IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ホシケミカルズ株式会社の特許一覧 ▶ 亀井 淳三の特許一覧

<>
  • 特開-鶏卵アレルギー抑制組成物 図1
  • 特開-鶏卵アレルギー抑制組成物 図2
  • 特開-鶏卵アレルギー抑制組成物 図3
  • 特開-鶏卵アレルギー抑制組成物 図4
  • 特開-鶏卵アレルギー抑制組成物 図5
  • 特開-鶏卵アレルギー抑制組成物 図6
  • 特開-鶏卵アレルギー抑制組成物 図7
  • 特開-鶏卵アレルギー抑制組成物 図8
  • 特開-鶏卵アレルギー抑制組成物 図9
  • 特開-鶏卵アレルギー抑制組成物 図10
  • 特開-鶏卵アレルギー抑制組成物 図11
  • 特開-鶏卵アレルギー抑制組成物 図12
  • 特開-鶏卵アレルギー抑制組成物 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025000069
(43)【公開日】2025-01-07
(54)【発明の名称】鶏卵アレルギー抑制組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20241224BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241224BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20241224BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20241224BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241224BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20241224BHJP
【FI】
A23L33/10 ZNA
A23L33/105
A61P37/08
A61K31/05
A61P43/00 111
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099711
(22)【出願日】2023-06-19
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】501304836
【氏名又は名称】ホシケミカルズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502167821
【氏名又は名称】亀井 淳三
(74)【代理人】
【識別番号】100136560
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊晴
(72)【発明者】
【氏名】亀井 淳三
(72)【発明者】
【氏名】辻 慶一郎
【テーマコード(参考)】
4B018
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018MD08
4B018MD48
4B018ME07
4B018MF01
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA19
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA55
4C206MA57
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZB13
4C206ZC02
(57)【要約】
【課題】カンナビジオールの特異的な効果に着目して、鶏卵アレルギーの発症を抑制できる組成物を提供する。
【解決手段】カンナビジオールを含有することを特徴とする鶏卵アレルギー抑制組成物である。また、鶏卵アレルギー抑制組成物が、健康食品、特別用途食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメントまたは医薬品であることが好ましい。さらに、カンナビジオールが、腸粘膜マスト細胞からのマストセルプロテアーゼ-1(Mast cell protease-1)の産生を抑制することが好ましく、カンナビジオールが、小腸および大腸におけるインターロイキン-4の発現を抑制することが好ましく、カンナビジオールが、小腸および大腸におけるSOCS-3(suppressor of cytokine signaling 3)のmRNAの発現を抑制することが好ましい。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンナビジオールを含有することを特徴とする鶏卵アレルギー抑制組成物。
【請求項2】
前記カンナビジオールが、腸粘膜マスト細胞からのマストセルプロテアーゼ-1の産生を抑制する請求項1記載の鶏卵アレルギー抑制組成物。
【請求項3】
前記カンナビジオールが、小腸および大腸におけるインターロイキン-4の発現を抑制する請求項1記載の鶏卵アレルギー抑制組成物。
