(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025067221
(43)【公開日】2025-04-24
(54)【発明の名称】毛乳頭細胞活性化用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/095 20190101AFI20250417BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20250417BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250417BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20250417BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250417BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20250417BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20250417BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20250417BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20250417BHJP
A61K 31/5517 20060101ALN20250417BHJP
【FI】
A61K38/095
C12N5/071 ZNA
A61P43/00 107
A61P17/14
A61K45/00
A61K8/64
A61Q7/00
A61K8/49
C07K7/06
A61K31/5517
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023177009
(22)【出願日】2023-10-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和5年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生・細胞医療・遺伝子治療実現加速化プログラム」「毛髪再生医療のためのヒト毛包オルガノイドの開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】景山 達斗
【テーマコード(参考)】
4B065
4C083
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB19
4B065CA44
4C083AC851
4C083AC852
4C083AD411
4C083AD412
4C083CC37
4C083EE22
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA17
4C084BA44
4C084CA18
4C084DB28
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA921
4C084ZA922
4C084ZB221
4C084ZB222
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB11
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA92
4C086ZB22
4H045BA15
4H045EA20
(57)【要約】
【課題】毛乳頭細胞を効果的に活性化する毛乳頭細胞活性化用組成物を提供する。
【解決手段】毛乳頭細胞活性化用組成物は、オキシトシン及び/又はオキシトシン受容体アゴニストを含有する。毛乳頭細胞活性化用組成物は、皮膚外用剤であってもよいし、頭皮外用剤であってもよいし、育毛又は発毛用組成物であってもよいし、培養培地であってもよいし、培養培地用添加剤であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシトシン及び/又はオキシトシン受容体アゴニストを含有する、毛乳頭細胞活性化用組成物。
【請求項2】
オキシトシンを含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
