(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025070022
(43)【公開日】2025-05-02
(54)【発明の名称】中空シリカ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20250424BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180038
(22)【出願日】2023-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浜田 文哉
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072AA28
4G072BB05
4G072BB16
4G072CC13
4G072DD04
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH30
4G072JJ33
4G072JJ42
4G072JJ47
4G072KK15
4G072LL06
4G072LL15
4G072MM01
4G072MM26
4G072MM36
4G072RR05
4G072RR12
4G072TT01
4G072TT30
4G072UU09
(57)【要約】
【課題】中空シリカ粒子の割れを抑制しながら所定の粒子径以下に解砕する中空シリカ粒子の製造方法に関する。
【解決手段】解砕部と分級部とを有する解砕機によって中空シリカ粒子凝集物を解砕する工程を有する、中空シリカ粒子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
解砕部と分級部とを有する解砕機によって中空シリカ粒子凝集物を解砕する工程を有する、中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記解砕機の前記分級部が、所定の粒子径以下の中空シリカ粒子を解砕機外へ排出し、前記所定の粒子径より大きい中空シリカ粒子及び中空シリカ粒子凝集物を抜き出して解砕部へ再導入する機構を有する、請求項1に記載の中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記解砕機の前記解砕部が、高速ジェット気流を噴出するノズルからの気流により、中空シリカ粒子凝集物を解砕する機構を有する、請求項1又は2に記載の中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記高速ジェット気流を噴出するノズルが、互いに対向する位置に配置される形態である請求項3に記載の中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項5】
中空シリカ粒子の10GHzにおける比誘電率が2.5以下で、かつ10GHzにおける誘電正接が0.0050以下である、請求項1~4のいずれかに記載の中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項6】
中空シリカ粒子の、粒子径が5μm以上の粒子の個数割合が、50ppm以下である、請求項1~5のいずれかに記載の中空シリカ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空シリカ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5Gに代表される高速通信技術や自動運転等に用いられるレーダー等では数十GHzの高周波の使用が検討されている。このような高周波の電波に対応する高周波回路においては、伝送損失や伝送遅延の低減のために、低誘電率、低誘電正接といった誘電特性に優れる絶縁材料が必要とされており、誘電特性改善のために絶縁材料に配合されているシリカ粒子についても同様の性能が求められている。これらの要求への対応として、シリカ粒子の誘電特性を高めるため、中空シリカ粒子を用いることが検討されている。また、高周波回路は微細化が望まれており、絶縁材料に配合されるシリカ粒子の小粒子径化も求められている。
【0003】
特許文献1では、シリカを含むシェル層を備え、前記シェル層の内部に空間部を有する中空シリカ粒子であって、赤外分光法による波数3746cm-1付近のSiOHに由来するピークが0.60以下であり、1GHzでの比誘電率が1.3~5.0であり、かつ1GHzでの誘電正接が0.0001~0.05である中空シリカ粒子が開示されている。
特許文献2では、内部空間を形成する外殻部を備え、前記外殻部がシリカを含む成分から構成される中空シリカ粒子であって、該中空シリカ粒子は、中空シリカ粒子前駆体を1100℃で焼成後、ジェットミルで粉砕して得られた中空シリカ粒子を分級機で分級して平均粒径及び粒径分布を調整して得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/172294号
【特許文献2】特開2020-83736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の中空シリカ粒子は、その製造過程において、焼成時に粒子表面のシラノール同士が縮合して粒子が強く凝集するため、粒子径が大きく、そのままでは絶縁材料に十分に配合することができなかった。また、必要に応じて、中空シリカ焼成粒子を通常の方法で解砕すると、中空シリカ粒子が割れて、比誘電率及び誘電正接が上昇してしまうため、絶縁材料に適さなかった。
また、特許文献2では、その製造過程において、得られた中空シリカ粒子(凝集物)を、解砕機で解砕し、その後分級機で分級している。しかしながら、当該解砕機では、所定の粒子径に解砕するために解砕圧を大きくすると、中空シリカ粒子の割れの発生も大きくなるため、解砕後の中空シリカ粒子を絶縁材料に配合しても、比誘電率及び誘電正接が十分に低くならない。また、中空シリカ粒子の割れの発生を抑制するために、解砕圧を小さく調整すると、十分に解砕できず凝集物を残した中空シリカ粒子となり、絶縁材料に均一に配合できない場合がある。
本発明は、中空シリカ粒子の割れを抑制しながら所定の粒子径以下に解砕する中空シリカ粒子の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、中空シリカ粒子凝集物を解砕する際に、解砕部と分級部とを有する解砕機を用いることで、上記課題を解決し得ることを見出した。
本発明は、以下の〔1〕に関する。
