(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006896
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】制御システム、作業車両、制御方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
F16H 61/08 20060101AFI20250109BHJP
F16H 61/66 20060101ALI20250109BHJP
F16H 61/686 20060101ALI20250109BHJP
F16H 59/42 20060101ALI20250109BHJP
F16H 59/46 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F16H61/08
F16H61/66
F16H61/686
F16H59/42
F16H59/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】32
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107937
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 亮司
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100202142
【弁理士】
【氏名又は名称】北 倫子
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】山脇 孝明
(72)【発明者】
【氏名】上野 瑞生
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA02
3J552MA10
3J552NA07
3J552NB01
3J552PA02
3J552PA20
3J552RA13
3J552SA07
3J552SA15
3J552TA10
3J552VA32W
3J552VA42W
3J552VA76W
3J552VC01W
(57)【要約】
【課題】変速段の切り替えに掛かる時間を低減させる。
【解決手段】制御システムは、作業車両の動力伝達装置の動作を制御する。制御システムは、遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と内燃機関の回転速度との比率と、遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係を示すデータを記憶する記憶装置と、変速段の切り替えを行うように油圧クラッチ機構を制御する制御装置とを備える。制御装置は、上記比率が変化して第1切替点に対応する第1の値に達したとき、または上記比率が第1の値に達してから変速段を切り替える場合、上記比率が第1の値に達する前に、変速段の切り替えを行うためのオイルの充填を開始するよう油圧クラッチ機構を制御する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両の動力伝達装置の動作を制御する制御システムであって、
前記動力伝達装置は、
内燃機関が発生させた回転が伝達されて斜板の角度に応じたオイルを吐出する油圧ポンプ、および前記油圧ポンプから前記オイルが供給されて回転を発生させる油圧モータを有する静油圧式無段変速装置と、
前記内燃機関が発生させた回転および前記静油圧式無段変速装置が発生させた回転が伝達され、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる遊星変速装置と、
前記遊星変速装置の変速段を切り替える油圧クラッチ機構と、
を備え、
前記制御システムは、
前記遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と前記内燃機関の回転速度との比率と、前記遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係を示すデータを記憶する記憶装置と、
前記比率および前記データに基づいて前記変速段の切り替えを行うように前記油圧クラッチ機構を制御する制御装置と、
を備え、
前記複数の切替点は第1切替点を含み、
前記制御装置は、
前記比率が変化して前記第1切替点に対応する第1の値に近づいていく場合、前記比率が前記第1の値に達するまでの第1時間を推定し、
推定した前記第1時間に基づいて、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記変速段の切り替えを行うためのオイルの充填を開始するよう前記油圧クラッチ機構を制御する、制御システム。
【請求項2】
前記制御装置は、単位時間当たりの前記比率の変化量に基づいて前記第1時間を推定する、請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記比率が前記第1の値に達したとき、または前記比率が前記第1の値に達しているときに現在の変速段から次の変速段に切り替える場合、前記制御装置は、前記変速段の切り替えを行うための前記オイルの充填を開始してから前記次の変速段のクラッチが締結されるまでの第2時間に基づいて、前記変速段の切り替えを行うための前記オイルの充填を開始する第1時点を決定する、請求項1または2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記次の変速段のクラッチが前回締結された後に解放されてからの経過時間に基づいて、前記第2時間の長さを変更する、請求項3に記載の制御システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記経過時間が第1所定時間より短い場合は、長い場合よりも、前記第2時間を短く設定する、請求項4に記載の制御システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記次の変速段のクラッチを締結するために充填するオイルの温度が第1温度の場合は、前記第1温度よりも低い第2温度の場合よりも、前記第1所定時間を短く設定する、請求項5に記載の制御システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記比率が前記第1の値に達するのと同時または達してから第2所定時間経過後に前記次の変速段のクラッチが締結されるように、前記オイルの充填を開始する前記第1時点を決定する、請求項3に記載の制御システム。
【請求項8】
前記第2所定時間は、1から20ミリ秒である、請求項7に記載の制御システム。
【請求項9】
前記制御装置は、前記比率が前記第1の値に達した後、切り替える前の変速段のクラッチを解放する制御を行う、請求項7に記載の制御システム。
【請求項10】
前記制御装置は、
前記比率が前記第1の値に達すると推定される第2時点よりも第3所定時間前の第3時点または前記第3時点よりも前に、前記変速段の切り替えを中止するか否か決定し、
中止すると決定した場合、前記変速段の切り替えを中止する、請求項1または2に記載の制御システム。
【請求項11】
前記制御装置は、前記第3時点を過ぎたときに前記変速段の切り替えを中止しないと決定している場合、前記変速段の切り替えを実行する、請求項10に記載の制御システム。
【請求項12】
前記制御装置は、前記第3時点を過ぎてから前記第2時点に達するまでの期間において、前記変速段の切り替えを中止する要因が発生したとしても、前記変速段の切り替えを実行する、請求項11に記載の制御システム。
【請求項13】
前記制御装置は、前記変速段の切り替えを実行した後、元の変速段に戻す切り替えを行うか否か決定する、請求項12に記載の制御システム。
【請求項14】
前記制御装置は、前記変速段の切り替えを行うために充填する前記オイルの温度に応じて前記第3所定時間を変更する、請求項10に記載の制御システム。
【請求項15】
前記制御装置は、前記変速段の切り替えを行うために充填する前記オイルの温度が第3温度の場合は、前記第3温度よりも低い第4温度の場合よりも、前記第3所定時間を長く設定する、請求項14に記載の制御システム。
【請求項16】
前記制御装置は、
前記比率が前記第1の値であるときの前記斜板の角度を予め決定し、
前記斜板の角度を変化させる制御を行うことで、前記油圧モータが発生させる回転の回転速度を変化させ、
前記比率が変化して前記第1の値に近づいていく場合、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記斜板の角度を変化させる制御を停止する、請求項1または2に記載の制御システム。
【請求項17】
前記制御装置は、単位時間当たりの前記比率の変化量に基づいて、前記斜板の角度を変化させる制御を停止する第4時点を変更する、請求項16に記載の制御システム。
【請求項18】
前記制御装置は、単位時間当たりの前記比率の変化量が第1変化量の場合は、前記第1変化量よりも小さい第2変化量の場合よりも、前記第4時点を早い時点に設定する、請求項17に記載の制御システム。
【請求項19】
前記制御装置は、前記油圧モータに供給される前記オイルの温度にさらに基づいて、前記第4時点を変更する、請求項17に記載の制御システム。
【請求項20】
前記制御装置は、前記油圧モータに供給される前記オイルの温度が第5温度の場合は、前記第5温度よりも低い第6温度の場合よりも、前記第4時点を早い時点に設定する、請求項19に記載の制御システム。
【請求項21】
請求項1または2に記載の制御システムと、前記内燃機関と、前記動力伝達装置とを備えた、作業車両。
【請求項22】
作業車両の動力伝達装置の動作を制御する制御方法であって、
前記動力伝達装置は、
内燃機関が発生させた回転が伝達されて斜板の角度に応じたオイルを吐出する油圧ポンプ、および前記油圧ポンプから前記オイルが供給されて回転を発生させる油圧モータを有する静油圧式無段変速装置と、
前記内燃機関が発生させた回転および前記静油圧式無段変速装置が発生させた回転が伝達され、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる遊星変速装置と、
前記遊星変速装置の変速段を切り替える油圧クラッチ機構と、
を備え、
前記制御方法は、
前記遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と前記内燃機関の回転速度との比率と、前記遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係に基づいて、前記変速段の切り替えを行うように前記油圧クラッチ機構を制御すること、
を含み、
前記複数の切替点は第1切替点を含み、
前記制御方法は、
前記比率が変化して前記第1切替点に対応する第1の値に近づいていく場合、前記比率が前記第1の値に達するまでの第1時間を推定すること、
推定した前記第1時間に基づいて、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記変速段の切り替えを行うためのオイルの充填を開始するよう前記油圧クラッチ機構を制御すること、
をさらに含む、制御方法。
【請求項23】
作業車両の動力伝達装置の動作の制御をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、
前記動力伝達装置は、
