(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025066391
(43)【公開日】2025-04-23
(54)【発明の名称】含窒素スピロ環化合物の製法及びその化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 491/107 20060101AFI20250416BHJP
【FI】
C07D491/107 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023175935
(22)【出願日】2023-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】大澤 歩
(72)【発明者】
【氏名】中尾 佳亮
【テーマコード(参考)】
4C050
【Fターム(参考)】
4C050AA04
4C050BB04
4C050CC16
4C050EE01
4C050FF03
4C050FF05
4C050FF10
4C050GG01
4C050HH01
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題の一つは、短工程で効率的に含窒素スピロ環化合物を合成する方法を提供することである。
【解決手段】環状ケトン化合物とニトロアルキルアミンとのニトロマンニッヒ反応により短工程で含窒素スピロ環化合物を製造する方法及びその化合物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]:
【化1】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、及びR
4はそれぞれ独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、OR
5、SH、C(=O)-R
6、CO
2R
6、CONR
7R
8、C
1-6アルキル、ヒドロキシC
1-6アルキル、C
1-6アルキル-C(=O)-R
6、C
1-6アルキル-CO
2R
6、C
1-6アルキル-NR
7R
8、C
1-6アルキル-S-C
1-6アルキル、C
1-6アルキル-C(=O)-NR
7R
8、C
1-6アルキル-NR
6-CH-(NR
7R
8)
2、C
6-10アリール、C
6-10アリール-OR
6、又は脂肪族若しくは芳香族の5から10員含窒素ヘテロ環基であり、
R
5は、複数ある場合にはそれぞれ独立して、ヒドロキシの保護基であり、
R
6、R
7、R
8、及びR
Xはそれぞれ独立して、水素又はC
1-6アルキルであり、
環AはC
1-6アルキル、ヒドロキシC
1-6アルキル、及びC
1-6アルキル-OR
5からなる群から選択される少なくとも1つの基で適宜置換されていてもよい、脂肪族の4から7員炭素環又はヘテロ環であり、環Aがヘテロ環である場合、窒素、酸素、及び硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む]
で示される化合物又はその塩を製造する方法であって、式[II]:
【化2】
[式中、環Aは上記のとおりである]
で示される、オキソで置換された環状化合物又はその塩と式[IIIa]、[IIIb]、又は[IIIc]:
【化3】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、R
4、及びR
Xは上記のとおりである]
で示される化合物又はその塩とを反応させて、式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]で示される化合物又はその塩を得ることを含む、方法。
【請求項2】
さらに式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]で示される化合物又はその塩を酸化して、式[IVa]、[IVb]、又は[IVc]:
【化4】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、R
4、R
X、及び環Aは請求項1に記載のとおりであり、結合:
【化5】
は単結合又は二重結合であり、
但し、前記結合が二重結合である場合、R
1’は存在しない]
で示される化合物又はその塩を得ることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式[II]で示される化合物又はその塩と式[IIIa]、[IIIb]、又は[IIIc]で示される化合物又はその塩との反応が脱水剤存在下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
R2がC(=O)-R6、CO2R6、又はC1-6アルキル-C(=O)-R6である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
環AがヒドロキシC1-6アルキル又はC1-6アルキル-OR5で適宜置換されていてもよい、脂肪族の4から7員ヘテロ環である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
環AがヒドロキシC1-6アルキル又はC1-6アルキル-OR5で置換された、脂肪族の5から6員含酸素ヘテロ環である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
環AがヒドロキシC1-6アルキル又はC1-6アルキル-OR5で置換されたテトラヒドロフランである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
R1がC6-10アリール、C6-10アリール-OR6、又は芳香族の5から10員含窒素ヘテロ環基である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
R1がフェニル、ヒドロキシフェニル、イミダゾリル、又はインドリルである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
R1がフェニル又はイミダゾリルである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
RXが水素である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記結合が二重結合である、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
式[Ia]で示される化合物又はその塩を製造する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]:
