(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006961
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート、成形体、及び熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20250109BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20250109BHJP
C08J 9/14 20060101ALI20250109BHJP
B29C 48/21 20190101ALI20250109BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20250109BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B5/18
C08J9/14 CES
B29C48/21
B29C48/08
B29C44/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108035
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100126413
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 太亮
(72)【発明者】
【氏名】藤田 幹大
(72)【発明者】
【氏名】圓通 賢隆
【テーマコード(参考)】
4F074
4F100
4F207
4F214
【Fターム(参考)】
4F074AA16
4F074AA20
4F074AB03
4F074AB05
4F074AD11
4F074AD13
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4F074DA12
4F074DA33
4F100AK04B
4F100AK06B
4F100AK63A
4F100AK63B
4F100AL05B
4F100BA02
4F100CA01A
4F100DJ01A
4F100DJ02A
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4F100JA04B
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4F100JA11A
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4F214UB02
4F214UB22
4F214UB26
4F214UN12
4F214UP84
(57)【要約】
【課題】 良好な熱成形性を有し且つ剛性を向上させることの可能な熱成形用ポリエチレン樹脂多層押出発泡シート、成形体、及び熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートの製造方法を提供する。
【解決手段】
分岐状低密度ポリエチレンを主成分とするポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面側にポリエチレン系樹脂層が積層されている、熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートにおいて、前記ポリエチレン系樹脂層を構成する前記ポリエチレン系樹脂組成物の結晶化温度Tcrが108℃以下であり、前記ポリエチレン系樹脂層を構成する前記ポリエチレン系樹脂組成物の110℃における引張強さ(MPa)と引張伸び(%)との積が1300(MPa・%)以上である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐状低密度ポリエチレンを主成分とするポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面側にポリエチレン系樹脂層が積層されている、熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートであって、前記ポリエチレン系樹脂層を構成する前記ポリエチレン系樹脂組成物の結晶化温度Tcrが108℃以下であり、
前記ポリエチレン系樹脂層を構成する前記ポリエチレン系樹脂組成物の110℃における引張強さ(MPa)と引張伸び(%)との積が1300(MPa・%)以上である、熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
【請求項2】
前記分岐状低密度ポリエチレンの結晶化温度Tcfと前記ポリエチレン系樹脂組成物の結晶化温度Tcrとの差[Tcr-Tcf]が0℃以上10℃以下である、
請求項1に記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
【請求項3】
前記熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートの厚みが1mm以上3.5mm以下である、
請求項1又は2に記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
【請求項4】
前記熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートの坪量が150g/m2以下である、請求項1又は2に記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
【請求項5】
前記ポリエチレン系樹脂組成物が直鎖状低密度ポリエチレンを含む、
請求項1又は2に記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
【請求項6】
前記ポリエチレン系樹脂組成物が直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの混合樹脂を主成分とし、前記ポリエチレン系樹脂組成物中の直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの質量比が、90:10~30:70である、
請求項1又は2に記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
【請求項7】
前記ポリエチレン系樹脂組成物の23℃における引張伸び(%)に対する前記ポリエチレン系樹脂組成物の110℃における引張伸び(%)の比が0.3以上である、
請求項1又は2に記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
【請求項8】
前記ポリエチレン系樹脂組成物は、脂肪酸エステル、脂肪族アミン及び脂肪酸アミドからなる群から選択される1以上の収縮防止剤を含み、前記収縮防止剤の配合量がポリエチレン系樹脂組成物を構成するポリエチレン系樹脂100質量部に対して0.7質量部以上3質量部以下であり、前記ポリエチレン系樹脂発泡層は、脂肪酸エステル、脂肪族アミン及び脂肪酸アミドからなる群から選択される1以上の収縮防止剤を実質的に含まない、
請求項1又は2に記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
【請求項9】
前記ポリエチレン系樹脂組成物の110℃における引張強さ(MPa)と引張伸び(%)との積が1600以上であり、且つ、前記ポリエチレン系樹脂発泡層及び前記ポリエチレン系樹脂層は、脂肪酸エステル、脂肪族アミン及び脂肪酸アミドからなる群から選択される1以上の収縮防止剤を実質的に含まない、
請求項1又は2に記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
【請求項10】
前記ポリエチレン系樹脂組成物は、直鎖状低密度ポリエチレンとしてエチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体を含む、
請求項1又は2に記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
【請求項11】
前記熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートの独立気泡率が40%以上である、請求項1又は2に記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートを熱成形してなる成形体。
【請求項13】
分岐状低密度ポリエチレンと物理発泡剤とを混練してなる発泡層形成用溶融物と、ポリエチレン系樹脂組成物を溶融混練してなる樹脂層形成用溶融物とを共押出して、
ポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面側にポリエチレン系樹脂層が積層されている、熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートを製造する熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートの製造方法であって、
前記ポリエチレン系樹脂組成物の結晶化温度Tcrが108℃以下であり、
前記ポリエチレン系樹脂組成物の110℃における引張強さ(MPa)と引張伸び(%)との積が1300(MPa・%)以上である、熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート、前記熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートを熱成形してなる成形体、及び熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱成形用ポリエチレン系樹脂押出発泡シートは、熱成形により包装容器等の形状に賦形することができ、緩衝材等の広範な用途で使用されている。熱成形用ポリエチレン系樹脂押出発泡シートとして、特許文献1には、熱成形性を向上する観点から、熱成形用ポリエチレン樹脂多層押出発泡シートが提案されている。特許文献1に提案された熱成形用ポリエチレン樹脂多層押出発泡シートは、ポリエチレン系樹脂発泡層とその表面にポリエチレン系樹脂層を有し、ポリエチレン系樹脂層が特定の融解熱量を示すように直鎖状ポリエチレン系樹脂が配合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術で得られる熱成形用ポリエチレン系樹脂押出発泡シートは、適度な熱成形性を有しているものの、より高度な熱成形性を得るという点ではさらなる改善の余地があった。また、熱成形用ポリエチレン系樹脂押出発泡シートを熱成形することにより得られる成形体の剛性の点で、さらなる改善の余地があった。
【0005】
本発明における一つの目的は、良好な熱成形性を有し且つ剛性を向上させることの可能な熱成形用ポリエチレン樹脂多層押出発泡シート、熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートを熱成形してなる成形体、及び熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、次の(1)から(13)に示す発明を要旨とする。
【0007】
(1)分岐状低密度ポリエチレンを主成分とするポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面側にポリエチレン系樹脂層が積層されている、熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートであって、前記ポリエチレン系樹脂層を構成する前記ポリエチレン系樹脂組成物の結晶化温度Tcrが108℃以下であり、
前記ポリエチレン系樹脂層を構成する前記ポリエチレン系樹脂組成物の110℃における引張強さ(MPa)と引張伸び(%)との積が1300(MPa・%)以上である、熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
