(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025069038
(43)【公開日】2025-04-30
(54)【発明の名称】液体センサ及び検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/02 20060101AFI20250422BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20250422BHJP
【FI】
G01N27/02 Z
G01N27/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024021143
(22)【出願日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2023178810
(32)【優先日】2023-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】株式会社PILLAR
(74)【代理人】
【識別番号】100150072
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 賢司
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中津 彰
(72)【発明者】
【氏名】夏原 悠佑
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA05
2G060AC02
2G060AE30
2G060AF03
2G060AF06
2G060AF07
2G060AF10
2G060AG03
2G060FA01
2G060HA02
2G060HC02
2G060HC10
2G060KA05
(57)【要約】
【課題】液体の劣化度と相関を有するパラメータを検出可能な液体センサ及び検出方法を提供する。
【解決手段】液体センサは、一対の電極と、制御部とを備える。一対の電極は、液体に浸漬された状態で使用される。制御部は、一対の電極間に印加される交流電圧の周波数を掃引する。制御部は、周波数毎に液体のインピーダンスを検出し、かつ、インピーダンスと相関を有する値又はインピーダンスである第1パラメータに関連する第2パラメータを算出する。第2パラメータは、第1変化度と第2変化度との差分である。第1変化度及び第2変化度の各々は、周波数の変化量に対する第1パラメータの変化量を示す。液体センサは、記憶部を更に備える。記憶部は、液体の劣化度と相関を有する第3パラメータと第2パラメータとの対応関係を示す関係情報を記憶する。制御部は、第2パラメータ及び関係情報に基づいて第3パラメータを検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体に浸漬された状態で使用される一対の電極と、
前記一対の電極間に印加される交流電圧の周波数を掃引する制御部とを備え、
前記制御部は、前記周波数毎に前記液体のインピーダンスを検出し、かつ、前記インピーダンスと相関を有する値又は前記インピーダンスである第1パラメータに関連する第2パラメータを算出し、
前記第2パラメータは、第1変化度と第2変化度との差分であり、
前記第1変化度及び前記第2変化度の各々は、前記周波数の変化量に対する前記第1パラメータの変化量を示し、
前記液体の劣化度と相関を有する第3パラメータと前記第2パラメータとの対応関係を示す関係情報を記憶する記憶部をさらに備え、
前記制御部は、前記第2パラメータ及び前記関係情報に基づいて前記第3パラメータを検出する、液体センサ。
【請求項2】
前記第1パラメータは、前記液体の抵抗値、又は、前記液体の静電容量である、請求項1に記載の液体センサ。
【請求項3】
前記第3パラメータは、前記液体の塩基価、又は、前記液体の酸価である、請求項1又は請求項2に記載の液体センサ。
【請求項4】
前記液体の温度を検出する温度センサをさらに備え、
前記関係情報は、前記液体の温度毎に設けられており、
前記制御部は、前記液体の温度、前記液体の温度に対応する前記関係情報、及び、前記第2パラメータに基づいて前記第3パラメータを検出する、請求項1又は請求項2に記載の液体センサ。
【請求項5】
前記制御部は、検出された前記第3パラメータの値に応じて、前記第1パラメータとして前記抵抗値及び前記静電容量のいずれを用いるかを切り替える、請求項2に記載の液体センサ。
【請求項6】
液体に浸漬された状態の一対の電極間に印加される交流電圧の周波数を掃引するステップと、
前記周波数毎に前記液体のインピーダンスを検出するステップと、
前記インピーダンスと相関を有する値又は前記インピーダンスである第1パラメータに関連する第2パラメータを算出するステップとを含み、
前記第2パラメータは、第1変化度と第2変化度との差分であり、
