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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006916
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/023 20120101AFI20250109BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20250109BHJP
【FI】
B60W50/023
B60W60/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107967
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小栗 春紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 郁真
(72)【発明者】
【氏名】井出 裕人
(72)【発明者】
【氏名】遠山 直拾
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA64
3D241CC08
3D241CC17
3D241CE04
3D241CE05
3D241DB01Z
3D241DB05Z
(57)【要約】
【課題】車両の動作モードを管理するコンピュータが自動モード中に何らかの事情によって停止した場合に、コンピュータの再起動後に車両が自動モードでの動作を継続する。
【解決手段】車両が、VP(車両プラットフォーム)とADK(自動運転キット)とを備える。VPは第1制御装置を備える。ADKは第2制御装置を備える。VPが備えるVCIB(車両制御インターフェースボックス)は、第1制御装置および第2制御装置の両方と通信可能に構成される第1コンピュータを含む。第1コンピュータは、自動モードおよび手動モードを含む選択肢から選ばれた動作モードを検出するとともに、検出された動作モードを示す動作モード情報を記録する。第1制御装置は、VCIBによって検出された動作モードに従って車両を制御する。第1コンピュータは、再起動時に、停止直前に記録した動作モード情報に基づいて、選ばれた動作モードを検出する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両プラットフォームと、自動運転のための指令を前記車両プラットフォームへ送信する自動運転キットとを備える車両であって、
前記車両プラットフォームは、第1制御装置を含むベース車両を備え、
前記自動運転キットは、自動運転制御に関する指令を決定する第2制御装置を備え、
前記車両プラットフォームは、前記第1制御装置および前記第2制御装置の両方と通信可能に構成される第1コンピュータを含む車両制御インターフェースボックスをさらに備え、
前記第1コンピュータは、前記車両プラットフォームが前記自動運転キットのコントロール下にある自動モードと、当該車両がドライバのコントロール下にある手動モードとを含む選択肢から選ばれた動作モードを検出するとともに、検出された前記動作モードを示す動作モード情報を記録し、
前記第1制御装置は、前記車両制御インターフェースボックスによって検出された前記動作モードに従って前記車両を制御するように構成され、
前記第1コンピュータは、再起動時に、停止直前に記録した前記動作モード情報に基づいて、前記選ばれた動作モードを検出する、車両。
【請求項2】
前記車両は、制御システムの作動/停止を切り替えるためのユーザ操作を受け付ける起動スイッチをさらに備え、
前記車両制御インターフェースボックスは、前記第1コンピュータと通信する第2コンピュータをさらに備え、
前記第1コンピュータは、前記起動スイッチの状態を検出するとともに、検出された前記動作モードが前記自動モードであり、かつ、検出された前記起動スイッチの状態が作動を示す場合に履歴情報を記録し、
前記第1コンピュータの停止直前に前記履歴情報が記録されている場合には、前記第1コンピュータの再起動後に前記第1コンピュータと前記第2コンピュータとの間の通信が停止される、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記第2コンピュータは、前記第1制御装置および前記第2制御装置の両方と通信可能に構成され、
前記第1コンピュータは、前記第1コンピュータと前記第2コンピュータとのいずれか一方を、インターフェースコンピュータとして選ぶように構成され、
前記インターフェースコンピュータは、前記選ばれた動作モードを検出して前記第1制御装置へ出力し、
前記第1コンピュータと前記第2コンピュータとの間の通信が停止されている間は、前記第1コンピュータが前記第2コンピュータを前記インターフェースコンピュータとして選び、