【化6】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、R
4、R
X、及び環Aは請求項1に記載のとおりである]
で示される化合物又はその塩。
【請求項15】
式[IVa]、[IVb]、又は[IVc]:
【化7】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、R
4、R
X、環A、及び結合:
【化8】
は請求項1又は2に記載のとおりである]
で示される化合物又はその塩
[但し、ツベリンジンA及びBを除く]。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含窒素スピロ環化合物の製造方法及びその化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
生理活性物質として含窒素スピロ環構造を有する化合物が種々知られている。例えば、このようなスピロ環化合物の1つであるツベリンジンはトリュフ由来の天然化合物であり、アデノシン三リン酸(ATP)結合カセットトランスポーターG2(ABCG2)及び有機アニオントランスポーター1(OAT1)の発現量を上昇させることが知られており、高尿酸血症及び痛風の改善に寄与しうる(非特許文献1)。
【0003】
含窒素スピロ環化合物の化学合成は一般に、多くの工程を含む複雑な反応経路を介する(特許文献1、非特許文献2)。このような複雑な合成経路を簡便にする、効率的かつ短工程で実現可能な新たな合成法の開発が求められている。
【0004】
複雑な構造を有する化合物を少ない工程で合成することができる有機合成反応としてマンニッヒ反応が知られている。マンニッヒ反応は第1級又は第2級アミン化合物、カルボニル化合物(例えばアルデヒド等)、及びα水素を有するカルボニル化合物の反応であり、イミニウムイオンを経由して起こる縮合反応である。α水素を有するカルボニル化合物に代えて、α水素を有するニトロ化合物を用いたニトロマンニッヒ反応も知られている(非特許文献3,4)。しかしながら、これらの反応を含窒素スピロ環化合物の合成に応用した例は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/51407A1号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Lan-Qin Zhaoら、Organic Letters 2022, 24, 4333-4337
【非特許文献2】Guiqing Xuら、Russian Journal of Organic Chemistry, 2020, Vol. 56, No. 10, pp. 1775-1778
【非特許文献3】James C. Andersonら、Tetrahedron Letters 53 (2012) 5707-5710
【非特許文献4】Wannaporn Disadeeら、Organic & Biomolecular Chemistry, 2018, 16, 707-711
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題の一つは、短工程で効率的に含窒素スピロ環化合物を合成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
環状ケトン化合物とニトロアルキルアミンとのニトロマンニッヒ反応により短工程で含窒素スピロ環化合物を製造する方法及びその化合物が提供される。
【0009】
ある態様において、式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]:
【化1】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、及びR
4はそれぞれ独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、OR
5、SH、C(=O)-R
6、CO
2R
6、CONR
7R
8、C
1-6アルキル、ヒドロキシC
1-6アルキル、C
1-6アルキル-C(=O)-R
6、C
1-6アルキル-CO
2R
6、C
1-6アルキル-NR
7R
8、C
1-6アルキル-S-C
1-6アルキル、C
1-6アルキル-C(=O)-NR
7R
8、C
1-6アルキル-NR
6-CH-(NR
7R
8)
2、C
6-10アリール、C
6-10アリール-OR
6、又は脂肪族若しくは芳香族の5から10員含窒素ヘテロ環基であり、
R
5は、複数ある場合にはそれぞれ独立して、ヒドロキシの保護基であり、
R
6、R
7、R
8、及びR
Xはそれぞれ独立して、水素又はC
1-6アルキルであり、
環AはC
1-6アルキル、ヒドロキシC
1-6アルキル、及びC
1-6アルキル-OR
5からなる群から選択される少なくとも1つの基で適宜置換されていてもよい、脂肪族の4から7員炭素環又はヘテロ環であり、環Aがヘテロ環である場合、窒素、酸素、及び硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む]
で示される化合物又はその塩を製造する方法であって、式[II]:
【化2】
[式中、環Aは上記のとおりである]
で示される、オキソで置換された環状化合物又はその塩と式[IIIa]、[IIIb]、又は[IIIc]:
【化3】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、R
4、及びR
Xは上記のとおりである]
で示される化合物又はその塩とを反応させて、式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]で示される化合物又はその塩を得ることを含む、方法が提供される。
【0010】
別の態様において、式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]:
【化4】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、R
4、R
X、及び環Aは本明細書に記載のとおりである]
で示される化合物又はその塩が提供される。
【0011】
さらに別の態様において、式[IVa]、[IVb]、又は[IVc]:
【化5】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、R
4、R
X、環A、及び結合:
【化6】
は本明細書に記載のとおりである]
で示される化合物又はその塩
[但し、ツベリンジンA及びBを除く]
が提供される。
【0012】
さらに別の態様において、式[IVa’]、[IVb’]、又は[IVc’]:
