(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006703
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】相間絶縁部材、固定子および電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
H02K3/34 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107670
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000116666
【氏名又は名称】愛知電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄大
(72)【発明者】
【氏名】黒古 雅司
(72)【発明者】
【氏名】真野 鐘治
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB08
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC15
5H604DB15
5H604DB26
5H604PB02
(57)【要約】
【課題】 固定子コアへコイルを挿入する工程の作業負担を低減し、作業効率を向上させることのできる相間絶縁部材と、これを利用した固定子および電動機を提供する。
【解決手段】 ティース挿入孔510と脚部520と帯状部分530,540からなる略中空筒状の相間絶縁部材500において、帯状部分530,540に第1の折り目560と第2の折り目570を形成することで、固定子コア200に装着する前段階で、相間絶縁部材500を固定子コア200に装着した状態を軸方向からみて、帯状部分530,540を波形に形成する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異相の固定子コイル間に配置される相間絶縁部材であって、前記相間絶縁部材は固定子コアの軸方向両端面からそれぞれ突出する前記固定子コイルのコイルエンド間に位置する一対の帯状部分と、当該帯状部分を前記固定子コアのスロット内に位置する複数の脚部で連結した相間絶縁部材であって、
前記相間絶縁部材の帯状部分は、固定子コイル間に装着する前に、前記相間絶縁部材を固定子コアに装着した状態の軸方向から見て波形の折り目を形成したことを特徴とする相間絶縁部材。
【請求項2】
前記相間絶縁部材の帯状部分は、前記折り目を形成することで、略中空筒状に変形させることを特徴とする請求項1項記載の相間絶縁部材。
【請求項3】
前記帯状部分には、固定子コアに装着した状態の軸方向から見て波形に折り目を形成し、前記軸方向から見て径方向外周側に向けて湾曲部が形成されることを特徴とする請求項1記載の相間絶縁部材。
【請求項4】
前記帯状部分には、固定子コアに装着した状態の軸方向から見て波形に折り目を形成し、前記軸方向から見て径方向外周側に向けて湾曲部が形成されることを特徴とする請求項2記載の相間絶縁部材。
【請求項5】
周方向に沿って延在するヨークと、該ヨークから径方向内周側に延在する複数のティースからなる固定子コアを備え、前記複数のティースからなるスロット内に固定子コイルが装着され、前記固定子コイル間の異相間には請求項1~4記載の相間絶縁部材を配置したことを特徴とする固定子。
【請求項6】
請求項5記載の固定子と、該固定子に対して相対的に配置され、回転可能に支持される回転子を備えたことを特徴とする電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機を構成する異相の固定子巻線間を絶縁する相間絶縁部材の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動機を小型かつ高出力化するために、電動機における異相間の絶縁は確実に行わなくてはならない。
この種の電動機としては、電気自動車の分野で用いられる電動機が一例として挙げられる。これらの電動機に於いては異相の巻線間や、巻線と固定子間の絶縁性を確保する目的で各種の絶縁部材が用いられる。
【0003】
下記特許文献1には、電気自動車用として、内周に軸方向に延びる多数のスロットを円周方向に間欠的に配列した円筒状の固定子コアと、当該固定子コアに巻装された複数相(例えば三相)の固定子コイルを備えた電動機が図示されている。
【0004】
前記スロットには、固定子コイルと固定子コア間の絶縁性を確保するスロット絶縁紙が配置されており、前記固定子コイルは、当該スロット絶縁紙を介して、前記スロット内に分布巻によって収納されている。
【0005】
