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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006991
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】セメント系固化材
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/10 20060101AFI20250109BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20250109BHJP
   C09K 17/04 20060101ALI20250109BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20250109BHJP
   C04B 7/19 20060101ALI20250109BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20250109BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20250109BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20250109BHJP
   C04B 22/12 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C09K17/10 P
C09K17/06 P
C09K17/04 P
C09K3/00 S
C04B7/19
C04B18/14 A
C04B22/14 B
C04B22/08 B
C04B22/12
C04B22/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108086
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】藤江 佑大
(72)【発明者】
【氏名】七尾 舞
(72)【発明者】
【氏名】片田 直人
(72)【発明者】
【氏名】早川 隆之
【テーマコード(参考)】
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
4G112MB04
4G112MB08
4G112MB12
4G112MB23
4H026CA01
4H026CA04
4H026CA05
4H026CB03
4H026CC02
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】固化改良土(土壌と固化材の混合物)からの重金属類の溶出を抑制することができ、かつ、固化改良土の強度(例えば、一軸圧縮強さ)を十分に大きくすることができるセメント系固化材を提供する。
【解決手段】セメント、石膏粉末、高炉スラグ微粉末、及びマグネシウム化合物粉末を含むセメント系固化材であって、マグネシウム化合物粉末が、硝酸マグネシウム粉末、塩化マグネシウム粉末、及び硫酸マグネシウム粉末からなる群より選ばれる1種以上であり、セメントと石膏粉末と高炉スラグ微粉末の合計100質量部に対する、マグネシウム化合物粉末の量が0.6~10.0質量部であるセメント系固化材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、石膏粉末、高炉スラグ微粉末、及びマグネシウム化合物粉末を含むセメント系固化材であって、
上記マグネシウム化合物粉末が、硝酸マグネシウム粉末、塩化マグネシウム粉末、及び硫酸マグネシウム粉末からなる群より選ばれる1種以上であり、
上記セメントと上記石膏粉末と上記高炉スラグ微粉末の合計100質量部に対する、上記マグネシウム化合物粉末の量が0.6~10.0質量部であることを特徴とするセメント系固化材。
【請求項2】
上記セメントと上記石膏粉末と上記高炉スラグ微粉末の合計100質量%中、上記セメントの割合が10~80質量%であり、上記石膏粉末の割合がSO換算で1~40質量%であり、かつ、上記高炉スラグ微粉末の割合が5~70質量%である請求項1に記載のセメント系固化材。
【請求項3】
上記石膏粉末が無水石膏粉末である請求項1に記載のセメント系固化材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント系固化材を製造するための方法であって、
上記セメントと上記石膏粉末と上記高炉スラグ微粉末を混合して、セメント組成物を得るセメント組成物調製工程と、
上記セメント組成物と上記マグネシウム化合物粉末を混合して上記セメント系固化材を得るセメント系固化材調製工程を含むことを特徴とするセメント系固化材の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント系固化材を用いた、重金属類を含む土壌を固化処理するための方法であって、
