(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006639
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ヘモグロビンの種別の判別方法、学習済みモデルの生成方法、学習済みモデル、ヘモグロビンの分析システム、プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20250109BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01N30/88 Q
G01N30/86 B
G01N30/86 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107558
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】笠原 潤也
(72)【発明者】
【氏名】東山 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鳥塚 研二
(72)【発明者】
【氏名】加藤 将
(57)【要約】
【課題】血液試料に対する分離処理の分離時間が短い分離データを用いる場合であっても血液試料中のヘモグロビンの種別を特定できるヘモグロビンの種別の判別方法、学習済みモデルの生成方法、学習済みモデル、ヘモグロビンの分析システム、プログラムの提供。
【解決手段】ヘモグロビンの種別の判別方法では、ヘモグロビンの種別が既知である学習用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して生成された学習用周波数解析データと既知のヘモグロビンの種別とを含むデータセットを、機械学習の学習用データセットとして用いることにより生成された学習済みモデルを用意し、ヘモグロビンの種別が未知である検査用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して検査用周波数解析データを用意し、検査用周波数解析データを学習済みモデルに入力することにより検査用血液試料に含まれるヘモグロビンの種別を判別する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘモグロビンの種別が既知である学習用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して生成された学習用周波数解析データと前記既知のヘモグロビンの種別とを含むデータセットを、機械学習の学習用データセットとして用いることにより生成された学習済みモデルを用意し、
ヘモグロビンの種別が未知である検査用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して検査用周波数解析データを用意し、
前記検査用周波数解析データを学習済みモデルに入力することにより前記検査用血液試料に含まれるヘモグロビンの種別を判別する、
ヘモグロビンの種別の判別方法。
【請求項2】
前記学習用周波数解析データ用の前記分離データ及び前記検査用周波数解析データ用の前記分離データは、クロマトグラムである、
請求項1に記載の、ヘモグロビンの種別の判別方法。
【請求項3】
前記学習用周波数解析データ及び前記検査用周波数解析データは、それぞれ標準化処理が行われた、前記学習用周波数解析データ用の前記分離データ及び前記検査用周波数解析データ用の前記分離データを、周波数解析して生成されている、
請求項1に記載の、ヘモグロビンの種別の判別方法。
【請求項4】
前記学習用周波数解析データ及び前記検査用周波数解析データは、ウェーブレット解析して生成されている、
請求項1に記載の、ヘモグロビンの種別の判別方法。
【請求項5】
前記機械学習は、畳み込みニューラルネットワークを含む、
請求項1に記載の、ヘモグロビンの種別の判別方法。
【請求項6】
前記ヘモグロビンは、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC、ヘモグロビンD又は、ヘモグロビンEである、
請求項1に記載の、ヘモグロビンの種別の判別方法。
【請求項7】
ヘモグロビンの種別が既知である学習用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して生成された学習用周波数解析データと前記既知のヘモグロビンの種別とを含むデータセットを、機械学習の学習用データセットとして用いることにより学習済みパラメータを生成する、
学習済みモデルの生成方法。
【請求項8】
前記分離データは、クロマトグラムである、
請求項7に記載の、学習済みモデルの生成方法。
【請求項9】
前記学習用周波数解析データを生成する周波数解析は、標準化処理が行われた分離データに対して行われる、
請求項7に記載の、学習済みモデルの生成方法。
【請求項10】
前記学習用周波数解析データを生成する周波数解析は、ウェーブレット解析である、
請求項7に記載の、学習済みモデルの生成方法。
【請求項11】
前記機械学習は、畳み込みニューラルネットワークを含む、
請求項7に記載の、学習済みモデルの生成方法。
【請求項12】
前記ヘモグロビンは、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC、ヘモグロビンD又は、ヘモグロビンEである、
請求項7に記載の、学習済みモデルの生成方法。
【請求項13】
血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して生成された周波数解析データが入力されると、前記周波数解析データから該血液試料に含まれるヘモグロビンの種別を出力する学習済みモデルであって、
前記学習済みモデルは、ヘモグロビンの種別が既知である学習用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して生成された学習用周波数解析データを含む学習用データ及び前記既知のヘモグロビンの種別を、機械学習の学習用データセットとして用いることにより生成される、
学習済みモデル。
【請求項14】
ヘモグロビンの種別が未知である検査用血液試料に対して分離処理を行い、検査用分離データを生成する分離部と、
前記検査用分離データに対して周波数解析を行い、検査用周波数解析データを生成する周波数解析部と、
前記検査用周波数解析データにより測定された、請求項13に記載の学習済みモデルにより前記検査用血液試料に含まれるヘモグロビンの種別を判別する判別部と、
前記判別部により判別されたヘモグロビンの種別を出力する出力部と、
