積層パネルの製造方法は、
図1に示すように、
少なくとも2枚の金属板11と、該金属板に挟まれた衝撃吸収部材12と、を備えた積層パネル10の製造方法であって、
前記衝撃吸収部材12を前記金属板11で挟んだ状態で接着する工程と、
一方の前記金属板11に曲げ加工を施すことで、他方の金属板11側へ凹んだ複数のボルト締結用凹部11aを形成する工程と、
前記一方の金属板の前記ボルト締結用凹部11aを、前記衝撃吸収部材12を介することなく、前記他方の金属板11と接触させ、ボルト締結により積層固定する工程と、
を含む。
上記工程を経ることで、上述した本実施形態の積層パネルを得ることができる。
なお、前記積層パネル10の構成については、上述したとおりである。
【0071】
なお、本実施形態の積層パネルの製造方法では、前記衝撃吸収部材12を前記金属板11で挟んだ状態で接着させた後、一方の前記金属板11に曲げ加工を施すことで、他方の金属板11側へ凹んだ複数のボルト締結用凹部11aを形成している。
これによって、金属板11で衝撃吸収部材12を挟みつつ、前記ボルト締結用凹部11aの形成が可能となる。
【0072】
前記衝撃吸収部材12を前記金属板11で挟んだ状態で接着させる方法については、特に限定はされない。
例えば、前記衝撃吸収部材12に粘着性を付与する方法や、前記金属板11と前記衝撃吸収部材12との間に機能層13を設ける方法や、ホットメルトフィルムを機能層に用いて熱溶着によって接着する方法等が挙げられる。
【0073】
<車両用パネル>
本実施形態の車両用パネルは、上述した本実施形態の積層パネルを用いてなる。
これにより、本実施形態の車両用パネルは、凹凸形状を有し、金属板同士がボルト締結されるような態様であっても、衝撃吸収性及び層間密着性に優れ、安定的に優れた強度を実現できる。
【0074】
ここで、前記車両用パネルの種類については、特に限定はされない。例えば、車両の下部、側部、上部のパネルとして用いることができる。
より具体的には、車両の、アンダーカバー、ドアパネル、ルーフパネル、オイルパンなどのカバー形状の部品が挙げられる。これらの中でも、アンダーカバーとして用いることが、本実施形態の車両用パネルによる効果をより享受できる点で好ましい。
【実施例0075】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
<実施例1~17、比較例5~9>
表1に示す条件で、2枚の金属板と、該金属板に挟まれた衝撃吸収部材と、を備えた積層パネルのサンプルを作製した。
なお、積層パネルの形状については、表1、表2及び
図7に記載の形状とした。
【0077】
<比較例1~4>
表1及び表2に示す条件で、2枚の金属板からなる積層パネルのサンプルを作製した。
なお、積層パネルの形状については、表2及び
図7に記載の形状とした。
【0078】
<評価>
作製した積層パネルの各サンプルについて、以下の評価を実施した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0079】
(1)10mm変位時の荷重
作製した各サンプルについて、株式会社島津製作所製UH-500kNIRを用いて、表に記載の構成で、
図5の配置方法によって、荷重(N)を測定した。圧子の降りる速度は10mm/minとし、圧子形状は半球状のφ100mmとした。
【0080】
(2)10mm変位時のEA
作製した各サンプルについて、株式会社島津製作所製UH-500kNIRを用いて、表に記載の構成で、
図5の配置方法によって、荷重―変位曲線を取得した。この際の圧子の速度は10mm/minとした。荷重―変位曲線の変位10mm時の荷重―変位曲線の面積をエネルギー吸収量として、エネルギー吸収量:EA(J)を測定した。
【0081】
(3)荷重直下の応力
作製した各サンプルについて、株式会社島津製作所製UH-500kNIRを用いて、表に記載の構成で、
図5の配置方法にて荷重―変位曲線を取得した。圧子直下の10mm変位部に小型圧縮型ロードセルLMC-A-20kN(株式会社共和電業製)と鉄板を、
図6のように配置して、接触後から衝撃吸収部材が1mm圧縮されるまで試験を行い、その時の荷重を読み取る。接触後から1mm圧縮されたときの荷重を鉄板の面積で除することによって、荷重直下の応力(MPa)を測定した。
【0082】
(4)ボルト固定
作製した各サンプルについて、ボルト締結時に手締めを行い、荷重が大きくなったところでトルクレンチに切り替えて締め作業を行った。トルクレンチに切り替えた後のボルト回転数が5回転以下で10kNを超えた場合に「〇」、10回転回しても10kNを超えなかった場合を「×」として、ボルト締結が容易かどうかを確認した。
【0083】
【0084】
※1 樹脂種については、次のとおりである。
