(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006960
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】軟X線式静電除去装置
(51)【国際特許分類】
H05F 3/06 20060101AFI20250109BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H05F3/06
H01L21/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108034
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000163660
【氏名又は名称】ケンブリッジフィルターコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003579
【氏名又は名称】弁理士法人山崎国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【弁理士】
【氏名又は名称】朴 志恩
(72)【発明者】
【氏名】木崎原 稔郎
【テーマコード(参考)】
5G067
【Fターム(参考)】
5G067AA41
5G067DA17
5G067DA22
(57)【要約】
【課題】静電除去する対象物に多量のイオンを吹き付けることができる軟X線式静電除去装置を提供する。
【解決手段】
軟X線92を発生する軟X線発生装置90と、吸気口14と軟X線92によりイオン化されたイオン化空気100を流出する出口12を有する容器10と、容器10の出口12に使用する軟X線遮蔽シート20と、軟X線遮蔽シート20と容器10とを絶縁する絶縁層50と、出口20から排出されるイオン化空気100の拡散を防止して、静電除去する対象物Wにイオン化空気100を吹き付けるノズル70であって、容器10から絶縁されるノズル70とを備える、軟X線式静電除去装置1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気をイオン化するための軟X線を発生する軟X線発生装置と;
空気を取り入れる吸気口と、軟X線によりイオン化されたイオン化空気を流出する出口を有する容器と;
前記容器の出口に使用する軟X線遮蔽シートであって、
軟X線を通さない素材で形成される第1外層シートと、
軟X線を通さない素材で形成される中間層シートと、
軟X線を通さない素材で形成される第2外層シートとを有し、
前記第1外層シートには、イオン化空気の供給口が形成され、
前記中間層シートには、前記供給口と連通するイオン化空気流入開口を備えたイオン化空気通路が形成され、
前記第2外層シートには、前記イオン化空気通路に連通する排出口が形成され、
前記第1外層シート、前記中間層シートおよび前記第2外層シートは積層固着され、前記供給口、イオン化空気通路および排出口を連通して設けられたイオン化空気通過部を備えて形成される、軟X線遮蔽シートと;
前記軟X線遮蔽シートと前記容器とを絶縁する絶縁層と;
前記出口から排出される前記イオン化空気の拡散を防止して、静電除去する対象物に前記イオン化空気を吹き付けるノズルであって、前記容器から絶縁されるノズルとを備える;
軟X線式静電除去装置。
【請求項2】
前記ノズルは、前記軟X線遮断シートに接続され、前記軟X線遮断シートにより支持される、
請求項1記載の軟X線式静電除去装置。
【請求項3】
前記ノズルは、前記軟X線遮断シートに接続され、支持部材により支持される、
請求項1記載の軟X線式静電除去装置。
【請求項4】
前記吸気口に、
軟X線を通さない素材で形成される第1外層シートと、
軟X線を通さない素材で形成される中間層シートと、
軟X線を通さない素材で形成される第2外層シートとを有し、
前記第1外層シートには、空気の流入口が形成され、
前記中間層シートには、前記流入口と連通する空気流入開口を備えた空気通路が形成され、
前記第2外層シートには、前記空気通路に連通する取り入れ口が形成され、
前記第1外層シート、前記中間層シートおよび前記第2外層シートは積層固着され、前記流入口、空気通路および取り入れ口を連通して設けられた空気通過部を備えて形成される、軟X線遮蔽シートを備える;
