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特開2025-6791澱粉含有材料及びその製造方法並びに成形用澱粉含有材料の透明性向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006791
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】澱粉含有材料及びその製造方法並びに成形用澱粉含有材料の透明性向上方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 3/02 20060101AFI20250109BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20250109BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20250109BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20250109BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
C08L3/02 ZBP
C08K5/09
C08K5/053
C08L101/00
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107783
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】508046362
【氏名又は名称】西岡 昭博
(71)【出願人】
【識別番号】509003977
【氏名又は名称】香田 智則
(71)【出願人】
【識別番号】591161623
【氏名又は名称】株式会社コバヤシ
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】西岡 昭博
(72)【発明者】
【氏名】香田 智則
(72)【発明者】
【氏名】岡本 茜
(72)【発明者】
【氏名】山内 和杜
(72)【発明者】
【氏名】山田 知夫
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002AA01X
4J002AB04W
4J002BB03X
4J002BB06X
4J002BB12W
4J002BC03X
4J002CF03X
4J002CF06X
4J002CF07X
4J002CF08X
4J002CF18X
4J002CG01X
4J002EC057
4J002EF026
4J002EF076
4J002EG016
4J002EG056
4J002GB00
4J002GC00
4J002GG01
4J002GG02
4J200AA02
4J200AA04
4J200AA27
4J200BA37
4J200CA01
4J200EA07
(57)【要約】
【課題】
本発明は、澱粉含有材料の物性の改善、特には機械的特性の向上又は透明性の向上を目的とする。
【解決手段】
本発明は、非晶性澱粉と、有機酸、有機酸の塩、又は、これらの両方と、を含有する澱粉含有材料を提供する。前記非晶性澱粉は、前記非晶性澱粉のヒドロキシ基と前記有機酸との反応によって形成される化学構造を有してよい。また、本発明は、非晶性澱粉を用いて成形用澱粉含有材料を製造することを特徴とする、成形用澱粉含有材料の透明性向上方法も提供する。前記成形用澱粉含有材料中の結晶化度の上昇を抑制するものであってよい。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性澱粉と、
有機酸、有機酸の塩、又は、これらの両方と、
を含有する澱粉含有材料。
【請求項2】
前記有機酸は、ヒドロキシカルボン酸である、請求項1に記載の澱粉含有材料。
【請求項3】
前記有機酸は、1つ以上のヒドロキシ基を有する、請求項1に記載の澱粉含有材料。
【請求項4】
前記有機酸は、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、及び乳酸のうちから選ばれる1種又は2種以上の組合せを含む、請求項1に記載の澱粉含有材料。
【請求項5】
前記非晶性澱粉は、前記非晶性澱粉のヒドロキシ基と前記有機酸又は前記有機酸の塩との反応によって形成される化学構造を有する、請求項1に記載の澱粉含有材料。
【請求項6】
前記澱粉含有材料は、前記非晶性澱粉と前記有機酸又は前記有機酸の塩との反応産物の乾燥処理物である、請求項1に記載の澱粉含有材料。
【請求項7】
前記非晶性澱粉は、結晶化度が20%以下の澱粉である、請求項1に記載の澱粉含有材料。
【請求項8】
前記澱粉含有材料はさらに多価アルコール、多糖類、及び糖類のうちから選ばれる1以上の成分を含む、請求項1に記載の澱粉含有材料。
【請求項9】
前記澱粉含有材料は、グリセリン、ソルビトール、マルチトール及びエリトリトールのうちから選ばれる1種又は2種以上の組合せを含む、請求項1に記載の澱粉含有材料。
【請求項10】
前記澱粉含有材料は、熱可塑性樹脂をさらに含む、請求項1に記載の澱粉含有材料。
【請求項11】
前記澱粉含有材料に対してFT-IR測定を行った場合に、1650cm-1~1750cm-1にピークを示す、請求項1に記載の澱粉含有材料。
【請求項12】
前記澱粉含有材料は、120℃での熱プレスによってJIS K 7161-2に準拠した5B型のダンベル試験片へと成形可能である成形性を有する、請求項1に記載の澱粉含有材料。
【請求項13】
非晶性澱粉を用意する工程、及び、
前記非晶性澱粉を、有機酸、有機酸の塩、又は、これらの両方と混合する工程、
を含む、非晶性澱粉と有機酸、有機酸の塩、又は、これらの両方とを含有する澱粉含有材料の製造方法。
【請求項14】
溶媒内において前記非晶性澱粉と前記有機酸、前記有機酸の塩、又は、これらの両方とが接触される、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
非晶性澱粉を用いて成形用澱粉含有材料を製造することを特徴とする、
成形用澱粉含有材料の透明性向上方法。
【請求項16】
前記成形用澱粉含有材料中の結晶化度の上昇を抑制するものである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記成形用澱粉含有材料が成形される際の澱粉再結晶化を抑制するものである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記成形用澱粉含有材料の常温保存時における澱粉再結晶化を抑制するものである、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉含有材料に関し、特には非晶性澱粉を含有する澱粉含有材料に関する。また、本発明は、成形用澱粉含有材料の透明性向上方法にも関し、特には非晶性澱粉を利用して成形用澱粉含有材料の透明性を向上する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックの大量生産および大量消費が問題視されている。プラスチックは自然界では分解されないため、海洋を漂えばマイクロプラスチックと化して回収不能な人工物となり環境を汚染する。そのため、プラスチック代替材料についての各種提案が行われている。例えば下記特許文献1には、低結晶性澱粉とグリセリンとを含む 澱粉複合材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-187956号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プラスチック代替材料の物性を改善することは、プラスチック代替材料がより広く利用されるために重要であると考えられる。澱粉含有材料は、プラスチック代替材料として有望であり、その物性の改善は、澱粉含有材料の有用性を高めることに貢献すると考えられる。そこで、本発明は、澱粉含有材料の物性の改善、特には機械的特性の向上又は透明性の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定の構成を採用することによって、澱粉含有材料の物性を改善することができることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は以下を提供する。
[1]非晶性澱粉と、
有機酸、有機酸の塩、又は、これらの両方と、
を含有する澱粉含有材料。
[2]前記有機酸は、ヒドロキシカルボン酸である、[1]に記載の澱粉含有材料。
[3]前記有機酸は、1つ以上のヒドロキシ基を有する、[1]又は[2]に記載の澱粉含有材料。
[4]前記有機酸は、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、及び乳酸のうちから選ばれる1種又は2種以上の組合せを含む、[1]~[3]のいずれか一つに記載の澱粉含有材料。
[5]前記非晶性澱粉は、前記非晶性澱粉のヒドロキシ基と前記有機酸又は前記有機酸の塩との反応によって形成される化学構造を有する、[1]~[4]のいずれか一つに記載の澱粉含有材料。
[6]前記澱粉含有材料は、前記非晶性澱粉と前記有機酸又は前記有機酸の塩との反応産物の乾燥処理物である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の澱粉含有材料。
[7]前記非晶性澱粉は、結晶化度が20%以下の澱粉である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の澱粉含有材料。
[8]前記澱粉含有材料はさらに多価アルコール、多糖類、及び糖類のうちから選ばれる1以上の成分を含む、[1]~[7]のいずれか一つに記載の澱粉含有材料。
[9]前記多価アルコールは、グリセリン、ソルビトール、マルチトール及びエリトリトールのうちから選ばれる1種又は2種以上の組合せを含む、[1]~[8]のいずれか一つに記載の澱粉含有材料。
[10]前記澱粉含有材料は、熱可塑性樹脂をさらに含む、[1]~[9]のいずれか一つに記載の澱粉含有材料。
[11]前記澱粉含有材料に対してFT-IR測定を行った場合に、1650cm-1~1750cm-1にピークを示す、[1]~[10]のいずれか一つに記載の澱粉含有材料。
[12]前記澱粉含有材料は、120℃での熱プレスによってJIS K 7161-2に準拠した5B型のダンベル試験片へと成形可能である成形性を有する、[1]~[11]のいずれか一つに記載の澱粉含有材料。