【請求項4】
前記カンナビジオールが、小腸および大腸におけるSOCS-3(suppressor of cytokine signaling 3)のmRNAの発現を抑制する請求項1記載の鶏卵アレルギー抑制組成物。
【請求項5】
前記カンナビジオールが、大腸粘膜へのTh2細胞の浸潤を抑制する請求項1記載の鶏卵アレルギー抑制組成物。
【請求項6】
健康食品、特別用途食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメントまたは医薬品である請求項1記載の鶏卵アレルギー抑制組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏卵アレルギー抑制組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー疾患の一つである食物アレルギーは、鶏卵や牛乳などの食物によって引き起こされ、蕁麻疹や掻痒等の皮膚症状、嘔吐や下痢等の消火器症状、咳や呼吸困難等の呼吸器症状など、全身に様々な症状が発現する。食物アレルギーは若齢期に発症することが多く、5歳ころまでの乳幼児が全体の約80%を占める(非特許文献1および非特許文献2)。乳幼児期に食物アレルギーを発症すると、成長するにつれて、気管支喘息やアレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎等を発症する、いわゆる「アレルギーマーチ」をたどるリスクが高くなることが報告されている(非特許文献3)。したがって、食物アレルギーの発症を予防することは、臨床上、重要な課題の一つである。
【0003】
これまで、食物アレルギーの予防に関して、様々な取組みが実施されている。例えば、胎児期や授乳中に母体から移行した抗原によって感作を受け、食物アレルギーを発症した可能性について解析する目的で、妊娠中あるいは授乳中の母親が鶏卵や牛乳等のアレルゲンの摂取を回避する試験が行われた。しかしながら、妊娠中あるいは授乳中の母親がアレルゲンの接種を回避しても、生まれた子供のアレルギーを予防する効果は認められなかった(非特許文献4)。また、乳幼児期に鶏卵の摂取を3カ月遅らせると、鶏卵アレルギー発症リスクが高くなること(オッズ比4.4)が報告されている(非特許文献5)。さらに、生後2週間以降に初めて人工乳を摂取した乳幼児は、2週間までに摂取した乳幼児と比較して、牛乳アレルギーの発症リスクが高くなること(オッズ比19.30)も報告されている(非特許文献6)。
【0004】
一方、例えば、特許文献1には、カンナビノイドレセプター調節物質を有効成分として含有してなるアレルギー疾患治療剤が、開示され、特許文献4には、カンナビノイド末梢細胞型レセプターインバースアゴニストを有効成分として含有してなる非即時型アレルギー疾患治療剤が、開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sugita K(Akdis CA.),“Recent developments and advances in atopic dermatitis and food allergy.”,Allergol.int.,69,204-214(2020).
【非特許文献2】Peters RL,Krawiec M,Koplin JJ,“Update on food allergy.”,Pediatr.allergy Immunol.,32,647-657(2021).
【非特許文献3】Yang L,Fu J,Zhou,“Research progress in atopic march.”,Front. Immunol.,11,1907(2020).
【非特許文献4】Kramer MS,Kakuma R,“Optimal duration of exclusive breastfeeding.”,Cochrane Database Syst.Rev.,2012,CD003517(2012)
【非特許文献5】Koplin JJ,他19名,“Can early introduction of egg allergy in infants? A population-based study.”,J.allergy Clin. Immunol.,126,807-813(2010).
【非特許文献6】Katz Y,他6名,“Early exposure to cow’s milk protein is protective against IgE-mediated cow’s milk protein allergy.”,J.allergy Clin. Immunol.,126,77-82 e71(2010).
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-252796号公報