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の軟X線式静電除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟X線式静電除去装置に関する。特に、イオンを多量に対象物に吹き付けることが可能な、軟X線式静電除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体、液晶、有機ELの製造工程においては、半導体基板、液晶基板、有機EL基板の加工・ハンドリング工程で、該基板表面に静電気が帯電し、該静電気で半導体基板、液晶基板、有機EL基板の回路が破壊するトラブルを生ずることが知られている。また、各基板の帯電は表面への塵の付着というトラブルも引き起こしている。
【0003】
このようなトラブル対策として、半導体、液晶、有機EL製造装置において、基板表面上の帯電防止・静電気を除去するためのイオンを発生する静電除去装置が設置されている。静電除去装置には、高電圧で空気をイオン化するコロナ放電式静電除去装置と、軟X線を空気に照射して空気をイオン化する軟X線式静電除去装置がある。
【0004】
コロナ放電式静電除去装置では、放電時に電極からのパーティクルが発生し、軟X線式静電除去装置では、パーティクルは発生しないが、軟X線が漏洩すると人体に影響を及し、それぞれ短所を有していた。
【0005】
従来からイオン化空気のみを取り出し、軟X線を外部に漏洩しない軟X線式静電除去装置が開発されているが、構造が複雑であった。そこで先に発明者は、供給口から入射した軟X線が排出口に至る間に通路に衝突する回数を少なくとも3回以上とすることにより、軟X線の直進性を阻止して、軟X線を減衰・消滅させて、簡単な構造で排出口からの軟X線の漏洩を防止できる軟X線遮蔽シートを提案した(特許文献-1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2008/023727号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、発明者らは、イオン化空気は排出口から排出されると拡散し、また、イオン化空気中のイオン数が時間とともに減衰するので、対象とする基板表面に到達するときにはイオン濃度が減少してしまうことを見出した。そこで本発明は、静電除去する対象物に多量のイオンを吹き付けることができる軟X線式静電除去装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る軟X線式静電除去装置1は、例えば
図1および
図2に示すように、空気102をイオン化するための軟X線92を発生する軟X線発生装置90と、空気102を取り入れる吸気口14と、軟X線92によりイオン化されたイオン化空気100を流出する出口12を有する容器10と、容器10の出口12に使用する軟X線遮蔽シート20であって、軟X線92を通さない素材で形成される第1外層シート30と、軟X線92を通さない素材で形成される中間層シート34と、軟X線92を通さない素材で形成される第2外層シート40とを有し、第1外層シート30には、イオン化空気100の供給口32が形成され、中間層シート34には、供給口32と連通するイオン化空気流入開口36を備えたイオン化空気通路38が形成され、第2外層シート40には、イオン化空気通路38に連通する排出口42が形成され、第1外層シート30、中間層シート34および第2外層シート40は積層固着され、供給口32、イオン化空気通路38および排出口42を連通して設けられたイオン化空気通過部44を備えて形成される、軟X線遮蔽シート20と、軟X線遮蔽シート20と容器10とを絶縁する絶縁層50と、出口20から排出されるイオン化空気100の拡散を防止して、静電除去する対象物Wにイオン化空気100を吹き付けるノズルであって、容器10から絶縁されるノズル70とを備える。
【0009】
このように構成すると、軟X線で空気をイオン化し、軟X線遮蔽シートによりイオン化空気を通して軟X線が外部に漏洩することを防止することができ、また、ノズルで静電除去する対象物にイオン化空気を吹き付け、かつ、軟X線遮蔽シートおよびノズルが容器から絶縁されるので、イオン化空気中のイオンが軟X線遮蔽シートやノズルにトラップされず、静電除去する対象物に多量のイオンを吹き付けることができる。
【0010】