内燃機関が発生させた回転が伝達されて斜板の角度に応じたオイルを吐出する油圧ポンプ、および前記油圧ポンプから前記オイルが供給されて回転を発生させる油圧モータを有する静油圧式無段変速装置と、
前記内燃機関が発生させた回転および前記静油圧式無段変速装置が発生させた回転が伝達され、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる遊星変速装置と、
前記遊星変速装置の変速段を切り替える油圧クラッチ機構と、
を備え、
前記コンピュータプログラムは、
前記遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と前記内燃機関の回転速度との比率と、前記遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係に基づいて、前記変速段の切り替えを行うように前記油圧クラッチ機構を制御すること、
を前記コンピュータに実行させ、
前記複数の切替点は第1切替点を含み、
前記コンピュータプログラムは、
前記比率が変化して前記第1切替点に対応する第1の値に近づいていく場合、前記比率が前記第1の値に達するまでの第1時間を推定すること、
推定した前記第1時間に基づいて、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記変速段の切り替えを行うためのオイルの充填を開始するよう前記油圧クラッチ機構を制御すること、
をさらに前記コンピュータに実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項24】
作業車両の動力伝達装置の動作を制御する制御システムであって、
前記動力伝達装置は、
内燃機関が発生させた回転が伝達されて斜板の角度に応じたオイルを吐出する油圧ポンプ、および前記油圧ポンプから前記オイルが供給されて回転を発生させる油圧モータを有する静油圧式無段変速装置と、
前記内燃機関が発生させた回転および前記静油圧式無段変速装置が発生させた回転が伝達され、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる遊星変速装置と、
前記遊星変速装置の変速段を切り替える油圧クラッチ機構と、
を備え、
前記制御システムは、
前記遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と前記内燃機関の回転速度との比率と、前記遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係を示すデータを記憶する記憶装置と、
前記比率および前記データに基づいて前記変速段の切り替えを行うように前記油圧クラッチ機構を制御する制御装置と、
を備え、
前記複数の切替点は第1切替点を含み、
前記制御装置は、前記比率が変化して前記第1切替点に対応する第1の値に達したとき、または前記比率が前記第1の値に達してから前記変速段を切り替える場合、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記変速段の切り替えを行うためのオイルの充填を開始するよう前記油圧クラッチ機構を制御し、
前記制御装置は、現在の変速段から次の変速段へ切り替えるための前記オイルの充填を開始してから前記次の変速段のクラッチが締結されるまでの時間に基づいて、前記変速段の切り替えを行うための前記オイルの充填を開始する時点を決定する、制御システム。
【請求項25】
前記制御装置は、前記次の変速段のクラッチが前回締結された後に解放されてからの経過時間に基づいて、前記オイルの充填を開始してから前記次の変速段のクラッチが締結されるまでの前記時間の長さを変更する、請求項24に記載の制御システム。
【請求項26】
前記制御装置は、前記経過時間が第1所定時間より短い場合は、長い場合よりも、前記オイルの充填を開始してから前記次の変速段のクラッチが締結されるまでの前記時間を短く設定する、請求項25に記載の制御システム。
【請求項27】
前記制御装置は、前記次の変速段のクラッチを締結するために充填するオイルの温度が第1温度の場合は、前記第1温度よりも低い第2温度の場合よりも、前記第1所定時間を短く設定する、請求項26に記載の制御システム。
【請求項28】
前記制御装置は、前記比率が前記第1の値に達するのと同時または達してから第2所定時間経過後に前記次の変速段のクラッチが締結されるように、前記オイルの充填を開始する前記時点を決定する、請求項24または25に記載の制御システム。
【請求項29】
前記第2所定時間は、1から20ミリ秒である、請求項28に記載の制御システム。
【請求項30】
前記制御装置は、前記比率が前記第1の値に達した後、切り替える前の変速段のクラッチを解放する制御を行う、請求項28に記載の制御システム。
【請求項31】
作業車両の動力伝達装置の動作を制御する制御システムであって、
前記動力伝達装置は、
内燃機関が発生させた回転が伝達されて斜板の角度に応じたオイルを吐出する油圧ポンプ、および前記油圧ポンプから前記オイルが供給されて回転を発生させる油圧モータを有する静油圧式無段変速装置と、
前記内燃機関が発生させた回転および前記静油圧式無段変速装置が発生させた回転が伝達され、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる遊星変速装置と、
前記遊星変速装置の変速段を切り替える油圧クラッチ機構と、
を備え、
前記制御システムは、
前記遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と前記内燃機関の回転速度との比率と、前記遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係を示すデータを記憶する記憶装置と、
前記比率および前記データに基づいて前記変速段の切り替えを行うように前記油圧クラッチ機構を制御する制御装置と、
を備え、
前記複数の切替点は第1切替点を含み、
前記制御装置は、
前記第1切替点での前記斜板の角度を予め決定し、
前記斜板の角度を変化させる制御を行うことで、前記油圧モータが発生させる回転の回転速度を変化させ、
前記比率が変化して前記第1切替点に対応する第1の値に近づいていく場合、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記斜板の角度を変化させる制御を停止する、制御システム。
【請求項32】
請求項24、25、26、27、31のいずれかに記載の制御システムと、前記内燃機関と、前記動力伝達装置とを備えた、作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御システム、作業車両、制御方法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
農業用トラクタなどの作業車両として、内燃機関および静油圧式無段変速装置を備えた作業車両がある(例えば特許文献1参照)。内燃機関が発生させた回転および静油圧式無段変速装置が発生させた回転は、遊星変速装置で合成されて車輪へ伝達される。遊星変速装置の変速段の切り替えは、クラッチ機構を用いて行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作業車両の走行中に遊星変速装置の変速段の切り替えに時間が掛かると、乗員はシフトショックが大きいと感じる場合がある。
【0005】
変速段の切り替えに掛かる時間を低減させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある実施形態に係る制御システムは、作業車両の動力伝達装置の動作を制御する制御システムであって、前記動力伝達装置は、内燃機関が発生させた回転が伝達されて斜板の角度に応じたオイルを吐出する油圧ポンプ、および前記油圧ポンプから前記オイルが供給されて回転を発生させる油圧モータを有する静油圧式無段変速装置と、前記内燃機関が発生させた回転および前記静油圧式無段変速装置が発生させた回転が伝達され、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる遊星変速装置と、前記遊星変速装置の変速段を切り替える油圧クラッチ機構とを備え、前記制御システムは、前記遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と前記内燃機関の回転速度との比率と、前記遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係を示すデータを記憶する記憶装置と、前記比率および前記データに基づいて前記変速段の切り替えを行うように前記油圧クラッチ機構を制御する制御装置とを備え、前記複数の切替点は第1切替点を含み、前記制御装置は、前記比率が変化して前記第1切替点に対応する第1の値に近づいていく場合、前記比率が前記第1の値に達するまでの第1時間を推定し、推定した前記第1時間に基づいて、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記変速段の切り替えを行うためのオイルの充填を開始するよう前記油圧クラッチ機構を制御する。
【0007】
本開示のある実施形態に係る制御方法は、作業車両の動力伝達装置の動作を制御する制御方法であって、前記動力伝達装置は、内燃機関が発生させた回転が伝達されて斜板の角度に応じたオイルを吐出する油圧ポンプ、および前記油圧ポンプから前記オイルが供給されて回転を発生させる油圧モータを有する静油圧式無段変速装置と、前記内燃機関が発生させた回転および前記静油圧式無段変速装置が発生させた回転が伝達され、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる遊星変速装置と、前記遊星変速装置の変速段を切り替える油圧クラッチ機構とを備え、前記制御方法は、前記遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と前記内燃機関の回転速度との比率と、前記遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係に基づいて、前記変速段の切り替えを行うように前記油圧クラッチ機構を制御することを含み、前記複数の切替点は第1切替点を含み、前記制御方法は、前記比率が変化して前記第1切替点に対応する第1の値に近づいていく場合、前記比率が前記第1の値に達するまでの第1時間を推定すること、推定した前記第1時間に基づいて、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記変速段の切り替えを行うためのオイルの充填を開始するよう前記油圧クラッチ機構を制御することをさらに含む。
【0008】
