(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006977
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ウレタン発泡成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 75/04 20060101AFI20250109BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20250109BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20250109BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20250109BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20250109BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20250109BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20250109BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20250109BHJP
C09K 5/14 20060101ALN20250109BHJP
C08G 101/00 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
C08L75/04 ZAB
C08K3/01
C08L101/00
C08K3/22
C08K3/28
C08K3/34
C08K3/26
C08G18/00 K
C09K5/14 E
C08G101:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108061
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】小瀬 峻久
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳一朗
(72)【発明者】
【氏名】水谷 幸治
(72)【発明者】
【氏名】大脇 潤己
【テーマコード(参考)】
4J002
4J034
【Fターム(参考)】
4J002AA002
4J002AB032
4J002AB042
4J002BE022
4J002CK021
4J002CK031
4J002CK041
4J002CK051
4J002DA027
4J002DA077
4J002DA088
4J002DA097
4J002DA118
4J002DC007
4J002DC008
4J002DD078
4J002DE076
4J002DE079
4J002DE098
4J002DE108
4J002DE118
4J002DE146
4J002DE149
4J002DF016
4J002DF019
4J002DJ016
4J002DJ019
4J002DJ036
4J002DJ039
4J002DJ046
4J002DJ049
4J002DJ056
4J002DJ059
4J002DM008
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4J002FD016
4J002FD019
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4J034KC17
4J034KD02
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4J034KE02
4J034NA03
4J034NA08
4J034QC01
4J034RA15
(57)【要約】
【課題】 熱伝導性および耐熱性に優れるウレタン発泡成形体を提供する。
【解決手段】 ウレタン発泡成形体は、ポリウレタンフォームからなる基材と、該基材中に配向して含有されている複合粒子と、該基材中に分散している第一絶縁性無機粒子と、を有する。該複合粒子は、熱伝導性粒子と、該熱伝導性粒子の表面にバインダーにより接着された磁性粒子と、を有する。該第一絶縁性無機粒子は、メディアン径が55μm以上200μm以下の大径粒子を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンフォームからなる基材と、該基材中に配向して含有されている複合粒子と、該基材中に分散している第一絶縁性無機粒子と、を有し、
該複合粒子は、熱伝導性粒子と、該熱伝導性粒子の表面にバインダーにより接着された磁性粒子と、を有し、
該第一絶縁性無機粒子は、メディアン径が55μm以上200μm以下の大径粒子を有することを特徴とするウレタン発泡成形体。
【請求項2】
前記第一絶縁性無機粒子の含有量は、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の5体積%以上20体積%以下である請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項3】
前記第一絶縁性無機粒子の熱伝導率は、5W/m・K以上である請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項4】
前記第一絶縁性無機粒子は、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルク、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、シリカから選ばれる一種以上を有する請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項5】
前記大径粒子は、水と反応してアルカリ性を示す粒子である請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項6】