[13]非晶性澱粉を用意する工程、及び、
前記非晶性澱粉を、有機酸、有機酸の塩、又は、これらの両方と混合する工程、
を含む、非晶性澱粉と有機酸、有機酸の塩、又は、これらの両方とを含有する澱粉含有材料の製造方法。
[14]溶媒内において前記非晶性澱粉と前記有機酸、前記有機酸の塩、又は、これらの両方とが接触される、[13]に記載の製造方法。
[15]非晶性澱粉を用いて成形用澱粉含有材料を製造することを特徴とする、
成形用澱粉含有材料の透明性向上方法。
[16]前記成形用澱粉含有材料中の結晶化度の上昇を抑制するものである、[15]に記載の方法。
[17]前記成形用澱粉含有材料が成形される際の澱粉再結晶化を抑制するものである、[15]又は[16]に記載の方法。
[18]前記成形用澱粉含有材料の常温保存時における澱粉再結晶化を抑制するものである、[15]~[17]のいずれか一つに記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、澱粉含有材料の物性を改善することができる。例えば、本発明により、澱粉含有材料の機械的特性を向上することができる。また、本発明によって、澱粉含有材料の透明性を向上することができる。
なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】臼式粉砕装置の模式図を示す図である。
図2】広角X線回折測定の測定結果を示す図である。
図3A】澱粉含有材料の製造方法を説明するための模式図である。
図3B】用意された4種の澱粉の写真を示す図である。
図4】FT-IR測定の結果を示す図である。
図5】ダンベル型試験片を説明するための模式図である。
図6】澱粉含有材料の圧縮成形前及び前記圧縮成形後の写真を示す図である。
図7】引張試験の結果を示す図である。
図8】澱粉分子鎖の運動性の向上を説明するための模式図である。
図9】広角X線回折測定の測定結果を示す図である。
図10】透過率の測定結果を示す図である。
図11】広角X線回折測定の測定結果を示す図、並びに、混錬による澱粉非晶化及び成形による澱粉再結晶化を説明するための模式図である。
図12】広角X線回折測定の測定結果を示す図、並びに、澱粉再結晶化の抑制を説明するための模式図である。
図13】広角X線回折測定の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下で、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明の説明の順序は、以下のとおりである。
1.澱粉含有材料
1.1 非晶性澱粉
1.2 有機酸
1.3 多価アルコール、多糖類、及び糖類などの可塑剤
1.4 熱可塑性樹脂
1.5 物性
1.6 製造方法
1.7 用途
2.成形用澱粉含有材料の透明性向上方法
3.実施例
3.1 非晶性澱粉と有機酸との組合せに関する試験
3.1.1 非晶性澱粉の作製
3.1.2 クエン酸変性澱粉の作製及び変性の確認
3.1.3 熱可塑性澱粉含有材料の作製及び評価
3.2 非晶性澱粉による透明性向上に関する試験
3.2.1 非晶性澱粉の作製
3.2.2 澱粉含有材料の作製と評価
3.2.3 常温保存による結晶性への影響
以下に説明する実施形態は本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものでない。
【0010】
1.澱粉含有材料
【0011】
本発明の澱粉含有材料は、非晶性澱粉と有機酸、有機酸の塩、又はこれらの両方とを含む。本発明の澱粉含有材料は、非晶性澱粉と有機酸、有機酸の塩、又はこれらの両方との組合せによって優れた物性を発揮し、特には優れた機械的特性を発揮する。好ましくは前記非晶性澱粉は前記有機酸、前記有機酸の塩、又はこれらの両方によって変性されていてよく、当該変性が、優れた物性の発揮のために特に貢献していると考えられる。
【0012】
以下で、本発明の澱粉含有材料の構成についてより詳細に説明する。
【0013】
1.1 非晶性澱粉
本発明の澱粉含有材料は、非晶性澱粉(α澱粉ともいう)を含む。前記非晶性澱粉は、結晶性澱粉(β澱粉ともいう)と比較して結晶化度が低い澱粉を意味する。前記非晶性澱粉の結晶化度は、例えば50%以下であってよく、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、さらにより好ましくは20%以下であり、特に好ましくは15%以下であり、さらには10%以下であってもよい。
【0014】
非晶性澱粉の結晶化度は、以下で述べる非晶性澱粉の製造方法における粉砕条件を調整することによって適宜制御することが可能である。なお、澱粉の結晶化度は公知の任意の技術により算定される。澱粉の結晶化度は、X線回折強度の結果に基づき特定される。具体的には、X線回折強度の結果から、非晶部を表すピークと、結晶部を表すピークとを抽出する。各ピークの抽出には、公知のピーク分離技術が任意に利用される。なお、結晶部を表すピークは複数抽出され得るが、ピーク値が所定値を上回る複数のピークのみを結晶化度の特定に利用する。そして、非晶部を表すピークと結晶部を表すピークとの割合から結晶化度が特定される。例えば、結晶部を表すピークの面積A(複数のピークの面積の合計値)と、非晶部を表すピークの面積Bとを、以下の式(1)に挿入することで、結晶化度を算出する。
結晶化度(%)=100×面積A/(面積A+面積B)…(1)
なお、原料を粉砕する際の粉砕方法や原料に応じて、式(1)に利用するピークの角度は適宜に調整される。
【0015】
非晶性澱粉は、例えば澱粉を主成分とする穀物又は擬穀類などの植物原料から製造される。前記植物原料の例として、例えば米、馬鈴薯、小麦、大豆、小豆、そば、芋類、豆類、及びトウモロコシを挙げることができる。非晶性澱粉は、これらの植物原料から製造された結晶性澱粉を原料として製造されてもよい。例えば、キャッサバの根茎から製造したタピオカを原料としてもよい。なお、本発明において用いられる非晶性澱粉の種類は、原料の種類に応じて適宜に変更されてもよい。例えば、アミロースおよびアミロペクチンの何れか一方または双方を含むものが非晶性澱粉として例示される。
【0016】
非晶性澱粉は、当技術分野で知られている製造方法によって製造されてよい。例えば、特開2007-75104号公報、特開2010-215861号公報、又は特開2009-213472号公報に記載された製造方法によって非晶性澱粉は製造されてよい。
【0017】
好ましい実施態様において、非晶性澱粉は、臼式粉砕装置、特には温度制御型の臼式粉砕装置によって澱粉(例えば結晶性澱粉)を粉砕処理することによって製造された非晶性澱粉であってよい。当該臼式粉砕装置の例として、以下の実施例において記載された装置が挙げられる。
前記粉砕処理における粉砕温度は、例えば80℃以上であってよく、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上であってよい。前記粉砕温度は、例えば200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下であってよく、例えば140℃以下であってもよい。澱粉(例えば結晶性澱粉)を、この温度で加熱しながら、剪断条件下で粉砕することによって、非晶性澱粉が製造される。すなわち、澱粉(例えば結晶性澱粉)に対して、加熱と剪断とを同時に実行する粉砕処理が行われることによって、非晶性澱粉は製造されてよい。
前記粉砕処理における臼式粉砕装置の臼間距離(上臼及び下臼の間の距離)は、例えば10μm以下であってよく、好ましくは8μm以下、より好ましくは6μm以下であってよく、特に好ましくは4μm以下、さらには2μm以下であってよく、例えば0μmであってもよい。このような臼間距離で前記臼式粉砕装置を動作させて澱粉を粉砕処理することは、本発明の効果を奏するために適した非晶性澱粉を得ることに貢献する。
前記粉砕処理における臼の回転速度(一方の臼に対する他方の臼の回転速度)は、例えば200rpm以下、好ましくは150rpm以下、より好ましくは100rpm以下であってよい。前記臼の回転速度は、例えば10rpm以上、好ましくは20rpm以上、より好ましくは30rpm以上であってよい。このような回転速度は、適切に温度を制御することに貢献しうる。また、このような回転速度は、本発明の効果を奏するために適した非晶性澱粉を得ることに貢献する。
【0018】
好ましい実施態様において、前記粉砕処理において、水は加えられなくてよい。澱粉を非晶化するためには、一般的には水を加えた上で澱粉を加熱する必要があるが、上記で述べた粉砕処理は、水を澱粉に加えることなく実行されてよく、すなわち、水を加えることなく非晶性澱粉が得られる。
水を加えることによって、製造される澱粉含有材料中に過剰の水が存在することになる。過剰の水は、成形材料の物性に悪影響を及ぼすことがあり、例えば寸法安定性が悪化しうる。
上記のとおり水を加えることなく粉砕処理することによって得られた非晶性澱粉は、過剰の水を含まないので、優れた物性を有する成形材料を得ることに貢献する。このようにして製造された非晶性澱粉は、本発明の効果を奏するために特に適している。
【0019】
前記非晶性澱粉は、好ましくは、前記非晶性澱粉のヒドロキシ基と後述の有機酸、有機酸の塩、又はこれらの両方との反応によって形成される化学構造を有してよい。すなわち、前記非晶性澱粉は、後述の有機酸、有機酸の塩、又はこれらの両方によって変性されていてよい。当該変性は、澱粉の分子鎖間の水素結合、特にはアミロペクチン鎖の間の水素結合、を解消する変性であってよい。当該変性は、澱粉含有材料に好ましい物性(例えば機械的特性)を与えることに貢献する。
【0020】
本発明の澱粉含有材料中の前記非晶性澱粉の含有割合は、本発明の澱粉含有材料の質量に対して、例えば30質量%以上、特には40質量%以上、より特には50質量%以上であってよく、さらには60質量%以上、70質量%以上、又は80質量%以上であってもよい。
本発明の澱粉含有材料中の前記非晶性澱粉の含有割合は、本発明の澱粉含有材料の質量に対して、例えば90質量%以下、特には80質量%以下、より特には70質量%以下であってもよい。
このような含有割合によって、前記非晶性澱粉と前記有機酸との組合せによる物性改善効果が、より効果的に表れやすくなる。
【0021】
1.2 有機酸
本発明の澱粉含有材料は、有機酸、有機酸の塩、又はこれらの両方を含む。前記有機酸又はその塩により澱粉の分子鎖間の水素結合、特にはアミロペクチン鎖の間の水素結合が解消されることが、前記澱粉含有材料の好ましい物性に貢献していると考えられる。