【化7】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、R
4、R
X、及び環Aは本明細書に記載のとおりである]
で示される化合物又はその塩が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明はいくつかの態様において、以下の少なくとも1つの利点を有していてもよい。
(1)含窒素スピロ環化合物を短工程、好ましくは1工程で形成させることができる。
(2)スピロ環形成反応を穏やかな条件で行うことができる。ある態様において、室温及び/又は無溶媒で行うことができる。別の態様において、触媒非存在下で行うことができる。
(3)スピロ環形成前に環状ケトン化合物及びニトロアルキルアミンのそれぞれの構造改変を別個かつ容易に行うことができるため、広範な含窒素スピロ環化合物を効率的かつ簡便に製造することができる。
(4)ニトロマンニッヒ反応を経由することにより含窒素スピロ環化合物の立体配置を制御しやすい。
(5)ニトロ基を有する含窒素スピロ環化合物をさらに改変して種々のスピロ環化合物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、ハロゲンとしては、例えばフッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が挙げられる。好ましくは塩素又は臭素である。
【0015】
本明細書において、C1-6アルキルとは、炭素数1から6の直鎖状又は分岐鎖状の飽和炭化水素基を意味する。C1-6アルキルとしては、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、2-メチルブチル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、1-エチルプロピル、n-ヘキシル、イソヘキシル、1,1-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、及び3-エチルブチルが挙げられる。好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、又はtert-ブチルであるC1-4アルキルである。より好ましくはメチル又はエチルである。
【0016】
本明細書において、C6-10アリールとは、炭素数6から10の芳香族炭化水素基を意味する。C6-10アリールとしては、例えばフェニル、1-ナフチル、及び2-ナフチルが挙げられる。好ましくはフェニルである。
【0017】
本明細書において、脂肪族又は芳香族の5から10員含窒素ヘテロ環基とは、少なくとも1つの窒素原子を含有する、単環式又は二環式の、脂肪族又は芳香族の5から10員ヘテロ環式基を意味する。脂肪族の5から10員含窒素ヘテロ環基としては、例えばピロリジニル、イミダゾリニル、ピペリジニル、アゼパニル、アゾカニル、アゾナニル、モルホリニル、及びチアジニルが挙げられる。芳香族の5から10員含窒素ヘテロ環基としては、例えばピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、アゼピニル、アゾシニル、アゾニル、インドリル、イソインドリル、ベンゾイミダゾリル、プリニル、ベンゾトリアゾリル、キノリル、イソキノリル、キナゾリニル、キノキサリニル、シンノリニル、プテリジニル、オキサゾリル、及びチアゾリルが挙げられる。好ましくは芳香族の5から9員含窒素ヘテロ環基であり、例えばピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、インドリル、及びイソインドリルが挙げられる。より好ましくはイミダゾリル又はインドリルである。
【0018】
本明細書において、ヒドロキシの保護基は、当分野で通常用いられる保護基であれば特に制限されないが、例えばベンジル、p-メトキシフェニルベンジル、メトキシメチル、アセチル、ベンゾイル、トリチル、及びアルキルシリル(例えばトリメチルシリル、トリエチルシリル、tert-ブチルジメチルシリル、トリイソプロピルシリル、tert-ブチルジフェニルシリル)が挙げられる。好ましくはアルキルシリルである。
【0019】
本明細書において、脂肪族の4から7員炭素環とは、炭素数4から7の単環式の飽和又は部分不飽和炭化水素環を意味する。脂肪族の4から7員炭素環としては、例えばシクロブタン、シクロブテン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘプタン、及びシクロへプテンが挙げられる。好ましくは4から7員単環式の飽和炭化水素環である。
【0020】
本明細書において、脂肪族の4から7員ヘテロ環とは、窒素、酸素、及び硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含有する、4から7員単環式の飽和又は部分不飽和ヘテロ環を意味する。脂肪族の4から7員ヘテロ環としては、例えばアゼチジン、オキセタン、チエタン、ジアゼチジン、ジオキセタン、ジチエタン、ピロリジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、イミダゾリジン、イミダゾリン、ピラゾリジン、オキサゾリジン、イソキサゾリジン、チアゾリジン、イソチアゾリジン、ジオキソラン、ジチオラン、ピペリジン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオピラン、ジアザシクロヘキサン、ピペラジン、モルホリン、テトラヒドロオキサジン、チオモルホリン、ジオキサン、アゼパン、オキセパン、ジアゼパン、オキサゼパン、ジオキセパン、及びチアゼパンが挙げられる。好ましくは4から7員単環式の飽和ヘテロ環である。より好ましくは脂肪族の5から6員含酸素ヘテロ環であり、例えばテトラヒドロフラン、ジオキソラン、テトラヒドロピラン、及びジオキサンが挙げられる。さらに好ましくはテトラヒドロフランである。
【0021】
本明細書において、化合物の塩は、当該化合物と形成される塩であれば特に制限されない。塩としては、例えば無機酸との塩、有機酸との塩、無機塩基との塩、及び有機塩基との塩が挙げられる。
【0022】
本明細書において、脱水剤とは、スピロ環形成反応である、環状ケトン化合物とニトロアルキルアミンとの反応において用いられる試薬を意味する。脱水剤は、マンニッヒ反応のような脱水縮合反応に用いられる脱水剤であれば特に制限されないが、例えば硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カリウム、塩化カルシウム、酸化カルシウム、乾燥剤(例えばモレキュラーシーブ、シリカゲル、アルミナ)が挙げられる。好ましくは乾燥剤である。より好ましくはモレキュラーシーブである。