オキシトシン受容体アゴニストを含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
皮膚外用剤である、請求項1乃至3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
頭皮外用剤である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
育毛又は発毛用組成物である、請求項1乃至3のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
培養培地である、請求項1乃至3のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
培養培地用添加剤である、請求項1乃至3のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛乳頭細胞活性化用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、生体の毛包に含まれる毛乳頭細胞が、毛周期の制御に重要な役割を果たしていることが記載されている。
【0003】
一方、特許文献1~3及び非特許文献1には、上皮系細胞と間葉系細胞(例えば、毛乳頭細胞)との共培養により、毛髪再生能を有する細胞凝集塊を製造する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/073625号
【特許文献2】国際公開第2020/225934号
【特許文献3】国際公開第2023/058429号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jiyu Hyun et al., "Morus alba Root Extract Induces the Anagen Phase in the Human Hair Follicle Dermal Papilla Cells", Pharmaceutics, 2021, 13, 1155
【非特許文献2】Tatsuto Kageyama et al., In vitro hair follicle growth model for drug testing, Scientific Reports (2023) 13: 4847
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら従来、毛乳頭細胞を活性化することは容易ではなかった。また、毛乳頭細胞の活性化を介して、生体における育毛又は発毛を促進することも容易ではなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、毛乳頭細胞を効果的に活性化する毛乳頭細胞活性化用組成物を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る毛乳頭細胞活性化用組成物は、オキシトシン及び/又はオキシトシン受容体アゴニストを含有する。本発明によれば、毛乳頭細胞を効果的に活性化する毛乳頭細胞活性化用組成物が提供される。
【0009】
[2]前記[1]の組成物は、オキシトシンを含有することとしてもよい。[3]前記[1]又は[2]の組成物は、オキシトシン受容体アゴニストを含有することとしてもよい。
【0010】
[4]前記[1]乃至[3]のいずれかの組成物は、皮膚外用剤であることとしてもよい。[5]前記[1]乃至[4]のいずれかの組成物は、頭皮外用剤であることとしてもよい。[6]前記[1]乃至[5]のいずれかの組成物は、育毛又は発毛用組成物であることとしてもよい。
【0011】
[7]前記[1]乃至[3]のいずれかの組成物は、培養培地であることとしてもよい。[8]前記[1]乃至[3]のいずれかの組成物は、培養培地用添加剤であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、毛乳頭細胞を効果的に活性化する毛乳頭細胞活性化用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1で培養された毛乳頭細胞における発毛関連遺伝子の発現量を評価した結果を示す説明図である。
【
図2】参考例の共培養1で形成された細胞凝集塊の顕微鏡写真を示す説明図である。
【
図3】参考例の共培養1で細胞凝集塊に形成された毛幹様構造の長さを評価した結果を示す説明図である。
【
