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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006678
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】光学部材及び調光ユニット
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/14 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
G03B21/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107633
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 安紘
(72)【発明者】
【氏名】内山 真志
【テーマコード(参考)】
2K203
【Fターム(参考)】
2K203GA26
2K203GA40
2K203HA56
2K203HB25
2K203MA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】クラックが発生しにくい光学部材を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明の光学部材は、基板2に形成された遮光部15と調光部からなり、前記調光部は、遮光部15から連続的に形成された、透過率が連続的に変化し、且つ透過率変化率がその前後で変化する透過率変曲点をもつ連続的に膜厚変化する透過率傾斜膜4が形成されたパターンからなり、前記透過率変曲点から前記パターン先端方向における透過率変化率が前記遮光部から前記透過率変曲点における透過率変化率よりも大きく、前記パターンは、透過率傾斜膜4の膜厚方向と直交する方向をX軸としたとき、X軸上の前記透過率変曲点と同じ位置に、その前後でパターンの形状変化率が変化するパターン変曲点を持ち、且つ形状変化率が前記透過率傾斜膜の透過率変化率と相反することを特徴とする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成された遮光部と調光部からなり、
前記調光部は、
前記遮光部から連続的に形成された、
透過率が連続的に変化し、且つ透過率変化率がその前後で変化する透過率変曲点をもつ連続的に膜厚変化する透過率傾斜膜が形成されたパターンからなり、
前記透過率変曲点から前記パターン先端方向における透過率変化率が前記遮光部から前記透過率変曲点における透過率変化率よりも大きく、
前記パターンは、
前記透過率傾斜膜の膜厚方向と直交する方向をX軸とした時、
X軸上の前記透過率変曲点と同じ位置に、その前後でパターンの形状変化率が変化するパターン変曲点を持ち、且つ形状変化率が前記透過率傾斜膜の透過率変化率と相反することを特徴とした光学部材。"
【請求項2】
前記透過率傾斜膜は光吸収層と誘電体層とを複数積層して形成したことを特徴とする請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
前記透過率傾斜膜及び前記パターンがそれぞれ複数の透過率変曲点及びパターン変曲点を持ち、
前記遮光部から順にそれぞれ第一の透過率変曲点及び第一のパターン変曲点、第二の透過率変曲点及び第二のパターン変曲点とするとき、
前記第一の透過率変曲点から第二の透過率変曲点における透過率変化率が、
前記遮光部から前記第一の透過率変曲点における透過率変化率よりも大きく、
且つ、
前記遮光部から前記第一のパターン変曲点における形状変化率が、
前記第一のパターン変曲点から前記第二のパターン変曲点における変化率よりも大きいことを特徴とした請求項1に記載の光学部材。
【請求項4】
前記遮光部は前記透過率傾斜膜と同じ膜構成の光吸収積層体が形成されており、
前記光吸収層の膜厚が略均一に成膜されていることを特徴とした請求項1に記載の光学部材。
【請求項5】
前記基板は透明基板であり、
前記調光部には前記傾斜膜が形成されていない領域があることを特徴とした請求項1に記載の光学部材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の光学部材を駆動させる駆動手段を有することを特徴とした調光ユニット。"

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロジェクション技術に使用される光学部材及び調光ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の画像をプロジェクターによって投射し、一つの大きな画像を作り出すマルチプロジェクション技術が知られている。この時、画像をつなぎ目無く重ね合わせるために、投射する複数の画像の縁部が重なるように重複投射させるが、重複投射部は輝度が大きくなってしまうという問題がある。