前記第1コンピュータと前記第2コンピュータとの間の通信が停止された後、前記第1コンピュータが正常な状態で起動した場合には、前記第1コンピュータが、当該通信の停止を解除するとともに、当該第1コンピュータを前記インターフェースコンピュータとして選ぶ、請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記第1制御装置は、前記ベース車両に関する車両情報を前記車両制御インターフェースボックスへ送信するように構成され、
前記第2制御装置と前記車両制御インターフェースボックスとの間の通信には、API(Application Program Interface)で定義されたAPI信号が使用され、
前記API信号は、前記ベース車両に対する指令を示すAPIコマンドと、前記ベース車両の状態を示すAPIステータスとを含み、
前記インターフェースコンピュータは、前記第2制御装置からの前記APIコマンドを前記第1制御装置が実行可能な信号に変換して、変換後の前記信号を前記第1制御装置へ送信するように構成され、
前記インターフェースコンピュータは、前記第1制御装置からの前記車両情報を用いて前記APIステータスを取得し、取得された前記APIステータスを前記第2制御装置へ送信するように構成される、請求項3に記載の車両。
【請求項5】
前記第1コンピュータは、前記動作モード情報をバックアップRAM(Random Access Memory)に記録するように構成される、請求項1~4のいずれか一項に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動運転可能な車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-177807号公報(特許文献1)には、ルーフトップに自動運転キットが取り付けられた車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-177807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動運転可能な車両として、自動モードと手動モードとの両方で動作可能な車両が提案されている。例えば、手動モードで動作中(手動運転中)の車両において、ユーザが必要に応じて自動モード(自動運転)に切り替えられるようにすることが考えられる。こうした車両は、初期状態では手動モードで動作し、ユーザが自動モードに切り替えると、自動モードでの動作を開始する。そのため、車両が自動モードで動作しているときに車両の動作モードを管理するコンピュータが何らかの事情(例えば、コンピュータの内部異常または電源異常)によって一時的に停止すると、コンピュータの再起動によって車両の動作モードが手動モードに戻ってしまい、車両が自動モードでの動作を継続できなくなるという課題が生じ得る。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、車両が自動モードで動作しているときに車両の動作モードを管理するコンピュータが何らかの事情によって一時的に停止した場合に、コンピュータの再起動後に車両が自動モードでの動作を継続できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一形態に係る車両は、車両プラットフォームと、自動運転のための指令を車両プラットフォームへ送信する自動運転キットとを備える。車両プラットフォームは、第1制御装置を含むベース車両を備える。自動運転キットは、自動運転制御に関する指令を決定する第2制御装置を備える。車両プラットフォームは、第1コンピュータを含む車両制御インターフェースボックスをさらに備える。第1コンピュータは、第1制御装置および第2制御装置の両方と通信可能に構成される。第1コンピュータは、車両プラットフォームが自動運転キットのコントロール下にある自動モードと、当該車両がドライバのコントロール下にある手動モードとを含む選択肢から選ばれた動作モードを検出するとともに、検出された動作モードを示す動作モード情報を記録するように構成される。第1制御装置は、車両制御インターフェースボックスによって検出された動作モードに従って車両を制御するように構成される。第1コンピュータは、再起動時に、停止直前に記録した動作モード情報に基づいて、選ばれた動作モードを検出するように構成される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、車両が自動モードで動作しているときに車両の動作モードを管理するコンピュータが何らかの事情によって一時的に停止した場合に、コンピュータの再起動後に車両が自動モードでの動作を継続できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施の形態に係る車両の概略構成を示す図である。