好ましくは、前記非晶性澱粉は、前記非晶性澱粉のヒドロキシ基と前記有機酸、有機酸の塩、又はこれらの両方との反応によって形成される化学構造を有する。すなわち、当該有機酸又はその塩によって、前記非晶性澱粉は変性されていてよい。当該変性によって、上記のとおりの水素結合の解消が行われると考えられる。
【0022】
1.2.1 有機酸の種類
前記有機酸は、炭素数が1以上の有機酸であってよく、特には炭素数が2以上の有機酸であってよい。
一つの好ましい実施態様において、前記有機酸は、低分子量の有機酸であってよく、例えば炭素数が10以下の有機酸であってよく、好ましくは炭素数が8以下の有機酸であってよく、より好ましくは炭素数が6以下の有機酸であってよい。低分子量の有機酸は、上記で述べた水素結合の解消のために好ましいと考えられる。例えば、低分子量であることは、有機酸内の水酸基の数が少ないことにつながる。水素結合を解消するためには、水酸基の数が少ない方がよい。
他の好ましい実施態様において、前記有機酸は、高分子量の有機酸であってよく、例えば炭素数が10超の有機酸であってよく、好ましくは炭素数が12以上の有機酸であってよく、より好ましくは炭素数が14以下の有機酸であってもよい。
前記炭素数は、有機酸1分子当たりに含まれる炭素の数であり、特には有機酸の化学式中の炭素数を意味してよい。
【0023】
前記有機酸の塩は、例えばアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であってよい。前記アルカリ金属塩は、リチウム塩、ナトリウム塩、又はカリウム塩であってよい。前記アルカリ土類金属塩は、マグネシウム塩又はカルシウム塩であってよい。前記有機酸の塩は、カルボキシ基などの酸の特徴を示す特性基の一部が中和され、一部が未中和である塩であってよい。当該未中和の特性基が、非晶性澱粉の変性のために特に有用であると考えられる。
【0024】
前記有機酸は、1つ以上のカルボキシ基を有する有機酸であってよい。前記有機酸は、例えばヒドロキシカルボン酸、脂肪酸、若しくはジカルボン酸であり、又は、これらのうちの2以上の組合せであってもよい。前記有機酸に酸の特徴を示す特性基は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エノール基、又はチオール基であってもよい。すなわち、前記有機酸は、酸の特性基としてカルボキシ基、ヒドロキシ基、エノール基、又はチオール基を有する有機酸であってもよい。これら有機酸のより具体的な例は以下に記載されるとおりであり、本発明の澱粉含有材料に含まれる有機酸は、これらのうちの1つであってよく又は2つ以上の組合せであってもよい。
【0025】
好ましい実施態様において、前記有機酸は、好ましくはヒドロキシカルボン酸である。ヒドロキシカルボン酸は、澱粉のアミロペクチン鎖間の水素結合を解消することに貢献する。
前記ヒドロキシカルボン酸は、1つ以上のヒドロキシ基を有してよく、例えば1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つのヒドロキシ基を有してよく、好ましくは1つ、2つ、又は3つのヒドロキシ基を有してよい。前記ヒドロキシ基(-OH)は、カルボキシ基(-COOH)中のヒドロキシ基でない。
前記ヒドロキシカルボン酸は、1つ以上のカルボキシ基を有してよく、例えば1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つのカルボキシ基を有してよく、好ましくは1つ、2つ、又は3つのカルボキシ基を有してよい。
前記ヒドロキシカルボン酸の炭素数は、例えば10以下であり、好ましくは8以下であり、より好ましくは炭素数が6以下の有機酸である。
【0026】
ヒドロキシカルボン酸の例として、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸(特には2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、及びγ-ヒドロキシ酪酸)、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、及びイソクエン酸を挙げることができる。
好ましくは、前記有機酸は、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、及び乳酸のうちの1種又は2種以上の組合せを含み、特には、前記有機酸はクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、及び乳酸のうちの1種又は2種以上の組合せである。
【0027】
他の好ましい実施態様において、前記有機酸は、好ましくは脂肪酸である。脂肪酸は、澱粉のアミロペクチン鎖間の水素結合を解消することに貢献すると考えられる。
前記脂肪酸は、飽和脂肪酸であってよく、又は、不飽和脂肪酸であってもよい。
前記脂肪酸は、例えば短鎖脂肪酸(特には炭素数2、4、又は6の脂肪酸)、中鎖脂肪酸(特には炭素数8又は10の脂肪酸)、又は長鎖脂肪酸(特には炭素数12、14、16、18、20、22、又は24の脂肪酸)であってよく、特には短鎖脂肪酸又は中鎖脂肪酸が、前記有機酸として用いられてよい。
これらのうちの1種又は2種以上の組合せが前記有機酸として用いられてよい。
前記脂肪酸の例として、酢酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、又はリノレン酸を挙げることができる。これらのうちの1種又は2種以上の組合せが前記有機酸として用いられてよい。
【0028】
さらに他の好ましい実施態様において、前記有機酸は、ジカルボン酸である。ジカルボン酸は、澱粉のアミロペクチン鎖間の水素結合を解消することに貢献すると考えられる。
前記ジカルボン酸の例として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、及びセバシン酸を挙げることができる。これらのうちの1種又は2種以上の組合せが前記有機酸として用いられてよい。
【0029】
1.2.2 有機酸による非晶性澱粉の変性
前記有機酸、前記有機酸の塩、又はこれらの両方(本明細書内以下において、これらをまとめて「有機酸化合物」ともいう)は、前記非晶性澱粉を変性するために用いられてよい。特には、上記で述べたように、前記非晶性澱粉の澱粉分子鎖間の水素結合を解消するように、前記有機酸化合物は前記非晶性澱粉を変性しうる。
すなわち、本発明の澱粉含有材料において、前記非晶性澱粉は、前記非晶性澱粉のヒドロキシ基と前記有機酸化合物との反応によって形成される化学構造を有してよく、当該反応によって、前記非晶性澱粉は、変性されていてよい。
【0030】
前記変性を実行するために、前記有機酸化合物は、所定の溶媒中に溶解された状態で、前記非晶性澱粉と接触されてよい。当該所定の溶媒は、水以外の溶媒であることが望ましく、前記溶媒は、例えば水を含まない有機溶媒であってよい。
有機酸化合物と非晶性澱粉との接触において水が存在する場合は、製造される澱粉含有材料中に水が存在しうることになる。上記でも述べたように、水は、成形材料の物性に悪影響を及ぼすことがあり、例えば寸法安定性が悪化しうる。そのため、前記接触は、水が不在の溶媒内で行われることが望ましい。水不含の溶媒内で前記有機酸化合物と前記非晶性澱粉とが反応することが、得られる反応産物(すなわち有機酸変性非晶性澱粉)に、成形のために望ましい物性を獲得させることに貢献すると考えられる。
【0031】
前記溶媒は、有機酸化合物を溶解可能な溶媒であることが好ましく、そのような溶媒を当業者は適宜選択することができる。また、前記溶媒は、好ましくは、揮発しやすい溶媒であり、これにより、有機酸による非晶性澱粉の変性後に、当該溶媒を容易に除去することができる。
前記溶媒は有機溶媒であってよい。前記溶媒は、例えば極性溶媒であってよく、特にはプロトン性溶媒であってよい。当該溶媒の種類は、用いられる有機酸化合物の種類に応じて選択されてよく、例えば有機酸化合物を溶解できる溶媒のうちから適宜選択されてよい。
【0032】
前記極性溶媒の例として、例えばアルコール溶媒が挙げられる。当該アルコール溶媒の好ましい例として、メタノール、エタノール(未変性エタノール又は変性エタノール)、イソプロピルアルコール、及びノルマルプロピルアルコールを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が前記溶媒として用いられてよい。
【0033】
前記有機酸化合物による前記非晶性澱粉の変性のために、前記有機酸化合物を前記溶媒に溶解して有機酸溶液が調製される。当該溶解は、当技術分野で既知の手法により適宜実行されてよい。
【0034】
次に、前記有機酸溶液に、前記非晶性澱粉がさらに混合される。前記変性を促進するため、前記有機酸溶液は、例えば30℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、さらには60℃以上の温度で維持されてよい。また、当該温度は、溶媒が揮発することを防ぐために、例えば100℃以下、好ましくは90℃以下に維持されてよい。
このような温度において、例えば1時間以上、好ましくは5時間以上、さらには10時間以上、15時間以上、又は20時間以上にわたって、前記非晶性澱粉が添加された前記溶液が攪拌されてよい。当該攪拌の時間の上限は特に限定される必要は無いが、例えば溶媒の揮発性の観点から、例えば50時間以下、45時間以下、又は40時間以下であってよい。
このようにして、前記溶液内で前記澱粉が前記有機酸化合物によって変性される。
【0035】
次に、前記非晶性澱粉が混合された前記有機酸溶液は、任意的に、例えば吸引ろ過洗浄などの洗浄処理に付されてよい。当該洗浄によって、例えば溶媒などが除去されうる。前記洗浄処理後の反応産物(例えばろ過洗浄の場合は残渣)が乾燥処理されて、有機酸化合物により変性された非晶性澱粉が得られる。前記乾燥処理の手法は、反応産物に悪影響を与えないように(例えば澱粉の着色を防ぐように)、当業者により適宜選択されてよい。
例えば、前記乾燥処理は、真空乾燥処理であってよい。当該真空乾燥処理は、効率的な乾燥のために、例えば10℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、さらには40℃以上で行われうる。当該真空乾燥処理は、例えば澱粉の着色を防ぐために、例えば80℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下で行われてよい。
