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2025-69878エストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物、及びエストロゲン受容体シグナル伝達活性化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025069878
(43)【公開日】2025-05-01
(54)【発明の名称】エストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物、及びエストロゲン受容体シグナル伝達活性化方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4166 20060101AFI20250423BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20250423BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250423BHJP
   A61P 5/30 20060101ALI20250423BHJP
   A61P 17/10 20060101ALI20250423BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20250423BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20250423BHJP
【FI】
A61K31/4166
A61P29/00
A61P43/00 111
A61P5/30
A61P17/10
A61K8/49
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023179878
(22)【出願日】2023-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】山城 紗和
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 雅俊
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AC851
4C083AC852
4C083EE14
4C083FF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZB11
4C086ZC11
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】本発明は、ホルモンバランスの乱れによる症状に優れた効果を奏する製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、エストロゲン受容体1(ESR1)を介するエストロゲン受容体シグナル伝達を活性化するための組成物であって、アラントイン又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする、エストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エストロゲン受容体1(ESR1)を介するエストロゲン受容体シグナル伝達を活性化するための組成物であって、アラントイン又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする、エストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物。
【請求項2】
上記エストロゲン受容体シグナル伝達の活性化が、エストロゲン受容体1(ESR1)の遺伝子発現の促進、及び/又はエストロゲン受容体1(ESR1)の核移行の促進である、請求項1に記載のエストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物。
【請求項3】
上皮細胞におけるエストロゲン受容体1(ESR1)を介するエストロゲン受容体シグナル伝達を活性化するための組成物である、請求項1又は2に記載のエストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物。
【請求項4】
上記上皮細胞が、炎症状態の上皮細胞である、請求項3に記載のエストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物。
【請求項5】
エストロゲン受容体1(ESR1)を介するエストロゲン受容体シグナル伝達を活性化する方法であって、アラントイン又はその塩を使用することを特徴とする、エストロゲン受容体シグナル伝達活性化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物、及びエストロゲン受容体シグナル伝達活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホルモンは、内分泌腺から分泌され、血液を介して体内の標的部位に作用し、活動を制御する化学物質である。ホルモンの標的部位には受容体が存在し、ホルモンが結合することにより、特定の作用を起こすための情報を伝達する。ホルモンは、成長や発達、生殖等に影響するとともに、エネルギー代謝や血液成分の濃度を維持する等ホメオスタシスにも関与し、全身の器官の機能を制御している。また、ホルモンは、ごく微量で非常に大きな反応を引き起こすため、そのバランスが乱れると様々な症状や疾患が現れる。
【0003】
エストロゲンは主に卵巣の顆粒膜細胞から産生されるホルモンであり、その分泌は下垂体前葉より分泌される性腺刺激ホルモンである卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)とにより支配される。エストロゲンの血中レベルが低下するとFSHの分泌が促進され、エストロゲンの血中レベルが上昇するとFSHの分泌が抑制されるため、エストロゲンは卵巣機能の自己調整に働く巧妙なフィードバック機構の中心的役割を担っている。さらに、エストロゲンは標的組織である間脳-下垂体前葉-性器及び乳腺のみならず、種々の組織に受容体を有しており、生殖機能に作用するだけでなく、皮膚、脳、心血管、骨格その他の全身の組織に作用が及ぶことが知られている。
【0004】
女性の更年期障害は、卵巣機能が低下し、エストロゲンの分泌量が減少することにより、ホルモンバランスの乱れが惹起されて生じる。更年期障害によって引き起こされる症状としては、血管運動神経系症状(ほてり、のぼせ、発汗、冷え、動悸、息切れ、むくみ)、精神神経系症状(頭痛、めまい、不眠、不安、いらいら、うつ状態、耳鳴り、難聴、立ちくらみ、ストレス)、運動器官系症状(腰痛、こり、関節痛、筋肉痛、骨代謝異常)、消化器系症状(食欲不振、吐き気、下痢、便秘、のどの渇き、胃もたれ、胸焼け)、全身症状倦怠感)、泌尿器系症状(頻尿、残尿感、排尿痛)、生殖器系症状(月経異常、性欲低下)、知覚系症状(しびれ、知覚鈍麻、知覚過敏、視力低下)、皮膚系症状(皮膚の乾燥、かゆみ、しわ、くすみ)が挙げられる。また、閉経後には、高血圧症、糖尿病、肥満、骨粗しょう症、自律神経失調症、不定愁訴、認知症等を発症しやすくなることも明らかにされている(非特許文献1)。また、若年層の女性においても、性ホルモンのバランスの乱れが生ずることがあり、それにより皮膚系症状(にきび)、血管運動神経系症状(動悸、むくみ)、精神神経系症状(頭痛・めまい・微熱・不安・うつ状態、不眠、眠気、ストレス)、運動器官系症状(腰痛、関節痛)、消化器系症状(便秘、下痢、腹痛、食欲亢進、のどの渇き)、全身症状(疲労感)等の症状が現れる月経前症候群(PMS;premenstrual syndrome)が起こることが知られている。これらの症状の程度は個人差が大きいものの、症状が重い場合、仕事や日常生活に支障をきたすことも少なくない。