図2図1に示した車両制御インターフェースボックスの構成および機能について説明するための図である。
図3】本開示の実施の形態に係る動作モードの管理方法を示すフローチャートである。
図4】本開示の実施の形態に係る車両の第1動作例を示すタイムチャートである。
図5】本開示の実施の形態に係る車両の第2動作例を示すタイムチャートである。
図6】本開示の実施の形態に係る車両の第3動作例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0010】
図1は、本開示の実施の形態に係る車両の概略構成を示す図である。図1を参照して、車両1は、VP(車両プラットフォーム)100と、ADK(自動運転キット)200とを備える。VP100は、VCIB(車両制御インターフェースボックス)110と、ベース車両120とを含む。ベース車両120にVCIB110を追加することによって、ADK200が着脱可能なVP100が形成される。そして、VP100に対してADK200を取り付けることによって車両1が完成する。ベース車両120は、例えば市販されるxEV(電動車)である。この実施の形態では、ベース車両120としてBEV(電気自動車)を採用する。ただしこれに限られず、ベース車両120は、BEV以外のxEVであってもよい。この実施の形態では、ベース車両120のルーフトップにADK200が取り付けられる。ただし、ADK200の取り付け位置は適宜変更可能である。
【0011】
ADK200は、自動運転に係る各種処理を実行する自動運転システム(以下、「ADS」と表記する)210を含む。ADS210は、コンピュータアセンブリ(以下、「ADSCOM」と表記する)211と、認識用センサ212と、姿勢用センサ213と、センサクリーナ216と、HMI(Human Machine Interface)218とを含む。
【0012】
ADSCOM211は、コンピュータモジュール(以下、「ADC」と表記する)211A,211Bを含む。ADC211A,211Bの各々は、プロセッサと、後述するAPIを利用した自動運転ソフトウェアを記憶する記憶装置とを備え、プロセッサによって自動運転ソフトウェアを実行可能に構成される。認識用センサ212は、車両1の外部環境を示す情報(以下、「環境情報」とも称する)を取得するセンサを含む。認識用センサ212は、カメラ、ミリ波レーダ、およびライダーの少なくとも1つを含んでもよい。姿勢用センサ213は、車両1の姿勢に関する情報(以下、「姿勢情報」とも称する)を取得する。姿勢用センサ213は、車両1の加速度、角速度、および位置を検出する各種センサを含んでもよい。HMI218は入力装置および報知装置を含む。
【0013】
ベース車両120は、ブレーキシステム121と、ステアリングシステム122と、パワートレーンシステム123と、アクティブセーフティシステム125と、ボディシステム126とを備える。この実施の形態では、各システムが電子制御装置(以下、「ECU」とも称する)を備える。
【0014】
VCIB110は、通信バスを介して、ベース車両120およびADK200の両方と通信するように構成される。これらの物理通信はCAN(Controller Area Network)を利用した通信であってもよい。車両1においては、車両1の挙動(走る・止まる・曲がる)に関する制御系が冗長性を有する。ADC211A、211Bはそれぞれメイン制御系、サブ制御系に指示を与える。VCIB110は、メイン制御系の制御部(以下、「第1VCIB」と表記する)111Aと、サブ制御系の制御部(以下、「第2VCIB」と表記する)111Bとを含む。詳細は後述するが、この実施の形態では、各制御部がコンピュータを備える。
【0015】
ブレーキシステム121は、制動機構と、ドライバからのブレーキ操作を受け付ける操作部と、ブレーキ制御部121A,121Bとを含む。ステアリングシステム122は、操舵機構と、ドライバからのステアリング操作を受け付ける操作部と、ステアリング制御部122A,122Bとを含む。パワートレーンシステム123は、シフト装置と、車両駆動装置と、EPB装置と、P-Lock装置と、EPB制御部123Aと、P-Lock制御部123Bと、推進制御部123Cとを含む。「EPB」は電動パーキングブレーキ、「P-Lock」はパーキングロックを意味する。シフト装置は、シフトレンジを決定し、決定されたシフトレンジに応じてベース車両120の推進方向および変速モードを切り替える。シフト装置は、変速機構に加えて、ドライバからのシフト操作を受け付ける操作部をさらに備える。車両駆動装置は、シフトレンジが示す推進方向に推進力を付与する。車両駆動装置は、駆動バッテリと、駆動バッテリから電力の供給を受ける走行用モータとを備える。車両駆動装置は、車両1を加速するためにドライバによって操作されるアクセルペダルをさらに備える。P-Lock装置は、パーキングロック機構およびアクチュエータに加えて、ドライバからの駐車操作を受け付ける操作部をさらに備える。