(2)前記分岐状低密度ポリエチレンの結晶化温度Tcfと前記ポリエチレン系樹脂組成物の結晶化温度Tcrとの差[Tcr-Tcf]が0℃以上10℃以下である、上記(1)に記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
(3)前記熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートの厚みが1mm以上3.5mm以下である、上記(1)又は(2)に記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
(4)前記熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートの坪量が150g/m2以下である、上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
(5)前記ポリエチレン系樹脂組成物が直鎖状低密度ポリエチレンを含む、上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
(6)前記ポリエチレン系樹脂組成物が直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの混合樹脂を主成分とし、前記ポリエチレン系樹脂組成物中の直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの質量比が、90:10~30:70である、上記(1)から(4)のいずれか1つに熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
(7)前記ポリエチレン系樹脂組成物の23℃における引張伸び(%)に対する前記ポリエチレン系樹脂組成物の110℃における引張伸び(%)の比が0.3以上である、上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
(8)前記ポリエチレン系樹脂組成物は、脂肪酸エステル、脂肪族アミン及び脂肪酸アミドからなる群から選択される1以上の収縮防止剤を含み、前記収縮防止剤の配合量がポリエチレン系樹脂組成物を構成するポリエチレン系樹脂100質量部に対して0.7質量部以上3質量部以下であり、前記ポリエチレン系樹脂発泡層は、脂肪酸エステル、脂肪族アミン及び脂肪酸アミドからなる群から選択される1以上の収縮防止剤を実質的に含まない、上記(1)から(7)のいずれか1つに記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
(9)前記ポリエチレン系樹脂組成物の110℃における引張強さ(MPa)と引張伸び(%)との積が1600以上であり、且つ、前記ポリエチレン系樹脂発泡層及び前記ポリエチレン系樹脂層は、脂肪酸エステル、脂肪族アミン及び脂肪酸アミドからなる群から選択される1以上の収縮防止剤を実質的に含まない、上記(1)から(8)のいずれか1つに記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
(10)前記ポリエチレン系樹脂組成物は、直鎖状低密度ポリエチレンとしてエチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体を含む、上記(1)から(4)及び上記(6)から(9)のいずれか1つに記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
(11)前記熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートの独立気泡率が40%以上である、上記(1)から(10)のいずれか1つに記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート。
(12)上記(1)から(11)のいずれか1つに記載の熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートを熱成形してなる成形体。
(13)分岐状低密度ポリエチレンと物理発泡剤とを混練してなる発泡層形成用溶融物と、ポリエチレン系樹脂組成物を溶融混練してなる樹脂層形成用溶融物とを共押出して、
ポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面側にポリエチレン系樹脂層が積層されている、熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートを製造する熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートの製造方法であって、
前記ポリエチレン系樹脂組成物の結晶化温度Tcrが108℃以下であり、
前記ポリエチレン系樹脂組成物の110℃における引張強さ(MPa)と引張伸び(%)との積が1300(MPa・%)以上である、熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な熱成形性を有し且つ剛性を向上させることの可能な熱成形用ポリエチレン樹脂多層押出発泡シート、熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートを熱成形してなる成形体、及び熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1Aは、樹脂組成物(A)のDSC曲線の一例を示すグラフである。
図1Bは、樹脂組成物(B)のDSC曲線の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態の一例について以下に説明する。なお、本発明は、以下に説明する形態等に限定されない。
【0011】
[1.熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート]
本発明は、熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート(以下、多層押出発泡シートと称呼する。)は、ポリエチレン系樹脂発泡層(以下、発泡層と称呼する。)の少なくとも片面側にポリエチレン系樹脂層(以下、樹脂層と称呼する。)を積層した多層押出発泡シートである。本発明にかかる多層押出発泡シートは、発泡層の少なくとも片面側に樹脂層が形成されていればよいが、発泡層の両面に樹脂層を形成してもよい。後述する樹脂層の効果を優位に発揮させ、より熱成形性に優れる多層発泡シートとする観点からは、発泡層の両面に樹脂層が積層されていることが好ましい。発泡層と樹脂層とは共押出により積層接着されていることが好ましい。ただし、発泡層と樹脂層との間に中間層を設けてもよい。
【0012】
(発泡層)
発泡層は、分岐状低密度ポリエチレンを主成分とする樹脂組成物(発泡層形成用樹脂組成物)からなる。したがって、発泡層は、分岐状低密度ポリエチレンを主成分とする。本明細書においては、発泡層を形成する樹脂組成物である発泡層形成用樹脂組成物を、樹脂組成物(A)と称呼することがある。
【0013】
(分岐状低密度ポリエチレン)
本明細書において、分岐状低密度ポリエチレンとは、一般に低密度ポリエチレン(PE-LD又はLDPEと略称表記されることがある。)と呼ばれる、長鎖分岐を有する、密度が910kg/m3以上930kg/m3未満のポリエチレンである。分岐状低密度ポリエチレンの融点(℃)は、押出発泡性、緩衝性等の観点から、好ましくは95℃以上120℃であり、より好ましくは100℃以上115℃以下である。
【0014】
また、本明細書においては、組成物における所定の成分を「主成分とする」とは、組成物100質量%中に占める所定の成分の含有量が50質量%以上であることを意味する。具体的には、前記樹脂組成物(A)において分岐状低密度ポリエチレンを主成分とするとは、前記樹脂組成物(A)中の分岐状低密度ポリエチレンの含有量が50質量%以上であることを示す。樹脂組成物(A)が分岐状低密度ポリエチレンを主成分として含むことにより、すなわち発泡層が分岐状低密度ポリエチレンを主成分として含むことにより、多層押出発泡シートの緩衝性や、多層押出発泡シートを熱成形することで得られる成形体の緩衝性を高めることができる。このような緩衝性の観点からは、前記樹脂組成物(A)中の分岐状低密度ポリエチレンの含有量は、好ましくは60質量%以上である。
【0015】
(他のポリエチレン系樹脂)
樹脂組成物(A)には、上述した分岐状低密度ポリエチレンとは異なる他のポリエチレン系樹脂が含まれていてもよい。ポリエチレン系樹脂とは、エチレン単独重合体又はエチレン成分を50質量%以上含むエチレン系共重合体をいう。他のポリエチレン系樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンを挙げることができる。ただし、多層押出発泡シートの緩衝性を十分に確保する観点からは、高密度ポリエチレンの含有量は樹脂組成物(A)100質量%中、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましく、0質量%、つまり、樹脂組成物(A)は高密度ポリエチレンを含まないことがさらに好ましい。本明細書において、高密度ポリエチレンとは、エチレン単独重合体又はエチレンと炭素数4~8のα-オレフィンとの共重合体であって、密度が930kg/m3以上のポリエチレンをいう。
【0016】
(直鎖状低密度ポリエチレン)
中でも、樹脂組成物(A)には、直鎖状低密度ポリエチレンが含まれていることが好ましい。樹脂組成物(A)に直鎖状低密度ポリエチレンが含まれる場合、発泡層の耐熱性も高めることができ、多層押出発泡シートの熱成形性をより高めることができる。また、発泡層と樹脂層との接着性を高めることができる。本明細書においては、直鎖状低密度ポリエチレンは、エチレンと炭素数4~8のα-オレフィンとの共重合体であって、実質的に線状の分子鎖を有しており、その密度は通常910kg/m3以上930kg/m3未満である。直鎖状低密度ポリエチレンは、PE-LLD又はLLDPEと略称表記されることがある。
【0017】
樹脂組成物(A)に含ませることが可能な直鎖状低密度ポリエチレンは、特に制限されないが、例えば後述の樹脂組成物(B)に含まれる直鎖状低密度ポリエチレンと同様のものが例示される。樹脂層との接着性を考慮すると、発泡層には樹脂層と同じ材質の直鎖状低密度ポリエチレンを配合することが好ましい。
【0018】
発泡層を形成する樹脂組成物(A)は、直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの混合樹脂を主成分とすることが好ましい。この場合において、前記分岐状低密度ポリエチレンと前記直鎖状低密度ポリエチレンとの質量比は、分岐状低密度ポリエチレン:直鎖状低密度ポリエチレン=60:40~85:15であることが好ましく、より好ましくは65:35~80:20であることがより好ましい。この場合には、多層押出発泡シートの熱成形性と緩衝性とをより確実に高めることができる。なお、樹脂組成物(A)における岐状低密度ポリエチレンと前記直鎖状低密度ポリエチレンとの上記の質量比は、分岐状低密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンの合計を100質量%とした場合における比率(質量%の比率)を示す。
【0019】
(樹脂組成物(A)に含まれる分岐状低密度ポリエチレンの結晶化温度(Tcf))
樹脂組成物(A)の主成分である分岐状低密度ポリエチレンの結晶化温度(Tcf)は、特に限定されるものではないが、多層押出発泡シートの賦形性をより高め、熱成形性をより向上させる観点からは、90℃以上105℃以下であることが好ましく、92℃以上102℃以下であることがより好ましく、95℃以上100℃以下であることがさらに好ましい。
【0020】
(結晶化温度の測定)