【特許文献2】特開2005-15422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2に記載されている技術は、喘息、アトピー性皮膚炎等のアレルギーに関するものであり、鶏卵由来のアレルギーについては全く検討されていなかった。このように食物アレルギーの予防に関しては多くの研究が行われているものの、食物アレルギー、特に鶏卵由来のアレルギーを十分に抑制できるものではなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、前記の従来技術の問題点を解決し、カンナビジオールの特異的な効果に着目して、鶏卵アレルギーの発症を抑制できる組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、カンナビジオール自身が有する特異的な機能によって、前記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の鶏卵アレルギー抑制組成物は、カンナビジオールを含有することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の鶏卵アレルギー抑制組成物は、前記カンナビジオールが、腸粘膜マスト細胞からのマストセルプロテアーゼ-1(Mast cell protease-1)の産生を抑制することが好ましく、前記カンナビジオールが、小腸および大腸におけるインターロイキン-4の発現を抑制することが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の鶏卵アレルギー抑制組成物は、前記カンナビジオールが、小腸および大腸におけるSOCS-3(suppressor of cytokine signaling 3)のmRNAの発現を抑制することが好ましく、前記カンナビジオールが、大腸粘膜へのTh2細胞の浸潤を抑制することが好ましい。
【0013】
さらにまた、本発明の鶏卵アレルギー抑制組成物は、健康食品、特別用途食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメントまたは医薬品であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、鶏卵アレルギーの発症を抑制できる組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実験例1-1の投与スケジュールを示す図である。
図2】実験例1-1の糞中水分量の結果を示すグラフである。
図3】実験例1-1の体重の結果を示すグラフである。
図4】実験例1-2の投与スケジュールを示す図である。
図5】実験例1-2の投与期間の影響の結果を示すグラフである。
図6】実験例2-1のMcpt-1の濃度の結果を示すグラフである。
図7】実験例2-1のIgE抗体の濃度の結果を示すグラフである。
図8】実験例2-2の小腸におけるIL-4のmRNAの発現量の結果を示すグラフである。
図9】実験例2-2の大腸におけるIL-4のmRNAの発現量の結果を示すグラフである。
図10】実験例2-3の小腸におけるSOCS-3のmRNAの発現量の結果を示すグラフである。
図11】実験例2-3の大腸におけるSOCS-3のmRNAの発現量の結果を示すグラフである。
図12】実験例2-3の大腸におけるCCL2血中濃度の結果を示すグラフである。
図13】実験例2-4の大腸におけるCD4陽性細胞の浸潤に対するCBDの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の鶏卵アレルギー抑制組成物について具体的に説明する。
本発明の鶏卵アレルギー抑制組成物は、カンナビジオール(以下、「CBD」とも称す)を含有することを特徴とするものである。食物アレルギーの原因食物としては、鶏卵、牛乳、小麦、木の実類等があり、このうち最も多いのが鶏卵によるアレルギーである。鶏卵のアレルゲンは、卵白に含まれるタンパク質であり、代表的なものとして、オボアルブミン(OVA)(以下、「OVA」とも称す)、オボトランスフェリン、オボムコイド、リゾチーム等がある。中でも、オボアルブミン(OVA)は、卵白に含まれるタンパク質の54%を占め、アレルギーの発症に大きく寄与しているものである。本発明の鶏卵アレルギー抑制組成物は、カンナビジオールを含有することで、鶏卵アレルギーの発症を抑制できるものである。
【0017】
ここで、カンナビジオールとは、麻に含まれるポリフェノールであるカンナビノイドの一種であり、「CBD」と表されるものである。本発明においては、通常の食用に使用できるものであれば限定されないが、例えば、PharmaHemp Laboratories(リュブリャナ,スロベニア)の「CBD crystalline powder」等を使用することができる。
【0018】
また、本発明の鶏卵アレルギー抑制組成物は、前記カンナビジオールが、腸粘膜マスト細胞からのマストセルプロテアーゼ-1(Mast cell protease-1、以下「Mcpt-1」とも称す)の産生を抑制することが好ましい。かかるマストセルプロテアーゼ-1とは、腸の上皮に見られるintestinal mucosal mast cellに発現する唯一のキマーゼである。