【0005】
一方、男性においても更年期障害の増加が報告されており、その症状の多くは様々な精神神経系症状が関与する血中のテストステロン濃度低下が原因とされる。また、男性においてもテストステロンとともに、エストロゲンの低下が生じ、骨粗しょう症を発症するという報告がある(非特許文献2)。
【0006】
上記のようなエストロゲンの低下によって生じる様々な症状に対して、エストロゲン様作用物質を含有する植物やこれらから得られるエキス等のいわゆる植物エストロゲンが使用されてきた。植物エストロゲンとしては、例えば、大豆イソフラボン類(特許文献1、特許文献2)、杜仲(特許文献3)等が報告されている。これらの植物エストロゲンは、効果が比較的穏やかで、副作用もほとんどないと言われているが、効果は十分とは言えず、また、乳癌や子宮癌の発症リスクの可能性は否めないため、サプリメント等の摂取に際して注意喚起が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-186483号公報
【特許文献2】特開2005-229855号公報
【特許文献3】特表2012-77012号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ホルモンと臨床, 医学の世界社,Vol.57,p.949-954,2009
【非特許文献2】基礎老化研究,日本基礎老化学会,Vol.34,p.13-17,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述のような状況の中、ホルモンバランスの乱れによる症状に優れた効果を奏する新規製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明者らは、抗炎症作用、組織修復作用を有することが知られているアラントイン又はその塩が、エストロゲン受容体1(ESR1)を介するエストロゲン受容体シグナル伝達を活性化することを見出した。アラントイン又はその塩は、ESR1を介するエストロゲン受容体シグナル伝達を活性化することにより、エストロゲンの低下によるホルモンバランスの乱れを正常化することが示唆された。すなわち本発明の要旨は、以下の通りである。
【0011】
[1]エストロゲン受容体1(ESR1)を介するエストロゲン受容体シグナル伝達を活性化するための組成物であって、アラントイン又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする、エストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物。
[2]上記エストロゲン受容体シグナル伝達の活性化が、エストロゲン受容体1(ESR1)の遺伝子発現の促進、及び/又はエストロゲン受容体1(ESR1)の核移行の促進である、[1]に記載のエストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物。
[3]上皮細胞におけるエストロゲン受容体1(ESR1)を介するエストロゲン受容体シグナル伝達を活性化するための組成物である、[1]又は[2]に記載のエストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物。
[4]上記上皮細胞が、炎症状態の上皮細胞である、[3]に記載のエストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物。
[5]エストロゲン受容体1(ESR1)を介するエストロゲン受容体シグナル伝達を活性化する方法であって、アラントイン又はその塩を使用することを特徴とする、エストロゲン受容体シグナル伝達活性化方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、アラントイン又はその塩を有効成分として含有する組成物を用いることで、エストロゲン受容体1(ESR1)を介するエストロゲン受容体シグナル伝達を活性化することができ、それにより、エストロゲンの低下等によるホルモンバランスの乱れを正常化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、RNA-seq、ATAC-seqサンプル取得における試験系を示す図である。
図2図2は、RNA-seq 主成分分析の結果を示す図である。
図3-1】図3-1は、RNA-seq 発現変動遺伝子の抽出の結果を示す図である。
図3-2】図3-2は、上記RNA-seq 発現変動遺伝子の抽出に引き続いて行ったGO(Gene Ontology)解析の結果を示す図である。
図4図4は、ESR1が、エストロゲンを核内で受容したのちに転写因子として作用すること模式的に示した図である。
図5図5は、アラントインの添加によるクロマチンの開閉の変化を示す図である。
図6図6は、アラントインの添加によるクロマチンの開閉の変化を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のエストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物、及びエストロゲン受容体シグナル伝達活性化方法について詳細に説明する。
【0015】
[エストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物]
本発明のエストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物は、エストロゲン受容体1(ESR1)を介するエストロゲン受容体シグナル伝達を活性化するための組成物であって、アラントイン又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする。
【0016】
エストロゲンとは、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)及びエストリオール(E3)の3種類の分子を指し、いずれもエストロゲン受容体(Estrogen Receptor、ER)との結合能を有する。エストロゲンはステロイドホルモンの一種であり、生殖機能の形成及び細胞の増殖を促進する働きを持つ。その生理作用を発現するためには標的組織に存在しているERへの結合を介する必要がある。ERに対してリガンドが結合するとERは活性化を受けてDNAへの結合が促進され、遺伝子の転写を制御する転写因子として機能する。また、ERのリガンドはエストロゲン以外にも存在しており、植物中に含まれるイソフラボン等の分子(植物性エストロゲン)や内分泌撹乱物質もERに対して結合能を有するリガンドのひとつであり、作用を発現することが知られている。
【0017】