当該真空乾燥処理は、溶媒が除去されるまで実行されてよく、例えば1時間以上、好ましくは5時間以上行われてよく、さらには10時間以上行われてもよい。また、当該真空乾燥処理は、例えば50時間以下、40時間以下、又は30時間以下にわたって行われてよい。
以上のようにして溶媒が除去されて、有機酸化合物により変性された非晶性澱粉が得られる。得られる前記非晶性澱粉は、例えば乾燥された状態にあり、例えば固形状、特には粉末状若しくは顆粒状、より特には粉末状であってよい。すなわち、本発明の澱粉含有材料は、前記非晶性澱粉と前記有機酸化合物との反応産物の乾燥処理物を含んでよい。
【0036】
前記反応において用いられる前記非晶性澱粉と前記有機酸化合物との混合比率は、例えば有機酸化合物の種類などの要因に応じて適宜調整されてよい。
前記有機酸化合物は、前記非晶性澱粉100質量部当たり、例えば5質量部以上、好ましくは60質量部以上、より好ましくは120質量部以上となるように、前記有機酸化合物及び前記非晶性澱粉が混合されてよい。
また、前記有機酸化合物は、前記非晶性澱粉100質量部当たり、例えば360質量部以下、好ましくは300質量部以下、より好ましくは240質量部以下となるように、前記有機酸化合物及び前記非晶性澱粉が混合されてよい。
すなわち、本発明の澱粉含有材料は、このような比率で前記非晶性澱粉及び前記有機酸化合物を含んでよい。
【0037】
本発明の澱粉含有材料中の前記非晶性澱粉及び前記有機酸化合物の合計含有割合は、本発明の澱粉含有材料の質量に対して、例えば30質量%以上、特には40質量%以上、より特には50質量%以上であってよく、さらには60質量%以上、70質量%以上、又は80質量%以上であってもよい。
本発明の澱粉含有材料中の前記非晶性澱粉及び前記有機酸化合物の合計含有割合は、本発明の澱粉含有材料に対して、例えば90質量%以下、特には80質量%以下、より特には70質量%以下であってもよい。
以上の合計含有割合の数値範囲は、例えば本発明の澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含まない場合に適用されてよいが、当該澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含む場合に適用されてもよい。なお、本発明の澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含む場合などのいくつかの実施態様においては、前記澱粉含有材料中の前記非晶性澱粉及び前記有機酸化合物の合計含有割合はさらに低くてもよく、例えば、当該合計含有割合は60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は10質量%以下であってもよい。また、当該合計含有割合は、例えば1質量%以上、2質量%以上、又は3質量%以上であってよい。このように、熱可塑性樹脂の含有割合に応じて、より低い合計含有割合が採用されてもよい。
【0038】
1.3 多価アルコール、多糖類、及び糖類などの可塑剤
本発明の澱粉含有材料は、前記非晶性澱粉及び前記有機酸化合物に加えて、可塑剤をさらに含んでよい。当該可塑剤によって、澱粉含有材料の成形性が高められる。すなわち、本発明は、成形用澱粉含有材料も提供する。当該成形用澱粉含有材料は、非晶性澱粉と有機酸化合物と可塑剤とを含む。
前記澱粉含有材料は、前記可塑剤を、前記澱粉含有材料の質量に対して、例えば10質量%以上、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上の含有割合で含んでよい。
前記澱粉含有材料は、前記可塑剤を、前記澱粉含有材料の質量に対して、例えば55質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下又は40質量%以下の含有割合で含んでよい。
以上の可塑剤の含有割合の数値範囲は、例えば本発明の澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含まない場合に適用されてよいが、当該澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含む場合に適用されてもよい。なお、本発明の澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含む場合などのいくつかの実施態様においては、前記澱粉含有材料中の前記可塑剤の含有割合はさらに低くてもよく、例えば、当該含有割合は30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下であってもよい。また、当該含有割合は、例えば0.1質量%以上、0.5質量%以上、又は1質量%以上であってよい。
【0039】
前記可塑剤の例として、多価アルコール、多糖類、及び糖類が挙げられる。ここで、前記多糖類は澱粉でなく、すなわち、澱粉以外の多糖類を意味する。また、前記糖類は澱粉でなく且つ多糖類でもなく、すなわち、澱粉及び多糖類以外の糖類である。すなわち、前記糖類は、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、及び糖アルコール類を意味する。
また、前記可塑剤は水でない。すなわち、本明細書内において、可塑剤は、水以外の可塑剤を意味する。
【0040】
前記多価アルコールは、分子中に2個以上の水酸基を有するアルコールをいう。前記多価アルコールは、好ましくは炭素数が2~5の多価アルコールであり、より好ましくは炭素数が2~4の多価アルコールでありうる。前記多価アルコールは、好ましくは2~5の水酸基(OH基)を有し、より好ましくは2~4の水酸基(OH基)を有する。
前記多価アルコールは、例えば、グリセリン及びグリコールを含みうる。当該グリコールとして、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、及び1,3-ブチレングリコールを挙げることができる。すなわち、前記多価アルコールは、好ましくはグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、及び1,3-ブチレングリコールから選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせを含みうる。特に好ましくは、前記多価アルコールは、グリセリンである。
前記澱粉含有材料は、前記多価アルコールを、前記澱粉含有材料の質量に対して、例えば10質量%以上、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上の含有割合で含んでよい。
前記澱粉含有材料は、前記多価アルコールを、前記澱粉含有材料の質量に対して、例えば55質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下又は40質量%以下の含有割合で含んでよい。
このような含有割合によって、成形材料に適した物性を前記澱粉含有材料に付与することができる。
以上の多価アルコールの含有割合の数値範囲は、例えば本発明の澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含まない場合に適用されてよいが、当該澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含む場合に適用されてもよい。なお、本発明の澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含む場合などのいくつかの実施態様においては、前記澱粉含有材料中の前記多価アルコールの含有割合はさらに低くてもよく、例えば、当該含有割合は30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下であってもよい。また、当該含有割合は、例えば0.1質量%以上、0.5質量%以上、又は1質量%以上であってよい。
【0041】
前記多糖類として、例えばグルコマンナン、カードラン、プルラン、パラミロン、及びアルギン酸を挙げることができる。
前記糖類のうち、単糖類に関しては、例えばグルコース、ガラクトース、及びフルクトースを挙げることができる。
前記糖類のうち、二糖類に関しては、例えばスクロース、ラクトース、マルトース、及びトレハロースを挙げることができる。
前記糖類のうち、オリゴ糖類に関しては、例えばフラクトオリゴ糖及びガラクトオリゴ糖を挙げることができる。
前記糖類のうち、糖アルコール類に関しては、例えばソルビトール、マルチトール、及びエリトリトールを挙げることができる。
前記可塑剤は、これらの多糖類及び/又は糖類のうちのいずれか1つ又は2つ以上の組合せであってもよい。
前記澱粉含有材料は、前記多糖類及び/又は糖類を、前記澱粉含有材料の質量に対して、例えば10質量%以上、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上の含有割合で含んでよい。
前記澱粉含有材料は、前記多糖類及び/又は糖類を、前記澱粉含有材料の質量に対して、例えば55質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下又は40質量%以下の含有割合で含んでよい。
以上の多糖類及び/又は糖類の含有割合の数値範囲は、例えば本発明の澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含まない場合に適用されてよいが、当該澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含む場合に適用されてもよい。なお、本発明の澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含む場合などのいくつかの実施態様においては、前記澱粉含有材料中の前記多糖類及び/又は糖類の含有割合はさらに低くてもよく、例えば、当該含有割合は30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下であってもよい。また、当該含有割合は、例えば0.1質量%以上、0.5質量%以上、又は1質量%以上であってよい。
【0042】
好ましくは、前記澱粉含有材料は、グリセリン、ソルビトール、マルチトール、及びエリトリトールのうちから選ばれる1種又は2種以上の組合せを含んでよい。これらの成分は、澱粉含有材料に望ましい物性又は成形性を付与するために特に適している。
