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特開2025-6709電磁波吸収体、電磁波吸収システム、及び、電磁波減衰方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006709
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】電磁波吸収体、電磁波吸収システム、及び、電磁波減衰方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20250109BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20250109BHJP
   E04B 1/92 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H05K9/00 V
H05K9/00 M
H01Q17/00
E04B1/92
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107678
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】592254526
【氏名又は名称】学校法人五島育英会
(71)【出願人】
【識別番号】000002462
【氏名又は名称】積水樹脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100145229
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100201352
【弁理士】
【氏名又は名称】豊田 朝子
(72)【発明者】
【氏名】岡野 好伸
(72)【発明者】
【氏名】柳井 俊輔
【テーマコード(参考)】
2E001
5E321
5J020
【Fターム(参考)】
2E001DH01
2E001FA06
2E001FA11
2E001FA14
2E001GA06
2E001GA12
2E001GA42
2E001HA11
2E001HB04
2E001HB05
2E001HD13
5E321AA33
5E321AA44
5E321BB23
5E321BB25
5E321BB57
5E321BB60
5E321GG12
5E321GH01
5E321GH03
5J020DA01
5J020EA04
5J020EA05
5J020EA07
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で、電磁波の吸収性能が高く且つ吸収帯域が広く、光透過性を有する電磁波吸収体を提供する。
【解決手段】電磁波吸収体10は、光透過性の誘電体材料を含む誘電体層21と、誘電体層21の一主面に配列されたパッチ素子22と、誘電体層21の他主面に形成された反射膜23と、を備える。誘電体層21は、減衰対象の電磁波の誘電体層内の波長の1/100~1/10の範囲の厚さを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性の誘電体材料を含む誘電体層と、
前記誘電体層の一主面に配列された複数のパッチ素子と、
前記誘電体層の第二主面に、前記パッチ素子に対向して構成された導電性の反射膜と、
を備え、
前記誘電体層は、減衰対象の電磁波の該誘電体層内の波長の1/100~1/10の範囲の厚さを有する、
電磁波吸収体。
【請求項2】
前記誘電体層は、減衰対象の電磁波の該誘電体層内の波長の1/70~1/20の範囲の厚さを有する、
請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記パッチ素子と前記誘電体層と前記反射膜とは、減衰対象の電磁波に対して、空洞共振器として機能し、前記誘電体層内に電界集中領域を生成する、
請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記誘電体層の厚さをT、比誘電率をεr1としたときに、前記パッチ素子の前面に、厚さtと比誘電率εr2の積t・εr2が、前記誘電体層の厚さをTと比誘電率εr1との積T・εr1より大きい層を備えていない、
請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
前記パッチ素子の前面に、周波数選択型反射吸収層を形成する層が配置されていない、
請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項6】
前記パッチ素子と前記反射膜とは、光透過性の金属から構成される、
請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項7】
前記複数のパッチ素子を覆う保護層を備える、
請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項8】
前記複数のパッチ素子の少なくとも1つは、それぞれ、平面視で矩形の角部に切り欠き部が形成された形状を有する、請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項9】
前記複数のパッチ素子は、平面視で矩形の形状を有し、少なくとも1つの前記パッチ素子を貫通する孔が形成されている、請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項10】
前記孔は、少なくとも1つの前記パッチ素子と前記誘電体層と前記反射膜とを貫通している、請求項9に記載の電磁波吸収体。
【請求項11】
前記孔は、各パッチ素子に複数個形成されており、
各前記パッチ素子と複数の前記孔は、正面視で、90°回転対称に形成されて
いる、請求項10に記載の電磁波吸収体。
【請求項12】
請求項8から11の何れか1項に記載の電磁波吸収体を複数備え、
前記複数の電磁波吸収体は、減衰対象の電磁波を放射する電磁波源に対向して配置されており、
前記パッチ素子の切り欠き部又は孔は、電磁波源からの電磁波の入射角に応じたサイズを有する、
電磁波吸収システム。
【請求項13】
請求項8に記載の電磁波吸収体を複数備え、
前記複数の電磁波吸収体は、減衰対象の電磁波を放射する電磁波源に対向して配置されており、
前記切り欠き部のサイズは、電磁波源からの電磁波の入射角が大きくなるに従って小さくなる、