この重複投射部の輝度を周囲と同等に調整する手段として、画像信号を調整する信号処理方式と、遮光板などを用いた光学方式があるが、前者はコストが高かったり、十分な黒色を映し出せない所謂黒浮きが生じやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3737029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、段階的に透過率が変化するように鋸歯状の複数のフィルターを重ね合わせた光遮蔽板によって重複投射部の輝度を調整する技術が開示されている。特許文献1の光遮蔽板は、鋸歯状のフィルターを重ね合わせることで作製しているため、段階的に透過率が変化するが、透過率が連続的に変化する膜を鋸歯状に成膜することでより効果的に光量を調整可能となる。しかし、連続的に透過率が変化する膜は、その物理膜厚を連続的に変化させることで得られるが、急激に物理膜厚を変化させるとクラックが発生しやすくなる。特に、遮光部に近い透過率が最も低い領域、すなわち最も膜が厚い領域はクラックが発生しやすいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の光学部材は、基板に形成された遮光部と調光部からなり、前記調光部は、前記遮光部から連続的に形成された、透過率が連続的に変化し、且つ透過率変化率がその前後で変化する透過率変曲点をもつ連続的に膜厚変化する透過率傾斜膜が形成されたパターンからなり、前記透過率変曲点から前記パターン先端方向における透過率変化率が前記遮光部から前記透過率変曲点における透過率変化率よりも大きく、前記パターンは、前記透過率傾斜膜の膜厚方向と直交する方向をX軸としたとき、X軸上の前記透過率変曲点と同じ位置に、その前後でパターンの形状変化率が変化するパターン変曲点を持ち、且つ形状変化率が前記透過率傾斜膜の透過率変化率と相反することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
調光部において連続的にリニアに光量を調整可能で、調光部におけるクラックを抑制した光学部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明に係る光学部材を示す図
図2】本発明に係る光学部材の、透過率傾斜膜のX軸に対する透過率変化、透過率傾斜膜成膜面におけるX軸と垂直方向の成膜領域の割合、及び光学部材を透過した光の輝度を示した図
図3】本発明に係る透過率傾斜膜の断面図
図4】本発明の透過率傾斜膜に関する真空蒸着法による成膜方法を示した図
図5】実施例1に係る光学部材の断面図・透過率及びパターン形状を示した図
図6】実施例2に係る光学部材の断面図・透過率及びパターン形状を示した図
図7】実施例3に係る光学部材の断面図・透過率及びパターン形状を示した図
図8】本発明の光学部材を使用したマルチプロジェクション技術を示した図
【発明を実施するための形態】
【0008】
図を基に本発明の実施形態について説明する。
【0009】
図1に本発明に係る光学部材を示す。本発明の光学部材1は、遮光部と調光部とを有し、調光部は遮光部から連続的に形成され、基板の少なくとも一方の面に厚み方向と直交する方向に連続的に透過率が変化する透過率傾斜膜がパターン形状に成膜されている。具体的には遮光部から離れるに従って透過率傾斜膜の透過率は連続的に高くなる。更に、透過率傾斜膜は透過率の変化率がその前後で大きく変化する透過率変曲点を有し、遮光部から透過率変曲点までの透過率変化率よりも、透過率変曲点からパターン先端方向における透過率変化率の方が大きくなっている。透過率変化は透過率傾斜膜の膜厚と相関関係があり、透過率傾斜膜は遮光部から透過率変曲点までの膜厚変化率よりも、透過率変曲点からパターン先端の膜厚変化率の方が大きくなっている。ここで、透過率変曲点とは、その前後における透過率の平均変化率が1.5~5倍程度変化する点を指す。
【0010】
また、調光部のパターン形状も透過率傾斜膜の膜厚方向と直交する方向に、遮光部からパターン先端に向けて連続的にパターン領域が狭くなるように形状変化し、その前後で形状変化率が大きく変わるパターン変曲点を有する。更に、パターン形状の変化率は、透過率傾斜膜の透過率変化率と相反するように設定され、具体的にはと遮光部からパターン変曲点までの形状変化率が、パターン変曲点からパターン先端方向の形状変化率よりも大きくなるように形成される。ここで、透過率傾斜膜の透過率が連続的に変化する方向をX軸とした時、透過率変曲点とパターン変曲点はX軸の実質的に同じ位置に存在する。ここで、パターン変曲点とは、その前後におけるパターンの平均形状変化率が1.5~5倍程度変化する点を指す。
【0011】
