(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006787
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】グレーチング
(51)【国際特許分類】
E03F 5/06 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
E03F5/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107776
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】393022470
【氏名又は名称】三重重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】母袋 真太郎
【テーマコード(参考)】
2D063
【Fターム(参考)】
2D063CB07
2D063CB15
(57)【要約】
【課題】湿潤状態においてもBPNが40以上であって滑り抵抗特性に優れ、しかも耐久性に優れたグレーチングを提供する。
【解決手段】ベアリングバー10とクロスバーとを組み合わせたグレーチングである。ベアリングバー10及びクロスバーは溶融亜鉛めっき層15により被覆されており、この溶融亜鉛めっき層の上面に、ブラスト処理層16を形成することにより、湿潤時のBPN(British Pendulum Number)を40以上としたものである。セーフティタイプの場合にはブラスト処理層の深さを8μm以上とし、ノーマルタイプの場合には、12μm以上とすればよい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベアリングバーとクロスバーとを組み合わせたグレーチングであって、
前記ベアリングバー及びクロスバーは溶融亜鉛めっき層により被覆されており、
前記ベアリングバー及びクロスバーの溶融亜鉛めっき層の上面に、溶融亜鉛めっき層の層厚を超えない深さのブラスト処理層を形成することにより、湿潤時のBPNを40以上としたことを特徴とするグレーチング。
【請求項2】
前記溶融亜鉛めっき層の層厚は80~140μmであることを特徴とする請求項1に記載のグレーチング。
【請求項3】
前記ベアリングバーはその上面に滑り止め用の突起が多数形成されたものであり、前記溶融亜鉛めっき層の表面から測定した前記ブラスト処理層の深さが、8μm以上であることを特徴とする請求項2に記載のグレーチング。
【請求項4】
前記ベアリングバーは、その上面に滑り止め用の突起が形成されていないものであり、前記溶融亜鉛めっき層の表面から測定した前記ブラスト処理層の深さが、12μm以上であることを特徴とする請求項2に記載のグレーチング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り抵抗特性に優れたグレーチングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定間隔で配置されたベアリングバーと、これに直交するクロスバーとを組み合わせたグレーチングは、道路の溝蓋、階段用踏板、工場などの床板として従来から広く使用されている。しかし、雨水などによってグレーチングの上面が湿潤状態になると滑り易くなり、歩行者や自転車が転倒する危険がある。そこで従来から、グレーチングには様々な滑り止め対策が施されている。
【0003】
最も一般的な滑り止め対策は、グレーチングを構成するベアリングバーの上面に多数の滑り止め用の突起を形成することである。例えば特許文献1に示されるグレーチングは、ベアリングバーの上面に多数の角錐台状の突起を一列に形成するとともに、ベアリングバーの肩面を斜面として雨水が速やかに流下するように工夫されている。
【0004】
また特許文献2に示されるように、滑り止め用の突起の代わりにベアリングバーの上面にセラミック材料からなる溶射コーティング層を形成したグレーチングも提案されている。
【0005】
