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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025066980
(43)【公開日】2025-04-24
(54)【発明の名称】赤外LED素子
(51)【国際特許分類】
   H10H 20/831 20250101AFI20250417BHJP
   H10H 20/814 20250101ALI20250417BHJP
   H10H 20/823 20250101ALI20250417BHJP
   H10H 20/833 20250101ALI20250417BHJP
【FI】
H01L33/38
H01L33/10
H01L33/28
H01L33/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023176589
(22)【出願日】2023-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 徹
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 和幸
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA03
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA12
5F241CA39
5F241CA65
5F241CA74
5F241CA75
5F241CA77
5F241CA88
5F241CA93
5F241CA94
5F241CB15
5F241FF16
(57)【要約】
【課題】発光効率がより高められた赤外LED素子を提供する。
【解決手段】第一導電型を示す第一半導体層と、第一半導体層の上層に配置された活性層と、活性層の上層に配置された、第一導電型とは異なる第二導電型を示す第二半導体層と、第二半導体層の上層に配置され、一部に貫通孔を含む絶縁層と、絶縁層の上層に配置された、赤外光に対する反射性を示す材料からなる反射層と、貫通孔内において、第二半導体層の面に接触して配置された、絶縁層よりも厚みの薄い導電性酸化膜層と、貫通孔内において、導電性酸化膜層が位置する領域以外の領域を充填するように形成された、導電性酸化膜層とは異なる導電性材料からなる充填層とを有し、充填層は、赤外光に対する反射性を示す材料からなる。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク波長が1,000nm~2,000nmの赤外光を出射可能な赤外LED素子であって、
第一導電型を示す第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に配置された活性層と、
前記活性層の上層に配置された、前記第一導電型とは異なる第二導電型を示す第二半導体層と、
前記第二半導体層の上層に配置され、一部に貫通孔を含む絶縁層と、
前記絶縁層の上層に配置された、前記赤外光に対する反射性を示す材料からなる反射層と、
前記貫通孔内において、前記第二半導体層の面に接触して配置された、前記絶縁層よりも厚みの薄い導電性酸化膜層と、
前記貫通孔内において、前記導電性酸化膜層が位置する領域以外の領域を充填するように形成された、前記導電性酸化膜層とは異なる導電性材料からなる充填層とを有し、
前記充填層は、前記赤外光に対する反射性を示す材料からなることを特徴とする赤外LED素子。
【請求項2】
前記第一半導体層と前記活性層と前記第二半導体層とが積層された方向である第一方向に見て、前記導電性酸化膜層は、前記貫通孔内において、前記充填層の内側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の赤外LED素子。
【請求項3】
前記第二半導体層と前記絶縁層との接触面積をS1、前記第二半導体層と前記導電性酸化膜層との接触面積をS2、前記第二半導体層と前記充填層との接触面積をS3としたときに、S1>S2>S3であることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項4】
前記第二半導体層が、Asを含むIII-V族半導体からなる、前記絶縁層と接触するコンタクト層を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項5】
前記導電性酸化膜層が、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化亜鉛スズ、酸化カドミウムスズ、酸化アンチモンスズからなる群に属する一種以上の材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項6】
前記導電性酸化膜層の厚みが、5nm~50nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項7】
前記第一半導体層と前記活性層と前記第二半導体層とが積層された方向である第一方向に見たときの、前記導電性酸化膜層の占有領域の総面積が、前記活性層の占有領域の総面積に対して4%~50%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項8】
前記第二半導体層が、少なくとも前記導電性酸化膜層と接触する領域のドーパント濃度が5×1018/cm3以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項9】
前記反射層、前記絶縁層、前記第二半導体層、前記活性層、及び前記第一半導体層を含む積層体を支持する、導電性の支持基板と、
前記第一半導体層の前記活性層とは反対側の面上に配置された第一電極と、
前記支持基板の、前記積層体が形成されている側とは反対側の面に配置された第二電極とを備え、
前記導電性酸化膜層は、前記支持基板の主面に平行な方向に離間した複数の位置に分散して配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項10】
前記第一半導体層、前記活性層、及び前記第二半導体層の成長基板であるInP基板と、
前記第一半導体層のうち、前記活性層が上層に配置されていない領域に電気的に接続するように設けられた第一電極と、
前記反射層の前記絶縁層が形成されている側とは反対側の面に接触して配置された第二電極とを備え、
前記InP基板に近い側から順に、前記第一半導体層、前記活性層、及び前記第二半導体層が積層されており、
前記絶縁層は、前記第一半導体層、前記活性層、及び前記第二半導体層の積層体の側面、前記第二半導体層の上面、及び、前記活性層が上層に配置されていない領域における前記第一半導体層の上面を連絡するように配置されており、
前記導電性酸化膜層は、前記InP基板の主面に平行な方向に離間した複数の位置に分散して配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外LED素子に関し、特に発光波長が1,000nm以上の赤外LED素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、波長1,000nm以上の赤外領域を発光波長とする半導体発光素子は、防犯・監視カメラ、ガス検知器、医療用のセンサや産業機器等の用途で幅広く用いられている。