図2に本発明に係る光学部材の透過率傾斜膜のX軸に対する透過率変化、透過率傾斜膜成膜面におけるX軸と直交する方向の成膜領域の割合、及び光学部材を透過した光の輝度を示す。ここで、成膜領域の割合とは、例えば図2のAA′線上において透過率傾斜膜が成膜されている領域の割合を示し、その変化率はパターン形状の変化率に対応する。図2より、本発明の光学部材において、透過率傾斜膜は遮光部からパターン先端において透過率変化率が一定ではなく、X軸の変曲点を境に変化率が異なる。具体的には、遮光部から透過率変曲点までは透過率は緩やかに変化し、透過率変曲点からパターン先端に向けての透過率変化率は大きくなっている。一方、成膜領域の割合もパターン変曲点を境に変化率が異なり、その変化率は透過率傾斜膜と相反する。具体的には、遮光部からパターン変曲点までは変化率が大きく、パターン変曲点からパターン先端方向では変化率が緩やかとなっている。本発明に係る光学部材を通過し、投影された画像の輝度は、光学部材の透過率傾斜膜が形成されていない領域を1とした時、調光部の輝度は遮光部に向かうにつれて略リニアに減衰する。なお、図2ではパターン変曲点及び透過率変曲点はそれぞれ1点のみであるが、複数のパターン変曲点及び透過率変曲点を有していてもよい。但し、複数の透過率変曲点及びパターン変曲点を設ける場合は、遮光部に最も近い透過率変曲点及びパターン変曲点をそれぞれ第一の透過率変曲点及び第一のパターン変曲点、遮光部から2番目に近い透過率変曲点及びパターン変曲点をそれぞれ第二の透過率変曲点及び第二のパターン変曲点とした時、遮光部と第一の透過率変曲点における透過率変化率よりも、第一の透過率変曲点と第二の透過率変曲点における透過率変化率の方が大きくなるように成膜される。更に、遮光部から第一のパターン変曲点における形状変化率は、第一のパターン変曲点と第二のパターン変曲点の形状変化率よりも大きくなるように形成される。また、図2において、透過率傾斜膜の透過率が、遮光部から透過率変曲点まで、透過率変曲点からパターン先端まで、それぞれ直線的に変化しているが、必ずしも直線的に変化している必要はない。すなわち、透過率傾斜膜によって形成されるパターンも、遮光部からパターン変曲点、パターン変曲点からパターン先端において必ずしも直線的に形状変化率が変化する必要はない。
【0012】
≪基材≫
本発明に使用する基材2としては、所望の光波長領域において透明な基板(透明基板)であれば、任意の基材を使用することが可能である。例えばガラスや水晶などの無機材料からなる基材や、ポリエステル系、ノルボルネン系、ポリエーテル系、アクリル系、スチレン系、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PES(ポリエーテルスルホン)系、ポリスルホン系、PEN(ポリエチレンナフタレート)系、PC(ポリカーボネート)系、及びポリイミド系などの様々な合成樹脂基材を使用することができる。光学部材の使用環境を考慮すると、耐熱性が高いことが好ましく、この点からガラス基材が好適に用いられる。一方、合成樹脂基板は、ガラスなどの無機基板に比べ、柔軟で軽く、加工性が良いという利点があるが、熱応力による変形や水分による特性変化を起こしやすく、更に製造方法によっては偏光特性を持ってしまう場合がある。このため、合成樹脂基板を用いる場合は、高耐熱性(高ガラス転移温度Tg)、低吸水性で、複屈折の小さい材料を用いることが望ましい。これらを満たす合成樹脂としてはノルボルネン系などが挙げられる。また、必要に応じて、有機-無機ハイブリッド材料からなる基板、例えばシルセスキオキサン骨格を有する基板などを用いてもよい。
【0013】
本発明に係る基板の厚みは、剛性やハンドリング性向上のためある程度厚い方がよく、0.5~20mm程度、更には1~10mm程度であることがより好ましい。板厚が厚すぎると、特に合成樹脂性の基板を用いた場合、複屈折率に起因したリタデーションが大きくなる虞がある。
【0014】
≪透過率傾斜膜≫
図3に本発明に係る透過率傾斜膜の断面図を示す。図3より、透過率傾斜膜4は光吸収層11と誘電体層12とからなる光吸収積層体3からなる。光吸収層11としては、例えばTi、Ni、Cr、Fe、Nb、Taの単体や合金、又はこれらの酸化物、窒化物などが好適に使用できるが、主に金属酸化物を利用することが好ましい。金属酸化物は一般的に金属膜や金属窒化膜に比べ光吸収率(消衰係数)が小さいため、光吸収層11の膜厚をある程度厚くでき、後述のように光吸収層の膜厚を連続的に変化させる際などの制御が比較的容易となるためである。具体的には、安価で可視波長領域における透過率が比較的直線的なTiOx(0<x<2)が好適に使用できる。
【0015】
光吸収層11は、全ての層でその酸化数又は窒化数が略同一でもよいし、異なる層を有していてもよい。光吸収層は酸化数や窒化数が異なることで、屈折率や消衰係数といった光学特性が変化し、透過率の波長依存性が異なる傾向を示すことがある。例えばチタン酸化物(TiOx)でいうと、x=1(TiO)の場合、物理膜厚200Åの時、可視光波長の短波長側(400nm側)に向かって透過率は緩やかな下降傾向が見られる。一方、x=1.5(Ti)の場合、同じく物理膜厚200Åの時、可視光波長の長波長(700nm側)に向かって透過率は下降傾向となる。すなわち、TiOとTiは、可視光波長の透過率特性において、お互いに補完し合う光学特性を有している。これにより、光吸収層11に、例えばTiO層とTi層の両方を用いることで、光吸収積層体3として可視光波長において透過率の波長依存性を小さくしやすく、この波長領域において低反射化を実現するための膜設計の自由度が高くなる。光吸収層11において、酸化数又は窒化数を異ならせる手法としては、各層により出発材料の酸化数を調整したり、成膜時に導入する空気、酸素、窒素などの比率を調整する手法などを用いることができる。