PPE系:旭化成株式会社製「サンフォース(登録商標)BE」、PE系:旭化成株式会社製「メフ(登録商標)」、PA系:特許第7058315と同様の手法を用いて作製したビーズ、PUR系株式会社イノアックコーポレーション製「カームフレックス(登録商標)F140」
なお、上記PPE系、PE系、PA系のビーズについては、表1及び表2に示した密度となるように成形を行い、指定サイズの発泡成形体を作製した。
※2、※3 厚み(mm)、密度(g/cm
3)、面密度(kg/m
2)については、以下の通り算出した。
衝撃吸収部材の質量W(g)を測定した後、ノギス(ミツトヨ製)を用いて面積S(m
2)、体積V(cm
3)を測定し、W/S(kg/m
2)をビーズ発泡成形体の面密度とし、W/V(g/cm
3)をビーズ発泡成形体の密度とした。
※4 衝撃吸収部材の独立気泡率は、衝撃吸収部材から、縦20mm、横20mm、表1に記載の厚み(mm)、の直方体の衝撃吸収部材を切り出し、試料とし、独立気泡率を測定した。
S(%)={(Vx-W/ρ)/(Va-W/ρ)}×100 ・・・(1)
式(1)中、Vxは、発泡体の真の容積(cm
3)であり、Vaは、発泡体の見かけの容積(cm
3)であり、Wは、発泡体の重量(g)であり、ρは、発泡体の基材樹脂の密
度(g/cm
3)である。発泡体の真の容積はピクノメータにより算出される。
※5 衝撃吸収部材の圧縮弾性率、50%圧縮応力は、JIS K 7220(2006)に準拠して測定した。
※6 衝撃吸収部材の貫通孔(肉抜部)の面積割合は、積層パネルを上から投影観察した際の、衝撃吸収部材の面積に対する衝撃吸収部材の貫通孔の合計面積の割合を算出した。※7 衝撃吸収部材の平均厚みは、衝撃吸収部材の全体の平均厚みである。
※8 樹脂種については、次のとおりである。
ウレタン系:日本シーカ株式会社製「SikaForce(登録商標)―7750 L80MR(A)と、SikaForce(登録商標)―7750(B)の2液混合」、両面テープ:スリーエムジャパン(株)製「アクリルフォームテープ(品番:GT7102)」
※9 形状については、次のとおりである。
2液混合:ウレタン系接着剤は、SikaForce(登録商標)-7750 L80 MR(A)とSikaForce(登録商標)―7750(B)を重量比で1:1に混合して金属板に塗布して衝撃吸収部材を積層接着した。
両面テープ:金属板と衝撃吸収部材の接する面全体に両面テープを接着し、金属板と衝撃吸収部材を積層接着した。
※10 機能層の密度は、使用する接着剤、両面テープの重量を事前に測定し、積層後の全厚みから、金属板と衝撃吸収部材の厚みの差を計算することによって厚みを算出し、塗布面積を用いて体積を計算し、その割合から機能層の密度を算出した。
※11 機能層の平均厚みは、機能層の全体の平均厚みである。
※12 機能層の接着部については、次のとおりである。
両面:衝撃吸収部材の両面に機能層が設けられている、片面(上):衝撃吸収部材の上面のみに機能層が設けられている、片面(下):衝撃吸収部材の下面のみに機能層が設けられている
※13 機能層の面密度は、質量W(g)を測定した後、ノギス(ミツトヨ製)を用いて接着部の面積S(m
2)を測定し、W/S(kg/m
2)を機能層の面密度とした。
※14 機能層の硬化時間は、48時間以上とした。
※15 機能層の硬化荷重は、0.2MPaの荷重とした。
※16 金属上板、金属下板の種類は、以下のとおりである。
AL:アルミニウム、SPCC:冷間圧延鋼板、
※17 金属上板、金属下板の厚みは、全体の平均厚みである。
※18 金属上板、金属下板の曲げ弾性率は、JIS K 7171に準拠して測定した。
※19 金属上板、金属下板の面密度は、質量W(g)を測定した後、ノギス(ミツトヨ製)を用いて面積S(m
2)を測定し、W/S(kg/m
2)を金属上板、金属下板の面密度とした。
※20 積層パネルの形状A及びBについては、
図7に示すものとした。
【0085】
表1の結果から、実施例の積層パネルの各サンプルは、各性能にバランスよく優れ、安定的に高い強度が得られることがわかる。一方、比較例のサンプルは、いずれかの性能が実施性のサンプルと比べて劣るものであった。
本発明によれば、金属板と該金属板に挟まれた衝撃吸収部材とを備えた積層パネルについて、金属板が凹部を有し、金属板同士がボルト締結されるような場合であっても、衝撃吸収性及び層間密着性に優れ、安定的に優れた強度を実現できる。
また、本発明によれば、金属板と該金属板に挟まれた衝撃吸収部材とを備えた積層パネルの製造方法であって、金属板が凹部を有し、金属板同士がボルト締結されるような場合であっても、衝撃吸収性及び層間密着性に優れ、安定的に優れた強度を実現できる製造方
法を提供できる。