〔1〕解砕部と分級部とを有する解砕機によって中空シリカ粒子凝集物を解砕する工程を有する、中空シリカ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、中空シリカ粒子の割れを抑制しながら所定の粒子径以下に解砕する中空シリカ粒子の効率よい製造方法を提供できる。また、本発明によって得られる中空シリカ粒子は、割れが抑制されているため、比誘電率及び誘電正接を低く保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[中空シリカ粒子の製造方法]
本発明は、解砕部と分級部とを有する解砕機によって中空シリカ粒子凝集物を解砕する工程を有する中空シリカ粒子の製造方法である。
本発明によれば、中空シリカ粒子の割れを抑制し、得られる中空シリカ粒子の粒子径を、所定の粒子径以下に解砕できる。また、本発明によって得られる中空シリカ粒子は、割れが抑制されているため、比誘電率及び誘電正接を低く保つことができる。
【0009】
本発明における効果発現のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
通常、比誘電率及び誘電正接が低い中空シリカ粒子を得るためには、中空シリカ粒子の前駆体を、1000℃以上の高温で1時間以上焼成する工程を行うことが効果的である。しかしながら、1000℃以上の高温で焼成を行うと、得られる中空シリカ粒子には凝集が発生し、いわゆる中空シリカ粒子凝集物の状態となる。この中空シリカ粒子凝集物は、粒子径が大きいため、そのまま絶縁材料等に用いる樹脂等に配合することが困難であることから、該中空シリカ粒子凝集物を解砕することにより、粒子径が所定の粒子径以下である中空シリカ粒子とする必要があった。
従来のハンマーミルやビーズミル等を用いた解砕では、硬度の高いハンマーやビーズで空洞部を有する中空シリカ粒子凝集物を解砕することになるため、得られる中空シリカ粒子が割れやすかった。割れた中空シリカ粒子の割合が増えると、得られるシリカ粒子の空孔率が低下するため比誘電率が高くなる。また、割れた中空シリカ粒子の断面には、シラノール基が生成するため、誘電正接も高くなる。よって、従来の製造方法で得られる中空シリカ粒子は比誘電率及び誘電正接が高くなるため、絶縁材料等への配合には適さなかった。
一方、本発明の中空シリカ粒子の製造方法は、解砕部と分級部とを有する解砕機では、中空シリカ粒子凝集物を解砕し、続けて分級部により分級することにより、所定の粒子径以下となった中空シリカ粒子が必要以上に解砕部に滞留しないため、中空シリカ粒子の割れを抑制することができる。また、分級部にて解砕機外に排出されなかった、所定の粒子径より大きい中空シリカ粒子凝集物(すなわち、解砕が不十分であった中空シリカ粒子凝集物)は、再び解砕部に投入されて解砕される。そのため、所定の粒子径以下に解砕された中空シリカ粒子を効率的に得ることができる。
本発明で得られる中空シリカ粒子は、割れが抑制されているため、比誘電率及び誘電正接を低く保つことができる。
【0010】
<解砕部と分級部とを有する解砕機>
本発明において、解砕機は、解砕部と分級部とを有する。
【0011】
〔解砕部〕
本発明において解砕機の解砕部は、ノズルから噴出する高速ジェット気流により、中空シリカ粒子凝集物同士を衝突させて解砕する機構を有することが好ましい。
前記機構により、中空シリカ粒子凝集物は、該気流中で中空シリカ粒子凝集物同士の衝突や摩擦で解砕される。前記機構は前記のハンマーやビーズといった、中空シリカ粒子凝集物よりも圧倒的に質量が大きい物体と衝突するのではなく、同じ質量である中空シリカ粒子凝集物同士が衝突するため、割れが少ない中空シリカ粒子を得ることができる。
高速ジェット気流を噴出するノズルからの気流によって中空シリカ粒子凝集物同士を衝突させる構造として高速ジェット気流を発生させるノズルの配置の形態は、旋回気流型,対向ノズル型などが好ましく知られているが、本発明においては対向ノズル型が好ましい。すなわち本発明においては、高速ジェット気流を噴出するノズルが互いに対向する位置に配置される形態であることがより好ましい。
本発明において高速ジェット気流を噴出するノズルが互いに対向する位置に配置される形態とは、一方のノズルから噴出された高速ジェット気流と、他方のノズルから噴出された高速ジェット気流とが、互いのノズルから等距離の位置で衝突するような位置関係にノズルが配置されていることを意味する。
【0012】
〔分級部〕
前記解砕機の分級部は、所定の粒子径以下の中空シリカ粒子を解砕機外へ排出し、前記所定の粒子径より大きい中空シリカ粒子及び中空シリカ粒子凝集物を抜き出して解砕部へ再導入する機構を有することが好ましい。また、分級部は、解砕部から独立していることが好ましい。
前記機構により、所定の粒子径より大きい中空シリカ粒子凝集物を再度解砕することができるため、所定の粒子径以下に解砕された中空シリカ粒子を効率的に得ることができる。また、前記機構により、所定の粒子径以下の中空シリカ粒子が必要以上に解砕部に滞留することを抑制できるため、得られる中空シリカ粒子の割れを抑制しやすくできる。
【0013】
前記機構としては、解砕部で解砕された中空シリカ粒子及び中空シリカ粒子凝集物の内、所定の粒子径以下の中空シリカ粒子と所定の粒子径より大きい中空シリカ粒子及び中空シリカ粒子凝集物とに分級し、該所定の粒子径以下の中空シリカ粒子を解砕機外へ排出し、該所定の粒子径より大きい中空シリカ粒子及び中空シリカ粒子凝集物を抜き出して、新たに導入される中空シリカ粒子凝集物と所定の割合で再度混合した後、解砕部へ再導入する機構であることがより好ましい。
前記所定の粒子径より大きい中空シリカ粒子及び中空シリカ粒子凝集物を抜き出す方法としては、連続的に抜き出す方法及び間欠的に抜き出す方法から選ばれる1種が好ましく、連続的に抜き出す方法がより好ましい。
【0014】
本発明において前記所定の粒子径とは、分級部において解砕機外へ排出する粒子と解砕部に再導入する粒子を仕分ける際の区切りとなる粒子径である。本発明において前記所定の粒子径としては、好ましくは10μm、より好ましくは7μm、更に好ましくは5μmである。すなわち本発明において分級部は、10μm以下の粒子を解砕機外へ排出し、10μmより大きい粒子を解砕部に再導入する機構を有することが好ましく、7μm以下の粒子を解砕機外へ排出し、7μmより大きい粒子を解砕部に再導入する機構を有することがより好ましく、5μm以下の粒子を解砕機外へ排出し、5μmより大きい粒子を解砕部に再導入する機構を有することが更に好ましい。
【0015】
本発明において、解砕機としては、分級装置付きのジェットミルが好ましい。分級装置付きのジェットミルとしては、例えば、日清エンジニアリング株式会社製のスーパージェットミル(高速ジェット気流を噴出するノズルが円周の接線上に配置:旋回気流型)、ホソカワミクロン株式会社製のカウンタジェットミルAFGシリーズ及びAFG-CRSシリーズ(高速ジェット気流を噴出するノズルが互いに対向する位置に配置:対向ノズル型)、東洋ハイテック株式会社製の流動層型ジェットミルCGSシリーズ(高速ジェット気流を噴出するノズルが互いに対向する位置に配置:対向ノズル型)、株式会社栗本鉄工所のクロスジェットミル(高速ジェット気流を噴出するノズルが互いに対向する位置に配置:対向ノズル型)が好ましく挙げられる。