【0003】
発光波長が1,000nm以上の半導体発光素子は、一般的に以下の手順で製造される。成長基板としてのInP基板上に、第一導電型の半導体層、活性層(「発光層」と称されることもある。)、及び第二導電型の半導体層を順次エピタキシャル成長させた後、半導体ウェハ上に電流注入のための電極が形成される。その後、チップ状に切断される。
【0004】
従来、発光波長が1,000nm以上の半導体発光素子としては、半導体レーザ素子の開発が先行して進められてきた経緯がある。一方で、LED素子については、その用途があまりなかったこともあり、レーザ素子よりは開発が進んでいなかった。
【0005】
しかしながら、近年、アプリケーションの広がりを受け、赤外LED素子についても高効率化の要求が高まっている。当該要求に応える構成として、例えば、特許文献1には、InP基板上にLED構造を結晶成長させたウェハの上下面に電極を形成し、両電極間に電圧を印加することで活性層に電流を注入して発光させる赤外LED素子が開示されている。
【0006】
さらに、該当波長域帯の用途の広まりから、より発光効率が高くより小型低背なLEDが求められている。当該要求に応える構成として、特許文献2には、成長基板上にLED構造のエピタキシャル半導体膜を結晶成長した発光ダイオードウェハに対して、高反射膜を介して支持基板に金属層と接合した後、成長基板を薄膜化、又は完全に除去した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-282875号公報
【特許文献2】特開2012-129357号公報
【特許文献3】米国特許第11239388号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者らは、発光波長が1,000nm以上であるLED素子の発光効率の向上について鋭意検討していたところ、以下のような課題が存在することに気が付いた。
【0009】
従来、LED素子は、光取り出し効率を高めるために、活性層から発せられて光出射面とは反対側に向かって進行する光を光出射面側へと反射する、反射層が形成される。反射層は、多くの場合、活性層で発せられる所望の波長帯域の光に対して、比較的高い反射率を示す材料からなる膜によって実現される。
【0010】
上記反射層は、一般的に、所望の波長帯の光に対して透過性を示す絶縁層における、半導体層とは反対側に面に形成される層である。そして、当該反射層は、活性層の広い範囲で発光を生じさせるため、反射面と平行な方向に電流を分散させることを目的として、当該透明絶縁層に設けられた貫通孔内に形成された電極によって半導体層と電気的に接続される。
【0011】
上記構成のLED素子においては、アニール処理が施されることによって、半導体層と、絶縁層の貫通孔内に形成される電極との間にオーミックコンタクトが形成される。ここで、本発明者らは、鋭意研究により、特に発光波長が1,000nm以上であるLED素子においては、反射層のオーミックコンタクトが形成されている部分の反射率が、その他の部分の反射率に比べて大きく低下していることに気が付いた。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑み、発光効率がより高められた赤外LED素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の半導体発光素子は、
ピーク波長が1,000nm~2,000nmの赤外光を出射可能な赤外LED素子であって、
第一導電型を示す第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に配置された活性層と、
前記活性層の上層に配置された、前記第一導電型とは異なる第二導電型を示す第二半導体層と、
前記第二半導体層の上層に配置され、一部に貫通孔を含む絶縁層と、
前記絶縁層の上層に配置された、前記赤外光に対する反射性を示す材料からなる反射層と、
前記貫通孔内において、前記第二半導体層の面に接触して配置された、前記絶縁層よりも厚みの薄い導電性酸化膜層と、
前記貫通孔内において、前記導電性酸化膜層が位置する領域以外の領域を充填するように形成された、前記導電性酸化膜層とは異なる導電性材料からなる充填層とを有し、
前記充填層は、前記赤外光に対する反射性を示す材料からなることを特徴とする。
【0014】
本明細書において、「反射性を示す」とは、活性層で発せられる赤外光のピーク波長の光に対する反射率が50%以上であることをいう。
【0015】
良好なオーミック特性と高反射率を兼ね備えた材料は、稀であり、製造コストや安定した特性が得られるかどうかといった観点をも考慮すると、発光素子の量産に用いることができる材料となると今のところ見当たらない。このような事情から、ピーク波長が可視光領域に属するLED素子では、上記特許文献3に示されているような、導電性酸化物であるITOからなる透明導電層と反射膜とを組み合わせた構造が提案されている。
【0016】
しかしながら、酸化インジウムスズ(ITO)に代表される導電性酸化物は、内部のフリーキャリアが増大すると、赤外光に対する吸収率が高まるという特徴がある。このため、上記特許文献3に示されている導電性酸化物からなる透明導電層と反射膜とを組み合わせた構造は、赤外LED素子に適用すると、かえって発光効率を低下させてしまうという課題があり、これまで採用されてこなかった。
【0017】
ここで、本発明者らは、上述した背景から、導電性酸化物による吸収を抑制し、従来の赤外LED素子よりも発光効率を高める構造を鋭意検討し、上記構造の赤外LED素子を発明するに至った。
【0018】
上記構成によれば、半導体層と金属からなる電極とが接触する面積が低減されることにより、従来構成と比較して、合金の形成による反射率の低下が抑制される。また、上記構成によれば、透明導電膜である導電性酸化膜を形成する領域が、絶縁層の貫通孔内に限定されるため、導電性酸化膜によって吸収される赤外光の量が低減される。したがって、上記構成の赤外LED素子は、取り出される光の量が従来構造の赤外LED素子よりも向上されるため、結果として、発光効率が向上される。
【0019】
上記赤外LED素子は、
前記第一半導体層と前記活性層と前記第二半導体層とが積層された方向である第一方向に見て、前記導電性酸化膜層は、前記貫通孔内において、前記充填層の内側に配置されていても構わない。
【0020】
上記赤外LED素子は、
前記第二半導体層と前記絶縁層との接触面積をS1、前記第二半導体層と前記導電性酸化膜層との接触面積をS2、前記第二半導体層と前記充填層との接触面積をS3としたときに、S1>S2>S3であることが好ましい。
【0021】
導通のための電極が形成されていない部分は、絶縁層を配置することが一般的であるが、絶縁層は電流経路を制限する機能を持ち、更に反射層としても機能する場合がある。反射層として機能するとは、絶縁層に対して入射角が臨界角よりも大きい場合、半導体層と絶縁層の屈折率差によって全反射が生じることである。なお、入射角が小さくて全反射が生じないとしても、透過した光が反射層によって反射されることで高反射率が実現される。