前記熱伝導性粒子は、膨張黒鉛粒子を有する請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項7】
前記複合粒子は、前記熱伝導性粒子の表面にバインダーにより接着された第二絶縁性無機粒子を有する請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項8】
前記第二絶縁性無機粒子の粒子径は、前記熱伝導性粒子の粒子径の1/10以下であり、かつメディアン径は、1μm以上20μm以下である請求項7に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項9】
前記第二絶縁性無機粒子は、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルク、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、シリカから選ばれる一種以上を有する請求項7に記載のウレタン発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱伝導性が高いウレタン発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両においては、車外や車室に漏れる騒音を低減するために、エンジン、トランスミッションなどから発生する騒音の低減対策が講じられている。電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)においては、インバーター、モーター、ギアボックスなどからなる電動パワートレインの駆動音も低減の対象である。騒音対策としては、例えば、ポリウレタンフォームなどの発泡体からなる防音材が用いられる。発泡体は、内部に多数のセル(気泡)を有するため熱伝導率が小さい。このため、発熱を伴う騒音源の周囲に配置した場合、熱が蓄積され不具合を生じるおそれがある。
【0003】
発泡体を用いた防音材の放熱性を向上させるという観点から、例えば特許文献1には、ポリウレタンフォーム中に、熱伝導性粒子、磁性粒子、および絶縁性無機粒子が複合化した複合粒子を配向させて配置して、その配向方向に熱の伝達経路を形成することにより放熱性を向上させたウレタン発泡成形体が記載されている。また、同文献には、ポリウレタンフォーム中に、複合粒子とは別に絶縁性無機粒子を分散させることにより、電気絶縁性を付与し、絶縁性無機粒子の特性に応じて放熱性や難燃性を向上できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のウレタン発泡成形体には、耐熱性が低いという課題、具体的には、150℃程度の高温下に置かれると伸びなどの物性が低下してしまうという課題がある。耐熱性が低いと、車両に搭載される各種ECU(Electronic Control Unit)、ジャンクションボックスなどの、高温になる部品に適用することは難しい。上記特許文献1においては、ウレタン発泡成形体の熱伝導性および電気絶縁性を評価しているのみで、耐熱性については検討されていない。
【0006】
本開示は、このような実情に鑑みてなされたものであり、熱伝導性および耐熱性に優れるウレタン発泡成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するため、本開示のウレタン発泡成形体は、ポリウレタンフォームからなる基材と、該基材中に配向して含有されている複合粒子と、該基材中に分散している第一絶縁性無機粒子と、を有し、該複合粒子は、熱伝導性粒子と、該熱伝導性粒子の表面にバインダーにより接着された磁性粒子と、を有し、該第一絶縁性無機粒子は、メディアン径が55μm以上200μm以下の大径粒子を有することを特徴とする。
【0008】
本開示のウレタン発泡成形体は、基材中に配向して配置されている複合粒子と、基材中に分散している第一絶縁性無機粒子と、を有する。熱伝導性粒子を核とする複合粒子が数珠状に連なることにより、基材中に熱の伝達経路が形成される。これにより、所望の熱伝導性を実現することができる。第一絶縁性無機粒子は、絶縁性を有する無機材料の粒子である。第一絶縁性無機粒子が存在することにより、複合粒子同士が導通しにくくなり、ウレタン発泡成形体の電気絶縁性が向上する。また、第一絶縁性無機粒子の熱伝導率が比較的大きい場合には、複合粒子による熱の伝達経路に加えて、第一絶縁性無機粒子による熱の伝達経路も形成される。これにより、ウレタン発泡成形体の熱伝導性がより向上する。また、第一絶縁性無機粒子が難燃性を有する場合には、ウレタン発泡成形体の難燃性が向上する。
【0009】
上記特許文献1の段落[0047]に、「基材中に分散される絶縁性無機粒子の大きさは、(中略)メディアン径が1μm以上20μm以下であることが望ましい。」と記載されているように、ポリウレタンフォーム中に分散させる絶縁性無機粒子としては、発泡硬化反応への影響などを考慮して、比較的小径の粒子が用いられる。絶縁性無機粒子の粒子径が小さいと比表面積が大きくなり、基材であるポリウレタンフォームとの接触面積が大きくなる。本発明者は、この絶縁性無機粒子に着目して検討を重ねた結果、絶縁性無機粒子とポリウレタンフォームとの接触面積が大きいと、絶縁性無機粒子による影響が大きくなり、それがウレタン発泡成形体の耐熱性を低下させる一因になっていることを突き止めた。例えば、絶縁性無機粒子が、水と反応してアルカリ性を示す粒子である場合、絶縁性無機粒子がポリウレタンフォームに含まれる水と反応すると、アルカリ性の雰囲気が生成される。この状態で高温に晒されると、ポリウレタンの加水分解が促進され、劣化が進行すると推測される。
【0010】
本開示のウレタン発泡成形体によると、基材中に分散している第一絶縁性無機粒子は、メディアン径が55μm以上200μm以下の大径粒子を有する。このため、小径粒子を用いる場合と比較して、第一絶縁性無機粒子とポリウレタンフォームとの接触面積が小さくなり、第一絶縁性無機粒子による影響を小さくすることができる。これにより、ウレタン発泡成形体が高温下に置かれた場合でも、ポリウレタンの劣化を抑制し、伸びなどの物性の低下を抑制することができる。他方、基材中に分散している粒子が大きすぎると、成形性や物性の低下を招く。この点については、大径粒子のメディアン径の上限を200μmにすることにより、成形性への影響を少なくし、クラックなどの発生を抑制している。結果、伸びなどの所望の物性を維持することができる。以上より、本開示のウレタン発泡成形体は、熱伝導性および耐熱性に優れる。