エストロゲン受容体(Estrogen Receptor、ER)とはステロイド受容体スーパーファミリーに属する分子の一つである。卵胞ホルモン受容体とも呼ばれる。生体内ではエストロゲンの標的細胞核に存在し、エストロゲンと結合して活性化され、転写因子として機能し、特異的な遺伝子に依存するタンパク質合成の活性化を媒介するものである。ERには2つのアイソフォームが存在しており、それぞれERα(NR3A1、595アミノ酸残基)及びERβ(NR3A2、530残基)と呼ばれる。これらは独立した遺伝子(ESR1、ESR2)から産生される。ESR1は6q25.1に存在し、ESR2は14q21-22に存在している。リガンドの結合により活性化されたERタンパク質はホモ(αα、ββ)あるいはヘテロ二量体(αβ)を形成する。また、ERαとERβはいずれも6つのドメイン(A-F領域)から構成されており、2種類の受容体タンパク質間ではアミノ酸配列の配列類似性が高い。本発明の組成物は、エストロゲン受容体の2つのアイソフォームのうち、ESR1遺伝子に由来するERα(NR3A1、595アミノ酸残基)を介するシグナル伝達を活性化する組成物である。
【0018】
本発明において、エストロゲン受容体シグナル伝達とは、エストロゲン受容体1(ESR1、ERα)に上記リガンドが結合して転写因子として機能し、特異的な遺伝子に依存するタンパク質合成経路を活性化する一連の経路におけるシグナル伝達のことをいう。そして、エストロゲン受容体シグナル伝達活性化とは、上記一連のエストロゲン受容体シグナル伝達経路の一部又は全部を促進し、特異的な遺伝子又はそれに依存するタンパク質合成経路を活性化することをいう。本発明において、エストロゲン受容体シグナル伝達活性化は、上記一連のエストロゲン受容体シグナル伝達経路に関するいずれのステップを促進するものであってもよいが、中でもエストロゲン受容体1(ESR1、ERα)の遺伝子発現の促進、及び/又はエストロゲン受容体1(ESR1)の核移行の促進であることが好ましい。すなわち、本発明のアラントイン又はその塩を含有する組成物は、エストロゲン受容体1(ESR1、ERα)の遺伝子発現を促進すること、及び/又はエストロゲン受容体1(ESR1)の核移行を促進することにより、エストロゲン受容体1が転写因子として機能して特異的に活性化されるタンパク質合成経路を活性化することができる。
【0019】
本発明のアラントイン又はその塩を含有する組成物によると、エストロゲン受容体シグナル伝達活性化により、表皮の分化・増殖、中間径フィラメント細胞骨格組織、中間径フィラメントに基づく経路、ケラチノサイトの分化、中間径フィラメント組織、細胞遊走、上皮細胞遊走、上皮遊走、組織遊走に関与する遺伝子発現が増強され、種々の効果を奏する。
【0020】
本発明の組成物によって活性化されるエストロゲン受容体1(ESR1)を介するエストロゲン受容体シグナル伝達は、いずれの細胞種のものであってもよいが、上皮細胞におけるものであることが好ましい。上記上皮細胞としては、本発明の効果を顕著に奏する観点から、皮膚(頭皮を含む)、眼、口腔、腸管、膣の上皮細胞が好ましい。また、上記各種上皮細胞は、同様に本発明の効果を顕著に奏する観点から、炎症状態の上皮細胞であることが好ましい。上記炎症状態としては、特に限定されないが、例えば細菌、ウイルス、紫外線、老化、光老化、ストレス、傷害等によって惹起される炎症等が挙げられる。
【0021】
アラントインは、5-ウレイドヒダントインとも称される公知化合物である。アラントインは、ヒレハリソウ(Symphytum officinale)の根茎に含まれており、抗炎症作用、肉芽形成作用、組織修復作用等を有することが知られている。なお、本発明の組成物では、アラントインとして、これを含有するヒレハリソウ又はその抽出物を使用してもよい。また、アラントインの塩であってもよく、薬学上許容される塩であれば限定はされず、例えば、アラントインβ-グリチルレチン酸、アラントインジヒドロキシアルミニウム(アルジオキサ)、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム(アルクロキサ)、アラントインポリガラクツロン酸、アラントインアスコルビン酸、アラントインアセチル-DL-メチオニン、アラントインDL-パントテニルアルコール、DL-ピロリドンカルボン酸ナトリウム・アラントイン等が挙げられる。これらのうち、本発明の組成物が含有する成分としては、アラントインが好ましい。なお、本発明の組成物は、アラントイン及びアラントインの塩から成る群より選択される1種又は複数種の成分を含有してもよい。
【0022】
本発明の組成物におけるアラントイン又はその塩の含有量は、特に限定されず、他の配合成分の種類及び含有量、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定されるが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、組成物の全量に対して、好ましくは0.0005質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上、更に好ましくは0.005質量%以上、より更に好ましくは0.01質量%以上であり、特に好ましくは0.1質量%以上である。また、同様の観点から、本発明の組成物におけるアラントイン又はその塩の含有量は、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.75質量%以下、より更に好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下である。
【0023】
本発明の組成物におけるアラントイン又はその塩の含有量は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、好ましくは0.0005質量%以上3質量%以下、より好ましくは0.001質量%以上1質量%以下、更に好ましくは0.005質量%以上0.75質量%以下、より更に好ましくは0.01質量%以上0.5質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以上0.3質量%以下である。
【0024】
(その他の成分)
本発明のエストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物は、上皮細胞に対して優れたエストロゲン受容体シグナル伝達活性化効果を奏することから、皮膚(頭皮を含む)、眼、口腔、腸管、膣の細胞に対して用いられ、具体的には外用組成物、発毛促進用組成物、眼科用組成物、口腔用組成物、内服用組成物、膣用組成物等として好適に用いられる。
【0025】
本発明の組成物は、必須成分であるアラントイン又はその塩に加えて、目的や用途に合わせて、その他の成分を含んでも良い。本発明の組成物は、例えば、溶媒、アラントイン又はその塩以外の抗炎症剤、清涼化剤、殺菌剤、防腐剤、ビタミン類、有機酸、保湿成分、スクラブ剤、紫外線吸収成分、紫外線散乱成分、収斂成分、ペプチド又はその誘導体、アミノ酸又はその誘導体、多価アルコール、増粘剤、洗浄成分、角質柔軟成分、細胞賦活化成分、老化防止成分、血行促進作用成分、美白成分、粉体、皮脂吸着成分、育毛成分、抗ヒスタミン成分、消炎鎮痛成分、鎮痒成分、局所麻酔成分等を含んでいてもよい。なお、本発明の組成物において、これらの成分の1種又は2種以上について、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
