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特開2025-69564水素燃料供給システム及び水素の液化方法
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  • 特開-水素燃料供給システム及び水素の液化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025069564
(43)【公開日】2025-05-01
(54)【発明の名称】水素燃料供給システム及び水素の液化方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 9/02 20060101AFI20250423BHJP
   F17C 13/00 20060101ALI20250423BHJP
【FI】
F17C9/02 ZAB
F17C13/00 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023179359
(22)【出願日】2023-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 理子
(72)【発明者】
【氏名】袴田 和英
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】有澤 秀則
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA06
3E172AB01
3E172BA04
3E172BB05
3E172BB12
3E172BB17
3E172EB21
(57)【要約】      (修正有)
【課題】加圧された水素を減圧して液化水素タンクへ戻す際に、高い割合で液化水素に変化させることができる水素燃料供給システムを提供する。
【解決手段】本開示の一態様に係る水素燃料供給システムは、液化水素を貯蔵する液化水素タンクと、液化水素タンクと水素燃料機関をつなぎ水素燃料機関に水素ガスを供給する供給ラインと、供給ラインに位置し、液化水素を臨界圧以上の圧力まで加圧する加圧ポンプと、供給ラインの加圧ポンプよりも下流の部分と液化水素タンクをつなぐ戻りラインと、戻りラインに位置し、加圧ポンプによって加圧された高圧水素を逆転温度曲線付近の圧力まで減圧して昇温させる減圧昇温弁と、戻りラインに位置し、減圧昇温弁によって昇温された水素をパラ・オルソ転換触媒に接触させる触媒反応器と、戻りラインに位置し、触媒反応器を通過した水素を減圧して液化水素に変化させる減圧液化弁と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化水素を貯蔵する液化水素タンクと、
前記液化水素タンクと水素燃料機関をつなぎ前記水素燃料機関に水素ガスを供給する供給ラインと、
前記供給ラインに位置し、液化水素を臨界圧以上の圧力まで加圧する加圧ポンプと、
前記供給ラインの前記加圧ポンプよりも下流の部分と前記液化水素タンクをつなぐ戻りラインと、
前記戻りラインに位置し、前記加圧ポンプによって加圧された高圧水素を逆転温度曲線付近の圧力まで減圧して昇温させる減圧昇温弁と、
前記戻りラインに位置し、前記減圧昇温弁によって昇温された水素をパラ・オルソ転換触媒に接触させる触媒反応器と、
前記戻りラインに位置し、前記触媒反応器を通過した水素を減圧して液化水素に変化させる減圧液化弁と、を備えている、水素燃料供給システム。
【請求項2】
加圧された高圧水素を逆転温度曲線付近の圧力まで減圧して昇温させ、昇温させた水素をパラ・オルソ転換触媒に接触させ、パラ・オルソ転換触媒に接触させた水素をさらに減圧して液化水素に変化させる、水素の液化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素燃料供給システム及び水素の液化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、LNGタンクで自然発生したボイルオフガスを加圧し、加圧したボイルオフガスの一部を過冷却LNGによって冷却して凝縮させ、LNGタンクに戻す装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第7119063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、環境保護の観点から、水素燃料が注目されている。水素燃料機関において、液化水素を加圧して得た水素ガスを再びタンクに戻すとき、冷媒を用いて液化することはできるが、このための新たな動力が必要である。動力を追加しないとき、理論上、全量液化することは不可能であり、高圧水素をもとの圧力にまで減圧しても、その一部は水素ガスとなる。これは、加圧ポンプから発する熱などにより、効率100%のシステムを実現することは不可能だからである。液化水素タンクに貯蔵されていた液化水素が水素ガスとなって液化水素タンクに戻ると、液化水素タンクの内部圧力が上昇し好ましくない。
