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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006784
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】通信用電線およびワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/02 20060101AFI20250109BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01B11/02
H01B7/00 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107771
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 悠佑
(72)【発明者】
【氏名】大塚 保之
(72)【発明者】
【氏名】今里 文敏
【テーマコード(参考)】
5G309
5G319
【Fターム(参考)】
5G309AA01
5G319DA02
5G319DA07
5G319DC03
5G319DC07
(57)【要約】
【課題】1対の導体の外周を一括して絶縁被覆で被覆した通信用電線であって、外部の基材に対して、強固に固定することができる通信用電線、またそのような通信用電線を備えたワイヤーハーネスを提供する。
【解決手段】1対の導体11,11と、前記1対の導体11,11の外周を一体に被覆する絶縁被覆12と、を有する信号線10と、前記信号線10の外周を被覆するシース20と、を有し、前記信号線10は、前記1対の導体11,11と前記絶縁被覆20とを含む集合体全体に対して撚りが加えられ、前記1対の導体11,11が、前記絶縁被覆20を間に挟んで、相互に螺旋状に交差された状態となっており、前記1対の導体11,11が相互に並列された並列方向に沿った面の平滑性が、前記シース20の外周面において、前記信号線10の外周面よりも高くなっている、通信用電線1とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の導体と、前記1対の導体の外周を一体に被覆する絶縁被覆と、を有する信号線と、
前記信号線の外周を被覆するシースと、を有し、
前記信号線は、前記1対の導体と前記絶縁被覆とを含む集合体全体に対して撚りが加えられ、前記1対の導体が、前記絶縁被覆を間に挟んで、相互に螺旋状に交差された状態となっており、
前記1対の導体が相互に並列された並列方向に沿った面の平滑性が、前記シースの外周面において、前記信号線の外周面よりも高くなっている、通信用電線。
【請求項2】
前記通信用電線を軸線方向に垂直に切断した断面において、前記シースの外縁が、前記並列方向に沿った辺を有している、請求項1に記載の通信用電線。
【請求項3】
前記通信用電線を軸線方向に垂直に切断した断面において、前記シースが、長方形、または長方形の角部を面取りした形状の外形を有している、請求項2に記載の通信用電線。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の通信用電線と、
基材と、を有し、
前記通信用電線は、前記並列方向に沿った面において、前記基材に固定されている、ワイヤーハーネス。
【請求項5】
前記基材は、不織布より構成され、
前記通信用電線は、前記基材に対して、融着により固定されている、請求項4に記載のワイヤーハーネス。
【請求項6】
前記基材と前記シースは、同種の有機高分子を含有し、相互に融着されている、請求項4に記載のワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通信用電線およびワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
高さ方向の省スペース性を保って複数の電線を集合させる等の目的で、樹脂シートや不織布よりなるシート材の面に電線を固定してワイヤーハーネスを構成する場合がある。例えば、特許文献1に、電線を縫付または溶着によってシート材に固定したワイヤーハーネスを、車両の内装部材に含まれる板状部材に沿って配設する形態が開示されている。各種電線の中で、通信用電線についても、シート材に固定してワイヤーハーネスに組み込むことが考えられる。
【0003】