【0019】
さらに、本発明の鶏卵アレルギー抑制組成物は、前記カンナビジオールが、小腸および大腸におけるインターロイキン-4の発現を抑制することが好ましい。かかるインターロイキン-4とは、サイトカインの一種で、129個のアミノ酸から構成されるタンパク質であり、マスト細胞等によって産生されるものである。
【0020】
さらにまた、本発明の鶏卵アレルギー抑制組成物は、前記カンナビジオールが、小腸および大腸におけるSOCS-3(suppressor of cytokine signaling 3)のmRNAの発現を抑制することが好ましい。かかるSOCS-3とは、免疫応答など生体の恒常性の維持に必須のJAK─STAT経路のネガティブフィードバック因子である。
【0021】
また、本発明の鶏卵アレルギー抑制組成物は、前記カンナビジオールが、大腸粘膜へのTh2細胞の浸潤を抑制することが好ましい。かかるTh2細胞とは、ヘルパーT(Th)細胞の一種で、免疫システムを担うマクロファージ、樹状細胞、およびB細胞などの抗原提示細胞(APC)にヘルパー機能をもたらし、それらの活性化や成熟過程において重要な役割を果たすものである。
【0022】
また、本発明の鶏卵アレルギー抑制組成物は、健康食品、特別用途食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメントまたは医薬品であることが好ましい。カンナビジオールを含有する組成物を経口摂取することで、鶏卵アレルギーの発症を抑制できる。
【0023】
本発明において、健康食品とは、健康によいことをうたった食品全般のことであり、特別用途食品とは、特別用途食品(特定保健用食品を除く)は、乳児の発育や、妊産婦、授乳婦、えん下困難者、病者などの健康の保持・回復などに適するという特別の用途について表示を行う食品であり、特定保健用食品とは、からだの生理学的機能などに影響を与える保健効能成分(関与成分)を含み、その摂取により、特定の保健の目的が期待できる旨の表示(保健の用途の表示)をする食品であり、栄養機能食品とは、特定の栄養成分の補給のために利用される食品で、栄養成分の機能を表示するもので、対象食品は消費者に販売される容器包装に入れられた一般用加工食品及び一般用生鮮食品であり、機能性食品とは、食品の三次機能(体調調節作用)に着目し、その機能性を標榜した食品であり、栄養補助食品とは、栄養成分を補給または特定の保健の用途に資する食品であり、健康補助食品とは、栄養成分を補給し、または特定の保健の用途に適するもの、その他健康の保持・増進および健康管理のために接種される食品であり、サプリメントとは、健康食品のうち、米国のDietary Supplementのように特定成分が濃縮された錠剤やカプセル剤の形態が主であり、スナック菓子や飲料なども含む食品である。
【0024】
本発明の鶏卵アレルギー抑制組成物の形態としては、錠剤、カプセルが主であるが、例えば、各種飲料、ヨーグルト、チーズ、バター、乳酸菌発酵品等の各種乳製品、流動食、ゼリー、キャンディ、レトルト食品、錠菓、クッキー、カステラ、パン、ビスケット等のような形態であってもよい。
【0025】
さらに、本発明において、本発明の効果が損なわれない範囲で、適宜他の成分等を添加することもできる。質的、量的範囲で上記以外の任意の成分を配合することができ、食品に通常配合される成分、例えば、食品添加物、油性成分、乳化剤、酸化防止剤、香料、各種ビタミン剤、着色剤、薬効成分、ミネラル成分等を配合することができる。
【0026】
また、本発明において、鶏卵アレルギー抑制組成物の製造方法としては、通常の食品の製造方法で製造することができる。
【0027】
以下、本発明について、実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の「実施例」中の配合%は、質量%を示す。また、図中、「CBD」は、カンナビジオールを示し、%で配合質量%を示し、「control」および「cont」は、コントロールを示す。
【実施例0028】
(実験例1)
(試薬)
カンナビジオール(CBD)は、PharmaHemp Laboratories(リュブリャナ,スロベニア)から購入したCBD crystalline powder(Batch No.CB099020171A)を使用した。なお、本パウダー中には、カンナビジオールは、99.34質量%含まれている。また、オボアルブミン(OVA)およびアルミニウムゲルは、Sigma Aldrich(セントルイス,ミズリー州,米国)から購入して使用した。その他の試薬は、市販品のうち最も純度の高いものを使用した。
【0029】
(使用動物)
6週齢の雄性BALB/c系マウスは、日本エスエルシー株式会社(静岡県浜松市)から購入した。マウスは、温度24±1℃、湿度55±5%の施設において飼育し、明暗条件は午前8時点灯、20時消灯の条件下で飼育した。本実験を行うにあたり、科学的にはもとより、動物福祉の観点からも適切な動物実験の実施を促すことを目的として制定された星薬科大学動物実験指針に従い、星薬科大学の動物実験委員会の承認を得たうえで、動物に対する倫理面を十分に考慮した。