電磁波吸収システム。
【請求項14】
請求項9、10又は11に記載の電磁波吸収体を複数備え、
前記複数の電磁波吸収体は、減衰対象の電磁波を放射する電磁波源に対向して配置されており、
前記孔は、電磁波源からの電磁波の入射角が大きくなるに従って大きくなる径を有する、
電磁波吸収システム。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の電磁波吸収体を、電磁波源に向けて複数配置し、
前記配置の前又は後に、各前記電磁波吸収体の複数の平面視で矩形状の前記パッチ素子の角部に切り欠き部を形成し、
前記切り欠き部のサイズは、電磁波源からの電磁波の入射角が大きくなるに従って小さくなる、
ことを特徴とする電磁波減衰方法。
【請求項16】
請求項1又は2に記載の電磁波吸収体を、電磁波源に向けて複数配置し、
前記配置の前又は後に、各前記電磁波吸収体の複数の前記パッチ素子を貫通する孔を形成し、
前記複数の孔は、電磁波源からの電磁波の入射角が大きくなるに従って大きくなる径を有する、
ことを特徴とする電磁波減衰方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁波波吸収体、電磁波吸収システム、及び、電磁波減衰方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室内用無線通信機器の利用が拡大している。これに伴い、室内壁面などによる多重反射を原因とする電磁波干渉により通信環境が劣化する懸念も増大している。このような観点から、部屋の壁面などに設置され、電磁波を吸収(減衰)する電磁波吸収体(パネル)が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、UWB通信等を考慮して、GHz帯で広い帯域の電磁波を吸収する電磁波吸収体が開示されている。この電磁波吸収体は、抵抗膜と、抵抗膜の一面にマトリクス状に配列されたパッチ素材(電極)と、パッチ素材上に配置された誘電体層と、誘電体層の上に配置された金属箔とから構成されている。この電磁波吸収体は、吸収帯域が広いが、吸収のピークが小さい。また、抵抗膜と誘電体層を積層するため、全体が厚く重くなる虞がある。また、抵抗膜の調整が煩雑である。このため、構造のより簡略化及び製造の容易化が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-87980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
物流・生産管理などに使用されるUHF(Ultra High Frequency)-RFID(Radio Frequency IDentifier)システムでは、通信に使用される周波数が特定の周波数帯であるため、複数の周波数帯域にまたがるような広帯域に亘る吸収性は要求されない。一方で、RFIDの品質のばらつき、環境温度の変化、等に起因する通信周波数のばらつきに対応できる程度には広い吸収特性が必要となる。また、電磁波の反射等に起因する、斜方入射等への対応が必要である。
【0006】
また、物流や生産管理の現場では、目視や監視カメラを用いた安全確認も必要不可欠な作業である。このため、RFIDタグの認証精度を向上するための電磁波吸収体が、視認の死角を増大させることは望ましくない。特許文献1に記載された電磁波吸収体は、光不透過性の抵抗膜、光非透過性の樹脂層、パッチ素材、金属層が積層されており、このような目的には、寄与できない。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、電磁波の吸収性能が高く且つ吸収帯域が広く、光透過性を有する電磁波吸収体と電磁波吸収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 上記目的を達成するために、本発明の電磁波吸収体は、
光透過性の誘電体材料を含む誘電体層と、
前記誘電体層の一主面に配列された複数のパッチ素子と、
前記誘電体層の第二主面に、前記パッチ素子に対向して構成された導電性の反射膜と、
を備え、
前記誘電体層は、減衰対象の電磁波の該誘電体層内の波長の1/100~1/10の範囲の厚さを有する。
【0009】
[2]前記誘電体層は、減衰対象の電磁波の該誘電体層内の波長の1/70~1/20の範囲の厚さを有することが望ましい。
【0010】
[3]前記パッチ素子と前記誘電体層と前記反射膜とは、例えば、減衰対象の電磁波に対して、空洞共振器として機能し、前記誘電体層内に電界集中領域を生成する[1]又は[2]記載の電磁波吸収体。
【0011】
[4]前記誘電体層の厚さをT、比誘電率をεr1としたときに、前記パッチ素子の前面に、厚さtと比誘電率εr2の積t・εr2が、前記誘電体層の厚さをTと比誘電率εr1との積T・εr1より大きい層を備えていないことが望ましい[1]、[2]又は[3]に記載の電磁波吸収体。
【0012】
[5]前記パッチ素子の前面に、周波数選択型反射吸収層を形成する層が配置されていないことが望ましい[1]~[4]のいずれか記載の電磁波吸収体。
【0013】
[6]前記パッチ素子と前記反射膜とは、光透過性の金属から構成されることが望ましい[1]~[5]のいずれか記載の電磁波吸収体。
【0014】
[7]前記複数のパッチ素子を覆う保護層を備えてもよい[1]~[6]のいずれか記載の電磁波吸収体。
【0015】
[8]例えば、前記複数のパッチ素子の少なくとも1つは、それぞれ、平面視で矩形の角部に切り欠き部が形成された形状を有する[1]~[7]のいずれか記載の電磁波吸収体。
【0016】
[9]例えば、前記複数のパッチ素子は、平面視で矩形の形状を有し、少なくとも1つの前記パッチ素子を貫通する孔が形成され[1]~[7]のいずれか記載の電磁波吸収体。[10]前記孔(切り欠き部を含む)は、少なくとも1つの前記パッチ素子と前記誘電体層と前記反射膜とを貫通してもよい[9]に記載の電磁波吸収体。
【0017】
[11]例えば、前記孔は、各パッチ素子に複数個形成されてもよい。この場合、各前記パッチ素子と複数の前記孔は、正面視で、90°回転対称に形成されていることが望ましい[8]~[10]のいずれか記載の電磁波吸収体。
【0018】
[12]この発明の第二の形態に係る電磁波吸収システムは、上述の電磁波吸収体を複数備え、前記複数の電磁波吸収体は、減衰対象の電磁波を放射する電磁波源に対向して配置されており、前記パッチ素子の切り欠き部又は孔は、電磁波源からの電磁波の入射角に応じたサイズを有する。
