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  • 特開-断熱蓋 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006786
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】断熱蓋
(51)【国際特許分類】
   F24H 9/00 20220101AFI20250109BHJP
   F16L 59/065 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F24H9/00 E
F16L59/065
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107775
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】平 博寿
(72)【発明者】
【氏名】矢嶌 健史
【テーマコード(参考)】
3H036
3L036
【Fターム(参考)】
3H036AA09
3H036AB25
3H036AB28
3H036AC01
3H036AD01
3H036AE07
3L036AB05
3L036AB12
(57)【要約】
【課題】加熱槽と蓋との隙間からの蒸気漏れを防ぎ、且つより高い断熱性能を得られることにより、更なる放熱ロスの削減を図ることが可能な断熱蓋を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる断熱蓋100の構成は、上面が開口した加熱槽の開口を覆う断熱蓋100であって、加熱槽10の側壁14の上に乗る板材110と、板材110の下側に配置され加熱槽の側壁の内側に嵌る心材120と、板材110および心材120を内包する真空フィルム130とを含み、心材120は連続気泡発泡体からなり、真空フィルムは、板材よりも寸法が大きく、板材110と心材120を重ねた状態で真空フィルム130を真空引きして一体化することにより、板材110の外周に真空フィルム130の裾132が形成され、裾132を板材110と加熱槽10の側壁14との間に折込可能であることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が開口した加熱槽の開口を覆う断熱蓋であって、
前記加熱槽の側壁の上に乗る板材と、
前記板材の下側に配置され前記加熱槽の側壁の内側に嵌る心材と、
前記板材および前記心材を内包する真空フィルムとを含み、
前記心材は連続気泡発泡体からなり、
前記真空フィルムは、前記板材よりも寸法が大きく、
前記板材と前記心材を重ねた状態で前記真空フィルムを真空引きして一体化することにより、前記板材の外周に前記真空フィルムの裾が形成され、
前記裾を前記板材と前記加熱槽の側壁との間に折込可能であることを特徴とする断熱蓋。
【請求項2】
前記板材の上側に配置され前記真空フィルムに内包されて持ち手として機能する棒状の支持材を含み、
前記支持材は、前記加熱槽の対向する一対の側壁に亘る長さであることを特徴とする請求項1に記載の断熱蓋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上面が開口した加熱槽の開口を覆う断熱蓋に関する。
【背景技術】
【0002】
工場等の施設には、高温の液体(例えば湯)を貯留する加熱槽が設けられていることがある。加熱槽における加温効率を高めるためには前日の終業から翌朝の始業までの間の温度低下を抑える、すなわち放熱ロスを削減する必要がある。そこで加熱槽の放熱ロスを計測解析したところ、槽壁面や配管等からの放熱ロス(自然対流や放射)が2割程度であり、蒸気漏れによる放熱ロス(水の蒸発潜熱の拡散)が8割を占めており、槽壁面や配管からの放熱よりも大きいことが判明した。
【0003】
蒸気漏れに起因する放熱ロスを削減するためには、加熱槽の開口を蓋によって覆うことが効果的である。その蓋としては、例えば特許文献1に開示されている真空断熱材内包風呂蓋を用いることができる。特許文献1の真空断熱材内包風呂蓋は、「板状の真空断熱材と、該真空断熱材の両主面に接着された熱可塑性樹脂発泡シートと、該熱可塑性樹脂発泡シートの外面側に接着された補強板とを備え、前記熱可塑性樹脂発泡シートの真空断熱材側が前記真空断熱材表面の凹凸に沿って熱成形されている」ことを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-207713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の真空断熱材内包風呂蓋によれば、加熱槽の開口の大部分を覆えることから、蒸気漏れに起因する放熱ロスをある程度削減できるものと考えられる。しかしながら、特許文献1のように単なる矩形形状の風呂蓋であると、蒸気によって蓋が浮いてしまうと蓋と加熱槽との間に隙間が生じたり、複数の蓋を用いた場合に蓋同士の間に隙間が生じたりしてしまう。すると、その隙間から湯気漏れが生じてしまう。また放熱ロスを削減するためには、隙間だけではなく蓋そのものが有する断熱性能も重要であるため、更なる断熱性能の向上も求められていた。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、加熱槽と蓋との隙間からの蒸気漏れを防ぎ、且つより高い断熱性能を得られることにより、更なる放熱ロスの削減を図ることが可能な断熱蓋を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる断熱蓋の代表的な構成は、上面が開口した加熱槽の開口を覆う断熱蓋であって、加熱槽の側壁の上に乗る板材と、板材の下側に配置され加熱槽の側壁の内側に嵌る心材と、板材および心材を内包する真空フィルムとを含み、心材は連続気泡発泡体からなり、真空フィルムは、板材よりも寸法が大きく、板材と心材を重ねた状態で真空フィルムを真空引きして一体化することにより、板材の外周に真空フィルムの裾が形成され、裾を板材と加熱槽の側壁との間に折込可能であることを特徴とする。