【0023】
本明細書において、室温とは、制御されていない環境温度を意味し、例えば0℃から40℃が挙げられる。反応温度は、特に明記されない限り、記載された温度±5℃を含む。
【0024】
本明細書において、ツベリンジンとしては、ツベリンジンA及びBが挙げられる。
【化8】
【0025】
いくつかの態様において、R1はC6-10アリール、C6-10アリール-OH、又は芳香族の5若しくは9員単環式若しくは二環式の含窒素ヘテロ環基である。
【0026】
いくつかの態様において、R2はCO2R6である。
【0027】
いくつかの態様において、R3は水素である。
【0028】
いくつかの態様において、RXは水素又はC1-4アルキルである。
【0029】
いくつかの態様において、式[Ib]で示される化合物又はその塩を製造する方法が提供される。
【0030】
別の態様において、式[Ic]で示される化合物又はその塩を製造する方法が提供される。
【0031】
いくつかの態様において、R1’が水素である、式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]で示される化合物又はその塩が提供される。
【0032】
別の態様において、R1’が水素であり、R2がCO2R6である、式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]で示される化合物又はその塩が提供される。
【0033】
さらに別の態様において、R1’が水素であり、R2がCO2R6であり、環AがヒドロキシC1-6アルキル又はC1-6アルキル-OR5で置換された、脂肪族の5から6員含酸素ヘテロ環である、式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]で示される化合物又はその塩が提供される。
【0034】
いくつかの態様において、式[IVa]で示される化合物又はその塩が提供される。
【0035】
別の態様において、式[IVa]で示される化合物がツベリンジンA若しくはB、又は以下の式:
【化9】
で示される化合物である、式[IVa]で示される化合物又はその塩を製造する方法が提供される。
【0036】
製造方法
式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]の化合物を製造する方法を以下に例示する。各工程で得られる化合物は、適宜、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の当分野で通常用いられる公知の方法により単離及び精製してもよく、あるいは、単離又は精製せず次の工程に進んでもよい。
【0037】
製造方法1A
【化10】
[式中、各記号は本明細書に記載のとおりである]
【0038】
式[II]で示される化合物又はその塩を式[IIIa]で示される化合物又はその塩と触媒の存在下又は非存在下にて反応させて、式[Ia]で示される化合物又はその塩を得ることができる。本工程は好ましくはニトロマンニッヒ反応により進行してもよく、式[II]の化合物のカルボニル炭素が式[IIIa]の化合物のアミノ基と反応し、脱水を経てイミニウムイオンが形成され、次いで反応系中でニトロ基のα炭素に生成されるカルバニオンの、当該イミニウムイオンに対する分子内付加反応を経て式[Ia]のスピロ環化合物が形成されてもよい。本工程で用いうる触媒としては、例えば酢酸、トリフルオロ酢酸、硫酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、イオン交換樹脂(例えばDowex(登録商標))、及び酢酸アンモニウムが挙げられる。好ましくは触媒非存在下で反応が進行してもよい。
本工程は脱水剤存在下で行われてもよい。脱水剤としては、例えば硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カリウム、塩化カルシウム、酸化カルシウム、及び乾燥剤(例えばモレキュラーシーブ、シリカゲル、アルミナ)が挙げられる。好ましくは乾燥剤である。より好ましくはモレキュラーシーブである。さらに好ましくはモレキュラーシーブ3A、4A、又は5Aである。
本工程は当分野で通常用いられる溶媒中又は無溶媒にて行われてもよい。溶媒としては、例えばジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、ベンゼン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール、及びエタノールが挙げられる。
本工程の反応温度は例えば室温であってよい。
得られた式[Ia]で示される化合物又はその塩を精製せずに次の工程に用いてもよい。
【0039】
製造方法1B
【化11】
[式中、各記号は本明細書に記載のとおりである]
【0040】
製造方法1Aと同様の手順に従い、式[II]で示される化合物又はその塩を式[IIIb]で示される化合物又はその塩と反応させて、式[Ib]で示される化合物又はその塩を得ることができる。
【0041】
製造方法1C
【化12】
[式中、各記号は本明細書に記載のとおりである]
【0042】
製造方法1Aと同様の手順に従い、式[II]で示される化合物又はその塩を式[IIIc]で示される化合物又はその塩と反応させて、式[Ic]で示される化合物又はその塩を得ることができる。
【0043】
製造方法2
【化13】
[式中、各記号は本明細書に記載のとおりである]
製造方法1A、1B、及び1Cで得られた式[Ia]、[Ib]、及び[Ic]で示される化合物又はその塩をそれぞれ、塩基存在下での酸化反応(例えばネフ反応)により式[IVa]、[IVb]、及び[IVc]で示される化合物又はその塩を得ることができる。すなわち、式[Ia]、[Ib]、及び[Ic]で示される化合物又はその塩をそれぞれ製造中間体として、式[IVa]、[IVb]、及び[IVc]で示される化合物又はその塩を製造してもよい。本工程では式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]の化合物のニトロ基のα水素が塩基により脱プロトン化されて生成するカルバニオンが酸化剤によりカルボニル基に変換され、式[IVa]、[IVb]、又は[IVc]の化合物を得てもよい。式[IVa]、[IVb]、及び[IVc]の化合物の結合:
【化14】
は本工程の反応により二重結合に変換されてもよい。