【0019】
[13]この発明の第三の形態に係る電磁波吸収システムは、上述の電磁波吸収体を複数備え、前記複数の電磁波吸収体は、減衰対象の電磁波を放射する電磁波源に対向して配置されており、前記切り欠き部のサイズは、電磁波源からの電磁波の入射角が大きくなるに従って小さくなるように形成されている。
【0020】
[14]この発明の第四の形態に係る電磁波吸収システムは、上述の電磁波吸収体を複数備え、前記複数の電磁波吸収体は、減衰対象の電磁波を放射する電磁波源に対向して配置されており、前記孔は、電磁波源からの電磁波の入射角が大きくなるに従って大きくなる径を有する。
【0021】
[15]この発明の第一の形態に係る電磁波減衰方法は、
上述の電磁波吸収体を、電磁波源に向けて複数配置し、
前記配置の前又は後に、各前記電磁波吸収体の複数の平面視で矩形状の前記パッチ素子の角部に切り欠き部を形成し、
前記切り欠き部のサイズは、電磁波源からの電磁波の入射角が大きくなるに従って小さくなる。
【0022】
[16]この発明の第二の形態に係る電磁波減衰方法は、
上述の電磁波吸収体を、電磁波源に向けて複数配置し、
前記配置の前又は後に、各前記電磁波吸収体の複数の前記パッチ素子を貫通する孔を形成し、
前記複数の孔は、電磁波源からの電磁波の入射角が大きくなるに従って大きくなる径を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の電磁波吸収体によれば、簡単な構成でありながら、目的電磁波に高い吸収特性を得ることができる。また、誘電体層の厚さを調整することで吸収帯域の幅を調整することができるので、電磁波の特性に合わせた広い吸収帯域を設定できる。また、誘電体層を光透過性の誘電体材料から形成しているので、電磁波吸収体による死角の発生を抑えることができる。また、貫通孔を形成した場合には、通気性も確保することができる。
【0024】
本発明の電磁波吸収システムよっても同様の効果を得ることができる。
また、本発明の電磁波減衰方法によって、簡単な工程で、目的とする電磁波を適切に減衰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施の形態に係る電磁波吸収体の斜視図であり、(a)は表面側の図、(b)は裏面側の図である。
図2図1に示す電磁波吸収体のII-II線での矢視断面図である。
図3図1及び図2に示す電磁波吸収体の評価対象領域を説明する図である。
図4図3に示す評価対象領域の電界強度の分布を説明する図であり、(a)は目的周波数近傍の周波数の電磁波が入射した場合の評価対象領域内の電界強度分布を示す図、(b)は目的周波数の電磁波が入射した場合の評価対象領域内の電界強度分布を示す図である。
図5】実施の形態に係る電磁波吸収体の評価方法を説明する図である。
図6図1及び図2に示す電磁波吸収体の、誘電体層の厚さが5mmのときの、(a)TE波に対する吸収特性、(b)TM波に対する吸収特性を示すグラフである。
図7図1及び図2に示す電磁波吸収体の、誘電体層の厚さが10mmのときの、(a)TE波に対する吸収特性、(b)TM波に対する吸収特性を示すグラフである。
図8図6図7に示すTE波に対するθ=10°のときの吸収特性を、ピーク周波数を正規化して示すグラフである。
図9】比較例に係る電磁波吸収体の図であり、(a)は分解斜視図、(b)は断面図である。
図10図9に示す電磁波吸収体の、(a)TE波に対する吸収特性、(b)TM波に対する吸収特性を示すグラフである。
図11】実施の形態2に係る電磁波吸収体の正面図である。
図12】電磁波吸収体の配置例を示す図である。
図13図12に示す電磁波吸収体のTE波に対する吸収特性を示すグラフである。
図14】(a)~(c)は、実施の形態1に係る電磁波吸収体の吸収ピーク周波数を説明するための図である。
図15】(a)、(b)は、実施の形態2に係る電磁波吸収体の吸収ピーク周波数を説明するための図である。
図16】実施の形態2に係る電磁波吸収体の入射角θと貫通孔の半径Rと吸収ピーク周波数との関係を示す吸収ピーク周波数テーブルの一例を示す図である。
図17】実施の形態3に係る電磁波吸収体の正面図である。
図18図17に示す電磁波吸収体のTE波に対する吸収特性を示すグラフである。
図19】(a)、(b)は、実施の形態3に係る電磁波吸収体の吸収ピーク周波数を説明するための図である。
図20】実施の形態3に係る電磁波吸収体の入射角θと貫通孔の半径Rと吸収ピーク周波数との関係を示す吸収ピーク周波数テーブルの一例を示す図である。
図21】(a)~(d)は、変形例に係る電磁波吸収体の正面図である。
図22】変形例に係る電磁波吸収体の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態に係る電磁波吸収体を、図面を参照して説明する。
【0027】
図1(a)、(b)及び図2に示すように、本実施の形態に係る電磁波吸収体10は、誘電体層21と、誘電体層(板)21の第一主面(表面)にマトリクス状に配列されたパッチ素子22と、誘電体層21の第二主面(裏面)全体に形成された反射膜23と、これら全体を覆う保護層24(図2に示す)を備える。電磁波吸収体10は、例えば、室内の壁面、天井、床等に並べて配置され、入射する電磁波を吸収し、熱エネルギーに変換する。
【0028】
誘電体層21は、光透過性で誘電率の高い誘電体材料から形成される。光透過性は100%である必要はなく、使用目的及び使用条件との関係で、ある程度の光透過性、例えば、50~70%程度の透過率を示せばよい。誘電体材料は、電磁波を吸収して減衰させる観点からは、誘電率が高く、誘電正接(tanδ)の大きい材料であることが望ましい。これらの条件を満たす誘電体材料として、例えば、PET樹脂(ポリエチレンテレフタレート)、アクリル樹脂、PVC(ポリ塩化ビニール)等が使用可能である。例えば、PET樹脂の比誘電率εr21(以下、比誘電率を単に誘電率と呼ぶ)は2.0~4.0程度である。
【0029】
誘電体層21は、使用目的・用途に応じて、例えば、一辺100mm~2000mmの正方形状に形成される。
なお、誘電体層21の厚さTについては後述する。
【0030】
パッチ素子22は、正方形の電極である。パッチ素子22は、誘電体層21の一主面(表面)に一定の間隔Gでマトリクス状に配列されている。パッチ素子22の一辺の長さの最大値Pmaxと間隔の最大値Gmaxとは、減衰(吸収)対象の電磁波(目的電磁波)の中心周波数(以下、減衰目的周波数)をfcとしたときに、式(1)と(2)で示される。