【0011】
(2)上記構成において、前記第一絶縁性無機粒子の含有量は、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の5体積%以上20体積%以下である構成としてもよい。本構成によると、発泡硬化反応、成形性への影響を少なくしつつ、第一絶縁性無機粒子による電気絶縁性の付与、熱伝導性の向上などの効果を得ることができる。
【0012】
(3)上記いずれかの構成において、前記第一絶縁性無機粒子の熱伝導率は、5W/m・K以上である構成としてもよい。本構成によると、第一絶縁性無機粒子による熱伝導性の向上効果を得ることができる。
【0013】
(4)上記(1)または(2)の構成において、前記第一絶縁性無機粒子は、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルク、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、シリカから選ばれる一種以上を有する構成としてもよい。本構成の第一絶縁性無機粒子は、比較的安価で入手が容易である。なかでも、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルクは、熱伝導率が比較的大きいため、ウレタン発泡成形体の熱伝導性を高めるのに好適である。
【0014】
(5)上記いずれかの構成において、前記大径粒子は、水と反応してアルカリ性を示す粒子である構成としてもよい。「水と反応してアルカリ性を示す粒子」とは、対象粒子の粉末2gを室温(20℃±5℃、以下同じ)のイオン交換水50mLに分散させた分散液のpHを測定した場合に、pHが7より大きくなる粒子である。水と反応してアルカリ性を示す粒子(以下、「アルカリ性無機粒子」と称す場合がある。)は、基材のポリウレタンフォームに含まれる水と反応してアルカリ性の雰囲気を生成し、ポリウレタンの加水分解を促進するおそれがある。よって、第一絶縁性無機粒子としてアルカリ性無機粒子を用いる場合には、当該粒子の粒子径を大きくする、具体的には、メディアン径を55μm以上200μm以下にすることにより、アルカリ性無機粒子とポリウレタンフォームとの接触面積が小さくなり、ポリウレタンの加水分解を抑制することができる。このように、本構成は、ウレタン発泡成形体の耐熱性を向上させるのに効果的である。
【0015】
(6)上記いずれかの構成において、前記熱伝導性粒子は、膨張黒鉛粒子を有する構成としてもよい。膨張黒鉛粒子は、鱗片状の黒鉛の層間に加熱によりガスを発生する物質が挿入されてなる。膨張黒鉛粒子に熱が加わると、発生したガスにより、層間が広がると共に、熱や化学品に対して安定した層が形成される。形成された層が断熱層となり、熱の移動を妨げることにより、難燃効果がもたらされる。
【0016】
通常、難燃性が付与されているウレタン発泡成形体は、炎に晒されても火種を落下させて延焼を抑制するドロッピング作用を有する。しかし、磁性粒子が配合されていると、ドロッピング作用が損なわれ、ウレタン発泡成形体の自己消火性が低下するおそれがある。本開示のウレタン発泡成形体において、複合粒子は配向している。このため、ウレタン発泡成形体に加わった熱は、熱伝導性粒子に伝達されやすく、膨張黒鉛粒子が膨張開始温度に早く到達する。これにより、膨張黒鉛粒子による難燃効果が、速やかに発揮される。したがって、本構成によると、ウレタン発泡成形体の自己消火性の低下を抑制し、難燃性を維持することができる。
【0017】
(7)上記いずれかの構成において、前記複合粒子は、前記熱伝導性粒子の表面にバインダーにより接着された第二絶縁性無機粒子を有する構成としてもよい。本構成において、第二絶縁性無機粒子は、核となる熱伝導性粒子の表面に直接接着されてもよく、磁性粒子を介して間接的に接着されてもよい。磁性粒子としては、ステンレス鋼、鉄などの強磁性体が用いられる。このため、熱伝導性粒子と磁性粒子とが複合化した複合粒子は、高い導電性を有する。この状態の複合粒子に第二絶縁性無機粒子が接着されると、複合粒子同士が接触した状態で配向しても、隣接する複合粒子間において、熱伝導性粒子や磁性粒子(導電性粒子)同士が接触しにくくなる。よって、複合粒子間の電気抵抗が大きくなる。また、第二絶縁性無機粒子を介して複合粒子同士が接触することにより、複合粒子間の導通を断つことができる。結果、本開示のウレタン発泡成形体において、所望の電気絶縁性を実現することができる。このように、本構成によると、高い熱伝導性、耐熱性に加えて、電気絶縁性をも付与することができる。したがって、本構成のウレタン発泡成形体は、電子機器における放熱部材など、放熱性と電気絶縁性との両方が要求される用途にも好適である。
【0018】
(8)上記(7)の構成において、前記第二絶縁性無機粒子の粒子径は、前記熱伝導性粒子の粒子径の1/10以下であり、かつメディアン径は、1μm以上20μm以下である構成としてもよい。第二絶縁性無機粒子が大きすぎると、熱伝導性粒子に対する接着性や、複合粒子間の熱伝導性が低下する。また、第二絶縁性無機粒子は、熱伝導性粒子に接着されており、複合粒子の一部にすぎないため、基材のポリウレタンフォームとの接触面積は小さく、ポリウレタンフォームに対する影響は小さい。よって、本構成によると、第二絶縁性無機粒子の接着性が良好な複合粒子を実現することができ、複合粒子間の良好な熱伝導性を維持することができる。
【0019】
(9)上記(7)または(8)の構成において、前記第二絶縁性無機粒子は、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルク、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、シリカから選ばれる一種以上を有する構成としてもよい。上記(4)の構成で説明したように、本構成の第二絶縁性無機粒子は、比較的安価で入手が容易である。なかでも、タルク、マイカは薄片状を呈しており被覆性に優れる。また、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルクは、熱伝導率が比較的大きいため、複合粒子間の熱伝導性を阻害しにくい。