本工程で用いられる塩基としては、例えばナトリウムアルコキシド(例えばナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、及びナトリウムtert-ブトキシド)、カリウムアルコキシド(例えばカリウムメトキシド、カリウムエトキシド、及びカリウムtert-ブトキシド)、水素化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ナトリウムヘキサメチルジシラジド、炭酸カリウム、リン酸カリウム、カリウムへキサメチルジシラジド、リチウムへキサメチルジシラジド、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム、炭酸セシウム、トリエチルアミン、及びジアザビシクロウンデセンが挙げられる。
本工程は酸化剤存在下で行われてもよい。酸化剤としては、例えば酸素、過酸化水素、tert-ブチルヒドロペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、次亜塩素酸ナトリウム、硝酸セリウムアンモニウム、硫酸セリウムアンモニウム、ジクロロジシアノキノン、酢酸銅(II)、臭化銅(II)、塩化銅(II)、酸化銀(I)、及び酢酸銀(I)が挙げられる。
本工程は当分野で通常用いられる溶媒中にて行われてもよい。溶媒としては、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、酢酸エチル、メタノール、及びエタノールが挙げられる。
本工程の反応温度は例えば室温であってよい。
【0044】
本製造方法の別法として、式[Ia]、[Ib]、及び[Ic]で示される化合物を還元反応によりニトロ基をオキシムに変換した後、加水分解することにより式[IVa]、[IVb]、及び[IVc]で示される化合物又はその塩を得てもよい。
【0045】
製造方法2’
【化15】
[式中、各記号は本明細書に記載のとおりである]
製造方法1A、1B、及び1Cで得られた式[Ia]、[Ib]、及び[Ic]で示される化合物又はその塩をそれぞれ、還元反応により反応させて式[IVa’]、[IVb’]、及び[IVc’]で示される化合物又はその塩を得ることができる。当該還元反応は、触媒及び酸の存在下、行われてもよい。触媒としては、例えば亜鉛、鉄、ニッケル、及びパラジウムが挙げられる。酸としては、例えば塩酸及び酢酸が挙げられる。本工程の反応温度は例えば室温であってよい。
【0046】
製造方法3
製造方法2又は2’で得られた式[IVa]、[IVb]、[IVc]、[IVa’]、[IVb’]、又は[IVc’]の化合物又はその塩は、その置換基にヒドロキシの保護基R5を有する場合、さらに脱保護反応を受けてもよい。脱保護反応は、塩基存在下、溶媒中で行われてもよい。塩基としては、例えばフッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、及びフッ化ナトリウムが挙げられる。溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、及び水が挙げられる。
【0047】
製造方法4
式[II]で示される化合物又はその塩は、市販されている化合物であってもよく、また、これを公知の方法に従い反応させて得ることができる。例えば環Aが脂肪族の4から7員炭素環又はヘテロ環(例えばテトラヒドロフラン環)である式[II]で示される化合物又はその塩は、環構造(例えばテトラヒドロフラン環)の任意の位置にヒドロキシ基を導入して塩基存在下、酸化反応により得ることができる。
【0048】
製造方法5
式[IIIa]、[IIIb]、又は[IIIc]の化合物又はその塩は、市販されている化合物であってもよく、また、これを公知の方法に従い反応させて得ることができる。例えば式[IIIa]の化合物又はその塩は、以下の反応に従い製造してもよい。
【化16】
[式中、R’及びR’’は、それぞれ独立して水素、C
1-6アルキル、又はフェニルであり、あるいは、R’及びR’’はこれらが結合する炭素及びそのα窒素と一緒になって、フルオレニリデン基を形成してもよく、その他の記号は本明細書に記載のとおりである]
式[Va]の化合物と式[VIa]の化合物を例えばマイケル付加反応させて、式[VIIa]の化合物を得、次いで酸存在下にて反応させて式[IIIa]の化合物を得ることができる。酸としては、例えば塩酸が挙げられる。溶媒としては、例えばテトラヒドロフランが挙げられる。いずれの工程の反応温度も例えば室温であってよい。
【0049】
本発明のいくつかの具体的態様を以下に例示する。
項1. 式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]:
【化17】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、及びR
4はそれぞれ独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、OR
5、SH、C(=O)-R
6、CO
2R
6、CONR
7R
8、C
1-6アルキル、ヒドロキシC
1-6アルキル、C
1-6アルキル-C(=O)-R
6、C
1-6アルキル-CO
2R
6、C
1-6アルキル-NR
7R
8、C
1-6アルキル-S-C
1-6アルキル、C
1-6アルキル-C(=O)-NR
7R
8、C
1-6アルキル-NR
6-CH-(NR
7R
8)
2、C
6-10アリール、C
6-10アリール-OR
6、又は脂肪族若しくは芳香族の5から10員含窒素ヘテロ環基であり、
R
5は、複数ある場合にはそれぞれ独立して、ヒドロキシの保護基であり、
R
6、R
7、R
8、及びR
Xはそれぞれ独立して、水素又はC
1-6アルキルであり、
環AはC
1-6アルキル、ヒドロキシC
1-6アルキル、及びC
1-6アルキル-OR
5からなる群から選択される少なくとも1つの基で適宜置換されていてもよい、脂肪族の4から7員炭素環又はヘテロ環であり、環Aがヘテロ環である場合、窒素、酸素、及び硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む]
で示される化合物又はその塩を製造する方法であって、式[II]:
【化18】
[式中、環Aは上記のとおりである]
で示される、オキソで置換された環状化合物又はその塩と式[IIIa]、[IIIb]、又は[IIIc]:
【化19】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、R
4、及びR
Xは上記のとおりである]
で示される化合物又はその塩とを反応させて、式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]で示される化合物又はその塩を得ることを含む、方法。
【0050】
項2. さらに式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]で示される化合物又はその塩を酸化して、式[IVa]、[IVb]、又は[IVc]:
