(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007005
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ガラス製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 33/09 20060101AFI20250109BHJP
C03B 33/07 20060101ALI20250109BHJP
B23K 26/38 20140101ALI20250109BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20250109BHJP
【FI】
C03B33/09
C03B33/07
B23K26/38 Z
B23K26/064 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108113
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100129148
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 淳也
(72)【発明者】
【氏名】山城 陸
(72)【発明者】
【氏名】森 弘樹
【テーマコード(参考)】
4E168
4G015
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168CB17
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA32
4E168DA46
4E168DA47
4E168EA11
4E168JA14
4E168JA27
4G015FA01
4G015FB01
4G015FB02
4G015HA00
(57)【要約】
【課題】ガラスフィルムを支持ガラスから容易に剥離することができるように、ガラスフィルム積層体を切断する。
【解決手段】ガラス製品の製造方法は、レーザ光Lを照射することによりガラスフィルム積層体3を切断する切断工程S3を備える。切断工程S3では、レーザ光Lの焦点深度DOFは、ガラスフィルム積層体3の厚さTよりも大きく設定される。切断工程S3では、ガラスフィルム積層体3に対するレーザ光Lの照射位置において、ガラスフィルム積層体3の厚さ方向の全部がレーザ光Lの焦点深度DOFの範囲内に位置する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を照射することによりガラスフィルム積層体を切断する切断工程を備えるガラス製品の製造方法において、
前記ガラスフィルム積層体は、ガラスフィルムと、前記ガラスフィルムを支持する支持ガラスとを含み、
前記切断工程では、前記レーザ光の焦点深度は、前記ガラスフィルム積層体の厚さよりも大きく設定されており、
前記切断工程では、前記ガラスフィルム積層体に対する前記レーザ光の照射位置において、前記ガラスフィルム積層体の厚さ方向の全部が前記レーザ光の前記焦点深度の範囲内に位置することを特徴とするガラス製品の製造方法。
【請求項2】
前記レーザ光は、パルスレーザ光であり、
前記レーザ光のパルス幅は、1fs以上100ps以下である請求項1に記載のガラス製品の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ光は、IRレーザ光である請求項1又は2に記載のガラス製品の製造方法。
【請求項4】
前記ガラスフィルム積層体の前記厚さは、0.1mm以上2.0mm以下である請求項1又は2に記載のガラス製品の製造方法。
【請求項5】
前記ガラスフィルム積層体は、厚さが30μm以上200μm以下の前記ガラスフィルムを含む請求項1又は2に記載のガラス製品の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ光は、アキシコンレンズにより集光されたレーザ光である請求項1または2に記載のガラス製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス製品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に普及しているスマートフォンやタブレット型端末等のモバイル端末においては、更なる薄型化及び軽量化の要望が高まっており、これに付随して、これらのモバイル端末に用いられるガラス基板においても、薄型化の要望が増々高まっている。
【0003】
このような状況下において、フィルム状にまで薄肉化された超薄型のガラス板の開発が進められており、例えば、300μm以下の厚みからなるガラス板が製造されるに至っている。超薄型のガラス板は、一般的にガラスフィルムと呼ばれ、厚みが極めて薄いことから、可撓性に富む性質を有する。
【0004】
ガラスフィルムの表面には、例えばITO等の透明導電膜を形成するなど、成膜処理等を行うための加熱を伴う、電子デバイスの製造関連処理が施される。この場合において、可撓性に富むガラスフィルムの取り扱いを容易にするために、支持ガラスの表面上にガラスフィルムを積層してなるガラスフィルム積層体が使用される(例えば特許文献1参照)。