【発明の効果】
【0020】
本開示のウレタン発泡成形体の基材中には、熱伝導性粒子を核とする複合粒子が配向しており、第一絶縁性無機粒子が分散している。第一絶縁性無機粒子は、メディアン径が55μm以上200μm以下の大径粒子を有する。大径粒子を用いることにより、第一絶縁性無機粒子と基材との接触面積が小さくなり、ポリウレタンに対する第一絶縁性無機粒子の影響を小さくすることができる。これにより、ウレタン発泡成形体が高温下に置かれた場合でも、ポリウレタンの劣化を抑制し、伸びなどの物性の低下を抑制することができる。したがって、本開示のウレタン発泡成形体は、熱伝導性および耐熱性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示のウレタン発泡成形体の実施の形態について説明する。なお、実施の形態は以下の形態に限定されるものではなく、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。
【0022】
<ウレタン発泡成形体>
本開示のウレタン発泡成形体は、ポリウレタンフォームからなる基材と、該基材中に配向して含有されている複合粒子と、該基材中に分散している第一絶縁性無機粒子と、を有する。
【0023】
[基材]
基材のポリウレタンフォームは、ポリイソシアネート成分およびポリオール成分などの発泡ウレタン樹脂原料から製造される。発泡ウレタン樹脂原料は、ポリオール、ポリイソシアネートなどの既に公知の原料から調製すればよい。ポリオールとしては、多価ヒドロキシ化合物、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリマーポリオール類、ポリエーテルポリアミン類、ポリエステルポリアミン類、アルキレンポリオール類、ウレア分散ポリオール類、メラミン変性ポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、アクリルポリオール類、ポリブタジエンポリオール類、フェノール変性ポリオール類などの中から適宜選択すればよい。また、ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、およびこれらの誘導体(例えば、ポリオール類との反応により得られるプレポリマー類、変成ポリイソシアネート類)などの中から適宜選択すればよい。
【0024】
発泡ウレタン樹脂原料には、さらに、触媒、発泡剤、整泡剤、可塑剤、架橋剤、鎖延長剤、難燃剤、帯電防止剤、減粘剤、安定剤、充填剤、着色剤などを適宜配合してもよい。例えば、触媒としては、テトラエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミンなどのアミン系触媒や、ラウリン酸錫、オクタン酸錫などの有機金属系触媒が挙げられる。また、発泡剤としては水が好適である。水以外には、塩化メチレン、フロン類、CO2ガスなどが挙げられる。また、整泡剤としてはシリコーン系整泡剤が、架橋剤としてはトリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどが好適である。
【0025】
基材の形状、大きさなどは、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜決定すればよい。基材に含有される複合粒子は、ある規則性を持って配置されていればよい。例えば、ウレタン発泡成形体の一端と他端(一端に対して180°対向した端部でなくてもよい。)との間に直線状に配置されても、曲線状に配置されてもよい。また、中心から外周に向かって放射状に配置されてもよい。
【0026】
[複合粒子]
基材中に配向して含有されている複合粒子は、核となる熱伝導性粒子の表面に磁性粒子などがバインダーにより接着された粒子である。熱伝導性粒子は、非磁性体であって、熱伝導率が大きいものであればよい。本明細書では、強磁性体および反強磁性体以外の、反磁性体および常磁性体を、非磁性体と称す。例えば、熱伝導性粒子の熱伝導率は、200W/m・K以上であることが望ましい。熱伝導性粒子の材質としては、例えば、黒鉛、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。また、アルミニウム、金、銀、銅、およびこれらを母材とする合金などでもよい。熱伝導性粒子は、単一の粒子でも複数の粒子が一体化した集合粒子でもよい。
【0027】
熱伝導性粒子の形状は、磁性粒子などの他の粒子と複合化できれば、特に限定されない。例えば、薄片状、繊維状、柱状、球状、楕円球状、長円球状(一対の対向する半球を円柱で連結した形状)など、種々の形状を採用することができる。熱伝導性粒子が球以外の形状をなす場合には、複合粒子同士の接触面積が大きくなる。これにより、熱の伝達経路が確保されやすくなると共に、伝達される熱量も大きくなる。例えば、黒鉛粒子は、アスペクト比が大きい形状のものでも、金属粒子と比較して安価に入手できる。このため、熱伝導性粒子としては、黒鉛粒子が好適である。黒鉛としては、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛や、人造黒鉛などが挙げられる。人造黒鉛は、鱗片状になりにくい。このため、鱗片状であり、熱伝導性の向上効果が高いという理由から、天然黒鉛が好適である。また、黒鉛として、鱗片状の黒鉛の層間に、加熱によりガスを発生する物質が挿入された膨張黒鉛を用いてもよい。膨張黒鉛に熱が加わると、発生したガスにより、層間が広がると共に、熱や化学品に対して安定した層が形成される。この安定層が断熱層となり、熱の移動を妨げることにより、難燃効果がもたらされる。よって、難燃性を考慮すると、熱伝導性粒子としては、膨張黒鉛粒子が好適である。膨張黒鉛粒子としては、膨張開始温度や膨張率などを考慮して、適宜選択すればよい。膨張開始温度は、ウレタン発泡成形体の成形時の発熱温度よりも高くなければならないため、膨張開始温度が150℃以上の膨張黒鉛粒子が好適である。