本発明の第2の態様に係る軟X線式静電除去装置1は、例えば
図1に示すように、ノズル70は、軟X線遮蔽シート20に接続され、軟X線遮蔽シート20により支持される。このように構成すると、ノズルが軟X線遮断シートにより支持されるので、部品数が増えず、構造が簡単になる。
【0011】
本発明の第3の態様に係る軟X線式静電除去装置2は、例えば
図7に示すように、ノズル70は、軟X線遮蔽シート20に接続され、支持部材72により支持される。このように構成すると、ノズルが支持部材により支持されるので、ノズルの設置について自由度が増して、例えば、ノズルの先端位置は先端からのイオン化空気の流れ方向を変えることも可能になる。
【0012】
本発明の第4の態様に係る軟X線式静電除去装置1は、例えば
図1および
図6に示すように、吸気口14に、軟X線を通さない素材で形成される第1外層シート130と、軟X線を通さない素材で形成される中間層シート134と、軟X線を通さない素材で形成される第2外層シート140とを有し、第1外層シート130には、空気102の流入口132が形成され、中間層シート134には、流入口132と連通する空気流入開口136を備えた空気通路138が形成され、第2外層シート140には、空気通路138に連通する取り入れ口142が形成され、第1外層シート130、中間層シート134および第2外層シート140は積層固着され、流入口132、空気通路138および取り入れ口142を連通して設けられた空気通過部144を備えて形成される、軟X線遮蔽シート120を備える。このように構成すると、吸気口からの軟X線の漏洩も防止でき、より安全性の高い軟X線式静電除去装置となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軟X線により空気をイオン化し、軟X線遮蔽シートによりイオン化空気を通して軟X線が外部に漏洩することを防止することができ、かつ、ノズルにより静電除去する対象物に多量のイオンを吹き付けることができる軟X線式静電除去装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の軟X線式静電除去装置を説明するための概念図である。
【
図2】軟X線式静電除去装置の出口に用いられる軟X線遮蔽シートのイオン化空気通過部を説明するための断面図である。
【
図3】軟X線式静電除去装置の出口に用いられる軟X線遮蔽シートのイオン化空気通過部を説明するための軟X線遮蔽シートの分解斜視図である。
【
図4】軟X線式静電除去装置の出口に用いられる軟X線遮蔽シートと絶縁層を説明するための図で、(a)はイオン化空気の流れ方向に直交する面での断面図、(b)はイオン化空気の流れ方向から見た側面図である。
【
図5】一実施形態の絶縁層を説明するための図で、(a)はイオン化空気の流れ方向に直交する面での断面図、(b)はA-A断面図である。
【
図6】軟X線式静電除去装置の吸気口に用いられる軟X線遮蔽シートの空気通過部を説明するための断面図である。
【
図7】本発明の軟X線式静電除去装置を説明するための概念図であって、ノズルを支持部材で支持する例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、互いに同一または相当する装置には同一符号を付し、重複した説明は省略する。先ず、
図1を参照して、本発明の軟X線式静電除去装置1を説明する。
【0016】
軟X線式静電除去装置1は、空気をイオン化し、イオン化された空気であるイオン化空気100が流れる空間を提供する容器10を有する。容器10は、容器10内に空気102を取り入れる吸気口14を有する。吸気口14にはファン(不図示)を備え、容器10外の空気102を強制的に容器10内に取り入れてもよい。容器10において吸気口14が設けられた位置の近くに軟X線発生装置90が配置される。軟X線発生装置90から軟X線92を発生し、容器10内で空気に照射することにより、空気がイオン化される。軟X線発生装置90は公知の軟X線装置でよいので、詳細な説明は省略する。容器10において吸気口14が設けられた位置から離れた位置に、イオン化空気100の出口12が形成される。軟X線発生装置90が吸気口14の近くに設けられ、出口12が吸気口14から離れた位置に設けられると、吸気口14から出口12へと空気が流れ、その空気を軟X線発生装置90からの軟X線92でイオン化でき、イオン化空気100は短時間で出口から放出されるので好ましいが、他の配置であってもよい。なお、容器10は、ステンレス鋼その他の金属で成形されるのが一般的である。