前記第1変化度及び前記第2変化度の各々は、前記周波数の変化量に対する前記第1パラメータの変化量を示し、
前記液体の劣化度と相関を有する第3パラメータと前記第2パラメータとの対応関係を示す関係情報を記憶するステップと、
前記第2パラメータ及び前記関係情報に基づいて前記第3パラメータを検出するステップとをさらに含む、検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体センサ及び検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第6910037号公報(特許文献1)は、オイル状態判定システムを開示する。このオイル状態判定システムにおいては、オイルの抵抗値が測定され、オイルの抵抗値の変化傾向が減少傾向から増加傾向に反転した場合にオイルの酸化状態が変化したと判定される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されているオイル状態判定システムにおいては、オイル(「液体」の一例)の酸化状態の変化が判定される一方、オイルの劣化度と相関を有するパラメータが検出されない。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、液体の劣化度と相関を有するパラメータを検出可能な液体センサ及び検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある局面に従う液体センサは、一対の電極と、制御部とを備える。一対の電極は、液体に浸漬された状態で使用される。制御部は、一対の電極間に印加される交流電圧の周波数を掃引する。制御部は、周波数毎に液体のインピーダンスを検出し、かつ、インピーダンスと相関を有する値又はインピーダンスである第1パラメータに関連する第2パラメータを算出する。第2パラメータは、第1変化度と第2変化度との差分である。第1変化度及び第2変化度の各々は、周波数の変化量に対する第1パラメータの変化量を示す。液体センサは、記憶部をさらに備える。記憶部は、液体の劣化度と相関を有する第3パラメータと第2パラメータとの対応関係を示す関係情報を記憶する。制御部は、第2パラメータ及び関係情報に基づいて第3パラメータを検出する。
【0007】
本発明者(ら)は、液体の劣化度と相関を有する第3パラメータと第2パラメータとが比較的高い相関を有することを見出した。この液体センサにおいては、第3パラメータと第2パラメータとの対応関係を示す関係情報と、算出された第2パラメータとに基づいて第3パラメータが検出される。したがって、この液体センサによれば、第3パラメータを比較的高精度に検出することができる。
【0008】
上記液体センサにおいて、第1パラメータは、液体の抵抗値、又は、液体の静電容量であってもよい。
【0009】
上記液体センサにおいて、第3パラメータは、液体の塩基価、又は、液体の酸価であってもよい。
【0010】
上記液体センサは、液体の温度を検出する温度センサをさらに備えてもよく、関係情報は、液体の温度毎に設けられてもよく、制御部は、液体の温度、液体の温度に対応する関係情報、及び、第2パラメータに基づいて第3パラメータを検出してもよい。
【0011】
本発明者(ら)は、第3パラメータと第2パラメータとの関係性が液体の温度の影響を受け得ることを見出した。この液体センサにおいては、液体の温度、液体の温度に対応する関係情報、及び、第2パラメータに基づいて第3パラメータが検出される。したがって、この液体センサによれば、液体の温度が考慮された上で第3パラメータが検出されるため、第3パラメータをより高精度に検出することができる。
【0012】
上記液体センサにおいて、制御部は、検出された第3パラメータの値に応じて、第1パラメータとして抵抗値及び静電容量のいずれを用いるかを切り替えてもよい。
【0013】
本発明者(ら)は、抵抗値に基づいて算出された第2パラメータ、及び、静電容量に基づいて算出された第2パラメータのいずれが第3パラメータとより高い相関を有するかが第3パラメータの値によって変わることを見出した。この液体センサにおいては、第1パラメータとして抵抗値及び静電容量のいずれを用いるかが、検出された第3パラメータの値に応じて切り替えられる。したがって、この液体センサによれば、第3パラメータとより高い相関を有する第2パラメータが第3パラメータの検出に用いられるため、第3パラメータをより高精度に検出することができる。
【0014】
本発明の他の局面に従う検出方法は、液体に浸漬された状態の一対の電極間に印加される交流電圧の周波数を掃引するステップと、周波数毎に液体のインピーダンスを検出するステップと、インピーダンスと相関を有する値又はインピーダンスである第1パラメータに関連する第2パラメータを算出するステップとを含む。第2パラメータは、第1変化度と第2変化度との差分である。第1変化度及び第2変化度の各々は、周波数の変化量に対する第1パラメータの変化量を示す。検出方法は、液体の劣化度と相関を有する第3パラメータと第2パラメータとの対応関係を示す関係情報を記憶するステップと、第2パラメータ及び関係情報に基づいて第3パラメータを検出するステップとをさらに含む。