【0016】
図2は、VCIB110の構成および機能について説明するための図である。図2を参照して、第1VCIB111Aは、制御用のマイクロコンピュータ(制御マイコン)11と、ASIC(特定用途向け集積回路:Application Specific Integrated Circuit)12とを備える。
【0017】
制御マイコン11は、プロセッサ11aと記憶装置11bとを含む。制御マイコン11は、バッテリ20から電力の供給を受ける。バッテリ20は、前述した車両駆動装置に含まれる駆動バッテリであってもよいし、駆動バッテリ以外の車載バッテリ(例えば、補機バッテリ)であってもよい。制御マイコン11とバッテリ20との間にDC/DCコンバータが設けられてもよい。記憶装置11bは、例えばバックアップRAM(Random Access Memory)である。バックアップRAMは、一般に、「スタンバイRAM」または「Retention RAM」とも称される。バックアップRAMは、バックアップ電源から電力の供給を受ける。バックアップRAMは、バックアップ電源によってSRAM(Static RAM)に不揮発性が付与されたNVSRAM(Non-Volatile SRAM)であってもよい。バックアップ電源は、バッテリ20であってもよいし、バッテリ20以外の車載バッテリであってもよい。バックアップ電源の瞬断時に記憶装置11bに電力を供給するコンデンサが設けられてもよい。
【0018】
ASIC12は、WDC(ウォッチドックタイマ回路)を含む。WDCは、制御マイコン11から入力される定周期クロック信号を検知し、制御マイコン11の正常動作を監視するように構成される。タイマー周期内にクロック信号がASIC12に入力されない場合には、ASIC12(WDC)は、制御マイコン11が異常動作していると判断し、リセット信号を制御マイコン11へ出力する。リセット信号を受信した制御マイコン11は、電源オフ状態になり、リセット後に再起動する(マイコンリセット)。制御マイコン11とASIC12とは、相互にSPI(Serial Peripheral Interface)通信を行う。SPI通信は、クロックに同期させてデータの通信を行う同期式シリアル通信である。制御マイコン11は、SPI通信により、TTF(タイムトゥフェイル)信号をASIC12へ送信する。ASIC12は、SPI通信により、カウンタリセット情報を制御マイコン11へ送信する。
【0019】
第2VCIB111Bも、制御マイコン11に準ずる制御用のマイクロコンピュータ(制御マイコン)21を備える。制御マイコン21はプロセッサおよび記憶装置を含む。制御マイコン21も、制御マイコン11と同様、例えばバッテリ20から電力の供給を受ける。制御マイコン11と制御マイコン21とは相互にCAN通信を行う。また、制御マイコン11および21の各々は、ベース車両120およびADK200の両方とCAN通信可能に構成される。この実施の形態では、ベース車両120が備える各種制御装置が、単独でまたは協働して、本開示に係る「第1制御装置」として機能する。ADC211A,211Bの各々が、本開示に係る「第2制御装置」として機能する。また、制御マイコン11、21が、それぞれ本開示に係る「第1コンピュータ」、「第2コンピュータ」の一例に相当する。
【0020】
この実施の形態では、ADK200とVCIB110との間の通信に、API(Application Program Interface)で定義された信号(API信号)が使用される。ADK200は、APIで定義された各種信号を処理するように構成される。ADK200は、APIに従って各種コマンドをVCIB110へ出力する。以下では、ADK200からVCIB110へ出力される上記各種コマンドの各々を、「APIコマンド」とも称する。APIコマンドは自動運転制御に関する指令を含む。ADK200(ADC211A,211B)は、APIコマンドの値を決定する。また、ADK200は、ベース車両120の状態を示す各種信号を上記APIに従ってVCIB110から受信する。以下では、ADK200がVCIB110から受信する上記各種信号の各々を、「APIステータス」とも称する。APIコマンドおよびAPIステータスはどちらもAPI信号に相当する。
【0021】
この実施の形態では、ADK200が、以下に説明するAPIコマンドを使用する。
【0022】