樹脂組成物(A)の主成分である分岐状低密度ポリエチレンに由来する結晶化温度(℃)は、JIS K7121:2012に準拠し、熱流束示差走査熱量計を用いて測定されたDSC曲線に基づいて定められる。DSC曲線を定めるための試験片は、樹脂組成物(A)からなるシート片を用いることができる。測定は次に示すように実施することができる。まず、10℃/分の加熱速度にて23℃から200℃まで試験片を加熱し、200℃の温度にて10分間保った後、10℃/分の冷却速度にて30℃まで試験片を冷却する熱流束DSC(つまり、示差走査熱量測定)を行い、冷却過程におけるDSC曲線を取得する。DSC曲線は、横軸を温度(℃)、縦軸をヒートフロー(W/g)とするグラフとして得ることができる。なお、DSC曲線の測定は、樹脂組成物(A)について行われるため、樹脂組成物(A)を構成する樹脂が複数種類を混合した混合樹脂である場合、その混合樹脂を含むシート片を試験片として用いてDSC曲線を定める。樹脂組成物(A)に後述する各種の添加剤が含まれ、それらの添加剤が発泡層に残存する場合には、それらの各種の添加剤を含むシート片を試験片として用いてDSC曲線を定める。そして得られた冷却過程におけるDSC曲線に基づき、結晶化温度が特定される。具体的には、DSC曲線に分岐状低密度ポリエチレンの結晶化に対応する発熱ピークの頂点温度を結晶化温度とする。DSC曲線に樹脂の結晶化に対応する発熱ピークが複数個所表れる場合は、最も面積の大きな発熱ピークに対応する温度が樹脂組成物(A)の主成分である分岐状低密度ポリエチレンの結晶化温度である。
【0021】
(樹脂組成物(A)についてのDSC曲線の例)
樹脂組成物(A)について、示差走査熱量測定を行うと、樹脂組成物(A)に含まれる樹脂の組成に応じたDSC曲線が得られる。
図1Aは、樹脂組成物(A)を構成する樹脂のDSC曲線の一例を示す図である。例えば、樹脂組成物(A)が、分岐状低密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンとの混合樹脂から構成されている場合、DSC曲線には、
図1Aに示すように、分岐状低密度ポリエチレンの結晶化に由来するピークCP1が現れ、さらに、ピークCP1の頂点よりも高温側に、直鎖状低密度ポリエチレンの結晶化に由来するピークCP2が現れる。そこで、DSC曲線に基づき、低温側のピークCP1の頂点温度を、
図1Aにおいて矢印を用いて示すように、分岐状低密度ポリエチレンに由来する結晶化温度Tcfとして定めることができる。なお、
図1Aにおいて、符号BL1で表される破線は、DSC曲線上の40℃の点α1と高温側の発熱ピークCP2がDSC曲線に沿って高温側のベースラインに戻る温度に対応するDSC曲線上の点β1とを結ぶ直線である。符号DL1で表される上下方向に延びる破線は、上に凸となる低温側の発熱ピークCP1と上に凸となる高温側の発熱ピークCP2との間に形成される下に凸となる谷部の底にあたるDSC曲線上の点γ1を通りグラフの横軸に対して垂直な直線である。低温側の発熱ピークCP1の面積は、ピークCP1に対応するDSC曲線と破線DL1と破線BL1とによって囲まれた部分の面積である。高温側の発熱ピークCP2の面積は、ピークCP2に対応するDSC曲線と破線DL1と破線BL1とによって囲まれた部分の面積である。
図1Aにおいて、横軸、縦軸ともに矢印方向は、値が大きくなる方向である。
【0022】
樹脂組成物(A)の融点(℃)は、押出発泡性、緩衝性等の観点から好ましくは95℃以上120℃以下であり、より好ましくは100℃以上115℃以下である。
【0023】
(融点の測定)
樹脂組成物(A)の融点(℃)は、JIS K7121:2012に準拠し、熱流束示差走査熱量計を用いて測定されたDSC曲線に基づいて定められる。DSC曲線を定めるための試験片は、樹脂組成物(A)からなるシート片を用いることができる。まず、「(2)一定の熱処理を行った後、融解温度を測定する場合」に従い、加熱速度及び冷却速度を10℃/分に設定して試験片の状態調節を行う。その後、加熱速度を10℃/分に設定して30℃から200℃まで加熱する熱流束DSC(つまり、示差走査熱量測定)を行い、DSC曲線を取得する。DSC曲線における樹脂の融解に対応する吸熱ピークの頂点温度を、樹脂組成物(A)の融点(℃)とする。なお、DSC曲線に樹脂の融解に対応するピークが複数個所表れる場合は、融解に対応するピークのうち最もピーク強度の最も大きいピークの頂点温度を、樹脂組成物(A)の融点(℃)とする。具体的には、DSC曲線の高温側のベースラインを基準として、最もピーク高さの高い融解ピークを最もピーク強度の大きいピークと定め、そのピークの頂点温度を融点とする。
【0024】
(他の重合体)
樹脂組成物(A)には、ポリエチレン系樹脂以外の他の重合体が含まれていてもよい。他の重合体としては、ポリスチレン系等の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマー等が例示される。これらの他の重合体の含有量は、樹脂組成物(A)100質量%中において20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、0、すなわち樹脂組成物(A)は重合体としてポリエチレン系樹脂のみを含むことが特に好ましい。
【0025】
(収縮防止剤)
樹脂組成物(A)には、収縮防止剤が含まれてよい。収縮防止剤は、脂肪酸エステル、脂肪族アミン及び脂肪酸アミドからなる群から選択される1種類以上の化合物である。中でも、収縮防止剤としてはモノステアリン酸グリセライド等の脂肪族エステルを好ましく例示することができる。
【0026】
脂肪酸エステルとしては、炭素数8~30の脂肪酸と水酸基を3~7個有する多価アルコールとのエステルが好ましい。炭素数8以上の脂肪酸としては、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコ酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などが挙げられる。水酸基を3~7個有する多価アルコールとしては、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エリトリットアラビット、キシリマアット、マンニット、ソルビット、ソルビタンなどが挙げられる。これらのエステル化合物の中でも、これらの完全エステル化物よりは部分エステル化物、特にモノエステル化物が、より顕著な収縮防止効果が得られる観点からは好ましく、モノステアリン酸グリセライド、ベヘン酸モノグリセライド、又はモノステアリン酸グリセライドとベヘン酸モノグリセライドの混合物が更に好ましい。
【0027】
脂肪族アミンとしては、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシ ルアミン、オクタデシルアミン、エイコシルアミン、ドコシルアミン、N-メチルオクタデシルアミン、N-エチルオクタデシルアミン、ヘキサデシルプロピレンジアミン、オクタデシルプロピレンジアミンなどが挙げられる。
【0028】
脂肪酸アミドとしては、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、N-メチルステアリン酸アミド、N-エチルステアリン酸アミド、N,N-ジメチルステアリン酸アミド、N,N-ジエチルステアリン酸アミド、ジラウリン酸アミド、ジステアリン酸アミド、トリラウリン酸アミド、トリステアリン酸アミドなどが挙げられる。
【0029】
樹脂組成物(A)に含まれてよい収縮防止剤の含有量は、できるだけ少ない量で収縮防止剤の効果を発揮できる状態とする観点から、樹脂組成物(A)を構成するポリエチレン系樹脂成分100質量部に対して0.7質量部以上3質量部以下とすることができ、収縮防止剤の上限は2質量部とすることができる。
【0030】
樹脂組成物(A)が収縮防止剤を含む場合、発泡層は収縮防止剤を含むことになるため、発泡層の収縮が抑制されるが、多層押出発泡シートの熱成形時のドローダウンを効率的に抑制する観点を重視する場合には、発泡層に収縮防止剤が実質的に含まれていないことが好ましく、すなわち樹脂組成物(A)が収縮防止剤を実質的に含まないことが好ましい。
【0031】
また、発泡層に収縮防止剤が実質的に含まれていない場合、発泡層からの物理発泡剤の揮散速度を低下させて多層押出発泡シートの収縮を抑制する観点で、発泡層の両面に樹脂層が形成されていることが好ましい。
【0032】
発泡層に「収縮防止剤を実質的に含まない」とは、「発泡層中の収縮防止剤の配合量が発泡層を構成するポリエチレン系樹脂100質量部に対して好ましくは0.3質量部以下(0を含む)の数値範囲にある」ことを示しているが、この数値範囲は、より好ましくは0.1質量部以下(0を含む)であり、0、すなわち収縮防止剤が配合されていないことがさらに好ましい。なお、このことは、樹脂組成物(A)についても同様である。樹脂組成物(A)に「収縮防止剤を実質的に含まない」とは、「樹脂組成物(A)の収縮防止剤の添加量が樹脂組成物(A)に含まれるポリエチレン系樹脂100質量部に対して好ましくは0.3質量部以下(0を含む)の数値範囲にある」ことを示しているが、この数値範囲は、より好ましくは0.1質量部以下(0を含む)であり、0、すなわち収縮防止剤が配合されていないことがさらに好ましい。
【0033】
(添加剤)
樹脂組成物(A)は、上述した収縮防止剤の他、各種の添加剤を含むことができる。各種の添加剤としては、例えば、気泡調整剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤等の機能付与剤や、無機充填剤等を例示することができる。これらの添加剤はその目的により添加量を調整することができ、たとえば樹脂組成物(A)を構成するポリエチレン系樹脂100質量部に対して0.1質量部以上3質量部以下とすることができる。
【0034】
(樹脂層)
多層押出発泡シートは、発泡層の少なくとも片面に樹脂層を有する。樹脂層は、ポリエチレン系樹脂を主成分とするポリエチレン系樹脂組成物(樹脂層形成用樹脂組成物)から構成される。本明細書においては、このポリエチレン系樹脂組成物は、樹脂層を形成する樹脂組成物である樹脂層形成用樹脂組成物である。樹脂層形成用樹脂組成物となるポリエチレン系樹脂組成物を、樹脂組成物(B)と称呼することがある。
【0035】
(ポリエチレン系樹脂組成物の結晶化温度)
樹脂組成物(B)であるポリエチレン系樹脂組成物の結晶化温度(Tcr)は108℃以下である。樹脂層組成物(B)であるポリエチレン系樹脂組成物の結晶化温度(Tcr)が高すぎる場合には、多層押出発泡シートの熱成形性が不十分となるおそれがある。また、熱成形により得られる成形体の剛性が低下するおそれがある。これは、多層押出発泡シートの製造時において樹脂層が早期に固化しやすく、多層押出発泡シートにおいて結晶の配向に由来する歪みが生じやすくなるためであると考えられる。さらに、結晶化温度(Tcr)が上記範囲内である場合には、熱成形性に優れる多層押出発泡シートを製造する際の押出発泡温度の範囲を拡大することができ、製造安定性が向上する。多層押出発泡シートの熱成形性をより高め、得られる成形体の剛性をより高める観点から、樹脂組成物(B)の結晶化温度(Tcr)は107℃以下であることが好ましく、106℃以下であることがより好ましい。樹脂組成物(B)の結晶化温度(Tcr)の下限は特に制限されないが、100℃以上であることが好ましく、102℃以上であることがより好ましい。
【0036】
樹脂組成物(B)の結晶化温度は、上記樹脂組成物(A)を構成する分岐状低密度ポリエチレンの結晶化温度の測定方法と同様の方法により測定される。具体的には、JIS K7121:2012に準拠し、熱流束示差走査熱量計を用いて測定されたDSC曲線に基づいて定められる。ただし、DSC曲線に結晶化温度に対応するピークが複数個所表れる場合は、最も高温側に現れる発熱ピークの頂点温度を、樹脂組成物(B)の結晶化温度Tcrとする。
【0037】
(樹脂組成物(B)のDSC曲線の例)
樹脂組成物(B)であるポリエチレン系樹脂組成物について、上記示差走査熱量測定を行うと、樹脂組成物(B)に含まれる樹脂の構成に応じたDSC曲線が得られる。