【化20】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、R
4、R
X、及び環Aは項1に記載のとおりであり、結合:
【化21】
は単結合又は二重結合であり、
但し、前記結合が二重結合である場合、R
1’は存在しない]
で示される化合物又はその塩を得ることを含む、項1に記載の方法。
【0051】
項2’. さらに式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]で示される化合物又はその塩を還元して、式[IVa’]、[IVb’]、又は[IVc’]:
【化22】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、R
4、R
X、及び環Aは項1に記載のとおりである]
で示される化合物又はその塩を得ることを含む、項1に記載の方法。
【0052】
項3. 式[II]で示される化合物又はその塩と式[IIIa]、[IIIb]、又は[IIIc]で示される化合物又はその塩との反応が脱水剤存在下で行われる、項1、2、又は2’に記載の方法。
【0053】
項4. R2がC(=O)-R6、CO2R6、又はC1-6アルキル-C(=O)-R6である、項1から3及び2’のいずれか一項に記載の方法。
【0054】
項5. 環AがヒドロキシC1-6アルキル又はC1-6アルキル-OR5で適宜置換されていてもよい、脂肪族の4から7員ヘテロ環である、項1から4及び2’のいずれか一項に記載の方法。
【0055】
項6. 環AがヒドロキシC1-6アルキル又はC1-6アルキル-OR5で置換された、脂肪族の5から6員含酸素ヘテロ環である、項1から5及び2’のいずれか一項に記載の方法。
【0056】
項7. 環AがヒドロキシC1-6アルキル又はC1-6アルキル-OR5で置換されたテトラヒドロフランである、項1から6及び2’のいずれか一項に記載の方法。
【0057】
項8. R1がC6-10アリール、C6-10アリール-OR6、又は芳香族の5から10員含窒素ヘテロ環基である、項1から7及び2’のいずれか一項に記載の方法。
【0058】
項9. R1がC6-10アリール、C6-10アリール-OH、又は芳香族の5から9員含窒素ヘテロ環基である、項1から8及び2’のいずれか一項に記載の方法。
【0059】
項10. R1がフェニル、ヒドロキシフェニル、イミダゾリル、又はインドリルである、項1から9及び2’のいずれか一項に記載の方法。
【0060】
項11. R1がフェニル又はイミダゾリルである、項1から10及び2’のいずれか一項に記載の方法。
【0061】
項12. RXが水素である、項1から11及び2’のいずれか一項に記載の方法。
【0062】
項13. 前記結合が二重結合である、項2から12及び2’のいずれか一項に記載の方法。
【0063】
項14. 式[Ia]で示される化合物又はその塩を製造する、項1から13及び2’のいずれか一項に記載の方法。
【0064】
項15. さらに式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]で示される化合物又はその塩を酸化した後、保護基R5を除去することを含む、項1から14及び2’のいずれか一項に記載の方法。
【0065】
項16. 式[Ia]、[Ib]、又は[Ic]:
【化23】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、R
4、R
X、及び環Aは項1に記載のとおりである]
で示される化合物又はその塩。
【0066】
項17. 式[IVa]、[IVb]、又は[IVc]:
【化24】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、R
4、R
X、環A、及び結合:
【化25】
は項1又は2に記載のとおりである]
で示される化合物又はその塩
[但し、ツベリンジンA及びBを除く]。
【0067】
項18. 式[IVa’]、[IVb’]、又は[IVc’]:
【化26】
[式中、R
1、R
1’、R
2、R
3、R
4、R
X、及び環Aは項1に記載のとおりである]
で示される化合物又はその塩。
【0068】
本明細書において例示した具体的態様及び選択肢は、これらが組合せ可能であって矛盾しない限り、任意に組み合わせることができ、当該組み合わされた態様も本発明の範囲内に含まれる。
【0069】
本明細書において、以下の略語を用いることがある。
B2pin2:ビス(ピナコラート)ジボロン
DBU:ジアザビシクロウンデセン
DCM:ジクロロメタン
DMF:ジメチルホルムアミド
DMP:デス-マーチンペルヨージナン
LiOTf:トリフルオロメタンスルホン酸リチウム
TBAF:フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム
TIPS:トリイソプロピルシリル
THF:テトラヒドロフラン
【実施例0070】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
本実施例において用いた測定装置を以下に示す。
NMR:JEOL ECS-400
質量分析:Thermo Fisher Scientific社製MS Exactive Plus HPLC UltiMate 3000 (ESI)
【0072】
実施例1:5-置換-3-オキソ-テトラヒドロフラン[6]の製造
(1)工程1
【化27】
(S)-テトラヒドロフラン-2-カルボン酸[1](11.6 g、100 mmol、東京化成)をアルゴン雰囲気下でCH
2Cl
2(90 mL)に溶解し、0℃でBH
3・SMe
2(11.4 g、150 mmol、Sigma-Aldrich)を30分かけて滴下した。室温で12時間撹拌したのち、NaOHの2M水溶液(200 mL)を注意深く滴下し、ジエチルエーテルで抽出した。有機層をNa
2SO
4で乾燥後、ろ過し、溶媒を留去したところ、化合物[2]が無色の油状物質として得られた(7.66 g、収率75%)。この化合物は精製せずに次の工程に用いた。
R
f 0.25 [n-hexane/EtOAc (50:50)].
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 4.06-3.97 (m, 1H), 3.91-3.82 (m, 1H), 3.83-3.75 (m, 1H), 3.68 (dd, J = 11.5, 3.2 Hz, 1H), 3.50 (dd, J = 11.6, 6.2 Hz, 1H), 1.98-1.82 (m, 3H), 1.69-1.59 (m, 1H).