を備えた、ヘモグロビンの分析システム。
【請求項15】
ヘモグロビンの種別が既知である学習用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して生成された学習用周波数解析データを含む学習用データ及び前記既知のヘモグロビンの種別を、機械学習の学習用データセットとして用いることにより生成された学習済みモデルを入力させ、
ヘモグロビンの種別が未知である検査用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して生成された検査用周波数解析データを入力させ、
学習済みモデルに基づいて前記検査用血液試料に含まれるヘモグロビンの種別を出力させる、
処理をコンピュータに実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘモグロビンの種別の判別方法、学習済みモデルの生成方法、学習済みモデル、ヘモグロビンの分析システム、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体クロマトグラフィ法により、例えば血液等の測定試料のグリコヘモグロビン(例えばHbA1a、HbA1b、HbA1c等)及び変異ヘモグロビン(例えば、HbF、HbS等)を測定する方法が提案されている(例えば特許文献1、2、3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6856434号公報
【特許文献2】特許第5948727号公報
【特許文献3】特許第6492856号公報
【特許文献4】特開2017-203677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術文献1~4に記載の分離分画法では、血液試料中のヘモグロビンの種別を特定するために分離時間を長くし、特定時間のピークパターンを基に判断するため、測定に時間を要する。
【0005】
本開示では、血液試料について判別精度がより高くなる血液試料中のヘモグロビンの種別を特定できるヘモグロビンの種別の判別方法、学習済みモデルの生成方法、学習済みモデル、ヘモグロビンの分析システム、プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のヘモグロビンの種別の判別方法の一態様は、ヘモグロビンの種別が既知である学習用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して生成された学習用周波数解析データと前記既知のヘモグロビンの種別とを含むデータセットを、機械学習の学習用データセットとして用いることにより生成された学習済みモデルを用意し、ヘモグロビンの種別が未知である検査用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して検査用周波数解析データを用意し、前記検査用周波数解析データを学習済みモデルに入力することにより前記検査用血液試料に含まれるヘモグロビンの種別を判別する。
【0007】
これによれば、一態様において、血液試料に対する分離処理の分離時間が短い分離データを用いる場合であっても血液試料中のヘモグロビンの種別を特定できるヘモグロビンの種別の判別方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、血液試料について判別精度がより高くなるヘモグロビンの種別を特定できるヘモグロビンの種別の判別方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】学習済みモデル生成装置であるHPLC装置の制御系の構成図である。
【
図3】本開示の本実施形態に係る、学習済みモデルの生成方法を説明するフローチャートである。
【
図4】本開示に係るヘモグロビンの種別を判別する機械学習に用いるデータを示す図であり、血液試料をHPLC装置で測定したクロマトグラムの図である。
【
図5】
図4に続けて本開示に係るヘモグロビンの種別を判別する機械学習に用いるデータを示す図であり、
図4のクロマトグラムに標準化処理を施した結果のクロマトグラムの図である。
【
図6】
図5に続けて本開示に係るヘモグロビンの種別を判別する機械学習に用いるデータを示す図であり、
図5の標準化処理を施した結果のクロマトグラムをウェーブレット変換した図である。
【
図7】ヘモグロビンの判別装置であるHPLC装置の制御系の構成図である。
【
図8】本開示の本実施形態に係る、学習済みモデルを用いて、未知試料に含まれるヘモグロビンの種別を判定する方法を説明するフローチャートである。
【
図9】HPLC装置で血液試料を異なる分離時間で測定した場合のピークの形状を説明する図であり、(A)は、ヘモグロビンEを測定した場合のクロマトグラム、(B)は、異常ヘモグロビンAを測定した場合のクロマトグラムである。
【
図10】
図9で測定に用いられたHPLC装置とは異なるHPLC装置で血液試料を異なる分離時間で測定した場合のピークの形状を説明する図であり、(A)は、ヘモグロビンEを測定した場合のクロマトグラム、(B)は、異常ヘモグロビンAを測定した場合のクロマトグラムである。
【
図11】異なるHPLC装置で同じ血液試料を測定した場合におけるピークの形状を説明する図であり、(A)は、測定時間が長い場合のクロマトグラム、(B)は、測定時間が短い場合のクロマトグラムである。
【
図12】本開示の他の実施形態に係るヘモグロビンの種別を判別する機械学習に用いるデータを示す図であり、(A)は、
図4のクロマトグラムをフーリエ変換した振幅スペクトルの図、(B)は、
図4のクロマトグラムをフーリエ変換したパワースペクトルの図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態について説明する。
【0011】
(学習モデル生成装置の構成)
図1には、本実施形態における学習済みモデル生成装置の一例として、高速液体クロマトグラフィ(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)を利用したHPLC装置10の概略構成図を示した。なお、学習済みモデル生成装置は、ヘモグロビンの分析システムの一例である。
【0012】
HPLC装置10は、採血管18をセットして、全血中のグリコヘモグロビン(例えばHbA1a、HbA1b、HbA1c等)及び変異Hb(例えば、HbF、HbS等)の濃度を自動で測定するように構成されたものであり、試料調製ユニット12、分析ユニット58、及び測光ユニット16を有している。
【0013】
このHPLC装置10は、複数の溶離液ボトル22A、22B、22C、22D、22E(
