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特開2025-6933コーキング抑制方法、軽質炭化水素の製造方法、及び、コーキング抑制剤
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  • 特開-コーキング抑制方法、軽質炭化水素の製造方法、及び、コーキング抑制剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006933
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】コーキング抑制方法、軽質炭化水素の製造方法、及び、コーキング抑制剤
(51)【国際特許分類】
   C10G 9/00 20060101AFI20250109BHJP
   C10B 57/06 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C10G9/00
C10B57/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107985
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】523254704
【氏名又は名称】片山ナルコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】大山 隆
(72)【発明者】
【氏名】舛澤 慧
(72)【発明者】
【氏名】上田 裕翔
(72)【発明者】
【氏名】原田 一輝
(72)【発明者】
【氏名】遠子内 渉
(72)【発明者】
【氏名】上原 史門
(72)【発明者】
【氏名】吉村 友良
(72)【発明者】
【氏名】池内 良一
【テーマコード(参考)】
4H012
4H129
【Fターム(参考)】
4H012PA00
4H129AA01
4H129CA10
4H129DA03
4H129FA04
4H129FA07
4H129HA08
4H129NA40
4H129NA45
(57)【要約】
【課題】ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内のコーキングを抑制できるコーキング抑制方法を提供すること。
【解決手段】ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内のコーキングを抑制するためのコーキング抑制方法であって、過塩基性炭酸マグネシウムを含むコーキング抑制剤を重質炭化水素に添加した流体を、ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内を通過させる工程を有する、コーキング抑制方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内のコーキングを抑制するためのコーキング抑制方法であって、
過塩基性炭酸マグネシウムを含むコーキング抑制剤を重質炭化水素に添加した流体を、前記ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内を通過させる工程を有する、コーキング抑制方法。
【請求項2】
前記加熱炉チューブ内を通過させる際の前記流体の流速が1.0~4.0m/sであり、加熱炉における前記流体の滞留時間が0.5~5分であり、加熱炉出口における前記流体の温度が400~580℃である、請求項1に記載のコーキング抑制方法。
【請求項3】
前記流体中の前記過塩基性炭酸マグネシウムの濃度が5質量ppm以上である、請求項1又は2に記載のコーキング抑制方法。
【請求項4】
ディレイドコーカーにより重質炭化水素から軽質炭化水素を製造する軽質炭化水素の製造方法であって、
過塩基性炭酸マグネシウムを含むコーキング抑制剤を前記重質炭化水素に添加した流体を、前記ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内を通過させる工程を有する、軽質炭化水素の製造方法。
【請求項5】
前記加熱炉チューブ内を通過させる際の前記流体の流速が1.0~4.0m/sであり、加熱炉における前記流体の滞留時間が0.5~5分であり、加熱炉出口における前記流体の温度が400~580℃である、請求項4に記載の軽質炭化水素の製造方法。
【請求項6】
前記流体中の前記過塩基性炭酸マグネシウムの濃度が5質量ppm以上である、請求項4又は5に記載の軽質炭化水素の製造方法。
【請求項7】
ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内のコーキングを抑制するためのコーキング抑制剤であって、