溶媒は、組成物において基剤又は担体として機能するものが好ましく、水等の水系溶媒、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、ゲル化炭化水素(プラスチベース等)、オゾケライト、α-オレフィンオリゴマー、軽質流動パラフィンのような炭化水素;ポリメチルシルセスキオキサン等のメチルポリシロキサン、架橋型メチルポリシロキサン、高重合メチルポリシロキサン、環状シリコーン、アルキル変性シリコーン、架橋型アルキル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ラウリルジメチコンポリグリセリン-3クロスポリマー等のポリグリセリン変性シリコーン、架橋型ポリエーテル変性シリコーン、架橋型アルキルポリエーテル変性シリコーン、シリコーン・アルキル鎖共変性ポリエーテル変性シリコーン、シリコーン・アルキル鎖共変性ポリグリセリン変性シリコーン、ポリエーテル変性分岐シリコーン、ポリグリセリン変性分岐シリコーン、アクリルシリコン、フェニル変性シリコーン、シリコーンレジンのようなシリコーン油;セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールのような高級アルコール;エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのようなセルロース誘導体;ポリビニルピロリドン;カラギーナン;ポリビニルブチラート;ポリエチレングリコール;ジオキサン;ブチレングリコールアジピン酸ポリエステル;ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸セチル、パルミチン酸オクチル、イソノナン酸イソノニル、テトラ2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、ホホバ油のようなエステル類;デキストリン、マルトデキストリンのような多糖類;エタノール、イソプロパノールのようなアルコール等が挙げられる。
【0027】
抗炎症剤としては、例えば、グリチルレチン酸及びその誘導体、グリチルリチン酸及びその誘導体、サリチル酸誘導体、アミノカプロン酸、アズレン及びその誘導体、酸化亜鉛、酢酸トコフェロール、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン並びにこれらの塩等が挙げられる。具体的には、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸ステアリル、サリチル酸グリコール、サリチル酸メチル、イプシロンアミノカプロン酸、アズレン、グアイアズレン及びこれらの塩が挙げられる。なお、ここで「誘導体」とは、記載の化合物のエステル、エーテル、アルキル化物、配糖体等をいう。またここで「塩」とは、例えば、硫酸、塩酸又はリン酸等の鉱酸の塩、マレイン酸又はメタンスルホン酸等の有機酸の塩、ナトリウム又はカリウム等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等をいう。以下の任意成分についても同様である。
【0028】
上記清涼化剤としては、例えば、カンフル、1-メントール、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、アネトール、リモネン、オイゲノール等のテルペン類(これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。);ユーカリ油、ベルガモット油、ペパーミント油、クールミント油、スペアミント油、ウイキョウ油、ハッカ油、ケイヒ油、ローズ油、テレビン油等の精油等が挙げられる。
【0029】
上記殺菌剤としては、例えば、イソプロピルメチルフェノール、クロルヘキシジン、アクリノール、グルコン酸及びその誘導体、ポピドンヨード、ヨウ化カリウム、ヨウ素、トリクロカルバン、トリクロサン、感光素101号、感光素201号、塩酸アルキルジアミノグリシン、ピロクトオラミン、イソコナゾール、オキシコナゾール硝酸塩、ミコナゾール硝酸塩、スルコナゾール硝酸塩、ルリコナゾール、アモロルフィン塩酸塩、クロトリマゾール、ケトコナゾール、ビホナゾール、ネチコナゾール塩酸塩、ラノコナゾール、リラナフタート、エフィナコナゾール、塩化デカリニウム、塩酸クロルへキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、塩化セチルピリジニウム、安息香酸ナトリウム、クロロブタノール、サリチル酸、グルコン酸、チモール、ヘキサクロロフェン、ベルベリン、テルビナフィン塩酸塩、ブテナフィン塩酸塩、塩化リゾチーム、サリチル酸、サリチル酸塩、イオウ又はイオウ化合物、ヒノキチオール、トリクロロカルバニリド、ハロカルバン、クロロフェネシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物等が挙げられる。
【0030】
上記防腐剤としては、例えば、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ナトリウム、クロルフェネシン、カプリルヒドロキサム酸等が挙げられる。
【0031】
上記ビタミン類としては、水溶性ビタミン及び油溶性ビタミンのいずれであってもよく、例えば、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン、5’-リン酸ピリドキサール、及びそれらの塩(例えば、塩酸ピリドキシン、酢酸ピリドキシン、塩酸ピリドキサール、塩酸ピリドキサミン)等のビタミンB6類;パントテン酸、パントテン酸カルシウム、パントテニルアルコール(パンテノール)、D-パンテサイン、D-パンテチン、補酵素A、パントテニルエチルエーテル、及びそれらの塩等のパントテン酸類;ニコチン酸、ニコチン酸dl-α-トコフェロール、ニコチン酸ベンジル、ニコチン酸メチル、ニコチン酸β-ブトキシエチル、ニコチン酸1-(4-メチルフェニル)エチル、ニコチン酸アミド、及びそれらの塩等のニコチン酸類;γ-オリザノール、チアミン、ジベンゾイルチアミン、チアミンセチル、チアミンモノリン酸エステル、チアミンジリン酸エステル、チアミントリリン酸エステル、及びそれらの塩(例えば、ジベンゾイルチアミン塩酸塩、チアミン塩酸塩、チアミンセチル塩酸塩、チアミンチオシアン酸塩、チアミンラウリル塩酸塩、チアミン硝酸塩、チアミンモノリン酸塩、チアミンリジン塩、チアミントリリン酸塩、チアミンモノリン酸エステルリン酸塩、チアミンジリン酸エステル塩酸塩、チアミントリリン酸エステルモノリン酸塩)等のビタミンB1類;リボフラビン、フラビンモノヌクレオチド、フラビンアデニンジヌクレオチド、リボフラビン酪酸エステル、リボフラビンテトラ酪酸エステル、リボフラビン5’-リン酸エステルナトリウム、リボフラビンテトラニコチン酸エステル、及びそれらの塩等のビタミンB2類;ビオチン、ビオシチン、及びそれらの塩等のビオチン類;葉酸、プテロイルグルタミン酸、及びそれらの塩等の葉酸類;シアノコバラミン、ヒドロキソコバラミン、デオキシアデノシルコバラミン、及びそれらの塩等のビタミンB12類;アスコルビン酸、デヒドロアスコルビン酸、アスコルビン酸リン酸エステル、アスコルビン酸-2-グルコシド、3-O-エチルアスコルビン酸等のアスコルビン酸誘導体、及びそれらの塩(例えば、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸リン酸エステルナトリウム、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム)等の水溶性のビタミンC類;dl-α-トコフェロール、酢酸dl-α-トコフェロール、コハク酸dl-α-トコフェロール、コハク酸dl-α-トコフェロールカルシウム等のビタミンE類;アスコルビゲン-A、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、アスコルビン酸パルミチン酸エステル、ジパルミチン酸L-アスコルビル、テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビル等の油溶性のビタミンC類;エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール等のビタミンD類;フィロキノン、ファルノキノン等のビタミンK類;フェルラ酸等のビタミン様作用因子等が挙げられる。