【0017】
出口12には、軟X線遮蔽シート20が配置される。すなわち、イオン化空気100が容器10から放出されるには、軟X線遮蔽シート20を通過することになる。
【0018】
ここで、
図2および
図3を参照して、イオン化空気100が通過する軟X線遮蔽シート20のイオン化空気通過部44について説明する。
図2は軟X線遮蔽シート20のイオン化空気通過部44付近での断面図、
図3は同分解斜視面図である。軟X線遮蔽シート20は、軟X線92を通さない素材で形成される第1外層シート30、軟X線92を通さない素材で形成される中間層シート34および軟X線92を通さない素材で形成される第2外層シート40の3枚のシートが積層固着され形成されている。ここで、軟X線を通さない素材とは、鉛、鉄、アルミニウムなどの金属が代表的であるが、金属には限られない。金属であると薄くても軟X線92の通過を遮断できるとともに薄く形成しやすく、軟X線遮蔽シート20用には適している。また、積層固着する方法は、特に限定されない。第1外層シート30には、容器10内のイオン化空気100が軟X線遮蔽シート20に進入する供給口32が開口する。中間層シート34には、その両端部にイオン化空気流入開口36を備えてイオン化空気通路38が開口する。第2外層シート40には、イオン化空気100が容器10外に放出される排出口42が開口している。
【0019】
本実施例では、第1外層シート30の供給口32は、第1外層シート30にそれぞれ間隔を有して2個開口している。中間層シート34のイオン化空気通路38は、第1外層シート30の供給口32と連通する位置にそれぞれ開口されたイオン化空気流入開口36を備えると共に、各イオン化空気流入開口36と連通して形成されている。第2外層シート40の排出口42は、中間層シート34のイオン化空気通路38と連通する位置に開口している。
【0020】
上述のように形成された第1外層シート30、中間層シート34および第2外層シート40を積層固着すると、第1外層シート30の各供給口32と中間層シート34の各イオン化空気流入開口36とが連通され、更に中間層シート34のイオン化空気通路38の中間位置において、イオン化空気通路38と、第2外層シート40の排出口42とが連通して、イオン化空気通過部44が形成される。軟X線遮蔽シート20には、1個のイオン化空気通過部44が形成されてもよいが、複数のイオン化空気通過部44が形成されてもよい。また、イオン化空気通過部44の形状、開口の個数等は上記には限定されない。
【0021】
軟X線92が供給口32から入射して排出口42に至る間に、第2外層シート40の内側面41と、第1外層シート30の内側面31への衝突回数が増え、軟X線92が減衰・消滅するように、イオン化空気通路38には、平面上で90度折れ曲がる折曲部39が設けられる。
【0022】
また、イオン化されたイオン化空気100の流体抵抗を抑え、短時間で排出口42に至り、プラスイオンと、マイナスイオンの再結合を抑えるように、イオン化空気通路38の各折曲部39は、イオン化空気100の流体抵抗を低くするべく、それぞれ湾曲した湾曲面37を備えて形成されている。すなわち、イオン化空気通路38は、平面上で90度折れ曲がる少なくとも1個所以上の折曲部39を備え、内側面、すなわち通路、への軟X線92の衝突による消滅を図っている。なお、イオン化空気通路38の形状は他の形状であってもよい。軟X線92の通路への衝突の回数を増やしつつ、イオン化空気100の流体抵抗を抑える形状が好ましい。
【0023】
上記の構成による本発明の軟X線式静電除去装置1に使用する軟X線遮蔽シート20の作用につき、
図2に基づいて説明する。軟X線遮蔽シート20の上流側である容器10内では、軟X線92により、プラスイオンとマイナスイオンにイオン化されたイオン化空気100が、容器10内に空気102が送り込まれることにより、加圧された状態にある。したがって、イオン化空気100は、供給口32からイオン化空気流入開口36およびイオン化空気通路38を経て排出口42より、軟X線遮蔽シート20の下流側へ放出される。
【0024】
一方、軟X線92は、各供給口32から入射し直進して、イオン化空気流入開口36からイオン化空気通路38を経て、排出口42に至る間に、