過塩基性炭酸マグネシウムを含む、コーキング抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーキング抑制方法、軽質炭化水素の製造方法、及び、コーキング抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ディレイドコーカーは、重質炭化水素を熱分解することによって、ガス、ナフサ、軽油などの種々の沸点の炭化水素およびコークを生成する装置である。ディレイドコーカーは、加熱炉、精留塔、コークドラム、及びその他の付帯設備から構成されるのが一般的である。
【0003】
ディレイドコーカーは、加熱炉で重質の炭化水素を熱分解温度まで加熱する。このため、運転時間の経過に伴い加熱炉チューブ(配管)には徐々にコークが堆積する。コークが多量に堆積するとチューブが高温になって破裂する恐れがある。このため、チューブ内に蒸気を注入してチューブ内の流速を上げて乱流によってコークの堆積を抑制する方法、重質軽油や揮発油を再循環してコークの堆積を予防する方法が提案されている(特許文献1、2)。
【0004】
しかし、上記のような方法を採用してもチューブ内のコークの堆積を完全には排除できないため、定期的にディレイドコーカーの運転を停止して加熱炉チューブ内の清掃行い、堆積したコークを除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6-89335号公報
【特許文献2】特公平6-49866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、世界的な石油事情から、重質油処理の必要性が増しており、ディレイドコーカーの処理能力の向上が従来よりも一層強く求められている。このような状況下、ディレイドコーカーの処理能力を向上させるために、加熱炉チューブ内のコーキングを抑制でき、ディレイドコーカーの運転を停止して加熱炉チューブ内の清掃を行うまでの連続運転期間を長くして、より多くの重質油を軽質油に分解する方法が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内のコーキングを抑制できるコーキング抑制方法、軽質炭化水素の製造方法、及び、コーキング抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示は、以下のコーキング抑制方法、軽質炭化水素の製造方法、及び、コーキング抑制剤を提供する。
【0009】
[1]ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内のコーキングを抑制するためのコーキング抑制方法であって、過塩基性炭酸マグネシウムを含むコーキング抑制剤を重質炭化水素に添加した流体を、上記ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内を通過させる工程を有する、コーキング抑制方法。
[2]上記加熱炉チューブ内を通過させる際の上記流体の流速が1.0~4.0m/sであり、加熱炉における上記流体の滞留時間が0.5~5分であり、加熱炉出口における上記流体の温度が400~580℃である、上記[1]に記載のコーキング抑制方法。
[3]上記流体中の上記過塩基性炭酸マグネシウムの濃度が5質量ppm以上である、上記[1]又は[2]に記載のコーキング抑制方法。
[4]ディレイドコーカーにより重質炭化水素から軽質炭化水素を製造する軽質炭化水素の製造方法であって、過塩基性炭酸マグネシウムを含むコーキング抑制剤を上記重質炭化水素に添加した流体を、上記ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内を通過させる工程を有する、軽質炭化水素の製造方法。
[5]上記加熱炉チューブ内を通過させる際の上記流体の流速が1.0~4.0m/sであり、加熱炉における上記流体の滞留時間が0.5~5分であり、加熱炉出口における上記流体の温度が400~580℃である、上記[4]に記載の軽質炭化水素の製造方法。
[6]上記流体中の上記過塩基性炭酸マグネシウムの濃度が5質量ppm以上である、上記[4]又は[5]に記載の軽質炭化水素の製造方法。
[7]ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内のコーキングを抑制するためのコーキング抑制剤であって、過塩基性炭酸マグネシウムを含む、コーキング抑制剤。
【0010】
ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内のコーキングは、流体中のコーキング物質が加熱炉チューブの内壁近傍で濃縮され、高濃度になることで重合反応が起きることで進行する。これに対し、上記[1]に記載のコーキング抑制方法によれば、過塩基性炭酸マグネシウムを含むコーキング抑制剤を流体中に含有させることで、初期状態の微小なコーキング物質がコーキング抑制剤によりコーティングされ、コーキング物質同士の重合反応が抑制される。また、生成したコーキング物質は結晶が小さく、脆くて剥がれやすいため、流体の乱流により加熱炉チューブの内壁から容易に剥離する。そのため、加熱炉チューブ内にコークが厚く堆積することを抑制することができ、加熱炉チューブの表面温度が上昇することを抑制することができる。加熱炉のチューブの表面温度が所定の温度よりも高温になった場合、ディレイドコーカーの運転を停止して加熱炉チューブ内の清掃を行う必要が生じるが、上記コーキング抑制方法によれば、加熱炉チューブ内の清掃を行うまでの連続運転期間を長くすることができ、積算通油量(ディレイドコーカーの運転開始から運転停止までの合計通油量)を増加させ、ディレイドコーカーの処理能力を向上させることができる。