前記グリセリン、ソルビトール、マルチトール、及びエリトリトールの合計含有量は、前記澱粉含有材料の質量に対して、例えば10質量%以上、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上であってよい。
前記グリセリン、ソルビトール、マルチトール、及びエリトリトールの合計含有量は、前記澱粉含有材料の質量に対して、例えば55質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下又は40質量%以下であってよい。
以上のグリセリン、ソルビトール、マルチトール、及びエリトリトールの合計含有量の数値範囲は、例えば本発明の澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含まない場合に適用されてよいが、当該澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含む場合に適用されてもよい。なお、本発明の澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含む場合などのいくつかの実施態様においては、前記澱粉含有材料中の当該合計含有量はさらに低くてもよく、例えば、当該合計含有量は30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下であってもよい。また、当該合計含有量は、例えば0.1質量%以上、0.5質量%以上、又は1質量%以上であってよい。
【0043】
特に好ましくは、前記澱粉含有材料は、グリセリンを含む。グリセリンは、澱粉含有材料に望ましい物性又は成形性を付与するために特に適している。
前記グリセリン含有量は、前記澱粉含有材料の質量に対して、例えば10質量%以上、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上であってよい。
前記グリセリンの含有量は、前記澱粉含有材料の質量に対して、例えば55質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下又は40質量%以下であってよい。
以上のグリセリンの含有割合の数値範囲は、例えば本発明の澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含まない場合に適用されてよいが、当該澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含む場合に適用されてもよい。なお、本発明の澱粉含有材料が熱可塑性樹脂を含む場合などのいくつかの実施態様においては、前記澱粉含有材料中の前記グリセリンの含有割合はさらに低くてもよく、例えば、当該含有割合は30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下であってもよい。また、当該含有割合は、例えば0.1質量%以上、0.5質量%以上、又は1質量%以上であってよい。
【0044】
1.4 熱可塑性樹脂
前記澱粉含有材料は、さらに熱可塑性樹脂を含んでもよい。前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂を少なくとも含んでよい。すなわち、本発明に従う澱粉含有材料は、ポリエステル系樹脂若しくはポリオレフィン系樹脂を含んでよく又はこれらの両方を含んでもよい。また、熱可塑性樹脂は、ポリスチレン系樹脂であってもよい。
【0045】
前記熱可塑性樹脂の含有割合は特に設定されなくてよく、例えば前記澱粉含有材料に求められる物性などに応じて当業者により適宜選択されてよい。
前記澱粉含有材料は、前記熱可塑性樹脂を、前記澱粉含有材料の質量に対して例えば90%質量以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、又は30質量%以下の割合で含んでよい。
また、前記澱粉含有材料は、前記熱可塑性樹脂を、前記組成物の質量に対して例えば1質量%以上、5質量%以上、又は10質量%以上の割合で含んでよい。
【0046】
前記ポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えば、α-オレフィン類)を主要なモノマーとする重合により得られる高分子であってよい。前記ポリオレフィン系樹脂は、例えば、ポリエチレン(PE)樹脂若しくはポリプロピレン(PP)樹脂又はこれらの組合せであってもよい。
【0047】
前記ポリエチレン樹脂は、例えば、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE: Low Density Polyethylene)、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE: High Density Polyethylene)、超低密度ポリエチレン樹脂(VLDPE:Very Low Density Polyethylene)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE: Linear Low Density Polyethylene)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA樹脂)等のエチレン共重合体、又は超高分子量ポリエチレン樹脂(UHMW-PE: Ultra High Molecular Weight-Polyethylene)又はこれらの組合せであってもよい。
【0048】
前記ポリオレフィン系樹脂は、好ましくはバイオマス由来のポリオレフィン系樹脂(例えば、バイオマス由来ポリエチレン樹脂など)であってよく、例えば、バイオマスポリエチレン樹脂でありうる。バイオマスポリエチレン樹脂は、例えば、LDPE、LLDPE、又はHDPEでありうる。これによりCO2排出量を削減することができる。
【0049】
前記ポリオレフィン系樹脂は、メタロセン触媒を用いて製造されたポリオレフィン系樹脂であってもよい。すなわち、熱可塑性樹脂は、例えば、メタロセン触媒系のポリエチレン樹脂若しくはポリプロピレン樹脂であってよく、又は、これらの組合せであってもよい。
前記ポリスチレン系樹脂は、メタロセン触媒系のポリスチレン系樹脂であってよい。
【0050】
前記ポリエステル系樹脂は、エステル結合によりモノマーが重合した高分子であってよい。ポリエステル系樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリ乳酸樹脂(PLA)、若しくはポリカーボネート樹脂(PC)、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂(PBAT)、ポリブチレンサクシネート樹脂(PBS)、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂(PHA)、又はこれらのうち2以上を組み合わせたものであってもよい。好ましい実施態様において、前記ポリエステル系樹脂は、PLA若しくはPBAT又はこれらの組合せを含んでよい。
【0051】
ポリスチレン系樹脂は、スチレン系モノマーが重合した高分子であってよい。ポリスチレン系樹脂は、例えば、ポリスチレン樹脂、ゴム強化ポリスチレン樹脂(耐衝撃性ポリスチレン樹脂、HIPS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、メタクリル酸エステル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体、並びにアクリロニトリル・エチレンプロピレン・スチレン共重合体等又はこれらのうち2以上を組み合わせたものであってもよい。
【0052】
前記熱可塑性樹脂の融点は、好ましくは150℃以下であり、より好ましくは140℃以下でありうる。より低い融点を有する熱可塑性樹脂を採用することによって、成形時の温度を低くすることができ、これにより、澱粉含有材料の着色を防ぐことができる。
前記熱可塑性樹脂の融点は、例えば90℃以上であり、より好ましくは95℃以上であってよい。
本明細書内において用語「熱可塑性樹脂」は、非晶性澱粉などの熱可塑性澱粉を包含しない。用語「熱可塑性樹脂」は、澱粉を含まない高分子を意味するものである。
【0053】
1.5 物性
前記澱粉含有材料は、加熱することによって成形可能であるという物性を有するものであってよい。すなわち、当該澱粉含有材料は、加熱された状態で所望の形へと成形することによって、当該形を有する成形体を形成することができる材料であってよい。
【0054】
前記成形の手法は、当業者により適宜選択されてよい。例えば、プレス成形、圧縮成形、注型成形、真空成形、圧空成形、押出成形、射出成形、又はブロー成形であってよい。また、成形の手法に応じて、澱粉含有材料の組成も適宜調整されてよい。
【0055】
前記澱粉含有材料は、120℃での熱プレスによってJIS K 7161-2に準拠した5B型のダンベル試験片へと成形可能である成形性を有する材料であってよい。当該ダンベル試験片は、後述の引張試験において破断ひずみの測定値を得ることができるという物性を有してよい。
非晶性澱粉と有機酸化合物との組合せによって、澱粉含有材料を、このような試験片へと成形可能である成形性を有する材料として構成することができる。
【0056】
前記澱粉含有材料は、当該澱粉含有材料に対してFT-IR測定を行った場合に、1650cm-1~1750cm-1にピークを示す材料であってよい。当該ピークは、有機酸化合物のカルボニル基に由来するピークであってよく、このピークが存在することは、前記有機酸化合物によって前記非晶性澱粉が変性されていることを意味する。
【0057】
本発明の澱粉含有材料は、熱可塑性の材料であってよく、例えば70℃以上、90℃以上、100℃以上、又は110℃以上の温度で可塑化する材料として構成されてよい。
また、前記澱粉含有材料を可塑化するための温度の上限については、特に特定されなくてよいが、材料の着色を防ぐために、例えば200℃以下、150℃以下、140℃以下、又は130℃以下であってよい。
前記澱粉含有材料は、このような温度において成形するために用いられてよい。
【0058】
1.6 製造方法
本発明の澱粉含有材料は、以下で説明する製造方法により製造されてよい。すなわち、本発明は、非晶性澱粉と有機酸化合物とを含む澱粉含有材料の製造方法も提供する。
【0059】
前記製造方法は、非晶性澱粉を用意する工程、及び、前記非晶性澱粉と有機酸化合物とを混合する工程を含んでよい。このようにして得られた混合物そのものが、本発明の澱粉含有材料として利用されてよく、例えば可塑剤と混合して成形のために用いられてよい。