Pmax≒0.45λc/√(εr21) ・・・(1)
Gmax≒0.05λc/√(εr21) ・・・(2)
なお、λc:目的電磁波の中心波長=C/fc,Cは空中の光速
【0031】
パッチ素子22は、電磁波の完全反射体である導体、例えば、銅、アルミニウム又はそれらの合金等の金属から形成されている。
パッチ素子22は、例えば、誘電体層21の一主面に真空蒸着、スパッタリング等により成膜された導体膜をパターニングして形成される。
【0032】
誘電体層21のパッチ素子22が配置された面は、電磁波吸収体10への電磁波の入射面として機能し、パッチ素子22の前面側には、電磁波を反射或いは遮蔽する導電層、抵抗層等は配置されていない。
【0033】
反射膜23は、誘電体層21の裏面に、パッチ素子22に対向するように形成されている。
反射膜23は、電磁波の完全反射体である導体、例えば、銅、アルミニウム、それらの合金等の金属から構成されている。
反射膜23は、例えば、誘電体層21の他方の主面に真空蒸着、スパッタリング等により成膜された導体膜から形成される。
【0034】
図2に示す保護層24は耐環境性及び耐汚染性を有する絶縁性の透明材料の薄膜から形成され、電磁波吸収体10の外表面全体を覆っている。この種の材料としては、ガラス、エポキシ樹脂などが考えられる。保護層24のパッチ素子22上の厚さtは、誘電体層21の吸収特性に影響を与えない程度に薄く形成される。
【0035】
上記構成を有する電磁波吸収体10は、例えば、室内の壁面、床、天井等に並べて配置され、電磁波源から放射された特定周波数の電磁波を吸収し、反射波を減衰させることにより、混信、輻輳などを低減する。
【0036】
次に、誘電体層21の厚さTについて説明する。
誘電体層21の厚さTは、入射した電磁波を熱エネルギーに変換するのに適した厚さに設定される。
より詳細に説明する。誘電体層21内での目的電磁波の波長λdは式(3)で表される。
λd=C/(fc*√εr21) ・・・(3)
ここで、Cは、誘電体層中の光速、εr21:誘電体層21を構成する誘電体の比誘電率。
【0037】
ここで、誘電体層21の厚さTが誘電体層21内の波長λdの1/00より小さくなると、厚さTが小さすぎて、誘電体層21内での誘電損失σがほとんど発生せず、目的電磁波を減衰させることができなくなる。一方、誘電体層21の厚さTが波長λdの1/10より大きくなると、パッチ素子22と反射膜23とその間の誘電体層21とが一種の共振器として機能しなくなり、目的電磁波を減衰できなくなる。また、厚さTが大きくなると、誘電体層21が重くなり、体積も大きくなり、設置に不便になる。このため、厚さTは目的電磁波の誘電体層21内の波長λdの1/70~1/20程度に設定することが望ましい。また、重量、薄型化、設置のしやすさの観点から厚さTを15mm以下とすることが望ましい。
【0038】
次に、電磁波吸収体10が電磁波を吸収するメカニズムについて説明する。
図3に示すように、1つのパッチ素子22と誘電体層21と反射膜23とを含む評価対象の評価対象領域(以下、評価対象領域)Dを設定する。
【0039】
主偏波がzに平行な平面波を入射した場合の評価対象領域D内の電界分布を図4(a)、(b)に示す。
(a)は、入射波の周波数が減衰目的周波数fcの近傍の値である0.8fcまたは1.2fcの場合の評価対象領域D内の電界強度分布を示す。一方、(b)は、入射波の周波数が減衰目的周波数fcに一致した値である場合の評価対象領域D内の電界強度分布を示す。
【0040】
図4(a)に示すように、入射波の周波数が減衰目的周波数fcの近傍の場合には、電磁波吸収体10の評価対象領域Dに電界の集中点は殆ど顕れない。これに対し、図4(b)に示すように、入射波の周波数が減衰目的周波数fcに等しい場合には、評価対象領域Dに顕著な電界集中が見られ、周囲よりも電界が強い電界集中領域が形成されている。さらに、入射波には含まれないy軸方向電界成分が生成されることが確認された。y軸方向電界成分は誘電体層21内にのみ生成され、その強度は図4(a)の場合の100倍程度である。これは、パッチ素子22と反射膜23が入射波に対して空洞共振器のように動作し、入射波のモードが空洞共振器の固有モードにモード変換されることによって生成されたと考えられる。
【0041】
空洞共振器内の誘電体層21を構成する誘電体の誘電損失(tanδ)をσとすれば、電力損失ELは空洞共振器内の電界の強度Eに対してσEに比例する。
【0042】
従って、誘電損失σが僅かでも、電界の強さEが100倍となることにより、入射波の減衰目的周波数fcに等しい共振時の電力損失ELは、入射波の周波数が減衰目的周波数fc以外の非共振時の電力損失ELの約100=約10倍=約40dBに上昇する。
【0043】
従って、パッチ素子22-誘電体層21-反射膜23の層構造が、電界方向の変換と電界集中による電力損失ELを誘発することで、透明なPET樹脂のような比誘電率が2.5~3程度と、誘電率が比較的低く低損失の誘電体を利用しても高い電磁波吸収が可能になると考えられる。
【0044】
上記構成の電磁波吸収体10の試料を試作し、その電磁波吸収性能を評価した。まず、減衰目的周波数fcを、幅x高さx厚さ=1.4mx1.4mx5mm、パッチ素子22の一辺のサイズPを83mm、パッチ素子22の間隔Gを8mm、誘電体層21を誘電率εr21=2.9の透明PET樹脂から形成した、電磁波吸収体10の試料を試作した。試料としては、誘電体層21の厚さTが5mmの試料1と厚さTが10mmの試料2を作成した。
【0045】
試料1と試料2を、それぞれ、図5に示すように、電磁波無響室101内に配置した。評価には、送受信用アンテナとして対数周期アンテナ(Schwarzbeck 社製,USLP9142)を2基、計測装置としてベクトルネットワークアナライザ(ADVANTEST 社製,R3767CG)を使用した。
【0046】
ネットワークアナライザ102から、送信用アンテナSAを介して、電磁波吸収体10に向けて、周波数をスキャンしながら電磁波RWを照射し、反射波を受信用アンテナRAで受信して、周波数別に受信強度をネットワークアナライザ102で測定した。続いて、反射係数=受信強度/送信強度を周波数別に求めた。アンテナ冶具などからの反射を排除し、電磁波吸収体10からの反射のみを測定するため、測定では時間領域測定機能を利用した。また、送信用アンテナSAと受信用アンテナRAの位置と向きを調整することにより、電磁波吸収体10への電磁波RWの入射角(電磁波RWの進行方向と電磁波吸収体10の表面(=入射面)の法線の成す角)θを調整して測定を行った。
