(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006702
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F02B 77/13 20060101AFI20250109BHJP
F01P 1/06 20060101ALI20250109BHJP
F02B 77/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F02B77/13 J
F01P1/06 Z
F02B77/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107669
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】矢部 正
(72)【発明者】
【氏名】秋山 誉広
(57)【要約】
【課題】ダンパーを覆うカバーを有する内燃機関の騒音を抑制する。
【解決手段】内燃機関1のダンパーカバー5は、ダンパーの径に対応した内径を有するカップ部10を有している。カップ部10は、カップ部10内の空間に空気を導くための空気入口21と、カップ部10内の空間から暖まった空気を外部に排出するための空気出口22と、を有している。空気出口22は、カップ部10の周壁部12の一部を窓状に切り欠いた周壁第1開口部24と、周壁第1開口部24と連続するようにカップ部10の端壁部13の一部を窓状に切り欠いた端壁第1開口部25と、を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関本体の端面から突出した回転軸に円盤状のダンパーが取り付けられているとともに、このダンパーを覆うカバーが設けられた内燃機関において、
上記カバーは、上記ダンパーの回転に伴うポンプ作用によって上記カバー内の空間に空気を導くための空気入口と、上記空間から空気を排出するための空気出口と、を有し、
上記空気出口は、車両前方へ向かって開口していることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
上記空気出口は、車体側構成要素の高さ位置に設定され、上記車体側構成要素によって覆われていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
上記車体構成要素は、車両のサイドメンバーであって、上記空気出口が上記サイドメンバーの高さ位置に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
上記車体構成要素は、内燃機関に対して車両前方側に位置する前方側部材であって、上記空気出口が上記前方側部材の高さ位置に形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の内燃機関。
【請求項5】
上記空気出口は、車両前方へ向かって開口する前方開口部と、当該前方開口部と連続し、車両側方へ向かって開口する側方開口部と、を有し、
上記前方開口部は、内燃機関に対して車両前方側に位置する上記車体構成要素としての前方側部材の高さ位置に形成されるとともに、上記前方側部材に覆われ、
上記側方開口部は、車両のサイドメンバーの高さ位置に形成されるとともに、上記サイドメンバーに覆われていることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端面がカバーに覆われた内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、クランクシャフトに取り付けられる円盤状のダンパーを覆うカバーに空気入口と空気出口を形成し、カバー内の空間に空気を導入するとともに、カバー内の空間から空気を排出して、ダンパーの冷却を行う内燃機関が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この特許文献1は、ダンパーの冷却に着目してなされたものであり、騒音に対する考慮がなされていない。
【0005】