【0015】
この検出方法においては、第3パラメータと第2パラメータとの対応関係を示す関係情報と、算出された第2パラメータとに基づいて第3パラメータが検出される。したがって、この検出方法によれば、第3パラメータを比較的高精度に検出することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、液体の劣化度と相関を有するパラメータを検出可能な液体センサ及び検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】液体の並列等価回路を模式的に示す図である。
【
図3】一対の電極間に印加される交流電圧(入力信号)と、一対の電極を含む回路において生じる電流(測定信号)との関係の一例を模式的に示す図である。
【
図4】インピーダンス、抵抗値、静電容量及び位相差の関係を模式的に示す図である。
【
図5】関係情報の生成手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】抵抗値の検出を通じて生成されるグラフの一例を模式的に示す図である。
【
図7】第1及び第2変化度の算出方法を説明するための図である。
【
図8】関係情報を用いて検出された液体の塩基価(推定値)と、液体の塩基価の分析値との関係の一例を示す図である。
【
図9】1つの変化度を第2パラメータとした場合における、関係情報を用いて検出された液体の塩基価(推定値)と、液体の塩基価の分析値との関係の一例を示す図である。
【
図10】液体センサにおける液体の塩基価の検出手順を示すフローチャートである。
【
図11】液体の酸価を第3パラメータとした場合における、関係情報を用いて検出された液体の酸価(推定値)と、液体の酸価の分析値との関係の一例を示す図である。
【
図12】第3パラメータの検出に使用する関係情報を特定する手順を示すフローチャートである。
【
図13】第1パラメータの変更に関するイメージを説明するための図である。
【
図14】液体センサにおける液体の塩基価の検出手順の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施の形態」とも称する。)について、図面を用いて詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。また、各図面は、理解の容易のために、適宜対象を省略又は誇張して模式的に描かれている。
【0019】
[1.液体センサの構成]
図1は、本実施の形態に従う液体センサ10の構成を模式的に示す図である。液体センサ10は、タンク20内に取り付けられ、液体L1(例えば、オイル)の劣化度と相関を有するパラメータ(例えば、塩基価)を検出するように構成されている。例えば、液体センサ10は、車両等のオイルタンク内や配管に取り付けられ、オイルの塩基価を検出する。オイルの塩基価は、オイルの劣化度と相関を有する。液体センサ10は、少なくとも一部分が液体L1に浸漬された状態で使用される。
【0020】
図1に示されるように、液体センサ10は、検出システム100と、基板110とを含んでいる。液体センサ10の使用時に、基板110は、液体L1に浸漬される。基板110の形状は、例えば、平面視において略矩形状である。基板110は、基板本体111と、一対の電極112と、温度センサ113とを含んでいる。基板本体111は、いわゆるフッ素樹脂基板である。フッ素樹脂基板が耐候性及び耐薬性に優れるため、基板本体111を含む基板110は過酷環境での使用に耐え得る。なお、基板本体111は、必ずしもフッ素樹脂基板で構成される必要はないが、例えば、耐薬性に優れた基板で構成されることが好ましい。
【0021】
一対の電極112は、基板本体111上に形成されている。一対の電極112は、液体L1のインピーダンスの検出に用いられる。各電極112は、櫛歯形状を有している。基板110において、一対の電極112は、各電極112の歯部分が交互に位置するように配置されている。一対の電極112は、例えば、基板本体111の一面に形成された導電層をパターニングすることによって形成される。
【0022】
温度センサ113は、基板本体111上に実装されている。温度センサ113は、液体L1の温度検出に用いられる。温度センサ113は、例えば、測温抵抗体(RTD)、サーミスタ又は熱電対等の温度検出素子によって構成される。なお、温度センサ113は、必ずしも必要ではない。
【0023】