【0016】
各光吸収層11において略同等の酸化数若しくは窒化数とする場合、光吸収積層体3の可視光波長における透過率の波長依存性を小さくする手法としては、例えば光吸収層11をTiOとTiの混合層とする手法が挙げられる。このようにすることで、光吸収層11の各層で可視光波長における透過率の波長依存を小さくすることができる。TiOとTiの混合層とする場合は、出発材料の酸化数を任意の酸化数になるように調整してもよいし、成膜時に導入する空気、酸素、窒素などの比率を調整してもよいし、2源蒸着法によって例えばTiOとTiを同時に成膜してもよい。光吸収層11の各層によって酸化数又は窒化数を異ならせる場合は、基板2側に最も近い光吸収層の酸化数又は窒化数が各光吸収層の内で最も小さいことが好ましい。一般に酸化数又は窒化数が小さい方が、光吸収性が高くなる一方、反射率も高くなりやすい。このためより酸化数又は窒化数が小さい光吸収層を基板2側に配置し、それよりも酸化数又は窒化数が大きい光吸収層を表層側に配置することで効果的に光吸収機能を持ちつつ、反射率を抑制することができる。一方、光吸収積層体3を形成する光吸収層11の内、最も表層に近い光吸収層の酸化数または窒化数は、最も大きいことが好ましい。一般に酸化数又は窒化数が大きくなるにつれて、光吸収層11の反射が小さくなる傾向があるためである。すなわち、このような構成とすることで、効果的に遮光性を持ちつつ、反射を抑制できる。基板2に最も近い光吸収層と表層に最も近い光吸収層との間に存在する光吸収層は、各層で略均一の酸化数及び窒化数であってもよいし、それぞれで異なる酸化数及び窒化数であってもよいし、例えば表層に向かって酸化数及び窒化数が連続的に大きくなっていってもよい。一方、各光吸収層11の酸化数又は窒化数を略同等とすることで、光吸収層11の光学定数を各層で同じにできるため、膜設計が容易になるという利点を有する。なお、本実施形態では、光吸収層11に関してTiOとTiで説明したが、当然これに限定されるものではなく、任意の材料を使用可能である。
【0017】
また、光吸収層にTiOよりも酸素比率が小さい光吸収層(TiOx:x<1)を成膜する場合は、例えばTiを出発材料として空気又は酸素を導入しながら成膜してもよいし、例えばTiOを出発材料として、成膜時に酸素の乖離が起きるレベルの高エネルギーを照射して、意図的に酸素欠損を得る手法などを用いることができる。反対に、例えばTiよりも酸素比率を大きい光吸収層(TiOx:1.5<x)とする場合は、例えばTi等を出発材料に選んでもよいし、例えばTiを出発材料として空気又は酸素を導入しながら成膜してもよい。
【0018】
誘電体層12としては、SiO、MgF、SiO、SiO、Si、Al、MgO、LaTiO、ZrO、TiO、Nb、Taなどを用いることができる。誘電体層12としては、光吸収層11の酸化による特性変化を抑制するために、ガスバリア性の高い層とすることが好ましく、この点より特にAlが好適である。
【0019】
光吸収積層体2の表層には低屈折率材料層13を設けることが好ましく、例えばSiOやMgFが好適である。この際、低屈折率層13は中心波長をλとした時、光学膜厚がλ/4程度、具体的には0.7~1.3λ/4程度の膜厚となるように調整することが好ましい。このようにすることで、所望の波長に対して低反射化が可能となる。
【0020】
ここで、光吸収積層体3は、図3に示すように連続的に膜厚が変化する領域、すなわち透過率傾斜膜4を有する。なお、透過率傾斜膜4を形成する少なくとも光吸収層11が連続的に膜厚変化すればよく、誘電体層12は膜厚変化をしてもしなくてもどちらでもよいが、最表層の低屈折率層13の膜厚は成膜領域において略均一の膜厚となっていることがより好ましい。最表層は反射防止機能を有し、この点より0.7~1.3λ/4であることが好ましいためである。パターン領域における反射率変化を小さくしたい場合は、透過率傾斜膜4を形成する誘電体層の膜厚は成膜領域で略均一であることが好ましい。透過率傾斜膜4を構成する光吸収層11と誘電体層12を比較したとき、誘電体層12の方が膜厚が厚く、反射率特性に対する影響が大きいためである。なお、本発明における光学部材1において、透過率傾斜膜4を形成する少なくとも光吸収層11の膜厚変化は遮光部からパターン先端で均一ではなく、変曲点を持ち、これは透過率変曲点5に対応する。すなわち、光吸収層11の膜厚と透過率には相関関係がある。ここで、透過率変曲点からパターン先端方向における透過率の平均変化率は、遮光部から透過率変曲点における透過率の平均変化率の1.5~5倍程度であることが好ましい。変化率の差が小さすぎると、遮光部から透過率変曲点における光吸収層の膜厚変化が十分に緩やかにならない。一方、変化率の差が大きすぎると、透過率変曲点からパターン先端方向における光吸収層の膜厚変化が大きくなり過ぎ、この領域でのクラックが生じる虞がある。
【0021】