【0030】
(マウスの処置)
消化器症状を呈する食物アレルギーモデルマウスは、山本らの方法に従って作製した(Yamamoto T,他4名,“Oral tolerance induced by transfer of food antigens via breast milk of allergic mothers prevents offspring from developing allergic symptoms in a mouuse food allergy model.”,Clin.Dev.Immunol.,2012,721085(2012).)。
【0031】
(実験例1-1)
オボアルブミン(OVA)誘発消化管アレルギーモデルマウス(以下、「OVA誘発消化管アレルギーモデルマウス」と称す)に対するカンナビジオール(CBD)の効果試験
図1は、実験例1-1の投与スケジュールを示す図である。マウスを4群にわけ、コントロール(control)群(以下、「control群」と称す)、オボアルブミン(OVA)群(以下、「OVA群」と称す)、OVA+カンナビジオール(CBD)低用量群(以下、「CBD低用量群」と称す)、OVA+カンナビジオール(CBD)高用量群(以下、「CBD高用量群」と称す)とした。OVA群、CBD低用量群およびCBD高用量群には、アジュバンドとして水酸化アルミニウムゲル(最終濃度:1mg/mL)を含むOVA(50μg/mL)・phosphate-buffered saline(PBS)溶液0.2mLを腹腔内投与した。2週間後に同様の処置を行い、合計2回の感作を行った。最終感作から2週間後、OVA群、CBD低用量群およびCBD高用量群には、OVA(200mg/mL)水溶液0.25mLを2日に1回、計4回経口投与した。control群には感作期間中はPBS、惹起期間中は精製水を投与した。また、control群およびOVA群には普通試料を、CBD低用量群にはCBDを0.01%含む試料(25mg/kg/day)を、CBD高用量群にはCBDを0.02%含む試料(50mg/kg/day)を、それぞれ感作初日から実験最終日まで混餌投与した。実験期間中の糞中水分量、実験最終日の体重を測定して、OVA誘発消化管アレルギーモデルマウスに対するCBDの効果を評価した。
【0032】
(糞中水分量の算出)
OVA経口投与1時間後までに排泄された糞便を回収し、東京理化器械株式会社製の凍結乾燥機FDM-1000(商品名)で24時間乾燥させた後、以下の計算式、

糞中水分量(質量%)=(乾燥前の糞便質量 - 乾燥後の糞便質量)/乾燥後の糞便質量×100

に基づいて、糞中水分量(質量%)を算出した。
【0033】
(統計学的有意差検定)
実験値はmean±standard error(S.E.)として表示した。統計学的有意差検定にはターキーズテスト(Tukey’s test)を用い、危険率5%未満(p<0.05)の場合に有意な差があるとした。
【0034】
OVA誘発消化管アレルギーモデルマウスにCBD(25mg/kg/dayまたは50mg/kg/day)を感作初日から混餌投与し、下痢の程度を評価した。図2は、実験例1-1の糞中水分量の結果を示すグラフであり、図3は、実験例1-1の体重の結果を示すグラフである。OVA群の糞中水分量は惹起相4日目から増加し始め、6日目においてはcontrol群と比べて約2倍有意に高く、下痢の発症が認められた。CBDを低用量(25mg/kg/day)処置した際の糞中水分量は、OVA群と同程度であり、下痢の改善は認められなかった。一方、CBDを高用量(50mg/kg/day)処置した際の糞中水分量は、OVA群と比べて有意に低く、下痢が改善され、OVA誘発消化管アレルギー症状を抑制できた。なお、OVAおよびCBDを投与しても、体重に有意な差がみられなかった。
【0035】
(実験例1-2)
オボアルブミン(OVA)誘発消化管アレルギーモデルマウスに対するカンナビジオール(CBD)の投与期間の影響試験
図4は、実験例1-2の投与スケジュールを示す図である。マウスを4群にわけ、コントロール(control)群(以下、「control群」と称す)、オボアルブミン(OVA)群(以下、「OVA群」と称す)、OVA+カンナビジオール(CBD)全期間群(以下、「CBD全期間群」と称す)、OVA+カンナビジオール(CBD)惹起相群(以下、「CBD惹起相群」と称す)とした。OVA群、CBD全期間群およびCBD惹起相群には、アジュバンドとして水酸化アルミニウムゲル(最終濃度:1mg/mL)を含むOVA(50μg/mL)・phosphate-buffered saline(PBS)溶液0.2mLを腹腔内投与した。2週間後に同様の処置を行い、合計2回の感作を行った、最終感作から2週間後、OVA群、CBD全期間群およびCBD惹起相群には、OVA(200mg/mL)水溶液0.25mLを2日に1回、計4回経口投与した。control群には感作期間中はPBS、惹起期間中は精製水を投与した。また、control群およびOVA群には普通試料を与え、CBD全期間群には感作初日から、CBD惹起相群には感作終了(OVA経口投与)時点から、CBDを0.02%含む試料(50mg/kg/day)を、それぞれ混餌投与した。OVA最終投与から1時間後までの糞便を回収し、糞中水分量を算出して、OVA誘発消化管アレルギーモデルマウスに対するCBDの投与期間の影響を評価した。