分布巻された前記固定子コイルの各相間には相間絶縁紙が配置されて、異相のコイル間の絶縁性を確保している。相間絶縁紙を異相の固定子コイル間に配置する場合、環状のコイルを直列に連続した状態で機械巻きによって形成した環状コイルを前記スロット内に挿入した後、固定子コアの端面からはみ出たコイルエンド部を、例えば、機械成形によって外径側へ押し広げる。
【0006】
次に、スロットに挿入した環状コイルの内径側に相間絶縁紙を配置する。相間絶縁紙を配置したら、さらに、その内径側に次相の環状コイルを全極分挿入した後、コイルエンド部を外径側へ押し広げる。以降、相間絶縁紙の配置と環状コイルの全極分挿入、コイルエンド部の外径側への押し広げる工程を、相数分繰り返す。三相であれば、前記次相の環状コイル(コイルエンド部は外径側へ押し広げられている)の内径側に相間絶縁紙を配置し、さらにその内径側に次々相の環状コイルを配置して終了する。次々相の環状コイルのコイルエンド部は外径側へ押し広げる必要はない。
【0007】
以上のようにして、固定子コアのスロット内に環状コイルを挿入していくのであるが、挿入する環状コイルが、その直前に配置した相間絶縁紙と接触することにより、相間絶縁紙の位置がずれたり、巻き込むことで、相間絶縁紙を損傷してしまう恐れがある。このような問題を解決する手段としては、例えば、下記特許文献1記載の技術が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【0009】
上記特許文献1に記載される技術によれば、固定子コアの周方向に第1のコイルが90度間隔で4つ配置され、第2のコイルが周方向に90度間隔で4つ配置される。4つの第1のコイルと第2のコイルの間には、4つの相間絶縁紙が配置され、また、第3のコイルも固定子コアの周方向に90度の間隔で4つ配置される。4つの第2のコイルと4つの第3のコイルの間にも4つの相間絶縁紙が配置される。
【0010】
前記相間絶縁紙は、固定子コアの軸方向の一対の端面からそれぞれ突き出る一対のシート状絶縁部と、当該一対のシート状絶縁部を互いに連結する複数の脚部を備えており、一対のシート状絶縁部は、第1のコイルのコイルエンド部と第2のコイルのコイルエンド部の間に配置され、複数の脚部は固定子コアのスロットに装着される。
【0011】
このような相間絶縁紙の構造および配置とすることにより、先に装着された相間絶縁紙が、後から挿入される第2のコイルと接触して、ズレたり、巻き込まれたりして、損傷することを防止している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1記載の技術によれば、後から挿入するコイルによって先に装着した相間絶縁紙がズレや巻き込みがある程度、抑制できると思われる。しかし、固定子コアの周方向に配置される第1のコイルや第2のコイルの間に複数の相間絶縁紙を装着する構造であるので、相間絶縁紙を装着するための作業工数が増える。また、相間絶縁紙を複数枚によって構成するので、各々の相間絶縁紙のサイズが小さくなり、後から挿入するコイルと接触した際に、なお、ズレやすい。
【0013】
このようなズレを防止する方法についても上記特許文献1には開示されている。第1のコイルと第2のコイルが重なり合う範囲に複数の脚部を設けることで、相間絶縁紙を引きずる力が強く作用し易い位置に複数の脚部を配置したり、複数の脚部の断面形状がハの字状になるように形成することで、位置ズレを防止している。あるいは、第1のコイルと第2のコイル間に配置しやすくするために形成したシート状絶縁部の折り曲げ部の上端部に切り欠き部を設けることで、後から挿入するコイルが当該上端部に引っ掛かって、相間絶縁紙を巻き込んでしまうことを防止することができる。
【0014】
上述したとおり、従来の方法によれば、複数の相間絶縁紙を装着するといった作業性の悪さと、相間絶縁紙のズレやすさを抑制する方法として開示された技術に関しても、相間絶縁紙に別途の加工を施す必要があり、加工工数が増加する問題がある。
【0015】
そこで、本発明は、相間絶縁紙を極力単純な構成とし、固定子コアへの装着作業を単純化するとともに、各相コイルの挿入作業性の向上と、相間絶縁紙のズレや巻き込みといった問題を確実に解消することのできる相間絶縁紙と、当該相間絶縁紙を備えた固定子、および、当該固定子を備えた電動機を提示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1記載の発明は、異相の固定子コイル間に配置される相間絶縁部材であって、前記相間絶縁部材は固定子コアの軸方向両端面からそれぞれ突出する前記固定子コイルのコイルエンド部間に位置する一対の帯状部分と、当該帯状部分を前記固定子コアのスロット内に位置する複数の脚部で連結され、当該相間絶縁部材の帯状部分は、固定子コイル間に装着する前に、前記相間絶縁部材を固定子コアに装着した状態の軸方向から見て波形の折り目を形成したことに特徴を有する。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1項記載の相間絶縁部材であって、帯状部分に折り目を形成することで、略中空筒状に変形させることに特徴を有する。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の相間絶縁部材の帯状部分に、前記帯状部分には、固定子コアに装着した状態の軸方向から見て波形に折り目を形成し、前記軸方向から見て径方向外周側に向けて湾曲部が形成されることに特徴を有する。