ところで最近、「東京都福祉のまちづくり条例施設整備マニュアル」や、公益社団法人日本道路協会の「アスファルト舗装要綱」において、「歩行者側の道路舗装で滑り抵抗値BPNが40以上であることが望ましい」との表記が見られるようになった。BPN(British Pendulum Number)の測定方法は後記するが、英国の道路研究所で開発された試験機を用いて測定された道路表面の滑り抵抗値である。この測定器を用いて従来のグレーチングの滑り抵抗値を測定したところ、乾燥状態では問題はないが、湿潤状態では多くのグレーチングのBPNは40に達していないことが判明した。
【0006】
なお、特許文献2に示されたセラミック材料の溶射コーティングは、製造コストが高価となるうえ、使用中に溶射コーティングが脱落して次第に滑り止め効果が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-157731号公報
【特許文献2】実開平6-12585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、湿潤状態においてもBPNが40以上であって滑り抵抗特性に優れ、しかも耐久性に優れたグレーチングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、ベアリングバーとクロスバーとを組み合わせたグレーチングであって、前記ベアリングバー及びクロスバーは溶融亜鉛めっき層により被覆されており、前記ベアリングバー及びクロスバーの溶融亜鉛めっき層の上面に、溶融亜鉛めっき層の層厚を超えない深さのブラスト処理層を形成することにより、湿潤時のBPN(British Pendulum Number)を40以上としたことを特徴とするものである。溶融亜鉛めっき層の層厚は80~140μmであることが好ましい。
【0010】
前記ベアリングバーがその上面に滑り止め用の突起が多数形成されたものである場合、前記溶融亜鉛めっき層の表面から測定した前記ブラスト処理層の深さが、8μm以上であることが好ましい。また前記ベアリングバーがその上面に滑り止め用の突起が形成されていないものである場合、前記溶融亜鉛めっき層の表面から測定した前記ブラスト処理層の深さが、12μm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のグレーチングは、ベアリングバーの上面を覆う溶融亜鉛めっき層に形成されたブラスト処理層のミクロな凹凸によって、湿潤状態においてもBPN40以上の滑り抵抗特性を示すものである。また、ベアリングバー及びクロスバーは溶融亜鉛めっき層により被覆されているので耐久性に優れるうえ、ブラスト処理層が溶融亜鉛めっき層の層厚を超えない深さとされているため、溶融亜鉛めっき層の全体が剥離されてしまうおそれはなく、耐久性が低下するおそれはない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】他の実施形態のグレーチングの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1は実施形態のグレーチングであり、所定間隔で配置されたベアリングバー10とクロスバー11とを組み合わせて構成されている。ベアリングバー10は断面がI型の鋼鉄製の板状体であり、クロスバー11はベアリングバー10に対して直角方向に配置された鋼鉄製の棒状体である。なお、周囲にはエンドプレート12が配置され、ベアリングバー10とクロスバー11の両端部はエンドプレート12に固定されている。ベアリングバー10のピッチは並目グレーチングでは30mm前後、細目グレーチングでは15mm前後である。
【0014】
図1に示すベアリングバー10の上面には、滑り止め用の突起13が多数形成されている。この実施形態では滑り止め用の突起13は平面視で台形状のものであり、その底辺と上辺がベアリングバー10の長手方向と平行に配置されている。またこの実施形態ではクロスバー11はスパイラル状であり、その上面がベアリングバー10の上面と同一高さとなるように配置されている。しかし滑り止め用の突起13の形状はこれに限定されるものではない。また、クロスバー11の形状もこれに限定されるものではなく、単なる丸棒であっても差し支えない。
【0015】
図2に他の実施形態のグレーチングを示す。このグレーチングもベアリングバー10とクロスバー11とを組み合わせて構成されているが、ベアリングバー10の上面は平面であり、
図1のような滑り止め用の突起13が形成されていない。本明細書では
図1のグレーチングをセーフティタイプ、