【0016】
<中空シリカ粒子の製造方法>
本発明において中空シリカ粒子は、下記の工程1~4を有する製造方法により製造することが好ましい。
工程1:カチオン界面活性剤Aを用いて疎水性液体の水性エマルションAを作成する工程。
工程2:得られた水性エマルションAに、シラノール前駆体と、カチオン界面活性剤Bと、アルカリ性物質とを添加し、シラノール前駆体を加水分解して得られるシラノールを縮合反応に供し、中空シリカ粒子前駆体を生成する工程。
工程3:得られた中空シリカ粒子前駆体を、1000℃以上で焼成し、シリカ粒子凝集物を得る工程。
工程4:得られた中空シリカ粒子凝集物を解砕部と分級部とを有する解砕機によって解砕・分級し、中空シリカ粒子を得る工程。
【0017】
〔工程1〕
工程1では、水系媒体、カチオン界面活性剤A及び疎水性液体を混合・撹拌し、疎水性液体が水系媒体に乳化された、疎水性液体の水性エマルションAを得る。疎水性液体の水性エマルションAの作成は、一般的な方法により行うことができる。
【0018】
水系媒体は水を含有することが好ましい。水系媒体が含有する水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、超純水等が挙げられる。また、水系媒体は、疎水性液体の乳化をより均一で安定に生成させるという観点から、水と相溶性のある有機溶媒を含有していてもよい。水と相溶性のある有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール類やアセトンが挙げられる。
水系媒体中の水の含有量は、疎水性液体の水系媒体中での溶解度を瞬時に低下させる観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは98質量%以上であり、また、更に好ましくは100質量%である。
【0019】
〔カチオン界面活性剤A〕
カチオン界面活性剤Aは、後述の工程2において縮合したシラノールとの複合体の形成し易くさせる観点、及び後述の工程3において分解・揮発させる観点から、好ましくは第四級アンモニウムの塩であり、より好ましくは下記一般式(1)又は一般式(2)で示される第四級アンモニウムの塩からなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはアルキルトリメチルアンモニウム塩、及びジアルキルジメチルアンモニウム塩から選ばれる1種以上である。
[R1R3
3N]+X― (1)
[R1R2R3
2N]+X― (2)
【0020】
一般式(1)及び一般式(2)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数4~24の直鎖状又は分岐状アルキル基を示し、R3は、炭素数1~3のアルキル基を示し、複数のR3はそれぞれ異なる基であってもよく、X―は1価陰イオンを示す。
炭素数4~24のアルキル基としては、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基、各種エイコシル基、各種ドコシル基、各種テトラコシル基等が挙げられる。
炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。一般式(1)及び一般式(2)中、R3は、メチル基であることが好ましい。
【0021】
一般式(1)及び(2)におけるX―は、焼成時に容易に分解・揮散する観点から、好ましくはハロゲンイオン、水酸化物イオン、硝酸イオン等の1価陰イオンから選ばれる1種以上である。X―としては、より好ましくはハロゲン化物イオンであり、更に好ましくは塩化物イオンである。
【0022】
一般式(1)で表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩としては、ブチルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド(ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド)、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロリド、ブチルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ラウリルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド、ベヘニルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
【0023】
第四級アンモニウムの塩は、工程2において縮合したシラノールとの複合体の形成し易くする観点、及び工程3において分解・揮発させ易くする観点から、好ましくはラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、及びベヘニルトリメチルアンモニウムクロリドから選ばれる1種以上であり、より好ましくはラウリルトリメチルアンモニウムクロリド及びベヘニルトリメチルアンモニウムクロリドから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはベヘニルトリメチルアンモニウムクロリドである。
【0024】
(疎水性液体)
疎水性液体は、好ましくは、水系媒体中で乳化滴(乳化油滴)を形成できるものである。また、分散媒として前述の水系媒体を使用する点、及び、疎水性液体の利用効率の向上の点から、液体状態にある温度域が0~100℃であることが好ましく、20~90℃であることがより好ましい。
疎水性液体としては、具体的には、特開2016-121060号公報の段落〔0015〕~〔0023〕に記載のものが挙げられる。これらの中でも、炭素数6~18の炭化水素が好ましく、炭素数8~14の炭化水素がより好ましく、ドデカンがより好ましい。
【0025】
工程1において、水系媒体に対する疎水性液体の質量比[疎水性液体/水系媒体]は、得られる疎水性液体の水性エマルション中の疎水性液体粒子の体積平均粒子径を適度な範囲とする観点から、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.25以上、更に好ましくは0.3以上であり、そして、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.75以下、更に好ましくは0.7以下である。