車両モードコマンドは、自動モードまたは手動モードへの遷移を要求するAPIコマンドである。ADK200は、車両モードコマンドを用いて車両1の動作モード(車両モード)を選択できる。推進方向コマンドは、シフトレンジ(R/D)の切替えを要求するAPIコマンドである。加速コマンドは、車両の加速度を指示するAPIコマンドである。加速コマンドは、後述する推進方向ステータスが示す方向に対する加速度(+)および減速度(-)を要求する。不動化コマンドは、不動化の適用または解除を要求するAPIコマンドである。不動化の適用は、EPBをON状態(作動状態)にし、シフトレンジをP(パーキング)にすることを意味する。
【0023】
以上、車両1において使用される一部のAPIコマンドについて説明した。VCIB110はADK200から各種APIコマンドを受信する。VCIB110は、ADK200からAPIコマンドを受信すると、そのAPIコマンドを、ベース車両120の制御装置が実行可能な信号の形式に変換する。以下、ベース車両120の制御装置が実行可能な信号の形式に変換されたAPIコマンドを、「内部指令」とも称する。VCIB110は、ADK200からAPIコマンドを受信すると、そのAPIコマンドに対応する内部指令をベース車両120へ出力する。
【0024】
次に、APIステータスについて説明する。ADK200は、例えば以下に説明するAPIステータスを用いてベース車両120の状態を把握する。
【0025】
車両モードステータスは、車両モード状態を示すAPIステータスである。車両1の動作モード(車両モード)は、手動モードと自動モードとスタンバイモードとを含む。手動モードは、車両がドライバ(人間)のコントロール下にある動作モードである。自動モードは、車両プラットフォーム(ベース車両を含む)が自動運転キットのコントロール下にある動作モードである。スタンバイモードは、車両の移動が禁止された動作モードである。ドライバは、車載HMIを通じて所望の動作モードを選択できる。ベース車両120は、車両1の状況とドライバの選択とを考慮して動作モードを選択する。車両モードステータスは、現在の動作モードが手動モード、自動モード、スタンバイモードである場合に、それぞれ対応する値「0」、「1」、「2」を出力する。
【0026】
推進方向ステータスは、現在のシフトレンジを示すAPIステータスである。進行方向ステータスは、車両の進行方向を示すAPIステータスである。進行方向ステータスは、車両の前進時には値「0」、車両の後退時には値「1」、全ての車輪(4輪)が所定時間継続して速度「0」を示す場合には値「2(Standstill)」を出力する。車速ステータスは、車両の縦方向の速度を示すAPIステータスである。車速ステータスは車速の絶対値を出力する。不動化ステータスは、不動化の状態を示すAPIステータスである。
【0027】
以上、車両1において使用される一部のAPIステータスについて説明した。VCIB110は、ベース車両120から各種のセンサ検出値および状態判別結果を受信し、ベース車両120の状態を示す各種APIステータスをADK200へ出力する。VCIB110は、ベース車両120の状態を示す値が設定されたAPIステータスを取得し、得られたAPIステータスをADK200へ出力する。
【0028】
車両1は、VP100の制御システム(制御マイコン11および21、ならびにベース車両120の各種ECUを含む)の作動/停止を切り替えるためのユーザ操作を受け付ける起動スイッチ30をさらに備える。一般に、車両の起動スイッチは「パワースイッチ」または「イグニッションスイッチ」などと称される。ユーザが起動スイッチ30を操作することによってVP100の制御システムのオン(作動)/オフ(停止)が切り替わる。また、制御システムがシャットダウンした場合には、起動スイッチ30はオフ状態になる。この実施の形態では、起動スイッチ30の状態(作動/停止)に応じて、図示しないイグニッションリレー(IGR)のオン(閉)/オフ(開)が切り替わる。制御マイコン11は、起動スイッチ30の状態(IGRの状態)と、自らの作動状態とを検出可能に構成される。以下では、制御マイコン11の作動状態を示す情報を「内部IGR」と称する。制御マイコン11は内部IGRを逐次取得する。制御マイコン11が電源オン状態であるときには、内部IGRはオン(作動状態)を示す。制御マイコン11がシャットダウン処理中の状態または電源オフ状態であるときには、内部IGRはオフ(停止状態)を示す。起動スイッチ30のオン操作により、制御マイコン11は起動して電源オン状態になる。起動スイッチ30のオフ操作により、制御マイコン11はシャットダウン処理を開始し、シャットダウン処理が完了すると、制御マイコン11は電源オフ状態になる。
【0029】