図1では5個)等を備えている。各溶離液ボトル22A~22Eは、後述する分析カラム60に供給すべき溶離液A~Eを各々保持したものである。各溶離液は、用途に応じて例えば組成、成分比、pH、浸透圧等が異なる。
【0014】
採血管18は、例えば、ラック(図示せず)に収納され、後述する試料調製ユニット12におけるノズル12Nにより採取可能な位置に移動するように構成されている。
【0015】
試料調製ユニット12は、採血管18から採取した血液から、分析カラム60に導入する試料を調製するためのものである。この試料調製ユニット12は、ノズル12N、及び希釈槽24を有している。
【0016】
ノズル12Nは、採血管18の血液試料20をはじめとする各種の液体を採取するためのものであり、液体の吸引・吐出が可能であるとともに、上下方向及び水平方向に移動可能とされている。このノズル12Nの動作は、後述する制御部100によって制御される。
【0017】
分析ユニット58は、分析カラム60の充填剤に対する生体成分であるヘモグロビンなどの血液試料に含まれる成分の吸着・脱着をコントロールし、各種の生体成分を測光ユニット16に供するためのものである。分析ユニット58における設定温度は、例えば40℃程度とされる。分析カラム60は、試料中に含まれる成分を選択的に吸着させるための充填剤を保持させたものである。充填剤としては、例えばメタクリル酸-メタクリル酸エステル共重合体が使用される。
【0018】
分析ユニット58は、分析カラム60の他に、マニホールド61、送液ポンプ62、及びインジェクションバルブ63を有している。
【0019】
マニホールド61は、複数の溶離液ボトル22A~22Eのうちの特定の溶離液ボトルから、分析カラム60に選択的に溶離液を供給させるためのものである。このマニホールド61は、配管80A~80Eを介して溶離液ボトル22A、22B、22C、22D、22Eに各々接続され、配管84を介してインジェクションバルブ63に接続されている。
【0020】
送液ポンプ62は、溶離液をインジェクションバルブ63に移動させるための動力を付与するためのものであり、配管84の途中に設けられている。
【0021】
インジェクションバルブ63は、一定量の導入用試料を採取するとともに、その導入用試料を分析カラム60に導入可能とするものであり、複数の導入ポート及び排出ポート(図示省略)を備えている。このインジェクションバルブ63には、インジェクションループ64が接続されている。このインジェクションループ64は、一定量(例えば数μL)の液体を保持可能なものであり、インジェクションバルブ63を適宜切り替えることにより、インジェクションループ64が希釈槽24と連通して希釈槽24からインジェクションループ64に導入用試料が供給される状態、インジェクションループ64がプレフィルターPF及び配管85を介して分析カラム60と連通してインジェクションループ64から導入用試料が分析カラム60に導入される状態を選択することができる。このようなインジェクションバルブ63としては、例えば六方バルブを使用することができる。なお、プレフィルターPFは、試料や溶離液を濾過するためのフィルターである。
【0022】
測光ユニット16は、分析カラム60から供給された試料に含まれるヘモグロビンを光学的に検出するためのものであり、配管87を介して、分析カラム60から供給された試料を排出するための廃液槽88に接続されている。
【0023】
ここで、分析カラム60に試料が導入された場合、分析カラム60が試料に含まれる成分を保持する時間は、成分毎に異なるため、測光ユニット16に供給される試料に含まれる成分の量は、時間の経過と共に変動する。言い換えれば、分析カラム60により、試料に含まれる成分が分離される。
【0024】
そして、測光ユニット16は、後述する制御部100に制御されることにより、分析カラム60から供給される試料に含まれる成分による吸光度を連続的に測定し、吸光度の測定結果を制御部100に送信する。
【0025】
このため、測光ユニット16から送信された、吸光度の測定結果を記録することにより、試料の分離データが得られる。すなわち、分析ユニット58は、本実施形態における分離処理を行う部材であり、分析ユニット58及び測光ユニット16は、本実施形態における分離部の一例である。
【0026】
図2には、HPLC装置10の制御系のブロック図を示した。
図2に示すように、HPLC装置10は、制御部100を備えている。制御部100は、CPU(Central Processing Unit)100A、ROM(Read Only Memory)100B、RAM(Random Access Memory)100C、不揮発性メモリ100D、及び入出力インターフェース(I/F)100Eがバス100Fを介して各々接続された構成となっている。また、HPLC装置10は、オペレータからの入力を受け付ける操作部(図示せず)及び表示ユニット26を備えている。
【0027】
入出力インターフェース100Eには、試料調製ユニット12、分析ユニット58、測光ユニット16、及び表示ユニット26が接続されている。
【0028】
本実施形態では、表示ユニット26は、一例として液晶ディスプレイであり、CPU100Aに制御されて制御部100の情報を作業者に表示する。
【0029】
CPU100Aは、本実施形態では一例として不揮発性メモリ100Dに予めHPLC装置10の動作を制御する基本プログラム(図示せず)が記録されている。本実施形態では一例として、不揮発性メモリ100Dには、さらに学習済みモデル120Cを生成する第一プログラム120Aが記憶されている。CPU100Aは、不揮発性メモリ100Dに記憶された各種のプログラムを読み込んで実行する。また、CD-ROM等の記録媒体に第一プログラム120Aが記録され、CPU100Aは、これをCD-ROMドライブ等で読み込むことにより実行するようにしてもよい。
【0030】
また、CPU100Aは、基本プログラムを実行することにより、マニホールド61や、インジェクションバルブ63を制御し、分析カラム60に導入される溶離液の種類又は、溶離液の単位時間当たりの流量を変化させる。これにより、CPU100Aは、分析カラム60から単位時間あたりに流出する試料中の成分の流量を決定し、試料に含まれる成分の測定時間(測光ユニット16で吸光度を測定する時間)を設定する。
【0031】
続いて、本実施形態によるヘモグロビンの種別の判定方法に用いる学習済みモデルの生成手順を、
図3から
図6を適宜参照しながら、説明する。
【0032】
(本実施形態の方法による、学習済みモデルの生成手順)