また、水系媒体が水のみからなる場合、工程1において、水に対する疎水性液体の質量比[疎水性液体/水]は、得られる疎水性液体を含む液滴の粒子径を適度な範囲とする観点から、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.35以上、更に好ましくは0.4以上であり、そして、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.75以下、更に好ましくは0.7以下である。
【0026】
工程1において、疎水性液体に対するカチオン界面活性剤Aの質量比[カチオン界面活性剤A/疎水性液体]は、疎水性液体を水系媒体に乳化させる観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上であり、そして、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.04以下、更に好ましくは0.035以下である。
【0027】
工程1において、撹拌速度、温度等を適宜調整することにより、得られる疎水性液体を含む液滴の粒子径を適度な範囲とすることができる。工程1は、15℃~80℃の温度で行われることが好ましい。
疎水性液体を含む液滴の体積平均粒子径は、中空シリカ粒子の平均粒子径を後述の範囲とする観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、更に好ましくは0.4μm以上であり、そして、好ましくは2.5μm以下、より好ましくは2.0μm以下、更に好ましくは1.5μm以下である。
疎水性液体を含む液滴の体積平均粒子径は、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0028】
〔工程2〕
工程2では、工程1で得られた水性エマルションAに、シラノール前駆体とカチオン界面活性剤Bを添加し、疎水性液体を含む液滴の表面に存在させたシラノール前駆体をアルカリ性物質の存在下で加水分解してシラノールを得る。得られたシラノールが、アルカリ性物質の存在により縮合することで、疎水性液体を含む液滴の表面にシリカ及びカチオン界面活性剤Bを含む外殻部を有し、内部に疎水性液体を含む中空シリカ粒子前駆体を形成する。
水性エマルションAへの、シラノール前駆体と、カチオン界面活性剤Bの添加は、水性エマルションAに、シラノール前駆体とカチオン界面活性剤Bを同時に又は別々に添加してもよく、シラノール前駆体とカチオン界面活性剤Bのいずれか一方に水性エマルションAを添加した後に、残りの一方を添加してもよい。
【0029】
(シラノール前駆体)
シラノール前駆体は、アルコキシシラン等の加水分解によりシラノール化合物を生成する化合物であり、好ましくはオルトケイ酸アルキルエステル及びピロケイ酸アルキルエステルから選ばれる1種以上である。具体的には、下記一般式(3)~(7)で示される化合物、又はこれらの組合せを挙げることができる。
SiY4 (3)
R4SiY3 (4)
R4
2SiY2 (5)
R4
3SiY (6)
Y3Si-O-SiY3 (7)
【0030】
一般式(3)~(7)中、R4はそれぞれ独立して、ケイ素原子に直接炭素原子が結合している炭化水素基を示し、Yは加水分解によりヒドロキシ基になる1価の加水分解性基を示す。
【0031】
一般式(4)~(6)において、R4は、それぞれ独立して、好ましくは水素原子の一部がフッ素原子に置換していてもよい炭素数1~22の炭化水素基であり、疎水性有機物の利用効率の向上の点から、好ましくは炭素数1~22、より好ましくは炭素数4~18、更に好ましくは炭素数8~16のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基である。
一般式(3)~(7)において、Yは、好ましくは炭素数1~8のアルコキシ基またはフッ素を除くハロゲン基であり、より好ましくは炭素数2~4のアルコキシ基である。Yが炭素数1のアルコキシ基及びフッ素を除くハロゲン基である場合、加水分解の反応速度が速すぎるため、中空シリカ前駆体の外殻が緻密になりづらく、焼成時の収縮が大きくなるため、中空シリカ粒子の比誘電率、誘電正接が高くなる傾向がある。逆に炭素数5以上のアルコキシ基は加水分解速度が遅くなる。
【0032】
シラノール前駆体は、好ましくは一般式(3)及び一般式(7)で示される化合物から選ばれる1種以上である。その中でも、金属腐食性の酸の生成を抑制する観点、及び加水分解の反応性の観点から、シラノール前駆体は、好ましくはYが炭素数2~4のアルコキシ基である一般式(3)及び一般式(7)で示される化合物から選ばれる1種以上であり、より好ましくはYがエトキシ基である一般式(3)及び一般式(7)で示される化合物から選ばれる1種以上である。シラノール前駆体は単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0033】
疎水性液体に対するシラノール前駆体の質量比[シラノール前駆体/疎水性液体]は、中空シリカ粒子の空孔率を適度な範囲とする観点から、好ましくは10以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは25以上であり、そして、好ましくは90以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは75以下である。
【0034】
(カチオン界面活性剤B)
カチオン界面活性剤Bとしては、工程1に示したカチオン界面活性剤Aと同様のカチオン界面活性剤Bを用いることができる。カチオン界面活性剤Bとしては、縮合したシラノールとの複合体を形成し易くする観点、及び工程3において分解・揮発させ易くする観点から、好ましくは第四級アンモニウムの塩であり、より好ましくはラウリルトリメチルアンモニウムクロリド(ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド)、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、及びベヘニルトリメチルアンモニウムクロリドから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはラウリルトリメチルアンモニウムクロリドである。
本工程で用いるカチオン界面活性剤Bは、工程1で用いたカチオン界面活性剤Aと同じでも異なっていてもよい。また、カチオン界面活性剤Bは単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0035】