【0036】
図5は、実験例1-2の投与期間の影響の結果を示すグラフである。CBD(50mg/kg/day)を感作初日から投与したときの糞中水分量はOVA群と比較して有意に低く、下痢の発症が抑制された。これに対して、CBD(50mg/kg/day)を感作終了時点から投与しても下痢の発症の抑制効果は認められなかった。このことから、CBDは、感作初日から継続的に投与することで、オボアルブミン(OVA)誘発消化管アレルギー症状を抑制することができた。
【0037】
本発明における、マウスへのCBD投与量(50mg/kg/day)は、体重60kgのヒト等価用量に換算すると、約4mg/kgである。これまでに、健康なヒトに対してCBDを600mg投与しても血圧や心拍数に影響を及ぼさないこと、依存性や乱用が認められなかったことが報告されている(Martin-Santos R,他10名,“Acute effects of a single,oral dose of d9-tetrahydrocannabinol(THC) and cannabidiol(CBD) adminnistration in healthy volunteers.”,Curr.Pharm.Des.,18,4966-4979‘2012).)。
【0038】
(実験例2)
(試薬)
カンナビジオール(CBD)は、PharmaHemp Laboratories(リュブリャナ,スロベニア)から購入したCBD crystalline powder(Batch No.CB099020171A)を使用した。なお、本パウダー中には、カンナビジオールは、99.34質量%含まれている。また、TRI Reagent、オボアルブミン(OVA)およびアルミニウムゲルは、Sigma Aldrich(セントルイス,ミズリー州,米国)から購入して使用した。High Capacuty cDNA synthesis kitは、Applied Biosystems(フォスターシティー ,カルフォルニア州,米国)から購入したものを使用した。SsoAdvanced(登録商標) Universal SYSR(登録商標) Green Supermixは、Bio-Rad Laboratries(ハーキュリーズ,カルフォルニア州,米国)から購入したものを使用した。各種プライマーは、北海道システム・サイエンス株式会社から購入したものを使用した。FSC22 Frozen Section Mediaは、Lesica Biosystems(ヌスロッホ,ドイツ)から購入したものを使用した。Rat anti-mouse CD4 antibodyはBiolegend Inc.(サンディエイゴ,カルフォルニア州,米国)から購入したものを使用した。Alexa Flour 488 donkey anti-rat IgG(H+L)は、Thermo Fisher scientific Inc.(ウォルサム,マサチューセッツ州,米国)から購入したものを使用した。VECTASHIELD mounting medium with 4’,6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)は、VECTOR Laboratories Inc.(ニューアーク,ニュージャージー州,米国)から購入したものを使用した。その他の試薬は、市販品のうち最も純度の高いものを使用した。
【0039】
(使用動物)
6週齢の雄性BALB/c系マウスは、日本エスエルシー株式会社(静岡県浜松市)から購入した。マウスは、温度24±1℃、湿度55±5%の施設において飼育し、明暗条件は午前8時点灯、20時消灯の条件下で飼育した。本実験を行うにあたり、科学的にはもとより、動物福祉の観点からも適切な動物実験の実施を促すことを目的として制定された星薬科大学動物実験指針に従い、星薬科大学の動物実験委員会の承認を得たうえで、動物に対する倫理面を十分に考慮した。
【0040】
(マウスの処置)