【0028】
熱伝導性粒子のメディアン径は、熱伝導率を大きくするという観点から、100μm以上であることが望ましい。700μm以上であるとより好適である。他方、熱伝導性粒子が大きすぎると、それを起点としてクラックが入るなどして成形体が脆くなるおそれがある。よって、熱伝導性粒子のメディアン径は、3000μm以下であることが望ましい。2000μm以下であるとより好適である。本明細書におけるメディアン径は、特に明記しない限り、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の粒度分布から求めた値(D50)である。なお、市販品についてはカタログ値を採用してもよい。
【0029】
磁性粒子は、複合粒子を配向させることができればよく、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、ガドリニウム、ステンレス鋼、マグネタイト、マグヘマイト、マンガン亜鉛フェライト、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライトなどの強磁性体、MnO、Cr2O3、FeCl2、MnAsなどの反強磁性体、およびこれらを用いた合金類の粒子が好適である。なかでも、微細な粒子として入手しやすく、飽和磁化が高いという観点から、鉄、ニッケル、コバルト、およびこれらの鉄系合金(ステンレス鋼を含む)が好適である。特に鉄は、比較的安価で入手しやすいため、製造コストを削減することができ、大量生産するのに好適である。
【0030】
磁性粒子は、熱伝導性粒子の表面に直接接着されてもよく、後述する第二絶縁性無機粒子などを介して間接的に接着されてもよい。また、磁性粒子は、熱伝導性粒子の表面の一部のみに接着されてもよく、表面全体を被覆するように接着されてもよい。磁性粒子の大きさは、熱伝導性粒子の大きさ、複合粒子の配向性、および複合粒子間の熱伝導性などを考慮して、適宜決定すればよい。例えば、磁性粒子の粒子径は、熱伝導性粒子の粒子径の1/10以下であることが望ましい。この場合の「粒子径」は、等体積球相当径である。磁性粒子の大きさが小さくなると、磁性粒子の飽和磁化が低下する傾向がある。したがって、より少量の磁性粒子により複合粒子を配向させるためには、磁性粒子のメディアン径を100nm以上とすることが望ましい。1μm以上、さらには5μm以上とするとより好適である。
【0031】
磁性粒子の形状は、特に限定されるものではない。例えば、磁性粒子の形状が扁平の場合には、球状の場合と比較して、隣接する熱伝導性粒子間の距離が短くなる。これにより、隣接する複合粒子間における熱伝導性が向上する。結果、ウレタン発泡成形体の熱伝導性が向上する。また、磁性粒子の形状が扁平の場合には、磁性粒子と熱伝導性粒子とが面で接触する。つまり、両者の接触面積が大きくなる。これにより、磁性粒子と熱伝導性粒子との接着力が向上する。よって、磁性粒子が剥離しにくくなる。加えて、磁性粒子と熱伝導性粒子との間の熱伝導性も向上する。このような理由から、磁性粒子としては、薄片状の粒子を採用することが望ましい。
【0032】
磁性粒子の含有量は、複合粒子を比較的低磁場中でも配向させることができるという観点から、基材中の熱伝導性粒子の質量を100質量%とした場合の20質量%以上であることが望ましい。また、コスト削減や軽量化を図るという観点から、磁性粒子の含有量は130質量%以下であることが望ましい。100質量%以下、さらには80質量%以下であるとより好適である。
【0033】
熱伝導性粒子と磁性粒子とを接着するバインダーは、接着性、発泡硬化反応への影響などを考慮して、適宜選択すればよい。発泡硬化反応への影響が少なく、環境にも優しいという理由から、水溶性高分子が好適である。例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、デンプンなどが挙げられる。なかでも、デンプンは、比較的安価であり、粘着性が高く造粒性に優れるため好適である。
【0034】
熱伝導性粒子および磁性粒子は導電性を有する。このため、複合粒子が連なって配向することにより、基材中に導通経路が形成される。例えば、熱伝導性粒子の表面に、磁性粒子に加えて第二絶縁性無機粒子をバインダーにより接着して、複合粒子を構成することができる。こうすることにより、複合粒子が配向しても、隣接する複合粒子間の電気抵抗を大きくしたり、導通を遮断したりすることができる。結果、ウレタン発泡成形体に電気絶縁性を付与することができる。
【0035】
第二絶縁性無機粒子は、基材中に分散される第一絶縁性無機粒子と同様に、絶縁性を有する無機材料の粒子であればよい。第二絶縁性無機材料としては、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルク、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、シリカなどが挙げられる。これらの一種を単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、タルク、マイカは薄片状を呈しており被覆性に優れるため好適である。また、複合粒子間の熱伝導性を阻害しないという観点から、熱伝導率が比較的大きいものを採用してもよい。
【0036】
第二絶縁性無機粒子は、熱伝導性粒子の表面に直接接着されてもよく、磁性粒子などを介して間接的に接着されてもよい。また、第二絶縁性無機粒子は、熱伝導性粒子の表面の一部のみに接着されてもよく、表面全体を被覆するように接着されてもよい。複合粒子間の電気抵抗を大きくして、ウレタン発泡成形体の電気絶縁性を高めるという観点から、第二絶縁性無機粒子は、複合粒子の最表層に配置されることが望ましい。熱伝導性粒子に磁性粒子を接着するバインダーと、絶縁性無機粒子を接着するバインダーと、は同じでも異なってもよい。
【0037】