検出システム100は、記憶部106と、測定部102と、制御部104と、通知部108とを含んでいる。記憶部106は、例えば、フラッシュメモリ等の補助記憶装置で構成される。記憶部106は、例えば、液体L1の塩基価の検出に用いられる「関係情報」を記憶する。関係情報については、後程詳しく説明する。
【0024】
測定部102は、例えば、電源及び電流計を含む。測定部102は、一対の電極112間に測定電圧(交流電圧)を印加すると共に、一対の電極112を含む回路において生じる電流を測定する。また、測定部102は、例えば、温度センサ113に測定電圧を印加すると共に温度センサ113を含む回路において生じる電流を測定する。
【0025】
制御部104は、例えば、演算回路、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)を含む。制御部104は、例えば、一対の電極112間に印加された電圧の値、及び、一対の電極112を含む回路において生じた電流の値に基づいて一対の電極112間のインピーダンスを検出する。一対の電極112の全体が液体L1に浸漬されている場合には、一対の電極112間のインピーダンスが液体L1のインピーダンスとみなされる。
【0026】
詳細については後述するが、制御部104は、液体L1の塩基価の検出に液体L1の電気抵抗値(以下、単に「抵抗値」とも称する。)を用いる。制御部104は、液体L1のインピーダンスに基づいて液体L1の抵抗値を算出する。液体L1のインピーダンスに基づいて液体L1の抵抗値を算出する手順の一例について次に説明する。
【0027】
図2は、液体L1の並列等価回路を模式的に示す図である。
図2に示されるように、液体L1は、抵抗とコンデンサとが並列接続された回路と電気的に等価とみなすことができる。すなわち、液体L1のインピーダンスZ1は、抵抗値R1と静電容量C1とに分離可能である。
【0028】
図3は、一対の電極112間に印加される交流電圧(入力信号)と、一対の電極112を含む回路において生じる電流(測定信号)との関係の一例を模式的に示す図である。
図3を参照して、横軸は時間を示し、縦軸は電圧値又は電流値を示す。この例においては、入力信号の位相と測定信号の位相との差がθである。制御部104は、入力信号及び測定信号に基づいて位相差θを検出する。
【0029】
図4は、インピーダンスZ1、抵抗値R1、静電容量C1及び位相差θの関係を模式的に示す図である。
図4を参照して、制御部104は、検出されたインピーダンスZ1にcosθを積算することによって抵抗値R1を算出する。このような手順によって、制御部104は、液体L1のインピーダンスZ1に基づいて液体L1の抵抗値R1を算出する。詳細については後述するが、制御部104は、液体L1の抵抗値R1及び関係情報等を用いることによって液体L1の塩基価を検出する。
【0030】
再び
図1を参照して、制御部104は、例えば、温度センサ113に印加された電圧、及び、温度センサ113を含む回路において生じた電流に基づいて温度センサ113の抵抗値を検出する。制御部104は、温度センサ113の抵抗値に基づいて液体L1の温度を検出する。記憶部106には、例えば、温度と抵抗値との関係が予め記憶されている。
【0031】
通知部108は、例えば、ディスプレイを含む。通知部108は、例えば、制御部104によって検出された塩基価を示す画像を表示する。これにより、液体L1の塩基価がユーザに通知される。
【0032】
[2.関係情報を用いた塩基価の検出]
例えば、オイル(液体L1の一例)の酸化状態の変化を検出し、オイルの交換タイミングを判定する技術が存在する。しかしながら、このような技術によっては、液体L1の劣化度と相関を有するパラメータ(例えば、塩基価)が直接的に検出されるわけではない。一方、液体L1の劣化度と相関を有するパラメータが直接的に検出されれば、例えば、液体L1の交換タイミングをより高精度に判定することが可能となる。
【0033】
第1パラメータ、第2パラメータ及び第3パラメータを次のように定義する。第1パラメータは、液体L1のインピーダンスZ1と相関を有する値又はインピーダンスZ1自体に対応するパラメータ(例えば、液体L1の抵抗値R1)である。第2パラメータは、第1変化度と第2変化度との差分である。制御部104は、一対の電極112間に印加する測定電圧の周波数を掃引するように構成されている。制御部104は、複数の所定の周波数(例えば、周波数f1,f2,f3,f4(f1<f2<f3<f4))の各々の測定電圧が印加された場合における液体L1の抵抗値R1を検出するように構成されている。第1変化度及び第2変化度の各々は、周波数の変化量に対する第1パラメータの変化量を示す(例えば、第1変化度が、周波数f4-(マイナス)周波数f1に対する第1パラメータの変化量であり、第2変化度が、周波数f3-(マイナス)周波数f2に対する第1パラメータの変化量である。)。第3パラメータは、液体L1の劣化度と相関を有するパラメータ(例えば、液体L1の塩基価)である。
【0034】