本開示のある実施形態に係るコンピュータプログラムは、作業車両の動力伝達装置の動作の制御をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、前記動力伝達装置は、内燃機関が発生させた回転が伝達されて斜板の角度に応じたオイルを吐出する油圧ポンプ、および前記油圧ポンプから前記オイルが供給されて回転を発生させる油圧モータを有する静油圧式無段変速装置と、前記内燃機関が発生させた回転および前記静油圧式無段変速装置が発生させた回転が伝達され、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる遊星変速装置と、前記遊星変速装置の変速段を切り替える油圧クラッチ機構とを備え、前記コンピュータプログラムは、前記遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と前記内燃機関の回転速度との比率と、前記遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係に基づいて、前記変速段の切り替えを行うように前記油圧クラッチ機構を制御することを前記コンピュータに実行させ、前記複数の切替点は第1切替点を含み、前記コンピュータプログラムは、前記比率が変化して前記第1切替点に対応する第1の値に近づいていく場合、前記比率が前記第1の値に達するまでの第1時間を推定すること、推定した前記第1時間に基づいて、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記変速段の切り替えを行うためのオイルの充填を開始するよう前記油圧クラッチ機構を制御することをさらに前記コンピュータに実行させる。
【0009】
本開示のある実施形態に係る制御システムは、作業車両の動力伝達装置の動作を制御する制御システムであって、前記動力伝達装置は、 内燃機関が発生させた回転が伝達されて斜板の角度に応じたオイルを吐出する油圧ポンプ、および前記油圧ポンプから前記オイルが供給されて回転を発生させる油圧モータを有する静油圧式無段変速装置と、前記内燃機関が発生させた回転および前記静油圧式無段変速装置が発生させた回転が伝達され、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる遊星変速装置と、前記遊星変速装置の変速段を切り替える油圧クラッチ機構とを備え、前記制御システムは、前記遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と前記内燃機関の回転速度との比率と、前記遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係を示すデータを記憶する記憶装置と、前記比率および前記データに基づいて前記変速段の切り替えを行うように前記油圧クラッチ機構を制御する制御装置とを備え、前記複数の切替点は第1切替点を含み、前記制御装置は、前記比率が変化して前記第1切替点に対応する第1の値に達したとき、または前記比率が前記第1の値に達してから前記変速段を切り替える場合、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記変速段の切り替えを行うためのオイルの充填を開始するよう前記油圧クラッチ機構を制御し、前記制御装置は、現在の変速段から次の変速段へ切り替えるための前記オイルの充填を開始してから前記次の変速段のクラッチが締結されるまでの時間に基づいて、前記変速段の切り替えを行うための前記オイルの充填を開始する時点を決定する。
【0010】
本開示のある実施形態に係る制御システムは、作業車両の動力伝達装置の動作を制御する制御システムであって、前記動力伝達装置は、内燃機関が発生させた回転が伝達されて斜板の角度に応じたオイルを吐出する油圧ポンプ、および前記油圧ポンプから前記オイルが供給されて回転を発生させる油圧モータを有する静油圧式無段変速装置と、前記内燃機関が発生させた回転および前記静油圧式無段変速装置が発生させた回転が伝達され、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる遊星変速装置と、前記遊星変速装置の変速段を切り替える油圧クラッチ機構とを備え、前記制御システムは、前記遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と前記内燃機関の回転速度との比率と、前記遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係を示すデータを記憶する記憶装置と、前記比率および前記データに基づいて前記変速段の切り替えを行うように前記油圧クラッチ機構を制御する制御装置とを備え、前記複数の切替点は第1切替点を含み、前記制御装置は、前記第1切替点での前記斜板の角度を予め決定し、前記斜板の角度を変化させる制御を行うことで、前記油圧モータが発生させる回転の回転速度を変化させ、前記比率が変化して前記第1切替点に対応する第1の値に近づいていく場合、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記斜板の角度を変化させる制御を停止する。
【発明の効果】
【0011】
変速段の切り替えを行う場合、切り替えようとする次の変速段のクラッチを締結するためのオイルの充填には時間が掛かる。回転する所定部品の回転速度と内燃機関の回転速度との比率が、切替点に対応する値に達してからオイルの充填を開始すると、切り替えようとする次の変速段のクラッチを締結するのに時間が掛かり、上記比率の変更を停止させる時間が長くなるため、乗員はシフトショックが大きいと感じる場合がある。
【0012】
本開示のある実施形態によれば、上記比率が切替点に対応する値に達する前にオイルの充填を開始する。これにより、上記比率が切替点に対応する値に達したときに短時間で変速段の切り替えを完了させることができ、上記比率の変更を停止させる時間が短くなることにより、乗員が感じるシフトショックを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、作業車両の例を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2は、作業車両が備える動力伝達装置を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、遊星変速装置を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、静油圧式無段変速装置を模式的に示す図である。
【
図5A】
図5Aは、油圧クラッチ機構が備えるクラッチの例を模式的に示す図である。
【
図5B】
図5Bは、油圧クラッチ機構が備えるクラッチの例を模式的に示す図である。
【
図5C】
図5Cは、油圧クラッチ機構が備えるクラッチの例を模式的に示す図である。
【
図5D】
図5Dは、油圧クラッチ機構が備えるクラッチの例を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、作業車両が備える制御システムの例を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、作業車両の変速動作の例を示す図である。
【
図8】
図8は、ユーザによる変速ペダルの操作に応じて変化する比率の例を示す図である。
【
図9】
図9は、遊星変速装置の変速段を切り替える動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本開示の実施形態に係る制御システム、および制御システムを備えた作業車両を説明する。実施形態の説明において、同様の構成要素には同様の参照符号を付し、重複する場合にはその説明を省略する。図面に付した符号F、Re、U、Dは、それぞれ前、後、上、下を表す。以下の実施形態の説明では、作業車両の一例としてトラクタを例示する。本開示の技術は、トラクタに限らず、他の種類の作業車両にも適用することができる。以下の実施形態は例示であり、本開示の技術は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
(作業車両)
図1は、作業車両10の例を模式的に示す側面図である。
図1に示す作業車両10はトラクタであり、後部および前部の一方または両方に作業機(インプルメント)を装着することができる。作業車両10は、作業機の種類に応じた農作業を行いながら圃場内を走行することができる。作業車両10は、作業機を装着しない状態で圃場内または圃場外を走行してもよい。
【0016】
作業車両10は、車両本体101、内燃機関(エンジン)102、ミッションケース103を備える。車両本体101には、一対の前輪104、一対の後輪105、キャビン106が設けられている。内燃機関102は、例えばディーゼルエンジンであり得る。ミッションケース103には、動力伝達装置15(
図2)が収容されている。キャビン106の内部に運転席108、操舵装置107、および操作のためのスイッチ群が設けられている。作業車両10が圃場内で作業走行を行うとき、前輪104および後輪105の一方または両方は、タイヤ付き車輪ではなく、無限軌道(track)を装着した複数の車輪(クローラ)であってもよい。
【0017】
操舵装置107は、ステアリングホイールと、ステアリングホイールに接続されたステアリングシャフトと、ステアリングホイールによる操舵を補助するパワーステアリング装置とを含む。前輪104は操舵輪であり、その切れ角(「操舵角」とも称する。)を変化させることにより、作業車両10の走行方向を変化させることができる。
【0018】
車両本体101の後部には、連結装置109が設けられている。連結装置109によって作業機(インプルメント)を作業車両10に着脱することができる。連結装置109は例えばPTO軸を備え、内燃機関102の動力を作業機に伝達することができる。作業車両10は、作業機を引きながら、作業機に所定の作業を実行させることができる。連結装置109は、車両本体101の前部に設けられていてもよい。その場合、作業車両10の前部に作業機を接続することができる。
【0019】
(動力伝達装置)
図2は、作業車両10が備える動力伝達装置15を模式的に示す図である。
【0020】
動力伝達装置15の少なくとも一部は、ミッションケース103(
図1)に収容されている。動力伝達装置15は、内燃機関102の出力を前輪104および後輪105へ伝達する。
【0021】
動力伝達装置15は、入力軸20、主変速装置21、前後進切替装置23、ギヤ機構24、前輪伝動機構25、後輪差動機構16、前輪差動機構17を備える。入力軸20には、内燃機関102の出力軸102aの回転が伝達される。内燃機関102の出力軸102aの回転は、例えばダンパーディスクを介して入力軸20に伝達される。入力軸20の回転は、主変速装置21に伝達される。
【0022】
主変速装置21は、静油圧式無段変速装置(HST:Hydro Static Transmission)28、遊星変速ユニット30を備える。遊星変速ユニット30は、遊星変速装置31、油圧クラッチ機構29を備える。HST28には、入力軸20の回転が伝達される。遊星変速装置31には、入力軸20の回転およびHST28が発生させた回転が伝達される。遊星変速装置31は、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる。油圧クラッチ機構29は、遊星変速装置31の変速段を切り替える。
【0023】
HST28は、油圧ポンプP、油圧モータM、ポンプ軸28a、出力軸28b、斜板49を備える。入力軸20の後端部には回転軸26が接続されている。回転軸26の後端部には第1ギヤ機構27Aが接続されている。入力軸20の回転は、回転軸26および第1ギヤ機構27Aを介して、ポンプ軸28aに伝達される。ポンプ軸28aは、油圧ポンプPに接続されており、入力軸20の回転は油圧ポンプPに伝達される。油圧ポンプPは、可変容量型の油圧ポンプである。入力軸20の回転が伝達された油圧ポンプPは、斜板49の角度に応じたオイルを吐出する。油圧ポンプPが吐出したオイルは油圧モータMに供給され、油圧モータMは回転を発生させる。斜板49の角度を変化させることで、油圧モータMが発生させる回転の速度を無段階で変化させることができる。また、斜板49を傾ける方向を変更することで、油圧モータMが発生させる回転の方向を、正回転方向と逆回転方向との間で切り替えることができる。