第二絶縁性無機粒子の大きさは、熱伝導性粒子および磁性粒子に対する接着性、複合粒子間の電気絶縁性および熱伝導性を考慮して、適宜決定すればよい。第二絶縁性無機粒子が大きすぎると、接着性や複合粒子間の熱伝導性が低下する。例えば、第二絶縁性無機粒子の粒子径は、熱伝導性粒子の粒子径の1/10以下であることが望ましい。この場合の「粒子径」は、等体積球相当径である。また、第二絶縁性無機粒子は、熱伝導性粒子に接着されており、複合粒子の一部にすぎないため、基材のポリウレタンフォームとの接触面積は小さく、ポリウレタンフォームに対する影響は小さい。このため、第二絶縁性無機粒子のメディアン径は、1μm以上20μm以下であればよい。
【0038】
第二絶縁性無機粒子の形状は、特に限定されるものではない。例えば、第二絶縁性無機粒子の形状が扁平の場合には、球状の場合と比較して、隣接する熱伝導性粒子間の距離を短くすることができる。よって、隣接する複合粒子間の熱伝導性を阻害しにくい。また、熱伝導性粒子との接触面積が大きくなることにより、第二絶縁性無機粒子が剥離しにくくなる。
【0039】
複合粒子の含有量は、熱伝導性、ポリウレタンフォームの発泡硬化反応に対する影響、成形性などを考慮して決定すればよい。所望の熱伝導性を実現するためには、複合粒子の含有量を、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の5体積%以上とすることが望ましい。10体積%以上とするとより好適である。他方、発泡硬化反応を阻害しないようにする、成形性を良好にするという観点においては、複合粒子の含有量を、50体積%以下とすることが望ましい。20体積%以下とするとより好適である。
【0040】
[第一絶縁性無機粒子]
基材中に分散される第一絶縁性無機粒子の種類は、複合粒子の構成粒子として加えられる第二絶縁性無機粒子と同じでも、異なってもよい。第一絶縁性無機粒子の形状は、特に限定されず、球状でも薄片状でもよい。第一絶縁性無機粒子は、一種でも二種以上でもよい。第一絶縁性無機粒子についても、前述した水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルク、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、シリカなどが好適である。また、ウレタン発泡成形体の熱伝導性を高めるという観点から、熱伝導率が比較的大きいものが望ましい。例えば、第一絶縁性無機粒子の熱伝導率は5W/m・K以上であると好適である。なかでも、水酸化アルミニウムは、難燃性も有するため好適である。
【0041】
第一絶縁性無機粒子は、メディアン径が55μm以上200μm以下の大径粒子を有する。メディアン径が55μm以上の場合、基材のポリウレタンフォームとの接触面積が小さくなり、ポリウレタンフォームに対する第一絶縁性無機粒子の影響が小さくなる。例えば、大径粒子が、水と反応してアルカリ性を示す粒子(アルカリ性無機粒子)である場合には、ポリウレタンの加水分解による劣化が抑制され、ウレタン発泡成形体が高温下に置かれた場合でも、伸びなどの物性が低下しにくい。他方、メディアン径が200μm以下の場合、成形性への影響は少なく、クラックなどの発生が抑制される。成形性および常態時の物性をより向上させるという観点においては、大径粒子のメディアン径は150μm以下であるとよい。第一絶縁性無機粒子は、大径粒子のみで構成してもよく、所望の耐熱性、成形性を実現できれば、大径粒子以外の粒子を含んで構成してもよい。
【0042】
第一絶縁性無機粒子の含有量は、ポリウレタンフォームの発泡硬化反応に対する影響、成形性などを考慮すると、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の20体積%以下とすることが望ましい。15体積%以下とするとより好適である。また、電気絶縁性の付与、熱伝導性の向上などの所望の効果を得るためには、5体積%以上とすることが望ましい。8体積%以上とするとより好適である。
【0043】
<ウレタン発泡成形体の製造方法>
本開示のウレタン発泡成形体の製造方法は特に限定されない。好適な製造方法の一形態として、本開示のウレタン発泡成形体の製造方法は、複合粒子製造工程と、混合原料製造工程と、発泡成形工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0044】
[複合粒子製造工程]
本工程は、熱伝導性粒子の粉末、磁性粒子の粉末、必要に応じて配合される第二絶縁性無機粒子の粉末、バインダー、および水を有する造粒原料を撹拌して複合粒子を製造する工程である。使用する粉末、バインダーの配合量については、複合粒子の磁場配向性、ウレタン発泡成形体の電気絶縁性、熱伝導性などを考慮して、適宜調整すればよい。
【0045】
磁性粒子の粉末の配合量は、複合粒子の磁場配向性を考慮すると、熱伝導性粒子の粉末100質量部に対して20質量部以上にすることが望ましい。他方、コストおよび軽量化を考慮すると、130質量部以下にすることが望ましい。100質量部以下、さらには80質量部以下にするとより好適である。バインダーの配合量は、粒子の接着に必要十分な量として、接着対象の粉末の合計質量を100質量%とした場合の2質量%以上にすることが望ましい。他方、バインダーが過剰になると、複合粒子同士が凝集するおそれがある。このため、バインダーの配合量は、10質量%以下にすることが望ましい。5質量%以下にするとより好適である。バインダーは固体でも液体でもよい。バインダーとして水溶性の粉末を用いる場合、予め、バインダーと他の粉末原料とを撹拌した後に、水を添加するとよい。こうすることにより、粒子の凝集を抑制することができる。
【0046】
造粒原料に第二絶縁性無機粒子の粉末を含めて、第二絶縁性無機粒子を複合粒子の最表層に配置する場合には、本工程を、熱伝導性粒子の粉末、磁性粒子の粉末、バインダー、および水を有する第一原料を撹拌する第一撹拌工程と、該第一原料の撹拌物に、第二絶縁性無機粒子の粉末を添加して、さらに撹拌する第二撹拌工程と、を有する構成としてもよい。
【0047】
[混合原料製造工程]
本工程は、先の工程において製造された複合粒子の粉末と、第一絶縁性無機粒子の粉末と、発泡ウレタン樹脂原料と、を混合して混合原料を製造する工程である。