マウスを3群にわけ、コントロール(control)群(以下、「control群」と称す)、オボアルブミン(OVA)群(以下、「OVA群」と称す)、OVA+カンナビジオール(CBD)群(以下、「CBD併用群」と称す)とした。OVA群、CBD併用群には、アジュバンドとして水酸化アルミニウムゲル(最終濃度:1mg/mL)を含むOVA(50μg/mL)・phosphate-buffered saline(PBS)溶液0.2mLを腹腔内投与した。2週間後に同様の処置を行い、合計2回の感作を行った。最終感作から2週間後、OVA群、CBD併用群には、OVA(200mg/mL)水溶液0.25mLを2日に1回、計4回経口投与した。control群には感作期間中はPBS、惹起期間中は精製水を投与した。また、control群およびOVA群には普通試料を、CBD併用群にはCBDを0.02%含む試料(50mg/kg/day)を、それぞれ感作初日から実験最終日まで混餌投与した。OVAの最終経口投与から1時間後に、イソフルラン麻酔下で小腸および大腸の中央部(空腸および結腸に相当する)5mm片を採取し、液体窒素で瞬間凍結した。また、血液を採取し、3,000×g、4℃、15分間遠心分離した後、上清を血漿サンプルとして保存した。
【0041】
(マストセルプロテアーゼ-1(Mcpt-1)の濃度の測定)
血中Mcpt-1の濃度は、enzyme-linked immuno-sorbent assay(ELISA)によって測定した。具体的には、マウスMcpt-1(mMcpt-1) Unocoated ELISA kit(Thermo Fisher scientific Inc.)のプロトコルに従い、96ウェルプレートをcapture antibodyでコーティングした。マウス血漿サンプルをプレートに添加し、biotin-conjugated anti-mouse Mcpt-1antibody とインキュベートした後、avidin-horseradish peroxidase(HRP)と反応させ、450nmおよび570nmの吸光度を測定した。
【0042】
(OVA特異的IgE抗体濃度の測定)
血中OVA特異的IgE抗体濃度は、ELSIAによって測定した。具体的には、LEGEND MAX(登録商標) Mouse OVA specific IgE ELISA kit(Biolegend Inc.)のプロトコルに従い、マウス血漿サンプルを96ウェルプレートに添加し、mouse OVA specific antibodyとインキュベート後、avidin-HRPと反応させ、450nmおよび570nmの吸光度を測定した。
【0043】
(C-C motif chemokine ligand(CCL)2濃度の測定)
血中CCL2濃度は、ELISAによって測定した。具体的には、Quantikine ELISA Mouse CCL2/JE/MCP-1 Immunoassay(R&D systems Inc., ミネアポリス,ミネソタ州,米国)のプロトコルに従い、マウス血漿サンプルを96ウェルプレートに添加し、polyclonal antibody specific for mouse MCP-1 conjugated to HRPと反応させ、450nmおよび570nmの吸光度を測定した。
【0044】
(小腸および大腸からのトータルRNA精製)
小腸または大腸約20mgからTRI Reagentを用いてトータルRNAを抽出した。得られた溶液をnanodrop-liete(Thermo Fisher scientific Inc.)により260nmおよび280nmの吸光度を測定し、純度の確認およびRNA濃度(ng/μL)を算出した。
【0045】
(Real-Time RT-PCR)
RNA 1μgからhigh capacity cDNA synthesis kitを用いてcDNAを合成した。下記表1に示す各種プライマーを作成し、Real-Time PCRを行い、各遺伝子の発現を検出した。すなわち、PCRプレートの各ウェルへSsoAdvanced(登録商標) Universal SYBR(登録商標) Green Supermix 5μL、目的遺伝子のforward primer (5pmol/μL)0.6μL、reverse primer (5pmol/μL)0.6μL、cDNA溶液2μL、RNase free water 2.8μLを加えた。温度条件はdenaturation temperatureとして72℃で30秒とした。増幅過程の蛍光強度をCFX Connect Real-Time System(Bio-Rad Laboratories)によりモニタリングした。mRNA発現量は18SrRNAを用いてノーマライズした。なお、表1中、ILは、インターロイキン、SOCSは(suppressor of cytokine signaling)を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
(蛍光免疫組織化学染色)
OVA最終投与1時間後の大腸の中央部(結腸に相当する)10mm片を採取し、4質量%パラホルムアルデヒド-PBS溶液に浸漬させ、組織を固定した。FSC22Frozen Section Mediaを用いて組織を包埋し、10μmの厚さの切片をスライドガラス上に作製した。スライドガラスは、blocking solution(0.001質量%Triton-X、0.03質量%fetal bovine serum in PBS)で処理した後、rat anti-mouse CD4 antibody、次いで、Alexa Flour 488 donkey anti-rat IgG(H+L)と反応させた。VECTASHIELD mounting medium with DAPIで封入した後、顕鏡した。