【0024】
油圧モータMが発生させた回転は出力軸28bから出力される。出力軸28bと遊星変速装置31との間には第2ギヤ機構27Bが設けられている。出力軸28bの回転は、第2ギヤ機構27Bを介して遊星変速装置31に伝達される。遊星変速装置31には、入力軸20の回転およびHST28の出力軸28bの回転が伝達される。
【0025】
図3は、遊星変速装置31を模式的に示す図である。遊星変速装置31は、第1遊星変速装置32、第2遊星変速装置33を備える。遊星変速装置31は複合遊星歯車機構を有する。
【0026】
第1遊星変速装置32は、第1太陽ギヤ32a、第1遊星ギヤ32b、第1リングギヤ32c、連動ギヤ32dを備える。第2遊星変速装置33は、第2太陽ギヤ33a、第2遊星ギヤ33b、第2リングギヤ33c、第2キャリア33dを備える。
【0027】
第1太陽ギヤ32aは、第1遊星ギヤ32bと噛み合う。第1リングギヤ32cには、第1遊星ギヤ32bと噛み合う内歯が設けられている。第2遊星変速装置33は、第1遊星変速装置32よりも後方に配置されている。第2太陽ギヤ33aは、第2遊星ギヤ33bと噛み合う。第2リングギヤ33cには、第2遊星ギヤ33bと噛み合う内歯が設けられている。第2キャリア33dは、第2遊星ギヤ33bを支持する。連動ギヤ32dは、第1遊星ギヤ32bと噛み合う。連動ギヤ32dと第2遊星ギヤ33bとは連結部材33eによって連結され、互いに連動する。
【0028】
図2および
図3に示すように、HST28の出力軸28bの回転は、第2ギヤ機構27Bを介して第1太陽ギヤ32aに伝達される。入力軸20と第1リングギヤ32cとの間には第3ギヤ機構27Cが設けられている。入力軸20の回転は、第3ギヤ機構27Cを介して第1リングギヤ32cに伝達される。
【0029】
遊星変速装置31は、回転を出力する出力装置37(
図2)を備える。出力装置37は、第1入力軸34a、第2入力軸34b、第3入力軸34c、出力軸35を備える。第1入力軸34aは第2リングギヤ33cに接続され、第2入力軸34bは第2キャリア33dに接続され、第3入力軸34cは第2太陽ギヤ33aに接続されている。
【0030】
出力装置37は、第1レンジギヤ機構36a、第2レンジギヤ機構36b、第3レンジギヤ機構36c、第4レンジギヤ機構36dをさらに備える。油圧クラッチ機構29は、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3、第4クラッチCL4を備える。
【0031】
第1レンジギヤ機構36aは、第1入力軸34aに接続されており、第1入力軸34aの回転が伝達される。第1レンジギヤ機構36aと出力軸35との間に第1クラッチCL1が設けられている。第1クラッチCL1が締結されているとき、第1レンジギヤ機構36aの回転は、第1クラッチCL1を介して出力軸35に伝達される。第1クラッチCL1が解放されているときは、第1レンジギヤ機構36aの回転は出力軸35に伝達されない。
【0032】
第2レンジギヤ機構36bは、第3入力軸34cに接続されており、第3入力軸34cの回転が伝達される。第2レンジギヤ機構36bと出力軸35との間に第2クラッチCL2が設けられている。第2クラッチCL2が締結されているとき、第2レンジギヤ機構36bの回転は、第2クラッチCL2を介して出力軸35に伝達される。第2クラッチCL2が解放されているときは、第2レンジギヤ機構36bの回転は出力軸35に伝達されない。
【0033】
第3レンジギヤ機構36cは、第2入力軸34bに接続されており、第2入力軸34bの回転が伝達される。第3レンジギヤ機構36cと出力軸35との間に第3クラッチCL3が設けられている。第3クラッチCL3が締結されているとき、第3レンジギヤ機構36cの回転は、第3クラッチCL3を介して出力軸35に伝達される。第3クラッチCL3が解放されているときは、第3レンジギヤ機構36cの回転は出力軸35に伝達されない。
【0034】
第4レンジギヤ機構36dは、第3入力軸34cに接続されており、第3入力軸34cの回転が伝達される。第4レンジギヤ機構36dと出力軸35との間に第4クラッチCL4が設けられている。第4クラッチCL4が締結されているとき、第4レンジギヤ機構36dの回転は、第4クラッチCL4を介して出力軸35に伝達される。第4クラッチCL4が解放されているときは、第4レンジギヤ機構36dの回転は出力軸35に伝達されない。
【0035】
上述したように、HST28の出力軸28bの回転は、第1太陽ギヤ32aに伝達される。内燃機関102の回転は、入力軸20を介して第1リングギヤ32cに伝達される。遊星変速装置31は、これら伝達された回転を合成し、合成した回転を出力軸35から出力する。
【0036】
第1クラッチCL1が締結されており、第2-第4クラッチCL2-CL4が解放されているとき、第2リングギヤ33cの回転は、第1入力軸34a、第1レンジギヤ機構36a、第1クラッチCL1を介して出力軸35に伝達される。第1クラッチCL1が締結されており、第2-第4クラッチCL2-CL4が解放されているときの遊星変速装置31の変速段は、“一速(first gear)”である。出力軸35からは、一速に対応する回転が出力される。
【0037】
第2クラッチCL2が締結されており、第1、第3、第4クラッチCL1、CL3、CL4が解放されているとき、第2太陽ギヤ33aの回転は、第3入力軸34c、第2レンジギヤ機構36b、第2クラッチCL2を介して出力軸35に伝達される。第2クラッチCL2が締結されており、第1、第3、第4クラッチCL1、CL3、CL4が解放されているときの変速段は、“二速(second gear)”である。出力軸35からは、二速に対応する回転が出力される。
【0038】
第3クラッチCL3が締結されており、第1、第2、第4クラッチCL1、CL2、CL4が解放されているとき、第2キャリア33dの回転は、第2入力軸34b、第3レンジギヤ機構36c、第3クラッチCL3を介して出力軸35に伝達される。第3クラッチCL3が締結されており、第1、第2、第4クラッチCL1、CL2、CL4が解放されているときの変速段は、“三速(third gear)”である。出力軸35からは、三速に対応する回転が出力される。
【0039】
第4クラッチCL4が締結されており、第1-第3クラッチCL1-CL3が解放されているとき、第2太陽ギヤ33aの回転は、第3入力軸34c、第4レンジギヤ機構36d、第4クラッチCL4を介して出力軸35に伝達される。第4クラッチCL4が締結されており、第1-第3クラッチCL1-CL3が解放されているときの変速段は、“四速(fourth gear)”である。出力軸35からは、四速に対応する回転が出力される。
【0040】
出力軸35の回転は、前後進切替装置23に伝達される。前後進切替装置23は、入力軸23a、出力軸23b、前進ギヤ連動機構23c、後進ギヤ連動機構23d、前進クラッチCLF、後進クラッチCLRを備える。
【0041】
出力軸35の回転は、入力軸23aに伝達される。入力軸23aには前進クラッチCLF、後進クラッチCLRが設けられている。
【0042】
前進クラッチCLFが締結されているとき、入力軸23aの回転は、前進クラッチCLF、前進ギヤ連動機構23cを介して出力軸23bに伝達される。前進ギヤ連動機構23cから出力軸23bには、作業車両10を前進させる方向の回転が伝達される。
【0043】
後進クラッチCLRが締結されているとき、入力軸23aの回転は、後進クラッチCLR、後進ギヤ連動機構23dを介して出力軸23bに伝達される。後進ギヤ連動機構23dから出力軸23bには、作業車両10を後進させる方向の回転が伝達される。
【0044】
出力軸23bの回転は、ギヤ機構24を介して、後輪差動機構16の入力軸16aおよび前輪伝動機構25の入力軸25aに伝達される。
【0045】
後輪差動機構16の入力軸16aの回転は、出力軸16bを介して左右の後輪105に伝達される。
図2では、左右の後輪105のうちの左の後輪105のみを図示している。出力軸16bにはブレーキ38Aが設けられている、出力軸16bの回転は、遊星減速機構38Bを介して後輪105に伝達される。右の後輪105への動力伝達構造も左の後輪105と同じ動力伝達構造を有する。
【0046】
前輪伝動機構25は、入力軸25a、出力軸25b、等速ギヤ機構40、増速ギヤ機構41、等速クラッチCLT、増速クラッチCLHを備える。入力軸25aは、ギヤ機構24の出力軸24aに接続されている。前後進切替装置23の出力軸23bの回転は、入力軸25aに伝達される。ギヤ機構24の出力軸24aには、駐車ブレーキ39が設けられている。前輪伝動機構25の入力軸25aには、等速クラッチCLT、増速クラッチCLHが設けられている。
【0047】
等速クラッチCLTが締結されているとき、入力軸25aの回転は、等速クラッチCLTおよび等速ギヤ機構40を介して、出力軸25bに伝達される。増速クラッチCLHが締結されているとき、入力軸25aの回転は、増速クラッチCLHおよび増速ギヤ機構41を介して、出力軸25bに伝達される。出力軸25bの回転は、回転軸42、前輪差動機構17の入力軸17aを介して、前輪104に伝達される。
【0048】
等速クラッチCLTが締結されているとき、前輪104の周速度が後輪105の周速度と同じになる回転が前輪104に伝達される。増速クラッチCLHが締結されているとき、前輪104の周速度が後輪105の周速度よりも大きくなる回転が前輪104に伝達される。増速クラッチCLHが締結されているときは、等速クラッチCLTが締結されているときよりも、作業車両10の旋回半径を小さくすることができる。
【0049】
動力伝達装置15(
図2)には、各種部品の回転を検出する複数の回転センサ70が設けられている。これらの回転センサ70の出力信号を用いて各種部品の回転速度(回転数)を演算することができる。複数の回転センサ70には、例えば、HST28の出力軸28bの回転を検出する回転センサ、遊星変速装置31の出力軸35の回転を検出する回転センサ、前後進切替装置23の出力軸23bの回転を検出する回転センサ、後輪差動機構16の入力軸16aの回転を検出する回転センサなどが含まれる。内燃機関102には、内燃機関102の回転を検出する回転センサ71が設けられている。回転センサ71は、例えば出力軸102aの回転を検出する。回転センサ71の出力信号を用いて内燃機関102の回転速度を演算することができる。
【0050】
図4は、HST28を模式的に示す図である。油圧ポンプPの斜板49には油圧シリンダ90が接続されている。油圧シリンダ90には操作油路91を介して変速操作弁92が接続されている。変速操作弁92には、給油路93を介して油圧ポンプ94が接続されている。油圧ポンプPと油圧モータMとを接続する閉回路95には、緊急用リリーフ弁96、圧力センサ97が設けられている。圧力センサ97は、閉回路95の油圧を検出する。閉回路95には温度センサ74が設けられている。温度センサ74を用いて油圧モータMに供給されるオイルの温度を検出することができる。
【0051】