【0032】
上記有機酸としては、例えば、グルコン酸、アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸、クエン酸、グルタミン酸、コハク酸、シュウ酸、フマル酸、プロピオン酸、リンゴ酸、サリチル酸、グリコール酸、フィチン酸、酒石酸、酢酸、乳酸、及びこれらの塩が挙げられる。塩としては、例えば、硫酸、塩酸又はリン酸等の鉱酸の塩、マレイン酸又はメタンスルホン酸等の有機酸の塩、ナトリウム又はカリウム等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0033】
上記保湿成分としては、例えば、ジグリセリントレハロース;ヒアルロン酸ナトリウム、ヘパリン類似物質、コンドロイチン硫酸ナトリウム、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、キチン、キトサン等の高分子化合物;グリシン、アスパラギン酸、アルギニン等のアミノ酸;乳酸ナトリウム、尿素、ピロリドンカルボン酸ナトリウム等の天然保湿因子;セラミド、コレステロール、リン脂質等の脂質;カミツレエキス、ハマメリスエキス、チャエキス、シソエキス等の植物抽出エキス等が挙げられる。
【0034】
上記スクラブ剤としては、例えば、アプリコット核粉末、アーモンド殻粉末、アンズ核粉末、塩化ナトリウム粒、オリーブ核粉末、海水乾燥物粒、キャンデリラワックス、くるみ殻粉末、さくらんぼ核粉末、サンゴ粉末、炭粉末、はしばみ殻粉末、ポリエチレン末、無水ケイ酸等が挙げられる。
【0035】
上記紫外線吸収成分としては、例えば、ジパラメトキシケイ皮酸モノ-2-エチルヘキサン酸グリセリル;パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル等のケイ皮酸系紫外線吸収剤;ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸2-エチルヘキシル;2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾ-ルー2イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール];2,4-ビス-[{4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、ジエチルヘキシルブタミドトリアゾン、2,4,6-トリス[4-(2-エチルヘキシルオキシカルボニル)アニリノ]-1,3,5-トリアジン等のトリアジン誘導体;ジメチコジエチルベンザルマロネート等のベンザルマロナート誘導体紫外線吸収剤;2-シアノ-3,3-ジフェニルプロパ-2-エン酸2-エチルヘキシルエステル等のオクトクリレン紫外線吸収剤;2-フェニルベンゾイミダゾール-5-スルホン酸、フェニルジベンゾイミダゾールテトラスルホン酸二ナトリウム等のイミダゾールスルホン酸誘導体紫外線吸収剤;2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸及びその塩、ジヒドロキシジメトキシベンゾフェノン、ジヒドロキシベンゾフェノン、又はテトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0036】
上記紫外線散乱成分としては、例えば、含水ケイ酸、ケイ酸亜鉛、ケイ酸セリウム、ケイ酸チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉄、無水ケイ酸等の無機化合物、これらの無機化合物を含水ケイ酸、水酸化アルミニウム、マイカやタルク等の無機粉体で被覆したり、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエステル、ポリスチレン、ナイロン等の樹脂粉体に複合化したもの、さらにシリコーン油や脂肪酸アルミニウム塩等で処理したもの等が挙げられる。
【0037】
上記収斂成分としては、例えば、硫酸亜鉛、塩化アルミニウム、スルホ石炭酸亜鉛、タンニン酸等が挙げられる。
【0038】
上記ペプチド又はその誘導体としては、例えば、ケラチン分解ペプチド、加水分解ケラチン、コラーゲン、魚由来コラーゲン、アテロコラーゲン、ゼラチン、エラスチン、エラスチン分解ペプチド、コラーゲン分解ペプチド、加水分解コラーゲン、塩化ヒドロキシプロピルアンモニウム加水分解コラーゲン、エラスチン分解ペプチド、コンキオリン分解ペプチド、加水分解コンキオリン、シルク蛋白分解ペプチド、加水分解シルク、ラウロイル加水分解シルクナトリウム、大豆蛋白分解ペプチド、加水分解大豆蛋白、小麦蛋白、小麦蛋白分解ペプチド、加水分解小麦蛋白、カゼイン分解ペプチド、アシル化ペプチド(パルミトイルオリゴペプチド、パルミトイルペンタペプチド、パルミトイルテトラペプチド等)等が挙げられる。
【0039】
上記アミノ酸又はその誘導体としては、例えば、ベタイン(トリメチルグリシン)、プロリン、ヒドロキシプロリン、アルギニン、リジン、セリン、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、β-アラニン、スレオニン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、シスチン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、ヒスチジン、タウリン、γ-アミノ酪酸、γ-アミノ-β-ヒドロキシ酪酸、カルニチン、カルノシン、クレアチン等が挙げられる。
【0040】
上記多価アルコールとしては、例えば、グリコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ペンチレングリコール等)、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、ソルビトール、アルカンジオール(プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、ペンタンジオール等)等が挙げられる。
【0041】
上記増粘剤としては、例えば、寒天、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ベントナイト、デキストリン脂肪酸エステル、ペクチン、(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー、ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/ビニルピロリドン)コポリマー、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウムメタクリル酸ベヘネス-25)クロスコポリマー、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/メタクリル酸ステアレス-25)クロスポリマー、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、トリイソステアリン酸エチレングリコール、トリイソステアリン酸ポリオキシエチレン(20)メチルグルコシド等が挙げられる。
【0042】