上記セメント系固化材を、上記重金属類を含む土壌に添加し混合して、固化改良土を得ることを特徴とする固化処理方法。
【請求項6】
上記土壌は、含水比が80%以上でかつ強熱減量が10質量%以上のものである請求項5に記載の固化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系固化材に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌の固化処理方法として、土壌にセメント等の固化材を添加し混合して、これを水和固化させることで、土壌と固化材の混合物(固化改良土)の強度を発現させる方法が知られている。
例えば、特許文献1には、初期強度発現性およびハンドリング性に優れた固化材として、水硬性粉体からなる固化材であって、温度が90℃であり、かつ、無風状態の雰囲気下で5分間加熱した場合における質量の減少量が、上記水硬性粉体100質量部に対して、0.28~0.76質量部である量の水分を含むことを特徴とする固化材が記載されている。
【0003】
一方、重金属類で汚染された土壌からの重金属類の溶出を抑制するための不溶化材として、例えば、特許文献2には、軽焼マグネシアを主成分とする不溶化材であって、上記不溶化材の全量100質量%中、フォルステライトの含有率が6.0質量%以下であり、かつ、ふっ素(F)の含有率が0.045質量%以下であることを特徴とする不溶化材が記載されている。
また、特許文献3には、特定の状況下において改良土からふっ素が溶出するのを抑制しうるふっ素溶出抑制剤として、セメント系固化材を含み、石灰をさらに含む、ふっ素溶出抑制剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-115048号公報
【特許文献2】特開2017-113703号公報
【特許文献3】特開2018-172526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、固化改良土(土壌と固化材の混合物)からの重金属類の溶出を抑制することができ、かつ、固化改良土の強度(例えば、一軸圧縮強さ)を十分に大きくすることができるセメント系固化材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメント、石膏粉末、高炉スラグ微粉末、並びに、硝酸マグネシウム粉末、塩化マグネシウム粉末、及び硫酸マグネシウム粉末からなる群より選ばれる1種以上であるマグネシウム化合物粉末を含み、セメントと石膏粉末と高炉スラグ微粉末の合計100質量部に対する、上記マグネシウム化合物粉末の量が0.6~10.0質量部であるセメント系固化材によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供するものである。
[1] セメント、石膏粉末、高炉スラグ微粉末、及びマグネシウム化合物粉末を含むセメント系固化材であって、上記マグネシウム化合物粉末が、硝酸マグネシウム粉末、塩化マグネシウム粉末、及び硫酸マグネシウム粉末からなる群より選ばれる1種以上であり、上記セメントと上記石膏粉末と上記高炉スラグ微粉末の合計100質量部に対する、上記マグネシウム化合物粉末の量が0.6~10.0質量部であることを特徴とするセメント系固化材。
[2] 上記セメントと上記石膏粉末と上記高炉スラグ微粉末の合計100質量%中、上記セメントの割合が10~80質量%であり、上記石膏粉末の割合がSO換算で1~40質量%であり、かつ、上記高炉スラグ微粉末の割合が5~70質量%である前記[1]に記載のセメント系固化材。
[3] 上記石膏粉末が無水石膏粉末である前記[1]又は[2]に記載のセメント系固化材。
【0007】
[4] 前記[1]~[3]のいずれかに記載のセメント系固化材を製造するための方法であって、上記セメントと上記石膏粉末と上記高炉スラグ微粉末を混合して、セメント組成物を得るセメント組成物調製工程と、上記セメント組成物と上記マグネシウム化合物粉末を混合して上記セメント系固化材を得るセメント系固化材調製工程を含むことを特徴とするセメント系固化材の製造方法。
[5] 前記[1]~[3]のいずれかに記載のセメント系固化材を用いた、重金属類を含む土壌を固化処理するための方法であって、上記セメント系固化材を、上記重金属類を含む土壌に添加し混合して、固化改良土を得ることを特徴とする固化処理方法。