本発明者(ら)は、液体L1の劣化度と相関を有する第3パラメータと第2パラメータとが比較的高い相関を有することを見出した。本実施の形態に従う液体センサ10においては、上記関係情報が第3パラメータと第2パラメータとの対応関係を示し、算出された第2パラメータと関係情報とに基づいて第3パラメータが検出される。したがって、液体センサ10によれば、第3パラメータを比較的高精度に検出することができる。上述のように、関係情報は、予め生成され、記憶部106に記憶されている。関係情報の生成手順について次に説明する。
【0035】
図5は、関係情報の生成手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示される各工程は、制御部104又は作業者によって行なわれる。なお、各々が互いに異なる塩基価を有する複数の試料(液体L1)が事前に準備されており、複数の試料のいずれかがタンク20(
図1)に入った状態でこのフローチャートに示される工程が開始される。また、複数の試料の各々の実際の塩基価は予め測定されている。
【0036】
図5を参照して、制御部104は、各周波数の測定電圧が一対の電極112間に印加された状態で液体L1の抵抗値R1を検出し(ステップS100)、全試料に関し予め定められた全周波数で抵抗値の検出を完了させる(ステップS110)。
【0037】
図6は、液体L1の抵抗値R1の検出を通じて生成されるグラフの一例を模式的に示す図である。この図は、特定の試料に関する、測定電圧の周波数と抵抗値R1との関係を示す。
図6を参照して、横軸は測定電圧の周波数を示し、縦軸は検出された抵抗値R1を示す。各点P1は、特定の周波数の測定電圧が一対の電極112間に印加された場合における特定の試料(液体L1)の抵抗値R1を示す。各試料に関し測定電圧の掃引と抵抗値R1の検出とが繰り返されることによって、全試料の各々に関し
図6に示されるようなグラフが生成される。
【0038】
図7は、第1及び第2変化度について説明するための図である。
図7を参照して、上述のように、各点P1は、特定の周波数の測定電圧が一対の電極112間に印加された場合における特定の試料(液体L1)の抵抗値R1を示す。変化度DC1は第1変化度の一例であり、変化度DC2は第2変化度の一例である。変化度DC1,DC2の各々は、測定電圧の周波数の変化量に対する抵抗値R1(第1パラメータ)の変化量を示す。この例においては、変化度DC1は、周波数f3-(マイナス)周波数f2に対する抵抗値R1の変化量を示し、変化度DC2は、周波数f4-(マイナス)周波数f1に対する抵抗値R1の変化量を示す。変化度DC1,DC2の各々は、各々が測定電圧の周波数と抵抗値R1との対応関係を示す任意の2つの点を結んだ直線の傾きともいえる。
【0039】
再び
図5を参照して、作業者は、全試料に関し、第1及び第2変化度の特定の組合せにおける第1変化度と第2変化度との差分のプロットを行なう(ステップS120)。これにより、第1及び第2変化度の差分と、液体L1の塩基価との対応関係を示すグラフが生成される。作業者は、全試料に関する第1及び第2変化度の特定の組合せにおける第1及び第2変化度の差分のプロットを、第1及び第2変化度の全組合せに関し完了させる(ステップS130)。これにより、第1及び第2変化度の組合せ毎に、第1及び第2変化度の差分と、液体L1の塩基価との対応関係を示すグラフが生成される。
【0040】
作業者は、生成された各グラフ(各プロット結果)に基づいて、相関係数を算出する(ステップS140)。相関係数の算出には、例えば、公知の種々の方法が用いられる。相関係数の算出は、例えば、コンピュータを使用することによって行なわれる。作業者は、相関係数が最大となったグラフに基づいて「関係情報」を生成する(ステップS150)。このような手順によって関係情報が生成される。関係情報は、例えば、一次関数、二次関数又は三次以上の関数であってもよい。なお、関係情報においては、相関係数が最大となったグラフの生成に用いられた第1及び第2変化度の組合せにおける第1及び第2変化度の差分と、液体L1の塩基価(第3パラメータの一例)との対応関係が示される。すなわち、関係情報においては、第1変化度を算出するときの2つの周波数が予め定められており、第2変化度を算出するときの2つの周波数が予め定められている。
【0041】
図8は、本実施の形態に従う液体センサ10によって関係情報を用いて検出された液体L1の塩基価(推定値)と、液体L1の塩基価の分析値との関係の一例を示す図である。
図8を参照して、横軸は分析値を示し、縦軸は推定値又は誤差を示す。白色の各点P2は特定の分析値を有する液体L1に関する推定値を示し、黒色の各点P3は推定値と分析値との誤差を示す。基準線RL1はJIS規格(JIS K 2501:2003 電位差滴定法(塩基価・塩酸法))で定められた誤差の上限を示し、基準線RL2はJIS規格で定められた誤差の下限を示す。
【0042】