【0019】
請求項4記載の発明は、請求項2記載の相間絶縁部材の帯状部分に、前記帯状部分には、固定子コアに装着した状態の軸方向から見て波形に折り目を形成し、前記軸方向から見て径方向外周側に向けて湾曲部が形成されることに特徴を有する。
【0020】
請求項5記載の発明は、周方向に沿って延在するヨークと、該ヨークから径方向内周側に延在する複数のティースからなる固定子コアを備え、前記複数のティースからなるスロット内に固定子コイルが挿入された固定子であって、前記固定子コイル間の異相間に請求項1~4記載の相間絶縁部材を配置したことに特徴を有する。
【0021】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の固定子と、該固定子に対して相対的に配置されて、回転可能に支持される回転子を備えた電動機であることに特徴を有する。
【発明の効果】
【0022】
請求項1記載の発明によれば、単一の相間絶縁部材を固定子に装着すればよく、作業性が向上する。また、相間絶縁部材が単一であるため、サイズの小さな複数の相間絶縁部材を配置する場合と比較して、ズレや巻き込みが発生しにくい。
【0023】
さらに、相間絶縁部材の帯状部分が、固定子コイル間に装着する前に、径方向断面から見て波形の折り目が形成されているので、固定子コイル間に装着した後に波形に変形させる場合と比較して、相間絶縁部材の成形(波形の寸法調整など)が容易となる。
【0024】
請求項2記載の発明によれば、相間絶縁部材に形成した波形の折り目を形成することによって、相間絶縁部材を略中空筒状に変形させることができ、相間絶縁部材の固定子コアへの装着作業を効率化することができる。
【0025】
請求項3,4記載の発明によれば、相間絶縁部材に、固定子コアに装着した状態の軸方向から見て、径方向外周側に向けて湾曲部が形成されるので、固定子コイルを固定子コアに挿入する際に、相間絶縁部材が邪魔にならず相間絶縁部材のズレや巻き込みを確実に防止することができる。
【0026】
請求項5記載の発明によれば、相間絶縁部材のズレや巻き込みのない固定子を製作することができ、固定子の品質を確保できる。
【0027】
請求項6記載の発明によれば、相間絶縁部材のズレや巻き込みのない固定子を備えたモータを製作することができ、モータの品質を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図5】本発明の固定子に固定子コイル1相分を挿入した状態を示す斜視図である。
【
図6】本発明の固定子に固定子コイル1相分と中外層間相間絶縁部材を取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図7】本発明の固定子に固定子コイル1相分と中外層間相間絶縁部材を取り付けた状態を示す平面図である。
【
図8】本発明の固定子に固定子コイル2相分と中外層間相間絶縁部材を取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図9】本発明の固定子に固定子コイル2相分と中外層間相間絶縁部材および内中層間相間絶縁部材を取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図10】本発明の固定子に固定子コイル2相分と中外層間相間絶縁部材および内中層間相間絶縁部材を取り付けた状態を示す平面図である。
【
図11】本発明の固定子に固定子コイル3相分と中外層間相間絶縁部材および内中層間相間絶縁部材を取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図12】本発明の固定子に固定子コイル3相分と中外層間相間絶縁部材および内中層間相間絶縁部材を取り付けた状態を示す平面図である。
【
図13】本発明の比較例として、略円筒形状の相間絶縁部材を固定子コアに取り付ける前段階を示す斜視図である。
【
図14】本発明の比較例として、略円筒形状とする相間絶縁部材の展開図である。
【
図15】本発明の比較例として、略円筒形状の相間絶縁部材を固定子コアに取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図16】本発明の比較例として、固定子コアに取り付けた略円筒形状の相間絶縁部材の帯状部分を波形に変形させた状態を示す斜視図である。