この実施の形態では、VCIB110に含まれるインターフェースコンピュータ(以下、「IFCOM」と表記する)が、複数種の動作モード(例えば、手動モード、自動モード、およびスタンバイモード)を含む選択肢から選ばれた動作モードを検出してベース車両120へ出力する。制御マイコン11が、制御マイコン11と制御マイコン21とのいずれか一方をIFCOMとして選ぶ。IFCOMは、ADK200からのAPIコマンドを内部指令に変換し、得られた内部指令を、上記動作モードとともにベース車両120へ出力する。IFCOMは、ベース車両120からの車両情報を用いてAPIステータスを取得し、得られたAPIステータスをADK200へ出力する。動作モードは、例えば、ユーザとベース車両120とADK200とのいずれかによって選択される。また、車両外部のサーバが必要に応じて車両1の動作モードを切り替えてもよい。ベース車両120の制御装置は、IFCOMによって検出された動作モードに従って車両1を制御する。
【0030】
制御マイコン11は、選ばれた動作モードと、起動スイッチ30の状態(作動/停止)とを周期的に検出する。そして、制御マイコン11は、動作モードが検出されるたびに、検出された動作モードを示す動作モード情報を記憶装置11bに記録する。制御マイコン11が再起動された場合には、制御マイコン11は、停止直前に記録した動作モード情報に基づいて、選ばれた動作モードを検出する。また、検出された起動スイッチ30の状態が作動を示すこと(第1要件)と、検出された動作モードが自動モードであること(第2要件)との両方を満たす場合には、制御マイコン11は所定の情報(履歴情報)を記憶装置11bに記録し、第1要件と第2要件との少なくとも一方を満たさない場合には、制御マイコン11は記憶装置11b内の履歴情報を消去する。履歴情報はポーリングによって記録されてもよい。以下では、記憶装置11bが履歴情報を記憶する状態を「履歴ON」、記憶装置11bが履歴情報を記憶していない状態を「履歴OFF」と称する。制御マイコン11は、再起動時に履歴ONか否かを判断する。履歴ONと判断された場合には、制御マイコン11の再起動後にASIC12がCANカット処理を実行する。CANカット中は、制御マイコン11からのCAN出力が遮断される。これにより、制御マイコン11と制御マイコン21との間の通信が停止する。
【0031】
自動モードが選択されており、かつ、起動スイッチ30が作動を示す状態(オン操作された状態)で制御マイコン11が再起動した場合には、制御マイコン11の停止が意図しないもの(例えば、制御マイコン11の内部異常または電源異常に起因した停止)であった可能性が高く、制御マイコン11がダメージを受けている可能性がある。そこで、上記構成では、制御マイコン11と制御マイコン21との通信を停止し、制御マイコン21が制御マイコン11の影響を受けないようにする。こうした構成によれば、仮に制御マイコン11に異常が生じていても、制御マイコン21は正常に動作しやすくなる。
【0032】
制御マイコン11と制御マイコン21との間の通信が停止されている間は、制御マイコン11が、制御マイコン21をIFCOMとして選ぶ。他方、制御マイコン11と制御マイコン21との間の通信が停止された後、制御マイコン11が正常な状態で起動した場合には、制御マイコン11が、当該通信の停止(CANカット)を解除するとともに、制御マイコン11をIFCOMとして選ぶ。IFCOMは、選ばれた動作モードを周期的に検出し、動作モードが検出されるたびに、検出された動作モードをベース車両120の制御装置へ出力する。制御マイコン21も、制御マイコン11と同様、不揮発性を有する記憶装置を有してもよい。再起動した制御マイコン21は、停止直前にその記憶装置に記録した動作モード情報に基づいて、選ばれた動作モードを検出してもよい。ベース車両120は、IFCOM(VCIB110)からの情報に基づいて、選ばれた動作モードを認識する。VCIB110からベース車両120へ動作モードが出力されていない期間においては、ベース車両120は、選ばれた動作モードが手動モードであると認識し、アクティブセーフティシステム125を作動させて、アクティブセーフティシステム125により車両1の減速制御を実行してもよい。あるいは、ベース車両120は、車両1が手動モードで動作中であることをドライバに報知してもよい。以下では、選ばれた動作モードを示す情報を「内部VEMDST」と称する。ベース車両120は、内部VEMDSTを逐次取得し、最新の内部VEMDSTに従って車両1を制御する。
【0033】
上記構成によれば、車両1の動作モードを管理するIFCOMが状況に応じて切り替わる。具体的には、制御マイコン11がダメージを受けている可能性がある場合には、制御マイコン21がIFCOMとして動作し得る。制御マイコン11と制御マイコン21との両方がIFCOMとして機能し得るため、VCIB110の堅牢性が高くなる。
【0034】
図3は、制御マイコン11によって実行される動作モードの管理に係る処理を示すフローチャートである。以下では、フローチャート中の各ステップを「S」と表記する。制御マイコン11は、正常な状態で起動すると、制御マイコン11をIFCOMとして選び、S10およびそれに続く処理フロー(以下、「S10フロー」と称する)を開始する。