【0008】
上記板材の上側に配置され真空フィルムに内包されて持ち手として機能する棒状の支持材を含み、支持材は、加熱槽の対向する一対の側壁に亘る長さであるとよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加熱槽と蓋との隙間からの蒸気漏れを防ぎ、且つより高い断熱性能を得られることにより、更なる放熱ロスの削減を図ることが可能な断熱蓋を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の断熱蓋の外観斜視図である。
図2】本実施形態の断熱蓋の使用態様図である。
図3】本実施形態の断熱蓋の使用態様図である。
図4】本実施形態の断熱蓋による放熱ロスの削減効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
図1は、本実施形態の断熱蓋100の外観斜視図である。図1(a)は、断熱蓋100を上方から観察した状態を示していて、図1(b)は、断熱蓋100を下方から観察した状態を示している。図2および図3は、本実施形態の断熱蓋100の使用態様図である。図2は、加熱槽10に断熱蓋100を取り付ける際の模式的な断面を例示している。図3(a)、図3(b)は加熱槽10に断熱蓋100を取り付ける際の段取りを例示している。
【0013】
図2および図3(a)に示すように加熱槽10は、上面に開口12を有し、内部に高温の液体(例えば湯10a)が貯留されている。本実施形態の断熱蓋100は、かかる加熱槽10の側壁14に載置され、開口12を覆う。図1および図2に示すように本実施形態の断熱蓋100は、板材110、心材120、真空フィルム130および支持材140を含んで構成される。
【0014】
板材110は、心材120の上側に配置されて、心材120を保持する部材である。板材110は加熱槽10の側壁14に乗る大きさであり、心材120は側壁14の中に挿入される大きさである。したがって、板材110は、平面視での寸法が心材120よりも大きく設計されている。図2に示すように、断熱蓋100を加熱槽10の開口12に配置した際に、板材110が加熱槽10の側壁14の上に乗った状態となる。
【0015】
板材110としては、例えばアルミ複合板を用いることができる。アルミ複合板は発泡樹脂をアルミニウムの薄板で挟んだ構造をしていて、軽量でありながら適度な剛性を有し、且つ耐候性に優れているため、板材110として好適である。またアルミ複合板は加工性に優れるため刃物で容易に切断することができ、加熱槽10の開口12の寸法に応じて容易に加工することができる。なお、アルミ複合板は例示にすぎず、他の既知の材料を板材110として用いてもよい。
【0016】
心材120は、板材110の下側に配置されて、加熱槽10の内部と外部とを断熱する部材である。図2に示すように断熱蓋100を加熱槽10の開口12に配置すると、心材120は、加熱槽10の側壁14の内側に嵌った状態となる。心材120としては、例えばウレタンフォーム等の連続気泡発泡体を好適に用いることができる。
【0017】
真空フィルム130は、板材110、心材120および支持材140を内包して密封する部材である。真空フィルム130は、平面視での寸法が板材110よりも大きく設計されている。真空フィルム130としては多層フィルムを好適に用いることができる。多層フィルムとしては、例えば外層側から、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ナイロン、ポリエチレンが積層された多層フィルムが挙げられる。
【0018】
ポリブチレンテレフタラート(PBT)は、耐薬品性に優れるため、加熱槽10に貯留されている液体が薬品であった場合の損傷を好適に防ぐことができる。ナイロンは、ガスバリア性に優れるため、腐食性ガスによる心材120の浸食を防止することができる。ポリエチレンは、防湿性に優れるため、蒸気による真空フィルム130の膨潤を防ぎ、且つ心材120の加水分解を抑制することが可能である。なお、これらの材料も例示に過ぎず、他の既知の材料からなる多層フィルムを真空フィルム130として用いてもよいし、真空フィルム130として単層フィルムを用いる構成としてもよい。
【0019】
支持材140は、板材110の上側に配置され、板材110および心材120とともに真空フィルム130に内包される棒状の部材である。支持材140は、加熱槽10の対向する一対の側壁14a、14bに亘る長さを有する。支持材140は、加熱槽10の一対の側壁14a、14bに掛けわたされる梁として機能し、板材110および心材120の荷重を支持する。これにより、熱変形や熱膨張に起因する心材120および板材110の撓みを防ぎ、それらの形状を好適に維持することが可能となる。