【0048】
発泡ウレタン樹脂原料については、前述したように、ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、発泡剤、整泡剤などの原料から調製すればよい。混合原料は、例えば、複合粒子の粉末、第一絶縁性無機粒子の粉末、および発泡ウレタン樹脂原料を、撹拌羽根などを用いて機械的に撹拌して製造することができる。また、発泡ウレタン樹脂原料の二つの成分(ポリオール原料、ポリイソシアネート原料)の少なくとも一方に、複合粒子の粉末および第一絶縁性無機粒子の粉末を添加して、二種類の原料を調製した後、両原料を混合して製造してもよい。
【0049】
[発泡成形工程]
本工程は、先の工程において製造された混合原料を発泡型のキャビティ内に注入し、該キャビティ内の磁束密度が略均一になるように磁場をかけながら発泡成形する工程である。
【0050】
磁場は、複合粒子を配向させる方向に形成すればよい。例えば、複合粒子を直線状に配向させる場合、発泡型のキャビティ内の磁力線が、キャビティの一端から他端に向かって略平行になるよう形成することが望ましい。このような磁場を形成するためには、例えば発泡型を挟むように、発泡型の一端および他端の両面近傍に磁石を配置すればよい。磁石には、永久磁石または電磁石を用いればよい。電磁石を用いると、磁場形成のオン、オフを瞬時に切り替えることができ、磁場の強さの制御が容易である。よって、発泡成形を制御しやすい。また、磁場を構成する磁力線は閉ループを形成していることが望ましい。こうすることで、磁力線の漏洩が抑制され、キャビティ内に安定した磁場を形成することができる。
【0051】
本工程において、磁場は、キャビティ内の磁束密度が略均一になるように形成される。例えば、キャビティ内の磁束密度の差が、±10%以内であるとよい。±5%以内、さらには±3%以内であるとより好適である。発泡型のキャビティ内に一様な磁場を形成することで、複合粒子の偏在を抑制することができ、所望の配向状態を得ることができる。また、発泡成形は、150mT以上350mT以下の磁束密度で行うとよい。こうすることで、混合原料中の複合粒子を、確実に配向させることができる。磁場は、発泡ウレタン樹脂原料の粘度が比較的低い間にかけられることが望ましい。発泡ウレタン樹脂原料が増粘し、発泡成形がある程度終了した時に磁場をかけると、複合粒子が配向しにくいため、所望の熱伝導性を得ることが難しい。なお、発泡成形を行う時間の全てにおいて磁場をかける必要はない。
【0052】
本工程にて発泡成形が終了した後、脱型して、本開示のウレタン発泡成形体を得る。この際、発泡成形の仕方により、ウレタン発泡成形体の一端および他端の少なくとも一方に、表皮層が形成される。当該表皮層は、用途に応じて切除してもよい(勿論切除しなくてもよい)。
【実施例0053】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。本実施例においては、メディアン径が異なるいくつかの第一絶縁性無機粒子を用いてウレタン発泡成形体を製造し、その特性を評価した。
【0054】
<複合粒子の製造>
熱伝導性粒子としての膨張黒鉛粉末、磁性粒子としてのステンレス鋼粉末、バインダーとしてのデンプン粉末、第二絶縁性無機粒子としてのタルク粉末、および水を有する造粒原料を撹拌して、複合粒子を製造した。まず、膨張黒鉛粉末1000質量部、ステンレス鋼粉末600質量部、およびデンプン粉末100質量部を、高速撹拌型混合造粒機の容器内へ投入して羽根撹拌により混合し、さらに水400質量部を添加して1分間混合した。次に、タルク粉末400質量部を投入して、さらに4分間混合した。撹拌速度は400rpmとした。得られた粉末を乾燥して、複合粒子の粉末とした。使用した材料の詳細を次の(a)~(d)に示す。
(a)熱伝導性粒子
膨張黒鉛粉末:石家荘愛迪特貿易有限公司製「SYZR 502FP」、粒度300μm~:80%以上。
(b)磁性粒子
ステンレス鋼粉末:三菱製鋼(株)製「AKT」、メディアン径8.5~13.0μm。
(c)バインダー
デンプン粉末:日本コーンスターチ(株)製「インスタントテンダージェルC」。
(d)第二絶縁性無機粒子
タルク粉末:日本タルク(株)製「ミクロエース(登録商標)K-1」、メディアン径8μm。
【0055】
<ウレタン発泡成形体の製造>
製造した複合粒子の粉末と、第一絶縁性無機粒子の粉末と、を用いてウレタン発泡成形体を製造した。まず、ポリエーテルポリオール(住化コベストロウレタン(株)製「SBU(登録商標)ポリオール0248」)100質量部と、鎖延長剤のジエチレングリコール(三菱化学(株)製)2質量部と、発泡剤の水2質量部と、テトラエチレンジアミン系触媒(花王(株)製「カオーライザー(登録商標)No.31」)1.5質量部と、シリコーン系整泡剤(東レ・ダウコーニング(株)製「SZ-1333」)0.5質量部と、を混合して、ポリオール原料を調製した。また、ポリイソシアネート原料として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)変性物を準備した。MDI変性物は、ポリエーテルポリオール(同上)と、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー(株)製「ミリオネートMT」)と、をイソシアネート(NCO)含有量が70質量%となるように混合し、窒素パージ下、100℃にて180分間反応させて製造した。次に、ポリオール原料100質量部に、複合粒子の粉末80質量部と、第一絶縁性無機粒子の粉末60質量部と、を添加、混合して、プレミックスポリオールを調製した。続いて、プレミックスポリオール100質量部と、ポリイソシアネート原料(MDI変性物)10質量部と、を混合して、混合原料とした。
【0056】