【0011】
上記[2]及び[3]に記載のコーキング抑制方法によれば、ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内のコーキングを抑制する効果をより向上させることができ、ディレイドコーカーの処理能力をより向上させることができる。
【0012】
上記[4]に記載の軽質炭化水素の製造方法によれば、上記[1]のコーキング抑制方法と同様に、ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内のコーキングを抑制することができるため、加熱炉チューブ内の清掃を行うまでの連続運転期間を長くすることができ、ディレイドコーカーの処理能力を向上させることができる。そのため、軽質炭化水素を効率的に製造することができる。
【0013】
上記[5]及び[6]に記載の軽質炭化水素の製造方法によれば、ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内のコーキングを抑制する効果をより向上させることができ、ディレイドコーカーの処理能力をより向上させることができる。そのため、軽質炭化水素をより効率的に製造することができる。
【0014】
上記[7]に記載のコーキング抑制剤を、ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内に導入する重質炭化水素に添加することで、加熱炉チューブ内のコーキングを抑制することができるため、加熱炉チューブ内の清掃を行うまでの連続運転期間を長くすることができ、ディレイドコーカーの処理能力を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内のコーキングを抑制できるコーキング抑制方法、軽質炭化水素の製造方法、及び、コーキング抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のコーキング抑制方法及び軽質炭化水素の製造方法に用いるディレイドコーカーの一例を示す全体概略図である。
図2】実施例3及び比較例5~6で生成したコークの断面の偏光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
[コーキング抑制剤]
本実施形態に係るコーキング抑制剤は、ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内のコーキングを抑制するためのものであり、過塩基性炭酸マグネシウムを含む。過塩基性炭酸マグネシウムは、炭酸マグネシウムの過塩基性塩である。ここで、炭酸マグネシウムの過塩基性塩とは、マグネシウム金属が、有機性の酸性ラジカルよりも化学量論的に過剰に含まれているものいう。
【0019】
コーキング抑制剤は、過塩基性炭酸マグネシウム以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、過塩基性炭酸マグネシウム以外の金属塩、(亜)リン酸エステル化合物、分散剤等が挙げられる。過塩基性炭酸マグネシウムは、他の成分と複合体を形成していてもよい。
【0020】
金属塩としては、金属の水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、クレゾール酸塩、ナフテン酸塩、アセチルアセトン酸塩、及び、それらの混合物等が挙げられる。金属塩を構成する金属としては、カリウム、ナトリウム、鉄、ニッケル、バナジウム、錫、モリブデン、マンガン、アルミニウム、コバルト、カルシウム、マグネシウム、及び、それらの混合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
(亜)リン酸エステル化合物としては、ホスホン酸型亜リン酸エステル化合物、亜リン酸型亜リン酸エステル化合物、ジホスファイト型亜リン酸エステル化合物、及び、リン酸エステル化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
分散剤としては、例えば、ポリオレフィンエステル、ポリアルケニル置換コハク酸エステル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
コーキング抑制剤は、固形物であってもよく、過塩基性炭酸マグネシウムが溶解又は分散した液状物であってもよい。
【0024】