本実施形態の学習済みモデル生成装置は、制御部100は、本実施形態に係る各種プログラムを実行することで、試料に含まれるヘモグロビンの種別を判別する学習済みモデルを生成する。具体的には、CPU100Aは、第一プログラム120Aを読み込んだ場合、それぞれ次に示す処理を実行する。
【0033】
(第一プログラム120AがCPU100Aに実行させる手順)
本実施形態では、第一プログラム120Aは、CPU100Aに
図3に示される処理を実行させる。
【0034】
ステップS12において、CPU100Aは、測光ユニット16が測定した、ヘモグロビンの種別が既知の試料(以下、既知試料と称す)の成分に対応する吸光度を、RAM100Cに記憶して、
図4に示されるようなクロマトグラムを作成する。そしてCPU100Aは、作成したクロマトグラムをRAM100Cに記憶させる。その後、CPU100Aは、ステップS14へと移行する。
【0035】
ステップS14において、CPU100Aは、RAM100Cに記憶されたクロマトグラムについて標準化処理を施し、
図5に示されるような標準化データを作成する。そしてCPU100Aは、作成した標準化データをRAM100Cに記憶させる。その後、CPU100Aは、ステップS16へと移行する。
【0036】
なお、具体的な標準化処理の変換方法は、次の手順、及び数1に示す通りとした。
1.クロマトグラムの各データ点に対して標準化処理(測定された各データ点のそれぞれについて、測定値から平均値を減した値をさらに標準偏差で除する、スケーリング処理)を施す。
2.標準化処理後のデータにおける最小値の絶対値に0.001を加えたものを、標準化処理後の各データ点に加える。
3.各データ点について、底をe(ネイピア数)とした対数をとる。
【0037】
【0038】
なお、上記の数1において、x'iは、標準化処理後における各データ点iにおける値であり、xiは、クロマトグラムにおける各データ点iにおける値である。また、μは、クロマトグラムにおける各データ点の平均値であり、σは、クロマトグラムにおける各データ点の値の標準偏差である。また、Minは、複数の値のうち最小値を示す関数である。また、lnは、ネイピア数を底とする対数関数である。
【0039】
なお、上述における変換方法及びパラメータは、本実施形態に係る標準化処理における一例であり、本実施形態に係る標準化処理は、上述の変換方法及びパラメータに限定されない。
【0040】
ステップS16において、CPU100Aは、RAM100Cに記憶された標準化データについてウェーブレット解析を行い、
図6に示されるようなウェーブレット解析データを作成する。そして、CPU100Aは、作成したウェーブレット解析データをROM100Bに記録させる。その後、CPU100Aは、ステップS18へと移行する。
【0041】
ステップS18において、CPU100Aは、ウェーブレット解析データが作成される元となった試料に含まれるヘモグロビンの種別を、ウェーブレット解析データと対応させた学習用データセットを作成する。そして、CPU100Aは、作成した学習用データセットを、ROM100Bに記録させる。その後、CPU100Aは、ステップS20へと移行する。
【0042】
ステップS20において、CPU100Aは、記録した学習用データセットの個数を確認する。そして、学習用データセットの個数が予め定められた個数よりも少ない場合は、ステップS20において肯定判定し、ステップS12へ移行する。一方、学習用データセットの個数が予め定められた個数に達した場合は、ステップS20において、否定判定し、ステップS22へ移行する。
【0043】
ステップS22において、CPU100Aは、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network)を構築し、ROM100Bに記録された複数の学習用データセットとして入力する。そして、CPU100Aは、畳み込みニューラルネットワークに入力された複数の学習用データセットに基づいて、試料に含まれるヘモグロビンの種別、及び量と、ウェーブレット解析データとの特徴を学習する。その後、CPU100Aは、ステップS24へと移行する。
【0044】
ステップS24において、CPU100Aは、学習済みパラメータを不揮発性メモリ100Dに記録する。その後、CPU100Aは、第一プログラム120Aによる処理を終了する。
【0045】
なお、学習済みパラメータは、サブプログラム(図示せず)と組み合わされる、後述される学習済みモデル120Cの一部分である。言い換えれば、第一プログラム120Aは、学習済みモデル120Cを生成する処理をCPU100Aに実行させる。
【0046】
なお、上述のように、第一プログラム120Aは、標準化データに対してウェーブレット解析を行っている。このように、本実施形態では、第一プログラム120Aを実行するCPU100Aは、周波数解析部の一例であるといえる。
【0047】
続いて、本実施形態に係る学習済みモデルを用いてヘモグロビンの種別が未知の試料(以下、未知試料と称す)に含まれるヘモグロビンの種別の判定手順を、
図1、
図7及び
図8を参照しながら説明する。なお本実施形態に係るヘモグロビンの判別装置であるHPLC装置11では、HPLC装置10の構成のうち制御部100を除く他の構成が、HPLC装置10と同様である。
【0048】
(ヘモグロビンの判別装置の構成)
図7は、本実施形態に係る、ヘモグロビンの判別装置であるHPLC装置11の制御部101の構成図である。なお、ヘモグロビンの判別装置は、ヘモグロビンの分析システムの一例である。
【0049】
ヘモグロビンの判別装置であるHPLC装置11は、上述した学習済みモデル生成装置であるHPLC装置10において、不揮発性メモリ100Dが有するプログラムの構成が異なる。具体的には、ヘモグロビンの判別装置は、不揮発性メモリに、学習済みモデル120Cと、学習済みモデル120Cを用いて血液試料中のヘモグロビンの判別をする第二プログラム120Bが記憶されている。
【0050】
ヘモグロビンの判別装置におけるCPU100Aは、不揮発性メモリ100Dに記憶された各種のプログラムを読み込んで実行する。なお、学習済みモデル120Cは、上述した学習済みモデル生成装置が生成した、学習済みパラメータを含んで構成される。この学習済みモデル120Cは、学習済みモデル生成装置の不揮発性メモリ100Dからどのように転送されてもよいが、一例としてネットワークを介してヘモグロビンの判別装置の不揮発性メモリ100Dに記録される。また、CD-ROM等の記録媒体に第二プログラム120Bが記録され、CPU100Aは、これをCD-ROMドライブ等で読み込むことにより実行するようにしてもよい。
【0051】