【0048】
(統計学的有意差検定)
実験値はmean±standard error(S.E.)として表示した。統計学的有意差検定にはターキーズテスト(Tukey’s test)を用い、危険率5%未満(p<0.05)の場合に有意な差があるとした。
【0049】
(実験例2-1)
(Mcpt-1濃度およびOVA特異的IgE抗体濃度に及ぼすCBDの影響)
図6は、実験例2-1のMcpt-1の濃度(Plasma concentration)の結果を示すグラフであり、図7は、実験例2-1のIgE抗体の濃度(Plasma concentration)の結果を示すグラフである。図6から、腸粘膜マスト細胞から産生されるセリンプロテアーゼ(Mcpt)-1の血中濃度は、OVA群は、OVAの投与により、control群と比較して有意に増加した。これに対して、CBDを併用したCBD併用群は、OVAによるMcpt-1の濃度が低くなり、OVAによるMcpt-1の産生を抑制した。また、このときのOVA特異的IgE抗体の血中濃度は、図7に示すように、OVA群とCBD併用群との間に有意な差は認められなかった。このことから、CBDは、OVA特異的IgE抗体の産生量に影響を及ぼすことなく、マスト細胞の活性化を抑制した。
【0050】
(実験例2-2)
(小腸および大腸におけるIL-4の発現量に対するCBDの効果)
図8は、実験例2-2の小腸におけるIL-4のmRNAの発現量(Relactiveexpression)の結果を示すグラフであり、図9は、実験例2-2の大腸におけるIL-4のmRNAの発現量(Relactiveexpression)の結果を示すグラフである。小腸におけるIL-4のmRNAの発現量(Relactiveexpression)を調べたところ、OVA群ではcontrol群と比較して約30倍増加していた。また、大腸におけるIL-4のmRNAの発現量(Relactiveexpression)を調べたところ、OVA群ではcontrol群と比較して約150倍増加していた。これに対して、CBDを併用したCBD併用群は、小腸および大腸のいずれにおいても、OVAによるIL-4のmRNAの発現量(Relactiveexpression)が、有意に抑制された。このことから、CBDは、小腸および大腸において、OVAによるIL-4の発現増加を抑制した。
【0051】
(実験例2-3)
(小腸および大腸におけるTh2サイトカインの産生能に対するCBDの効果)
図10は、実験例2-3の小腸におけるSOCS-3のmRNAの発現量(Relactiveexpression)の結果を示すグラフであり、図11は、実験例2-3の大腸におけるSOCS-3のmRNAの発現量(Relactiveexpression)の結果を示すグラフである。小腸におけるSOCS-3のmRNAの発現量(Relactiveexpression)を調べたところ、OVA群ではcontrol群と比較して約4.5倍増加していた。また、大腸におけるSOCS-3のmRNAの発現量(Relactiveexpression)を調べたところ、OVA群ではcontrol群と比較して約10倍増加していた。これに対して、CBDを併用したCBD併用群は、小腸および大腸のいずれにおいても、OVAによるSOCS-3のmRNAの発現量(Relactiveexpression)が、有意に抑制された。また、図12は、実験例2-3の大腸におけるCCL2血中濃度(Plasma concentration)の結果を示すグラフである。Th2細胞の分化調節に関わるCCL2の血中濃度(Plasma concentration)は、OVA群では顕著な増加が認められたのに対して、CBDを併用したCBD併用群は、この増加が抑制された。Th2細胞において、IL-4の産生能と相関するSOCS-3のmRNAの発現量およびTh2細胞の分化調節に関わるCCL2の血中濃度の結果から、CBDは、小腸および大腸において、Th2細胞の活性化を抑制した。
【0052】
(実験例2-4)
(大腸におけるCD4陽性細胞の浸潤に対するCBDの効果)
図13は、実験例2-4の大腸におけるCD4陽性細胞の浸潤に対するCBDの効果を示すグラフであり、Th2細胞の膜表面に認められるCD4抗原を染色することにより、大腸粘膜におけるTh2細胞数を示したものである。OVA群ではCD4陽性細胞が多数認められたのに対して、CBDを併用したCBD併用群では、CD4陽性細胞がcontrol群と同程度であった。このことから、CBDは、大腸粘膜へのTh2細胞の浸潤を抑制した。
【0053】
(実施例1、比較例1)
実施例1の鶏卵アレルギー抑制組成物および比較例1の組成物を作成した。
【0054】
実施例1の鶏卵アレルギー抑制組成物は、比較例1の組成物よりOVA誘発消化管アレルギー症状抑制効果が良好であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13