上記洗浄成分としては、例えば、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸カリウム又はステアリン酸カリウム等のアルカリ金属塩、アルカノールアミド塩又はアミノ酸塩等から選ばれる石けん類;ココイルグルタミン酸Na、ココイルメチルタウリンNa等のアミノ酸系界面活性剤;ラウレス硫酸Na等のエーテル硫酸エステル塩;ラウリルエーテル酢酸Na等のエーテルカルボン酸塩;アルキルスルホコハク酸エステルNa等のスルホコハク酸エステル塩;ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド等の脂肪酸アルカノールアミド;ラウリルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム等のモノアルキルリン酸エステル塩;ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン及びラウロイルアミドエチルヒドロキシエチルカルボキシメチルベタインヒドロキシプロピルリン酸ナトリウム等のベタイン型両性界面活性剤;ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等のアミノ酸型両性界面活性剤等が挙げられる。
【0043】
上記角質柔軟成分としては、例えば、ラノリン、乳酸、乳酸塩、サリチル酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、フルーツ酸、フィチン酸、尿素、グリコール酸、イオウ等が挙げられる。
【0044】
上記細胞賦活化成分としては、例えば、γ-アミノ酪酸等のアミノ酸類;レチノール、チアミン、リボフラビン、塩酸ピリドキシン、パントテン酸類等のビタミン類;グリコール酸、乳酸等のα-ヒドロキシ酸類;タンニン、フラボノイド、サポニン、感光素301号等が挙げられる。
【0045】
上記老化防止成分としては、例えば、パンガミン酸、カイネチン、ウルソール酸、ウコンエキス、スフィンゴシン誘導体、ケイ素、ケイ酸、N-メチル-L-セリン、メバロノラクトン等が挙げられる。
【0046】
上記血行促進作用成分としては、植物(例えば、オタネニンジン、アシタバ、アルニカ、イチョウ、ウイキョウ、エンメイソウ、オランダカシ、カミツレ、ローマカミツレ、カロット、ゲンチアナ、ゴボウ、コメ、サンザシ、シイタケ、ショウガ、セイヨウサンザシ、セイヨウネズ、センキュウ、センブリ、タイム、チョウジ、チンピ、トウガラシ、トウキ、トウニン、トウヒ、ニンジン、ニンニク、ブッチャーブルーム、ブドウ、ボタン、マロニエ、メリッサ、ユズ、ヨクイニン、リョクチャ、ローズマリー、ローズヒップ、チンピ、トウキ、トウヒ、モモ、アンズ、クルミ、トウモロコシ等)に由来する成分;アセチルコリン、イクタモール、カンタリスチンキ、ガンマーオリザノール、セファランチン、トラゾリン、ニコチン酸トコフェロール、グルコシルヘスペリジン等が挙げられる。
【0047】
上記美白成分としては、例えば、トコフェロール、トラネキサム酸、ニコチン酸アミド、アスコルビン酸又はその塩、アスコルビン酸誘導体又はその塩、ハイドロキノン、プラセンタ、アルブチン、コウジ酸、エラグ酸、フィチン酸、4-n-ブチルレゾルシノール、カミツレエキス、ビタミンA又はその誘導体、パントテン酸又はその誘導体等のビタミン類等、さらに美白作用を有する植物成分を美白成分として用いてもよく、かかる植物成分としては、イリス(アイリス)、アーモンド、アロエ、イチョウ、ウーロン茶、エイジツ、オウゴン、オウレン、オトギリソウ、オドリコソウ、海藻、カッコン、クチナシ、クジン、クロレラ、ゴバイシコムギ、コメ、コメハイガ、オリザノール、コメヌカ、サイシン、サンショウ、シソ、シャクヤク、センキュウ、ソウハクヒ、ダイズ、納豆、茶、トウキ、トウキンセンカ、ニンニク、ハマメリス、ベニバナ、ボタンピ、ヨクイニン、トウキ、アメジスト、アセンヤク、アセビワラビ、イヌマキ、エノキ、カキ(Diospyros kaki)、キササゲ、クロマメ、ゲンチアナ、ゲンジン、サルサ、サヤインゲンショクマ、ジュウロウ、セージ、ゼンコ、ダイコン、ツツジ、ツクシハギ、トシン、ニガキ、パセリ、ヒイラギ、ホップ、マルバハギ、チョウジ、カンゾウ、グレープフルーツ等に由来する成分が挙げられる。
【0048】
上記粉体成分としては、例えば、オクテニルコハク酸デンプンAl(オクテニルコハク酸デンプンアルミニウム)、タルク、コーンスターチ、水酸化マグネシウム、無水ケイ酸、軽質無水ケイ酸、マイカ、ヒドロキシアパタイト、酸化亜鉛、酸化チタン、ナイロン末、炭、カオリン、カラミン等が挙げられる。
【0049】
上記皮脂吸着成分としては、例えば、タルク、マイカ、ヒドロキシアパタイト、酸化亜鉛、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。
【0050】
上記育毛成分としては、例えば、プロシアニジン、グリチルリチン酸ジカリウム、塩化カプロニウム、セファランチン、メントール、ヒノキチオール、L-ヒドロキシプロリン、アセチルヒドロキシプロリン、フコイダン、トウガラシチンキ、セファランチン、スエルチアニン、シンホングギニシン、フラボノステロイド、ミノキシジル、塩化カルプロニウム、FGF-10、エンメイソウ抽出物(エキス)、センブリ抽出物(エキス)、ミツイシコンブ抽出物(エキス)、アマチャズル抽出物(エキス)、オトギリソウ抽出物(エキス)、ゲンチアナ抽出物(エキス)、セージ抽出物(エキス)、ペパーミント抽出物(エキス)、ホップ抽出物(エキス)、ヨクイニン抽出物(エキス)、柿葉抽出物(エキス)、ジオウ抽出物(エキス)、ニンジン抽出物(エキス)、ボダイジュ抽出物(エキス)、ボタンピ抽出物(エキス)、ジユ抽出物(エキス)等が挙げられる。
【0051】
上記抗ヒスタミン成分としては、例えば、ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、ジメンヒドリナート等のエタノールアミン系化合物;マレイン酸クロルフェニラミン等のプロピルアミン系化合物;塩酸プロメタジン等のフェノチアジン系化合物;ヒドロキシジン等のピペラジン系化合物;塩酸シプロヘプタジン等のピペリジン系化合物の他、エピナスチン塩酸塩、ロラタジン、及び塩酸フェキソフェナジン等が例示される。
【0052】
上記消炎鎮痛成分としては、例えば、インドメタシン、フェルビナク、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、ブフェキサマク、フルフェナム酸ブチル、ベンダザック、ピロキシカム、ケトプロフェン等が挙げられる。
【0053】
上記鎮痒成分としては、例えば、クロタミトン、クロルフェニラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、サリチル酸ジフェンヒドラミン、ノニル酸ワニリルアミド、メキタジン、カンフル、チモール、オイゲノール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、シソエキス等が挙げられる。
【0054】
上記局所麻酔成分としては、例えば、リドカイン、塩酸リドカイン、ジブカイン、塩酸ジブカイン、アミノ安息香酸エチル、ユーカリ油、オイゲノール、クロロブタノール等が挙げられる。
【0055】
組成物には、上記各成分に加えてその用途あるいは剤形に応じて、医薬品、医薬部外品、又は化粧品等の分野に通常使用される成分を適宜配合してもよい。配合できる成分としては、特に制限されないが、例えば、界面活性剤、保存剤、pH調整剤、キレート剤、安定化剤、刺激軽減剤、着色剤、分散剤、香料等の添加剤を配合することができる。なお、これらの成分は1種単独で、又は2種以上を任意に組み合わせて配合することができる。