図4】参考例の共培養2で細胞凝集塊に形成された毛幹様構造の長さを評価した結果を示す説明図である。
【
図5】実施例2で細胞凝集塊に形成された毛幹様構造の長さを評価した結果を示す説明図である。
【
図6】実施例2で細胞凝集塊における成長因子遺伝子の発現量を評価した結果を示す説明図である。
【
図7】実施例3で培養された毛乳頭細胞における発毛関連遺伝子及び成長因子遺伝子の発現量を評価した結果を示す説明図である。
【
図8】実施例4で細胞凝集塊に形成された毛幹様構造の長さを評価した結果を示す説明図である。
【
図9】実施例5で培養された毛乳頭細胞における発毛関連遺伝子の発現量を評価した結果を示す説明図である。
【
図10】実施例6で細胞凝集塊に形成された毛幹様構造の長さを評価した結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0015】
本実施形態に係る毛乳頭細胞活性化用組成物(以下、「本組成物」という。)は、オキシトシン及び/又はオキシトシン受容体アゴニストを含有する。すなわち、本組成物は、オキシトシンを含有する組成物であってもよいし、オキシトシン受容体アゴニストを含有する組成物であってもよいし、オキシトシン及びオキシトシン受容体アゴニストを含有する組成物であってもよい。
【0016】
本組成物は、毛乳頭細胞を活性化する。このため、本組成物は、毛乳頭細胞を活性化するために用いられる。この点、本発明の発明者らは、毛乳頭細胞を活性化するための技術的手段について鋭意検討を重ねた結果、意外にも、オキシトシン及びオキシトシン受容体アゴニストがそれぞれ毛乳頭細胞を活性化することを独自に見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本組成物に含有されるオキシトシンは、9個のアミノ酸から構成される化合物であり、化学式C43H66N12O12S2で表され、分子量は1007.19であり、CAS(Chemical Abstracts Service)登録番号は50-56-6である。本組成物に含有されるオキシトシンは、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、安定化等を目的とする化学的修飾が施されていてもよい。オキシトシンは、毛乳頭細胞が発現するオキシトシン受容体を介して、当該毛乳頭細胞を活性化すると考えられる。
【0018】
本組成物に含有されるオキシトシン受容体アゴニストは、オキシトシン受容体に作用するアゴニストである。本組成物に含有されるオキシトシン受容体アゴニストは、毛乳頭細胞が発現するオキシトシン受容体を介して、当該毛乳頭細胞を活性化すると考えられる。
【0019】
本組成物に含有されるオキシトシン受容体アゴニストは、毛乳頭細胞を活性化するものであれば特に限られないが、例えば、LIT-001(CAS登録番号:2245072-21-1)、WAY267464(CAS登録番号:1432043-31-6)、TC OT 39(CAS登録番号:479232-57-0)、及びカルベトシン(Carbetocin、CAS登録番号:37025-55-1)からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0020】
本組成物は、毛乳頭細胞を活性化する有効成分としてオキシトシン及び/又はオキシトシン受容体アゴニストを含有する。本組成物による毛乳頭細胞の活性化は、例えば、当該毛乳頭細胞における発毛関連遺伝子及び/又は成長因子遺伝子の発現量の増加として確認される。
【0021】
発毛関連遺伝子は、生体における発毛に関連する遺伝子であれば特に限られないが、例えば、本組成物は、毛乳頭細胞におけるアルカリフォスファターゼ遺伝子、バーシカン遺伝子、LEF1遺伝子、WNT5A遺伝子、BMP4遺伝子、NOG遺伝子、SOX2遺伝子及びWIF1遺伝子からなる群より選択される1以上の発現量を増加させることとしてもよい。毛乳頭細胞における発毛関連遺伝子の発現量は、当該毛乳頭細胞のRNAを抽出し、逆転写を行った後、RT-PCRを実施することにより定量される。
【0022】
具体的に、本組成物は、毛乳頭細胞における発毛関連遺伝子(例えば、アルカリフォスファターゼ遺伝子、バーシカン遺伝子、LEF1遺伝子、WNT5A遺伝子、BMP4遺伝子、NOG遺伝子、SOX2遺伝子及びWIF1遺伝子からなる群より選択される1以上)の発現量を、オキシトシン及びオキシトシン受容体アゴニストを含有しない以外は同一組成の組成物を用いた場合における発現量の1.1倍以上、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.3倍以上、さらに好ましくは1.4倍以上、特に好ましくは1.5倍以上、増加させることとしてもよい。