油圧ポンプ94から変速操作弁92を介して油圧シリンダ90に作動油が供給され、油圧シリンダ90は動作する。油圧シリンダ90を動作させることで斜板49の傾斜角を変化させることができる。変速操作弁92のポート切り替えにより、油圧シリンダ90の二つの油室のうちの作動油が供給される油室を切り替えることができる。変速操作弁92は例えば電磁操作弁であり、変速操作弁92のソレノイド92aを動作させることでポート切り替えを行うことができる。油圧シリンダ90への作動油の供給を停止することで、油圧シリンダ90の位置を保持することができる。
【0052】
HST28は、変速操作弁92のポート切り替えにより、斜板49を傾ける方向を変更することができ、油圧モータMが発生させる回転の方向を、正回転方向と逆回転方向との間で切り替えることができる。HST28は、油圧シリンダ90を動作させて斜板49の傾斜角を変化させることで、油圧モータMが発生させる回転の速度を無段階で変速することができる。
【0053】
油圧シリンダ90には、例えば油圧シリンダ90のシリンダの位置を検出する位置センサ72が設けられている。位置センサ72の出力信号を用いて、斜板49の傾斜方向および傾斜角を演算することができる。斜板49の傾斜方向および傾斜角を検出するためのセンサが斜板49に設けられていてもよい。
【0054】
図5Aから
図5Dは、油圧クラッチ機構29(
図2)が備えるクラッチの例を模式的に示す図である。第1-第4クラッチCL1-CL4のそれぞれは、例えば
図5Aから
図5Dに示すクラッチCLの構造を有し得る。
【0055】
クラッチCLには、油圧室135が設けられている。油圧室135には油路145を介して油圧ポンプ141およびオイルタンク142が接続されている。油圧室135と油圧ポンプ141との間には開閉弁143が設けられている。油圧室135とオイルタンク142との間には開閉弁144が設けられている。開閉弁143および144は、例えば電磁弁である。油圧ポンプ141には温度センサ73が設けられている。温度センサ73は、油圧室135に供給されるオイルの温度を検出する。温度センサ73の配置位置は任意である。
【0056】
図5Aは、クラッチCLの解放状態を示している。クラッチCLが解放状態にあるときに、開閉弁143を開状態且つ開閉弁144を閉状態にすると、油圧ポンプ141から油圧室135にオイルが供給され、
図5Bに示すように、ピストン133はプレート131を押しながら矢印137の方向に移動する。ピストン133がプレート131を押しながら矢印137の方向に移動することで、
図5Cに示すように、プレート131がプレート132と接触し、クラッチCLは締結状態になる。プレート131とプレート132との接触の検出は、例えば圧力センサ136を用いて行うことができる。
【0057】
クラッチCLが締結状態にあるときに、開閉弁143を閉状態且つ開閉弁144を開状態にすると、
図5Dに示すように、リターンスプリング134によってピストン133は矢印138の方向に移動し、油圧室135内のオイルは、オイルタンク142に排出される。ピストン133が矢印138の方向に移動することで、プレート131はプレート132から離れ、クラッチCLは解放状態になる。ピストン133はリターンスプリング134に押されて、
図5Aに示す位置に戻る。
【0058】
(制御システム)
作業車両10は、作業車両10の動作を制御する制御システムを備える。
図6は、作業車両10が備える制御システム200の例を示すブロック図である。
図6には、作業車両10の変速動作との関連性が相対的に高い構成要素が示されており、それ以外の構成要素の図示は省略されている。
【0059】
制御システム200は、制御装置210、記憶装置220を備える。制御装置210は、作業車両10に設けられる電子制御ユニット(ECU)などの、プロセッサを含むコンピュータによって実現され得る。制御装置210は、1台のECUによって実現されてもよいし、複数台のECUによって実現されてもよい。例えば、制御装置210が複数台のECUによって実現される場合は、それら複数台のECUは、作業車両10内に分散して配置されていてもよい。制御装置210の一部は、作業車両10と通信を行うユーザ端末装置および/またはサーバコンピュータ等によって実現されてもよい。
【0060】
制御装置210は、操作装置120に対するユーザの操作およびセンサ70-74の出力信号に基づいて、動力伝達装置15の動作を制御する。操作装置120は、変速ペダル121、前後進レバー122などのユーザが操作する装置を備える。制御装置210は、ユーザによる変速ペダル121の操作量に応じて作業車両10の走行速度を制御し、ユーザによる前後進レバー122の操作に応じて作業車両10の前進と後進とを切り替える。
【0061】
記憶装置220は、例えば半導体記憶媒体、磁気記憶媒体、または光学記憶媒体などの任意の記憶媒体を含む記憶装置である。記憶装置220は、複数の記憶装置の集合体であってもよい。記憶装置220は、制御装置210とは独立した装置であってもよいし、制御装置210に含まれていてもよい。例えば、ECUが制御装置210として機能する場合、ECUが備えるメモリが記憶装置220として機能してもよい。記憶装置220は、制御装置210によって実行されるコンピュータプログラム、および制御装置210によって生成される各種の情報を記憶する。
【0062】
図7は、作業車両10の変速動作の例を示す図である。
図7の縦軸は、比率αを示している。比率αは、遊星変速装置31の出力軸35の回転を車輪104、105に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と、内燃機関102の回転速度との比率である。所定部品は、出力軸35と車輪104、105との間にある任意の部品であり、例えば、
図2に示す入力軸16a、出力軸23bであり得るが、それらに限定されない。所定部品は、出力軸35、車輪104、105のいずれかであってもよい。ここでは、一例として、所定部品は入力軸16aであるとする。内燃機関102の回転速度が一定の場合、比率αが大きくなると作業車両10の走行速度は大きくなる。
【0063】
図7の横軸は、HST28の状態を示している。“N”は、HST28の中立状態を表しており、斜板49は中立位置にある。“+MAX”は、最高速度の正回転方向の回転を油圧モータMが発生させるHST28の状態を表しており、斜板49は正回転に対応する側に大きく傾いている。“-MAX”は、最高速度の逆回転方向の回転を油圧モータMが発生させるHST28の状態を表しており、斜板49は逆回転に対応する側に大きく傾いている。“+K”は、正回転側での遊星変速装置31の変速段を切り替えるポイントにおけるHST28の状態を表している。“-K”は、逆回転側での遊星変速装置31の変速段を切り替えるポイントにおけるHST28の状態を表している。切替点S1、S2、S3は、遊星変速装置31の変速段を切り替えるポイントである。
【0064】
記憶装置220は、比率αと切替点S1、S2、S3との関係を示すデータを予め記憶している。そのデータは、例えば、切替点S1に対応する比率α1、切替点S2に対応する比率α2、切替点S3に対応する比率α3に関する情報を含む。制御装置210は、記憶装置220からそのデータを読み出す。制御装置210は、読みだしたデータおよび検出した比率αの値に基づいて、遊星変速装置31の変速段を切り替える制御を行う。
【0065】
制御装置210は、例えば、HST28の変速操作弁92(
図4)の動作を制御することで、斜板49の傾斜角を変更することができる。斜板49が傾く速さは、例えば、流量調整弁を用いて制御することができる。制御装置210は、例えば、クラッチCL1-CL4それぞれの開閉弁143および144(
図5A-
図5D)の動作を制御することで、クラッチCL1-CL4それぞれの締結状態と解放状態とを切り替えることができる。
【0066】
作業車両10の発進時点では、制御装置210は、“-K”に対応する傾斜角になるように斜板49を制御するともに、第1クラッチCL1が締結するように油圧クラッチ機構29を制御している。
【0067】
ユーザによる変速ペダル121の操作に応じて作業車両10を加速させる場合、制御装置210は、“-MAX”側から“+MAX”側に向かうように斜板49の傾斜角を変化させる。作業車両10を加速させる過程で、制御装置210は、内燃機関102の回転速度が一定となるように内燃機関102を制御する。斜板49の傾斜角の変化に伴い、油圧モータMが発生させる逆回転の回転速度は徐々に小さくなっていき、中立位置において回転速度はゼロになる。中立位置から“+MAX”側に向かうように斜板49の傾斜角をさらに変化させることで、油圧モータMは正回転方向の回転を発生させ、油圧モータMが発生させる正回転の回転速度は徐々に大きくなっていく。このように斜板49の傾斜角を変化させる過程で、比率αは無段階に大きくなる。
【0068】
斜板49の傾斜角が変化して切替点S1に達すると、制御装置210は、第2クラッチCL2を締結させるとともに第1クラッチCL1を解放させる。これにより、遊星変速装置31の変速段は一速から二速に切り替わる。HST28の状態が各切替点S1-S3に達したことは、例えば比率αの値および/または斜板49の傾斜角から検出することができる。
【0069】
変速段が二速に切り替わった状態で、制御装置210は、“+MAX”側から“-MAX”側に向かうように斜板49の傾斜角を変化させる。斜板49の傾斜角を変化させる過程で、比率αは無段階に大きくなる。
【0070】
斜板49の傾斜角が変化して切替点S2に達すると、制御装置210は、第3クラッチCL3を締結させるとともに第2クラッチCL2を解放させる。これにより、遊星変速装置31の変速段は二速から三速に切り替わる。
【0071】
変速段が三速に切り替わった状態で、制御装置210は、“-MAX”側から“+MAX”側に向かうように斜板49の傾斜角を変化させる。斜板49の傾斜角を変化させる過程で、比率αは無段階に大きくなる。
【0072】
斜板49の傾斜角が変化して切替点S3に達すると、制御装置210は、第4クラッチCL4を締結させるとともに第3クラッチCL3を解放させる。これにより、遊星変速装置31の変速段は三速から四速に切り替わる。
【0073】
変速段が四速に切り替わった状態で、制御装置210は、“+MAX”側から“-MAX”側に向かうように斜板49の傾斜角を変化させる。斜板49の傾斜角を変化させる過程で、比率αは無段階に大きくなる。
【0074】
図8は、ユーザによる変速ペダル121の操作に応じて変化する比率αの例を示す図である。遊星変速装置31の変速段を切り替える期間では、比率αの変化が一定となるか、または比率αの値は減少する。
【0075】
クラッチを締結させるとき、そのクラッチの油圧室135(
図5A-
図5D)にオイルを充填する。遊星変速装置31の変速段を切り替えるとき、切り替えようとする次の変速段のクラッチを締結するためのオイルの充填には時間が掛かる。比率αが切替点に対応する値に達してからオイルの充填を開始すると、切り替えようとする次の変速段のクラッチを締結するのに時間が掛かり、比率αの変更を停止させる時間が長くなるため、乗員はシフトショックが大きいと感じる場合がある。
【0076】
本実施形態では、比率αが切替点に対応する値に達する前に、次の変速段のクラッチを締結するためのオイルの充填を開始する。これにより、比率αが切替点に対応する値に達したときに短時間で変速段の切り替えを完了させることができ、乗員が感じるシフトショックを低減させることができる。以下、本実施形態のこの動作の詳細を説明する。
【0077】