カチオン界面活性剤Bに対するシラノール前駆体の質量比[シラノール前駆体/カチオン界面活性剤B]は、中空シリカ粒子前駆体の分散性の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは6以上であり、そして、好ましくは25以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは18以下である。
【0036】
(アルカリ性物質)
シラノール前駆体はアルカリ性物質によりシラノールへと加水分解され、更に脱水縮合されシリカとなる。
アルカリ性物質としては、具体的には、特開2016-121060号公報の段落〔0014〕に記載のものが挙げられる。これらの中でも、第四級アンモニウムの水酸化物塩が好ましい。第四級アンモニウムの水酸化物塩の具体例としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド(コリン)、テトラエタノールアンモニウムヒドロキシド、メチルトリエタノールアンモニウムヒドロキシド、ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド等が挙げられ、中空シリカ粒子前駆体の外殻を緻密にする観点から、好ましくはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリエタノールアンモニウムヒドロキシド及びジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシドから選ばれる1種以上であり、より好ましくはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド及びジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシドから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシドである。
【0037】
アルカリ性物質に対するシラノール前駆体の質量比[シラノール前駆体/アルカリ性物質]は、中空シリカ粒子前駆体の外殻を緻密にする観点から、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上であり、そして、シラノール前駆体の縮合反応を効率よく行う観点から、好ましくは100以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは70以下である。
【0038】
アルカリ性物質は、上記第四級アンモニウムの水酸化物塩の他に、例えばアルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩等を含んでいてもよいが、得られる中空シリカ粒子中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量を低減させるために、シラノール前駆体に対するアルカリ金属とアルカリ土類金属の合計含有量が、得られる中空シリカ粒子の質量に対して、好ましくは50質量ppm以下、より好ましくは30質量ppm以下、更に好ましくは10質量ppm以下、より更に好ましくは0質量ppmである。
【0039】
アルカリ性物質は、カチオン界面活性剤Bと混合してシラノール前駆体に接触させることで、最大粒子径が小さく、適度な粒子径を有する中空シリカ粒子を得ることができる。アルカリ性物質とカチオン界面活性剤Bの混合物と、シラノール前駆体との接触は、シラノール前駆体を含む反応系にアルカリ性物質とカチオン界面活性剤Bの混合物を添加してもよく、アルカリ性物質とカチオン界面活性剤Bの混合物含む反応系にシラノール前駆体を添加してもよいが、空孔率を高くするとともに、合成濃度を高くして生産性を上げる観点から、シラノール前駆体を含む反応系にアルカリ性物質とカチオン界面活性剤Bの混合物を添加するのが好ましい。
【0040】
工程2を行う温度は、用いるシラノール前駆体及びアルカリ性物質の種類や量により適宜調整でき、中空シリカ粒子前駆体の外殻を緻密にする観点から、好ましくは0℃以上100℃以下である。例えば、シラノール前駆体として、オルトケイ酸テトラエチルエステルやピロケイ酸ヘキサエチルエステルを用いる場合は、20℃以上45℃以下であることが好ましく、オルトケイ酸テトラメチルエステルやピロケイ酸ヘキサメチルエステルを用いる場合は、0℃以上20℃以下であることが好ましい。
【0041】
工程2を行う時間は、中空シリカ粒子前駆体の外殻を緻密にする観点から、好ましくは30分間以上、より好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上であり、製造効率の観点から、好ましくは24時間以下、より好ましくは20時間以下、更に好ましくは16時間以下である。
【0042】
工程2は、中空シリカ粒子前駆体の形成後、工程3の前に、必要に応じ、中空シリカ粒子前駆体を凝集させる工程、中空シリカ粒子前駆体を単離する工程、及び中空シリカ粒子前駆体を乾燥する工程を含んでいてもよい。
【0043】
(中空シリカ粒子前駆体を凝集させる工程)
中空シリカ粒子前駆体を凝集させる工程は、工程2で中空シリカ粒子前駆体を形成後、前記中空シリカ粒子前駆体を、液相内で凝集させる工程である。当該工程を含むことにより、中空シリカ粒子前駆体の粒子間に、一定の距離を保つ弱い凝集(フロキュレーション)を起こさせることができると考えられる。その結果、工程3においても、得られる中空シリカ粒子凝集体中の粒子間の距離を一定に保て、中空シリカ粒子が割れにくい弱い解砕力でも十分に解砕しやすくでき、中空シリカ粒子の割れを抑制しやすくできる。更に、得られる中空シリカ粒子前駆体が凝集体となることにより、一定上の粒子径となることから、後述の中空シリカ粒子前駆体を単離する工程において、ろ過等の操作により効率的に中空シリカ粒子前駆体を回収しやすくできる。
中空シリカ粒子前駆体を凝集させる工程としては、工程2で得られた中空シリカ粒子前駆体を含む液相に、凝集剤を添加する工程であることが好ましい。
【0044】
≪凝集剤≫
凝集剤としては、アニオン性高分子が好ましい。アニオン性高分子は、液相中で中空シリカ粒子前駆体に対して添加することで、粒子凝集を引き起こすものを好適に選ぶことが出来る。
アニオン性高分子としては、中空シリカ粒子前駆体の粒子間に弱い凝集を起こしやすくし、解砕しても割れを抑制でき、比誘電率及び誘電正接を低く保つことができる中空シリカ粒子を得る観点から、好ましくはポリカルボン酸塩及びポリスルホン酸塩である。
ポリカルボン酸塩としては、好ましくはポリアクリル酸の塩及びアクリル酸-マレイン酸共重合体の塩であり、ポリアクリル酸及びアクリル酸-マレイン酸共重合体の金属塩(ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩)、アミン塩及びアンモニウム塩である。これらの中でも、解砕しても割れを抑制でき、比誘電率及び誘電正接を低く保つことができる中空シリカ粒子を得る観点から、ポリアクリル酸アンモニウム及びアクリル酸-マレイン酸共重合体アンモニウムから選ばれる1種以上が好ましい。