図2のグレーチングをノーマルタイプと呼ぶ。
【0016】
これらの実施形態のグレーチングの全体は、溶融亜鉛めっき浴に浸漬され、溶融亜鉛めっき処理されている。このためベアリングバー10とクロスバー11、及びエンドプレート12の全表面は、溶融亜鉛めっき層により被覆されている。溶融亜鉛めっき層の層厚はJIS・H8641に規定されているHDZT63(63μm以上)、またはHDZT77(77μm以上)であり、実質的には80~140μmの範囲とする。これにより十分な耐候性、耐久性を確保している。なお、層厚がこの範囲より薄いと耐久性が低下する。また層厚をこの範囲を超えて厚くしても耐久性が増加するわけではなく、めっきコストが高くなるため、この範囲内とすることが好ましい。
【0017】
溶融亜鉛めっきの組成は、亜鉛中にアルミニウムを含有させたものであることが好ましく、更にマグネシウムを含有させたものであることが好ましい。この実施形態では、溶融亜鉛めっきの組成はZn:94%、Al:5%、Mg:1%である。溶融亜鉛めっきは擬制防食作用を備えているため、優れた防食性、耐久性を有するものであるが、このような溶融亜鉛アルミニウム合金めっきを施せば、耐食性、耐塩害性が格段に向上する。例えばめっき層の層厚を77μmとして塩水噴霧試験により赤錆が発生するまでの時間を測定すると、AlやMgを含まない溶融亜鉛めっきでは約1000時間であったが、Alを含有させた溶融亜鉛アルミニウム合金めっきでは8000時間、更にMgを含有させると10000時間を超えても赤錆は発生しないことが確認されている。
【0018】
溶融亜鉛めっきは従来のグレーチングにも施されていた。しかし本発明では、ベアリングバー10及びクロスバー11に形成された溶融亜鉛めっき層の上面に、さらにブラスト処理を行う。
図3はその模式図であり、滑り止め用の突起13を含むセーフティタイプのベアリングバー10の上面部分が示されている。この図において、15は溶融亜鉛めっき層であり、16はブラスト処理層を示している。このようにめっき層の表面にブラスト処理を行うことは、めっき表面の光沢を損なうとともに、せっかく形成しためっき層の層厚を減少させるため、通常は行われることはない。
【0019】
ブラスト処理は、被処理物にショットまたはメディアと呼ばれる投射剤を投射することにより被処理物の表面を粗面化する処理であり、ミクロな凹凸を形成することができる。ショットとしては砂粒、鋼球、カットワイヤ等を用いることができるが、本実施形態ではサイズが1.2~1.6mmの鋼球を用いた。
【0020】
ブラスト処理の処理時間によってブラスト処理層16の深さを変えることができる。ブラスト処理層16の深さは、溶融亜鉛めっき層15の層厚を超えない深さとする。過剰にブラスト処理を行うと溶融亜鉛めっき層15が除去されてしまい、鋼鉄の表面が露出して耐久性が低下するからである。ベアリングバー10の上面に滑り止め用の突起13が形成されたセーフティタイプの場合には、溶融亜鉛めっき層15の表面から測定したブラスト処理層16の深さを3μm以上とすれば、湿潤時のBPN(British Pendulum Number)を40以上とすることができる。
【0021】
またベアリングバー10の上面に滑り止め用の突起が形成されていないノーマルタイプの場合には、溶融亜鉛めっき層15の表面から測定したブラスト処理層16の深さを8μm以上とすれば、湿潤時のBPNを40以上とすることができる。このようにノーマルタイプの場合にブラスト処理層16の深さをセーフティタイプの場合よも深くするのは、滑り止め用の突起13による滑り止め効果を、ブラスト処理層16に形成されたミクロな凹凸によりカバーするためである。
【0022】
なお、ブラスト処理層16はベアリングバー10及びクロスバー11の溶融亜鉛めっき層15の上面に形成すればよく、側面や下面に形成することは好ましくない。ブラスト処理層16をベアリングバー10、クロスバー11、エンドプレート12などの側面や下面に形成しても滑り抵抗特性を向上させることはできず、溶融亜鉛めっき層15を損傷するおそれがあるためである。
【0023】
以下にBPNとその測定法について説明する。前記したように、BPNは英国の道路研究所で開発された試験機を用いて測定された道路表面の滑り抵抗値である。試験機の構造は