【0020】
支持材140としては、例えばアルミI字鋼を挙げられる。これにより、支持材140を断熱蓋100の持ち手として機能させることができ、断熱蓋100の重量が重い場合であっても良好に持ち上げることが可能となる。また従来のように板材110の周縁の全てを枠体によって補強する場合に比して軽量を図ることができ、且つ蒸気漏れ箇所の低減を図ることが可能となる。ただし、アルミI字鋼は例示に過ぎず、支持材140には他の既知の材料を用いることも可能である。
【0021】
本実施形態の特徴として断熱蓋100は、板材110、心材120および支持材140を重ねた状態で真空フィルム130を真空引きして一体化される。真空引きをすることにより、心材120の気泡の内部の空気が抜かれ、残存気体が減少する。このため、心材120の内部の気体流動による熱移動を抑制し、より高い断熱性能を得ることが可能となる。
【0022】
ここで真空引きしない場合には、独立気泡発泡体の方が連続気泡発泡体よりも断熱性能が高い。これに対し、上述したように真空引きをする場合には、連続気泡発泡体では気泡が連続しているため、気泡が独立している独立気泡発泡体に比して気体を効率的に吸引することができる。したがって、真空引きを行う場合の心材120としては、連続気泡発泡体を用いる方が独立気泡発泡体を用いる場合よりも高い断熱性能が得られる。
【0023】
また上述したように真空フィルム130の平面視での寸法が板材110よりも大きく設計されているため、真空引きをすると、板材110の外周に真空フィルム130の裾132が形成される。これにより図2に示すように、裾132を板材110と加熱槽10の側壁14との間に折込可能となる。かかる構成によれば、加熱槽10の温水が蒸気となって上方に向かって流れた際に、折り返された裾132が逆止弁として機能するため、加熱槽10からの蒸気漏れを効果的に抑制することが可能となる。
【0024】
図3(a)に示すように本実施形態の断熱蓋100において、心材120は、一対の側壁14a、14bの距離に合わせた幅となっていて、板材110は、心材120よりも外側に位置する縁112が設けられる。これにより、心材120を一対の側壁14a、14bの間に嵌め込むと、板材110の縁112が加熱槽の側壁14、14a、14bの上に乗った状態となる。また支持材は、側壁14a、14bの上に掛けわたされた状態となる。このように心材120が加熱槽10の側壁14a、14bに嵌め込まれていることにより、加熱槽10と断熱蓋100との隙間を低減し、蒸気漏れを好適に防ぐことができる。
【0025】
また図3(b)に示すように加熱槽10の開口12(図2参照)を複数の断熱蓋100a、100b、100cによって覆う場合には、断熱蓋100aの板材110の上に、断熱蓋100bの板材110の縁112を重ねて配置し、断熱蓋100bの板材110の上に、断熱蓋100cの板材110の縁112を重ねて配置する。これにより、複数の断熱蓋100a-100cが密着して接触面積が増大するため、隙間の発生を防ぐことができる。したがって、複数の蓋100a、100bを用いる場合の隙間に起因する蒸気漏れを防止することが可能である。
【0026】
図4は、本実施形態の断熱蓋100による放熱ロスの削減効果を説明する図である。図4中、系列1は、本実施形態の断熱蓋100を用いた場合の放熱ロスの値である。系列2は、蓋を用いなかった場合の放熱ロスの値である。系列3は、比較例として複合アルミ板のみの蓋を用いた場合の放熱ロスの値である。
【0027】
図4に示すように、蓋を用いない場合の系列2では、試験開始時(0時間)から放熱ロスの値が急激に上昇し、12時間経過後の放熱ロスの値は約40MJとなる。これに対し、比較例の蓋(複合アルミ板)を用いた場合の系列3では、放熱ロスの値は試験開始時から緩やかな曲線状に上昇し、12時間経過後の放熱ロスの値は約24MJとなる。これらのことから、複合アルミ板のみの蓋であっても、蓋を用いない場合と比して放熱ロスを大幅に削減できることがわかる。
【0028】
本実施形態の断熱蓋100を用いた場合の系列1では、放熱ロスの値は試験開始時から傾斜が緩やかな直線状に上昇し、12時間経過後の放熱ロスの値は約12MJとなる。したがって、本実施形態の断熱蓋100を用いることにより、蓋を用いない場合に比して放熱ロスを7割程度削減することができ、複合アルミ板からなる蓋を用いた場合に比して放熱ロスを5割程度削減することができる。したがって、本実施形態の断熱蓋100によれば加熱槽10の放熱ロスを飛躍的に削減可能であることが理解できる。
【0029】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、上面が開口した加熱槽の開口を覆う断熱蓋として利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
10…加熱槽、10a…湯、12…開口、14…側壁、14a…側壁、14b…側壁、100…断熱蓋、100a…断熱蓋、100b…断熱蓋、100c、断熱蓋、110…板材、112…縁、120…心材、130…真空フィルム、132…裾、140…支持材
図1
図2
図3
図4