【0022】
一方で、電流経路を制限する機能を考えると、絶縁層と対向する位置の活性層には電流が流れず、導電性酸化膜層及び充填層が形成される貫通孔と対向する位置の活性層に電流が流れて発光することになる。つまり、貫通孔に近い位置では入射角が小さい状態になり、貫通孔から遠い位置では入射角が大きくなる。つまり、全反射にならない部分では、絶縁層を透過させるよりも反射層で直接反射した方が、絶縁層と反射層全体で見た場合の反射される赤外光の総量が多くなると考えられる。このため、半導体層に絶縁層を介して反射膜が形成され、絶縁層には一部に貫通孔が設けられ、貫通孔内においては、半導体層と反射膜が接する部分が存在することが好ましい。
【0023】
上記構成によれば、絶縁層に設けられた貫通孔内を導電性酸化物のみで充填した場合と比較して、導電性酸化物による赤外光の吸収が抑制される。したがって、上記構成の赤外LED素子は、取り出される光の量が更に向上されることになり、結果として、発光効率がより向上される。
【0024】
上記赤外LED素子は、
前記第二半導体層が、Asを含むIII-V族半導体からなる、前記絶縁層と接触するコンタクト層を含む半導体層であっても構わない。
【0025】
第二半導体層に含まれるコンタクト層の材料としては、例えば、InP基板に対して格子不整合系GaAs、AlGaAs、InGaAsと、InP基板に対して格子整合系AlGaInAs、InGaAsが考えられる。第二半導体層に含まれるコンタクト層の材料は、これらの中でも、オーミックコンタクトの得やすさから、GaAsが特に好ましい。
【0026】
上記赤外LED素子は、
前記導電性酸化膜層が、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化亜鉛スズ、酸化カドミウムスズ、酸化アンチモンスズからなる群に属する一種以上の材料からなる膜であっても構わない。
【0027】
上記赤外LED素子は、
前記導電性酸化膜層の厚みが、5nm~50nmであることが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、赤外LED素子における光出力をより高めることができる。なお、詳細については、「発明を実施するための形態」の項目において、検証実験の結果とともに説明される。
【0029】
上記赤外LED素子は、
前記第一半導体層と前記活性層と前記第二半導体層とが積層された方向である第一方向に見たときの、前記導電性酸化膜層の占有領域の総面積が、前記活性層の占有領域の総面積に対して4%~50%であることが好ましい。
【0030】
上記構成によれば、第二半導体層と導電性参加膜層との間においてより良好なオーミックコンタクトが得られるとともに、高い光取り出し効率を実現できる。
【0031】
上記赤外LED素子は、
前記第二半導体層が、少なくとも前記導電性酸化膜層と接触する領域のドーパント濃度が5×1018/cm3以上であることが好ましい。
【0032】
上記構成の赤外LED素子は、採用され得る種々の半導体材料に対してより良好なオーミックコンタクトが得られる。
【0033】
上記赤外LED素子は、
前記反射層、前記絶縁層、前記第二半導体層、前記活性層、及び前記第一半導体層を含む積層体を支持する、導電性の支持基板と、
前記第一半導体層の前記活性層とは反対側の面上に配置された第一電極と、
前記支持基板の、前記積層体が形成されている側とは反対側の面に配置された第二電極とを備え、
前記導電性酸化膜層は、前記支持基板の主面に平行な方向に離間した複数の位置に分散して配置されていても構わない。
【0034】
上記赤外LED素子は、
前記第一半導体層、前記活性層、及び前記第二半導体層の成長基板であるInP基板と、
前記第一半導体層のうち、前記活性層が上層に配置されていない領域に電気的に接続するように設けられた第一電極と、
前記反射層の前記絶縁層が形成されている側とは反対側の面に接触して配置された第二電極とを備え、
前記InP基板に近い側から順に、前記第一半導体層、前記活性層、及び前記第二半導体層が積層されており、
前記絶縁層は、前記第一半導体層、前記活性層、及び前記第二半導体層の積層体の側面、前記第二半導体層の上面、及び、前記活性層が上層に配置されていない領域における前記第一半導体層の上面を連絡するように配置されており、
前記導電性酸化膜層は、前記InP基板の主面に平行な方向に離間した複数の位置に分散して配置されていても構わない。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、発光効率がより高められた赤外LED素子が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】一実施形態の赤外LED素子の構造を模式的に示す断面図である。
図2図1の領域A1を拡大した図面である。
図3】絶縁層を+Y側から見たときの構造を模式的に示す図面である。
図4A図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図4B図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図4C図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図4D図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図4E図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図4F図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図4G図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図4H図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図4I図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図4J図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図4K図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図4L図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図4M図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図4N図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図5】比較例1の領域A1に相当する部分を拡大した図面である。
図6】別実施形態の赤外LED素子の構造を模式的に示す断面図である。
図7】反射電極と第二電極とを取り除いた状態の、別実施形態の赤外LED素子を+Y側から見たときの模式的な図面である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の赤外LED素子について、図面を参照して説明する。なお、赤外LED素子に関する以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0038】