[6] 上記土壌は、含水比が80%以上でかつ強熱減量が10質量%以上のものである前記[5]に記載の固化処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の目的は、固化改良土からの重金属類の溶出を抑制することができ、かつ、固化改良土の強度(例えば、一軸圧縮強さ)を十分に大きくすることができるセメント系固化材を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のセメント系固化材は、セメント、石膏粉末、高炉スラグ微粉末、及びマグネシウム化合物粉末を含むセメント系固化材であって、マグネシウム化合物粉末が、硝酸マグネシウム粉末、塩化マグネシウム粉末、及び硫酸マグネシウム粉末からなる群より選ばれる1種以上であり、セメントと石膏粉末と高炉スラグ微粉末の合計100質量部に対する、マグネシウム化合物粉末の量が0.6~10.0質量部であるものである。
以下、詳しく説明する。
本発明で用いられるセメントの例としては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等の混合セメントや、アルミナセメントや、エコセメント等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、コストや汎用性等の観点から、各種ポルトランドセメントが好ましく、普通ポルトランドセメントがより好ましい。
また、セメントとして、高炉セメントを用いる場合、高炉セメントに含まれている高炉スラグ微粉末は、本発明で用いる「高炉スラグ微粉末」に該当するものである。つまり、高炉セメントに含まれているセメント(高炉セメントから高炉スラグ微粉末を除いた材料)のみが、本発明で用いられる「セメント」に該当するものとする。また、高炉セメントに含まれている高炉スラグ微粉末の量は、本発明で用いる「セメント」の量に含めず、本発明で用いられる「高炉スラグ微粉末」の量に含めるものとする。
【0010】
また、セメントが石膏を含む場合、該石膏は、本発明で用いられる「石膏粉末」には含まれないものとする。セメント中の石膏の割合は、通常、SO換算で、0.1~5.0質量%、好ましくは0.5~4.0質量%、より好ましくは1.0~3.0質量%である。
また、セメントに含まれる石膏は、特に限定されるものではないが、通常、二水石膏、半水石膏、又は二水石膏と半水石膏の混合物である。
セメントのブレーン比表面積は、好ましくは2,500~4,000cm/g、より好ましくは3,000~3,800cm/g、特に好ましくは3,200~3,600cm/gである。上記ブレーン比表面積が2,500cm/g以上であれば、固化改良土の強度をより大きくすることができる。上記ブレーン比表面積が4,000cm/g以下であれば、材料の入手が容易であり、材料にかかるコストの増大を防ぐことができる。
【0011】
セメント系固化材に含まれるセメントと石膏粉末と高炉スラグ微粉末の合計100質量%中、セメントの割合は、好ましくは10~80質量%、より好ましくは25~65質量%、特に好ましくは40~53質量%である。上記割合が10質量%以上であれば、固化改良土の強度をより大きくすることができる。上記割合が80質量%以下であれば、セメント系固化材の材料にかかるコストの増大を防ぐことができる。
【0012】
本発明で用いられる石膏粉末の種類の例としては、天然二水石膏、排脱石膏(排煙脱硫石膏)、リン酸石膏、チタン石膏、フッ酸石膏等の粉末が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、石膏の形態(水和物であるか否か)の例としては、二水石膏、半水石膏及び無水石膏が挙げられる。石膏粉末は、1種の形態のみからなる粉末であってもよく、2種以上の形態を含む粉末であってもよい。
中でも、固化改良土からの重金属類の溶出をより抑制し、固化改良土の強度をより大きくする観点から、無水石膏が好ましい。
また、石膏粉末のブレーン比表面積は、好ましくは2,000~12,000cm/g、より好ましくは2,500~6,000cm/g、さらに好ましくは2,800~5,000cm/g、特に好ましくは3,000~4,000cm/gである。上記ブレーン比表面積が2,000cm/g以上であれば、固化改良土の強度をより大きくすることができる。上記ブレーン比表面積が12,000cm/g以下であれば、材料の入手が容易であり、材料にかかるコストの増大を防ぐことができる。
【0013】
セメント系固化材に含まれるセメントと石膏粉末と高炉スラグ微粉末の合計100質量%中、石膏粉末の割合(SO換算)は、好ましくは1~40質量%、より好ましくは5~30質量%、特に好ましくは13~25質量%である。上記割合が1質量%以上であれば、セメント系固化材と土壌を混合する際の作業性(特に、十分に長い作業可能時間の確保)が向上する。上記割合が40質量%以下であれば、セメント系固化材の強度発現性がより向上する。
【0014】