本発明において、透過率傾斜膜4はパターン形状に成膜される。パターン形状は遮光部からパターン先端に向けて連続的に小さくなるように形成される。更に、形状変化率がその前後で異なるパターン変曲点を有する。なお、パターン変曲点はX軸方向に対し、透過率変曲点5と略同じ位置に存在する。パターンの形状変化率は遮光部からパターン変曲点までの変化率が、パターン変曲点からパターン先端方向における変化率の1.5~5倍程度になるように形成される。透過率傾斜膜4によって形成されるパターンはX軸と直交する方向に周期的に形成される。この時、各パターン間の間隔(ピッチ)は、0.05~1mm程度、更には0.05~0.3mm程度であることがより好ましい。ピッチが小さすぎると、パターンを形成するのが難しい一方、ピッチが大きすぎると調光部を透過した光の平均化が難しくなり、X軸と直交する方向の画像に明暗が発生してしまう虞がある。また、パターンのX軸方向の長さは、使用するプロジェクターの仕様や光学部材1の配置位置にもよるが、1~20mm程度、更には2~10mm程度がより好ましい。パターンが短すぎると、透過率傾斜膜4の膜厚を急激に変化させる必要がある。膜厚急激に変化させるとクラックが発生しやすくなる虞がある。一方、パターンが長すぎると、光学部材を配置する際、プロジェクターの投射部からの距離が長くなるため、光学部材に必要なX軸方向と直交する方向の長さが長くなり、光学部材の大型化を招いてしまう。
【0022】
なお、本発明の光学部材1において、遮光部には、例えば金属や染料・顔料などからなる遮光膜を形成してもよいし、更には、例えばPETなどの樹脂基板に遮光塗装を行った薄板などの遮光性の材料を貼り付けた構成であってもよいが、透過率傾斜膜4と同様の光吸収積層体3を成膜することがより好ましい。また、光吸収積層体3の膜構成は透過率傾斜膜4と同一であってもよいし、異なっていてもよい。遮光部に透過率傾斜膜3と同一の光吸収積層体3を形成する場合、光吸収積層体3の光吸収層11の少なくとも一部を金属膜とすることで、効果的に遮光性を上げることができる。この時、金属膜は光吸収層11の内、最も表層に近い層以外に配置することが好ましい。金属膜を表層近くに配置すると反射率が高くなってしまうためである。金属膜よりも表層側に少なくとも1層の金属酸化物若しくは金属窒化物からなる光吸収層を設けることで、金属膜で反射した光を効果的に減衰させることができる。このことより、金属膜を設ける場合は、できるだけ基材に近い層に形成することが好ましい。遮光部の透過率は、1%以下(光学濃度OD=2以上)であることが好ましく、光吸収積層体3で遮光部を形成する場合は、これを満たすように光吸収層11や誘電体層12の積層数及び膜厚を調整する。たとえば、光吸収層11として金属酸化物のみを用いる場合は、光吸収層11の層数が5~12層程度、更には6~9層程度が好ましい。光吸収層11の積層数が少なすぎると、十分な光吸収を持たせるために、1層当たりの光吸収層11の膜厚に制限ができ、膜設計が難しくなる。一方、光吸収層11の層数を増やしすぎると、光吸収積層体3全体としての膜厚が厚くなり過ぎ、クラックが発生しやすくなってしまう。なお、光吸収層11は、その光吸収特性を安定化させるため、誘電体層12に挟持されていることが好ましい。この場合、光吸収層11を5~12層程度とした時、少なくとも光吸収積層体3としては11~25層程度以上となる。ここで、光学濃度ODとは、透過率をTとしたとき、OD=Log(1/T)で表され、透過率が大きいほど光学濃度は小さくなる。
【0023】
また、遮光部及び調光部には、機能膜が形成されていてもよい。ここでいう機能膜とは、例えば撥水撥油性により指紋や汚れの付着を防止する防汚膜や耐擦傷性を向上させる硬質膜などが挙げられる。防汚膜としては、フルオロアルキルエーテルなどの含フッ素化合物が好適に使用できる。含フッ素化合物は、例えばスチールウールなどの金属の保持体に含浸させることで蒸着(抵抗加熱)によって成膜することができ、本発明の光吸収積層体3と同一プロセスで成膜できる点で好適である。なお、フルオロアルキルエーテルなどの含フッ素化合物はSi-OH(シラノール基)と反応して強固な膜を形成する事がしられており、含フッ素化合物を成膜前に密着層としてSiOを成膜することが好ましい。より好ましくは、光吸収積層体3の低屈折率層13をSiOとし、この上に含フッ素化合物を成膜することである。硬質膜としては、樹脂性のハードコート膜も使用できるが、より強固な無機系の膜が好ましく、例えばSiやTiN、AlNなどの窒化膜や、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜などが挙げられる。この内、透過率傾斜膜4と同じ物理蒸着で成膜可能な窒化膜がより好適に使用できる。なお、機能膜として防汚膜と硬質膜の両方を形成してもよい。この場合、硬質膜上に防汚膜を形成することが好ましい。
【0024】
本発明において、光吸収積層体3及び透過率傾斜膜4は基板2の一方の面のみに成膜されていてもよいし、両面に成膜されていてもよい。基板2の一方の面のみに光吸収積層体3及び透過率傾斜膜4を形成する場合、これらが形成されていない面にも、上述の機能膜を設けることが好ましい。また、必要に応じて単層及び多層からなる反射防止膜を形成してもよい。基板の両面に光吸収積層体3及び透過率傾斜膜4を形成する場合、それぞれの面でパターン形状や透過率傾斜膜4の透過率変化率が同じでも良いし、異なっていてもよい。
【0025】
≪製造方法≫