本明細書において、「層Aの上層に層Bが配置されている」という表現は、層Aの面上に直接層Bが形成されている場合はもちろん、層Aの面上に薄膜を介して層Bが配置されている場合も含む意図である。なお、ここでいう「薄膜」とは、膜厚50nm以下の層を指し、好ましくは10nm以下の層を指すものとして構わない。
【0039】
また、本明細書において、「層Aの上層に層Bが配置されている」という表現は、赤外LED素子の配置位置を回転させれば、層Aの上方に層Bが位置する場合をも包含する概念として用いられる。つまり、上記表現は、赤外LED素子がある向きで設置されている状態での上方を限定する表現ではなく、積層方向である第一方向において層Aと層Bが順に配置されることを示唆する表現である。
【0040】
図1は、本実施形態の赤外LED素子の構造を模式的に示す断面図であり、図2は、図1における領域A1を拡大した図面である。図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の+Y側に配置された半導体積層体20を備える。図3は、絶縁層17を+Y側から見たときの構造を模式的に示す図面である。以下の説明では、適宜、図1に付されたXYZ座標系が参照される。なお、Y方向が「第一方向」に相当する。
【0041】
以下の説明では、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。なお、本実施形態においては、「層Aの上層に層Bが配置されている」ことについて、層Bが層Aの-Y側に配置されていることを意図として説明される。
【0042】
赤外LED素子1は、半導体積層体20内(より詳細には後述される活性層25内)で、赤外光Lが生成される。より詳細には、図2に示すように、赤外光L(L1,L2)は、活性層25を基準としたときに+Y方向に取り出される。赤外光Lは、ピーク波長が1,000nm~2,000nmである。
【0043】
[素子構造]
以下、赤外LED素子1の構造について詳細に説明する。
【0044】
(支持基板11)
支持基板11は、例えばSi、Ge等の半導体、又はCu、CuW等の金属材料で構成される。支持基板11が半導体からなる場合、導電性を示すように高濃度にドーパントがドープされていてもよい。一例として、支持基板11は、ホウ素(B)が1×1019/cm3以上のドーパント濃度でドープされた、抵抗率が10mΩ・cm以下のSi基板である。ドーパントとしては、ホウ素(B)以外には、例えば、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)等が利用できる。高い放熱性と低い製造コストとを両立する観点から、支持基板11は好適にはSi基板である。
【0045】
支持基板11の厚み(Y方向に係る長さ)は、特に限定されないが、例えば50μm~500μmであり、好ましくは100μm~300μmである。
【0046】
(金属接合層13)
赤外LED素子1は、支持基板11の+Y側に配置された金属接合層13を備える。金属接合層13は低融点のハンダ材料からなり、例えばAu、Au-Zn、Au-Sn、Au-In、Au-Cu-Sn、Cu-Sn、Pd-Sn、又はSn等で構成される。図4Gを参照して後述されるように、この金属接合層13は、半導体積層体20が上面に形成された成長基板3と、支持基板11とを貼り合わせるために利用される。金属接合層13の厚みは、特に限定されないが、例えば0.5μm~5.0μmであり、好ましくは1.0μm~3.0μmである。
【0047】
なお、金属接合層13の+Y側には、バリア層が形成されていても構わない。バリア層は、金属接合層13を構成するハンダ材料の拡散を抑制することを目的として設けられる場合がある。かかる機能を実現する限りにおいて材料は限定されないが、バリア層は、例えば、Ti、Pt、W、Mo、又はNi等を含む材料で実現できる。より具体的な一例としては、Ti/Pt/Auの積層体である。
【0048】
(反射層15)
本実施形態の赤外LED素子1は、金属接合層13の+Y側に配置された反射層15を備える。
【0049】
活性層25内で生成された赤外光Lには、光出射面側(+Y側)に向かって進行する赤外光L1と、光出射面とは反対側(-Y側)に向かって進行する赤外光L2とが含まれる。反射層15は、活性層25内で生成された赤外光Lのうち、支持基板11側(-Y側)に進行する赤外光L2を反射させて、+Y側に導く機能を奏する。反射層15は、導電性材料であって、かつ、赤外光Lに対して高い反射率を示す材料で構成される。反射層15の赤外光Lに対する反射率は50%以上であり、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。
【0050】
赤外光Lのピーク波長が1,000nm~2,000nmである場合、反射層15の材料としては、Ag、Ag合金、Au、Al、又はCu等が利用できる。この材料は、赤外光Lの波長に応じて適宜選択され得る。
【0051】
反射層15の厚みは特に限定されないが、例えば0.1μm~2.0μm以下であり、好ましくは0.3μm~1.0μm以下である。
【0052】
なお、反射層15と金属接合層13の間に、上述したようなバリア層が形成される場合、金属接合層13を構成する材料が反射層15側に拡散して反射層15の反射率が低下することを抑制できる。
【0053】
(絶縁層17)
図1に示す赤外LED素子1は、反射層15の+Y側に配置された絶縁層17を備える。絶縁層17は、電気的絶縁性を示し、かつ、赤外光Lに対する透過性の高い材料で構成される。絶縁層17の赤外光Lに対する透過率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。
【0054】
赤外光Lのピーク波長が1,000nm~2,000nmである場合、絶縁層17の材料としては、SiO2、SiN、Al23、ZrO、HfO、又はMgO等を用いることができる。この材料は、活性層25で生成される光の波長に応じて適宜選択され得る。
【0055】
(半導体積層体20)
図1に示す赤外LED素子1は、絶縁層17の+Y側に配置された半導体積層体20を有する。半導体積層体20は、複数の半導体層の積層体であり、例えば、第一コンタクト層21と、第一クラッド層23と、活性層25と、第二クラッド層27とを含む。半導体積層体20を構成する各半導体層(21,23,25,27)は、後述される成長基板3と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料からなる。
【0056】
半導体積層体20の全体の厚みは、30μm(30,000nm)以下であり、好ましくは5μm~20μmである。
【0057】
《第一コンタクト層21,第一クラッド層23》
本実施形態において、第一コンタクト層21は、任意の半導体材料で構成されるが、Asを含むIII-V族半導体で構成されることが好ましく、例えば、p型のGaAsで構成される。第一コンタクト層21の厚みは限定されないが、例えば、10nm~1000nmであり、好ましくは50nm~500nmである。また、第一コンタクト層21のp型ドーパント濃度は、好ましくは5×1017/cm3~3×1019/cm3であり、より好ましくは1×1018/cm3~2×1019/cm3である。なお、第一コンタクト層21に関しては、良好なオーミックコンタクトを得る観点から、少なくとも後述される導電性酸化膜層31aと接触する領域のドーパント濃度が5×1018/cm3以上であることが好ましい。