【
図17】相間絶縁部材の帯状部分を機械成形によって波形に変形させた状態を示す要部拡大平面図である。
【
図18】本発明に係る折り目を利用して帯状部分を波形に変形させた状態を示す要部拡大平面図である。
【
図19】本発明の電動機の一例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、本明細書では、「軸方向」という記載は、
図19に示す回転子900が
図1,
図2,
図19に示す固定子100に対して相対的に回転可能に配置されている状態において、回転子900の回転中心線Pの延在方向を指す。また「周方向」という記載は、回転子900が固定子100に対して相対的に回転可能に配置されている状態において、軸方向に直角な断面で見て、回転中心線Pを中心とする周方向を指す。
【0030】
「径方向」という記載は、回転子900が固定子100に対して相対的に回転可能に配置されている状態において、軸方向に直角な断面で見て、回転子900の回転中心線Pから回転中心線Pと反対(固定子外径)側の方向、もしくは回転子900の回転中心線P(固定子外径)の反対側から回転中心線Pの方向をいい、「径方向内周側」という記載は、回転中心線P側を指し、「径方向外周側」という記載は、回転中心線Pと反対側を示す。
【0031】
そして、相間絶縁部材に対して、「軸方向」、「周方向」および「径方向」、「径方向内周側」、「径方向外周側」という記載をした場合は、相間絶縁部材が固定子コアに装着された状態における、前記「軸方向」、「周方向」および「径方向」、「径方向内周側」、「径方向外周側」と同一方向を指す。
【0032】
図1は、本発明の電動機を構成する固定子100を示す斜視図であり、
図2は固定子100の平面図である。固定子100は、電磁鋼板を積層して構成される固定子コア200と、固定子コア200に巻装される固定子コイル300と、
図2に示すスロット絶縁部材400および相間絶縁部材500から概略構成されている。
【0033】
固定子コア200は、
図2に示すように、軸方向に沿った一方側から見て、周方向に沿って延在するヨーク210と、径方向に沿って延在している複数のティース220を有している。
【0034】
ティース220は、ヨーク210から径方向に沿って径方向内周側に延在すティース基部221と、ティース基部221の径方向内周側に設けられ、周方向に沿って延在するティース先端部222を有している。ティース先端部222の径方向内周側のティース先端面222aによって、図示しない回転子が挿入される回転子挿入孔200aが形成される。本発明の電動機は、例えば、
図1,
図2に示す固定子100の回転子挿入孔200aに、
図19に示すように回転子900を挿入した状態で、回転中心線Pを中心に、ブラケット910に取り付けたベアリング920によって回転可能に支持されて構成される。
【0035】
周方向に隣接するティース220によってスロット231が形成され、スロット231内には、スロット絶縁部材400を介して固定子コイル300が挿入される。固定子コイル300はスロット231内に多相(例えば、三相)のコイルが分布巻で挿入される。
【0036】
相間絶縁部材500は、多相(3相)の固定子コイル301,302,303の異相のコイル間に配置される2つの絶縁紙であって、
図2では径方向外周側に中外層間相間絶縁部材500Aが配置され、径方向内周側に内中層間相間絶縁部材500Bが配置される。なお、
図2では、固定子100の構造の説明を簡略化するために、2つの相間絶縁部材500A,500Bをともに真円にて図示しているが、実際には、
図1に示す各コイル301,302,303間に入り組んだ状態で配置されている。
【0037】
図3に相間絶縁部材500(500A, 500B)の展開図を示す。本発明の相間絶縁部材500は、電気絶縁性に優れた材料(例えば、PET、PEN、PPS、ノーメックス及びそれらの複合部材等のエンプラフィルムからなる絶縁シート)からなり、1枚の絶縁シートを、例えば、打ち抜き加工することにより、複数のティース挿入孔510を絶縁シートの長手方向に離間させ形成している。
【0038】
隣接する各々のティース挿入孔510間には脚部520が形成され、絶縁シートの短手方向両端部には一対の帯状部分530,540が残存する。一対の帯状部分530,540の少なくとも一方には、一対の傾斜部550a,550bと、一対の傾斜部550a,550b間を繋ぐ底辺部550cからなる凹部550が形成される。帯状部分530には、この凹部550が形成される部位と形成されない部位を交互に配置することができる。ただし、交互に配置するのみならず、連続して配置したり、連続する箇所と交互に配置する箇所を自由に設定することができる。なお、