1対の導体を含み、差動信号の伝送に用いられる通信用電線の一種として、1対の導体を平行に並べ、それらの導体の外周に一括して絶縁被覆を設けた形態のものが用いられる場合がある(二芯一体型電線)。例えば特許文献2,3に、その種の二芯一体型電線が開示されている。それらの文献、および特許文献4に開示されるように、1対の導体の外周に一括して絶縁被覆を設けた二芯一体型電線に対して、螺旋状の撚りを加える形態もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-196174号公報
【特許文献2】実開昭60-123920号公報
【特許文献3】特開2003-36739号公報
【特許文献4】特開2015-191877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2~4に開示されるような二芯一体型電線よりなる通信用電線を、特許文献1に開示される形態のように、不織布等よりなる基材に固定してワイヤーハーネスを構成することが考えられる。しかし、その場合に、1対の導体の形状に起因して、通信用電線の表面に凹凸構造が生じることから、通信用電線を十分に強固に基材に固定できなくなる可能性がある。特に、二芯一体型電線に螺旋状の撚りが加えられている場合に、基材への固定が不完全になりやすく、またそのことによる影響も生じやすい。例えば、図6に、二芯一体型電線10を基材30に固定した状態の断面を模式的に示すが、1対の導体11,11を一括して被覆する絶縁被覆12が、一方の導体11の近傍(図の左側の導体11の下方)の箇所では、基材30に強固に固定されるが、他方の導体11の近傍の箇所では基材30に対して強固に固定できない場合が生じうる。このように、1対の導体の両方の近傍で、通信用電線を基材に強固に固定できないとすれば、ワイヤーハーネスにおいて、基材に通信用電線を安定に保持できなくなるだけでなく、通信用電線の軸線方向に沿って、1対の導体の間の線間距離にばらつきが生じることや、1対の導体の間の対称性が低くなることで、通信用電線において、特性インピーダンス等、通信にかかる特性が不安定化する可能性や、耐ノイズ性が低くなる可能性がある。
【0006】
そこで、1対の導体の外周を一括して絶縁被覆で被覆した通信用電線であって、外部の基材に対して、強固に固定することができる通信用電線、またそのような通信用電線を備えたワイヤーハーネスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の通信用電線は、1対の導体と、前記1対の導体の外周を一体に被覆する絶縁被覆と、を有する信号線と、前記信号線の外周を被覆するシースと、を有し、前記信号線は、前記1対の導体と前記絶縁被覆とを含む集合体全体に対して撚りが加えられ、前記1対の導体が、前記絶縁被覆を間に挟んで、相互に螺旋状に交差された状態となっており、前記1対の導体が相互に並列された並列方向に沿った面の平滑性が、前記シースの外周面において、前記信号線の外周面よりも高くなっている。
【0008】
本開示のワイヤーハーネスは、前記通信用電線と、基材と、を有し、前記通信用電線は、前記並列方向に沿った面において、前記基材に固定されている。
【発明の効果】
【0009】
本開示にかかる通信用電線およびワイヤーハーネスは、1対の導体の外周を一括して絶縁被覆で被覆した通信用電線であって、外部の基材に対して、強固に固定することができる通信用電線、またそのような通信用電線を備えたワイヤーハーネスとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の一実施形態にかかる通信用電線を示す平面図である。
図2図2は、上記通信用電線を軸線方向に垂直に切断した断面を示す断面図である。
図3図3は、上記通信用電線の製造原料となる二芯一体型のパラレル電線を示す平面図である。
図4図4は、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネスを示す平面図である。
図5図5は、上記ワイヤーハーネスについて、通信用電線を基材に固定した箇所を示す断面図である。
図6図6は、シースを設けていない通信用電線を基材に固定した状態を示す断面図である。
図7図7A,7Bは、基材に対する通信用電線の固定強度を見積もるためのモデルを示している。図7Aはシースを設けない場合、図7Bはシースを設けた場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。本開示の実施形態にかかる通信用電線およびワイヤーハーネスは、以下の構成を有している。
【0012】
[1]本開示にかかる通信用電線は、1対の導体と、前記1対の導体の外周を一体に被覆する絶縁被覆と、を有する信号線と、前記信号線の外周を被覆するシースと、を有し、前記信号線は、前記1対の導体と前記絶縁被覆とを含む集合体全体に対して撚りが加えられ、前記1対の導体が、前記絶縁被覆を間に挟んで、相互に螺旋状に交差された状態となっており、前記1対の導体が相互に並列された並列方向に沿った面の平滑性が、前記シースの外周面において、前記信号線の外周面よりも高くなっている。