【0058】
本実施形態において、第一クラッド層23は、第一コンタクト層21の+Y側に配置されており、例えばp型のInPで構成される。第一クラッド層23の厚みは限定されないが、例えば1,000nm~10,000nmであり、好ましくは2,000nm~5,000nmである。第一クラッド層23のp型ドーパント濃度は、活性層25から離れた位置において、好ましくは1×1017/cm3~3×1018/cm3以下であり、より好ましくは5×1017/cm3~3×1018/cm3以下である。
【0059】
第一コンタクト層21及び第一クラッド層23に含まれるp型ドーパントとしては、Zn、Mg、又はBe等を利用でき、Zn又はMgが好ましく、Znが特に好ましい。本実施形態では、第一コンタクト層21及び第一クラッド層23が「第二半導体層」に対応する。
【0060】
《活性層25》
本実施形態において、活性層25は、第一クラッド層23の+Y側に配置されている。活性層25の材料は、狙いとする波長の光を生成可能であって、かつ、図4B等を参照して後述されるように、成長基板3と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。
【0061】
ピーク波長が1,000nm~2,000nmの赤外光Lを出射する赤外LED素子1を製造するに際しては、活性層25は、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsの単層構造としても構わないし、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsからなる井戸層と、井戸層よりもバンドギャップエネルギーの大きいGaInAsP、AlGaInAs、InGaAs、又はInPからなる障壁層とを含むMQW(Multiple Quantum Well:多重量子井戸)構造としても構わない。
【0062】
活性層25の膜厚は、活性層25が単層構造の場合は、50nm~2,000nmであり、好ましくは100nm~1,000nmである。また、活性層25がMQW構造の場合は、膜厚5nm~20nmの井戸層及び障壁層が、2周期~50周期の範囲で積層されて構成される。
【0063】
活性層25は、n型又はp型にドープされていても構わないし、アンドープでも構わない。n型にドープされる場合には、ドーパントとしては、例えば、Siを利用できる。
【0064】
《第二クラッド層27》
本実施形態において、第二クラッド層27は、活性層25の+Y側に配置されており、例えばn型のInPで構成される。第二クラッド層27は、電流分散を目的とするため、ある程度の膜厚と不純物濃度が必要になる。第二クラッド層27の厚みは限定されないが、例えば、2,000nm~15,000nmであり、好ましくは、5,000nm~10,000nmである。第二クラッド層27のn型ドーパント濃度は、好ましくは5×1017/cm3以上であり、より好ましくは、1×1018/cm3以上である。なお、電流分散等をも考慮した場合、第二クラッド層27のn型ドーパント濃度の範囲は、例えば、好ましくは5×1017/cm3~1×1019/cm3であり、より好ましくは、1×1018/cm3~5×1018/cm3である。
【0065】
第二クラッド層27の材料は、活性層25で生成された赤外光Lを吸収しない材料であって、かつ、成長基板3(図4B参照)と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。成長基板3としてInP基板を採用する場合には、第二クラッド層27の材料としては、InP、GaInAsP、又はAlGaInAs等が利用可能であるが、InPであることが好ましい。
【0066】
第二クラッド層27にドープされるn型不純物材料としては、Sn、Si、S、Ge、又はSe等を利用することができ、Siが特に好ましい。第二クラッド層27が「第一半導体層」に対応する。
【0067】
図1に示すように、本実施形態の赤外LED素子1において、第二クラッド層27の+Y側の面(以下、「第一面27a」と称する。)には、凹凸部40が形成されている。この凹凸部40は、図1においては模式的に周期的な形状で図示されているが、実際にはエッチング液を用いたディップ処理によって形成されたランダムな凹凸形状となっている。
【0068】
(内部電極31)
図1に示す赤外LED素子1は、絶縁層17の複数の箇所においてY方向に貫通する貫通孔内に形成された、内部電極31を有しており、第二半導体層(21,23)と支持基板11とを電気的に接続する。内部電極31は、図2に示すように、第一コンタクト層21と接触する導電性酸化膜層31aと、貫通孔内において、導電性酸化膜層31aが位置する領域以外の領域を充填するように形成された充填層31bとを備える。導電性酸化膜層31aの位置は任意であるが、本実施形態では、図3に示すように、Y方向に見たときに、貫通孔内において、充填層31bの内側に配置されている。そして、内部電極31は、図3に示すように、好ましくはXZ平面に平行な方向(すなわち、支持基板11の主面に平行な方向)に分散した複数の位置に設けられている。
【0069】
本実施形態における内部電極31が有する導電性酸化膜層31aは、第一コンタクト層21に対してオーミックコンタクトの形成が可能な材料で構成されている。導電性酸化膜層31aの材料は、導電性を示す酸化物であって、光に対して透過性を示す材料であれば任意であるが、赤外光Lに対する透過性の高さに鑑みれば、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化亜鉛スズ、酸化カドミウムスズ、酸化アンチモンスズからなる群に属する一種以上の材料であることが好ましい。また、導電性酸化膜層31aの厚みは、絶縁層17よりも薄ければ任意であるが、本実施形態においては、20nmである。
【0070】
本実施形態における内部電極31が有する充填層31bは、反射層15と同一の材料と、反射層15とは異なる材料であって、かつ、赤外光Lに対する反射性を示す材料との少なくとも一方を含む材料によって構成される。充填層31bの材料としては、例えば、Ag、Au、Al、Cu、又はこれらの合金、これらを積層させてなる金属層が挙げられる。
【0071】
なお、本実施形態の内部電極31は、図2に示すように、導電性酸化膜層31a及び充填層31bのいずれもが第一コンタクト層21と接触するように構成されているが、導電性酸化膜層31aのみが第一コンタクト層21と接触するように構成されていても構わない。また、任意ではあるが、本実施形態においては、第一コンタクト層21と絶縁層17との接触面積をS1、第一コンタクト層21と導電性酸化膜層31aとの接触面積をS2、第一コンタクト層21と充填層31bとの接触面積をS3としたときに、各面積の値(S1,S2,S3)が、S1>S2>S3の関係性を満たすように形成されている。
【0072】