図3では帯状部分530に凹部550を形成したが、帯状部分540や、帯状部分530,540の双方に凹部550を形成しても良い。
【0039】
図3において、第1の折り目560は脚部520から帯状部分530、540側へ向けて、当該脚部520の幅寸法と同一幅(ほぼ同一を含む)で谷折りに折り曲げられ、第1の折り目560で挟まれた狭幅部位を第1部分580と呼ぶ。
【0040】
また、ティース挿入孔510を挟んで対向する帯状部分530、540側には第2の折り目570が山折りに2箇所設けられ、第2の折り目570により一対の折り目を形成する。一対の第2の折り目570で挟まれた部位を第2部分590と呼び、第1部分580と第2部分590とに挟まれる部位を第3の部分600と呼ぶ。
【0041】
第1の折り目560と第2の折り目570は、帯状部分530の第1の部分580が紙面最奥面に配置され、第2の部分590が紙面最前面に配置されるように折り曲げられ、第3の部分600で、第1の部分580と第2の部分590をつなぐ。
【0042】
図3に示す1枚シート状の相間絶縁部材(絶縁シート)500は、帯状部分530に第1の折り目560と第2の折り目570を形成することによって、作業者が力を加えることなく、
図4に示す略中空筒形状に変形させることができる。なお、
図4では、相間絶縁部材500の帯状部分530,540の何れにも凹部550が形成されていない場合を示している。
【0043】
相間絶縁部材500を略中空筒形状に変形させることによって、帯状部分530,540は軸方向からみて波形に湾曲し、第1の部分580が波形の最外縁を形成し、第2の部分590が波形の最内縁を形成する。略中空筒形状に変形した状態では、
図3に示す1枚シートからなる相間絶縁部材(絶縁シート)500の長手方向両端部は、接合しなくても
図4に示す略中空筒形状を維持することができる。このように、本発明の相間絶縁部材500は、長手方向両端部を接合する工程を省略することができるが、敢えて接合しても差し支えない。
【0044】
次に、本発明の相間絶縁部材500を固定子コア200に取り付ける場合について説明する。まず、固定子コア200のスロット231内に、
図2に示すように、スロット絶縁部材400を配置する。このとき、スロット絶縁部材400は、
図5に示す軸方向の両端部に有する折り返し部400aが、固定子コア200の軸方向端面200A,200Bから外部へ突出している。
【0045】
つづいて、スロット231内にスロット絶縁部材400を介して第1相コイル301を挿入する。第1相コイル301は、環状コイルを直列に連続させた状態で巻かれており、複数(
図5では3個)のティース220を跨ぐように挿入される。コイル301のスロット231への挿入は、図示しない巻線挿入機によって行われ、5つのコイルが固定子コア200の周方向に72度間隔に分布巻で巻装される。このコイル301の挿入時にスロット絶縁部材400の折り返し部400aが固定子コア200の端面200Aに当接し、スロット絶縁部材400が位置ずれを起こすことを防止する。つまり、スロット絶縁部材400の折り返し部400aはストッパとして機能する。
【0046】
第1相コイル301が挿入された状態では、第1相コイル301のコイル辺がスロット231内に収納され、コイルエンド部が固定子コア200の軸方向端面200A,200Bから外部へ突出した状態となる。突出したコイルエンド部は、機械成形によって径方向外周側に押し広げられる。径方向外周側への押し広げは、
図5に示す固定子コア200の両端面200A,200Bから突出する両側のコイルエンド部に共通して実施される。
【0047】
次に、
図4に示す状態の中外層間相間絶縁部材500Aを固定子コア200に取り付ける。中外層間相間絶縁部材500Aの固定子コア200への取り付けは、
図4に示す略中空筒状に形成した中外層間相間絶縁部材500Aを、径方向内周側に縮径した状態で、固定子コア200の軸方向に沿って、回転子挿入孔200a内に挿入する。
【0048】
つづいて、回転子挿入孔200a内で縮径した状態の中外層間相間絶縁部材500Aの縮径状態を解くことにより、中外層間相間絶縁部材500Aの脚部520を第1相コイル301のコイル辺が収められていないスロット231内に、径方向内周側から装着する。当該脚部520のスロット231内への装着は、
図6の場合、第1相コイル301のコイル辺が挿入されたスロット231の周方向時計回りに隣接するスロット231内に装着される。つまり、中外層間相間絶縁部材500Aの脚部520も複数(
図5では3個)のティース220を跨ぐように挿入される。
【0049】
中外層間相間絶縁部材500Aが固定子コア200に取り付けられた状態では、中外層間相間絶縁部材500Aの帯状部分530,540は、固定子コア200の両端面200A,200Bから突出した状態となる。そして、帯状部分530,540の第1部分580が、周方向の1つ置きに、第1相コイル301の径方向外周側に押し広げられた位置に配置され、第2部分590が押し広げられていない位置に配置される。