コーキング抑制剤中の過塩基性炭酸マグネシウムの含有量は、コーキング抑制剤全量を基準として、10~100質量%、好ましくは20~90質量%、より好ましくは20~60質量%であってよい。過塩基性炭酸マグネシウムの含有量が10質量%以上であると、加熱炉チューブ内のコーキングをより十分に抑制できる傾向がある。
【0025】
[コーキング抑制方法及び軽質炭化水素の製造方法]
図1は、本発明のコーキング抑制方法及び軽質炭化水素の製造方法に用いるディレイドコーカーの一例を示す全体概略図である。ディレイドコーカー1は、加熱炉10、スタブタワー12、精留塔14、熱交換器20、スイッチバルブ22、2基のコークドラム16,18及びその他付帯設備で構成される。
【0026】
原料油は、常圧蒸留装置の塔底油、減圧蒸留装置の塔底油、及び流動接触分解装置(FCC)のデカントオイルなどの重質炭化水素油が用いられる。その他に、製油所内で発生する種々の重質炭化水素油を用いることも可能である。
【0027】
原料油の初期温度(ラインL1での温度)は約100~200℃とすることができる。原料油は、精留塔14からラインL13によって抜き出される重質軽油と熱交換器20で熱交換して約250~350℃に予熱することができる。加熱炉10の負荷低減の観点から、ラインL2における原料油の温度は高い方が望ましい。
【0028】
予熱された原料油は、スタブタワー12に導入される。原料油は、スタブタワー12で低沸点留分であるガス、ナフサ、軽油等の軽質炭化水素と、高沸点留分である重質炭化水素とに分離される。なお、原料油の性状が一定であれば、分離される軽質炭化水素と重質炭化水素との割合は通常一定とすることができる。軽質炭化水素の沸点は、30~550℃であってよく、好ましくは40~520℃、より好ましくは50~480℃であってよい。重質炭化水素の沸点は、450~850℃であってよく、好ましくは465~775℃、より好ましくは480~700℃であってよい。
【0029】
スタブタワー12からラインL3へと抜き出された重質炭化水素は、ラインL3において上述した本実施形態に係るコーキング抑制剤が添加される。そして、重質炭化水素とコーキング抑制剤とを含む流体は、加熱炉10の加熱炉チューブに導入され、加熱炉10で加熱される。加熱炉10で加熱された流体は、スイッチバルブ22によってラインL15(又はL16)を介してコークドラム16(又は18)に導入される。
【0030】
コークドラム16では、加熱された流体中の重質炭化水素を熱分解することによって、ガス、ナフサ、軽油留分などを含む分解炭化水素とコークとを生成する。生成した分解炭化水素はスタブタワー12に導入される。
【0031】
スタブタワー12の塔頂部からラインL10で抜き出される軽質炭化水素は、精留塔14に導入される。精留塔14は軽質炭化水素を分離して留出油を生成する。留出油としては、ガス・ナフサと、軽質軽油と、重質軽油とがある。これらの留出油は各燃料油のブレンド基材または後続の装置の原料として用いることができる。
【0032】
精留塔14の塔底部からラインL13によって抜き出される重質軽油は、熱交換器20で原料油と熱交換して後続のタンクなどに送られる。
【0033】
<加熱炉の運転>
次に加熱炉の運転について説明する。加熱炉10は、重質炭化水素とコーキング抑制剤とを含む流体を加熱する。加熱炉10の出口側のラインL4における流体の温度は、後段のコークドラム16,18において熱分解反応するために必要な温度であり、通常約400~600℃とすることができる。この加熱炉10出口における流体の温度は、所望の分解炭化水素収率とコーク性状を得るために流体の性状に応じて最適値に調整されるが、加熱炉チューブ内のコーキングをより十分に抑制する観点から、400~580℃であってよく、好ましくは420~560℃、より好ましくは440~540℃であってよい。
【0034】
加熱炉チューブ内を通過させる際の流体の流速は、所望の分解炭化水素収率とコーク性状を得るために流体の性状に応じて最適値に調整されるが、加熱炉チューブ内のコーキングをより十分に抑制する観点から、1.0~4.0m/sであってよく、好ましくは1.2~3.7m/s、より好ましくは2.1~3.4m/sであってよい。ここで、流速とは、加熱炉チューブ内に導入される流体の15.5℃、大気圧下における体積流量を、加熱炉チューブ内の流路断面積で除することにより計算される流速のことをいう。また、重質炭化水素及びコーキング抑制剤以外に、加熱炉チューブ内に供給される分解生成油又は重質炭化水素以外の原料油等が存在する場合には、それらの体積流量を含めて流速を計算する。
【0035】
加熱炉における流体の滞留時間は、所望の分解炭化水素収率とコーク性状を得るために流体の性状に応じて最適値に調整されるが、加熱炉チューブ内のコーキングをより十分に抑制する観点から、0.5~5分であってよく、好ましくは1~4分、より好ましくは1~3分であってよい。
【0036】