【0047】
試料1(T=5mm)の吸収特性を、図6に示す。
図6(a)に、TE波の斜め入射(θ≠0)に対する試料1の吸収特性を示す。図示するように、TE波を照射した場合、入射角θがθ=10°~45°では、最大吸収周波数、最大吸収量共に大きな変移を示さない。さらに、UHF-RFIDで利用される920MHzを含む周波数領域で反射係数が-20dB以下でピークが-50dB近傍の値となっており、高い反射減衰が生じていることが確認された。
【0048】
一方、図6(b)に、TM波の斜め入射に対する試料1の吸収特性を測定により評価した結果を示す。図示するようにTM波を入射した場合、吸収特性の入射角θへの依存性がTE波よりも高いことが確認された。このような吸収特性となる理由は、電磁波吸収現象が、パッチ素子22-誘電体層21-反射膜23で形成される空洞共振器の共振現象により発現するからである。より詳しく説明すると、この空洞共振器の励振には、パッチ素子22に平行な電界成分が必要である。TE波では、電界Eがパッチ素子22の主面に平行であるため、入射角θによらず、パッチ素子22の主面に平行な電界成分が維持される。これに対し、TM波では、パッチ素子22の主面に平行な電界成分は、電界Eのcosθ成分である。このため、入射角θが増大するに伴って、パッチ素子22の主面に平行な電界成分が急激に減衰し、空洞共振器の励振が困難になり、吸収性能を示す周波数領域がより高い周波数領域に遷移するためである。
【0049】
UHF-RFIDの通信に使用される円偏波は、TE波とTM波の合成波である。従って、TE波に十分な減衰を与えることができる試料1によれば、RFIDで送受信される円偏波総体の反射を十分に抑圧できる。ただし、試料1では、UHF-RFIDで利用される920MHzを中心とする周波数帯域内において十分な減衰を示す反射係数が-20dB以下となる吸収帯域(減衰周波数域)は、幅10MHz程度の比較的狭い領域であり、RFIDの製造誤差、環境温度の変動等による周波数変動によっては、電磁波の周波数が吸収帯域を外れ、反射波の減衰が不十分となるおそれがある。
【0050】
試料2(T=10mm)の吸収特性を、図7に示す。
図7(a)に、TE波の斜め入射に対する試料2の吸収特性を、図7(b)に、TM波の斜め入射に対する試料2の吸収特性を、それぞれ示す。図示するように、T=10mmの試料2では、T=5mmの試料1の吸収特性と比較して、吸収中心周波数が低周波側にシフトするものの、吸収帯域幅は大幅に拡大される。また、入射角に関しては、θ=30°まで吸収特性にほとんど変化が見られず、広角で安定した吸収特性が発揮されることが確認された。
【0051】
図8に、試料1と試料2に関して、図6(a)及び図7(a)に示す入射角θ=10°における吸収中心周波数で電磁波吸収の周波数特性を規格化し、比較した結果を示す。なお、試料1の吸収中心周波数は約920MHz、試料2の吸収中心周波数は約800MHzである。反射係数が-10dB以下となる吸収帯域で比較すると、T=5mmの試料1に対し、厚みを2倍としたT=10mmの試料2では、帯域幅が4倍強となる。また、反射係数が-20dB以下となる吸収帯域で比較すると、T=5mmの試料1に対し、T=10mmの試料2では、帯域幅が3倍程度になることが確認された。このように、電磁波吸収体10では、要求される吸収帯域の幅に合わせて誘電体層21の厚さTを調整すればよいことがわかる。例えば、広い吸収帯域幅が必要になるに従って、誘電体層21の厚さTを厚くすればよい。
【0052】
例えば、UHF-RFIDに合わせて減衰目的周波数fcを920MHz、-20dBでの必要吸収帯域幅を30MHzとした場合、誘電体層21の厚みTが10mm以上となる。しかし、必要な厚さTは、減衰目的周波数fcの増加に伴って低下するため、GHz帯用の電磁波吸収帯、例えば、5.8GHz帯のETC用電磁波の吸収体、あるいは5G帯域を利用した車載レーダ用のサイドローブ抑圧用吸収体を想定した場合、T=1.5mmの薄板、あるいはT=300μmのシート状にできる。このため、広角-広帯域の高性能電磁波吸収シートが実現できる。
【0053】
上述のように、電磁波吸収体の吸収帯域を広帯域化する手法として、誘電損失σを引き起こす誘電体層の厚みを大きくすることが有効であることが確認された。誘電体層の厚みを大きくする手法として、誘電体層21を厚くする他に、例えば、誘電体層21の厚みTを一定値として、図9(a)、(b)に示すようにパッチ素子22の前面に誘電体層25を配置することにより、誘電体全体の厚みを厚くすることも考えられる。そこで、図9(a)、(b)に示す構成を有する比較例を作成し、その吸収特性を測定した。
【0054】
まず、誘電体層21、パッチ素子22、反射膜23の構成を試料1と同一とした。次に、誘電体層21と同一材質及び同一構成の誘電体層25をパッチ素子22の上に積層した。これにより、誘電体全体の厚さを、試料2と同一の10mmとした。
次に、比較例の吸収特性を、試料1及び試料2と同様に行った。
【0055】
図10に、比較例の吸収特性を示す。図示するように、誘電体の総厚は10mmで共通しているにもかかわらず、図8(a)、(b)に示す試料2の吸収特性と異なり、-10dB以下を示す吸収帯域の幅は、10~30MHz程度であり、広帯域化は発現されていない。また、入射角θに従って、吸収のピーク周波数が大きくシフトしてしまい吸収特性の入射角度依存性が高くなってしまう。これは、前面の誘電体層25とパッチ素子22による層が、一種のFSS層(周波数選択型反射吸収層)として機能してしまい、後面のパッチ素子22-反射膜23による電磁波の封じ込め機能が発現されるのを阻害するためであると考えられる。前面のFSS層(誘電体層25-パッチ素子22)と後面の吸収層(パッチ素子22-反射膜23)がそれぞれバラバラな吸収特性を発現してしまっている状況は、図10(a)、(b)共に入射角θ=10°において吸収特性を示す帯域が2周波で発現されているところからも確認される。
【0056】