【0056】
上記界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸ソルビタン、ステアリン酸PEGソルビタン、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノイソステアレート及びソルビタンモノラウレート等のソルビタンエステル;POE-ソルビタンモノオレエート;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HCO-10);グリセリンモノオレエート、グリセリンモノステアレート、及びグリセリンモノミリステート等のグリセリン脂肪酸エステル;モノイソステアリルグリセリルエーテルやモノミリスチルグリセリルエーテル等のグリセリンアルキルエーテル;ステアリン酸ポリグリセリド、イソステアリン酸ポリグリセリル-10、ジグリセリルモノステアレート、デカグリセリルデカステアレート、デカグリセリルデカイソステアレート、及びジグリセリルジイソステアレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル等の各種非イオン界面活性剤;あるいはレシチン、水素添加レシチン、サポニン、サーファクチンナトリウム、コレステロール、胆汁酸等の天然由来の界面活性剤等が挙げられる。
【0057】
上記保存剤としては、例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ベンジル、パラオキシ安息香酸メチル、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0058】
上記pH調整剤としては、例えば、無機酸(塩酸、硫酸等)、有機酸(乳酸、乳酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム等)、無機塩基(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)、有機塩基(トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等)等が挙げられる。
【0059】
上記キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン4酢酸(エデト酸)、エチレンジアミン4酢酸塩(ナトリウム塩(エデト酸ナトリウム:日本薬局方、EDTA-2Na等)、カリウム塩等)、フィチン酸、グルコン酸、ポリリン酸、メタリン酸等が挙げられる。
【0060】
上記安定化剤としては、例えば、硫酸マグネシウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等が挙げられる。
【0061】
上記刺激低減剤としては、例えば、甘草エキス、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0062】
上記着色剤としては、例えば、無機顔料、天然色素等が挙げられる。
【0063】
前記分散剤としては、例えば、ピロリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸架橋コポリマー、有機酸等が挙げられる。
【0064】
(pH)
本発明の組成物は、通常pH2.0~9.0の液性を備えていればよいが、皮膚や粘膜等に対する低刺激性、及び使用感のよさという観点から、好ましくはpH3.0~8.5、より好ましくはpH3.5~8.0である。
【0065】
(性状・製剤)
本発明の組成物の性状は、特に限定されず、液体状、流動状、又は半固形状とすることができる。また製剤形態としては、例えば、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、乳液、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、ローション剤、不織布に薬液を含浸させたシート剤等の製剤とすることができる。
【0066】
本発明の組成物は、化粧品、医薬部外品や医薬品分野において、特に、ホルモンバランスの乱れによって皮膚(頭皮を含む)、眼、口腔、腸管、膣の組織や細胞に起こる症状を改善、治療、予防するための組成物として、炎症状態及び正常の両方の状態に対して好適に用いられる。また、エストロゲン等のホルモンの減少によって生じる症状に対して、本発明の組成物によって、それを補う目的でも好適に用いられる。本発明の組成物は、エストロゲン受容体1(ESR1)を介するエストロゲン受容体シグナル伝達を活性化することにより、コラーゲンの産生促進効果、皮膚や粘膜の潤いを保つ効果、創傷治癒効果、ヘアサイクルの正常化効果等を奏することから、例えば、外用組成物、発毛促進用組成物、眼科用組成物、口腔用組成物、内服用組成物、膣用組成物等として、化粧品、医薬部外品や医薬品分野において好適に用いることができる。具体的には、抗アクネ用(ニキビ治療用)、肌荒れ治療用、皮膚炎治療用、頭皮湿疹治療用、育毛用、体臭発生抑制用等の外用組成物や内服組成物、歯周病治療用等の口腔用組成物、目のかすみの治療用、目の乾きの治療用等の眼科組成物、腟カンジダ治療用等の膣用組成物が挙げられる。
【0067】
[エストロゲン受容体シグナル伝達活性化方法]
本発明は、エストロゲン受容体1(ESR1)を介するエストロゲン受容体シグナル伝達を活性化する方法であって、アラントイン又はその塩を使用することを特徴とする、エストロゲン受容体シグナル伝達活性化方法も含む。本発明の方法によると、アラントイン又はその塩によって、エストロゲン受容体の2つのアイソフォームのうち、ESR1遺伝子に由来するERα(NR3A1、595アミノ酸残基)を介するシグナル伝達を活性化することができる。具体的には、アラントイン又はその塩によると、エストロゲン受容体シグナル伝達活性化により、表皮の分化・増殖、中間径フィラメント細胞骨格組織、中間径フィラメントに基づく経路、ケラチノサイトの分化、中間径フィラメント組織、細胞遊走、上皮細胞遊走、上皮遊走、組織遊走に関与する遺伝子発現が増強され、種々の効果を奏する。
【0068】
本発明の方法は、上述のエストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物を用いて、エストロゲン受容体1(ESR1)を介するエストロゲン受容体シグナル伝達を活性化する方法であるということもできる。そのため、本発明の方法における、エストロゲン受容体、エストロゲン受容体シグナル伝達、エストロゲン受容体シグナル伝達の活性化、アラントイン又はその塩等についての具体的な説明は、エストロゲン受容体シグナル伝達活性化用組成物の項の記載を適用できる。
【実施例0069】
以下に、実施例及び試験例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではない。
【0070】
1.RNA-seqデータとATAC-seqデータの取得
ヒト表皮角化細胞(NHEK(NB)細胞)を用い、炎症惹起状態の細胞にアラントインを添加した際に細胞のふるまいがどう変わるかを調べるため、RNA-seqとATAC-seqのデータ取得を行った。RNA-seqは、細胞集団における遺伝子の発現を網羅的かつ定量的に調べる方法であり、また、ATAC-seqは、細胞中のDNAのオープンクロマチン領域を検出することで、どの遺伝子が制御されやすい状態になっているかを調べる方法である。この2つの手法を組み合わせることにより、アラントインが皮膚の細胞に対してどのようなエピジェネティックな制御をしているのか、そしてその結果細胞の遺伝子発現がどのように変化するのかを解明することが本研究の目的であった。