図1Bは、樹脂組成物(B)を構成する樹脂のDSC曲線の一例を示す図である。例えば、樹脂組成物(B)が、直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの混合樹脂から構成されている場合、DSC曲線には、
図1Bに示すように、分岐状低密度ポリエチレンの結晶化に由来するピークCPR1が現れ、さらに、ピークCPR1の頂点よりも高温側に、直鎖状低密度ポリエチレンの結晶化に由来するピークCPR2が現れる。そこで、DSC曲線に基づき、高温側のピークCPR2の頂点温度を、
図1Bにおいて矢印を用いて示すように、ポリエチレン系樹脂組成物の結晶化温度Tcrとして定めることができる。なお、
図1Bにおいて、符号BL2で表される破線は、DSC曲線上の40℃の点α2と高温側の発熱ピークCPR2がDSC曲線に沿って高温側のベースラインに戻る温度に対応するDSC曲線上の点β2とを結ぶ直線である。また、
図1Bにおいて、符号DL2で表される上下方向に延びる破線は、上に凸となる低温側のピークCP1と上に凸となる高温側の発熱ピークCP2との間に形成される下に凸となる谷部の底にあたるDSC曲線上の点γ2を通りグラフの横軸に対して垂直な直線である。
図1Bにおいて、横軸、縦軸ともに矢印方向は、値が大きくなる方向である。
【0038】
樹脂組成物(B)の融点(℃)は、耐熱性等の観点から好ましくは95℃以上120℃以下であり、より好ましくは100℃以上115℃以下である。
【0039】
(樹脂組成物(B)の融点の測定)
樹脂組成物(B)の融点(℃)は、JIS K7121:2012に準拠し、熱流束示差走査熱量計を用いて測定されたDSC曲線に基づいて定められる。DSC曲線を定めるための試験片は、樹脂組成物(B)からなるシート片を用いることができる。まず、「(2)一定の熱処理を行った後、融解温度を測定する場合」に従い、加熱速度及び冷却速度を10℃/分に設定して試験片の状態調節を行う。その後、加熱速度を10℃/分に設定して熱流束DSC(つまり、示差走査熱量測定)を行い、DSC曲線を取得する。DSC曲線における樹脂の融解に対応する吸熱ピークの頂点温度を、樹脂組成物(B)の融点(℃)とする。なお、DSC曲線に樹脂の融解に対応するピークが複数個所表れる場合は、融解に対応するピークのうち最もピーク強度の最も大きいピークの頂点温度を、樹脂組成物(B)を構成する樹脂の融点(℃)とする。具体的には、DSC曲線の高温側のベースラインを基準として、最もピーク高さの高い融解ピークを最もピーク強度の大きいピークと定め、そのピークの頂点温度を融点とする。
【0040】
(TcrとTcfの関係)
樹脂組成物(A)を構成する分岐状低密度ポリエチレンの結晶化温度(Tcf)と樹脂組成物(B)の結晶化温度(Tcr)との差[Tcr-Tcf]は0以上10℃以下であることが好ましい。[Tcr-Tcf]が10℃以下であることで、多層押出発泡シートの厚みが薄い場合や、坪量が小さい場合にあっても熱成形を良好に実現できる成形範囲をより広く確保することができる。さらに、[Tcr-Tcf]が10℃以下であることで、多層押出発泡シートの熱成形性を維持しつつ剛性をより向上させることができる。これは、熱成形により得られる成形体の部位ごとの厚みがより均一になりやすいためであると考えられる。さらに、[Tcr-Tcf]が上記範囲内である場合には、熱成形性に優れる多層押出発泡シートを製造する際の押出発泡温度の範囲をより拡大することができ、製造安定性が向上する。多層押出発泡シートの熱成形性をより高め、得られる成形体の剛性をより高める観点から、上記結晶化温度の差[Tcr-Tcf]は9℃以下であることが好ましい。上記結晶化温度の差[Tcr-Tcf]の下限は0以上であれば特に制限されないが、3℃以上であることが好ましく、5℃以上であることがより好ましい。
【0041】
(樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂組成物の抗張積)
樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂組成物である樹脂組成物(B)の110℃における引張強さ(MPa)と引張伸び(%)との積(抗張積と称呼することがある。)は1300(MPa・%)以上である。上記樹脂組成物(B)の110℃における抗張積が小さすぎる場合には、特に多層押出発泡シートの厚みが薄い場合や、坪量が小さい場合において成形性が低下するおそれがある。これは、熱成形時に多層押出発泡シートが過度に引き延ばされて得られる成形体の厚みが減少しやすくなるためであると考えられる。多層押出発泡シートの厚みが薄い場合や、坪量が小さい場合であっても成形性をより高める観点から、樹脂組成物(B)の引張強さ(MPa)と引張伸び(%)との積である抗張積が1600(MPa・%)以上であることが好ましい。上記樹脂組成物(B)の110℃における抗張積の上限は特に制限されないが、概ね3000(MPa・%)である。
【0042】
(引張伸びと引張強さ)
樹脂組成物(B)の引張強さ(MPa)は、JIS K7161-1:2014に基づいて測定される。なお、試験雰囲気の温度条件としては推奨されている条件である23℃に加えて、110℃が採用される。多層押出発泡シートを製造する際の押出発泡温度及び熱成形時の温度を考慮して、試験雰囲気の温度条件として110℃が採用される。引張強さは、試験中に観察される最大応力であり、通常、破断時の最大応力である。
【0043】
樹脂組成物(B)の引張伸び(%)は、引張強さと同様にJIS K7161-1:2014に基づいて測定される。試験雰囲気の温度条件としては引張強さと同様に23℃及び110℃が採用される。引張伸び(%)は、引張強さを測定する際における樹脂層の破断時の伸び率として特定される。引張伸びは、ダンベル状1号型における標線間距離(例えば40mm)を規準に算出される値である。
【0044】
後述するように、樹脂組成物(B)が収縮防止剤等の添加剤を含む場合には、上記引張伸びと引張強さの測定においては、試験片を作製するための樹脂組成物(B)には、当該添加剤が含まれる。また、上記引張伸びと引張強さの測定においては試験片の状態調節が行われるが、この状態調節では、試験片は23℃、湿度50%の雰囲気下で16時間以上静置される。
【0045】
(樹脂組成物(B)の引張伸びの温度依存性)
樹脂組成物(B)の23℃における引張伸び(TE1)(%)に対する樹脂組成物(B)の110℃における引張伸び(TE2)(%)の比(TE2/TE1)が、0.3以上であることが好ましい。TE2/TE1が、0.3以上であることで、常温(23℃)の条件時での樹脂組成物(B)の引張伸びの物性が、高温(110℃)の条件時にもある程度以上維持された状態となることができる。樹脂組成物(B)について、110℃といった高温時においても引張伸び(%)が高く維持されているものは、高温時における引張伸び(%)が低いものに比べて、熱成形性及び剛性向上の効果をより一層発揮する上で有利となる。上記比(TE2/TE1)の上限は1である。
【0046】
(樹脂組成物(B)の組成)
樹脂層を形成する樹脂組成物(B)を構成するポリエチレン系樹脂は、樹脂組成物(B)が上記した結晶化温度や抗張積等の条件を満たすものであれば特に限定されるものではないが、これらの条件を満たしやすい観点からは、直鎖状低密度ポリエチレンを含むことが、好ましい。樹脂組成物(B)が直鎖状低密度ポリエチレンを含む場合には、樹脂組成物(B)がポリエチレン系樹脂として直鎖状低密度ポリエチレンのみを含む場合が含まれてよいものとする。
【0047】
(直鎖状低密度ポリエチレン)
樹脂組成物(B)に含まれてよい直鎖状低密度ポリエチレン(PE-LLD又はLLDPEと略称表記されることがある。)は、エチレンとα-オレフィンとの共重合体からなり、直鎖状のポリエチレン主鎖と炭素数4~8程度のα-オレフィンの短鎖分岐とを有する、密度910kg/m3以上930kg/m3未満のポリエチレンである。樹脂組成物(B)が直鎖状低密度ポリエチレンを含むことで、多層押出発泡シートの剛性を向上させることができ、熱成形によって得られる成形体の剛性も向上させることができる。同様の観点から、樹脂組成物(B)に含まれてよい直鎖状低密度ポリエチレンの融点は、好ましくは110℃以上128℃以下であり、より好ましくは115℃以上125℃である。なお、直鎖状低密度ポリエチレンである共重合体を構成するα-オレフィンをコモノマーと称呼することがある。
【0048】
また、樹脂組成物(B)の抗張積が1600(MPa・%)以上であり、かつ、樹脂組成物(B)には収縮防止剤を実質的に含まないことが好ましい。この場合には、多層押出発泡シートの厚みが薄い場合や、坪量が小さい場合であっても、深絞り成形等といったより難度の高い成形の実現性を高めることができる。これは、樹脂層を形成する樹脂組成物(B)の抗張積が所定以上であるとともに、収縮防止剤が樹脂層に実質的に含まれない状態となることにより、多層押出発泡シートの表層の物性を一層高め、熱成形時の多層押出発泡シートの伸びの均一性が高められるためであると考えられる。抗張積が上述した値以上であり且つ収縮防止剤を樹脂組成物(B)に実質的に含ませないとは、具体的には、樹脂組成物(B)の抗張積が1600(MPa・%)以上であり、かつ、樹脂組成物(B)中の収縮防止剤の配合量が樹脂組成物(B)を構成するポリエチレン系樹脂100質量部に対して好ましくは0.3質量部以下(0を含む)の数値範囲にあることを示すが、この数値範囲については、より好ましくは0.1質量部以下(0を含む)である。そして、この数値範囲が0、すなわち樹脂組成物(B)に収縮防止剤が含まれないことがさらに好ましい。
【0049】
また、上記のように収縮防止剤を実質的に含まずに樹脂組成物(B)の抗張積を1600(MPa・%)とすることができ、多層押出発泡シートの厚みが薄い場合や、坪量が小さい場合であっても、より難度の高い成形の実現性を高める観点からは、樹脂組成物(B)は直鎖状低密度ポリエチレンとしてエチレンと炭素数8のαオレフィンとの共重合体を含むことが好ましい。また、この場合には、樹脂層に収縮防止剤を配合していない場合であっても多層押出発泡シートの収縮が緩和されやすい。
【0050】
(他のポリエチレン系樹脂)
樹脂組成物(B)には、上述した直鎖状低密度ポリエチレンとは異なる他のポリエチレン系樹脂が含まれてもよい。他のポリエチレン系樹脂としては、例えば、分岐状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンを挙げることができる。なお、分岐状低密度ポリエチレンは、発泡層を形成する樹脂組成物(A)に含まれる分岐状低密度ポリエチレンと同様に定義される。ただし、樹脂組成物(B)の結晶化温度(Tcr)を上記所定範囲内とする観点から、高密度ポリエチレンの含有量は樹脂組成物(B)100質量%中5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが好ましく、0質量%、つまり、樹脂組成物(B)は高密度ポリエチレンを含まないことがさらに好ましい。
【0051】
樹脂組成物(B)において、結晶化温度(Tcr)及び110℃における抗張積を上記範囲内に調整しやすい観点からは、直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの混合樹脂を主成分とすることが好ましい。多層押出発泡シートの熱成形性をより良好とすることができ、且つ、多層押出発泡シートの熱成形によってより剛性により優れる成形体を得ることができる観点から、前記直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの質量比は、直鎖状低密度ポリエチレン:分岐状低密度ポリエチレン=90:10~30:70であることが好ましく、80:20~40:60であることがより好ましく、75:25~50:50であることがさらに好ましい。なお、直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの質量比(質量%)については、直鎖状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンとの合計を100質量部とする。