図4に示す通りであり、水平軸20を中心として回転できるアーム21の先端にラバースライダ22が取り付けられている。アーム21は保持具23によって
図3に示す水平位置に保持されているが、測定時に保持具23のボタン24を押すと保持が解除され、アーム21が重力によって下方に振り下されて試料30の表面と接触する構造である。
【0024】
水平軸20と同一軸線上に針25が取り付けられている。この針25は振り下ろされたアーム21が反対側にどこまで回転するかを目盛り板26上で読み取れる構造となっている。即ち、針25はアーム21とともに時計方向に回転し、最大回転位置で留まるようになっている。目盛り板26には0から150までの目盛が反時計方向に刻まれている。
【0025】
ベース27にはレベリングスクリュー28が取り付けられており、ポスト29が鉛直になるように調節可能となっている。このベース27の上面に試料30を固定し、振り下されたラバースライダ22が125mmの長さにわたり試料30の表面と接触するように、図示されていない調節ねじによってポスト29の高さを調節する。試料30を水で十分に濡らした状態でアーム21を振り下し、針25が示す目盛りを読み取る。
【0026】
試料30の表面が平滑で摩擦がなければ、アーム21は
図3に示す初期位置から略180度回転して針20は目盛りが0の位置に留まる。この場合はBPN=0である。しかし試料30の表面の摩擦が大きいと、振り下されたラバースライダ22の運動エネルギが減衰するためアーム21の最大回転位置は下がり、BPNが大きくなる。測定は5回行い、その平均値又は中央値をBPNとする。以下の実施例に示すように、従来のグレーチングは湿潤状態ではBPNが40に達していなかったが、本発明のグレーチングは湿潤時のBPNが40以上となることが確認できた。
【実施例0027】
出願人会社の製品である「並目溝蓋」グレーチングを用いてBPNの測定を行った。グレーチングは
図1に示した形状のセーフティタイプと、
図2に示すノーマルタイプの2種類とした。いずれも全体がZn:94%、Al:5%、Mg:1%の組成の溶融亜鉛めっき層により被覆されている。ブラスト処理を施す前の湿潤状態におけるBPNを5回測定したところ、セーフティタイプの平均値は34.3であり、ノーマルタイプの平均値は25.8であって、何れも40に達していなかった。なお参考のために乾燥状態で測定したBPNは、何れも45以上であった。
【0028】
次にこのグレーチングの上面にショットブラスト処理を行い、処理時間が30秒、1分、3分、5分のそれぞれの状態においてBPNの測定を行った。ショットブラスト処理は直径が1.2mmの球をグレーチングの上方から空気圧で投射する方法で行い、溶融亜鉛めっき層の表面にブラスト処理層を形成した。溶融亜鉛めっき層の層厚は80~90μmであり、処理時間が30秒ではブラスト処理層の深さは8.0μmであり、処理時間が1分ではブラスト処理層の深さは11.9μmであった。
【0029】
ショットブラストの処理時間と、湿潤状態におけるBPNの関係は表1及び
図5に示す通りである。ノーマルタイプの場合には、30秒のショットブラストを行っただけでは湿潤状態におけるBPNは34.7であり、40をクリアできなかった。しかし1分間のショットブラストを行った状態ではBPNは41.2となり、40を超えた。セーフティタイプの場合には30秒のショットブラストを行っただけでBPNは46.6となり、40をクリアした。また、1分間のショットブラストを行った状態ではBPNは52.2にまで大幅に上昇した。
【0030】
図5のグラフには、ショットブラストを3分、5分行ったデータも記載した。このようにショットブラスト時間を更に長くすればブラスト処理層の深さはさらに深くなり、BPNも大きくなる。しかしBPNを50以上とすることに格別の意味はなく、処理コストの増加を招くため、この実施例の条件下では3分間のブラスト処理を行えば十分である。また、ブラスト処理層の深さは8~14μmとすることが好ましいと考えられるが、粗面であるため処理中に正確な測定は困難であり、実用的にはブラスト処理時間による管理を行うことが好ましい。
【0031】
【0032】
以上に説明したように、本発明のグレーチングは、めっき層の上面にブラスト処理を行うという通常は行われない手段を用いることによって、湿潤状態においてもBPNが40以上であって滑り抵抗特性に優れ、しかも耐久性に優れたものである。