使用した第一絶縁性無機粒子の粉末は、次の(A)~(F)の六種類である。このうち、(A)、(C)、(D)の水酸化アルミニウム粉末の熱伝導率は8W/m・K、(B)の酸化マグネシウム粉末の熱伝導率は45~60W/m・K、(E)、(F)の酸化アルミニウム粉末の熱伝導率は20~35W/m・Kである。各粉末のメディアン径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製「マイクロトラックMT3000EX-II」)により測定した。(C)~(E)の粉末は、本開示における「大径粒子」の概念に含まれる。また、各粉末の2gを室温のイオン交換水50mLに分散させて、5分後の分散液のpHをガラス電極式pHメーターで測定したところ、(A)、(C)、(D)の水酸化アルミニウム粉末のpHは8、(B)の酸化マグネシウム粉末のpHは10、(E)、(F)の酸化アルミニウム粉末のpHは7であった。
(A)水酸化アルミニウム粉末:日本軽金属(株)製「B143」、メディアン径2μm。
(B)酸化マグネシウム粉末:協和化学工業(株)製「パイロキスマ(登録商標)3020」、メディアン径20μm。
(C)水酸化アルミニウム粉末:日本軽金属(株)製「SB53」、メディアン径55μm。
(D)水酸化アルミニウム粉末:日本軽金属(株)製「SB93」、メディアン径105μm。
(E)酸化アルミニウム粉末:日本カーリット(株)製「サクランダム(登録商標)40SH」のボールミル粉砕品、メディアン径200μm。
(F)酸化アルミニウム粉末:日本カーリット(株)製「サクランダム(登録商標)40SH」、メディアン径300μm。
【0057】
それから、混合原料を、アルミニウム製の発泡型(キャビティは縦130mm×横130mm×厚さ5mmの直方体)に注入し、発泡型を密閉した。そして、発泡型を磁気誘導発泡成形装置に設置して、発泡成形を行った。発泡型のキャビティ内には、上方から下方に向かって略平行な磁力線により一様な磁場が形成される。キャビティ内の磁束密度は200mT、キャビティ内における磁束密度の差は±3%以内である。発泡成形は、最初の2分間は磁場をかけながら行い、続く約5分間は磁場をかけないで行った。発泡成形が終了した後、脱型して、ウレタン発泡成形体を得た。得られたウレタン発泡成形体を、使用した第一絶縁性無機粒子の種類に対応させてウレタン発泡成形体A~Fと称す。ウレタン発泡成形体A~Fにおける複合粒子の含有量は7.5体積%であり、第一絶縁性無機粒子の含有量は12.5体積%である(いずれもウレタン発泡成形体の体積を100体積%とする)。ウレタン発泡成形体C、D、Eは、本開示のウレタン発泡成形体の概念に含まれる。
【0058】
<ウレタン発泡成形体の評価>
製造したウレタン発泡成形体の熱伝導性、伸び、耐熱性、および難燃性を評価した。評価結果については、後出の表1にまとめて示す。評価方法は次のとおりである。
【0059】
[熱伝導性]
ウレタン発泡成形体の熱伝導率を、JIS A1412-2:1999の熱流計法に準拠した英弘精機(株)製「HC-110」を用いて測定した。
【0060】
[伸び]
ウレタン発泡成形体から、JIS K 6251:2017に規定されるダンベル状1号形の試験片を五つ作製し、各々の試験片について、同JISに規定される引張試験を引張速度200mm/minにて行い、切断時伸び(Eb)を算出した。そして、全ての試験片の切断時伸びが50%以上になった場合を常態時物性は極めて良好(後出の表1中、○印で示す)、試験片の全てではないが一つでも切断時伸びが50%以上のものがあれば常態時物性は良好(同表中、△印で示す)、全ての試験片の切断時伸びが50%未満になった場合を常態時物性は不良(同表中、×印で示す)と評価した。
【0061】
[耐熱性]
先の伸びの評価と同様にダンベル状1号形の試験片を作製し、それを150℃に温調されたオーブンに入れて400時間保持した。試験片を室温に戻した後、先の伸びの評価と同様の条件にて引張試験を行い、切断時伸び(Eb)を算出した。そして、全ての試験片の切断時伸びが30%以上になった場合を耐熱性は極めて良好(後出の表1中、○印で示す)、試験片の全てではないが一つでも切断時伸びが30%以上のものがあれば耐熱性は良好(同表中、△印で示す)、全ての試験片の切断時伸びが30%未満になった場合を耐熱性は不良(同表中、×印で示す)と評価した。
【0062】
[難燃性]
UL94規格の垂直燃焼試験を実施した。垂直燃焼試験においては、垂直に保持した試料の下端に10秒間ガスバーナーの炎を接炎させる。燃焼が30秒以内に止まった場合には、さらに10秒間接炎させる。そして、次の五つの基準を全て満足する場合にV-0レベルと判定される。(1)二回の接炎のいずれにおいても試料が10秒より長く燃焼しない。(2)五つの試料に対する各々二回の接炎による合計の燃焼時間が50秒を超えない。(3)固定用クランプの位置まで燃焼する試料がない。(4)試料の下方に置かれた綿を発火させる、燃焼する粒子を滴下させる試料がない。(5)二回目の接炎の後、試料が30秒より長く赤熱を続けない。
【0063】
【0064】
表1に示すように、ウレタン発泡成形体C~Eは、第一絶縁性無機粒子として大径粒子を有する。このため、常態時の物性および耐熱性は良好であった。ウレタン発泡成形体Eにおいては、ウレタン発泡成形体C、Dと比較して、第一絶縁性無機粒子のメディアン径が大きい。このため、若干クラックが発生し、常態時の物性および耐熱性がやや低下した。また、ウレタン発泡成形体C~Eの熱伝導率は0.7W/m・K以上と大きく、難燃性もV-0であった。以上より、ウレタン発泡成形体C~Eは、熱伝導性、耐熱性、および難燃性を満足することが確認された。
【0065】
これに対して、第一絶縁性無機粒子として大径粒子を有さず、第一絶縁性無機粒子のメディアン径が20μm以下のウレタン発泡成形体A、Bについては、熱伝導性、常態時物性および難燃性は満足するものの、耐熱性が劣る結果になった。また、第一絶縁性無機粒子として大径粒子を有さず、第一絶縁性無機粒子のメディアン径が300μmのウレタン発泡成形体Fについては、熱伝導性および難燃性は満足するものの、クラックが発生するなどして成形性が低下して、常態時物性および耐熱性が劣る結果になった。
本開示のウレタン発泡成形体は、バッテリーカバー、電動パワートレイン(eAxel)カバー、シートモーターカバー、アンダーカバー、フロアマット、ダッシュサイレンサー、フードサイレンサー、各種ECU、ジャンクションボックスなどの車両用部品、パソコンなどの電子機器に用いられる防音材として好適である。