【0005】
本開示は、臨界圧以上に昇圧した水素を減圧して液化水素タンクへ戻す際に、高い割合で液化水素に変化させることができる水素燃料供給システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る水素燃料供給システムは、液化水素を貯蔵する液化水素タンクと、前記液化水素タンクと水素燃料機関をつなぎ前記水素燃料機関に水素ガスを供給する供給ラインと、前記供給ラインに位置し、液化水素を臨界圧以上の圧力まで加圧する加圧ポンプと、前記供給ラインの前記加圧ポンプよりも下流の部分と前記液化水素タンクをつなぐ戻りラインと、前記戻りラインに位置し、前記加圧ポンプによって加圧された高圧水素を逆転温度曲線付近の圧力まで減圧して昇温させる減圧昇温弁と、前記戻りラインに位置し、前記減圧昇温弁によって昇温された水素をパラ・オルソ転換触媒に接触させる触媒反応器と、前記戻りラインに位置し、前記触媒反応器を通過した水素を減圧して液化水素に変化させる減圧液化弁と、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様に係る水素燃料供給システムによれば、臨界圧以上に昇圧した水素を減圧して液化水素タンクへ戻す際に、高い割合で液化水素に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、水素燃料供給システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について説明する。図1は、実施形態に係る水素燃料供給システム100のブロック図である。図1に示すように、本実施形態に係る水素燃料供給システム100は、液化水素タンク11と、供給ライン12と、加圧ポンプ13と、加熱器14と、戻りライン15と、減圧昇温弁16と、触媒反応器17と、減圧液化弁18と、を備えている。以下、これらの構成要素について順に説明する。
【0010】
液化水素タンク11は、液化水素を貯蔵するタンクである。液化水素タンク11は、液化水素で満たされた液相部21と、水素ガスで満たされた気相部22とを含んでいる。液化水素タンク11では、内部圧力が上昇して許容値を超えると、気相部22から水素ガスの一部が排出される。通常、液化水素タンク11から排出された水素ガスは大気に放出されたり焼却されたりするなどして処分される。したがって、水素燃料を無駄に消費しないためにも、液化水素タンク11の内部圧力を抑えることが望ましい。
【0011】
供給ライン12は、液化水素タンク11と水素燃料機関101をつなぐ配管である。水素燃料機関101は、水素ガスを燃料とする設備であり、例えばガスエンジン及びボイラなどである。供給ライン12は、液化水素タンク11の液相部21から液化水素を取得し、取得した液化水素を水素ガスに変化させ燃料として水素燃料機関101に供給する。
【0012】
加圧ポンプ13は、供給ライン12に位置し、液化水素を加圧するポンプである。加圧ポンプ13は、液化水素タンク11から取得した液化水素を臨界圧以上に加圧する。加圧ポンプ13は、複数のポンプで構成されていてもよく、1つのポンプのみで構成されていてもよい。例えば、加圧ポンプ13は、低圧ポンプと、低圧ポンプで加圧した液化水素をさらに加圧する高圧ポンプを含んでいてもよい。
【0013】
加熱器14は、供給ライン12に位置し、水素を加熱する機器である。本実施形態の加熱器14は、供給ライン12の加圧ポンプ13よりも下流の部分に位置している。したがって、加熱器14は、加圧ポンプ13で加圧された水素を加熱する。加熱器14で加熱された臨界水素は水素燃料機関101に供給される。
【0014】
戻りライン15は、供給ライン12と液化水素タンク11をつなぐラインである。本実施形態の戻りライン15は、供給ライン12の加圧ポンプ13よりも下流で加熱器14よりも上流の部分に接続している。戻りライン15は、加圧ポンプ13によって加圧された水素のうち水素燃料機関101に供給されない余剰の水素を供給ライン12から取得し、取得した水素を液化水素に変化させて液化水素タンク11に戻している。液化水素タンク11に戻す水素のほとんどを液化水素に変化させることができれば、液化水素タンク11の内部圧力を抑えることができ、ひいては水素燃料の無駄な消費を抑制することができる。なお、戻りライン15が供給ライン12から取得する水素は、液化水素タンク11内の液化水素や液化ガスよりも温度は高いものの極低温(例えば、-200℃以下)であり、高圧(例えば、20MPaG以上)である。
【0015】