【0052】
樹脂組成物(B)には、収縮防止剤が含まれてよい。
【0053】
(収縮防止剤)
樹脂組成物(B)に含まれてよい収縮防止剤は、樹脂組成物(A)に含まれてよい収縮防止剤の例として示した各種の化合物と同様であり、すなわち脂肪酸エステル、脂肪族アミン及び脂肪酸アミドからなる群から選択される1以上の化合物を挙げることができる。脂肪酸エステル、脂肪族アミン及び脂肪酸アミドの具体例は、発泡層に含まれてよい収縮防止剤の説明で示した各例と同様であるから詳細な説明を省略する。
【0054】
樹脂組成物(B)に含まれてよい収縮防止剤の含有量は、できるだけ少ない量で収縮防止剤の効果を発揮できる状態とする観点から、樹脂組成物(B)を構成するポリエチレン系樹脂100質量部に対して0.7質量部以上3質量部以下であることが好ましく、収縮防止剤の上限は2質量部であることがより好ましい。
【0055】
樹脂組成物(B)に収縮防止剤が含有されている場合、樹脂組成物(A)には収縮防止剤が含まれてもよいが、熱成形性をより向上させる観点からは、発泡層は収縮防止剤が実質的に含まれていないことが好ましいため、樹脂組成物(A)に収縮防止剤が実質的に含まれていないことが好ましい。したがって、本発明にかかる多層押出発泡シートは、樹脂組成物(B)が収縮防止剤を含み、樹脂組成物(B)中の収縮防止剤の配合量が樹脂組成物(B)に含まれるポリエチレン系樹脂100質量部に対して0.7質量部以上3質量部以下であり、且つ、樹脂組成物(A)が、収縮防止剤を実質的に含まないように構成されてよい。樹脂層に収縮防止剤を含んでいれば多層押出発泡シートの収縮防止効果を発揮することは可能となる。また、発泡層に収縮防止剤を配合しない(発泡層が実質的に含まないように構成する)ことで多層押出発泡シートの耐熱性を高め、熱成形をより向上させることができる。
【0056】
樹脂層が発泡層の両面に形成されている場合、一方の樹脂層のみが収縮防止剤を含んでもよいし、発泡層の両面に形成されているいずれの樹脂層が収縮防止剤を含んでもよい。発泡層からの発泡剤の揮発をより効率的に抑制する観点からは、樹脂層が発泡層の両面に形成されている場合には、発泡層の両面に形成されているいずれの樹脂層も収縮防止剤を含むことが好ましい。
【0057】
(添加剤)
樹脂組成物(B)は、上述した収縮防止剤の他、各種の添加剤を含むことができる。各種の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤等の機能付与剤や、無機充填剤等を例示することができる。
【0058】
(多層押出発泡シートの厚み)
多層押出発泡シートの厚み(全体厚み)(mm)は、特に限定されないが、1mmから7mmの範囲であることが好ましい。多層押出発泡シートの厚みがこの範囲内にあることで、熱成形で緩衝材等の成形体を製造することが容易である。また、本発明によれば、多層押出発泡シートの厚みが1mm以上3.5mm以下という比較的薄い厚みであっても、多層押出発泡シートの熱成形性を良好とすることができ、且つ、多層押出発泡シートの熱成形によって剛性に優れる成形体を得ることができる。多層押出発泡シートの全体厚みは、発泡層の厚み及び樹脂層の厚みをあわせた厚みである。
【0059】
多層押出発泡シートの全体厚みは、例えば、次に示すように測定することができる。多層押出発泡シートを押出方向に垂直な面で切断する。この切断面において、切断面の幅方向(つまり、押出方向及び厚み方向の両方に対して直角な方向)の長さを11等分するようにして10か所の測定位置を設定する。顕微鏡を用いてこれらの測定位置を観察するなどの方法により、各測定位置の厚みを測定する。そして、これらの厚みの算術平均値を多層発泡シートの全体厚みとする。
【0060】
(多層押出発泡シートの坪量)
多層押出発泡シートの坪量(全体坪量)は、特に限定されないが、30g/m2から300g/m2の範囲であることが、多様な用途に応じて多層押出発泡シートを熱成形することが可能となる観点からは好ましい。また、本発明によれば、多層押出発泡シートの坪量が150g/m2以下であるような比較的軽量なものであっても、多層押出発泡シートの熱成形性を良好とすることができ、且つ、多層押出発泡シートの熱成形によって剛性に優れる成形体を得ることができる。多層押出発泡シートの全体坪量は、発泡層の坪量及び樹脂層の坪量をあわせた坪量である。
【0061】
多層押出発泡シートの全体坪量は、例えば、次に示すように測定することができる。多層発泡シートからサンプルを切り出し、サンプルの重量を測定し、その測定値を1m2当たりの多層押出発泡シートの重量(g)に換算し、これを多層発泡シートの坪量(g/m2)とする。具体的には、得られた多層発泡シートから縦250mm×横250mmの試験片を切り出し、試験片の重量(g)を測定してその値を16倍にして、1m2当たりの重量に換算した値(g/m2)を算出する。この値が多層押出発泡シートの全体坪量として定められる。
【0062】
なお、多層押出発泡シートにおいては、樹脂層の坪量や発泡層の坪量も特定することが可能である。樹脂層の坪量は、例えば、次に示す第1の方法や第2の方法等で特定することが可能である。
【0063】
(第1の方法)
第1の方法では、樹脂層の坪量は、樹脂層の平均厚みと樹脂層を構成している樹脂の密度から算出することができる。具体的には、樹脂層の全幅に亘りおおむね間隔に幅方向に10箇所の測定点を定め、測定点における樹脂層の厚みの算術平均値を樹脂層の平均厚みとする。そして、樹脂層の平均厚みに樹脂層を構成している樹脂の密度を乗じた値を単位換算(g/m2)することで樹脂層の坪量を算出することができる。なお、樹脂層を構成している樹脂の密度(g/cm3)は、樹脂層を構成する各樹脂の密度に各樹脂の含有質量比率を乗じて算出される値の総和として求めることができる。
【0064】
(第2の方法)
第2の方法では、多層押出発泡シートが共押出によって製造されるシートである場合に共押出ダイからの吐出量に基づき樹脂層の坪量が算出される。
【0065】
具体的には、共押出の際、樹脂組成物(B)を溶融した後述する樹脂層形成用溶融物の片面当たりの吐出量をX[kg/時]とし、得られる多層押出発泡シートの幅をW[m]とし、単位時間あたりの押出される多層押出発泡シートの長さをL[m/時]とした場合に、片面当たりの樹脂層の坪量[g/m2]は、[X/(L×W)]の数式にて算出される坪量の値(kg/m2)をg/m2に単位換算した値として定めることができる。なお、多層押出発泡シートの両面に樹脂層を形成する場合には、それぞれの樹脂層を形成するための樹脂層形成用溶融物の吐出量に基づきそれぞれの樹脂層の坪量を求めることができる。
【0066】
なお、発泡層の坪量[g/m2]は、樹脂組成物(A)と物理発泡剤を含む発泡層形成用溶融物の吐出量と用いて上記した第2の方法と同様の方法を適用することで算出することができる。また、発泡層の坪量[g/m2]は、多層押出発泡シートの坪量[g/m2]から樹脂層の坪量[g/m2]を差し引くことによって定められる。
【0067】
なお、上述した坪量の特定方法は、例示であり、坪量の特定方法は、これらの方法に限定されない。
【0068】
多層押出発泡シートの片面当たりの樹脂層の坪量は、軽量化の観点及び上述した樹脂層による効果をより確実に奏する観点から、5g/m2から30g/m2の範囲内であることが好ましく、7g/m2から25g/m2の範囲内であることがより好ましく、10g/m2から20g/m2の範囲内であることがさらに好ましい。
【0069】
(多層押出発泡シートの独立気泡率)
多層押出発泡シートの独立気泡率(%)は、特に限定されないが、40%以上であることが、多層押出発泡シートの熱成形性を良好とし、且つ、多層押出発泡シートの熱成形によって比較的剛性に優れる成形体を得る観点からは好ましい。なお、多層押出発泡シートの独立気泡率(%)は、熱成形性及び剛性を高める観点からは、50%以上であることが好ましく、60%以上あることがより好ましい。
【0070】
(独立気泡率の測定)
多層押出発泡シートから、縦25mm×横25mm×多層押出発泡シート厚みの寸法を有する試験片を切り出す。厚みの総和が20mmに最も近づくように試験片を複数枚重ねて測定用試験片とする。次に、ASTM-D2856-70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型等を使用して測定用試験片の真の体積Vxを測定し、下記数式(式(1))により独立気泡率(%)を計算する。上記測定を、5個の測定用試験片を用いて行い、その算術平均値を発泡層の独立気泡率とする。なお、縦と横は、多層押出発泡シートの面の広がる方向に定められた方向(縦方向と横方向)として特定される。
【0071】
【0072】
ただし、
Vx:上記方法で測定された試験片の真の体積(cm3)であり、試験片を構成する樹脂の体積と、試験片内の独立気泡部分の気泡全体積との和に相当する、
Va:測定に使用された試験片の外寸から計算された試験片の見掛け体積(cm3)、
W:測定に使用された試験片の全質量(g)、そして
ρ:多層押出発泡シートを脱泡して求められる樹脂の密度(g/cm3)、
である。
【0073】
(無架橋)
多層押出発泡シートは、無架橋であることが好適である。多層押出発泡シートが無架橋であるとは、発泡層と樹脂層のそれぞれが、いずれも無架橋であることを示すものとする。多層押出発泡シートが無架橋であるとは、具体的には、多層押出発泡シートの熱キシレン抽出法による不溶分が5質量%以下であることをいう。多層押出発泡シートの緩衝性をより高める観点から、多層押出発泡シートの熱キシレン抽出法による不溶分の割合は、3質量%以下であることが好ましく、0であることが最も好ましい。
【0074】
(熱キシレン抽出法)
多層押出発泡シートの熱キシレン抽出法によるキシレン不溶分(質量%)は、多層押出発泡シートから約1g(その正確な重量をWp(g)とする)の試験片を切り出して150mLの丸底フラスコに入れ、100mLのキシレンを加え、マントルヒーターで加熱して6時間還流させた後、溶け残った残渣を100メッシュの金網で濾過して分離し、80℃の減圧乾燥器で8時間以上乾燥し、この際に得られた乾燥物重量の重量Wm(g)を測定し、下記式(2)に示す数式により求められる。なお、残渣の濾過は金網で速やかに行うことが好ましい。
【0075】
【0076】
(見掛け密度)
多層押出発泡シートとして、その見掛け密度が20kg/m3以上200kg/m3以下であるような見掛けの低い多層押出発泡シートが得られる。軽量性、緩衝性等と剛性とのバランスの観点から、多層押出発泡シートの見掛け密度は25kg/m3以上100kg/m3以下であることが好ましく、30kg/m3以上80kg/m3以下であることがより好ましい。
【0077】
(見掛け密度の算出方法)
多層押出発泡シートの見掛け密度(kg/m3)は、多層押出発泡シートの坪量を多層押出発泡シートの全体厚みで除した後、単位をkg/m3に換算することにより算出することができる。なお、多層押出発泡シートの全体厚みと坪量は、次に示す測定方法を用いて定めることができる。
【0078】
[2.多層押出発泡シートの製造方法]
本発明にかかる多層押出発泡シートは、例えば、共押出発泡法により製造することができる。共押出発泡法では、発泡層形成用溶融物と樹脂層形成用溶融物とを共押出することにより、ポリエチレン系樹脂発泡層と、ポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面側に設けられた樹脂層とを備えた多層押出発泡シートが得られる。次に、多層押出発泡シートが発泡層の両面に樹脂層を形成した構造を有する場合にあって共押出発泡法で多層押出発泡シートを製造する場合を一例として、多層押出発泡シートの製造方法の説明を続ける。
【0079】
(共押出装置)
多層押出発泡シートを製造するための使用可能な押出装置としては、例えば、押出発泡の技術分野において適用可能な共押出装置を用いることができる。共押出装置としては、具体的に、発泡層形成用溶融物を押出可能に構成された発泡層形成用押出機と、樹脂層形成用溶融物を押出可能に構成された樹脂層形成用押出機と、発泡層形成用押出機の吐出口及び樹脂層形成用押出機の吐出口が接続された共押出ダイとを備えた共押出装置を挙げることができる。このような共押出装置では、共押出ダイから発泡層形成用溶融物と樹脂層形成用溶融物とを共押出することにより多層押出発泡シートを作製することができる。共押出ダイは、円環ダイ等の環状ダイを例示することができる。
