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  • 特開-日本刀の製造方法 図1
  • 特開-日本刀の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006810
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】日本刀の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21K 11/02 20060101AFI20250109BHJP
   B26B 9/00 20060101ALI20250109BHJP
   F41B 13/02 20060101ALI20250109BHJP
   B21J 17/00 20060101ALI20250109BHJP
   B21K 23/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B21K11/02
B26B9/00 Z
F41B13/02 A
B21J17/00
B21K23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107813
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】523250072
【氏名又は名称】倉島 一
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉島 一
【テーマコード(参考)】
3C061
4E087
【Fターム(参考)】
3C061AA02
3C061BA03
3C061BA17
3C061DD01
3C061EE38
3C061EE40
4E087AA10
4E087CA02
4E087CB01
4E087EF01
4E087HA77
(57)【要約】
【課題】鋼をなるべく減らさずに鍛錬することのできる日本刀の製造方法を提供する。
【解決手段】鋼を加熱して打ち延ばす第一の工程S1と、打ち延ばした鋼を打ち砕く第二の工程S2と、打ち砕いた鋼の中から良質な鋼を選別する第三の工程S3と、選別した鋼を積み重ねる第四の工程S4と、積み重ねた鋼を加熱して一体にする第五の工程S5と、一体になった鋼を加熱して打ち延ばした後に折り返して2枚に重ねる第六の工程S6を備え、第一の工程S1において鋼を800℃以下の温度に加熱して0.3mm以下の薄さに打ち延ばし、第六の工程S6を3回または4回繰り返す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼を加熱して打ち延ばす第一の工程と、打ち延ばした鋼を打ち砕く第二の工程と、打ち砕いた鋼の中から良質な鋼を選別する第三の工程と、選別した鋼を積み重ねる第四の工程と、積み重ねた鋼を加熱して一体にする第五の工程と、一体になった鋼を加熱して打ち延ばした後に折り返して2枚に重ねる第六の工程を備え、前記第一の工程において鋼を800℃以下の温度に加熱して0.3mm以下の薄さに打ち延ばし、前記第六の工程を3回または4回繰り返すことを特徴とする日本刀の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼をなるべく減らさずに鍛錬することのできる日本刀の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の日本刀の製造方法として、例えば、特許文献1に記載されている方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第7050373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の日本刀の製造工程では、鋼を平たく打ち延ばした後に折り返して2枚に重ねる鍛錬が15回程度行われている。この折り返し鍛錬を15回行った場合は、215=32,768枚の鋼の層が形成され、これにより強靭な日本刀が得られるとされている。
【0005】
しかしながら、折り返し鍛錬の後には、鍛錬前の鋼の目方の1、2割程度しか残らないといわれている。その理由については、鍛錬時の高温の鋼の表面には酸化膜が形成されやすく、この酸化膜が鍛錬によって剥がれるためであると考えられる。ちなみに、折り返し鍛錬1回あたりの損失が10%であっても、15回の鍛錬後に残る鋼は、元の0.915=0.21となり、2割程度しか残らない計算となる。
【0006】
そこで、本発明は、鋼をなるべく減らさずに鍛錬することのできる日本刀の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の日本刀の製造方法は、鋼を加熱して打ち延ばす第一の工程と、打ち延ばした鋼を打ち砕く第二の工程と、打ち砕いた鋼の中から良質な鋼を選別する第三の工程と、選別した鋼を積み重ねる第四の工程と、積み重ねた鋼を加熱して一体にする第五の工程と、一体になった鋼を加熱して打ち延ばした後に折り返して2枚に重ねる第六の工程を備え、前記第一の工程において鋼を800℃以下の温度に加熱して0.3mm以下の薄さに打ち延ばし、前記第六の工程を3回または4回繰り返す。
【発明の効果】
【0008】
本発明の日本刀の製造方法によれば、第一の工程において、鋼の加熱温度を従来の温度よりも低い800℃以下とすることで、鋼の酸化を最少にすることができる。また、第一の工程において、鋼を従来の方法よりも薄い0.3mm以下の薄さに打ち延ばすことで、不純物を効果的に除去することができる。さらに、第六の工程の回数を従来の回数よりも少ない3回または4回とすることにより、酸化する鋼の量を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の日本刀の製造方法の工程を示す説明図である。
図2】同上、折り返し鍛錬の工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の実施例に基づき、本発明の日本刀の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形実施が可能である。