【0060】
前記非晶性澱粉を用意する工程において、非晶性澱粉が、上記1.1において述べたとおりに作製されてよく、又は、予め作製された非晶性澱粉が用意されてもよい。前記非晶性澱粉は、澱粉(例えば結晶性澱粉)を上記1.1において述べたように粉砕処理することによって作製されてよい。前記粉砕処理において、水は用いられなくてよい。前記粉砕処理は、水を澱粉に加えることなく実行されてよく、特には水の不在下で、上記1.1において述べた臼式粉砕装置を用いて前記粉砕処理が実行されてよい。これにより、水を用いることなく非晶性澱粉が得られる。
【0061】
前記非晶性澱粉と前記有機酸化合物とを混合する工程において用いられる有機酸化合物の種類は、上記1.2.1において述べた通りであってよい。前記非晶性澱粉と前記有機酸化合物とを混合する工程は、前記1.2.2において述べたとおりに実行されてよく、すなわち、前記非晶性澱粉が前記有機酸化合物によって変性されるように実行されてよい。
前記混合は、上記1.2.2において述べた溶媒(特には水を含まない溶媒)中で行われてよい。すなわち、まず、前記有機酸化合物を前記溶媒へ溶解して有機酸溶液を得、そして、当該有機酸溶液へ非晶性澱粉を混合することによって、前記変性が実行されてよい。当該変性後に、任意的に洗浄が行われ、そしてその後、前記非晶性澱粉が混合された前記有機酸溶液(特には当該有機酸溶液中の非晶性澱粉、例えば当該有機酸溶液をろ過処理して得られた残渣)が乾燥処理に付される。当該乾燥によって得られた産物が、本発明の澱粉含有材料として利用されてよい。すなわち、当該澱粉含有材料は、有機酸化合物により変性された非晶性澱粉そのものであってよい。
【0062】
また、本発明の澱粉含有材料の製造方法は、前記産物に、さらに可塑剤を混合する工程を含んでもよい。前記可塑剤は、上記1.3において述べたとおりのものであってよい。当該混合は、前記産物(特には有機酸変性された非晶性澱粉)と前記可塑剤とを、例えば混錬装置内において混錬することによって実行されてよい。前記混練装置には、押出機が含まれてもよい。例えば、前記混錬装置は、混錬機能に加えて押出機能を有する装置であってよい。前記混錬装置による押出によって得られた産物が、成形体形成用材料として用いられてもよい。
前記有機酸化合物により変性された前記非晶性澱粉と前記可塑剤とが混錬されて得られた産物は、成形体形成用材料として特に適している。当該産物は、各種の成形手法に付されてよい。
【0063】
また、本発明の澱粉含有材料の製造方法は、前記産物(特には有機酸化合物により変性された非晶性澱粉)に、さらに熱可塑性樹脂を混合する工程を含んでもよい。前記熱可塑性樹脂は、上記1.4において述べた通りのものであってよい。当該混合の前に、当該混合の間に、又は当該混合の後に、前記可塑剤がさらに混合されてもよい。これらの混合処理は、前記有機酸化合物により変性された前記非晶性澱粉及び前記熱可塑性樹脂(並びに前記可塑剤)を例えば混錬装置内において混錬することによって実行されてよい。
前記有機酸化合物により変性された非晶性澱粉及び前記熱可塑性樹脂(並びに前記可塑剤)が混錬されて得られた産物は、成形体形成用材料として特に適している。当該産物は、各種の成形手法に付されてよい。
【0064】
1.7 用途
本発明の澱粉含有材料は、成形体を得るために用いられてよい。当該成形体を得るための成形手法は、上記でも述べた通り、当業者により適宜選択されてよいが、例えば、プレス成形、圧縮成形、注型成形、真空成形、圧空成形、押出成形、射出成形、又はブロー成形であってよい。
【0065】
前記成形体は、例えば透明性を有する成形体であってよい。当該透明性は、当該成形体のうちの、例えば5mm以下、特には3mm以下、さらに特には1mm前後の厚みを有するシート状部分が透明であるように見えることを意味してよい。例えば上記で述べた5B型ダンベル試験片と同様の厚みを有する成形体に関して、透明であるように見えることを意味してもよい。
当該透明性は、当該成形体の主面を見た場合に、その裏面側に存在する物の色が認識できる程度の透明性であってよく、又は、それ以上の透明性(例えばその裏面側に存在する物に記載された形状又は文字が視認できる程度の透明性)であってもよい。
【0066】
このように、本発明は、本発明の澱粉含有材料から形成された成形体も提供する。また、本発明は、前記澱粉含有材料を用いる成形体製造方法も提供する。
【0067】
例えば、本発明の澱粉含有材料は、例えばシート状又はフィルム状の成形体を製造するために用いられてよい。すなわち、本発明は、本発明の澱粉含有材料から形成されたシート状又はフィルム状の成形体も提供する。
前記シート状又はフィルム状の成形体の厚みは、当業者により適宜選択されてよく、例えば10mm以下、特には8mm以下、より特には5mm以下であってよい。
前記厚みは、例えば0.1μm以上であってよく、特には1μm以上、より特には5μm以上であってよい。
前記シート状又はフィルム状の成形体は、種々の用途において用いられてよく、例えば容器又は包装のために用いられてよい。
前記シート状又はフィルム状の成形体は、例えば工業又は農林水産業又は園芸において用いられてよく、工業用又は農林水産業用又は園芸用の資材として用いられてもよい。
【0068】
前記シート状又はフィルム状の成形体は、さらに成形されて、例えば所定の形状を有する容器又は包装資材が製造されてもよい。
また、前記容器又は包装資材は、シート状又はフィルム状の成形体を形成することなく、本発明の澱粉含有材料からそのまま成形されてもよい。
すなわち、本発明は、本発明の澱粉含有材料から形成された容器又は包装資材も提供する。
前記容器又は包装資材は、例えば食品、飲料、医薬、雑貨、玩具、又は図書などのための容器又は包装資材として用いられてよいが、その用途はこれらに限られず、他の物品を収容又は包装するために用いられてもよい。
【0069】
本発明の澱粉含有材料は、例えば緩衝材などとして、物流、保管、又は梱包のために用いられてもよい。
また、本発明の澱粉含有材料は、例えば料理道具などの厨房用品又は例えば食器またはカトラリーなどの卓上備品を成形するために用いられてもよい。すなわち、本発明は、本発明の澱粉含有材料から成形された厨房用品又は卓上備品も提供する。
【0070】
また、本発明の澱粉含有材料は、マスターバッチとして利用されてもよい。すなわち、本発明は、本発明の澱粉含有材料から形成されたマスターバッチも提供する。当該マスターバッチを用いて、以上で述べた成形体が製造されてもよい。
【0071】
2.成形用澱粉含有材料の透明性向上方法
【0072】
本発明は、成形用澱粉含有材料の透明性向上方法を提供する。前記透明性向上方法は、非晶性澱粉を用いて成形用澱粉含有材料を製造することを含む。前記非晶性澱粉は、上記1.1において説明した通りであり、その説明が前記透明性向上方法において用いられる非晶性澱粉についても当てはまる。
前記透明性向上方法は、少なくとも波長350nm~650nmの全域にわたる透過率を向上させる透明性向上方法であってよく、例えば少なくとも波長350nm~650nmの全域にわたる透過率を例えば5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、上昇させる透明性向上方法であってよい。当該透過率の向上は、例えば、非結晶性澱粉が用いられた場合と、非結晶性澱粉の代わりに結晶性澱粉が用いられた場合と、を比較したときの透過率の向上であってよい。
一実施態様において、前記非晶性澱粉は、有機酸化合物により変性された非晶性澱粉であってもよい。当該有機酸及び当該有機酸による変性は、上記1.2において説明した通りであり、その説明が前記透明性向上方法において用いられる非晶性澱粉についても当てはまる。
【0073】
前記透明性向上方法は、例えば前記成形用澱粉含有材料の原料の一つとして、前記非晶性澱粉を用いる。例えば、前記非晶性澱粉と可塑剤とが混合されて、前記成形用澱粉含有材料が製造されてよい。前記可塑剤は、上記1.3において説明したとおりであり、その説明が本発明の透明性向上方法において用いられる可塑剤についても当てはまる。
【0074】
一実施態様において、前記成形用澱粉含有材料を製造するために、前記非晶性澱粉及び前記可塑剤に加えて、さらに水が混合されてもよい。
他の実施態様において、前記成形用澱粉含有材料を製造するために、前記非晶性澱粉及び前記可塑剤に水は混合されなくてもよい。
【0075】
他の実施態様において、前記成形用澱粉含有材料を製造するために、前記非晶性澱粉と前記可塑剤とに加えて、さらに熱可塑性樹脂が混合されてもよい。前記熱可塑性樹脂は、上記1.4において説明したとおりであり、その説明が本発明の透明性向上方法において用いられる可塑剤についても当てはまる。
【0076】
本発明の透明性向上方法において前記非晶性澱粉が用いられることによって、前記成形用澱粉含有材料中の結晶化度の上昇を抑制することができる。結晶化度の上昇が抑制されることによって、当該材料を用いて製造される成形体の物性を改善することができ、例えば引張特性を向上させることができる。
すなわち、前記透明性向上方法は、前記成形用澱粉含有材料中の結晶化度の上昇を抑制するものであってよい。
【0077】
本発明の透明性向上方法において前記非晶性澱粉が用いられることによって、前記成形用澱粉含有材料が成形される際の澱粉再結晶化を抑制することができる。当該成形は、例えば当該材料が加熱されることを含む成形手法であってよい。当該成形において、非晶化した澱粉が再結晶化しうる。本発明の透明性向上方法では、前記非晶性澱粉を用いることによって、澱粉の再結晶化を防ぐことができる。
すなわち、前記透明性向上方法は、前記成形用澱粉含有材料が成形される際の澱粉再結晶化を抑制するものであってよい。
【0078】
前記澱粉再結晶化は、例えば前記材料から形成された成形体の常温保存時においても起こりうる。本発明の透明性向上方法を適用することによって、当該常温保存時における澱粉再結晶化を防ぐことができる。
すなわち、前記透明性向上方法は、前記成形用澱粉含有材料の常温保存時における澱粉再結晶化を抑制するものであってよい。
【0079】
本発明の透明性向上方法は、例えば、澱粉含有材料から形成される成形体を製造する場合に適用されてよい。当該澱粉含有材料は、上記1.において述べた澱粉含有材料であってよく、又は、それ以外の澱粉含有材料(すなわち有機酸を含まない澱粉含有材料)であってもよい。
【実施例0080】
3.実施例
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表例であり、本発明の範囲は、これらの実施例のみに限定されるものでない。