図9は、遊星変速装置31の変速段を切り替える動作を説明する図である。ここでは一例として、遊星変速装置31の変速段を一速から二速に切り替える動作を説明する。それ以外の変速段の間での切り替え動作も同じである。この変速段を切り替える動作は、変速段を下げていく動作(例えば二速から一速に切り替える動作)にも適用できる。
【0078】
図9に示す“CL2バルブ”は、第2クラッチCL2の開閉弁143、144(
図5A-
図5D)の状態を表している。“CL2バルブ”が“ON”とは、第2クラッチCL2の開閉弁143が開いており且つ開閉弁144が閉じている状態を示している。油圧ポンプ141から油圧室135にオイルが供給され、第2クラッチCL2は締結状態になる。“CL2バルブ”が“OFF”とは、第2クラッチCL2の開閉弁143が閉じており且つ開閉弁144が開いている状態を示している。油圧室135内のオイルはオイルタンク142に排出され、第2クラッチCL2は解放状態になる。
【0079】
“CL1バルブ”は、第1クラッチCL1の開閉弁143、144の状態を表している。“CL1バルブ”が“ON”とは、第1クラッチCL1の開閉弁143が開いており且つ開閉弁144が閉じている状態を示している。油圧ポンプ141から油圧室135にオイルが供給され、第1クラッチCL1は締結状態になる。“CL1バルブ”が“OFF”とは、第1クラッチCL1の開閉弁143が閉じており且つ開閉弁144が開いている状態を示している。油圧室135内のオイルはオイルタンク142に排出され、第1クラッチCL1は解放状態になる。
【0080】
“CL2センサ出力”は、第2クラッチCL2の圧力センサ136の出力信号を示している。第2クラッチCL2が締結状態のとき、“CL2センサ出力”は“HIGH”を示し、第2クラッチCL2が解放状態のとき、“CL2センサ出力”は“LOW”を示す。“CL1センサ出力”は、第1クラッチCL1の圧力センサ136の出力信号を示している。第1クラッチCL1が締結状態のとき、“CL1センサ出力”は“HIGH”を示し、第1クラッチCL1が解放状態のとき、“CL1センサ出力”は“LOW”を示す。
【0081】
図9の下段に示すグラフの横軸は時間を表しており、縦軸は比率αを表している。このグラフは、遊星変速装置31の変速段を一速から二速に切り替えるときの比率αの変化を示している。
【0082】
本実施形態では、比率αが変化して切替点S1に対応する第1の値α1(比率α1)に達したとき、または比率αが第1の値α1に達してから変速段を切り替える。このとき、制御装置210は、比率αが第1の値α1に達する前に、変速段の切り替えを行うためのオイルの充填を開始するよう油圧クラッチ機構29を制御する。制御装置210は、比率αが現在の値から第1の値α1に達するまでの時間T1(第1時間)を推定する。制御装置210は、推定した時間T1に基づいて、比率αが第1の値α1に達する前に、第2クラッチCL2の油圧室135へのオイルの充填を開始することができる。
【0083】
また、制御装置210は、現在の変速段(一速)から次の変速段(二速)へ切り替えるためのオイルの充填を開始してから第2クラッチCL2が締結されるまでの時間T2(第2時間)の値を取得する。制御装置210は、時間T2に基づいて、変速段の切り替えを行うためのオイルの充填を開始する時点P1(第1時点)を決定することができる。
【0084】
制御装置210は、センサ70、71の出力信号を用いて、比率αの値を定期的に演算する。制御装置210は、単位時間当たりの比率αの変化量、比率αの現在値、第1の値α1に基づいて、時間T1を推定することができる。例えば、ある時点P0において、単位時間当たりの比率αの変化量から時間T1を推定したとき、時点P2で比率αが第1の値α1に達すると推定することができる。単位時間当たりの比率αの変化量は、ある期間における平均値であってもよい。
【0085】
また、時間T1は、時間T1の始点(時点P0)に当たる比率α0から比率α1までの区間とみなすこともでき、制御装置210は、比率α0から比率α1までの区間内で第2クラッチCL2の油圧室135へのオイルの充填を開始する。
【0086】
なお、作業車両10に作業機が接続されている場合、作業機を含めた作業車両10の荷重分を加減速させる必要がある。その一方で、作業車両10に作業機が接続されていない場合は、加減速させる荷重が小さくなる。このため、作業車両10に作業機が接続されているか否かに応じて、切替点S1-S3に対応する比率α1-α3の値は変化し得る。そのため、作業機の接続の有無に応じて変化する比率α1-α3の値、遊星変速装置31の現在の変速段、バルブが“ON”になってから圧力センサ136の出力信号が“HIGH”を示すまでの時間から、バルブを“OFF”から“ON”に切り替える動作を実行する期間(区間)を決定してもよい。時間T1(または比率α0から比率α1までの区間)は、バルブを“OFF”から“ON”に切り替える動作を実行する期間(または区間)となる。
【0087】
制御装置210は、比率αが第1の値α1(比率α1)に達するのと同時または達してから所定時間T3(第2所定時間)経過後に第2クラッチCL2が締結されるように、第2クラッチCL2を制御する。所定時間T3は、例えば1から20ミリ秒であるが、それに限定されない。所定時間T3はゼロであってもよい。
【0088】
解放状態の第2クラッチCL2へオイルの充填を開始してから第2クラッチCL2が締結されるまでの時間T2は予め設定されており、時間T2のデータは記憶装置220に記憶されている。制御装置210は、例えば、時間T1、T2、T3に基づいて、第2クラッチCL2へのオイルの充填を開始する時点P1を決定することができる。
【0089】
また、バルブを“ON”にしてから圧力センサ136の出力信号が“HIGH”を示すまで時間Taを予め測定し、その測定した時間Taを記憶装置220に記憶させてもよい。時間T1と時間Taとを比較し、時間T1が時間Taよりも短くなったときに、制御装置210は、第2クラッチCL2の油圧室135へのオイルの充填を開始してもよい。これは、比率αの現在値と第1の値α1との差が、CL2バルブを“ON”にする時点P1での比率αとCL2センサの出力信号が“HIGH”を示すときの比率αとの差よりも小さくなったときに、制御装置210が、第2クラッチCL2の油圧室135へのオイルの充填を開始することに相当する。これにより、遊星変速装置31の変速段を切り替えるポイント(例えば、第1の値α1)に達するよりも前に、圧力センサ136の出力信号が“HIGH”を示すことを抑制することができ、乗員が感じるシフトショックを低減することができる。ただし、作業車両10の多少の揺れ等の外乱があると、バルブをONにしてから時間Ta経過したときに圧力センサ136の出力信号が“HIGH”を示さない可能性がある。そのため、余裕代として時間T3を一定時間確保して、バルブをONするタイミング(時点P1)を決定してもよい。
【0090】
時点P1において、制御装置210は、第2クラッチCL2の開閉弁143を開状態且つ開閉弁144を閉状態にする。これにより、油圧ポンプ141から第2クラッチCL2の油圧室135へのオイルの供給が開始される。
【0091】
時点P2で比率αが第1の値α1に達し、時点P5で第2クラッチCL2は締結状態になる。第2クラッチCL2が締結すると、第2クラッチCL2の圧力センサ136の出力信号は“LOW”から“HIGH”に変化する。制御装置210は、第2クラッチCL2の圧力センサ136の出力信号が“LOW”から“HIGH”に変化すると、第1クラッチCL1を解放させる。制御装置210は、第1クラッチCL1の開閉弁143を閉状態且つ開閉弁144を開状態にする。第1クラッチCL1の油圧室135内のオイルの排出が開始され、時点P6で第1クラッチCL1は解放状態になる。
【0092】
比率αが切替点S1に対応する第1の値α1に達する前に、第2クラッチCL2を締結するためのオイルの充填を開始することにより、比率αが第1の値α1に達したときに短時間で変速段の切り替えを完了させることができる。比率αの変更を停止させる時間が短くなることにより、乗員が感じるシフトショックを低減させることができる。
【0093】
解放状態の第2クラッチCL2へオイルの充填を開始してから第2クラッチCL2が締結されるまでの時間T2は、第2クラッチCL2の状態に応じて変更してもよい。例えば、制御装置210は、第2クラッチCL2が前回締結された後に解放されてからの経過時間に基づいて、時間T2の長さを変更する。
【0094】
第2クラッチCL2が前回締結された後に解放されてからの経過時間が短い場合、第2クラッチCL2の油圧室135内にオイルが残っている場合がある。その状態で、油圧室135内へのオイルの充填を開始すると、短時間で第2クラッチCL2が締結することになる。そのため、第2クラッチCL2が前回締結された後に解放されてからの経過時間が短い場合、制御装置210は、時間T2を短く設定する。
【0095】
例えば、締結状態の第2クラッチCL2を解放する制御を開始してから、油圧室135のオイルが抜けきるまでの時間T4(第1所定時間)が予め設定されている。制御装置210は、上記経過時間が時間T4未満の場合は、時間T4以上の場合よりも、時間T2を短く設定する。これにより、比率αが第1の値α1に達する前に、第2クラッチCL2が締結することを抑制できる。
【0096】
なお、時間T2を短く設定することは、時間T2の始点(解放状態の第2クラッチCL2へオイルの充填を開始する時点P1)に当たる比率αを第1の値α1に近づけることとみなすこともできる。
【0097】
時間T4は、油圧室135に供給されるオイルの温度に応じて変更してもよい。油圧室135に供給されるオイルの温度は、温度センサ73を用いて検出することができる。オイルの温度が高いときは粘性が小さくなり、油圧室135からオイルが早く抜けることになる。例えば、制御装置210は、第2クラッチCL2を締結するために充填するオイルの温度が高い場合は、低い場合よりも、時間T4を短く設定してもよい。
【0098】
時点P2で比率αが第1の値α1に達すると推定した後、比率αが第1の値α1に達する前に、変速段の切り替えを中止してもよい。例えば、ユーザが変速ペダル121の操作を緩めたり、作業車両10に掛かる負荷が増加したりするなどの要因により、単位時間当たりの比率αの変化量が小さくなる場合がある。制御装置210は、演算した単位時間当たりの比率αの変化量に基づいて、時点P2において比率αが第1の値α1に達しなくなったと判断した場合、変速段の切り替えを中止する。
【0099】
制御装置210は、基準となる時点P3(第3時点)を設定し、時点P3よりも前の段階では変速段の切り替えを中止するか否かの判断を行い、時点P3以降の段階では、変速段の切り替えを中止するか否かの判断を改めて行わないようにしてもよい。制御装置210は、例えば、時点P2よりも所定時間T5(第3所定時間)だけ前の時点を時点P3に設定する。所定時間T5は、例えば20-50ミリ秒であるが、それに限定されない。制御装置210は、時点P3よりも前の段階で、変速段の切り替えを中止すると決定した場合、変速段の切り替えを中止する。
【0100】
制御装置210は、時点P3を過ぎたときに変速段の切り替えを中止しないと決定している場合、変速段の切り替えを実行する。例えば、制御装置210は、時点P3を過ぎてから時点P2に達するまでの期間において、上記のような変速段の切り替えを中止する要因が発生したとしても、変速段の切り替えを実行する。これにより、制御のもたつきを低減させることができる。制御装置210は、変速段の切り替えを実行した後、元の変速段(一速)に戻す切り替えを行うか否か決定する。例えば、制御装置210は、変速段の切り替えを実行した後の比率αが第1の値α1よりも所定値以上小さい場合は、変速段を一速に戻す切り替えを行う。変速段の切り替えを実行した後の比率αが第1の値α1よりも所定値以上小さくない場合は、切り替え後の変速段(二速)を維持する。