なお、制御部101におけるその他の構成は、上述した学習済みモデル生成装置のHPLC装置10の制御部100と同様である。また、以後の説明において、学習済みモデル生成装置のHPLC装置10と、ヘモグロビンの判別装置であるHPLC装置11とを区別しない場合は、HPCL装置10、11と称す。同様に、以後の説明において、HPLC装置10の制御部100と、HPLC装置11の制御部101とを区別しない場合は、制御部100、101と称す。
【0052】
(本実施形態の方法による、ヘモグロビンの種別を判別する手順)
本実施形態のモグロビンの判別装置は、制御部101は、本実施形態に係る各種プログラムを実行することで、試料に含まれるヘモグロビンの種別を判別する。具体的には、CPU100Aは、第二プログラム120Bを読み込んだ場合、それぞれ次に示す処理を実行する。
【0053】
(第二プログラム120BがCPU100Aに実行させる処理)
本実施形態では、第二プログラム120Bは、CPU100Aに
図8に示される処理を実行させる。
【0054】
ステップS42において、CPU100Aは、ROM100Bに記録された学習済みモデル120C(学習済みパラメータ及びサブプログラム)を読み込む。その後、CPU100Aは、ステップS44へと移行する。
【0055】
ステップS44において、CPU100Aは、測光ユニット16が測定した、未知試料の成分に対応する吸光度を、RAM100Cに記憶して、
図4に示されるようなクロマトグラムを作成する。そしてCPU100Aは、作成したクロマトグラムをRAM100Cに記憶させる。その後、CPU100Aは、ステップS46へと移行する。
【0056】
ステップS46において、CPU100Aは、RAM100Cに記憶されたクロマトグラムについて標準化処理を行い、
図5に示されるような標準化データを作成する。そしてCPU100Aは、作成した標準化データをRAM100Cに記憶させる。その後、CPU100Aは、ステップS48へと移行する。
【0057】
ステップS48において、CPU100Aは、RAM100Cに記憶された標準化データについてウェーブレット解析を行い、
図6に示されるようなウェーブレット解析データを作成する。そして、CPU100Aは、作成したウェーブレット解析データをROM100Bに記録させる。その後、CPU100Aは、第二プログラム120Bによる処理を終了する。
【0058】
なお、本実施形態に係るヘモグロビンの判別装置は、さらに次の処理を実行してもよい。
【0059】
例えば、ステップS48において、CPU100Aは、未知試料に含まれるヘモグロビンの種別が判明しなかった場合は、ヘモグロビンの種別が判明しなかったことを表示ユニット26に表示させてもよい。
【0060】
一方、ステップS48において、未知試料に含まれるヘモグロビンの種別が判明した場合は、さらに別の処理を行ってもよい。例えば、CPU100Aは、未知試料のクロマトグラムの対象となるヘモグロビン種別に対応するピークの値から、ヘモグロビン種別毎に未知試料に含まれるヘモグロビンの量を算出し、算出した値を表示ユニット26に表示させてもよい。
【0061】
なお、上述のように、第二プログラム120Bは、それぞれ標準化データに対してウェーブレット解析を行っている。このように、本実施形態では、第二プログラム120Bを実行するCPU100Aは、周波数解析部の一例であるといえる。
【0062】
続いて、本実施形態に係る学習済みモデル120Cの生成方法、ヘモグロビンの種別の判別方法を用いて未知試料に含まれるヘモグロビンの判別を行った結果を、実施例1及び実施例2として説明する。なお、各実施例において「未知試料」とは、学習済みモデル120Cにおける判別の試験に用いる試料であり、実際には試料中に含まれるヘモグロビンの種別が判別されている、学習済みモデル120Cの生成に用いていない試料を指す。
【0063】
なお、各実施例では、アークレイ株式会社製の糖尿病検査装置HA-8180V又は、HA-8190Vを用いた。また、各測定装置において、測定時間については、HA-8180Vでは90秒、HA-8190Vでは24秒と設定した。また、サンプリング周波数については、2048Hz(サンプリング間隔が488.28125マイクロ秒)とした。
【0064】
なお、各実施例では、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC、ヘモグロビンD又は、ヘモグロビンEを含む血液試料及び、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC、ヘモグロビンD及び、ヘモグロビンEが観察されなかった血液試料を用意した。なお、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC、ヘモグロビンD及び、ヘモグロビンEが観察されなかった試料を、以後、「健常者検体」と称す。
【0065】
(実施例1)
実施例1では、測定装置としてHA-8180Vを用いて学習済みモデル120Cの作成及び学習済みモデル120Cを用いた未知試料に含まれるヘモグロビンの種別の判別を行った。
【0066】
本実施例では、学習段階において、
図3に示される手順を用いて、学習を行った。より具体的には、本実施例では、既知試料のクロマトグラムを作成し、作成したクロマトグラムに標準化処理を行ったうえでウェーブレット解析データを作成した。そして、ウェーブレット解析データを含む学習用データセットを作成し、畳み込みニューラルネットワークで学習を行うことで学習済みモデル120Cを作成した。
【0067】
また、本実施例では、未知試料の推定段階において、
図8に示される手順を用いて判別を行った。より具体的には、本実施例では、未知試料のクロマトグラムを作成し、作成したクロマトグラムに標準化処理を行ったうえでウェーブレット解析データを作成した。そして、ウェーブレット解析データについて学習済みモデル120Cに基づいて未知試料に含まれるヘモグロビンの種別を判別した。
【0068】
表1に、本実施例に係る学習に用いた学習データ数(学習用データセットの個数であり、既知試料の個数である)、及び試験データ数(判別の試験に用いた試料の個数であり、未知試料の個数である)、正答数、及び正答率を示す。
【0069】
【0070】
(実施例2)
実施例2では、測定装置としてHA-8190Vを用いて学習済みモデル120Cの作成及び学習済みモデル120Cを用いた未知試料に含まれるヘモグロビンの種別の判別を行った。
【0071】
本実施例では、学習段階において、
図3に示される手順を用いて、学習を行った。より具体的には、本実施例では、既知試料のクロマトグラムを作成し、作成したクロマトグラムに標準化処理を行ったうえでウェーブレット解析データを作成した。そして、ウェーブレット解析データを含む学習用データセットを作成し、畳み込みニューラルネットワークで学習を行うことで学習済みモデルを作成した。