本発明の光学部材1の製造方法例について説明する。なお、次に記載する製造方法はあくまでも一例であり、これに限定されるものではない。
【0026】
基板1にポジ型のフォトレジスト(OFPR-5000LB:東京応化工業製)をスピンコートで塗布し、露光マスクを用いて露光を行う。なお、露光はg線(光波長436nm)を用いて行った。露光後、TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)からなるアルカリ現像液(NMD-3:東京応化工業製)にて露光した部分のフォトレジストを除去し、リンス・純水洗浄を行い乾燥させる。このようにして、光吸収積層体3を成膜する領域以外にフォトレジストが形成されている状態とする。
【0027】
次に、光吸収積層体3を形成する。光吸収積層体3の成膜は真空蒸着法によって行う。図4aは一般的な蒸着装置を示した図である。基板は、真空チャンバー21内に備えられた蒸着ドーム22に取り付けられる。この基板2と蒸発源23との間に、図4bに示す様に基板2平面に対して所望の傾斜を有する、傾斜冶具24を取付ける。蒸着時には、蒸着ドーム22の回転に合わせて基板2も回転するが、この時の蒸発源23と基板2、傾斜冶具24の位置関係によって、蒸発源23から飛散した蒸着材が基板2に付着できたり、傾斜冶具24により遮蔽されたりすることで基板2上に成膜される蒸着膜の膜厚に傾斜を設けることができる。実質的に蒸発源23と基板2との位置関係は装置により固定であるため、傾斜冶具24の基板2に対する角度θや、基板2と傾斜冶具24との距離Gなどを調整することにより、調光部の長さや、蒸着膜の膜厚傾斜が所望の値になるように調整する。なお、必要に応じて、傾斜冶具24上で基板2に対する角度θが変化してもよい。傾斜冶具24は少なくとも光吸収積層体3の光吸収層成膜の際に使用すればよく、例えば、傾斜冶具24を駆動式として、誘電体層成膜時には、調光部や遮光部の成膜に影響のない場所に配置させてもよい。このように、基板2上に光吸収積層体3を形成したら、基板2をアセトンに浸し超音波洗浄を実施する。これにより、フォトレジストが除去され、基板2上にパターン形状の光吸収積層体3が形成される。これを純水で洗浄し、乾燥させることで光学部材1を得る。本例では、パターン形状の作製にフォトレジストを使用したが、例えば、基板2と傾斜冶具24との間に、パターン形状が打ち抜かれた成膜マスクを設けることで、パターン状に光吸収積層体3が成膜されるようにしてもよいし、光吸収積層体3を成膜後に、レーザーや打ち抜き刃などを使用してパターン形状に基板を切断してもよいし、光吸収積層体3を成膜前に予め基材にパターン形状を設けておいてもよい。
【0028】
(実施例1)
図5に実施例1に係る光学部材の断面図・透過率及びパターン形状を示す。本実施例の光学部材は、板厚3mmのガラス基板上に、調光部と遮光部及び透明部が形成されている。調光部は、パターンの長さ方向にパターン形状の変化率が変わるパターン変曲点を有する長さ(L)5mm、ピッチ(P)0.1mmのパターン状に、遮光部からパターン先端に向かって連続的に透過率が変化する光吸収積層体3が形成されている。調光部に形成された光吸収積層体3を透過率傾斜膜4とする。なお、透過率傾斜膜4はある領域において透過率の変化率が変わる透過率変曲点5を有する。遮光部には調光部と同様の膜構成からなる光吸収積層体3が略均一膜厚に形成されている。ここで、実施例1の透過率傾斜膜は遮光部から透過率変曲点5における透過率変化、及び透過率変曲点5からパターン先端における透過率変化は均一ではないが、それぞれの領域における透過率の平均変化率は、およそ14.7%/mm、22.8%/mmとなっており、透過率変曲点5からパターン先端における透過率の平均変化率が、遮光部から透過率変曲点における透過率の平均変化率の1.55倍程度となっている。
【0029】
実施例1の光吸収積層体3は、TiOx(0<x<2)からなる光吸収層11とAlからなる誘電体層12が交互積層した構成を持ち、調光部のパターン領域において、TiOx層及びAl層は共に膜厚の傾斜を有する。また、調光部・遮光部・透明部を含む全面に略均一膜厚の低屈折率層13であるSiOが略λ/4(λ=550nm)成膜されており、更にSiO上にフルオロアルキルエーテルを主成分とする機能膜14(防汚膜)が成膜されている。本実施例において、光吸収積層体3はTiOxが6層、Alが7層となっている。本実施例における遮光部の透過率は、光波長550nmにおいておよそ0.5%(光学濃度OD=2.3程度)となっている。なお、透明部の透過率は光波長550nmにおいておよそ98.5%(光学濃度OD=0.0066程度)となっており、調光部では遮光部側から、パターン先端に向けて透過率およそ0.5%から98.5%に連続的に変化している。なお、光吸収積層体3(透過率傾斜膜4)の膜厚方向に対する垂直方向をX軸とした時、パターン変曲点6はX軸上の透過率変曲点5と略同じ位置に存在する。パターンは遮光部から連続的に透過率傾斜膜4が成膜されている領域が小さくなるように形成されるが、パターン形状変化率は透過率傾斜膜4の透過率変化率と相反するようになっている。すなわち、本実施例において遮光部からパターン変曲点6における形状変化率は、パターン変曲点6からパターン先端における形状変化率よりも大きく、その倍率はおよそ1.55倍程度となっている。