加熱炉チューブ内を通過させる流体中の過塩基性炭酸マグネシウムの濃度は、加熱炉チューブ内のコーキングをより十分に抑制する観点から、5質量ppm以上であってよく、好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは15質量ppm以上、さらに好ましくは30質量ppm以上であってよい。また、流体中の過塩基性炭酸マグネシウムの濃度は、経済性の観点から、1000質量ppm以下であってよく、100質量ppm以下であってよい。
【0037】
加熱炉チューブの表面温度は、運転時間の経過に伴い加熱炉のチューブ内にコークが徐々に堆積するため徐々に上昇する。この表面温度がチューブ材質の制約によって設定された上限値に到達した場合、ディレイドコーカー1の運転を停止して加熱炉10のチューブの清掃を行う必要がある。本実施形態に係るコーキング抑制方法及び軽質炭化水素の製造方法によれば、加熱炉チューブ内を通過させる流体に本実施形態に係るコーキング抑制剤を添加することにより、加熱炉のチューブ内にコークが堆積することを抑制し、加熱炉チューブの表面温度の上昇速度を低下させることができる。そのため、ディレイドコーカー1の運転を停止して加熱炉10のチューブの清掃を行うまでの連続運転期間を長くすることができ、積算通油量(ディレイドコーカーの運転開始から運転停止までの合計通油量)を増加させ、ディレイドコーカーの処理能力を向上させることができる。
【0038】
<コークドラムの運転>
次にコークドラムの運転について説明する。本実施形態ではコークドラム16とコークドラム18の二基のコークドラムを備えている。二基のコークドラムには加熱炉10で加熱された流体が交互に導入される。
【0039】
コークドラム16に加熱炉10で加熱された流体が導入され、所定量のコークが堆積したら、スイッチバルブ22を操作して流体の導入を待機していたコークドラム18に切り替える。切替(SW)後、コークが堆積したコークドラム16を所定温度まで冷却してコークを取り出す。コークドラム18に所定量のコークが堆積したら、スイッチバルブ22を操作して流体の導入を待機していたコークドラム16に切り替える。以上のコークドラム切替操作を繰り返し実施する。これにより、ディレイドコーカーは継続的に運転される。
【0040】
コークドラム16(18)で生成された分解炭化水素は、コークドラム16(18)からラインL8(L9)によってスタブタワー12に導入される。一方、コークドラム16(18)で生成された凝縮油は、コークドラム16(18)の塔底部からラインL5(L6)で抜き出され、ラインL7を介して精留塔14の底部付近に導入される。なお、コーキング抑制剤は、加熱炉チューブ内やコークドラム内で分解され、生成物であるコークス中に含まれることとなる。
【0041】
<スタブタワー及び精留塔の運転>
スタブタワー12に導入された分解炭化水素は、スタブタワー12において、軽質炭化水素と重質炭化水素とに分離される。軽質炭化水素は、スタブタワー12の塔頂部からラインL10で抜き出され、精留塔14に導入される。一方、重質炭化水素は、ラインL2から供給される原料油と適宜混合されてラインL3によってスタブタワー12から抜き出され、コーキング抑制剤が添加された後、加熱炉10に供給される。
【0042】
精留塔14に導入された軽質炭化水素は、精留塔14で分離されて留出油を生成し、ラインL11でガス・ナフサが抜き出され、ラインL12で軽質軽油が抜き出される。重質軽油は、精留塔14の塔底部からラインL13によって抜き出され、熱交換器20で原料油と熱交換し、ラインL14によって後続のタンクなどに送られる。
【0043】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0044】
上記実施形態にかかるディレイドコーカー1は二基のコークドラム16(18)を備えるが、本発明は三基以上のコークドラムを備える場合でも適用可能である。
【0045】
上記実施形態にかかるディレイドコーカー1はスタブタワー12を備えるが、スタブタワー12はなくてもよい。この場合、原料油は熱交換器で予熱された後に精留塔の底部に導入され、コークドラムで生成した分解炭化水素と接触した後に加熱炉で加熱することができる。
【0046】
上記実施形態にかかるディレイドコーカー1は原料油と重質軽油とを熱交換する熱交換器20を備えるが、原料油と軽質軽油及び/又はガス・ナフサとを熱交換する熱交換器をさらに備えていてもよい。また、精留塔では上記留出油以外の留分、例えば灯油を得ることも可能である。この場合、原料油と灯油とを熱交換する熱交換器をさらに備えていてもよい。
【実施例0047】
以下に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0048】
<ラボ装置におけるコーク生成への影響>
(実施例1)
重質炭化水素油(沸点446~748℃の減圧残油)50gと、過塩基性炭酸マグネシウムを含むコーキング抑制剤とからなる流体(流体中の過塩基性炭酸マグネシウムの含有量は50質量ppm)を、ステンレス製のオートクレーブに入れ、室温(25℃)から450℃まで加熱した後、450℃で90分間保持して反応させた。オートクレーブ内の圧力は1.10MPaで一定とした。その後、室温(25℃)まで冷却した。オートクレーブ内に生成したコークを取り出し、その質量を測定したところ、コーク生成量は10mgであった。