【0080】
なお、発泡層の両面に樹脂層を形成する場合、共押出装置には、樹脂層形成用押出機として、発泡層の一方側の面に設けられる樹脂層を形成するための樹脂層形成用溶融物を押出可能に構成された第1の樹脂層形成用押出機(樹脂層形成用第1押出機と称呼することがある。)と、発泡層の他方側の面に設けられる樹脂層を形成するための樹脂層形成用溶融物を押出可能に構成された第2の樹脂層形成用押出機(樹脂層形成用第2押出機と称呼することがある。)とが設けられてよい。このような共押出装置では、共押出ダイから、樹脂層形成用第1押出機からの樹脂層形成用溶融物と樹脂層形成用第2押出機からの樹脂層形成用溶融物との間に発泡層形成用溶融物を配置した3層に積層された溶融物が押出される(共押出される)ことにより多層押出発泡シートを作製することができる。なお、本明細書では、樹脂層形成用第1押出機と樹脂層形成用第2押出機を特に区別しない場合には、樹脂層形成用押出機と総称する。
【0081】
(発泡層形成用溶融物)
発泡層形成用溶融物は、分岐状低密度ポリエチレンを主成分とする樹脂組成物(A)及び物理発泡剤を含む。発泡層形成用溶融物は、例えば以下に示す方法で得られる。発泡層形成用押出機に分岐状低密度ポリエチレンを供給し、これを溶融混錬する。発泡層形成用押出機には、必要に応じて分岐状低密度ポリエチレンとは異なる他の樹脂が供給されてよく、また、気泡調整剤、及び気泡調整剤とは異なる他の添加剤を必要に応じて供給されてよい。発泡層形成用押出機内で溶融した分岐状低密度ポリエチレンを含む溶融物に物理発泡剤を加圧しつつ供給して、物理発泡剤を供給された溶融物をさらに混練する。これにより、発泡層形成用溶融物を得ることができる。
【0082】
(物理発泡剤)
物理発泡剤の例としては、有機物理発泡剤及び無機物理発泡剤を例示することができる。有機物理発泡剤としては、例えば、プロパン、その他にもノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン等で例示される脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサンなどで例示される脂環式炭化水素、塩化メチルの他、塩化エチル等を例示できる塩化炭化水素、ならびに 1,1,1,2-テトラフルオロエタンの他、1,1-ジフルオロエタン等で例示されるフッ化炭化水素等が、挙げられる。無機物理発泡剤としては、例えば、窒素の他、二酸化炭素、空気、水等で例示される無機物が挙げられる。発泡層形成用溶融物に含まれる物理発泡剤の種類は、1種類でもよいし、2種類以上(例えば、ノルマルブタンとイソブタンの組み合わせ等)でもよい。分岐状ポリエチレンとの相溶性や発泡性の観点からは、発泡層形成用溶融物には、物理発泡剤として、有機物理発泡剤が含まれていることが好ましく、ノルマルブタン、イソブタンまたはこれらの混合物を主成分とする有機物理発泡剤が含まれていることがより好ましい。
【0083】
発泡層形成用溶融物における物理発泡剤の配合量は、物理発泡剤の種類や製造しようとする発泡層の見掛け密度等の諸条件に応じて定められてよい。イソブタン30質量%とノルマルブタン70質量%とからなる混合ブタンを物理発泡剤として使用する場合を一例として、物理発泡剤の配合量は、樹脂組成物(A)に含まれるポリエチレン系樹脂100質量部に対しておおむね3質量部以上30質量部以下の範囲内の値とされてよく、好ましくは4質量部以上20質量部以下の範囲内の値であり、より好ましくは10質量部以上20質量部以下の範囲内の値とされる。
【0084】
発泡層形成用溶融物には、上述したように気泡調整剤が添加されることが好ましい。気泡調整剤としては、無機系気泡調整剤や有機系気泡調整剤を使用することができる。無機系気泡調整剤としては、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム、硼砂等のホウ酸金属塩や、塩化ナトリウム、水酸化アルミニウム、タルク、ゼオライト、シリカ、炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウム等が 挙げられる。有機系気泡調整剤としては、リン酸-2,2-メチレンビス(4,6-tert-ブチルフェニル)ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム等が挙げられる。さらに、クエン酸と重炭酸ナトリウムとの混合物や、クエン酸アルカリ塩と重炭酸ナトリウム等との混合物等を気泡調整剤として用いること もできる。発泡層形成用溶融物に添加される気泡調整剤の種類は、1種類でもよいし、2種類以上の組み合わせでもよい。発泡層形成用溶融物における気泡調整剤の配合量は、物理発泡剤の種類や発泡層の諸条件等に応じて適宜設定すればよい。
【0085】
(樹脂層形成用溶融物)
樹脂層形成用溶融物には、樹脂組成物(B)であるポリエチレン系樹脂組成物が含まれる。樹脂組成物(B)であるポリエチレン系樹脂組成物は、上述した[1.熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シート]でも説明したような抗張積や結晶化温度等の諸条件を満たす。すなわち、樹脂組成物(B)の結晶化温度Tcrが108℃以下であり、樹脂組成物(B)の110℃における引張強さ(MPa)と引張伸び(%)の積が1300(MPa・%)以上である。また、樹脂組成物(B)は、直鎖状低密度ポリエチレンが含まれることが好ましく、直鎖状低密度ポリエチレンの他にさらに分岐状低密度ポリエチレンが含まれてもよい。樹脂層形成用溶融物は、例えば以下に示す方法で得られる。樹脂層形成用押出機に樹脂組成物(B)を構成する樹脂(例えば、直鎖状低密度ポリエチレン)を供給し、溶融混錬する。樹脂層形成用押出機には、収縮防止剤、及び収縮防止剤とは異なる他の添加剤を必要に応じて供給されてよい。これにより、発泡層形成用溶融物を得ることができる。
【0086】
樹脂層形成用第1押出機で形成される樹脂層形成用溶融物の組成と樹脂層形成用第2押出機で形成される樹脂層形成用溶融物の組成とが、同じであってもよいし異なっていてもよい。樹脂層形成用第1押出機に供給されるポリエチレン系樹脂組成物の材質や組成等の諸条件と、樹脂層形成用第2押出機に供給されるポリエチレン系樹脂組成物の材質や組成等の諸条件とが、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0087】
(共押出)
上述した発泡層形成用溶融物及び樹脂層形成用溶融物の共押出は、例えば次のように実施することができる。共押出装置において、発泡層形成用溶融物が発泡層形成用押出機から共押出ダイに導かれる。また、樹脂層形成用溶融物が樹脂層形成用押出機(樹脂層形成用第1押出機及び樹脂層形成用第2押出機)から共押出ダイに導かれ、共押出ダイの押出口から外部に押し出される。共押出ダイが円環ダイである場合、共押出ダイでは、例えば、内側から順に、樹脂層形成用第1押出機からの樹脂層形成用溶融物、発泡層形成用溶融物、樹脂層形成用第2押出機からの樹脂層形成用溶融物を3層に積層した状態で構成される3層の積層溶融物が形成され、共押出ダイから筒状に積層溶融物が押し出される。押出口から積層溶融物が大気中に押し出されると、発泡層形成用溶融物が発泡しながら膨張し発泡層が形成される。これに伴い、発泡層の両面に樹脂層を積層した筒状積層発泡体が形成される。筒状積層発泡体は、その内側から圧縮空気等で拡幅しつつ、筒状積層発泡体の内側をマンドレル等の拡幅装置に沿わせてローラ等で引き取られながら冷却されることにより、発泡層及び樹脂層を固化させる。これにより発泡層に形成された気泡構造がおおむね固定される。そして、拡幅装置上で筒状積層発泡体が切り開かれる。こうして、発泡層に樹脂層を設けた多層押出発泡シートが得られる。共押出用環状ダイを用いる方法は、コルゲートと呼ばれる波状模様の発生を抑えられることや、幅が1000mm以上の幅広の多層押出発泡シートを容易に製造することができるため好ましい。
【0088】
なお、上述では、樹脂層形成用第1押出機からの樹脂層形成用溶融物、発泡層形成用溶融物、樹脂層形成用第2押出機からの樹脂層形成用溶融物を3層に積層した状態で構成される積層溶融物を共押出ダイから吐出したが、積層溶融物が、樹脂層形成用溶融物と、発泡層形成用溶融物を2層に積層された状態にて共押出ダイから押し出されてよい。この場合、筒状積層発泡体が、例えば、外側に樹脂層形成用溶融物を配置し、内側に発泡層形成用溶融物を配置した状態となるように、樹脂層形成用溶融物と発泡層形成用溶融物とを積層する。共押出ダイから押し出された2層の筒状積層発泡体が上述したように拡幅装置に沿わせて冷却し、拡幅装置上で筒状積層発泡体が切り開かれる。この場合、多層押出発泡シートとして、発泡体の片面に樹脂層を形成したシートが得られる。なお、共押出ダイから押し出された2層の筒状積層発泡体が押しつぶされてシート状に形成されることで、多層押出発泡シートとして、発泡体の両面に樹脂層を形成したシートが得られてもよい。
【0089】
上述した多層押出発泡シートの製造方法の説明では、共押出ダイは、環状ダイであったが、共押出ダイは、フラットダイであってもよい。この場合には、フラットダイの押出口から、3層の積層溶融物がシート状に押し出される。押出口から3層の積層溶融物が大気中に押し出されると、発泡層形成用溶融物が発泡しながら膨張する。これにより、発泡層と樹脂層とを積層したシート状の積層発泡体が形成される。そして、押出口から押し出されたシート状の積層発泡体を拡幅装置に沿わせて引き取りながら冷却することにより、発泡層及び樹脂層を固化させる。これにより、発泡層の気泡構造が固定され、寸法が安定する。これにより多層押出発泡シートを得ることができる。
【0090】
上述したように、本発明にかかる多層押出発泡シートを製造するための製造方法においては、分岐状低密度ポリエチレンを主成分とする樹脂組成物(A)と物理発泡剤とを混練してなる発泡層形成用溶融物と、樹脂組成物(B)であるポリエチレン系樹脂組成物を溶融混練してなる樹脂層形成用溶融物とを共押出して、分岐状低密度ポリエチレンを主成分とするポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面側にポリエチレン系樹脂組成物としての樹脂組成物(B)から構成されるポリエチレン系樹脂層を積層して熱成形用ポリエチレン系樹脂多層押出発泡シートを製造する方法において、樹脂組成物(B)の結晶化温度Tcrが108℃以下であり、樹脂組成物(B)の110℃における引張強さ(MPa)と引張伸び(%)の積が1300(MPa・%)以上とする。この場合、良好な多層押出発泡シートを形成するために要請される発泡温度の範囲(℃)を効果的に広く確保することができる。ここにいう良好な多層押出発泡シートとは、多層押出発泡シートから成形体を熱成形する際の成形可能時間範囲を所定の値以上確保できるような多層押出発泡シートを示す。
【0091】
[3.作用及び効果]
熱成形用ポリエチレン樹脂押出発泡シートには、熱成形することにより得られる成形体の剛性が不十分となることがあるということが課題となっていた。
【0092】
本発明にかかる熱成形用ポリエチレン樹脂多層押出発泡シート(本発明にかかる多層押出発泡シート)によれば、樹脂層として特定の条件を満たす層を発泡層の少なくとも片面側に設けることで、熱成形することにより得られる成形体として剛性の良好なものを得ることができる。
【0093】
また、成形体として厚みの薄いものや坪量の小さいものを熱成形によって得る場合、熱成形用ポリエチレン樹脂押出発泡シートとして厚みの薄いものや坪量の小さいものを用いることが要請される。従来の熱成形用ポリエチレン樹脂押出発泡シートでは、成形体として厚みの薄いものや坪量の小さいものを得る場合には、良好に熱成形を実現できる加熱時間の幅(成形範囲、成形時間範囲)が狭くなりやすく、成形性に改善の余地があった。加熱時間が適正な範囲から外れると、熱成形用ポリエチレン樹脂押出発泡シートの熱成形で得られる成形体が破れや厚みの偏り(場合によってはヤケを生じる)を生じたものとなってしまい、良好な成形体を得ることが容易ではなかった。また、得られる成形体の剛性も低下しやすいものであった。