【0081】
3.1 非晶性澱粉と有機酸との組合せに関する試験
【0082】
3.1.1 非晶性澱粉の作製
結晶性コーンスターチ (昭和産業社製)に対して、温度制御型の臼式粉砕装置(ミクロパウダーKGW-501、West社製)を文献(Katsuno, K., Nishioka, A., Koda, T., Miyata, K., Murasawa,G., Nakaura, Y. and Inouchi, N.:Starch/Starke,62(9),475(2010)、及び、Murakami, S., Fujita, N., Nakamura, Y., Inouchi, N., Oitome, N. F., Koda, T. and Nishioka, A.:Starch, 70(3-4),1700164(2018))に従い改造した粉砕装置を用いて粉砕処理を行った。当該臼式粉砕装置の模式図を図1に示す。同図に示されるように、当該臼式粉砕装置10は、上臼11及び下臼12を備えている。さらに、これら臼の温度を制御するためのヒータ13及び温度制御装置14を備えている。粉砕処理される原料澱粉CSが投入されると、当該原料澱粉CSは、上臼11及び下臼12によって、所定の温度で加熱されながら粉砕される。当該粉砕のために、同図に示されるように下臼12が回転する。原料澱粉CSは、上臼11と下臼12との間での粉砕処理に付されて、非晶性澱粉ACSが得られる。
前記粉砕処理の条件は以下のとおりであった。当該粉砕処理によって、非晶性澱粉が作製された。
<粉砕処理条件>
粉砕温度(臼に設置された熱電対で検出される温度):120℃
回転速度(下臼の回転速度である。上臼は固定されている。):60rpm
臼間距離(上臼と下臼との間のクリアランス):0μm
臼の溝のピッチ:上臼及び下臼共に2.0mm
【0083】
当該非晶性澱粉が非晶化していることは、広角X線回折測定によって確認された。すなわち、当該広角X線回折測定は、試料水平型多目的X線回折装置(UltimaIV、Rigaku社製)を用いて以下の条件で行われた。
<測定条件>
管電流:40mA
管電圧:40kV
X線源:Cu-Kα線
走査速度:10.0°/min
測定範囲:5°~35°
【0084】
前記広角X線回折測定の測定結果が図2に示されている。同図において、Aは粉砕処理前の測定結果であり、Bは粉砕処理後の測定結果である。同図のAに示されるとおり、粉砕処理前においては、複数のピークが存在しており、すなわち結晶性澱粉であることが分かる。一方粉砕処理後においては、同図のBに示されるとり、前記複数のピークは存在せず、なだらかな曲線が確認できる。すなわち、澱粉が非晶化状態にあることが分かる。
なお、同図において、縦軸は強度(Intensity)を任意単位で示すものであり、粉砕前の測定結果と粉砕後の測定結果とは、グラフの形状を比較するためだけに上下に並べられており、これらの測定結果の強度の値が上昇していることを示すものでない。
【0085】
3.1.2 クエン酸変性澱粉の作製及び変性の確認
上記3.1.1において用いられた結晶性澱粉(コーンスターチ、以下CSともいう)、上記3.1.1.において作製された非晶性澱粉(コーンスターチ、以下ACSともいう)、及びクエン酸(以下CAともいう、富士フイルム和光純薬社製)が用意された。これらの材料を用いて、結晶性澱粉とクエン酸とを含有する澱粉含有材料、及び、非晶性澱粉とクエン酸とを含有する澱粉含有材料が製造された。当該製造の方法を、図3Aを参照しながら以下で説明する。
【0086】
同図に示されるとおり、クエン酸がエタノール(無水エタノール)に溶解されて、クエン酸のエタノール溶液が作製された。当該溶液の作製において、クエン酸18gが、無水エタノール60mlへ溶解された。
当該溶液へ、前記結晶性澱粉又は前記非晶性澱粉が添加されて、80℃で24時間攪拌された。添加された前記結晶性澱粉又は前記非晶性澱粉の量と前記クエン酸の量とは、澱粉100質量部に対してクエン酸60質量部となるように、各澱粉が添加された。
当該攪拌後、吸引濾過による洗浄を行い、得られた残渣を真空乾燥機(ISUZU製 SSVK-11S)を用いて50℃で20時間真空乾燥して、クエン酸変性された澱粉を得た。当該クエン酸変性された澱粉は、粉末状の固体であった。
以上で用意された澱粉の写真を図3Bに示す。同図に示されるとおり、クエン酸変性されていない結晶性澱粉(CS)、クエン酸変性されていない非晶性澱粉(ACS)、クエン酸変性された結晶性澱粉(CA-CS)、及びクエン酸変性された非晶性澱粉(CA-ACS)のいずれも、粉末状の固体であった。ただし、CS及びACSは、原材料のCS及び原材料のCSから前記粉砕方法により製造したACSを、真空乾燥機(ISUZU製 SSVK-11S)を用いて50℃で20時間真空乾燥したものであり、これ以降の記載における CS 及び ACS はこの乾燥工程を経たものである。
【0087】
澱粉がクエン酸変性されたことは、FT-IR分光器(Spectrum 100、Perkin-Elmer社製)を用いたFT-IR測定によって確認された。当該測定の条件は以下のとおりであった。
測定範囲:4000cm-1~650cm-1
測定方法:ATR法
スキャン回数:121回
1000cm-1付近のピークを基準に規格化を行った
【0088】
前記FT-IR測定に、クエン酸変性されていない結晶性澱粉(CS)、クエン酸変性されていない非晶性澱粉(ACS)、クエン酸変性された結晶性澱粉(CA-CS)、及びクエン酸変性された非晶性澱粉(CA-ACS)の4種の試料が付された。
これら4種の試料のFT-IR測定結果が、図4に示されている。同図に示されるとおり、CA-CS 及びCA-ACS の測定結果において、1720cm-1付近にクエン酸のカルボニル基(C=O)由来のピークが発現した。すなわち、CA-CS 及びCA-ACSに関して、澱粉とクエン酸とが反応したことが確認された。一方で、CS 及びACSに関しては、前記ピークは確認されなかった。
このように、クエン酸のエタノール溶液を用いた変性処理によって、澱粉がクエン酸変性されることが確認された。
【0089】
3.1.3 熱可塑性澱粉含有材料の作製及び評価
上記で述べた4種の澱粉(CS、ACS、CA-CS、及びCA-ACS)のいずれかと精製グリセリン(以下Glyともいう、花王製)とを、混錬装置(ラボプラストミル10c100-01、東洋精機製作所製)を用いて混錬して、澱粉含有材料を作製した。当該混錬の条件は以下のとおりであった。
以下では、CSとGlyとを用いて作製された澱粉含有材料をCS/Glyともいう。同様に、ACSとGlyとを用いて作製された試料、CA-CSとGlyとを用いて作製された試料、及びCA-ACSとGlyとを用いて作製された試料もそれぞれ、ACS/Gly、CA-CS/Gly、及びCA-ACS/Glyともいう。
<条件>
回転速度:20rpm
温度:120℃
澱粉及びGlyの配合割合:澱粉/Gly=65wt%/35wt%
【0090】
製造された4種の澱粉含有材料が、ホットプレス昇温機(mini TEST PRESS10、東洋精機製作所製)を用いて圧縮成形されて、引張試験用のサンプルが得られた。当該サンプルの形状は、図5に示されるとおりのダンベル型試験片であった。同図における寸法の数値の単位はいずれもmmである。また、当該圧縮成形の条件は以下のとおりであった。
<条件>
圧力:15MPa
時間:10min
温度:120℃
【0091】
前記4種の澱粉含有材料の前記圧縮成形前の写真、及び、前記圧縮成形後の写真を、図6に示す。
同図に示されるとおり、前記圧縮成形前においては、CS/Gly及びCA-CS/Glyは粉末状である一方で、ACS/Gly及びCA-ACS/Glyは生地状であった。
また、CS/Gly及びCA-CS/Glyはいずれも、前記圧縮成形しても、ダンベル型試験片は形成できず、すなわち成形不可能であった。一方で、ACS/Gly及びCA-ACS/Glyは、ダンベル型試験片を形成することができ、すなわち成形可能であった。
また、同図及び図3Bに示されるとおり、CS、CA-CS、ACS、及びCA-ACSのいずれもが粉末状の固体であるが、これらのうち、ACS及びCA-ACSは、上記のとおり、可塑剤と組み合わされた場合に、生地状の材料が形成され、そして、成形可能であった。一方で、CS及びCA-CSは、可塑剤と組み合わせても生地状にはならず、成形不可能であった。
これらの結果より、非晶性澱粉を含む澱粉含有材料は、成形材料として利用できることが分かる。
また、クエン酸を結晶性澱粉と組わせても成形不可能であったことから、クエン酸は、結晶性澱粉と組み合わせても物性改善効果を発揮せず、非晶性澱粉との組合せにおいてその効果を発揮すると考えられる。
【0092】
また、非晶性澱粉は、上記で述べた真空乾燥処理などの溶媒除去処理が行われる場合に、特に有用である。
すなわち、溶媒除去処理は、成形体の物性(例えば寸法安定性など)の観点から非常に重要である。しかしながら、結晶性澱粉が用いられる場合に当該溶媒除去処理が実行されると、上記で述べた通り、澱粉含有材料は試験片へと成形できなかった。一方で、非晶性澱粉が用いられる場合においては、当該溶媒除去処理が実行されても、上記で述べた通り、澱粉含有材料を用いて試験片へと成形することができた。
また、結晶性澱粉が用いられる場合において、当該溶媒除去処理が十分に行われない場合は、成形可能であるものの、成形体の物性は幾分劣るものとなる。
そのため、成形体の物性の向上且つ成形性の確保の観点から、非晶性澱粉は非常に有用である。
前記溶媒除去処理(特には前記真空乾燥処理)によって、前記澱粉含有材料の含水率は、例えば5%未満となる。すなわち、本発明の澱粉含有材料の含水率は、例えば5%未満であってよい。このような含水率である場合に、非晶性澱粉の有用性が発揮されやすいと考えらえる。
なお、含水率が5%以上である場合は、澱粉の再結晶化が進行することがあり、これは成形体の物性の劣化をもたらしうる。
【0093】
上記で述べた通り、クエン酸変性された非晶性澱粉を得るために、溶媒はエタノール100%であり、水は含まれていない。これにより、含水率を極めて低くすることでき、これは成形体の物性向上に貢献する。そして、このように含水率が低い状態での澱粉含有材料の澱粉成分として、結晶性澱粉ではなく非晶性澱粉を用いることによって、成形性を確保することができる。このように、水を含まない溶媒を用いることは、優れた物性と成形性を有する澱粉含有材料を得るために、非常に有用である。
【0094】