【0101】
制御装置210は、変速段の切り替えを行うために第2クラッチCL2に充填するオイルの温度に応じて所定時間T5の大きさを変更してもよい。制御装置210は、例えば、第2クラッチCL2に充填するオイルの温度が高い場合は、低い場合よりも、所定時間T5を長く設定する。すなわち、オイルの温度が高い場合は、低い場合よりも、時点P3を早い時点に設定する。オイルが高温の場合は粘性が小さくなり、オイルの充填が速くなる場合がある。時点P3を早い時点に設定することで、第2クラッチCL2が早く締結されたとしてもスムーズな制御を行うことができる。
【0102】
次に、斜板49のオーバーランを考慮した制御を説明する。例えば、作業車両10を加速させ、比率αが変化して第1の値α1に近づいていくとき、斜板49の傾斜角は連続的に変化する。このとき、斜板49には傾斜角を変化させる方向の慣性が働く。このため、比率αが変化して第1の値α1に達したときに、斜板49の傾斜角を正回転側に変化させる制御を停止しても、慣性により斜板49の傾斜角は正回転側に変化し続ける場合がある。斜板49の傾斜角が正回転側に変化し続けると、変速段を二速に切り替えた後の加速がスムーズになされない場合がある。
【0103】
本実施形態では、比率αが変化して第1の値α1に近づいていく場合、比率αが第1の値α1に達する前に、斜板49の傾斜角を正回転側に変化させる制御を停止させてもよい。
【0104】
比率αが第1の値α1であるときの斜板49の傾斜角θ1は予め設定されている。傾斜角θ1の値は、制御装置210が予め設定してもよい。ここでは、斜板49の傾斜角を正回転側に変化させる制御を停止した後、慣性により斜板49の傾斜角は正回転側に角度θ2だけ変化し続けるとする。この場合、斜板49の傾斜角が、傾斜角θ1よりも角度θ2だけ小さい傾斜角θ3になったときに、制御装置210は、斜板49の傾斜角を正回転側に変化させる制御を停止する。これにより、斜板49のオーバーランを抑制することができる。
【0105】
記憶装置220には、斜板49の傾斜角と比率αとの関係を示すデータが予め記憶されている。制御装置210は、そのデータに基づいて、斜板49の傾斜角がθ3のときの比率αiの値を決定することができる。比率αiの値は、記憶装置220に予め記憶されていてもよい。制御装置210は、比率αが変化して第1の値α1に近づいていく過程において、比率αが比率αiになった時点P4において、斜板49の傾斜角を正回転側に変化させる制御を停止する。
【0106】
制御装置210は、単位時間当たりの比率αの変化量に基づいて、制御を停止する時点P4を変更してもよい。制御装置210は、例えば、単位時間当たりの比率αの変化量が大きい場合は、小さい場合よりも、時点P4を早い時点に設定する。単位時間当たりの比率αの変化量が大きい場合は、斜板49に働く慣性が大きくなり、斜板49のオーバーランの量は大きくなり得る。単位時間当たりの比率αの変化量が大きい場合は、斜板49の傾斜角を正回転側に変化させる制御を早く停止することで、斜板49のオーバーランを抑制することができる。
【0107】
角度θ2が大きい場合は、傾斜角θ3は小さくなり、比率αiの値は小さくなる。比率αiの値が小さくなると時点P4は早い時点になる。制御装置210は、比率αiに比率αがなる時点P4において、斜板49の傾斜角を正回転側に変化させる制御を停止することで、斜板49のオーバーランを抑制することができる。
【0108】
単位時間当たりの比率αの変化量と角度θ2、θ3との関係を示すデータが記憶装置220に予め記憶されていてもよい。また、単位時間当たりの比率αの変化量と比率αiとの関係を示すデータが記憶装置220に予め記憶されていてもよい。制御装置210は、これらのデータを用いて、斜板49の傾斜角を正回転側に変化させる制御を停止してもよい。
【0109】
制御装置210は、油圧モータMに供給されるオイルの温度に基づいて時点P4を変更してもよい。制御装置210は、例えば、油圧モータMに供給されるオイルの温度が高い場合は、低い場合よりも、時点P4を早い時点に設定する。オイルが高温の場合は粘性が小さくなることで、斜板49のオーバーランの量は大きくなり得る。オイルが高温の場合は、斜板49の傾斜角を正回転側に変化させる制御を早く停止することで、斜板49のオーバーランを抑制することができる。
【0110】
また、制御装置210は、HST28の閉回路95の圧力に応じて時点P4を変更してもよい。例えば、斜板49が流される方向(後ろから追い回される方向)への力(内圧)が加わっている場合には時点P4を早い時点に設定し、斜板49が押し戻される方向(前からブレーキで止めようとする方向)への力が加わっている場合には時点P4を遅い時点に設定してもよい。これにより、斜板49のオーバーランをより適切に抑制することができる。
【0111】
上述の説明では、作業車両10はユーザが運転することを前提としていたが、作業車両10は自動運転機能を備えていてもよい。本開示の技術は、自動運転における変速段の切り替えにも適用できる。
【0112】
制御装置210が複数のECUによって実現される場合、ユーザによる変速ペダル121の操作を監視するECU(ECU1)と、変速段の切り替えを行うECU(ECU2)とが別々に設けられてもよい。この場合、ECU1は変速ペダル121の操作状態に基づいて変速段の切り替えを行う指令をECU2に送信し、指令を受け取ったECU2は変速段の切り替えを行う準備を開始してもよい。例えば、ECU2は、指令を受け取ってから、単位時間当たりの比率αの変化量の演算を開始することで、総演算量を低減させることができる。
【0113】
上記の実施形態における制御装置および記憶装置を含む制御システムを、作業車両に後から取り付けることもできる。そのようなシステムは、作業車両とは独立して製造および販売され得る。そのようなシステムで使用されるコンピュータプログラムも、作業車両とは独立して製造および販売され得る。コンピュータプログラムは、例えばコンピュータが読み取り可能な非一時的な記憶媒体に格納されて提供され得る。コンピュータプログラムは、電気通信回線(例えばインターネット)を介したダウンロードによっても提供され得る。
【0114】
以上のように、本開示は、以下の項目に記載の制御システム、作業車両、制御方法およびコンピュータプログラムを含む。
【0115】
[項目1]
作業車両の動力伝達装置の動作を制御する制御システムであって、
前記動力伝達装置は、
内燃機関が発生させた回転が伝達されて斜板の角度に応じたオイルを吐出する油圧ポンプ、および前記油圧ポンプから前記オイルが供給されて回転を発生させる油圧モータを有する静油圧式無段変速装置と、
前記内燃機関が発生させた回転および前記静油圧式無段変速装置が発生させた回転が伝達され、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる遊星変速装置と、
前記遊星変速装置の変速段を切り替える油圧クラッチ機構と、
を備え、
前記制御システムは、
前記遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と前記内燃機関の回転速度との比率と、前記遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係を示すデータを記憶する記憶装置と、
前記比率および前記データに基づいて前記変速段の切り替えを行うように前記油圧クラッチ機構を制御する制御装置と、
を備え、
前記複数の切替点は第1切替点を含み、
前記制御装置は、
前記比率が変化して前記第1切替点に対応する第1の値に近づいていく場合、前記比率が前記第1の値に達するまでの第1時間を推定し、
推定した前記第1時間に基づいて、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記変速段の切り替えを行うためのオイルの充填を開始するよう前記油圧クラッチ機構を制御する、制御システム。
【0116】
[項目2]
前記制御装置は、単位時間当たりの前記比率の変化量に基づいて前記第1時間を推定する、項目1に記載の制御システム。
【0117】
[項目3]
前記比率が前記第1の値に達したとき、または前記比率が前記第1の値に達しているときに現在の変速段から次の変速段に切り替える場合、前記制御装置は、前記変速段の切り替えを行うための前記オイルの充填を開始してから前記次の変速段のクラッチが締結されるまでの第2時間に基づいて、前記変速段の切り替えを行うための前記オイルの充填を開始する第1時点を決定する、項目1または2に記載の制御システム。
【0118】
[項目4]
前記制御装置は、前記次の変速段のクラッチが前回締結された後に解放されてからの経過時間に基づいて、前記第2時間の長さを変更する、項目3に記載の制御システム。
【0119】
[項目5]
前記制御装置は、前記経過時間が第1所定時間より短い場合は、長い場合よりも、前記第2時間を短く設定する、項目4に記載の制御システム。
【0120】
[項目6]
前記制御装置は、前記次の変速段のクラッチを締結するために充填するオイルの温度が第1温度の場合は、前記第1温度よりも低い第2温度の場合よりも、前記第1所定時間を短く設定する、項目5に記載の制御システム。
【0121】
[項目7]
前記制御装置は、前記比率が前記第1の値に達するのと同時または達してから第2所定時間経過後に前記次の変速段のクラッチが締結されるように、前記オイルの充填を開始する前記第1時点を決定する、項目3に記載の制御システム。
【0122】
[項目8]
前記第2所定時間は、1から20ミリ秒である、項目7に記載の制御システム。
【0123】
[項目9]
前記制御装置は、前記比率が前記第1の値に達した後、切り替える前の変速段のクラッチを解放する制御を行う、項目7に記載の制御システム。
【0124】
[項目10]
前記制御装置は、
前記比率が前記第1の値に達すると推定される第2時点よりも第3所定時間前の第3時点または前記第3時点よりも前に、前記変速段の切り替えを中止するか否か決定し、
中止すると決定した場合、前記変速段の切り替えを中止する、項目1から9のいずれかに記載の制御システム。
【0125】
[項目11]
前記制御装置は、前記第3時点を過ぎたときに前記変速段の切り替えを中止しないと決定している場合、前記変速段の切り替えを実行する、項目10に記載の制御システム。
【0126】
[項目12]
前記制御装置は、前記第3時点を過ぎてから前記第2時点に達するまでの期間において、前記変速段の切り替えを中止する要因が発生したとしても、前記変速段の切り替えを実行する、項目11に記載の制御システム。
【0127】
[項目13]
前記制御装置は、前記変速段の切り替えを実行した後、元の変速段に戻す切り替えを行うか否か決定する、項目12に記載の制御システム。
【0128】
[項目14]
前記制御装置は、前記変速段の切り替えを行うために充填する前記オイルの温度に応じて前記第3所定時間を変更する、項目10に記載の制御システム。
【0129】
[項目15]
前記制御装置は、前記変速段の切り替えを行うために充填する前記オイルの温度が第3温度の場合は、前記第3温度よりも低い第4温度の場合よりも、前記第3所定時間を長く設定する、項目14に記載の制御システム。
【0130】
[項目16]
前記制御装置は、