【0013】
上記通信用電線においては、信号線が、1対の導体の外周を一括して絶縁被覆で被覆した二芯一体型電線よりなっており、その二芯一体型電線に撚りが加えられていることで、通信用電線において、通信にかかる特性の高い安定性、および高い耐ノイズ性が得られる。そして、その信号線の外周にシースが設けられ、そのシースの外周面において、導体の並列方向に沿った面の平滑性が、信号線の外周面よりも高くなっている。このように、外周面の平滑性の高いシースが設けられることで、通信用電線を基材の面に固定する際に、シースを有さない場合と比較して、通信用電線を基材の面に大面積で接触させて固定しやすくなる。すると、シースを設けない場合と比較して、通信用電線を基材に対して、強固に固定することが可能となる。また、1対の導体に対して、高い対称性をもって、通信用電線を基材の面に接触させて固定しやすくなる。それらの結果として、通信用電線を基材に固定した状態において、通信用電線が基材から離れにくくなるとともに、信号線の撚り構造が安定に保持され、1対の導体の間の線間距離および対称性が高く保たれることで、特性インピーダンスをはじめとする通信用電線の通信にかかる特性が安定に維持されるようになる。通信用電線の耐ノイズ性も高く保たれる。
【0014】
[2]上記[1]の態様において、前記通信用電線を軸線方向に垂直に切断した断面において、前記シースの外縁が、前記並列方向に沿った辺を有しているとよい。すると、通信用電線において、シースの外周面を大面積で基材に接触させ、基材に対して特に強固に固定しやすくなる。また、1対の導体のそれぞれの近傍の箇所で、対称性高く、基材に対する通信用電線の固定を行うことができるため、基材に固定した状態でも、1対の導体の対称性を高く保つ効果に優れる。
【0015】
[3]上記[2]の態様において、前記通信用電線を軸線方向に垂直に切断した断面において、前記シースが、長方形、または長方形の角部を面取りした形状の外形を有しているとよい。すると、基材の表面に複数の電線を並べて固定する際に、並列された電線と通信用電線との間の距離を、断面の長方形の辺の長さによって、規定しやすくなる。
【0016】
[4]本開示にかかるワイヤーハーネスは、上記[1]から[3]のいずれか1つの通信用電線と、基材と、を有し、前記通信用電線は、前記並列方向に沿った面において、前記基材に固定されている。
【0017】
上記ワイヤーハーネスにおいては、ワイヤーハーネスを構成する通信用電線が、二芯一体型電線に撚りが加えられた信号線の外周に、外周面が平滑になったシースを有するものであり、そのシースの外周面において、基材に固定されるため、シースを設けない場合と比較して、通信用電線が基材に対して、強固に固定されたワイヤーハーネスとなる。また、1対の導体に対して、高い対称性をもって、通信用電線が基材に固定されることにより、信号線の撚り構造の緩みによる導体間の線間距離の変化や、1対の導体の間の対称性の低下が起こりにくくなる。その結果として、通信用電線の通信特性を長期にわたって安定に維持することができ、また通信用電線が高い耐ノイズ性を有するワイヤーハーネスとなる。
【0018】
[5]上記[4]の態様において、前記基材は、不織布より構成され、前記通信用電線は、前記基材に対して、融着により固定されているとよい。すると、基材に通信用電線が強固に固定されても、ワイヤーハーネスにおいて高い可撓性を保つことができ、ワイヤーハーネスの取り扱い性が高くなる。また、基材への通信用電線への強固な固定を、簡便に達成することができる。
【0019】
[6]上記[4]または[5]の態様において、前記基材と前記シースは、同種の有機高分子を含有し、相互に融着されているとよい。基材とシースが同種の有機高分子を含有することで、基材と通信用電線の間の融着箇所において、高い固定強度を得ることができる。また、多くの場合、同種の高分子材料に添加される添加剤は、同種または類似のものであるため、可塑剤をはじめとする添加剤の移行が、シースと基材の間の融着箇所を介して起こりにくくなる。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態にかかる通信用電線およびワイヤーハーネスについて、図面を用いて詳細に説明する。本開示の実施形態にかかる通信用電線を含んで、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスが構成される。本明細書において、「平行」、「直線」、「長方形」等、部材の形状や配置を示す語には、幾何的に厳密な概念のみならず、長さにして±15%程度、角度にして±15°程度など、通信用電線およびワイヤーハーネスにおいて一般に許容される範囲の誤差も含むものとする。