【0005】
ガラスフィルム積層体を使用することで、電子デバイスの製造関連処理を行う場合に、ガラスフィルムの位置決めや搬送等を容易に行うことが可能となる。この製造関連処理が施されることにより、ガラスフィルム上に電子デバイスが形成され、ガラスフィルムと電子デバイスとからなるガラス基板が製造される。その後、ガラス基板は、支持ガラスから剥離されることで製品化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電子デバイスの製造関連処理が行われた後に、ガラスフィルム積層体を切断する場合がある。この切断方法としては、レーザ光を照射することによりガラスフィルム積層体を割断又は溶断する方法が用いられる。
【0008】
しかしながら、ガラスフィルム積層体を切断する際に、レーザ光によって加熱されることでガラスフィルムと支持ガラスとの密着性が高まり、支持ガラスからガラスフィルムを剥離することが困難となる場合があった。この場合には、密着性が高まった部分をダイヤモンドチップ等のツールによって切除した後に、ガラスフィルムを支持ガラスから剥離させなければならず、剥離工程が煩雑になっていた。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、ガラスフィルムを支持ガラスから容易に剥離することができるように、ガラスフィルム積層体を切断することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 本発明は上記の課題を解決するためのものであり、レーザ光を照射することによりガラスフィルム積層体を切断する切断工程を備えるガラス製品の製造方法において、前記ガラスフィルム積層体は、ガラスフィルムと、前記ガラスフィルムを支持する支持ガラスとを含み、前記切断工程では、前記レーザ光の焦点深度は、前記ガラスフィルム積層体の厚さよりも大きく設定されており、前記切断工程では、前記ガラスフィルム積層体に対する前記レーザ光の照射位置において、前記ガラスフィルム積層体の厚さ方向の全部が前記レーザ光の前記焦点深度の範囲内に位置することを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、レーザ光の焦点深度をガラスフィルム積層体の厚さよりも大きく設定し、この焦点深度の範囲内にガラス板積層体の厚さ方向の全部が位置することで、ガラスフィルム積層体におけるレーザ光の照射部位が高温で加熱されることを防止できる。これにより、ガラスフィルムを支持ガラスから容易に剥離することができるように、ガラスフィルム積層体を切断することが可能となる。
【0012】
(2) 上記(1)に記載のガラス製品の製造方法において、前記レーザ光は、パルスレーザ光であり、前記レーザ光のパルス幅は、1fs以上100ps以下であってもよい。
【0013】
(3) 上記(1)又は(2)に記載のガラス製品の製造方法において、前記レーザ光は、IRレーザ光であってもよい。
【0014】
(4) 上記(1)から(3)のいずれかに記載のガラス製品の製造方法において、前記ガラスフィルム積層体の前記厚さは、0.1mm以上2.0mm以下であってもよい。
【0015】
(5) 上記(1)から(4)のいずれかに記載のガラス製品の製造方法において、前記ガラスフィルム積層体は、厚さが30μm以上200μm以下の前記ガラスフィルムを含んでもよい。
【0016】
(6) 上記(1)から(5)のいずれかに記載のガラス製品の製造方法において、前記レーザ光は、アキシコンレンズにより集光されたレーザ光であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガラスフィルムを支持ガラスから容易に剥離することができるように、ガラスフィルム積層体を切断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ガラス製品の製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】切断工程を示すガラスフィルム積層体の断面図である。
【
図7】アキシコンレンズを説明するための図である。
【
図9】切断工程後のガラスフィルム積層体の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
図1乃至
図10は、本発明に係るガラス製品の製造方法の一実施形態を示す。
【0020】
図1に示すように、本方法は、積層工程S1と、処理工程S2と、切断工程S3と、剥離工程S4とを備える。
【0021】
積層工程S1は、ガラスフィルム1と、ガラスフィルム1を支持する支持ガラス2とを含むガラスフィルム積層体3を作製する工程である。
図2に示すように、ガラスフィルム1の一方の表面と、支持ガラス2の一方の表面とを対向させ、ガラスフィルム1を支持ガラス2に積層する。ガラスフィルム1の表面と支持ガラス2の表面とを密着させることで、ガラスフィルム積層体3が作製される。