すなわち、クランクシャフトに取り付けられたダンパーを覆うカバーを有する内燃機関においては、騒音抑制の観点で更なる改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関は、ダンパーを覆うカバーが設けられたものであって、上記カバーは、上記カバー内の空間に空気を導くための空気入口と、上記空間から空気を排出するための空気出口と、を有し、上記空気出口は、車両前方へ向かって開口していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の内燃機関は、カバーの空気出口から漏れる騒音が車両後方に残留しにくくなり、車外に対する騒音低減効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図中におけるX軸は内燃機関1の前後方向に沿った軸線(内燃機関1のクランクシャフト2の中心軸線と平行な軸線)、Y軸は内燃機関1の左右方向(内燃機関幅方向)に沿った軸線、Z軸は内燃機関1の上下方向に沿った軸線、をそれぞれ示している。つまりX軸は、内燃機関1の気筒列方向に沿った軸線である。また、Y軸は、内燃機関1の幅方向に沿った軸線である。Z軸は、内燃機関1の上下方向に沿った軸線である。
【0010】
図1は、本発明に係る内燃機関1の前端部分の断面図である。内燃機関1は、例えば、車両前部のエンジンルーム内にいわゆる「横置き」の形で搭載され、クランクシャフト2の軸方向が車両の前後方向に対して直交した姿勢となっている。また、内燃機関1は、シリンダ中心軸線が概ね車両の上下方向に沿っており、上述したZ軸が車両の上下方向に概ね沿っている。
【0011】
内燃機関1は、シリンダブロック(図示せず)の前端面に取り付けられた金属製のチェーンカバー3と、チェーンカバー3を貫通したクランクシャフト2の前端部に取り付けられた円盤状のダンパー4と、チェーンカバー3の前面に取り付けられたダンパーカバー5と、を有している。クランクシャフト2は、請求項における「回転軸」に相当するものである。
【0012】
チェーンカバー3は、シリンダブロックの前端面の動弁装置用チェーン室(図示せず)を覆うものであって、シリンダブロックに複数のボルト(図示せず)で取り付けられている。なお、この実施例では、シリンダブロックとチェーンカバー3が請求項における「機関本体」に相当する。
【0013】
ダンパー4は、クランクシャフト2の前端の中心にボルト6によって固定された内周側部材7と、ダンパー作用のために必要な質量を有する円筒状の外周側部材8と、内周側部材7と外周側部材8との間に介在する円筒状の弾性部材例えばゴム部材9と、を有している。ダンパー4は、クランクシャフト2の捩り振動を抑制するものである。
【0014】
内周側部材7は、中心のボス7aと円筒状のリム7bとを有し、リム7bの外周面と外周側部材8の内周面とにゴム部材9が堅固に接着されている。
【0015】
ダンパーカバー5は、請求項における「カバー」に相当するものであって、内燃機関1内部からのタイミングチェーン等の音を遮音する遮音カバーを兼ねており、ダンピング特性に優れた合成樹脂材料から形成されている。ダンパーカバー5は、例えば、チェーンカバー3をシリンダブロックに固定するためのボルトによってチェーンカバー3がいわゆる共締めの形で取り付けられている。
【0016】
ダンパーカバー5は、
図1~
図3に示すように、ダンパー4の径に対応した内径を有するカップ状部分つまりカップ部10と、このカップ部10の周囲においてチェーンカバー3の外側面に重ねられる平坦部11と、を有している。
図2は、ダンパーカバー5単体の斜視図である。カップ部10は、ダンパー4の周面を覆う筒状の周壁部12と、ダンパー4の前端面を覆う平坦な端壁部13と、を有している。ダンパーカバー5は、カップ部10の中の空間がダンパー4の全周を囲んだ空間をなしている。カップ部10は、端壁部13側が相対的に小径となった円錐台形をなしており、ダンパー4の周面に対向する周壁部12の内周面12aは端壁部13側が相対的に小径となるように傾いたテーパ面をなしている。
【0017】
ダンパーカバー5の一部として成形されたカップ部10の周壁部12は、厳密には360°連続しておらず、カップ部10の下面側10aが開放された形に成形されている。つまり、
図3に示すように前方から見たときに、カップ部10は、馬蹄形のような形をなしており、下面側10aが周壁部12を具備していない。
図3は、ダンパーカバー5の正面図である。
【0018】
また、ダンパーカバー5は、
図2及び
図3に示すように、カップ部10の下面側10aの両側が、平坦部11に対して直交する突出壁部14と、突出壁部14に対して直交する前方壁部15と、により階段状に形成されている。
【0019】