Y方向に見た場合の、内部電極31のパターン形状は任意である。ただし、支持基板11の主面(XZ平面)に平行な方向(以下、「面方向」という。)に関して活性層25内の広い範囲に電流を流す観点からは、内部電極31は面方向に分散して複数配置されるのが好ましい。
【0073】
Y方向に見たときの、全ての導電性酸化膜層31aの占有領域の総面積は、半導体積層体20(例えば、活性層25)の面方向に係る専有領域の総面積に対して、4%以上50%以下であるのが好ましく、5%以上40%以下であるのがより好ましく、6%以上30%以下であるのが特に好ましい。導電性酸化膜層31aの総面積が比較的大きくなると、活性層25から支持基板11側(-Y方向)に進行する赤外光L2が導電性酸化膜層31aに吸収される光量が増えてしまい、光取り出し効率の低下を招く。一方で、導電性酸化膜層31aの総面積が小さすぎると、極小な領域に電流が集中することになり高抵抗化することで動作電圧の増大を招く。なお、本実施形態においては、導電性酸化膜層31aの総面積は、半導体積層体20の面方向に係る面積に対して、30%となるように構成されている。
【0074】
(上面電極32)
図1に示す赤外LED素子1は、半導体積層体20の上面に配置された上面電極32を有する。上面電極32は、典型的には複数本が所定の方向に延在するように形成されている。一例として、上面電極32は、半導体積層体20の辺に沿うように、X方向及びZ方向に複数延在して、櫛形の形状を呈している。ただし、上面電極32の配置パターン形状は任意であり、例えば格子状であっても構わないし、渦巻状であっても構わない。
【0075】
上面電極32は、-Y側に位置する第二クラッド層27の面を(直接又は同面上に形成された誘電体層の一部を除き)露出させつつ、XZ平面上の広い範囲にわたって形成される。これにより、活性層25内を流れる電流をXZ平面に平行な方向に広げることができ、活性層25内の広い範囲で発光させることができる。
【0076】
上面電極32は、一例として、AuGe/Ni/Au、又はAuGe等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。なお、上面電極32が「第一電極」に対応する。
【0077】
(パッド電極34)
図1に示すように、赤外LED素子1は、上面電極32の一部の上面に配置されたパッド電極34を有する。なお、図1では、上面電極32の全面にパッド電極34が形成されているように図示されているが、これは図示の都合によるものである。実際には、面方向に延伸する上面電極32の一部の面上に、パッド電極34が形成されるものとして構わない。
【0078】
パッド電極34は、例えばTi/Au、又はTi/Pt/Au等で構成される。このパッド電極34は、給電のためのボンディングワイヤを接触させる領域を確保する目的で設けられているが、本発明においてパッド電極34を備えるか否かは任意である。
【0079】
(裏面電極33)
図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の半導体積層体20とは反対側(-Y側)の面上に配置された、裏面電極33を備える。裏面電極33は支持基板11に対してオーミック接触が実現されている。裏面電極33は、一例として、Ti/Au、又はTi/Pt/Au等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。
【0080】
[製造方法]
上述した赤外LED素子1の製造方法の一例について、図4A図4Nの各図を参照して説明する。図4A図4Nは、いずれも製造プロセス内における一工程における断面図である。なお、以下の各手順は、赤外LED素子1の製造に影響のない範囲内であれば、その順序は適宜前後しても構わない。
【0081】
(ステップS1)
図4Aに示すように、成長基板3が準備される。本実施形態では、成長基板3として、(001)面を一方の主面とするInP基板が好適に利用される。厚みの一例は370μmであり、主面の直径は2インチである。ただし、成長基板3の厚み及び大きさは、適宜設定される。
【0082】
(ステップS2)
成長基板3を、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置内に搬送し、成長基板3上に、バッファ層22、エッチングストップ層(ES層)24、第二クラッド層27、活性層25、第一クラッド層23及び第一コンタクト層21を順次エピタキシャル成長させて、半導体積層体20を形成する(図4B参照)。本ステップS2において、成長させる層の材料、又は膜厚に応じて、原料ガスの種類及び流量、処理時間、環境温度等が適宜調整される。
【0083】
半導体積層体20の形成例は以下の通りである。まず、成長基板3上に、Siをドーパントしたn型のInPが所定膜厚(例えば500nm程度)積層されて、バッファ層22が得られる。次に、バッファ層22とは異なる材料の層(ここでは、InGaAs層)が所定膜厚(例えば200nm程度)積層されて、ES層24が得られる。その後、上述した膜厚や組成となるように成長条件が設定された状態で、第二クラッド層27、活性層25、第一クラッド層23及び第一コンタクト層21が順次形成される。
【0084】
詳細な一例として、Siをドーパントとしたn型のInPが膜厚7,000nm積層されて第二クラッド層27が得られる。次に、InGaAsPが膜厚900nm積層されて、活性層25が得られる。ここでは、赤外LED素子1から出射される赤外光Lのピーク波長が1,300nmとなるような条件とされている。ただし、上述したように、活性層25を構成する材料の組成比を調整することや、MQW構造を採用することにより、赤外光Lのピーク波長は1,000nm~2,000nmの範囲内で調整可能である。
【0085】
その後、Znをドーパントとしたp型のInPが膜厚3,000nm積層されて第一クラッド層23が形成され、引き続き、Znをドーパントとしたp型のGaAsが膜厚200nm積層されて第一コンタクト層21が形成される。
【0086】
(ステップS3)
成長基板3上に半導体積層体20が形成されたウェハが、MOCVD装置から取り出された後、プラズマCVD法によって例えばSiO2からなる絶縁層17が成膜される(図4C参照)。膜厚の一例は200nmである。次に、絶縁層17の表面に、フォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストマスクが形成される。バッファードフッ酸等の所定の薬剤を用いたエッチング法により、レジスト開口部に対応する絶縁層17の一部が除去されて、貫通孔31cが形成される(図4D参照)。
【0087】
(ステップS4)
次に、貫通孔31c内に導電性酸化膜層31aが形成される(図4E参照)。充填層31bが形成された後、レジストマスクを除去してから例えば320℃、10分間の加熱処理によってアニール処理が施され、第一コンタクト層21と、導電性酸化膜層31aとの間のオーミックコンタクトが形成される。その後、貫通孔31c内に充填層31bが形成される。充填層31bは、ステップS5で形成される反射層15と同一材料でも良く、工程の簡略化のため充填層31bの形成工程は省略されても構わない。また、フォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストマスクを介して、反射層15とは異なる材料を用いて充填層31bを形成しても構わない。