【0022】
ガラスフィルム1は、矩形状の透明なガラスフィルムにより構成される。ガラスフィルム1の厚さは、30μm以上200μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以上100μm以下である。
【0023】
支持ガラス2は、矩形状の透明なガラス板により構成される。支持ガラス2は、ガラスフィルム1よりも大きな面積を有する。これにより、支持ガラス2にガラスフィルム1が積層されたときに、支持ガラス2の端部2aは、ガラスフィルム1の端部1aよりも外側に位置する。これにより、ガラスフィルム1の端部1aは、この支持ガラス2によって保護される。
【0024】
支持ガラス2については、ガラスフィルム1との30~380℃における熱膨張係数の差が、5×10-7/℃以内のガラスを使用することが好ましい。これにより、積層工程S1後の処理工程S2において熱処理が行われたとしても、膨張率の差による熱反り等が生じ難く、安定した積層状態を維持できるガラスフィルム積層体3とすることが可能となる。
【0025】
ガラスフィルム積層体3のハンドリング性を考慮し、支持ガラス2の厚さは、400μm以上700μm以下であることが好ましく、より好ましくは、500μm以上700μm以下である。
【0026】
ガラスフィルム1及び支持ガラス2は、例えばオーバーフローダウンドロー法によって成形されることが好ましい。
【0027】
オーバーフローダウンドロー法では、例えば断面が略くさび形の成形体の上部に設けられたオーバーフロー溝に溶融ガラスを流し込み、このオーバーフロー溝から溢れ出た溶融ガラスを成形体の両側の側面に沿って流下させながら、成形体の下端部で融合一体化し、ガラスリボンを連続成形する。
【0028】
その後、ガラスリボンに対して徐冷、冷却工程を実施し、ガラスリボンを所望に長さによって切断することで、枚葉状のマザーガラスフィルム又はマザーガラス板が形成される。ガラスフィルム1及び支持ガラス2は、このマザーガラスフィルム及びマザーガラス板を所定のサイズに切断することにより製造することができる。
【0029】
ガラスフィルム1及び支持ガラス2としては、例えば、ケイ酸塩ガラス、シリカガラスが用いられ、好ましくはホウ珪酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノ珪酸塩ガラス、無アルカリガラスにより構成される。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ成分(アルカリ金属酸化物)が実質的に含まれていないガラスのことであって、具体的には、アルカリ成分の重量比が3000ppm以下のガラスのことである。本発明におけるアルカリ成分の重量比は、好ましくは1000ppm以下であり、より好ましくは500ppm以下であり、最も好ましくは300ppm以下である。
【0030】
ガラスフィルム1及び支持ガラス2の表面粗さRaは、2.0nm以下であることが好ましく、1.0nm以下であることがより好ましく、0.5nm以下であることがさらに好ましく、0.2nm以下であることが最も好ましい。これにより、ガラスフィルム1と支持ガラス2の単位面積当たりにおける接着面積が増加することで密着性が向上する。したがって、ガラスフィルム1と支持ガラス2とを、接着剤を使用することなく強固に密着させることができる。
【0031】
上記のガラスフィルム1と支持ガラス2との面接触による密着力について説明する。ガラスフィルム1の一方の表面と支持ガラス2の一方の表面とを面接触させた場合には、各表面の表面粗さRaが2.0nm以下とされていることにより、一方の表面が僅かにプラスに帯電し且つ他方の表面が僅かにマイナスに帯電し、これに起因して両表面同士が引き合う現象(所謂水素結合)が生じていることによるものと考えられる。
【0032】
処理工程S2は、ガラスフィルム1に電子デバイス材4を形成して、ガラス基板5を製造する工程である。
図3に示すように、処理工程S2では、積層工程S1で作製されたガラスフィルム積層体3のガラスフィルム1に電子デバイス材4を形成する。これにより、電子デバイス材4とガラスフィルム1とを有するガラス基板5が形成される。このガラス基板5を含むガラスフィルム積層体3の厚さTは、0.1mm以上2.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.5mm以上1.0mm以下である。
【0033】
ガラスフィルム1に形成される電子デバイス材4としては、例えば、液晶素子、有機EL素子、タッチパネル素子、太陽電池素子、圧電素子、受光素子、リチウムイオン二次電池等の電池素子、MEMS素子、半導体素子等が挙げられる。
【0034】
図3に示すように、ガラスフィルム1上に形成される電子デバイス材4の面積は、ガラスフィルム1の面積よりも小さくなっている。このため、ガラスフィルム1の端部1aは、電子デバイス材4の端部4aよりも外方に突出している。これにより、電子デバイス材4の端部4aは、ガラスフィルム1によって保護される。