チェーンカバー3は、下端部に内燃機関1の前方へ突出した箱状のオイルタンク部16が形成されている。オイルタンク部16は、図示しない内側(シリンダブロック側)の空間がチェーン室の一部となるオイル溜めを形成するものであって、チェーンカバー3の板状部分3aから前方へ突出した平坦な天井壁3bと、オイルタンク部16の前面を構成する前部壁3cと、を有している。なお、オイルタンク部16は、図示はしないが、天井壁3bと前部壁3cの他に、天井壁3bと同様に前方へ突出した底部壁と両側の2つの側壁と、を有している。前部壁3cは、底部壁と2つの側壁と、天井壁3bの前端縁同士を接続するものである。
【0020】
ここで、オイルタンク部16の天井壁3bの上面は、クランクシャフト2の軸方向と平行な平面に沿った平坦面に形成されている。ダンパーカバー5は、この天井壁3bの上面に沿ってチェーンカバー3が取り付けられている。
【0021】
オイルタンク部16の前部壁3cの表面(外表面)は、クランクシャフト2の軸方向に対し直交する平面に沿った平坦面に形成されている。
【0022】
ダンパーカバー5がオイルタンク部16と組み合わされた状態においては、カップ部10の中の空間は、カップ部10の下面側10aとオイルタンク部16の前部壁3cとの間に形成された空気入口21と、カップ部10の一部を切り欠くことよって形成された空気出口22と、カップ部10の一部を切り欠くことよって形成された空気第2出口23と、を介して外部に開放されている。
【0023】
空気入口21は、ダンパー4の回転(
図3における時計周りの回転)に伴うポンプ作用を利用して外部からカップ部10内の空間に冷却用の空気を取り込むために設けられている。
【0024】
空気出口22及び空気第2出口23は、カップ部10内の空間から暖まった空気を外部へ排出するために設けられている。
【0025】
内燃機関1は、ダンパー4の高速回転に伴う遠心力によってダンパー4の中心部付近に低圧領域が生じ、空気入口21からカップ部10内に空気が流入する。空気入口21から流入した空気は、ダンパー4の回転によって付勢され、カップ部10の周壁部12の内周面12aに沿って旋回する。
【0026】
ここで、カップ部10内の空気の排出されやすさは、カップ部10内を旋回する空気流れの半径方向への勢いよりもの接戦方向への勢いの影響が大きい。そのため、カップ部10内の空気は、空気流れの接線方向に沿って排出されやすい。
【0027】
空気入口21は、馬蹄形となるカップ部10の下面側10aに形成され、カップ部10の半径方向で周壁部12よりも外側に位置している。つまり、空気入口21は、カップ部10内に形成される空気流れ(旋回流)の接線方向に開口していない。空気出口22及び空気第2出口23は、カップ部10の一部を切り欠いて形成されており、カップ部10内に形成される空気流れ(旋回流)の接戦方向に開口している。そのため、カップ部10内に低圧領域が発生すると、カップ部10は、空気流れの接線方向に向かって開口していないため相対的に空気が排出されにくい空気入口21から空気が流入し、空気流れの接線方向に向かって開口しているため相対的に空気が排出されやすい空気出口22及び空気第2出口23から空気が排出される。
【0028】
空気出口22は、
図1~
図3に示すように、カップ部10の周壁部12の一部を窓状に切り欠いた周壁第1開口部24と、周壁第1開口部24と連続するようにカップ部10の端壁部13の一部を窓状に切り欠いた端壁第1開口部25と、を有している。つまり、空気出口22は、周壁部12から端壁部13にかけて連続する開口である。周壁第1開口部24は、請求項における「前方開口部」に相当するものであって、車載状態で車両前方へ向かって開口している。端壁第1開口部25は、請求項における「側方開口部」に相当するものであって、車載状態で車両側方へ向かって開口している。
【0029】
空気出口22は、
図3に示すように、カップ部10の中心位置Cから見て、2時の方向に沿って形成されている。
【0030】
また、空気出口22は、
図3に示すように、車両のクロスメンバー26及び車両のサイドメンバー27の高さ位置に形成(設定)されているとともに、クロスメンバー26及びサイドメンバー27によって全体が覆われている。つまり、周壁第1開口部24は、クロスメンバー26の高さ位置に形成(設定)されているとともに、対向するクロスメンバー26に覆われている。また、端壁第1開口部25は、サイドメンバー27の高さ位置に形成(設定)されているとともに、対向するサイドメンバー27に覆われている。