【0088】
(ステップS5)
図4Fに示すように、絶縁層17の上面に、反射層15、及び金属接合層13aが順次形成される。例えば、EB蒸着装置によって、Al/Auが所定の膜厚で成膜されることで反射層15が形成され、引き続きTi/Auが所定の膜厚で成膜されることで金属接合層13aが形成される。金属接合層13aは上述した金属接合層13と同一の材料として構わない。なお、反射層15は、上述した充填層31bと同一の材料としても構わない。図4Fにおいては、図示の都合上、導電性酸化膜層31aと充填層31bとが区別されず、内部電極31として図示されている。
【0089】
反射層15の材料膜の一例は、Al/Au=5nm/200nmである。金属接合層13aの膜厚の一例は、Ti/Au=150nm/1500nmである。なお、上述したように、反射層15と金属接合層13aとの間には、バリア層が形成されても構わない。バリア層の材料膜の一例は、Ti/Pt/Au=150nm/300nm/200nmである。
【0090】
(ステップS6)
図4Gに示すように、成長基板3とは別の支持基板11が準備される。本実施形態では、(001)面を一方の主面とし、ホウ素(B)が高濃度にドープされた導電性を示すSi基板が利用される。支持基板11の電気抵抗率は、10mΩ・cm(=0.1mΩ・m)未満とするのが好適である。なお、上述したように、支持基板11と金属接合層13bとの間には、バリア層が形成されても構わない。
【0091】
(ステップS7)
図4Hに示すように、支持基板11の主面上に、金属接合層13bが形成される。金属接合層13bは、ステップS4で上述した、金属接合層13aと同様の方法で形成できる。
【0092】
(ステップS8)
図4Iに示すように、金属接合層13(13a,13b)を介して、成長基板3と支持基板11とが、例えば、ウェハボンディング装置を用いて加圧されながら貼り合わせられる。好ましくは、それぞれの金属接合層13(13a,13b)の表面を洗浄した状態で重ね合わせられる。この貼り合わせ処理は、例えば300℃、1MPa下で行われる。この処理により、成長基板3上の金属接合層13aと支持基板11上の金属接合層13bとが、溶融されて一体化される(金属接合層13)。
【0093】
(ステップS9)
図4Jに示すように、成長基板3が除去される。一例としては、接合後のウェハを塩酸系のエッチャントに浸漬することで、成長基板3が除去される。このとき、成長基板3やバッファ層22とは異なる材料で形成されたES層24は、塩酸系のエッチャントに不溶であるため、ES層24が露出した時点でエッチング処理が停止する。
【0094】
(ステップS10)
図4Kに示すように、ES層24を除去して第二クラッド層27を露出させる。例えば、必要に応じて純水で洗浄後、ES層24に対しては可溶で、第二クラッド層27に対しては不溶な所定の薬液に浸漬することで、ES層24が除去される。一例として、硫酸と過酸化水素水の混合溶液(SPM)を利用できる。
【0095】
(ステップS11)
図4Lに示すように、露出した第二クラッド層27の表面に対して上面電極32が形成される。具体的には、以下の手順で行われる。
【0096】
第二クラッド層27の表面にフォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストマスクが形成される。次に、EB蒸着装置によって、上面電極32の形成材料(例えば、Au/Ge/Au)が成膜された後、リフトオフすることで、上面電極32が形成される。上面電極32の膜厚の一例は、Au/Ge/Au=10nm/30nm/150nmである。
【0097】
その後、上面電極32のオーミック性を実現するために、例えば450℃、10分間の加熱処理によってアニール処理が施される。
【0098】
次に、上面電極32の所定位置の上面にパッド電極34が形成される。この場合も、上面電極32と同様に、EB蒸着装置による成膜工程及びリフトオフ工程によって実現できる。パッド電極34としては、例えばTi/Pt/Auが成膜され、その厚みの一例はTi/Pt/Au=150nm/300nm/1,500nmである。
【0099】
(ステップS12)
図4Mに示すように、第二クラッド層27の第一面27aに対して、凹凸部40が形成される。
【0100】
具体的な方法の一例としては、まず、第二クラッド層27の第一面27aに対してフォトリソグラフィ法に基づいてパターニングされたレジストが形成される。このレジストには、上面電極32が形成されている領域を除く領域に対して、複数の直径3μmの孔部が周期長6μmで三角格子状に配列されたパターンが形成されている。なお、上面電極32が形成されている領域には、孔部が形成されていないレジストが覆われている。
【0101】
このパターニングされたレジストを介して、塩酸-リン酸混合液等のエッチャントを用いて第二クラッド層27の第一面27aに対してエッチングが行われる。これにより、レジストに設けられた孔部を通じて、第一面27aに対して例えば深さ1μmのエッチングパターンが形成される。その後、レジストがアセトンなどの洗浄液で除去される。
【0102】
(ステップS13)
図4Nに示すように、素子毎に分離するためのメサエッチングが施される。具体的には、第二クラッド層27の面のうちの非エッチング領域を、フォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストによってマスクした状態で、所定のエッチャントを用いてウェットエッチングが行われる。これにより、マスクされていない領域内に位置する半導体積層体20の一部が除去される。
【0103】
具体的な方法の一例として、まず、塩酸-リン酸混合液を用いたエッチングにより、第二クラッド層27が除去される。この反応は活性層25が露出すると停止される。次に、硫酸と過酸化水素水の混合溶液(SPM)を用いたエッチングにより、活性層25が除去される。この反応は第一クラッド層23で停止される。次に、塩酸-リン酸混合液を用いたエッチングにより、第一クラッド層23及び第一コンタクト層21が除去され、絶縁層17が露出される。その後、アセトン等の洗浄液によってレジストが除去される。
【0104】
(ステップS14)
支持基板11の裏面側の厚みが調整された後、支持基板11の裏面側に裏面電極33が形成される(図1参照)。裏面電極33の具体的な形成方法としては、上面電極32と同様に、真空蒸着装置によって裏面電極33の形成材料(例えばTi/Pt/Au)を成膜することで形成できる。裏面電極33の膜厚の一例は、Ti/Pt/Au=150nm/300nm/1,500nmである。
【0105】
支持基板11の厚みの調整方法は任意であるが、一例として、半導体積層体20側をバックグラインドテープに貼り付けた状態で、バックグラインダにより研削する方法が採用できる。研削後の厚みは例えば50μm~250μmの範囲内で調整され、赤外LED素子1の用途やその後のプロセスによって適宜選択される。具体例として、研削後の支持基板11の厚みは150μmである。研削処理が終了した後は、テープから剥離され、洗浄される。
【0106】