【0030】
(実施例2)
図6に実施例2に係る光学部材の断面図・透過率及びパターン形状を示す。本実施例の光学部材は、板厚3mmのガラス基板上に、調光部と遮光部及び透明部が形成されている。本実施例における調光部は、パターンの長さ方向にパターン形状の変化率が変わるパターン変曲点を有する長さ(L)5mm、ピッチ(P)0.1mmのパターン状に、遮光部からパターン先端に向かって連続的に透過率が変化する光吸収積層体3(透過率傾斜膜4)が形成されている。遮光部はCrからなる遮光膜15が形成されており、その上に光吸収積層体3が形成されている。ここで、光吸収積層体3は透過率傾斜膜4と同じ膜構成である。本実施例では、パターン状に形成された光吸収積層体3すなわち透過率傾斜膜4は、遮光部かパターン先端まで連続的に透過率が減少するが、透過率の変化率が変化する透過率変曲点5を有し、遮光部から透過率変曲点5及び透過率変曲点からパターン先端において直線的に透過率が変化する。それぞれの領域における透過率の平均変化率は、およそ10.0%/mm、25.5%/mmとなっており、透過率変曲点5からパターン先端における透過率の変化率が、遮光部から透過率変曲点における透過率の変化率の2.55倍程度となっている。
【0031】
実施例2の光吸収積層体3は、TiOx(0<x<2)からなる光吸収層11とAlからなる誘電体層12が交互積層した構成を持ち、調光部のパターン領域において、TiOx層及びAl層は共に膜厚の傾斜を有する。また、調光部・遮光部・透明部を含む全面に略均一膜厚の低屈折率層13であるSiOが略λ/4(λ=550nm)成膜されており、更にSiO上にフルオロアルキルエーテルを主成分とする機能膜14(防汚膜)が成膜されている。本実施例において、光吸収積層体3はTiOxが6層、Alが7層となっている。本実施例における遮光部の透過率は、光波長550nmにおいておよそ0.05%(光学濃度OD=3.3程度)となっている。なお、透明部の透過率は光波長550nmにおいておよそ98.5%(光学濃度OD=0.0066程度)となっており、調光部では遮光部側から、パターン先端に向けて透過率およそ2.0%から98.5%に連続的に変化している。ここで、光吸収積層体3(透過率傾斜膜4)の膜厚方向に対する垂直方向をX軸とした時、パターン変曲点6はX軸上の透過率変曲点5と略同じ位置に存在する。パターンは遮光部から連続的に透過率傾斜膜4が成膜されている領域が小さくなるように形成されるが、パターン形状変化率は透過率傾斜膜4の透過率変化率と相反するようになっている。すなわち、本実施例において遮光部からパターン変曲点6における形状変化率は、パターン変曲点6からパターン先端における透過率変化率よりも大きく、その倍率はおよそ2.55倍程度となっている。
【0032】
(実施例3)
図7に実施例3に係る光学部材の断面図・透過率及びパターン形状を示す。本実施例の光学部材は、板厚1mmのプラスチック基板上に、調光部と遮光部が形成されている。なお、調光部において、プラスチック基板はパターン形状に打ち抜かれている。ここで、プラスチック基板は、日本ゼオン社製のノルボルネン系樹脂を用いている。本実施例におけるパターンは打ち抜きによって形成され、パターンの長さ(L)5mm、ピッチ(P)0.3mmとなっている。このパターン上に、遮光部側からパターン先端に向かって連続的に透過率が低くなるように透過率傾斜膜4が形成されている。なお、本実施例においてパターンはパターン長さ方向において形状変化率が変化するパターン変曲点を2点有し、これに合わせるように透過率傾斜膜の透過率の変化率が変わる透過率変曲点も2点存在する。ここで、パターン変曲点において、遮光部側から順に第一のパターン変曲点6、第二のパターン変曲点6´と呼び、透過率変曲点において、遮光部側から順に第一の透過率変曲点5、第二の透過率変曲点5´と呼ぶ。この時、第一のパターン変曲点6と第一の透過率変曲点5、第二のパターン変曲点6´と第二の透過率変曲点5´は光吸収積層体3(透過率傾斜膜4)の膜厚方向に対して垂直方向をX軸とした時、それぞれX軸上の略同じ位置に存在する。ここで、本実施例の透過率傾斜膜4は遮光部から第一の透過率変曲点5における透過率変化、及び第一の透過率変曲点5から第二の透過率変曲点5´における透過率変化は均一ではないが、それぞれの領域における透過率の平均変化率は、およそ10.1%/mm、26.2%/mmとなっており、第一の透過率変曲点5から第二の透過率変曲点5´における透過率の平均変化率が、遮光部から第一の透過率変曲点5における透過率の平均変化率の2.58倍程度となっている。なお、第二の透過率変曲点5´からパターン先端までの透過率の平均変化率はおよそ8.0%/mmとなっており、最も変化率が小さくなっている。
【0033】
遮光部には調光部と同様の膜構成からなる光吸収積層体3が略均一に形成されている。実施例3の光吸収積層体3は、TiOx(0<x<2)及びTiからなる光吸収層11、11´とAlからなる誘電体層12が交互積層した構成を持ち、調光部のパターン領域において、TiOx層11、Ti層11´、Al層12は共に膜厚の傾斜を有する。更に、遮光部と調光部には略均一膜厚の低屈折率層13であるMgFが略λ/4(λ=550nm)成膜されている。