【0035】
S10では、起動スイッチ30の状態(IGRの状態)と、現在の動作モード(選ばれた動作モード)とを検出し、検出結果を記憶装置11bに記録する。これにより、検出された動作モードを示す動作モード情報が記憶装置11bに記録される。続くS11では、イグニッションリレー(IGR)がオン状態であるか否かを、制御マイコン11が判断する。IGRがオン状態であることは(S11にてYES)、第1要件を満たすことを意味する。S12では、制御マイコン11が、S10で検出された動作モードが自動モードであるか否かを判断する。検出された動作モードが自動モードであることは(S12にてYES)、第2要件を満たすことを意味する。第1要件および第2要件の両方を満たす場合には(S11,S12の両方でYES)、制御マイコン11は、S13において履歴ONにする。その後、処理はS21に進む。第1要件を満たして第2要件を満たさない場合には(S11にてYESかつS12にてNO)、制御マイコン11は、S14において履歴OFFにする。その後、処理はS21に進む。第1要件を満たさない場合には(S11にてNO)、制御マイコン11は、S15において履歴OFFにする。その後、処理はS30に進む。
【0036】
S21では、制御マイコン11が、現在の内部IGRを取得し、得られた内部IGRがオフを示すか否かを判断する。内部IGRがオンを示す場合には(S21にてNO)、制御マイコン11は正常である可能性が高いため、処理はS10に戻る。この場合、制御マイコン11は、S10フローを実行しつつ、IFCOMとして動作する。他方、第1要件を満たす状態で内部IGRがオフを示す場合には(S21にてYES)、何らかの事情によって制御マイコン11が停止している。この場合、制御マイコン11は、続くS22で復帰(再起動)する。さらに、復帰した制御マイコン11は、続くS23で、停止直前にS10で記録した動作モード情報に基づいて現在の動作モード(選ばれた動作モード)を検出し、検出された動作モードを制御マイコン21へ送信する。続くS24では、制御マイコン11が履歴ONか否かを判断する。履歴OFFと判断された場合には(S24にてNO)、処理がS10に戻る。他方、履歴ONと判断された場合には(S24にてYES)、処理がS25に進む。S25では、制御マイコン11が制御マイコン21をIFCOMとして選ぶ。これにより、第2VCIB111Bがアクティブになり、第1VCIB111Aが非アクティブになる。すなわち、制御マイコン21が制御マイコン11に代わってIFCOMとして動作する。続くS26では、制御マイコン11からの信号に基づいてASIC12がCANカット処理を実行する。これにより、制御マイコン11と制御マイコン21との間の通信が停止する。その後、処理はS10に戻る。制御マイコン11は、非アクティブ状態でS10フローを継続する。
【0037】
S23において自動モードが検出された場合には、S25の処理によりアクティブになった制御マイコン21が、車両1を自動モードで動作させる。制御マイコン21は、自動モードにおいて、ADK200からの指示に従う車両1の停車制御(セーフティストップ制御)を実行してもよい。そして、車両1の停車後に、制御マイコン21は、制御システムの再起動を実行してもよい。あるいは、制御マイコン21は、制御システムを再起動するための起動スイッチ30の操作をユーザに要求してもよい。これにより、車両1の制御システム(制御マイコン11を含む)が再起動する。ただしこれに限られず、アクティブになった制御マイコン21は、自動モードで車両1の走行を継続してもよい。制御マイコン21は、例えば制御マイコン11と同様の自動運転制御、またはそれよりも制限された自動運転制御を実行してもよい。制限は、速度制限であってもよい。
【0038】
制御マイコン11がアクティブ/非アクティブのいずれの状態であっても、ユーザによって起動スイッチ30がオフ操作されると、S11においてNOと判断され、S30において、制御マイコン11がシャットダウン処理を実行する。シャットダウン処理が完了すると、制御マイコン11は電源オフ状態になり、S10フローが終了する。その後、例えば起動スイッチ30がオン操作されて制御マイコン11が再起動すると、制御マイコン11は、S51およびそれに続く処理フロー(以下、「S51フロー」と称する)を開始する。S51では、制御マイコン11が正常な状態で起動したか否かを、制御マイコン11が判断する。制御マイコン11が正常な状態で起動した場合には(S51にてYES)、制御マイコン11が、S52で、制御マイコン11をIFCOMとして選ぶ。これにより、第1VCIB111Aがアクティブになり、第2VCIB111Bが非アクティブになる。すなわち、制御マイコン11がIFCOMとして動作する。続くS53では、制御マイコン11からの信号に基づいてASIC12によるCANカットが解除される。ASIC12がCANカットを実行しないときには、制御マイコン11がCAN通信を実行する。これにより、制御マイコン11と制御マイコン21との間の通信が実行される。他方、制御マイコン11が正常ではない状態で起動した場合には(S51にてNO)、前述したS25およびS26と同様に、S54で制御マイコン21がIFCOMとして選ばれ、S55でCANカット処理が実行される。S53またはS55の処理が実行されると、S51フローは終了する。そして、起動した制御マイコン11は、S10フローを開始する。