【0021】
<通信用電線の構成>
まず、本開示の実施形態にかかる通信用電線について説明する。図1に、本開示の一実施形態にかかる通信用電線1を、平面図にて示す。また、図2に、通信用電線1を軸線方向(長手方向)に垂直に切断した断面を示す。
【0022】
通信用電線1は、信号線10と、シース20とを有している。信号線10の外周をシース20が被覆している。図1では、信号線10を視認できるように、一端においてシース20を除いて表示している。通信用電線1は、信号線10およびシース20以外の構成部材を含んでいてもよいが、後述するシース20を設けることによる効果を高める観点からは、信号線10とシース20の間、およびシース20の外周には、他の構成部材が設けられないことが好ましい。以降、本明細書において、単に断面と称する場合に、通信用電線1の軸線方向に垂直な断面を指すものとする。また、横方向や上下方向等、相対的な方向は、図2の断面図に示した方向に従うものとする。つまり、横方向とは、次に説明する1対の導体11,11が相互に並列された並列方向を指し、上下方向とは、断面においてその横方向に直交する方向を指す。
【0023】
信号線10は、差動信号の伝送を行う電線であり、1対の導体11,11と、絶縁被覆12とを有している。絶縁被覆12は、1対の導体11,11の外周を一体に被覆しており、信号線10が、二芯一体型電線として構成されている。つまり、絶縁被覆12は、1対の導体11,11のそれぞれの外周を被覆するとともに、それら各導体11,11の外周を被覆する部位が相互に一体に連続した構造をとっている。絶縁被覆12は、1対の導体11,11を相互に対して絶縁するとともに、外部に対して絶縁する役割を果たす。
【0024】
信号線10においては、1対の導体11,11と、それら導体11,11を一括して被覆する絶縁被覆12とを含む集合体全体に対して撚りが加えられ、1対の導体11,11が、絶縁被覆12の層を間に挟んで、相互に螺旋状に交差した状態となっている。つまり、平行に並べられた導体11,11の外周に絶縁被覆12が形成された二芯一体型のパラレル電線として、導体11,11と絶縁被覆12の集合体を形成したうえで(図3に平面図にて表示)、その集合体全体に対して撚りを加えた構造として、信号線10が構成されている。なお、上記のとおり、並列方向(横方向)とは、1対の導体11,11が相互に並列された方向を指すが、厳密には、二芯一体型電線の撚り構造により、2本の導体11,11の重心を結ぶ方向は、軸線方向に沿って変化する。撚りを加えない(撚りを解消した)パラレル電線の状態で、2本の導体11,11の重心を結ぶ方向が、並列方向に対応する。また、撚りを加えた状態では、2本の導体11,11が交差する交点のうち隣接する2つの中間点において、2本の導体11,11の重心を結ぶ方向が、並列方向に対応する。
【0025】
信号線10において、1対の導体11,11を共通の絶縁被覆12で一括して被覆した二芯一体型構造を採用することで、信号線10の構造を簡素化することができるとともに、1対の導体11,11の間の線間距離を安定に保ち、特性インピーダンス等、通信にかかる特性の安定性を高めることができる。さらに、その二芯一体型電線に撚りを加えることで、1対の導体11,11の対称性が高められ、コモンモードノイズが抑制されるため、信号線10の耐ノイズ性が高くなる。また、信号線10の耐屈曲性が高くなり、特性インピーダンス等、通信にかかる特性が、屈曲を受けた際に変化を起こしにくくなる。
【0026】
信号線10に含まれる導体11は、任意の導電性材料より構成すればよいが、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料を好適に例示することができる。また、導体11は単線より構成されてもよいが、二芯一体型電線に撚りを加える際の作業性や、信号線10の曲げ柔軟性等の観点から、複数の素線11aが撚り合わせられた撚線として構成されることが好ましい。この場合に、複数の素線11aを撚り合わせた後に、圧縮成形を行い、図2に示すように、圧縮撚線としてもよい。また、導体11を構成する複数の素線11aは、全て同じ素線であっても、2種以上の素線よりなってもよい。導体11のサイズは特に限定されるものではないが、通信用電線としての好適性等の観点から、0.01mm以上、また0.22mm以下の範囲を例示することができる。
【0027】