減圧昇温弁16は、戻りライン15に位置し、供給ライン12から取得した水素を減圧する弁である。減圧昇温弁16は、1つの弁で構成されていてもよく、複数の弁で構成されていてもよい。ここで、高圧の流体が弁によって減圧されて膨張する過程は等エンタルピー膨張であり、ジュールトムソン膨張と呼ばれている。ジュールトムソン膨張では、逆転温度曲線よりも圧力が高ければ減圧によって温度は上昇する。水素は、逆転温度曲線が天然ガスなどの他の気体よりも低温域にあるという特徴があるため、高圧極低温の水素を減圧することにより、逆転温度曲線にかかるまでは昇温し、逆転温度曲線よりも低い圧力では、液化温度まで降温できることを利用する。本実施形態では、減圧昇温弁16の入口における高圧極低温の水素を、逆転温度曲線にかかる手前まで減圧することにより一時的に昇温させる。
【0016】
触媒反応器17は、水素をパラ・オルソ転換触媒に接触させる機器である。触媒反応器17は、戻りライン15の減圧昇温弁16よりも下流の部分に位置している。ここで、水素は、陽子のスピン方向が同一であるオルソ水素と、陽子のスピン方向が異なるパラ水素を含んでいる。水素の温度が上昇するとパラ水素がオルソ水素に転換してオルソ水素の割合が増加する。パラ水素からオルソ水素への転換は、吸熱反応になるため、転換時に水素の温度が下がる。しかしながら、パラ水素からオルソ水素への転換が始まって平衡状態に至るまでには数日程度かかるため、減圧昇温弁16によって水素の温度が上昇したとしても、すぐに吸熱反応はおこらない。
【0017】
そこで、本実施形態に係る水素燃料供給システム100は、触媒反応器17によって、減圧昇温弁16で昇温した水素をパラ・オルソ転換触媒に接触させている。パラ・オルソ転換触媒に触れた水素は、パラ水素からオルソ水素への転換が促進される。そのため、水素に含まれるオルソ水素の割合は水素の温度に対応する値、つまり平衡状態における値にまで上昇する。これにより、転換時に吸熱反応がおこり、水素の温度が下がる。なお、パラ・オルソ転換触媒としては、例えば水酸化鉄などが利用可能である。
【0018】
減圧液化弁18は、触媒反応器17を通過した水素を減圧して液化する弁である。減圧液化弁18は、戻りライン15の触媒反応器17よりも下流の部分に位置している。減圧液化弁18は、1つの弁で構成されていてもよく、複数の弁で構成されていてもよい。本実施形態では、吸熱反応で温度が下がった状態から、さらに逆転温度曲線を超えてタンク圧力まで減圧することにより、液化温度まで降温させることができる。なお、減圧液化弁18の入口における水素の圧力が逆転温度曲線よりも高い場合は、水素を減圧することにより水素は一時的に昇温するが、さらに減圧することにより水素を降温させることができる。
【0019】
減圧液化弁18によって水素を減圧して降温させることにより、水素の温度は沸点を下回り、液化水素に変化する。そして、前述のとおり、触媒反応器17を通過した水素は温度が下がっており、その状態から減圧液化弁18により減圧することで、液化する割合が増える。よって、本実施形態に係る水素燃料供給システム100によれば、高い割合で高圧水素を液化水素に変化させることができる。その結果、液化水素タンク11の内部圧力を抑えることができ、水素燃料の無駄な消費も抑制できる。
【0020】
<まとめ>
本明細書で開示する第1の項目は、液化水素を貯蔵する液化水素タンクと、前記液化水素タンクと水素燃料機関をつなぎ前記水素燃料機関に水素ガスを供給する供給ラインと、前記供給ラインに位置し、液化水素を臨界圧以上の圧力まで加圧する加圧ポンプと、前記供給ラインの前記加圧ポンプよりも下流の部分と前記液化水素タンクをつなぐ戻りラインと、前記戻りラインに位置し、前記加圧ポンプによって加圧された高圧水素を逆転温度曲線付近の圧力まで減圧して昇温させる減圧昇温弁と、前記戻りラインに位置し、前記減圧昇温弁によって昇温された水素をパラ・オルソ転換触媒に接触させる触媒反応器と、前記戻りラインに位置し、前記触媒反応器を通過した水素を減圧して液化水素に変化させる減圧液化弁と、を備えている、水素燃料供給システムである。
【0021】
この構成によれば、加圧された水素を減圧して液化水素タンクへ戻す際に、高い割合で液化水素に変化させることができる。
【0022】
本明細書で開示する第2の項目は、加圧された高圧水素を逆転温度曲線付近の圧力まで減圧して昇温させ、昇温させた水素をパラ・オルソ転換触媒に接触させ、パラ・オルソ転換触媒に接触させた水素をさらに減圧して液化水素に変化させる、水素の液化方法である。
【0023】
この方法によれば、加圧された水素を減圧して液化水素に変化させる際に、高い割合で液化水素に変化させることができる。
【符号の説明】
【0024】
11 液化水素タンク
12 供給ライン
13 加圧ポンプ
14 加熱器
15 戻りライン
16 減圧昇温弁
17 触媒反応器
18 減圧液化弁
21 液相部
22 気相部
100 水素燃料供給システム
101 水素燃料機関
図1