図2に示すように、第2外層シート40の内側面41、第1外層シート30の内側面31、あるいは、折曲部39の湾曲面37等へ衝突して直進性が阻止される。内側面31・41等への衝突で、軟X線92は減衰し、最終的にはほぼ消滅し、前記排出口42から危険な軟X線92が漏洩されることはない。軟X線92が減衰し、ほぼ消滅するには、内側面31・41等へ3回以上衝突するのが好ましい。そのために、イオン化空気通過部44の断面の大きさ、長さ、折曲部39の数、すなわちイオン化空気通路38の経路などが設計される。なお、軟X線遮蔽シート20を構成するシートの枚数を3枚ではなく、イオン化空気通路38が連通する複数の中間層シート34を有して、4枚以上としてもよい。
【0025】
そして、供給口32から導入されたイオン化空気100は、イオン化空気通路38を経て排出口42に至るが、軟X線92の漏洩防止の観点から設けたイオン化空気通路38の折曲部39を湾曲面37とすることで流体抵抗は低減され、イオン化空気100は短時間で排出口42に至ることができる。特に、プラスイオンとマイナスイオンの再結合が抑えられるようにイオン化空気100が短時間で軟X線遮蔽シート20を通過できるのが好ましく、イオン化空気通過部44の経路は短くする。したがって、多量のイオンが、排出口42より下流側に放出される。
【0026】
なお、
図2および
図3に示す軟X線遮蔽シート20の場合、供給口32が2箇所、排出口42が1箇所となっているが、イオン化空気通路38を経て、双方から流れてくるイオン化空気100が排出口42で衝突することにより、排出口42からのイオン化空気100を垂直に噴出させることができるのである。
【0027】
また、
図1および
図4に示すように、軟X線式静電除去装置1では、容器10と軟X線遮蔽シート20とを絶縁層50で絶縁する。
図4に示す軟X線遮蔽シート20は、円形断面を有し、多数のイオン化空気通過部44が形成されている。その円形の外周に絶縁層50を配置する。容器10と軟X線遮蔽シート20とが導通し、容器10をアースすると、イオン化空気100中のイオンが軟X線遮蔽シート20にトラップされて、軟X線遮蔽シート20を通過するイオンの量が減少する恐れがあるためである。
【0028】
図5に絶縁層50の一例を示す。円形の軟X線遮蔽シート20の外周に3個の円弧形のセラミック52を配置する。なお、セラミック以外にプラスチック等の絶縁材料もあるが、軟X線を照射すると劣化して、粉末が発生する。セラミックであると、軟X線の照射を受けても劣化しにくいので、好ましい。また、軟X線遮蔽シート20の外周を覆う円環形状のセラミックでもよいが、セラミックは脆性な材料であるので、製造時や使用時に割れる恐れがある。そこで、1つの円環形状の部材で全周を覆うのではなく、複数に分けた円弧形のセラミック52を用いる。また、軟X線92はセラミックを透過する。そこで、軟X線92が軟X線遮蔽シート20の外周を覆う円環形状の絶縁層50を透過して漏洩するの防ぐために、軟X線遮蔽シート20のケーシング55により円環形状の絶縁層50を覆う。ケーシング55は、ステンレス鋼など、容器10と同質の材料で形成されるのが一般的である。ここで、ケーシング55は、軟X線遮蔽シート20を、狭いギャップ56(例えば、0.5mmの隙間で、半径方向の幅2mm)を有して覆う構造にする。このギャップ56により、軟X線遮蔽シート20とケーシング55とが絶縁される。また、ギャップ56を狭く長く、すなわち半径方向の幅を隙間より大きくすることにより、軟X線遮蔽シート20とケーシング55の間を、軟X線92が通り抜けることが防止される。具体的には、軟X線92がギャップ56を通り抜けようとすると、軟X線遮蔽シート20およびケーシング55に3回以上の衝突をすることになるようなギャップ56の形状である。そのため、軟X線92の直進性が阻止され、ケーシング55や軟X線遮蔽シート20の外縁付近に衝突して、減衰・消滅するためである。軟X線遮蔽シート20のケーシング55としては、
図5(a)に示すように、断面コの字状の円環として、コの字の中に円弧形のセラミック52を収納する構成とするのが、絶縁層50のハンドリングがし易く、好ましい。なお、
図5では、円周を3等分した円弧形のセラミック52を用いるが、その個数は任意である。
【0029】