次に、ACS/Gly及びCA-ACS/Glyを用いて得られたダンベル型試験片に対して、万能試験機(34SC-1、INSTRON社製)を用いて、以下の条件で引張試験を行った。
<条件>
引張速度:10mm/min
チャック間距離:20mm
試験回数:5回
【0095】
前記引張試験の結果が、図7に示されている。同図には、引張試験の結果破断したダンベル型試験片の写真も示されている。同図に示されるとおり、CA-ACS/Glyは、ACS/Glyと比べて破断ひずみが向上しており、すなわち、より延性的な破壊挙動を示した。なお、CA-ACS/Glyの最大応力は、ACS/Glyと比べて低下した。これらの結果より、非晶性澱粉とクエン酸との組み合わせによって、破断ひずみを向上することができることが分かる。
さらに、同図中の写真に示されるとおり、CA-ACS/Glyのダンベル型試験片の透明性は、ACS/Glyのものよりも高かった。そのため、クエン酸を非晶性澱粉と組み合わせることによって、成形体の透明性を高めることができることも分かる。
このように、クエン酸と非晶性澱粉との組合せは、プラスチック代替材料として求められる物性を改善することができる。
【0096】
上記で述べた引張試験によって、澱粉含有材料の引張特性が変化したことが示された。これは、非晶性澱粉をクエン酸変性することによって、澱粉分子鎖の運動性が向上することによると考えられる。これを、図8を参照しながら説明する。
【0097】
同図の上に示されるとおり、ACS/Glyに関しては、澱粉分子鎖に存在する水酸基同士が、水素結合を形成している。ACS/Glyが混錬されることによって当該グリセリンが澱粉分子鎖の間に存在したとしても、すでに形成されている水素結合のために、澱粉分子鎖との親和性は、そこまで向上しない。
一方で、CA-ACS/Glyに関しては、クエン酸変性されており、すなわち、澱粉分子鎖に存在する水酸基がクエン酸によって置換されている。これにより、澱粉分子鎖上の水酸基同士の水素結合の数が減少する。水素結合数が減少しているCA-ACS/Glyが混錬された場合に、グリセリンはクエン酸置換基との親和性に優れているので、澱粉分子鎖とグリセリンとの親和性の向上をもたらす。これにより、澱粉分子鎖の運動性が向上し、引張特性が向上したと考えられる。
そのため、クエン酸以外の有機酸も、澱粉分子鎖の水酸基を置換することができるので、クエン酸以外の有機酸についても、非晶性澱粉と組み合わせた場合において、同様の引張特性向上効果を発揮することができると考えられる。
【0098】
3.2 非晶性澱粉による透明性向上に関する試験
【0099】
3.2.1 非晶性澱粉の作製
結晶性コーンスターチ (昭和産業社製)に対して、上記3.1.1において述べた臼式粉砕装置を用いて粉砕処理を行った。当該粉砕処理の条件も、上記3.1.1において述べたものと同じであった。当該粉砕処理によって、非晶性澱粉が作製された。
【0100】
当該非晶性澱粉が非晶化していることは、広角X線回折測定によって確認された。すなわち、当該広角X線回折測定は、試料水平型多目的X線回折装置(UltimaIV、Rigaku社製)を用いて以下の条件で行われた。
<測定条件>
反射法
X線源:Cu-Ka線
波長:1.54Å
走査範囲:2θ=5°~35°
走査速度:10°/min
【0101】
前記広角X線回折測定の測定結果が図9に示されている。同図より、上記3.1.1において述べたように、粉砕処理によって、澱粉が非晶化したことが確認された。例えば、同図においてグレーで示される領域におけるピークが存在しないことにより、澱粉の非晶化が確認される。
なお、同図においても、縦軸は回折強度を任意単位で示すものであり、粉砕前の測定結果と粉砕後の測定結果とは、グラフの形状を比較するためだけに上下に並べられており、これらの測定結果の強度の値が上昇していることを示すものでない。
【0102】
3.2.2 澱粉含有材料の作製と評価
上記3.2.1において用いられた結晶性澱粉(コーンスターチ、以下CSともいう)、上記3.2.1.において作製された非晶性澱粉(コーンスターチ、以下ACSともいう)、精製グリセリン(以下Glyともいう)、及び蒸留水が用意された。これらの材料を用いて、混錬及び成形によってフィルムを作製した。すなわち、結晶性澱粉とグリセリンとを含む澱粉含有材料から形成されたフィルム(以下CS/Gly-Pともいう)、及び、非晶性澱粉とグリセリンとを含む澱粉含有材料から形成されたフィルム(以下ACS/Gly-Pともいう)が、それぞれ作製された。
【0103】
前記混錬における材料の配合比は、100質量部のCS又はACSに対して、Glyが43質量部及び水が7質量部であった。前記混錬は、混錬装置(ラボプラストミル10c100-01、東洋精機製作所製)を用いて以下の条件で行われた。
<条件>
温度:120℃
回転数:40rpm
時間:3min
【0104】
前記成形は、ホットプレス昇温機(MINI TEST PRESS10、東洋精機製作所製)を用いて以下の条件で行われた。
<条件>
温度:120℃
圧力:15MPa
時間:10min
【0105】
作製された2種のフィルム(CS/Gly-P及びACS/Gly-P)の透過率を測定した。当該透過率は、紫外可視分光光度計(V-630BIO、東洋精機製作所製)を用いた紫外可視分光測定によって、以下の条件で行われた。
<条件>
波長:310~660 nm
リファレンス:空気
【0106】
透過率の測定結果が、図10に示されている。同図に示されるとおり、測定波長全域にわたって、ACS/Gly-Pの透過率が、CS/Gly-Pの透過率よりも高かった。
この結果より、非晶性澱粉を含む澱粉含有材料は、結晶化澱粉を含む澱粉含有材料と比べて、より高い透過率を示すフィルムを形成することができることが分かる。
例えば、非晶性澱粉を含む澱粉含有材料は、例えば波長350nm~650nmの全域にわたって、透過率が好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上であるフィルムを形成することができる材料であってよい。
また、非結晶性澱粉を用いて澱粉含有材料を形成することによって、波長350nm~650nmの全域にわたる透過率を向上させることができる。すなわち、本発明の透明性向上方法は、少なくとも波長350nm~650nmの全域にわたる透過率を向上させる透過率向上方法であってよい。特には、本発明の透明性向上方法は、例えば少なくとも波長350nm~650nmの全域にわたる透過率を、例えば5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、上昇させる透明性向上方法であってよい。当該透過率の向上は、例えば、非結晶性澱粉が用いられた場合と、非結晶性澱粉の代わりに結晶性澱粉が用いられた場合と、を比較したときの透過率の向上であってよい。
【0107】
非晶性澱粉を用いることによる透過率向上は、フィルムの結晶性の低下によると考えられ、特には圧縮成形時における再結晶化によると考えられる。これに関して、以下で、広角X線回折測定の結果を参照しつつ説明する。当該測定は、上記3.2.1において述べたとおりに行われた。
【0108】
グリセリンと混錬する前の結晶化澱粉(CS)、結晶化澱粉とグリセリンと水とを混錬して作製された澱粉含有材料(CS/Gly)、及び、前記澱粉含有材料を圧縮成形して得られたフィルム(CS/Gly-P)の広角X線回折測定結果を図11の左に示す。
同図におけるCSとCS/Glyとの比較より、結晶化澱粉は、グリセリンと混錬されることによって、アミロペクチン由来の回折ピークが減少した。すなわち、グリセリンとの混錬によって、アミロペクチンの非晶化が進行したことが分かる。
次に、同図におけるCS/GlyとCS/Gly-Pとの比較より、圧縮成形によって、アミロペクチン由来の回折ピークが増大した。すなわち、圧縮成形によって、アミロペクチンの再結晶化が進行したことが分かる。
以上のとおり、結晶化澱粉は、グリセリンとの混錬によって非晶化されても、その後の圧縮成形によって再結晶化していると考えられる。
前記混錬による非晶化及び前記成形による再結晶化について、図11の右の模式図を参照しながら説明する。
同図に示されるとおり、結晶化澱粉の分子鎖は、水及びグリセリンと混錬することによって、水及びグリセリンが澱粉の分子鎖の間へ入り込み、結晶部が非晶部へと変化すると考えられる。しかし、当該非晶部内の水及びグリセリンは、圧縮成形によって、分子鎖の間から出ると考えられる。このようにして、前記再結晶化が起こると考えられる。
【0109】
グリセリンと混錬する前の非晶性澱粉(ACS)、非晶性澱粉とグリセリンと水とを混錬して作製された澱粉含有材料(ACS/Gly)、及び、前記澱粉含有材料を圧縮成形して得られたフィルム(ACS/Gly-P)の広角X線回折測定結果を図12の左に示す。
同図におけるACSとACS/Glyとの比較より、非晶性澱粉は、グリセリンと混錬しても、アミロペクチン由来の回折ピークは発現しなかった。
次に、同図におけるACS/GlyとACS/Gly-Pとの比較より、圧縮成形を行っても、アミロペクチン由来の回折ピークが発現しなかった。すなわち、圧縮成形の際に、アミロペクチンの再結晶化が抑制された。
以上のとおり、非晶性澱粉は、グリセリンとの混錬後に圧縮成形を行った場合に、結晶化澱粉を用いた場合と比べて、アミロペクチンの再結晶化を抑制することができると考えられる。
前記再結晶化の抑制について、図12の右の模式図参照しながら説明する。
同図に示されるとおり、結晶化澱粉は、澱粉分子鎖間の水酸基同士が水素結合を形成していると考えられる。上記で述べた粉砕処理によって、グリセリンと相互作用することができる水酸基の数が増加したと考えられる。そして、前記混錬処理によって、グリセリンが分子鎖間に入り込み、グリセリンのみによって熱可塑化したと考えられる。
【0110】
3.2.3 常温保存による結晶性への影響
上記2種のフィルムACS/Gly-P及びCS/Gly-Pを14日間にわたって常温保存し、保存開始時、並びに、保存開始後3日目、7日目、及び14日目において、上記3.2.1で述べた通りに広角X線回折測定が行われた。測定結果が、図13に示されている。同図に示されるとおり、ACS/Gly-Pは、CS/Gly-Pと比べて、結晶化度の変化量が少なかった。
この結果より、非晶性澱粉を用いることによって、保存(特には常温保存)に伴う結晶化度の変化量を減少することができると考えられる。また、この変化量の減少は、グリセリンの蒸発の抑制により、アミロペクチンの再凝集が抑制されたためと考えられる。


図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13