【0023】
本組成物は、例えば、生体の毛乳頭細胞を活性化するために用いられる。すなわち、本組成物は、皮膚外用剤であることとしてもよい。皮膚外用剤としての本組成物は、生体の皮膚に含まれる毛乳頭細胞(例えば、当該皮膚の毛包に含まれる毛乳頭細胞)を活性化するために用いられる。
【0024】
本組成物の皮膚への適用方法は、本組成物に含有されるオキシトシン及び/又はオキシトシン受容体アゴニストが、当該皮膚に含まれる毛乳頭細胞に到達する方法であれば特に限られないが、例えば、当該皮膚への塗布、噴霧又は注入が好ましく用いられる。
【0025】
本組成物が適用される生体は、毛乳頭細胞を含む皮膚を有する動物であれば特に限られず、ヒトであってもよいし、ヒト以外の動物(非ヒト動物)であってもよい。非ヒト動物は、哺乳動物であることが好ましい。哺乳動物は、例えば、霊長類(例えば、サル)、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット又はウサギ)、食肉類(例えば、イヌ、ネコ)、又は有蹄類(例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ又はヒツジ)であってもよい。
【0026】
本組成物が適用される生体の皮膚は、毛乳頭細胞を含む皮膚(例えば、毛包を含む皮膚)であれば特に限られないが、例えば、頭皮であることとしてもよい。すなわち、本組成物は、頭皮外用剤であることとしてもよい。
【0027】
頭皮外用剤としての本組成物は、生体(好ましくはヒト)の頭皮に含まれる毛乳頭細胞(例えば、当該頭皮の毛包に含まれる毛乳頭細胞)を活性化するために用いられる。頭皮外用剤としての本組成物は、本組成物に含有されるオキシトシン及び/又はオキシトシン受容体アゴニストが、頭皮に含まれる毛乳頭細胞に到達するよう用いられるものであれば特に限られず、例えば、育毛用組成物、発毛用組成物、ヘアシャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、ヘアトリートメント、又はヘアトニックであることとしてもよい。
【0028】
本組成物は、育毛又は発毛用組成物であることが好ましい。育毛又は発毛用組成物としての本組成物は、生体の皮膚(例えば、頭皮)に含まれる毛乳頭細胞(例えば、当該皮膚の毛包に含まれる毛乳頭細胞)を活性化し、当該皮膚における育毛又は発毛を促進するために用いられる。
【0029】
具体的に、育毛用組成物としての本組成物は、毛が生えている皮膚(例えば、毛髪が生えている頭皮)における、当該毛の毛包に含まれる毛乳頭細胞の活性化による育毛(例えば、毛の成長促進、脱毛の抑制、又は、毛径の低減抑制、維持並びに増加)のために用いられる。
【0030】
また、発毛用組成物としての本組成物は、毛乳頭細胞を含むが毛が生えていない皮膚(例えば、毛乳頭細胞又は毛包を含むが毛髪が生えていない頭皮)における、当該皮膚に含まれる毛乳頭細胞(例えば、当該皮膚の毛包に含まれる毛乳頭細胞)の活性化による発毛(新たな毛の形成及び成長促進)のために用いられる。
【0031】
本組成物の用途は、本発明の効果が得られれば特に限られず、例えば、医学用途であってもよいし、研究用途であってもよい。すなわち、本組成物は、例えば、発毛又は脱毛に関連する疾患の治療又は予防のために用いられることとしてもよい。この場合、本組成物は、例えば、発毛又は脱毛に関連する疾患を有する生体に適用される。発毛又は脱毛に関連する疾患を有する生体は、例えば、当該疾患を有するヒト又は非ヒト動物であってもよいし、当該疾患を患う可能性のあるヒト又は非ヒト動物であってもよい。また、本組成物は、例えば、発毛又は脱毛に関連する疾患に関連する研究のために用いられることとしてもよい。
【0032】
発毛又は脱毛に関連する疾患は、特に限られないが、例えば、男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia:AGA)、女子男性型脱毛症(Female Androgenetic Alopecia:FAGA)、分娩後脱毛症、びまん性脱毛症、脂漏性脱毛症、粃糠性脱毛症、牽引性脱毛症、代謝異常性脱毛症、圧迫性脱毛症、円形脱毛症、神経性脱毛症、抜毛症、全身性脱毛症、及び症候性脱毛症からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0033】