ポリスルホン酸塩としては、好ましくは芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物の塩及びリグニンスルホン酸のホルマリン縮合物の塩である。
芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物の塩としては、縮合ナフタレンスルホン酸の塩が挙げられる。縮合ナフタレンスルホン酸の塩としては、好ましくは縮合ナフタレンスルホン酸の金属塩(ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩)、アミン塩及びアンモニウム塩である。これらの中でも、解砕しても割れを抑制でき、比誘電率及び誘電正接を低く保つことができる中空シリカ粒子を得る観点から縮合ナフタレンスルホン酸のアンモニウム塩が好ましい。
以上の中でも、アニオン性高分子は、解砕しても割れを抑制でき、比誘電率及び誘電正接を低く保つことができる中空シリカ粒子を得る観点から、より好ましくはポリアクリル酸アンモニウム、アクリル酸-マレイン酸共重合体アンモニウム及び縮合ナフタレンスルホン酸のアンモニウム塩から選ばれる1種以上、更に好ましくはポリアクリル酸アンモニウムである。また、アニオン性高分子として、上記のアンモニウム塩を用いることは、絶縁材料等に用いる観点から、得られる中空シリカ粒子中の金属イオンの含有量を低減させる観点からも好ましい。
【0045】
中空シリカ粒子前駆体を凝集させる工程を行う温度は、中空シリカ粒子の凝集の強さを調整し、解砕しても割れを抑制でき、比誘電率及び誘電正接を低く保つことができる中空シリカ粒子を得る観点から、好ましくは0℃以上100℃以下、より好ましくは10℃以上80℃以下、更に好ましくは15℃以上60℃以下、より更に好ましくは20℃以上45℃以下である。
また、中空シリカ粒子前駆体を凝集させる工程は、凝集剤を添加した後、撹拌することが好ましい。中空シリカ粒子前駆体を凝集させる工程において、撹拌時間は、中空シリカ粒子前駆体の凝集の強さを調整し、解砕しても割れを抑制でき、比誘電率及び誘電正接を低く保つことができる中空シリカ粒子を得る観点から、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、更に好ましくは5分以上、より更に好ましくは8分以上であり、そして、好ましくは60分以下、より好ましくは45分以下、更に好ましくは30分以下、より更に好ましくは15分以下である。
【0046】
中空シリカ粒子前駆体の単離は、例えば、ろ過により行うことができる。また、中空シリカ粒子前駆体の乾燥は、中空シリカ粒子前駆体を含む疎水性液体の沸点が100℃より高ければ、例えば、100℃以上疎水性液体の沸点以下の温度に加熱することで行うことができる。中空シリカ粒子前駆体が含む疎水性液体の沸点が100℃以下である場合は、例えば、凍結乾燥等により中空シリカ粒子前駆体を乾燥することができる。
【0047】
(中空シリカ粒子前駆体)
中空シリカ粒子前駆体は、シリカを含む外殻を備え、かつ外殻の内部に疎水性液体を含む複合シリカ粒子である。外殻には、カチオン界面活性剤が、粒子中心方向に向かって放射状に配向されている。
【0048】
〔工程3〕
工程3では、工程2で得られた中空シリカ粒子前駆体を、1000℃以上で焼成することで、中空シリカ粒子前駆体の外殻に存在するカチオン界面活性剤を分解・揮発させ、内部の疎水性液体を揮発させた後に、外殻に存在する細孔を焼成により塞ぎ、均一な外殻を有する中空シリカ粒子凝集物を得る。
【0049】
工程3の焼成温度は、中空シリカ粒子表面のシラノール基を低減する観点から、1000℃以上であり、好ましくは1010℃以上、より好ましくは1030℃以上、更に好ましくは1050℃以上であり、中空シリカ粒子の凝集を抑制する観点から、好ましくは1200℃以下、より好ましくは1190℃以下、更に好ましくは1180℃以下、より更に好ましくは1160℃以下である。
【0050】
工程3の焼成時間は、中空シリカ粒子表面のシラノール基を低減する観点から、好ましくは15分間以上、より好ましくは30分間以上、更に好ましくは45分間以上であり、中空シリカ粒子の凝集を抑制する観点から、好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間以下、更に好ましくは1.5時間以下である。
【0051】
〔工程4〕
工程4では、工程3で得られた中空シリカ粒子凝集物を解砕部と分級部とを有する解砕機によって解砕・分級し、中空シリカ粒子を得る工程である。
工程4にて、解砕部と分級部とを有する解砕機を用いて解砕・分級を行うことにより、中空シリカ粒子の割れを抑制し、得られる中空シリカ粒子の粒子径を、所定の粒子径以下に解砕でき、効率よく中空シリカ粒子を得ることができる。工程4にて用いる解砕部と分級部とを有する解砕機は前述の通りである。
【0052】
〔本発明によって得られる中空シリカ粒子の物性〕
本発明によって得られる中空シリカ粒子は、測定周波数10GHzにおける比誘電率が、2.5以下で、かつ測定周波数10GHzにおける誘電正接が0.0050以下であることが好ましい。
測定周波数10GHzにおける比誘電率は、絶縁材料等に用いた際の比誘電率を十分低くする観点から、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.2以下、更に好ましくは2.0以下、より更に好ましくは1.8以下であり、そして、解砕後の中空シリカ粒子が十分な強度を有する観点から、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.2以上、更に好ましくは1.3以上である。
また、測定周波数10GHzにおける誘電正接は、絶縁材料等に用いた際の誘電正接を十分低くする観点から、好ましくは0.0050以下、より好ましくは0.0048以下、更に好ましくは0.0046以下であり、そして、中空シリカ粒子の強度を保ち、解砕しても割れを抑制する観点から、好ましくは0.0001以上、より好ましくは0.0005以上、更に好ましくは0.0010以上である。
【0053】
本発明によって得られる中空シリカ粒子の体積基準の平均粒子径は、絶縁材料等に配合し易くし、加工性を保つ観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましく0.5μm以上、更に好ましくは0.7μm以上、より更に好ましくは0.9μm以上であり、そして、好ましくは3.0μm以下、より好ましくは2.6μm以下、更に好ましくは2.4μm以下、より更に好ましくは2.2μm以下である。