図8に示されるように、各推定値の誤差がJIS規格で定められた誤差の範囲内に収まっている。このことからも、第2パラメータ(第1変化度と第2変化度との差分)と第3パラメータ(例えば、塩基価)とは高い相関を有することが分かる。本実施の形態に従う液体センサ10においては、関係情報が第3パラメータと第2パラメータとの対応関係を示し、算出された第2パラメータと関係情報とに基づいて第3パラメータが検出される。したがって、液体センサ10によれば、第3パラメータを比較的高精度に検出することができる。
【0043】
仮に、第2パラメータが、第1変化度と第2変化度との差分ではなく、1つの変化度(周波数の変化量に対する第1パラメータの変化量)であるとする。この場合に、第3パラメータと第2パラメータとの対応関係を示す関係情報が予め生成されているとする。また、この関係情報を用いて液体L1の塩基価が推定されるとする。
【0044】
図9は、1つの変化度を第2パラメータとした場合における、関係情報を用いて検出された液体L1の塩基価(推定値)と、液体L1の塩基価の分析値との関係の一例を示す図である。
図9に示されるように、いくつかの推定値の誤差がJIS規格で定められた誤差の範囲内に収まっていない。1つの変化度を第2パラメータとした場合には、第2パラメータと第3パラメータとが高い相関を有しないことが分かる。
【0045】
本実施の形態に従う液体センサ10においては、第1変化度と第2変化度との差分が第2パラメータとされ、その上で、算出された第2パラメータと関係情報とに基づいて第3パラメータが検出される。したがって、液体センサ10によれば、第3パラメータを比較的高精度に検出することができる。
【0046】
[3.塩基価の検出手順]
図10は、液体センサ10における液体L1の塩基価の検出手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、制御部104によって実行される。
【0047】
図10を参照して、制御部104は、所定周波数(例えば、関係情報において予め定められている4つの周波数のうちのいずれかの周波数)の測定電圧が一対の電極112間に印加された状態で液体L1の抵抗値R1(第1パラメータ)を検出する(ステップS200)。制御部104は、予め定められた複数(例えば、4つ)の所定周波数の各々の測定電圧が一対の電極112間に印加された状態で抵抗値R1の検出が行なわれたか否かを判定する(ステップS210)。少なくとも一部の周波数に関して抵抗値R1の検出が完了していないと判定されると(ステップS210においてNO)、制御部104は、測定電圧の周波数を掃引するように測定部102を制御する(ステップS220)。その後、ステップS200の処理が再び行なわれる。
【0048】
全ての所定周波数に関して抵抗値R1の検出が完了したと判定されると(ステップS210においてYES)、制御部104は、抵抗値R1の各検出結果に基づいて第1及び第2変化度を算出する(ステップS230)。制御部104は、第1変化度と第2変化度との差分(第2パラメータ)を算出する(ステップS240)。制御部104は、記憶部106に記憶されている関係情報(例えば、関数)に第2パラメータを代入することによって液体L1の塩基価(第3パラメータ)を検出する(ステップS250)。
【0049】
[4.特徴]
以上のように、本実施の形態に従う液体センサ10は、一対の電極112と、制御部104とを備える。一対の電極112は、液体L1に浸漬された状態で使用される。制御部104は、一対の電極112間に印加される交流電圧の周波数を掃引する。制御部104は、周波数毎に液体L1のインピーダンスを検出し、かつ、インピーダンスと相関を有する値又はインピーダンスである第1パラメータ(例えば、抵抗値R1)に関連する第2パラメータを算出する。第2パラメータは、第1変化度と第2変化度との差分である。第1変化度及び第2変化度の各々は、周波数の変化量に対する第1パラメータの変化量を示す。液体センサ10は、記憶部106をさらに備える。記憶部106は、液体L1の劣化度と相関を有する第3パラメータ(例えば、塩基価)と第2パラメータとの対応関係を示す関係情報を記憶する。制御部104は、第2パラメータ及び関係情報に基づいて第3パラメータを検出する。液体センサ10によれば、第3パラメータと第2パラメータとが比較的高い相関を有し、かつ、第3パラメータと第2パラメータとの対応関係を示す関係情報と第2パラメータとに基づいて第3パラメータが検出されるため、第3パラメータを比較的高精度に検出することができる。
【0050】
[5.他の実施の形態]
上記実施の形態の思想は、以上で説明された実施の形態に限定されない。以下、上記実施の形態の思想を適用できる他の実施の形態の一例について説明する。
【0051】
<5-1>