【0031】
クロスメンバー26は、請求項における「車体側構成要素」及び「前方側部材」に相当するものであって、例えばフロントサスペンションメンバーである。クロスメンバー26は、車両の幅方向に沿って延びる部材であり、車両前後方向で内燃機関1の前方側に配置されている。
【0032】
クロスメンバー26は、換言すれば、外表面が車外に露出した車両の外側パネル以外の車体側構成要素である。
【0033】
サイドメンバー27は、請求項における「車体側構成要素」に相当するものである。サイドメンバー27は、車両の前後方向に沿って延びる部材であり、車両の側方に配置されている。なお、サイドメンバー27は、車両の外表面を構成するパネル部材ではなく、車両の内側に位置する骨格部材である。
【0034】
サイドメンバー27は、換言すれば、外表面が車外に露出した車両の外側パネル以外の車体側構成要素である。
【0035】
空気第2出口23は、
図1~
図3に示すように、カップ部10の周壁部12の一部を窓状に切り欠いた周壁第2開口部28と、周壁第2開口部28と連続するようにカップ部10の端壁部13の一部を窓状に切り欠いた端壁第2開口部29と、を有している。つまり、空気第2出口23は、周壁部12から端壁部13にかけて連続する開口である。
【0036】
空気第2出口23は、
図3に示すように、カップ部10の中心位置Cから見て、3時の方向に沿って形成されている。換言すると、空気第2出口23は、空気出口22をカップ部10の中心位置Cを中心とした時計回りに所定量回転させた位置に形成されている。
【0037】
上述した実施例の内燃機関1は、ダンパーカバー5が車両前方へ向かって開口した周壁第1開口部24を有している。
【0038】
そのため、内燃機関1は、ダンパーカバー5の空気出口22から漏れる騒音が車両後方に残留しにくくなり、車外に対する騒音低減効果を得ることができる。
【0039】
また、内燃機関1は、搭載される車両に前置きされているので、ダンパーカバー5の空気出口22から漏れる騒音が内燃機関1の後方側に位置する車内には直接指向しないので、車内に対しても騒音低減効果を得ることができる。
【0040】
内燃機関1は、ダンパーカバー5の空気出口22とクロスメンバー26及びサイドメンバー27との高さ方向(Z軸方向)に沿った位置関係が一致することによって、ダンパーカバー5の空気出口22から漏れる騒音がクロスメンバー26及びサイドメンバー27によって遮られる。つまり、内燃機関1は、クロスメンバー26及びサイドメンバー27でダンパーカバー5の空気出口22から漏れる騒音遮ることにより、車両の外部に対する騒音低減効果を得ることができる。
【0041】
以上、本発明の具体的な実施例を説明してきたが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0042】
例えば、ダンパーカバー5は、空気第2出口23を省略して形成してもよい。ただし、内燃機関1は、ダンパーカバー5に空気出口22に加えて空気第2出口23を設けることで、空気入口21からより多くの冷却用の空気を流入させることが可能となる。
【0043】
例えば、ダンパーカバー5の空気出口22は、周壁第1開口部24を省略して端壁第1開口部25のみを有するものであってもよい。
【0044】
例えば、ダンパーカバー5の空気出口22は、端壁第1開口部25を省略して周壁第1開口部24のみを有するものであってもよい。
【0045】
例えば、空気出口22は、
図3中に2点鎖線で示すように、車両のホイールハウスのアーチを構成する外周壁31の一部によって覆われるように形成してもよい。詳述すると、空気出口22は、車両側方視で、端壁第1開口部25が上記外周壁と重なり合う位置に形成するようにしてもよい。外周壁31は、車両側方視で円弧状をなすものである。この場合、内燃機関1は、空気出口22が外周壁31によって覆われることにより、車外に対する騒音低減効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0046】
1…内燃機関
2…クランクシャフト
3…チェーンカバー
4…ダンパー
5…ダンパーカバー
6…ボルト
7…内周側部材
8…外周側部材
9…ゴム部材
10…カップ部
10a…下面側
11…平坦部
12…周壁部
13…端壁部
21…空気入口
22…空気出口
23…空気第2出口
24…周壁第1開口部
25…端壁第1開口部
26…クロスメンバー
27…サイドメンバー