また、本組成物は、例えば、生体外の毛乳頭細胞を活性化するために用いられる。すなわち、本組成物は、例えば、培養毛乳頭細胞を活性化するために用いられることとしてもよい。
【0034】
具体的に、本組成物は、培養培地であることとしてもよい。培養培地としての本組成物は、培養された毛乳頭細胞の生存に必要な成分(例えば、適切な浸透圧及びpHを維持するためのミネラル及び緩衝剤)を含有する。培養培地としての本組成物は、培養毛乳頭細胞の代謝に必要な成分(例えば、糖類及び/又はアミノ酸)をさらに含有してもよいし、当該培養毛乳頭細胞の増殖に必要な成分(例えば、成長因子(例えば、bFGF)及び/又はホルモン(例えば、インスリン))をさらに含有してもよい。
【0035】
また、本組成物は、培養培地用添加剤であることとしてもよい。培養培地添加剤としての本組成物は、培養毛乳頭細胞を活性化するための培養培地の調製に用いられる。すなわち、培養培地添加剤としての本組成物は、毛乳頭細胞を培養するための生理食塩水(緩衝剤を含有するものを含む)、又は、基礎培地(例えば、DMEMやF12培地等の毛乳頭細胞の培養に用いられる培地)に添加して用いられる。
【0036】
本組成物の形態は、本発明の効果が得られれば特に限られず、用途に応じて適切な形態が適宜採用される。すなわち、本組成物は、例えば、流動性を有する組成物(例えば、液体又はペースト状の組成物)であってもよいし、流動性を有しない組成物(例えば、固体又はゲル状の組成物)であってもよい。具体的に、本組成物は、例えば、液体、ローション剤、懸濁剤、乳剤、注射剤、貼付剤、軟膏剤、パップ剤、リニメント剤、噴霧剤、凍結乾燥品、又は粉末であることとしてもよい。
【0037】
本組成物におけるオキシトシン及びオキシトシン受容体アゴニストの含有量は、本発明の効果が得られる範囲内であれば特に限られず、用途や形態に応じて適宜決定される。すなわち、例えば、本組成物が流動性を有する育毛又は発毛用組成物である場合、オキシトシン及び/又はオキシトシン受容体アゴニストの含有量が異なる複数種類の当該組成物を用いて、毛乳頭細胞を活性化する効果及び/又は育毛又は発毛効果を評価することにより、所望の効果が得られるオキシトシン及び/又はオキシトシン受容体アゴニストの含有量を決定することができる。
【0038】
また、例えば、本組成物が流動性を有する培養培地である場合、オキシトシン及び/又はオキシトシン受容体アゴニストの含有量が異なる複数種類の当該培養培地を用いて、毛乳頭細胞を培養し、当該培養毛乳頭細胞を活性化する効果を評価することにより、所望の効果が得られるオキシトシン及び/又はオキシトシン受容体アゴニストの含有量を決定することができる。
【0039】
上述のとおり、本組成物におけるオキシトシンの含有量は、本発明の効果が得られる範囲内であれば特に限られず、用途や形態に応じて適宜決定されればよいが、本組成物(例えば、流動性を有する本組成物)におけるオキシトシンの含有量は、例えば、0.01μM以上であることとしてもよく、0.05μM以上であることが好ましく、0.1μM以上であることがより好ましく、0.5μM以上であることがさらに好ましく、1μM以上であることがさらに好ましく、3μM以上であることがさらに好ましく、5μM以上であることがさらに好ましく、7μM以上であることがさらに好ましく、10μM以上であることが特に好ましい。
【0040】
本組成物におけるオキシトシンの含有量の上限値は特に限られないが、例えば、1000μM以下であってもよいし、500μM以下であってもよいし、200μM以下であってもよい。本組成物におけるオキシトシンの含有量は、上述した下限値のいずれか1つと、上述した上限値のいずれか1つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0041】
また、上述のとおり、本組成物におけるオキシトシン受容体アゴニストの含有量は、本発明の効果が得られる範囲内であれば特に限られず、用途や形態に応じて適宜決定されればよいが、本組成物(例えば、流動性を有する本組成物)におけるオキシトシン受容体アゴニストの含有量は、例えば、0.01μM以上であることとしてもよく、0.05μM以上であることが好ましく、0.1μM以上であることがより好ましく、0.5μM以上であることがさらに好ましく、1μM以上であることがさらに好ましく、5μM以上であることがさらに好ましく、10μM以上であることがさらに好ましく、15μM以上であることがさらに好ましく、20μM以上であることが特に好ましい。