【0094】
本発明にかかる多層押出発泡シートによれば、成形体として厚みの薄いものや坪量の小さいものを得る場合であっても、熱成形を良好に実現できる成形範囲をより広く確保することができる。また、熱成形によって得られる成形体の厚みムラが抑制されやすく、剛性の良好な成形体を得ることができる。
【0095】
具体的には、本発明にかかる多層押出発泡シートによれば、その厚みが1mm以上3.5mm以下であるような薄い厚みであっても、良好に実現できる成形範囲をより広く確保することができ、熱成形性を良好にすることができ、そして熱成形によって剛性の良好な成形体を得ることができる。また、本発明にかかる多層押出発泡シートによれば、その坪量が150g/m2以下であるような小さな坪量であっても、上記したような良好に実現できる成形範囲をより広く確保することができ、熱成形性を良好にすることができ、そして熱成形によって剛性の良好な成形体を得ることができる。
【0096】
[4.適用例]
本発明にかかる多層押出発泡シートは、熱成形によって成形体を得るための原料シートとして用いることができる。熱成形は、原料シートを加熱して軟化状態とした後、真空や圧空、プレス等の外力を加え変形させ、所望の形状に成形する生産方法である。
【0097】
本発明にかかる多層押出発泡シートを熱成形の原料シートとして用いることで、剛性を高めた熱成形体を効率的に得ることができる。また、熱成形を行う際の原料シートの加熱時間の範囲を確保することができ、熱成形における成形性(熱成形性)が高められる(加熱時間の管理が比較的緩やかでも良好な成形体を得ることができる)。
【0098】
得られる成形体の用途は特に限定されず、例えば、緩衝材や包装部材等の用途で用いることができる。緩衝材としては、例えば果物等の食品に傷や凹みを生じる虞を抑制するための形状に賦形された包装容器を例示することができる。
【0099】
次に、具体的な実施例を用いて更に詳細に説明する。
【実施例0100】
(樹脂の準備)
表1に示すように、直鎖状低密度ポリエチレンとして種別欄のLLDPE1からLLDPE8で識別される各種の樹脂を準備した。また、表1に示すように、分岐状低密度状ポリエチレンとして種別欄のLDPEに示す樹脂を準備した。
【0101】
表1には、準備されたLLDPE1からLLDPE8について、内容(製造会社名、製品名等)、コモノマー、密度(g/cm3)、MFR(g/10min)、及び融点(℃)を合わせて示す。また、表1には、LDPEについて、内容(製造会社名、製品名等)及び密度(g/cm3)、MFR(g/10min)、及び融点(℃)を合わせて示す。
【0102】
表1の「MFR」は、JIS K7210-1(2014)に規定された方法に基づき、190℃、荷重2.16kgの条件で測定されたメルトフローレイトの値(g/10min)である。表1に記載された「融点」は、JIS K7121:2012に準拠し、熱流束示差走査熱量計を用いて測定されたDSC曲線に基づいて、DSC曲線における最大吸熱ピークの頂点温度を融点とする。
【0103】
(収縮防止剤の準備)
ポリエチレン系樹脂(LDPE)に対して、収縮防止剤としてのモノステアリン酸グリセライドを、その濃度が12質量%となるように配合してなる収縮防止剤マスターバッチが用いられた。収縮防止剤マスターバッチは表2、表3及び表4において、収縮防止剤MBと表示した。
【0104】
(共押出装置)
共押出装置として、第一押出機と第二押出機とを連結したタンデム押出機と、2つのサブ押出機と、タンデム押出機とサブ押出機のいずれの押出機の吐出口も接続された共押出ダイとを備えたものが用いられた。タンデム押出機は、発泡層形成用押出機であり、2つのサブ押出機は、いずれも樹脂層形成用押出機(樹脂層形成用第1押出機と樹脂層形成用第2押出機)である。共押出ダイは環状の押出口を有する環状ダイである。樹脂層形成用第1押出機は、後述する筒状積層発泡体の内面側に樹脂層を形成できるように共押出ダイに接続されており、樹脂層形成用第2押出機は、後述する筒状積層発泡体の外面側に樹脂層を形成できるように共押出ダイに接続されている。
【0105】
【0106】
実施例1から10、及び比較例1から8
(発泡層形成用溶融物)
実施例1から10、及び比較例1から8のそれぞれにおいて、発泡層を構成する樹脂としては、すなわち樹脂組成物(A)に含まれる樹脂としては、表2、表3及び表4の原料配合欄に示すような樹脂(分岐状低密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレン)が用いられる。実施例1から10、及び比較例1から8のそれぞれについて、表2、表3及び表4の「発泡層(樹脂組成物(A))」の原料配合欄に示す原料樹脂の種別及び配合量の条件で、発泡層を形成する樹脂組成物(A)に含まれる樹脂として分岐状低密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンをタンデム押出機の第一押出機に供給し、さらに第一押出機内で加熱溶融し混練して樹脂溶融物を形成した。このとき、樹脂溶融物を形成する際には、気泡調整剤も第一押出機に投入された。気泡調整剤の添加量は、100質量部の分岐状低密度ポリエチレンに対して1質量部の割合であった。気泡調整剤としては、大日精化工業製のファインセルマスター(製品名PO217K)が用いられた。なお、実施例1から10、及び比較例1から8では、収縮防止剤はタンデム押出機に供給されず、したがって発泡層は収縮防止剤を実質的に添加されない層となっていた。
【0107】
第一押出機内で溶融した分岐状低密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンと気泡調整剤との混合物(樹脂溶融物)に対して物理発泡剤を加圧しながら供給し、第一押出機内でさらに混練した。以上により、発泡層形成用溶融物を得た。なお、物理発泡剤としては、ノルマルブタン70質量%とイソブタン30質量%とからなる混合ブタンを使用した。物理発泡剤の配合量は、表2、表3及び表4の混合ブタン配合量欄に示す通りであった。
【0108】
第一押出機内で得られた発泡層形成用溶融物は、第二押出機に移送され、第二押出機において所定の温度(おおむね表2、表3及び表4の樹脂温度欄の発泡層の温度(℃))に調整された。
【0109】
(樹脂層形成用溶融物)
実施例1から10、及び比較例1から8のそれぞれにおいて、樹脂層を構成する樹脂組成物(B)であるポリエチレン系樹脂組成物には、表2又は表4の原料配合欄に示すような樹脂(分岐状低密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレン)が用いられる。実施例1から10、及び比較例1から8のそれぞれについて、樹脂層形成用第1押出機に対して、表2、表3及び表4における「樹脂層(樹脂組成物(B))」の原料配合欄に示すような原料樹脂の種別及び配合量の条件で分岐状低密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンを供給し、さらに表2、表3及び表4に示すような配合量で収縮防止剤を供給し、樹脂層形成用第1押出機内で加熱溶融し混練して樹脂層形成用溶融物を形成した。なお、揮発性可塑剤として、ノルマルブタン70質量%とイソブタン30質量%とからなる混合ブタンを使用した。揮発性可塑剤の配合量は、表2、表3及び表4に示す通りであった。収縮防止剤としては、上述した収縮防止剤マスターバッチが用いられた。
【0110】
樹脂層形成用第2押出機で形成される樹脂層形成用溶融物は、実施例1から10、及び比較例1から8のそれぞれについて、樹脂層形成用第1押出機で形成される樹脂層形成用溶融物と同一の原料樹脂及び収縮防止剤を用い、同一の加熱溶融条件を用いて形成された。
【0111】
(共押出)
発泡層形成用押出機、樹脂層形成用第1押出機及び樹脂層形成用第2押出機の各押出機で得られたそれぞれの溶融物は、共押出ダイに供給される。このとき、共押出ダイの内部で、内側から順に、樹脂層形成用第1押出機で形成された樹脂層形成用溶融物の層、発泡層形成用溶融物の層、樹脂層形成用第2押出機で形成された樹脂層形成用溶融物の層が積層されるようにそれぞれの溶融物が合流する。そして、樹脂層形成用溶融物で発泡層形成用溶融物を挟むように積層した積層溶融物が、共押出ダイの押出口から吐出されることで、筒状積層発泡体が得られた。
【0112】
なお、共押出時の製造条件については、溶融物が吐出される際の樹脂層形成用溶融物の樹脂温度及び発泡層形成溶融物の吐出量(kg/h)、樹脂温度(押出樹脂温度)(℃)は、表2、表3及び表4の吐出量欄、樹脂温度欄のそれぞれの樹脂層欄と発泡層欄に示すとおりである。また、共押出時の製造条件について、樹脂層形成用第1押出機で形成された樹脂層形成用溶融物積層、樹脂層形成用第2押出機で形成された樹脂層形成用溶融物のいずれについても、表2、表3及び表4の製造条件欄の樹脂層欄に示されるような条件(片面当たりの吐出量(kg/h)、及び樹脂温度(℃)の条件)を用いて実施された。したがって、吐出量欄に関する樹脂層欄の値は、多層押出発泡シートの片面あたりの吐出量を示す。
【0113】
なお、表2、表3及び表4における製造条件は、後述する金型-1における成形可能時間範囲が最大値を示した多層押出発泡シートを得る際に適用された製造条件の中で、最も独立気泡率が高い成形体を得た多層押出発泡シートを得るために適用された製造条件を示している。また、表2、表3及び表4における適正発泡層樹脂温度範囲(℃)は、後述する金型-1の成形可能時間範囲が4秒以上である多層押出発泡シートを製造することができる押出発泡時の発泡層の樹脂温度(つまり、押出発泡温度)の範囲を示している。
【0114】
得られた筒状積層発泡体については、その内側にマンドレルを挿入し筒状積層発泡体をマンドレルに沿って引き取りつつ冷却した。また、このとき筒状積層発泡体が切り開かれ、実施例1から10、及び比較例1から9のそれぞれについて多層押出発泡シートが得られた。筒状積層発泡体の引き取り速度は、表2、表3及び表4に示す通りである。
【0115】
表2、表3及び表4には、上述したような製造条件や引き取り速度の他、樹脂層を構成する樹脂組成物(B)であるポリエチレン系樹脂組成物の物性として、23℃条件での引張伸び(%)、110℃条件での引張伸び(%)、23℃条件での引張強さ(MPa)、110℃条件での引張強さ(MPa)、23℃条件での抗張積(%・MPa)、110℃条件での抗張積(%・MPa)、110℃条件での引張伸びと23℃条件での引張伸びの比(引張伸び(110℃)/引張伸び(23℃))、樹脂組成物(B)の融点(℃)、及び、樹脂組成物(B)の結晶化温度(Tcr)(℃)が記載されている。樹脂層を形成する樹脂組成物(B)であるポリエチレン系樹脂組成物の各温度での引張伸び(%)、各温度での引張強さ(MPa)、各温度での抗張積(MPa・%)、(引張伸び(110℃)/引張伸び(23℃))、融点及び結晶化温度は、次にも述べるように、上述で述べた方法を用いて特定された。なお、樹脂層を構成する樹脂組成物(B)であるポリエチレン系樹脂組成物の物性の測定に使用した樹脂組成物(B)であるの組成は、表2、表3及び表4の「原料配合」の欄に示した組成と同一に配合されたものを測定試料として用いた。
【0116】
樹脂組成物(B)の各温度での引張伸び(%)及び各温度での引張強さ(MPa)は、具体的には、JIS K7161-1:2014に基づいて以下の方法により測定した。
【0117】
(23℃条件での引張強さ及び引張伸び)