【0049】
(比較例1)
重質炭化水素油(沸点446~748℃の減圧残油)50gを、ステンレス製のオートクレーブに入れ、室温(25℃)から450℃まで加熱した後、450℃で90分間保持して反応させた。オートクレーブ内の圧力は1.10MPaで一定とした。その後、室温(25℃)まで冷却した。オートクレーブ内に生成したコークを取り出し、その質量を測定したところ、コーク生成量は21mgであった。
【0050】
(比較例2)
重質炭化水素油(沸点446~748℃の減圧残油)50gと、亜リン酸エステル化合物(ホスホン酸型の亜リン酸エステル化合物)を含む薬剤とからなる流体(流体中の亜リン酸エステル化合物の含有量は50質量ppm)を、ステンレス製のオートクレーブに入れ、室温(25℃)から450℃まで加熱した後、450℃で90分間保持して反応させた。オートクレーブ内の圧力は1.10MPaで一定とした。その後、室温(25℃)まで冷却した。オートクレーブ内に生成したコークを取り出し、その質量を測定したところ、コーク生成量は15.5mgであった。
【0051】
<ディレイドコーカー装置の運転への影響>
(実施例2)
重質炭化水素油(沸点446~748℃の減圧残油)に、過塩基性炭酸マグネシウムを含むコーキング抑制剤を、過塩基性炭酸マグネシウムの含有量が50質量ppmとなるように添加した流体を、流速3m/s、加熱炉出口における流体の温度500℃、加熱炉内反応時間(滞留時間)2分の条件で、ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内を通過させる処理を連続的に行った。加熱炉チューブの表面温度が630℃に到達するまでの連続運転期間を測定したところ、240日であった。この連続運転期間が長いほど、加熱炉チューブ内のコーキングが抑制されていると判断できる。
【0052】
(比較例3)
重質炭化水素油(沸点446~748℃の減圧残油)を、流速3m/s、加熱炉出口における流体の温度500℃、加熱炉内反応時間(滞留時間)2分の条件で、ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内を通過させる処理を連続的に行った。加熱炉チューブの表面温度が630℃に到達するまでの連続運転期間を測定したところ、90日であった。
【0053】
(比較例4)
重質炭化水素油(沸点446~748℃の減圧残油)に、亜リン酸エステル化合物(ホスホン酸型の亜リン酸エステル化合物)を含む薬剤を、亜リン酸エステル化合物の含有量が50質量ppmとなるように添加した流体を、流速3m/s、加熱炉出口における流体の温度500℃、加熱炉内反応時間(滞留時間)2分の条件で、ディレイドコーカーの加熱炉チューブ内を通過させる処理を連続的に行った。加熱炉チューブの表面温度が630℃に到達するまでの連続運転期間を測定したところ、90日であった。
【0054】
<ラボ装置におけるコークの断面観察>
(実施例3)
重質炭化水素油(沸点446~748℃の減圧残油)50gと過塩基性炭酸マグネシウムを含むコーキング抑制剤50gとを、ステンレス製のオートクレーブに入れ、室温から520℃まで加熱した後、520℃で30分間保持して反応させた。オートクレーブ内の圧力は0.6MPaで一定とした。その後、室温まで冷却した。オートクレーブ内に生成したコークを取り出して、コークの断面を研磨し、偏光顕微鏡で観察した。
【0055】
(比較例5)
重質炭化水素油(沸点446~748℃の減圧残油)50gを、ステンレス製のオートクレーブに入れ、室温から520℃まで加熱した後、520℃で30分間保持して反応させた。オートクレーブ内の圧力は0.6MPaで一定とした。その後、室温まで冷却した。オートクレーブ内に生成したコークを取り出して、コークの断面を研磨し、偏光顕微鏡で観察した。
【0056】
(比較例6)
重質炭化水素油(沸点446~748℃の減圧残油)50gと亜リン酸エステルを含む薬剤50gとを、ステンレス製のオートクレーブに入れ、室温から520℃まで加熱した後、520℃で30分間保持して反応させた。オートクレーブ内の圧力は0.6Mpaで一定とした。その後、室温まで冷却した。オートクレーブ内に生成したコークを取り出して、コークの断面を研磨し、偏光顕微鏡で観察した。
【0057】
図2の(a)は実施例3で生成したコークの断面であり、図2の(b)は比較例5で生成したコークの断面であり、図2の(c)は比較例6で生成したコークの断面である。実施例3で生成したコークは、穴が多く、結晶が小さく、脆いものであり、容器壁面からの剥離が容易であった。一方、比較例5及び6で生成したコークは、穴が少なく、結晶が成長していて緻密で硬いものであり、容器壁面から剥離し難かった。
【符号の説明】
【0058】
1…ディレイドコーカー、10…加熱炉、12…スタブタワー、14…精留塔、16,18…コークドラム、20…熱交換器、22…スイッチバルブ。
図1
図2