前記比率が前記第1の値であるときの前記斜板の角度を予め決定し、
前記斜板の角度を変化させる制御を行うことで、前記油圧モータが発生させる回転の回転速度を変化させ、
前記比率が変化して前記第1の値に近づいていく場合、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記斜板の角度を変化させる制御を停止する、項目1から15のいずれかに記載の制御システム。
【0131】
[項目17]
前記制御装置は、単位時間当たりの前記比率の変化量に基づいて、前記斜板の角度を変化させる制御を停止する第4時点を変更する、項目16に記載の制御システム。
【0132】
[項目18]
前記制御装置は、単位時間当たりの前記比率の変化量が第1変化量の場合は、前記第1変化量よりも小さい第2変化量の場合よりも、前記第4時点を早い時点に設定する、項目17に記載の制御システム。
【0133】
[項目19]
前記制御装置は、前記油圧モータに供給される前記オイルの温度にさらに基づいて、前記第4時点を変更する、項目17に記載の制御システム。
【0134】
[項目20]
前記制御装置は、前記油圧モータに供給される前記オイルの温度が第5温度の場合は、前記第5温度よりも低い第6温度の場合よりも、前記第4時点を早い時点に設定する、項目19に記載の制御システム。
【0135】
[項目21]
項目1から20のいずれかに記載の制御システムと、前記内燃機関と、前記動力伝達装置とを備えた、作業車両。
【0136】
[項目22]
作業車両の動力伝達装置の動作を制御する制御方法であって、
前記動力伝達装置は、
内燃機関が発生させた回転が伝達されて斜板の角度に応じたオイルを吐出する油圧ポンプ、および前記油圧ポンプから前記オイルが供給されて回転を発生させる油圧モータを有する静油圧式無段変速装置と、
前記内燃機関が発生させた回転および前記静油圧式無段変速装置が発生させた回転が伝達され、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる遊星変速装置と、
前記遊星変速装置の変速段を切り替える油圧クラッチ機構と、
を備え、
前記制御方法は、
前記遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と前記内燃機関の回転速度との比率と、前記遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係に基づいて、前記変速段の切り替えを行うように前記油圧クラッチ機構を制御すること、
を含み、
前記複数の切替点は第1切替点を含み、
前記制御方法は、
前記比率が変化して前記第1切替点に対応する第1の値に近づいていく場合、前記比率が前記第1の値に達するまでの第1時間を推定すること、
推定した前記第1時間に基づいて、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記変速段の切り替えを行うためのオイルの充填を開始するよう前記油圧クラッチ機構を制御すること、
をさらに含む、制御方法。
【0137】
[項目23]
作業車両の動力伝達装置の動作の制御をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、
前記動力伝達装置は、
内燃機関が発生させた回転が伝達されて斜板の角度に応じたオイルを吐出する油圧ポンプ、および前記油圧ポンプから前記オイルが供給されて回転を発生させる油圧モータを有する静油圧式無段変速装置と、
前記内燃機関が発生させた回転および前記静油圧式無段変速装置が発生させた回転が伝達され、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる遊星変速装置と、
前記遊星変速装置の変速段を切り替える油圧クラッチ機構と、
を備え、
前記コンピュータプログラムは、
前記遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と前記内燃機関の回転速度との比率と、前記遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係に基づいて、前記変速段の切り替えを行うように前記油圧クラッチ機構を制御すること、
を前記コンピュータに実行させ、
前記複数の切替点は第1切替点を含み、
前記コンピュータプログラムは、
前記比率が変化して前記第1切替点に対応する第1の値に近づいていく場合、前記比率が前記第1の値に達するまでの第1時間を推定すること、
推定した前記第1時間に基づいて、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記変速段の切り替えを行うためのオイルの充填を開始するよう前記油圧クラッチ機構を制御すること、
をさらに前記コンピュータに実行させる、コンピュータプログラム。
【0138】
[項目24]
作業車両の動力伝達装置の動作を制御する制御システムであって、
前記動力伝達装置は、
内燃機関が発生させた回転が伝達されて斜板の角度に応じたオイルを吐出する油圧ポンプ、および前記油圧ポンプから前記オイルが供給されて回転を発生させる油圧モータを有する静油圧式無段変速装置と、
前記内燃機関が発生させた回転および前記静油圧式無段変速装置が発生させた回転が伝達され、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる遊星変速装置と、
前記遊星変速装置の変速段を切り替える油圧クラッチ機構と、
を備え、
前記制御システムは、
前記遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と前記内燃機関の回転速度との比率と、前記遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係を示すデータを記憶する記憶装置と、
前記比率および前記データに基づいて前記変速段の切り替えを行うように前記油圧クラッチ機構を制御する制御装置と、
を備え、
前記複数の切替点は第1切替点を含み、
前記制御装置は、前記比率が変化して前記第1切替点に対応する第1の値に達したとき、または前記比率が前記第1の値に達してから前記変速段を切り替える場合、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記変速段の切り替えを行うためのオイルの充填を開始するよう前記油圧クラッチ機構を制御し、
前記制御装置は、現在の変速段から次の変速段へ切り替えるための前記オイルの充填を開始してから前記次の変速段のクラッチが締結されるまでの時間に基づいて、前記変速段の切り替えを行うための前記オイルの充填を開始する時点を決定する、制御システム。
【0139】
[項目25]
前記制御装置は、前記次の変速段のクラッチが前回締結された後に解放されてからの経過時間に基づいて、前記オイルの充填を開始してから前記次の変速段のクラッチが締結されるまでの前記時間の長さを変更する、項目24に記載の制御システム。
【0140】
[項目26]
前記制御装置は、前記経過時間が第1所定時間より短い場合は、長い場合よりも、前記オイルの充填を開始してから前記次の変速段のクラッチが締結されるまでの前記時間を短く設定する、項目25に記載の制御システム。
【0141】
[項目27]
前記制御装置は、前記次の変速段のクラッチを締結するために充填するオイルの温度が第1温度の場合は、前記第1温度よりも低い第2温度の場合よりも、前記第1所定時間を短く設定する、項目26に記載の制御システム。
【0142】
[項目28]
前記制御装置は、前記比率が前記第1の値に達するのと同時または達してから第2所定時間経過後に前記次の変速段のクラッチが締結されるように、前記オイルの充填を開始する前記時点を決定する、項目24または25に記載の制御システム。
【0143】
[項目29]
前記第2所定時間は、1から20ミリ秒である、項目28に記載の制御システム。
【0144】
[項目30]
前記制御装置は、前記比率が前記第1の値に達した後、切り替える前の変速段のクラッチを解放する制御を行う、項目28に記載の制御システム。
【0145】
[項目31]
作業車両の動力伝達装置の動作を制御する制御システムであって、
前記動力伝達装置は、
内燃機関が発生させた回転が伝達されて斜板の角度に応じたオイルを吐出する油圧ポンプ、および前記油圧ポンプから前記オイルが供給されて回転を発生させる油圧モータを有する静油圧式無段変速装置と、
前記内燃機関が発生させた回転および前記静油圧式無段変速装置が発生させた回転が伝達され、複数の変速段に対応した複数種類の回転を発生させる遊星変速装置と、
前記遊星変速装置の変速段を切り替える油圧クラッチ機構と、
を備え、
前記制御システムは、
前記遊星変速装置の回転を車輪に伝達する動力伝達経路上の所定部品の回転速度と前記内燃機関の回転速度との比率と、前記遊星変速装置の変速段を切り替えるポイントである複数の切替点との関係を示すデータを記憶する記憶装置と、
前記比率および前記データに基づいて前記変速段の切り替えを行うように前記油圧クラッチ機構を制御する制御装置と、
を備え、
前記複数の切替点は第1切替点を含み、
前記制御装置は、
前記第1切替点での前記斜板の角度を予め決定し、
前記斜板の角度を変化させる制御を行うことで、前記油圧モータが発生させる回転の回転速度を変化させ、
前記比率が変化して前記第1切替点に対応する第1の値に近づいていく場合、前記比率が前記第1の値に達する前に、前記斜板の角度を変化させる制御を停止する、制御システム。
【0146】
[項目32]
項目24から31のいずれかに記載の制御システムと、前記内燃機関と、前記動力伝達装置とを備えた、作業車両。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本開示の技術は、車両の変速装置の技術分野において特に有用である。
【符号の説明】
【0148】
10:作業車両、 15:動力伝達装置、 20:入力軸、 21:主変速装置、 23:前後進切替装置、 28:静油圧式無段変速装置(HST) 28a:ポンプ軸、 28b:出力軸、 29:油圧クラッチ機構、 30:遊星変速ユニット、 31:遊星変速装置、 35:出力軸、 36a:第1レンジギヤ機構、 36b:第2レンジギヤ機構、 36c:第3レンジギヤ機構、 36d:第4レンジギヤ機構、 37:出力装置、 49:斜板、 70:回転センサ、 71:回転センサ、 72:位置センサ、 73:温度センサ、 74:温度センサ、 90:油圧シリンダ、 91:操作油路、 92:変速操作弁、 92a:ソレノイド、 93:給油路、 94:油圧ポンプ、 95:閉回路、 96:緊急用リリーフ弁、 97:圧力センサ、 101:車両本体、 102:内燃機関(エンジン)、 102a:出力軸、 103:ミッションケース、 104:前輪、 105:後輪、 106:キャビン、 107:操舵装置、 108:運転席、 109:連結装置、 120:変速操作装置、 121:変速ペダル、 122:前後進レバー、 131:プレート、 132:プレート、 133:ピストン、 134:リターンスプリング、 135:油圧室、 136:圧力センサ、 141:油圧ポンプ、 142:オイルタンク、 143:開閉弁、 144:開閉弁、 145:油路、 200:制御システム、 210:制御装置、 220:記憶装置、 CL:クラッチ、 CL1:第1クラッチ、 CL2:第2クラッチ、 CL3:第3クラッチ、 CL4:第4クラッチ、 M:油圧モータ、 P:油圧ポンプ