【0034】
本実施例において、光吸収積層体はTiOxが3層とTiが1層の計4層、Alが5層となっている。本実施例において、光吸収層の一部にTi(金属)を設けたのは、基板にプラスチック基板を用いたことを鑑み、極力膜応力が小さくなるように総膜厚を抑制するためである。本実施例における遮光部の透過率は、光波長550nmにおいておよそ0.3%(光学濃度OD=2.52程度)となっている。なお、パターン先端の透過率は光波長550nmにおいておよそ98.0%(光学濃度OD=0.0088程度)となっており、調光部では遮光部側から、パターン先端に向けて透過率およそ0.7%から98.0%に連続的に変化している。
【0035】
なお、光吸収積層体3(透過率傾斜膜4)の膜厚方向に対する垂直方向をX軸とした時、第一のパターン変曲点6及び第二のパターン変曲点6´はX軸上の第一の透過率変曲点5及び第二の透過率変曲点5´と略同じ位置に存在する。パターンは遮光部から連続的に透過率傾斜膜4が成膜されている領域が小さくなるように形成されるが、パターン形状変化率は透過率傾斜膜4の透過率変化率と相反するようになっている。すなわち、遮光部から第一のパターン変曲点6における平均形状変化率の方が、第一のパターン変曲点6から第二のパターン変曲点6´における平均形状変化率よりも大きく、その倍率はおよそ2.58倍となっている。なお、第二のパターン変曲点6´からパターン先端における形状変化率は、第一のパターン変曲点6から第二のパターン変曲点6´における形状変化率よりも大きくなっている。このような変曲点を持たせることで、パターン先端形状に丸みを持たせることが可能となる。本実施例のように、特に打ち抜きやレーザー加工によってパターンを形成するときは、パターン先端に丸みを持たせることで、パターン作製が容易で且つ耐久性を高くすることができる。更に、パターン形状を打ち抜きなどで形成した場合、パターン先端部における光の回折等により高輝度なゴーストなどの画像不良が生じることがあるが、本実施例のように、パターン先端形状に丸みを持たせることで、回折光の指向性を軽減し、投影の妨げとなるのを抑制することができる。なお、本実施例では、予めパターンを形成してから、光吸収積層体を成膜しているが、先に光吸収積層体を成膜し、その後パターン形状に打ち抜いてもよい。この際、光吸収積層体ごと基板を打ち抜いてもよいし、光吸収積層体の成膜していない切断しろを設けておき、ここを打ち抜いてもよい。なお、本実施例では、第二のパターン変曲点6´からパターン先端における形状変化率が、遮光部から第一のパターン変曲点6における形状変化率よりも大きくなっているが、必ずしもこの必要はなく、第二のパターン変曲点6´からパターン先端における形状変化率が、第一のパターン変曲点6から第二のパターン変曲点6´における形状変化率よりも大きければよい。
【0036】
本発明の光学部材は例えば、複数のプロジェクター画像を重ね合わせて大きな画像を得る、マルチプロジェクションに好適に使用できる。マルチプロジェクションでは、隣接する画像と画像の間に画像が投影されない境界線が発生してしまう。この対策として、隣接する画像の一部を重ね合わせて、境界線を無くす方法があるが、重ね合わせ部は輝度が大きくなるため、周囲の輝度に合わせる必要がある。本発明の光学部材は、図8(a)(b)に示す様にプロジェクター31の投影部33とスクリーン32との間に設けられ、画像が重なる領域に対応する光が、光学部材1の調光部を通過するように配置される。ここで、本発明の光学部材は、調光部を通過した光量が略リニアに変化するため、光学部材の配置位置決定が容易となる。また、調光部における最も膜厚の厚くなる遮光部に近い領域における膜厚傾斜が緩やかなためクラックが発生しにくい。図8(a)に本発明の光学部材1をマルチプロジェクション技術に使用した際のスクリーン上の輝度を示す。図8(a)より、本発明の光学部材1を用いることで、効果的に画像重なり部の輝度を調整できる。なお、本発明の光学部材1は、投光部33の前に固定して設置してもよいが、透過率傾斜膜の透過率傾斜方向と垂直方向に振動させて使用してもよい。このようにすることで、振動方向における画像の輝度を効果的に平均化することが可能となり、より良好な画像を得ることが可能となる。なお、本発明の光学部材1は例えばモータなどのアクチュエータによって、パターン方向に光学部材1を移動させる光学部材駆動手段を有していてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 光学部材
2 基板
3 光吸収積層体
4 透過率傾斜膜
5、5´ 透過率変曲点
6、6´ パターン変曲点

11 光吸収層
12 誘電体層
13 低屈折率層
14 機能膜
15 遮光膜

21 真空チャンバー
22 蒸着ドーム
23 蒸発源
24 傾斜冶具

31 プロジェクター
32 スクリーン
33 投光部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8