【0073】
(2)工程2
【化28】
(S)-(テトラヒドロフラン-2-イル)メタノール[2](2.55 g、25.0 mmol)とイミダゾール(4.25 g、62.5 mmol)のCH
2Cl
2(40 mL)溶液に0℃でトリイソプロピルシリルクロライド(5.78 g、6.4 mL、30 mmol)を滴下し、室温で12時間撹拌した。溶媒を減圧下留去し、粗生成物を中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した[n-ヘキサン/EtOAc(80:20)]。化合物[3]が無色の油状物質として得られた(6.20 g、収率96%)。
R
f 0.85 [n-hexane/EtOAc (80:20)].
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 4.03-3.94 (m, 1H), 3.89-3.81 (m, 1H), 3.80-3.73 (m, 1H), 3.72 (dd, J = 9.9, 4.7 Hz, 1H), 3.62 (dd, J = 10.2, 5.5 Hz, 1H), 2.02-1.69 (m, 4H), 1.14-1.00 (m, 21H).
【0074】
(3)工程3
【化29】
窒素下のグローブボックス内で、15 mLのバイアルに[Ir(cod)OMe]
2(41 mg、0.13 mmol)、2-メチル-1,10-フェナントロリン(25 mg、0.25 mmol)、B
2pin
2(1.9 g、7.5 mmol)、化合物[3](646 mg、2.5 mmol)とシクロオクタン(2.0 mL)を加えた。バイアルをキャップで封をし、予熱したアルミニウムブロックヒーターで100℃で24時間撹拌した。反応終了後、混合物をTHF(25 mL)で希釈し、NaBO
3・4H
2O(4.6 g、30 mmol)と水(25 mL)が入ったフラスコに移し、室温で12時間撹拌した。有機層を分離し、水相をEtOAcで抽出した(3回、各回30 mL)。合わせた有機層をNaSO
4で乾燥後、吸引ろ過し、減圧下濃縮した。得られた残渣をCH
2Cl
2(20 mL)で溶解し、DMP(2.1 g、5.0 mmol)を0℃で加えた。室温で12時間撹拌後、反応混合物を濃縮し、中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィー[n-ヘキサン/EtOAc(90:10)]で精製し、化合物[6]を無色の油状物質として得た(238 mg、収率35%)。
R
f 0.70 [n-hexane/EtOAc (80:20)].
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 4.51-4.44 (m, 1H), 4.12 (d, J = 16.7 Hz, 1H), 4.01 (dd, J = 10.8, 3.1 Hz, 1H), 3.92 (d, J = 16.7 Hz, 1H), 3.81 (dd, J = 10.8, 3.0 Hz, 1H), 2.61-2.48 (m, 2H), 1.16-0.99 (m, 21H).
【0075】
実施例2:ニトロアルキルアミン化合物[10]の製造
【化30】
trans-β-ニトロスチレン[7](13.4 g、50 mmol)、LiOTf(0.78 g、5.0 mmol)、およびエチルジフェニルメチレンイミノアセテート[8](8.95 g、60 mmol)を乾燥THF(50 mL)中で撹拌し、ここにDBU(0.75 mL、5.0 mmol)の乾燥THF溶液(50 mL)を加えた。室温で6時間撹拌後、THF(100 mL)で希釈し、0℃で1M HCl(400 mL)を加え、室温で12時間撹拌した。THFを減圧留去したのち、水層をエーテルで洗浄後(3回、各回200 mL)、NaHCO
3で中和した。水層をCH
2Cl
2で抽出し(3回、各回500 mL)、合わせた有機層をNa
2SO
4で乾燥後、吸引ろ過と減圧濃縮ののち、粗生成物を中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィー[n-ヘキサン/EtOAc(50:50)]で精製し、化合物[10]を黄色の油状物質として得た(7.40 g、58%収率)。
R
f 0.2 [n-hexane/EtOAc (80:20)].
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.37 - 7.15 (m, 5H), 5.06 (dd, J = 13.3, 5.6 Hz, 1H), 4.75 (dd, J = 13.3, 9.0 Hz, 1H), 3.97 (q, J = 7.1 Hz, 2H), 3.78 (td, J = 8.5, 5.5 Hz, 1H), 3.64 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 1.02 (t, J = 7.1 Hz, 3H).
【0076】
実施例3:ツベリンジンの製造
(1)工程1(ニトロマンニッヒ反応)
【化31】
化合物[10](757 mg、3.0 mmol)と活性化したモレキュラーシーブ4A(1.0 g)を15 mLのバイアルで撹拌したのち、化合物[6](163 mg、0.60 mmol)を添加し、室温で48時間撹拌した。反応完了後、固形物をろ別し、中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィー[シリカゲル、n-ヘキサン/EtOAc(90:10)]で精製し、スピロ環化合物[11]を無色の油状物質として得た(119 mg、収率39%)。
R
f 0.50 [n-hexane/EtOAc (80:20)].
1H NMR (400 MHz, C
6D
6): δ 7.07-6.94 (m, 5H), 4.95 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 4.30 (t, J = 8.0 Hz, 1H), 4.00-3.88 (m, 2H), 3.85-3.69 (m, 3H), 3.64-3.56 (m, 1H), 3.02 (brs, 1H), 2.16 (dd, J = 12.8, 6.5 Hz, 1H), 1.99 (dd, J = 12.8, 8.3 Hz, 1H), 1.18-0.99 (m, 21H), 0.74 (t, J = 7.1 Hz, 3H).