従って、誘電体層は、誘電体層21として、パッチ素子22と反射膜23との間にまとめて配置して、パッチ素子22の前面にはFSS層として機能しうる誘電体層を配置しないことが望ましい。このため、保護層24は、その厚さtと比誘電率εr24の積t・εr24が誘電体層21の厚さTと比誘電率εr21の積T・εr21より十分に小さい、例えば、t・εr24<(1/10)T・εr21 となるように保護層24の厚さTと材質を選択することが望ましい。
【0057】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る電磁波吸収体10は、誘電体層21の一主面にパッチ素子22をマトリクス状に配置し、誘電体層21の他主面に反射膜23を配置するという極めて簡単な構成でありながら、高い電磁波吸収性を得ることができる。また、誘電体層21の厚さTを調整することにより、必要とされる吸収帯域幅を得ることができる。
【0058】
また、誘電体層21を構成する樹脂として透明樹脂を使用し、さらに、パッチ素子22と反射膜23として物理的気相成長法により薄い金属膜を形成することにより、光透過性を確保することができ、光学的な死角を抑えることができる。
【0059】
なお、この発明は上記実施の形態に限定されず、種々の変形および応用が可能である。
誘電体層21の材料として、主に、比較的低損失の透明PET樹脂を使用する例を説明したが、その他の光透過性の誘電体を使用することも可能である。また、誘電体層21の形状は任意であり、例えば、三角形、六角形などでもよい。或いは任意の意匠を施してもよい。
【0060】
パッチ素子22のサイズ・ギャップなどは適宜変更可能である。また、パッチ素子22の平面形状を正方形としたが、パッチ素子22の平面形状及び形成方法は適宜変更可能である。パッチ素子22の材料として、導体、特に金属を例示したが、導体であれば、材質は問わない。例えば、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)等の導電性ポリマなどを使用してもよい。また、電磁波吸収体10の光透過性が比較的小さくてよい場合には、光不透過の金属箔などをパッチ素子22に使用してもよい。
【0061】
反射膜23についても、その形状等は任意であり、誘電体層21の裏面全体に形成されている必要はない。また、複数の反射膜23が形成されてもよい。その材質も、ITO、導電性ポリマなどでもよい。また、電磁波吸収体10の光透過性が不要な場合には、光不透過の金属箔などを使用してもよい。
【0062】
パッチ素子22と反射膜23とは、抵抗膜から構成されてもよい。
保護層24の材質、厚さ、配置位置も実施の形態に限定されず、適宜変更可能である。ただし、前述のように、FSSを形成しない形態で配置されることが望ましい。
【0063】
(実施の形態2)
電磁波吸収体10を複数配置する場合、各電磁波吸収体10への電磁波の入射角θは、電磁波吸収体10毎に異なる。例えば、図11に示すように、電磁波源WSに対向して、3つの電磁波吸収体10a~10cを配置し、電磁波吸収システム11を構築する場合を想定すると、電磁波源WSから電磁波吸収体10a~10cへの電磁波の入射角は、θa、θb、θcと徐々に小さくなる。
【0064】
図6(a)及び図7(a)に示したように、電磁波吸収体10a~10cの吸収ピーク周波数は、入射角θに応じて変化する。このため、電磁波吸収体10a~10cを同一の構成とすると、電磁波吸収体10a~10cの一部は、吸収ピーク周波数fpが電磁波源WSから放射される電磁波の周波数foからずれてしまい、これを十分に吸収及び減衰できなくなってしまう。
【0065】
一方、吸収ピーク周波数fpの入射角θに対する依存性を考慮して、入射角θ毎に電磁波吸収体10を設計するとすれば、多種類の電磁波吸収体10を用意する必要が生じ、設計・製造の負担及び在庫量が増大し、効率に欠ける。
【0066】
また、実施の形態1の電磁波吸収体10は、平面全体が閉じているため、これを空間、特に通風経路の途中に配置すると、通気を阻害してしまう。このため、電磁波源WSとその周辺回路の放熱を阻害するおそれがある。
【0067】
本実施の形態では、電磁波吸収体10の吸収ピーク周波数fpを入射角θの変化に応じて調整して減衰対象電磁波の周波数foに一致させ、さらに、電磁波吸収体10の通気性を確保する手法を説明する。
【0068】
本実施の形態に係る電磁波吸収体10の基本構造は図1及び図2に示す実施の形態1の電磁波吸収体10と同一である。
ただし、図12に拡大して示すように、マトリクス状に配置されているパッチ素子22の間のギャップ領域の各交差部分に電磁波吸収体10を貫通する孔(以下、貫通孔)26が形成されている。貫通孔26は、その中心がギャップエリアの交差領域の中心に一致する円形に形成されている。
【0069】
図13は、貫通孔26の半径Rと電磁波吸収体10のTE波の吸収特性との関係を例示するグラフである。
これらの吸収特性は、パッチ素子22が銅箔製の矩形で、サイズがP=12mm×12mm、ギャップのサイズ(幅)G=2mm、誘電体層21がPET樹脂製で厚さT=2mmの場合に、貫通孔26の半径Rと吸収特性との関係を示す。この電磁波吸収体10は、例えば、ETC(Electronic Toll Collection system)に用いられる5GHz帯の電磁波を吸収・減衰するためのものである。
【0070】
貫通孔26の半径R=0とき、すなわち、貫通孔26が形成されていないときは、吸収ピーク周波数は約5.3GHzであった。一方、半径R=1mmのときは、貫通孔26の周縁部は各パッチ素子22の角部にごくわずかにかかり、パッチ素子22の角部がごくわずかに切り欠かれる。一方、半径Rが2mmと3mmの場合は、貫通孔26の周縁部は各パッチ素子22の角部にかかり、各パッチ素子22の各角部が除去され、半径R=3mmの方が除去のサイズが大きい。
【0071】
図13に示すように、貫通孔26の半径Rが大きくなって、パッチ素子22の角部の欠損量が大きくなるに従って、吸収ピークの周波数は高周波数側にシフトする。また、ピークの吸収量に大きな差は生じない。
【0072】
貫通孔26が大きくなるに従って、吸収ピーク周波数fpが高くなる理由を説明する。
図14(a)に示すように、入射する電磁波の電界Eと磁界Hをz軸とx軸にそれぞれ平行であると仮定する。この場合、各パッチ素子22が構成する共振器が電磁波に共振状態にあるとき、各パッチ素子22には、図14(b)に示すように、電流Iが流れ、電流Iの2分の1波長λ/2がパッチ素子22のz軸方向の長さPとほぼ等しくなり、その振幅は図14(c)に示すようになる。