【0072】
また、本実施例では、未知試料の推定段階において、
図8に示される手順を用いて判別を行った。より具体的には、本実施例では、未知試料のクロマトグラムを作成し、作成したクロマトグラムに標準化処理を行ったうえでウェーブレット解析データを作成した。そして、ウェーブレット解析データについて学習済みモデルに基づいて未知試料に含まれるヘモグロビンの種別を判別した。
【0073】
表2に、本実施例に係る学習に用いた学習データ数、及び試験データ数、正答数、及び正答率を示す。
【0074】
【0075】
(まとめ)
上述のように、本実施形態におけるHPLC装置10、11により、次のことが示された。
【0076】
表1及び表2に示されるように、実施例1及び実施例2における学習済みモデルの作成方法、及びヘモグロビンの種別の判別方法を用いて、ヘモグロビンの種別の判別が可能であることが示された。また、この結果より、ウェーブレット解析データを用いて作成された学習済みモデルに基づいて、血液試料中のヘモグロビンの種別を特定する精度が高まったと考えられる。すなわち、本実施形態における学習済みモデルの作成方法、及びヘモグロビンの種別の判別方法により、分離時間が短い場合であっても血液試料中のヘモグロビンの種別を特定できることが示された。
【0077】
(参考例のヘモグロビンの種別を判別する方法)
ところで、未知試料に含まれるヘモグロビンの種別を判別する方法としては、クロマトグラムに現れたピークの形状(クロマトグラムに現れたピーク同士の位置関係)から判別する方法がある。
【0078】
図9(A)は、ヘモグロビンEを含む血液試料について、測定装置としてHA-8180Vを用い、測定時間が200秒となるように流量を設定した条件で取得されたクロマトグラムである。
図9(A)に示されるように、この試料では、ヘモグロビンA0のピークである最も大きなピークの前後に2つのピークが確認された。
【0079】
同様に
図9(B)は、異常ヘモグロビンAを含む血液試料について、測定時間を200秒と設定した条件で取得されたクロマトグラムである。
図9(B)に示されるように、このクロマトグラムによれば、分画された領域として30秒あたりにピークAが現れたものの、
図9(A)と異なりピークBが表れなかった。このことから、この測定条件よれば、ピークAを有する試料についてピークBの有無を観察することにより、ヘモグロビンEと異常ヘモグロビンAとの判別が可能であると考えられる。このように、測定時間を200秒と設定することにより、ヘモグロビンを判別することができるが、この測定時間は、上述の実施例1で設定された時間よりも長い。
【0080】
ここで
図10(A)は、
図9(A)と同じ試料、同じ装置を用いて、実施例1と同様に、測定時間を90秒と設定した条件で取得されたクロマトグラムである。
図10(A)に示されるように、このクロマトグラムによれば、分画された領域として25秒あたりにピークAが現れるものの、ピークBは、表れなかった。
【0081】
また同様に、
図10(B)は、
図9(B)と同じ試料であり、異なる測定装置であるHA-8190Vを用いて、測定時間を90秒と設定した条件で取得されたクロマトグラムである。
図10(B)に示されるように、このクロマトグラムによれば、分画された領域として25秒あたりにピークAが現れるものの、ピークBは、表れなかった。
【0082】
このように、
図9(A)に生じていたピークBは、
図10(A)では分画されないため、測定時間を短くした場合、試料に含まれるヘモグロビンの種別を誤って判別をすることになりやすい。
【0083】
また例えば、
図11(A)は、ヘモグロビンSを含む血液試料について測定時間を90秒と設定した条件で取得されたクロマトグラムである。
図11(A)に示されるように、ヘモグロビンSが含まれる試料では、20秒あたりに現れた最も大きなピーク(ヘモグロビンA0のピークである)の後である28秒あたりにピークCが現れた。
【0084】
一方、
図11(B)は、
図11(A)と同じ試料、同じ装置を用いて、実施例2と同様に、測定時間を24秒と設定した条件で取得されたクロマトグラムである。
図11(B)に示されるように、このクロマトグラムによれば18秒あたりに現れた最も大きなピークの後には、ピークCが現れなかった。
【0085】
このように、同じHPLC装置10、11を用いた場合においても、測定時間を短くした場合、試料に含まれるヘモグロビンの種別を誤って判別をすることになりやすい。
【0086】
一方、本実施形態におけるHPLC装置10、11の一例であるHA-8180Vでは、90秒の測定時間で血液試料中のヘモグロビンの種別を特定できることが示されている。また、本実施形態におけるHPLC装置10、11の一例であるHA-8190Vでは、24秒の測定時間で血液試料中のヘモグロビンの種別を特定できることが示されている。したがって、ウェーブレット解析データを用いて学習済みモデル120Cを作成することにより、血液試料に対する分離処理の分離時間が短い分離データを用いる場合であっても血液試料中のヘモグロビンの種別を特定できることが示された。
【0087】
なお、血液試料に対する分離処理の分離時間が長い場合においても、クロマトグラムのピーク値が明瞭ではなく、クロマトグラムに基づいたヘモグロビンの種別の判別精度が悪くなる場合が考えられる。一方、本実施形態に係る学習済みモデルの生成方法、及びヘモグロビンの種別の判別方法では、血液試料に含まれる成分について周波数解析を行うため、ピークが重複し、クロマトグラムに現れたピークが多少不明瞭であっても、重複したピークを周波数解析結果として分離することを行っている。したがって、本実施形態に係る学習済みモデルの生成方法、及びヘモグロビンの種別の判別方法によれば、ピーク値が明瞭ではないクロマトグラムにおいても、ヘモグロビンの種別の判別制度を向上させる効果が期待できる。
【0088】
なお、上述の実施例1、及び実施例2で実施していないヘモグロビンF、ヘモグロビンA2(HbA2)、及び他の変異ヘモグロビン種についても、本実施形態と同様に、学習済みモデルを生成し、また、ヘモグロビンの種別を判別する方法を適用できる。
【0089】
(その他の実施形態)