HRMS (ESI) m/z: [M + H]
+ Calcd. for C
26H
43N
2O
6Si, 507.2890; Found, 507.2887.
【0077】
(2)工程2(ネフ反応)
【化32】
DMF(1 mL)と化合物[11](50 mg、0.10 mmol)を4 mLのバイアルに加え、この混合物を液体窒素で凍結脱気し、容器内を酸素ガスで置換した。得られた酸素飽和溶液に、室温、酸素雰囲気下でDMF中の3.0M tBuOK溶液(0.10 mL、0.30 mmol)を加え、2時間撹拌した。飽和アンモニウムクロライド水溶液(1.0 mL)に続いて1M HClを加え、酢酸エチルで抽出した(5回、各回2 mL)。合わせた有機層をNaSO
4で乾燥後、吸引ろ過と減圧濃縮ののち、残渣を分取薄層クロマトグラフィー[シリカゲル、n-ヘキサン/EtOAc(80:20)]で精製し、シリカゲルからメタノールで抽出後、化合物[12]を緑色の油状物質として得た(5.0 mg、収率10%)。化合物[12]はそのエステル基が一部加溶媒分解し、エチルエステルとメチルエステルの混合物として得られた(エチル:メチル=1:6)。
R
f 0.40 [n-hexane/EtOAc (80:20)].
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.43-7.30 (m, 5H), 6.82 (brs, 1H), 4.47-4.38 (m, 1H), 4.28 (qd, J = 7.2, 2.7 Hz, 0.28H), 4.05 (d, J = 8.9 Hz, 1H), 4.02 (dd, J = 11.3, 2.2 Hz, 1H), 3.87 (d, J = 8.9 Hz, 1H), 3.81 (s, 2.6H), 3.74 (dd, J = 11.2, 2.2 Hz, 1H), 2.67 (dd, J = 13.2, 9.7 Hz, 1H), 2.20 (dd, J = 8.6, 1.9 Hz, 1H), 1.30-1.08 (m, 21H+0.43H).
HRMS (ESI) m/z: [M + H]
+ Calcd. for C
26H
40NO
5Si, 474.2676; Found, 474.2674 (for ethyl ester); [M + H]
+ Calcd. for C
26H
40NO
5Si, 460.2519; Found, 460.2518 (for methyl ester).
【0078】
(3)工程3
【化33】
化合物[12](2.6 mg、5.0 μmol)のTHF溶液(0.5 mL)に、テトラブチルアンモニウムフルオライドの0.1M THF溶液(0.13 mL、12.5 μmol)を加え、室温で3時間撹拌した。減圧濃縮後、フラッシュクロマトグラフィー[シリカゲル、EtOAc]によって精製し、化合物[13]を緑色の油状物質として得た(1.2 mg、収率76%)。
R
f 0.40 [EtOAc].
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.39- 7.24 (m, 5H), 7.09 (brs, 1H), 4.51-4.43 (m, 1H), 4.29 (q, J = 7.1 Hz, 0.28H), 4.09 (d, J = 9.1 Hz, 1H), 4.00 (dd, J = 11.8, 2.3 Hz, 1H), 3.93 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 3.83 (s, 2.6H), 3.64 (d, J = 11.7 Hz, 1H), 2.71 (dd, J = 13.4, 9.6 Hz, 1H), 2.19-2.09 (m, 1H), 1.21 (t, J = 7.1 Hz, 0.43H).
HRMS (ESI) m/z: [M + Na]
+ Calcd. for C
17H
19NO
5Na, 340.1161; Found, 340.1157 (for ethyl ester); [M + H]
+ Calcd. for C
26H
40NO
5Si, 326.1004; Found, 326.1000 (for methyl ester).
【0079】
(4)工程4
【化34】
化合物[13](1.2 mg、3.8 μmol)のTHF(0.5 mL)溶液に、0.1MのNaOH水溶液(0.2 mL)を加え室温で1時間撹拌した。反応混合物をジエチルエーテルで洗浄後(2回、各回2 mL)、塩酸で中和してEtOAcで抽出(5回、各回2 mL)した。有機層をNa
2SO
4で乾燥したのち、ろ過と減圧濃縮後、化合物[14]が緑色の固体として得られた(1.0 mg、89%)。
R
f 0.40 [EtOAc/MeOH (90:10)].
1H NMR (400 MHz, DMSO-d
6): δ 8.88 (s, 1H), 7.47 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 7.24 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 7.10 (t, J = 7.5 Hz, 1H), 4.90 (brs, 1H), 4.21-4.09 (m, 1H), 3.89 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 3.61 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 2.26 (dd, J = 13.0, 8.1 Hz, 1H), 1.96-1.87 (m, 1H). 3.51と3.56 ppmの2個のプロトンは水と重なっていて観測されていない。
HRMS (ESI) m/z: [M + H]
+ Calcd. for C
15H
16NO
5, 290.1028; Found, 290.1022.
本明細書に提供される含窒素スピロ環化合物の製造方法は、種々の含窒素スピロ環化合物の製造に適用可能であり、工業的にも応用可能であるため、多くの生理活性物質の製造に有用であることが期待される。