【0073】
一方、ギャップ領域に貫通孔26を形成した場合には、図15(a)に示すように電流Iが流れ、その振幅は図15(b)に示すようになる。貫通孔26が形成されている領域では、電流Iが流れうる領域が制限され、パッチ素子22の両側部で電流Iの2分の1波長λ/2が、貫通孔26が形成されていない場合よりも短くなる。このため、吸収ピーク周波数fpが貫通孔26が形成されていない場合よりも高くなる。
【0074】
次に、貫通孔26により、入射角θに応じて、電磁波吸収体10の吸収ピーク周波数を調整する手法を説明する。
まず、電磁波吸収体10について、入射角θと貫通孔26の半径Rの組み合わせ毎に、吸収ピーク周波数fpを実験又はシミュレーションにより予め求め、図16に示す吸収ピーク周波数テーブルを用意しておく。
【0075】
次に、複数の電磁波吸収体10を、例えば、図11に示すように配置する。
次に、電磁波源WSから各電磁波吸収体10a、10b、10cへの電磁波の入射角θa、θb、θcを求める。この処理は、電磁波吸収体10の配置の設計段階で行っても、設置の現場でおこなってもよい。
【0076】
次に、図16に示す吸収ピーク周波数テーブルに従って、入射角がθa、θb、θcであるときに、電磁波源WSからの電磁波の周波数foに等しい吸収ピーク周波数fpa、fpb、fpcが得られるときの半径Ra,Rb,Rcを求める。例えば、電磁波源WSが放射する電磁波の周波数を5.7GHzとすると、例えば、入射角θが5°の電磁波吸収体10の吸収ピーク周波数fpを5.7GHzとするためには、半径R=1mmが適切であると求められる。なお、該当する数値がテーブルに存在しない場合には、補完法を用いて求めればよい。
【0077】
一般に、入射角θが大きくなるに従って、吸収ピーク周波数fpが高くなる傾向にあるため、必要とされる半径Rは小さくなり、入射角θが小さくなるに従って、吸収ピーク周波数fpが低くなる傾向にあるため、必要とされる半径Rは大きくなる。例えば、電磁波源WSが放射する電磁波の周波数を7.4GHzとすると、電磁波吸収体10の吸収ピーク周波数fpが7.4GHzとなるのは、入射角θが0°のときは、貫通孔26の半径R=5mmのときであり、一方、入射角が60°では、R=0.5mmのときである。
【0078】
次に、直径2・Raのドリルを用いて、電磁波吸収体10aに貫通孔26を形成し、直径2・Rbのドリルを用いて、電磁波吸収体10bに貫通孔26を形成し、直径2・Rcのドリルを用いて、電磁波吸収体10cに、直径2・Rcの貫通孔26を形成する。
【0079】
このようにして、電磁波吸収体10a、10b、10cが、全て、電磁波源WSからの周波数foの電磁波を吸収できる状態になり、電磁波源WSからの電磁波を吸収する電磁波吸収システム11が完成する。
【0080】
また、貫通孔26を空気が流通可能なため、電磁波吸収体10で電磁波源WSとその周辺回路を囲った場合でも、囲われた空間の空冷が可能となる。冷却能力を高めるため、ファンなどの送風装置を配置し、空気の流通量を増大させてもよい。
【0081】
なお、貫通孔26を電磁波吸収システム11の設計図等に基づいて、工場等で形成し、貫通孔26が形成された電磁波吸収体10を現場で設置してもよく、あるいは、貫通孔26が形成されていない電磁波吸収体10を配置した後、現場で入射角θを求め、ハンドトリル等を用いて適当な径の貫通孔26を形成してもよい。
【0082】
本実施の形態によれば、基本的な吸収ピーク周波数を有する数種類の電磁波吸収体10を用意しておけば、吸収対象の電磁波の周波数と電磁波吸収体の配置構成に応じて、貫通孔26を形成するという簡単な工程の追加で、吸収対象の電磁波を減衰させることができ、電磁波吸収体10の在庫量を抑えることも可能となる。
【0083】
(実施の形態3)
実施の形態2においては、パッチ素子22の角部を部分的に除去することにより、吸収対象の電磁波の周波数を高周波数側にシフトする例を示した。これに限定されず、例えば、図17に示すように、パッチ素子22に貫通孔27を形成することにより、図18に示すように、吸収ピーク周波数を低周波数側にシフトさせることも可能である。図18に示す吸収特性は、パッチ素子22が銅箔製の矩形で、サイズがP=13mm×13mm、ギャップのサイズ(幅)G=1.45mm、誘電体層21がPET樹脂製で厚さT=5mmの場合に得られたものである。
【0084】
図18においては、貫通孔27が形成されていない(半径cR=0)のときの吸収ピーク周波数がおおよそ5.3GHzのところ、cR=1mmでは、ほとんど変化がなく、cR=2mmでは、吸収ピーク周波数が低下し、cR=3mmでは、吸収特性に明確なピークが現れていない。これは、cR=2mmのときは、図19(a)に示すように、電流Iが貫通孔27を迂回して流れ、電流路が長くなる結果、半波長λ/2も長くなるためであると考えられる。また、cR=1mmのときに影響がないのは、貫通孔27が小さすぎて、電流Iの電流路の長さに影響を与えないためと考えられる。一方、cR=3mmのときに吸収特性に明確なピークが現れないのは、パッチ素子22のサイズ(13mm×13mm)に対して、貫通孔27のサイズが大きすぎて、パッチ素子22が共振電極として十分に機能できず、共振のQ値が低下するためであると考えられる。
【0085】
電磁波吸収体10に貫通孔27を形成する場合、以下の手順で形成される。ここでは、図11に例示する電磁波吸収システム11を構築する場合を例に説明する。
【0086】
まず、入射角θと貫通孔27の半径cRとの組み合わせ毎に、吸収ピーク周波数fpを実験又はシミュレーションにより求め、図20に例示する吸収ピーク周波数テーブルを用意する。なお、図20に例示する吸収ピーク周波数テーブルにおいて、NGは、適切な減衰特性を得られないことを表す。
【0087】
次に、電磁波吸収体10a、10b、10cへの電磁波源WSからの減衰対象電磁波の入射角θa、θb、θcを求める。
【0088】
次に、図20に示す吸収ピーク周波数テーブルに従って、入射角がθa、θb、θcであるときに、電磁波源WSからの電磁波の周波数foに等しい吸収ピーク周波数fpa、fpb、fpcが得られるときの半径cRa,cRb,cRcを求める。例えば、電磁波源WSが放射する電磁波の周波数を4.7GHzとすると、例えば、入射角θが5°の電磁波吸収体10の吸収ピーク周波数fpを4.7GHzとするためには、半径cR=4mmが適切であると求められる。なお、該当する数値がテーブルに存在しない場合には、補間法を用いて求めればよい。