なお、上述の説明において、制御部100、101は、HPLC装置10、11に組み込まれているが、これに限られない。例えば、制御部100、101の主要な構成をネットワーク上に配置して、HPLC装置10、11がネットワーク上に配置された構成と通信することにより、制御部100、101として動作させてもよい。また例えば、第一プログラム120A及び第二プログラム120Bは、ネットワーク上に配置されたサーバからHPLC装置10の制御部100、101が適宜ダウンロードすることにより取得してもよい。また例えば、ネットワーク上に配置されたサーバとHPLC装置10、11とが通信し、クロマトグラムをHPLC装置10、11がサーバに送信した後、周波数解析データをサーバがHPLC装置10、11に送信することにより、周波数解析部として動作させてもよい。
【0090】
また、上述の第一プログラム120A、第二プログラム120B、及び学習済みモデル120Cは、制御部100、101が実行していたが、これに限らず、ネットワーク上に配置されたサーバが実行してもよい。例えば、HPLC装置10、11は、未知試料のクロマトグラムをネットワーク上に配置されたサーバに送信し、サーバから未知試料に含まれるヘモグロビンの量を受信する構成としてもよい。これらのいずれの構成も、本実施形態におけるヘモグロビンの分析システムに含まれる。
【0091】
また、本開示に係るヘモグロビンの種別の判別方法では、本開示に係るヘモグロビンの種別の判別方法では、学習済みモデル120Cが用意されるならば、学習済みモデル120Cを用意する方法については限定されない。言い換えれば、学習済みモデル120Cが用意されるならば、クロマトグラムを作成する機器、周波数解析を行う機器、学習済みモデル120Cを生成する機器、及び判別を行う機器については、限定されない。
【0092】
より具体的には、クロマトグラムを作成する機器は、血液試料からクロマトグラムを作成する機能のみを有する、HPCL装置10、11とは別個の装置とされていてもよい。また、周波数解析を行う機器は、クロマトグラムからウェーブレット解析のみを行う機能のみを有する、HPCL装置10、11とは別個の装置とされていてもよい。また、上述の説明においては、学習モデル生成装置が学習済みモデル120Cを生成し、ヘモグロビンの判別装置が学習済みモデル120Cに基づいてヘモグロビンの種別を判別していたが、これらの機器は、同一の機器とされていてもよい。また、これらの機器は、いずれも同じHPLC装置10、11に組み込まれていてもよく、一部の機器が共通の装置に組み込まれていてもよくまた、それぞれが別個の装置とされていてもよい。このため、本実施形態による技術によれば、HPLC装置11の機種毎に作成された学習済みモデル120Cが用意されていれば、それぞれ個別のHPLC装置10において学習済みモデル120Cの作成を行わなくてもよい。
【0093】
また、上述の説明では、制御部100、101が各種プログラムを実行することにより、実施形態に係る処理がソフトウェア構成により実現される場合について説明したが、これに限られない。例えば、ハードウェア構成や、ハードウェア構成とソフトウェア構成との組み合わせにより、上記の実施形態に係る処理を実行してもよい。
【0094】
なお、上述の説明では、周波数解析データとして、ウェーブレット解析データが用いていたが、本開示に係る技術は、これに限定されない。
【0095】
例えば、周波数解析において、ウェーブレット解析に代えて、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)を行うことにより、
図12(A)に示されるような、振幅のデータ、又は、
図12(B)に示されるようなパワースペクトルのデータを用いてもよい。また、ウェーブレット解析に代えて、短時間フーリエ変換(Short-Time Fourier Transform)を行ったデータを用いてもよい。
【0096】
また、上述の説明では、学習用データセットには、既知試料のヘモグロビンの濃度及びウェーブレット解析データが用いられていたが、これに限らず、クロマトグラムを学習用データセットに含めてもよい。この場合、判別手順において、未知試料のクロマトグラムが学習済みモデル120Cへの入力データに含まれる。
【0097】
また、上述の説明では、ヘモグロビンの分析システムの一例としてHPLC装置10、11が用いられていたが、本開示に係る技術は、これに限定されない。すなわち、既知試料及び未知試料のクロマトグラムが得られるならば、HPLC装置10、11に限らず、電気泳動分析装置を用いてもよい。電気泳動分析装置では、作成されるフェログラムに基づき、標準化処理を任意で行い、ウェーブレット解析を行い、ウェーブレット解析データを作成することができる。本開示における技術によれば、この場合においても、学習済みモデル120Cの生成及びヘモグロビンの種別の判別をすることができる。
【0098】
また、上述の説明では、学習済みモデル120C生成方法では、畳み込みニューラルネットワークを構築したうえで、学習済みモデル120Cを生成していたが、本開示に係る技術は、これに限定されない。すなわち、学習済みモデル120Cが得られるならば、例えばリカレントニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network)を構築し、学習してもよい。この場合においても、学習済みモデル120Cの生成をすることができる。
【0099】
なお、以下に本開示の好ましい態様を更に示す。
【0100】
(付記1)
ヘモグロビンの種別が既知である学習用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して生成された学習用周波数解析データと前記既知のヘモグロビンの種別とを含むデータセットを、機械学習の学習用データセットとして用いることにより生成された学習済みモデルを用意し、
ヘモグロビンの種別が未知である検査用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して検査用周波数解析データを用意し、
前記検査用周波数解析データを学習済みモデルに入力することにより前記検査用血液試料に含まれるヘモグロビンの種別を判別する、
ヘモグロビンの種別の判別方法。
【0101】
(付記2)
前記学習用周波数解析データ用の前記分離データ及び前記検査用周波数解析データ用の前記分離データは、クロマトグラムである、
付記1に記載の、ヘモグロビンの種別の判別方法。
【0102】
(付記3)
前記学習用周波数解析データ及び前記検査用周波数解析データは、それぞれ標準化処理が行われた、前記学習用周波数解析データ用の前記分離データ及び前記検査用周波数解析データ用の前記分離データを、周波数解析して生成されている、
付記1又は付記2に記載の、ヘモグロビンの種別の判別方法。
【0103】
(付記4)
前記学習用周波数解析データ及び前記検査用周波数解析データは、ウェーブレット解析して生成されている、
付記1から付記3のいずれか一項に記載の、ヘモグロビンの種別の判別方法。