【0035】
切断工程S3では、レーザ光Lを照射するレーザ光照射装置6によってガラスフィルム積層体3を切断する。レーザ光照射装置6は、ガラスフィルム積層体3の上方に配置されており、上下方向及び水平方向に移動可能に構成されている。本実施形態に係る切断工程S3では、ガラスフィルム積層体3のガラスフィルム1側からレーザ光Lを照射する場合について説明するが、これに限らず、支持ガラス2側からレーザ光Lを照射してもよい。また、レーザ光Lを照射した後、切断を促進するために、ガラスフィルム積層体3に外力を加えてもよい。
【0036】
レーザ光照射装置6により照射されるレーザ光Lは、IRレーザ光であることが好ましいが、これに限らず、他のレーザ光を使用してもよい。レーザ光Lとしては、例えばパルスレーザ光が使用される。
【0037】
レーザ光Lのパルス幅は、1fs以上100ps以下であることが好ましく、より好ましくは、10fs以上50ps以下である。レーザ光照射装置6によるレーザ光Lのパルスエネルギーは、1μJ以上300μJ以下とされることが好ましく、より好ましくは、5μJ以上200μJ以下である。レーザ光Lの波長は、200nm以上3000nm以下とされることが好ましく、より好ましくは、250nm以上1500nm以下である。
【0038】
図4に示すように、切断工程S3では、電子デバイス材4の端部4aよりも外側であって、ガラスフィルム1の端部1aよりも内側の位置にレーザ光Lを照射する。レーザ光照射装置6は、所定の方向に移動することにより、
図5に示す所定の切断予定線CLに沿ってレーザ光Lを走査する。レーザ光Lの走査速度は、10mm/s以上5000mm/s以下であることが好ましい。
【0039】
図6に示すように、切断工程S3では、レーザ光Lの焦点深度DOFは、ガラスフィルム積層体3の厚さTよりも大きく設定される。また、切断工程S3では、ガラスフィルム積層体3に対するレーザ光Lの照射位置において、ガラスフィルム積層体3の厚さ方向の全部がレーザ光Lの焦点深度DOFの範囲内に位置している。これにより、ガラスフィルム積層体3の厚さ方向の全範囲にレーザ光Lを均一に照射することができる。
【0040】
上記の場合において、レーザ光Lの焦点深度DOFは、500μm以上とされることが好ましい。また、レーザ光Lのスポット径は、0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0041】
レーザ光Lは、例えばアキシコンレンズにより集光したものであることが好ましい。
【0042】
図7に示すように、アキシコンレンズAXは、アルファ角(α角)と頂角で定義される円錐形状のプリズムである。平凸レンズ、両凸レンズ、非球面レンズといった光源からの光を、光軸を中心に集光する収束用レンズとは異なり、アキシコンレンズAXは、光軸を中心とする複数のポイントにライン状に集光する。アキシコンレンズAXは、レーザ光の回折がなく、遠くに伝搬しても強度分布が変わらない。そのため、アキシコンレンズAXはその焦点深度 (DOF)内において回折の殆どない、ベッセルビームに近似したものとなる。焦点深度DOFの大きさは、アキシコンレンズAXに入射するビーム半径R、アキシコンレンズAXの屈折率n及びα角の関数となり、次式で表される。
【0043】
DOF=R/{(n-1)α}
【0044】
図8に示すように、切断工程S3では、アキシコンレンズAXを使用することで、レーザ光Lの焦点深度DOFは、ガラスフィルム積層体3の厚さTよりも容易に大きく設定される。
【0045】
切断工程S3では、レーザ光Lを照射した領域に、レーザ光Lの多光子吸収による改質領域を形成する。ガラスフィルム積層体3は、この改質領域に多数の微小クラックが形成されることで切断される。改質領域は、レーザ光Lの照射位置におけるガラスフィルム積層体3の厚さ方向の全部に同時に発生する。これにより、レーザ光Lが照射された部位において、ガラスフィルム1と支持ガラス2の双方が同時に切断される。
【0046】
図9に示すように、切断工程S3が終了すると、ガラスフィルム1の端部1aと、支持ガラス2の端部2aとが一致してなるガラスフィルム積層体3が製造される。
【0047】
剥離工程S4は、ガラス基板5を支持ガラス2から剥離させる工程である。
図10に示すように、剥離工程S4では、支持ガラス2からのガラス基板5の剥離に、複数の吸着パッド7を使用する。
【0048】
各吸着パッド7は、ガラス基板5との当接部に複数の吸引孔を有する。各吸着パッド7は、この吸引孔を介してガラス基板5に負圧を発生させることで、ガラス基板5を吸着する。ガラス基板5を吸着した各吸着パッド7は、ガラス基板5の端部側から順次に上方へと移動することで、支持ガラス2からガラス基板5の全体を剥離させる。以上の各工程S1~S4を経て、ガラス製品としてのガラス基板5が製造される。
【0049】
以上説明した本実施形態に係るガラス製品(ガラス基板5)の製造方法によれば、レーザ光Lの焦点深度DOFをガラスフィルム積層体3の厚さTよりも大きく設定し、この焦点深度DOFの範囲内にガラス板の厚さ方向の全部が位置することで、ガラスフィルム積層体3におけるレーザ光Lの照射部位が高温で加熱されることなく、ガラスフィルム積層体3を切断することができる。