上記実施の形態においては、第1パラメータが液体L1の抵抗値R1とされた。しかしながら、第1パラメータは、必ずしも液体L1の抵抗値R1でなくてもよい。第1パラメータは、例えば、液体L1の静電容量C1であってもよいし、液体L1のインピーダンスZ1であってもよい。液体L1の静電容量C1又はインピーダンスZ1を第1パラメータとした上で関係情報が予め生成され、液体L1の静電容量C1又はインピーダンスZ1を第1パラメータとした上で
図10に示されるフローチャートに従って液体L1の第3パラメータが検出されてもよい。
【0052】
<5-2>
上記実施の形態においては、第3パラメータが液体L1の塩基価とされた。しかしながら、第3パラメータは、必ずしも液体L1の塩基価でなくてもよい。第3パラメータは、例えば、液体L1の酸価であってもよい。液体L1の酸価を第3パラメータとした上で関係情報が予め生成され、液体L1の酸価を第3パラメータとした上で
図10に示されるフローチャートに従って液体L1の第3パラメータが検出されてもよい。
【0053】
図11は、液体L1の酸価を第3パラメータとした場合における、関係情報を用いて検出された液体L1の酸価(推定値)と、液体L1の酸価の分析値との関係の一例を示す図である。
図11を参照して、横軸は分析値を示し、縦軸は推定値又は誤差を示す。白色の各点P4は特定の分析値(酸価)を有する液体L1に関する推定値(酸価)を示し、黒色の各点P5は推定値と分析値との誤差を示す。基準線RL3はJIS規格(JIS K 2501:2003 電位差滴定法(酸価))で定められた誤差の上限を示し、基準線RL4はJIS規格で定められた誤差の下限を示す。
図11に示されるように、各推定値の誤差がJIS規格で定められた誤差の範囲内に収まっている。
【0054】
<5-3>
上記実施の形態においては、第3パラメータの検出に常に同一の関係情報が使用された。しかしながら、第3パラメータの検出に使用される関係情報は、所定条件に従って変更されてもよい。例えば、予め複数の関係情報が準備され、複数の関係情報の各々は液体L1の互いに異なる温度帯に対応していてもよい。複数の関係情報は、例えば、複数の試料(液体L1)の温度を変更することによって予め生成されてもよい。複数の関係情報は、記憶部106に記憶されていてもよい。
【0055】
図12は、第3パラメータの検出に使用する関係情報を特定する手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、例えば、制御部104によって実行される。
図12を参照して、制御部104は、温度センサ113の出力に基づいて液体L1の温度を検出する(ステップS300)。制御部104は、検出された液体L1の温度に対応する関係情報を特定する(ステップS310)。特定された関係情報を使用しつつ、
図10に示されるフローチャートに従って液体L1の第3パラメータが検出されてもよい。
【0056】
本発明者(ら)は、第3パラメータと第2パラメータとの関係性が液体L1の温度の影響を受け得ることを見出した。この液体センサ10においては、液体L1の温度、液体L1の温度に対応する関係情報、及び、第2パラメータに基づいて第3パラメータが検出される。したがって、この液体センサ10によれば、液体L1の温度が考慮された上で第3パラメータが検出されるため、第3パラメータをより高精度に検出することができる。
【0057】
<5-4>
上記実施の形態においては、第3パラメータの値に拘わらず第1パラメータとして抵抗値R1が用いられた。しかしながら、第1パラメータとして何を用いるかが第3パラメータの値に応じて変更されてもよい。
【0058】
図13は、第1パラメータの変更に関するイメージを説明するための図である。
図13を参照して、例えば、塩基価(第3パラメータ)が4以上の場合には静電容量C1が第1パラメータとして用いられ、塩基価が4未満の場合には抵抗値R1が第1パラメータとして用いられてもよい。本発明者(ら)は、抵抗値R1に基づいて算出された第2パラメータ、及び、静電容量C1に基づいて算出された第2パラメータのいずれが第3パラメータとより高い相関を有するかが第3パラメータの値によって変わることを見出した。より具体的には、塩基価が高いほど静電容量C1に基づいて算出された第2パラメータが第3パラメータと高い相関を有し、塩基価が低いほど抵抗値R1に基づいて算出された第2パラメータが第3パラメータと高い相関を有することを本発明者(ら)は見出した。
【0059】
図14は、液体センサ10における液体L1の塩基価の検出手順の他の例を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、制御部104によって実行される。
【0060】