本発明で用いられる高炉スラグ微粉末の例としては、高炉で銑鉄を製造する際に副生する溶融状態のスラグを、水で急冷した後、破砕して得られる水砕スラグや、徐冷した後、破砕して得られる徐冷スラグ等の微粉末が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積は、好ましくは3,000~10,000cm/g、より好ましくは3,200~8,000cm/g、さらに好ましくは3,500~6,000cm/g、特に好ましくは3,800~5,000cm/gである。上記ブレーン比表面積が3,000cm/g以上であれば、固化材の強度発現性をより向上させることができる。上記ブレーン比表面積が10,000cm/g以下であれば、材料の入手が容易であり、コストが過大にならない。
【0015】
セメント系固化材に含まれるセメントと石膏粉末と高炉スラグ微粉末の合計100質量%中、高炉スラグ微粉末の割合は、好ましくは5~70質量%、より好ましくは10~65質量%、さらに好ましくは25~58質量%、特に好ましくは35~55質量%である。上記割合が5質量%以上であれば、固化改良土の初期(例えば、材齢28日未満)の強度をより大きくすることができる。上記割合が70質量%以下であれば、固化改良土の長期(例えば、材齢28日以上)の強度をより大きくすることができる。
【0016】
本発明で用いられるマグネシウム化合物粉末は、硝酸マグネシウム粉末、塩化マグネシウム粉末、及び硫酸マグネシウム粉末からなる群より選ばれる1種以上である。
中でも、固化改良土の強度をより大きくする観点からは、硫酸マグネシウム粉末が好ましい。また、固化改良土からのふっ素の溶出量をより低減する観点からは、塩化マグネシウム粉末が好ましい。さらに、固化改良土からのひ素の溶出量をより低減する観点からは、硝酸マグネシウム粉末が好ましい。
【0017】
セメントと石膏粉末と高炉スラグ微粉末の合計100質量部に対する、マグネシウム化合物粉末の量は、0.6~10.0質量部、好ましくは0.8~8.0質量部、より好ましくは1.5~7.0質量部、さらに好ましくは2.5~6.5質量部、特に好ましくは4.0~6.0質量部である。上記量が0.6質量部未満であると、固化改良土からの重金属類の溶出量が大きくなる。上記量が10.0質量部を超えると、固化改良土の強度が小さくなる場合がある。また、材料にかかるコストが過大となる。
【0018】
本発明のセメント系固化材は、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、他の材料を含んでいてもよい。他の材料としては、フライアッシュ、石灰石粉末等が挙げられる。セメント系固化材中、他の材料の割合は、特に限定されるものではないが、通常、10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。
また、本発明のセメント系固化材は粉体状(粉末状)のものである。
セメント系固化材のブレーン比表面積は、好ましくは3,000~12,000cm/g、より好ましくは4,000~10,000cm/g、特に好ましくは5,000~8,000cm/gである。上記ブレーン比表面積が3,000cm/g以上であれば、固化改良土の強度をより大きくすることができる。上記ブレーン比表面積が12,000cm/g以下であれば、材料の入手が容易であり、材料にかかるコストの増大を防ぐことができる。
【0019】
上述した原料を適宜混合することによって、本発明のセメント系固化材を製造することができる。
本発明のセメント系固化材の製造方法の一例としては、セメントと石膏粉末と高炉スラグ微粉末を混合して、セメント組成物を得るセメント組成物調製工程と、該工程で得られたセメント組成物とマグネシウム化合物粉末を混合してセメント系固化材を得るセメント系固化材調製工程を含む方法が挙げられる。
【0020】
本発明のセメント系固化材によれば、固化処理の対象となる重金属類を含む土壌からの重金属類の溶出量を抑制することができ、かつ、上記土壌の強度(例えば、一軸圧縮強さ)を十分に大きくすることができる。
ここで、重金属類とは、カドミウム及びその化合物、六価クロム化合物、シアン、水銀及びその化合物、セレン及びその化合物、鉛及びその化合物、ひ素及びその化合物、ふっ素及びその化合物、及び、ホウ素及びその化合物(土壌汚染対策法(平成15年)において第二種特定有害物質として挙げられているもの)のいずれかである。なお、ふっ素及びホウ素は重金属ではないが、ふっ素及びその化合物、及び、ホウ素及びその化合物は重金属類に含まれるものとする。これらは上記土壌に二種以上含まれていてもよい。
本発明のセメント系固化材を用いた、重金属類を含む土壌を固化処理するための方法の一例としては、セメント系固化材を、重金属類を含む土壌に添加し混合して、固化改良土を得る方法が挙げられる。
土壌に、セメント系固化材を添加し混合する方法の例としては、土壌にセメント系固化材を粉体のまま添加して混合するドライ添加方法や、セメント系固化材と水を含むスラリーを土壌に添加して混合するスラリー添加方法等が挙げられる。