あるいは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを軟X線遮蔽シート20の外周に巻き付けて、ケーシング55の溝(図(a)の50に相当する空間)に嵌めてもよい。PTFEは、絶縁性があり、PTFEシートを軟X線遮蔽シート20とケーシング55の間に配置し、軟X線遮蔽シート20とケーシング55が接触しないようにすることで両者を絶縁できる。
【0030】
容器10と軟X線遮蔽シート20とを絶縁することにより、運転初期にイオンが軟X線遮蔽シート20にトラップされると、軟X線遮蔽シート20はトラップしたイオンの電位(プラスまたはマイナス)を有することになり、以降は同性(プラスまたはマイナス)の電位のイオンはトラップされず、軟X線遮蔽シート20を通過することになる。したがって、軟X線遮蔽シート20を通過して放出されるイオン量は増大する。
【0031】
さらに、容器10と軟X線遮蔽シート20とが絶縁されるので、容器10と軟X線遮蔽シート20に電位差を印加することが可能になる。
図1に示すように電源装置60を備え、プラスまたはマイナスの電極を軟X線遮蔽シート20に軟X線遮蔽シート用ケーブル62で接続し、他の電極を容器10に容器用ケーブル64で接続する。すると、軟X線遮蔽シート20はプラスまたはマイナスに帯電し、容器10はプラス/マイナスが逆の電圧に帯電する。容器10が帯電していることにより、容器10での同性のイオン(プラスに帯電しているならプラスイオン、マイナスに帯電しているならマイナスイオン)の逸散が減少し、容器10内の同性イオンが増大し、軟X線遮蔽シート20を通過する同性イオンが増加するものと推測される。すなわち、放出されるプラス/マイナスイオンの量を調整できることになる。なお、容器10および軟X線遮蔽シート20は小さく、印加する電位も低くてもよいので、電源装置60から流れる電流は、数nA~数pAと極めて微小でよく、電源装置60としても低電力の電池等でよい。
【0032】
さらに、軟X線式静電除去装置1では、
図1に示すように、容器10のイオン化空気100の出口12にノズル70が設けられる。ノズル70は出口12から軟X線遮蔽シート20を通過して流出するイオン化空気100を所定の位置に流す。ノズル70は、ステンレス鋼などの金属で形成されるのが一般的であるが、材質は限定されない。また、ノズル70の上流側、すなわち出口12側では、出口12と同寸法の断面を有するが、下流側では断面が減少されてもよい。また、ノズル70は、直線状ではなく、曲がりを有する形状であってもよい。ノズル70の下端は、軟X線式静電除去装置1で静電除去する対象物Wの近くに開口し、イオン化空気100を対象物Wに吹き付けるようにする。
【0033】
このようにノズル70を備えることにより、容器10から流出するイオン化空気100は拡散することなく、多量のイオンが対象物Wに吹き付けられることになる。なお、ノズル70も金属等の導電材料で形成されるのが一般的であるので、容器10から絶縁するのが好ましい。なお、ノズル70を不導体材料で形成する場合には、特に絶縁することは不要となるが、この場合にも、ノズル70は容器10から絶縁されるものと称する。容器10とノズル」70とを絶縁することにより、ノズル70を通過するイオン化空気100中のイオンが、ノズル70にトラップされて、対象物Wに到達するイオンの量が減少することを防止することができる。
【0034】
図1に示す例では、ノズル70は、軟X線遮蔽シート20に接続され、固着されて、軟X線遮蔽シート20により支持されている。ノズル70を軟X線遮蔽シート20で支持するように構成すると、ノズル70を備えるための部品点数が増えることがなく、構造も単純で、結果としてコストを抑えることもできる。
【0035】
また、軟X線式静電除去装置1では、
図1に示すように、容器10内に空気102を取り入れる吸気口14に軟X線遮蔽シート120を配置し、空気102が容器10に取り入れられるのに、軟X線遮蔽シート120を通過するように構成してもよい。
【0036】