【0011】
図1を参照しながら説明すると、はじめに、日本刀の原料となる鋼を準備する(S0)。この鋼としては、玉鋼と呼ばれる炭素量が適切で優れた品質のものが好適に用いられる。
【0012】
第一の工程において、鋼を加熱して打ち延ばす(S1)。この工程は、水へしと呼ばれる。
【0013】
従来の方法では、この工程において鋼を1000℃以上に加熱していた。しかし、1000℃以上に加熱すると鋼が酸化しやすくなり、これにより貴重な原料の一部が失われてしまっていた。そこで、本発明の方法においては、鋼の加熱温度を800℃以下とし、鋼の酸化を最少にする。なお、鋼の加熱温度は、鋼の焼き入れ温度である700~800℃とするのが好ましく、さらには750~800℃とするのがより好ましい。加熱温度が低いと鋼の展延性が減って加工が困難になり、加熱温度が高いと鋼の酸化が急速に進むためである。
【0014】
また、従来の方法では、この工程において鋼を5~10mm程度の厚さに打ち延ばしていた。これに対して、本発明の方法においては、鋼を0.3mm以下の薄さに打ち延ばし、鋼に含まれる酸化ケイ素などの硬くて脆い不純物の塊を砕いて鋼から除去する。なお、打ち延ばした後の鋼の厚さは、不純物を除去するためにできるだけ薄くするのが好ましいが、作業性を考慮すると、0.1~0.3mmとするのが好ましく、さらには0.1~0.2mmとするのがより好ましい。
【0015】
最後に水で濡らした金床の上で熱した鋼の薄片を叩くことで、表面についていた焼けた黒い肌を除去する。
【0016】
つぎに、第二の工程において、第一の工程で打ち延ばした鋼を打ち砕く(S2)。この工程は、小割りと呼ばれる。これにより、短冊状の鋼の薄片を得る。
【0017】
そして、第三の工程において、第二の工程で打ち砕いた鋼の中から良質な鋼を選別し(S3)、第四の工程において、第三の工程で選別した鋼を積み重ねる(S4)。ここで、鋼は、同質の鋼で作っておいた台の上に積み重ねる。なお、この台には、持ち手棒が付いている。
【0018】
つづいて、第五の工程において、第四の工程で積み重ねた鋼を加熱して一体にする(S5)。この工程は、積み沸かしと呼ばれる。時間をかけて1300℃くらいまで熱することで、鋼が完全に一体になる。
【0019】
さらに、第六の工程において、第四の工程で一体になった鋼を加熱して打ち延ばした後に折り返して2枚に重ねる(S6)。この工程は、折り返し鍛錬と呼ばれる。
【0020】
この工程について、図2を参照しながら説明する。この工程は、折り返して2枚に重ねた鋼を密着させるため、1000℃以上に加熱しながら行われる。はじめに、鋼を打ち延ばし(S61)、横方向にたがねを入れて折り返し(S62)、2枚に重ねる(S63)。つぎに、この工程を繰り返す場合は、2枚に重ねた鋼を再び1枚に打ち延ばし(S64)、前の工程とは異なる縦方向にたがねを入れて折り返し(S65)、2枚に重ねる(S66)。以降、この工程を繰り返す場合は、2枚に重ねた鋼をさらに再び1枚に打ち延ばし(S61)、以降、同じ工程を繰り返す。
【0021】
従来の方法では、この打ち延ばした後に折り返して2枚に重ねる工程を15回程度行っていた。しかし、1000℃以上での長時間の加熱と打ち延ばしにより、鋼の酸化量が多くなり、これにより折り返し鍛錬の前後で、貴重な原料の8、9割が失われていた。そこで、本発明の方法においては、この打ち延ばした後に折り返して2枚に重ねる工程を3回または4回繰り返すのみとし、鋼の酸化を防ぐ。なお、この工程の回数が2回の場合は、得られる鋼の肌が粗すぎるため好ましくなく、一方で、この工程の回数が5回以上の場合は、鋼の酸化による損失が多くなるため好ましくない。
【0022】
これ以降の工程は、従来と同様に進められる。上記の方法により心鉄と皮鉄をそれぞれ製造し、心鉄を皮鉄で包む造り込み、刀の長さまで打ち延ばす素延べ、刀を打ち出す火造り、そして、土置き、焼き入れ、鍛冶研ぎ、銘切り、研磨などの工程を経て、日本刀が完成する。
【0023】
以上のように、本発明の日本刀の製造方法は、鋼を加熱して打ち延ばす第一の工程S1と、打ち延ばした鋼を打ち砕く第二の工程S2と、打ち砕いた鋼の中から良質な鋼を選別する第三の工程S3と、選別した鋼を積み重ねる第四の工程S4と、積み重ねた鋼を加熱して一体にする第五の工程S5と、一体になった鋼を加熱して打ち延ばした後に折り返して2枚に重ねる第六の工程S6を備え、前記第一の工程S1において鋼を800℃以下の温度に加熱して0.3mm以下の薄さに打ち延ばし、前記第六の工程S6を3回または4回繰り返す。したがって、本発明の日本刀の製造方法によれば、第一の工程S1において、鋼の加熱温度を従来の温度よりも低い800℃以下とすることで、鋼の酸化を防ぐことができる。また、第一の工程S1において、鋼を従来の方法よりも薄い0.3mm以下の薄さに打ち延ばすことで、不純物を効果的に除去することができる。さらに、第六の工程S6の回数を従来の回数よりも少ない3回または4回とすることにより、酸化する鋼の量を抑えることができる。
【0024】
主な不純物である酸化ケイ素は、常温では、ほとんど粘りが無く脆い。一方、鋼は加熱しても充分な粘りがある。この鋼と酸化ケイ素の展延性の大きな違いを利用して、鋼中に介在する酸化ケイ素を除こうとするものである。具体的には、鋼の塊から、ウズラの卵又は鶏卵の半分以下の小塊を切り出し、この小塊を加熱して打ち延ばし、0.3mm以下の薄さにする過程で、酸化ケイ素を脱落除去するものである。この時、鋼の加熱による酸化を最少にする為、加熱温度を800℃以下とする。この温度であれば、鋼中の酸化ケイ素の粘りはほとんど無いままである。
【0025】
打ち延ばしは、鋼の温度が下がる程、加工効率が下がるので、0.3mm以下迄薄くする為には、数回の加熱と打ち延ばしを繰り返す。この方法によって、元の目方の少なくとも半分は残るものとする。
【符号の説明】
【0026】
S1 第一の工程
S2 第二の工程
S3 第三の工程
S4 第四の工程
S5 第五の工程
S6 第六の工程
図1
図2