なお、上記スラリーには、セメント系固化材と水を混合してなるスラリーの他、セメントと石膏粉末と高炉スラグ微粉末の混合物に水を加えてなるスラリーとマグネシウム化合物粉末に水を加えてなるスラリーとを混合してなるスラリーも含まれるものとする。
【0021】
また、固化処理の対象となる重金属類を含む土壌としては、特に限定されるものではないが、粘性土(例えば、関東ローム)、及び有機質土等が挙げられる。
また、従来の固化材では固化処理及び重金属類の不溶化処理が難しかった土壌であっても、固化処理及び重金属類の十分な不溶化処理を行うことができる観点から、含水比が80%以上(より好ましくは100%以上、特に好ましくは200%以上)でかつ強熱減量が10質量%以上(より好ましくは20質量%以上、特に好ましくは40質量%以上)である土壌を固化処理の対象とすることが好ましい。
上記含水比は、固化改良土の強度を十分なものにする観点からは、好ましくは500%以下、より好ましくは400%以下である。
また、上記強熱減量は、固化改良土の強度を十分なものにする観点からは、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0022】
上述した固化処理方法を行う前に、後述する測定工程と判定工程を含む固化処理の適否の評価方法を行ってもよい。該評価方法を予め行うことで、重金属類を含む土壌の効率的な固化処理を行うことができる。
[測定工程]
本工程は、重金属類を含む土壌の含水比及び強熱減量を測定する工程である。
本工程によって、重金属類を含む土壌の性状を得ることができる。
本工程において、さらに上記重金属類の種類及び溶出量の少なくともいずれか一方を測定してもよい。また、測定された重金属類の種類等に応じて、セメント系固化材に含まれるマグネシウム化合物粉末の種類等を定めてもよい。例えば、上記土壌にふっ素が含まれ、かつ、その溶出量が大きい場合(環境基準値を満たさない場合)、マグネシウム化合物粉末として、塩化マグネシウム粉末を選択すればよい。また、上記土壌にひ素が含まれ、かつ、その溶出量が大きい場合(環境基準値を満たさない場合)、マグネシウム化合物粉末として、硝酸マグネシウム粉末を選択すればよい。
【0023】
[判定工程]
本工程は、上記測定工程で得られた上記土壌の含水比及び強熱減量が、特定の数値(例えば、含水比が80%以上でかつ強熱減量が10質量%以上)を満たしている場合、上記土壌を、本発明のセメント系固化材との混合による固化処理の対象物とし、上記含水比及び上記強熱減量が、特定の数値(例えば、含水比が80%以上でかつ強熱減量が10質量%以上)を満たしていない場合、上記土壌を、本発明のセメント系固化材との混合による固化処理の対象物とはしないと判定する工程である。
なお、判定工程において、上記土壌を固化処理の対象物とはしないと判定した場合、本発明のセメント系固化材を用いなくても、十分な固化処理を行うことができるため、固化処理にかかるコストを低減する観点から、一般的な固化材を用いて固化処理を行うことができる。
【0024】
固化処理の対象となる土壌1m当たりのセメント系固化材の添加量は、対象となる土壌の性状、土壌に含まれている重金属類の量、施工条件、並びに、処理後に得られる固化改良土に求められる強度等によっても異なるが、改良処理の対象となる土壌1m当たり、好ましくは50~500kg、より好ましくは100~400kg、特に好ましくは150~300kgである。
該量が50kg以上であれば、固化改良土の強度をより大きくし、重金属類の溶出をより抑制することができる。該量が500kg以下であれば、コストの過度な増加を防ぐことができる。
【実施例0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)セメント;普通ポルトランドセメント、セメントに含まれる石膏(二水石膏及び半水石膏の混合物)の割合;2.0質量%(SO換算)、太平洋セメント社製、ブレーン比表面積;3,340cm/g
(2)高炉スラグ微粉末(表2、3中、「高炉スラグ」と示す。);ディシィ社製、商品名「セラメント」、ブレーン比表面積:4,000cm/g
(3)無水石膏粉末(表2、3中、「無水石膏」と示す。);コクサイ商事社製、天然無水石膏、ブレーン比表面積:3,200cm/g
(4)マグネシウム化合物粉末(表2、3中、「マグネシウム化合物」と示す。)A;塩化マグネシウム6水和物、ナイカイ塩業社製、試薬(純度:95質量%以上)
(5)マグネシウム化合物粉末B;硫酸マグネシウム無水和物、富士フィルム和光純薬工業社製、試薬(純度:95質量%以上)
(6)マグネシウム化合物粉末C;硝酸マグネシウム6水和物、富士フィルム和光純薬工業社製、試薬(純度:98質量%以上)
(7)土壌A;粘性土(詳細は表1に示す。)
(8)土壌B;有機質土(詳細は表1に示す。)
【0026】
【表1】
【0027】
[実施例1~6、比較例2~4]