【0042】
本組成物におけるオキシトシン受容体アゴニストの含有量の上限値は特に限られないが、例えば、1000μM以下であってもよいし、500μM以下であってもよいし、200μM以下であってもよい。本組成物におけるオキシトシン受容体アゴニストの含有量は、上述した下限値のいずれか1つと、上述した上限値のいずれか1つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0043】
また、本組成物がオキシトシン及びオキシトシン受容体アゴニストを含有する場合、本組成物(例えば、流動性を有する本組成物)におけるオキシトシン含有量とオキシトシン受容体アゴニスト含有量との組み合わせは、上述のようにして特定されるオキシトシン含有量と、上述のようにして特定されるオキシトシン受容体アゴニスト含有量と、を任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0044】
本組成物は、用途や形態に応じて、オキシトシン及びオキシトシン受容体アゴニスト以外の成分を含む。すなわち、本組成物は、例えば、医薬品、医薬部外品、又は頭皮又は毛髪用化粧品において許容される成分を含む。具体的に、本組成物は、例えば、賦形剤、安定剤、分散剤、希釈剤、界面活性剤、乳化剤、pH調整剤、保存剤、着色剤、保湿剤、増粘剤、酸化防止剤、防腐剤、清涼剤、及び香料からなる群より選択される1以上を含有することとしてもよい。
【0045】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例0046】
[細胞培養]
毛乳頭細胞の二次元培養系を用いて、オキシトシンが当該毛乳頭細胞の発毛関連遺伝子発現に与える影響を評価した。すなわち、まず市販のヒト毛乳頭細胞(PromoCell社、継代数4)を、市販の毛乳頭細胞増殖培地(ロート製薬株式会社)にオキシトシン(製品コード:4084-v、CAS Registry Number:50-56-6、株式会社ペプチド研究所)を0.1μM、1μM又は10μMの濃度で添加して調製された培地(以下、実施例1において「オキシトシン添加培地」という。)、又は、オキシトシンが添加されていない(オキシトシン濃度が0μM)当該毛乳頭細胞増殖培地(以下、実施例1において「無添加培地」という。)に懸濁し、当該毛乳頭細胞が分散された細胞懸濁液を調製した。
【0047】
次いで、培養開始時の細胞密度が2×104cells/ウェルとなる量の細胞懸濁液を、24ウェルプレートの平底ウェルに播種した。そして、ウェルの底面に接着した毛乳頭細胞の二次元培養を6日間行った。培地交換は3日に1回行った。
【0048】
[発毛関連遺伝子の発現量]
培養6日目の毛乳頭細胞のRNAを抽出し、逆転写を行った後、RT-PCRを実施し、発毛関連遺伝子である、アルカリフォスファターゼ(ALP)遺伝子、バーシカン(VCAN)遺伝子、LEF1遺伝子、WNT5A遺伝子、BMP4遺伝子、及びNOG遺伝子の発現量を定量した。
【0049】
なお、RT-PCRには、次の塩基配列を有するプライマーを用いた。ALPのフォワードプライマー:5'-ATTGACCACGGGCACCAT-3'。ALPのリバースプライマー:5'-CTCCACCGCCTCATGCA-3’。VCANのフォワードプライマー:5'-GGCACAAATTCCAAGGGCAG-3'。VCANのリバースプライマー:5'-TCATGGCCCACACGATTAACA-3’。LEF1のフォワードプライマー:5'-CTTCCTTGGTGAACGAGTCTG-3’。LEF1のリバースプライマー:5'-TCTGGATGCTTTCCGTCAT-3’。WNT5Aのフォワードプライマー:5'-TCCACCTTCCTCTTCACACTGA-3’。WNT5Aのリバースプライマー:5'-CGTGGCCAGCATCACATC-3’。BMP4のフォワードプライマー:5'-GCCCGCAGCCTAGCAA-3’。BMP4のリバースプライマー:5'-CGGTAAAGATCCCGCATGTAG-3’。NOGのフォワードプライマー:5'-CTGGTGGACCTCATCGAACA-3’。NOGのリバースプライマー:5'-CGTCTCGTTCAGATCCTTTTCCT-3’。コントロールとして用いたGAPDHのフォワードプライマー:5'-TGGAAGGACTCATGACCACAG-3’。GAPDHのリバースプライマー:5'-GGATGATGTTCTGGAGAGCCC-3’。