【0104】
(付記5)
前記機械学習は、畳み込みニューラルネットワークを含む、
付記1から付記4のいずれか一項に記載の、ヘモグロビンの種別の判別方法。
【0105】
(付記6)
前記ヘモグロビンは、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC、ヘモグロビンD又は、ヘモグロビンEである、
付記1から付記5のいずれか一項に記載の、ヘモグロビンの種別の判別方法。
【0106】
(付記7)
ヘモグロビンの種別が既知である学習用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して生成された学習用周波数解析データと前記既知のヘモグロビンの種別とを含むデータセットを、機械学習の学習用データセットとして用いることにより学習済みパラメータを生成する、
学習済みモデルの生成方法。
【0107】
(付記8)
前記分離データは、クロマトグラムである、
付記7に記載の、学習済みモデルの生成方法。
【0108】
(付記9)
前記学習用周波数解析データを生成する周波数解析は、標準化処理が行われた分離データに対して行われる、
付記7又は付記8に記載の、学習済みモデルの生成方法。
【0109】
(付記10)
前記学習用周波数解析データを生成する周波数解析は、ウェーブレット解析である、
付記7から付記9のいずれか一項に記載の、学習済みモデルの生成方法。
【0110】
(付記11)
前記機械学習は、畳み込みニューラルネットワークを含む、
付記7から付記10のいずれか一項に記載の、学習済みモデルの生成方法。
【0111】
(付記12)
前記ヘモグロビンは、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC、ヘモグロビンD又は、ヘモグロビンEである、
付記7から付記11のいずれか一項に記載の、学習済みモデルの生成方法。
【0112】
(付記13)
血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して生成された周波数解析データが入力されると、前記周波数解析データから該血液試料に含まれるヘモグロビンの種別を出力する学習済みモデルであって、
前記学習済みモデルは、ヘモグロビンの種別が既知である学習用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して生成された学習用周波数解析データを含む学習用データ及び前記既知のヘモグロビンの種別を、機械学習の学習用データセットとして用いることにより生成される、
学習済みモデル。
【0113】
(付記14)
ヘモグロビンの種別が未知である検査用血液試料に対して分離処理を行い、検査用分離データを生成する分離部と、
前記検査用分離データに対して周波数解析を行い、検査用周波数解析データを生成する周波数解析部と、
前記検査用周波数解析データにより測定された、付記13に記載の学習済みモデルにより前記検査用血液試料に含まれるヘモグロビンの種別を判別する判別部と、
前記判別部により判別されたヘモグロビンの種別毎の前記検査用血液試料に含まれる量を出力する出力部と、
を備えた、ヘモグロビンの分析システム。
【0114】
(付記15)
ヘモグロビンの種別が既知である学習用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して生成された学習用周波数解析データを含む学習用データ及び前記既知のヘモグロビンの種別を、機械学習の学習用データセットとして用いることにより生成された学習済みモデルを入力させ、
ヘモグロビンの種別が未知である検査用血液試料に対する分離処理により生成された分離データを周波数解析して生成された検査用周波数解析データを入力させ、
学習済みモデルに基づいて前記検査用血液試料に含まれるヘモグロビンの種別を出力させる、
処理をコンピュータに実行させる、プログラム。
【符号の説明】
【0115】
10 HPLC装置
11 HPLC装置
12 試料調製ユニット
12N ノズル
16 測光ユニット
18 採血管
20 血液試料
22 溶離液ボトル
24 希釈槽
26 表示ユニット
58 分析ユニット
60 分析カラム
61 マニホールド
62 送液ポンプ
63 インジェクションバルブ
64 インジェクションループ
80 配管
83 配管
84 配管
85 配管
86 配管
87 配管
88 廃液槽
100 制御部
100A CPU
100B ROM
100C RAM
100D 不揮発性メモリ
100E 入出力インターフェース
100F バス
101 制御部
【手続補正書】
【提出日】2024-04-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0057
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0057】
ステップS48において、CPU100Aは、RAM100Cに記憶された標準化データについてウェーブレット解析を行い、
図6に示されるようなウェーブレット解析データを作成する。そして、CPU100Aは、作成したウェーブレット解析データをROM100Bに記録させる。
その後、CPU100Aは、ステップ50へと移行する。ステップS50において、CPU100Aは、ROM100Bに記録されたウェーブレット解析データを学習済みモデル120Cに入力し、未知試料に含まれるヘモグロビンの種別を出力する。その後、CPU100Aは、第二プログラム120Bによる処理を終了する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0059
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0059】
例えば、ステップS50において、CPU100Aは、未知試料に含まれるヘモグロビンの種別が判明しなかった場合は、ヘモグロビンの種別が判明しなかったことを表示ユニット26に表示させてもよい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0060
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0060】
一方、ステップS50において、未知試料に含まれるヘモグロビンの種別が判明した場合は、さらに別の処理を行ってもよい。例えば、CPU100Aは、未知試料のクロマトグラムの対象となるヘモグロビン種別に対応するピークの値から、ヘモグロビン種別毎に未知試料に含まれるヘモグロビンの量を算出し、算出した値を表示ユニット26に表示させてもよい。