本発明において中空シリカ粒子の体積基準の平均粒子径は、コールターカウンター法で算出される体積基準の平均粒子径((コールターカウンター法による測定で算出される各粒子径)×(同各粒子径の体積比率)の総和)を意味する。体積基準の平均粒子径は実施例に記載の方法で測定される。
【0054】
本発明によって得られる中空シリカ粒子の体積基準の最大粒子径は、絶縁材料等に配合し易くし、加工性を保つ観点から、好ましくは0.8μm以上、より好ましく1.5μm以上、更に好ましくは2.0μm以上、より更に好ましくは2.5μm以上であり、そして、好ましくは5.0μm以下、より好ましくは4.6μm以下、更に好ましくは4.4μm以下、より更に好ましくは4.2μm以下である。
中空シリカ粒子の体積基準の最大粒子径は、体積基準で累積頻度分布99%(D99)となる粒子径を意味し、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0055】
本発明によって得られる中空シリカ粒子の空孔率は、解砕後の中空シリカ粒子の比誘電率を低くする観点から、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、更に好ましくは50%以上であり、解砕後の中空シリカ粒子が十分な強度を有する観点から、好ましくは80%以下、より好ましくは77%以下、更に好ましくは74%以下である。
【0056】
また、本発明における、中空シリカ粒子凝集物(焼成後、解砕される前の中空シリカ粒子凝集体)の空孔率は、上記と同様の観点から、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、更に好ましくは50%以上であり、そして、好ましくは80%以下、より好ましくは77%以下、更に好ましくは74%以下である。
本発明によって得られる中空シリカ粒子及び本発明における中空シリカ粒子凝集物の空孔率は、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0057】
本発明によって得られる中空シリカ粒子に対する割れた中空シリカ粒子の割合は、比誘電率及び誘電正接を低く保つ観点、及び絶縁材料等に配合し易くし絶縁材料等加工性を保つ観点から、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、更に好ましくは10%以下、より更に好ましくは5%以下である。
本発明によって得られる中空シリカ粒子に対する割れた中空シリカ粒子の割合は、解砕前の中空シリカ粒子の空孔率と解砕後の中空シリカ粒子の空孔率とから求めることができ、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0058】
本発明によって得られる中空シリカ粒子の、粒子径が5μm以上の粒子の個数割合は、絶縁材料等に配合し易くし、加工性を保つ観点から、好ましくは50ppm以下、より好ましくは40ppm以下、更に好ましくは30ppm以下、より更に好ましくは20ppm以下、より更に好ましくは10ppm以下である。本発明によって得られる中空シリカ粒子の、粒子径が5μm以上の粒子の個数割合は実施例に記載の方法により求めることができる。
【0059】
本発明によって得られる中空シリカ粒子は、上記の特徴を有することから、比誘電率及び誘電正接を低く保つことができ、また、絶縁材料等に配合し易く、絶縁材料の加工性を保つことができる。
【実施例0060】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。各性状値は、次の方法により、測定、評価した。
【0061】
[測定方法]
<水系エマルションA中の疎水性液体を含む液滴の体積平均粒子径の測定>
水系エマルションA中の粒子の体積平均粒子径は、動的光散乱法による粒子径測定装置「ゼータサイザーナノZS」(マルバーン・パナリティカル社製)によって、光路長10mmの角型セルを用いて測定した。
【0062】
<中空シリカ粒子の平均粒子径、最大粒子径、及び5μm以上の粒子の個数割合の測定>
中空シリカ粒子の平均粒子径、最大粒子径、及び5μm以上の粒子の個数割合は、コールターカウンター法による粒子径測定装置(ベックマン・コールター株式会社製、Multisizer 3(20μmアパチャーチューブを使用))を用いて測定した。
中空シリカ粒子の平均粒子径は、コールターカウンター法で算出される体積基準の平均粒子径((コールターカウンター法による測定で算出される各粒子径)×(同各粒子径の体積比率)の総和)とした。
また、中空シリカ粒子の最大粒子径は、体積基準での累積頻度分布99%(D99)となる粒子径とした。
また、中空シリカ粒子の5μm以上の粒子の個数割合は、前記装置で体積基準で5μm以上の粒子の個数をカウントし、同装置で測定した中空シリカ粒子の全粒子数で除して求めた。
【0063】
<中空シリカ粒子凝集物及び中空シリカ粒子の空孔率の測定>
中空シリカ粒子凝集物及び中空シリカ粒子の空孔率は、真密度測定装置(Quantachrome社製:ULTRAPYCNMETER1200e)を用いて、窒素を測定ガスとして測定した密度により、下記式により算出した。シリカ粒子の真密度は2.2g/cm3とした。
空孔率(%)=[1-(測定したサンプルの密度/シリカ粒子の真密度)]×100
【0064】
<解砕で割れた中空シリカ粒子の割合の測定>
解砕前の中空シリカ粒子凝集物の空孔率と、本発明によって得られた中空シリカ粒子の空孔率をそれぞれ測定し、解砕前の中空シリカ粒子凝集物の空孔率をη、中空シリカ粒子の空孔率をη’として、下記式により算出した。
割れた中空シリカ粒子の割合(%)=[1-(η’/η)]×100
【0065】
<中空シリカ粒子の比誘電率、誘電正接の測定>
中空シリカ粒子の比誘電率、誘電正接はネットワーク・アナライザー(アジレント・テクノロジー株式会社製、商品名:N5221A)に、株式会社関東電子応用開発製の摂動法空洞共振器(CP-580)を接続した装置を使用し、空洞共振器摂動法(CP-MA 誘電率測定ソフトウェア、株式会社関東電子応用開発製)にて、温度25℃、周波数10GHzで測定を行った。
測定用サンプルは、中空シリカ粒子をテフロン(登録商標)チューブ(中興化成株式会社製:PTFEチューブ、内径1.5mm、外径2.5mm)内部に充填した(充填した中空シリカ粒子が全て測定範囲内(底部から、6.75mmから36.35mmの間)に入るように充填した。テフロンチューブへのシリカ充填前後の重量測定よりシリカの充填量を計算し、シリカの充填重量と比重よりテフロンチューブに充填したシリカの体積を求めた。