【0050】
[結果]
図1には、毛乳頭細胞のVCAN遺伝子、ALP遺伝子、NOG遺伝子、LEF1遺伝子、WNT5A遺伝子、及びBMP4遺伝子の発現量を定量した結果を示す。なお、
図1において、横軸には、培地に添加したオキシトシン(OXT)の濃度(μM)を示し、縦軸には、無添加培地(オキシトシン濃度が0(ゼロ)μM)中で培養された毛乳頭細胞の遺伝子発現量を「1」とした場合の、オキシトシン添加培地中で培養された毛乳頭細胞の相対的な遺伝子発現量(算術平均値、n=3)を示す。
【0051】
図1に示すように、オキシトシン添加培地中で培養された毛乳頭細胞における発毛関連遺伝子の発現量は、無添加培地中で培養された毛乳頭細胞におけるそれより増加した。また、培地に添加されたオキシトシンの濃度が増加するにつれて、毛乳頭細胞における発毛関連遺伝子の発現量も増加する傾向が確認された。特に、VCAN遺伝子、ALP遺伝子及びNOG遺伝子、中でもNOG遺伝子の発現量は、オキシトシンによって顕著に増加した。このように、オキシトシンによって毛乳頭細胞が活性化され、当該毛乳頭細胞における発毛関連遺伝子の発現量が効果的に増加することが確認された。
【0052】
なお、培養された毛乳頭細胞の数(増殖)についても定量した結果(図示せず)、培地へのオキシトシン添加の有無は、細胞数の経時的変化に対して顕著な変化は与えなかった。すなわち、オキシトシンは、毛乳頭細胞の増殖を抑制することなく、当該毛乳頭細胞を活性化していることが確認された。また、免疫蛍光染色の結果(図示せず)、培養された毛乳頭細胞はオキシトシン受容体を発現していることが確認された。すなわち、オキシトシンは、毛乳頭細胞が発現するオキシトシン受容体を介して、当該毛乳頭細胞を活性化していると考えられた。
本発明の発明者らは、これまで、培地中に分散された上皮系細胞及び間葉系細胞を共培養することにより、当該上皮系細胞及び間葉系細胞を含む細胞凝集塊が形成されること、及び、当該細胞凝集塊を生体に移植することにより、当該生体の移植部位において新たに毛髪を再生できることを実証してきた(特許文献1:国際公開第2017/073625号)。
また、本発明の発明者らは、特定の細胞外マトリックスを低濃度で添加した培地中で上皮系細胞及び間葉系細胞を共培養することにより、in vitroで発毛する細胞凝集塊を形成する培養法を開発し(特許文献2:国際公開第2020/225934号、特許文献3:国際公開第2023/058429号)、さらに、この培養法を利用して、発毛促進物質を評価するためのin vitroモデルを確立した(非特許文献2:Tatsuto Kageyama et al., In vitro hair follicle growth model for drug testing, Scientific Reports (2023) 13: 4847)。本参考例では、このin vitroモデルの確立について説明する。
また間葉系細胞として、市販のヒト胎児真皮線維芽細胞(ScienCell Research Laboratories社)(以下、本参考例において「F間葉細胞」という。)、及び、上述の実施例1でも使用した市販のヒト成人毛乳頭細胞(PromoCell社)(以下、本参考例において「A間葉細胞」という。)を用いた(いずれの間葉系細胞も継代数は2又は3)。
次いで、得られた細胞懸濁液を、96ウェルプレートの各非細胞接着性丸底ウェルに200μLずつ加えることにより、上皮系細胞及び間葉系細胞を播種した。さらに播種後、速やかに96ウェルプレートに対して2分間の遠心処理(100×g)を施し、当該遠心処理後、速やかに当該96ウェルプレートを4℃の冷蔵庫内に移して、少なくとも30分静置した。その後、96ウェルプレートを37℃のインキュベータ内に移して、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養を開始した。培地交換は、2日に1回、ウェル内の培地200μLのうち100μLを除去し、代わりにマトリックスが添加されていないDMEM/F12培地(以下、参考例において「無添加培地」という。)100μLを添加することにより行った。