図6に示すように、軟X線遮蔽シート120は、出口12の軟X線遮断シート20と同様の構成である。すなわち、軟X線92を通さない素材で形成される第1外層シート130、軟X線92を通さない素材で形成される中間層シート134および軟X線92を通さない素材で形成される第2外層シート140の3枚のシートが積層固着され形成されている。第1外層シート130には空気102を取り入れる空気の流入口132が形成される。中間層シート34には、流入口132に連通する空気流入開口136を有する空気通路138が形成される。第2外層シート140には、空気102が容器10内に放出される取り入れ口142が開口している。第1外層シート130の流入口132と中間層シート134の空気通路138と第2外層シート140の取り入れ口142が連通して、空気通過部144が形成される。軟X線遮蔽シート120には、1個の空気通過部144が形成されてもよいが、複数の空気通過部144が形成されてもよく、空気通過部144の形状、開口の個数等が上記には限定されないことも、軟X線遮断シート20と同様である。
【0037】
上記のように、吸気口14に軟X線遮蔽シート120を配置することにより、容器内の軟X線92が吸気口14を通過して漏洩することを防止できる。
図1に示すように、軟X線発生装置90から発生する軟X線92が、吸気口14方向に照射されないような位置関係に、軟X線発生装置90と吸気口14を配置するので、基本的には吸気口14を通過する軟X線92は微量であるものと考えられるが、吸気口14に軟X線遮蔽シート120を配置することで微量な軟X線92の漏洩も防止できるので、安全性が高まる。なお、吸気口14の軟X線遮蔽シート120を通過するのは空気102であるので、イオンのトラップを防止する必要はなく、容器10と軟X線遮蔽シート120とを絶縁する必要はない。
【0038】
軟X線式静電除去装置1の説明では、ノズル70は、軟X線遮蔽シート20に接続され、固着されて、軟X線遮蔽シート20により支持されるものとした。しかし、ノズル70の支持方法は、容器10から絶縁される限り、任意である。例えば、
図7に示す軟X線式静電除去装置2のように、容器10に固定された支持部材72を介して支持してもよい。その際に、支持部材72を不導体材料で形成してもよいし、容器10と支持部材72の間、または、支持部材72とノズル70の間に絶縁層を設けてもよい。また、支持部材72は、容器以外に固定されてもよい。
【0039】
支持部材72でノズル70を支持することにより、ノズル70の設置に自由度が増える。例えば、ノズル70を直線状ではなく曲げて、ノズル70を回転させることによりイオン化空気100を吹き出す方向を変えてもよい。あるいは、ノズル70を変形可能にし、下流側を動かして、イオン化空気100を吹き出す位置を変えるようにしてもよい。その際には、ノズル70の複数個所を支持部材72で支持してもよい。
【0040】
また、軟X線遮蔽シート20とノズル70との間に空隙があってもよい。ただし、空隙から漏洩するイオン化空気100の量が、所望の量のイオン化空気100が対象物Wに吹き付けられる範囲内に収まる程度の空隙である。空隙がある場合にも、ノズル70は軟X線遮断シート20に接続されているものとする。
【0041】
これまで説明したように、本発明の軟X線式静電除去装置1、2によれば、容器から絶縁したノズル70を備え、出口から排出されるイオン化空気100の拡散を防止し、イオン化空気100を除電の対象物Wに吹き付けることにより、対象物Wに多量のイオンを吹き付けることができる。対象物Wが小型になると、ノズル70で吹き付けることは特に有利であり、対象物Wの寸法に合わせてノズル70の形状を変えることもできる。さらに、吸気口14に軟X線遮蔽シート120を配置することで微量な軟X線92の漏洩も防止でき、安全性が高まる。
【符号の説明】
【0042】
1、2 軟X線式静電除去装置
10 容器
12 出口
14 吸気口
20 軟X線遮蔽シート
30 第1外層シート
31 第1外層シート30の内側面
32 供給口
34 中間層シート
36 イオン化空気流入開口
37 湾曲面
38 イオン化空気通路
39 折曲部
40 第2外層シート
41 第2外層シートの内面
42 排出口
44 イオン化空気通過部
50 絶縁層
52 円弧形のセラミック
55 軟X線遮蔽シートのケーシング
56 ギャップ
60 電源装置
70 ノズル
72 (ノズル)支持部材
90 軟X線発生装置
92 軟X線
100 イオン化空気
102 空気
120 (吸気口の)軟X線遮蔽シート
130 第1外層シート
132 流入口
134 中間層シート
136 空気流入開口
138 空気通路
140 第2外層シート
142 取り入れ口
144 空気通過部
W 対象物