セメント、高炉スラグ微粉末、及び無水石膏粉末を表2に示す質量部となる量で混合して、セメント組成物を得た。次いで、得られたセメント組成物に、表2に示す種類及び質量部となる量のマグネシウム化合物粉末を、材料が均質になるまで混合して、セメント系固化材を得た。
なお、表2、3中、無水石膏粉末の量は、SO換算の値である。また、マグネシウム化合物粉末の量は、無水物換算の値である。
得られたセメント系固化材を、土壌A(粘性土)に、土壌1m当たりのセメント系固化材の添加量が表2に示す量で添加し、混合して、固化改良土を得た。
得られた固化改良土の材齢7日における一軸圧縮強さを、「JIS A 1216:2020(土の一軸圧縮試験方法)」に準拠して測定した。
また、固化改良土を約20℃の条件下で、7日間封緘養生した。養生後の固化改良土からのふっ素及びその化合物の溶出量を、環境省告示第18号に準拠して測定した。
【0028】
[比較例1]
マグネシウム化合物粉末を使用せず、セメント組成物をセメント系固化材として使用する以外は、実施例1と同様にして固化改良土を得た。
得られた固化改良土の材齢7日における一軸圧縮強さ、並びに、養生後の固化改良土からのふっ素及びその化合物の溶出量を実施例1と同様にして測定した。
[比較例5]
高炉スラグ微粉末及び無水石膏粉末を使用しない以外は、実施例1と同様にして固化改良土を得た。
得られた固化改良土の材齢7日における一軸圧縮強さ、並びに、養生後の固化改良土からのふっ素及びその化合物の溶出量を実施例1と同様にして測定した。
各々の結果を表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
表2から、本発明のセメント系固化材を用いた実施例1~6における固化改良土の材齢7日における一軸圧縮強さ(269~452kN/m)は、比較例1(マグネシウム化合物粉末を含まない以外は実施例1~3と同様のもの)、及び、比較例5(高炉スラグ微粉末及び無水石膏粉末を含まない以外は実施例1と同様のもの)における固化改良土の材齢7日における一軸圧縮強さ(152~225kN/m)よりも大きいことがわかる。
また、本発明のセメント系固化材を用いた実施例1~6における固化改良土のふっ素及びその化合物の溶出量(0.65~0.79mg/リットル)は、環境基準値(0.8mg/リットル以下)を満たすとともに、比較例1~5における固化改良土のふっ素及びその化合物の溶出量(0.85~1.20mg/リットル)よりも小さいことがわかる。
【0031】
[実施例7~11、比較例7~9]
セメント、高炉スラグ微粉末、及び無水石膏粉末を表3に示す質量部となる量で混合して、セメント組成物を得た。次いで、得られたセメント組成物に、表3に示す種類及び質量部となる量のマグネシウム化合物粉末を、材料が均質になるまで混合して、セメント系固化材を得た。
得られたセメント系固化材を、土壌B(有機質土)に、土壌1m当たりのセメント系固化材の添加量が表3に示す量で添加し、混合して、固化改良土を得た。
得られた固化改良土の材齢7日における一軸圧縮強さを、「JIS A 1216:2020(土の一軸圧縮試験方法)」に準拠して測定した。
また、固化改良土を約20℃の条件下で、7日間封緘養生した。養生後の固化改良土からのひ素及びその化合物の溶出量を、環境省告示第18号に準拠して測定した。
【0032】
[比較例6]
マグネシウム化合物粉末を使用せず、セメント組成物をセメント系固化材として使用する以外は、実施例7と同様にして固化改良土を得た。
得られた固化改良土の材齢7日における一軸圧縮強さ、並びに、養生後の固化改良土からのひ素及びその化合物の溶出量を実施例7と同様にして測定した。
[比較例10]
高炉スラグ微粉末及び無水石膏粉末を使用しない以外は、実施例7と同様にして固化改良土を得た。
得られた固化改良土の材齢7日における一軸圧縮強さ、並びに、養生後の固化改良土からのひ素及びその化合物の溶出量を実施例7と同様にして測定した。
各々の結果を表3に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
表3から、本発明のセメント系固化材を用いた実施例7~11における固化改良土の材齢7日における一軸圧縮強さ(407~602kN/m)は、比較例10(高炉スラグ微粉末及び無水石膏粉末を含まず、かつ、マグネシウム化合物の量が9質量部である以外は実施例7と同様のもの)における固化改良土の材齢7日における一軸圧縮強さ(254kN/m)よりも大きいことがわかる。
また、本発明のセメント系固化材を用いた実施例7~11における固化改良土のひ素及びその化合物の溶出量(0.005~0.009mg/リットル))は、環境基準値(0.01mg/リットル以下)を満たすとともに、比較例6~10における固化改良土のひ素及びその化合物の溶出量(0.011~0.020mg/リットル))よりも小さいことがわかる。