絶縁被覆12の構成材料も特に限定されるものではなく、種々の有機高分子を用いて絶縁被覆12を構成することができる。絶縁被覆12を構成する有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等のハロゲン系高分子、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド等のエンジニアリングプラスチック、各種エラストマー、ゴム等を例示することができる。有機高分子は、1種のみを用いても、混合、積層等により、2種以上を合わせて用いてもよい。有機高分子は、架橋されていてもよく、また、発泡されていてもよい。絶縁被覆12は、有機高分子材料に加え、適宜、難燃剤等の添加剤を含有してもよい。
【0028】
信号線10において、絶縁被覆12の厚さは特に限定されるものではないが、導体11,11の間以外の箇所で、0.1mm以上、また0.3mm以下とする形態を例示することができる。信号線10において、絶縁被覆12は、一方の導体11の外周を被覆する部位と、他方の導体11の外周を被覆する部位とを有し、それら2つの部位が一体に連続していれば、具体的にどのような形状をとり、どのような方法で形成されてもよい。例えば、1本の導体11の外周を1周被覆する絶縁被覆を設けた絶縁電線を2本並べて接触させ、それら2本の絶縁電線の接触箇所を融着する方法によって、二芯一体型の電線を形成してもよいが、平行に並べた1対の導体11,11に対して、それら導体11,11の間の箇所および外周の箇所を占める被覆材を一体に押出成形して絶縁被覆12とする形態が、信号線10の構造の安定性等の観点で好ましい。
【0029】
信号線10全体としての外形も特に限定されるものではないが、図2の断面図に示すとおり、絶縁被覆12の外周面が、断面略円形の導体11,11の形状を反映した、略円弧形状の領域を有していることが好ましい。つまり、断面において、1対の導体11,11の間に位置する箇所を除いて、絶縁被覆12の外縁が略円弧形状をとるとともに、1対の導体11,11の間の位置において、絶縁被覆12の上下の外縁が内側にくびれた形状(図中10a)をとっていることが好ましい。このくびれ部10aを設けることで、二芯一体型電線として構成された信号線10に撚りを加えやすくなる。信号線10の撚りピッチは特に限定されるものではないが、通信用電線としての好適性等の観点から、5mm以上、また50mm以下の範囲を例示することができる。
【0030】
シース20は、信号線10の外周を被覆する被覆部材として、通信用電線1に設けられている。シース20は、信号線10の全周を一体に被覆している。シース20は、信号線10とシース20との間に不可避的に空隙が生じる箇所を除いて、信号線10の外周面全体に密着していることが好ましい。
【0031】
シース20の構成材料は特に限定されず、信号線10の絶縁被覆12として挙げたのと同様の材料を適用することができる。つまり、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等のハロゲン系高分子、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド等のエンジニアリングプラスチック、各種エラストマー、ゴム等の有機高分子を用いて、シース20を構成することができる。有機高分子は、1種のみを用いても、混合、積層等により、2種以上を合わせて用いてもよい。有機高分子は、架橋されていてもよく、また、発泡されていてもよい。シース20は、有機高分子材料に加え、適宜、難燃剤等の添加剤を含有してもよい。上記のとおり、信号線10とシース20の間には、他の部材を設けない方が好ましいが、タルク等の無機粉末材料を含む剥離剤を信号線10の外周に配置したうえで、シース20を形成する形態も好ましい。
【0032】
シース20は、外周面が高い平滑性を有するものとなっている。具体的には、1対の導体11,11の並列方向(横方向)に沿った面の平滑性が、シース20の外周面において、信号線10の外周面の平滑性よりも高くなっている。つまり、断面において、シース20の上下の外縁の平滑性が、シース20の内側に位置する信号線10の上下の外縁の平滑性よりも高くなっている。換言すると、外縁における高低差が、シース20の上下の外縁において、信号線10の上下の外縁よりも小さくなっている。上記のように、信号線10の外周面において、1対の導体11,11の間にあたる箇所には、くびれ部10aが生じているが、シース20の外周面には、そのように上下の外縁が内側にくびれた構造等の凹凸が設けられないか、信号線10のくびれ部10aよりも浅い凹凸構造しか設けられない。シース20の外周面の平滑性の具体的な程度は、特に限定されるものではないが、断面におけるシース20の上下の外縁の高低差(各外縁のうち、最も外側に位置する箇所と最も内側に位置する箇所の間の、上下方向に沿った距離)が、信号線10の上下の外縁の高低差の30%以下であるとよい。また、断面におけるシース20の上下の外縁の高低差が、信号線10の高さ(上下方向に沿った寸法)の10%以下であるとよい。シース20の外周面は平滑であるほど好ましく、それらの数値に下限は特に設けられない。