【0089】
一般に、入射角θが大きくなるに従って、吸収ピーク周波数fpが高くなる傾向にあるため、必要とされる半径cRも大きくなり、入射角θが小さくなるに従って、吸収ピーク周波数fpが低くなる傾向にあるため、必要とされる半径cRも小さくなる。例えば、電磁波源WSが放射する電磁波の周波数を6.4GHzとすると、例えば、入射角θが0°のときは、貫通孔26の半径R=0mmであり、一方、入射角が60°では、R=4.0mmである。
【0090】
次に、直径2・Raのドリルを用いて、電磁波吸収体10aに貫通孔27を形成し、直径2・Rbのドリルを用いて、電磁波吸収体10bに貫通孔27を形成し、直径2・Rcのドリルを用いて、電磁波吸収体10cに、直径2・Rcの貫通孔27を形成する。
【0091】
このようにして、電磁波吸収体10a、10b、10cが、全て、電磁波源WSからの周波数foの電磁波を吸収できる状態になり、電磁波源WSからの電磁波を吸収する電磁波吸収システム11が完成する。
【0092】
このようにして、電磁波吸収体10の吸収ピーク周波数を、その配置位置に合わせて調整でき、不要電磁波の反射を抑えることができる。
【0093】
また、貫通孔27を空気が流通可能なため、電磁波吸収体10で電磁波源WSとその周辺回路を囲った場合でも、囲われた空間の空冷が可能となる。冷却能力を高めるため、ファンなどの送風装置を配置し、空気の流通量を増大させてもよい。
【0094】
なお、貫通孔27を電磁波吸収システム11の設計図等に基づいて、工場等で形成し、貫通孔27が形成された電磁波吸収体10を現場で設置してもよい。あるいは、貫通孔27が形成されていない電磁波吸収体10を配置した後、現場で入射角θを求め、ハンドトリル等を用いて適当な径の貫通孔27を形成してもよい。
【0095】
本実施の形態でも、基本的な吸収ピーク周波数を有する数種類の電磁波吸収体10を用意しておけば、吸収対象の電磁波の周波数と電磁波吸収体の配置構成に応じて、貫通孔27を形成するという簡単な工程の追加で、吸収対象の電磁波を減衰させることができ、cの在庫量を抑えることも可能となる。
【0096】
(変形例)
実施の形態2及び3では、吸収ピーク周波数をシフトするため、電磁波吸収体10に円形の貫通孔26,27を形成した。円形の貫通孔は、ドリルの径を選択するだけで、ほぼ真円の孔を形成することが可能であり、多数のパッチ素子22に均等な加工を施すのに適している。特に、電磁波吸収体10の設置現場で、適切な加工を施すのに適している。
【0097】
ただし、この発明はこれに限定されない。前述のように、電磁波吸収体10の吸収スペクトル分布は、パッチ素子22の形状とサイズ、間隔Gのサイズ、パッチ素子22に形成された開口又は切り欠きの形状、サイズ、数、位置等の物理パラメータにより変化する。従って、所望の吸収スペクトル分布が得られるように、任意の物理パラメータを調製すればよい。
【0098】
図21(a)と(b)は、一例として、複数の矩形の開口28を、パッチ素子22の中央部以外の領域に形成する例を示す。図21(a)は、2つの細長い矩形状の開口28をパッチ素子22に形成する例を、図21(b)は、4つの細長い矩形状の開口28をパッチ素子22に形成する例を示す。また、図21(c)は、2つの円形の開口29をパッチ素子22に形成する例を、図21(d)は、5つの円形の開口29をパッチ素子22の中央部とその周囲に形成する例を示す。開口28、29の形状、サイズ、数、位置等の物理パラメータの変化に伴って、入射する電磁波により誘起される電流Iのルートと波長が変化する。このため、吸収スペクトル分布が変化する。
【0099】
ただし、電磁波源と電磁波吸収体10との相対的な位置関係が未定であるため、例えば、図21(a)~(d)に例示するように、パッチ素子22と開口28,29は、正面視、即ち、y軸方向に見て、90°回転対称に形成されることが望ましい。
【0100】
実施の形態2と3では、貫通孔26と27を形成する例を示したが、通気の必要のない場面では、パッチ素子22を部分的に除去して切り欠き部を形成するだけでも同様の機能を実現可能である。例えば、図1の構成において、図15図17に例示するように、パッチ素子22を部分的に除去して、パッチ素子22を所望の形状およびサイズに加工してもよい。
【0101】
また、パッチ素子22の除去部分(切り欠き部)の形状、貫通孔27の形状は任意である。例えば、図1の構成において、平面視矩形状のパッチ素子22の角部に、三角形あるいは四角形の切り欠き部を形成してもよい。同様に、貫通孔27を、平面視で、楕円、多角形等としてもよい。
【0102】
また、パッチ素子22を形成する段階で、一部が切り欠かれたあるいは除去された形状のパッチ素子22を形成してもよい。例えば、誘電体層21の切り欠き又は貫通孔に相当する部分をマスキングしておき、銅ペースト、銀ペースト等の導体材料を塗布し、塗布後にマスキングを除去して、切り欠きや貫通孔を形成するものでもよい。
【0103】
以上の実施の形態では、誘電体層21上にパッチ素子22を配置する例を示したが、これに限定されない。例えば、図22に示すように、光透過性を有する誘電体シート31にパッチ素子22Aを形成し、これを誘電体層21に貼付してもよい。この場合にも、例えば、切り欠き部32又は貫通孔33を有するパッチ素子22Aを作成してもよい。
【0104】
実施の形態2と3では、単一の径の貫通孔26又は27を形成する例を示したが、1つの電磁波吸収体10に異なる径の貫通孔26、切り欠き部又は27を形成してもよい。これにより、減衰特性におけるピーク域での帯域を広げることができ、発明の目的の達成に寄与できる。同様に、1つの電磁波吸収体10に貫通孔26又は27を形成する領域と形成しない領域を混在させるようにしてもよい。
【0105】
実施の形態では、UHF帯と5GHz帯の電磁波を吸収する電磁波吸収体を例示したが、吸収対象の電磁波の周波数帯は任意である。
【符号の説明】
【0106】
10、10a~10c 電磁波吸収体
21 誘電体層
22 パッチ素子
23 反射膜
24 保護層
25 誘電体層
26,27 貫通孔
31 誘電体シート
32 切り欠き部
33 貫通孔
102 ネットワークアナライザ
SA,RA アンテナ
WS 電磁波源
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