【0050】
図7は、当該配置状態を示す平面図である。
図7に示すように、中外層間相間絶縁部材500Aの帯状部分530(540)は、第1部分580が、第1相コイル301の径方向外周側へ押し広げられた位置と、隣接する第1相コイル301の間の第1相コイル301が存在しない固定子コア200の端面200A上に配置される。帯状部分530(540)の第2部分590は常に第1相コイル301の径方向外周側へ押し広げられていない位置に配置され、第3部分600が第1部分580と第2部分590とをつないでいる。
【0051】
固定子コア200に第1相コイル301と中外層間相間絶縁部材500Aが取り付けられたら、次に、固定子コア200のスロット231内に第2相コイル302を挿入する。第2相コイル302も第1相コイル301と同様に、環状コイルを直列に連続させた状態で巻かれており、複数(
図8では3個)のティース220を跨ぐようにして挿入される。
【0052】
このとき、第2相コイル302は、固定子コア200のスロット231のうち、中外層間相間絶縁部材500Aの第一部分580が配置されているスロット231内に分布巻で挿入される。第2相コイル302の挿入時においても、スロット絶縁部材400の折り返し部400aが固定子コア200の端面200Aに当接することで、スロット絶縁部材400が位置ずれを防止している。
【0053】
固定子コア200に挿入された第2相コイル302は、
図8に示すように、コイル辺がスロット231内に収納され、コイルエンド部が固定子コア200の軸方向端面200A,200Bから外部へ突出した状態となる。突出したコイルエンド部は、第1相コイル301と同様に、機械成形によって径方向外周側に押し広げられる。このとき、第1相コイル301と第2相コイル302間に介在する中外層間相間絶縁部材500Aに、
図3に示す凹部550が形成されていると、径方向外周側へ押し広げられた第2相コイル302のコイルエンド部により中外層間相間絶縁部材500Aを径方向外周側へ押し広げても、中外層間相間絶縁部材500Aが、コイルエンド部から径方向外周側及び、軸方向へ飛び出すことを防止することができる。
【0054】
つづいて、
図4に示す略中空筒状の中内層間相間絶縁部材500Bを固定子コア200に取り付ける。中内層間相間絶縁部材500Bの固定子コア200への取り付けにおいても、一旦、径方向内周側に縮径して、固定子コア200の軸方向に沿って、回転子挿入孔200a内に挿入する。
【0055】
回転子挿入孔200a内に挿入した縮径状態の中内層間相間絶縁部材500Bは、その縮径状態を解くことによって、中内層間相間絶縁部材500Bの脚部520を第1相コイル301および第2相コイル302のコイル辺が収められていないスロット231内に、径方向内周側から装着する。当該脚部520のスロット231内への装着は、
図9の場合、第2相コイル302のコイル辺が挿入されたスロット231の周方向時計回りに隣接するスロット231内に装着される。
【0056】
中内層間相間絶縁部材500Bが第1相コイル301および第2相コイル302とともに固定子コア200に取り付けられた状態では、中内層間相間絶縁部材500Bの帯状部分530,540は、固定子コア200の両端面200A,200Bから突出した状態となる。
図10に示すように、帯状部分530,540は、第1部分580が第1相コイル301の径方向外周側に押し広げられた位置と第2相コイル302の径方向外周側に押し広げられた位置に交互に配置され、第2部分590が、第1相コイル301と第2相コイル302の径方向外周側に押し広げられていない位置に配置される。第3部分600は第1部分580と第2部分590をつなぐ。
【0057】
図7に示すように、固定子コア200に第1相コイル301および第2相コイル302と中内層間相間絶縁部材500Bが取り付けられたら、次に、固定子コア200のスロット231内に第3相コイル303を挿入する。第3相コイル303も、環状コイルを直列に連続させた状態で巻かれており、複数(
図8では3個)のティース220を跨ぐようにして、図示しない巻線挿入機によって挿入される点は、第1相コイル301,第2相コイル302と同様である。
【0058】
第3相コイル303は、固定子コア200のスロット231のうち、中内層間相間絶縁部材500Bの第一部分580が配置されているスロット231に分布巻で挿入される。第3相コイル302の挿入時においても、スロット絶縁部材400の折り返し部400aが固定子コア200の端面200Aに当接し、スロット絶縁部材400の位置ずれを防止する。
【0059】
固定子コア200に挿入された第3相コイル303は、