【0033】
シース20の外周面が、上下の面において、高い平滑性を有していることで、後にワイヤーハーネス3について詳しく説明するように、基材30等、外部の部材の面に対する通信用電線1の接触面積を、信号線10の外周にシース20を設けない場合やシース20の外周面の平滑性が低い場合と比較して、大きく確保しやすくなる。そして、それら外部の部材に対して通信用電線1を接触箇所で固定する場合に、固定の強度および安定性を高めることができる。また、1対の導体11,11のそれぞれの近傍の箇所で、均一性高く通信用電線1を固定することができ、1対の導体11,11の間の対称性を維持しやすくなる。これら固定の強度および安定性、均一性による効果として、外部の部材に通信用電線1を固定した状態でも、信号線10の撚り構造に緩みが生じにくくなる。その結果、通信用電線1において、特性インピーダンス等、通信にかかる特性を安定に保持し、また高い耐ノイズ性を得ることができる。そもそも信号線10の外周にシース20を設けていること自体の効果として、信号線10の撚り構造の緩みが抑制されるが、そのシース20が平滑な外周面を有していることで、通信用電線1を外部の部材に固定した場合でも、信号線10の緩みの抑制に、高い効果が得られる。
【0034】
シース20は、上記のように、外周面のうち上下の面が、信号線10の上下の面よりも平滑になった外周形状を有していれば、具体的な厚さや形状は特に限定されないが、厚さとしては、通信用電線1全体としての外周面の平滑化等、シース20の役割を効果的に発揮する観点から、平均で0.1mm以上とすることが好ましい。一方、通信用電線1の省スペース性の確保等の観点から、平均で0.5mm以下とすることが好ましい。シース20の形状としては、断面において、シース20の外縁が、並列方向に沿った辺を有していること、つまりシース20の上下の外縁、特に下側の外縁が、横方向に沿って直線状に延びていることが好ましい。さらには、上下の外縁が相互に平行になっていることが好ましい。このように、断面において、シース20の上下の外縁が横方向に沿って直線的に延びていることは、シース20の外周面が、導体11,11の並列方向に沿って平面に近似できる面を有していることを意味し、外部の部材への固定性の向上等、シース20の平滑性による効果を高めることができる。特に、図2に示したように、シース20の断面形状が、長方形、あるいは長方形の角部を面取りした(丸み形状を付与した)形状の外形を有しているとよい。すると、次に説明するワイヤーハーネス3等において、通信用電線1を他の電線(同種の通信用電線1である場合も含む)と並べて配置する際に、隣接する電線との間隔を、長方形の辺の長さにより、明確に規定することができる。
【0035】
<ワイヤーハーネスの構成>
次に、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスについて説明する。図4に、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネス3を、平面図にて示す。また、図5に、そのワイヤーハーネス3のうち通信用電線1が配置されている近傍の箇所を、通信用電線1の軸線方向に垂直に切断した断面を示す。図4でも、図1と同様に、端部において通信用電線1のシース20を除いて表示している。
【0036】
本実施形態にかかるワイヤーハーネス3は、上記で説明した本開示の実施形態にかかる通信用電線1と、基材30とを有している。通信用電線1は、導体11,11の並列方向(横方向)に沿った面、具体的には下面において、基材30に固定されている。ワイヤーハーネス3において、本開示の実施形態にかかる通信用電線1は、1本のみ含まれても、複数含まれてもよい。図4に示した形態では、ワイヤーハーネス3が、2本の通信用電線1を含んでいる。また、ワイヤーハーネス3は、本開示の実施形態にかかる通信用電線1に加え、他種の電線5を含んでいてもよい。ワイヤーハーネス3が、本開示の通信用電線1をはじめ、複数の電線1,5を含む場合に、それら複数の電線1,5は、軸線方向を平行にして配列され、共通の基材30に固定されていることが好ましい。
【0037】