なお、支持基板11の裏面側の厚みの調整は、必要に応じて行えばよく、必ずしも必須な工程ではない。
【0107】
(ステップS15)
次に、支持基板11ごとダイシングされることで、チップ化される。例えば、裏面電極33側がダイシングテープによって貼り付けられた状態で、ステップS13におけるメサエッチングにより形成されたダイシングラインに沿って、上面電極32側から、ダイヤモンドブレード等を用いて支持基板11とともにダイシングが行われる。
【0108】
その後、チップ化された赤外LED素子1は、Agペースト等の導電性接着剤を用いてステム等に実装される。パッド電極34は、ワイヤボンディングによって、ステムのポスト部に接続される。
【0109】
[検証実験]
ここで、内部電極31(導電性酸化膜層31a及び充填層31b)の構造と、赤外LED素子1の発光効率との関係性を確認するための検証実験を行ったので、以下、その詳細について説明する。
【0110】
(実施例1)
実施例1は、上述した実施形態の赤外LED素子1である。なお、実施例1は、導電性酸化膜層31aが、酸化インジウムスズによって構成されている。また、導電性酸化膜31aの厚みは20nmである。
【0111】
(実施例2)
実施例2は、導電性酸化膜層31aの厚みが50nmである点を除いて、実施例1と同一である。
【0112】
(実施例3)
実施例3は、導電性酸化膜層31aの厚みが10nmである点を除いて、実施例1と同一である。
【0113】
(実施例4)
実施例4は、導電性酸化膜層31aの厚みが5nmである点を除いて、実施例1と同一である。
【0114】
(比較例)
図5は、比較例1の赤外LED素子1の領域A1に相当する部分を拡大した図面である。図5に示すように、比較例1は、絶縁層17に設けられた貫通孔31c内に、導電性酸化膜層31a及び充填層31bに代えて、Au系材料からなる金属電極60が形成されている点を除いて、実施例1と同一である。
【0115】
(測定方法)
供給電流Ifが20mAの場合と、50mAの場合とで、順方向電圧値Vfが同等となるように電力を供給した際の、上述した各実施形態における光出力Poを測定した。そして、結果の比較は、比較例における光出力を100%として、実施例1及び実施例2の光出力の比率によって行った。
【0116】
(結果)
それぞれの値は、下記表1のとおりとなった。
【0117】
【表1】
【0118】
供給電流Ifが50mAである場合は、実施例2において比較例よりも光出力が低下していることが確認されるが、光出力比が99%以上であり、これは十分に同等と評価し得る範囲内である。そして、実施例1、実施例3、及び実施例4については、光出力比が120%を超えている。
【0119】
そして、供給電流Ifが20mAである場合は、実施例1については、光出力比が120%を超えており、実施例2については、光出力比が104.5%と十分高くなっていることが確認される。
【0120】
上記構成の赤外LED素子1は、半導体層と金属からなる電極とが接触する面積が低減されることにより、従来構成と比較して、合金の形成による反射率の低下が抑制される。また、上記構成の赤外LED素子1は、導電性酸化膜層31aを形成する領域が、絶縁層17の貫通孔31c内に限定されるため、導電性酸化膜層31aによって吸収される赤外光Lの量が低減される。したがって、上記構成の赤外LED素子1は、取り出される光の量が従来構造の赤外LED素子よりも向上されるため、結果として、発光効率が向上される。
【0121】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0122】
〈1〉 図6は、別実施形態の赤外LED素子1の構造を模式的に示す断面図である。本実施形態の赤外LED素子1は、図6に示すように、InP基板50と、半導体積層体20と、絶縁層17と、反射層に相当する反射電極(51,52)と、第一電極53と、第二電極54と、内部電極55と、高さ調整用電極56とを備える。
【0123】
InP基板50は、成長基板であり、表面が赤外光Lを取り出すための光出射面50aを構成する。光出射面50aは、図6に示すように、上述した実施形態と同様に凹凸部が形成されている。
【0124】
半導体積層体20は、上述した実施形態と同様に、第一クラッド層23、活性層25、第二クラッド層27が積層された構造をなしている。本実施形態の半導体積層体20は、Y方向に見たときに、第一クラッド層23が、InP基板50の全体にわたって形成されているが、活性層25と第二クラッド層27とは、InP基板50の一部にのみ形成されている。ここで、別実施形態においては、第一クラッド層23が「第一半導体層」に対応し、第二クラッド層27が「第二半導体層」に対応する。
【0125】
反射電極(51,52)は、いずれも活性層25から発せられて、直接、又は素子内での反射を繰り返すことで絶縁層17側(-Y側)へと進行する赤外光Lを、InP基板50側(+Y側)へ進行するように反射する、反射層に相当する。本実施形態のような、フリップチップ型の赤外LED素子1は、上述したように、サブマウント58に対してフリップ実装が行われる。
【0126】
そして、第一電極53は、第一クラッド層23のうち、活性層25が上層に配置されていない領域に電気的に接続するように設けられており、第二電極54は、反射電極52の絶縁層17が形成されている側とは反対側(-Y側)の面に接触して設けられている。
【0127】
絶縁層17は、第一クラッド層23、活性層25、及び第二クラッド層27の積層体の側面、第二クラッド層27の上面、及び、活性層25が上層に配置されていない領域における第一クラッド層23の上面を連絡するように配置されている。
【0128】
図7は、反射電極52と第二電極54とを取り除いた状態の、別実施形態の赤外LED素子1を+Y側から見たときの模式的な図面である。内部電極55は、図7に示すように、絶縁層17に設けられた貫通孔内において、導電性酸化膜層55aと充填層55bとが形成されている。なお、上述した実施形態において採用し得る、導電性酸化膜層31a及び充填層31bの材料、構造、形成方法は、いずれも本実施形態の導電性酸化膜層55a及び充填層55bにおいても同様に採用し得る。
【符号の説明】
【0129】
1 : 赤外LED素子
3 : 成長基板
11 : 支持基板
13,13a,13b : 金属接合層
15 : 反射層
17 : 絶縁層
20 : 半導体積層体
21 : 第一コンタクト層
22 : バッファ層
23 : 第一クラッド層
24 : ES層
25 : 活性層
27 : 第二クラッド層
27a : 第一面
31 : 内部電極
31a : 導電性酸化膜層
31b : 充填層
31c : 貫通孔
32 : 上面電極
33 : 裏面電極
34 : パッド電極
40 : 凹凸部
50 : InP基板
50a : 光出射面
51,52 : 反射電極
53 : 第一電極
54 : 第二電極
55 : 内部電極
55a : 導電性酸化膜層
55b : 充填層
56 : 高さ調整用電極
57a,57b : パターン電極
58 : サブマウント
60 : 金属電極
L,L1,L2 : 赤外光
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図4I
図4J
図4K
図4L
図4M
図4N
図5
図6
図7