なお、上述の共培養は、上皮系細胞と、間葉系細胞と、培地に添加する細胞外マトリックスとの組み合わせによって異なる次の12条件で行った:(1)FF-M(F上皮細胞+F間葉細胞+マトリゲル);(2)FA-M(F上皮細胞+A間葉細胞+マトリゲル);(3)AF-M(A上皮細胞+F間葉細胞+マトリゲル);(4)AA-M(A上皮細胞+A間葉細胞+マトリゲル);(5)FF-C(F上皮細胞+F間葉細胞+コラーゲン);(6)FA-C(F上皮細胞+A間葉細胞+コラーゲン);(7)AF-C(A上皮細胞+F間葉細胞+コラーゲン);(8)AA-C(A上皮細胞+A間葉細胞+コラーゲン);(9)FF-No(F上皮細胞+F間葉細胞+マトリックスなし);(10)FA-No(F上皮細胞+A間葉細胞+マトリックスなし);(11)AF-No(A上皮細胞+F間葉細胞+マトリックスなし);(12)AA-No(A上皮細胞+A間葉細胞+マトリックスなし)。
特に、AA-M条件においては、細胞凝集塊に形成された毛幹様構造の長さが、培養10日目の時点において、マトリックス添加培地を用いた他の7条件で培養された細胞凝集塊のそれに比べて統計的に有意に大きかった(算術平均値、n=24)。
したがって、上皮系細胞としてヒト成人毛包角化細胞を用い、間葉系細胞としてヒト成人毛乳頭細胞を用い、細胞外マトリックスとしてマトリゲルを用いるAA-M条件での共培養系が、細胞凝集塊からの毛幹様構造の成長を指標とする、生体における毛包からの発毛を模したin vitroモデルとして最も好ましいと考えられた。
その後、培養4日目に、一部のウェル内の培地を、無添加培地にミノキシジルを10μMの濃度で添加して調製された培地(以下、参考例において「MNX添加培地」という。)に交換し、その後10日目まで、当該MNX添加培地中で6日間の共培養を行った。一方、比較のため、他の一部のウェルについては、培養4日目に、ウェル内の培地を無添加培地に交換し、10日目まで共培養を行った。培地交換は2日に1回行った。
そして、培養8日目、及び10日目の時点において、MNX添加培地中で培養された細胞凝集塊における毛幹様構造の相対的長さは、無添加培地中で培養された細胞凝集塊のそれに比べて、統計的に有意に大きかった。
このように、上述のAA-M共培養系は、ミノキシジルに対して、生体の毛包と同様の発毛促進効果を示した。すなわち、上述のAA-M共培養系は、細胞凝集塊における毛幹様構造の長さを指標として用いることで、候補物質が発毛促進効果を有するかどうかを生体外で評価するためのin vitroモデルとして有用であることが確認された。
次いで、得られた細胞懸濁液を、96ウェルプレートの各非細胞接着性丸底ウェルに200μLずつ加えることにより、上皮系細胞及び間葉系細胞を播種した。さらに、播種後、速やかに96ウェルプレートに対して2分間の遠心処理(100×g)を施し、当該遠心処理後、速やかに当該96ウェルプレートを4℃の冷蔵庫内に移して、少なくとも30分静置した。その後、96ウェルプレートを37℃のインキュベータ内に移して、上皮系細胞及び間葉系細胞の共培養を開始した。培地交換は、2日に1回、ウェル内の培地200μLのうち100μLを除去し、代わりに無添加培地100μLを添加することにより行った。
培養4日目に、一部のウェル内の培地を、無添加培地にオキシトシンを10μMの濃度で添加して調製された培地(以下、実施例2において「OXT添加培地」という。)に交換し、その後10日目まで、当該OXT添加培地中で6日間の共培養を行った。一方、比較のため、他の一部のウェルについては、培養4日目に、ウェル内の培地を無添加培地に交換し、10日目まで共培養を行った。培地交換は2日に1回行った。
なお、RT-PCRには、次の塩基配列を有するプライマーを用いた。VEGFAのフォワードプライマー:5'-ACTTCTGGGCTGTTCTCG-3’。VEGFAのリバースプライマー:5'-TCCTCTTCCTTCTCTTCTTC-3’。PDGFBのフォワードプライマー:5'-GAAGGAGCCTGGGTTCCC-3’。PDGFBのリバースプライマー:5'-TTTCTCACCTGGACAGGT-3’。コントロールとして用いたGAPDHのフォワードプライマー:5'-TGGAAGGACTCATGACCACAG-3’。GAPDHのリバースプライマー:5'-GGATGATGTTCTGGAGAGCCC-3’。
そして、培養8日目、及び10日目の各時点において、OXT添加培地中で培養された細胞凝集塊における毛幹様構造の相対的長さは、無添加培地中で培養された細胞凝集塊のそれに比べて、統計的に有意に大きかった。すなわち、オキシトシンによる発毛促進効果が確認された。