【0071】
これらのデータ取得に際し、一日目に細胞を播種、二日目に血清抜きの培地に培地交換したのち、三日目にアラントイン添加(Alla0.0%(Ctrl), 0.1%, 0.2%の3条件)とPam3CSK4(0μg/mL(Ctrl), 100μg/mLの2条件)による炎症惹起を行った。Pam3CSK4による刺激の24h後に、RNA-seqに関してはトータルRNAを、ATAC-seqに関しては細胞をを回収し、ライブラリー調製後にシーケンスの取得を行った。実験のスキームを図1に示す。
【0072】
2.RNA-seq解析の結果-主成分分析、GO解析
得られたRNA-seqのシーケンスデータに対してアダプター配列のトリミング、リファレンスゲノムへのマッピング、マッピングされたリード数のカウントを行うことで、それぞれのサンプルにおける遺伝子の発現量を定量化した。この遺伝子発現データにおいて、炎症惹起の有無やアラントイン刺激の有無により遺伝子発現の傾向が変わるのかどうかを調べるために、統計解析向けプログラミング言語「R」のprcomp関数を用いて主成分分析を行った(図2)。尚、サンプル名は[炎症惹起無:Ctrl、炎症惹起有:Pam]_[添加アラントインの濃度]_[サンプリング時間]とする。炎症惹起の有無でクラスターが分かれたほか、アラントインの濃度上昇に伴い点の位置が変化していくことが分かった。このことから、炎症惹起の有無とアラントインの濃度変化に伴い遺伝子発現の傾向が変わることが明らかになった。また、アラントインの濃度増加とともにプロットの位置の変化する方向が炎症惹起の有無に関わらず同様であることから、アラントインの濃度変化に伴う遺伝子発現の変化の方向は、炎症惹起の有無に関わらず同様であることが明らかになった。
【0073】
次に、Pam3CSK4刺激(炎症惹起)下において、アラントイン濃度0%と比較して0.2%のサンプルで有意に発現の上昇した遺伝子を時間点毎に抽出した。その結果、151個の遺伝子の発現が上昇していることが明らかになった。これらの遺伝子が細胞のどのような表現型に関連するのかを調べるために、「R」のClusterProfilerを用いてGO(Gene Ontology)解析を行った。GO解析とは、ある遺伝子のリストにおいて、遺伝子全体と比較して有意に多く観測される遺伝子機能を抽出する解析手法である。ヒットした内のTop5を調べると、1.Epidermals development, 2.Ameboidal-type cell migration, 3. Epithelial cell migration, 4.Epithelium migration, 5.Tissue migrationであった。この結果から、細胞遊走を介したケラチノサイトの分化(角化)の誘導が起こっていることが分かった。まとめると、アラントインの添加によってケラチノサイトの分化、つまり角化が誘導されることが分かった。図3に解析結果を示す。
【0074】
3.RNA-seq解析の結果-上流解析
アラントインによって誘導されたケラチノサイトの分化がどのような分子メカニズムによって制御されているのか、生物学的なフレームワークであるLisa(epigenetic Landscape In Silico deletion Analysis)(https://lisa.cistrome.org/)を使用して調べた。Lisaは、差次的に発現している遺伝子セットの摂動に直接関与している転写因子やクロマチン調節因子を決定するツールである。このツールを用いて、上記2で抽出した、アラントインによって発現が上昇する遺伝子が、どのような転写因子によって制御されているのかを調べた。その結果、転写活性化を調べることができるDNase ChIP-seqのデータベースを基にした解析(表1)とヒストンH3タンパク質27番目のリジンのアセチル化を調べるH3K27ac ChIP-seqのデータベースを基にした解析(表2)において、ESR1が活性していることが明らかになった。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
ESR1はエストロゲン受容体をコードする遺伝子として知られており、核内でエストロゲンを受容したのち、転写因子として働くことが知られている(図4)。このことから、アラントインの添加によって何らかの制御が働くことでESR1の転写因子としての活性が上がったと考えられる。エストロゲンは女性ホルモンの一種であり、生理周期や年齢によってその血中濃度が変化することが知られている。また、肌におけるエストロゲンの作用としては、皮膚の線維芽細胞におけるコラーゲン産生を促して皮膚の潤いを維持すること等が知られており、加えてエストロゲンのレベルが上がることで創傷治癒の促進が起こること(Int J Mol Sci. 2017 Nov; 18(11): 2325)、血中アンドロゲンに対するエストロゲン濃度比低いとが女性のニキビを悪化させること(Clin Cosmet Investig Dermatol. 2022; 15: 2211-2219)等が先行研究で報告されており、エストロゲンは皮膚の創傷治癒やニキビ治療に有効であることが示唆されている。よって、アラントインによってESR1による転写活性が促進されていることから、アラントイン又はその塩が皮膚表皮細胞においてエストロゲン様に作用することで、皮膚の創傷治癒やニキビ治療に有効である可能性が示された。
【0078】
4.ATAC-seq解析の結果
アラントインの添加によってESR1においてどのようなエピジェネティックな制御が起こっているのかを調べるために、ATAC-seqをnf-core解析パイプライン(https://nf-co.re/atacseq/2.1.2)で前処理したのちに解析を行った。その結果、ニキビを擬態した炎症惹起下において、アラントインの添加によってESR1をコードするクロマチン領域の一部がオープンになっていることが明らかになった(図5)。図5において、ピークは、クロマチンが開いていることを示す。枠で囲った部分のクロマチン領域が、アラントイン添加によりオープンになっている。このことから、アラントイン又はその塩によって皮膚表皮細胞がエピジェネティックな制御を受けることで、ESR1による転写活性が誘導された可能性が示唆された。
【0079】
ニキビを模倣して炎症を惹起させた皮膚表皮細胞に対してアラントインを添加させると、ESR1のクロマチン領域が開く。これによりESR1の転写因子としての活性が上がって様々な遺伝子の発現が上昇することで、ケラチノサイトの分化(細胞の角化)が誘導され、創傷治癒やニキビの悪化を防ぐ可能性が示唆された。これらのアラントインの作用を図6に模式的に示した。このことから、アラントイン又はその塩は皮膚表皮細胞においてエストロゲン様のはたらきをすることで、ニキビの原因となる肌ホルモンバランスの異常を正常化することが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によると、アラントイン又はその塩を有効成分として含有する組成物を用いることで、エストロゲン受容体1(ESR1)を介するエストロゲン受容体シグナル伝達を活性化することができ、それにより、エストロゲンの低下等によるホルモンバランスの乱れを正常化することが可能となる。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6