基材30は、通信用電線1、および必要に応じて他種の電線5を沿わせ、固定できる面を有する部材あれば、特に種類を限定されるものではないが、ワイヤーハーネス3の配策性を確保する観点から、シート体、つまり可撓性を有する面状の部材より構成されることが好ましい。シート体としては、織布、不織布、編布等の布帛、樹脂シート等を用いることができる。通信用電線1をはじめとする電線1,5の基材30への固定方法は特に限定されるものではなく、融着、縫着、接着剤または粘着剤を用いた接着、留め具等の固定部材を用いた固定を例示することができる。中でも、固定の確実性や省スペース性、固定に要する部材の少なさ等の観点から、融着によって通信用電線1を固定することが好ましい。基材30として不織布を用いると、融着を利用して、強固に、また簡便に通信用電線1を固定しやすい。なお、不織布に対して融着によって通信用電線1を固定する場合に、融着に伴って、通信用電線1が不織布の表面に対して、沈み込むように深く接触する場合もあるが、基材30の特性を損なわない観点、またシース20によって固定強度を高める効果を大きく得る観点から、接触深さ、つまり通信用電線1と基材30の間の接触部の位置が、周囲の基材30の面に対して下方に沈んでいる長さを、シース20の厚さの10%以下、また0.02mm以下に抑えておくことが好ましい。
【0038】
基材30の構成材料は、特に限定されるものではないが、通信用電線1の固定に融着を用いる場合には、基材30と、通信用電線1のシース20が、同種の有機高分子を含有していることが好ましい。ここで、同種の有機高分子を含有するとは、それぞれの材料に含有される有機高分子が同種のモノマーユニットを含むことを指す。好ましくは、基材30を構成する有機高分子と、通信用電線1のシース20を構成する有機高分子が、同一のものであるとよい。これらの場合には、通信用電線1と基材30との間の融着による固定の強度を高めやすくなる。また、同種の有機高分子には、同種または類似の添加剤が添加される場合が多いことから、融着部を介して、基材30と通信用電線1のシース20との間で、可塑剤等の添加剤の移行、およびそれに伴う材料の変性が起こりにくくなる。例えば、基材30を構成する有機高分子、および通信用電線1のシース20を構成する有機高分子として、ともにポリ塩化ビニル(PVC)を用いる形態を、好適な例として挙げることができる。多くの場合、PVCには可塑剤が添加されるが、基材30とシース20がともに可塑剤を含有するPVCより構成されていれば、融着部を介した可塑剤の移行は起こりにくい。
【0039】
以上のとおり、本実施形態にかかるワイヤーハーネス3においては、信号線10の外周に、下面の平滑性が信号線10よりも高くなったシース20を設けた通信用電線1を、その下面において基材30に接触させ、固定している。このように、シース20の下面が高い平滑性を有していることで、外周をシース20に被覆されていない信号線10が直接基材30に固定される場合や、シース20の下面の平滑性が低い場合と比較して、通信用電線1が大面積で基材30に接触し、固定を受けるものとなる。特に、シース20の下面が平面として構成されていれば、下面全体で平面的に基材30の面に接触し、固定を受けることができる。これにより、基材30に対して信号線10が、大面積で、強固に固定されたワイヤーハーネス3が得られる。その結果として、ワイヤーハーネス3に屈曲を加えて使用した場合や、長期にわたって使用した場合等にも、基材30に信号線10が固定された状態を安定に維持することができる。
【0040】
もし信号線10をシース20で被覆せずに、直接基材30に固定するとすれば、上記のとおり、導体11,11が断面略円形の形状を有することを反映して、信号線10の外周面として、くびれ部10aを含む平滑性の低い面が露出していることにより、基材30との間に大きな接触面積を確保しにくい。すると、ワイヤーハーネスに屈曲を加えて使用した場合や、長期にわたって使用した場合などに、徐々に信号線10の撚り構造が緩んでくる可能性がある。加えて、図6に示すように、1対の導体のうち一方の導体11(図では左側の導体11)の下方でのみ、信号線10が基材30に固定され、他方の導体11の下方では、信号線10が基材30に固定されない、あるいは固定強度が低くなるというように、各導体11を基準とした固定箇所および/または固定強度が、1対の導体11,11の間で均等にならない状態が、通信用電線の軸線方向の少なくとも一部において、生じやすい。このような状態が生じると、信号線10の撚り構造の緩みが、ますます起こりやすくなる。また、1対の導体11,11の間の対称性が低下しやすくなる。信号線10の撚り構造が緩むと、1対の導体11,11の間の線間距離が変化し、特性インピーダンス等、信号線10の通信にかかる特性が不安定化してしまう。また、1対の導体11,11の間の対称性が低下すると、コモンモードノイズが大きくなり、耐ノイズ性が低下してしまう。