図14を参照して、制御部104は、所定周波数(例えば、関係情報において予め定められている4つの周波数のうちのいずれかの周波数)の測定電圧が一対の電極112間に印加された状態で液体L1の抵抗値R1(第1パラメータ)を検出する(ステップS400)。制御部104は、予め定められた複数(例えば、4つ)の所定周波数の各々の測定電圧が一対の電極112間に印加された状態で抵抗値R1の検出が行なわれたか否かを判定する(ステップS405)。少なくとも一部の周波数に関して抵抗値R1の検出が完了していないと判定されると(ステップS405においてNO)、制御部104は、測定電圧の周波数を掃引するように測定部102を制御する(ステップS410)。その後、ステップS400の処理が再び行なわれる。
【0061】
全ての所定周波数に関して抵抗値R1の検出が完了したと判定されると(ステップS405においてYES)、制御部104は、抵抗値R1の各検出結果に基づいて第1及び第2変化度を算出する(ステップS415)。制御部104は、第1変化度と第2変化度との差分(第2パラメータ)を算出する(ステップS420)。制御部104は、記憶部106に記憶されている関係情報(例えば、関数)に第2パラメータを代入することによって液体L1の塩基価(第3パラメータ)を検出する(ステップS425)。なお、ここで使用される関係情報は、抵抗値R1の周波数特性に基づいて予め生成されている。
【0062】
制御部104は、検出された塩基価が所定値(例えば、「4」)以上であるか否かを判定する(ステップS430)。検出された塩基価が所定値未満であると判定されると(ステップS430においてNO)、このフローチャートに示される処理は終了し、ステップS425において検出された塩基価が液体L1の塩基価とみなされる。
【0063】
一方、検出された塩基価が所定値以上であると判定されると(ステップS430においてYES)、制御部104は、所定周波数の測定電圧が一対の電極112間に印加された状態で液体L1の静電容量C1(第1パラメータ)を検出する(ステップS435)。制御部104は、予め定められた複数の所定周波数の各々の測定電圧が一対の電極112間に印加された状態で静電容量C1の検出が行なわれたか否かを判定する(ステップS440)。少なくとも一部の周波数に関して静電容量C1の検出が完了していないと判定されると(ステップS440においてNO)、制御部104は、測定電圧の周波数を掃引するように測定部102を制御する(ステップS445)。その後、ステップS435の処理が再び行なわれる。
【0064】
全ての所定周波数に関して静電容量C1の検出が完了したと判定されると(ステップS440においてYES)、制御部104は、静電容量C1の各検出結果に基づいて第1及び第2変化度を算出する(ステップS450)。制御部104は、第1変化度と第2変化度との差分(第2パラメータ)を算出する(ステップS455)。制御部104は、記憶部106に記憶されている関係情報(例えば、関数)に第2パラメータを代入することによって液体L1の塩基価(第3パラメータ)を検出する(ステップS460)。なお、ここで使用される関係情報は、静電容量C1の周波数特性に基づいて予め生成されている。ステップS460において塩基価が検出されると、このフローチャートに示される処理は終了し、ステップS460において検出された塩基価が液体L1の塩基価とみなされる。
【0065】
このように、この液体センサ10においては、第1パラメータとして抵抗値R1及び静電容量C1のいずれを用いるかが第3パラメータの値に応じて切り替えられる。したがって、この液体センサ10によれば、第3パラメータとより高い相関を有する第2パラメータが第3パラメータの検出に用いられるため、第3パラメータをより高精度に検出することができる。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について例示的に説明した。すなわち、例示的な説明のために、詳細な説明及び添付の図面が開示された。よって、詳細な説明及び添付の図面に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須でない構成要素が含まれることがある。したがって、それらの必須でない構成要素が詳細な説明及び添付の図面に記載されているからといって、それらの必須でない構成要素が必須であると直ちに認定されるべきではない。
【0067】
また、上記実施の形態は、あらゆる点において本発明の例示にすぎない。上記実施の形態は、本発明の範囲内において、種々の改良や変更が可能である。例えば、いずれかの実施の形態の少なくとも一部の構成と、他のいずれかの実施の形態の少なくとも一部の構成とが組み合わされてもよい。すなわち、本発明の実施にあたっては、実施の形態に応じて具体的構成を適宜採用することができる。
【符号の説明】
【0068】
10 液体センサ、20 タンク、100 検出システム、102 測定部、104 制御部、106 記憶部、108 通知部、110 基板、111 基板本体、112 電極、113 温度センサ、DC1,DC2 変化度、L1 液体、P1-P5 点、RL1-RL4 基準線。