【0039】
以下、図4図6を用いて、この実施の形態に係る車両1の作用および効果について説明する。図4および図5では、この実施の形態に係る車両1(実施例)と、常に手動モードで起動する車両(以下、「比較例」と称する)との各動作が対比して示される。図4図6の各々において、線L11~L17は、制御マイコン11の状態推移を示す。具体的には、線L11は制御マイコン11に対する電力供給の有無、線L12はIGR状態、線L13は内部IGR、線L14は履歴ON/OFF、線L15はWDCに対するクロック信号、線L16はTTF信号、線L17はCANカットの有無を示す。また、線L20は実施例の内部VEMDSTを示す。線L20Aは比較例の内部VEMDSTを示す。
【0040】
図4は、本実施の形態に係る車両の第1動作例を示すタイムチャートである。図4を参照して、線L15で示されるように、WDCが異常(制御マイコン11の内部異常)を検知すると、マイコンリセットによって制御マイコン11が再起動する。車両1が自動モードで動作しているときにマイコンリセットが生じると、履歴ONの状態で制御マイコン11が再起動する。このため、再起動後に、図3のS25,S26の処理が実行される。これにより、IFCOMが制御マイコン11から制御マイコン21に切り替わる。このため、線L20が示すように、車両1は自動的に自動モードでの動作を再開(継続)する。
【0041】
図5は、本実施の形態に係る車両の第2動作例を示すタイムチャートである。図5を参照して、線L11で示すように、車両1が自動モードで動作しているときに電力供給の瞬断(制御マイコン11の電源異常)が生じると、履歴ONの状態で制御マイコン11が再起動する。このため、再起動後に、図3のS25,S26の処理が実行される。これにより、IFCOMが制御マイコン11から制御マイコン21に切り替わる。このため、線L20が示すように、車両1は自動的に自動モードでの動作を再開(継続)する。
【0042】
これに対し、比較例では、車両が自動モードで動作しているときに車両の動作モードを管理するコンピュータが何らかの事情(例えば、コンピュータの内部異常または電源異常)によって一時的に停止すると、図4および図5中に線L20Aで示すように、コンピュータの再起動によって車両の動作モードが手動モードに戻ってしまう。
【0043】
図6は、本実施の形態に係る車両の第3動作例を示すタイムチャートである。図6を参照して、線L11で示すように、車両1が手動モードで動作しているときにバッテリ20の交換(脱着)が行われると、履歴OFFの状態で制御マイコン11が再起動する。このため、図3のS25,S26の処理は実行されない。制御マイコン11の再起動後、車両1は手動モードで動作する。このように、制御マイコン11が何らかの事情によって一時的に停止した場合には、制御マイコン11の再起動後に車両1が停止直前の動作モードでの動作を継続する。
【0044】
この実施の形態に係る車両1は、動作モード情報をバックアップRAMに記録する(図3のS10)。記憶装置11bとしてバックアップRAMを用いることで、制御マイコン11の再起動後も、制御マイコン11の停止直前にバックアップRAMに記録した動作モード情報が保持される。バックアップRAMは、フラッシュメモリのような不揮発性メモリと比べて、アクセス速度が速いという利点を有する。また、バックアップRAMに記憶された情報は、制御マイコン11の起動直後から任意のタイミングで読み出し可能であり、必要に応じて初期化できる。ただしこれに限られず、記憶装置11bとしては、例えばフラッシュメモリのような不揮発性メモリも採用可能である。
【0045】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示により示される技術的範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0046】
1 車両、11,21 制御マイコン、30 起動スイッチ、100 車両プラットフォーム、110 車両制御インターフェースボックス、111A 第1VCIB、111B 第2VCIB、120 ベース車両、200 自動運転キット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6