【0041】
これに対し、本実施形態にかかるワイヤーハーネス3においては、信号線10の外周をシース20で被覆して通信用電線1を構成していることに加え、そのシース20の平滑な外周面において、通信用電線1を基材30に強固に固定していることにより、ワイヤーハーネス3に屈曲を加えた場合や、長期にわたって使用した場合でも、信号線10の撚り構造に緩みが生じにくい。これにより、1対の導体11,11の線間距離が安定に維持され、1対の導体11,11の間の対称性も高く保たれる。信号線10が、二芯一体型電線に撚りを加えた構造を有していることで、信号線10自体の特性として、1対の導体11,11の間の線間距離および対称性の維持に優れたものとなっているが、シース20の形成、およびそのシース20の平滑面を利用した基材30への固定を行うことで、信号線10が本来的に有するそれらの特性を、ワイヤーハーネス3における特性として、効果的に利用することができる。1対の導体11,11の間の線間距離を安定に維持することで、通信用電線1において、特性インピーダンスをはじめとする通信にかかる特性を安定に保つことができる。また、1対の導体11,11の間の対称性を高く保つことで、コモンモードノイズが生じにくく、高い耐ノイズ性が得られる。
【0042】
<通信用電線の固定強度の見積もり>
ここで、シース20の有無による基材30への通信用電線の固定強度の変化を、計算により見積もる。見積もりには、図7A,7Bに断面図を示したモデルを用いた。ここでは、0.05mmまたは0.13mmの導体断面積を有する断面円形の導体11を2本並べ、それらの外周に一体に絶縁被覆12を設けたものを、信号線10とした。導体11,11の間の距離は0.35mmとし、絶縁被覆12の厚さは、導体の間以外の領域で0.2mmとした。図7Aに示すシースなしのモデルでは、この信号線10をそのまま通信用電線とした。一方、図7Bの示すシースありのモデルでは、上記信号線10の上下にシース20を設けて、通信用電線とした。実際のシース20は、信号線10の外周全体を取り囲むものであるが、ここでは、モデルの簡素化のため、シース20を、信号線10の上下にのみ設けた。具体的には、シース20の外縁が信号線10の接線を構成するように、信号線10の上下のくびれ部をシース20が埋める構造とした。
【0043】
上記2種の通信用電線を、下面で基材30に固定したモデルを設定した。つまり、各通信用電線の下方に不織布を想定した基材30を配置し、接触深さ0.01mmにて接触させた。そして、図中に太線で表示するように、基材30と通信用電線の表面が接触している接触箇所の長さを、接触距離として、幾何的に算出した。なお、0.01mmとの接触深さは、従来一般の断面略円形の絶縁電線を不織布に融着した際に実際に観測された接触深さに近いものである。接触距離の算出に際し、図中に太線で示したそれぞれの接触箇所を、直線部と曲線部に分解し、曲線部に関しては、楕円弧に近似して、その長さを計算した。
【0044】
さらに、各モデルについて、通信用電線と基材30のとの間の固定強度を見積もった。この際、シースなしのモデルで導体断面積0.05mmとした場合の固定強度を1とし、接触距離に比例させて、各形態の固定強度を見積もった。ここで、接触距離と固定強度の間に比例関係が成り立つことは、従来一般の断面略円形の絶縁電線を不織布に融着した形態について、導体断面積を変化させて融着強度を実測する予備試験により、確認している。
【0045】
下の表1に、通信用電線にシース20を設けない場合、およびシース20を設けた場合のそれぞれについて、導体断面積と、接触距離および固定強度の計算値をまとめる。
【0046】
【表1】
【0047】
表1によると、いずれの導体断面積についても、シース20を設けることで、シース20を設けない場合よりも、通信用電線と基材30との間の接触面積が大きくなり、固定強度も大きくなることが確認される。シース20を設けない場合を基準として、シース20を設けた場合の固定強度が、導体断面積0.05mmの場合で1.7倍、導体断面積0.13mmの場合で2.6倍となっている。導体断面積が大きい場合の方が、シース20の設置による固定強度の増加率が大きくなっている。
【0048】
本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 通信用電線
10 信号線(二芯一体型電線)
10a くびれ部
11 導体
11a 素線
12 絶縁被覆
20 シース
3 ワイヤーハーネス
30 基材
5 他種の電線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7