比誘電率、誘電正接の測定はシリカが充填されていない空のテフロンチューブをブランクとしシリカが充填されているテフロンチューブとの差から求めた。
【0066】
[中空シリカ粒子の製造]
<実施例1>
(工程1)
イオン交換水4.64kg、ドデカン(キシダ化学株式会社製:1級n-ドデカン)3.20kg、界面活性剤Aとしてコータミン2285E(花王株式会社製:ベヘニルトリメチルアンモニウムクロリドを58質量%含む)0.17kgを混合撹拌し水系エマルションAを得た。得られた水系エマルションA中の疎水性液体を含む液滴の体積平均粒子径は0.9μmであった。
(工程2)
反応槽にイオン交換水755.21kg、水系エマルションAを7.66kg、界面活性剤Bとしてコータミン24P(花王株式会社製:ラウリルトリメチルアンモニウムクロリドを27.5質量%含む)7.67kg、シラノール前駆体としてオルトケイ酸エチルエステル(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製:SEMICOSIL TEOS999-LB)173.20kgを入れ撹拌しながら40℃に加温した後、10分間撹拌し調製液Bを得た。
次にアルカリ性物質としてAH212-CS(四日市合成株式会社製:ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシドを50質量%含む)12.82kgと界面活性剤Bとしてコータミン24Pの43.44kgを均一に混合し調製液Cを得た。
調製液Bに調製液Cを添加し、その後、40℃で3時間撹拌し、白濁液Dを得た。
次いで、得られた白濁液Dを、5Cのろ紙(アドバンテック東洋株式会社製)を用いてろ別した後、110℃で15時間乾燥することにより中空シリカ粒子前駆体の凝集物を得た。
(工程3)
得られた乾燥された中空シリカ粒子前駆体の凝集物を1100℃で1時間焼成することで、中空シリカ粒子凝集物を得た。
(工程4)
得られた中空シリカ粒子凝集物をカウンタジェットミル(ホソカワミクロン株式会社製:200AFG)にて、φ3.0ノズル3本を用い、解砕空気圧力:0.30MPa、解砕空気流量:1.0Nm3/min、分級機回転数11500rpm、試料供給量:100g/分で解砕を行い、分級部で分級を行い、中空シリカ粒子を得た。分級部では、5μmより大きい粒子径の中空シリカ粒子凝集物を連続的に解砕部へ再導入した。解砕された中空シリカ粒子はパルスジェットコレクタ(ホソカワミクロン株式会社製:KP-1-700)で回収した。得られた中空シリカ粒子の物性を表1に示す。
【0067】
<実施例2>
工程3にて、得られた中空シリカ粒子前駆体の焼成条件を1150℃で1時間とした他は実施例1と同様にして、中空シリカ粒子を得た。得られた中空シリカ粒子の物性を表1に示す。
【0068】
<実施例3>
(工程1)
実施例1と同様にして、水系エマルションAを得た。
(工程2)
反応槽にイオン交換水210.00kg、水系エマルションAを1.73kg、界面活性剤BとしてカチオーゲンTML(第一工業製薬株式会社製:ドデシルトリメチルアンモニウムクロリドを30質量%含む)4.58kg、アルカリ性物質としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(昭和電工株式会社製:工業用TMAH、TMAH含量25質量%)1.35kgを入れ、15℃で10分間撹拌した。続けて、シラノール前駆体としてオルトケイ酸テトラエチル(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製:SEMICOSIL TEOS999-LB)21.9kgを入れ、25℃で15時間撹拌し白濁液D’を得た。
次いで、得られた白濁液D’を、5Cのろ紙(アドバンテック東洋株式会社製)を用いてろ別した後、110℃で15時間乾燥することにより白色の中空シリカ粒子前駆体の凝集物を得た。
(工程3)
得られた中空シリカ粒子前駆体の凝集物を1100℃で1時間焼成することで、中空シリカ粒子凝集物を得た。
(工程4)
実施例1の工程4と同様の操作を行い、中空シリカ粒子を得た。
得られた中空シリカ粒子の物性を表1に示す。
【0069】
<実施例4>
工程3にて、得られた中空シリカ粒子前駆体の焼成条件を1150℃で1時間とした他は実施例3と同様にして、中空シリカ粒子を得た。得られた中空シリカ粒子の物性を表1に示す。
【0070】
<比較例1>
工程1~3までを実施例1と同様にして中空シリカ粒子凝集物を得た後、工程4で、得られた中空シリカ粒子凝集物を下記の方法で解砕して、中空シリカ粒子を得た。得られた中空シリカ粒子の物性を表1に示す。
(工程4)
得られた中空シリカ粒子凝集物を旋回気流型ジェットミル(株式会社セイシン企業製:CO-JET SYSTEM α MARK III)にて、P NOZZLE 圧力:0.30MPa、G NOZZLE 圧力:0.30MPa、試料供給量:10g/分で解砕を行い、中空シリカ粒子を得た。解砕された中空シリカ粒子は、サイクロンおよびバグフィルタにて回収した後、それらを混合した。
【0071】
<比較例2>
工程1~3までを実施例1と同様にして中空シリカ粒子凝集物を得た後、工程4で、得られた中空シリカ粒子凝集物を下記の方法で解砕して、中空シリカ粒子を得た。得られた中空シリカ粒子の物性を表1に示す。
(工程4)
得られた中空シリカ粒子凝集物をハンマーミル(株式会社ダルトン製:ラボミルLM-05)にて、ハンマー回転数16,000rpm、スクリーン目開き1mm、試料供給量:10g/分で解砕を行い、中空シリカ粒子を得た。解砕された中空シリカ粒子はバグフィルタにて回収した。
【0072】
<比較例3>
工程1~3までを実施例1と同様にして中空シリカ粒子凝集物を得た後、工程4で、得られた中空シリカ粒子凝集物を下記の方法で解砕して、中空シリカ粒子を得た。得られた中空シリカ粒子の物性を表1に示す。
(工程4)
得られた中空シリカ粒子凝集物をエタノール中に10質量%の濃度で混合し、スラリーを準備した。湿式ビーズミル(アシザワ・ファインテック株式会社製:スターミル LMZ-015)にて、φ0.3mmジルコニアビーズを充填率80%で粉砕室内に充填し、周速12m/sでローターを回転させ、ここに前記スラリーを1パスだけ流して解砕し、解砕スラリーを得た。得られた解砕スラリーを、130℃に温度調節した乾燥機内で12時間乾燥させ、中空シリカ粒子を得た。
【0073】
【0074】
表1より、本発明によって得られた実施例1~4の中空シリカ粒子は、比較例1~3と比較して、中空シリカ粒子の割れが抑制され、所定の粒子径以下に解砕されていることが確認される。更に、実施例1~4の中空シリカ粒子は、中空シリカ粒子の割れが抑制されているため、比誘電率及び誘電正接を低く保つことができる。