【0050】
これにより、従来の切断方法のようにレーザ光Lの照射部位が高温に加熱されることによってガラスフィルム1と支持ガラス2との密着力が高まることを防止できる。したがって、切断工程S3後の剥離工程S4において、ガラス基板5(ガラスフィルム1)を支持ガラス2から容易に剥離させることが可能となる。
【0051】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0052】
上記の実施形態では、矩形状のガラスフィルム1及び支持ガラス2を積層して矩形状のガラスフィルム積層体3を作製する例を示したが、本発明はこの構成に限定されない。ガラスフィルム1及び支持ガラス2は、円形その他の形状であってもよく、互いに異なる形状であってもよい。
【0053】
上記の実施形態では、処理工程S2後に切断工程S3を行うガラスフィルム積層体3の製造方法を例示したが、本発明はこの構成に限定されない。切断工程S3は、積層工程S1後であって処理工程S2前に実施してもよい。すなわち、ガラスフィルム1に電子デバイス材4を形成する前に、ガラスフィルム積層体3を切断する場合にも本発明を適用できる。
【0054】
上記の実施形態では、切断工程S3において、電子デバイス材4から離れた位置であって、かつガラスフィルム1と支持ガラス2が積層された位置に対してレーザ光Lを照射する例を示したが、本発明はこの態様に限定されない。切断工程S3において、電子デバイス材4が形成された部位であっても、電子デバイス材4の機能を損なわない位置であれば、レーザ光Lを照射してもよい。
【0055】
上記の実施形態では、ガラスフィルム1と支持ガラス2の二枚のガラスが積層されてなるガラスフィルム積層体3を切断する場合について例示したが、本発明はこの態様に限定されない。三枚以上のガラスフィルム又はガラス板が積層されてなるガラスフィルム積層体3を切断する場合にも本発明を適用可能である。
【0056】
本発明では、電子デバイス材4が形成されたガラス基板5に限らず、ガラスフィルム1と支持ガラス2が積層されてなるガラスフィルム積層体や、ガラス基板5と支持ガラス2が積層されてなるガラスフィルム積層体もガラス製品に含まれるものとする。
【実施例0057】
以下、本発明に係る実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0058】
本発明者らは、本発明の効果を確認するための試験を行った。この試験は、ガラスフィルムと支持ガラスとを積層してなる積層体をレーザ光の照射により切断し、ガラスフィルムと支持ガラスの接着力と剥離性の良否について確認するためのものである。
【0059】
試験では、実施例及び比較例について、IRレーザ光又はCO2レーザ光によるパルスレーザを使用してガラスフィルム積層体の切断を行った。パルスレーザのパルス幅は、13psである。また、レーザ光のパルスエネルギーは、100μJである。IRレーザ光の波長は1064nmであり、CO2レーザ光の波長は10.6μmである。レーザ光の走査速度は、200mm/sである。
【0060】
ガラスフィルムの厚さの異なる実施例1及び実施例2について、レーザ光の焦点深度をガラスフィルム積層体の厚さよりも大きく設定し、レーザ光の焦点深度の範囲内にガラスフィルム積層体の厚さ方向の全部が位置するようにして、レーザ光をガラスフィルム積層体に照射した。
【0061】
一方、比較例1及び比較例2については、レーザ光の焦点深度をガラスフィルム積層体の厚さよりも小さく設定し、ガラスフィルム積層体がレーザ光の焦点深度から食み出るようにして、レーザ光をガラスフィルム積層体に照射した。
【0062】
各例についてガラスフィルム積層体を切断した後に、切断によって形成されたガラスフィルム積層体の端部(レーザ光の照射部)と、この端部から離れた、レーザ光を照射していない部分(レーザ光の非照射部)とについて、ガラスフィルムと支持ガラスとの間の接着力を測定した。
【0063】
ガラスフィルムと支持ガラスとの間の接着力は、クラックオープニング法により測定した。測定した接着力に基づいて、ガラスフィルムと支持ガラスとの剥離性の良否についての評価を行った。この評価は、剥離可能の場合に、「○」(良)とし、剥離不可能の場合に「×」(不良)とした。また、切断性の良否については、切断可能の場合に、「○」(良)とし、切断不可能の場合に「×」(不良)とした。
【0064】
【0065】
表1に示すように、実施例1及び実施例2については、レーザ光の照射による切断後においても、レーザ光の照射部におけるガラスフィルムと支持ガラスとの接着力が大きく変化せず、良好な剥離性を示した。
【0066】
これに対し、比較例1については、レーザ光の照射によってガラスフィルム積層体を切断することができなかった。また、比較例2については、レーザ光の照射部における接着力が非照射部における接着力に対して大幅に大きくなり、剥離性が悪化した。