具体的には、まず、樹脂組成物(B)を最高温度180℃に設定された押出機にて溶融混練し、押出して厚み0.85±0.03mmの樹脂フィルムを作成した。該フィルムからJIS K6251の4.1(試験片の形状および寸法)に規定するダンベル状1号型の形状を有するシート片を打ち抜き、そのシート片を試験片として採用することで試験片を作成した。試験片は23℃、湿度50%の雰囲気下で24時間静置して状態調節を行った。株式会社エー・アンド・デイ社製万能材料試験機「テンシロン RTC―1250A」を用い、23℃の雰囲気下において試験速度500mm/minで試験片の引張試験を行い、試験片の引張強さ及び引張伸びを測定した。以上の測定を5回行い、得られた引張強さ及び引張伸びの算術平均値をポリエチレン系樹脂組成物の23℃条件での引張強さ及び引張伸びとした。なお、引張伸びはダンベル状1号型における標線間距離(具体的には40mm)を規準に算出される値である。
【0118】
(110℃条件での引張強さ及び引張伸び)
110℃条件における引張強さ及び引張伸びの測定は、万能試験機用恒温槽「TLF―III―40―B」を上述の万能材料試験機に取り付け、上記引張試験を行う空間の雰囲気温度を110℃±2℃に調整し、試験片を該雰囲気下に30秒静置した後に引張試験を行うこと以外は、「23℃条件での引張強さ及び引張伸び」で示した方法と同様の方法が適用された。
【0119】
樹脂層のポリエチレン系樹脂組成物の結晶化温度は、JIS K7121:2012に準拠し、熱流束示差走査熱量計を用いて測定されたDSC曲線に基づいて測定された。具体的には、まず、10℃/分の加熱速度にて23℃から200℃まで試験片を加熱し、この温度にて10分間保った後、10℃/分の冷却速度にて30℃まで試験片を冷却する熱流束DSC(つまり、示差走査熱量測定)を行い、冷却過程におけるDSC曲線を取得した。DSC曲線は、横軸を温度(℃)、縦軸をヒートフロー(W/g)とするグラフとして得た。得られたDSC曲線において現れる発熱ピークのうち最も高温側に現れる発熱ピークの頂点温度を、ポリエチレン系樹脂組成物の結晶化温度Tcrとした。なお、測定装置としては、熱流束示差走査熱量測定装置(TA Instruments社製「装置名:DSC Q1000」)を用いた。
【0120】
表2、表3及び表4には、発泡層を構成する樹脂組成物(A)の物性として、樹脂組成物(A)の融点、及び、樹脂組成物(A)に主成分として含まれる分岐状低密度ポリエチレン(LDPE)に由来する結晶化温度(Tcf)が、それぞれ発泡層欄における融点欄、結晶化温度欄に記載されている。樹脂組成物(A)の融点及び樹脂組成物(A)の主成分となる分岐状低密度ポリエチレンに由来する結晶化温度は、上述で述べた方法を用いて特定された。
【0121】
また、表2、表3及び表4には、結晶化温度差(℃)が記載されている。結晶化温度差は、樹脂層のポリエチレン系樹脂組成物の結晶化温度(Tcr)から、発泡層に含まれる分岐状低密度ポリエチレンに由来する結晶化温度(Tcf)を差し引いた値([Tcr-Tcf])として算出される。
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
実施例1から10、及び比較例1から8のそれぞれで得られる多層押出発泡シートは、発泡層の両面に樹脂層を設けた構造を有する積層発泡シートである。多層押出発泡シートについて、熱キシレン抽出法による不溶分の割合(質量%)は、0であった。すなわち、発泡層と樹脂層は、いずれも無架橋である。
【0126】
実施例1から10、及び比較例1から8のそれぞれについて、多層押出発泡シートについて、その全厚み(mm)が測定された。多層押出発泡シート全厚みの測定方法は、上述した方法を用いられた。結果を、表5、表6、及び表7に示す。
【0127】
また、表5、表6、及び表7に示すように、多層押出発泡シートの発泡層、樹脂層の坪量が特定された。表5、表6、及び表7において、樹脂層のマンドレル面側欄(マンドレル面側の樹脂層)には、樹脂層形成用第1押出機で形成された樹脂層形成用溶融物に由来する樹脂層の坪量が記載されており、樹脂層の外面側欄(外面側の樹脂層)は、樹脂層形成用第2押出機で形成された樹脂層形成用溶融物に由来する樹脂層の坪量が記載されている。
【0128】
各層の坪量は、多層押出発泡シートの製造工程における、溶融物の吐出量(吐出速度)、多層押出発泡シートの引取速度及び多層押出発泡シートの幅に基づき以下の式(3)及び(4)により求められた坪量の値(kg/m2)をg/m2に単位換算した。表5、表6、及び表7においては、多層押出発泡シートの全体坪量も記載されている。多層押出発泡シートの全体坪量は、発泡層及び樹脂層の坪量の合計である。
【0129】
【0130】
上記式(3)及び式(4)において、X1は発泡層形成用溶融物の吐出量(単位:kg/時)、X2は樹脂層形成用溶融物の片面当たりの吐出量(単位:kg/時)、Lは多層押出発泡シートの引取速度(単位:m/時)、Wは多層押出発泡シートの幅(単位:m)を意味する。
【0131】
なお、樹脂層形成用溶融物の吐出量は、樹脂層形成用第1押出機で形成された樹脂層形成用溶融物と樹脂層形成用第2押出機で形成された樹脂層形成用溶融物のいずれについても同じ値であった。
【0132】
また、実施例1から10、及び比較例1から8のそれぞれについて、多層押出発泡シートの全体についての坪量(g/m3)と全厚み(mm)とから多層押出発泡シートの見かけ密度(kg/m3)を求めた。さらに、実施例1で得られる多層押出発泡シートの独立気泡率(%)を求めた。独立気泡率は、上述した方法を用いて特定された。結果を表5、表6、及び表7に示す。
【0133】
実施例1から10、及び比較例1から8のそれぞれに得られた多層押出発泡シートについて、次に示すように、その熱成形性及び剛性を評価した。
【0134】
(熱成形性の評価)
成形機と金型を用いて多層押出発泡シートの熱成形を行った。金型としては、2種類準備された。表5、表6、及び表7では、2種類の金型をそれぞれ金型-1、金型-2と表記する。金型-1、及び金型-2のいずれについても、平面視上において長方形状で上面側を開口させた箱形形状部を幅方向(箱型形状部の幅方向)に連なるように4つ並べた形状(成形体の形状)に対応する金型を用いられた。金型-1は、個々の箱型形状部の底面部長さ242mm、個々の箱型形状部の深さ23.5mmの形状(展開倍率1.78)の成形体に対応する形状に設定された。金型-2は、個々の箱型形状部の底面部長さ242mm、個々の箱型形状部の深さ27mmの形状(展開倍率2.02)の成形体に対応する形状に設定された。箱型形状部の底面部長さは、箱型形状部の長手方向の長さを示す。金型-2による熱成形は、金型-1による熱成形に比べて展開倍率が高い観点で難度が高くなっている。熱成形は、多層押出発泡シートを加熱し、さらに金型で賦形することによって実施された。熱成形の条件については、多層押出発泡シートを加熱する際に使用されるヒーターの温度を320℃、金型の温度を60℃とした。
【0135】
(成形可能時間範囲の特定)
多層押出発泡シートの加熱時間を変数として、成形可能であると判定される時間の範囲(成形可能時間範囲(秒))を特定した。結果は表5、表6、及び表7に示す。
【0136】
成形可能であるか否かの判定は、次に示す方法で実施された。まず、熱成形で得られた成形体を目視し、成形体の破れの有無を観察し、さらに賦形率(%)を特定した。
【0137】
(賦形率)
賦形率(%)は、次のように特定された。成形体の深さ(mm)と金型の深さ(mm)との比率[(成形体の深さ)/(金型の深さ)]に、成形体の底面部長さ(mm)と金型の底面部長さ(mm)の比率[(成形体の底面部長さ)/(金型の底面部長さ)]を掛け合わせた値に対して、100を乗じた値([(成形体の深さ)/(金型の深さ)]×[(成形体の底面部長さ)/(金型の底面部長さ)]×100で定められる数式にて算出される値)として、賦形率(%)が定められた。
【0138】
成形可能であるか否かの判定基準については、成形体の裂けが認められない場合、且つ、80%以上の賦形率が認められる場合に、成形可能であると判定した。
【0139】
また、成形可能時間範囲(秒)の特定結果に基づき、熱成形性総合評価を行った。熱成形性の総合評価は、次に示す判定基準で実施された。
【0140】
◎(きわめて良好):金型-1及び金型-2のいずれについても熱成形可能時間が6秒以上である。
〇(良好):金型-1について熱成形可能時間が6秒以上であり、且つ、金型-2について熱成形可能時間が6秒未満である。
△(やや不良):金型-1について熱成形可能時間が0秒を超えて6秒未満であり、且つ、金型-2については成形可能でない。
×(不良):金型-1及び金型-2のいずれについても成形可能でない。
【0141】
多層押出発泡シートを熱成形することで得られる成形体の性質として、成形性の肉厚と、成形体の剛性について次に示すように測定及び評価を行った。
【0142】
(成形体の肉厚)
成形体の肉厚の測定については、上述のそれぞれの実施例及び比較例における、「熱成形性」を評価する際において「金型-1」を用いた多層押出発泡シートの熱成形で得られた成形体のうち、最も独立気泡率の高かった成形体についての肉厚(mm)が測定された。
【0143】
表5、表6、及び表7に示すように、成形体の肉厚(mm)として、成形体の側面部の厚み(肉厚)と底面部の厚み(肉厚)が測定された。成形体の底面部は、上述した箱型底面部に相当する部分であり、成形体の側面部は、成形体の底面部の外周から立ち上がる部分として特定される。成形体の底面部の厚み(mm)は、底面部のおおむね中心付近に選択された位置の厚み(mm)として定められた。成形体の側面部の厚み(mm)は、底面部と側面部とのおおむね境界と側面部の先端とのおおむね中間の付近に選択された位置の厚み(mm)として定められた。
【0144】
多層押出発泡シートの熱成形においては、熱成形に供される多層押出発泡シートが引き延ばされて所定の形状に賦形される。したがって、成形体の厚みは成形前の多層押出発泡シートの厚みよりも薄くなる。得られた成形体の底面部及び側面部の厚みの各測定部の厚み(mm)について、以下の式(5)により厚みの減少率(%)を算出した。結果を表5、表6、及び表7に示す。この厚みの減少率が小さいほど、熱成形時において成形前の多層押出発泡シートの厚みを維持することができていることがわかる。
【0145】
【0146】
また、表5、表6、及び表7には、成形体の部位ごとの厚みの均一性の指標として、側壁部の厚みから底面部の厚みを差し引いた値を表5、表6、及び表7の「側壁部厚み-底面部厚み」欄に示す。
【0147】
(剛性の評価)
剛性の評価は、成形体の圧縮強度の測定に基づき実施された。成形体の圧縮強度測定では、上述のそれぞれの実施例及び比較例における、「熱成形性」を評価する際において「金型-1」を用いた多層押出発泡シートの熱成形で得られた成形体のうち、最も独立気泡率の高かった成形体が、試験体として用いられた。試験体として用いられた成形体の厚みについては、表5、表6、及び表7に示すとおりである。
【0148】
成形体の圧縮強度測定は、試験体の底面部を上側に向け、試験体の開口側を下側に向けて配置し、底面部側の外面上にR=5の圧子を配置し、試験体を下方向に圧子で10mm/minの速度で潰すことで実施された。そして、圧子が10mm下方向に変位した時点での荷重を特定し、荷重の大きさを10mm圧縮荷重(N)とした。測定結果は表5、表6、及び表7に示すとおりである。
【0149】
実施例1から8、及び比較例1から6のそれぞれについて、10mm圧縮荷重(N)の値に基づき、次に示すような基準で剛性評価(成形体圧縮強度の評価)を行った。結果は、表5、表6に示すとおりである。
【0150】
〇(良好): 10mm圧縮強度が1.20N以上である。
×(不良): 10mm圧縮強度が1.20N未満である。
【0151】
成形体の実施例9から10、及び比較例7から8のそれぞれについては、多層押出発泡シートの坪量又は厚みが小さく設定されている。したがって、剛性評価(成形体圧縮強度の評価)の基準となる10mm圧縮荷重(N)の値は多層押出発泡シートの坪量及び厚みを考慮して以下のように変更して評価した。結果は、表7に示すとおりである。
【0152】
〇(良好): 10mm圧縮強度が1.00N以上である。
×(不良): 10mm圧縮強度が1.00N未満である。
【0153】
【0154】
【0155】