図11に示すように、コイル辺がスロット231内に収納され、コイルエンド部が固定子コア200の軸方向端面200A,200Bから外部へ突出した状態となるが、挿入するコイルが第1相~第3相のみである場合、次相コイルの挿入性を考慮する必要がないので、第1相コイル301、第2相コイル302と異なり、突出したコイルエンド部を径方向外周側に押し広げる必要はない。つまり、第3相コイル303のコイルエンド部は、固定子コア200の両端面200A,200Bから起立した状態で突出する。なお、第3相コイル303のコイルエンド部を径方向外周側に押し広げる必要がないので、中内層間相間絶縁部材500Bは、
図3に示す凹部550を形成する必要がない。当該凹部550は、コイルエンド部を径方向外周側に押し広げる際に、相間絶縁部材がコイルエンド部の径方向外周側及び軸方向への飛び出しを防止するために形成するものだからである。
【0060】
図12は固定子コア200に第1相~第3相コイル301,302,303を取り付けた状態を示す平面図である。
図12に示すように、中内層間相間絶縁部材500Bは、第1相コイル301および第2相コイル302と第3相コイル303間に介在し、双方を絶縁している。中内層間相間絶縁部材500Bの第1部分580は、第3相コイル303が挿入されているスロット231内に位置し、第2部分590は、第1相コイル301および第2相コイル302の間、および、第1相コイル301および第2相コイル302の径方向外周側へ押し広げられていない位置に配置される。
【0061】
このようにして、本発明の相間絶縁部材500A,500Bは、固定子コイル300(301~303)とともに固定子コア200に取り付けられ、
図12に示す固定子100を構成する。このとき、相間絶縁部材500A,500Bは、軸方向からみて帯状部分530,540が波形に形成されているので、固定子コイル300を固定子コア200のスロット231内に挿入する際に、相間絶縁部材500A,500Bが邪魔をして挿入を阻害することがなく、作業性を向上させることができる。
【0062】
図12に示す状態の固定子100は、固定子コイル300(301,302,303)のコイルエンド部を機械成形によって、軸方向寸法や径方向寸法が最小とるように成形する。機械成形後、固定子コイル300(301,302,303)はその外周を縛り糸によって縛りつける。
【0063】
図13は本発明の相間絶縁部材500(500A,500B)の比較例として示す相間絶縁部材700(700A,700B)の斜視図である。
図13に示す相間絶縁部材700は、略中空円筒状に成形した絶縁シートの側面に、複数のティース挿入孔710を周方向に離間させ形成している。当該相間絶縁部材700は、
図14に示すように、打ち抜き加工等によって複数のティース挿入孔710を形成した1枚の絶縁シートを、その長手方向両端部を接合することによって形成される。
【0064】
絶縁シートに複数のティース挿入孔710を形成することにより、各ティース挿入孔710間には脚部720が形成され、絶縁シートの短手方向両端部には一対の帯状部分730,740が形成される。帯状部分730,740には、一対の傾斜部750a,750bと、傾斜部750a,750b間をつなぐ底辺部750cからなる凹部750を形成することができる。凹部750が形成する場合は、帯状部分730,740に凹部750が形成される部位と形成されない部位を長手方向に交互に配置することができる。
【0065】
図14に示す絶縁シートを
図13に示す中空円筒状の相間絶縁部材700に成形する場合は、
図3に示す相間絶縁部材500と異なり、第1の折り目560と第2の折り目570が形成されないことにより、
図14に示す相間絶縁部材700が中空円筒状に変形することはなく、作業者が中空円筒形状となるように力を加え、長手方向の両端部を接合することによって、
図13に示す中空円筒状を維持する必要がある。なお、
図13では、
図14に示す絶縁シートの帯状部分730,740に凹部750が形成されていない場合の相間絶縁部材700を示している。
【0066】
略中空円筒状に成形された中外層間相間絶縁部材700Aは、
図13に示す固定子コア200に取り付けられる。なお、中外層間相間絶縁部材700Aの取り付けに先立ち、固定子コア200には、固定子コイル300のうち、第1相コイル301がスロット231内に挿入される。挿入の仕方や、第1相コイル301の径方向外周側への押し広げについては、
図5にて説明した場合と同様であるため、説明は割愛する。
【0067】
図13に示す中外層間相間絶縁部材700Aを固定子コア200に取り付ける場合も、略中空円筒状をなす中外層間相間絶縁部材700Aを径方向に縮径し、この状態で固定子コア200の回転子挿入孔200aに挿入した後、縮径状態を解除する。これにより、中外層間相間絶縁部材700Aの脚部720が固定子コア200のスロット231内に、径方向内周側から装着される。
【0068】
図15に中外層間相間絶縁部材700Aを固定子コア200に取り付けた状態を示す。中外層間相間絶縁部材700Aは、帯状部分730,740が固定子コア200の軸方向の両端面200A,200Bから軸方向へ突出した状態で固定子コア200に取り付けられる。つづいて、第2相コイル302を固定子コア200に挿入するのであるが、
図15に示す状態では、第2相コイル302を固定子コア200のスロット231に挿入する際に、中外層間相間絶縁部材700Aと干渉してしまい、挿入することができない。
【0069】
そこで、固定子コア200に取り付けた状態の中外層間相間絶縁部材700Aの帯状部分730を、
図16に示すように、第2相コイル302の挿入が可能となるように、一部を径方向外周側に湾曲させる必要がある。このような湾曲成形の実現には、コイルと同時に相間絶縁を機械成形することが一例として挙げられるが、機械成形のみでは、成形する度合いの調節が難しく、
図17に示すように、中外層間相間絶縁部材700Aの帯状部分730が固定子コア200の内径側(回転子挿入孔200a側)に飛び出す可能性が生じる。
【0070】
中外層間相間絶縁部材700Aが回転子挿入孔200a側に飛び出すと、
図16に示す状態の固定子コア200に第2相コイル302を挿入する際に、当該挿入作業に使用する巻線挿入機の構成治具(図示せず)が干渉してしまい、挿入作業に支障をきたす。
【0071】
一方、本発明の相間絶縁部材500(500A,500B)によれば、
図3に示すように、絶縁シートに第1の折り目560と第2の折り目570を付ける位置や、折り目の強弱によって
図4に示す形状の相間絶縁部材500の湾曲度合いを調整しやすいので、固定子コア200に取り付けた際に、
図18に示すように、相間絶縁部材500の帯状部分530が固定子コア200の内径側(回転子挿入孔200a側)に飛び出すことを確実に防止できる。
【0072】
これにより、固定子コア200に第2相コイル302を挿入する際にも、巻線挿入機を構成する治具と相間絶縁部材500が干渉することはなく、挿入作業を確実に実施することができる。
【0073】
以上説明したように、本発明の相間絶縁部材によれば、1枚の絶縁シートから構成される単一の相間絶縁部材を固定子に取り付ければよいので、複数枚の相間絶縁部材を装着する従来例と比較して、装着作業性が向上する。また、単一の相間絶縁部材は、固定子コイルを固定子コアに挿入する場合に、ズレや巻き込みが発生しにくい利点を有する。
【0074】
さらに、固定子コイル間に相間絶縁部材を装着する前に、軸方向からみて相間絶縁部材を波形に成形するので、固定子コイル間に装着した後に波形に変形させる場合と比較して、相間絶縁部材の湾曲部を目的の寸法、形状に調節して成形しやすく、帯状部分が回転子挿入孔側に突出することを防止し、固定子コイルの挿入作業に支障をきたすことがない。
【0075】
しかも、1枚の絶縁シートの状態で帯状部分に折り目を付けて相間絶縁部材を形成することで、作業者が力を加えることなく、相間絶縁部材を略中空筒状に変形させることができ、1枚の絶縁シートの長手方向両端部の接合が不要となるとともに、成形作業の負担を軽減することができる。
【0076】
その上、相間絶縁部材を軸方向からみて、径方向外周側に向けて湾曲部が形成されているので、固定子コイルを固定子コアに挿入する際に、固定子コイルが相間絶縁部材に接触することを確実に回避でき、相間絶縁部材のズレや巻き込みを確実に防止できる。
【0077】
また、上記相間絶縁部材を備えた固定子、電動機は、相間絶縁部材のズレや巻き込みのない固定子、電動機となり、製品品質を良好に維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
異相のコイルを備える固定子に利用可能である。
【符号の説明】
【0079】
100 固定子
200 固定子コア
200A,200B 固定子コア端面
200a 回転子挿入孔
210 ヨーク
220 ティース
221 ティース基部
222 ティース先端部
222a ティース先端面
231 スロット
300 固定子コイル
301 第1相コイル
302 第2相コイル
303 第3相コイル
400 スロット内絶縁部材
400a 折り返し部
500,700 相間絶縁部材
500A 中外層間相間絶縁部材
500B 中内層間相間絶縁部材
510,710 ティース挿入孔
520,720 脚部
530,540,730,740 帯状部分
550,750 凹部
550a,550b, 750a,750b 傾斜部
550c,750c 底辺部
560 第1の折り目
570 第2の折り目
580 第1部分
590 第2部分
600 第3部分
800 ウェッジ
900 回転子
910 ブラケット
920 ベアリング